ゲスト
(ka0000)
襲来! 緑の絨毯
マスター:寺岡志乃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/30 19:00
- 完成日
- 2015/08/08 03:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
目の覚めるような青い空にくっきりと浮かぶ白い雲。肌を刺す強い日差し。
夏がやってきた。
畑仕事は今が勝負時。夏の手入れをきっちりするか怠るかで、秋の収穫の量や質に差が出てしまう。そのため、村人たちはせっせと畑仕事に余念がない。
シグ村では、その日も朝から村人総出で畑に出て、真夏の強い太陽からまだ青い果実を守るための藁を敷き詰めたり、雑草を抜いたり、害虫を取り除いたりと、目を回すほど大忙しだった。
「見てよ、これ。前に草引きしてからまだ1週間も経ってないのに、もうこの高さまできてる」
地面から30センチの高さまで伸びて揺れている雑草を見下ろして、女はふうとため息をつく。
「長雨のあとだからねえ」
脇で同じように草引きをしていた男は笑うと、手を止めて、麦わら帽子のつばの隙間から空を眺めた。
「あんなに太陽が高い。もう昼か」
「あ。じゃあお昼にしましょうか」
女は汚れた軍手を脱ぎながら畦道まで戻ると、日の当たらない方の斜面に置いてあった荷袋を持ち上げました。そしてほかの畑で自分たちと同じように畑の手入れをしている人たちに、「もうお昼ですよ。手を休めて、食事にしませんか?」と声をかけてから、畑の横を流れる川で手を洗っている男の元まで戻って行く。
そうして、久々の上天気に心からうれしそうに目を眇め、斜面を渡る風や土草のにおい、揺れる緑の葉で目を楽しませながら、男と食事をとりつつ午後からの手順を話していたときだった。
おーい、おーい、という呼び声が遠くから聞こえてきた。
「なんだろう?」
「さあ?」
互いを見合って首を振りつつ斜面を上がって畦道に立つと、村の外へ続く道の方から馬を走らせてくる男の姿があった。
すぐにとなり村の男だと分かった。となりと言っても、荷馬車で2日半揺られないといけない距離があったが。
おーい、と呼びかける声は子どもが聞いてもあきらかなほど、切迫感に満ちている。
どうもただ事ではなさそうだと、ほかの村人たちも集まりだした。
「どうした?」
男がたどり着くのを待って訊く。
男は乗ってきた馬に負けないほど息を切らしており、汗でびしょ濡れだった。女の差し出す水をごくごくと飲んで、湿らせたのどで唸るように言う。
「村に、早馬が、きた……。おまえ、たちも、すぐ……知らせに……この先の村……」
「早馬? 知らせ? 何をだ?」
要領を得ない男の言葉に眉をしかめたとき。
「東の山で、出た……。緑、の絨毯だ……!」
それを聞いた村人たちは、全員ひとり残らず顔から血の気を失い、言葉もなく立ち尽くした。
「飛蝗(ひこう)です」
緑の絨毯とは何か? という質問に、ギルド職員・ルエラは簡潔に答えた。
「バッタですね。それが数千匹の大群をつくって群生行動をとる光景がまるで緑の絨毯に見えるということから、一部の地方ではそう呼ばれています」
通常はおとなしい生き物だがこうなったバッタはかなり凶暴で、とにかく周囲にある物なら何でも食らいつき、群がって、わずか数時間で食べ尽くしてしまう。
「一度発生すると数年単位で続き、その通り道には何も住めなくなってしまうんですが……調査によって、今回は発生自体が不自然であることが判明しました。
群れのなかに赤い体色の飛蝗が5匹いて、どうやらこれが雑魔らしいということです。この雑魔がほかの飛蝗たちを操って、群生行動をとらせているようなんです。
この5匹の雑魔を退治すれば、飛蝗は散っていくことが予想されます」
なんだ、虫退治か、という言葉がどこからか漏れ聞こえてきて、ルエラはムッと眼鏡の奥の目を不愉快そうに細めた。
「すでに3つの村が彼らに飲まれ、食い尽くされています。そのなかには、残念ながら逃げ遅れた犠牲者も出ています。
くれぐれも、たかがバッタと侮ることはしないように。彼らは数千匹いるんですから」
夏がやってきた。
畑仕事は今が勝負時。夏の手入れをきっちりするか怠るかで、秋の収穫の量や質に差が出てしまう。そのため、村人たちはせっせと畑仕事に余念がない。
シグ村では、その日も朝から村人総出で畑に出て、真夏の強い太陽からまだ青い果実を守るための藁を敷き詰めたり、雑草を抜いたり、害虫を取り除いたりと、目を回すほど大忙しだった。
「見てよ、これ。前に草引きしてからまだ1週間も経ってないのに、もうこの高さまできてる」
地面から30センチの高さまで伸びて揺れている雑草を見下ろして、女はふうとため息をつく。
「長雨のあとだからねえ」
脇で同じように草引きをしていた男は笑うと、手を止めて、麦わら帽子のつばの隙間から空を眺めた。
「あんなに太陽が高い。もう昼か」
「あ。じゃあお昼にしましょうか」
女は汚れた軍手を脱ぎながら畦道まで戻ると、日の当たらない方の斜面に置いてあった荷袋を持ち上げました。そしてほかの畑で自分たちと同じように畑の手入れをしている人たちに、「もうお昼ですよ。手を休めて、食事にしませんか?」と声をかけてから、畑の横を流れる川で手を洗っている男の元まで戻って行く。
そうして、久々の上天気に心からうれしそうに目を眇め、斜面を渡る風や土草のにおい、揺れる緑の葉で目を楽しませながら、男と食事をとりつつ午後からの手順を話していたときだった。
おーい、おーい、という呼び声が遠くから聞こえてきた。
「なんだろう?」
「さあ?」
互いを見合って首を振りつつ斜面を上がって畦道に立つと、村の外へ続く道の方から馬を走らせてくる男の姿があった。
すぐにとなり村の男だと分かった。となりと言っても、荷馬車で2日半揺られないといけない距離があったが。
おーい、と呼びかける声は子どもが聞いてもあきらかなほど、切迫感に満ちている。
どうもただ事ではなさそうだと、ほかの村人たちも集まりだした。
「どうした?」
男がたどり着くのを待って訊く。
男は乗ってきた馬に負けないほど息を切らしており、汗でびしょ濡れだった。女の差し出す水をごくごくと飲んで、湿らせたのどで唸るように言う。
「村に、早馬が、きた……。おまえ、たちも、すぐ……知らせに……この先の村……」
「早馬? 知らせ? 何をだ?」
要領を得ない男の言葉に眉をしかめたとき。
「東の山で、出た……。緑、の絨毯だ……!」
それを聞いた村人たちは、全員ひとり残らず顔から血の気を失い、言葉もなく立ち尽くした。
「飛蝗(ひこう)です」
緑の絨毯とは何か? という質問に、ギルド職員・ルエラは簡潔に答えた。
「バッタですね。それが数千匹の大群をつくって群生行動をとる光景がまるで緑の絨毯に見えるということから、一部の地方ではそう呼ばれています」
通常はおとなしい生き物だがこうなったバッタはかなり凶暴で、とにかく周囲にある物なら何でも食らいつき、群がって、わずか数時間で食べ尽くしてしまう。
「一度発生すると数年単位で続き、その通り道には何も住めなくなってしまうんですが……調査によって、今回は発生自体が不自然であることが判明しました。
群れのなかに赤い体色の飛蝗が5匹いて、どうやらこれが雑魔らしいということです。この雑魔がほかの飛蝗たちを操って、群生行動をとらせているようなんです。
この5匹の雑魔を退治すれば、飛蝗は散っていくことが予想されます」
なんだ、虫退治か、という言葉がどこからか漏れ聞こえてきて、ルエラはムッと眼鏡の奥の目を不愉快そうに細めた。
「すでに3つの村が彼らに飲まれ、食い尽くされています。そのなかには、残念ながら逃げ遅れた犠牲者も出ています。
くれぐれも、たかがバッタと侮ることはしないように。彼らは数千匹いるんですから」
リプレイ本文
●緑の絨毯
彼らが着いたとき、飛蝗の群れはすでにシグ村に入っていた。
数千匹なので村を覆い尽くすほどの規模ではないが、ほとんどの場所が緑色に染まっている。場所によって濃淡があるのは、そこに彼らの食い物があるか否かだろう。土壁や草ぶきの屋根で造られた家屋が真っ先に狙われているようだ。そのほか、庭木や広場の花壇などにもびっしりと飛蝗が貼りついていた。
「音に聞くおそろしい蝗害、防ぐよい手立てなどございましょうや」
村を一望できる小高い丘から見下ろして、華彩 理子(ka5123)がつぶやく。
「ふむ。それは難しいのう。蝗害もまた自然の営みの1つと思えば、それを防ごうとするのはある意味傲慢とも言える行為じゃ」
太古から続く魔女の一族の末裔を自称するクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)から見れば、自然は敬い、讃える存在なのかもしれない。
この言葉に、薬師として自然の持つ力を尊重する理子は「はい」と同意する。
「さりとてこれ以上、荒らされるわけにはまいりません。
此度は雑魔の手によるもの。であるならば、かえって御し易いとも思えましょう」
「うむ」
うなずき、クラリッサはほかの者たちへ視線を向けた。
「いつまでもこうしてここで眺めていても仕方あるまい。そろそろ行動に移ろうぞ」
「そうだね。なんとか早くこの群れを操ってるっていう赤飛蝗を見つけ出そう」
ザレム・アズール(ka0878)がうなずき、連絡は魔導短伝話で、と決めて動き始めたところで理子が呼び止めた。
「皆さま、少しお待ちを」懐からおもむろに何かを取り出す。「どうぞこれをお持ちください。これは印度栴檀(ニーム)と申します薬木の種子からとりだした薬でございます。雲霞や蝗の食欲減退に効き目がございますゆえ」
「はー! 理子ねーさん、物知りですげーでさ!」
「ただ、飛蝗にどこまで効くかは分かりませんが……」
鬼百合(ka3667)の感心しきった言葉に、理子は恐縮そうに言うと、自分の武器クロノスサイズを例にして使い方を伝授する。
「このように刃に塗布してお使いいただければ、振ったとき飛び散った飛沫で周囲の飛蝗たちを弱らせることもかないましょう。体や農作物に害はございません、どうぞお心のままにお使いください」
●いざ飛蝗退治!
6人は三手に分かれて飛蝗退治をすることにした。
風上に回った理子が持参した乾燥白花除虫菊を焚くまでの間、4人はそれぞれの攻撃手段に最適と思える場所へ陣を構える。
「くはー、まさに黙示録だね……今から改宗したら回れ右してくれないかなあ……」
比較的、飛蝗のとりつきが少ない家屋の屋根に上がって下の様子を見下ろし、水流崎トミヲ(ka4852)はぶるぶるっと身を震わせた。
丘から見た村は、まるでペンキをぶち撒けたように見えた。しかしこうして近づくとペンキなどではなく飛蝗で、ギチギチ鳴いている。1匹1匹の鳴き声は小さくとも、これだけ寄り集まれば耳に痛い大合唱である。
今からこれらの対処をするのだと実感したら、急に怖気がきたらしい。身を震わせるトミヲの姿に、火椎 帝(ka5027)がくすりと笑った。
「大丈夫だよ、トミヲくん。操ってる歪虚さえ倒せばいいって仕事だから。
操られてる虫は可哀想だけど、歪虚がそこにいるのなら……とめなくちゃ。避難してる村の人たちのためにも」
きっと今ごろ避難先で、村の様子を気にしているに違いないから。
「だねぇ」
ふうと息をつくことで気を入れ替えたトミヲは、額に乗せてあったゴーグルを引き下ろして本格的に遠見の眼鏡を使い始めた。
そうして数分。瓦屋根の上から360度見渡すことで周辺の地形を頭にたたき込み終えた帝は、再びトミヲに声をかける。
「トミヲくん、なんか見つかった?」
「んー? そうだねえ。あの辺なんか、僕のDT魔力にビンビンくるね……!」
DT魔力とは、30を過ぎても女性経験のない男性だけが授かる(かもしれない)と巷で噂されている、伝説の魔力のことだ。真偽は定かでないが、三十路を過ぎたトミヲはその存在を信じている。
「へー、そうなんだ」
純真に言われるまま信じたのか、単に聞き流しただけなのかはともかく、帝が相づちを打つのを見て、トミヲは言を次いだ。
「あそこが特に緑が濃いからね」
そして眼鏡を額に上げ、魔導短伝話を取り出す。
「じゃあザレムくんたちに連絡をとろうか。そろそろ行動開始だ」
「うん」
トミヲの後方でもくもくと上がり始めた白い煙を視認して、帝もうなずいた。
「クラリッサさん、来ましたよ。トミヲくんたちは準備OKだそうです」
トミヲからの連絡を受けてザレムが振り返る。
彼らがいるのは村の入口だった。村の中心へと続くその道は大道で、道幅がある。
ザレムの考えた攻撃手法ではここが最適だ。
「うむ。向こうも開始したようじゃな」
帝と同じく風上の空を睨んで合図を待っていたクラリッサがそう応えた。
白い煙は風に乗って徐々に広がりを見せていたが、飛蝗を弱らせるだけの濃度で広がるには時間がかかるだろうし、距離に比例して影響はなくなっていくだろう。
「こっちも作戦開始!」
意気揚々宣言すると、ザレムはファイアスローワーを放った。扇状に広がった破壊エネルギーが触れる物を焼きこがしていく。ただの飛蝗にそれに抗う力はなく、焼かれて乾いた地面が露出したが、すぐにまた周囲の飛蝗たちが飛び集まってきた。
「させない!」
道が飛蝗で埋め尽くされる前に、ザレムは再度ファイアスローワーを放つ。群れを分断するのが目的のこの行為は、赤飛蝗の注意を引いた。
宙を飛ぶ飛蝗、地面の飛蝗。すべてがザレムたちの方を向いて、複眼に彼らを映す。彼らの間できらめく光が見えた瞬間、ザレムは防御障壁を張った。
ガラスが破砕する音がして、防御障壁が砕け散る。
「クラリッサさん!」
「あそこじゃ!」
ザレムが問うと同時にクラリッサは飛蝗で覆われた前方、木の根元を指さす。
「風の刃はあそこから飛んできた!」
凝らしたザレムの目に赤い色がちらと見えた。しかしそれも一瞬で、すぐにほかの緑が覆い尽くしてしまった。
こんもりと半球型になった、虫球と呼ぶ物がそこにできる。ザレムの攻撃を見て危機感を強めたのだろう。飛蝗を使って自分の身を護ろうとしているのだ。
しかしどれだけ厚みを増そうとも、ザレムの振り下ろすブルトガングによる一刀両断を防ぐほどではなかった。
ジェットブーツによるジャンプで一気に距離を詰めたザレムが大上段から振り下ろした幅広の両手剣は、先ほど見た赤飛蝗を確実に捉えていた。
操る赤飛蝗が死んで、虫球を形成していた飛蝗がざぁっと飛び離れていく。
「……うん。いける」
手応えを感じて剣柄を握る手の力を強めたザレムは、ファイアスローワーによる範囲攻撃へと戻っていった。
ザレムのファイアスローワー攻撃の余波は鬼百合たちの元まで届いていた。
かすかな地揺れを感じ取って、鬼百合は顔を上げる。
「へへっ。やってんなあ。オレたちも負けてられませんぜ、ねえ理子のねえさん」
「そうですね」
鬼百合の言葉に理子もうなずく。そして腰に下げてあった薬壷の中身で布巾を濡らし、クロノスサイズの刃にたっぷりと塗った。
白花除虫菊の煙はよく効いて、2人が踏み込んでも逃げもしない。鬼百合がライトニングボルトを撃ち込んでも、飛蝗は飛んで逃げる様子も見せなかった。
「こりゃあもしかするとトミヲ兄さんの手を煩わすまでもないかもしれませんぜ。
ほらほら、赤飛蝗。かかってこねぇと一緒に蹴散らしちゃいますぜ?」
くつくつ笑って鬼百合がライトニングボルトを撃つ傍ら、理子は黙々とクロノスサイズで横薙ぎをかけ、切るように浚っていく。
「うわっとぉ!」
突然鬼百合の驚声が上がった。
後方に跳んで着地した鬼百合は驚きの冷めない表情で手のなかのネレイスワンドを見つめていた。正確には、そこについた傷を。
何かが動く気配を感じて2人は同時にそちらへ目を転じる。
ブーンと高速で羽を羽ばたかせて、赤い飛蝗が滞空していた。言葉は通じず、表情も読めないが、この状況に怒り狂っているのは伝わってきた。
「……やはり煙は効かなかったようですね」
相手は雑魔。そういう可能性もあることを想定していた理子は、とりたてて驚くこともなくこの状況を受け入れる。
「ですが飛蝗たちは薬が効いて、操れぬようです。今のうちに倒してしまいましょう」
「合点承知!」
鬼百合はネレイスワンドをかまえて向かっていくフリをしつつ、位置移動を開始した。今の位置から攻撃しては、後ろの家屋を巻き込んでしまう。
風を切る音がして、風の刃が飛んできた。スパッと袖ごと下の二の腕が切れた感覚がしたが、痛みは感じない。ちらりと見ると、傷口から血も流れていなかった。カマイタチみたいなものか。あとで痛むだろうが、今は都合がいい。
「覚悟はできてますかい? 赤飛蝗」
風の刃を避けながら――それでも何発か読み違って受けてしまったが――距離を取る動きで定位置についた鬼百合は、赤飛蝗目がけてライトニングボルトを放つ。ライトニングボルトは一直線に走り、線上にいた赤飛蝗を撃ち落とした。
「村の人追い出して、せっかく育てた畑のもんも食っちまうなんて許せねーんでさぁ」
赤飛蝗が確実に死んでいるのを確認して、鬼百合は言う。その腕が、ぐいっと横に引っ張られた。
「理子ねーさん?」
目をしぱたかせる鬼百合の前、理子は取り出した血止めの塗り薬を傷口に塗り込み始める。
「痛っ、痛いでさぁ、理子ねーさんっ」
今になって痛みがきたようで、鬼百合はスースーして傷口に沁みる薬に、つい声を上げる。
しかし理子の手は止まらない。
「ほら、男の子でしょう、痛くない」
「いや、痛いですってっ」
手や足についた切り傷に薬を塗り込まれる間じゅう、鬼百合はちょっと情けない声を上げていた。
理子の煙はよく効いた。
とはいえ村じゅうを満たすには1人が持ち込む量ではやはり足りない。特にトミヲ、帝のいる付近では、まだまだ飛蝗は活発だ。
ほかの2班と随時連絡をとることで状況を把握したトミヲは、彼らがそれぞれ赤飛蝗を倒していて、残り2匹の姿が見えないことを知ってふむりと考えた。
「どうかしたの? トミヲくん」
先手必勝からの縦横無尽で飛蝗を蹴散らし、風の刃が飛ぶ前にオートMURAMASAで虫球ごと赤飛蝗をたたき切った帝は、ふうと息をついてトミヲの方を見る。
「うーん、今のままだとちょっと時間がかかりそうかな、って……。
時間かけるだけ被害は増えるし、なるべく畑には送りたくないしね」
「あ、じゃあ例の作戦を?」
「うん。決行だ。
まあ、ぼくに任せてよ。足には自信があるのさ」
そう言って、トミヲは輝く笑顔でパァンと腹を叩いた。
もっとも、現実はそこまで甘くはない。
人間相手ならトミヲの自信もあながちではないのだろうが、相手は羽持つ飛蝗である。しかも地面を埋め尽くさんばかりにいて、当然ながらトミヲが走るからといっておとなしく通り道を開けてくれはしない。
グッチャリ
グチョグチョ
ブチブチ
ブチュンッ
靴を通して踏み潰す感触が足に伝わってくる。その気持ち悪さといったら!
「……ギョォェァァ……!」
トミヲは声にならない声を発して、必死になって村じゅうを走り回る。
打ち合わせてあった集合場所にはすでにクラリッサとザレムが来ていて、彼の到着を待ち受けていた。
「囮役ご苦労」
追いついた飛蝗に貼りつかれつつ、ひいひい言いながらも走るトミヲを、すれ違い様クラリッサはねぎらう。そして釣り出されてきた飛蝗の群れに向かってファイアーボールを連発した。
「いくら被害が出ているとはいえ、操られているだけの飛蝗をこのように焼き払うのは心が痛むが……これ以上被害を広げるわけにはいかぬ。
やむを得ぬのじゃ。すまん」
爆発に巻き込まれ、燃えて落ちる飛蝗たちの光景に胸を痛めて眇めた目が、開けた視界に飛ぶ赤飛蝗の姿を捉えた。
「見えた!」
すかさずライトニングボルトを放つ。前もってエクステンドレンジを使用していたため、その射程は通常のライトニングボルトより長い。伸びた雷撃は最後尾にいた赤飛蝗まで届き、これを瞬殺した。
「あと1匹! どこだ? 赤飛蝗!」
操られ、向かってくる飛蝗たちへ向けて井戸のポンプにつないだホースからの放水で牽制をかけるなか、ザレムは周囲に視線を走らせる。そのとき。
「あそこでさぁ! 茂みの影んとこ!」
鬼百合の鋭い声が横手からした。
路地から出てきた彼が指さす方へ、全員が一斉に目を向ける。
たしかに赤飛蝗だ。
「やっちまいな帝くん!」
地面にぺったり尻をついて、ひいふう切れた息を整えながらもトミヲはファイアーボールを放つ。
「さすがトミヲくんだなー!」
とねぎらったあと、あんなに自信満々だったトミヲがと、こらえ切れずくつくつ肩を揺らしていた帝だったが、その言葉を聞いた瞬間態度を一変させた。
「うん、あとは僕がやるね」
そしてトミヲが切り開いてくれた道を駆け抜ける。風の刃が飛んできたが、ザレムの防御障壁が護ってくれた。
「……ごめん。命を粗末にしたいわけじゃ、ないんだ」
燃え落ちていく周囲の飛蝗たちに向かって苦くつぶやく。
そして赤飛蝗に対しては、一之太刀で渾身の一撃を叩き込んだ。
●飛蝗退治完了
操っていた最後の赤飛蝗がいなくなった瞬間、飛蝗たちは6人への攻撃をやめてしまった。
すでに群れは散り始めている。羽を広げ、思い思いの方角へ飛んでいく飛蝗たちの姿に、全てここからいなくなるだろうとの予想はついた。
その光景に、鬼百合は頭の後ろで両手を組む。
「この村、ちゃんとみんなが戻ってこられますかねぃ」
建物をできるだけ傷つけないよう気をつけて使った範囲魔法だったが、それでも完全に無傷というわけにはいかなかった。だがそのどれもが飛蝗の与えた被害に比べれば小さくて、いずれも深刻なものはない。
「貧乏は嫌いでさ。心まで貧しくなるから」
ぽつっと独り言をつぶやく。彼に、クラリッサが言った。
「心配は不要じゃ。畑に被害は出んかったからの。秋の実りが十分な福をもたらすであろうよ」
しかしザレムは違う考えを持ったようだった。
「……なんかこれ、散るまでに時間かかりそうだし、その間に畑がやられてしまいそうだな」
飛蝗は四方に飛んでいて、当然ながら畑のある方角に向かって飛んでいる飛蝗も少なからずいる。
その様子に、考え込む素振りを見せたあと。バイクに飛び乗った。
「俺、ちょっとひとっ走りしてくるよ!」
パンを握った手を振って、来る途中見かけた草原まで誘導するべく走り出す。
疲れ知らずなその元気な姿を、残った5人はくすりと笑って見送ったのだった。
彼らが着いたとき、飛蝗の群れはすでにシグ村に入っていた。
数千匹なので村を覆い尽くすほどの規模ではないが、ほとんどの場所が緑色に染まっている。場所によって濃淡があるのは、そこに彼らの食い物があるか否かだろう。土壁や草ぶきの屋根で造られた家屋が真っ先に狙われているようだ。そのほか、庭木や広場の花壇などにもびっしりと飛蝗が貼りついていた。
「音に聞くおそろしい蝗害、防ぐよい手立てなどございましょうや」
村を一望できる小高い丘から見下ろして、華彩 理子(ka5123)がつぶやく。
「ふむ。それは難しいのう。蝗害もまた自然の営みの1つと思えば、それを防ごうとするのはある意味傲慢とも言える行為じゃ」
太古から続く魔女の一族の末裔を自称するクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)から見れば、自然は敬い、讃える存在なのかもしれない。
この言葉に、薬師として自然の持つ力を尊重する理子は「はい」と同意する。
「さりとてこれ以上、荒らされるわけにはまいりません。
此度は雑魔の手によるもの。であるならば、かえって御し易いとも思えましょう」
「うむ」
うなずき、クラリッサはほかの者たちへ視線を向けた。
「いつまでもこうしてここで眺めていても仕方あるまい。そろそろ行動に移ろうぞ」
「そうだね。なんとか早くこの群れを操ってるっていう赤飛蝗を見つけ出そう」
ザレム・アズール(ka0878)がうなずき、連絡は魔導短伝話で、と決めて動き始めたところで理子が呼び止めた。
「皆さま、少しお待ちを」懐からおもむろに何かを取り出す。「どうぞこれをお持ちください。これは印度栴檀(ニーム)と申します薬木の種子からとりだした薬でございます。雲霞や蝗の食欲減退に効き目がございますゆえ」
「はー! 理子ねーさん、物知りですげーでさ!」
「ただ、飛蝗にどこまで効くかは分かりませんが……」
鬼百合(ka3667)の感心しきった言葉に、理子は恐縮そうに言うと、自分の武器クロノスサイズを例にして使い方を伝授する。
「このように刃に塗布してお使いいただければ、振ったとき飛び散った飛沫で周囲の飛蝗たちを弱らせることもかないましょう。体や農作物に害はございません、どうぞお心のままにお使いください」
●いざ飛蝗退治!
6人は三手に分かれて飛蝗退治をすることにした。
風上に回った理子が持参した乾燥白花除虫菊を焚くまでの間、4人はそれぞれの攻撃手段に最適と思える場所へ陣を構える。
「くはー、まさに黙示録だね……今から改宗したら回れ右してくれないかなあ……」
比較的、飛蝗のとりつきが少ない家屋の屋根に上がって下の様子を見下ろし、水流崎トミヲ(ka4852)はぶるぶるっと身を震わせた。
丘から見た村は、まるでペンキをぶち撒けたように見えた。しかしこうして近づくとペンキなどではなく飛蝗で、ギチギチ鳴いている。1匹1匹の鳴き声は小さくとも、これだけ寄り集まれば耳に痛い大合唱である。
今からこれらの対処をするのだと実感したら、急に怖気がきたらしい。身を震わせるトミヲの姿に、火椎 帝(ka5027)がくすりと笑った。
「大丈夫だよ、トミヲくん。操ってる歪虚さえ倒せばいいって仕事だから。
操られてる虫は可哀想だけど、歪虚がそこにいるのなら……とめなくちゃ。避難してる村の人たちのためにも」
きっと今ごろ避難先で、村の様子を気にしているに違いないから。
「だねぇ」
ふうと息をつくことで気を入れ替えたトミヲは、額に乗せてあったゴーグルを引き下ろして本格的に遠見の眼鏡を使い始めた。
そうして数分。瓦屋根の上から360度見渡すことで周辺の地形を頭にたたき込み終えた帝は、再びトミヲに声をかける。
「トミヲくん、なんか見つかった?」
「んー? そうだねえ。あの辺なんか、僕のDT魔力にビンビンくるね……!」
DT魔力とは、30を過ぎても女性経験のない男性だけが授かる(かもしれない)と巷で噂されている、伝説の魔力のことだ。真偽は定かでないが、三十路を過ぎたトミヲはその存在を信じている。
「へー、そうなんだ」
純真に言われるまま信じたのか、単に聞き流しただけなのかはともかく、帝が相づちを打つのを見て、トミヲは言を次いだ。
「あそこが特に緑が濃いからね」
そして眼鏡を額に上げ、魔導短伝話を取り出す。
「じゃあザレムくんたちに連絡をとろうか。そろそろ行動開始だ」
「うん」
トミヲの後方でもくもくと上がり始めた白い煙を視認して、帝もうなずいた。
「クラリッサさん、来ましたよ。トミヲくんたちは準備OKだそうです」
トミヲからの連絡を受けてザレムが振り返る。
彼らがいるのは村の入口だった。村の中心へと続くその道は大道で、道幅がある。
ザレムの考えた攻撃手法ではここが最適だ。
「うむ。向こうも開始したようじゃな」
帝と同じく風上の空を睨んで合図を待っていたクラリッサがそう応えた。
白い煙は風に乗って徐々に広がりを見せていたが、飛蝗を弱らせるだけの濃度で広がるには時間がかかるだろうし、距離に比例して影響はなくなっていくだろう。
「こっちも作戦開始!」
意気揚々宣言すると、ザレムはファイアスローワーを放った。扇状に広がった破壊エネルギーが触れる物を焼きこがしていく。ただの飛蝗にそれに抗う力はなく、焼かれて乾いた地面が露出したが、すぐにまた周囲の飛蝗たちが飛び集まってきた。
「させない!」
道が飛蝗で埋め尽くされる前に、ザレムは再度ファイアスローワーを放つ。群れを分断するのが目的のこの行為は、赤飛蝗の注意を引いた。
宙を飛ぶ飛蝗、地面の飛蝗。すべてがザレムたちの方を向いて、複眼に彼らを映す。彼らの間できらめく光が見えた瞬間、ザレムは防御障壁を張った。
ガラスが破砕する音がして、防御障壁が砕け散る。
「クラリッサさん!」
「あそこじゃ!」
ザレムが問うと同時にクラリッサは飛蝗で覆われた前方、木の根元を指さす。
「風の刃はあそこから飛んできた!」
凝らしたザレムの目に赤い色がちらと見えた。しかしそれも一瞬で、すぐにほかの緑が覆い尽くしてしまった。
こんもりと半球型になった、虫球と呼ぶ物がそこにできる。ザレムの攻撃を見て危機感を強めたのだろう。飛蝗を使って自分の身を護ろうとしているのだ。
しかしどれだけ厚みを増そうとも、ザレムの振り下ろすブルトガングによる一刀両断を防ぐほどではなかった。
ジェットブーツによるジャンプで一気に距離を詰めたザレムが大上段から振り下ろした幅広の両手剣は、先ほど見た赤飛蝗を確実に捉えていた。
操る赤飛蝗が死んで、虫球を形成していた飛蝗がざぁっと飛び離れていく。
「……うん。いける」
手応えを感じて剣柄を握る手の力を強めたザレムは、ファイアスローワーによる範囲攻撃へと戻っていった。
ザレムのファイアスローワー攻撃の余波は鬼百合たちの元まで届いていた。
かすかな地揺れを感じ取って、鬼百合は顔を上げる。
「へへっ。やってんなあ。オレたちも負けてられませんぜ、ねえ理子のねえさん」
「そうですね」
鬼百合の言葉に理子もうなずく。そして腰に下げてあった薬壷の中身で布巾を濡らし、クロノスサイズの刃にたっぷりと塗った。
白花除虫菊の煙はよく効いて、2人が踏み込んでも逃げもしない。鬼百合がライトニングボルトを撃ち込んでも、飛蝗は飛んで逃げる様子も見せなかった。
「こりゃあもしかするとトミヲ兄さんの手を煩わすまでもないかもしれませんぜ。
ほらほら、赤飛蝗。かかってこねぇと一緒に蹴散らしちゃいますぜ?」
くつくつ笑って鬼百合がライトニングボルトを撃つ傍ら、理子は黙々とクロノスサイズで横薙ぎをかけ、切るように浚っていく。
「うわっとぉ!」
突然鬼百合の驚声が上がった。
後方に跳んで着地した鬼百合は驚きの冷めない表情で手のなかのネレイスワンドを見つめていた。正確には、そこについた傷を。
何かが動く気配を感じて2人は同時にそちらへ目を転じる。
ブーンと高速で羽を羽ばたかせて、赤い飛蝗が滞空していた。言葉は通じず、表情も読めないが、この状況に怒り狂っているのは伝わってきた。
「……やはり煙は効かなかったようですね」
相手は雑魔。そういう可能性もあることを想定していた理子は、とりたてて驚くこともなくこの状況を受け入れる。
「ですが飛蝗たちは薬が効いて、操れぬようです。今のうちに倒してしまいましょう」
「合点承知!」
鬼百合はネレイスワンドをかまえて向かっていくフリをしつつ、位置移動を開始した。今の位置から攻撃しては、後ろの家屋を巻き込んでしまう。
風を切る音がして、風の刃が飛んできた。スパッと袖ごと下の二の腕が切れた感覚がしたが、痛みは感じない。ちらりと見ると、傷口から血も流れていなかった。カマイタチみたいなものか。あとで痛むだろうが、今は都合がいい。
「覚悟はできてますかい? 赤飛蝗」
風の刃を避けながら――それでも何発か読み違って受けてしまったが――距離を取る動きで定位置についた鬼百合は、赤飛蝗目がけてライトニングボルトを放つ。ライトニングボルトは一直線に走り、線上にいた赤飛蝗を撃ち落とした。
「村の人追い出して、せっかく育てた畑のもんも食っちまうなんて許せねーんでさぁ」
赤飛蝗が確実に死んでいるのを確認して、鬼百合は言う。その腕が、ぐいっと横に引っ張られた。
「理子ねーさん?」
目をしぱたかせる鬼百合の前、理子は取り出した血止めの塗り薬を傷口に塗り込み始める。
「痛っ、痛いでさぁ、理子ねーさんっ」
今になって痛みがきたようで、鬼百合はスースーして傷口に沁みる薬に、つい声を上げる。
しかし理子の手は止まらない。
「ほら、男の子でしょう、痛くない」
「いや、痛いですってっ」
手や足についた切り傷に薬を塗り込まれる間じゅう、鬼百合はちょっと情けない声を上げていた。
理子の煙はよく効いた。
とはいえ村じゅうを満たすには1人が持ち込む量ではやはり足りない。特にトミヲ、帝のいる付近では、まだまだ飛蝗は活発だ。
ほかの2班と随時連絡をとることで状況を把握したトミヲは、彼らがそれぞれ赤飛蝗を倒していて、残り2匹の姿が見えないことを知ってふむりと考えた。
「どうかしたの? トミヲくん」
先手必勝からの縦横無尽で飛蝗を蹴散らし、風の刃が飛ぶ前にオートMURAMASAで虫球ごと赤飛蝗をたたき切った帝は、ふうと息をついてトミヲの方を見る。
「うーん、今のままだとちょっと時間がかかりそうかな、って……。
時間かけるだけ被害は増えるし、なるべく畑には送りたくないしね」
「あ、じゃあ例の作戦を?」
「うん。決行だ。
まあ、ぼくに任せてよ。足には自信があるのさ」
そう言って、トミヲは輝く笑顔でパァンと腹を叩いた。
もっとも、現実はそこまで甘くはない。
人間相手ならトミヲの自信もあながちではないのだろうが、相手は羽持つ飛蝗である。しかも地面を埋め尽くさんばかりにいて、当然ながらトミヲが走るからといっておとなしく通り道を開けてくれはしない。
グッチャリ
グチョグチョ
ブチブチ
ブチュンッ
靴を通して踏み潰す感触が足に伝わってくる。その気持ち悪さといったら!
「……ギョォェァァ……!」
トミヲは声にならない声を発して、必死になって村じゅうを走り回る。
打ち合わせてあった集合場所にはすでにクラリッサとザレムが来ていて、彼の到着を待ち受けていた。
「囮役ご苦労」
追いついた飛蝗に貼りつかれつつ、ひいひい言いながらも走るトミヲを、すれ違い様クラリッサはねぎらう。そして釣り出されてきた飛蝗の群れに向かってファイアーボールを連発した。
「いくら被害が出ているとはいえ、操られているだけの飛蝗をこのように焼き払うのは心が痛むが……これ以上被害を広げるわけにはいかぬ。
やむを得ぬのじゃ。すまん」
爆発に巻き込まれ、燃えて落ちる飛蝗たちの光景に胸を痛めて眇めた目が、開けた視界に飛ぶ赤飛蝗の姿を捉えた。
「見えた!」
すかさずライトニングボルトを放つ。前もってエクステンドレンジを使用していたため、その射程は通常のライトニングボルトより長い。伸びた雷撃は最後尾にいた赤飛蝗まで届き、これを瞬殺した。
「あと1匹! どこだ? 赤飛蝗!」
操られ、向かってくる飛蝗たちへ向けて井戸のポンプにつないだホースからの放水で牽制をかけるなか、ザレムは周囲に視線を走らせる。そのとき。
「あそこでさぁ! 茂みの影んとこ!」
鬼百合の鋭い声が横手からした。
路地から出てきた彼が指さす方へ、全員が一斉に目を向ける。
たしかに赤飛蝗だ。
「やっちまいな帝くん!」
地面にぺったり尻をついて、ひいふう切れた息を整えながらもトミヲはファイアーボールを放つ。
「さすがトミヲくんだなー!」
とねぎらったあと、あんなに自信満々だったトミヲがと、こらえ切れずくつくつ肩を揺らしていた帝だったが、その言葉を聞いた瞬間態度を一変させた。
「うん、あとは僕がやるね」
そしてトミヲが切り開いてくれた道を駆け抜ける。風の刃が飛んできたが、ザレムの防御障壁が護ってくれた。
「……ごめん。命を粗末にしたいわけじゃ、ないんだ」
燃え落ちていく周囲の飛蝗たちに向かって苦くつぶやく。
そして赤飛蝗に対しては、一之太刀で渾身の一撃を叩き込んだ。
●飛蝗退治完了
操っていた最後の赤飛蝗がいなくなった瞬間、飛蝗たちは6人への攻撃をやめてしまった。
すでに群れは散り始めている。羽を広げ、思い思いの方角へ飛んでいく飛蝗たちの姿に、全てここからいなくなるだろうとの予想はついた。
その光景に、鬼百合は頭の後ろで両手を組む。
「この村、ちゃんとみんなが戻ってこられますかねぃ」
建物をできるだけ傷つけないよう気をつけて使った範囲魔法だったが、それでも完全に無傷というわけにはいかなかった。だがそのどれもが飛蝗の与えた被害に比べれば小さくて、いずれも深刻なものはない。
「貧乏は嫌いでさ。心まで貧しくなるから」
ぽつっと独り言をつぶやく。彼に、クラリッサが言った。
「心配は不要じゃ。畑に被害は出んかったからの。秋の実りが十分な福をもたらすであろうよ」
しかしザレムは違う考えを持ったようだった。
「……なんかこれ、散るまでに時間かかりそうだし、その間に畑がやられてしまいそうだな」
飛蝗は四方に飛んでいて、当然ながら畑のある方角に向かって飛んでいる飛蝗も少なからずいる。
その様子に、考え込む素振りを見せたあと。バイクに飛び乗った。
「俺、ちょっとひとっ走りしてくるよ!」
パンを握った手を振って、来る途中見かけた草原まで誘導するべく走り出す。
疲れ知らずなその元気な姿を、残った5人はくすりと笑って見送ったのだった。
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相談卓 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659) 人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/30 15:31:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/28 01:39:37 |