ゲスト
(ka0000)
ユグディライダー
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/30 22:00
- 完成日
- 2015/07/06 21:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ヘザー・オン・ザ・モーターサイクル
「このスピード! 猛るエギゾースト!
今の私に恐れるものは何もないッ!」
イルダーナからガンナ・エントラータへ、
エンジン音を響かせ風となったヘザー・スクロヴェーニが駆ける。
街道を往復すること、これまでに五回。
用などない。
今の彼女にとって走ることこそが全て。
ヘザーはなけなしの財産をはたいて購入した魔導バイクにご執心だった。
二つの都市を繋ぐ街道から、少し離れたところにある高原がヘザーのお気に入りの場所だった。
ヘルメットを取ると、心地よい風が吹き抜け、ヘザーの金色の髪が広がる。
その日は梅雨の晴れ間。鬱陶しい雨が続いた後の、五月のように爽やかな日だった。
ヘザーは柔らかな草の上に寝転がり、いつしか静かな寝息を立て始めた。
突如。
草原が、がさがさと揺れた。
何かが草叢の中で動いている。寝ているヘザーの横を素通りして、近くに止めてあるバイクの所へ。
そこでひょっこり顔を出した。
それは俗にハチワレ、キジトラ、クロと呼ばれた三種の毛色だった。
……紛れもなく猫の顔だったが、
果たしてかれらはそうではなかった。
草原の中から立ち上がる三つのシルエット。
人としては小柄だが、しかし、それは人のように立って歩いていた。
かれらは、ユグディラと呼ばれていた。
三匹がバイクに群がる。
タイヤの匂いをかいだりシートに座ったりハンドルを動かしたりしてみる。
ヘザーはそんなことに気が着く由も無く眠ったままだ。
ユグディラたちはバイクを見るのは初めてではなかった。ヘザーが乗っているのを、何度も目にしていた。
好奇心旺盛な若いユグディラたちはそれが何なのかわからなかったが、とにかくそのスピード、叫ぶエンジン音の存在感、走りぬけるスリルとサスペンス……それらはユグディラたちの心を掴んで離さず猫まっしぐらだった。
ユグディラたちは匂いをかいだり額を擦り付けたりねこぱんちをかましたりした挙句、バイクがそれらに応えるように、エンジン音を発した。
猫のような動きで一瞬のうちに離れる猫達。いやユグディラ達。
エンジンのかかったバイクに恐る恐る近づいた。
とりあえず、ねこぱんちをかますハチワレ。
何をしとんねんと言わんばかりにそれを抑えるクロ。
ともかくかれらはヘザーが乗っていたのを見ていたので、それを真似て動かそうとしてみた。
キジトラがシートに跳び乗った。……そこで愕然とした。
虚空を泳ぐ四つの肉球。
ハンドルにもフットペダルにも全然届かない。
仕方なく降りるキジトラ。
三匹は頭をつき合わせて相談する。
にゃーにゃー言い合って結論が出たのか、三匹は顔を見合わせ、頷いた。
交差する視線。野獣の瞳だ。
心をアツくさせるメロディが流れるような空気を、三匹が共有する。
そして――
三匹が、空を翔けた!
空中でドッキングする、三つのシルエット。
三は一となり、バイクの上に降臨する!
キジトラがハンドルを握り、
右にぶら下がったハチワレが右のフットペダルを、
左にぶら下がったクロが左のフットペダルを操作する。
猫特有のフレキシブルな体を組み合わせることにより、リーチを補填。
……是、即ち!
三身合体! ユグディライダァァァァァァァァァァ!!!
(注:地の文です)
「何だ?! 今アツいミュージックが流れなかったか?!」
ヘザーが起きた。
眼前では、猫がバイクに乗っている。
再確認。
猫がバイクに乗っている。
「なんだ……猫か………………。
ってえええええええええええええええええええええええええええええええええ?!」
驚いたユグディラがスロットルを廻す。
バイクは逃げるように走り去って行った……!
「行かないでええええええええええええええええええええええええええええええ?!」
●テンプレ
「あ……ありのままに、今起こった事を話すぞッ!
『私はバイクでツーリングしていたと思ったら
猫が盗んだバイクで走り出していた』
な……何を言っているか 解らないとは思うが……」
「解ったもういい」
ヘザーはあまりの事に寝ていた事を忘れてしまっていた。
「つまりバイクを盗まれたのだな。粗忽者が」
ちょっと尊大なハンターオフィスの職員が呆れた顔で言った。
「それと猫じゃなくてそれはユグディラであろう」
「はっ……そうかっ!」
「猫がバイクに乗れるか、たわけ」
「とにかく、世界の危機だ!
ありったけの戦力を集めてくれ。
騎士団と聖堂だけでなく、帝国と同盟にも声をかけてくれ。辺境部族の召集も忘れずにな!」
「はいはいわかったわかった」
尊大な職員は『とりあえず暇そうな奴らに声をかけておくか……』とだけ、思った。
「このスピード! 猛るエギゾースト!
今の私に恐れるものは何もないッ!」
イルダーナからガンナ・エントラータへ、
エンジン音を響かせ風となったヘザー・スクロヴェーニが駆ける。
街道を往復すること、これまでに五回。
用などない。
今の彼女にとって走ることこそが全て。
ヘザーはなけなしの財産をはたいて購入した魔導バイクにご執心だった。
二つの都市を繋ぐ街道から、少し離れたところにある高原がヘザーのお気に入りの場所だった。
ヘルメットを取ると、心地よい風が吹き抜け、ヘザーの金色の髪が広がる。
その日は梅雨の晴れ間。鬱陶しい雨が続いた後の、五月のように爽やかな日だった。
ヘザーは柔らかな草の上に寝転がり、いつしか静かな寝息を立て始めた。
突如。
草原が、がさがさと揺れた。
何かが草叢の中で動いている。寝ているヘザーの横を素通りして、近くに止めてあるバイクの所へ。
そこでひょっこり顔を出した。
それは俗にハチワレ、キジトラ、クロと呼ばれた三種の毛色だった。
……紛れもなく猫の顔だったが、
果たしてかれらはそうではなかった。
草原の中から立ち上がる三つのシルエット。
人としては小柄だが、しかし、それは人のように立って歩いていた。
かれらは、ユグディラと呼ばれていた。
三匹がバイクに群がる。
タイヤの匂いをかいだりシートに座ったりハンドルを動かしたりしてみる。
ヘザーはそんなことに気が着く由も無く眠ったままだ。
ユグディラたちはバイクを見るのは初めてではなかった。ヘザーが乗っているのを、何度も目にしていた。
好奇心旺盛な若いユグディラたちはそれが何なのかわからなかったが、とにかくそのスピード、叫ぶエンジン音の存在感、走りぬけるスリルとサスペンス……それらはユグディラたちの心を掴んで離さず猫まっしぐらだった。
ユグディラたちは匂いをかいだり額を擦り付けたりねこぱんちをかましたりした挙句、バイクがそれらに応えるように、エンジン音を発した。
猫のような動きで一瞬のうちに離れる猫達。いやユグディラ達。
エンジンのかかったバイクに恐る恐る近づいた。
とりあえず、ねこぱんちをかますハチワレ。
何をしとんねんと言わんばかりにそれを抑えるクロ。
ともかくかれらはヘザーが乗っていたのを見ていたので、それを真似て動かそうとしてみた。
キジトラがシートに跳び乗った。……そこで愕然とした。
虚空を泳ぐ四つの肉球。
ハンドルにもフットペダルにも全然届かない。
仕方なく降りるキジトラ。
三匹は頭をつき合わせて相談する。
にゃーにゃー言い合って結論が出たのか、三匹は顔を見合わせ、頷いた。
交差する視線。野獣の瞳だ。
心をアツくさせるメロディが流れるような空気を、三匹が共有する。
そして――
三匹が、空を翔けた!
空中でドッキングする、三つのシルエット。
三は一となり、バイクの上に降臨する!
キジトラがハンドルを握り、
右にぶら下がったハチワレが右のフットペダルを、
左にぶら下がったクロが左のフットペダルを操作する。
猫特有のフレキシブルな体を組み合わせることにより、リーチを補填。
……是、即ち!
三身合体! ユグディライダァァァァァァァァァァ!!!
(注:地の文です)
「何だ?! 今アツいミュージックが流れなかったか?!」
ヘザーが起きた。
眼前では、猫がバイクに乗っている。
再確認。
猫がバイクに乗っている。
「なんだ……猫か………………。
ってえええええええええええええええええええええええええええええええええ?!」
驚いたユグディラがスロットルを廻す。
バイクは逃げるように走り去って行った……!
「行かないでええええええええええええええええええええええええええええええ?!」
●テンプレ
「あ……ありのままに、今起こった事を話すぞッ!
『私はバイクでツーリングしていたと思ったら
猫が盗んだバイクで走り出していた』
な……何を言っているか 解らないとは思うが……」
「解ったもういい」
ヘザーはあまりの事に寝ていた事を忘れてしまっていた。
「つまりバイクを盗まれたのだな。粗忽者が」
ちょっと尊大なハンターオフィスの職員が呆れた顔で言った。
「それと猫じゃなくてそれはユグディラであろう」
「はっ……そうかっ!」
「猫がバイクに乗れるか、たわけ」
「とにかく、世界の危機だ!
ありったけの戦力を集めてくれ。
騎士団と聖堂だけでなく、帝国と同盟にも声をかけてくれ。辺境部族の召集も忘れずにな!」
「はいはいわかったわかった」
尊大な職員は『とりあえず暇そうな奴らに声をかけておくか……』とだけ、思った。
リプレイ本文
●昼下がり、ある大衆食堂にて
ドコオオオオン!
「ギャーーー?!」
突然王都イルダーナ第六街区のとある食堂の壁を突き破って、バイクが突入してきた!
乗っているのは三匹の猫。いや、ユグディラ。
「猫がバイク?!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が驚いて声を上げ、食事していた人々も逃げ惑う。
ユグディラ on the バイクは食堂を縦横無尽に走り、ボルディアの串焼きをかっばらって逃走した。
「待てーーい!」
バイクが開けた穴から今度はヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が出てきた。
走って追いかけていたヘザーだが、バイクに徒歩では無理がある。
バイクはヘザーを残して走り去っていく。
「あんたアレの飼い主かい?」
食堂の店主が鋭い目つきでヘザーを睨む。
「修理代」
ドスを効かせる店主。
ヘザーは答えた。
「私はハンターだバカモノー!」
「何をやってるんだ……ヘザー……」
店の外で、出てきたヘザーがぜぇぜぇ言ってるのを見たティーア・ズィルバーン(ka0122)は、その視線の先からユグディラの居場所を予測し、バイクを走らせる。
(疾走するバイク……追えとの声……走るには十分な理由だよね)
「行くよ、ゲイル」
同じくユグディラを見つけたマコト・タツナミ(ka1030)は、愛車ゲイル・Makotoカスタムに語りかけ、発進。
「むぅ?! あの鉄騎を操る技術……素晴らしいのぅ!」
星輝 Amhran(ka0724)が驚嘆するのも無理はなかった。ユグディラは障害物の多い街中を自由自在に走っていく。
「負けぬのじゃ!」
星輝の何かに火が付いた。バイクを走らせ、ユグディラを追う。
追うのはバイクばかりではない。蹄の音を高らかに響かせ、駿馬が駆ける。その背にはエルフの少女。
「猫さん!」
そして駆ける理由は猫。
バイクに乗っているかどうかを問わず、動物好きのUisca Amhran(ka0754)が放っておくはずはなかった。
さらにもう一騎、馬で駆けるものがいる。
「勝負だ! 勝った方が負けた方をモフる、それでいいな!?」
熊だった。サングラスをかけて馬で駆ける熊。
まあ、中身はヴァイス(ka0364)なのだが。
「中に人などいない!」
だが残念なことに、顔は見えている。
バイク奪還の依頼を受け、周辺を探していたハンター達が、集まりつつあった。
かれらはバイクでユグディラを追いかける。
「バイクに乗った猫……何かを思い出す! やっぱりこの世界凄い!」
死ぬまで有効な免許証を作ろうと心に誓った時音 ざくろ(ka1250)。思わず「なめんなよ」とか口走りそうになる。
「うっへぇ! 前輪が滑ったら対処できなさそうですねえ……」
ミネット・べアール(ka3282)はバイクに乗るのは始めてだったが、すぐに慣れて一行に加わる。
(バイクに乗るユグディラか……こいつは高く売れそうだぜ!)
ニヤリと笑う、龍華 狼(ka4940)。家庭の事情を抱えた彼は金目当てにユグディラを追いかける。
「どうやら、相手にとって不足はないようじゃな」
ユグディラの走りを見て、好戦的な笑みを浮かべる紅薔薇(ka4766)。
その走りは、誇り高き東方の武人である彼女の闘争心を煽った。
「紅薔薇……参る!」
「見つけた……リューリさん、アルトさん、準備はいい?」
「うん、いつでもいいよ!」
「こっちも準備できてる!」
「じゃあ……行くわ!」
間隔を維持して走る三台のバイク。アイビス・グラス(ka2477)、リューリ・ハルマ(ka0502)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
スリップストリームを利用して加速し、一気に近づく。
距離を詰めてからはアイビスが手裏剣で威嚇し、進行方向を制限。街道につながる大通りへと方向を向ける。
機会を見てリューリとアルトが加速。ユグディラを抜き去り、左右から挟むようにすぐ前につく。
それぞれが武器を出してユグディラの前で交差させる。
「こらっ! 悪いことしたらぐーぱんちだぞ!」
「君達! 人の居る所で爆走したらダメ! 町の外でやりなさい!」
呼びかける二人。
そして後方からアイビスが迫る。
「これで……周囲は固めた!
はっ!?」
その時。アイビスには、ユグディラの姿が、一瞬二重になり、左右に同時に分かれたように見えた。
その一瞬、ユグディラは一気に減速し、アイビスの左後方へと抜ける。
そしてリューリを迂回し、一気に加速して三人を突き放した。
「幻術……?!」
それはほんの一瞬、アイビスの視覚を惑わせたに過ぎなかったが、ハイスピードの攻防では十分な効果だった。
やがて、ブリギッド街道に差し掛かった。
長い直線を走る。
先頭を走るユグディラの加速は凄まじく、誰も追いつけない。
街道を走っていたソフィア =リリィホルム(ka2383)を追い抜いた。
「……あ゛ぁ?」
ソフィアがブチ切れた。
「調子くれてんじゃねぇぞコラァ!」
フルスロットルで追いかける。
さらには銃を抜き、空に向けて発砲しだした。
「待ちやがれ! 止まれっつってんだコラァ!」
(※普段はこんな言動ではありません)
そして、進行方向に待機しているバイクがあった。
「ふっふ……ククク……ッ!
ブゥワーーッハッハッハ!!!
数多のレースゲームを経て培ったテク…その結果僕が戴いた称号を知ってるかい!
そう!」
高笑いとともに現れた、その名は。
「眼鏡ライダー トミヲ!!
きょうはユグディラバージョンで……って待って!」
一顧だにせずに通り過ぎて行くユグディラ。そしてハンターの一行。
「着ぐるみまで着込んだのに!」
水流崎トミヲ(ka4852)、慌てて追いかける。
以上、ユグディラ含め総勢十五騎。
壮絶なレースの幕開けだった。
●都市間縦断ねこ追いレース
「折角の機会だ。バイクの性能試させてもらうぜ!」
ティーアが、ユグディラのすぐ後ろにつけた。
「ほらほら、とばさないとそれ取り上げちまうぜ」
追い上げるティーア。しかしユグディラはなおも加速、簡単に抜かせない。
両者は間隔を維持したまま走る。そのまま道はカーブにさしかかる。
同時にカーブに入る両者。
「なにっ?!」
ユグディラが、芸術的とも思える曲がり方を見せる。
より内側を通るユグディラがティーアを突き放した。
そんな中、ティーアよりも内側に入りユグディラに迫る一台が。
初めてのバイクにも関わらず、果敢に攻める恐れ知らず。
ミネットである。
「うりうりうり~~~!」
後輪を滑らせ、カーブ中でユグディラに迫る。
「並んだぁ!」
カーブが終わりに差し掛かる頃、二者が並んだ!
「えっ?!」
しかしカーブの終わりの一瞬、ユグディラが急加速した。ミネットは置いていかれる。
(……このにゃんこ、できる!)
同じくカーブの攻めから立ち上がりの加速に成功し、マコトが追いすがる。
「最高にゾクゾクする! 行くよゲイル、私達は絶対に負けない!」
……と、ここまでは正っ当なレースであったが、
「カーブで勝負を賭ける……エンジン臨界点迄カウントスタート、いっけー!」
カーブを目にしたざくろが、勝負を仕掛けにいった!
……しかし、
「えええええええ?」
ユグディラは曲がらずに街道から外れ、荒れたオフロードを駆けてしまった。
曲がりかけて減速してしまったざくろや他の面々は差をつけられてしまう。
「荒野ならこちらが有利です、はいっ!」
「熊ライダーも行くぜ!」
戦馬に鞭をいれ、荒野へと踏み入るUiscaと熊……ヴァイス。
二輪と四本足では荒野なら勝負は見えている……はずだったが。
「こんな時に水牛の大移動がっ?!」
大移動中の野生動物の群れに行く手を遮られたり、
「綺麗……」
美しい鳥の編隊飛行にしばし目を奪われたり、
「ぎゃあああああーー?!」
「きゃああヴァ……熊さーーん!」
水溜りの中にいた電気ウナギに感電させられたりと、思わぬ苦戦をする。
「くっ……王国にこんな秘境があったとは!」
なおも進む二人。
やがて硬くて平らな地面へとたどり着いた。
「って街道じゃねえかあああ!!!」ですよおおお!!!」
結局荒野を突っ切ってまた街道に戻ってきていた。
ちなみに他の面々は街道を遠回りするルートを取っていた。
一行は街道で再びユグディラの後姿を見つけた。
しかし距離はそれ以上は縮まらず、デッドヒートは続いていく。
山沿いの道に差し掛かった頃。
ユグディラのバイクが、またもや街道から外れ、今度は山を登り始めた。
「んなのありかああああ!!!!」
ソフィアが怒声をあげた。
土むき出しの凸凹した斜面を登っていくバイク。しかも操縦しているのは猫。
叫ばないほうがおかしい。
「コレは魂を見たのじゃ! 行くぞ、影閃♪」
周囲が二の足を踏む中、真っ先に飛び出す星輝。
「どこへ行くんですか姉さまーー?!」
Uiscaの呼びかけを背に、星輝のバイクは明後日の方向へと山を登っていく。
坂道は方向修正が難しい。
さっきの荒野と違い、街道の何処に出るか予測できなかった一行は、果敢にも乗り物ごと山を登るのだった!
「技術屋が舐められたままで終われっか! 見てろよ!」
気合一発、ソフィアが坂を上る。
その前に聳え立つのは、土むき出しの急斜面。大自然がハンターの進行を阻む。
ソフィアは途中で止まりそうになりながらも、気迫で走破する。
しかし、一つの坂を上りきるだけでも一苦労だと言うのに、それがいくつも続いている。他にも狭い道やぬかるみ、急な下り坂が容赦なくハンター達を試す!
それでもソフィアは一歩間違えば事故を起こしかねないスピードで自然の中を駆ける。
「捉えたぜ!」
その目にユグディラの姿を捉えたソフィアが、吼えた(※普段はこんな言動ではありません)。
流石のユグディラも山道ではスピードが鈍るらしい。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
急斜面を猛スピードで駆け下りるソフィア。
その勢いはユグディラに迫ろうとしていた。
その時――
頭上から落下する物体があった!
岩? 否! 動物? 否!
「颯爽チェイシングBBA降臨じゃあああああああ!!!」
星輝だった。
何処をどう登ったのか、一行の頭上から落下してくる。
「うおおおおおおおおおおおおおお?!」
ソフィアはそれを避けたが、運悪く横転。
しかし星輝の方は、前輪で跳ね回るという不可解超絶技巧をもってユグディラの前面へと回り込んでいた!
「ぬっふっふ、おぬしの進撃もここまでじゃ!」
ユグディラの方を向いて、後ろ向きに前輪で跳ねるという変態技巧を披露する星輝だったが。
実の所、止める手段は考えて無かったりする。
「ぬわー?!」
そして池に落ちた。
進行方向に現れた池を、ユグディラはあっさり曲がり、池の縁をなぞるように走る。
「待ちやがれええ!」
横転したソフィアを追い抜き、狼のバイクが土煙をあげて追い上げる。
「逃がさねえぜ俺の金のなる木! 目指すは独り立ちだああああ!!!」
池沿いの攻防。
狼は借金取りの追撃すら振り切る操縦技術で、差を詰めていく。
「……ん?」
狼はあらぬ方向から、自然音とは異質な音を聞いた。
……高笑いが聞こえる。
視線を送る。
狼は見た。……池の、上を。
水しぶきを上げて凄まじい勢いで走ってくる何か!
「ふあーーはっはっは! これぞ魔法使いの魔法使いによる魔法使いのための超越機動ゥゥゥ! ウォーター・ウォーク!!!」
眼鏡ライダー・トミヲ!
池から上陸しユグディラのバイクに並んだ!
「しまった水上走行でもタイヤは濡れあああああ!?」
石を踏んで壮絶にスリップした。
「うおっテメー邪魔すんじゃノオオオオー?!」
狭い道なので当然の如く狼を巻き込んでクラッシュするトミヲ。
二人に目もくれずユグディラは悠然と駆けていく!
崖の上からダイブするユグディライダー。
美しい放物線を描いて着地したそれはすぐさま再加速を始める。
再び街道だった。
街道に出てすぐ、一瞬で両横から追い抜くものがあった。
二台のバイクが、わずかにユグディラより前に出て、両サイドについた。
「追いついたぁ! 今度は逃がさないから!」
「いい加減にしないとリューリちゃんの説得ぢから(物理)が火を噴くよ!」
リューリ、アルト、再び。
彼女らは街道を走っていた。
妖精を乗せたイヌワシをユグディラの頭上で旋回させていたので、位置が知れたのだ。
二人は両横からそれぞれの武器を伸ばし、交差させてユグディラの行く手を阻む。
そして、背後から、
「さっきは不覚を取ったけど、今度はそうはいかない!」
アイビスが迫り、ユグディラを包囲しようとする。
三人が形成する三角形がユグディラを囲んだ。
次第に減速しつつある四者。
不意に、前を走るリューリとアルトは、
「「えっ」」
突然、左右のユグディラと目が合った。
その時。
突如として浮遊感に襲われた。
慌ててブレーキを踏む二人。
瞬時に加速するユグディラ。交差する武器の直前まで近寄ってから、前輪で押しのけ、そのまま全速力で走り去った。
「……あれ?」「何ともない」
停車したリューリとアルト。確かに浮遊感を感じたのだが。
「どうしたのっ?!」
アイビスも心配して止まる。
「まさか……幻術?」
ほんの一瞬だったが、感覚を狂わされた。
その時にはユグディラは彼方へと去っていた。
「残ったのは……妾だけ、か……」
ガンナ・エントラータへと続く長い直線。
ここで、紅薔薇がユグディラを視界に納めた。
既に他のハンターは抜き去られたか、山の中で団子状態になっている。
「善い。ならば……東方と人類の誇りを賭け、いざ……勝負!」
最大加速でユグディラに迫る紅薔薇。
それを察したユグディラもまた加速する。
猛るエギゾースト。
追う紅薔薇。逃げるユグディラ。
二者のバイクは純粋に速さを競い合う。
やがて彼方に町並みが見えてきた。
二つの都市を繋ぐ街道の長いレースにも終わりが近づいていた。
……街道の終着点。
「よし。これでヤツらも一網打尽だな」
そこではレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が待ち構えていた。
二本の柱の間にロープを張り、それをバイクに引っ掛けようというのだ。ロープには魚の干物を括りつけてある。
レイオスは近くに潜み、待った。
そして、かれらは来た。
……だが。
バイクは急角度で車体を倒し、ロープの下に潜った。その状態で、真横にスライドする。
ロープの下をなぞるように移動し、そして走り去る時には、魚の干物はすべて無くなっていた。
取られたのだ。まさに泥棒猫。
お魚くわえたユグディラが悠々と走り去っていくのを、レイオスはただ見送るしかなかった。
カチリ……
フッ!!
紅薔薇の刀が、ロープを斬った。
ロープの切れ端は音も無く地面に落ちる。
「お主らの勝ちじゃ……何処までも行くがいい!」
紅薔薇は停車したバイクの傍らで、既に見えなくなったユグディラ達に思いを馳せた。
●港町ガンナ・エントラータ
ここは港町ガンナ・エントラータ。
時刻は夕方に差し掛かってきていた。
昼間の強い日差しもやわらいだころ……
公園で……
バイクを囲むように……
三匹の猫が……
いや、ユグディラが。
眠っていた。
「いたよー!」
「ほんとだ……」
「猫がバイクってマジだったんだな……」
ミコト=S=レグルス(ka3953)、ルドルフ・デネボラ(ka3749)、トルステン=L=ユピテル(ka3946)の三人が公園を訪れた。
「ねー! ちょっとぐらいなら、仲良くしても、いいよねっ?」
バイクを取り返すのが目的だったが……ミコトはもふもふの誘惑に勝てなかったらしく、寝ているユグディラをなで始めた。
「こんなこともあろうかと、マタタビ持ってきた」
ルドルフもミコトに同調する。
「何に使うつもりだったんだよ……」
と、トルステン。
なでられたキジトラのユグディラはすぐ起きた。三人に驚いたが、ミコトの指の匂いを嗅ぐと、あくびを一つしてあとはされるにまかせた。
柔らかな感触を堪能するミコト。やがてゴロゴロと喉を鳴らす。
ねこじゃらしを振ってみると、ユグディラは起きて目で追い始めた。続けていると手を出してきた。
「ねこじゃらしってのは出しゃいーってもんじゃねーよ。こう、腰を入れてだな」
何故かトルステンがねこじゃらしの使い方を指導しはじめた。
ルドルフはそれらを微笑ましく見守る。
そんな、夕暮れの公園の風景。
「見つけましたよ……!」
そこに闖入者があった。
神代 誠一(ka2086)はずんずんと公園内に押し入り、ユグディラと戯れる若者達の輪へと近づいてきた。
そして有無を言わさずユグディラにスパーン! とハリセンを食らわせた。
「何するのっ!」
「非行の目は早めに摘み取るのが肝心、これもかれらの為です!」
ぴしゃりと言ってミコトの訴えを退ける。
にゃーにゃー抗議するユグディラ達。
「ちょっとそこに座りなさい、タマ!」
「タマっておい」と、トルステン。
「ネコなんて何匹いようがタマで結構です!」
で、
一列になって正座するタマ×3。
「いいですか、何もバイクに乗るなと言っているわけではありません。しかし乗るなら他人の迷惑を……聞いているのですか!」
早くも居眠りを始めたユグディラ達。誠一は地面をハリセンでスパーン! と叩く。
「何か俺達も怒られてる気分になってきた」
と言ったトルステンの横でルドルフが頭を下げる。
「すみませんでした……」
「なぜ謝るルディ」
「大体バイクを盗むとは何事ですか。窃盗は犯罪です。そんな若いうちから犯罪者になってどうするのですか! ……おや?」
熱弁を振るう誠一。その眼前で、
ユグディラ達の姿が、かき消えた。
そして、間髪を入れずに鳴るバイクのエンジン音。
「しまった! 幻術かっ……!」
「にゃーん」
可愛い捨て台詞を吐いて、バイクは走り去った。
「あっ、待ってーーっ!」
ミコトが走って追いかける。
「なんで捕まえずに説教したんだ、あの先生」
「先生だからじゃないの?」
「そうだけど、違うだろ……」
天然ボケのルドルフとツッコミのトルステンがそれに続いた。
「待ちなさい! 話はまだ終わっていませんよ!」
無論、誠一も急いで後を追うのだった。
「うなっ! わがはい、わるいねこたんおしおきしゅるのなっ」
街角。黒の夢(ka0187)が唐突にユグディラの前に立ちふさがった。
何故か身長が20cmほどに見えるのは演出である(?)。
「アース・ウォール! ……ファイア・アロー!」
ユルい口調とは裏腹に本気の魔法攻撃だ。
「私のバイクを壊す気かあ!」
どこからともなく現れたヘザー(転移門で王都から来た)が、黒の夢を背後からしばいた。
「なにをするのなー。わがはいはマシーナリーあんこちゃんであるー」
「自動人形は実現不可ー!」
世界観は無視できないらしい。
「ヘザーさーん!」
と、そこにUiscaが馬で駆けてきた。
「世界の危機と聞いて、聖地から派遣された巫女なんですけど……」
「それは頼もしいな! ぜひ助けてくれ!」
「はい!」
Uiscaは馬に拍車をかけ、一気に加速する。
そしてバイクの後輪まで手が届くまで近づく。
「フォース・クラーッシュ!」
ガコーン! ギャキャキャキャキャ!
「だからバイクを壊すなー!」
思いっきりメイスで後輪を殴られたバイクは大きく回転したが、何と奇跡的に持ち直し、走り去った!
「飴たべるー?」
その間、黒の夢は買い物に行っていた。
「どんだけ自由なんだッ!」
ヘザーの雄叫びが港町に轟く……
時間は少し前に遡る。
「すみませーん!
なんかさ、バイク乗り回しちゃうすっげーユグディラがこっちきてるらしいんだ!」
「「「なんだってー?!」」」
ダイン(ka2873)の言葉に超食いついたのは、「ガンナ・エントラータ モトクロス愛好会」の面々。
バイク好きの転移者が始め、クリムゾンウェストでもバイクの流通が広まった今は活発に活動しているバイク競技の愛好者達だ。
「ぜひともうちの競技場に呼んでくれ!」
彼らは小規模ながらもバイク競技が行える自前の競技場を持っていた。
こうして、急いでユグディライダーの技術を拝見するための準備が行われた。
同時に、噂は瞬く間に広まった。
「えっ! 猫が盗んだバイクで走ってんの!? マジで!? 超見たいんだけど」
春次 涼太(ka2765)も噂に飛びついた一人だった。
ギャラリーはどんどん増えていった。
そして今。
ユグディライダーの前に、曲がり角に立ってチェッカーフラッグを振るダインの姿が現れた。
意味が解ったのか、本能的に旗の動きに惹かれただけなのかは解らないが、ともかくユグディラはそれに従って曲がった。
フラッグを持つバイカー達が次々とユグディラの前に現れ、誘導していく。
その先は、モトクロス愛好会の競技場。
五ヶ所のジャンプ台とS字カーブを持つダートコースである。
「うおおおおすげえ本当に猫がバイクに乗ってるううう!」
コースに入場したユグディラを見て涼太が歓声をあげる。他の観衆も凄まじい歓声で出迎えた。
当然のようにコースを走り始めるユグディラ。
滑らかなコーナリング。爽快な加速。
充分な助走を得て挑むジャンプ台。
夕焼けを背負って飛ぶ。その軌跡は高く、長い。
突き抜けるような疾走感!
真下からそれを眺めるギャラリーが熱狂の声を上げる。コース周辺を埋め尽くすほどの数だ。
「教えてよかった……!」
コース脇で観戦中のダインはご満悦だった。
(でも、何かを忘れてるような……?)
一応、依頼を受けたハンターの一人である。
一方、涼太はそのうち、もっとスーパーなプレイが見たいという欲求に駆られるようになった。
そう思うあまり、ジャンプ台の、跳躍の終わる地点に、アースウォールでもう一箇所ジャンプ台を作ってしまったのだ。
「角度はこんなもんでいいだろ……!」
謎の拘り。
さて、ユグディラがジャンプを終え、涼太の作ったジャンプ台へと挑んだ。
どういうわけか全く減速しない。
「うおおおー!」
歓声が上がった。
涼太のジャンプ台で跳んだユグディラは、恐るべき飛距離で、コースを飛び越えて場外へと飛んでいってしまったのだ。
「ひょっとして俺、凄い?」
再び街へと戻ったユグディラの前に現れたのは、追跡するハンター達だった。
「熊出没注意!」
あと熊が出た。ヴァイスだった。
「さすがに飛んでりゃわかるぜ!」
「絶対捕まえて免許証発行してやる!……あれ、免許センター?」
ティーアとざくろが続く。他のハンター達もおおむね追いついて来た。
バイクや馬で繰り広げられる街中でのチェイス。
大通りだけでなく裏路地を通ったり、また民家の中を通ったり、屋根の上を走ったりするユグディラを、ハンター達が執拗に追いかける。
住民にとっては大迷惑だ。
そして、一行は港へと向かおうとしていた。
漁船の船着場を駆ける猫 on the バイク。それを追う大勢のハンター達。
日が暮れつつあった。ちょうどその時、帰ってくる漁船が何隻かいた。魚の積み下ろしをするため、篝火が煌々と輝いている。
ユグディラはそんな漁船の中に平然とバイクを乗り入れる。
「わー猫だー?! バイクに乗った猫がー!」
船上は一瞬にしてパニックに。
狭い船の上を縦横無尽に駆けるユグディラ。手当たり次第に魚を盗むのも忘れない。
流石にバイクを降りたハンター達。その間に、ユグディラはなんと船のへりをジャンプ台にして、まだ陸についていない他の船へと飛び移ったではないか。
「もう驚かないですけどね……」
ため息をつくミネット。しかし、海を飛び越える術はない。
「どわっはっはっは! ここは僕の出番のようだね!」
トミヲがバイクごと海へと飛び降り……水面に着地する。
「ウォーターウォーク・海!」
その時だった。
凄まじい水飛沫が上がり、海中から何かがせり上がった!
「ああああああぁぁぁぁぁぁ……」
真上にいたトミヲは哀れ、星になった!
「歪虚?!」
海中から顔を出したのは、全長10mはあろうかという、巨大なシャコであった。
「急いで避難を!」
アイビス達が、漁師達に呼びかける。
「ふっ、これだけハンターが集まってる所に出くわすとは、運のない歪虚だぜ」
ヴァイスが言った。中身は格好良いのだが、残念ながら今はただの薄汚れた熊だ。
「バイクは後回しにしなきゃ、ですねっ!」
ソフィア(通常テンション)が、臨戦態勢に入る。
ユグディラを追跡してきたハンター達と、突然現れた歪虚の戦いが始まった。
だが、戦闘の最中、ユグディラは姿を消していた……。
●夜の少女達
「来ないですね……」
ルカ(ka0962)はユグディラの来そうな所で、罠を張って待ち構えていたのだが、日が暮れてもユグディラは来なかった。
仕方がないので自分から探しに行くことにした。
「これで会えなかったら帰ろう……」
潮騒を聞きながら、夜の港町を歩く。
そして海の見える公園にさしかかった頃。
何かがいる。
もしかしたらと思い、近づいてみる。
「しーーーーーっ!」
誰かいた。
近づいて見ると、女の子がいた。
「ただいまねこさんはおやすみ中ですの」
女の子……チョココ(ka2449)は唇に指を当てて、囁くようにルカに言った。
頭上では、パルムのパルパルが同じポーズをとっている。
そして、その周りでは猫が三匹、寝ているようだった。
事情を察したルカの表情は輝いた。
ユグディラに会えた! しかも逃げない!
ルカは近寄って、ユグディラの愛らしい寝顔を眺めながら、その柔らかな毛並みを撫でた。
チョココの方はというと、ユグディラを起こさないように気づかいながらも、お腹を撫でたり、肉球をぷにぷにしたりしている。
天国だった。
「あっ……ここにいたんだ?!」
ミコトが姿を現した。ルドルフとトルステン(ちょっと疲れた顔)も一緒だ。
笑顔で輪の中に入るミコト。少女たちは自分達と同じ猫をもふりたい気持ちを感じ取ったのか、ミコトを招き入れる。
猫を愛でる会、開催。
「俺の金づるぁぁぁぁ!!!」
「私の話を聞きなさい!!!」
「うにゃー! うっ……う……うにゃあああー!!!」
唐突に狼、誠一、黒の夢が一度に飛び込んできた。
「「「駄目ぇぇぇーーー!!!」」」
猫を守るように立ちはだかる、ルカ・チョココ・ミコト。
猫をもふりたい気持ちが、三人の女子力を極限まで高める!
果てしないエネルギーが発生し……
女子力の高まりがビッグバンを起こした(※演出です)!
「「「うわあああーーー!!!」」」
狼、誠一、黒の夢はなす術もなく吹き飛ばされる。
「こうなったら仕方がありません……」
上半身を起こし、誠一が言った。
「もう何も言わないのでもふらせて下さい」
「いいですけど……」
ルカが許可する。この後、誠一は思う存分猫をもふった。
「最後のはなんで突っ込んできたんだ?」
「うなっ!」
トルステンが黒の夢を見て言った。心なしかまだ元気そうだ。
「なんとなくじゃないかな」
「なんとなくねぇ……」
ルドルフの意見。そういうことにしておこうとトルステンは思った。
一方、港で歪虚と戦った一行はというと、
海岸で皆で焚き火を囲んで、Uiscaの指揮で猫にまつわる歌をメドレーで合唱していた。
歌っているのは「なんとなく大団円っぽいので」という理由からだが、集まっているのはヒーリングスフィアで怪我の治療をするためだ。
ちなみに歪虚は弱かった。怪我の大半は猫のせいだ(トミヲ以外)。
「池には落ちるしバイクは見つからないしもふれないし散々なのじゃ!」
星輝が今日一日を端的に述べた。歌わなければやってられないということらしい。
ぜんぜん大団円じゃない。
「これだけの精鋭が揃っていて……」
ヘザーが悔しがる。あのあと合流したのだ。
結論。
猫、最強。
そうしてハンター達の長い戦いは終わった……。
「あのー、ヘザーさん?」
「はい」
呼ばれて振り向くと、マコトだった。
バイクを押している。
「そこの公園に停めてありましたけど……」
「私のか!」
「猫がいたので間違いないと思います」
猫を愛でる人々もいた。ちゃんと持っていく許可は得ている。
「ありがとう! ありがとう!!」
マコトの手を取って何度も頭を下げるヘザー。
「バイク、大切に乗ってあげて下さいね」
マコトは笑顔でそう言った。
「皆もありがとう!」
そして、ヘザーは集まったハンター一人一人に対して、頭を下げた。
ハンター達は長い戦いの末、
(猫が疲れて寝たので)
無事目的を果たしたのだった。
「これで終わりとは笑わせる。なぜ終わるのだ?!」
しかし、まだ引っ張る。
「まだ、猫を、もふっていない」
ハンター達(の一部)は事件解決のテンションから、燃えていた。
「行こう! ヴァルハラへ!」
この後、希望者はいまだ公園に留まっているユグディラのもとへ行き、思う存分もふり倒したのだった。
ドコオオオオン!
「ギャーーー?!」
突然王都イルダーナ第六街区のとある食堂の壁を突き破って、バイクが突入してきた!
乗っているのは三匹の猫。いや、ユグディラ。
「猫がバイク?!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が驚いて声を上げ、食事していた人々も逃げ惑う。
ユグディラ on the バイクは食堂を縦横無尽に走り、ボルディアの串焼きをかっばらって逃走した。
「待てーーい!」
バイクが開けた穴から今度はヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が出てきた。
走って追いかけていたヘザーだが、バイクに徒歩では無理がある。
バイクはヘザーを残して走り去っていく。
「あんたアレの飼い主かい?」
食堂の店主が鋭い目つきでヘザーを睨む。
「修理代」
ドスを効かせる店主。
ヘザーは答えた。
「私はハンターだバカモノー!」
「何をやってるんだ……ヘザー……」
店の外で、出てきたヘザーがぜぇぜぇ言ってるのを見たティーア・ズィルバーン(ka0122)は、その視線の先からユグディラの居場所を予測し、バイクを走らせる。
(疾走するバイク……追えとの声……走るには十分な理由だよね)
「行くよ、ゲイル」
同じくユグディラを見つけたマコト・タツナミ(ka1030)は、愛車ゲイル・Makotoカスタムに語りかけ、発進。
「むぅ?! あの鉄騎を操る技術……素晴らしいのぅ!」
星輝 Amhran(ka0724)が驚嘆するのも無理はなかった。ユグディラは障害物の多い街中を自由自在に走っていく。
「負けぬのじゃ!」
星輝の何かに火が付いた。バイクを走らせ、ユグディラを追う。
追うのはバイクばかりではない。蹄の音を高らかに響かせ、駿馬が駆ける。その背にはエルフの少女。
「猫さん!」
そして駆ける理由は猫。
バイクに乗っているかどうかを問わず、動物好きのUisca Amhran(ka0754)が放っておくはずはなかった。
さらにもう一騎、馬で駆けるものがいる。
「勝負だ! 勝った方が負けた方をモフる、それでいいな!?」
熊だった。サングラスをかけて馬で駆ける熊。
まあ、中身はヴァイス(ka0364)なのだが。
「中に人などいない!」
だが残念なことに、顔は見えている。
バイク奪還の依頼を受け、周辺を探していたハンター達が、集まりつつあった。
かれらはバイクでユグディラを追いかける。
「バイクに乗った猫……何かを思い出す! やっぱりこの世界凄い!」
死ぬまで有効な免許証を作ろうと心に誓った時音 ざくろ(ka1250)。思わず「なめんなよ」とか口走りそうになる。
「うっへぇ! 前輪が滑ったら対処できなさそうですねえ……」
ミネット・べアール(ka3282)はバイクに乗るのは始めてだったが、すぐに慣れて一行に加わる。
(バイクに乗るユグディラか……こいつは高く売れそうだぜ!)
ニヤリと笑う、龍華 狼(ka4940)。家庭の事情を抱えた彼は金目当てにユグディラを追いかける。
「どうやら、相手にとって不足はないようじゃな」
ユグディラの走りを見て、好戦的な笑みを浮かべる紅薔薇(ka4766)。
その走りは、誇り高き東方の武人である彼女の闘争心を煽った。
「紅薔薇……参る!」
「見つけた……リューリさん、アルトさん、準備はいい?」
「うん、いつでもいいよ!」
「こっちも準備できてる!」
「じゃあ……行くわ!」
間隔を維持して走る三台のバイク。アイビス・グラス(ka2477)、リューリ・ハルマ(ka0502)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
スリップストリームを利用して加速し、一気に近づく。
距離を詰めてからはアイビスが手裏剣で威嚇し、進行方向を制限。街道につながる大通りへと方向を向ける。
機会を見てリューリとアルトが加速。ユグディラを抜き去り、左右から挟むようにすぐ前につく。
それぞれが武器を出してユグディラの前で交差させる。
「こらっ! 悪いことしたらぐーぱんちだぞ!」
「君達! 人の居る所で爆走したらダメ! 町の外でやりなさい!」
呼びかける二人。
そして後方からアイビスが迫る。
「これで……周囲は固めた!
はっ!?」
その時。アイビスには、ユグディラの姿が、一瞬二重になり、左右に同時に分かれたように見えた。
その一瞬、ユグディラは一気に減速し、アイビスの左後方へと抜ける。
そしてリューリを迂回し、一気に加速して三人を突き放した。
「幻術……?!」
それはほんの一瞬、アイビスの視覚を惑わせたに過ぎなかったが、ハイスピードの攻防では十分な効果だった。
やがて、ブリギッド街道に差し掛かった。
長い直線を走る。
先頭を走るユグディラの加速は凄まじく、誰も追いつけない。
街道を走っていたソフィア =リリィホルム(ka2383)を追い抜いた。
「……あ゛ぁ?」
ソフィアがブチ切れた。
「調子くれてんじゃねぇぞコラァ!」
フルスロットルで追いかける。
さらには銃を抜き、空に向けて発砲しだした。
「待ちやがれ! 止まれっつってんだコラァ!」
(※普段はこんな言動ではありません)
そして、進行方向に待機しているバイクがあった。
「ふっふ……ククク……ッ!
ブゥワーーッハッハッハ!!!
数多のレースゲームを経て培ったテク…その結果僕が戴いた称号を知ってるかい!
そう!」
高笑いとともに現れた、その名は。
「眼鏡ライダー トミヲ!!
きょうはユグディラバージョンで……って待って!」
一顧だにせずに通り過ぎて行くユグディラ。そしてハンターの一行。
「着ぐるみまで着込んだのに!」
水流崎トミヲ(ka4852)、慌てて追いかける。
以上、ユグディラ含め総勢十五騎。
壮絶なレースの幕開けだった。
●都市間縦断ねこ追いレース
「折角の機会だ。バイクの性能試させてもらうぜ!」
ティーアが、ユグディラのすぐ後ろにつけた。
「ほらほら、とばさないとそれ取り上げちまうぜ」
追い上げるティーア。しかしユグディラはなおも加速、簡単に抜かせない。
両者は間隔を維持したまま走る。そのまま道はカーブにさしかかる。
同時にカーブに入る両者。
「なにっ?!」
ユグディラが、芸術的とも思える曲がり方を見せる。
より内側を通るユグディラがティーアを突き放した。
そんな中、ティーアよりも内側に入りユグディラに迫る一台が。
初めてのバイクにも関わらず、果敢に攻める恐れ知らず。
ミネットである。
「うりうりうり~~~!」
後輪を滑らせ、カーブ中でユグディラに迫る。
「並んだぁ!」
カーブが終わりに差し掛かる頃、二者が並んだ!
「えっ?!」
しかしカーブの終わりの一瞬、ユグディラが急加速した。ミネットは置いていかれる。
(……このにゃんこ、できる!)
同じくカーブの攻めから立ち上がりの加速に成功し、マコトが追いすがる。
「最高にゾクゾクする! 行くよゲイル、私達は絶対に負けない!」
……と、ここまでは正っ当なレースであったが、
「カーブで勝負を賭ける……エンジン臨界点迄カウントスタート、いっけー!」
カーブを目にしたざくろが、勝負を仕掛けにいった!
……しかし、
「えええええええ?」
ユグディラは曲がらずに街道から外れ、荒れたオフロードを駆けてしまった。
曲がりかけて減速してしまったざくろや他の面々は差をつけられてしまう。
「荒野ならこちらが有利です、はいっ!」
「熊ライダーも行くぜ!」
戦馬に鞭をいれ、荒野へと踏み入るUiscaと熊……ヴァイス。
二輪と四本足では荒野なら勝負は見えている……はずだったが。
「こんな時に水牛の大移動がっ?!」
大移動中の野生動物の群れに行く手を遮られたり、
「綺麗……」
美しい鳥の編隊飛行にしばし目を奪われたり、
「ぎゃあああああーー?!」
「きゃああヴァ……熊さーーん!」
水溜りの中にいた電気ウナギに感電させられたりと、思わぬ苦戦をする。
「くっ……王国にこんな秘境があったとは!」
なおも進む二人。
やがて硬くて平らな地面へとたどり着いた。
「って街道じゃねえかあああ!!!」ですよおおお!!!」
結局荒野を突っ切ってまた街道に戻ってきていた。
ちなみに他の面々は街道を遠回りするルートを取っていた。
一行は街道で再びユグディラの後姿を見つけた。
しかし距離はそれ以上は縮まらず、デッドヒートは続いていく。
山沿いの道に差し掛かった頃。
ユグディラのバイクが、またもや街道から外れ、今度は山を登り始めた。
「んなのありかああああ!!!!」
ソフィアが怒声をあげた。
土むき出しの凸凹した斜面を登っていくバイク。しかも操縦しているのは猫。
叫ばないほうがおかしい。
「コレは魂を見たのじゃ! 行くぞ、影閃♪」
周囲が二の足を踏む中、真っ先に飛び出す星輝。
「どこへ行くんですか姉さまーー?!」
Uiscaの呼びかけを背に、星輝のバイクは明後日の方向へと山を登っていく。
坂道は方向修正が難しい。
さっきの荒野と違い、街道の何処に出るか予測できなかった一行は、果敢にも乗り物ごと山を登るのだった!
「技術屋が舐められたままで終われっか! 見てろよ!」
気合一発、ソフィアが坂を上る。
その前に聳え立つのは、土むき出しの急斜面。大自然がハンターの進行を阻む。
ソフィアは途中で止まりそうになりながらも、気迫で走破する。
しかし、一つの坂を上りきるだけでも一苦労だと言うのに、それがいくつも続いている。他にも狭い道やぬかるみ、急な下り坂が容赦なくハンター達を試す!
それでもソフィアは一歩間違えば事故を起こしかねないスピードで自然の中を駆ける。
「捉えたぜ!」
その目にユグディラの姿を捉えたソフィアが、吼えた(※普段はこんな言動ではありません)。
流石のユグディラも山道ではスピードが鈍るらしい。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
急斜面を猛スピードで駆け下りるソフィア。
その勢いはユグディラに迫ろうとしていた。
その時――
頭上から落下する物体があった!
岩? 否! 動物? 否!
「颯爽チェイシングBBA降臨じゃあああああああ!!!」
星輝だった。
何処をどう登ったのか、一行の頭上から落下してくる。
「うおおおおおおおおおおおおおお?!」
ソフィアはそれを避けたが、運悪く横転。
しかし星輝の方は、前輪で跳ね回るという不可解超絶技巧をもってユグディラの前面へと回り込んでいた!
「ぬっふっふ、おぬしの進撃もここまでじゃ!」
ユグディラの方を向いて、後ろ向きに前輪で跳ねるという変態技巧を披露する星輝だったが。
実の所、止める手段は考えて無かったりする。
「ぬわー?!」
そして池に落ちた。
進行方向に現れた池を、ユグディラはあっさり曲がり、池の縁をなぞるように走る。
「待ちやがれええ!」
横転したソフィアを追い抜き、狼のバイクが土煙をあげて追い上げる。
「逃がさねえぜ俺の金のなる木! 目指すは独り立ちだああああ!!!」
池沿いの攻防。
狼は借金取りの追撃すら振り切る操縦技術で、差を詰めていく。
「……ん?」
狼はあらぬ方向から、自然音とは異質な音を聞いた。
……高笑いが聞こえる。
視線を送る。
狼は見た。……池の、上を。
水しぶきを上げて凄まじい勢いで走ってくる何か!
「ふあーーはっはっは! これぞ魔法使いの魔法使いによる魔法使いのための超越機動ゥゥゥ! ウォーター・ウォーク!!!」
眼鏡ライダー・トミヲ!
池から上陸しユグディラのバイクに並んだ!
「しまった水上走行でもタイヤは濡れあああああ!?」
石を踏んで壮絶にスリップした。
「うおっテメー邪魔すんじゃノオオオオー?!」
狭い道なので当然の如く狼を巻き込んでクラッシュするトミヲ。
二人に目もくれずユグディラは悠然と駆けていく!
崖の上からダイブするユグディライダー。
美しい放物線を描いて着地したそれはすぐさま再加速を始める。
再び街道だった。
街道に出てすぐ、一瞬で両横から追い抜くものがあった。
二台のバイクが、わずかにユグディラより前に出て、両サイドについた。
「追いついたぁ! 今度は逃がさないから!」
「いい加減にしないとリューリちゃんの説得ぢから(物理)が火を噴くよ!」
リューリ、アルト、再び。
彼女らは街道を走っていた。
妖精を乗せたイヌワシをユグディラの頭上で旋回させていたので、位置が知れたのだ。
二人は両横からそれぞれの武器を伸ばし、交差させてユグディラの行く手を阻む。
そして、背後から、
「さっきは不覚を取ったけど、今度はそうはいかない!」
アイビスが迫り、ユグディラを包囲しようとする。
三人が形成する三角形がユグディラを囲んだ。
次第に減速しつつある四者。
不意に、前を走るリューリとアルトは、
「「えっ」」
突然、左右のユグディラと目が合った。
その時。
突如として浮遊感に襲われた。
慌ててブレーキを踏む二人。
瞬時に加速するユグディラ。交差する武器の直前まで近寄ってから、前輪で押しのけ、そのまま全速力で走り去った。
「……あれ?」「何ともない」
停車したリューリとアルト。確かに浮遊感を感じたのだが。
「どうしたのっ?!」
アイビスも心配して止まる。
「まさか……幻術?」
ほんの一瞬だったが、感覚を狂わされた。
その時にはユグディラは彼方へと去っていた。
「残ったのは……妾だけ、か……」
ガンナ・エントラータへと続く長い直線。
ここで、紅薔薇がユグディラを視界に納めた。
既に他のハンターは抜き去られたか、山の中で団子状態になっている。
「善い。ならば……東方と人類の誇りを賭け、いざ……勝負!」
最大加速でユグディラに迫る紅薔薇。
それを察したユグディラもまた加速する。
猛るエギゾースト。
追う紅薔薇。逃げるユグディラ。
二者のバイクは純粋に速さを競い合う。
やがて彼方に町並みが見えてきた。
二つの都市を繋ぐ街道の長いレースにも終わりが近づいていた。
……街道の終着点。
「よし。これでヤツらも一網打尽だな」
そこではレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が待ち構えていた。
二本の柱の間にロープを張り、それをバイクに引っ掛けようというのだ。ロープには魚の干物を括りつけてある。
レイオスは近くに潜み、待った。
そして、かれらは来た。
……だが。
バイクは急角度で車体を倒し、ロープの下に潜った。その状態で、真横にスライドする。
ロープの下をなぞるように移動し、そして走り去る時には、魚の干物はすべて無くなっていた。
取られたのだ。まさに泥棒猫。
お魚くわえたユグディラが悠々と走り去っていくのを、レイオスはただ見送るしかなかった。
カチリ……
フッ!!
紅薔薇の刀が、ロープを斬った。
ロープの切れ端は音も無く地面に落ちる。
「お主らの勝ちじゃ……何処までも行くがいい!」
紅薔薇は停車したバイクの傍らで、既に見えなくなったユグディラ達に思いを馳せた。
●港町ガンナ・エントラータ
ここは港町ガンナ・エントラータ。
時刻は夕方に差し掛かってきていた。
昼間の強い日差しもやわらいだころ……
公園で……
バイクを囲むように……
三匹の猫が……
いや、ユグディラが。
眠っていた。
「いたよー!」
「ほんとだ……」
「猫がバイクってマジだったんだな……」
ミコト=S=レグルス(ka3953)、ルドルフ・デネボラ(ka3749)、トルステン=L=ユピテル(ka3946)の三人が公園を訪れた。
「ねー! ちょっとぐらいなら、仲良くしても、いいよねっ?」
バイクを取り返すのが目的だったが……ミコトはもふもふの誘惑に勝てなかったらしく、寝ているユグディラをなで始めた。
「こんなこともあろうかと、マタタビ持ってきた」
ルドルフもミコトに同調する。
「何に使うつもりだったんだよ……」
と、トルステン。
なでられたキジトラのユグディラはすぐ起きた。三人に驚いたが、ミコトの指の匂いを嗅ぐと、あくびを一つしてあとはされるにまかせた。
柔らかな感触を堪能するミコト。やがてゴロゴロと喉を鳴らす。
ねこじゃらしを振ってみると、ユグディラは起きて目で追い始めた。続けていると手を出してきた。
「ねこじゃらしってのは出しゃいーってもんじゃねーよ。こう、腰を入れてだな」
何故かトルステンがねこじゃらしの使い方を指導しはじめた。
ルドルフはそれらを微笑ましく見守る。
そんな、夕暮れの公園の風景。
「見つけましたよ……!」
そこに闖入者があった。
神代 誠一(ka2086)はずんずんと公園内に押し入り、ユグディラと戯れる若者達の輪へと近づいてきた。
そして有無を言わさずユグディラにスパーン! とハリセンを食らわせた。
「何するのっ!」
「非行の目は早めに摘み取るのが肝心、これもかれらの為です!」
ぴしゃりと言ってミコトの訴えを退ける。
にゃーにゃー抗議するユグディラ達。
「ちょっとそこに座りなさい、タマ!」
「タマっておい」と、トルステン。
「ネコなんて何匹いようがタマで結構です!」
で、
一列になって正座するタマ×3。
「いいですか、何もバイクに乗るなと言っているわけではありません。しかし乗るなら他人の迷惑を……聞いているのですか!」
早くも居眠りを始めたユグディラ達。誠一は地面をハリセンでスパーン! と叩く。
「何か俺達も怒られてる気分になってきた」
と言ったトルステンの横でルドルフが頭を下げる。
「すみませんでした……」
「なぜ謝るルディ」
「大体バイクを盗むとは何事ですか。窃盗は犯罪です。そんな若いうちから犯罪者になってどうするのですか! ……おや?」
熱弁を振るう誠一。その眼前で、
ユグディラ達の姿が、かき消えた。
そして、間髪を入れずに鳴るバイクのエンジン音。
「しまった! 幻術かっ……!」
「にゃーん」
可愛い捨て台詞を吐いて、バイクは走り去った。
「あっ、待ってーーっ!」
ミコトが走って追いかける。
「なんで捕まえずに説教したんだ、あの先生」
「先生だからじゃないの?」
「そうだけど、違うだろ……」
天然ボケのルドルフとツッコミのトルステンがそれに続いた。
「待ちなさい! 話はまだ終わっていませんよ!」
無論、誠一も急いで後を追うのだった。
「うなっ! わがはい、わるいねこたんおしおきしゅるのなっ」
街角。黒の夢(ka0187)が唐突にユグディラの前に立ちふさがった。
何故か身長が20cmほどに見えるのは演出である(?)。
「アース・ウォール! ……ファイア・アロー!」
ユルい口調とは裏腹に本気の魔法攻撃だ。
「私のバイクを壊す気かあ!」
どこからともなく現れたヘザー(転移門で王都から来た)が、黒の夢を背後からしばいた。
「なにをするのなー。わがはいはマシーナリーあんこちゃんであるー」
「自動人形は実現不可ー!」
世界観は無視できないらしい。
「ヘザーさーん!」
と、そこにUiscaが馬で駆けてきた。
「世界の危機と聞いて、聖地から派遣された巫女なんですけど……」
「それは頼もしいな! ぜひ助けてくれ!」
「はい!」
Uiscaは馬に拍車をかけ、一気に加速する。
そしてバイクの後輪まで手が届くまで近づく。
「フォース・クラーッシュ!」
ガコーン! ギャキャキャキャキャ!
「だからバイクを壊すなー!」
思いっきりメイスで後輪を殴られたバイクは大きく回転したが、何と奇跡的に持ち直し、走り去った!
「飴たべるー?」
その間、黒の夢は買い物に行っていた。
「どんだけ自由なんだッ!」
ヘザーの雄叫びが港町に轟く……
時間は少し前に遡る。
「すみませーん!
なんかさ、バイク乗り回しちゃうすっげーユグディラがこっちきてるらしいんだ!」
「「「なんだってー?!」」」
ダイン(ka2873)の言葉に超食いついたのは、「ガンナ・エントラータ モトクロス愛好会」の面々。
バイク好きの転移者が始め、クリムゾンウェストでもバイクの流通が広まった今は活発に活動しているバイク競技の愛好者達だ。
「ぜひともうちの競技場に呼んでくれ!」
彼らは小規模ながらもバイク競技が行える自前の競技場を持っていた。
こうして、急いでユグディライダーの技術を拝見するための準備が行われた。
同時に、噂は瞬く間に広まった。
「えっ! 猫が盗んだバイクで走ってんの!? マジで!? 超見たいんだけど」
春次 涼太(ka2765)も噂に飛びついた一人だった。
ギャラリーはどんどん増えていった。
そして今。
ユグディライダーの前に、曲がり角に立ってチェッカーフラッグを振るダインの姿が現れた。
意味が解ったのか、本能的に旗の動きに惹かれただけなのかは解らないが、ともかくユグディラはそれに従って曲がった。
フラッグを持つバイカー達が次々とユグディラの前に現れ、誘導していく。
その先は、モトクロス愛好会の競技場。
五ヶ所のジャンプ台とS字カーブを持つダートコースである。
「うおおおおすげえ本当に猫がバイクに乗ってるううう!」
コースに入場したユグディラを見て涼太が歓声をあげる。他の観衆も凄まじい歓声で出迎えた。
当然のようにコースを走り始めるユグディラ。
滑らかなコーナリング。爽快な加速。
充分な助走を得て挑むジャンプ台。
夕焼けを背負って飛ぶ。その軌跡は高く、長い。
突き抜けるような疾走感!
真下からそれを眺めるギャラリーが熱狂の声を上げる。コース周辺を埋め尽くすほどの数だ。
「教えてよかった……!」
コース脇で観戦中のダインはご満悦だった。
(でも、何かを忘れてるような……?)
一応、依頼を受けたハンターの一人である。
一方、涼太はそのうち、もっとスーパーなプレイが見たいという欲求に駆られるようになった。
そう思うあまり、ジャンプ台の、跳躍の終わる地点に、アースウォールでもう一箇所ジャンプ台を作ってしまったのだ。
「角度はこんなもんでいいだろ……!」
謎の拘り。
さて、ユグディラがジャンプを終え、涼太の作ったジャンプ台へと挑んだ。
どういうわけか全く減速しない。
「うおおおー!」
歓声が上がった。
涼太のジャンプ台で跳んだユグディラは、恐るべき飛距離で、コースを飛び越えて場外へと飛んでいってしまったのだ。
「ひょっとして俺、凄い?」
再び街へと戻ったユグディラの前に現れたのは、追跡するハンター達だった。
「熊出没注意!」
あと熊が出た。ヴァイスだった。
「さすがに飛んでりゃわかるぜ!」
「絶対捕まえて免許証発行してやる!……あれ、免許センター?」
ティーアとざくろが続く。他のハンター達もおおむね追いついて来た。
バイクや馬で繰り広げられる街中でのチェイス。
大通りだけでなく裏路地を通ったり、また民家の中を通ったり、屋根の上を走ったりするユグディラを、ハンター達が執拗に追いかける。
住民にとっては大迷惑だ。
そして、一行は港へと向かおうとしていた。
漁船の船着場を駆ける猫 on the バイク。それを追う大勢のハンター達。
日が暮れつつあった。ちょうどその時、帰ってくる漁船が何隻かいた。魚の積み下ろしをするため、篝火が煌々と輝いている。
ユグディラはそんな漁船の中に平然とバイクを乗り入れる。
「わー猫だー?! バイクに乗った猫がー!」
船上は一瞬にしてパニックに。
狭い船の上を縦横無尽に駆けるユグディラ。手当たり次第に魚を盗むのも忘れない。
流石にバイクを降りたハンター達。その間に、ユグディラはなんと船のへりをジャンプ台にして、まだ陸についていない他の船へと飛び移ったではないか。
「もう驚かないですけどね……」
ため息をつくミネット。しかし、海を飛び越える術はない。
「どわっはっはっは! ここは僕の出番のようだね!」
トミヲがバイクごと海へと飛び降り……水面に着地する。
「ウォーターウォーク・海!」
その時だった。
凄まじい水飛沫が上がり、海中から何かがせり上がった!
「ああああああぁぁぁぁぁぁ……」
真上にいたトミヲは哀れ、星になった!
「歪虚?!」
海中から顔を出したのは、全長10mはあろうかという、巨大なシャコであった。
「急いで避難を!」
アイビス達が、漁師達に呼びかける。
「ふっ、これだけハンターが集まってる所に出くわすとは、運のない歪虚だぜ」
ヴァイスが言った。中身は格好良いのだが、残念ながら今はただの薄汚れた熊だ。
「バイクは後回しにしなきゃ、ですねっ!」
ソフィア(通常テンション)が、臨戦態勢に入る。
ユグディラを追跡してきたハンター達と、突然現れた歪虚の戦いが始まった。
だが、戦闘の最中、ユグディラは姿を消していた……。
●夜の少女達
「来ないですね……」
ルカ(ka0962)はユグディラの来そうな所で、罠を張って待ち構えていたのだが、日が暮れてもユグディラは来なかった。
仕方がないので自分から探しに行くことにした。
「これで会えなかったら帰ろう……」
潮騒を聞きながら、夜の港町を歩く。
そして海の見える公園にさしかかった頃。
何かがいる。
もしかしたらと思い、近づいてみる。
「しーーーーーっ!」
誰かいた。
近づいて見ると、女の子がいた。
「ただいまねこさんはおやすみ中ですの」
女の子……チョココ(ka2449)は唇に指を当てて、囁くようにルカに言った。
頭上では、パルムのパルパルが同じポーズをとっている。
そして、その周りでは猫が三匹、寝ているようだった。
事情を察したルカの表情は輝いた。
ユグディラに会えた! しかも逃げない!
ルカは近寄って、ユグディラの愛らしい寝顔を眺めながら、その柔らかな毛並みを撫でた。
チョココの方はというと、ユグディラを起こさないように気づかいながらも、お腹を撫でたり、肉球をぷにぷにしたりしている。
天国だった。
「あっ……ここにいたんだ?!」
ミコトが姿を現した。ルドルフとトルステン(ちょっと疲れた顔)も一緒だ。
笑顔で輪の中に入るミコト。少女たちは自分達と同じ猫をもふりたい気持ちを感じ取ったのか、ミコトを招き入れる。
猫を愛でる会、開催。
「俺の金づるぁぁぁぁ!!!」
「私の話を聞きなさい!!!」
「うにゃー! うっ……う……うにゃあああー!!!」
唐突に狼、誠一、黒の夢が一度に飛び込んできた。
「「「駄目ぇぇぇーーー!!!」」」
猫を守るように立ちはだかる、ルカ・チョココ・ミコト。
猫をもふりたい気持ちが、三人の女子力を極限まで高める!
果てしないエネルギーが発生し……
女子力の高まりがビッグバンを起こした(※演出です)!
「「「うわあああーーー!!!」」」
狼、誠一、黒の夢はなす術もなく吹き飛ばされる。
「こうなったら仕方がありません……」
上半身を起こし、誠一が言った。
「もう何も言わないのでもふらせて下さい」
「いいですけど……」
ルカが許可する。この後、誠一は思う存分猫をもふった。
「最後のはなんで突っ込んできたんだ?」
「うなっ!」
トルステンが黒の夢を見て言った。心なしかまだ元気そうだ。
「なんとなくじゃないかな」
「なんとなくねぇ……」
ルドルフの意見。そういうことにしておこうとトルステンは思った。
一方、港で歪虚と戦った一行はというと、
海岸で皆で焚き火を囲んで、Uiscaの指揮で猫にまつわる歌をメドレーで合唱していた。
歌っているのは「なんとなく大団円っぽいので」という理由からだが、集まっているのはヒーリングスフィアで怪我の治療をするためだ。
ちなみに歪虚は弱かった。怪我の大半は猫のせいだ(トミヲ以外)。
「池には落ちるしバイクは見つからないしもふれないし散々なのじゃ!」
星輝が今日一日を端的に述べた。歌わなければやってられないということらしい。
ぜんぜん大団円じゃない。
「これだけの精鋭が揃っていて……」
ヘザーが悔しがる。あのあと合流したのだ。
結論。
猫、最強。
そうしてハンター達の長い戦いは終わった……。
「あのー、ヘザーさん?」
「はい」
呼ばれて振り向くと、マコトだった。
バイクを押している。
「そこの公園に停めてありましたけど……」
「私のか!」
「猫がいたので間違いないと思います」
猫を愛でる人々もいた。ちゃんと持っていく許可は得ている。
「ありがとう! ありがとう!!」
マコトの手を取って何度も頭を下げるヘザー。
「バイク、大切に乗ってあげて下さいね」
マコトは笑顔でそう言った。
「皆もありがとう!」
そして、ヘザーは集まったハンター一人一人に対して、頭を下げた。
ハンター達は長い戦いの末、
(猫が疲れて寝たので)
無事目的を果たしたのだった。
「これで終わりとは笑わせる。なぜ終わるのだ?!」
しかし、まだ引っ張る。
「まだ、猫を、もふっていない」
ハンター達(の一部)は事件解決のテンションから、燃えていた。
「行こう! ヴァルハラへ!」
この後、希望者はいまだ公園に留まっているユグディラのもとへ行き、思う存分もふり倒したのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/29 20:27:55 |
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質問板………? ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 |
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もしかしたら相談卓 紅薔薇(ka4766) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/06/29 21:22:58 |