『DEAR』 ~残された足跡~

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/17 07:30
完成日
2015/09/26 00:50

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●7月下旬。帝国領、シュレーベンラント州にて
 一台の荷馬車が針葉樹の森を抜けて、湖畔に面した砦へと向かう。
 しかし、砦の前には帝国軍兵が立っており、どうにも通常とは違う気配であることを察した御者が門の前で緩やかに止まった。
「何の用だ?」
 軍服を着た若い兵士に高圧的に言われ、年嵩の御者はムッとした表情を隠さずに問う。
「注文された品を届けに来たんだ」
「注文? 何だ?」
「こっちも商売だ。易々と口に出せると思うか?」
「ここの所有者は帝国謀反罪が発覚し、現在この砦は帝国軍が抑えている。どうしても言わないというのならお前も謀反の疑いで連行するが良いか?」
 その言葉を聞いて、御者の男は太い片眉を跳ね上げ、ふん、と鼻を鳴らした。
「鍬と鎌と斧が30、長剣・長槍が20、メイスが10、拳銃が30に弾薬が300」
 数を聞いた兵士は目を見開くと、「少しここで待っていろ」と言い残し中へと入っていく。
「……こりゃ、面倒な事に巻き込まれたか……」
 御者は溜息を吐いて、その立派な顎髭を撫で付けながら背もたれに身を預けたのだった。

●フランツの書斎にて
「以前からこの工房とは取引があったようで、押収された武器の殆どがこの工房製の物だったと判明しています。また、この工房だけでなくアルムスターの工房数カ所と取引があった事も判明しています」
 壮年の貴族然とした男が報告書を置いた。
「ふむ……ドワーヴンシュタット州かね……これまた遠いところからわざわざ」
 報告を聞いたフランツはほぅ、と溜息を吐いて、指の間に挟んだペンを器用にくるくると回す。
「まぁ、武器防具、金属を扱わせるならあそこだろうが……よくこの御者も遠路遙々運んできたの」
「往復分の馬車代まで含んでの一括前払い。納期も出来次第でいいという話しで、金払いも悪くないと……大変上客だったようですね」
「なるほどのぅ。しかしそれだけの武器を仕入れるには相当の資金がいるはずじゃが……」

 7月の頭に『ヴルツァライヒ 二カ所同時制圧作戦』としてハンター達に制圧された湖畔の砦に、新たに武器が運び込まれたとなり撤収直前だった帝国軍は慌ててその依頼主を探したが、その依頼主こそ人から歪虚へ身を堕としたカール・ヴァイトマンであった事が判明。
 新たな火種では無かったことに帝国軍としても安堵の息を吐いた事だろうが、フランツとしては首を傾げるばかりだ。

「さて、アウグストにそれほどの財力があったのか、それともカール自身が稼いでおったのか……しかしそんな実態は殆どなかったであろう?」
 職業訓練施設として運営していた頃も、就職斡旋先から礼金はあれど微々たる金額だ。
 禁止されている人買いが行われていた可能性も窺えたが、『どこ』に買われていったのかは不明のまま。
 しかしその際の礼金があったとしても、やはり足りないと見て然るべき金額が動いている。
 となると、アウグストから支援があったと考えるべきなのだが……
「気になるのぅ……ふむ。これはハンターの皆さんのお力を借りようかの」
 既に帝国軍が切り上げてしまったとなればこれ以上の足跡を辿ることも難しい。
 フランツは眼鏡のブリッジを押し上げると、再びくるりとペンを回した。

●ハンターオフィスにて
「……というわけで、現場から出てきた証拠品ではもうお手上げなんじゃよ」
 フランツはのんびりと紅茶を啜ると、静かにそれをソーサーの上に戻し、ハンター達の顔を見た。
「何しろ、アウグストの家が焼け落ちてしまっておるから、重要な書類なども皆、灰となってしまっての。あとは地道に足で情報を集めるしかなさそうなんじゃ」
 未だ小さな問題は方々に散らかったままだが、それを片付ける前に様々な問題が津波のように襲ってきている現状では、帝国軍としても恐らくこの件ばかりに構っていられないというのも、残念ながら事実だ。
「それに街中を軍の人間がいつまでもうろうろすれば住民に不安を与える。その点ハンターなら“旅人”“冒険者”として店に出入りしたって問題無かろう?」
 好々爺の笑みを浮かべてフランツは人差し指を立てた。
「わしはこれでも辺境伯じゃからな。昔からの知人も多い。まずはそっちにそれとなく話しを聞いてみようと思っておる。で、ハンターの皆にはドワーヴンシュタット州にある、アルムスターという街へ行って欲しいんじゃ。……頼めるかの?」
 にこにこと微笑むフランツを見て、集まったハンター達は互いの顔を見合わせたのだった。

●アルムスターにて
「……では、お願いします」
 痩身痩躯の男が、丁寧に頭を下げると、重厚な扉は音も無く静かに閉まった。
 男は傍らに立つ屈強なドワーフの男性に、僅かに微笑みながら告げる。
「……ボクは絵を描きに行くだけです。終わったらまた戻ってきます。大丈夫ですよ、この街から出たり、勝手に帰ったりしませんから、安心して待っていて下さい」
「ダメだ」
 にべもなく断られ、男――アルフォンスという――は、うっすらと苦笑いを浮かべる。
「……こんな風に睨まれてちゃ、絵に集中出来ません。絵が完成するまでボク、戻るつもりありませんから、それこそ陽が沈んで夜になっちゃうかも」
「……」
「ボクは中央広場で絵を描いています。もし何かあったら必ず呼びますし、もしボクがあんまりにも遅かったらお迎えに来て下さって構いませんので、少しの間1人にして貰えませんか?」
 そう言って、ポケットから取り出したお金を屈強な手の平に握らせた。
「……3時間だけだ」
 男の言葉にアルフォンスは「ありがとう」と微笑んで頷くと、大きな画材道具を抱えて足早に中央広場へと向かうのだった。

リプレイ本文

●10時のおやつ
 ピアノ線が欲しいの一点張りのマリル&メリル(ka3294)に店の親方は「話しぐらいきいてやる」と豪快に笑った。
「ホント!?」
 手招きされて奥の机の前に行くと、親方は大きな白い紙を広げた。
「じゃぁ、お嬢さんが欲しい武器っていうのをここに書いてくれ」
 マリル……メリルが張り切って書いて見せると、親方はうーんと唸った。
「これじゃお前さんが怪我をする。グローブ型にして収納しちまうのが1番安全だな」
「でもそれじゃカッコ悪い」
 ぷぅ、と頬を膨らませたメリルに親方は笑いながら告げた。
「武器は敵を攻撃する為の物だ。それは使い手が安全に使えなきゃ意味が無い」
 それは武器職人として譲れないな、と親方はきっぱりと言ったのだった。

「働きたいのです」
 手頃な店にメイドとして働きたいと告げると、親切な店主は従業員に命じて役場へとライラ = リューンベリ(ka5507)を案内してくれた。ライラが丁寧に頭を下げてお礼を告げると、ドワーフの少年は照れたようにはにかみながら手を振って帰っていった。
 ライラは掲示板に貼られている求人要項を見たが、リストにあった工房からの求人が無い事に肩を落とした。
「貴女もメイド希望なの?」
 この街では珍しい、同じ年頃の人間の女性に声をかけられて、ライラは驚きつつも頷いた。
「私もそう。でもここにある求人って常に出てるから、逆に行きづらいのよね」
「そうなんですか……あなた様はどちらかで……?」
「先月までは、ね。今は求職中。ね、ちょっとお茶しない?」
 人懐っこい笑顔にライラは少しだけ逡巡して、頷いた。

●昼食後
 ユリアン(ka1664)、劉 厳靖(ka4574)の2人は各々いくつかの工房を見て回っていた。それで実感したのは価格統一が行われているのか、置いてある武器の値段は殆どどこも変わらず、品数が多いか、系統に特化しているかという点だった。

「どうでしたか?」
 小さな噴水のある広場で落ち合ったユリアンと劉は、お互いの情報を交換し合う。
「工房を見たいっていったら叱られた」
 劉は肩をすくめて苦笑する。

「見てどうする? ハンマーを打つ回数でも数えるのか? どんな鉱石を使うのか、何度で熱して融かしたそれをどうするのか知らねぇのに見て何がわかる?」
 鍛冶の知識・経験もない劉に向かって放たれた言葉は辛辣だった。
「……これは親切心で言ってやる。お前さん、二度とそんなこと口にすんじゃねぇぞ。この街の職人は血の気の多いヤツが多い。どんな流血沙汰になっても知らねぇぞ」

「……って言われた」
「……まぁ、職人が文字通り『しのぎを削って』築いてきた街らしいですからね……そう簡単には技術を見せてくれたりはしないって事なんでしょうね」
 ユリアンは見聞いたアルムスターの歴史を思い出しながら頷いた。
「俺のほうは店の情報を聞いてきました」

 人の良さそうな立派な口ひげを生やした初老のドワーフは、ふむ、と頷くとユリアンにサーベルを渡しながら答えた。
「基本的にこの街の職人は1人一作品に特化しておりましてな。大口の発注がしたいならサーベルならどこ、弓ならどこ、槍ならどこ、というように買い回った方が良いですよ」

「……なるほど。じゃぁ、奴が5件から取引してたっていうのは、この街に合わせた結果の可能性があるな」
 劉の言葉にユリアンは頷くと、カールの取引先それぞれの特化商品を示した。
「マリルに伝話して、一軒行ってもらおう。上の2つはドロテアが様子見に行ってくれてるはずだから、ユリアンは3番目を任せていいか?」
「わかりました」
 じゃぁ、とユリアンと別れた後、劉はマリルに伝話をかけ、用件を伝えたのだった。

●3時のおやつ
 ドロテア・フレーベ(ka4126)はリストにあった5件をざっと見て回った後、中央広場へと足を向けた。
 丁度街を見て回っていたスティード・バック(ka4930)と合流出来たのでお互いの情報を交換するついでに木陰で休んでいると、右手のほうから怒声が聞こえてきた。
 2人が近付くと、1人のひょろりとした不健康そうな男性が、体格の良いドワーフと人間の2人組に絡まれていた。
「誰の許可得てここで絵なんて描いてんだ、あぁん?」
「しかも、ひとの女を勝手にモデルにしやがって」
「すみません」
 襟首を掴まれて、つま先立ちになりながら男が平謝りしているのを見て、2人は互いに顔を見合わせ、頷いた。
 スティードは隠密で静かにチンピラの背後へと近寄り、ドワーフの頭を左手で掴み、身体を密着させ耳元で囁く。
「私の友人に用があるなら語り合おう。拳でな」
「……っ!?」
「あ、兄貴っ!」
 虚を突かれて、慌てる男をスティードは無言で睥睨する。
 鞄に入れていた林檎を取り出し、それを男の顔前でぐしゃっと握り潰した。
「!!??」
 ドワーフの男は掴んでいた襟首をぱっと放した。尻餅をついてげほげほと咳き込む男にドロテアは駆け寄ると、「大丈夫?」と問うた。
 男が解放されたのを見て、スティードも左手を離すと、男達は何やら吠えながら走り去っていった。
「あ、ありがとうございます」
 気の弱そうな、というのがドロテアの第一印象だった。歳は30代半ばか。下がり気味の眉、茶色い大きなたれ目、血色の悪いやせた頬。くたびれた開襟シャツとスラックスには所々絵の具が飛び散っている。
「余計な世話だったか?」
 スティードの言葉に、いえいえ! と男は首を振って姿勢を整えると、土の上に正座をして深々と頭を下げた。
「本当に助かりました。有り難うございました」
「まぁ、顔を上げて!」
 怪我が無くて良かった、と笑うドロテアに、男は困ったような嬉しいような曖昧な笑顔を見せる。
 そんな男から視線を逸らし、ハンカチで右手を拭きながらスティードはイーゼルを見る。
「ふむ、画家か。私も絵を嗜む身でな、見せてもらえまいか」
「あ、はい。手慰み程度の物なので、お恥ずかしいのですが……」
 そう言いながらも、男は嬉しそうにスティードをキャンバスへと招いた。
 それは街の風景を描いた水彩画だった。様々なの果実や野菜を扱う出店と、香辛料を扱う出店。通りゆく人々と店番のドワーフの女性達が活き活きと描かれている。
 素人目に見ても上手い、とドロテアは思った。
「久々に絵心が疼いた、描くのを後ろで見ていても良かろうか。先刻の男が人を集めて意趣返しに来ても面倒だ」
「え? あ、はい、それは構いませんが……」
 スティードの申し出にきょとんとしながらも男は頷き了承するのを見て、ドロテアは小さく頷いて「じゃぁ、私は行くわね」と告げると、ひらりと踵を返した。
「良いんですか? デートとかじゃないんですか?」
 男の問いにスティードは首を振って否定すると「気にせず続けてくれ」と少し後ろにあるベンチに腰掛けた。
 男は最初こそやりにくそうにしていたが、すぐに驚くほどの集中力で絵に没頭していく。
 周囲に気を配りつつ超感覚を使ったスティードの耳には、遠くからハンマーで鍛造するカンカンという音が響いて届いた。

 ユリアンが張り込みをしていると、立派な馬車が停まり、小綺麗な紳士が店内へと入っていった。
 そっとその後に続いて店に入ると、紳士は親しげに店員と軽く言葉を交わし、直ぐにカウンターへと向かう。
 ユリアンはカウンター側に立てかけられていた長剣を見ながら会話に耳を傾ける。
「ではいつも通り、ライフル弾を10ケースですね。有り難うございます」
 男は懐から財布を取り出すと、数枚の紙を取り出した。
 それを店員は笑顔で受け取ると「有り難うございました」と箱に入った商品を手渡す。
 ユリアンは紳士が店から出て行った後、長剣を持ってカウンターへと向かった。
「ねぇ、さっきの紳士だけど、何で支払いしていったの?」
「え? あぁ、革命積ですよ。もうだいぶん出回らなくなりましたけど、まだ時々いらっしゃるんですよね」
 どこかで聞いた気もするが思い出せず、ユリアンは首を捻る。
「ご存じ無いです? 10年くらい前に出回った、帝国支給の商品券みたいなものですよ」
 そういえば、そんなものがあったような気もした。自分では使ったことも見たことも無いが、両親が大きい買い物をする時にそんな言葉を使っていた気がする。
 ユリアンは礼を言って代金を払うと、店を後にした。

●夕飯時
「アルフォンス」
 斜陽が広場を染める頃、アルフォンスの元に1人のドワーフの傭兵が近付いて来た。
「あぁ、時間ですか? 早いなぁ」
 アルフォンス、と呼ばれた男は苦笑して、大きく伸びをした。
 傭兵の男がスティードに気付いて、ちらりとアルフォンスを見る。
「えぇと、ちょっと絡まれちゃって。助けてくれたんです」
 眉間にしわを寄せて、男はスティードに向き合うと頭を下げて礼を言った。
「力弱い物に寄り添い、力を振り回す者に立ち向かうことは一族の誇りだ。気にするな」
 スティードの言葉にアルフォンスは「かっこいいなぁ」と呟いた。
「えと、そういえば、名乗ってもいなかったですね。ボクはアルフォンスと言います」
「スティードだ。困り事があったら、オフィスに連絡をするといい。連絡できないなら通りに手紙を投げるなり、通りから見えやすい木の枝にハンカチを括り付けるなりしてくれ。きっと力になろう」
「あぁ、ハンターだったんですね」
 通りで強いわけだ、とアルフォンスは得心したように頷いた。
「今日は有り難うございました。何のお礼も出来なくてごめんなさい」
「いや、素晴らしい絵を見せてもらった。久しぶりにスケッチでもしようかと思う」
 差し出された手を見て、アルフォンスは慌ててズボンで手の平を拭うと、絵の具まみれの手でスティードの手を握り返した。
「そろそろ」
 男が促すのに頷いて、アルフォンスは手早く画材を仕舞うと、スティードにもう一度頭を下げて、傭兵の男の横に付いた。
 念のため、と2人の会話を超聴覚で拾うと、心配する傭兵とひたすら謝るアルフォンスの声が聞こえただけだった。

 ライラは良くしゃべる彼女から様々な話しを聞いたが、唯一、カールの砦に武器を運んでいた会社に勤めていた事があったと言うのが有益な情報だった。その会社の名前を聞き出し「面接の時間が」と断りを入れて彼女から解放された時には、既に陽は沈みかけていた。
「あの、少しお話を聞かせて貰っても宜しいでしょうか」
 戸を開けて問うと、強面の親父が振り返った。
「ん? なんだいお嬢ちゃん」
「雇い主が荷を運んでくれる店を探していまして、こちらのお店ではどのような荷を扱っていただけるのですか?」
 椅子を勧められ、ライラは礼を言いながら椅子に腰掛けた。
「どんな荷でも扱うよ。中身について嘘偽りなく申告して貰えればね」
「武器や、銃器でも?」
「あぁ。火薬やなんかは危険物手数料として料金が別にかかるがね」
 そういって男は一枚の紙を取り出した。
「これが料金表だ」
 距離と時間、荷の大きさ重さ、それぞれでどのくらいの値段がかかるのかが書かれた料金表に目を通す。
「……たとえば、生き物や死体なども運んで頂けますか?」
「生き物……? まぁ、馬や牛なんかなら生きてようが死んでいようが運ぶぜ」
 料金は交渉次第だな、と親父は黄色い歯を見せながらニヤリと笑った。
 ライラはお礼を言うと席を立って、丁寧に一礼すると事務所を後にした。

「張り込みお疲れ様です」
 ユリアンの手にサンドウィッチと水筒が渡された。
「ありがとう」
「で、どうですか?」
「うん。今の所は特に……ねぇ、マリルさんは革命積って知ってる?」
 マリルはむむ? と少し考えてから、いいえ、と答えた。
「商品券みたいな物らしくて、それで取引が出来るみたいなんだ」
 ただ、カールがそれを使っていたかどうかを確かめる術が無い事にユリアンは歯噛みする。
「では、マリルはもう少し見回ってきます」
「うん、暗くなる前に宿に帰ってね?」
「はい。ユリアンさんもお気を付けて」
 マリルは徐々に街灯が灯り始めた大通りを歩きながらぽつりとこぼした。
「革命積……どこで手に入るんでしょう?」

●狼が吠える頃
「なぁマスター、この辺でピカイチな長剣を作る工房っていったらどこだ?」
 劉はカウンターで麦酒を傾けながら問いかけると、一つ席を空けた右横から返答がきた。
「シンドリんところだろ」
「シンドリって、シンドリカンパニー?」
 リストにあった商店の名前だった。
 丁度そこにドロテアが合流し、劉の左横に座った。
「何の話し?」
 ドロテアが劉越しにこりと微笑むと、ドワーフの男は気分良さそうに話し始めた。
「先月帝国軍のガサ入れにあってな」
 ここだけの話し、謀反の疑いをかけられたらしい。と男が声を潜めて言うので、ドロテアはまぁ、と表情だけで驚いて男を見た。
「怖いわねぇ」
「まぁ、俺たちは武器商人だからな。武器が欲しいと言われればどんな所にだって売るさ」
「貴方の勤め先は大丈夫だったの?」
「うちは取引なかったからな。でもガサ入れにあった所は風評被害もいいところだ。良い剣を造る所なのに、もったいない」
「なるほどなぁ。そういやゲド商店も、なんか似たような話聞いた気がしたが」
 杯が空なのに気付いて、奢るよ、と劉が声を掛けると男は嬉しそうに笑った。
「いいのかい? 悪ぃなぁ。あぁ、あそこは農具専門だ。そういや、あそこの若旦那も慈善事業家って奴に農具売っただけなのにって嘆いてたなぁ」
 劉とドロテアは顔を見合わせて小さく頷いた。

 劉と差しつ差されつしていた男がついに酔い潰れた後、ドロテアはマスターに愚痴っぽく呟いた。
「そう、街の中央広場で変な2人組に因縁付けられて困っちゃったわ。治安悪いのね、ここ」
「これでも随分マシになったんだがな。昔から何でか覚醒者になれなかった者が集まる街なんだよ、ここは」
 マスターが琥珀色の液体をドロテアの前に置く。
「そうね、腕っ節の良さそうな人は多いわね」
 一口飲んで、おいしい、と思わず頬を緩める。
「あぁ、だから傭兵斡旋業者なんかも最近増えてきたな。ハンターを雇う程じゃないが、護衛が欲しい時に使う貴族様も増えてきているらしい」
 劉が冗談めかしながら買ったダガーを取り出してくるりと回し「俺雇って貰えるかな?」と言うと、マスターは笑いながら3つほどの最近景気が良いという業者の名前を劉達に教えてくれた。

●鶏の鳴く頃
「はー、じゃぁ5つの工房から買い入れて、運送屋は別口だったのか」
 劉が頭を掻きながら唸る。
 宿屋の一室に6人は集まると、順々に己の調べたことを報告していった。
「あぁ、あと夜7時以降は工房を動かすと怒られるんだそうです」
 マリルがパン屋で仕入れた騒音対策の話しを皆に聞かせ、ドロテアが報告書を纏めた。
「さて、藪から何が出てくるか」
 ユリアンの呟きに、5人は神妙な顔で思案にふけるのだった。

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MVP一覧

  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベka4126
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖ka4574

重体一覧

参加者一覧

  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 一人二役
    マリル(メリル)(ka3294
    人間(紅)|16才|女性|疾影士
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人

  • スティード・バック(ka4930
    人間(紅)|38才|男性|霊闘士
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/15 06:23:43
アイコン 辺境伯に質問
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/17 01:33:24
アイコン 調査の準備(相談卓)
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/17 06:12:15