手に手を取って逃げる二人。
　その後を恐ろしいものが追いかけていた。

　逃げているのは子供だ。男の子が女の子の手を引いて走っている。かれらを追いかけるのは、血走った目の醜い顔をした亜人。
　ゴブリンだ。
　大きな鉈を手にして、訳のわからない言葉で喚きながら、追いかけてくる。
　子供達は必死になって逃げていたが、やがて、女の子のほうが転んだ。
　それを見た男の子は、女の子の前に立ちはだかった。
「僕が囮になる」
　やっとのことで上体を起こした女の子に、男の子は言った。
「助けを呼びに行くんだ！」
　そして、道端に落ちていた石をつかむと、ゴブリンに向かって投げつけた。
　ゴブリンは鼻にそれをぶつけられ、意味不明な言葉でわめいた。
　男の子は女の子から離れるように走った。ゴブリンはそれを追いかけていく。
　ようやく立ち上がった女の子は、しばし呆然とその様子を眺めていた。



　一人の婦人が少女を伴ってハンターズソサエティを訪れていた。
　いかにも急いだ様子で、彼女の依頼は実際火急の案件だった。

　リゼリオからそう遠くない湖、そこにある離れ小島に少年団がピクニックに行った。
　そこにゴブリンが現れたという。
　島には船がなければ行き来出来ない。少年団の子供達は引率の大人も含めて誰も帰っていない。ただ一人だけを除いて。
　それが婦人の娘――彼女が連れて来た女の子だった。
　女の子の目には今だに涙の跡が筋を引いていた。衣服も汚れている。しかし、強い意志を込めて語った。
「キャンプ場で、みんなでご飯をつくっていたら突然そいつが現れたんです……きっとゴブリンだわ……私が見たのは八人でした……。
　みんな小屋に避難したり、それかばらばらになって逃げました……そうしたらわたしと一緒に逃げた兄さんの方を追いかけてきて……わたし転んでしまって、兄さんは自分が囮になってわたしを逃がして……」
　そこまでが限界だった。母親が言うには彼女は一人船で離れ小島から帰還を果たし、家まで帰って来るなり急を告げたという。
　その周辺にはゴブリンの巣はない、とソサエティ職員は言う。これまで平和な場所だった。おそらくはぐれゴブリンであろう。何らかの理由で群れから追われたか、住処を失って放浪中か、といった考えを口にした。
　八体は油断できない数だ。しかも一般人が危険に晒されているとなれば、時間との戦いになる。
「お願いします、兄さん達を助けてください！」
　兄の生存を固く信じて、少女が頭を下げた。

【目標】
少年団12名（引率の大人を含む）の保護とはぐれゴブリンの駆除

【障害】
　ゴブリン８体
　いずれも一般的な個体。
　いくつかのグループに分かれて行動している。

【舞台】
　大きな湖にある離れ小島が舞台。大きさは1.5平方km程度。
　島ひとつが公園。木々は生い茂っているが人の手の入った自然。
　この島の何処かにゴブリンと子供達、引率の大人二人がいる。
　平野部はキャンプ場になっており小屋などがある。
　島まではボートで行き来する。確実に人数分のボートはあるが、乗用馬のような大きなものは運べない。

　島は以下の六区画に分けられる。
ａｂｃ
ｄｅｆ　　
ｇｈｉ　　
　ゴブリン、引率の大人と子供達がa～iのどこかにいる。

h……船着場
e……キャンプ場。小屋が三軒。一番高い所であり見晴台がある。
f……管理棟と物置がある。
abci……遊歩道。木々に囲まれた道
g……小川
d……きつい傾斜がある
隣接した場所同士はそれぞれ通行可能。
スタート地点をhとして、一箇所ずつ探していくものとする。

　島なので舗装されていないところは歩きづらいが、木々の間も無理矢理通れないこともない。
　eにある見晴台からは、木の下は見通せないため、島の多くは木々が生い茂っているため丸見えとは行かない。キャンプ場は開けた所にあるため、全部が見通せる。

　坂上テンゼンに御座います。

　夏ですね、少年少女は色々な所に遊びに行くのにいい季節です。
　しかし歪虚が跋扈する世界ではそれも危険と隣り合わせ。
　そこでハンターの出番というわけです。

　今回は皆さんに英雄の資質を問います。

　すなわち、「行動の迅速さ」、具体的には「いかに短時間で多くの場所を探せるか」
「いかにカッコよく助けられるか」
「保護した人たちをどうするか」
「恐ろしい目にあった人たちをどう励ますか」
　を、皆さんに問いかけます。
　敵はそこまで強くはありません。とはいえ一般人にとっては危険極まりない存在で、覚醒者だって油断するべきではありません。

　是非、貴方の力で、少年少女の日常を守って下さい。