ゲスト
(ka0000)
小さきものの勇気
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/17 22:00
- 完成日
- 2014/07/21 11:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
手に手を取って逃げる二人。
その後を恐ろしいものが追いかけていた。
逃げているのは子供だ。男の子が女の子の手を引いて走っている。かれらを追いかけるのは、血走った目の醜い顔をした亜人。
ゴブリンだ。
大きな鉈を手にして、訳のわからない言葉で喚きながら、追いかけてくる。
子供達は必死になって逃げていたが、やがて、女の子のほうが転んだ。
それを見た男の子は、女の子の前に立ちはだかった。
「僕が囮になる」
やっとのことで上体を起こした女の子に、男の子は言った。
「助けを呼びに行くんだ!」
そして、道端に落ちていた石をつかむと、ゴブリンに向かって投げつけた。
ゴブリンは鼻にそれをぶつけられ、意味不明な言葉でわめいた。
男の子は女の子から離れるように走った。ゴブリンはそれを追いかけていく。
ようやく立ち上がった女の子は、しばし呆然とその様子を眺めていた。
一人の婦人が少女を伴ってハンターズソサエティを訪れていた。
いかにも急いだ様子で、彼女の依頼は実際火急の案件だった。
リゼリオからそう遠くない湖、そこにある離れ小島に少年団がピクニックに行った。
そこにゴブリンが現れたという。
島には船がなければ行き来出来ない。少年団の子供達は引率の大人も含めて誰も帰っていない。ただ一人だけを除いて。
それが婦人の娘――彼女が連れて来た女の子だった。
女の子の目には今だに涙の跡が筋を引いていた。衣服も汚れている。しかし、強い意志を込めて語った。
「キャンプ場で、みんなでご飯をつくっていたら突然そいつが現れたんです……きっとゴブリンだわ……私が見たのは八人でした……。
みんな小屋に避難したり、それかばらばらになって逃げました……そうしたらわたしと一緒に逃げた兄さんの方を追いかけてきて……わたし転んでしまって、兄さんは自分が囮になってわたしを逃がして……」
そこまでが限界だった。母親が言うには彼女は一人船で離れ小島から帰還を果たし、家まで帰って来るなり急を告げたという。
その周辺にはゴブリンの巣はない、とソサエティ職員は言う。これまで平和な場所だった。おそらくはぐれゴブリンであろう。何らかの理由で群れから追われたか、住処を失って放浪中か、といった考えを口にした。
八体は油断できない数だ。しかも一般人が危険に晒されているとなれば、時間との戦いになる。
「お願いします、兄さん達を助けてください!」
兄の生存を固く信じて、少女が頭を下げた。
その後を恐ろしいものが追いかけていた。
逃げているのは子供だ。男の子が女の子の手を引いて走っている。かれらを追いかけるのは、血走った目の醜い顔をした亜人。
ゴブリンだ。
大きな鉈を手にして、訳のわからない言葉で喚きながら、追いかけてくる。
子供達は必死になって逃げていたが、やがて、女の子のほうが転んだ。
それを見た男の子は、女の子の前に立ちはだかった。
「僕が囮になる」
やっとのことで上体を起こした女の子に、男の子は言った。
「助けを呼びに行くんだ!」
そして、道端に落ちていた石をつかむと、ゴブリンに向かって投げつけた。
ゴブリンは鼻にそれをぶつけられ、意味不明な言葉でわめいた。
男の子は女の子から離れるように走った。ゴブリンはそれを追いかけていく。
ようやく立ち上がった女の子は、しばし呆然とその様子を眺めていた。
一人の婦人が少女を伴ってハンターズソサエティを訪れていた。
いかにも急いだ様子で、彼女の依頼は実際火急の案件だった。
リゼリオからそう遠くない湖、そこにある離れ小島に少年団がピクニックに行った。
そこにゴブリンが現れたという。
島には船がなければ行き来出来ない。少年団の子供達は引率の大人も含めて誰も帰っていない。ただ一人だけを除いて。
それが婦人の娘――彼女が連れて来た女の子だった。
女の子の目には今だに涙の跡が筋を引いていた。衣服も汚れている。しかし、強い意志を込めて語った。
「キャンプ場で、みんなでご飯をつくっていたら突然そいつが現れたんです……きっとゴブリンだわ……私が見たのは八人でした……。
みんな小屋に避難したり、それかばらばらになって逃げました……そうしたらわたしと一緒に逃げた兄さんの方を追いかけてきて……わたし転んでしまって、兄さんは自分が囮になってわたしを逃がして……」
そこまでが限界だった。母親が言うには彼女は一人船で離れ小島から帰還を果たし、家まで帰って来るなり急を告げたという。
その周辺にはゴブリンの巣はない、とソサエティ職員は言う。これまで平和な場所だった。おそらくはぐれゴブリンであろう。何らかの理由で群れから追われたか、住処を失って放浪中か、といった考えを口にした。
八体は油断できない数だ。しかも一般人が危険に晒されているとなれば、時間との戦いになる。
「お願いします、兄さん達を助けてください!」
兄の生存を固く信じて、少女が頭を下げた。
リプレイ本文
●救出作戦
湖は静かに光を反射し、水面は穏やかに揺れていた。
六人のハンターが、舟で行く。行く先は湖の離れ小島だ。
穏やかな午後ではあったが、穏やかな時間を過ごそうにも過ごせない人々が居る。
今も眼前に広がる島では、ゴブリンに出会ってしまった少年団の子供達と引率者達が、恐怖に怯える時間を過ごしている。
「……行きましょう、助けないと悲しい思いが増えます」
そう言ったジョージ・ユニクス(ka0442)は人々の恐怖に共感していた。襲われる恐怖、身を震わす悲しみは自身がよく知っている。その表情は兜に隠れ、他人からは伺えない。
「自分を囮に下の子を助ける……上の子のやることは、一緒ね。だったら、そういう子には助けが来るのも一緒!」
クレール(ka0586)が口にしたのは依頼人の少女を逃がすために囮となったという、依頼人の兄のことだ。誰よりもその無事を願うのはその妹であったが、クレールもまた彼女に同調していた。
「折角のピクニックがゴブリン共の襲撃で台無しですか。気の毒に……せめて一刻も早く救出しましょう」
有屋 那津人(ka0470)もまた、真摯に語った。
……やがてボートは島の唯一の船着場へと到着した。
警戒しつつ舟から降り立つ一行。誰も一言も喋らない。
クオン・サガラ(ka0018)は姿勢を低くし、木立を利用して身を隠しながら素早く索敵行動を行う。
「敵影、無し」
安全は確認された。
「ここから先に行くと、キャンプ場があるのね」
佐藤 絢音(ka0552)は北へと伸びる道を見て、確認するように言った。
島の地理はわかっている。絢音がこれから向かう先は、そのキャンプ場だ。
クオンもそこに向かう。しかし、他の者は別だ。ここから一行は三チームに別れ、それぞれ手分けして島を探索し、この島の安全を脅かすゴブリンと、その恐怖に怯える人々を探すことになっている。
「ここからは別行動ですね。……皆さん、ご武運を」
ベル(ka0738)は一行の顔を一人ずつ見渡しながら、言った。物静かな彼だったが、その内面に燃える人々の平和と無事への願いが、彼を行動に駆り立てていた。
クオンと絢音は、まっすぐ北へ。
那津人とベルは、東回りで島を一周。
ジョージとクレールは、西回りで島を一周。
ハンター達の救出作戦が始まった。
●キャンプ場~クオンと絢音~
木々に囲まれた道を、クオンと絢音は歩を進める。警戒態勢を解かなかったが、奇襲などはなかった。
しばらく歩くと開けた場所が見えた。豊かな自然に囲まれたこの場所は近隣住民の憩いの場であり、キャンプ場としても使用される。宿泊用の小屋など様々な設備が用意されている。
音が聞こえてきた。何かを叩きつける音が、何度も何度も。
……ゴブリンが、小屋の扉に体当たりしている。
その近くにももう一体いる。小屋はあくまでも時々宿泊に使われるだけの建物だ。扉は頑丈ではない。
クオンと絢音は、ゴブリンへと近づいていく。
体当たりしていなかったほうが気づいた。しかし、その時には既に二人は覚醒状態に入っており、武器の射程圏内にも入っている。
クオンのオートマチックピストルが火を噴いた。銃弾は胴に吸い込まれ、体を大きく仰け反らせる。そこに、絢音が小柄なその身には不釣合いに大きい魔導銃の銃身を向けた。
実年齢6歳の絢音だが覚醒状態に入ったことによって外見が12歳程にまで成長し、鮮やかな彩りの幻想的な衣裳を纏っている。撃ち出されるのは弾丸であったが、その様子はまさしく魔法だった。
弾丸に胸を貫かれ、ゴブリンはその場に倒れる。
体当たりをしていた方のゴブリンは懐から石を取り出し、おぞましい掛け声とともに投げつけてきた。
弧を描いて、それは絢音の頭に直撃する。
「くっ、やってくれるの!」
痛みにもかかわらず、絢音は銃を向けた。射出された弾丸が、空気を切り裂いて飛ぶ。
――それはゴブリンの醜い目を貫いた。
だがゴブリンは種族特有の生命力を見せつけた。片目が完全に潰れていながら、身の毛もよだつような叫び声を上げ、地面に置いていた棍棒を掴み上げて襲い掛かっていく。
「成程、勉強になります」
感嘆しつつ、クオンは冷静に銃の引き金を引いた。
ゴブリンの脚が弾かれたように後ろに動き、前のめりに倒れた。それからまるで動かなかった。衝撃で絶命したのだ。
二人は周囲に敵影がないことを確認してから、小屋のドアをノックした。
助けに来たことを告げるとドアが開き、初老の男性が二人を迎えた。その周りで、不安そうな目をした男の子二人が見上げている。
「おお……我々を助けに来てくださったのですね……神よ、感謝いたします」
男性は跪き敬虔な姿勢をとった。中には、若い女がいる以外は皆子供ばかりだ。女は脚を怪我しているらしく、座っている。
「皆さん、当面の脅威は去りました。しかし脅威がすべて去ったわけではありません。これからここに防衛拠点を築きます」
クオンは堂々と彼らに述べた。
「良いですか、皆さんは一箇所に固まっていてください。決してこの小屋から出ることのないように」
誰もがクオンに従った。例外なく怯えきっている。泣いているものもあった。
クオンはバリケードを築くために材料を探しに行き、絢音はその場に残る。
扉の付近にいた男の子二人は、男性とともにドアを押さえ、ゴブリンの進入を阻むという大役を担っていたが、当面の危機が去った今、疲労を顔に出していた。
その一人が、絢音と目が合った。
「凄いな君は。僕より小さいのに、あんなのをやっつけるなんて――」
それに比べて僕は、と続けそうなトーンで、そう言った。
「男の子も女の子も泣いたりビビったりするのはダサいの、怖くてもしゃきっとするの」
対する絢音は、ぴしゃりと言ってのけた。
「あやねはかくせーしゃだからちょっとズルいけど、みんなもゴブリンくらい倒せるように強くなるの。いつも、あやね達が助けに来られる訳じゃないの、歪虚はいつどこで出てくるか分からないの。守られる側じゃなくて守る側になるの、女の子も同じなの。えっと……だんじょびょーどーなのよ?」
まだ幼さの残る、どころか幼い声で、しかし堂々と告げた。
誰かが噴出した。引率らしき女性だ。
「ハンターさんの言う通りよ。みんなで強くなりましょう」
力強い言葉。場が、少し明るくなった。
一方クオンは魔導短伝話で仲間に報告していた。相手は那津人だった。
「クオンです。こちらはキャンプ場の制圧を完了。ここにいた人たちは全員無事です。そちらは」
「こちらは……ゴブリンと遭遇しました」
通話は、すぐに切られなくてはならなかった。
●東回り~那津人とベル~
「とりあえず二人でがんばってみます」
那津人は通話を切った。ここは管理棟と物置のあるエリアだ。物置に隠れている人がいるかもしれないと思い呼びかけた所、出てきたのはなんとゴブリンだった。
那津人がチャクラムを投げて怯ませ、その場から逃れるも、何処からかさらに二体現れて、今現在那津人とベルは三体のゴブリンを相手にしていた。
そこで伝話がかかってきたのだった。
相手のほうが一人多く、少々分が悪い。
だが、ベルは怯まなかった。
これは無力な人々を守るための戦いであり、それは自分の望むところだからだ。
そして、那津人は――高揚していた。
実のところ、こういった場で求められる正義感は上っ面だけを取り繕っていたにすぎず、行動原理というには程遠い。
リアルブルーでは望まぬ日常を送っていた彼にとって、戦闘という非日常は魅惑的なものだった。
ベクトルは違えど傷つくことは厭わない二人。相手は強敵であったが、臆せずに戦った。
ベルの繰り出す何度目かのアルケミストクローがゴブリンの心臓を貫き、那津人のナイフがゴブリンの動脈をかき切り、そして最後の一体を死力を尽くして倒した頃には、二人とも傷だらけの身になっていたが――彼等の勝利であった。
「やったあ!」「すげぇぜ!」
突然頭上から声が聞こえた。見ると、管理棟の屋根から、三人の子供が顔を出している。
男の子が二人、女の子が一人。
先に下りた男の子二人が女の子が降りるのを支えているのを見ると、女の子が二人の上に君臨している力関係が見て取れた。
「君たち! 怪我はない?!」
ベルが呼びかけると、女の子が笑って応えた。
「ええ、おかげさまでね!」
明るい、利発そうな少女だ。大人相手でも物怖じしていない。
ベルが子供達を気遣う一方で、那津人は周囲を警戒する。
――敵の姿はなかった。
二人は顔を見合わせ、互いに頷いた。
「さあ、安全なところまで避難しましょう」
「「うん!」」
促すベルに、男の子二人が元気よく返事をする。
「――絶対に守るから」
ベルは、世界の平和を守り人々を安心させたいという願いを、再認識する。
その思いはまさしく、この子供達のような力を持たない存在に向けてのものだ。
「キャンプ場まで行きましょう、有屋さん」
那津人はうなづく。
その様子を眺めていた女の子は、ベルと那津人を何度も見比べるようにして、それから、屈託のない笑顔で二人を見上げて言った。
「ありがとう、助かったわ! 感謝してる。これであなた達は、このわたしの命の恩人。大変な事なのよ! 忘れないでね」
命を助け、感謝される資格がある。
この仕事には、そういう側面があった。
●西回り~ジョージとクレール~
木々が生い茂り薄暗く、飛び交うのは虫ばかりだ。人はいない。
ここは島の西側、傾斜のきつい下り坂を降りきった所だ。
そこに、少年が一人倒れていた。
彼はゴブリンから逃げる途中で坂道を転がり落ちてしまった。
脚を動かすと激しく痛み、立てない。
少年は思う。妹は無事だろうか。
無事逃げて助けを呼んでくれたのだろうか。
「神様、助けて下さい……」
一人、声に出し祈る。
その時、足音のような草を踏みしめる音が聞こえてきた。
ゴブリンが来たのだろうか。ならば逃げられない。いや、もしかしたら妹が呼んでくれた助けが来たのかもしれない。
恐れと期待の入り混じった気持ちで、視線を巡らす。
目に入ったのは、ゴブリンだった。
三体もいる。醜悪な顔に残忍な表情を浮かべて、こちらに近寄ってくる。
――祈りは届かなかったのか。
仕方がないので、せめて妹だけは無事でありますようにと、別の事を祈った。
その時、犬の吼える声が少年の耳に飛び込んできた。間髪を入れず、勇ましい声が空気を震わせた。
「お前の相手は、こっちだぁぁぁっ!!!」
ゴブリンどもが視線を巡らせる。程なくして、何処からか光の筋が閃き、一体に直撃して吹っ飛ばした。
誰かが走ってくる。それは、白き全身鎧に身を包んだ小柄な姿だった。犬を伴っている。彼はゴブリンから護るように少年の前に立ちはだかる。
「無事ですか?」
甲冑の小柄な姿――ジョージは少年に目をやる。
一方ゴブリンどもの視線は別な点に向けられていた。
そこに立つのは、クレール。アルケミストタクトを真っ直ぐに突き出している。離れた位置から大声を上げて注意を引き、機導砲で一体を撃ったのは彼女だった。
ゴブリンはジョージとクレールを見比べる。最初に機導砲を喰らった一体も立ち上がり、怒りの声をあげる。
簡単には、済みそうになかった。
「絶対に、助けるんだ!」
クレールは自分を奮起させる。
ジョージもまたグラディウスを抜き放ち、ゴブリンに向かって歩み出す。
「守護する精霊よ、敵を滅ぼす我が加護を……征き行きて罷り通る!」
ゴブリンどもは雄叫びをもって、二人の闖入者を迎えた。
ただならぬ威圧感を漂わせて近づいてくるジョージに、ゴブリンどもの攻撃は集中した。クレールはその場を死守し、機導砲で着実に狙い撃っていく。
守りの構えをとり戦うジョージだったが、三体からの攻撃を受け続けるのは生易しいものではなかった。受けた傷をマテリアルヒーリングで治療しつつ耐えるも、ダメージは蓄積していく。
だが、その闘争心を消すよりも早く、クレールの的確な射撃が続けざまに成功し、ゴブリンは一体、また一体と倒れていく。
最後の一体となったゴブリンは逃げ腰になるが、それを察したジョージが攻めに転じ、剣で胸を貫いた。
「随分と卑怯と言うかなんというか……頭の中は腐っているようですね。あ、すみません、こんな言葉を理解できるか怪しいものですが」
無様な表情で全身を痙攣させるゴブリンに、ジョージが容赦のない言葉を浴びせる。
「大丈夫!?」
クレールは急ぎ倒れている少年に駆け寄った。水を与え、手早く状態を確認する。
「怪我をしているのね……私が背負うよ」
クレールはそのための帯を準備していた。ジョージも手伝い、少年はクレールの背中に固定された。
「間に合ってよかった。彼のおかげですね」
ジョージが、自分に伴うドーベルマンを見る。かれらは小川の近くで足跡を見つけたのだが、途中で見失ってしまった。しかし途中見つけた「破けたズボンの切れ端」を嗅がせたおかげで、少年を発見することができたのだ。
「妹が助けを呼んだのですか?」
クレールの背中で、少年が聞いた。
「そっか、君はあの子のお兄さんなんだね……うん、あの子はここから出てすぐにソサエティに助けを求めに来たんだ。はやく元気な顔を見せてあげてね!」
「そうですか……良かった……」
心底、安堵した声で言う。
クレールは背中に熱い液体が滴るのを感じた。
●生きている喜び
島の中央にあるキャンプ場に、少年団員のすべてが集まっていた。
ある者は抱き合い、ある者は涙を流して、互いの無事を喜んだ。
帰り道、疲れきって一言も発さないものもいたが、そこは子供、興奮のあまり饒舌になるものも多く見られた。
島を後にし、内陸の船着場に着いた所で、一同は勢ぞろいして、ハンター達に感謝を述べた。
「このたびは私どもを救っていただき、ありがとうございます」
引率の初老の男性が、皆を代表して述べる。
「おかげで、将来のある若い命を皆守ることができました。皆に代わってお礼を申し上げます」
だが、ハンターたちは首を横に振ってこう応えた。
自分達はただ求められた責任を果たしたまでだ。
本当に賞賛されるべきは、皆を助けたいと思った一人の女の子の思いと、その子を逃すために自ら危険を被った男の子の勇気なのだと。
ハンター、それは力なき者達の剣にして盾。
小さきものが勇気を奮うならば、その力となるだろう。
人々はその姿を強くその目に焼き付けた。
湖は静かに光を反射し、水面は穏やかに揺れていた。
六人のハンターが、舟で行く。行く先は湖の離れ小島だ。
穏やかな午後ではあったが、穏やかな時間を過ごそうにも過ごせない人々が居る。
今も眼前に広がる島では、ゴブリンに出会ってしまった少年団の子供達と引率者達が、恐怖に怯える時間を過ごしている。
「……行きましょう、助けないと悲しい思いが増えます」
そう言ったジョージ・ユニクス(ka0442)は人々の恐怖に共感していた。襲われる恐怖、身を震わす悲しみは自身がよく知っている。その表情は兜に隠れ、他人からは伺えない。
「自分を囮に下の子を助ける……上の子のやることは、一緒ね。だったら、そういう子には助けが来るのも一緒!」
クレール(ka0586)が口にしたのは依頼人の少女を逃がすために囮となったという、依頼人の兄のことだ。誰よりもその無事を願うのはその妹であったが、クレールもまた彼女に同調していた。
「折角のピクニックがゴブリン共の襲撃で台無しですか。気の毒に……せめて一刻も早く救出しましょう」
有屋 那津人(ka0470)もまた、真摯に語った。
……やがてボートは島の唯一の船着場へと到着した。
警戒しつつ舟から降り立つ一行。誰も一言も喋らない。
クオン・サガラ(ka0018)は姿勢を低くし、木立を利用して身を隠しながら素早く索敵行動を行う。
「敵影、無し」
安全は確認された。
「ここから先に行くと、キャンプ場があるのね」
佐藤 絢音(ka0552)は北へと伸びる道を見て、確認するように言った。
島の地理はわかっている。絢音がこれから向かう先は、そのキャンプ場だ。
クオンもそこに向かう。しかし、他の者は別だ。ここから一行は三チームに別れ、それぞれ手分けして島を探索し、この島の安全を脅かすゴブリンと、その恐怖に怯える人々を探すことになっている。
「ここからは別行動ですね。……皆さん、ご武運を」
ベル(ka0738)は一行の顔を一人ずつ見渡しながら、言った。物静かな彼だったが、その内面に燃える人々の平和と無事への願いが、彼を行動に駆り立てていた。
クオンと絢音は、まっすぐ北へ。
那津人とベルは、東回りで島を一周。
ジョージとクレールは、西回りで島を一周。
ハンター達の救出作戦が始まった。
●キャンプ場~クオンと絢音~
木々に囲まれた道を、クオンと絢音は歩を進める。警戒態勢を解かなかったが、奇襲などはなかった。
しばらく歩くと開けた場所が見えた。豊かな自然に囲まれたこの場所は近隣住民の憩いの場であり、キャンプ場としても使用される。宿泊用の小屋など様々な設備が用意されている。
音が聞こえてきた。何かを叩きつける音が、何度も何度も。
……ゴブリンが、小屋の扉に体当たりしている。
その近くにももう一体いる。小屋はあくまでも時々宿泊に使われるだけの建物だ。扉は頑丈ではない。
クオンと絢音は、ゴブリンへと近づいていく。
体当たりしていなかったほうが気づいた。しかし、その時には既に二人は覚醒状態に入っており、武器の射程圏内にも入っている。
クオンのオートマチックピストルが火を噴いた。銃弾は胴に吸い込まれ、体を大きく仰け反らせる。そこに、絢音が小柄なその身には不釣合いに大きい魔導銃の銃身を向けた。
実年齢6歳の絢音だが覚醒状態に入ったことによって外見が12歳程にまで成長し、鮮やかな彩りの幻想的な衣裳を纏っている。撃ち出されるのは弾丸であったが、その様子はまさしく魔法だった。
弾丸に胸を貫かれ、ゴブリンはその場に倒れる。
体当たりをしていた方のゴブリンは懐から石を取り出し、おぞましい掛け声とともに投げつけてきた。
弧を描いて、それは絢音の頭に直撃する。
「くっ、やってくれるの!」
痛みにもかかわらず、絢音は銃を向けた。射出された弾丸が、空気を切り裂いて飛ぶ。
――それはゴブリンの醜い目を貫いた。
だがゴブリンは種族特有の生命力を見せつけた。片目が完全に潰れていながら、身の毛もよだつような叫び声を上げ、地面に置いていた棍棒を掴み上げて襲い掛かっていく。
「成程、勉強になります」
感嘆しつつ、クオンは冷静に銃の引き金を引いた。
ゴブリンの脚が弾かれたように後ろに動き、前のめりに倒れた。それからまるで動かなかった。衝撃で絶命したのだ。
二人は周囲に敵影がないことを確認してから、小屋のドアをノックした。
助けに来たことを告げるとドアが開き、初老の男性が二人を迎えた。その周りで、不安そうな目をした男の子二人が見上げている。
「おお……我々を助けに来てくださったのですね……神よ、感謝いたします」
男性は跪き敬虔な姿勢をとった。中には、若い女がいる以外は皆子供ばかりだ。女は脚を怪我しているらしく、座っている。
「皆さん、当面の脅威は去りました。しかし脅威がすべて去ったわけではありません。これからここに防衛拠点を築きます」
クオンは堂々と彼らに述べた。
「良いですか、皆さんは一箇所に固まっていてください。決してこの小屋から出ることのないように」
誰もがクオンに従った。例外なく怯えきっている。泣いているものもあった。
クオンはバリケードを築くために材料を探しに行き、絢音はその場に残る。
扉の付近にいた男の子二人は、男性とともにドアを押さえ、ゴブリンの進入を阻むという大役を担っていたが、当面の危機が去った今、疲労を顔に出していた。
その一人が、絢音と目が合った。
「凄いな君は。僕より小さいのに、あんなのをやっつけるなんて――」
それに比べて僕は、と続けそうなトーンで、そう言った。
「男の子も女の子も泣いたりビビったりするのはダサいの、怖くてもしゃきっとするの」
対する絢音は、ぴしゃりと言ってのけた。
「あやねはかくせーしゃだからちょっとズルいけど、みんなもゴブリンくらい倒せるように強くなるの。いつも、あやね達が助けに来られる訳じゃないの、歪虚はいつどこで出てくるか分からないの。守られる側じゃなくて守る側になるの、女の子も同じなの。えっと……だんじょびょーどーなのよ?」
まだ幼さの残る、どころか幼い声で、しかし堂々と告げた。
誰かが噴出した。引率らしき女性だ。
「ハンターさんの言う通りよ。みんなで強くなりましょう」
力強い言葉。場が、少し明るくなった。
一方クオンは魔導短伝話で仲間に報告していた。相手は那津人だった。
「クオンです。こちらはキャンプ場の制圧を完了。ここにいた人たちは全員無事です。そちらは」
「こちらは……ゴブリンと遭遇しました」
通話は、すぐに切られなくてはならなかった。
●東回り~那津人とベル~
「とりあえず二人でがんばってみます」
那津人は通話を切った。ここは管理棟と物置のあるエリアだ。物置に隠れている人がいるかもしれないと思い呼びかけた所、出てきたのはなんとゴブリンだった。
那津人がチャクラムを投げて怯ませ、その場から逃れるも、何処からかさらに二体現れて、今現在那津人とベルは三体のゴブリンを相手にしていた。
そこで伝話がかかってきたのだった。
相手のほうが一人多く、少々分が悪い。
だが、ベルは怯まなかった。
これは無力な人々を守るための戦いであり、それは自分の望むところだからだ。
そして、那津人は――高揚していた。
実のところ、こういった場で求められる正義感は上っ面だけを取り繕っていたにすぎず、行動原理というには程遠い。
リアルブルーでは望まぬ日常を送っていた彼にとって、戦闘という非日常は魅惑的なものだった。
ベクトルは違えど傷つくことは厭わない二人。相手は強敵であったが、臆せずに戦った。
ベルの繰り出す何度目かのアルケミストクローがゴブリンの心臓を貫き、那津人のナイフがゴブリンの動脈をかき切り、そして最後の一体を死力を尽くして倒した頃には、二人とも傷だらけの身になっていたが――彼等の勝利であった。
「やったあ!」「すげぇぜ!」
突然頭上から声が聞こえた。見ると、管理棟の屋根から、三人の子供が顔を出している。
男の子が二人、女の子が一人。
先に下りた男の子二人が女の子が降りるのを支えているのを見ると、女の子が二人の上に君臨している力関係が見て取れた。
「君たち! 怪我はない?!」
ベルが呼びかけると、女の子が笑って応えた。
「ええ、おかげさまでね!」
明るい、利発そうな少女だ。大人相手でも物怖じしていない。
ベルが子供達を気遣う一方で、那津人は周囲を警戒する。
――敵の姿はなかった。
二人は顔を見合わせ、互いに頷いた。
「さあ、安全なところまで避難しましょう」
「「うん!」」
促すベルに、男の子二人が元気よく返事をする。
「――絶対に守るから」
ベルは、世界の平和を守り人々を安心させたいという願いを、再認識する。
その思いはまさしく、この子供達のような力を持たない存在に向けてのものだ。
「キャンプ場まで行きましょう、有屋さん」
那津人はうなづく。
その様子を眺めていた女の子は、ベルと那津人を何度も見比べるようにして、それから、屈託のない笑顔で二人を見上げて言った。
「ありがとう、助かったわ! 感謝してる。これであなた達は、このわたしの命の恩人。大変な事なのよ! 忘れないでね」
命を助け、感謝される資格がある。
この仕事には、そういう側面があった。
●西回り~ジョージとクレール~
木々が生い茂り薄暗く、飛び交うのは虫ばかりだ。人はいない。
ここは島の西側、傾斜のきつい下り坂を降りきった所だ。
そこに、少年が一人倒れていた。
彼はゴブリンから逃げる途中で坂道を転がり落ちてしまった。
脚を動かすと激しく痛み、立てない。
少年は思う。妹は無事だろうか。
無事逃げて助けを呼んでくれたのだろうか。
「神様、助けて下さい……」
一人、声に出し祈る。
その時、足音のような草を踏みしめる音が聞こえてきた。
ゴブリンが来たのだろうか。ならば逃げられない。いや、もしかしたら妹が呼んでくれた助けが来たのかもしれない。
恐れと期待の入り混じった気持ちで、視線を巡らす。
目に入ったのは、ゴブリンだった。
三体もいる。醜悪な顔に残忍な表情を浮かべて、こちらに近寄ってくる。
――祈りは届かなかったのか。
仕方がないので、せめて妹だけは無事でありますようにと、別の事を祈った。
その時、犬の吼える声が少年の耳に飛び込んできた。間髪を入れず、勇ましい声が空気を震わせた。
「お前の相手は、こっちだぁぁぁっ!!!」
ゴブリンどもが視線を巡らせる。程なくして、何処からか光の筋が閃き、一体に直撃して吹っ飛ばした。
誰かが走ってくる。それは、白き全身鎧に身を包んだ小柄な姿だった。犬を伴っている。彼はゴブリンから護るように少年の前に立ちはだかる。
「無事ですか?」
甲冑の小柄な姿――ジョージは少年に目をやる。
一方ゴブリンどもの視線は別な点に向けられていた。
そこに立つのは、クレール。アルケミストタクトを真っ直ぐに突き出している。離れた位置から大声を上げて注意を引き、機導砲で一体を撃ったのは彼女だった。
ゴブリンはジョージとクレールを見比べる。最初に機導砲を喰らった一体も立ち上がり、怒りの声をあげる。
簡単には、済みそうになかった。
「絶対に、助けるんだ!」
クレールは自分を奮起させる。
ジョージもまたグラディウスを抜き放ち、ゴブリンに向かって歩み出す。
「守護する精霊よ、敵を滅ぼす我が加護を……征き行きて罷り通る!」
ゴブリンどもは雄叫びをもって、二人の闖入者を迎えた。
ただならぬ威圧感を漂わせて近づいてくるジョージに、ゴブリンどもの攻撃は集中した。クレールはその場を死守し、機導砲で着実に狙い撃っていく。
守りの構えをとり戦うジョージだったが、三体からの攻撃を受け続けるのは生易しいものではなかった。受けた傷をマテリアルヒーリングで治療しつつ耐えるも、ダメージは蓄積していく。
だが、その闘争心を消すよりも早く、クレールの的確な射撃が続けざまに成功し、ゴブリンは一体、また一体と倒れていく。
最後の一体となったゴブリンは逃げ腰になるが、それを察したジョージが攻めに転じ、剣で胸を貫いた。
「随分と卑怯と言うかなんというか……頭の中は腐っているようですね。あ、すみません、こんな言葉を理解できるか怪しいものですが」
無様な表情で全身を痙攣させるゴブリンに、ジョージが容赦のない言葉を浴びせる。
「大丈夫!?」
クレールは急ぎ倒れている少年に駆け寄った。水を与え、手早く状態を確認する。
「怪我をしているのね……私が背負うよ」
クレールはそのための帯を準備していた。ジョージも手伝い、少年はクレールの背中に固定された。
「間に合ってよかった。彼のおかげですね」
ジョージが、自分に伴うドーベルマンを見る。かれらは小川の近くで足跡を見つけたのだが、途中で見失ってしまった。しかし途中見つけた「破けたズボンの切れ端」を嗅がせたおかげで、少年を発見することができたのだ。
「妹が助けを呼んだのですか?」
クレールの背中で、少年が聞いた。
「そっか、君はあの子のお兄さんなんだね……うん、あの子はここから出てすぐにソサエティに助けを求めに来たんだ。はやく元気な顔を見せてあげてね!」
「そうですか……良かった……」
心底、安堵した声で言う。
クレールは背中に熱い液体が滴るのを感じた。
●生きている喜び
島の中央にあるキャンプ場に、少年団員のすべてが集まっていた。
ある者は抱き合い、ある者は涙を流して、互いの無事を喜んだ。
帰り道、疲れきって一言も発さないものもいたが、そこは子供、興奮のあまり饒舌になるものも多く見られた。
島を後にし、内陸の船着場に着いた所で、一同は勢ぞろいして、ハンター達に感謝を述べた。
「このたびは私どもを救っていただき、ありがとうございます」
引率の初老の男性が、皆を代表して述べる。
「おかげで、将来のある若い命を皆守ることができました。皆に代わってお礼を申し上げます」
だが、ハンターたちは首を横に振ってこう応えた。
自分達はただ求められた責任を果たしたまでだ。
本当に賞賛されるべきは、皆を助けたいと思った一人の女の子の思いと、その子を逃すために自ら危険を被った男の子の勇気なのだと。
ハンター、それは力なき者達の剣にして盾。
小さきものが勇気を奮うならば、その力となるだろう。
人々はその姿を強くその目に焼き付けた。
依頼結果
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少年団救助の相談卓 クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/17 21:00:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/12 22:51:00 |