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【不動】帝国皇子の親征は帰るまでが遠征
マスター:稲田和夫
このシナリオは1日間納期が延長されています。
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オープニング
「失礼いたします。カッテ・ウランゲル皇帝代理人殿下。第一師団憲兵大隊オレーシャ兵長到着いたしました」
「同師団ゲロルト兵長も帯同しておりますぜ」
「どうぞ」
カッテの返事を確認したオレーシャとゲロルトは、部屋に入ると同時に敬礼を行う。
一方、ここノアーラ・クンタウに設けられた簡素な執務室で、聖地奪還作戦の事後処理に追われるカッテはそんな煩雑さを感じさせない暖かい笑みで二人の兵長を迎えた。
「お忙しい所申し訳ありません。ですが、どうしても確認させていただきたいことがあり、参上いたしました」
オレーシャが単刀直入に切り出した。
「はい。なんでしょうか」
笑みを絶やさぬまま、首を傾げるカッテ。
「先ほど、憲兵大隊に出された新しい命令の内容について、急遽確認を――」
「間違いはありません」
オレーシャの言葉はカッテの上げた片手に遮られた。
「僕がノアーラ・クンタウに移動する際に使用した機導トラックは、護衛車両として帯同して来た物も含めて、全て重傷者の搬送とホープ復興の土木作業用に転用してください。僕自身の帝都帰還の日程についても、既に計画書は出ている筈です」
「……しかし!」
オレーシャは言葉に詰まった。
「今回の被害は、二人も承知している筈です」
カッテの言う通りだった。
確かに、人類は勝った。だが、ホープはアイゼンハンダーの襲撃で大きな被害を受けている。また、ガエル・ソトとの決戦においても、確かにガエルは討ち取ったが、前線に大きな被害が出たのも事実だった。
結果として負傷者は帝国軍だけでも当初の想定を大きく上回っており、使えるトラックの増加はそのまま負傷者を設備の整った帝国領内に搬送する効率に直結する。復興作業に伴う土木作業におけるトラックの有用性は勿論だ。
「知っての通り、陛下はお忍びで辺境に来た上に大怪我までされたので、仕事が溜まっており、一足先に帝都に帰還されています。なので、転位門も使えませんが……大丈夫ですよ。お二人も、ハンターの皆さんのお力が信用に足ることは承知していますよね?」
「それは……そうですが……」
ここ最近ハンターと共に戦う機会も多かったオレーシャは強く言い返せなかった。
「ハン。俺は連中をそこまで信用はしていませんがね……ま、万が一に備えて俺も同行するんだ。ゴチャゴチャ言っても仕方がねえさ」
ゲロルトが口を挟む。
「しかし……兵士たちとて、覚悟の上での従軍です! わざわざ御身を危険に晒すのは……」
「おい」
どんっ、とゲロルトが少し強めにオレーシャを小突いた。
「つっ……」
小突かれたオレーシャはゲロルトの目つきを見て、気付いた。
「……申し訳ございません。差し出がましい事を申しました」
「いいえ。オレーシャの立場も分かりますから」
改めて微笑むカッテ。しかし、その表情には微かな陰りがあったのにオレーシャも気づいた。
(……皇子なりの償い、か)
そう胸中で呟いたオレーシャはゲロルトと共に退出する。
帝都へ帰還するカッテを護衛する依頼が、ノアーラ・クンタウとリゼリオに張り出されたのはそれから間もなくであった。
●
出発日の早朝、ノアーラ・クンタウの城外に集まったあなたたちハンターに、カッテはにこやかに挨拶する。
「この度はありがとうございます。詳しい予定はお配りした資料で確認してください」
カッテがこう言った直後、要塞の中から何やら荷物を抱えたゲロルトが姿を現した。
「準備完了です。それと、エイゼンシュテイン副長から例の物を差し入れて貰いました。……朝飯は、まだでしたかね?」
「ありがとうございます……そうだ、皆さんも如何ですか?」
差し出されたそれは、白い何かの塊であった。首を傾げるハンターたちにカッテは事も無げに言い放つ。
「すみません……これは、サーロと言って豚の脂身を塩漬けにした保存食です」
その言葉に何人かは固まってしまうだろうか。確かに言われてみればそんな感じだが、これをどうしようというのだろうか? まさか、そのまま生で食べろとでも言うのだろうか。
「こうやって、黒パンに乗せて食べると美味しいですよ」
ゲロルトは手早くパンと脂身を切り、カッテと自分の分を用意した。
一方、ハンターたちが誰も手を出さないのを見たカッテはぽんっと手を打つ。
「そうでした。流石にこれだけでは食べにくいですよね。ゲロルト」
「用意してありますぜ」
そう言ってゲロルトが取り出したのは、生のニンニクである。彼はそれもナイフで器用に剥き、薄くスライスしたものを黒パンとサーロの上にちょこんと載せた。
「すみません。急に決まったことなので、食料はこれしか用意できなくて……でも、明日の夜は宿に泊れますから、大丈夫ですよね?」
「同師団ゲロルト兵長も帯同しておりますぜ」
「どうぞ」
カッテの返事を確認したオレーシャとゲロルトは、部屋に入ると同時に敬礼を行う。
一方、ここノアーラ・クンタウに設けられた簡素な執務室で、聖地奪還作戦の事後処理に追われるカッテはそんな煩雑さを感じさせない暖かい笑みで二人の兵長を迎えた。
「お忙しい所申し訳ありません。ですが、どうしても確認させていただきたいことがあり、参上いたしました」
オレーシャが単刀直入に切り出した。
「はい。なんでしょうか」
笑みを絶やさぬまま、首を傾げるカッテ。
「先ほど、憲兵大隊に出された新しい命令の内容について、急遽確認を――」
「間違いはありません」
オレーシャの言葉はカッテの上げた片手に遮られた。
「僕がノアーラ・クンタウに移動する際に使用した機導トラックは、護衛車両として帯同して来た物も含めて、全て重傷者の搬送とホープ復興の土木作業用に転用してください。僕自身の帝都帰還の日程についても、既に計画書は出ている筈です」
「……しかし!」
オレーシャは言葉に詰まった。
「今回の被害は、二人も承知している筈です」
カッテの言う通りだった。
確かに、人類は勝った。だが、ホープはアイゼンハンダーの襲撃で大きな被害を受けている。また、ガエル・ソトとの決戦においても、確かにガエルは討ち取ったが、前線に大きな被害が出たのも事実だった。
結果として負傷者は帝国軍だけでも当初の想定を大きく上回っており、使えるトラックの増加はそのまま負傷者を設備の整った帝国領内に搬送する効率に直結する。復興作業に伴う土木作業におけるトラックの有用性は勿論だ。
「知っての通り、陛下はお忍びで辺境に来た上に大怪我までされたので、仕事が溜まっており、一足先に帝都に帰還されています。なので、転位門も使えませんが……大丈夫ですよ。お二人も、ハンターの皆さんのお力が信用に足ることは承知していますよね?」
「それは……そうですが……」
ここ最近ハンターと共に戦う機会も多かったオレーシャは強く言い返せなかった。
「ハン。俺は連中をそこまで信用はしていませんがね……ま、万が一に備えて俺も同行するんだ。ゴチャゴチャ言っても仕方がねえさ」
ゲロルトが口を挟む。
「しかし……兵士たちとて、覚悟の上での従軍です! わざわざ御身を危険に晒すのは……」
「おい」
どんっ、とゲロルトが少し強めにオレーシャを小突いた。
「つっ……」
小突かれたオレーシャはゲロルトの目つきを見て、気付いた。
「……申し訳ございません。差し出がましい事を申しました」
「いいえ。オレーシャの立場も分かりますから」
改めて微笑むカッテ。しかし、その表情には微かな陰りがあったのにオレーシャも気づいた。
(……皇子なりの償い、か)
そう胸中で呟いたオレーシャはゲロルトと共に退出する。
帝都へ帰還するカッテを護衛する依頼が、ノアーラ・クンタウとリゼリオに張り出されたのはそれから間もなくであった。
●
出発日の早朝、ノアーラ・クンタウの城外に集まったあなたたちハンターに、カッテはにこやかに挨拶する。
「この度はありがとうございます。詳しい予定はお配りした資料で確認してください」
カッテがこう言った直後、要塞の中から何やら荷物を抱えたゲロルトが姿を現した。
「準備完了です。それと、エイゼンシュテイン副長から例の物を差し入れて貰いました。……朝飯は、まだでしたかね?」
「ありがとうございます……そうだ、皆さんも如何ですか?」
差し出されたそれは、白い何かの塊であった。首を傾げるハンターたちにカッテは事も無げに言い放つ。
「すみません……これは、サーロと言って豚の脂身を塩漬けにした保存食です」
その言葉に何人かは固まってしまうだろうか。確かに言われてみればそんな感じだが、これをどうしようというのだろうか? まさか、そのまま生で食べろとでも言うのだろうか。
「こうやって、黒パンに乗せて食べると美味しいですよ」
ゲロルトは手早くパンと脂身を切り、カッテと自分の分を用意した。
一方、ハンターたちが誰も手を出さないのを見たカッテはぽんっと手を打つ。
「そうでした。流石にこれだけでは食べにくいですよね。ゲロルト」
「用意してありますぜ」
そう言ってゲロルトが取り出したのは、生のニンニクである。彼はそれもナイフで器用に剥き、薄くスライスしたものを黒パンとサーロの上にちょこんと載せた。
「すみません。急に決まったことなので、食料はこれしか用意できなくて……でも、明日の夜は宿に泊れますから、大丈夫ですよね?」
リプレイ本文
凱旋、という言葉が勝利した陣営の帰還を表すのであれば、今現在アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が参加しているこの一団もささやかではあるが、凱旋の真っただ中にあると言える。
しかし、当のアウレールの表情は高らかに勝利を抱いて、というのとはほど遠かった。
ふと、アウレールは午後の太陽が、自身の勲章が午後の太陽を反射してに眩く輝いているのに気付く。
だが、紛う事無く人類の勝利を象徴している筈のその勲章を見るアウレールの表情を彩るのは、悔恨や屈辱といった感情である。
「どうしたの? 折角の勲章なのに、そんなに眉間に皺寄せて。……眉がその形に固まっちゃうわよ♪」
そんなアウレールに、ペアを組んでカッテの馬車を護衛していたドロテア・フレーベ(ka4126)が茶化すように話しかける。
「……こんな勲章など貰ったところで、戦略拠点を蹂躙された事実が覆りはしないからだ」
吐き捨てるように言ったアウレールに、あらあらという表情を見せるドロテア。それが切っ掛けになったのか、アウレールは堰を切ったように語り始めた。
「私はあの時ホープに居た。だが、奴を、アイゼンハンダーを止めることが出来なかった……そのせいで、貴重な機甲兵器やトラックが何台壊れたか、どれだけの人々が斃れたことか……!」
「真面目なのね」
ドロテアはそう微笑んだ。
「でも、程々にしておいたら? 勝利に犠牲はつきもの……弱い箇所からやられるのは必然なのよ。それは何もアウレール君だけの責任じゃない筈」
だが、アウレールは収まらないようだ。
「それだけではない……! 私はその前は皇帝陛下と共に戦場に立ちながら、むざむざと陛下が奴の手で傷つくことを許してしまった……そして今、こうして殿下は粗末な馬車でお帰りになる! 何とボクは無力なのか……!」
今はそっとしておくべきだと判断したのだろう。ドロテアはそれ以上話しかけることはせず、肩を竦めて前を向く。
しかし、思わず呟かずにはいられなかった。
「……勿論気に入らないわよ。だから、ほどほどにするんじゃない」
●
やがて、日が完全に沈む頃、一行は旧道のそばにある林の中の広場で野営の準備に入っていた。万が一にも敵に発見される危険を避けるため、何より時間の短縮のため、火は焚かず、食事は携帯している物のみで簡単に済ませることになっていた。
そう、つまりサーロと黒パンである。
「あ、もっと薄くお願い!」
「……つったく。女みてぇに細かい奴だ」
半分はサーロに馴染みのあるロシア人の血が入っている十色 エニア(ka0370)ではあったが、やはり苦手意識があるのかゲロルトに注文してかなり薄く切らせている。
その手元には、既にパンとニンニクが用意してある。が、エニアが用意したのはそれだけではなかった。
「あの、それって……」
おずおずと切り出したのは、サーロに興味はあったもののいざ実物を渡されて躊躇していたコーネリア・デュラン(ka0504)である。
「うん、商人から売ってもらった匂い消し用のハーブ……香草って言った方が解り易いかな。使ってみる?」
エニアがそう尋ねた直後、ドロテアが口を挟んだ。
「もっと手っ取り早い方法があるわよ。モヒカンさん、ウォッカはあるかしら?」
エニアの選択は正鵠を射たものといえる。実際にリアルブルーではサーロをウォッカのつまみにすることもあるからだ。
しかし、ここはクリムゾンウェストである。
「生憎だな。ココにあるのはコレだけだ」
ゲロルトが取り出した酒瓶の文字を読んで、眉を顰める。
「アクアヴィット……そうね。ここは帝国だったわ。ハンターになれば同盟や王国の物が食べ放題だと思ったんだけどね」
アクアヴィットも、ウォッカ同様じゃがいもや、麦から作った度数の高い無色透明の蒸留酒である。
ただ、香料で香りをつけてあるため、ウォッカよりやや風味が強い。
「ま、仕方が無いわ。コレとの縁は切れないのね……」
溜息をつきつつ食べ始めるドロテアであった。
●
「……何とか食べ切ったわ。レーションは、士気を下げない為に……って知ってるけど……これは流石に……」
エニアはサンドウィッチ一つで最早お腹一杯といった感じである。
「エ、エニアさんの香草で何とか食べ切れましたけど……これを食糧に従軍するのは結構大変なような……」
そう感想を述べるコーネリアにカッテが微笑む。
「お口に合いませんでしたか?」
「あ、いえ! し、失礼な感想でした! 本当、ごめんなさい!」
慌てるコーネリアをゲロルトが嘲る。
「無理に美味かったという必要はないぜ」
「え? 俺は本当に美味しいと思ったけどな~」
そう笑うのは鈴木悠司(ka0176)である。彼がそう感じたのは、一つには彼がドロテア同様酒を飲みながら食べることが出来たからかもしれない。
現に、悠司は二枚目のサーロを撮みにアクアヴィットを美味そうに啜っていた。
「お、大人の味、ということでしょうか……」
そう呟いたコーネリアに対し、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が事も無げに答える。
「え? 私も美味しかったよ?」
「そ、それって単に味を気にしていないだけじゃない……?」
知人であるシェリルの味音痴を知っているエニアが恐る恐る突っ込むと、一同の間に朗らかな笑い声が広がるのであった。
●
見張りを終えた悠司は中々寝つけず、周囲を散歩していた。
ふと、空を見上げればそこには満天の星空が広がっている、曇りの多い帝国ではあるが、ここはまだ、首都から遠いせいもあり星が良く見えるようであった。
「……この星空の何処かに、リアルブルーが有ると思うと不思議な感じだなぁ……」
取りとめも無く、そんな事を想う。
「ホームシックにはならないけれど、家族は元気に過ごして居るか……な。ま、俺も元気だし、皆元気だと思うけど……」
悠司が家族の事を思い出して少しだけ笑った時、すぐ近くで音楽が鳴り響いた。
「これは……オカリナ?」
そちらに足を向けた悠司が見たのは、倒木に腰掛けてオカリナを吹くアウレールと、じっとそれに聞き入るカッテの姿である。
悠司は何気なく声をかけようとして、丁度オカリナを吹き終えたアウレールが恐ろしく真剣な眼をしているのに気付き、躊躇した。
「ありがとう。アウレール」
アウレールがオカリナを吹き終えたとき、カッテはそう口を開いた。
「美しい曲ですね……そして、とても悲しい……」
カッテのこの感想を聞いたアウレールは内心しまった、と思わずにはいられなかった。
(何ということだ……無意識の内に、音楽に自分の感情を込めてしまったのだ。殿下をお慰めするつもりが逆効果だ!)
そう思いつつも、アウレールはいてもたってもいられず思わず叫んだ。
「殿下……今回の戦、殿下が償うことなど何もないのです」
それは、この依頼に参加した時からずっとアウレールの胸中に渦巻いていた想い。それ故、アウレールはどこまでも姉弟の無謬を信じる目でカッテを見る
しかし、カッテは心配をかけまいと微笑みながらも視線を逸らす。
「解ってはいるのですが……」
それは、振り返るまいとする強さと、振り返る弱さの葛藤であった。
「殿下……」
アウレールがなおも何かを言おうとした時、悠司が二人の前に現れ、口を開く。
「でも、カッテ陛下が前線に居られる事で、士気も上がったと思います」
二人は振り返って悠司を見つめる。
「最初は、リスクが大き過ぎだと思いました。でも、そうしたくれたからこそ、俺も皆もあそこまで戦うことが出来たんだと思います。忙しく、大事な御身、でも、有り難う御座いました」
悠司はあえて、今回の戦いの被害には触れなかった。
ただ、この戦いに参加した一人の戦士として、カッテに自らの感謝を伝えたに過ぎない。
それでも、いや、それだからこそカッテは真っ直ぐに悠司を見て微笑んだ。
「ありがとう……悠司」
●
数時間後、コーネリアは少し離れた場所にある木の根元でハーモニカを吹いていた。やがて、ハーモニカを口から離したコーネリアは浮かない表情で大きく息を吐く。
「辛気臭い顔で吹くから、辛気臭い曲になるんだよ」
「ひゃい!?」
突然現れたように見えたゲロルトからそうこえをかけられ、コーネリアは思わず飛び上がった。
「一応、作戦行動中だ。あんまり本隊から離れるんじゃねえ。確認が面倒だからな」
一方のゲロルトはそんなコーネリアに頓着せず、言いたいことだけ言うとさっさと立ち去ろうとする。
「まあ、一人になりてぇのは解るさ。ヘタにタフぶろうとするから疲れる訳だ。アホらしい」
前を向いたままのゲロルトがこう言った瞬間、コーネリアは思わずはっとなった。
(あまり沈んだ所は見せたくないので、明るく普通にしていようと思っていたの……ばれていたんでしょうか……)
そう感じた瞬間、コーネリアはずっと胸中に抱いていた想いについて尋ねずにはいられなかった。
「あ、あの! 私たちが……私が、もっと強かったら、少しでも被害を減らせていたと思いますか……!? こ、こんなことを考えるのはおこがましいでしょうか……?」
「知るか」
ゲロルトはさも面倒そうに切って捨てる。
「軍隊なんてのは所詮集団の力だ。一人だけが気張ってみても何にもならねえ。……だが、集団だからこそ一人一人が気張らなきゃ何も出来ねえ」
「……」
パラドックスめいたゲロルトの言葉にコーネリアは沈黙する。
「兵隊なら誰もが一度は頭を捻るモンだ。自分で正解を探すしかねえね」
そして、ゲロルトは今度こそ立ち去った。
後に残された、コーネリアは暫く呆然としていたが、やがて静かに呟く。
「そうですね……前向きに頑張る為に、気持ちを切り替えないと」
野営地に戻ったゲロルトのモヒカンを、突然誰かの小さな手がわしゃわしゃと掴んだ。
「何しやがる……」
振り返ってシェリルを睨むゲロルト。
「……ん。女の子に、優しいオヂサンにご褒美……」
「俺はまだそんな年じゃねえ……そういやお前、ボロボロの体で皇子を十三魔から守ったそうだな」
だが、シェリルは首を振った。
「……ううん。あの時はまともに守れなかった……だから。帰りくらいは……と、思って……」
「チッ」
ゲロルトは舌打ちした。
「どいつもこいつも……」
●
酒場は熱気に包まれていた。エニアが情熱的なダンスを終えると、酒場に集った街の住人や、帝国兵。そして旅人たちが歓声をあげ、盛大な拍手を送った。
「ありがとー! アンコールに答えてもう一曲踊るね! コーネリアさんもよろしく!」
「が、頑張ります!」
エニアもすっかりノリノリで再度踊り始める。踊りに華を添えるのは、コーネリアの歌声だ。
次々と注文されるビールや酒のグラスがたてる音が響く。
今夜酒場で踊る筈であった踊り子が急病になったため、昨晩おもむろに踊っていたのをシェリルに見られたエニアが代りに躍る羽目になっていたが、これが大成功であったのだ。
「……これも、我が帝国なのだな」
アウレールがそっと呟いた。
彼はついさっきまで部屋でカッテの書類仕事を手伝っており、仲間に下に来るよう誘われた際もにべもなく断った。
――皇弟殿下、宿で休んでる時くらいお仕事は離れる事をお勧め致しますわよ。勿論、アウレールとモヒカンさんもね
しかし、ドロテアにこう誘われ、意外にもカッテがあっさり従ったせいもあり渋々着いて来たのだ
「当然でしょう? 酒と娯楽を愛して陽気に騒ぐのが大好きなのがこの国の人々よ。軍隊や兵器だけが帝国じゃないわ」
「この光景もまた、敬愛する人々のように帝国を蝕む歪虚共から守るべきもの……」
アウレールのグラスを持った手が震える。ちなみに、中身は勿論アルコールではない。
「拳を開いて日に翳し――この手を以て、やらなければならない。失ったものを取り戻す、いや失う前よりも多くを築き上げる。その為には殿下が必要だ。必ず無事に帝都までお守りしてみせる……!」
「あらあら、結局そうなるのね」
ドロテアはそんなアウレールの様子に苦笑しつつ目立たないようホールの隅にいるカッテの方を一瞥する。
「殿下も楽しんでいるみたいで何よりね。ウランゲルの血筋はも生き急いでいるから、あまり無理しないで頂きたいわ」
「旧体制派貴族の護衛だった女の言葉にしちゃ、意外だな」
ゲロルトが小さな声で呟く。
「ええ、好き嫌いは兎も角、帝国に陛下と共に皇弟殿下が必要な事くらいあたしにも解るわよ」
「なら、構わねえ。せいぜいよろしく頼むぜ」
この依頼の間、二人がこの話題に触れることは無かった。
そして、ゲロルトは新しい酒を注文すると一瞬だけ、シェリルの方を見た。
●
ゲロルトの視線に気付いたシェリルは自身の耳飾りを外すと、それをカッテに差し出す。
ほとんどの人々の意識がエニアに惹きつけられているこの状況こそ、シェリルがこっそり期待していた「二人だけ」の状況に他ならないから。
「え……シェリル?」
「お守りあげる……。それ、奇跡の色の石なんだって」
思わず魅入られたように石を見つめるカッテ。
「いつも危険に身を晒す、カッテとへーかは……似てる……だから、どんな無茶してもいい。必ず護る。いつだって……それで……死なない……絶対……」
それは、シェリルが自分自身に言い聞かせているようにカッテは感じた。
「ありがとう……ございます。帝都に帰ったら、つけてみますね」
「うん……今はダメ……だよね……でも、少しだけなら……」
シェリルの真剣な想いが伝わったのか、カッテは意を決したようにイヤリングを手に取った。
(カッテはやっぱり優しい。皇子……沢山のモノを負う立場……だから……自分のほんとの気持ち……話せる人……いるのかな……何になるかも、必要かも……分からないけど……今なら少しだけ傍にいられる)
シェリルは目を閉じ、そんなことを想った。
一方、つけ方が解らないのかやや手間取るカッテ。
(それとも、私が傍に……いたいのかな……)
シェリルはそっと手を伸ばし、そんなカッテを手伝った。
「あ……」
シェリルの手に触れられ、カッテが声を漏らす。
(護りたい一心でガエルの前に立ったけど……護るなら……死んじゃダメ)
それは、無意識だったのか。
それとも、シェリルの胸に秘めた微かな想い故か。
「シェリル……?」
カッテが訝しんだ時には、シェリルはカッテの頬に唇を近づけていた。
直後、エニアのダンスがクライマックスを迎え、歓声が上がる。
再び顔を離したシェリルは、小さな声でカッテに言う。
「これで、2回目……覚えてる……? あの時の約束、忘れてないから。わたしは、戦う事しかできないけど……頑張って、ね」
カッテは暫しの沈黙の後、静かに微笑む。
「……ありがとう」
その翌日、一行は無事バルトアンデルスに到着したのであった。
しかし、当のアウレールの表情は高らかに勝利を抱いて、というのとはほど遠かった。
ふと、アウレールは午後の太陽が、自身の勲章が午後の太陽を反射してに眩く輝いているのに気付く。
だが、紛う事無く人類の勝利を象徴している筈のその勲章を見るアウレールの表情を彩るのは、悔恨や屈辱といった感情である。
「どうしたの? 折角の勲章なのに、そんなに眉間に皺寄せて。……眉がその形に固まっちゃうわよ♪」
そんなアウレールに、ペアを組んでカッテの馬車を護衛していたドロテア・フレーベ(ka4126)が茶化すように話しかける。
「……こんな勲章など貰ったところで、戦略拠点を蹂躙された事実が覆りはしないからだ」
吐き捨てるように言ったアウレールに、あらあらという表情を見せるドロテア。それが切っ掛けになったのか、アウレールは堰を切ったように語り始めた。
「私はあの時ホープに居た。だが、奴を、アイゼンハンダーを止めることが出来なかった……そのせいで、貴重な機甲兵器やトラックが何台壊れたか、どれだけの人々が斃れたことか……!」
「真面目なのね」
ドロテアはそう微笑んだ。
「でも、程々にしておいたら? 勝利に犠牲はつきもの……弱い箇所からやられるのは必然なのよ。それは何もアウレール君だけの責任じゃない筈」
だが、アウレールは収まらないようだ。
「それだけではない……! 私はその前は皇帝陛下と共に戦場に立ちながら、むざむざと陛下が奴の手で傷つくことを許してしまった……そして今、こうして殿下は粗末な馬車でお帰りになる! 何とボクは無力なのか……!」
今はそっとしておくべきだと判断したのだろう。ドロテアはそれ以上話しかけることはせず、肩を竦めて前を向く。
しかし、思わず呟かずにはいられなかった。
「……勿論気に入らないわよ。だから、ほどほどにするんじゃない」
●
やがて、日が完全に沈む頃、一行は旧道のそばにある林の中の広場で野営の準備に入っていた。万が一にも敵に発見される危険を避けるため、何より時間の短縮のため、火は焚かず、食事は携帯している物のみで簡単に済ませることになっていた。
そう、つまりサーロと黒パンである。
「あ、もっと薄くお願い!」
「……つったく。女みてぇに細かい奴だ」
半分はサーロに馴染みのあるロシア人の血が入っている十色 エニア(ka0370)ではあったが、やはり苦手意識があるのかゲロルトに注文してかなり薄く切らせている。
その手元には、既にパンとニンニクが用意してある。が、エニアが用意したのはそれだけではなかった。
「あの、それって……」
おずおずと切り出したのは、サーロに興味はあったもののいざ実物を渡されて躊躇していたコーネリア・デュラン(ka0504)である。
「うん、商人から売ってもらった匂い消し用のハーブ……香草って言った方が解り易いかな。使ってみる?」
エニアがそう尋ねた直後、ドロテアが口を挟んだ。
「もっと手っ取り早い方法があるわよ。モヒカンさん、ウォッカはあるかしら?」
エニアの選択は正鵠を射たものといえる。実際にリアルブルーではサーロをウォッカのつまみにすることもあるからだ。
しかし、ここはクリムゾンウェストである。
「生憎だな。ココにあるのはコレだけだ」
ゲロルトが取り出した酒瓶の文字を読んで、眉を顰める。
「アクアヴィット……そうね。ここは帝国だったわ。ハンターになれば同盟や王国の物が食べ放題だと思ったんだけどね」
アクアヴィットも、ウォッカ同様じゃがいもや、麦から作った度数の高い無色透明の蒸留酒である。
ただ、香料で香りをつけてあるため、ウォッカよりやや風味が強い。
「ま、仕方が無いわ。コレとの縁は切れないのね……」
溜息をつきつつ食べ始めるドロテアであった。
●
「……何とか食べ切ったわ。レーションは、士気を下げない為に……って知ってるけど……これは流石に……」
エニアはサンドウィッチ一つで最早お腹一杯といった感じである。
「エ、エニアさんの香草で何とか食べ切れましたけど……これを食糧に従軍するのは結構大変なような……」
そう感想を述べるコーネリアにカッテが微笑む。
「お口に合いませんでしたか?」
「あ、いえ! し、失礼な感想でした! 本当、ごめんなさい!」
慌てるコーネリアをゲロルトが嘲る。
「無理に美味かったという必要はないぜ」
「え? 俺は本当に美味しいと思ったけどな~」
そう笑うのは鈴木悠司(ka0176)である。彼がそう感じたのは、一つには彼がドロテア同様酒を飲みながら食べることが出来たからかもしれない。
現に、悠司は二枚目のサーロを撮みにアクアヴィットを美味そうに啜っていた。
「お、大人の味、ということでしょうか……」
そう呟いたコーネリアに対し、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が事も無げに答える。
「え? 私も美味しかったよ?」
「そ、それって単に味を気にしていないだけじゃない……?」
知人であるシェリルの味音痴を知っているエニアが恐る恐る突っ込むと、一同の間に朗らかな笑い声が広がるのであった。
●
見張りを終えた悠司は中々寝つけず、周囲を散歩していた。
ふと、空を見上げればそこには満天の星空が広がっている、曇りの多い帝国ではあるが、ここはまだ、首都から遠いせいもあり星が良く見えるようであった。
「……この星空の何処かに、リアルブルーが有ると思うと不思議な感じだなぁ……」
取りとめも無く、そんな事を想う。
「ホームシックにはならないけれど、家族は元気に過ごして居るか……な。ま、俺も元気だし、皆元気だと思うけど……」
悠司が家族の事を思い出して少しだけ笑った時、すぐ近くで音楽が鳴り響いた。
「これは……オカリナ?」
そちらに足を向けた悠司が見たのは、倒木に腰掛けてオカリナを吹くアウレールと、じっとそれに聞き入るカッテの姿である。
悠司は何気なく声をかけようとして、丁度オカリナを吹き終えたアウレールが恐ろしく真剣な眼をしているのに気付き、躊躇した。
「ありがとう。アウレール」
アウレールがオカリナを吹き終えたとき、カッテはそう口を開いた。
「美しい曲ですね……そして、とても悲しい……」
カッテのこの感想を聞いたアウレールは内心しまった、と思わずにはいられなかった。
(何ということだ……無意識の内に、音楽に自分の感情を込めてしまったのだ。殿下をお慰めするつもりが逆効果だ!)
そう思いつつも、アウレールはいてもたってもいられず思わず叫んだ。
「殿下……今回の戦、殿下が償うことなど何もないのです」
それは、この依頼に参加した時からずっとアウレールの胸中に渦巻いていた想い。それ故、アウレールはどこまでも姉弟の無謬を信じる目でカッテを見る
しかし、カッテは心配をかけまいと微笑みながらも視線を逸らす。
「解ってはいるのですが……」
それは、振り返るまいとする強さと、振り返る弱さの葛藤であった。
「殿下……」
アウレールがなおも何かを言おうとした時、悠司が二人の前に現れ、口を開く。
「でも、カッテ陛下が前線に居られる事で、士気も上がったと思います」
二人は振り返って悠司を見つめる。
「最初は、リスクが大き過ぎだと思いました。でも、そうしたくれたからこそ、俺も皆もあそこまで戦うことが出来たんだと思います。忙しく、大事な御身、でも、有り難う御座いました」
悠司はあえて、今回の戦いの被害には触れなかった。
ただ、この戦いに参加した一人の戦士として、カッテに自らの感謝を伝えたに過ぎない。
それでも、いや、それだからこそカッテは真っ直ぐに悠司を見て微笑んだ。
「ありがとう……悠司」
●
数時間後、コーネリアは少し離れた場所にある木の根元でハーモニカを吹いていた。やがて、ハーモニカを口から離したコーネリアは浮かない表情で大きく息を吐く。
「辛気臭い顔で吹くから、辛気臭い曲になるんだよ」
「ひゃい!?」
突然現れたように見えたゲロルトからそうこえをかけられ、コーネリアは思わず飛び上がった。
「一応、作戦行動中だ。あんまり本隊から離れるんじゃねえ。確認が面倒だからな」
一方のゲロルトはそんなコーネリアに頓着せず、言いたいことだけ言うとさっさと立ち去ろうとする。
「まあ、一人になりてぇのは解るさ。ヘタにタフぶろうとするから疲れる訳だ。アホらしい」
前を向いたままのゲロルトがこう言った瞬間、コーネリアは思わずはっとなった。
(あまり沈んだ所は見せたくないので、明るく普通にしていようと思っていたの……ばれていたんでしょうか……)
そう感じた瞬間、コーネリアはずっと胸中に抱いていた想いについて尋ねずにはいられなかった。
「あ、あの! 私たちが……私が、もっと強かったら、少しでも被害を減らせていたと思いますか……!? こ、こんなことを考えるのはおこがましいでしょうか……?」
「知るか」
ゲロルトはさも面倒そうに切って捨てる。
「軍隊なんてのは所詮集団の力だ。一人だけが気張ってみても何にもならねえ。……だが、集団だからこそ一人一人が気張らなきゃ何も出来ねえ」
「……」
パラドックスめいたゲロルトの言葉にコーネリアは沈黙する。
「兵隊なら誰もが一度は頭を捻るモンだ。自分で正解を探すしかねえね」
そして、ゲロルトは今度こそ立ち去った。
後に残された、コーネリアは暫く呆然としていたが、やがて静かに呟く。
「そうですね……前向きに頑張る為に、気持ちを切り替えないと」
野営地に戻ったゲロルトのモヒカンを、突然誰かの小さな手がわしゃわしゃと掴んだ。
「何しやがる……」
振り返ってシェリルを睨むゲロルト。
「……ん。女の子に、優しいオヂサンにご褒美……」
「俺はまだそんな年じゃねえ……そういやお前、ボロボロの体で皇子を十三魔から守ったそうだな」
だが、シェリルは首を振った。
「……ううん。あの時はまともに守れなかった……だから。帰りくらいは……と、思って……」
「チッ」
ゲロルトは舌打ちした。
「どいつもこいつも……」
●
酒場は熱気に包まれていた。エニアが情熱的なダンスを終えると、酒場に集った街の住人や、帝国兵。そして旅人たちが歓声をあげ、盛大な拍手を送った。
「ありがとー! アンコールに答えてもう一曲踊るね! コーネリアさんもよろしく!」
「が、頑張ります!」
エニアもすっかりノリノリで再度踊り始める。踊りに華を添えるのは、コーネリアの歌声だ。
次々と注文されるビールや酒のグラスがたてる音が響く。
今夜酒場で踊る筈であった踊り子が急病になったため、昨晩おもむろに踊っていたのをシェリルに見られたエニアが代りに躍る羽目になっていたが、これが大成功であったのだ。
「……これも、我が帝国なのだな」
アウレールがそっと呟いた。
彼はついさっきまで部屋でカッテの書類仕事を手伝っており、仲間に下に来るよう誘われた際もにべもなく断った。
――皇弟殿下、宿で休んでる時くらいお仕事は離れる事をお勧め致しますわよ。勿論、アウレールとモヒカンさんもね
しかし、ドロテアにこう誘われ、意外にもカッテがあっさり従ったせいもあり渋々着いて来たのだ
「当然でしょう? 酒と娯楽を愛して陽気に騒ぐのが大好きなのがこの国の人々よ。軍隊や兵器だけが帝国じゃないわ」
「この光景もまた、敬愛する人々のように帝国を蝕む歪虚共から守るべきもの……」
アウレールのグラスを持った手が震える。ちなみに、中身は勿論アルコールではない。
「拳を開いて日に翳し――この手を以て、やらなければならない。失ったものを取り戻す、いや失う前よりも多くを築き上げる。その為には殿下が必要だ。必ず無事に帝都までお守りしてみせる……!」
「あらあら、結局そうなるのね」
ドロテアはそんなアウレールの様子に苦笑しつつ目立たないようホールの隅にいるカッテの方を一瞥する。
「殿下も楽しんでいるみたいで何よりね。ウランゲルの血筋はも生き急いでいるから、あまり無理しないで頂きたいわ」
「旧体制派貴族の護衛だった女の言葉にしちゃ、意外だな」
ゲロルトが小さな声で呟く。
「ええ、好き嫌いは兎も角、帝国に陛下と共に皇弟殿下が必要な事くらいあたしにも解るわよ」
「なら、構わねえ。せいぜいよろしく頼むぜ」
この依頼の間、二人がこの話題に触れることは無かった。
そして、ゲロルトは新しい酒を注文すると一瞬だけ、シェリルの方を見た。
●
ゲロルトの視線に気付いたシェリルは自身の耳飾りを外すと、それをカッテに差し出す。
ほとんどの人々の意識がエニアに惹きつけられているこの状況こそ、シェリルがこっそり期待していた「二人だけ」の状況に他ならないから。
「え……シェリル?」
「お守りあげる……。それ、奇跡の色の石なんだって」
思わず魅入られたように石を見つめるカッテ。
「いつも危険に身を晒す、カッテとへーかは……似てる……だから、どんな無茶してもいい。必ず護る。いつだって……それで……死なない……絶対……」
それは、シェリルが自分自身に言い聞かせているようにカッテは感じた。
「ありがとう……ございます。帝都に帰ったら、つけてみますね」
「うん……今はダメ……だよね……でも、少しだけなら……」
シェリルの真剣な想いが伝わったのか、カッテは意を決したようにイヤリングを手に取った。
(カッテはやっぱり優しい。皇子……沢山のモノを負う立場……だから……自分のほんとの気持ち……話せる人……いるのかな……何になるかも、必要かも……分からないけど……今なら少しだけ傍にいられる)
シェリルは目を閉じ、そんなことを想った。
一方、つけ方が解らないのかやや手間取るカッテ。
(それとも、私が傍に……いたいのかな……)
シェリルはそっと手を伸ばし、そんなカッテを手伝った。
「あ……」
シェリルの手に触れられ、カッテが声を漏らす。
(護りたい一心でガエルの前に立ったけど……護るなら……死んじゃダメ)
それは、無意識だったのか。
それとも、シェリルの胸に秘めた微かな想い故か。
「シェリル……?」
カッテが訝しんだ時には、シェリルはカッテの頬に唇を近づけていた。
直後、エニアのダンスがクライマックスを迎え、歓声が上がる。
再び顔を離したシェリルは、小さな声でカッテに言う。
「これで、2回目……覚えてる……? あの時の約束、忘れてないから。わたしは、戦う事しかできないけど……頑張って、ね」
カッテは暫しの沈黙の後、静かに微笑む。
「……ありがとう」
その翌日、一行は無事バルトアンデルスに到着したのであった。
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相談卓 鈴木悠司(ka0176) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/05/22 04:08:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/19 13:01:50 |