処女航海と海の守り手達

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/12 19:00
完成日
2015/10/20 05:34

このシナリオは1日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●忙殺の第四師団
 第四師団長ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)の姿が師団長の執務室にあるのは、珍しい。副師団長2人がそれぞれに担当部署を分け持っている今、一番自由に動けるのがユーディト自身だからだ。
 だが、今日は。
「調査の結果、少なくとも6つの町村が『海賊団ネーベルバンク』の支配下にあったとのこと。全て海賊の影響力は排除済みですが、人質の救出に失敗して住民の反発を買っている町村もあり、また海賊団の報復を考えると兵員を引き上げることもできず、予断を許さない状態です」
「ありがとう、エムデン。なるほどね……思った以上の規模だし、地方への駐屯体制を根本的に見直す必要がありそうね。まずは灯台の建設と……」
 副師団長エムデンの報告を聞きながら、ユーディトがペンを走らせる。
「マーケットの開設前に、まずは治安対策が必須ねぇ」
「ええ、幸いなのは刑期の明けた海賊・盗賊達に、三等兵編入希望者が多いことですが」
「せめて二等兵までは鍛え上げないといけないしね。あとは指揮を取れる人材の育成と、何より戦艦や高速艦の運用に必要な人材の育成……」
 文字の書かれた厚紙が『やること箱』と書かれた箱に次々に放り込まれていく。あとでこれを、今まであったものも含めて優先度順に並び替えるのだ。
 優先順位が上のものからせっせと片付けてはいるのだが、リストが短くなったためしは今のところない。
「あとは……」
 ようやくユーディトの手が一度止まったところで、机に置いてあったトランシーバーが鳴り響いた。
「はい、ユーディトです」
『ユーディト師団長、ただいま皇帝陛下が到着されました。ただいまご案内を……って陛下!?』
「ああ、リーリヤちゃんは陛下と会うのは初めてだったかしら?」
 電話の向こうから聞こえるもう一人の副師団長の声に、くすと笑うと、ユーディトはゲストを迎えにいくため立ち上がる。
「とりあえず緊急事態があったらあたしに連絡ちょうだいね。あとはとりあえず、明日の進水式と処女航海の準備をお願いね」
「はい、師団長」
 エムデンが敬礼して出て行こうとした時には、既に扉がノックされて。
「いつも通り、せっかちなお方だこと」
「誰がせっかちなのかな、ユーディト」
「陛下の他に誰がいらっしゃいまして?」
 ――明日の進水式とそれから始まる処女航海の賓客として姿を現したのは、帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)その人であった。

●新戦艦の初試練
 リアルブルーでは艤装を施す前に進水式が行われるというが、新たな戦艦は既にしっかりと艤装を施した姿をベルトルード湾に現した。
 海軍の伝統が薄い帝国で、少なくとも現体制になってからは初めて行われた進水式である。ここで始まったものが、きっと伝統になっていくのだろう。
 酒瓶を船首にぶつけて割るという古くからの、おそらくはリアルブルーから伝わった風習には、ベルトルードでよく飲まれる砂糖を混ぜた赤ワインが使われた。見事にぶつけて割ってみせたのは、皇帝ヴィルヘルミナだ。
 いくつかの華やかな行事を終えて、新たな戦艦は今、処女航海の途上にある。ベルトルードの発展に尽くしているオヴェリス商会から招かれたダフネ・オヴェリスやベルトルード市民から抽選で選ばれた者達、ハンターズソサエティを通じての招待に乗ったハンター達、それにヴィルヘルミナが参加する、軍事パレードの意味もこめた大規模なものだ。緊迫した情勢ゆえに日程は1泊2日という短いものではあるが、戦艦と随伴する高速小型艦の速力ならば、ベルトルード周辺地域の沿岸を一周するくらいは容易である。
 最初は皇帝の存在に緊張していたゲスト達も、ヴィルヘルミナが普通にフレンドリーに話しかけたりしてくるので、数時間もする頃には寛いで雑談に明け暮れたり、のんびりと甲板に出ていた――その時。

「進行方向から三時の方向に船影2つ、……距離およそ1000m!」
 突然の船内放送に、緊張が走る。
「ご歓談中申し訳ありませんけれど、ゲストの皆様は船室にお戻りくださいましね」
 そう微笑んでゲストに一礼したユーディトは、船首へと足を進めながらすぐに真剣な表情になってトランシーバーに耳をつけた。
「詳細を」
『片方の甲板に……ゾンビらしき影を確認。2隻はおそらく交戦中と思われます!』
「了解。なるほどね……」
 ほんの僅かの間の後、ユーディトはトランシーバー越しに操縦室へと命じる。
「状況を確認しつつ接近、船籍がわかり次第報告を。総員、戦闘配置に。高速小型艦は先行し偵察と撹乱を」
『了解しました!』
 やがて船内放送が状況を告げ、船員が一気に動き出す。慌しくなる中でユーディトは、ハンター達に協力を要請した。
「ゾンビは敵であること確定として、もう1隻が何者かによっては、そちらとも戦う必要があるかもしれないわ。ゾンビと戦っているということは相手に覚醒者がいる可能性も考えられるし、状況を見ての介入をお願いします」
 すっと頭を下げると、ユーディトはトライデントを構え直す。
「……この場は、第四師団とハンターの皆に任せた方が良さそうだね」
 甲板に上がる階段から顔を出したヴィルヘルミナが声をかけるのに、ユーディトが頷く。
「陛下はゲストの皆様が安心できるように、そばにいて差し上げてくださいませ」
「そうするよ。何かあったら呼んでくれ」
 すたすたと階段を下りていく足音に軽く礼をし、ユーディトはにこと笑んだ。
「処女航海が初陣となるとは……この子の進む道は、なかなか波乱に満ちた航海になりそうね」
 魔導銃や砲が、一斉に向きを変え――2隻の船影は、既にかなり近づいていた。

●その、1隻にて
「ちっ、ようやく修理が終わったと思ったらこれだ!」
 甲板で舌打ちして叫んだのは、まだ十を超えたかどうかという少女であった。
「しかも、とっととみんなと合流しなきゃなんないのに。『奴ら』と戦ってる最中なんだから」
「じゃあ迂回しても良かったんじゃねえっすか、お頭」
「アホか!? 放っといて商船とか襲ったら大変だろ!」
「んじゃ、愚痴らずとっととやりましょうぜ」
「……うん」
 髭面の男にそう言われ、複雑な表情で少女は背丈以上もあろうかというバトルアックスを担ぎ上げ、声を響かせる。
「とりあえずアタシと斬り込み隊が乗り移ったら離れて弓でも撃ってろ! 斬り込み隊味方の弓に当たんなよ!」
「応!」
 柄がいいとは言えない、けれどどこか人の良さそうな男達女達の声が揃う――が。
「お頭、なんかドデケェ船が近づいてきますぜ!」
「はっ……は? はあああああ!?」
 近づいてくる巨大な船――すなわち帝国籍の戦艦に、唖然とする一同。
「……どうしやすか?」
「ん……よし、アタシらが乗り移ったらデカ船と反対側に離れろ!」
「いいんすか?」
「いい! 少なくともゾンビ共の船じゃなさそうだ!」

 ――三つ巴の思惑が、交錯する。

リプレイ本文

 進水式のその時に、ステラ・ブルマーレ(ka3014)は言ったものだった。
「海域を守るってことは、そこで量をしたり荷を運搬する船や人を守るということ。元海女としては、非常にありがたいと思うよ!」
 港湾都市ポルトワール近郊の出身であるステラは、けれど進水式に参加するのは初めてだと瞳を輝かせていた。
「この船がこの海域を護ってくれるなら、近郊の人達も安心だね♪」
 ――その言葉が、処女航海の場で既に現実になろうとしていた。

「酔い止め飲んだから大丈夫、酔い止め飲んだから大丈夫、酔い止め飲ん……は?」
 船酔いしないよう対策を取って、必死に自分に言い聞かせていた南條 真水(ka2377)は、要請を受けてきょとんと目を瞬かせた。
「え? ゾンビ? ……あの、南條さんの豪華ディナークルーズは?」
「終わった後でいいかしら」
 申し訳なさそうに微笑む帝国第四師団長ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)の前で、がっくりと膝をつく真水である。
 そうして集まったハンター達に、ユーディトは改めて協力を要請した。
「ゾンビ海賊船に謎の船、そして、私たちですか。何やら混沌とした状況ですね」
 そう呟いて、エルバッハ・リオン(ka2434)は肩を竦めた。本当にね、とクレア グリフィス(ka2636)が頷く横で、ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は不機嫌な顔だ。
 処女航海に招かれた中には、女性客も多い。彼女達相手にナンパに励んで、ようやく成果が出そうなところだったのである。――とはいえ、協力することに異存はない。
「これも乗り合わせ、ボクも協力するよ!」
 ステラが力強く頷き、その隣でバリトン(ka5112)が真っ白な髭を撫でてグレートソードの柄に手を置く。
「のんびり船旅と思ったんじゃがな、こうなった以上折角じゃ」
 この戦艦の実力を見せてもらおうかの、と楽しみでもあるように呟くバリトンである。
「同業者なら話が早くていいんだけど……ばーちゃん、万一の場合は」
 レベッカ・アマデーオ(ka1963)が真剣な面持ちで言って、主砲へと目を走らせた。日光を反射する巨大な砲塔は、ひとたび火を噴き直撃させれば小さな船ならば容易に沈む。
「この辺、こないだの連中の縄張りだとしたら……ね」
 濃霧を意味する名を持つ海賊団『ネーベルバンク』、それは非道な支配と容赦のない略奪で、いくつもの村を支配していた悪辣な賊だ。
「ええ、そうね。示威行動の意味もあるけれど、……ただ、旗印が違うわね」
 ユーディトがそう言って、状況と作戦の確認に入る。
「幸い、ゾンビ海賊船は今止まってるから……動き出しそうなら進行方向の手前に砲撃して足止めしてもらいたいとのと、それから……」
「接舷するなら、あたしらが乗り移ったら離れてもらった方がいいけど……」
「いや、ボートを使った方がいいじゃろう。ああ、このトランシーバーを使ってくれ、連絡は密にせねばな」
 ステラとレベッカ、そしてバリトンが話し合い、その辺りは任せるよと真水が頷く。エルバッハとクレアがそれに参加しながら乗り込み用のロープの準備を整え、ロジャーが自分の弓を調整しながら作戦の細部を詰めるのに加わる。――ナンパを邪魔された恨みは、ゾンビ相手に晴らす心意気だ。
「ボクは戦艦運用とか兵隊さん達の運用方法とかわからない。でも、これが一番無難だと思うんだ」
 そう言って、第四師団の、そして戦艦の動きを提案した当人であるステラに、ユーディトが深く頷き。
「では、お願いするわ。……作戦を開始しましょう」
 ユーディトの言葉に、ハンター達の気勢が響き渡った。

 戦艦から下ろされたボートが、水を切り出立する。
「覚醒者だけでいいよ。三つ巴だし、あまり多いと混戦どころか混乱になりかねないし」
 レベッカのその提案に従い、乗り込んでいるのはハンター達と覚醒者の兵士のみだ。
 バリトンが懸命に潮を読みルートを指示しながら、己は最前へと立った。魔獣を思わせる全身鎧と広い刀身を持つグレートソード――己の武装を、ひいては体自体を射撃からの盾とする構えだ。
 すぐに近づくボートに気付いたゾンビ改造船から、腕をライフルに改造されたゾンビ達が容赦のない砲撃を加える――のだが。
「その豆鉄砲でワシを貫けるか?」
 鎧の隙間を見事に貫いた一発を除けば、ライフルゾンビ達から放たれた弾丸はバリトンの足元に散らばるのみ。
「船に弱いのを我慢してまでクルーズに参加したのに! なんでそこでゾンビが出て来るんだ!」
 真水が怒りをぶつけながら、光の三角形を生み出しそこから爆ぜる光線によってゾンビを牽制していく。クレアもそれに加わり、数を減らすと同時にゾンビ達の気を散らしていく。
 複数体攻撃によって牽制を加える2人に対し、レベッカは輝く大弓による高威力の狙撃で一体、また一体とライフルゾンビを倒していく。範囲攻撃を使うエルバッハが攻撃を控えているのは、敵と謎の勢力が見分けづらい状況で、謎の勢力を巻き込まないためだ。――敵か味方かはわからないが、少なくとも彼らがゾンビと戦っている事は事実。それに巻き込んでしまえば離れた船にいる者達が合流する可能性が高いだろう。仲間に手を出されて何も感じないような相手なら、既に逃げ出しているはずだ。
 近付くにつれて、ゾンビ達と謎の勢力の戦闘の様子が見えてくる。
「……何あの斧……」
 ゾンビ達の頭上からにゅっと現れたバトルアックスが振り下ろされ、ゾンビの一体が頭上から両断されて倒れる。
「まあ、あっちの頭はあの子かな」
 倒れたゾンビの向こうに見えたのは、再びバトルアックスを振り上げる小柄でまだ幼げな少女。
 接舷した瞬間に飛び移って来ようとするゾンビ達に対し、反対にレベッカが相手の船内に飛び込んだ。すぐさま扇形の炎が放たれ、ゾンビ達を焼き尽くす――傍にいた人間の男性は巻き込まないよう、しっかりと調整済みだ。
「根源たる悠久の魔力よ……、より遠くまで誘え! 雷よ、轟け!」
 さらにステラが呪を唱えると同時に槍を突き出しながら、マテリアル操作により射程を延ばした雷撃を解き放ち、ゾンビ達を薙ぎ倒して乗り込む道を開く。
「リーダーの嬢ちゃんは斧があるからわかりやすいとして……んむ、だいたいあの辺りじゃな」
 ゾンビ達を薙ぎ倒して開いた船上の道に飛び込んで、バリトンが目を凝らして謎の集団がどの辺りで戦っているのかを確認する。ゾンビの群れと入り乱れてはいるが、気を付けてさえいれば判別可能だ。
 それに――向こうも、自分達の存在に気付いている。
 ひたすらにレベッカがファイアスローアーを解き放ちながら、謎の集団の元へと近づいていく。「小細工は苦手だし面倒じゃ」とバリトンが肩を並べてグレートソードを振り抜き道を無理矢理切り開く中、エルバッハがファイアーボールの射程を調整して、2人と謎の集団の中間地点、やや上空で爆発させた。ここならば、ゾンビ以外の存在を巻き込むこともない上に謎の集団に近付く組の支援もでき、船への被害も少ない――作戦上、船への被害を少なく留めるのも必要なことだ。
 さらに真水が仲間達を狙うライフル持ちのゾンビ達を、広がる炎で薙ぎ払っていく。ステラが近づいてくるゾンビを、水球で牽制する。
 道を埋めようというように近づいてくるゾンビ達を薙ぎ倒しながら進んで行けば、ついに斧がゾンビ達を纏めて薙ぎ払う様子が見えた。肩で切りそろえた金色のウェーブヘアが舞い、紫の瞳がじっとレベッカとバリトンを捉える。
「テメェらは一体……」
 す、とレベッカが手で幾つかのハンドサインを示せば、はっと少女の目が開かれる。海賊――少なくとも『真っ当な』海賊であれば、知っているものだ。
 少女が片手で出したのは『了承』の意味を持つハンドサイン。
「襲われたわけでもないのにゾンビと戦ってるなんて珍しいじゃない」
「出会っちまったらやるしかないだろ。この辺りの海じゃ見ない顔だな、テメェら」
「ああ、わしらは帝国第四師団と共闘するハンターじゃ」
「ち、帝国の手先か」
 嫌そうに眉をひそめる少女。帝国という言葉に、はっと周囲で戦っていた海賊達が振り返る。
「って、帝国!?」
「お頭、大丈夫っすかい?」
 慌てた様子で集まってこようとした海賊達を、少女が手で制する。
「慌てんな、アタシが危なくなってからでいい! とっととゾンビ殺ってろ!」
「へいっ!」
 統制が取れている、というよりは信頼関係で結ばれているらしい様子で――それはこのゾンビ達や、ネーベルバンクとは明らかに違うようにレベッカやバリトンの目には映る。
「……まぁ、帝国がこの亡霊死団と敵対してるってことは認めてやるさ」
「亡霊死団?」
 聞きなれない言葉に、レベッカとバリトンの声が揃う。
「知らねぇのか? ったく、甘い情報網だな」
 ふっと呆れたように、けれどどこか得意げに笑って肩を竦める少女に、レベッカが小さく笑いながら提案する。
「ま、詳しい話は終わってからね。今人間同士で争ってる余裕ないし」
「そうだな。よしお前ら! 人間は今は味方だ、巻き込むんじゃねぇぞ!」
 応、と返ってきた男女の返事に満足げに頷いて、再び少女は斧を振りかざし敵陣へと飛び込んで行った。

 船べりに足を引っ掛け、周囲を見回したロジャーがすっと目を細める。他のゾンビと外見はさして変わらないが、他のどのゾンビも持っていない曲剣。
「喧嘩の鉄則、まずは頭を潰す!」
 す、とロジャーがグリントボウを引き絞り、矢の切っ先を斜め上へと向ける。極限までマテリアルを注ぎ込み――解き放たれ光となって放物線を描いた一撃が、船長ゾンビの脳天を直撃した。
「ガアアアア!」
 生命力に優れているらしく死にはしない、だが、統制が一気に乱れた。
「そこの人ー、巻き込まれたら死ぬからちゃんと避けてよー」
「お、う……? っとおおお!?」
 集中攻撃を受けそうになった海賊の男に、真水が警告してからファイアスローアーを解き放つ。男が慌てて飛び退く前を、炎が駆け抜け集まったゾンビ達を一気に焼き払う。
「た、助かった……ぜ?」
「いいってことさ」
 そろそろ相手も減って来たからと攻撃をデルタレイに切り替えながら、真水はぱたぱたと手を振って応える。巻き込みそうになったことはツッコまれなかったからいいという方針で。集中攻撃されたら死んでたかもしれないから正しい手段だ。
 ステラが近づいてくるゾンビを槍でいなしながら、すっとその槍を正面に向けて魔力で集めた水を解き放つ。衝撃でゾンビを薙ぎ払った水は、周囲を濡らすことなく霧散する。
 さらに開いた道を、エルバッハが一足飛びに駆けて足を止めた場所ですっと手を上げる。仲間や海賊達を巻き込まないようにと放たれた雷撃は、船長ゾンビにまで届き穿つ。
 接敵したバリトンがさらに、脳天に矢が突き刺さったままのゾンビを一刀両断。そこにロジャーの二の矢が飛来し、船長ゾンビに止めを刺す。
 ゾンビ達を掃討し終えたのは、そのすぐ後のことだった。

「で、あなたが頭よね?」
「ああ、そうだぜ」
 そう言って、斧を下ろした少女は胸を張った。
 年相応である。
 ついでにロジャーは腰を見た。
 少女らしい細い腰である。
「……なんだ、まだ子どもか」
 少女にまで聞こえないように、そっとロジャーは呟いた。
「アタシの名はヴァーリア。海上守護団の団長だ」
「海上守護団……見た感じ、『船団の一部』に見えるんだけど」
「ふ、敵か味方かわからないやつらに戦力を明かすほど愚かじゃねぇさ」
 十を越えて少しというほどの外見にしては、大人びた口ぶりだった。だが、その表情や口調はやはりどことなくまだ若い。幼い、とも言えるだろうか。
「まぁあなた達は敵じゃないとあたしは思うし、いいわよ。こっちも助かったし」
 けろっとレベッカが言うのに、単純な話だよな、と同意するようにヴァーリアが笑う。
「さて。……どうじゃろう、事情を聞かせてもらいたいのじゃが。こちらの船には師団長、そして今は皇帝がおる」
 バリトンの言葉に、さすがにヴァーリアは目を丸くした。
「随分とフットワークの軽い皇帝じゃねぇか」
 その場にいたハンター達全員が思わず頷いた。
 今回は処女航海だからまだいても当然ではあるが、割ととんでもないところにいることが多い皇帝である。
「だが、みすみすそんなところに行けるかよ。捕まえるための罠って考えるのが順当だよなぁ?」
 くる、とヴァーリアは背中を向ける。何か合図があったのか、退避していた船が再び彼女達を迎えに近付いてきつつあった。
「民間船ならこっちの船で護衛してくって手もあったけど」
「んなことしたら海上守護団の名が廃っちまうぜ」
 振り向いてニィと笑うヴァーリアに、少し考えてからバリトンが提案した。
「では、こういうのはどうじゃろうか……」
「……難しい話は苦手なんだよな」
「はいはい、じゃあ俺が聞きますって」
 進み出たのは髭面の男。――それがこげ茶の髭である以外は、バリトンといい勝負だ。
「で、こういう形式で会合を……」
「成程。だがやはり、ここは妥協してもらわんと……」
 ――話し合いが終わり、男2人はさっぱりした顔で一同に向き直った。
「話ついたか? よし戻るぜ!」
「はいはい、あとでちゃんと説明しますぜ」
 踵を返そうとしたヴァーリアに、レベッカがすっと近づく。
「そうだ、良かったら拠点の港教えてよ」
 小さく囁いた言葉に、ヴァーリアが瞳を瞬かせて。
「……もっと仲良くなれたらな!」
 にかっと笑って、ぽんとレベッカの二の腕を軽く叩くと駆け去って行った。

 急いで戻ってきた真水と共に、一同は再びボートに戻って戦艦へと戻り――間違っても海上守護団の船を巻き込まないような斜線を取って。
 主砲の砲撃が船体を貫き――ゾンビ海賊船は爆発しながら、海中へと沈んで行った。

 仲間達が海上守護団と話している間に船内を調べていた真水は、船の名が書かれたプレートと、隠されるように置いてあった航海日誌を発見していた。
 ゾンビ達が付けていた記録ではなく、この船の前の持ち主のものだろう。最後のページの走り書きに、ゾンビ達に追い詰められて船員が皆殺しにされ、船が奪われたらしいことが書いてあった。
 その他にも、高度な錬金術を用いた技術が船に幾つか使われているらしいことを、真水は確認する。
 全員と合流し、脱出した後のこと――。
「――リンドヴルム型からちょうど1年。そろそろだと、思わない?」
 ゾンビが船を使うなど普通ではない。しかも一部は改造済み――剣機型。
 そこから導き出される推論は――それにユーディトが頷いたところで、真水は蒼い顔で口元を押さえた。
「……う、そろそろ酔い止め切れそうかも」
 そう言って慌てて船室に向かった真水が、ちゃんと豪華ディナーに出られたのかは――戦艦にいた者達だけが、知っている。

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MVP一覧

  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオka1963
  • ヒースの黒猫
    南條 真水ka2377
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレka3014

重体一覧

参加者一覧

  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ドワーフの想い継ぐ歌い手
    クレア グリフィス(ka2636
    人間(紅)|25才|女性|機導師
  • Xカウンターショット
    ロジャー=ウィステリアランド(ka2900
    人間(紅)|19才|男性|猟撃士
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレ(ka3014
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士

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ロジャー=ウィステリアランド(ka2900
人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/09/12 17:24:15
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/12 14:29:13