【審判】閉じた世界

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/07 22:00
完成日
2015/08/23 18:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 王国北部を中心としたゴブリンの動きに対する国の対応決議から然程時間を置かず、開かれた定例軍事会議。円卓の間では、王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインが報告を上げていた。
「以上が、直近までの騎士団の動きです」
「北部の亜人騒動では貴族の動きが鈍くない。だが、東は憤怒の王……始祖の七が動いたと聞く」
 大司教セドリック・マクファーソンが、すいと視線を動かした。その先に座しているのは、鮮やかな青緑色の髪の乙女──
「他人事、と断じるつもりは毛頭ありません。東方へは私たち聖堂戦士団が出ましょう」
 ──ヴィオラ・フルブライト。女は、表情一つ変えずに応える。
「多少の気がかりはありますが……今すべきことは理解しています」
 “気がかり”。その言葉を受けたエリオットの表情にも陰りが見え、大司教は重い息を吐く。
「……クラベル出現の報せ、か」
「イスルダで何らか動きがあったのかもしれませんが、それでもただ王都に構えたまま、歪虚の動きに後手を続ける訳にも参りませんから」
 痛烈な批判に緊迫した空気が張りつめる。東方に出張ってさえいなければ、王国騎士団副長のダンテ・バルカザールが口笛の一つも吹いた事だろう。生憎冗談を言えるような人間はこの場に出席していないが。
 誰もが口を閉ざすなか、大司教が苦笑交じりに窘める。
「聖堂戦士団長」
「出兵の準備を致します。議題が消化されたのなら、私はこの辺で失礼しても宜しいでしょうか」
 意に介さず、席を立とうと周囲を見渡すヴィオラに対し、それを“批判されたばかりの男”が制した。
「最後に一つ、俺も気になっていることがある」
 大司教が促し、許可を得てエリオットが発言。だが、それが会議を思わぬ方向へと導いてしまうことになる。
「恐らくヴィオラ殿は気付いているだろうが……最近、巡礼中のエクラ教徒が歪虚の襲撃を受ける事件が多発している」
「エリオット殿」
 女の鋭い視線と声が、エリオットの報告を遮った。
「被害者はエクラの敬虔な教徒たちだ。心情を慮ればヴィオラ殿の裁量で事を進めるべきだと、これまで触れずに来たが……これ以上黙って被害を拡大させる気は、俺にはない」
「前提だけはご理解頂いているようで、安心致しました。そうです、本件は我々聖堂戦士団が引き続き対処を行います。北部に青の隊、東方に赤の隊を派遣した騎士団の皆さんには聊か荷が重いと思われますので」
 睨み合う二人。口を開けば互いの言葉が、互いを煽り合うばかり。だが──
「巡礼中のエクラ教徒が歪虚に襲撃される案件が多発……か」
 卓上戦争を思わぬ形で破ったのは大司教だった。
「それが事実かはさておき、今は北部のこともある。些事なら猶のこと、徒に長引かせる理由もない。早急な対処が不可欠だ」
 セドリックがはっきり言い放てば、素直にヴィオラが応じ、かたやエリオットは視線を外す。聖堂戦士団が引き続き本件の対応を行う──そう思われたが、しかしその後に伝えられたのは想定外の事態だった。
「本件は、騎士団と戦士団、両組織で情報を共有しながら一刻も早い解決に繋げたまえ」
「大司教様? 一体、どういう……」
「これは国としての意向だ。進展は逐次報告を」
 何事か零れそうになる唇を噛み、青髪の乙女は反論を呑み込む。
 二人のやり取りを、その真意を、見極めようと黙って見守っていたエリオットは、
「承知しました」
 ある決意をもってそう答えた。

 会議後、一言も交わす間もなくヴィオラは早々に席を立った。城の廊下をつかつかと進む彼女を追う形で、エリオットはその背に声をかける。
「事件の状況はどうなっている。騎士団側で対処を行った件も幾つかあるが、我々が持っている情報は少ない。実際、全て偶然の可能性もあるだろうが、そちらで何か心当たりは──」
 突如、ぴたりと足を止めて振り返るヴィオラ。流れる青緑色の髪が柔らかに女の挙動に合わせて、揺れる。
「私は、これから東方へ赴きます。不在の間、警邏や再発防止策の対応は願いますが……余計なことはしないでください。決して」
 一方的に言い残すと、女は再び背を向けて去っていった。
 残された男はと言えば、
「……あの様子、俺への悪感情であればいいんだが」
 苦い面持ちで髪を掻き、憚ることなく嘆息した。



 王都イルダーナ第3街区。王国騎士団本部の執務室でエリオットは報告書類を眼前に並べていた。思い起こすのは、先の大司教の指示だ。
 大規模な戦闘において王国騎士団と聖堂戦士団が共に戦うことはあっても、国の大事と直接的な関連性すら定かではない案件に王国の二大軍事力を投入するという事態。その決断が、“恐ろしく早かった”ことも含め──
「どう考えても、異例の対応だ」
 そう零し、眉間に皺を寄せた。現場の長である両名の意思はそこに沿っていなかったにもかかわらず……これには一体どんな意味がある?
 本来的にはヴィオラが対応するのが最良であるはずだった。だが、彼女はこれから東方遠征……指揮権を騎士団へ移行する選択肢もあったはずだが、大司教はそれをしなかった。
 単純に“早期解決”を願うだけでなく、どこかで“保険”をかけている節がある。大司教にとってはエクラの教えに従順な聖堂戦士団の方がより“子飼い”意識は強いのだろうが、あの二人にそれほど密な関係が築けているとは考え難い。
 王国騎士団を信じきれない部分は……確かにあるだろう。諜報偵察その他オールラウンドな青の隊は王国北部へ、戦闘経験豊富な赤の隊は東方へと既に出払っていることも大きい。
 節ばった長い指先で顎に触れながら思案していると、扉から規則的なノックが聞こえてくる。
「失礼します。エリオット様、何か御用があると伺ったのですが」
「フィアか、他言無用で頼むが……」
 男は立ち上がると、唐突に纏っていた執務服のジャケットを脱ぎながら、白の隊女性騎士フィアのもとへ歩み寄る。
「エリオット様?」
 あまり経験したことのない独特の緊張感。その雰囲気に後退りするフィアだが、しかし彼女に次に落ちてきた言葉は想像の遥か外れを通り抜けていった。
「俺は、今日一日“闘狩人のカイン”だ」
「……はい?」
 刹那、エリオットの執務服がフィアの肩にばさりとかけられる。
「そして、お前は今日一日“王国騎士団長”だ」
「私が、ですか?」
「有事には迷わず出撃命令を出せ。責任は俺がとる。警鐘をならせば俺もすぐに戻ろう。とはいえ、今日の勤怠状況を見るに、警邏が十全そうな日を選んではみたのだが」
「確かに、本日副隊長はお休みですから、私が承っても構いませんけれど、でも……」
「……ただでさえ身動きの取れない俺にこれ以上枷を課さないでくれ。多くに知られたくはない。それと、お前に頼んだのはもう一つ大きな理由がある」
 首を傾げて先を促すフィアに対し、男は間髪入れずに明瞭に告げた。
「一目で俺と解らないような身なりになりたい。できるか?」

リプレイ本文

●閉じた世界

 他のハンターが出立して行くなか、アイシュリング(ka2787)は依頼人のカインへこんな問いをぶつけていた。
「この件は“先日私も居合わせた”わよね。それなら“貴方”が調べるのは当然のことじゃないの?」
 依頼人のカイン──もとい“エリオット・ヴァレンタイン”の様子に少々の苛立ちを覚えながら、少女は尚も問う。
「聖堂戦士団の巡礼者護衛依頼を見かけたわ。この事件、戦士団も対策に乗り出しているのね」
「なるほど、目敏いな」
「はぐらかさないで。だからなの? 騎士団が調査するのは、越権行為だと」
「越権自体が理由ではない。だが……」
 エリオットにも何らか応えづらい背景があるのだろう。けれど少女は回答を突っぱねるように、
「隠さねばならない理由次第では、依頼を受けかねるわ」
 そう言い切った。少女の強い眼差しを前にどうしたものかとローブの上から髪を掻くエリオットだが、やがて諦めたように口を開いた。
「俺が今言える事は、王国騎士団の長という立場は思いのほか影響力が強く、時として動き辛いことがある、ということだけだ」
 それは少女が引き出したい答えではなかっただろう。
 だが、エリオットは特定の組織、あるいは個人の名を挙げることをしなかった。

 その後、アイシュリングは気がかりをどうしても消しきれず、聖堂戦士団の者が詰めているという教会へ向かった。
「その件の責任者は、生憎任務で出ております」
「一連の調査は戦士団が仕切っているの? 私は前回騎士団と事件対応に出たわ。連携はとっているのかしら」
「“連携”、ですか」
 苦い反応だ。
 王国の人々が皆そうと言うわけではないが、エリオットにしろ、戦士団の司教にしろ、みな“世界が閉じている”。
「だから、この国は弱いのよ」
「……なに?」
 一刻も早く解決をするのなら、連携すべきと言ったのよ──そう言い残して、少女はその場を後にした。

●理由

「おはようさんじゃ。朝の礼拝は終わったかの?」
「おはようございます。何か私どもに御用ですか?」
 その日、バリトン(ka5112)は早朝から王都のある教会へ足を運んでいた。
「ああ、ちと聞きたいことがあるんじゃ。少し、時間をもらえるか」
 老戦士が掴まえたのは、敬虔な信徒と呼ぶに相応しい、熱心なエクラ教の助祭だった。彼は「私に解る事でしたら」と、もの静かそうな微笑みで応じてくれる。
「巡礼者を狙った襲撃事件について小耳に挟んでの」
「確かに、最近そういった事件が多いのは事実です。ただ、明確に巡礼者が狙われたのかは、解りません」
「そりゃ、なぜじゃ?」
「エクラは最も多くの信仰を集める教えです。信徒の数は非常に多く、巡礼者も珍しいものではない。ですから、母数故の偶然である可能性を我々では否定できませんし、むしろ否定したいとすら思います」
 悲痛な表情で視線を落とす男。しかし、バリトンは食い下がる。
「若い時はエクラの聖導士に幾度か世話になった。じゃから、わしはその礼をせねばならん」
「それは大変有難く、頼もしいですが……“これまで永きに渡って捧げてきた我々の祈りや感謝が、今日に突然狙われる事由になる”など到底思えず」
 助祭の頼りなげな肩にぽんと手を置いて、バリトンは感謝を告げる。“何か”に引っかかりを感じながら。
「それもそうじゃな。話を聞かせてくれて、ありがとう」
 去りゆく老戦士が教会の扉を開く。その向こうに見えた青空、子供の笑い声の響く、当たり前の日常。
 助祭はそれに感謝をし、そして──
「詳しいことは戦士団の皆様が調べておいでです。そちらに向かわれてはいかがでしょうか」
 そう、告げた。
「事情があっての。じゃが、参考にさせてもらうよ」

●言い伝え

「お隣、いいですか?」
 巡礼者を装ったアイラ(ka3941)が断りを入れたのは、ある教会で祈りを捧げていた老女。老女は瞳を開けると「あぁ、どうぞ」と少女を隣の椅子へ促した。
 それからしばし、礼拝を終えて皆それぞれ教会を後にしていった。アイラの隣の老女はといえば、足腰が悪いのようで、周囲の人々が出て行くのを待っているようだ。その合間に、
「さっきは、お祈りを邪魔してごめんなさい。私、まだあまりエクラ教の事を知らなくて」
 アイラは老女に笑顔を見せ、そっと手を差し出した。老女は少々驚いた様子でいたが、やがて少女の手を取って、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「お嬢さんは、“里”から出てきたばかりかね。これも何かのご縁だろう」
 少女の愛らしい耳を見ながら、老女はそんな風に応えた。

「巡礼、かぁ」
「エクラの大聖堂へ至る巡礼の旅さ。王国では推奨されていてね。熱心な信奉者たちが指定された道を旅するのさ」
 アイラは、老女からは様々なことを教えてもらったが、中でも気になったのは“巡礼”のことだった。
「うん、興味湧いてきた。巡礼者や助祭の方に、噂とかお話聞いてみようかな」
 しかし、少女がそう告げた途端、老女が俄かに表情を曇らせる。
「もし巡礼に行くのなら、少人数でお行きなさいね」
「そういう決まりなの?」
 不思議そうな顔をする少女に、老婆はゆっくりと首を振る。
「最近巡礼中の集団が歪虚に襲われる事件が多発してるんだよ。理由はわからんが、人数が多いと目立つからかねぇ」
「でも、聖堂戦士団が守って下さっているんじゃないの?」
「守って下さっているよ。ただね、巡礼に同行するわけではない以上、事件が減らないのは仕方ないことだろう」
「……そっか」
「でもね、巡礼は魔を除けてくれるなんて言い伝えもある。もし行くのなら、おばあちゃんの想いも連れて行っておくれ」
 そんな老女に手を振って、少女は教会を後にした。

●関係性

 ──このカインっておにーさん、どっかで見たような。
「……なんだ?」
「な、なんでもないッス! とにもかくにも調査ッスね!」
 適当に笑って誤魔化す高円寺 義経(ka4362)は、カインと共に調査中だった。彼らは王都の各街区を仕切る門の中でも特に賑わう第三街区の門の傍で人々を観察しながら、それらしい人に聞き込みを行っていたのだが。
「おい、坊主。さっきから何してる?」
 そこへ義経達の様子を見かねた門近くの衛兵がこちらに向かって来た。
「あ、いや、えっと……」
 ちら、とカインを見る。
 ──確か“自分が事件の調査をしてること”は隠したいんじゃなかったか?
 思えばこそ、少年は理由を述べられない。事態を怪しんだ衛兵は、突如義経の腕を掴んだ。
「騎士団本部まで来てもらおう。話はそこで訊く」
「ちょっ……!?」
 俺は無実ッス──そんな言葉が出かかったところで、突如カインが動き出した。
 義経の腕を掴んだままの衛兵の腕を掴むと、目深に被っていたフードの縁を持ち上げ、衛兵に自らの顔を見せる。
「この少年が何をしているかは“知らないし、見なかった”。そうだろう?」
 居竦む衛兵。その光景を前にした義経は、見覚えがあるはずだと思わず嘆息した。
 だが、義経はそれに"気付いた"ことを告げなかった。
「はは……っと、そうだ。俺、ある事件を調べてるんスけど」
 幾つかの質問に、衛兵は思い返すように腕を組む。
「確かに巡礼者が被害を受けた事件は多いと聞きます。外回りの連中に聞いた話ですが、被害者に外見的特徴はさしてなく、偶然じゃないかって話もあるようですが」
「なるほど、“そこ”じゃあないんスね」
 もし共通点があるのならそれは他にあるのだろう。そんな義経の話にも、カインは真剣に耳を傾けている。
 今の“カイン”でなら、組織のしがらみなく色々なことを話せるのではないか……そんなことに気がついた。
「あのー……王国騎士団と聖堂戦士団って仲が悪いんスか?」
 義経の突然の疑問に、カインは真顔で首を傾げている。
「俺の知りうる限りでは、両組織の間で仲が悪いということはないと思うが」
「じゃあ、例えば、騎士団長と、戦士団長が……とか」
 もとより唐突な話だった。背景が見えずにいたが、カインは漸く気がついた。
 どうやらリアルブルーの少年は自らの正体に気付いたのだろう。それでも、それを指摘しない限りにおいては、今の自分は“自由”なはずで。
「“エリオット”と“ヴィオラ”について言えば、良好な関係を築けているかは……定かではないな」
 ぽつりと、カインは“他人事”のように呟いた。
「2人の間に、何かあったんすかね」
「……むしろ、“俺”が知りたいくらいだ」

●噂

「こんにちは。巡礼の途上で立ち寄ったのですが、治療の手は御入り用でしょうか」
 ルカ(ka0962)は、朝から王都に点在する病院を訪ねて回っていた。
 昼も回ろうと言う頃、ある教会にほど近い診療所を見つけると、少女は同様に扉を叩く。
 事件が多発しているらしい状況だ。負傷した“被害者”が居るに違いないと少女は踏んだのだろう。
「ありがとうございます。今は皆、落ち着いてございますので」
「それはよかった。最近、お怪我をされた巡礼者が多いと聞き、心配していたのです」
「ええ。つい先日も巡礼の方が運ばれて参りました。痛ましいことでございます……」
「その方は、今どちらに?」
「丁度貴女様と入れ違うように、今朝がた巡礼の旅路へ戻られましたが」
 ルカはその被害者の特徴を聞き出すと、急いで診療所を後にした。
 ──今から追いかければ間に合うかもしれない。
 真っ先に思い浮かんだのは、診療所にほど近い教会。そこに立ち寄るはずだろうと、少女は脇目も振らずに走る。
 そして……
「間に、合った……?」
 息を弾ませて教会前に辿りつくと、申し合わせたようにルカの前で扉が開かれた。
 扉の向こうには、1人の青年。顔に残った深すぎる爪跡──彼に、間違いない。

「多人数での巡礼中に、襲われたのですね」
 教会の椅子に隣り合って腰をかけながら、ルカは被害者の男と話をしていた。
「どうして危険な目に遭ってなお、巡礼へ戻られるのですか?」
 ルカは問う。自身も相当の深手を負い、顔に大きな傷跡まで残しながら、なぜ。
「皆、巡礼も半ばで命を奪われました。ならばこそ、僕が……皆の想いを最後まで繋ぎたいと」
「素晴らしいことだと思います。ですが、危険ではないのですか?」
「噂ですが、少人数の巡礼は襲われにくいようです。だから今度はひとりで行こうと」
 巡礼者同士の情報網だろうか? ルカはそれに気付き、尋ねる。
「巡礼に関する噂、参考までに教えて頂けないでしょうか……?」
「はは、噂はあくまで噂です。確証もなければ、貴女の仰るように危険がなくなるわけでもありません」
「そう、ですよね」
「ええ。でも、そんな気休めを信じないと、怖くて立ち止まりそうになってしまうんです。……そんなことだから“絶対に狙われない巡礼者”の噂なんかも、生まれてしまうんでしょうね」
 聞きなれないキーワードに目を見開くルカ。苦い面持ちのまま、青年は自嘲気味に呟く。
「馬鹿げてますよね。でも……僕はこの目で見たんです。襲われた時、巡礼者のような格好の集団が少し離れた場所を通りすぎてゆくのを」
 しばしの沈黙。ややあって、青年はそろそろ発ちますと言って立ち上がる。
 しかし、ふと思い出したように、青年はこんなことを語ったのだった。
「巡礼には古来から魔除けのような意味があるといわれています。信仰の証に、日々ある幸せに、そして国の繁栄を願って……僕は巡礼の旅路へ赴きます」


●悪意の可能性

 エリー・ローウェル(ka2576)が今回の調査を受けることにしたのに背景には、高潔な想いのほかに彼女なりの思惑もあった。
 ──エクラに少しでも触れるためとはいえ、聖堂戦士団には手を貸せない。けど……
 巡礼者の噂。その根幹には何があるのだろう?
 幾つ目かに辿りついた教会の扉を開けると、エリーは助祭に声をかけ、事情を説明する。
「騎士様が事件にお心を砕いてくださることに感謝を」
 そうして礼を交わすと、少女はややあってこう切り出した。
「聖堂戦士団が事件の対応に当たっていると聞いたのですが、状況は御存じですか」
「詳しくは存じませんが“大人数の集団から被害報告が多い印象”です。目に付きやすい故でしょうか」
 しかし、対するエリーは助祭の様子をじっと見ている。
 ──今まで悪意を向けてきた歪虚を人々と同じように救いたいと思ってきた。けれど……。
 少女が事件に感じた悪意。そこからは“人為的”な匂いが感じられる気がしていた。
 なぜなら、余りに対象が特殊、かつ明確に過ぎる。
「被害者の情報を集めていたり、接触した人間に心当たりは?」
「いいえ。教会に立ち寄られた際の様子以外は、解りませんで……」
「そうですか。ありがとうございました」

 その後、エリーが掴まえたのは別の教会の助祭だった。
「巡礼者が襲われている事件で、お伺いしたいことが」
「接触した人間? あぁ、おひとり心当たりが。つい先ほど、ここを発たれましたが」
「どんな人物か、教えてください!」
 エリーは、得た情報をもとに町中を駆けまわるように捜索を続ける。
 内心では、目的の人物に“悪意がない”事を願うばかりだが、その後第三街区で掴まえた人物は──
「えっ、ルカさん!?」
 ハンター仲間の“ルカ”だった。つまり“何者か、接触した人物”は居ないのかもしれない。
「……折角です、皆で情報を共有しませんか」

●夜の酒場で

 得た情報を纏めながら、バリトンは蓄えた髭を二、三度撫でつける。
「襲われたのはエクラの巡礼者、しかも大人数の集団じゃな。襲ったのは、歪虚──日時に法則性は見出せんが、状況的には“王都からさほど離れていない”ルート上で、か」
 そこは、彼が“(何らかの方法で)人払いした”酒場。夜になると仲間達が集い、皆で得た情報を共有し合うこととなった。
 バリトンに勧められ、エリーがミルクのカップを手にしたまま報告を開始。
「どうやら奇妙な噂が流れているようですね」
「絶対に襲われない巡礼者、だったかしら」
 アイシュリングの反芻に、ルカが応じた。
「その噂の大本となったのは“襲われていた巡礼者集団の傍を別の巡礼者達が通り抜けて行ったが、そちらは全く襲われなかった”というもののようで、噂の真偽は定かではありませんが」
「歪虚に巡礼者を襲う理由なんてあるんスかね」
 義経がエールへ手を伸ばそうとするのを遮るように、アイラが言う。
「そもそも、エクラの巡礼は昔から“魔よけのようなもの”という言い伝えがあるようです」
「眉唾だが、確かに魔をよけるのなら国も発展するじゃろうな」
 ここまで黙って皆の話を聞いていたカインは、しばし思案の後、ローブを取り去った。
「事情で名を偽っていたこと、申し訳なかった。俺は、王国騎士団長を務めるエリオット・ヴァレンタインだ。此度の協力に感謝する」
 ハンターを見渡した後、男は「十分な情報が得られた」と、確信したようにそう告げたのだった。

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MVP一覧


  • ルカka0962
  • 現代っ子
    高円寺 義経ka4362

重体一覧

参加者一覧


  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェル(ka2576
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 現代っ子
    高円寺 義経(ka4362
    人間(蒼)|16才|男性|疾影士
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/04 21:08:13
アイコン 方針相談
高円寺 義経(ka4362
人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/07 20:08:59