ゲスト
(ka0000)
剣物語・弐
マスター:硲銘介
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/25 15:00
- 完成日
- 2015/07/03 06:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
これは一人の男の物語。
男は刀鍛冶だった。
鍛冶屋を代々営む家に生まれた彼は二人の兄と同様血統に従い、父親の元で修行に明け暮れた。
家柄に縛られる事を不満に思う者も少なくはないが、男にはまるで無縁な話だった。
熱く弾ける火、立ち込める金属の匂い、鉄を打つ槌の音。男にとっては全てが愛おしく思えていた。
有体に言えば、男は鍛冶の仕事が楽しくて仕方がなかった。幾度も幾度も鉄を打ち、繰り返し鍛え、強く美しく仕立てていく工程に喜びを感じていた。
ものの上達に肝要であるのは楽しむ事、そんな言葉を立証するかの様に男は見る見るうちに腕を上げていった。
やがてその上達は二人の兄を、果ては師である父親すらも追い抜かす事となった。
暫くして、父親が寿命で亡くなった。
――そこで一つの問題が発生する。父が、先祖が続けてきたこの家は誰が継ぐのか。
普通であれば一番上の兄が継ぐべきであろう。しかし末弟である男は知らなかったが、父親は二人の兄にとある遺言を遺していた。
三人の内最も腕のある末弟に家を継がせ、兄二人は弟を支えてやって欲しい――それは家の繁栄を願い、職人として生きた父親の純粋な願いだった。
しかし、その言葉が明らかにされる事はなかった。二人の兄は遺言を隠蔽し、それを無視して事を運んでいった。
それぞれに土地や道具を分配し、兄弟三人が各々自分の店を持つ。これからは家族兄弟である前に商売敵であろう、兄達が男に告げたのはそういった内容の提案だった。
兄達の態度に不自然さを感じながらも、男はその提案に乗った。最も高い実力を持つことを自覚していた彼は、兄達に先んじる自信があったからだ。
そうして兄弟達はそれぞれの威信を賭け、渾身の剣を打ち始めた。
男が打った剣は傑作だった。これまでの中でも最上の一振り、持つべき者が持てば一騎当千の働きすらも見せるであろう。
――だが、現実は男の想像通りには運ばなかった。
二人の兄の店には多くの戦士が集まってきたが、男の元には駆け出しの弱卒しか訪れなかったのだ。
一番下の弟という事で経験実力共に浅く見られたのか、はたまた剣を鍛えるばかりの弟に客を惹き付ける商才が無かったのか。何にせよ、男は客に恵まれなかった。
男の傑作を買っていった戦士は次の戦で死んだ。前回見えた欠点を見つめなおし、更なる傑作を作り上げた。
次の剣を買った戦士、彼は戦場から逃げ出したと耳にした。不甲斐ない戦士に憤りを感じながらも、更に強く美しい剣を打った。
だが次なる買い手はあろう事か、美術品として剣をどこぞの質に流してしまった。
男が次々と不名誉な結果を残す傍ら、兄達の作品は堅実に戦果を上げていた。兄達は世間からの注目も高まり、高名な戦士は一層そちらへと流れていく。
男の剣は評価こそ得られずにいたが、確かに名剣であった。二人の兄のそれと比べても決して劣らず、むしろ勝っていたことだろう。
己の自信が思い上がりではなく、確かな真実だと確信があったからこそ――男は歪んだ。
いかに優れた剣も、使い手が劣っていれば勝利する事は出来ない。それは剣の、武器の本質であり限界である。
――その限界を、男は凌駕した。それは彼の持つ才覚であり、努力であり、更には妄執が生んだ結果だと言えよう。
辿り着いたのは実に単純な答。使い手など要らない剣であれば、独力で勝利を手にすることが出来るではないか。
●
時は流れ、男も、男の仕えた国も滅びた。三人の鍛冶師の話も現代では昔話の一つとして語られるのみである。
そして、語られるものはもう一つ。
それは剣の群れであった。
戦場から戦場へ、血の匂いを嗅ぎつけ移動し、その場の敵を斬殺する刀剣の数々。
邪法に魅入られた鍛冶師の男が最強を目指し鍛えた剣は使い手を必要とせず、己が身一つで戦場を飛翔し敵を切り裂くものであった。
ひとりでに動く剣。怪物と罵られようと、それらがもたらす勝利の報は男の凶行を加速させた。
次も、そのまた次も、男が作り上げたのは踊る剣だった。以後も男は周囲の評価を気にせず剣を生み続け――やがて、混乱をもたらす者として国に処断された。
だが死の寸前まで作品を打ち続けた男が残した魔剣、その数は実に十三本。
親を亡くしても尚、刀剣達の殺陣は止まらない。戦って戦って、現代までの悠久を過ごしてきた。
時間の流れの中で多くの剣が錆び、折れ、朽ちていった。しかし最後にのこった三本は今もこのクリムゾンウェストの荒野を彷徨っている。
その最後の三本がとある廃村に移動しているとの情報を得たハンターオフィスはハンター達を招集。未だ無差別に被害を拡大させる魔剣の排除に挑む。
これは一人の男の物語。
男は刀鍛冶だった。
鍛冶屋を代々営む家に生まれた彼は二人の兄と同様血統に従い、父親の元で修行に明け暮れた。
家柄に縛られる事を不満に思う者も少なくはないが、男にはまるで無縁な話だった。
熱く弾ける火、立ち込める金属の匂い、鉄を打つ槌の音。男にとっては全てが愛おしく思えていた。
有体に言えば、男は鍛冶の仕事が楽しくて仕方がなかった。幾度も幾度も鉄を打ち、繰り返し鍛え、強く美しく仕立てていく工程に喜びを感じていた。
ものの上達に肝要であるのは楽しむ事、そんな言葉を立証するかの様に男は見る見るうちに腕を上げていった。
やがてその上達は二人の兄を、果ては師である父親すらも追い抜かす事となった。
暫くして、父親が寿命で亡くなった。
――そこで一つの問題が発生する。父が、先祖が続けてきたこの家は誰が継ぐのか。
普通であれば一番上の兄が継ぐべきであろう。しかし末弟である男は知らなかったが、父親は二人の兄にとある遺言を遺していた。
三人の内最も腕のある末弟に家を継がせ、兄二人は弟を支えてやって欲しい――それは家の繁栄を願い、職人として生きた父親の純粋な願いだった。
しかし、その言葉が明らかにされる事はなかった。二人の兄は遺言を隠蔽し、それを無視して事を運んでいった。
それぞれに土地や道具を分配し、兄弟三人が各々自分の店を持つ。これからは家族兄弟である前に商売敵であろう、兄達が男に告げたのはそういった内容の提案だった。
兄達の態度に不自然さを感じながらも、男はその提案に乗った。最も高い実力を持つことを自覚していた彼は、兄達に先んじる自信があったからだ。
そうして兄弟達はそれぞれの威信を賭け、渾身の剣を打ち始めた。
男が打った剣は傑作だった。これまでの中でも最上の一振り、持つべき者が持てば一騎当千の働きすらも見せるであろう。
――だが、現実は男の想像通りには運ばなかった。
二人の兄の店には多くの戦士が集まってきたが、男の元には駆け出しの弱卒しか訪れなかったのだ。
一番下の弟という事で経験実力共に浅く見られたのか、はたまた剣を鍛えるばかりの弟に客を惹き付ける商才が無かったのか。何にせよ、男は客に恵まれなかった。
男の傑作を買っていった戦士は次の戦で死んだ。前回見えた欠点を見つめなおし、更なる傑作を作り上げた。
次の剣を買った戦士、彼は戦場から逃げ出したと耳にした。不甲斐ない戦士に憤りを感じながらも、更に強く美しい剣を打った。
だが次なる買い手はあろう事か、美術品として剣をどこぞの質に流してしまった。
男が次々と不名誉な結果を残す傍ら、兄達の作品は堅実に戦果を上げていた。兄達は世間からの注目も高まり、高名な戦士は一層そちらへと流れていく。
男の剣は評価こそ得られずにいたが、確かに名剣であった。二人の兄のそれと比べても決して劣らず、むしろ勝っていたことだろう。
己の自信が思い上がりではなく、確かな真実だと確信があったからこそ――男は歪んだ。
いかに優れた剣も、使い手が劣っていれば勝利する事は出来ない。それは剣の、武器の本質であり限界である。
――その限界を、男は凌駕した。それは彼の持つ才覚であり、努力であり、更には妄執が生んだ結果だと言えよう。
辿り着いたのは実に単純な答。使い手など要らない剣であれば、独力で勝利を手にすることが出来るではないか。
●
時は流れ、男も、男の仕えた国も滅びた。三人の鍛冶師の話も現代では昔話の一つとして語られるのみである。
そして、語られるものはもう一つ。
それは剣の群れであった。
戦場から戦場へ、血の匂いを嗅ぎつけ移動し、その場の敵を斬殺する刀剣の数々。
邪法に魅入られた鍛冶師の男が最強を目指し鍛えた剣は使い手を必要とせず、己が身一つで戦場を飛翔し敵を切り裂くものであった。
ひとりでに動く剣。怪物と罵られようと、それらがもたらす勝利の報は男の凶行を加速させた。
次も、そのまた次も、男が作り上げたのは踊る剣だった。以後も男は周囲の評価を気にせず剣を生み続け――やがて、混乱をもたらす者として国に処断された。
だが死の寸前まで作品を打ち続けた男が残した魔剣、その数は実に十三本。
親を亡くしても尚、刀剣達の殺陣は止まらない。戦って戦って、現代までの悠久を過ごしてきた。
時間の流れの中で多くの剣が錆び、折れ、朽ちていった。しかし最後にのこった三本は今もこのクリムゾンウェストの荒野を彷徨っている。
その最後の三本がとある廃村に移動しているとの情報を得たハンターオフィスはハンター達を招集。未だ無差別に被害を拡大させる魔剣の排除に挑む。
リプレイ本文
●
かつては人の賑わいを見せた廃村。生きるものの気配も無く死の静寂に支配されたその場所に爆音が響く。
凄まじい速度で駆け抜けるそいつが放つ音は竜の唸り声によく似ていた。臆病な小動物であれば耳にしただけで逃げ惑うだろう。
されど、その実体は竜に非ず。搭乗者のマテリアルを燃やす魔導機械式エンジンを備えた鋼の二輪、龍雲。
咆哮を思わせる疾駆音を伴う愛機を駆り、リリティア・オルベール(ka3054)は死に絶えた村に足を下ろした。
他のハンターの姿は未だ見えない。圧倒的な移動力を誇る魔導二輪の恩恵、リリティアは戦いの舞台となる廃村に誰より早く到着した。
「さて、魔剣……ですか」
心なしか楽しそうにリリティアは呟いた。
今回の依頼、その主目的とは別に彼女には一つの狙いがあり、それが魔剣に対する期待を膨らませていた。
――しかし、真っ先に此処へ乗りつけたのは何も浮かれていた訳ではない。
龍雲が放った轟音を聞きつけてか、リリティアの元へは続々とゾンビが集まってきていた。
そう、この先行の目的は掃除にある。魔剣と相対した時に邪魔が入らぬよう、此処に巣食う不死者には早々に退場してもらおう。
得物を構えたリリティアの青の瞳が真紅に染まり、背中に漆黒の翼が現出する。覚醒状態へ変じた彼女は眼前の歪虚へと向かっていった。
己が主を背に乗せた六騎の馬。既に廃村に辿り着き戦端を開いたリリティアを追うように、彼等は猛々しく大地を踏み駆けていく。
「スズカ――貴方の初仕事となりますが、私に力を貸してください」
アティニュス(ka4735)は自身が跨る馬の背を撫でながら、騎乗技能を活かし手綱を握る。
馬の走るリズムを読み取りそのテンポを乱さぬように操っていく。
彼女の動作からはスズカへの労わりが感じられる。今後も長い付き合いになるであろう愛馬、その飼い主として恥じる事の無いよう気をつけているのだろう。
六騎の馬の行軍は順調に進み、やがて戦場をその視界に収めた。
廃村の中では数体のゾンビと、それらの注意を惹くリリティアの姿があった。それを確認したクレール(ka0586)は馬の背で姿勢を低くし叫ぶ。
「シルブ……私の事は気にしないで、全力でお願い! デルタレイッ!」
クレールが駆るシルブと呼ばれた戦馬が主に応えるかの様に嘶く。同時にクレールの純白の杖が先端より三本の光の筋を伸ばし、リリティアを囲う三体のゾンビを貫く。
たじろぐ不死者に追撃をかけるように、シルブの走りは荒々しさを増して更に加速し、他の馬を追い抜きリリティアの元まで辿り着く。
「クレールさん!」
「お待たせしました――ファイアスローワー!」
リリティアと合流を果たしたクレールが前面の敵に対し炎の力を解放すると、広がる赤い波動が次々とゾンビを飲み込んでいった。
「慈愛と博愛の神父さん登場! 迷える哀れな骸を歪虚から解放しましょう」
後続組の一番乗りを果たしたクレールに続き、他のハンターも歪虚との交戦地帯へと辿り着く。
神父、エルディン(ka4144)はきらりと輝くスマイルと共に愛馬ヨハネで乗りつける。
飄々としたらしからぬ雰囲気を持つ彼ではあるが、その実確かに敬虔な聖職者。生きる屍は専門分野である。
「――瞳は光を失い、肉体は朽ち果て、生きる者を貪る彼等に安らぎを与えたまえ。魂には、天国の栄光を授けたまえ」
荘厳な詠唱と共にレクイエムの旋律が響き、不死者に対する呪縛が周囲の亡者の自由を奪っていく。
「――さぁ、皆さん! 今です、ハレルヤ!」
確かな効果を確認したエルディンは仲間達を振り返り、白い歯を見せて微笑む。そして――手にした杖で動かないゾンビをぼこぼこと叩きまくった。
「……行きがけの駄賃ではないが、亡者は速やかに土に還って貰おうか」
動きを止めたゾンビ達を榊 兵庫(ka0010)は戦馬に乗ったまま槍を伸ばし、次々とその穂先の餌食としていった。
リリティアの先制に続き、怒涛の如く押し寄せたハンター達はそのままゾンビ達の殲滅を果たす。
未だ隠れ潜むものがいないか、確認を行って掃討は完了し、文字通りの前哨戦は難なく幕を下ろした。
「……すまない、名も知らぬ御仁。強敵を打ち倒した暁には、必ずや丁重に埋葬させていただく」
動きを止め地に伏す死体を見下ろし、夕鶴(ka3204)は静かに頭を下げた。
彼等も元は罪無き村人、それをこうして放置する事には少なからず心が痛むが――亡骸を弔う時間は今は無い。夕鶴は意識を切り替え、飛来する真の敵へ視線を移す。
「――来たか。本当にひとりでに宙を舞うとはな……」
前情報で聞いていたとはいえ、現実にそれを前にした今、胸には微かばかりの驚きがあった。
長剣。短剣。大剣。大きさ、重量、用法に差異はあれど人が手に取る武器であるそれらは――確かに、担い手を持たず宙を浮いていた。常識を逸したその姿は……成程、確かに魔剣のそれである。
魔剣は立ちはだかる七人の獲物を前にしてその凶刃を妖しく輝かせた。
●
三本の魔剣を分断するのはそう難しくは無かった。単体で動くという怪異めいた物体ではあるが、目の前の獲物に切りつけるという単純な思考は動物のそれと大差ない。
それを利用し各々が担当する剣と相対し他との距離を取っていけば――目の前の一本だけに集中できる戦場が見事出来上がった。
長剣――所謂ロングソード。最も一般的な刀剣に類似した魔剣を相手するのは兵庫とバリトン(ka5112)の二人。
「……鍛冶師の妄執が生み出した魔剣か。人に害を為す以上そのままにしておく訳にはいかない。俺達の手で終わらせてやる事としよう」
「勝手に戦い続ける魔剣か……これ程の物が作れる者にはわしの剣も一本ぐらい作って欲しかったのう」
分断を終えた二人に弾かれた長剣は僅かに距離を取り、その道の達人の様に仕掛ける機を窺っている。
「しかし、引退してから十年ぶりの復帰戦――十五の初陣を思い出すのう」
「……あまり無理しないでくださいよ?」
対する二人も言葉を交わしながらも目の前の刃の動きに集中していた。
少し踏み込めば相手に届く距離――それ故に硬直していた。僅かな動きが再開の合図となる緊張感の中、
「ハッ――わかっておるわ、兵庫坊!」
口火を切ったのはバリトンだった。老体を思わせぬ動きで距離を詰め、手にした刀を振るう。
電光石火、高速の足運びと斬撃――それを余す事無く投入し、激しい剣戟を演出する。流石は老獪、といったところだろうか。
されど、打ち合う敵も長い時を戦い抜いてきた魔剣。攻撃を確実にいなし、空いた間合いを突いてくる。
使い手の存在しない魔剣、その真骨頂は天地を無視した縦横無尽の乱舞にある。
豊富な経験を持つバリトンもこの相手ばかりは分が悪い。主無き常識外れの剣、経験則を持ち込めという方が無茶だろう。
傷を負いながらひたすら打ち合うバリトン。一方で兵庫は時折向く攻撃を守りの構えで防ぎつつ、冷静にその動きを観察していた。
「――――」
刺突を回避し、躱せない攻撃は切り払い、切りつけてきたならば槍の穂先をかみ合わせ防ぐ――兵庫の観察は確実に成果を見出していた。そして、
「……! おおおおぉぉ!!」
――逆襲の一撃が繰り出される。
魔剣の突撃、それに合わせ放つ渾身の一撃。兵庫の槍は長剣を捉え、周辺の残骸へと叩き付ける。
突撃の一瞬を見切った最大の一撃、その衝撃は打ち付けた先の残骸にまで伝染し刀身をめり込ませた。
そこへ、もう一人の逆襲が向く。宙に浮く相手ならば打ち合っても衝撃は拡散してしまう。その打開策は――簡単だ。
「壁に叩きつけ、衝撃を逃がせない様にするが得策じゃの!」
――バリトンの雷撃刀が動きを止めた長剣を貫く。武器に生命の概念があるならば、それはまさにとどめの一撃であっただろう。
魔剣の最期を見届けながら兵庫は思案する。
――件の鍛冶師は武人を欠片も理解していなかったんだな。使い手と武器とが合わさって初めて最高の結果が得られるものを。
確かに鍛冶師の得た結論は事実だろう、未熟な戦士は武器の力を引き出せない。だが、その逆があるのも、また真実なのだ。
「原型が残れば少々使ってみたくはあったがのう……まぁ、故郷を見つけてそこで供養してやるのが良さそうじゃな」
霧消する魔剣を名残惜しそうに見送ったバリトンは、残った一握りの破片を拾い上げると遠い空に呟いた。
●
幾度となく剣戟は繰り返される。短剣を模したその凶器には他の剣が持つ一撃の破壊力は無縁だ。
故に、その殺傷力は細かに重ねる事で発揮される。夕鶴とアティニュス、二人の繰り出す剣と打ち合っているにも関わらず、手数においてはむしろ勝ってすらいた。
「動く鎧の次は飛び回る剣か……意志無き刃など、剣と呼びたくもないが――殺人鬼に等しきその所業は許し難い」
夕鶴は以前、同じく昔話に語られた兵士の骸と相対した事があった。だが、それと比べても目の前の魔剣は異質な相手だ。
剣相手とはいえ、敵は剣士ではないのだ。しかし、人が用いた場合の短剣の特徴はむしろ強化されている。的は小さく、動きの素早さは他の追随を許さない。
そして最たる強みはやはり、担い手が存在しない事。地に足をつけて踏ん張る人間がいない分、普通は想像もできない動きすら再現してのける。
夕鶴は予めその奇抜な動きを想定してはいたが苦戦していた。とはいえ心構えが一切無いのとでは動きは別物で、被害は最小限に抑えていた。
苦戦はアティニュスも同様で、鉄扇と刀を用いた防御も飛びぬけて機敏な魔剣の前では効果が薄かった。
決定打を与えられぬまま、軽傷は重なり二人の体力は消耗していく。窮地、そこに、
「えー、毎度おなじみのエクラ教の神父です。慈愛と博愛を込めた癒しはいりませんか?」
……どこか空気の読めてない明るい声が響く。
「エルディン殿?」「エルディンさん?」
二人が場違いな声に反応する。いずれの班にも属さず緊急時の支援に控えていたエルディンは馬に乗ったまま、涼しい笑顔を見せていた。
「必要となりましたら、遠慮なく手を上げてください」
などと言うが、畳み掛ける短剣の攻撃を前に、無防備に手を上げる余裕など二人には無い。それはエルディンも悟ったのか、既に詠唱に取り掛かっていた。
「――光の神よ、彼らを守りたまえ」
前線の二人が剣戟を捌く間にエルディンはヒールとプロテクション、治癒と守護の二種の補助を重ねる。
その間、エルディンに短剣の攻撃は向かなかった。それこそが魔剣の弱点だと言えよう。
後衛を叩くという戦闘の基本、だがその思考は魔剣には存在しない。ただ目の前の相手を切り殺す、それだけに特化したが故の脆さだ。
「少々強引だが――無銘の刃よ、わが一撃に耐えられるか」
ここにきて守護を付与された夕鶴は攻めの構えを取り、一切の防御を捨て去った。肌を裂く痛みに耐えて一瞬の攻撃に神経を集中する。
短剣の刺突――を、諸共に薙ぎ払うクレイモアの一閃。軽い剣は吹き飛び、その先には円舞するアティニュスの姿。
日本刀の一撃――否、二撃。一瞬の内に繰り出されたそれは確かに二撃であった。二連乃業、舞刀士の技量が可能とする刹那の連撃が魔剣の身を砕いた。
「どれだけ優れていようが道具は道具、そこに魂はありません」
鍔鳴と共に納刀し、アティニュスは斬った魔剣へ言い放つ。
夕鶴もまた剣を納め、鞘に手を触れる。そしてもう一度消えゆく魔剣に視線を移した。
「使い手のいない剣、か。同情はしない……ただ私はこの剣にとって、相応しい使い手でありたいと思う――まだまだ、使いこなせてはいないがね」
腰に納めたそれは魔剣ではない。だからこそ――夕鶴は研鑽を己の剣に誓うのだった。
●
「貴方が戦いを望むなら、私が連れて行ってあげる。人も、ただの歪虚ももう斬り飽きたでしょ?」
大剣との打ち合いの最中、リリティアはおもむろにそんな言葉を告げた。その相手は、物言わぬ魔剣。
彼女が秘めた目的、それは魔剣を手に入れる事だった。
如何なる物でも名匠の鍛えた業物に変わりは無い。ならば振ってみたい――戦いに身を置く者として、おかしい願いではない。
何より――そうして戦果を挙げる事こそが、かの刀匠の本当の願いだったのではないか。
「龍狩りに付いて来なさい、その先の勝利を見せてあげる」
あくまで警戒を崩さず、リリティアは凛として語りかける。
宙に浮き暫く沈黙していた大剣はやがて静かに動き出す。その答は――
魔剣は再び、殺意を剥き出しにしてリリティアへと襲い掛かった。
警戒していたリリティアはその大振りを問題なくかわした……が、その表情は曇っていた。
「リリティアさん、行きましょう! あの大剣を、止める!」
それまで後方で戦いを見ていたクレールが意を決したように飛び出し、並ぶリリティアも頷く。
――魔剣。それは一人の鍛冶師が辿った妄執の境地。担い手に恵まれず、それ故に剣としての本分を喪失した道。
それは同じ鍛冶師であるクレールの、人の手足の延長となる道具という思想の対極にあるものだった。だからこそ、彼女は思う。
――否定なんて、出来る訳ない。同じ道を進んでいた人の、その果ての成果なんだから。でも、絶対に――
「……来いっ! 決着をつける!」
リリティアが稼いだ時間を観察に費やし、クレールは大剣の刀身に弱点を見出していた。
長い年月を戦い脆く劣化した部位。人の手を離れたからこそ、直される事なく戦場へ赴く魔剣故の弱点。打ち合いの中、狙うはその一点。
そして力の誇示を目的とした剣舞、その締めは確定している――最大の威力を発揮する、真っ向からの斬り下ろし。
それを火花を散らす盾で受け流し、握る杖の先端に光の刃を形成する。機導剣を弱点目掛け振りかぶるクレール、
「リリティアさん、連携でっ!」
――そしてその反対側から、リリティアが斬龍刀の大振りを重ねる!
「斬鉄……剣!!」
表と裏、挟み折るように同時に加えられた渾身の一撃。頑丈な大剣だろうとその負荷には耐え切れない。
現存する最後の魔剣、その刀身に致命傷の罅が奔った――
「復元……できますかね?」
「これは、さすがに……」
霧散していく魔剣を見下ろし消沈するリリティアに、残念そうにクレールが応える。どちらともなく溜息が零れる。
歪虚の領域に堕ちたものはすべからく消滅する。その理を示す様に、魔剣は消失し小さな欠片だけが後に残った。剣の形に戻す事はまず不可能だろう。
リリティアはしゃがんで破片を拾い上げると、困ったように笑って言った。
「一緒に行きたかったけど……せめて、私の勝ちを見せてあげる」
欠片を懐にしまい立ち上がると、リリティアはいつか訪れる龍との再戦を思いながら今日のこの戦場を後にした――――
かつては人の賑わいを見せた廃村。生きるものの気配も無く死の静寂に支配されたその場所に爆音が響く。
凄まじい速度で駆け抜けるそいつが放つ音は竜の唸り声によく似ていた。臆病な小動物であれば耳にしただけで逃げ惑うだろう。
されど、その実体は竜に非ず。搭乗者のマテリアルを燃やす魔導機械式エンジンを備えた鋼の二輪、龍雲。
咆哮を思わせる疾駆音を伴う愛機を駆り、リリティア・オルベール(ka3054)は死に絶えた村に足を下ろした。
他のハンターの姿は未だ見えない。圧倒的な移動力を誇る魔導二輪の恩恵、リリティアは戦いの舞台となる廃村に誰より早く到着した。
「さて、魔剣……ですか」
心なしか楽しそうにリリティアは呟いた。
今回の依頼、その主目的とは別に彼女には一つの狙いがあり、それが魔剣に対する期待を膨らませていた。
――しかし、真っ先に此処へ乗りつけたのは何も浮かれていた訳ではない。
龍雲が放った轟音を聞きつけてか、リリティアの元へは続々とゾンビが集まってきていた。
そう、この先行の目的は掃除にある。魔剣と相対した時に邪魔が入らぬよう、此処に巣食う不死者には早々に退場してもらおう。
得物を構えたリリティアの青の瞳が真紅に染まり、背中に漆黒の翼が現出する。覚醒状態へ変じた彼女は眼前の歪虚へと向かっていった。
己が主を背に乗せた六騎の馬。既に廃村に辿り着き戦端を開いたリリティアを追うように、彼等は猛々しく大地を踏み駆けていく。
「スズカ――貴方の初仕事となりますが、私に力を貸してください」
アティニュス(ka4735)は自身が跨る馬の背を撫でながら、騎乗技能を活かし手綱を握る。
馬の走るリズムを読み取りそのテンポを乱さぬように操っていく。
彼女の動作からはスズカへの労わりが感じられる。今後も長い付き合いになるであろう愛馬、その飼い主として恥じる事の無いよう気をつけているのだろう。
六騎の馬の行軍は順調に進み、やがて戦場をその視界に収めた。
廃村の中では数体のゾンビと、それらの注意を惹くリリティアの姿があった。それを確認したクレール(ka0586)は馬の背で姿勢を低くし叫ぶ。
「シルブ……私の事は気にしないで、全力でお願い! デルタレイッ!」
クレールが駆るシルブと呼ばれた戦馬が主に応えるかの様に嘶く。同時にクレールの純白の杖が先端より三本の光の筋を伸ばし、リリティアを囲う三体のゾンビを貫く。
たじろぐ不死者に追撃をかけるように、シルブの走りは荒々しさを増して更に加速し、他の馬を追い抜きリリティアの元まで辿り着く。
「クレールさん!」
「お待たせしました――ファイアスローワー!」
リリティアと合流を果たしたクレールが前面の敵に対し炎の力を解放すると、広がる赤い波動が次々とゾンビを飲み込んでいった。
「慈愛と博愛の神父さん登場! 迷える哀れな骸を歪虚から解放しましょう」
後続組の一番乗りを果たしたクレールに続き、他のハンターも歪虚との交戦地帯へと辿り着く。
神父、エルディン(ka4144)はきらりと輝くスマイルと共に愛馬ヨハネで乗りつける。
飄々としたらしからぬ雰囲気を持つ彼ではあるが、その実確かに敬虔な聖職者。生きる屍は専門分野である。
「――瞳は光を失い、肉体は朽ち果て、生きる者を貪る彼等に安らぎを与えたまえ。魂には、天国の栄光を授けたまえ」
荘厳な詠唱と共にレクイエムの旋律が響き、不死者に対する呪縛が周囲の亡者の自由を奪っていく。
「――さぁ、皆さん! 今です、ハレルヤ!」
確かな効果を確認したエルディンは仲間達を振り返り、白い歯を見せて微笑む。そして――手にした杖で動かないゾンビをぼこぼこと叩きまくった。
「……行きがけの駄賃ではないが、亡者は速やかに土に還って貰おうか」
動きを止めたゾンビ達を榊 兵庫(ka0010)は戦馬に乗ったまま槍を伸ばし、次々とその穂先の餌食としていった。
リリティアの先制に続き、怒涛の如く押し寄せたハンター達はそのままゾンビ達の殲滅を果たす。
未だ隠れ潜むものがいないか、確認を行って掃討は完了し、文字通りの前哨戦は難なく幕を下ろした。
「……すまない、名も知らぬ御仁。強敵を打ち倒した暁には、必ずや丁重に埋葬させていただく」
動きを止め地に伏す死体を見下ろし、夕鶴(ka3204)は静かに頭を下げた。
彼等も元は罪無き村人、それをこうして放置する事には少なからず心が痛むが――亡骸を弔う時間は今は無い。夕鶴は意識を切り替え、飛来する真の敵へ視線を移す。
「――来たか。本当にひとりでに宙を舞うとはな……」
前情報で聞いていたとはいえ、現実にそれを前にした今、胸には微かばかりの驚きがあった。
長剣。短剣。大剣。大きさ、重量、用法に差異はあれど人が手に取る武器であるそれらは――確かに、担い手を持たず宙を浮いていた。常識を逸したその姿は……成程、確かに魔剣のそれである。
魔剣は立ちはだかる七人の獲物を前にしてその凶刃を妖しく輝かせた。
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三本の魔剣を分断するのはそう難しくは無かった。単体で動くという怪異めいた物体ではあるが、目の前の獲物に切りつけるという単純な思考は動物のそれと大差ない。
それを利用し各々が担当する剣と相対し他との距離を取っていけば――目の前の一本だけに集中できる戦場が見事出来上がった。
長剣――所謂ロングソード。最も一般的な刀剣に類似した魔剣を相手するのは兵庫とバリトン(ka5112)の二人。
「……鍛冶師の妄執が生み出した魔剣か。人に害を為す以上そのままにしておく訳にはいかない。俺達の手で終わらせてやる事としよう」
「勝手に戦い続ける魔剣か……これ程の物が作れる者にはわしの剣も一本ぐらい作って欲しかったのう」
分断を終えた二人に弾かれた長剣は僅かに距離を取り、その道の達人の様に仕掛ける機を窺っている。
「しかし、引退してから十年ぶりの復帰戦――十五の初陣を思い出すのう」
「……あまり無理しないでくださいよ?」
対する二人も言葉を交わしながらも目の前の刃の動きに集中していた。
少し踏み込めば相手に届く距離――それ故に硬直していた。僅かな動きが再開の合図となる緊張感の中、
「ハッ――わかっておるわ、兵庫坊!」
口火を切ったのはバリトンだった。老体を思わせぬ動きで距離を詰め、手にした刀を振るう。
電光石火、高速の足運びと斬撃――それを余す事無く投入し、激しい剣戟を演出する。流石は老獪、といったところだろうか。
されど、打ち合う敵も長い時を戦い抜いてきた魔剣。攻撃を確実にいなし、空いた間合いを突いてくる。
使い手の存在しない魔剣、その真骨頂は天地を無視した縦横無尽の乱舞にある。
豊富な経験を持つバリトンもこの相手ばかりは分が悪い。主無き常識外れの剣、経験則を持ち込めという方が無茶だろう。
傷を負いながらひたすら打ち合うバリトン。一方で兵庫は時折向く攻撃を守りの構えで防ぎつつ、冷静にその動きを観察していた。
「――――」
刺突を回避し、躱せない攻撃は切り払い、切りつけてきたならば槍の穂先をかみ合わせ防ぐ――兵庫の観察は確実に成果を見出していた。そして、
「……! おおおおぉぉ!!」
――逆襲の一撃が繰り出される。
魔剣の突撃、それに合わせ放つ渾身の一撃。兵庫の槍は長剣を捉え、周辺の残骸へと叩き付ける。
突撃の一瞬を見切った最大の一撃、その衝撃は打ち付けた先の残骸にまで伝染し刀身をめり込ませた。
そこへ、もう一人の逆襲が向く。宙に浮く相手ならば打ち合っても衝撃は拡散してしまう。その打開策は――簡単だ。
「壁に叩きつけ、衝撃を逃がせない様にするが得策じゃの!」
――バリトンの雷撃刀が動きを止めた長剣を貫く。武器に生命の概念があるならば、それはまさにとどめの一撃であっただろう。
魔剣の最期を見届けながら兵庫は思案する。
――件の鍛冶師は武人を欠片も理解していなかったんだな。使い手と武器とが合わさって初めて最高の結果が得られるものを。
確かに鍛冶師の得た結論は事実だろう、未熟な戦士は武器の力を引き出せない。だが、その逆があるのも、また真実なのだ。
「原型が残れば少々使ってみたくはあったがのう……まぁ、故郷を見つけてそこで供養してやるのが良さそうじゃな」
霧消する魔剣を名残惜しそうに見送ったバリトンは、残った一握りの破片を拾い上げると遠い空に呟いた。
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幾度となく剣戟は繰り返される。短剣を模したその凶器には他の剣が持つ一撃の破壊力は無縁だ。
故に、その殺傷力は細かに重ねる事で発揮される。夕鶴とアティニュス、二人の繰り出す剣と打ち合っているにも関わらず、手数においてはむしろ勝ってすらいた。
「動く鎧の次は飛び回る剣か……意志無き刃など、剣と呼びたくもないが――殺人鬼に等しきその所業は許し難い」
夕鶴は以前、同じく昔話に語られた兵士の骸と相対した事があった。だが、それと比べても目の前の魔剣は異質な相手だ。
剣相手とはいえ、敵は剣士ではないのだ。しかし、人が用いた場合の短剣の特徴はむしろ強化されている。的は小さく、動きの素早さは他の追随を許さない。
そして最たる強みはやはり、担い手が存在しない事。地に足をつけて踏ん張る人間がいない分、普通は想像もできない動きすら再現してのける。
夕鶴は予めその奇抜な動きを想定してはいたが苦戦していた。とはいえ心構えが一切無いのとでは動きは別物で、被害は最小限に抑えていた。
苦戦はアティニュスも同様で、鉄扇と刀を用いた防御も飛びぬけて機敏な魔剣の前では効果が薄かった。
決定打を与えられぬまま、軽傷は重なり二人の体力は消耗していく。窮地、そこに、
「えー、毎度おなじみのエクラ教の神父です。慈愛と博愛を込めた癒しはいりませんか?」
……どこか空気の読めてない明るい声が響く。
「エルディン殿?」「エルディンさん?」
二人が場違いな声に反応する。いずれの班にも属さず緊急時の支援に控えていたエルディンは馬に乗ったまま、涼しい笑顔を見せていた。
「必要となりましたら、遠慮なく手を上げてください」
などと言うが、畳み掛ける短剣の攻撃を前に、無防備に手を上げる余裕など二人には無い。それはエルディンも悟ったのか、既に詠唱に取り掛かっていた。
「――光の神よ、彼らを守りたまえ」
前線の二人が剣戟を捌く間にエルディンはヒールとプロテクション、治癒と守護の二種の補助を重ねる。
その間、エルディンに短剣の攻撃は向かなかった。それこそが魔剣の弱点だと言えよう。
後衛を叩くという戦闘の基本、だがその思考は魔剣には存在しない。ただ目の前の相手を切り殺す、それだけに特化したが故の脆さだ。
「少々強引だが――無銘の刃よ、わが一撃に耐えられるか」
ここにきて守護を付与された夕鶴は攻めの構えを取り、一切の防御を捨て去った。肌を裂く痛みに耐えて一瞬の攻撃に神経を集中する。
短剣の刺突――を、諸共に薙ぎ払うクレイモアの一閃。軽い剣は吹き飛び、その先には円舞するアティニュスの姿。
日本刀の一撃――否、二撃。一瞬の内に繰り出されたそれは確かに二撃であった。二連乃業、舞刀士の技量が可能とする刹那の連撃が魔剣の身を砕いた。
「どれだけ優れていようが道具は道具、そこに魂はありません」
鍔鳴と共に納刀し、アティニュスは斬った魔剣へ言い放つ。
夕鶴もまた剣を納め、鞘に手を触れる。そしてもう一度消えゆく魔剣に視線を移した。
「使い手のいない剣、か。同情はしない……ただ私はこの剣にとって、相応しい使い手でありたいと思う――まだまだ、使いこなせてはいないがね」
腰に納めたそれは魔剣ではない。だからこそ――夕鶴は研鑽を己の剣に誓うのだった。
●
「貴方が戦いを望むなら、私が連れて行ってあげる。人も、ただの歪虚ももう斬り飽きたでしょ?」
大剣との打ち合いの最中、リリティアはおもむろにそんな言葉を告げた。その相手は、物言わぬ魔剣。
彼女が秘めた目的、それは魔剣を手に入れる事だった。
如何なる物でも名匠の鍛えた業物に変わりは無い。ならば振ってみたい――戦いに身を置く者として、おかしい願いではない。
何より――そうして戦果を挙げる事こそが、かの刀匠の本当の願いだったのではないか。
「龍狩りに付いて来なさい、その先の勝利を見せてあげる」
あくまで警戒を崩さず、リリティアは凛として語りかける。
宙に浮き暫く沈黙していた大剣はやがて静かに動き出す。その答は――
魔剣は再び、殺意を剥き出しにしてリリティアへと襲い掛かった。
警戒していたリリティアはその大振りを問題なくかわした……が、その表情は曇っていた。
「リリティアさん、行きましょう! あの大剣を、止める!」
それまで後方で戦いを見ていたクレールが意を決したように飛び出し、並ぶリリティアも頷く。
――魔剣。それは一人の鍛冶師が辿った妄執の境地。担い手に恵まれず、それ故に剣としての本分を喪失した道。
それは同じ鍛冶師であるクレールの、人の手足の延長となる道具という思想の対極にあるものだった。だからこそ、彼女は思う。
――否定なんて、出来る訳ない。同じ道を進んでいた人の、その果ての成果なんだから。でも、絶対に――
「……来いっ! 決着をつける!」
リリティアが稼いだ時間を観察に費やし、クレールは大剣の刀身に弱点を見出していた。
長い年月を戦い脆く劣化した部位。人の手を離れたからこそ、直される事なく戦場へ赴く魔剣故の弱点。打ち合いの中、狙うはその一点。
そして力の誇示を目的とした剣舞、その締めは確定している――最大の威力を発揮する、真っ向からの斬り下ろし。
それを火花を散らす盾で受け流し、握る杖の先端に光の刃を形成する。機導剣を弱点目掛け振りかぶるクレール、
「リリティアさん、連携でっ!」
――そしてその反対側から、リリティアが斬龍刀の大振りを重ねる!
「斬鉄……剣!!」
表と裏、挟み折るように同時に加えられた渾身の一撃。頑丈な大剣だろうとその負荷には耐え切れない。
現存する最後の魔剣、その刀身に致命傷の罅が奔った――
「復元……できますかね?」
「これは、さすがに……」
霧散していく魔剣を見下ろし消沈するリリティアに、残念そうにクレールが応える。どちらともなく溜息が零れる。
歪虚の領域に堕ちたものはすべからく消滅する。その理を示す様に、魔剣は消失し小さな欠片だけが後に残った。剣の形に戻す事はまず不可能だろう。
リリティアはしゃがんで破片を拾い上げると、困ったように笑って言った。
「一緒に行きたかったけど……せめて、私の勝ちを見せてあげる」
欠片を懐にしまい立ち上がると、リリティアはいつか訪れる龍との再戦を思いながら今日のこの戦場を後にした――――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 夕鶴(ka3204) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/06/24 22:54:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/20 23:23:59 |