ゲスト
(ka0000)
【燭光】試行記録
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/14 07:30
- 完成日
- 2015/07/25 22:11
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●過労枠(?)ヴォール
「研究者殿もお疲れ様ですぞ」
本心から言っているようには聞こえない声が、東方から戻ってきたヴォールを労う。
「我はただの一端を担っているにすぎぬのである。それは集めて回っている汝が良くわかっている筈、カブラカン」
「ご謙遜なされますな~、研究者殿、中でもヴォール殿は博士の覚えもめでたいと聞いておりますれば」
得意の太鼓持ち口上が始まると長くなる。
「研究ができるならそれでいいのである。そんなことより用件が先である」
正直、確認してきたばかりの結界を研究したいのだが。前々から聞いている話を思うにそんな暇はないだろうと目星もつけている。
「量産した下僕共はもう運び出していたと思うが、我にまた陽の下に行けと、そういう話になるのであろう」
「ンッン~……さ~すが研究者殿。お察しの通りでございますな!」
ふざけたジェスチャーで正解だと笑うカブラカン。
「借り物の組み合わせとはいえ、試験的に作り上げた芸術品の成果を確認しなければならぬ。そのついでになら出てやらんでもないのである」
地上に降りる気も、直接手を下す気もないという、ある意味やる気のない宣言を堂々と行う。
「おお、先日お届けした貢物、有効活用なさったのですね、吾輩感無量でありますぞ!」
今度は顔を腕で覆う仕草。切り替えも早い。
「剣妃殿、そして博士殿にもご連絡しておきますぞ、吾輩もよりよい成果を楽しみにしておりますな」
やはり降ってくる声で応援されても嬉しくもなんともない……
●試作型と書いてプロトタイプと読む
「……自走速度はもう少し上昇させるべきであるかな」
眼下を移動する配下達、中でも試作型に意識を向ける。想定速度で目的地へ向かってはいるのだが、その大きさを考えるとまだ不十分なように見えた。すぐさまデバイスに情報を記入する。
何から何まで一人で研究していた頃に比べると、今は様々な補助機械があり研究は捗っている。なにより記録が非常に手軽になった。
(すべて手書き等、非効率の極み、愚かな行為なのである)
紙の品質改良ならば多少の興味はあるけれど、紙を記録媒体として見ることは馬鹿げていると考えている。
浄化術、器の体制に関わっていた頃はそんなことはまだ気にしていなかった。
効率化を唱えるようになってから、関わり方が変わっていったような気がする。
けれど結界林と警備隊について提唱した時も気にはならなかった。
更なる効率化を目指したあたりで拠点を移し、没頭しているうちに、自分以外の事は気にもならなくなった。
弟とかいう生き物が知らず存在していたし、時折訪れていたようだが、ただの雑音だった。
『詩などマテリアルの足しにもならない』
そう言ったら、それ以降は声を掛けてくることが無くなった。
面白い情報や資料が手に入るようになり、目から鱗が落ちるような体験をした。
歪虚を滅することができないのならば、共存してしまえばいい。
歪虚病を恐れる必要が無くなるに違いない。
森で怯え縮こまり、ただ衰退を待つなんて非効率的だ。
森の必要性はなくなる、なら、選択肢が増えるじゃないか。
折って削って刺して試して、
狩って捧げて使って試して、
測って潰して並べて試して、
殺して選んで繋いで試して……
『かつての研究者も地に落ちたものだ』
効率化の極み、画期的な新技術はその一言で投げ捨てられた。
完成された芸術品あってこその技術だというのに、あんな形では不完全でしかない。
作り上げた物を愚弄されたとしか考えられない。
自分のもたらしたものは、至った場所は、時代には早すぎたのだ。
けれどもう辿り着いてしまった。
更なる先があることも気づいてしまった。
進まない道など選ぶわけがない。
自分に追い付いて来ない枷など不要だ。
こんな場所には居られない。
『理解しようともしなかった事、後悔させてやるのである』
自らの体をその証として、示してやればいい。
愚かなる彼奴らが気付いた頃には全て遅くなっているはずだ。
「……そのためにも必要なデータなのである」
声に出して音となって耳が聞き取る。意識が記憶の底に沈みかけていたらしいことを知る。
「あれを実用化させたせいであろうかな」
普段は思い出しもしない過去の事だ。試験的にとはいえ、前から準備していた“とっておき”を搭載したことが切欠なのだろうと結論付け、現状を確認する。
配下達は指示通りに進んでいる。そろそろ目的地だろうか。
(……下僕共も少し使うとするのである)
大量に用意したのだ、少しくらい減っていても問題ないだろう、そもそも用意したのは自分達なのだから。
側面から試作型と正面から下僕達で挟撃と言うのも面白いだろうと思う。
「丁度良い検体も見つけたのである」
進行方向に魔導トラックが2台、自分の目的地でもあるブルーネンフーフに向かっているのが見えた。
新たな指示を飛ばしていく。移動速度なども勿論考慮に入れる。
「面白いデータになるといいのである……クックック、何を見せてもらえるのであろうな?」
●(主に)食料運ぶよ現地まで
ズシーン……ズシーン……
もう少しだけ先に進めば簡易拠点だ、そう皆が意識したあたりでその音が行軍中の皆の耳に届いた。
「気の早い輩も居たものだな」
のんびりとした声で前方へも視線を向けるカミラ。
「トウルスト型……だとは思うが、随分とまた御洒落になったものだ」
どういう意味かと問えば、見ればわかるぞと返される。
最近見かける頻度が高くなった機体……元は魔導ア-マーだったはずのパーツがトウルスト型の体、腕、もしくは脚を覆っている。
「あれなんか特に興味深いぞ、乗り込んだ時の座席部分から頭が出ている」
体がアーマーになっている一体を指し示す。確かに、正直随分と滑稽な代物だ。
彼らの速度は遅すぎず早すぎず、対峙する準備は十分に取れると思われた。
「速度をあげれば逃げ切れるかとも思ったが……簡単に拠点にはいかせてくれないようだ」
前を見ろとの声があがる。トウルスト型の足音が響くせいでつい側面方向にばかり気が向いてしまうが、確かに進行方向からも歪虚の群がこちらに向かって迫ってきていた。
「私は部下の指揮も並行するのでな、大きな作戦概要は君達に任せよう」
訓練された兵と、ハンター達の戦い方は違うものだからな。
その時、魔導トラックの上を大きな影が通り過ぎた。
「……面倒な者も居るようだがな……」
窓から上空を見上げたカミラは、その背に乗るローブ姿の人影を認めたらしかった。部下を失くした時の記憶がよぎったのかどうかは、表情からも読む事が出来なかった。
「研究者殿もお疲れ様ですぞ」
本心から言っているようには聞こえない声が、東方から戻ってきたヴォールを労う。
「我はただの一端を担っているにすぎぬのである。それは集めて回っている汝が良くわかっている筈、カブラカン」
「ご謙遜なされますな~、研究者殿、中でもヴォール殿は博士の覚えもめでたいと聞いておりますれば」
得意の太鼓持ち口上が始まると長くなる。
「研究ができるならそれでいいのである。そんなことより用件が先である」
正直、確認してきたばかりの結界を研究したいのだが。前々から聞いている話を思うにそんな暇はないだろうと目星もつけている。
「量産した下僕共はもう運び出していたと思うが、我にまた陽の下に行けと、そういう話になるのであろう」
「ンッン~……さ~すが研究者殿。お察しの通りでございますな!」
ふざけたジェスチャーで正解だと笑うカブラカン。
「借り物の組み合わせとはいえ、試験的に作り上げた芸術品の成果を確認しなければならぬ。そのついでになら出てやらんでもないのである」
地上に降りる気も、直接手を下す気もないという、ある意味やる気のない宣言を堂々と行う。
「おお、先日お届けした貢物、有効活用なさったのですね、吾輩感無量でありますぞ!」
今度は顔を腕で覆う仕草。切り替えも早い。
「剣妃殿、そして博士殿にもご連絡しておきますぞ、吾輩もよりよい成果を楽しみにしておりますな」
やはり降ってくる声で応援されても嬉しくもなんともない……
●試作型と書いてプロトタイプと読む
「……自走速度はもう少し上昇させるべきであるかな」
眼下を移動する配下達、中でも試作型に意識を向ける。想定速度で目的地へ向かってはいるのだが、その大きさを考えるとまだ不十分なように見えた。すぐさまデバイスに情報を記入する。
何から何まで一人で研究していた頃に比べると、今は様々な補助機械があり研究は捗っている。なにより記録が非常に手軽になった。
(すべて手書き等、非効率の極み、愚かな行為なのである)
紙の品質改良ならば多少の興味はあるけれど、紙を記録媒体として見ることは馬鹿げていると考えている。
浄化術、器の体制に関わっていた頃はそんなことはまだ気にしていなかった。
効率化を唱えるようになってから、関わり方が変わっていったような気がする。
けれど結界林と警備隊について提唱した時も気にはならなかった。
更なる効率化を目指したあたりで拠点を移し、没頭しているうちに、自分以外の事は気にもならなくなった。
弟とかいう生き物が知らず存在していたし、時折訪れていたようだが、ただの雑音だった。
『詩などマテリアルの足しにもならない』
そう言ったら、それ以降は声を掛けてくることが無くなった。
面白い情報や資料が手に入るようになり、目から鱗が落ちるような体験をした。
歪虚を滅することができないのならば、共存してしまえばいい。
歪虚病を恐れる必要が無くなるに違いない。
森で怯え縮こまり、ただ衰退を待つなんて非効率的だ。
森の必要性はなくなる、なら、選択肢が増えるじゃないか。
折って削って刺して試して、
狩って捧げて使って試して、
測って潰して並べて試して、
殺して選んで繋いで試して……
『かつての研究者も地に落ちたものだ』
効率化の極み、画期的な新技術はその一言で投げ捨てられた。
完成された芸術品あってこその技術だというのに、あんな形では不完全でしかない。
作り上げた物を愚弄されたとしか考えられない。
自分のもたらしたものは、至った場所は、時代には早すぎたのだ。
けれどもう辿り着いてしまった。
更なる先があることも気づいてしまった。
進まない道など選ぶわけがない。
自分に追い付いて来ない枷など不要だ。
こんな場所には居られない。
『理解しようともしなかった事、後悔させてやるのである』
自らの体をその証として、示してやればいい。
愚かなる彼奴らが気付いた頃には全て遅くなっているはずだ。
「……そのためにも必要なデータなのである」
声に出して音となって耳が聞き取る。意識が記憶の底に沈みかけていたらしいことを知る。
「あれを実用化させたせいであろうかな」
普段は思い出しもしない過去の事だ。試験的にとはいえ、前から準備していた“とっておき”を搭載したことが切欠なのだろうと結論付け、現状を確認する。
配下達は指示通りに進んでいる。そろそろ目的地だろうか。
(……下僕共も少し使うとするのである)
大量に用意したのだ、少しくらい減っていても問題ないだろう、そもそも用意したのは自分達なのだから。
側面から試作型と正面から下僕達で挟撃と言うのも面白いだろうと思う。
「丁度良い検体も見つけたのである」
進行方向に魔導トラックが2台、自分の目的地でもあるブルーネンフーフに向かっているのが見えた。
新たな指示を飛ばしていく。移動速度なども勿論考慮に入れる。
「面白いデータになるといいのである……クックック、何を見せてもらえるのであろうな?」
●(主に)食料運ぶよ現地まで
ズシーン……ズシーン……
もう少しだけ先に進めば簡易拠点だ、そう皆が意識したあたりでその音が行軍中の皆の耳に届いた。
「気の早い輩も居たものだな」
のんびりとした声で前方へも視線を向けるカミラ。
「トウルスト型……だとは思うが、随分とまた御洒落になったものだ」
どういう意味かと問えば、見ればわかるぞと返される。
最近見かける頻度が高くなった機体……元は魔導ア-マーだったはずのパーツがトウルスト型の体、腕、もしくは脚を覆っている。
「あれなんか特に興味深いぞ、乗り込んだ時の座席部分から頭が出ている」
体がアーマーになっている一体を指し示す。確かに、正直随分と滑稽な代物だ。
彼らの速度は遅すぎず早すぎず、対峙する準備は十分に取れると思われた。
「速度をあげれば逃げ切れるかとも思ったが……簡単に拠点にはいかせてくれないようだ」
前を見ろとの声があがる。トウルスト型の足音が響くせいでつい側面方向にばかり気が向いてしまうが、確かに進行方向からも歪虚の群がこちらに向かって迫ってきていた。
「私は部下の指揮も並行するのでな、大きな作戦概要は君達に任せよう」
訓練された兵と、ハンター達の戦い方は違うものだからな。
その時、魔導トラックの上を大きな影が通り過ぎた。
「……面倒な者も居るようだがな……」
窓から上空を見上げたカミラは、その背に乗るローブ姿の人影を認めたらしかった。部下を失くした時の記憶がよぎったのかどうかは、表情からも読む事が出来なかった。
リプレイ本文
●殲滅作戦
「物資の方はお任せします!」
先陣を切るマコト・タツナミ(ka1030)、ゲイルを駆るその背を追うように、試作型の足止めを見据えたユリアン(ka1664)、鳳 覚羅(ka0862)、リフィル・エクティード(ka5038)も駆けた。
「後方に離れてもらえるとなおいいな」
シャーリーン・クリオール(ka0184)が引き継ぐ。
「なるべく忘れられるようにしてもらう。こちらが攻撃する事で注意を引くさ」
「まずは任せよう」
状況は私でも見ているが、期待している。カミラの合図で魔導トラック2台がじりじりと下がっていく。
「リッターの弔いじゃ」
龍雲で駆けるヴィルマ・ネーベル(ka2549)がヴォールに対し声を張り上げる。愛馬を失くした痛みを乗せて計画をぶっ潰してやるのだと士気も高い。
七夜・真夕(ka3977)と二人、ゾンビを燃やし尽くしてやるのだと。
「一気に行くわよ」
タイミングを計る真夕が杖を掲げる。目標地点、ヴィルマの位置、そして次に自分が向かう地点。オールクリア。
「すべての力の源よ! 我が手に集いて力となれ!」
燃えるようなマテリアルが集い球となる。掌を推しだすようにゾンビへと向けた先で、弾けた。
シャーリーンの制圧射撃で形成された即席のゾンビ壁を爆発の端にして、ヴィルマが火球を撃ち出す。直後の離脱を助けるように真夕の火球が続き、漏れ出た個体はクレール(ka0586)の光線が狙い撃つ。
「数が多いから弱い、なんて甘いことはないか」
包囲といい、念の入った事だねとシャーリーン。
「あれが噂のヴォールか」
きらりと光を反射したそれが何かと、旋回飛行を続けている高速型を注視した。首の機械パーツに、撮影用のレンズが埋まっている。
(カメラ……記録用か?)
似た物を聞いたことがあるようにも思いつつ。
「アレをさっさと撤退させるには、壊すのが良いようだね」
頷きながら、クレールの胸中には怒りが湧き上がっていた。
(道を真っ直ぐ進んでないのは私も同じ……だけど!)
研究者だと聞いている。そして今目の前の敵は彼の作品だとも。好きなことを、自分の道をただ追い求めた形。その表現だけなら彼も作り手だ。けれど。
「歪虚に堕ちて、ゾンビまで使って! これが正しい道であるもんか!!」
作り手としての矜持が認める事を良しとしない。
「片っ端から! ブッ壊す!!」
「本当……嫌になるくらい多いわね」
街道脇の遮蔽物の影から、こちらに向かってくる群を見据える真夕。
(このままネーベルさんに引き付けられてくれれば)
上空を伺う。ヴォールの視点からなるべく外れなければ、狙われる。指揮官でもある敵は視野を大きくとる圧倒的優位な場所に居るのだ。だからこそ火球を投げた後はすぐに移動しなければならない。
(まばらでも、樹があってよかった)
しばらくの後、ゾンビ達が散らばり始めた。本能的ではない行動は指揮官からの指示があったことを意味する。
(指示するための声はしなかったわ)
どうやってこの統制をとっているのか。だが上空で旋回する、しかもリンドヴルムの背にいる相手をずっと見据えたままでは居られない。梢が敵の視界から真夕を隠してくれる分、真夕の視界も狭めていた。
「蹴散らすのが先よね。……再び我が手に集いて力となれ!」
その時を待ちながら、ゾンビへと専念することにした。
「面倒な策を弄する男じゃ」
しかし有効な手だ。範囲攻撃の効率が落ちる。
「追い込まれぬようにするしかないのじゃ!」
できるだけ外周から削るしかない。すぐにハンドルを切る。闘いの中、ヴィルマは動きを止めてなどいられないのだ。
「今止める!」
真夕の居る方へと動くゾンビ達に向けてシャーリーンのライフルが唸り銃弾が舞う。碧の瞳がきらりと光った。
初手でも大きな効果を出した制圧射撃が再び効果を発揮、先頭陣が止まれば後続の足がもたつく。
●とっておき
シャーリーンの放つ冷気を纏う弾丸が試椀型に傷をつける。クローの動きが遅くなった事を確認し覚羅がその隙を狙う。
「魔導アーマーの部品を流用したのか……流石に驚きだけどいささか独創性にかけるんじゃないかな?」
三角形の頂点それぞれから光が伸びる。光一つにつき一つの試作型を対象にしながら、3体の敵それぞれの特徴を見極める。
試腕型はクローの二連攻撃。しかし腕の重さが動きに癖をもたせている。
試脚型は射出口が目立ちすぎる。ビームの放出機構も内包されているはずでバランスは悪くない。ただ試腕型と同様に、脚部分への負担は大きいと見る。
(予備動作もそれを裏付けているんだよ)
足を踏ん張らなければ撃てない、その可能性を考えれば読み解ける。
その点試脚型は脚が強い。更には動きも他の二体に比べて俊敏だ。
(割り込みで盾を使われたら厄介だ)
タイミングを読まなければと更に意識を集中させ、狙いを定める。
「高みの見物とか……っ!」
覚羅と同じく試作型三体に狙いを定めながら歯を食いしばるクレール。一行に降りてこない頭上の影に、狙い落としたい感情が燃え上がる。
(射程に収めようともしないなんて、どれだけ甘く見られてっ)
降りてきたら、その機会を逃さないように。剣を研ぎ澄ますように、熱意の炎で感覚と感情を鍛えるばかりの時間だけが過ぎていく。
高速型はまだ旋回したままだ。ガトリング砲は音で、剣の尾はその予備動作と近づく気配でわかるとはいえ油断ならない。
「ゲイル、後は待っててね」
デルタレイを打ち切ったところで降車を決意する。
「頃合いであるかな」
直後マコトは、不意に頭上から降ってきた言葉に身構えた。整備工場で過ごした経験が生きたのか、機械音ばかりの中でも人の言葉を拾うことに慣れていたおかげだろうか。
咄嗟に試体型を見据える。今まで何の動きも見せていなかったはずの射出口に違和感がある。
「何か装填されて……くるよ!」
警告をと声を張り上げながら得物を構えると、マコトを纏う稲妻が鉄槌にも移り広がっていく。
(狙うは膝裏……バランスを崩せば!)
「ごめんなさい、大人しく痺れてて……ね!」
「ゾンビ共も巻き込ませるのじゃ!」
ヴィルマの声が響く中、マコトの鉄槌がスイングするのと同時。クレールがマテリアルを足から噴出させ、宙を飛んでいた。
手によく馴染むグリップを握りこみ、紋章から電撃が杖へと移る。
「狙いを……定めさせてなんか、やらないっ!」
立て続けの電撃が膝裏から、頭から、試体型を焼く。
……ゴト……ッ
揺らぐ体幹。射出口から、撃ちだされずに転がり落ちる金属の塊。先端が尖り、禍々しい紋様が施されたそれは、試体型から離れた瞬間からその気配を強くする。
瞬時にハンター達を強大なプレッシャーが襲った。
「な……んだ、これ……?」
突如体全体が重くなったように感じる。驚いたせいで振り絞るような声になったユリアンがヴォールを睨みつける。
「何をしたんだい? 随分と盛大なお出迎えのわりに独創性が無いと思っていたが……やってくれる」
覚羅の問いにも答えは返らない。ただ、動きが鈍くなったハンター達に歪虚達からの総攻撃が降り注ぐ。
試作型の放つビーム、ゾンビ達の剣撃、高速型のガトリング砲……ハンター達全員に、より接敵していた者ほど多くの攻撃が向けられることになる。
誰もが予想していなかった分、対応が遅れた。重くなった体では避ける事も難しい。最も身軽なユリアンが辛うじて、受け切れる程度。
一方的な攻撃と言ってもいいだろう。
ほんの短い時間の事が、とても長く感じる。
「っ……スキルは使えるみたいだね」
義肢へとマテリアルを収束させた覚羅は敵前から退いていた。驚きからの回復が一番早かったのだ。
「もう終わりかい」
残念そうに響かせてはいるが、この状態が継続していたら……その可能性は皆理解していた。
総攻撃が終わると同時にプレッシャーは消えていた。地に転がっていたはずの塊……楔も忽然と姿を消している。
「下がってこい! しばらく代わる!」
カミラの声が響き、師団兵達が駆けてくる。
「態勢を立て直すまではもたせて見せる」
だから早く戻ってこい。そう言って刀を構え試体型に斬りかかっている。
「あのプレッシャーは受けてないのか」
でなければ今この位置に駆けてこれるはずがない、覚羅が距離を計算し呟く。
「効果範囲が限られていたとみるべきかな」
そう考えれば辻褄が合う。
その言葉がユリアンの記憶を繋いだ。
(六式浄化結界と、浄化術の研究者……)
思い出すのは、最初にヴォールと対峙した日の事。あの時は歪虚達がその動きを制限されていた。
「改良が必要であるな。試行の意味があったと言えるのである」
声が降り、事実の欠片が一つの答えになる。
「! その逆は簡単だったってことかよ……っ!」
汚染結界とでも呼ぶべき術を完成させたということか、あいつは!
●立て直し
「すり抜けて来るんだ……!」
囲まれた仲間の後退経路確保のため、シャーリーンが最後に残していた制圧射撃をゾンビ達に向ける。
「道を開けるのじゃ!」」
「猛き雷神よ! 汝の力の一端をもちて我が敵を撃て!」
ヴィルマと真夕のライトニングボルトが重なる。
「私達も居ますから、早く!」
猛攻の中でもダメージが少ないクレールとユリアンは乱戦の中に残る。試作型は彼らとカミラが、ゾンビ達を師団兵達が。即席の陣形が長くもつかは、彼らにかかっている。
聖導士のマテリアルがハンター達を包んでいく。彼女の回復手段を全て使い切らなければならないほどの負傷。
「前より強化されておった気がするのじゃ」
前よりも掃射弾数が増えていた。剣の尾も強力になっている可能性は否めない。
零れ出てくるゾンビを撃ち、回復中の仲間の元に届かせないために壁となったヴィルマは思う。苦い経験を活かし装備を厚くしたこと、友の祈りもあり自身の傷は浅い。
(早く立て直さねば、悪循環になるばかりじゃ)
一手、切欠を作らなければと気が急いてしまう。試体型からもう一度、厄介な弾が撃ちだされる気配がないことが救いだろうか……
「荷物は死守すべし! ですよね!」
身の丈よりも長い物干し竿、その柄をずっと離さないままのリフィル。握りこむ拳が震えている。
「初めてのお仕事ですが……初めてだからこそ! 邪魔にならない様にって意気込みだったんです!」
足を引っ張らないように、せめてもの足しにと用意していたマテリアルヒーリングも全て使い切った。その意味でも後はない。でも。
「役に立てないまま、服だってボロボロにされたまま終わっちゃうなんて悔しいです! 色々踏ん張ってでも全力で頑張ります! 頑張りたいです……!」
今戦っている者達を見据え、増えていく彼らの傷を視界に収める。
「先に戻る。物資の護衛に戻って貰わねばならない」
いち早く回復した覚羅が戦線に戻っていく。
「気合だーっ!!!」
後に続こうと、駆けた。
戻りながら敵の勢力を確認するマコト。
ゾンビは減っている、試作型も、少なく見積もっても半分は削れている印象だ。
(少しでもダメージ与えなきゃ)
より皆が戦いやすくなるように、敵の手が止まる機会が増えるように。マコトも戦い続けることを選ぶ。
「それが私の役目だよ!」
何度でも痺れさせてやるんだから!
●切欠
勢いと力を籠めて物干し竿を振り抜いていく。その間、何度も視界を暗くする影が妙に嫌になる。
(これがありました!)
懐に忍ばせていた鉄パイプを取り出すリフィル。挑発になる、本能的にそう思った。だから神経を研ぎ澄ます。脚と、パイプを握る手にマテリアルが集まっていく。
「いっけぇーーーっ!」
高速型に向けて上空へと投げた……が、届かない。
「身に反し不屈の刃(ギャップホルダー)……と言うところであるな」
視界には捉えたようだ。呆れが混じる声音。けれど。
「その気概の代価は払ってやってもいいのである」
飛影がリフィル達に迫ると同時に、尾が曲がる。
それこそ待ち望んでいた好機。
クレールの狙いが、試作型から高速型のカメラ、そしてヴォールへと変わる。けれどあくまでも布石。
(防御障壁を使ってみろ!)
薙ぎ払う態勢に入った高速型は絶好の的だ。
「ヴィルマさん、七夜さん! カメラ破壊の本命お願いします!」
「データなんぞとっても無駄じゃよ。そんなもの記録や数値でしかない。その眼でしかと見た方がより確実じゃよ!」
「今、無駄にしてあげる!」
予想に反しヴォールの動きは落ち着いていた。手元のデバイス、コンソールと側面に触れるような動き。
次いで現れた障壁が護るのはヴォールだけ。薙ぎ払いと同時に、刺し違えるように。カメラの破壊された音が戦場に響く。
「目の付け所は悪くないのである、眩しき鉄の(トライアル)……」
「ユリアンさん! 今ですっ!」
遮るクレールの声。的はまだ近い。好機はまだ終わっていないのだから。
試脚型を駆けあがっていたユリアンが跳躍している。幾重にも、タイミングを少しずつずらした結果。それまで捉える事が難しかった高速型に、指揮官に。ハンター達の手が届いた瞬間。
「誰が、あんたを今に導いた?」
高速型は不規則な軌道で駆け続ける。辛うじて捕まり、サーベルを突き立て留まるユリアン。
猶予は短い。ヴォールには専用の固定台があり、悠々と見下ろしている。
「導かれた? 我は我の求めるまま在るのである」
「盗んだものばかりで結局継ぎ接ぎだけの技術じゃないか……っ、前例をなぞるばかりでさ」
「広く集めてこそ。新は既知ありきであろう。無知の怠慢こそ効率を貶める」
何を言っても無駄なのか、ちらりと諦めが脳裏をかすめる。
振り返る切欠になるなら、完全に見失う前に大事なことを取り戻せるなら。
(もし、戻る道があるなら)
止めるだけではない、引き戻せる可能性があるかを見極めるため、これだけは。
「シャイネさんはまだ、諦めていないよ」
浄化術と正反対の力を、完成させているに等しいこの男にその道が残されているのか?
「ハッ? 血や情が何を成す? あの愚弟がこの道に明るいならともかく、面白いことを言うのである」
その言葉を最後に振り落とされる。衝撃は風が和らげたけれど。
地上では闘いが続いている。
回復が見込めない中で疲労も早い。対する相手は数こそ減ってはいるものの、疲労無き機械とゾンビの体。 スキルも尽き持久戦だ。いつ誰が倒れてもおかしくない。
風向きが変わったのは試体型が倒れた瞬間だ。既に剣機の一部となっていたアーマーパーツも、跡形も残らず消えていく。
「これ以上は損害だけであるな」
傍観態勢に戻っていたヴォールが高速型の頭を巡らせ、二体の試作型も追う。その先はブルーネンフーフだ。
追う余力は無かった。ゾンビ達の殲滅を終える頃には、彼らの姿は見えなくなっていた。
「物資の方はお任せします!」
先陣を切るマコト・タツナミ(ka1030)、ゲイルを駆るその背を追うように、試作型の足止めを見据えたユリアン(ka1664)、鳳 覚羅(ka0862)、リフィル・エクティード(ka5038)も駆けた。
「後方に離れてもらえるとなおいいな」
シャーリーン・クリオール(ka0184)が引き継ぐ。
「なるべく忘れられるようにしてもらう。こちらが攻撃する事で注意を引くさ」
「まずは任せよう」
状況は私でも見ているが、期待している。カミラの合図で魔導トラック2台がじりじりと下がっていく。
「リッターの弔いじゃ」
龍雲で駆けるヴィルマ・ネーベル(ka2549)がヴォールに対し声を張り上げる。愛馬を失くした痛みを乗せて計画をぶっ潰してやるのだと士気も高い。
七夜・真夕(ka3977)と二人、ゾンビを燃やし尽くしてやるのだと。
「一気に行くわよ」
タイミングを計る真夕が杖を掲げる。目標地点、ヴィルマの位置、そして次に自分が向かう地点。オールクリア。
「すべての力の源よ! 我が手に集いて力となれ!」
燃えるようなマテリアルが集い球となる。掌を推しだすようにゾンビへと向けた先で、弾けた。
シャーリーンの制圧射撃で形成された即席のゾンビ壁を爆発の端にして、ヴィルマが火球を撃ち出す。直後の離脱を助けるように真夕の火球が続き、漏れ出た個体はクレール(ka0586)の光線が狙い撃つ。
「数が多いから弱い、なんて甘いことはないか」
包囲といい、念の入った事だねとシャーリーン。
「あれが噂のヴォールか」
きらりと光を反射したそれが何かと、旋回飛行を続けている高速型を注視した。首の機械パーツに、撮影用のレンズが埋まっている。
(カメラ……記録用か?)
似た物を聞いたことがあるようにも思いつつ。
「アレをさっさと撤退させるには、壊すのが良いようだね」
頷きながら、クレールの胸中には怒りが湧き上がっていた。
(道を真っ直ぐ進んでないのは私も同じ……だけど!)
研究者だと聞いている。そして今目の前の敵は彼の作品だとも。好きなことを、自分の道をただ追い求めた形。その表現だけなら彼も作り手だ。けれど。
「歪虚に堕ちて、ゾンビまで使って! これが正しい道であるもんか!!」
作り手としての矜持が認める事を良しとしない。
「片っ端から! ブッ壊す!!」
「本当……嫌になるくらい多いわね」
街道脇の遮蔽物の影から、こちらに向かってくる群を見据える真夕。
(このままネーベルさんに引き付けられてくれれば)
上空を伺う。ヴォールの視点からなるべく外れなければ、狙われる。指揮官でもある敵は視野を大きくとる圧倒的優位な場所に居るのだ。だからこそ火球を投げた後はすぐに移動しなければならない。
(まばらでも、樹があってよかった)
しばらくの後、ゾンビ達が散らばり始めた。本能的ではない行動は指揮官からの指示があったことを意味する。
(指示するための声はしなかったわ)
どうやってこの統制をとっているのか。だが上空で旋回する、しかもリンドヴルムの背にいる相手をずっと見据えたままでは居られない。梢が敵の視界から真夕を隠してくれる分、真夕の視界も狭めていた。
「蹴散らすのが先よね。……再び我が手に集いて力となれ!」
その時を待ちながら、ゾンビへと専念することにした。
「面倒な策を弄する男じゃ」
しかし有効な手だ。範囲攻撃の効率が落ちる。
「追い込まれぬようにするしかないのじゃ!」
できるだけ外周から削るしかない。すぐにハンドルを切る。闘いの中、ヴィルマは動きを止めてなどいられないのだ。
「今止める!」
真夕の居る方へと動くゾンビ達に向けてシャーリーンのライフルが唸り銃弾が舞う。碧の瞳がきらりと光った。
初手でも大きな効果を出した制圧射撃が再び効果を発揮、先頭陣が止まれば後続の足がもたつく。
●とっておき
シャーリーンの放つ冷気を纏う弾丸が試椀型に傷をつける。クローの動きが遅くなった事を確認し覚羅がその隙を狙う。
「魔導アーマーの部品を流用したのか……流石に驚きだけどいささか独創性にかけるんじゃないかな?」
三角形の頂点それぞれから光が伸びる。光一つにつき一つの試作型を対象にしながら、3体の敵それぞれの特徴を見極める。
試腕型はクローの二連攻撃。しかし腕の重さが動きに癖をもたせている。
試脚型は射出口が目立ちすぎる。ビームの放出機構も内包されているはずでバランスは悪くない。ただ試腕型と同様に、脚部分への負担は大きいと見る。
(予備動作もそれを裏付けているんだよ)
足を踏ん張らなければ撃てない、その可能性を考えれば読み解ける。
その点試脚型は脚が強い。更には動きも他の二体に比べて俊敏だ。
(割り込みで盾を使われたら厄介だ)
タイミングを読まなければと更に意識を集中させ、狙いを定める。
「高みの見物とか……っ!」
覚羅と同じく試作型三体に狙いを定めながら歯を食いしばるクレール。一行に降りてこない頭上の影に、狙い落としたい感情が燃え上がる。
(射程に収めようともしないなんて、どれだけ甘く見られてっ)
降りてきたら、その機会を逃さないように。剣を研ぎ澄ますように、熱意の炎で感覚と感情を鍛えるばかりの時間だけが過ぎていく。
高速型はまだ旋回したままだ。ガトリング砲は音で、剣の尾はその予備動作と近づく気配でわかるとはいえ油断ならない。
「ゲイル、後は待っててね」
デルタレイを打ち切ったところで降車を決意する。
「頃合いであるかな」
直後マコトは、不意に頭上から降ってきた言葉に身構えた。整備工場で過ごした経験が生きたのか、機械音ばかりの中でも人の言葉を拾うことに慣れていたおかげだろうか。
咄嗟に試体型を見据える。今まで何の動きも見せていなかったはずの射出口に違和感がある。
「何か装填されて……くるよ!」
警告をと声を張り上げながら得物を構えると、マコトを纏う稲妻が鉄槌にも移り広がっていく。
(狙うは膝裏……バランスを崩せば!)
「ごめんなさい、大人しく痺れてて……ね!」
「ゾンビ共も巻き込ませるのじゃ!」
ヴィルマの声が響く中、マコトの鉄槌がスイングするのと同時。クレールがマテリアルを足から噴出させ、宙を飛んでいた。
手によく馴染むグリップを握りこみ、紋章から電撃が杖へと移る。
「狙いを……定めさせてなんか、やらないっ!」
立て続けの電撃が膝裏から、頭から、試体型を焼く。
……ゴト……ッ
揺らぐ体幹。射出口から、撃ちだされずに転がり落ちる金属の塊。先端が尖り、禍々しい紋様が施されたそれは、試体型から離れた瞬間からその気配を強くする。
瞬時にハンター達を強大なプレッシャーが襲った。
「な……んだ、これ……?」
突如体全体が重くなったように感じる。驚いたせいで振り絞るような声になったユリアンがヴォールを睨みつける。
「何をしたんだい? 随分と盛大なお出迎えのわりに独創性が無いと思っていたが……やってくれる」
覚羅の問いにも答えは返らない。ただ、動きが鈍くなったハンター達に歪虚達からの総攻撃が降り注ぐ。
試作型の放つビーム、ゾンビ達の剣撃、高速型のガトリング砲……ハンター達全員に、より接敵していた者ほど多くの攻撃が向けられることになる。
誰もが予想していなかった分、対応が遅れた。重くなった体では避ける事も難しい。最も身軽なユリアンが辛うじて、受け切れる程度。
一方的な攻撃と言ってもいいだろう。
ほんの短い時間の事が、とても長く感じる。
「っ……スキルは使えるみたいだね」
義肢へとマテリアルを収束させた覚羅は敵前から退いていた。驚きからの回復が一番早かったのだ。
「もう終わりかい」
残念そうに響かせてはいるが、この状態が継続していたら……その可能性は皆理解していた。
総攻撃が終わると同時にプレッシャーは消えていた。地に転がっていたはずの塊……楔も忽然と姿を消している。
「下がってこい! しばらく代わる!」
カミラの声が響き、師団兵達が駆けてくる。
「態勢を立て直すまではもたせて見せる」
だから早く戻ってこい。そう言って刀を構え試体型に斬りかかっている。
「あのプレッシャーは受けてないのか」
でなければ今この位置に駆けてこれるはずがない、覚羅が距離を計算し呟く。
「効果範囲が限られていたとみるべきかな」
そう考えれば辻褄が合う。
その言葉がユリアンの記憶を繋いだ。
(六式浄化結界と、浄化術の研究者……)
思い出すのは、最初にヴォールと対峙した日の事。あの時は歪虚達がその動きを制限されていた。
「改良が必要であるな。試行の意味があったと言えるのである」
声が降り、事実の欠片が一つの答えになる。
「! その逆は簡単だったってことかよ……っ!」
汚染結界とでも呼ぶべき術を完成させたということか、あいつは!
●立て直し
「すり抜けて来るんだ……!」
囲まれた仲間の後退経路確保のため、シャーリーンが最後に残していた制圧射撃をゾンビ達に向ける。
「道を開けるのじゃ!」」
「猛き雷神よ! 汝の力の一端をもちて我が敵を撃て!」
ヴィルマと真夕のライトニングボルトが重なる。
「私達も居ますから、早く!」
猛攻の中でもダメージが少ないクレールとユリアンは乱戦の中に残る。試作型は彼らとカミラが、ゾンビ達を師団兵達が。即席の陣形が長くもつかは、彼らにかかっている。
聖導士のマテリアルがハンター達を包んでいく。彼女の回復手段を全て使い切らなければならないほどの負傷。
「前より強化されておった気がするのじゃ」
前よりも掃射弾数が増えていた。剣の尾も強力になっている可能性は否めない。
零れ出てくるゾンビを撃ち、回復中の仲間の元に届かせないために壁となったヴィルマは思う。苦い経験を活かし装備を厚くしたこと、友の祈りもあり自身の傷は浅い。
(早く立て直さねば、悪循環になるばかりじゃ)
一手、切欠を作らなければと気が急いてしまう。試体型からもう一度、厄介な弾が撃ちだされる気配がないことが救いだろうか……
「荷物は死守すべし! ですよね!」
身の丈よりも長い物干し竿、その柄をずっと離さないままのリフィル。握りこむ拳が震えている。
「初めてのお仕事ですが……初めてだからこそ! 邪魔にならない様にって意気込みだったんです!」
足を引っ張らないように、せめてもの足しにと用意していたマテリアルヒーリングも全て使い切った。その意味でも後はない。でも。
「役に立てないまま、服だってボロボロにされたまま終わっちゃうなんて悔しいです! 色々踏ん張ってでも全力で頑張ります! 頑張りたいです……!」
今戦っている者達を見据え、増えていく彼らの傷を視界に収める。
「先に戻る。物資の護衛に戻って貰わねばならない」
いち早く回復した覚羅が戦線に戻っていく。
「気合だーっ!!!」
後に続こうと、駆けた。
戻りながら敵の勢力を確認するマコト。
ゾンビは減っている、試作型も、少なく見積もっても半分は削れている印象だ。
(少しでもダメージ与えなきゃ)
より皆が戦いやすくなるように、敵の手が止まる機会が増えるように。マコトも戦い続けることを選ぶ。
「それが私の役目だよ!」
何度でも痺れさせてやるんだから!
●切欠
勢いと力を籠めて物干し竿を振り抜いていく。その間、何度も視界を暗くする影が妙に嫌になる。
(これがありました!)
懐に忍ばせていた鉄パイプを取り出すリフィル。挑発になる、本能的にそう思った。だから神経を研ぎ澄ます。脚と、パイプを握る手にマテリアルが集まっていく。
「いっけぇーーーっ!」
高速型に向けて上空へと投げた……が、届かない。
「身に反し不屈の刃(ギャップホルダー)……と言うところであるな」
視界には捉えたようだ。呆れが混じる声音。けれど。
「その気概の代価は払ってやってもいいのである」
飛影がリフィル達に迫ると同時に、尾が曲がる。
それこそ待ち望んでいた好機。
クレールの狙いが、試作型から高速型のカメラ、そしてヴォールへと変わる。けれどあくまでも布石。
(防御障壁を使ってみろ!)
薙ぎ払う態勢に入った高速型は絶好の的だ。
「ヴィルマさん、七夜さん! カメラ破壊の本命お願いします!」
「データなんぞとっても無駄じゃよ。そんなもの記録や数値でしかない。その眼でしかと見た方がより確実じゃよ!」
「今、無駄にしてあげる!」
予想に反しヴォールの動きは落ち着いていた。手元のデバイス、コンソールと側面に触れるような動き。
次いで現れた障壁が護るのはヴォールだけ。薙ぎ払いと同時に、刺し違えるように。カメラの破壊された音が戦場に響く。
「目の付け所は悪くないのである、眩しき鉄の(トライアル)……」
「ユリアンさん! 今ですっ!」
遮るクレールの声。的はまだ近い。好機はまだ終わっていないのだから。
試脚型を駆けあがっていたユリアンが跳躍している。幾重にも、タイミングを少しずつずらした結果。それまで捉える事が難しかった高速型に、指揮官に。ハンター達の手が届いた瞬間。
「誰が、あんたを今に導いた?」
高速型は不規則な軌道で駆け続ける。辛うじて捕まり、サーベルを突き立て留まるユリアン。
猶予は短い。ヴォールには専用の固定台があり、悠々と見下ろしている。
「導かれた? 我は我の求めるまま在るのである」
「盗んだものばかりで結局継ぎ接ぎだけの技術じゃないか……っ、前例をなぞるばかりでさ」
「広く集めてこそ。新は既知ありきであろう。無知の怠慢こそ効率を貶める」
何を言っても無駄なのか、ちらりと諦めが脳裏をかすめる。
振り返る切欠になるなら、完全に見失う前に大事なことを取り戻せるなら。
(もし、戻る道があるなら)
止めるだけではない、引き戻せる可能性があるかを見極めるため、これだけは。
「シャイネさんはまだ、諦めていないよ」
浄化術と正反対の力を、完成させているに等しいこの男にその道が残されているのか?
「ハッ? 血や情が何を成す? あの愚弟がこの道に明るいならともかく、面白いことを言うのである」
その言葉を最後に振り落とされる。衝撃は風が和らげたけれど。
地上では闘いが続いている。
回復が見込めない中で疲労も早い。対する相手は数こそ減ってはいるものの、疲労無き機械とゾンビの体。 スキルも尽き持久戦だ。いつ誰が倒れてもおかしくない。
風向きが変わったのは試体型が倒れた瞬間だ。既に剣機の一部となっていたアーマーパーツも、跡形も残らず消えていく。
「これ以上は損害だけであるな」
傍観態勢に戻っていたヴォールが高速型の頭を巡らせ、二体の試作型も追う。その先はブルーネンフーフだ。
追う余力は無かった。ゾンビ達の殲滅を終える頃には、彼らの姿は見えなくなっていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/09 02:54:57 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/14 01:35:39 |
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相談卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/13 23:52:23 |