ゲスト
(ka0000)
風の砦と少年
マスター:寺岡志乃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~10人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/29 12:00
- 完成日
- 2015/06/06 09:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「いいか? 地下にある緑の石を取ってくるんだぞ? これと同じやつだ」
「う、うん……」
村の子どもたちのリーダー的存在である少年の、手のひらに乗った緑色の石をじっと見つめて、アイネはこくっとうなずいた。
「そうしたら、おまえをオレたちの仲間と認めてやる。
みんな持ってるんだからな。持ってないのはチビのおまえだけだ。もし取ってこなかったら……」
意地悪く額を指で小突かれて、小さなアイネは少し後ろによろけてしまった。
「……分かってるよ。絶対、取って帰ってくるっ」
「よし! じゃあ行ってこい」
くるっと振り返った少年は、今度は後ろにいるほかの少年たちに向かって言った。
「おいおまえら、絶対こいつを手伝うなよ? それまでこいつとひと言でも口をきいたりしたやつは、もう仲間じゃない。こいつと一緒に追放だからなっ」
少年の言葉に全員が当然という顔でうなずいた。
これは、村の男の子たちにとってほとんど伝統になっている、通過儀式のようなものだった。勇気を見せ、仲間の一員と認めてもらうのだ。
今、砦跡は危険だから近づいてはいけないと大人たちに言われているが、子どもにとって、大人に逆らうということすらも度胸試しの1つだ。
大体、大人というのはいつだって大げさに言う。本当は全然たいしたことないのに。
(地下に下りて、緑の石を探して取って、戻ってくる……簡単だよ。ボクは小さくて、すばしっこいってみんな言うもん)
アイネはドキドキする胸に手をあて、必死に自分に言い聞かせると、風の砦目指して走ったのだった。
風の砦。それはとある海辺の村から数キロ離れた先の小高い丘の上にあった。
正確には砦の跡と言った方が正しい。
はるか昔、この地方を守る拠点の1つであったらしいのだが、その者たちがどこへ行ったかは定かでない。おそらくは敵に陥落されたか、戦線が移動し、戦略的に無用となって放棄されたのだろう。その後、長い年月が過ぎ去る間にさまざまな自然災害、あるいは盗難にあったようで、今では柱として使用されたらしい巨石が数個と礫石、わずかに石床が残るだけである。
山を越えてきた風が下の海に向かって吹きつけ、その砦跡を抜ける際に小さな笛のような音をたてることから、地元の者たちには風の砦と呼ばれていた。
今では単なる巨石が屹立しているだけの味気ない砦跡だったが、最近、そこに人影のようなものが出没するようになったという。
「その砦跡には地下がありまして、どうやら数日前に起きた地震で山のどこかとつながってしまったようなんです。そこから入り込んできているみたいですね」
新米ギルド職員・ルエラは手元の書類から目を上げると、緊張した面持ちで不格好な黒縁眼鏡を指で押し上げながらハンターたちに言った。
「現在目撃されているのは2メートル強のジャイアントが3人で、いずれも若い男性です。手に石製のこん棒を持っているとのことでした。ほか、弓や槍を持つゴブリンが数体。彼らは狩りをしているところをよく目撃されています。
このほかに、少ないですが二股に分かれた頭部を持つ大型のヘビの目撃証言もありました。こちらは専門家に問い合わせまして、尾をカラカラと鳴らして威嚇行動をとり、毒液を牙から飛ばしてくる種であることが分かっています。このヘビは暗くて狭くて湿りけのある所を好むそうなので、日中は地下にいるのではないでしょうか。
村の人たちは、これらの退治と、つながっている地下のどこかを封鎖することを希望しています。なんでも、砦跡は子どもたちの遊び場になっているそうなんです。
今は危険だから行かないように言い聞かせているそうですが……子どものすることですからね」
お分かりでしょう? と肩を竦めるルエラに、冒険心の強いハンターたちも覚えがあるのか、当時を思い出して苦笑したり視線をあさっての方角に飛ばしたりほんのりほおを赤く染めたりと、さまざまな反応を見せる。
「とにかく、早急にお願いします。彼らが草原の生物目当てで砦跡付近にとどまっている今はまだ大丈夫ですが、移動範囲を広げて村を襲撃することになったら一大事ですから」
こうしてギルドからハンターが派遣されることになったわけだが、どうやら少々遅かったようだった。
村へ到着したハンターを待っていたのは、数時間前からわが子の姿が見えないととり乱したアイネ少年の両親だった。
「ほかの子どもたちは口を閉ざしてひと言も言いませんが……きっと、風の砦へ行ったのだと思います。村の子どもたちで、あの子だけ、まだ緑の石を持っていないから……。
どうかあの子を見つけて、連れ戻ってください。お願いします……!」
「う、うん……」
村の子どもたちのリーダー的存在である少年の、手のひらに乗った緑色の石をじっと見つめて、アイネはこくっとうなずいた。
「そうしたら、おまえをオレたちの仲間と認めてやる。
みんな持ってるんだからな。持ってないのはチビのおまえだけだ。もし取ってこなかったら……」
意地悪く額を指で小突かれて、小さなアイネは少し後ろによろけてしまった。
「……分かってるよ。絶対、取って帰ってくるっ」
「よし! じゃあ行ってこい」
くるっと振り返った少年は、今度は後ろにいるほかの少年たちに向かって言った。
「おいおまえら、絶対こいつを手伝うなよ? それまでこいつとひと言でも口をきいたりしたやつは、もう仲間じゃない。こいつと一緒に追放だからなっ」
少年の言葉に全員が当然という顔でうなずいた。
これは、村の男の子たちにとってほとんど伝統になっている、通過儀式のようなものだった。勇気を見せ、仲間の一員と認めてもらうのだ。
今、砦跡は危険だから近づいてはいけないと大人たちに言われているが、子どもにとって、大人に逆らうということすらも度胸試しの1つだ。
大体、大人というのはいつだって大げさに言う。本当は全然たいしたことないのに。
(地下に下りて、緑の石を探して取って、戻ってくる……簡単だよ。ボクは小さくて、すばしっこいってみんな言うもん)
アイネはドキドキする胸に手をあて、必死に自分に言い聞かせると、風の砦目指して走ったのだった。
風の砦。それはとある海辺の村から数キロ離れた先の小高い丘の上にあった。
正確には砦の跡と言った方が正しい。
はるか昔、この地方を守る拠点の1つであったらしいのだが、その者たちがどこへ行ったかは定かでない。おそらくは敵に陥落されたか、戦線が移動し、戦略的に無用となって放棄されたのだろう。その後、長い年月が過ぎ去る間にさまざまな自然災害、あるいは盗難にあったようで、今では柱として使用されたらしい巨石が数個と礫石、わずかに石床が残るだけである。
山を越えてきた風が下の海に向かって吹きつけ、その砦跡を抜ける際に小さな笛のような音をたてることから、地元の者たちには風の砦と呼ばれていた。
今では単なる巨石が屹立しているだけの味気ない砦跡だったが、最近、そこに人影のようなものが出没するようになったという。
「その砦跡には地下がありまして、どうやら数日前に起きた地震で山のどこかとつながってしまったようなんです。そこから入り込んできているみたいですね」
新米ギルド職員・ルエラは手元の書類から目を上げると、緊張した面持ちで不格好な黒縁眼鏡を指で押し上げながらハンターたちに言った。
「現在目撃されているのは2メートル強のジャイアントが3人で、いずれも若い男性です。手に石製のこん棒を持っているとのことでした。ほか、弓や槍を持つゴブリンが数体。彼らは狩りをしているところをよく目撃されています。
このほかに、少ないですが二股に分かれた頭部を持つ大型のヘビの目撃証言もありました。こちらは専門家に問い合わせまして、尾をカラカラと鳴らして威嚇行動をとり、毒液を牙から飛ばしてくる種であることが分かっています。このヘビは暗くて狭くて湿りけのある所を好むそうなので、日中は地下にいるのではないでしょうか。
村の人たちは、これらの退治と、つながっている地下のどこかを封鎖することを希望しています。なんでも、砦跡は子どもたちの遊び場になっているそうなんです。
今は危険だから行かないように言い聞かせているそうですが……子どものすることですからね」
お分かりでしょう? と肩を竦めるルエラに、冒険心の強いハンターたちも覚えがあるのか、当時を思い出して苦笑したり視線をあさっての方角に飛ばしたりほんのりほおを赤く染めたりと、さまざまな反応を見せる。
「とにかく、早急にお願いします。彼らが草原の生物目当てで砦跡付近にとどまっている今はまだ大丈夫ですが、移動範囲を広げて村を襲撃することになったら一大事ですから」
こうしてギルドからハンターが派遣されることになったわけだが、どうやら少々遅かったようだった。
村へ到着したハンターを待っていたのは、数時間前からわが子の姿が見えないととり乱したアイネ少年の両親だった。
「ほかの子どもたちは口を閉ざしてひと言も言いませんが……きっと、風の砦へ行ったのだと思います。村の子どもたちで、あの子だけ、まだ緑の石を持っていないから……。
どうかあの子を見つけて、連れ戻ってください。お願いします……!」
リプレイ本文
●オープニング
海辺の村へ到着したハンター達は、あらためて依頼内容を確認すると、封鎖のための道具類が載った手押し車を押して風の砦へと通じるなだらかな斜面を上っていた。
先頭を行くのはNo.0(ka4640)だ。その体格を活かし、重い手押し車を引いている。
道中、彼らは村人から聞いた行方不明のアイネについて話していた。
行方不明といっても風の砦に緑の石を取りに行ったのだろう、と大方の予想は既についていたため、逼迫感はない。
「それにしても、男の子ってどこでもこういう事してるんですねー」
「ホント、場所は違えどなんとやらっていうか。どの世界でも男の子って変わらない」
和泉 澪(ka4070)の言葉に、松瀬 柚子(ka4625)が弟のことを思い出しつつ同意する。
2人の呆れ声に、かつて「男の子」だったシャルル=L=カリラ(ka4262)は、アハハっと笑った。
「子供達の度胸試し、と言うヤツだネ!」
「度胸試しというか、これってもう運試しの領域にござるな~」
周囲の牧歌的な風景のように、のんびりとした口調で烏丸 薫(ka1964)が言う。子供は風の子でござる、とつぶやくところからして、彼はアイネの行動を理解し、認めているようだ。
「子供の好奇心を止めるのは、歪虚を倒すより難しいという事でしょうか」
真面目に考察する瑚月(ka3909)。
シバ・ミラージュ(ka2094)は微笑を浮かべる。
「僕達からすると「馬鹿な事」でも、子供達には「大切な事」があるんですよね」
彼もまた、理解を示す口ぶりだ。きっとこのあたりが女と男の差というものなのだろう。
じとっと見てくる澪と柚子に、シャルルがにっこり笑顔を見せる。そしてすぐ、その笑顔を消した。
「デモ、やっぱりあそこは危険な場所だから……アイネが無事に砦に入ってるといいナ」
「はい。
無事ならいいのですが……」
澪も同意を示す。その思いは皆同じだ。終始無言で手押し車を引いているNo.0も。
その証拠のように、申し合わせてもいないのに彼らは同時に道の続く先を見上げる。
風の砦はまだ小さく、その姿は草原の斜面に隠れて殆ど見えなかった。
●モンスター討伐
彼らは列石が並ぶ、ストーンヘンジのような場所へと到着した。
「ここが風の砦だネ」
シャルルは砦の中を吹き抜けていく風がたてるピーっという音に耳をすます。そしてその風が渡る先の草原を見た。
「ジャイアント達の姿は見えないネ。下の方へ兎狩りに行ってるのカモ」
「ああそうだな。
そして大型の蛇は見当たらず、か」
Holmes(ka3813)はふむりと考えた。地下への入り口に近く、邪魔にならない位置へと手押し車を止めている者達を振り返る。
先のつぶやきを聞いていたらしいHollow(ka4450)と目が合った。
Hollowは控えめな声で言う。
「危険な敵が入り込んでいる以上、少年の身柄の確保が最優先されます」
「うん。そのことだが。少年の探索は、任せてもよいだろうか? 申し訳ないが、余り深く考える事は苦手でね。
かわりと言っては何だけど、地上戦闘の方は任せてくれたまえ」
彼らに見せるように、Holmesはグリムリーパーを持ち上げた。
地下での捜索を選んだ5人がそれぞれ持ち寄った光源――LEDライトやランタン――を手に地下へ降りて行くのを見送って、シャルルがデッドリーキッスを頭上に構える。
「こっちにおいデ、ジャイアントにゴブリン達」
パンパン、と続けざまにトリガーを引いた。銃声は風に乗り、草原をまっすぐ下っていく。
「きっとすぐ集まってくるヨ」
それはほぼ間違いない。やつらは人間の存在に気づき、彼らが山へ通じる地下への入り口との間に立ちふさがっていることに気づいて、排除しなくてはと考えるに違いない。
「何事も最初が肝心と言う」
Holmesは覚醒し、コンバートソウルを用いる。
「ああ。同感だ」
オルドレイル(ka0621)が碧く光る瞳で同意した。その瞳、そして金色の闘気は覚醒した証だ。
それまで押し黙って考え込む素振りを見せていた瑚月が、ようやく口を開いた。
「これは提案ですが……討ち漏らせば後々面倒ですし、移動経路の把握と棲家を特定する為に、1~2体ほど故意に逃走させてみてはどうでしょうか。勿論地下に逃げ込もうとすればその場で倒しますが、もし地上に逃走ルートがある場合は追尾して根絶すべきかと。
……生き残りを出す訳にはいきませんから」
4人はこの提案について考えてみたが、結論は「やめよう」だった。
たとえ首尾よく棲家を突き止められたとしても、そこにいるのが数人とは限らない。数十人規模の集落だったらどうするのか? 山はやつらのテリトリー。自分達に分があるとは思えず、またこの人数で太刀打ちできるとも思えない。
その説明に瑚月も納得し「分かりました」と退いた。
「……来たぞ」
ぼそり、No.0がつぶやく。彼が顔を向けた先では斜面を駆け上ってくるジャイアントの巨体が揺れていた。周囲では丈の高い草が揺れていて、ゴブリン達もいると告げている。
自分や仲間達に攻性強化を施すNo.0を、ぽんと小さな手が叩いた。
「先陣は、ボクに務めさせてもらおうか。
ほら、年功序列という言葉があるだろう? 朽ちるのは老人が先という意味だよ」
返答を待たず、Holmesは走り出した。
草の波に紛れるように先頭のジャンアントへ接近し、横薙ぎできた岩の棍棒を沈んで避け、思い切りよくラウンドスウィングをかける。大鎌の長いリーチに巻き込まれたゴブリン達の上げる「ぎゃっ」という声が聞こえて、痛快そうに笑った。
「断たれた後に気付いても遅いのだよ、ワトソン君」
次の瞬間、つぶやくHolmesの横を大きな影が通りすぎた。
前に出たNo.0が、大きく振りかぶったクレイモアをHolmesの攻撃で傷ついたジャイアントへ振り下ろし、即座に斬り上げる。大剣がナイフのようだ。鎧など無きがごとし。ジャイアントの攻撃は一歩も退くことなくムーバブルシールドでことごとく受け止め、下半身を狙って横薙ぎした。
「叩き切って……潰す……」
その豪快な戦い方は、小柄な体型を活かしてスピードと遠心力で戦うHolmesと実に対照的である。
そのことにHolmesはにやりと笑って彼と共に前衛についた。
2人の戦いを見た最後のジャイアントは用心してなかなか前へ出ようとしなかった。ゴブリン達が弓を射かけてくる。
これに対処するのがオルドレイル、シャルルそして瑚月だった。
後衛についた瑚月のイグナイテッド、シャルルのデッドリーキッスが、狙いを定めようとしているゴブリンの、特に顔面を狙撃することでより恐怖を与え、攻撃の構えを崩す。
ゴブリン達は自分の邪魔をする彼らに苛立ち、激怒して2人にも射かけたが、ろくな構えもとれずに闇雲に射られる矢は飛速がなく、狙いも曖昧で、わざわざ避けずとも2人に当たることはなかった。
「お前達は運がなかった」
草の波間に見え隠れするゴブリン達に向かい、オルドレイルは宣告する。
「食料を調達するのは構わない、むしろ生きる上で必要なことだ。
あぁだがしかし場所が悪かった、今ここで私達と対峙したことを冥土で語るといい。
私も、お前達にとって最期で最高の戦いになる様全力を尽くそう」
瞳に、声に、表情に。冷徹さを宿し、厳しく断じる。
その捌きは冷徹無比だ。瑚月とシャルルの援護を受けながら雷切を手に直線で距離を詰め、一刀両断していく。
ジャイアントを倒され、あっという間に数を減らしたゴブリンは、ようやく勝ち目がないと悟ったようだった。踵を返し、No.0達を迂回して地下への入り口へ逃げ込もうとする。が。
そうするだろうと読んでいたシャルルが素早く反応し、ゴブリンの動線へ割り込んだ。
直後、その手から放たれたエレクトリックショックの雷撃がゴブリンを撃ち負かす。
「片付いたな」
草原に動く物がないことを確認して、オルドレイルが戦闘終了を告げた。地下入り口まで退き、適当な瓦礫の上に腰を下ろす。
戦闘は終わったが、残敵が隠れていないとも限らない。
油断なく周囲を警戒する4人から離れて、Holmesが歩き出した。
「どうした?」
「いやなに、出入り口が1つとは限らないからね。地下へ繋がってると思われる所はないか、探しているのさ」
「村の者はそんな物があるとは言ってませんでしたが……」
「そうだな。単なる取越し苦労かも。ただ、ボクが安心したいだけなんだよ」
怪訝そうに言う瑚月を見て、Holmesは笑った。
●少年捜しと毒ヘビ退治
地下へ下りた5人は、隙間から漏れてくる地上からの弱々しい光の中を歩き始めた。
「アイネくーん! おーい、返事してー! どこにいるのー!」
澪が声を張り上げるすぐ後ろで、薫がなぜか呑気に歌う。
「小僧~♪ 小僧~♪ 小僧はどこにござ~る~♪」
「そんなに大声を出していいんですか? ここには双頭の毒蛇がいるということでしたが……」
シバが眉をひそめた。
その蛇は雑魔である可能性が高い。声に驚いて逃げるより、こちらへ向かってくるような気がした。
地上と同じくここも崩壊が進んでいて、あちこちに崩れた瓦礫がある。側路もあり、死角となる影が多い。どこから飛び出してくるともしれず、周囲を警戒しながら歩くシバに薫が言う。
「それも想定済みでござる。危険は小僧の方が遥かに高いでごさるよ。それなら蛇をこちらにおびき寄せた方がいいでござる。寄ってくるのが小僧なら、さらに良し。一挙両得でござる」
「とにかく探索を続けましょう」
迷わないよう分かれ道に印を打ちながら、Hollowが言った。
やがて彼らはちょっとした広間のような場所に出た。
シバはランタンを高く持ち上げて、遠くまで光が届くようにする。
「アイネくーんっ!」
やはり澪が名を呼び、反応を待ったが、何も返ってこなかった。
「ここにもいない、か……。
先の分かれ道まで戻りましょう」
入り口を振り返った柚子のつま先が、そのとき何かを蹴った。LEDの光を反射してきらりと光ったそれに目が奪われる。
「これ、もしかして緑の石?」
拾い上げ、光に照らしてみた。緑色ではあるが、これは石というより……。
「そうみたいです」
答えた澪が見ているのは足元の床だった。細かく砕けた瓦礫片は、緑だけでなく赤や青や黄色と色彩豊かだ。
「ああ、なるほど」
瓦礫が山となっている壁に手を添えて観察していたHollowが納得した声を出す。
「これはモザイク壁画ですね。使用されていた石が剥がれ落ちた物が、緑の石の正体です」
「へぇ~。これが緑の石でござるか~」
大人にはただの色のついた石の欠片でしかないが、子供からすれば綺麗な珍しい色石なのだろう。
子供の目はつくづく面白い。意外性に満ちている。
薫は感心したようにつまみ上げたそれを見つめる。
そのとき、彼の隣ですうっと息を吸い込んだ澪が、大声で白々しく言った。
「お、これは綺麗な石ですねー。これが緑の石でしょうか?」
その意を読み取って、すぐに薫も続いた。
「こんなとこに、珍しい緑色の石がゴロゴロと~」
2人の声は反響して、大きく響く。
「……石?」
入り口の方で、小さな声がした。
「はじめまして、アイネくん。僕達はきみの村の人達からモンスターの出現報告を受けて、お手伝いに来たハンターです」
アイネが今にも逃げ出してしまいそうなのを見て、シバがにこやかに自己紹介をした。彼に続いて他の4人も自己紹介と挨拶をする。
「アイネ……です。よろしく……」
挨拶を返してもらえたことに澪はほっとして、アイネと同じ高さに目線を下げる。
「アイネくん、私達と一緒に村へ帰ろう?」
「でも……」
「ここには雑魔がいるの。頭が2つある毒蛇だよ」
「……うん……」
もう既に遭遇しているらしく、アイネは顔をしかめ、落ち着きなく壁に開いた穴や暗がりに視線を投げる。
そんなに怖がっていても澪の誘いに乗らない訳は。
「小僧~、緑の石ならあそこでござるよ~」
察した薫が背後の床を親指で指した。アイネははっとなって大急ぎそちらへ駆け寄ると、石を1個拾って、すぐ駆け戻ってきた。
「さあこれで戻れるね?」
「んっ」
「じゃあこれを着て」
アイネの肩に、柚子が自分のマントを脱いでかけた。
「万一の蛇の毒避けにね。あの蛇は毒液を飛ばしてくるそうだから」
そしてあらためて「一緒に帰ろう?」と手を差し出す。
石を手に入れられて、ようやくこれで帰れるとその手に飛びついたアイネを見下ろしてシバが言った。
「僕はあなたを子供だと思いますが、子供扱いはしません。だから難しいかもしれませんが言います。
あなたのしたことはとても危険なことです。あなたは死んでいたかもしれませんし、捜索に出た僕達の誰かが死んでいたかもしれません。それだけは覚えておいてくださいね」
アイネは眉をひそめ、もごもごと口を動かして小さく何かをつぶやいたあと、ぴたっと柚子にくっついた。
柚子とシバに両側から守られて、アイネは地上への道を戻って行く。
「さあこれで、あとは毒蛇の掃討でござるな」
気にかけるものはなくなったと、澪、Hollowと視線を合わせた薫は、カラカラと音のする方を振り返る。
音は大分前からしていた。まだ遠かったことと、アイネを怖がらせないために黙っていたのだ。
そのせいでかなりの頭数になっていたが……。
「足場が悪いので、その点は注意しましょう」
プフェールトKT9を構え、蛇の頭部に狙いを定めたHollowが言った。
ランタン等光源は床に置いて、足元が見えるようにしているが、至る所で瓦礫が転がっている上、湿気で壁自体脆くなっている。
壁蹴りをして三次元回避をしてみようと思っていた薫は少し残念そうに壁を見たが、すぐに気を切り替えた。
鎌首をもたげ、今にも飛びかかるか毒液を吐いてきそうな蛇を見据えたまま、澪はすらりと太刀を抜く。
「鳴隼一刀流、和泉 澪、行きますっ!」
國近を手に遊撃へと出る。すぐに薫も続いた。
ここは広間で、立ち回りをするに十分な広さがある。
Hollowの援護を受けつつ、澪と薫は毒蛇を始末していった。
●封鎖
さて問題の壁の封鎖だが。これには様々な意見が出た。
スラッシュエッジ等で穴上部の壁を崩す、砦の瓦礫など周囲の資材及び村の提供資材を利用してバリケード造り、つながっている洞窟側を調査してそちらの脆い部分を崩す等だ。
洞窟側を調査するのは時間がかかりすぎて夜になってしまう、ということで断念した。仲間が戻らないことでゴブリンやジャイアントが現れる可能性もある。
そしてその他の意見だが、瓦礫をどう用意するかの手段は違うがどれも瓦礫を用いて穴を埋めることには変わりなく、それをしようということになった。
「力仕事は……任せろ……」
訥々と短く語って、No.0が適当に見繕って運んでくる大きめの瓦礫を礎とし、その上に中・小の瓦礫を積み上げていく。そしてシバが、手押し車で運んできた杭や板を用いて崩れないようにロープを張り、作業は終了したのだった。
●エンディング
「危険だと分かっている事に挑戦するのは、勇気と呼べる行動ではないですよ?
『危険かも知れない』と『危険だ』は、似てはいても別物。充分に怖い思いはしたでしょう?」
ひと足先に村へ戻り、家に落ち着いていたアイネは、封鎖を終えて戻ってきたハンター達を出迎えたところで瑚月の説教を受けるはめに陥っていた。
ちなみに、受けているのはアイネだけではない。風の砦へ行くのを止められていながらアイネを行かせ、行き先を黙っていた少年達もである。
その中には当然アイネに命じたリーダーの少年もいた。村の少年達にとってはリーダーであっても、子供であることに変わりない。他の子供達と同じように小さくなって俯いていた。
「いくら反骨精神旺盛なお年頃とはいえ、行っていい場所と悪い場所の判別もできないのはダメ!」
「今回は僕達が来て、無事だったからよかったけど、もしそうならなくて、アイネが無事じゃなかったらどうするつもりだったのサ。次もそうとは限らないんだヨ?」
子供達は互いに視線を向け合うが、誰も反論が思いつかないようである。
「そこまでちゃんと考え、適切な判断を下せてこそ……いつかできる大切な人を護れるんでしょうから……ね?」
この言葉にはピンとこなかったようだ。柚子も、この子達にはまだ早すぎたか、と思い直し、
「そこまでできて、初めて一人前の男、カッコイイ大人になれるんですよ!」
と言い直した。
「分かりましたか!?」
「……はーい」
「……ごめんなさーい」
その光景に、行きでは擁護するようなことを言っていた薫も
「説教食らうのも、子供の特権でござるな~」
と、にこにこ笑って見ているだけだ。
その後もなんやかやとお説教は続いたが、子供達に一番効果的だったのはNo.0の押しの強い外見と
「……遊び場はあそこ以外にもある……」
という一言だったのだろう。
ジャイアントやゴブリン達は出なくなったとの事後報告書を受け取ったルエラは、最後に書かれていた一文――今、村の子供達の間では大人用とんがり帽子を被っての遊びが流行っているようだ、というのを読んで、首を傾げたという。
海辺の村へ到着したハンター達は、あらためて依頼内容を確認すると、封鎖のための道具類が載った手押し車を押して風の砦へと通じるなだらかな斜面を上っていた。
先頭を行くのはNo.0(ka4640)だ。その体格を活かし、重い手押し車を引いている。
道中、彼らは村人から聞いた行方不明のアイネについて話していた。
行方不明といっても風の砦に緑の石を取りに行ったのだろう、と大方の予想は既についていたため、逼迫感はない。
「それにしても、男の子ってどこでもこういう事してるんですねー」
「ホント、場所は違えどなんとやらっていうか。どの世界でも男の子って変わらない」
和泉 澪(ka4070)の言葉に、松瀬 柚子(ka4625)が弟のことを思い出しつつ同意する。
2人の呆れ声に、かつて「男の子」だったシャルル=L=カリラ(ka4262)は、アハハっと笑った。
「子供達の度胸試し、と言うヤツだネ!」
「度胸試しというか、これってもう運試しの領域にござるな~」
周囲の牧歌的な風景のように、のんびりとした口調で烏丸 薫(ka1964)が言う。子供は風の子でござる、とつぶやくところからして、彼はアイネの行動を理解し、認めているようだ。
「子供の好奇心を止めるのは、歪虚を倒すより難しいという事でしょうか」
真面目に考察する瑚月(ka3909)。
シバ・ミラージュ(ka2094)は微笑を浮かべる。
「僕達からすると「馬鹿な事」でも、子供達には「大切な事」があるんですよね」
彼もまた、理解を示す口ぶりだ。きっとこのあたりが女と男の差というものなのだろう。
じとっと見てくる澪と柚子に、シャルルがにっこり笑顔を見せる。そしてすぐ、その笑顔を消した。
「デモ、やっぱりあそこは危険な場所だから……アイネが無事に砦に入ってるといいナ」
「はい。
無事ならいいのですが……」
澪も同意を示す。その思いは皆同じだ。終始無言で手押し車を引いているNo.0も。
その証拠のように、申し合わせてもいないのに彼らは同時に道の続く先を見上げる。
風の砦はまだ小さく、その姿は草原の斜面に隠れて殆ど見えなかった。
●モンスター討伐
彼らは列石が並ぶ、ストーンヘンジのような場所へと到着した。
「ここが風の砦だネ」
シャルルは砦の中を吹き抜けていく風がたてるピーっという音に耳をすます。そしてその風が渡る先の草原を見た。
「ジャイアント達の姿は見えないネ。下の方へ兎狩りに行ってるのカモ」
「ああそうだな。
そして大型の蛇は見当たらず、か」
Holmes(ka3813)はふむりと考えた。地下への入り口に近く、邪魔にならない位置へと手押し車を止めている者達を振り返る。
先のつぶやきを聞いていたらしいHollow(ka4450)と目が合った。
Hollowは控えめな声で言う。
「危険な敵が入り込んでいる以上、少年の身柄の確保が最優先されます」
「うん。そのことだが。少年の探索は、任せてもよいだろうか? 申し訳ないが、余り深く考える事は苦手でね。
かわりと言っては何だけど、地上戦闘の方は任せてくれたまえ」
彼らに見せるように、Holmesはグリムリーパーを持ち上げた。
地下での捜索を選んだ5人がそれぞれ持ち寄った光源――LEDライトやランタン――を手に地下へ降りて行くのを見送って、シャルルがデッドリーキッスを頭上に構える。
「こっちにおいデ、ジャイアントにゴブリン達」
パンパン、と続けざまにトリガーを引いた。銃声は風に乗り、草原をまっすぐ下っていく。
「きっとすぐ集まってくるヨ」
それはほぼ間違いない。やつらは人間の存在に気づき、彼らが山へ通じる地下への入り口との間に立ちふさがっていることに気づいて、排除しなくてはと考えるに違いない。
「何事も最初が肝心と言う」
Holmesは覚醒し、コンバートソウルを用いる。
「ああ。同感だ」
オルドレイル(ka0621)が碧く光る瞳で同意した。その瞳、そして金色の闘気は覚醒した証だ。
それまで押し黙って考え込む素振りを見せていた瑚月が、ようやく口を開いた。
「これは提案ですが……討ち漏らせば後々面倒ですし、移動経路の把握と棲家を特定する為に、1~2体ほど故意に逃走させてみてはどうでしょうか。勿論地下に逃げ込もうとすればその場で倒しますが、もし地上に逃走ルートがある場合は追尾して根絶すべきかと。
……生き残りを出す訳にはいきませんから」
4人はこの提案について考えてみたが、結論は「やめよう」だった。
たとえ首尾よく棲家を突き止められたとしても、そこにいるのが数人とは限らない。数十人規模の集落だったらどうするのか? 山はやつらのテリトリー。自分達に分があるとは思えず、またこの人数で太刀打ちできるとも思えない。
その説明に瑚月も納得し「分かりました」と退いた。
「……来たぞ」
ぼそり、No.0がつぶやく。彼が顔を向けた先では斜面を駆け上ってくるジャイアントの巨体が揺れていた。周囲では丈の高い草が揺れていて、ゴブリン達もいると告げている。
自分や仲間達に攻性強化を施すNo.0を、ぽんと小さな手が叩いた。
「先陣は、ボクに務めさせてもらおうか。
ほら、年功序列という言葉があるだろう? 朽ちるのは老人が先という意味だよ」
返答を待たず、Holmesは走り出した。
草の波に紛れるように先頭のジャンアントへ接近し、横薙ぎできた岩の棍棒を沈んで避け、思い切りよくラウンドスウィングをかける。大鎌の長いリーチに巻き込まれたゴブリン達の上げる「ぎゃっ」という声が聞こえて、痛快そうに笑った。
「断たれた後に気付いても遅いのだよ、ワトソン君」
次の瞬間、つぶやくHolmesの横を大きな影が通りすぎた。
前に出たNo.0が、大きく振りかぶったクレイモアをHolmesの攻撃で傷ついたジャイアントへ振り下ろし、即座に斬り上げる。大剣がナイフのようだ。鎧など無きがごとし。ジャイアントの攻撃は一歩も退くことなくムーバブルシールドでことごとく受け止め、下半身を狙って横薙ぎした。
「叩き切って……潰す……」
その豪快な戦い方は、小柄な体型を活かしてスピードと遠心力で戦うHolmesと実に対照的である。
そのことにHolmesはにやりと笑って彼と共に前衛についた。
2人の戦いを見た最後のジャイアントは用心してなかなか前へ出ようとしなかった。ゴブリン達が弓を射かけてくる。
これに対処するのがオルドレイル、シャルルそして瑚月だった。
後衛についた瑚月のイグナイテッド、シャルルのデッドリーキッスが、狙いを定めようとしているゴブリンの、特に顔面を狙撃することでより恐怖を与え、攻撃の構えを崩す。
ゴブリン達は自分の邪魔をする彼らに苛立ち、激怒して2人にも射かけたが、ろくな構えもとれずに闇雲に射られる矢は飛速がなく、狙いも曖昧で、わざわざ避けずとも2人に当たることはなかった。
「お前達は運がなかった」
草の波間に見え隠れするゴブリン達に向かい、オルドレイルは宣告する。
「食料を調達するのは構わない、むしろ生きる上で必要なことだ。
あぁだがしかし場所が悪かった、今ここで私達と対峙したことを冥土で語るといい。
私も、お前達にとって最期で最高の戦いになる様全力を尽くそう」
瞳に、声に、表情に。冷徹さを宿し、厳しく断じる。
その捌きは冷徹無比だ。瑚月とシャルルの援護を受けながら雷切を手に直線で距離を詰め、一刀両断していく。
ジャイアントを倒され、あっという間に数を減らしたゴブリンは、ようやく勝ち目がないと悟ったようだった。踵を返し、No.0達を迂回して地下への入り口へ逃げ込もうとする。が。
そうするだろうと読んでいたシャルルが素早く反応し、ゴブリンの動線へ割り込んだ。
直後、その手から放たれたエレクトリックショックの雷撃がゴブリンを撃ち負かす。
「片付いたな」
草原に動く物がないことを確認して、オルドレイルが戦闘終了を告げた。地下入り口まで退き、適当な瓦礫の上に腰を下ろす。
戦闘は終わったが、残敵が隠れていないとも限らない。
油断なく周囲を警戒する4人から離れて、Holmesが歩き出した。
「どうした?」
「いやなに、出入り口が1つとは限らないからね。地下へ繋がってると思われる所はないか、探しているのさ」
「村の者はそんな物があるとは言ってませんでしたが……」
「そうだな。単なる取越し苦労かも。ただ、ボクが安心したいだけなんだよ」
怪訝そうに言う瑚月を見て、Holmesは笑った。
●少年捜しと毒ヘビ退治
地下へ下りた5人は、隙間から漏れてくる地上からの弱々しい光の中を歩き始めた。
「アイネくーん! おーい、返事してー! どこにいるのー!」
澪が声を張り上げるすぐ後ろで、薫がなぜか呑気に歌う。
「小僧~♪ 小僧~♪ 小僧はどこにござ~る~♪」
「そんなに大声を出していいんですか? ここには双頭の毒蛇がいるということでしたが……」
シバが眉をひそめた。
その蛇は雑魔である可能性が高い。声に驚いて逃げるより、こちらへ向かってくるような気がした。
地上と同じくここも崩壊が進んでいて、あちこちに崩れた瓦礫がある。側路もあり、死角となる影が多い。どこから飛び出してくるともしれず、周囲を警戒しながら歩くシバに薫が言う。
「それも想定済みでござる。危険は小僧の方が遥かに高いでごさるよ。それなら蛇をこちらにおびき寄せた方がいいでござる。寄ってくるのが小僧なら、さらに良し。一挙両得でござる」
「とにかく探索を続けましょう」
迷わないよう分かれ道に印を打ちながら、Hollowが言った。
やがて彼らはちょっとした広間のような場所に出た。
シバはランタンを高く持ち上げて、遠くまで光が届くようにする。
「アイネくーんっ!」
やはり澪が名を呼び、反応を待ったが、何も返ってこなかった。
「ここにもいない、か……。
先の分かれ道まで戻りましょう」
入り口を振り返った柚子のつま先が、そのとき何かを蹴った。LEDの光を反射してきらりと光ったそれに目が奪われる。
「これ、もしかして緑の石?」
拾い上げ、光に照らしてみた。緑色ではあるが、これは石というより……。
「そうみたいです」
答えた澪が見ているのは足元の床だった。細かく砕けた瓦礫片は、緑だけでなく赤や青や黄色と色彩豊かだ。
「ああ、なるほど」
瓦礫が山となっている壁に手を添えて観察していたHollowが納得した声を出す。
「これはモザイク壁画ですね。使用されていた石が剥がれ落ちた物が、緑の石の正体です」
「へぇ~。これが緑の石でござるか~」
大人にはただの色のついた石の欠片でしかないが、子供からすれば綺麗な珍しい色石なのだろう。
子供の目はつくづく面白い。意外性に満ちている。
薫は感心したようにつまみ上げたそれを見つめる。
そのとき、彼の隣ですうっと息を吸い込んだ澪が、大声で白々しく言った。
「お、これは綺麗な石ですねー。これが緑の石でしょうか?」
その意を読み取って、すぐに薫も続いた。
「こんなとこに、珍しい緑色の石がゴロゴロと~」
2人の声は反響して、大きく響く。
「……石?」
入り口の方で、小さな声がした。
「はじめまして、アイネくん。僕達はきみの村の人達からモンスターの出現報告を受けて、お手伝いに来たハンターです」
アイネが今にも逃げ出してしまいそうなのを見て、シバがにこやかに自己紹介をした。彼に続いて他の4人も自己紹介と挨拶をする。
「アイネ……です。よろしく……」
挨拶を返してもらえたことに澪はほっとして、アイネと同じ高さに目線を下げる。
「アイネくん、私達と一緒に村へ帰ろう?」
「でも……」
「ここには雑魔がいるの。頭が2つある毒蛇だよ」
「……うん……」
もう既に遭遇しているらしく、アイネは顔をしかめ、落ち着きなく壁に開いた穴や暗がりに視線を投げる。
そんなに怖がっていても澪の誘いに乗らない訳は。
「小僧~、緑の石ならあそこでござるよ~」
察した薫が背後の床を親指で指した。アイネははっとなって大急ぎそちらへ駆け寄ると、石を1個拾って、すぐ駆け戻ってきた。
「さあこれで戻れるね?」
「んっ」
「じゃあこれを着て」
アイネの肩に、柚子が自分のマントを脱いでかけた。
「万一の蛇の毒避けにね。あの蛇は毒液を飛ばしてくるそうだから」
そしてあらためて「一緒に帰ろう?」と手を差し出す。
石を手に入れられて、ようやくこれで帰れるとその手に飛びついたアイネを見下ろしてシバが言った。
「僕はあなたを子供だと思いますが、子供扱いはしません。だから難しいかもしれませんが言います。
あなたのしたことはとても危険なことです。あなたは死んでいたかもしれませんし、捜索に出た僕達の誰かが死んでいたかもしれません。それだけは覚えておいてくださいね」
アイネは眉をひそめ、もごもごと口を動かして小さく何かをつぶやいたあと、ぴたっと柚子にくっついた。
柚子とシバに両側から守られて、アイネは地上への道を戻って行く。
「さあこれで、あとは毒蛇の掃討でござるな」
気にかけるものはなくなったと、澪、Hollowと視線を合わせた薫は、カラカラと音のする方を振り返る。
音は大分前からしていた。まだ遠かったことと、アイネを怖がらせないために黙っていたのだ。
そのせいでかなりの頭数になっていたが……。
「足場が悪いので、その点は注意しましょう」
プフェールトKT9を構え、蛇の頭部に狙いを定めたHollowが言った。
ランタン等光源は床に置いて、足元が見えるようにしているが、至る所で瓦礫が転がっている上、湿気で壁自体脆くなっている。
壁蹴りをして三次元回避をしてみようと思っていた薫は少し残念そうに壁を見たが、すぐに気を切り替えた。
鎌首をもたげ、今にも飛びかかるか毒液を吐いてきそうな蛇を見据えたまま、澪はすらりと太刀を抜く。
「鳴隼一刀流、和泉 澪、行きますっ!」
國近を手に遊撃へと出る。すぐに薫も続いた。
ここは広間で、立ち回りをするに十分な広さがある。
Hollowの援護を受けつつ、澪と薫は毒蛇を始末していった。
●封鎖
さて問題の壁の封鎖だが。これには様々な意見が出た。
スラッシュエッジ等で穴上部の壁を崩す、砦の瓦礫など周囲の資材及び村の提供資材を利用してバリケード造り、つながっている洞窟側を調査してそちらの脆い部分を崩す等だ。
洞窟側を調査するのは時間がかかりすぎて夜になってしまう、ということで断念した。仲間が戻らないことでゴブリンやジャイアントが現れる可能性もある。
そしてその他の意見だが、瓦礫をどう用意するかの手段は違うがどれも瓦礫を用いて穴を埋めることには変わりなく、それをしようということになった。
「力仕事は……任せろ……」
訥々と短く語って、No.0が適当に見繕って運んでくる大きめの瓦礫を礎とし、その上に中・小の瓦礫を積み上げていく。そしてシバが、手押し車で運んできた杭や板を用いて崩れないようにロープを張り、作業は終了したのだった。
●エンディング
「危険だと分かっている事に挑戦するのは、勇気と呼べる行動ではないですよ?
『危険かも知れない』と『危険だ』は、似てはいても別物。充分に怖い思いはしたでしょう?」
ひと足先に村へ戻り、家に落ち着いていたアイネは、封鎖を終えて戻ってきたハンター達を出迎えたところで瑚月の説教を受けるはめに陥っていた。
ちなみに、受けているのはアイネだけではない。風の砦へ行くのを止められていながらアイネを行かせ、行き先を黙っていた少年達もである。
その中には当然アイネに命じたリーダーの少年もいた。村の少年達にとってはリーダーであっても、子供であることに変わりない。他の子供達と同じように小さくなって俯いていた。
「いくら反骨精神旺盛なお年頃とはいえ、行っていい場所と悪い場所の判別もできないのはダメ!」
「今回は僕達が来て、無事だったからよかったけど、もしそうならなくて、アイネが無事じゃなかったらどうするつもりだったのサ。次もそうとは限らないんだヨ?」
子供達は互いに視線を向け合うが、誰も反論が思いつかないようである。
「そこまでちゃんと考え、適切な判断を下せてこそ……いつかできる大切な人を護れるんでしょうから……ね?」
この言葉にはピンとこなかったようだ。柚子も、この子達にはまだ早すぎたか、と思い直し、
「そこまでできて、初めて一人前の男、カッコイイ大人になれるんですよ!」
と言い直した。
「分かりましたか!?」
「……はーい」
「……ごめんなさーい」
その光景に、行きでは擁護するようなことを言っていた薫も
「説教食らうのも、子供の特権でござるな~」
と、にこにこ笑って見ているだけだ。
その後もなんやかやとお説教は続いたが、子供達に一番効果的だったのはNo.0の押しの強い外見と
「……遊び場はあそこ以外にもある……」
という一言だったのだろう。
ジャイアントやゴブリン達は出なくなったとの事後報告書を受け取ったルエラは、最後に書かれていた一文――今、村の子供達の間では大人用とんがり帽子を被っての遊びが流行っているようだ、というのを読んで、首を傾げたという。
依頼結果
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風の砦と少年と相談 シバ・ミラージュ(ka2094) 人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/29 07:41:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/25 10:55:26 |