ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】サッカーをやろう
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/24 15:00
- 完成日
- 2015/07/03 02:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
祭を催している村の一角。
広い敷地を取ったところに、白線を引かれた、大きな区画があった。
白線は、巨大な長方形である。地面の芝はそれなりに時間をかけて整備されており……両端にはネットのついた骨組みのようなものがある。知らぬものが見たら、一種奇妙な空間であった。
祭のついでに立ち寄った村人は……その敷地の中に、奇妙な格好をした青年を見つけて、聞いた。
「ここはどんな催し物をやっているんだい?」
「あ、はい! ここはサッカーの体験教室です! もちろん、本格的な試合も出来ますよ」
「サッカー……?」
聞いたことのない言葉に首をかしげる村人。
青年……マルコは微妙に肩を落とす。
「そうですよね……知らないですよね」
でも、と顔を明るくする。
「知らない方々に知ってもらうというのも、この教室の目的ですから! 是非、参加してみませんか! 体を動かす、楽しい遊びです」
そう言って笑うマルコ。
その格好は、染め物を駆使して作られた鮮やかなブルーに、背番号がついた服――ユニフォームであった。辺りに散らばるのは、わざわざフマーレで作ってもらった、覚醒者のキックにも耐えうる頑丈なボール。
そう、ここは祭のためにしつらえられた、サッカーコートであった。
マルコはリアルブルー出身のサッカー好きの青年である。こちらに転移してからも、何とかサッカーが出来ないかと奔走。リアルブルーのサッカーを知る人達と交流したり、こんなユニフォームを作ったりして……お祭りの出しものの一つとしてやるまでこぎ着けていた。
「で、体を動かすって、何をするんだい」
村人の質問に、マルコは説明するが、予備知識のない村人はうーんと唸った。
「よくわからんが……」
「まあ、とりあえずやってみるだけも」
「一人で出来るものなの?」
「体験教室ですから。まあ、本来のサッカー、というか試合をしようと思うとそれなりに人数が要りますが……」
「ふうん。本来のサッカーってのが試合とかいうやつなら、それを見てみたいけどなぁ」
周りを見ると、子共連れを会わせて結構な人数はいる。だが今のところサッカーを知っている人間はいないようで、マルコの仲間が分担して子供達に教えている状況だ。
体験教室だからこれでいいのだが、確かに、試合が出来るならそれを見てもらった方が理解も深まるし、皆楽しめるだろう。
「サッカーを知ってる人か、そうでなくても試合要員になってくれる人がいればなぁ……」
と、そこまで言ってマルコは思いついた。
「あぁ、そうだ! ハンターさんたちにも来てもらおう!」
彼らなら、サッカーを知っている人もいるだろうし……知らなくても、試合要員になってもらえれば、盛り上がることには違いないだろう。
マルコは運営を手伝ってもらっている商人の元へ走り、ハンターを招くことを決めた。
「――というわけで。皆さん、一緒にサッカーをやりませんか!」
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
祭を催している村の一角。
広い敷地を取ったところに、白線を引かれた、大きな区画があった。
白線は、巨大な長方形である。地面の芝はそれなりに時間をかけて整備されており……両端にはネットのついた骨組みのようなものがある。知らぬものが見たら、一種奇妙な空間であった。
祭のついでに立ち寄った村人は……その敷地の中に、奇妙な格好をした青年を見つけて、聞いた。
「ここはどんな催し物をやっているんだい?」
「あ、はい! ここはサッカーの体験教室です! もちろん、本格的な試合も出来ますよ」
「サッカー……?」
聞いたことのない言葉に首をかしげる村人。
青年……マルコは微妙に肩を落とす。
「そうですよね……知らないですよね」
でも、と顔を明るくする。
「知らない方々に知ってもらうというのも、この教室の目的ですから! 是非、参加してみませんか! 体を動かす、楽しい遊びです」
そう言って笑うマルコ。
その格好は、染め物を駆使して作られた鮮やかなブルーに、背番号がついた服――ユニフォームであった。辺りに散らばるのは、わざわざフマーレで作ってもらった、覚醒者のキックにも耐えうる頑丈なボール。
そう、ここは祭のためにしつらえられた、サッカーコートであった。
マルコはリアルブルー出身のサッカー好きの青年である。こちらに転移してからも、何とかサッカーが出来ないかと奔走。リアルブルーのサッカーを知る人達と交流したり、こんなユニフォームを作ったりして……お祭りの出しものの一つとしてやるまでこぎ着けていた。
「で、体を動かすって、何をするんだい」
村人の質問に、マルコは説明するが、予備知識のない村人はうーんと唸った。
「よくわからんが……」
「まあ、とりあえずやってみるだけも」
「一人で出来るものなの?」
「体験教室ですから。まあ、本来のサッカー、というか試合をしようと思うとそれなりに人数が要りますが……」
「ふうん。本来のサッカーってのが試合とかいうやつなら、それを見てみたいけどなぁ」
周りを見ると、子共連れを会わせて結構な人数はいる。だが今のところサッカーを知っている人間はいないようで、マルコの仲間が分担して子供達に教えている状況だ。
体験教室だからこれでいいのだが、確かに、試合が出来るならそれを見てもらった方が理解も深まるし、皆楽しめるだろう。
「サッカーを知ってる人か、そうでなくても試合要員になってくれる人がいればなぁ……」
と、そこまで言ってマルコは思いついた。
「あぁ、そうだ! ハンターさんたちにも来てもらおう!」
彼らなら、サッカーを知っている人もいるだろうし……知らなくても、試合要員になってもらえれば、盛り上がることには違いないだろう。
マルコは運営を手伝ってもらっている商人の元へ走り、ハンターを招くことを決めた。
「――というわけで。皆さん、一緒にサッカーをやりませんか!」
リプレイ本文
●青空の下で
芝生を走り回る音、ボールが弾む音、参加者が互いに呼びかける声が、村に明るく響いている。
ハンターの参加に伴い、観客も集まり……コートの周りには、かなりの人数がやってきていた。
そんな賑やかさの中。ハンター達は早速練習をはじめていた。
「よーし、まずはランニングだ!」
芝の上、率先して準備運動を始めるのは藤堂研司(ka0569)。よければみんなも、と誘いをかけ、ゆったりとしたペースで走り始めていた。
結果としてハンターのうちの多くが参加し、コートの周りを巡っていく。
「いやー、この感じ、懐かしいな!」
鳴沢 礼(ka4771)が、研司と並び、嬉しげに言う。研司は礼を向いた。
「経験者?」
「うん、俺、元サッカー部なんだ。またやれるとは思ってなかったぜ」
「リアルブルー出身者としてはやっぱり、こういうスポーツが出来るのは、いいよな」
それは、故郷の世界に思いを馳せるような口調でもあったろうか。
二人を先頭に、しばしランニングは続いた。
その後、ストレッチを挟んでそれぞれの練習に移った。
サッカーについて既知の者は、それなりに実践的な練習をしているグループへ参加する。
榊 兵庫(ka0010)も、学生時代に経験があるのでこちらだ。
「とはいえ、かなり久しぶり、ということでもあるが」
はじめは、もてあそぶようにボールをころころと蹴り……そのうちに、身体を慣らすようにドリブルをはじめる。
すると、ほどなくして違和感のないドリブルを見せだす兵庫である。
おーいと手を振る研司を見つけると、どっ、と浮かせるパスを放ったりして、やり取りした。
「……案外身体は覚えているものだな」
「いいじゃん! このまま、もうちょっと続けようぜ!」
「ふむ。もう少し練習すれば、皆の脚を引っぱる醜態はさらさずにすみそうだな」
兵庫はそうして、しばし研司と練習を続けた。
その横を、ドリブルでまっすぐに突っ切っていく少女がいた。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)である。すたた、と走り……ぼむっ! ゴールにシュートを放つ。それには、観衆も、おお、と少し声をあげた。
ふしゅー、と息をつくシルヴィアと、目が合って……兵庫はたずねた。
「サッカーには、心得が?」
「……いえ。私は、それほどでも。ただ、サッカーは、故郷のドイツでそれなりに盛んでしたので……」
そこでシルヴィアは、ハッ……と無表情の中に何か重大なものを浮かべた。
「サッカーが盛ん……」
「……?」
兵庫が疑問符を浮かべる横で、練習に戻りながら……シルヴィアは呟いていた。
「サッカーが……盛ん……」
練習の輪の中で、ボールを抱えてじっと見ている少女がいる。京島 虹花(ka1486)だ。
「野球だと思ったらサッカーやった」
そんなことを独りごちつつも……「まぁええか」とボールを転がす。ぽん、と蹴り上げると、そのまま、ぽん、ぽん、と、リフティングを始めた。
ずっと継続していると、何となく他の参加者達も数人、集まってくる。
「リフティング、一緒にやる? 楽しいで」
虹花が笑いかけると、参加者は見合った。すると誰からともなく、リフティングをしだす。
少しの間、そこに楽しげなリフティングの輪が生まれるのだった。
クリムゾンウェスト出身のハンターは、サッカーと言われてもぴんと来ない。
そんなわけで……少し離れたここでは、経験者達が未経験者にサッカーの説明することになっていた。せっかくなのでマルコも同席している。
「さっかー……って、球蹴りして走り回るんだろ?」
ユリアン(ka1664)が回しながら言う。ボールを触る仕草も慣れぬ様子だった。
「ま、大体間違っちゃいねえよ。それをどれだけうまくやれるか、ってのが難しくて、面白いところでもあるんだが」
答えるのは、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)。ヒュムネは女子サッカー経験者であり、教える側の一人である。先ほどから慣れた脚さばきでボールをもてあそんでいた。
「蹴鞠とはまた違う競技なのかのう?」
紅薔薇(ka4766)が、蹴り上げるような仕草をしながら言った。
それには、マルコも手伝って、基本的なルールから解説していく。概要だけでも理解すると……ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はなるほど、と腕を組んだ。
「要は、後方にいる敵の首を獲る戦いだな。それを何度もやり合うと」
「まあ、そうだな」
「大王たるボクにふさわしい競技だな!」
ヒュムネの答えに、ディアドラはうんうんと頷く。
ルールを一通り説明し終えると、実際に身体を動かす練習に入った。
「腕……もとい、足が唸るぜ!」
ヒュムネはここでも指導に回る。久しぶりとあって、やる気も漲っていた。紅薔薇に、基本的なドリブルなどを指導していく。
「次はシュートな。とりあえず蹴ってみろよ」
「わかった。こうかのう……えいっ!」
ずっ、と紅薔薇の蹴りをかすめたボールが、ギュルルロロ! とその場で高速回転した。
「むう。シュートは要練習のようじゃのう……」
「いやこれはこれである意味すごい気もするけどな……」
苦笑しつつも言うヒュムネだった。
ユリアンとディアドラには、礼が指導していた。ボールを次々に、ゴールへと蹴り込んでいく。
「要はゴールに蹴り込めばオッケー! だから、まずはひたすらシュートしてみようぜ!」
笑顔で言う礼は、細かい説明をするわけでなく、ただ楽しそうに身体を動かす。
それを見ると、ディアドラもよし、と頷いて転がっているボールをシュート。さくっ、とゴールネットを揺らした。むん、と胸を張るディアドラ。
「なるほど! 簡単じゃないか! それに、中々興味深い競技だ!」
そうしてディアドラはさらに練習を続けた。
ユリアンも、礼とパスのやり取りをしたり、ドリブルを教わったりして、一通りは感覚を掴んだ。ひと息つくと、離れた輪で、虹花がぽんぽんとリフティングをしている方を見つめた。
「あの曲芸みたいなアレ、やってみたいな」
「リフティングか。やってみるか?」
ヒュムネが言ってボールを蹴り上げる。見本を見せるように足の甲で数回真上に蹴り上げたあと……膝や、頭の後ろにもボールを持っていく。
「ほーらよっと!」
「うわ、凄い」
ユリアンは感心したように見つめ……自身でも、練習しはじめる。
「力の加減とか……どんな感じ?」
ヒュムネに教わり、見よう見まねでぽん、ぽん、とボールを上げる。そうやってしばし、ユリアンはリフティングの練習と実践を楽しんだ。
同じ輪の中でボルディア・コンフラムス(ka0796)と、ミネット・ベアール(ka3282)もまた、サッカーを学んでいた。
「サッカーってボールを敵にぶつけて倒すゲームじゃなかったのか……」
腕を組んで難しそうな顔をするボルディア。ひとまずは、手を使わないこと、相手を蹴らないこと、ボールはゴールに入れることは理解していた。武器だと思っていたボールをまじまじと見ている。
「まあ、とにかくルールはそんなもんで平気だろ」
言って歩くのは央崎 枢(ka5153)。サッカー部出身の彼が、ここでの二人の指導に当たっていた。
そのまま二人を導き、ボールを目の前に置く。
「とにかく実際に練習してみようぜ。そうすればより理解もできるだろ」
「よーし! さっかー、頑張ります!」
ミネットはぐっと拳を握って、足元のボールを見つめた。それから教わったとおり、ゴールめがけて……ほわちゃぁあっ、とボールを思いっきり蹴り飛ばした。
ぼっ!
破裂音のような響きと共に、場外ホームラン。彼方へ飛ばされたボールがお空へ消えた。
「あれ!? ボールが消えた!?」
「いや、お前が消したんだろ……?」
枢は苦笑しつつも、遠くの木に引っかかっていたボールを回収。ミネットへ手取り足取り、ボールコントロールを教えていった。
「よし、とりあえずはこんなもんで」
「なるほど、力の調節が必要だったんですね」
ミネットは、そのうちにドリブルなどもこなせるようになってゆく。
ボルディアも、はじめは殺人的なシュートを繰り返していたが……指導で段々と、ボールの扱いがサッカーらしくなってきた。
「何となく、感覚はわかってきたぜ。うまくできるかはわからねえけど――」
ボルディアはボールを手にとって、笑う。
「とりあえず楽しそうなもんだってのは、わかった」
「それがわかれば、とりあえずは、充分だな」
枢も明るい表情を浮かべた。
●試合
ハンター同士の試合がはじまる時間になると……より大勢の見物客が集まってきていた。がやがやとコートを取り囲み、文字通りのお祭り騒ぎの様相を呈している。
「ふーんふふーん♪」
そんな中、水流崎トミヲ(ka4852)がユニフォーム姿でコートへと乗り込んでいた。キュッ――とグローブをはめ、口の端に笑みを浮かべる。
「質量兵器と呼ばれたGKぶりを見せてやろうじゃないか――って、なんで女の子多いのヤダー!」
よく見れば、トミヲのチームも相手のチームも、ハンターには女子が多い。
「何でこんなことに……くっ……鎮まれ、僕の冷や汗……ッ」
なぜか右腕を押さえるトミヲだったが――
「いやー、まさかこんなに人が集まるとはなー」
そこに、西空 晴香(ka4087)も試合のために歩いてきていた。コートを眺める。
「サッカーやるのは高校以来……になるのか。高校時代……のことは置いといて、ま、とにかく楽しむか」
独りごちるように言ったあと、トミヲを見る。
「一応同じチームだっけ? まあ、とりあえずよろしくな」
「……え、あ。ソ、ソデスネ……」
トミヲはびくりとして挙動不審気味に答えた。晴香がコート内へ歩いていってようやく息をついた。
「ふぅ、トラップがいっぱいだぜ……。だが僕は、この試練も乗り越えてみせるさ!」
「それではこれから試合をはじめまーす!」
マルコが言って、両チーム、ポジションへついていく。なお、チームとポジションは以下。
・赤チーム
フォワード:(左)補充選手、(右)補充選手
ミッドフィルダー:ヒュムネ
ウイングバック:(左)ユリアン、(右)ミネット
ボランチ:(左)兵庫、(右)補充選手
ディフェンダー:(左)晴香、(中)補充選手、(右)ボルディア
キーパー:トミヲ
・青チーム
フォワード:(左)ディアドラ、(右)礼
ミッドフィルダー:(左)補充選手、(右)虹花
ウイングバック:(左)シルヴィア、(右)補充選手
ボランチ:枢
ディフェンダー:(左)補充選手、(中)紅薔薇、(右)補充選手
キーパー:研司
補充選手、というのは人数を合わせるために参加したマルコの仲間である。
オーダー表を見て、村人の一人が質問する。
「ふぉわーど、とか、みっどふぃるだーってのはなんだべ」
「簡単に言えば、どれだけ前衛かってことだよ」
村人へ、かいつまんで説明するのは、皐月=A=カヤマ(ka3534)だ。サッカーがやっている、ということで、見物がてらに参加していた。
「もちろんそれだけじゃねーけど。でも、上に書いてあるやつほど攻めで、キーパーがゴールを守る、くらいに考えておけば、見るには困らないんじゃないの」
村人達は、なるほど、と感心したように頷いていた。そうして次々に飛んでくる質問を、無表情に答えていく皐月だった。
そして、ピーッ! とマルコが吹く笛の合図と共に、試合が開始される。
キックオフは青チームからだ。
「じゃー、ディアドラから頼むぜ!」
「いいだろう! 大王たるもの、最前で率先して行動してこそだからな……では行くぞ、皆の者!」
ディアドアラは、同じフォワードの礼に答えると……斜め前方にボールを蹴る。
それで、ゲームはスタート。同時に礼がそのボールを確保して、青からの攻撃だ。
「まずはどんどん攻めようぜ!」
礼は、そこからドリブル。まずは赤チームのフォワード、補充選手の二人を左利きの華麗なフェイントでひょいひょいと抜き去った。
すぐに、ヒュムネがボールを奪いに来るが……礼はここで前にパスを出した。
受けたのは、シルヴィア。青のウイングバックとして開始と同時に前へ上がっていた。
「サッカーが……盛ん……」
何事か呟きながら、シルヴィアはすたたた、とぐんぐん攻める。ボランチの補充選手を抜くと、ぽん、とパス。ゴール前に迫っていたディアドラが、おお、と明るい顔でボールを受け取る。
それを見ながら、赤のキーパー、トミヲはまだゆったりと構えていた。
「まあ、まずは練習だったり、感覚を掴んでもらうところがメインだよね」
ディアドラは、どーん! と真ん前に力一杯蹴り込んだ。風を切り裂いて、一瞬でボールはゴールした。
「……ね?」
トミヲは少々信じられないように、ぎゅるぎゅるとネットで回るボールを見つめる。
うおおお! と観客が盛り上がったところで、トミヲは眼鏡を直した。
「そうか……曲がりなりにも覚醒者同士のサッカー。これは――舐めプしてられる状況じゃないな!」
赤チームの攻撃から、プレーは再開。
フォワードには両翼に行かせ、パスの起点になるのはヒュムネだ。
「じゃ、頼むぜ」
「りょーかいです! お任せください!」
受けるのは、ミネット。ヒュムネの蹴ったボールをドリブルに繋げて、元気いっぱいに攻め込んでゆく。だが、もちろんのこと、青チームのフォワードや、ミッドフィルダーの虹花もボールを取りに来る。
「わああ、囲まれる!」
「恨まんといてー、これも勝負やから」
そんなことを言いながら的確に足を出してくる虹花に、ミネットは慌てて逃げる。だがそうしているうちに味方のユリアンが逆サイドで上がっていた。
「これは……今です! きええぇぇぇええい!」
どっ! ミネットは隙を突いて強烈な蹴り。女性離れした超速パスが、ユリアンの元へ飛んだ。
ぼっ、と鈍い音を響かせつつも、ユリアンは何とかトラップ。
「おっ、と。さて……ここから、いけるかな」
次いで、素速く場を見回している。そのときにはヒュムネが前方のいい位置を確保していた。
「ヒュムネさん、頼むよ」
ユリアンのパスを的確に受けるヒュムネ。
青のキーパーの研司は、ヒュムネのシュートコースを狭めるために接近。
「このまま止めさせてもらうよっ!」
シュートと同時にパンチングで弾くのを狙い、研司は跳躍する。
だが、ヒュムネの、女性特有のしなやかな動きからのシュートは……意外に速度も速い。研司の手をかすめたが、そのままゴールネットを揺らし……同点へと持ち込んだ。
こちらもまた大きな歓声が上がる。
「なるほど。これは速さの求められる競技じゃのう」
紅薔薇は感心したようにゴールの方を見ていた。研司は明るく返す。
「一瞬の油断で形勢が変わるからね。俺も、次は止めたいな」
「よし。次からはもっと声出ししていくか」
枢も、見回して言う。
「今の点の取り合いで、試合の流れもわかってもらえたと思うし……ここからは、勝ちを狙おうぜ」
それに、研司をはじめ皆が呼応した。
1対1で青からの攻撃。
ディアドラから礼へとボールが流れ、赤の陣地へ進む。
礼はディアドラとさらにパスを回しつつ、敵のフォワードを躱していくが――
赤チームは、ヒュムネをはじめとしてユリアンとミネットも、先ほどより積極的に圧をかけてくる。
礼達もパスで進めようとするが、ヒュムネがうまく間に入り、ボールを奪取した。
「よっしゃ、攻めるぞ!」
そのまま一気に走り込んでいくヒュムネ達。
が、青の守備陣もただでは通さない。ミッドフィルダーの虹花、ウイングバックのシルヴィアが左右からやってくると共に……ボランチの枢が鉄壁の守備を見せた。
「二人はそのまま左右で、パスを通させないようにしてくれ!」
指示を出しながら、枢自身はヒュムネの操るボールに意識を集中。勢いこんで走り込み、ボールを弾いた。
ミネットが何とかそれを奪い戻しに向かうが……紅薔薇が一足早く、転がり込んだボールを回収していた。
「ふむ、やっと触れたのう」
奪取してくるミネットを何とか躱し、前へ狙いを定める。
「妾は素人じゃが、ボールを回すくらいのことはさせてもらうぞ。ほれ、あとは頼んだのじゃ!」
練習したパスを綺麗に決めて、半ば近くまで上がっている枢へボールを渡した。
「連続で点を取られるわけにはいかないからな。今度はこっちが決めさせてもらう!」
枢は速攻し、一気に赤の陣までドリブルで入って行く。敵が遮りに来ると、すぐ前へいる虹花へ短いパスを出した。
「よっしゃ、攻めるでー」
虹花もその意を汲んで、スピーディな攻めを試みる。その勢いで、赤のボランチを一人、抜き去った。
だが赤チームはダブルボランチ。すぐ近くに、もう一人のボランチ、兵庫が控えていた。
体格の良さで、既にそれなりに壁としての威圧感がある。それに加え、その身体能力ですぐに虹花に迫り、ボールを奪った。
「わっ? あっちゅうまに取られてもうた。敵わんわー」
「悪いな。相手の攻撃をつぶすのが、ここでの俺の役割だからな。俺は、それにいそしむだけだ」
兵庫は冷静に周囲に目を配り――礼やディアドラが迫っているのを見ると、一旦クリア。前方にいつつ敵の少ない位置にいるフォワードにパスを出した。
パスを受けたフォワードは、青チームのゴール前まで、一端は迫った。だがその辺りでハンターに囲まれると、さすがにボールを奪取される。
それが枢からディアドラへと繋がると、再び青チームが攻め込む形になった。
今度は、ディアドラからパスを受けた礼が、そのスピードで一気にゴール前へ。補充選手を軽々と抜くとシュートを放った。
「それっ!」
どうっ! と高速のシュートがゴールめがけて飛んでいく。
だがそこで、トミヲが予想外に身軽な動きを見せて、ばしっ! とボールをキャッチ。攻撃を封じた。
これには、おおぉっ! と観客も驚いた。
「運動が出来るようには見えんのに、トミヲ殿も無駄に華麗な動きじゃのう……」
紅薔薇がまじまじと遠くのゴールを眺めつつ言う。
「俺も、あんくらいはやんなくちゃなー。割と実力は拮抗してる感じだし、ここからは一点が大事だな」
研司も言って気合いを入れ、赤チームの攻撃に備えた。
ちょうど、赤チームはトミヲのパスからミネットにボールが渡り、攻撃をしかけるところだ。
ミネットはそのままヒュムネへ中継。ヒュムネは、青の陣地へ攻め上がっていく形となった。
そこへ虹花やシルヴィアが寄ってくるが――今度は赤チームも全体にオフェンシブな動きをする。
ディフェンダーの晴香も、少しばかり上がっている。ヒュムネから再度のミネットへのパスを、青チームのシルヴィアがカットするが――晴香はそこへすぐにプレッシャーをかけ、攻めあぐねさせた。
「今度は、こっちがゴールまで行かせてもらうぜ」
晴香はニッと笑って、ボールを奪取に向かう。シルヴィアは逆向きに逃げるが、そこにボルディアが迫っていた。それが狙いだ。
「うっしゃー!」
ボルディアは足を伸ばし、ボールを奪う。そしてそのまま、攻めへ転じた。
「おお! ボール取れた! よくわからねえけど、これを前に出せばいいんだろ!」
すると足を引いてから、ぼっ! と強烈なキック。
かなり力強い豪速のパスがコートを駆ける。ユリアンが受けると、スルーパス気味に斜めへ動いたボールに、またも晴香が追いついて、敵陣へ駆け上がった。
ヒュムネも機敏に対応して、かなり前方へ上がっていた。
と、晴香は、そこでそのままヒュムネへ直接パスを出す。ヒュムネはそれを受ける。
すると、マルコがおっと気がついて、笛を鳴らした。
何だ何だ? とどよめく村人達。視線は、村人に交じって試合を見ている皐月へ向いた。
皐月は、あー、と少し頭をかいてから言った。
「あれはオフサイドだよ」
「おふさいど?」
きょとんとする村人に、皐月は地面に絵を描いて説明した。
「相手の陣内に攻撃してるときの反則だよ。相手のうち、ゴールラインから二番目に近い選手……今回は紅薔薇だな。それより前に出てると、オフサイドポジションにいるってことになるんだけど」
『紅薔薇』と書いて、それに長い縦線を重ねる。そこに、青チームのゴール側に向かって矢印を横切らせた。
「で、オフサイドポジションで味方からパスを受けたり、プレーに干渉したりしたらオフサイドになるってわけ」
例を出して数度説明すると、村人も段々理解してくる。
「まあ、今のは反則ってよりも、デモンストレーションというか説明代わりみたいなもんだろうけど」
実際、晴香たちにもそういう意図はあってのことだ。なので、青チームからのフリーキックも、とりあえず試合を先ほどに戻すような形で、ゆるやかに赤チームにボールが蹴られた。
今度は、晴香はボルディアにパス。ボルディアはユリアンへと、次々に経由されていった。
そしてヒュムネからシュート――と見せかけて、ヒュムネはすぐ近くのフォワードへパス。補充選手からのシュートが飛んだ。補充選手とは言え、サッカー経験者、そのキックは鋭い。
かなりの速度で飛ぶボールに……しかし研司も素早く反応を見せていた。
「うおお! このときを待ってたぜ!」
どん、と斜め跳びして、華麗にキャッチングを決める。くるりと回転して着地を決めると、観客からも拍手が起こったのだった。
「これでおあいこだな!」
そしてまた、青チームから攻めはじめる。
試合時間は、このあとにも第二試合があると言うことで、短めに取られていた。
研司の言うとおり実力が拮抗していたこともあって、この後、数度の攻撃し合いをして、結果は1-1の引き分けと相成った。バランスよくハンターが配置されていたこともあり、攻撃を通りにくくすることが上手くいった結果でもあった。
そして試合は第二試合へ。
●覚醒サッカー
一旦休憩を挟んで、スキル使用を問わない形式の試合が催されることになった。
参加はハンターのうち有志。ポジションは先ほどの試合をほぼ引き継ぐ形である。
「うぉっしゃぁぁ! 覚醒サッカー開幕じゃぁぁ!」
キーパーの研司が気合いを入れると、他のポジションの面々も覚醒。コート上にハンターたちの穏便でないオーラが蔓延した。
「一体何がはじまるんだべ……」
「本人達の言うように覚醒サッカーなんじゃないの……」
覚醒サッカーが何かと言われると困るけど、と思いつつ、きょとんとしている村人達に答える皐月だった。
マルコが(だいぶ距離を置いた位置から)笛を吹くと、早速試合は開始。
今度のキックオフは赤チームから。ミネットが前に出したボールを、ユリアンが受け取り――早速、力を行使した。脚にマテリアルを込め、瞬脚。
すばばっ! と速度の増したドリブルで赤の陣地に攻め込んだ。
「うおおっ! 速い!?」
相対した礼が驚いている間に、ユリアンは一気に敵陣半ばを過ぎる。
「このまま、止めさせないっ!」
ぼっ、とヒールでボールを高々と蹴り上げると――立体攻撃を行使。ポストを蹴り上がり、空中で回転しつつシュートを放った。研司が反応する隙もないまま、ばすっ! とボールがネットを揺らす。
おおぉっ、と村人はどよめく。
「くそう! 動きが段違いだぜ!」
研司が悔しがる間にも、どんどん試合は進む。
青からの攻撃で、今度は礼が蹴ったボールをシルヴィアがドリブルで進める。
「やらせませんよー!」
本気で走り込んできたミネットに、そのボールが弾かれるが……それは外へ出て、青チームのスローイン。シルヴィアがスローすることになる。
「サッカーが…………盛ん…………」
言いつつ、ただでは投げない。ボールを投てき武器に見立ててレイターコールドショット。
「えっ!? 身体が……凍っていく……!?」
命中したユリアンが驚愕の表情を浮かべると同時、シルヴィアはボールを拾って、高加速射撃。ロングシュートとして撃ち出されたボールが、チッ! とトミヲの頬をかすめてゴールした。
トミヲは頬の血をそっと撫でると冷や汗を浮かべる。
「ふふ……僕は今、とんでもないものの片鱗を味わっているようだ――」
続いては赤からの攻撃。ユリアンが出したボールを、今度は晴香が拾って、攻めていく。
だが連続で攻めさせぬと、礼が立ちはだかる。
「もらった!」
先手必勝を行使し、礼は晴香の先をついてボールに足を伸ばし、奪い取る。
「ちぃっ! させるかっての!」
だが、晴香もそれに食いさがる。瞬脚を使いひと息で礼に追いつくと、再びボールの奪い合い。何とか赤チームのスローインに持ち込む形でボールを外に出す。
ここで投げるのも晴香。スローイングを行使して強力なスローを放つ。
「そこ! 任せたぞ!」
目線でフェイントをかけていたこともあり、うまく敵がいない空間に投げ込んだ。
それをタイミングよく受け取ったのは、ボルディア。こちらも、超聴覚で状況を聞き取り、直前までまったくボールを受けるそぶりをせずに、フリーで走り込めていた。
「よっしゃ行くぜぇ! おらららっ!」
ぐんぐん攻めるボルディア。シルヴィアをブロウビートで混乱に巻き込んで躱すと――枢が寄ってくる前にゴールに狙いを定めた。
青のキーパー、研司は今度こそと構える。
「どんなシュートでも、かかってきやがれぃ!」
「じゃあお言葉に甘えて、ってな!」
ボルディアはマテリアルを込め、ボールを霊魔撃で一撃。ギュルルル! と回転しながら飛ぶボールが研司を襲う。
ばぢっ! 研司は一旦、うまくキャッチ。だが凄まじい勢いを持つボールはグローブの中でもギュロロロッと暴れた。
「う、おおお! くっ、ガッツが……ガッツが足りない――ぐわぁぁぁーーーっ!」
ばちこーん! とボールに弾かれ、研司はボールと一緒にネットの藻屑と化した。
「研司ーッ! 平気か!?」
枢が驚嘆しながら近寄る。研司は(ぎりぎりで)生きていた。そして力強くもまたキーパーとして立ち上がった。その雄姿に、皆はそっと涙を拭ったという。
「なんと……サッカー選手ってのは、実はみんなあんな技が使えるんだべか?」
言って驚愕する村人に、皐月は無表情で答えた。
「うん、まあ、サッカーってのは、個の力が大事だから……あれくらいはね」
「何と……」
「まぁ嘘だけど……」
「どないだべや」
村人が思わず突っ込むところに、同じく休憩組のヒュムネと紅薔薇も歩いてくる。
「あれはあれで面白いけどなー。でも選手がみんなああだと、本当の意味で超次元サッカーだな」
「見てる分には、退屈せぬがのう」
今回はこの三人が未出場で、ピッチ上にいるのは十二人。
……だということだったが。
「……あれ? 十一人しかいないな。虹花がいないのか?」
ヒュムネが言いつつ見回す……と。
虹花はなぜかコート脇のベンチで応援していた。
「そこや! 今、攻撃できるでー! ああっ!」
そんなふうに大声を上げてコートに注目している。
「……確か試合には出るということではなかったかのう?」
紅薔薇の言うとおりだが、どうやら皆に存在を忘れられているうちに、いつの間にかベンチでの応援に回っていたらしい。湿布や氷もきちんと準備して応援にいそしんでいた。
「うーむ、不思議なおなごじゃのう……」
試合は青チームから再開。今回ドリブルするのはディアドラだ。
「つまりは、全力を出してもいいという試合だったわけだな! それなら簡単だ!」
言ってディアドラは、覚醒して攻め込み、力一杯にシュートをする。
ぼっ! とボールは豪速で飛び、一気に赤の陣地の半分を超える。ゴールに一直線、というコースだったが――そこで兵庫が走り込み、ボールを止めた。
「力を使っても、やることは変わらないさ」
こちらも覚醒した状態でボールを蹴り上げ、クリアした。
それでも、青チームの枢がまた素速くそれを拾った。
「よし! こっからゴール、狙っていくぜ」
枢はどんどんボールを前に出し、再び赤チームの陣地に攻め込んだ。ユリアンとミネットが止めに来るが、飛燕を行使してノーモーションでボールを進め、突破する。
そこは既にゴール射程圏内。
キーパーのトミヲは、研司の苦戦を思い出し、ウインドガストで少しでも自らを身軽にしようとする。
「うつろう風よ! 集いて加護を為せ!」
ごうっ、と風が吹くそこに、ちょうど枢は攻め込んだ。
浮かせたボールを――ランアウトで速度を増した動きから、ボレーシュート。
「喰らえっ!」
「うおおっ、これはさすがの僕も、逃げ――ぶふぉッ!」
トミヲは直前で、回避しようとした。余りに威力が強そうだったから。
だが結局腹に直撃して崩れ落ちる。
鈍い痛みが腹を襲っていたが――それでも、一応ゴールは守った。
が、そこで礼がボールを拾い、再び攻め込んでくる。トミヲはぎょっとしてアースウォールで壁を作った。
「う、うおぉ! 漲れ! 童貞魔力ッ!」
「負けねー、よ!」
ごごご、と生まれた土壁に、礼は突っ込む。トミヲは一瞬ほっとした顔をするが、既にボールは枢にパスされていた。
「もらった!」
「な、何だと……! くそぉおッ、僕がやられても第二第三の童貞魔術師が――ぐわぁあ!」
あっさりと枢はゴールを決めた。トミヲは愕然として、ボスっぽい感じで地面に沈んだ。
結果、運営の予定に合わせて試合は終了。こちらも2-2で引き分けとなった。
覚醒サッカーはエキシビションのようなものとして……通常のサッカーも十分に楽しまれ、ルールの理解も広まった。
こうして今回のサッカーは好評のうちに幕を閉じた。
運営が配ったボールは、観客達が喜んで持ち帰っていったという。
芝生を走り回る音、ボールが弾む音、参加者が互いに呼びかける声が、村に明るく響いている。
ハンターの参加に伴い、観客も集まり……コートの周りには、かなりの人数がやってきていた。
そんな賑やかさの中。ハンター達は早速練習をはじめていた。
「よーし、まずはランニングだ!」
芝の上、率先して準備運動を始めるのは藤堂研司(ka0569)。よければみんなも、と誘いをかけ、ゆったりとしたペースで走り始めていた。
結果としてハンターのうちの多くが参加し、コートの周りを巡っていく。
「いやー、この感じ、懐かしいな!」
鳴沢 礼(ka4771)が、研司と並び、嬉しげに言う。研司は礼を向いた。
「経験者?」
「うん、俺、元サッカー部なんだ。またやれるとは思ってなかったぜ」
「リアルブルー出身者としてはやっぱり、こういうスポーツが出来るのは、いいよな」
それは、故郷の世界に思いを馳せるような口調でもあったろうか。
二人を先頭に、しばしランニングは続いた。
その後、ストレッチを挟んでそれぞれの練習に移った。
サッカーについて既知の者は、それなりに実践的な練習をしているグループへ参加する。
榊 兵庫(ka0010)も、学生時代に経験があるのでこちらだ。
「とはいえ、かなり久しぶり、ということでもあるが」
はじめは、もてあそぶようにボールをころころと蹴り……そのうちに、身体を慣らすようにドリブルをはじめる。
すると、ほどなくして違和感のないドリブルを見せだす兵庫である。
おーいと手を振る研司を見つけると、どっ、と浮かせるパスを放ったりして、やり取りした。
「……案外身体は覚えているものだな」
「いいじゃん! このまま、もうちょっと続けようぜ!」
「ふむ。もう少し練習すれば、皆の脚を引っぱる醜態はさらさずにすみそうだな」
兵庫はそうして、しばし研司と練習を続けた。
その横を、ドリブルでまっすぐに突っ切っていく少女がいた。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)である。すたた、と走り……ぼむっ! ゴールにシュートを放つ。それには、観衆も、おお、と少し声をあげた。
ふしゅー、と息をつくシルヴィアと、目が合って……兵庫はたずねた。
「サッカーには、心得が?」
「……いえ。私は、それほどでも。ただ、サッカーは、故郷のドイツでそれなりに盛んでしたので……」
そこでシルヴィアは、ハッ……と無表情の中に何か重大なものを浮かべた。
「サッカーが盛ん……」
「……?」
兵庫が疑問符を浮かべる横で、練習に戻りながら……シルヴィアは呟いていた。
「サッカーが……盛ん……」
練習の輪の中で、ボールを抱えてじっと見ている少女がいる。京島 虹花(ka1486)だ。
「野球だと思ったらサッカーやった」
そんなことを独りごちつつも……「まぁええか」とボールを転がす。ぽん、と蹴り上げると、そのまま、ぽん、ぽん、と、リフティングを始めた。
ずっと継続していると、何となく他の参加者達も数人、集まってくる。
「リフティング、一緒にやる? 楽しいで」
虹花が笑いかけると、参加者は見合った。すると誰からともなく、リフティングをしだす。
少しの間、そこに楽しげなリフティングの輪が生まれるのだった。
クリムゾンウェスト出身のハンターは、サッカーと言われてもぴんと来ない。
そんなわけで……少し離れたここでは、経験者達が未経験者にサッカーの説明することになっていた。せっかくなのでマルコも同席している。
「さっかー……って、球蹴りして走り回るんだろ?」
ユリアン(ka1664)が回しながら言う。ボールを触る仕草も慣れぬ様子だった。
「ま、大体間違っちゃいねえよ。それをどれだけうまくやれるか、ってのが難しくて、面白いところでもあるんだが」
答えるのは、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)。ヒュムネは女子サッカー経験者であり、教える側の一人である。先ほどから慣れた脚さばきでボールをもてあそんでいた。
「蹴鞠とはまた違う競技なのかのう?」
紅薔薇(ka4766)が、蹴り上げるような仕草をしながら言った。
それには、マルコも手伝って、基本的なルールから解説していく。概要だけでも理解すると……ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はなるほど、と腕を組んだ。
「要は、後方にいる敵の首を獲る戦いだな。それを何度もやり合うと」
「まあ、そうだな」
「大王たるボクにふさわしい競技だな!」
ヒュムネの答えに、ディアドラはうんうんと頷く。
ルールを一通り説明し終えると、実際に身体を動かす練習に入った。
「腕……もとい、足が唸るぜ!」
ヒュムネはここでも指導に回る。久しぶりとあって、やる気も漲っていた。紅薔薇に、基本的なドリブルなどを指導していく。
「次はシュートな。とりあえず蹴ってみろよ」
「わかった。こうかのう……えいっ!」
ずっ、と紅薔薇の蹴りをかすめたボールが、ギュルルロロ! とその場で高速回転した。
「むう。シュートは要練習のようじゃのう……」
「いやこれはこれである意味すごい気もするけどな……」
苦笑しつつも言うヒュムネだった。
ユリアンとディアドラには、礼が指導していた。ボールを次々に、ゴールへと蹴り込んでいく。
「要はゴールに蹴り込めばオッケー! だから、まずはひたすらシュートしてみようぜ!」
笑顔で言う礼は、細かい説明をするわけでなく、ただ楽しそうに身体を動かす。
それを見ると、ディアドラもよし、と頷いて転がっているボールをシュート。さくっ、とゴールネットを揺らした。むん、と胸を張るディアドラ。
「なるほど! 簡単じゃないか! それに、中々興味深い競技だ!」
そうしてディアドラはさらに練習を続けた。
ユリアンも、礼とパスのやり取りをしたり、ドリブルを教わったりして、一通りは感覚を掴んだ。ひと息つくと、離れた輪で、虹花がぽんぽんとリフティングをしている方を見つめた。
「あの曲芸みたいなアレ、やってみたいな」
「リフティングか。やってみるか?」
ヒュムネが言ってボールを蹴り上げる。見本を見せるように足の甲で数回真上に蹴り上げたあと……膝や、頭の後ろにもボールを持っていく。
「ほーらよっと!」
「うわ、凄い」
ユリアンは感心したように見つめ……自身でも、練習しはじめる。
「力の加減とか……どんな感じ?」
ヒュムネに教わり、見よう見まねでぽん、ぽん、とボールを上げる。そうやってしばし、ユリアンはリフティングの練習と実践を楽しんだ。
同じ輪の中でボルディア・コンフラムス(ka0796)と、ミネット・ベアール(ka3282)もまた、サッカーを学んでいた。
「サッカーってボールを敵にぶつけて倒すゲームじゃなかったのか……」
腕を組んで難しそうな顔をするボルディア。ひとまずは、手を使わないこと、相手を蹴らないこと、ボールはゴールに入れることは理解していた。武器だと思っていたボールをまじまじと見ている。
「まあ、とにかくルールはそんなもんで平気だろ」
言って歩くのは央崎 枢(ka5153)。サッカー部出身の彼が、ここでの二人の指導に当たっていた。
そのまま二人を導き、ボールを目の前に置く。
「とにかく実際に練習してみようぜ。そうすればより理解もできるだろ」
「よーし! さっかー、頑張ります!」
ミネットはぐっと拳を握って、足元のボールを見つめた。それから教わったとおり、ゴールめがけて……ほわちゃぁあっ、とボールを思いっきり蹴り飛ばした。
ぼっ!
破裂音のような響きと共に、場外ホームラン。彼方へ飛ばされたボールがお空へ消えた。
「あれ!? ボールが消えた!?」
「いや、お前が消したんだろ……?」
枢は苦笑しつつも、遠くの木に引っかかっていたボールを回収。ミネットへ手取り足取り、ボールコントロールを教えていった。
「よし、とりあえずはこんなもんで」
「なるほど、力の調節が必要だったんですね」
ミネットは、そのうちにドリブルなどもこなせるようになってゆく。
ボルディアも、はじめは殺人的なシュートを繰り返していたが……指導で段々と、ボールの扱いがサッカーらしくなってきた。
「何となく、感覚はわかってきたぜ。うまくできるかはわからねえけど――」
ボルディアはボールを手にとって、笑う。
「とりあえず楽しそうなもんだってのは、わかった」
「それがわかれば、とりあえずは、充分だな」
枢も明るい表情を浮かべた。
●試合
ハンター同士の試合がはじまる時間になると……より大勢の見物客が集まってきていた。がやがやとコートを取り囲み、文字通りのお祭り騒ぎの様相を呈している。
「ふーんふふーん♪」
そんな中、水流崎トミヲ(ka4852)がユニフォーム姿でコートへと乗り込んでいた。キュッ――とグローブをはめ、口の端に笑みを浮かべる。
「質量兵器と呼ばれたGKぶりを見せてやろうじゃないか――って、なんで女の子多いのヤダー!」
よく見れば、トミヲのチームも相手のチームも、ハンターには女子が多い。
「何でこんなことに……くっ……鎮まれ、僕の冷や汗……ッ」
なぜか右腕を押さえるトミヲだったが――
「いやー、まさかこんなに人が集まるとはなー」
そこに、西空 晴香(ka4087)も試合のために歩いてきていた。コートを眺める。
「サッカーやるのは高校以来……になるのか。高校時代……のことは置いといて、ま、とにかく楽しむか」
独りごちるように言ったあと、トミヲを見る。
「一応同じチームだっけ? まあ、とりあえずよろしくな」
「……え、あ。ソ、ソデスネ……」
トミヲはびくりとして挙動不審気味に答えた。晴香がコート内へ歩いていってようやく息をついた。
「ふぅ、トラップがいっぱいだぜ……。だが僕は、この試練も乗り越えてみせるさ!」
「それではこれから試合をはじめまーす!」
マルコが言って、両チーム、ポジションへついていく。なお、チームとポジションは以下。
・赤チーム
フォワード:(左)補充選手、(右)補充選手
ミッドフィルダー:ヒュムネ
ウイングバック:(左)ユリアン、(右)ミネット
ボランチ:(左)兵庫、(右)補充選手
ディフェンダー:(左)晴香、(中)補充選手、(右)ボルディア
キーパー:トミヲ
・青チーム
フォワード:(左)ディアドラ、(右)礼
ミッドフィルダー:(左)補充選手、(右)虹花
ウイングバック:(左)シルヴィア、(右)補充選手
ボランチ:枢
ディフェンダー:(左)補充選手、(中)紅薔薇、(右)補充選手
キーパー:研司
補充選手、というのは人数を合わせるために参加したマルコの仲間である。
オーダー表を見て、村人の一人が質問する。
「ふぉわーど、とか、みっどふぃるだーってのはなんだべ」
「簡単に言えば、どれだけ前衛かってことだよ」
村人へ、かいつまんで説明するのは、皐月=A=カヤマ(ka3534)だ。サッカーがやっている、ということで、見物がてらに参加していた。
「もちろんそれだけじゃねーけど。でも、上に書いてあるやつほど攻めで、キーパーがゴールを守る、くらいに考えておけば、見るには困らないんじゃないの」
村人達は、なるほど、と感心したように頷いていた。そうして次々に飛んでくる質問を、無表情に答えていく皐月だった。
そして、ピーッ! とマルコが吹く笛の合図と共に、試合が開始される。
キックオフは青チームからだ。
「じゃー、ディアドラから頼むぜ!」
「いいだろう! 大王たるもの、最前で率先して行動してこそだからな……では行くぞ、皆の者!」
ディアドアラは、同じフォワードの礼に答えると……斜め前方にボールを蹴る。
それで、ゲームはスタート。同時に礼がそのボールを確保して、青からの攻撃だ。
「まずはどんどん攻めようぜ!」
礼は、そこからドリブル。まずは赤チームのフォワード、補充選手の二人を左利きの華麗なフェイントでひょいひょいと抜き去った。
すぐに、ヒュムネがボールを奪いに来るが……礼はここで前にパスを出した。
受けたのは、シルヴィア。青のウイングバックとして開始と同時に前へ上がっていた。
「サッカーが……盛ん……」
何事か呟きながら、シルヴィアはすたたた、とぐんぐん攻める。ボランチの補充選手を抜くと、ぽん、とパス。ゴール前に迫っていたディアドラが、おお、と明るい顔でボールを受け取る。
それを見ながら、赤のキーパー、トミヲはまだゆったりと構えていた。
「まあ、まずは練習だったり、感覚を掴んでもらうところがメインだよね」
ディアドラは、どーん! と真ん前に力一杯蹴り込んだ。風を切り裂いて、一瞬でボールはゴールした。
「……ね?」
トミヲは少々信じられないように、ぎゅるぎゅるとネットで回るボールを見つめる。
うおおお! と観客が盛り上がったところで、トミヲは眼鏡を直した。
「そうか……曲がりなりにも覚醒者同士のサッカー。これは――舐めプしてられる状況じゃないな!」
赤チームの攻撃から、プレーは再開。
フォワードには両翼に行かせ、パスの起点になるのはヒュムネだ。
「じゃ、頼むぜ」
「りょーかいです! お任せください!」
受けるのは、ミネット。ヒュムネの蹴ったボールをドリブルに繋げて、元気いっぱいに攻め込んでゆく。だが、もちろんのこと、青チームのフォワードや、ミッドフィルダーの虹花もボールを取りに来る。
「わああ、囲まれる!」
「恨まんといてー、これも勝負やから」
そんなことを言いながら的確に足を出してくる虹花に、ミネットは慌てて逃げる。だがそうしているうちに味方のユリアンが逆サイドで上がっていた。
「これは……今です! きええぇぇぇええい!」
どっ! ミネットは隙を突いて強烈な蹴り。女性離れした超速パスが、ユリアンの元へ飛んだ。
ぼっ、と鈍い音を響かせつつも、ユリアンは何とかトラップ。
「おっ、と。さて……ここから、いけるかな」
次いで、素速く場を見回している。そのときにはヒュムネが前方のいい位置を確保していた。
「ヒュムネさん、頼むよ」
ユリアンのパスを的確に受けるヒュムネ。
青のキーパーの研司は、ヒュムネのシュートコースを狭めるために接近。
「このまま止めさせてもらうよっ!」
シュートと同時にパンチングで弾くのを狙い、研司は跳躍する。
だが、ヒュムネの、女性特有のしなやかな動きからのシュートは……意外に速度も速い。研司の手をかすめたが、そのままゴールネットを揺らし……同点へと持ち込んだ。
こちらもまた大きな歓声が上がる。
「なるほど。これは速さの求められる競技じゃのう」
紅薔薇は感心したようにゴールの方を見ていた。研司は明るく返す。
「一瞬の油断で形勢が変わるからね。俺も、次は止めたいな」
「よし。次からはもっと声出ししていくか」
枢も、見回して言う。
「今の点の取り合いで、試合の流れもわかってもらえたと思うし……ここからは、勝ちを狙おうぜ」
それに、研司をはじめ皆が呼応した。
1対1で青からの攻撃。
ディアドラから礼へとボールが流れ、赤の陣地へ進む。
礼はディアドラとさらにパスを回しつつ、敵のフォワードを躱していくが――
赤チームは、ヒュムネをはじめとしてユリアンとミネットも、先ほどより積極的に圧をかけてくる。
礼達もパスで進めようとするが、ヒュムネがうまく間に入り、ボールを奪取した。
「よっしゃ、攻めるぞ!」
そのまま一気に走り込んでいくヒュムネ達。
が、青の守備陣もただでは通さない。ミッドフィルダーの虹花、ウイングバックのシルヴィアが左右からやってくると共に……ボランチの枢が鉄壁の守備を見せた。
「二人はそのまま左右で、パスを通させないようにしてくれ!」
指示を出しながら、枢自身はヒュムネの操るボールに意識を集中。勢いこんで走り込み、ボールを弾いた。
ミネットが何とかそれを奪い戻しに向かうが……紅薔薇が一足早く、転がり込んだボールを回収していた。
「ふむ、やっと触れたのう」
奪取してくるミネットを何とか躱し、前へ狙いを定める。
「妾は素人じゃが、ボールを回すくらいのことはさせてもらうぞ。ほれ、あとは頼んだのじゃ!」
練習したパスを綺麗に決めて、半ば近くまで上がっている枢へボールを渡した。
「連続で点を取られるわけにはいかないからな。今度はこっちが決めさせてもらう!」
枢は速攻し、一気に赤の陣までドリブルで入って行く。敵が遮りに来ると、すぐ前へいる虹花へ短いパスを出した。
「よっしゃ、攻めるでー」
虹花もその意を汲んで、スピーディな攻めを試みる。その勢いで、赤のボランチを一人、抜き去った。
だが赤チームはダブルボランチ。すぐ近くに、もう一人のボランチ、兵庫が控えていた。
体格の良さで、既にそれなりに壁としての威圧感がある。それに加え、その身体能力ですぐに虹花に迫り、ボールを奪った。
「わっ? あっちゅうまに取られてもうた。敵わんわー」
「悪いな。相手の攻撃をつぶすのが、ここでの俺の役割だからな。俺は、それにいそしむだけだ」
兵庫は冷静に周囲に目を配り――礼やディアドラが迫っているのを見ると、一旦クリア。前方にいつつ敵の少ない位置にいるフォワードにパスを出した。
パスを受けたフォワードは、青チームのゴール前まで、一端は迫った。だがその辺りでハンターに囲まれると、さすがにボールを奪取される。
それが枢からディアドラへと繋がると、再び青チームが攻め込む形になった。
今度は、ディアドラからパスを受けた礼が、そのスピードで一気にゴール前へ。補充選手を軽々と抜くとシュートを放った。
「それっ!」
どうっ! と高速のシュートがゴールめがけて飛んでいく。
だがそこで、トミヲが予想外に身軽な動きを見せて、ばしっ! とボールをキャッチ。攻撃を封じた。
これには、おおぉっ! と観客も驚いた。
「運動が出来るようには見えんのに、トミヲ殿も無駄に華麗な動きじゃのう……」
紅薔薇がまじまじと遠くのゴールを眺めつつ言う。
「俺も、あんくらいはやんなくちゃなー。割と実力は拮抗してる感じだし、ここからは一点が大事だな」
研司も言って気合いを入れ、赤チームの攻撃に備えた。
ちょうど、赤チームはトミヲのパスからミネットにボールが渡り、攻撃をしかけるところだ。
ミネットはそのままヒュムネへ中継。ヒュムネは、青の陣地へ攻め上がっていく形となった。
そこへ虹花やシルヴィアが寄ってくるが――今度は赤チームも全体にオフェンシブな動きをする。
ディフェンダーの晴香も、少しばかり上がっている。ヒュムネから再度のミネットへのパスを、青チームのシルヴィアがカットするが――晴香はそこへすぐにプレッシャーをかけ、攻めあぐねさせた。
「今度は、こっちがゴールまで行かせてもらうぜ」
晴香はニッと笑って、ボールを奪取に向かう。シルヴィアは逆向きに逃げるが、そこにボルディアが迫っていた。それが狙いだ。
「うっしゃー!」
ボルディアは足を伸ばし、ボールを奪う。そしてそのまま、攻めへ転じた。
「おお! ボール取れた! よくわからねえけど、これを前に出せばいいんだろ!」
すると足を引いてから、ぼっ! と強烈なキック。
かなり力強い豪速のパスがコートを駆ける。ユリアンが受けると、スルーパス気味に斜めへ動いたボールに、またも晴香が追いついて、敵陣へ駆け上がった。
ヒュムネも機敏に対応して、かなり前方へ上がっていた。
と、晴香は、そこでそのままヒュムネへ直接パスを出す。ヒュムネはそれを受ける。
すると、マルコがおっと気がついて、笛を鳴らした。
何だ何だ? とどよめく村人達。視線は、村人に交じって試合を見ている皐月へ向いた。
皐月は、あー、と少し頭をかいてから言った。
「あれはオフサイドだよ」
「おふさいど?」
きょとんとする村人に、皐月は地面に絵を描いて説明した。
「相手の陣内に攻撃してるときの反則だよ。相手のうち、ゴールラインから二番目に近い選手……今回は紅薔薇だな。それより前に出てると、オフサイドポジションにいるってことになるんだけど」
『紅薔薇』と書いて、それに長い縦線を重ねる。そこに、青チームのゴール側に向かって矢印を横切らせた。
「で、オフサイドポジションで味方からパスを受けたり、プレーに干渉したりしたらオフサイドになるってわけ」
例を出して数度説明すると、村人も段々理解してくる。
「まあ、今のは反則ってよりも、デモンストレーションというか説明代わりみたいなもんだろうけど」
実際、晴香たちにもそういう意図はあってのことだ。なので、青チームからのフリーキックも、とりあえず試合を先ほどに戻すような形で、ゆるやかに赤チームにボールが蹴られた。
今度は、晴香はボルディアにパス。ボルディアはユリアンへと、次々に経由されていった。
そしてヒュムネからシュート――と見せかけて、ヒュムネはすぐ近くのフォワードへパス。補充選手からのシュートが飛んだ。補充選手とは言え、サッカー経験者、そのキックは鋭い。
かなりの速度で飛ぶボールに……しかし研司も素早く反応を見せていた。
「うおお! このときを待ってたぜ!」
どん、と斜め跳びして、華麗にキャッチングを決める。くるりと回転して着地を決めると、観客からも拍手が起こったのだった。
「これでおあいこだな!」
そしてまた、青チームから攻めはじめる。
試合時間は、このあとにも第二試合があると言うことで、短めに取られていた。
研司の言うとおり実力が拮抗していたこともあって、この後、数度の攻撃し合いをして、結果は1-1の引き分けと相成った。バランスよくハンターが配置されていたこともあり、攻撃を通りにくくすることが上手くいった結果でもあった。
そして試合は第二試合へ。
●覚醒サッカー
一旦休憩を挟んで、スキル使用を問わない形式の試合が催されることになった。
参加はハンターのうち有志。ポジションは先ほどの試合をほぼ引き継ぐ形である。
「うぉっしゃぁぁ! 覚醒サッカー開幕じゃぁぁ!」
キーパーの研司が気合いを入れると、他のポジションの面々も覚醒。コート上にハンターたちの穏便でないオーラが蔓延した。
「一体何がはじまるんだべ……」
「本人達の言うように覚醒サッカーなんじゃないの……」
覚醒サッカーが何かと言われると困るけど、と思いつつ、きょとんとしている村人達に答える皐月だった。
マルコが(だいぶ距離を置いた位置から)笛を吹くと、早速試合は開始。
今度のキックオフは赤チームから。ミネットが前に出したボールを、ユリアンが受け取り――早速、力を行使した。脚にマテリアルを込め、瞬脚。
すばばっ! と速度の増したドリブルで赤の陣地に攻め込んだ。
「うおおっ! 速い!?」
相対した礼が驚いている間に、ユリアンは一気に敵陣半ばを過ぎる。
「このまま、止めさせないっ!」
ぼっ、とヒールでボールを高々と蹴り上げると――立体攻撃を行使。ポストを蹴り上がり、空中で回転しつつシュートを放った。研司が反応する隙もないまま、ばすっ! とボールがネットを揺らす。
おおぉっ、と村人はどよめく。
「くそう! 動きが段違いだぜ!」
研司が悔しがる間にも、どんどん試合は進む。
青からの攻撃で、今度は礼が蹴ったボールをシルヴィアがドリブルで進める。
「やらせませんよー!」
本気で走り込んできたミネットに、そのボールが弾かれるが……それは外へ出て、青チームのスローイン。シルヴィアがスローすることになる。
「サッカーが…………盛ん…………」
言いつつ、ただでは投げない。ボールを投てき武器に見立ててレイターコールドショット。
「えっ!? 身体が……凍っていく……!?」
命中したユリアンが驚愕の表情を浮かべると同時、シルヴィアはボールを拾って、高加速射撃。ロングシュートとして撃ち出されたボールが、チッ! とトミヲの頬をかすめてゴールした。
トミヲは頬の血をそっと撫でると冷や汗を浮かべる。
「ふふ……僕は今、とんでもないものの片鱗を味わっているようだ――」
続いては赤からの攻撃。ユリアンが出したボールを、今度は晴香が拾って、攻めていく。
だが連続で攻めさせぬと、礼が立ちはだかる。
「もらった!」
先手必勝を行使し、礼は晴香の先をついてボールに足を伸ばし、奪い取る。
「ちぃっ! させるかっての!」
だが、晴香もそれに食いさがる。瞬脚を使いひと息で礼に追いつくと、再びボールの奪い合い。何とか赤チームのスローインに持ち込む形でボールを外に出す。
ここで投げるのも晴香。スローイングを行使して強力なスローを放つ。
「そこ! 任せたぞ!」
目線でフェイントをかけていたこともあり、うまく敵がいない空間に投げ込んだ。
それをタイミングよく受け取ったのは、ボルディア。こちらも、超聴覚で状況を聞き取り、直前までまったくボールを受けるそぶりをせずに、フリーで走り込めていた。
「よっしゃ行くぜぇ! おらららっ!」
ぐんぐん攻めるボルディア。シルヴィアをブロウビートで混乱に巻き込んで躱すと――枢が寄ってくる前にゴールに狙いを定めた。
青のキーパー、研司は今度こそと構える。
「どんなシュートでも、かかってきやがれぃ!」
「じゃあお言葉に甘えて、ってな!」
ボルディアはマテリアルを込め、ボールを霊魔撃で一撃。ギュルルル! と回転しながら飛ぶボールが研司を襲う。
ばぢっ! 研司は一旦、うまくキャッチ。だが凄まじい勢いを持つボールはグローブの中でもギュロロロッと暴れた。
「う、おおお! くっ、ガッツが……ガッツが足りない――ぐわぁぁぁーーーっ!」
ばちこーん! とボールに弾かれ、研司はボールと一緒にネットの藻屑と化した。
「研司ーッ! 平気か!?」
枢が驚嘆しながら近寄る。研司は(ぎりぎりで)生きていた。そして力強くもまたキーパーとして立ち上がった。その雄姿に、皆はそっと涙を拭ったという。
「なんと……サッカー選手ってのは、実はみんなあんな技が使えるんだべか?」
言って驚愕する村人に、皐月は無表情で答えた。
「うん、まあ、サッカーってのは、個の力が大事だから……あれくらいはね」
「何と……」
「まぁ嘘だけど……」
「どないだべや」
村人が思わず突っ込むところに、同じく休憩組のヒュムネと紅薔薇も歩いてくる。
「あれはあれで面白いけどなー。でも選手がみんなああだと、本当の意味で超次元サッカーだな」
「見てる分には、退屈せぬがのう」
今回はこの三人が未出場で、ピッチ上にいるのは十二人。
……だということだったが。
「……あれ? 十一人しかいないな。虹花がいないのか?」
ヒュムネが言いつつ見回す……と。
虹花はなぜかコート脇のベンチで応援していた。
「そこや! 今、攻撃できるでー! ああっ!」
そんなふうに大声を上げてコートに注目している。
「……確か試合には出るということではなかったかのう?」
紅薔薇の言うとおりだが、どうやら皆に存在を忘れられているうちに、いつの間にかベンチでの応援に回っていたらしい。湿布や氷もきちんと準備して応援にいそしんでいた。
「うーむ、不思議なおなごじゃのう……」
試合は青チームから再開。今回ドリブルするのはディアドラだ。
「つまりは、全力を出してもいいという試合だったわけだな! それなら簡単だ!」
言ってディアドラは、覚醒して攻め込み、力一杯にシュートをする。
ぼっ! とボールは豪速で飛び、一気に赤の陣地の半分を超える。ゴールに一直線、というコースだったが――そこで兵庫が走り込み、ボールを止めた。
「力を使っても、やることは変わらないさ」
こちらも覚醒した状態でボールを蹴り上げ、クリアした。
それでも、青チームの枢がまた素速くそれを拾った。
「よし! こっからゴール、狙っていくぜ」
枢はどんどんボールを前に出し、再び赤チームの陣地に攻め込んだ。ユリアンとミネットが止めに来るが、飛燕を行使してノーモーションでボールを進め、突破する。
そこは既にゴール射程圏内。
キーパーのトミヲは、研司の苦戦を思い出し、ウインドガストで少しでも自らを身軽にしようとする。
「うつろう風よ! 集いて加護を為せ!」
ごうっ、と風が吹くそこに、ちょうど枢は攻め込んだ。
浮かせたボールを――ランアウトで速度を増した動きから、ボレーシュート。
「喰らえっ!」
「うおおっ、これはさすがの僕も、逃げ――ぶふぉッ!」
トミヲは直前で、回避しようとした。余りに威力が強そうだったから。
だが結局腹に直撃して崩れ落ちる。
鈍い痛みが腹を襲っていたが――それでも、一応ゴールは守った。
が、そこで礼がボールを拾い、再び攻め込んでくる。トミヲはぎょっとしてアースウォールで壁を作った。
「う、うおぉ! 漲れ! 童貞魔力ッ!」
「負けねー、よ!」
ごごご、と生まれた土壁に、礼は突っ込む。トミヲは一瞬ほっとした顔をするが、既にボールは枢にパスされていた。
「もらった!」
「な、何だと……! くそぉおッ、僕がやられても第二第三の童貞魔術師が――ぐわぁあ!」
あっさりと枢はゴールを決めた。トミヲは愕然として、ボスっぽい感じで地面に沈んだ。
結果、運営の予定に合わせて試合は終了。こちらも2-2で引き分けとなった。
覚醒サッカーはエキシビションのようなものとして……通常のサッカーも十分に楽しまれ、ルールの理解も広まった。
こうして今回のサッカーは好評のうちに幕を閉じた。
運営が配ったボールは、観客達が喜んで持ち帰っていったという。
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ジェオルジ・イレブン GO! 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/24 00:53:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/24 00:41:40 |