ゲスト
(ka0000)
【燭光】静かな『眠り』を、再び
マスター:香月丈流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/19 07:30
- 完成日
- 2015/07/29 02:32
みんなの思い出
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オープニング
●
ゾンネンシュトラール帝国にある行政区画の1つ、シュレーベンラント州。痩せた土地が多い帝国に於いて、広大な農業地帯を有している。牧羊も盛んで、国内の『食』を支えている州……と言っても過言ではないだろう。
ただし。
『普段なら』という前提付きではあるが。
シュレーベンラント州は今、大きく揺れていた。
シャーフブルート村を皮切りに、州全域に広がった反政府運動。帝国軍は速やかに治安維持部隊を派遣したが、鎮圧の兆しは見えていない。
しかも最悪な事に、戦場には大量の雑魔が投入されていた。命も感情も持たず、生ある者を無に帰そうとする存在……ゾンビ。大半は人型だが、中には動物型の雑魔も交じっている。
知能の低い死体型雑魔でも、人の命令を聞く事は絶対にない。恐らく、高位の歪虚が加担しているのだろう。
戦争が長引けば、それだけ多くの命が失われ、マテリアルの減少にも繋がる。今回の騒動は、歪虚にとっても都合が良いのかもしれない。
疲れを知らず、負傷を恐れず、剣機で次々に輸送されてくるゾンビ達。いくら自然発生する雑魔でも、これだけの数が一気に歪虚化するだろうか?
答えは……『NO』である。
月の咲く夜、墓地で軽快に踊る男性が1人。中性的な顔立ちに、犬のように長い犬歯、肌の色は色白を通り越して『蒼白』に近い。
ゆっくりと、その男性が腕を振り上げた。親指と中指を重ね、こするように弾くと……。
パチン。
乾いた音が月夜に吸い込まれていく。と同時に、指先から『真紅の霧』のようなモノが発生。それが周囲に広がり、大地に降り注いだ。
墓地中を歩き回り、指を鳴らし続ける男性。一見すると何をしているのかサッパリだが……数十分後、答えは『土の中』から現れた。
地面が不自然に盛り上がり、死した人型の雑魔……ゾンビが這い出る。しかも、1体や2体ではなく大量に。
ここは、死者の眠る墓地。地面の下には、数々の死体が埋まっている。埋葬方法として、土葬を選んでいる地域も少なくない。
土葬された死体に歪虚が力を与えたら……どうなるか。結果は、見ての通りである。
中には、腐敗が進んで骨になった存在……スケルトンも交じっているが、地面から這い出るのと同時に崩れ落ちていく。どうやら、この歪虚は『死体をゾンビにする力』はあっても、骨をスケルトンにして操る能力は無いらしい。
こうやって生み出された雑魔達は、今から剣機に乗せられてシュレーベンラントに輸送される。兵士として、帝国軍と戦うために。
そして……この歪虚は『兵士の補充』を命じられた下級歪虚の1体。上級歪虚達にとっては、都合の良い駒でしかない。悲しき駒は兵力を求め、帝国内の墓地を荒らし続けていた。
ゾンネンシュトラール帝国にある行政区画の1つ、シュレーベンラント州。痩せた土地が多い帝国に於いて、広大な農業地帯を有している。牧羊も盛んで、国内の『食』を支えている州……と言っても過言ではないだろう。
ただし。
『普段なら』という前提付きではあるが。
シュレーベンラント州は今、大きく揺れていた。
シャーフブルート村を皮切りに、州全域に広がった反政府運動。帝国軍は速やかに治安維持部隊を派遣したが、鎮圧の兆しは見えていない。
しかも最悪な事に、戦場には大量の雑魔が投入されていた。命も感情も持たず、生ある者を無に帰そうとする存在……ゾンビ。大半は人型だが、中には動物型の雑魔も交じっている。
知能の低い死体型雑魔でも、人の命令を聞く事は絶対にない。恐らく、高位の歪虚が加担しているのだろう。
戦争が長引けば、それだけ多くの命が失われ、マテリアルの減少にも繋がる。今回の騒動は、歪虚にとっても都合が良いのかもしれない。
疲れを知らず、負傷を恐れず、剣機で次々に輸送されてくるゾンビ達。いくら自然発生する雑魔でも、これだけの数が一気に歪虚化するだろうか?
答えは……『NO』である。
月の咲く夜、墓地で軽快に踊る男性が1人。中性的な顔立ちに、犬のように長い犬歯、肌の色は色白を通り越して『蒼白』に近い。
ゆっくりと、その男性が腕を振り上げた。親指と中指を重ね、こするように弾くと……。
パチン。
乾いた音が月夜に吸い込まれていく。と同時に、指先から『真紅の霧』のようなモノが発生。それが周囲に広がり、大地に降り注いだ。
墓地中を歩き回り、指を鳴らし続ける男性。一見すると何をしているのかサッパリだが……数十分後、答えは『土の中』から現れた。
地面が不自然に盛り上がり、死した人型の雑魔……ゾンビが這い出る。しかも、1体や2体ではなく大量に。
ここは、死者の眠る墓地。地面の下には、数々の死体が埋まっている。埋葬方法として、土葬を選んでいる地域も少なくない。
土葬された死体に歪虚が力を与えたら……どうなるか。結果は、見ての通りである。
中には、腐敗が進んで骨になった存在……スケルトンも交じっているが、地面から這い出るのと同時に崩れ落ちていく。どうやら、この歪虚は『死体をゾンビにする力』はあっても、骨をスケルトンにして操る能力は無いらしい。
こうやって生み出された雑魔達は、今から剣機に乗せられてシュレーベンラントに輸送される。兵士として、帝国軍と戦うために。
そして……この歪虚は『兵士の補充』を命じられた下級歪虚の1体。上級歪虚達にとっては、都合の良い駒でしかない。悲しき駒は兵力を求め、帝国内の墓地を荒らし続けていた。
リプレイ本文
●
夜気を含んだ風が、草花を揺らしながら通り抜けていく。三日月が淡い光を放つ中、覚醒者達は墓地の草場に身を隠していた。
数日前から頻発している、謎の墓荒らし。その正体は雑魔であり、遺体をゾンビに変えて自軍の『戦力』として再利用していた。
既に数ヶ所の墓地が被害に遭い、無残に荒らされている。それが『規模の大きい順』という法則を発見し、ハンター達は次に狙われるであろう墓地で待機。いつ現れるか分からない雑魔を警戒し、既に数時間が過ぎようとしていた。
「墓場にゾンビですか……夏ですし、B級ホラー映画のようですね」
周囲を見渡しながら、山本 一郎(ka4957)が呟く。ホラーと言えば、墓場やゾンビが定番である。齢50の一郎は、転移前にリアルブルーで映画を見たのだろう。
「その気持ち、分かりますよ。情報を聞く限り、雑魔はまるで映画の吸血鬼伯爵ですよね」
一郎に同意し、柔らかく微笑む佐久間 恋路(ka4607)。ゾンビを生み出す雑魔は吸血鬼のような外見をしているらしい。今の処、被害者は出ていないが……もしかしたら、映画のように血を吸われるかもしれない。
若干リラックスしている2人とは対照的に、日下 菜摘(ka0881)の周囲には張り詰めた空気が流れている。
「死者の安らかな眠りを妨げようとは……流石は歪虚です。きちんと、ここで殲滅しなくてはなりませんね」
普段はほんわかしたメガネ美人だが、正義感や責任感は人一倍強い。表には出していないが、心の中では『死者を悪用する雑魔』に対する怒りが炎のように燃え上がっていた。
「うむ。いくら寛容なボクでも、奴らの不届きな行いは見過ごせないからな。殲滅には大いに賛成だ」
腕を組みながら、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が静かに頷く。身長は140cmにも満たない少女だが、纏う雰囲気は雄々しく存在感は大きい。雑魔という『悪しき者』を滅ぼすため、彼女は今日も剣を振るうのだろう。
「剣機にゃずいぶん振り回されたけど……こういうカラクリだったわけね」
溜息混じりに言葉を漏らす、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)。苦笑いを浮かべながら後頭部を掻くと、金糸のようなポニーテールがサラサラと揺れた。
外見は金髪碧眼の美少女だが……レオーネは俗に言う『男の娘』。女装好きというワケではないが、動きやすい衣服を選んだ結果、こうなっていたらしい。
「ん? 今、何か聞こえなかったか? 破裂音のような音じゃったが……」
バリトン(ka5112)の言葉に、周囲の緊張感が一気に高まる。彼は喜寿を迎えた年長者だが、15歳の頃から50年間、戦場に身を置いていた。肉体と眼光は衰える事を知らず、2mを超える長身は今でもブ厚い筋肉を纏っている。
そんな歴戦の勇士が、戦の場で音を聞き間違えるワケがない。その場に居た誰もが、耳と目に神経を集中させた。
パチン。
闇夜に響く、小さな破裂音。それは、覚醒者達が居る『墓地の入口周辺』ではなく、奥の方から聞こえてくる。
葉巻を吸っていったチマキマル(ka4372)は、溜息と共に煙を吐き出した。
(どうやら……葉巻を楽しむ時間は終わりのようだな)
歪虚『暴食』専用ハンターの彼は、音の正体に勘付いている。葉巻を捨てて踏み消すと、地面に届きそうな長さのトレンチコートを翻して走り出した。
彼の後を追うように、他のハンター達はLEDやランタンを灯して駆け出す。板状の墓石を踏まないように疾走すると、数秒もしないうちに『異形』の姿が見えてきた。
月夜に踊る、長身痩躯の青年。顔色は蒼白に近く、生気をまるで感じない。その男性が指を鳴らすと、指先から『真紅の霧』のようなモノが発生して地面に吸い込まれていく。
「居やがったな。楽しませてくれンだろうな、吸血鬼……!」
咆えるように、尾形 剛道(ka4612)が叫ぶ。と同時に、端正な顔が野獣のように歪んだ。
常に戦場や暴力の中に身を置いていた彼にとって、戦いは特別な事ではない。高揚する気持ちを抑える事なく、闘志と殺意を剥き出しにした。
「相手は一体……ですが、能力が厄介ですね。包囲して個々に当たらず、皆で対処しましょう」
走りながら、一郎が仲間達に声を掛ける。彼は大戦に参加していた事もあり、判断力は素早い上に正確。冷静に大局を見据え、行動の全てを勝利に向けている。
「ならば、少々手を貸そう。後方支援は任せてくれ」
言うが早いか、チマキマルは足を止めて杖を軽く振った。先端から魔力が放たれ、赤い光となってディアドラの長剣を包む。
仲間達をサポートするため、菜摘も止まってマテリアルを開放した。鎮魂の言葉が、穏やかなメロディーが、闇夜に広がっていく。聖なる歌声が『正ならざる命』を持つ不死系雑魔の動きを鈍らせた。
間髪入れず、ディアドラが武器を構えて大きく踏み込む。地面を蹴って更に加速し、敵の真正面から高速の刺突を繰り出した。長剣の切先が空気を斬り裂き、赤い閃光が雑魔の脇腹を貫く。
ディアドラの一撃を喰らいながらも、敵の表情は全く変わらない。負傷を気にせず、再び指を鳴らした。
剛道はピンヒールで華麗なステップを披露し、敵の側面に移動。錨に似たハンマーにマテリアルを込め、鋭い踏み込みから薙ぐような殴打を放った。
唸りを上げ、雑魔に迫る鉄槌。その軌道を読んだのか、敵は軽やかな動きで後方に跳び退いた。
追撃するように、恋路は雑魔の着地点を狙って魔導銃を発射。放たれた弾丸が炎のような光を纏い、敵の肩口を撃ち貫いた。
「墓を荒らすだけでも罰当たりなのに、屍人(ゾンビ)にしちまうなんて面倒臭い敵だぁね。ちゃっちゃと灰にしちまおう」
若干面倒そうに言葉を漏らし、時雨 凪枯(ka3786)は右手で剣を握った。マテリアルが全身を駆け巡り、黒い長髪が白く変色。その頭部に狐耳が現れ、腰の辺りから2本の狐尾が出現した。
覚醒状態になった凪枯は、武器にマテリアルを集中。狐火のような幻影と共に、輝く光の球が生み出された。その光弾が、闇を切り裂くように宙を翔る。清浄な輝きが雑魔に直撃し、衝撃が全身を打ち付けた。
彼女の逆側で、猟銃を構える一郎。狙いを定めて引金を引き、鋭い銃撃を放った。敵の死角から迫る、素早い銃弾……胸部を狙った一撃は直前で回避され、雑魔の頬を掠めた。
攻撃を避けた隙を狙うように、バリトンが迫る。半身の姿勢で試作雷撃刀を水平に構え、一気に間合いを詰めて突き出した。高速で迫る切先を、雑魔が紙一重で避ける。そのまま反撃する事なく、ハンター達から離れるように跳び退いた。
その着地地点に、レオーネの銃撃が刺さる。小さな銃から放たれた弾丸が敵の太腿を貫通し、風穴を空けた。
覚醒者達に狙われながらも、雑魔は攻撃する素振りを見せない。ハンター達を倒す事よりも、『戦力』となるゾンビの生成を優先しているようだ。
だから回避に専念し、負傷を減らしているのだろう。攻撃が命中しなかったとしても、それはハンター達の技量が低いワケではなく、雑魔の回避能力が高過ぎるのだ。
とは言え、互いに連携すれば攻撃の命中率は上がる。このまま戦闘が続けば、戦力的に覚醒者の方が有利である。
だが……。
ハンター達の前方、墓地最奥の地面が、不自然に盛り上がる。そこから現れたのは……無数のゾンビ達。恐らく、雑魔は覚醒者達が気付く前から指を鳴らし、『下準備』をしていたのだろう。
「ゾンビも出て来たか……貴様達、対応は任せたぞ!」
「ああ、分かってる! 山本さん達の邪魔はさせないさ!」
一郎の凛とした指示に、レオーネが言葉を返す。戦闘中にゾンビが出てくる事は、依頼を受けた時から想定していた。その際の役割分担も決まっている。
レオーネ、凪枯、チマキマルの3人は、十数メートル先に居るゾンビ軍に向かって移動を開始。彼ら3人が増援のゾンビを討ち、その間に残った6人で雑魔を倒す作戦である。
戦場が2つに分かれ、雑魔とゾンビを倒す戦いが始まった。
●
「あーぁあ、やっぱ『還って』きちまったかい。悪いけど、また逝ってもらうよ……!」
凪枯は残念そうに呟き、ゾンビ達に向かって光弾を放った。それが敵を直撃し、腐肉が剥がれて骨が崩れ落ちる。言葉通り、ゾンビは2度目の死を迎えて墓地に散らばった。
チマキマルはマテリアルを炎に変換し、燃え盛る矢を生み出す。それをゾンビの群れに投げると、炎が骸を貫いて穴を穿った。と同時に全身が崩れ落ち、遺骨と化して動きが止まった。
大勢の敵を相手に、レオーネはマテリアルを集中して空中に『光の三角形』を生み出す。その3つの頂点から光が奔り、別々の方向に伸びていく。3つの閃光が3体のゾンビを射抜き、再び永遠の眠りに就かせた。
幸いと言うべきか、今回ゾンビとして蘇った者達は下級雑魔程度の能力しかない。倒すのは難しくないが……問題は、その数。相手は10体以上居る上、徐々に数が増えている。全てのゾンビを倒すため、3人は武器を握り直した。
●
「死者を冒涜するあなたにとっては、何よりの屈辱でしょう。わたしの歌い上げる鎮魂歌を、冥土への道標となさい!」
燃え上がる闘志を鎮魂歌に変え、力強い歌声を響かせる菜摘。彼女のレクイエムが雑魔の動きを鈍らせ、致命的な隙を生み出す。
そこを狙い、一郎は銃弾にマテリアルを込めて引金を引いた。銃撃の推進力と威力が瞬間的に強まり、雑魔の脚部を貫通して穴を穿つ。
「吸血鬼になりゃァ、俺もアンタほどの力が手に入るのか? って、聞いても無駄か」
自嘲ギミに笑い、剛道は全力で武器を振り下ろした。防御を捨て、攻撃に特化した一撃……渾身の殴打が肩口に炸裂し、雑魔の体が『く』の字に曲がった。
負傷した隙を狙い、銃撃を放つ恋路。炎のような閃光が宙を奔り、敵に向かって伸びる。それが当たる直前、雑魔は体を丸めて地面を転がり、恋路の弾丸を回避した。
立ち上がる雑魔に合わせて、バリトンとディアドラが距離を詰める。
「ゾンビも貴様も、邪魔をするなら斬り伏せてくれようぞ!」
「これ以上、ゾンビは召喚させん。貴様を倒し、世界の光を取り戻してみせる!」
裂帛の気合が大気を震わせ、左右から挟撃する2人。回避行動が間に合わないと思ったのか、雑魔は素早く指を鳴らした。
ほぼ同時に、バリトンは素早く踏み込んで刀を斬り上げる。ディアドラは移動の勢いを攻撃に転化し、騎士剣を振り下ろした。2つの斬撃が交差し、雑魔の左腕が斬り飛ばされる。真紅の霧と共に、その腕が大地に転がった。
●
閃光と炎が入り乱れ、ゾンビ達が骨に還っていく。チマキマル達の活躍で敵の足止めには成功しているが、倒しても倒しても増援が土の中から現れていた。とは言え、少しずつ数は減っているが。
「ちっ、数が多いな……チマキマルさん、時雨さん! そっちのゾンビは頼んだぜ!」
叫びながら、レオーネは正面と右側の敵を指差す。自身は左側を向き、その方向に居る敵に攻撃を集中した。対象となる敵を分担すれば、攻撃がカブって無駄になるのを防げる。効率が上がれば、それだけ早くゾンビを倒せるだろう。
「任せときな。さァて、ここを通りたいんなら、あたしとチマキマルちゃんを倒して行きなよ」
不敵に笑い、凪枯は正面方向の敵に歩み寄る。離れた位置に居るゾンビに向かって光弾を放ち、後方から切り崩していく。近付いてくるゾンビには、不動明王剣が一閃。白い長髪が闇夜に踊り、光弾と斬撃を操る白狐がゾンビを大地に還している。
チマキマルは炎の矢で敵を射抜いていたが、それは『次』への布石。燃え盛る炎の球を生み出し、それを敵の中心に投げ放った。それが命中と同時に炸裂し、爆炎がゾンビ達を飲み込んで焦がしていく。
「ちょうどいい灯りだ……そのまま踊っていろ」
静かに、チマキマルが言葉を漏らす。その表情は仮面で見えないが……もしかしたら、冷たく笑っているのかもしれない。
レオーネは再び三角形を作り出し、閃光でゾンビを射抜いていく。時折銃撃も織り交ぜ、スキルを節約しながら攻撃。その弾倉が尽きるより早く、墓地のゾンビは全て姿を消した。
●
『それ』は、何の前触れもなく起った。片腕を失い、ゾンビ達を倒された雑魔は、攻撃を避けながら周囲を観察。虚ろな双眸が恋路を捉えた瞬間、雑魔は地面を蹴って彼に急接近。間合を一気に詰め、その首元に牙を突き立てた。
突然の事に、驚きを隠せない6人。今まで回避専門だった雑魔が、初めて攻撃に転じたのだ。しかも、吸血という方法で。
「ああ、ああ……! 血を吸われて殺される、なんと甘美なことでしょう!」
血液と生命力を吸われながらも、恋路は恍惚とした表情を浮べている。
『オートアサシノフィリア』。
自身が殺される事に性的興奮を憶える……という性癖を指す言葉である。恋路の場合、その感情が発作のように現れる。最高に美しい『理想の死』を追い求めるようになったのも、このためだろう。
「何を喜んでおるのじゃ! おぬし、死ぬつもりか!?」
恋路を叱咤し、バリトンが横合いから刀を薙ぐ。雑魔を攻撃し、仲間への吸血を止めさせるために。その狙い通り、吸血鬼は牙を離して大きく跳び退いた。
「ハ、中々楽しめるな、吸血鬼ィ! コイツで終わりにするけどよォ!」」
獣のように荒々しく叫び、武器にマテリアルを込める剛道。彼の行動に合わせ、一郎と恋路は銃撃を放った。
「回避さえ妨害してしまえば……!」
2人の狙いは、雑魔の足止めをして剛道の攻撃を直撃させる事。恋路は敵の足元を狙って行動を阻害し、一郎の銃撃が雑魔を牽制して回避行動に移らせない。
その隙に、剛道は間合いを詰めて武器を大きく薙いだ。激しい殴打が直撃し、衝撃が一気に襲い掛かる。蓄積したダメージが効いてきたのか、雑魔は苦悶の表情で片膝を突いた。
「死者を利用するのも、今日限りで終わりだ。大王の鉄槌で打ち砕いてくれよう!」
止めとばかりに、ディアドラは剣を構えてマテリアルを込める。踏み込みと同時に武器を突き出し、そのまま全力で加速。まるで真紅の閃光の如く戦場を駆け抜け、吸血鬼の首を斬り飛ばした。
一滴の血も流れず、斬られた頭部が地面を転がっていく。その動きが止まった時、吸血鬼の全身は霧のように空気に溶け、完全に消え去った。
数分もしないうちに、2手に別れたハンター達は墓地内で合流。互いの状況を報告し合い、束の間の休息を取る事になった。チマキマルは懐から愛用の葉巻を取り出し、口にくわえた。先端に火を点けようとした瞬間、彼の手がピタッと止まる。
「どうやら……まだ終わっていないようだな。来るぞ」
紫の瞳が見詰める先……ハンター達が雑魔と戦った辺りの地面が盛り上がり、ゾンビ達が姿を現した。恐らく……吸血鬼が戦闘中に指を鳴らした効果で、今になってゾンビが生まれたのだろう。
迫り来るゾンビに対して、菜摘が素早く行動を起こす。輝く光の弾を頭上に生み出し、敵に向かって撃ち放った。光弾が宙に軌跡を描き、ゾンビに直撃。衝撃で骨が砕け散り、不死の呪縛から解放した。
「迷い出た以上……土に返すのが責務ですから。魂の無い『虚ろな器』を放置しておいて、死者の尊厳を穢すわけにはいきません!」
迷いの無い、力強い言葉。今の菜摘は、使命感と正義感に従って行動している。彼女に刺激されたのか、ディアドラは剣と盾を構えてゾンビの群れに歩み寄った。
「それが貴殿の責務なら、大王たる余の役目は『敵の注意を引く事』だ。心置きなく暴れるが良い」
恐れず、退かず、前方を見据えるディアドラ。その威風堂々をした姿は、大王という言葉が良く似合う。
彼女達だけでなく、覚醒者全員が武器を構えてゾンビと対峙。最後の後始末をするため、9人は墓地全体に散開した。
●
全ての『敵』を倒した時、東の空から太陽が昇ろうとしていた。朝日が周囲を照らす中、ハンター達が目にしたのは……荒れ果てた墓地。激戦が繰り広げられた上、ゾンビが這い出したのだから、仕方の無い事ではあるが。
「心ならずも荒らしてしまった以上、旧に復するのが責務です……」
悲痛な表情で、遺骨を拾い上げる菜摘。悪気は無かったが、墓地を荒らしてしまったのは事実。そこから目を背け、このまま帰る事は出来ない。
「そうだな……ゾンビになってしまったもんの区別はつかんが、可能な限り埋葬せんとな」
バリトンも、彼女と同じ気持ちのようだ。遺骨がどの墓に入っていたか分からないし、元に戻す事は不可能に近い。だから……せめて、野晒しにしないで埋葬したいのだ。
2人の判断に口を挟む者は1人も居ない。作業は彼らに任せ、他の者達は依頼達成の報告をするため、一足先に帰還する事になった。
帰路に着く仲間達を尻目に、剛道は恋路の腕を引っ張った。
「おい。ちょっと面ァ貸せ。どうにも満ち足りねェ……テメェも、だろ?」
強さに憧れる剛道にとって、罪の無い遺体を叩き壊した事は、やりきれない事なのだろう。そんな気持ちを、恋路なら分かってくれる。彼は、そう確信していた。
「剛道さん……俺を殺してくれます? 今なら歓迎しちゃいますよ?」
彼の気持ちを知ってか知らずか、いつものように微笑む恋路。その表情を見ただけで、剛道は少し救われたような気がした。
夜気を含んだ風が、草花を揺らしながら通り抜けていく。三日月が淡い光を放つ中、覚醒者達は墓地の草場に身を隠していた。
数日前から頻発している、謎の墓荒らし。その正体は雑魔であり、遺体をゾンビに変えて自軍の『戦力』として再利用していた。
既に数ヶ所の墓地が被害に遭い、無残に荒らされている。それが『規模の大きい順』という法則を発見し、ハンター達は次に狙われるであろう墓地で待機。いつ現れるか分からない雑魔を警戒し、既に数時間が過ぎようとしていた。
「墓場にゾンビですか……夏ですし、B級ホラー映画のようですね」
周囲を見渡しながら、山本 一郎(ka4957)が呟く。ホラーと言えば、墓場やゾンビが定番である。齢50の一郎は、転移前にリアルブルーで映画を見たのだろう。
「その気持ち、分かりますよ。情報を聞く限り、雑魔はまるで映画の吸血鬼伯爵ですよね」
一郎に同意し、柔らかく微笑む佐久間 恋路(ka4607)。ゾンビを生み出す雑魔は吸血鬼のような外見をしているらしい。今の処、被害者は出ていないが……もしかしたら、映画のように血を吸われるかもしれない。
若干リラックスしている2人とは対照的に、日下 菜摘(ka0881)の周囲には張り詰めた空気が流れている。
「死者の安らかな眠りを妨げようとは……流石は歪虚です。きちんと、ここで殲滅しなくてはなりませんね」
普段はほんわかしたメガネ美人だが、正義感や責任感は人一倍強い。表には出していないが、心の中では『死者を悪用する雑魔』に対する怒りが炎のように燃え上がっていた。
「うむ。いくら寛容なボクでも、奴らの不届きな行いは見過ごせないからな。殲滅には大いに賛成だ」
腕を組みながら、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が静かに頷く。身長は140cmにも満たない少女だが、纏う雰囲気は雄々しく存在感は大きい。雑魔という『悪しき者』を滅ぼすため、彼女は今日も剣を振るうのだろう。
「剣機にゃずいぶん振り回されたけど……こういうカラクリだったわけね」
溜息混じりに言葉を漏らす、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)。苦笑いを浮かべながら後頭部を掻くと、金糸のようなポニーテールがサラサラと揺れた。
外見は金髪碧眼の美少女だが……レオーネは俗に言う『男の娘』。女装好きというワケではないが、動きやすい衣服を選んだ結果、こうなっていたらしい。
「ん? 今、何か聞こえなかったか? 破裂音のような音じゃったが……」
バリトン(ka5112)の言葉に、周囲の緊張感が一気に高まる。彼は喜寿を迎えた年長者だが、15歳の頃から50年間、戦場に身を置いていた。肉体と眼光は衰える事を知らず、2mを超える長身は今でもブ厚い筋肉を纏っている。
そんな歴戦の勇士が、戦の場で音を聞き間違えるワケがない。その場に居た誰もが、耳と目に神経を集中させた。
パチン。
闇夜に響く、小さな破裂音。それは、覚醒者達が居る『墓地の入口周辺』ではなく、奥の方から聞こえてくる。
葉巻を吸っていったチマキマル(ka4372)は、溜息と共に煙を吐き出した。
(どうやら……葉巻を楽しむ時間は終わりのようだな)
歪虚『暴食』専用ハンターの彼は、音の正体に勘付いている。葉巻を捨てて踏み消すと、地面に届きそうな長さのトレンチコートを翻して走り出した。
彼の後を追うように、他のハンター達はLEDやランタンを灯して駆け出す。板状の墓石を踏まないように疾走すると、数秒もしないうちに『異形』の姿が見えてきた。
月夜に踊る、長身痩躯の青年。顔色は蒼白に近く、生気をまるで感じない。その男性が指を鳴らすと、指先から『真紅の霧』のようなモノが発生して地面に吸い込まれていく。
「居やがったな。楽しませてくれンだろうな、吸血鬼……!」
咆えるように、尾形 剛道(ka4612)が叫ぶ。と同時に、端正な顔が野獣のように歪んだ。
常に戦場や暴力の中に身を置いていた彼にとって、戦いは特別な事ではない。高揚する気持ちを抑える事なく、闘志と殺意を剥き出しにした。
「相手は一体……ですが、能力が厄介ですね。包囲して個々に当たらず、皆で対処しましょう」
走りながら、一郎が仲間達に声を掛ける。彼は大戦に参加していた事もあり、判断力は素早い上に正確。冷静に大局を見据え、行動の全てを勝利に向けている。
「ならば、少々手を貸そう。後方支援は任せてくれ」
言うが早いか、チマキマルは足を止めて杖を軽く振った。先端から魔力が放たれ、赤い光となってディアドラの長剣を包む。
仲間達をサポートするため、菜摘も止まってマテリアルを開放した。鎮魂の言葉が、穏やかなメロディーが、闇夜に広がっていく。聖なる歌声が『正ならざる命』を持つ不死系雑魔の動きを鈍らせた。
間髪入れず、ディアドラが武器を構えて大きく踏み込む。地面を蹴って更に加速し、敵の真正面から高速の刺突を繰り出した。長剣の切先が空気を斬り裂き、赤い閃光が雑魔の脇腹を貫く。
ディアドラの一撃を喰らいながらも、敵の表情は全く変わらない。負傷を気にせず、再び指を鳴らした。
剛道はピンヒールで華麗なステップを披露し、敵の側面に移動。錨に似たハンマーにマテリアルを込め、鋭い踏み込みから薙ぐような殴打を放った。
唸りを上げ、雑魔に迫る鉄槌。その軌道を読んだのか、敵は軽やかな動きで後方に跳び退いた。
追撃するように、恋路は雑魔の着地点を狙って魔導銃を発射。放たれた弾丸が炎のような光を纏い、敵の肩口を撃ち貫いた。
「墓を荒らすだけでも罰当たりなのに、屍人(ゾンビ)にしちまうなんて面倒臭い敵だぁね。ちゃっちゃと灰にしちまおう」
若干面倒そうに言葉を漏らし、時雨 凪枯(ka3786)は右手で剣を握った。マテリアルが全身を駆け巡り、黒い長髪が白く変色。その頭部に狐耳が現れ、腰の辺りから2本の狐尾が出現した。
覚醒状態になった凪枯は、武器にマテリアルを集中。狐火のような幻影と共に、輝く光の球が生み出された。その光弾が、闇を切り裂くように宙を翔る。清浄な輝きが雑魔に直撃し、衝撃が全身を打ち付けた。
彼女の逆側で、猟銃を構える一郎。狙いを定めて引金を引き、鋭い銃撃を放った。敵の死角から迫る、素早い銃弾……胸部を狙った一撃は直前で回避され、雑魔の頬を掠めた。
攻撃を避けた隙を狙うように、バリトンが迫る。半身の姿勢で試作雷撃刀を水平に構え、一気に間合いを詰めて突き出した。高速で迫る切先を、雑魔が紙一重で避ける。そのまま反撃する事なく、ハンター達から離れるように跳び退いた。
その着地地点に、レオーネの銃撃が刺さる。小さな銃から放たれた弾丸が敵の太腿を貫通し、風穴を空けた。
覚醒者達に狙われながらも、雑魔は攻撃する素振りを見せない。ハンター達を倒す事よりも、『戦力』となるゾンビの生成を優先しているようだ。
だから回避に専念し、負傷を減らしているのだろう。攻撃が命中しなかったとしても、それはハンター達の技量が低いワケではなく、雑魔の回避能力が高過ぎるのだ。
とは言え、互いに連携すれば攻撃の命中率は上がる。このまま戦闘が続けば、戦力的に覚醒者の方が有利である。
だが……。
ハンター達の前方、墓地最奥の地面が、不自然に盛り上がる。そこから現れたのは……無数のゾンビ達。恐らく、雑魔は覚醒者達が気付く前から指を鳴らし、『下準備』をしていたのだろう。
「ゾンビも出て来たか……貴様達、対応は任せたぞ!」
「ああ、分かってる! 山本さん達の邪魔はさせないさ!」
一郎の凛とした指示に、レオーネが言葉を返す。戦闘中にゾンビが出てくる事は、依頼を受けた時から想定していた。その際の役割分担も決まっている。
レオーネ、凪枯、チマキマルの3人は、十数メートル先に居るゾンビ軍に向かって移動を開始。彼ら3人が増援のゾンビを討ち、その間に残った6人で雑魔を倒す作戦である。
戦場が2つに分かれ、雑魔とゾンビを倒す戦いが始まった。
●
「あーぁあ、やっぱ『還って』きちまったかい。悪いけど、また逝ってもらうよ……!」
凪枯は残念そうに呟き、ゾンビ達に向かって光弾を放った。それが敵を直撃し、腐肉が剥がれて骨が崩れ落ちる。言葉通り、ゾンビは2度目の死を迎えて墓地に散らばった。
チマキマルはマテリアルを炎に変換し、燃え盛る矢を生み出す。それをゾンビの群れに投げると、炎が骸を貫いて穴を穿った。と同時に全身が崩れ落ち、遺骨と化して動きが止まった。
大勢の敵を相手に、レオーネはマテリアルを集中して空中に『光の三角形』を生み出す。その3つの頂点から光が奔り、別々の方向に伸びていく。3つの閃光が3体のゾンビを射抜き、再び永遠の眠りに就かせた。
幸いと言うべきか、今回ゾンビとして蘇った者達は下級雑魔程度の能力しかない。倒すのは難しくないが……問題は、その数。相手は10体以上居る上、徐々に数が増えている。全てのゾンビを倒すため、3人は武器を握り直した。
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「死者を冒涜するあなたにとっては、何よりの屈辱でしょう。わたしの歌い上げる鎮魂歌を、冥土への道標となさい!」
燃え上がる闘志を鎮魂歌に変え、力強い歌声を響かせる菜摘。彼女のレクイエムが雑魔の動きを鈍らせ、致命的な隙を生み出す。
そこを狙い、一郎は銃弾にマテリアルを込めて引金を引いた。銃撃の推進力と威力が瞬間的に強まり、雑魔の脚部を貫通して穴を穿つ。
「吸血鬼になりゃァ、俺もアンタほどの力が手に入るのか? って、聞いても無駄か」
自嘲ギミに笑い、剛道は全力で武器を振り下ろした。防御を捨て、攻撃に特化した一撃……渾身の殴打が肩口に炸裂し、雑魔の体が『く』の字に曲がった。
負傷した隙を狙い、銃撃を放つ恋路。炎のような閃光が宙を奔り、敵に向かって伸びる。それが当たる直前、雑魔は体を丸めて地面を転がり、恋路の弾丸を回避した。
立ち上がる雑魔に合わせて、バリトンとディアドラが距離を詰める。
「ゾンビも貴様も、邪魔をするなら斬り伏せてくれようぞ!」
「これ以上、ゾンビは召喚させん。貴様を倒し、世界の光を取り戻してみせる!」
裂帛の気合が大気を震わせ、左右から挟撃する2人。回避行動が間に合わないと思ったのか、雑魔は素早く指を鳴らした。
ほぼ同時に、バリトンは素早く踏み込んで刀を斬り上げる。ディアドラは移動の勢いを攻撃に転化し、騎士剣を振り下ろした。2つの斬撃が交差し、雑魔の左腕が斬り飛ばされる。真紅の霧と共に、その腕が大地に転がった。
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閃光と炎が入り乱れ、ゾンビ達が骨に還っていく。チマキマル達の活躍で敵の足止めには成功しているが、倒しても倒しても増援が土の中から現れていた。とは言え、少しずつ数は減っているが。
「ちっ、数が多いな……チマキマルさん、時雨さん! そっちのゾンビは頼んだぜ!」
叫びながら、レオーネは正面と右側の敵を指差す。自身は左側を向き、その方向に居る敵に攻撃を集中した。対象となる敵を分担すれば、攻撃がカブって無駄になるのを防げる。効率が上がれば、それだけ早くゾンビを倒せるだろう。
「任せときな。さァて、ここを通りたいんなら、あたしとチマキマルちゃんを倒して行きなよ」
不敵に笑い、凪枯は正面方向の敵に歩み寄る。離れた位置に居るゾンビに向かって光弾を放ち、後方から切り崩していく。近付いてくるゾンビには、不動明王剣が一閃。白い長髪が闇夜に踊り、光弾と斬撃を操る白狐がゾンビを大地に還している。
チマキマルは炎の矢で敵を射抜いていたが、それは『次』への布石。燃え盛る炎の球を生み出し、それを敵の中心に投げ放った。それが命中と同時に炸裂し、爆炎がゾンビ達を飲み込んで焦がしていく。
「ちょうどいい灯りだ……そのまま踊っていろ」
静かに、チマキマルが言葉を漏らす。その表情は仮面で見えないが……もしかしたら、冷たく笑っているのかもしれない。
レオーネは再び三角形を作り出し、閃光でゾンビを射抜いていく。時折銃撃も織り交ぜ、スキルを節約しながら攻撃。その弾倉が尽きるより早く、墓地のゾンビは全て姿を消した。
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『それ』は、何の前触れもなく起った。片腕を失い、ゾンビ達を倒された雑魔は、攻撃を避けながら周囲を観察。虚ろな双眸が恋路を捉えた瞬間、雑魔は地面を蹴って彼に急接近。間合を一気に詰め、その首元に牙を突き立てた。
突然の事に、驚きを隠せない6人。今まで回避専門だった雑魔が、初めて攻撃に転じたのだ。しかも、吸血という方法で。
「ああ、ああ……! 血を吸われて殺される、なんと甘美なことでしょう!」
血液と生命力を吸われながらも、恋路は恍惚とした表情を浮べている。
『オートアサシノフィリア』。
自身が殺される事に性的興奮を憶える……という性癖を指す言葉である。恋路の場合、その感情が発作のように現れる。最高に美しい『理想の死』を追い求めるようになったのも、このためだろう。
「何を喜んでおるのじゃ! おぬし、死ぬつもりか!?」
恋路を叱咤し、バリトンが横合いから刀を薙ぐ。雑魔を攻撃し、仲間への吸血を止めさせるために。その狙い通り、吸血鬼は牙を離して大きく跳び退いた。
「ハ、中々楽しめるな、吸血鬼ィ! コイツで終わりにするけどよォ!」」
獣のように荒々しく叫び、武器にマテリアルを込める剛道。彼の行動に合わせ、一郎と恋路は銃撃を放った。
「回避さえ妨害してしまえば……!」
2人の狙いは、雑魔の足止めをして剛道の攻撃を直撃させる事。恋路は敵の足元を狙って行動を阻害し、一郎の銃撃が雑魔を牽制して回避行動に移らせない。
その隙に、剛道は間合いを詰めて武器を大きく薙いだ。激しい殴打が直撃し、衝撃が一気に襲い掛かる。蓄積したダメージが効いてきたのか、雑魔は苦悶の表情で片膝を突いた。
「死者を利用するのも、今日限りで終わりだ。大王の鉄槌で打ち砕いてくれよう!」
止めとばかりに、ディアドラは剣を構えてマテリアルを込める。踏み込みと同時に武器を突き出し、そのまま全力で加速。まるで真紅の閃光の如く戦場を駆け抜け、吸血鬼の首を斬り飛ばした。
一滴の血も流れず、斬られた頭部が地面を転がっていく。その動きが止まった時、吸血鬼の全身は霧のように空気に溶け、完全に消え去った。
数分もしないうちに、2手に別れたハンター達は墓地内で合流。互いの状況を報告し合い、束の間の休息を取る事になった。チマキマルは懐から愛用の葉巻を取り出し、口にくわえた。先端に火を点けようとした瞬間、彼の手がピタッと止まる。
「どうやら……まだ終わっていないようだな。来るぞ」
紫の瞳が見詰める先……ハンター達が雑魔と戦った辺りの地面が盛り上がり、ゾンビ達が姿を現した。恐らく……吸血鬼が戦闘中に指を鳴らした効果で、今になってゾンビが生まれたのだろう。
迫り来るゾンビに対して、菜摘が素早く行動を起こす。輝く光の弾を頭上に生み出し、敵に向かって撃ち放った。光弾が宙に軌跡を描き、ゾンビに直撃。衝撃で骨が砕け散り、不死の呪縛から解放した。
「迷い出た以上……土に返すのが責務ですから。魂の無い『虚ろな器』を放置しておいて、死者の尊厳を穢すわけにはいきません!」
迷いの無い、力強い言葉。今の菜摘は、使命感と正義感に従って行動している。彼女に刺激されたのか、ディアドラは剣と盾を構えてゾンビの群れに歩み寄った。
「それが貴殿の責務なら、大王たる余の役目は『敵の注意を引く事』だ。心置きなく暴れるが良い」
恐れず、退かず、前方を見据えるディアドラ。その威風堂々をした姿は、大王という言葉が良く似合う。
彼女達だけでなく、覚醒者全員が武器を構えてゾンビと対峙。最後の後始末をするため、9人は墓地全体に散開した。
●
全ての『敵』を倒した時、東の空から太陽が昇ろうとしていた。朝日が周囲を照らす中、ハンター達が目にしたのは……荒れ果てた墓地。激戦が繰り広げられた上、ゾンビが這い出したのだから、仕方の無い事ではあるが。
「心ならずも荒らしてしまった以上、旧に復するのが責務です……」
悲痛な表情で、遺骨を拾い上げる菜摘。悪気は無かったが、墓地を荒らしてしまったのは事実。そこから目を背け、このまま帰る事は出来ない。
「そうだな……ゾンビになってしまったもんの区別はつかんが、可能な限り埋葬せんとな」
バリトンも、彼女と同じ気持ちのようだ。遺骨がどの墓に入っていたか分からないし、元に戻す事は不可能に近い。だから……せめて、野晒しにしないで埋葬したいのだ。
2人の判断に口を挟む者は1人も居ない。作業は彼らに任せ、他の者達は依頼達成の報告をするため、一足先に帰還する事になった。
帰路に着く仲間達を尻目に、剛道は恋路の腕を引っ張った。
「おい。ちょっと面ァ貸せ。どうにも満ち足りねェ……テメェも、だろ?」
強さに憧れる剛道にとって、罪の無い遺体を叩き壊した事は、やりきれない事なのだろう。そんな気持ちを、恋路なら分かってくれる。彼は、そう確信していた。
「剛道さん……俺を殺してくれます? 今なら歓迎しちゃいますよ?」
彼の気持ちを知ってか知らずか、いつものように微笑む恋路。その表情を見ただけで、剛道は少し救われたような気がした。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 山本 一郎(ka4957) 人間(リアルブルー)|50才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/18 23:04:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/17 19:08:45 |