ゲスト
(ka0000)
道を拓いて芋掘りに出発
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/14 22:00
- 完成日
- 2015/09/27 06:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●エルヴィンバルト要塞
「時間を取って頂きかたじけない」
「それはこちらの台詞でもあるからな、まあ掛けてくれ」
シュラーフドルンの執務室。カミラ自ら応接セットに通すのは、三人のエルフ。
話を進めるのはエルフハイム維新派の長老ユレイテルである。
「結論から言おう。……浄化術を輸出することが決定した」
「なに!?」
座ったはずのカミラの腰があがる。
「……その議論に関与できなかった我々に、どうしてまた……と言いたいところだが……」
どさり。ソファーに座り直し軽く天を仰ぎながらちらりとエルフ三人の顔を伺うカミラ。ユレイテル、パウラ、そしてまだソファに掛けもしないフュネ。
(器とやらの作戦時に見かけた顔だ)
輸出する、それが巫子の派遣を意味するのなら、そしてこの人選は。
議論に全く関与していない帝国軍に話を持ち掛ける理由は。
浄化術を輸出する。長老会は至極あっさりとその決定を下した。
そこにヨハネ様の権力が大きく影響していることはわかる。
(器が外に出ているのだから、全部任せてしまえばいいと思いますわ)
それで十分だと思っていたのに。
フュネは、まだ若手ながらも巫子としての能力はトップクラスだという自負がある。勿論感知能力も高い。
六式浄化結界の楔役も担える程で、それこそ両手の指に入る程。
あくまでも浄化能力によるものだから、長老のような権力があるわけではないのだが。
(どうして私がまた外に……)
浄化術というならまだわかる。だからこそあの時も、森を守るために術式結界の楔として外に出た。それが自分の役割で、森の為だと言われているから。
(けれど、器だけでもいいのなら、関係ないのではありませんこと)
器を人のように扱うという話、あれがどうしてなのか全く理解が出来なかった。
あれは邪悪なる人型術具、人ならざる存在、自分達とは違うというのに。
(森を清浄に保てれば充分だと思いますのに)
どうして森の外、しかも世界の汚染を助長している帝国軍の駐留地に来なければならないのか。
(ああ、不快ですわ……)
エルフハイムに近いこの土地でも既に不快感は募る。
ちらりと、議論を交わしている維新派の背中を見る。帝国にかぶれたかのような格好をした新長老。確かスーツと言ったか。
(長老とはいえ、維新派と共に動くことも我慢なりませんわ)
それでも、長老会の決定がある限り、フュネがそれを拒否することはないのだけれど。
浄化技術の発展の為の手は打たれ始めているが、技術の進化は一朝一夕で解決するものではない。新技術の輸出だけを言えばそれが為されるのはまだ先の話だ。
けれど汚染も、歪虚もそれを待ってくれるわけがない。
いつか達成されるであろう新技術を広める為の土台としても、そして今ある脅威に対抗するためにも。
現在エルフハイムが用いている浄化技術の輸出も行うべき……と、その話が出たのは必然。
今確実に存在する技術、それはつまり器を筆頭にエルフハイムが擁する巫子、術者達そのものに他ならなかった。
「……そういうわけで、今後のために連携体制を整えておくべきということになった」
「私達は窓口係という訳か」
必要に応じて帝国軍からの要請を受け、巫子と護衛をエルフハイムから貸し出す。帝国軍は彼らの護衛も兼ね浄化術を必要な土地へ届ける。要はそういう事だ。
「悪い話ではないし、断る理由もない」
言いながら、カミラは自嘲的な笑みを完全に止めることはできない。帝国が断る事など誰も考えてないに違いない。
(事実だがな)
足元見られているという気がしないでもないが、それを感じ取らせるのはこの場を預かる身としては失格だ。
「……で、今日はその土台の、更なる基礎を作るための打ち合わせ……と、そういうことでいいんだな?」
「そうなるな」
ユレイテルの眉の端が下がっているのを目に留める。良くも悪くも正直だ、まあ相手にするには嫌いではないのだが、この先大丈夫なのかと勝手な心配も……今はどうでもいいか。
「カミラの嬢ちゃんよぅ」
「何だモーリ、珍しく大人しいと思ったら居たのか」
ひでぇなぁと冗談を言いながらちょいちょい、と自分の机から手招きする副長モーリッツ。
「実戦形式でもいいんじゃねぇか。これから俺が行く例のアレ」
「ふむ、言ってみろ」
面白そうだ、と思ったことは黙っておく。カミラが促すとモーリッツがやはり面白そうだという顔でエルフ三人を見た。
「そこのお姉ちゃん、一人でも浄化ができるんだろ? ちょっと飛び込みの仕事につきあってもらえると助かる」
「……打ち合わせとは関係ないのでは」
ユレイテルの疑問にも動じず続ける。
「今朝、畑の作物が突然暴れ出したって話があってなぁ? 畑だぜ? 錬金術の研究所なんかもない農家の集まるど真ん中で、突然だ」
「………」
何かあるって思うだろ? 沈黙を肯定ととらえ、にやりと笑いながら言う。
「勿論必ずそうとは言えないがね、机挟んでくっちゃべるよりかは、有意義だと思うんだがね」
戦いの打ち合わせなんて机上でやるもんじゃないぜ、実際に数を重ねなきゃ意味がない。
「だからそのお嬢ちゃんが来たんだろ?」
帝国軍とハンターとエルフハイム、三つの立場の者達が集まり戦った当時の作戦の中でも、特に面倒な敵と近い場所に居た巫子。
フュネがどう思っているにせよ、その経験は貴重で、だからこそこの打ち合わせに参加することになった。
「勿論俺達だけじゃない。急なことだから部下達だけじゃ足りない。ハンター達にも声を掛けて集めてある」
いずれエルフと帝国軍だけで動くことにもなるだろうが、いきなりは難しいだろう?
「ああ、そうだな。同行させてもらおう」
「……ユレイテル様、記録は私が」
「……」
パウラが控えめな声で伝える。フュネは黙ったままだが、そもそも拒否権はないと考えてでもいるのだろう。
「決まりだな!」
パンと手を叩くモーリッツの後ろでは書類を差し出すテオバルト。気配を消したまま事務仕事をしていたもう一人の副長だ。
「というわけだからテオ、予算の変更を頼む」
「後は承認を頂くだけです。ゲーベル師団長」
「では支度が整い次第芋掘りに出発だな!」
●うごめくサツマイモ(畑)
シュルシュル……ゴゴ……
ゆっくりと地を這うのは緑も鮮やかな蔓。
とっかかりはないだろうか、捕まるところはないだろうかと。本来収まっているべき畝の外へとつたい、柵の隙間を抜けて、マテリアルを求め……
「ひぃっ!?」
運悪く通りがかった者が怯え立ち止まった一瞬を、見逃すはずもなく。
シュルル……キュッ♪
「わぁあぁぁぁぁ!?」
足首を締めすぎず緩めすぎず、逃がさない程度の適度な加減を持って絡めとる。
「だ、誰か……っ!?」
もう一方の足首、腿、腰、首、そして逃げだそうと、出来るだけ伸ばした両の手首……
「早く、早く兵士をっ!?」
また一人、もう一人と、蔓人間が増えていく。
「時間を取って頂きかたじけない」
「それはこちらの台詞でもあるからな、まあ掛けてくれ」
シュラーフドルンの執務室。カミラ自ら応接セットに通すのは、三人のエルフ。
話を進めるのはエルフハイム維新派の長老ユレイテルである。
「結論から言おう。……浄化術を輸出することが決定した」
「なに!?」
座ったはずのカミラの腰があがる。
「……その議論に関与できなかった我々に、どうしてまた……と言いたいところだが……」
どさり。ソファーに座り直し軽く天を仰ぎながらちらりとエルフ三人の顔を伺うカミラ。ユレイテル、パウラ、そしてまだソファに掛けもしないフュネ。
(器とやらの作戦時に見かけた顔だ)
輸出する、それが巫子の派遣を意味するのなら、そしてこの人選は。
議論に全く関与していない帝国軍に話を持ち掛ける理由は。
浄化術を輸出する。長老会は至極あっさりとその決定を下した。
そこにヨハネ様の権力が大きく影響していることはわかる。
(器が外に出ているのだから、全部任せてしまえばいいと思いますわ)
それで十分だと思っていたのに。
フュネは、まだ若手ながらも巫子としての能力はトップクラスだという自負がある。勿論感知能力も高い。
六式浄化結界の楔役も担える程で、それこそ両手の指に入る程。
あくまでも浄化能力によるものだから、長老のような権力があるわけではないのだが。
(どうして私がまた外に……)
浄化術というならまだわかる。だからこそあの時も、森を守るために術式結界の楔として外に出た。それが自分の役割で、森の為だと言われているから。
(けれど、器だけでもいいのなら、関係ないのではありませんこと)
器を人のように扱うという話、あれがどうしてなのか全く理解が出来なかった。
あれは邪悪なる人型術具、人ならざる存在、自分達とは違うというのに。
(森を清浄に保てれば充分だと思いますのに)
どうして森の外、しかも世界の汚染を助長している帝国軍の駐留地に来なければならないのか。
(ああ、不快ですわ……)
エルフハイムに近いこの土地でも既に不快感は募る。
ちらりと、議論を交わしている維新派の背中を見る。帝国にかぶれたかのような格好をした新長老。確かスーツと言ったか。
(長老とはいえ、維新派と共に動くことも我慢なりませんわ)
それでも、長老会の決定がある限り、フュネがそれを拒否することはないのだけれど。
浄化技術の発展の為の手は打たれ始めているが、技術の進化は一朝一夕で解決するものではない。新技術の輸出だけを言えばそれが為されるのはまだ先の話だ。
けれど汚染も、歪虚もそれを待ってくれるわけがない。
いつか達成されるであろう新技術を広める為の土台としても、そして今ある脅威に対抗するためにも。
現在エルフハイムが用いている浄化技術の輸出も行うべき……と、その話が出たのは必然。
今確実に存在する技術、それはつまり器を筆頭にエルフハイムが擁する巫子、術者達そのものに他ならなかった。
「……そういうわけで、今後のために連携体制を整えておくべきということになった」
「私達は窓口係という訳か」
必要に応じて帝国軍からの要請を受け、巫子と護衛をエルフハイムから貸し出す。帝国軍は彼らの護衛も兼ね浄化術を必要な土地へ届ける。要はそういう事だ。
「悪い話ではないし、断る理由もない」
言いながら、カミラは自嘲的な笑みを完全に止めることはできない。帝国が断る事など誰も考えてないに違いない。
(事実だがな)
足元見られているという気がしないでもないが、それを感じ取らせるのはこの場を預かる身としては失格だ。
「……で、今日はその土台の、更なる基礎を作るための打ち合わせ……と、そういうことでいいんだな?」
「そうなるな」
ユレイテルの眉の端が下がっているのを目に留める。良くも悪くも正直だ、まあ相手にするには嫌いではないのだが、この先大丈夫なのかと勝手な心配も……今はどうでもいいか。
「カミラの嬢ちゃんよぅ」
「何だモーリ、珍しく大人しいと思ったら居たのか」
ひでぇなぁと冗談を言いながらちょいちょい、と自分の机から手招きする副長モーリッツ。
「実戦形式でもいいんじゃねぇか。これから俺が行く例のアレ」
「ふむ、言ってみろ」
面白そうだ、と思ったことは黙っておく。カミラが促すとモーリッツがやはり面白そうだという顔でエルフ三人を見た。
「そこのお姉ちゃん、一人でも浄化ができるんだろ? ちょっと飛び込みの仕事につきあってもらえると助かる」
「……打ち合わせとは関係ないのでは」
ユレイテルの疑問にも動じず続ける。
「今朝、畑の作物が突然暴れ出したって話があってなぁ? 畑だぜ? 錬金術の研究所なんかもない農家の集まるど真ん中で、突然だ」
「………」
何かあるって思うだろ? 沈黙を肯定ととらえ、にやりと笑いながら言う。
「勿論必ずそうとは言えないがね、机挟んでくっちゃべるよりかは、有意義だと思うんだがね」
戦いの打ち合わせなんて机上でやるもんじゃないぜ、実際に数を重ねなきゃ意味がない。
「だからそのお嬢ちゃんが来たんだろ?」
帝国軍とハンターとエルフハイム、三つの立場の者達が集まり戦った当時の作戦の中でも、特に面倒な敵と近い場所に居た巫子。
フュネがどう思っているにせよ、その経験は貴重で、だからこそこの打ち合わせに参加することになった。
「勿論俺達だけじゃない。急なことだから部下達だけじゃ足りない。ハンター達にも声を掛けて集めてある」
いずれエルフと帝国軍だけで動くことにもなるだろうが、いきなりは難しいだろう?
「ああ、そうだな。同行させてもらおう」
「……ユレイテル様、記録は私が」
「……」
パウラが控えめな声で伝える。フュネは黙ったままだが、そもそも拒否権はないと考えてでもいるのだろう。
「決まりだな!」
パンと手を叩くモーリッツの後ろでは書類を差し出すテオバルト。気配を消したまま事務仕事をしていたもう一人の副長だ。
「というわけだからテオ、予算の変更を頼む」
「後は承認を頂くだけです。ゲーベル師団長」
「では支度が整い次第芋掘りに出発だな!」
●うごめくサツマイモ(畑)
シュルシュル……ゴゴ……
ゆっくりと地を這うのは緑も鮮やかな蔓。
とっかかりはないだろうか、捕まるところはないだろうかと。本来収まっているべき畝の外へとつたい、柵の隙間を抜けて、マテリアルを求め……
「ひぃっ!?」
運悪く通りがかった者が怯え立ち止まった一瞬を、見逃すはずもなく。
シュルル……キュッ♪
「わぁあぁぁぁぁ!?」
足首を締めすぎず緩めすぎず、逃がさない程度の適度な加減を持って絡めとる。
「だ、誰か……っ!?」
もう一方の足首、腿、腰、首、そして逃げだそうと、出来るだけ伸ばした両の手首……
「早く、早く兵士をっ!?」
また一人、もう一人と、蔓人間が増えていく。
リプレイ本文
●
「貴女がこの場の要ですね」
お久しぶりです。簡単な名乗りと挨拶を添える音桐 奏(ka2951)は会釈をしながらも、フュネの様子を観察する。
「役目を果たすための護衛はお任せください」
「人に栽培されたものは専門外……というべきだろうな」
すまない。そうユレイテルに謝られ、ウィルフレド・カーライル(ka4004)は少なからず面食らっていた。長老と秘書と巫子、今現場にいるエルフたる彼らは皆農業に明るくなかった。辛うじてパウラが本の知識を持っていた程度だ。
むしろ役立ったのは農夫たちの意見。教わった知識の通りに蔓の動きを警戒しながら、ウィルフレドは彼ら農家のありがたみをしみじみと感じるのだった。
初対面の挨拶は大事だからと挨拶した火椎 帝(ka5027)は高揚感に満たされていた。
(やっべ、本当に居たんだ!)
ハンターになってから話に聞いていた森エルフ。友好的なユレイテルよりもツンとした態度で口数が皆無のフュネに好奇心が募る。森の奥の巫子、なんてファンタジーで神秘的!
「貴女が仕事に専心できるよう、護衛はしっかりやりますんで!」
当の巫子が眉を潜めていても綺麗だなあとしか思わない。一挙一投が帝の中にあるエルフイメージにぴったりなのだ。
「あの……?」
止めるべきか迷うパウラをユレイテルが手の仕草だけで止めた。
「荒療治も必要かもしれない」
つれない態度を見せる巫子を遠目に眺めるGacrux(ka2726)。
(ほーう、あれが)
「どうかされたのですか? つまらない顔をして」
更に深められる目頭の皺。短い言葉も返ってこない……Gacruxの観察結果は記憶として書き記される。
「おっと! これは失礼」
それならそれで構わない。薄い笑みをこぼし護衛の支度にかかった。
「うおおおおおお! 芋堀だぁー!」
(あ?)
気合の雄たけびをあげた紫月・海斗(ka0788)視界に映るのは妙齢のエルフ、フュネ。タングラムを未来の嫁と自称する海斗にしてみれば眼中ではないのだけれど。
「フュネ嬢ちゃんテンション低くね?」
ぽふ。
海斗の手が自然にフュネに触れる。そう、下心は嫁に振り切っているから他の女性に対してそんな気分にはならないからだ! ……なんとまあ。
「おぉ……意外と……」
動きやすさを重視した服の割にほっそりとしたフュネの肢体、しかし弾力は予想以上。感想を呟く海斗は危険の気配に気づいていない。
ぶぉん!
この手のイベントは楽しんだ方が良いぜという言葉は轟音に掻き消された。
「汚染源までの道を拓けばいいのね」
エイル・メヌエット(ka2807)が芋畑を見渡す。
「芋掘り、と言うより芋狩りだなこれは……」
レイス(ka1541)はエイルへと視線を向ける。恋人を護るのは自分の役目だ。
「行こうかエイル。君には蔓一本、葉の一枚も触れさせん」
視線が返る前に足を踏み出す。エイルがその背を追いかけたところで……轟音が鳴った。
「彼は一体」
ため息をつくエイルに問うユレイテル。
「面白い人よ? ああいった行動を除けば」
「好きな女一筋な馬鹿な男だ」
うまく纏めて引き受けてくれたレイスの声がどこか甘く、俺と同じで、という呟きが続いた気がしたのは……恋人の欲目だっただろうか。
「何が起きたんですか!?」
パウラが駆け付けた時、そこにはぼろ雑巾のようになった海斗が、芋蔓に絡みとられ身動きも取れなくなっていた。純情を怒らせるなんて教育にも良くないのだ、良い子もいい大人も真似しないように。
「……それって噂に聞く……!?」
パウラは海斗の前科(意味深)を知っていた模様、今後は夜道や物陰に注意した方がいいかもしれない?
フュネの顔が盛大に歪んだ。
「そんなに嫌そうな顔すんなよ。慣れると結構乗り心地良いんだぜ?」
魔導バイクに乗せるというナハティガル・ハーレイ(ka0023)の提案があったからだ。
「彼は信頼できる。それにフュネ殿の安全を考えれば悪くない案だ」
「……わかりました」
長老の言葉だから仕方ない。不満が滲む了承の声。これがヨハネ相手だったらもっと素直にいう事を聞くのかもしれないが。
(大変だなぁお前もよ)
フュネをエスコートしながら、ナハティガルが友の内心を慮ってしまうのは仕方のない事だった。
「何と言うか、強烈だねぇ……」
動く蔓を凝視するオルフェ(ka0290)。食材の気配にやっては来たものの、目の前に広がる光景は正直、ずっと見ていたくない。
(救助と避難誘導に回らせてもらおう)
(芋もこうなると……壮観だが、しかし)
芋はすべて地に埋まっているのだから、蔓だ。
そう結論付けたあと、篠杜 真崎(ka0186)はわざとらしい笑みを作った。
「なあカミラ」
「何だ?」
「思いきって蔓に絡まれてみる気はないか?」
「ふむ、つまり真崎は蔓に絡まれたいという事だな?」
手伝ってやるぞ、即座ににやりと返される。名を呼ぶ許可は前に貰っていたが、やはり踏み込み過ぎたか。
「……冗談だ、半分は」
「ほう」
怒っているわけではないらしい。内心息をついて話しを逸らす。
「せっかく食える芋蔓まで踏み荒らして駄目になる前に、浄化に成功して貰わないとな?」
「ああ……期待しているぞ?」
絡まれるのにも、料理にも。言ってカミラもフュネの護衛に駆けていく。
(……根に持たれたか?)
「桃ねーちゃん! 芋を食うためにはあの蔦が邪魔だ!」
「そうだねトラ君! 私達の美味しい時間の邪魔をするなんて、なんて悪い蔦!」
畑を前に盛り上がっているコトラン・ストライプ(ka0971)と銀 桃花(ka1507)、その勢いに誰も「その蔓と芋は同一個体だ」と突っ込む事が出来ない。
「お芋ならお芋らしく、大人しく食われなさーいっ!!」
桃花、ちゃんと植物の構造を理解していた!?
「おう! さっさと片付けようぜ!」
コトランは……多分勢いだけかも。
「おいらが蔓を誘い出すから!」
駆けだすコトランの背を追って桃花もウォーピックを構える。
「大丈夫! ねーちゃん強いからできる!」
引き付け過ぎて手足を絡め取られるコトラン。けれどそう感じさせない声援が桃花の背を押す。
「トラ君を離しなさぁーい!」
土から引き抜いて千切ってやるわ! その気迫が通じたのか、コトランを捕らえる蔓の根元にまで辿り着く。
「そこだねーちゃん!」
ヒュン……ブチッ!
「料理し易いようにカットしてやるぜ」
蔓を薙ぎ払いながらニヤリと笑うのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。
「面白いですねえ。もっと締めてあげますよ」
災難の上からからかいという名目で更なる締め付けを行使するGacrux。蔓を切るのではなく、ぐいと。ぎゅうぎゅうと締めていく。
「ああ、間違えました、蔓を抜こうと思ったんですよ」
後付けの理由はそれこそ建前。農夫達は既に気絶していた。
「すぐに助けますからね!」
蔓を切り拓く帝の声。道を拓くことに専念するあまり蔓の状態は気にしていないようだが……それだけ専念しているという事だ。
「浄化術には興味があるが……」
護衛が先か。仕方がないなとチャクラムを構える。
「随分とまた大きくなったものだ」
ふと思いつき、シャーリーン・クリオール(ka0184)は笑みを浮かべた。
菓子作りも捨てがたいけれど……今日は丁度、あれを持っていたな。
いつもとは違い準備は十分なものではない。けれどシャーリーンには「勝算」とも呼べるものをこの時すでに持っていた。
(トントン拍子で話が進んだのう)
イーリス・クルクベウ(ka0481)は抱く不安を振り払うように、芋蔓を斬り払う作業に向かっていた。
(ヨハネ様達の思惑が読めないのう)
だから不安が残っているのだろうか。
「この蔓を斬るように、明るい未来を切り開けたら良いのう……」
願わずにはいられない。
フローレンス・レインフォード(ka0443)としては気が気じゃない。
「これだけ数が多いのだから、もう少し周囲に気を払って動きなさい!」
蔓をスピアで切り払いながら妹の様子もうかがうのは難しい。それこそ蔓の数は多いのだ。
「ああ、もう全くキリが無い……!」
自分の身の危険も上がるとわかってはいたが、フローレンスはネフィリアの後を追った。
「おなかいっぱい食べるんでさ!」
鬼百合(ka3667)のはしゃぐ声を聞きながら春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)も畑を見渡す。
(こりゃまた、豪勢な芋ほりですねぃ)
「まずは倒さなきゃはじまりませんぜ」
鬼百合の頭をぽんと撫ぜれば、紫苑の足元に蓬が芽吹いた。
「白、芋だぞ! これで当分食料には困らねぇな!」
「うんお兄ちゃん! お腹いっぱい食べられるね!」
龍華 狼(ka4940)と龍華 白(ka4949)。彼らは常に色々な物に飢えていた。とりあえず今は、芋に。
(どうせアイツも動かねぇからな)
狼の脳裏に浮かぶのは保護者のだらしない顔ばかり。正直考えてやるのも癪に障る。
「俺らが頑張らねぇとな。白!」
弟の前で格好悪いところも見せられない、そうも思う。
「なぁにお兄ちゃん!」
打てば響く様に返る言葉、全幅の信頼がそこに在る。信頼だ、そうに決まってる。だってコイツ犬みたいだし。
「食糧調達だ! しっかり俺の援護しろよ!」
「勿論! お兄ちゃんの為にお芋いっぱい殺っつけるね☆」
白の言葉はどこか意味合いが違うのだが、発音だけ聞けば同じなので誰も注意を払う事はない。
(お兄ちゃんが頼ってくれてる、お兄ちゃんが近くで格好いい!)
信頼を通り越した熱視線を狼に送りながらも、白の持つカービンは強かに蔓を打ちすえる弾を撃ちだしていた。
「さすがお兄ちゃんかっこいい!!」
暑苦しい応援の声を背に得物が閃く。弟にいいところを見せたい気持ちも刀の勢いに変わる。
いつも白の援護は的確だ。それこそ必死なほどに自分に合わせてくると思う。
芋蔓が大人しくなった後、感謝を伝えようとして白を振り向いた狼だが、その目の前には大きく腕を広げた白の姿。視界がとにかく白でいっぱいだ。服は黒いのに。
「白! ハウス!」
「ええーっ!?」
でないと蹴り飛ばすぞと言われてしまっては仕方ない。白は愛のハグを諦めて、素直に狼の後を追った。
今日は食料の確保に来たのだから。
「お土産に持ち帰れるといいね、お兄ちゃん!」
紫苑が引き付けた蔓が届こうとする瞬間に、鬼百合の雷撃が炸裂し阻む。撃の大きさに蔓が脅威を感じ近寄れば、紫苑が蔓を薙ぎ払う。
「ねーさん、あそこに人がいますぜ!」
農夫を見つけた鬼百合の声に紫苑が駆ける。風の護りを送り出してから、鬼百合は再び雷撃をと構える。
(ねーさんが助けてる間はオレが!)
時間稼ぎくらい、自分にだってできるのだ。
「こっちでしょい!」
再びの雷撃に蔓が引き寄せられていく。
「鬼百合、無理はいけませんぜ!?」
気付いた紫苑の声が飛ぶが、その距離は遠い。大丈夫ですぜと笑って、鬼百合は再び手を前にかざした。
ザシュッ!
風の刃がその蔓を刻む。
「オレだって、ちゃあんとやれますぜ?」
今のちゃんと見てやしたか、ねーさん?
「その程度で向かってくるとはな」
静かに、穏やかに心を温めるエイルの歌声と光を背に、槍の黒炎も穏やかに燃える。動きが鈍くなった蔓は抵抗も弱く、戦槍と霊槍で払われていく。
「覚悟が足りない」
植物にそれがあるかは疑問なところだが。
「……行ってみますか」
ナイフを手に静架(ka0387)は嫌そうな視線を蔓へと向けた。
見たくない。その意識が動きを制限してしまったのかもしれない。隙が生まれた。
静架の足元から絡みつく蔓に、どこか得体のしれない恐怖を覚える。たかが植物相手だというのに。
「どこ、触ってるんですかっっ」
死角から迫ってくるような感覚が苦手なのかもしれない。頭の隅で冷静に考える自分と、憤慨して力任せに蔓を引きちぎる自分。
二人の自分を共存させながら仕留めた蔓を、改めて自分の脚から外した。
「……この蔓も食べられるのですよね」
自分に迫ってきたものを食べるというのはどうなのだろう。特にこれといって食べ物の好き嫌いはない、むしろ頓着しない静架だが、不思議と苦手意識が呼び覚まされた。
「これは一気に行くしかありませんね……」
ゆらり、拳銃を構えた静架は、これまでとは比にならないくらい精密に、蔓を一掃していくことになる。
(だからこそ、この畑のお芋様を、この世界の未来を守る為に尽力せねば……)
シュル
「……!」
細心の注意を払っていたはずだった。しかし闘いには絶対という言葉が存在しない。
どうしていいかわからない。引いても押しても捻っても、絶妙な力加減の蔓が巻きついて離れない。
振り返る。農夫たちはもう避難した後だ。
仲間達を見る。皆それぞれ蔓と戦っている。
更に蔓が巻きついていく。しかし愛剣を手放すわけにもいかない。長年連れ添い生死を預けた相棒なのだ。
「……」
気付けばウィルフレド自身も蔓に絡みつかれていた……
(本望だ)
そう考える他なかった。
「斬っても斬ってもたくさんあるのだ♪」
迷いなく畑に突撃し刀を振り回すネフィリア・レインフォード(ka0444)は、姉の忠告を聞いていなかった。そして、気付けばたくさんの蔓に囲まれていた。
「みゃ!?」
右を見ても、左を見ても蔓。勿論前も、そして後ろも……ああ、何本だろう、いっぱいだみゃー……?
シュルシュル……ッ
「ちょっと多すぎー!?」
ネフィリアは自らの体を見下ろした。ビキニアーマーである。あの極端に体を覆う面積が少ないアレだ。
斬り払いきれない蔓があっさりとネフィを吊るしあげた。
「ひゃ!? 変なところ絡むんじゃないのだ!?」
ネフィの体型は控えめに言っても胸当ての部分に隙間ができてしまうような(自主規制)。とりあえず無作為に絡みついた蔓が(自主規制)に触れていても仕方がない事なのだ。
「ネフィ、大丈夫?」
悲鳴を聞きつけたフローレンスが追い付いてきた。
「フロー姉ー!」
声で居場所を知らせるネフィリアはその時、やはり忘れていた。
姉が自分を心配するあまり、一人で追いかけてきてしまうような性格だという事に。そして姉もまたビキニアーマーできているということに。
「少しは周りをって言ったで……あぁ!?」
大きな(自主規制)が蔓で強調されていく。成人男性の皆様、姉妹の救助時には覚悟をもって対応するように。
●
根元は移動しない、つまり近づけさえすれば攻撃は当てられる。ならば身軽な自分にできる事は根絶だ。
「知覚ってどうなってるんだろうね……」
予想以上に正確に狙ってくる蔓に鉄パイプを食ませながらユリアン(ka1664)は奥へと進む。
(あと少し……!)
今だ! 新緑の風が光りユリアンの背を押す。
ザシュッ……バラバラバラ……
蔓が一斉に地へ沈む。うまくやれたことに安堵し、ユリアンは再び日本刀を構えた。
拳銃を手にバイクを追う奏は、道行く先の蔓をただ真っ直ぐに撃ち抜いていく。自身も進む中蔓は向かってくるけれど、ナイフで冷静に切り払う。ナハティガルの駆るバイクを囲ませないように。
「阻むモノは撃ち抜く。ただそれだけです」
「マンドレイクじゃあるまいし、シュールだな……!」
汚染源を捉えたフュネを降ろし戦槍を構えるナハティガル。減ってはいるものの、蠢いている蔓は多い。
「心配すんな、あんたは一歩も動かないでいいぜ?」
ちらとフュネを見る。既に固く目を閉じ集中しているようだった。
●
戦闘時に切り払われた蔓は先に水にさらしていく、灰汁が抜けるのを待つ間ガマ先に取っ手の収穫時間。掘る楽しみも斬る楽しみも他に任せ、真崎は黙々と芋を運んだ。
灰汁を抜いた芋蔓は大きさを揃え手早く金平に。醤油が無い分塩ではあるが、炒め物としての味は損なわれるものではない。何より灰汁を抜いたことが大きく、口当たりを優しくしていた。
(あいつも居たのか)
声を掛けるか迷うのはやはり向こうに連れが居るからだ。だが狼が迷っているうちに鬼百合が先に気付いた。
「狼じゃねぇですかい」
マブダチの姿に嬉しくなってつい声を掛ける。
「そっちはお初でしたかねぃ」
話に聞いていた弟だろうか。首を傾げ狼を見る。
「お兄ちゃん?」
白が狼の手に触れる。そうだ、今日は自分だって一人じゃない。
「おぅ、鬼百合じゃねぇか、奇遇だな!」
「こっちはえーっと、オレの……」
咄嗟に首を傾げる。姉と読んではいるが、紫苑は常日頃から自分は父親役だと言っていた。
「一緒に住んでるんだから、家族でいいんじゃねえですかい」
「そう! 家族なんでさ!」
「そっか、白、俺のマブダチの鬼百合だ! そんでこっちは俺の弟、白だ」
「……よろしくお願いします……」
(実を結んでるようで嬉しいねぇ)
少年達の様子を見守るこの身を幸せだと感じてしまう。目の前に、ひとつの目指した形が在る。その充足感につい笑みを浮かべてしまうのだ。
「いつも鬼百合がお世話になって……」
母親のような、うっとうしいと言われそうな態度をとってしまう。嬉しいのだから許してほしい。
「ねーさんは何でそんな嬉しそうなんですかぃ」
狼たちの手前、服の裾をくいと引くに留める様子に更に微笑ましいものを感じ、紫苑の笑みは深くなった。
「だってそういうもんですからねぃ」
父親冥利に尽きるもんでさ。
「あ……」
けれどやはり、狼の脳裏には母親の影がちらつく。
「どうもよろしくです……」
自分がしっかりしなければと思ったのに、うまくいかなくて。白に似た声を出してしまった。
「羊の乳とでもスイートポテト作れやすかね?」
「旨いんですかぃ?」
紫苑がもたらす美味しそうな言葉には自然と反応するようになっていた鬼百合がその目を輝かせた。
「プリンより?」
「ま、それは作れるか見ないとですがねぃ?」
竈の上に油を湛えた鍋。そう、揚げ物だ。素材の味をそのまま閉じ込める調理法。
「食えるところは全部美味しく食わねぇとな」
レイオスが作るのは食べやすいサイズに整えた芋天に、カリッと仕上げた蔓のかき揚げ。蔓かき揚げが師団のエンブレムに似ているとかで、カミラが揚げ方のコツを聞きにくる。
サクッと一口味見してみる。食感完璧。そして……美味いぞ!?
「慌てないことだなやっぱ。最初はおたま使うとやりやすいと思うぜ」
答えながらも、芋の葉で巻いたチーズ天ぷらとオニオンフライを手早く揚げた。
ケイルカ(ka4121)が調理に誘った瞬間のカミラの目の輝きといったら。……偉い人ってこうだっけ?
そのせいだろうか、他の皆の使う材料よりも早く準備されたような気がした。
「私まだ帝国の事よく知らなくて。手に入りやすい果物とか野菜とか、教えてもらえる?」
「勿論……ああ、これでいいか?」
芋の潰し具合を確認しあう。二人とも調理に慣れているから、手元も、そして口も休まずに作業が続いていく。
「甘みが増しそうだよね……ああ、思った通りだ」
竈で焼いたばかりのサツマイモ、その割れた一部を掬い取って味見する。焼いたことによる香ばしさもあわさって、これだけでも美味しい。けれど。
「ここで終わらないのが職人というものだよね」
オルフェは菓子職人だ。特に専門としているものは別だけれど。菓子作りの技術は一通り修めている。
「プリンなんていいよね。このねっとりした感じがすごくあいそう」
蜜芋状態になった芋を丁寧に裏ごししながら、その完成形を思い浮かべた。秋も近いからメイプルシュガーのカラメルなんて良さそうだよね?
潰した芋の半分に砂糖、少しの塩。蒸した栗やドライフルーツを混ぜて。形を整えれば芋きんとんの完成。
残りの芋は同様に潰した南瓜を混ぜて味をつける。丸く潰したものを両面に焼き色がつくまで焼いて。こちらはオヤキ。
ケイルカの教えたレシピはどちらも素材の味を活かしたものだ。
「あまり食に興味がない国だからな」
「えっ? そうは見えないけれど」
ケイルカの視界にうつる帝国兵は皆料理を今か今かと待っている。
「そう見えるなら有難い」
手を入れた甲斐があったと言うものだ。食えればいい、飲めればいい、闘えればいいという考えが主流だった頃に比べれば、マーフェルスは食に貪欲な方なのだと笑った。
(あれは何だろう?)
蒸し焼きの間に片づけながらも、周りの料理を見るのは忘れない。いくつもの芋料理が作られる中でオルフェが気になったのはケイルカの手元。
(後で、作り方教えてもらおうかな?)
また一つ楽しみが増えたなあと思いながら、竃の火を見る作業に戻った。
じっくり炒めてたまねぎを飴色に。芋がらも玉葱同様に薄く切って炒めあわせていく。全体がしんなりと整ったところで羊乳、そしてざく切りに、けれど大きさを揃えた芋を加える。煮立ったところで羊肉。こちらはしっかり叩いて柔らかくしておいた。
そして。
「殿はこれだな」
シャーリーンの勝算、持参していたレトルトカレーを全て鍋に投入していく。しっかりと炒めた野菜の甘み、羊乳のコクが合わさり、本来のカレーよりもまろやかな味のスープになったとはいえ……その香りは、予想通りの破壊力。
香りが広がるにつれて、ハンターも帝国兵も、復旧作業に追われていた農夫達も鍋の方へと顔を向ける。そしてエルフ達もまた、抗いきれていないようだ。
●
「やっぱシンプルに焼き芋だよね♪」
「焼き芋もふかし芋も好きだぞ!」
腹ペココンビのお腹の虫が盛大に鳴っている。味見係に就任した桃花とコトランは、芋を運ぶ先々で食べ物を分けてもらう。完成前とはいえそれぞれの味が……そう、芋ゆえに素材そのままでも美味しいせいで、気分は既に食べ放題(しかもほぼ自動)!
収穫した芋を選り分けて、調理班に届けて。農家の倉庫に運んだりもして。畑がすっかり片付くころには一通りすべての料理を確かめ終えていた。
そして他の皆も喫食に移るこの時間に何をしているかというと……
「あっ! 桃ねーちゃんそれオイラの!」
「なによートラ君、まだそっちにも沢山あるじゃないのよー」
まだ食べていた。現在はスイートポテト争奪戦が勃発中だ。
「後で食おうと思って取っておいた奴っ勝手に食うなよ!」
「男が細かい事言いっこなしよ」
「あーまた取った!? じゃあオイラこれ貰う!」
「ふにゃっ!? ちょっと、そのお芋私が食べるのも我慢してじっくり焼いたとっておきよ!?」
「へっへーんだ、オイラの近くに置いたのが悪いんだーい!」
すかさず奪って駆け出すコトラン。
「返せ―ーー!」
「もう食べちゃったもんねー!」
じゃれ合う猫が二匹といったところ。畑の一角でのどかな空気に彩を添えていた。
「うー、ひどい目にあったのだ」
「もっと周りに意識を向けて動いてくれたら嬉しいのだけれど、ネフィ」
「ごめんなのだ。はい、フロー姉、あーんなのだ♪」
「……やっぱり美味しいわね。そっちの分はどうするの?」
「これはお土産なのだ♪」
「あの子に持って帰れるよう頼んでみましょうか」
ネフィリアが丁寧に焼きあげた焼き芋は絶品で、フローレンスも疲れを癒すような気持で舌包みをうった。
帝国兵にお土産に出来るかを確認したところ、まだ若い若手が数名、余分に芋を持たせてくれたとか……詳細は定かではない。
「……悪くないですね」
よく火の通った焼き蜜芋を選びぬくのは慣れたもの。闘いの間に覚えた苦手意識を振り払うように、無心でもきゅもきゅと芋をほおばる静架だった。
「先日はどうもですよ、ユレイテルさんっ」
挨拶にあわせフュネにも微笑みかけるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
「あの時も居た方ですよね?」
ソフィアが楔として浄化術の一部になったときフュネも居た筈だ。なのに巫女達の気配は器程に感じられなかった。奇しくもエルフハイムの者達が集い一つとなったあの瞬間、巫女達はどうして蚊帳の外であるかのように……
(それが違いだと?)
器を道具とすること、器を人と見ること。マテリアルリンクに似た、人を人と思う心。より強い感情の本流を受け止めることになった自分達はそのマテリアルを拒否する術を知らない。……ただの考察。
投げかけた先、長老はフュネを伺い、巫子はそれがどうしたとばかりの顔でソフィアを蔑む。視線で、匂いでなるほどなと頷く。
(変わっちゃいねぇんだ)
やっぱり嫌いだ。
「……固執と拒絶、無知は停滞に繋がる。視野の狭さは自分の成長を妨げますよ」
それでも伝えるのは、見届ける気があるからだ。進んで助けると言うほどではないにしても。
もっと知ることが大事だ。若いんだから…ちょうどいい手はそこかしこに、気付けばあるものだから。
「何事もそれからです、若人さん」
「僕も一緒していいかな」
帝も輪に混ざる。既に結構な人数だ。
形の崩れた芋だからこそスイートポテト向きだと思う者が多かった。
(皆で食べられるといいよね)
ハンターも帝国兵も問わず協力している様子に帝が首を巡らせた。そこにエルフもあわさったらいいのにな。フュネさんとかさ?
「不慣れなら、せめて見ているといい」
レイスの言葉に返事はなかったが、フュネは一応調理の様子を見てはいるようだ。
エイル主導で作るのは一品。帝国の芋と、森都の林檎。近い形に切って、同じように茹でて。羊乳、粉、砂糖と合わせて混ぜて。
芋と林檎の一部は型の底に交互に丁寧に並べ、残りは軽く刻んで生地に混ぜ、ゆっくりと型に満たしていく。
焼き上げ、型から外せば……縞模様も美しいケーキの出来上がりだ。
一度その形のままフュネに見せるのは、1つの「結果」として知ってほしいから。それから切り口の縞も崩さないよう、丁寧に切り分ける。
「これも一つの成果という訳だ。食べ物の好みや嗜好などは君達とそう変わらない。あまり警戒しないで貰えると有難いな」
直ぐにというのは難しそうだと思いつつ告げるレイス。
言葉なく、けれどケーキを受け取ったフュネに微笑んで続けるエイル。
「お疲れ様。甘いお菓子、好き? ……器もそうなのよ」
その肩がピクリと震える、まるで怯えるような、拒絶するような……けれど言葉としては出てこない。巫子の様子に、こちらも先は長そうだと感じる。でも。
(これも確かに「連携」して導かれた結果なのよね)
残りのケーキを皆にも分けながら、ほんの少しでも前進出来て居ればいいわねと……微笑みは、絶やすことなく。
再びのアプローチは持参のボトル片手に。
「巫子殿、疲れてはいませんか?」
酒が無理なら水でもと差し出すGacrux、そのボトルはやはり手を伸ばされることが無い。見咎めたパウラがその前に体を割り込ませた。
「フュネ様達の口にするものは管理させてもらっています」
この場で調理されたものはまだしも、持ち込んだままの品は拒否させてもらうとのことだった。
「初めて……とはちと違うか。術式以来じゃのう」
名乗りと共にフュネに話しかけるイーリス、迎え入れる気持ちで向き合っていた。
「期待されておるのじゃのう……面白くないかもしれんが、お主の行動1つで今後、郷の動向が変わると言っても良い立派なお役目じゃ」
応援はしない。イーリスの知る巫子とは気位が高いものだからだ。だから労いに留める。
「何かと顔を合わす事も多いかもしれんがよろしくのう」
(なんだ、可愛いところもあるんじゃねえの)
ケーキを食べるフュネを見るナハティガル。食べ終わりを待って告げた。
「食べる事は生きる事。一緒に飯を作って、一緒に食うのも良い経験だ」
なあ、あんたは今日何を思った?
「浄化でも美味くなるんだな」
歪虚化したばかりの動植物を倒した場合、美味しくなることがあるのは勿論知っていた。だが浄化した場合は? レイオスの疑問は解消された。
「言う事無しだ」
巫子様様だなとその細い背を探す。丁度、目があった。
「……違います。戦う行為が、浄化のうちの一つです」
淡々としたフュネの声が響いた。
玉葱の甘みも合わせたサツマイモのポタージュを差し出しながら、少しでも被害にあった皆の心が落ち着けばいいと思う。
「大丈夫、もう抜け殻だから美味しく食べて」
先ほどまで雑魔として動いていた物を食べる機会はそう多いものではない。一般人であればなおさら怖いかもしれない…その配慮に救われた農夫は多かったようだ。形の良いものは手元に残るとはいっても、また動き出さないだろうか、心配する者も居ただろうから。
「……そう言えば、収穫祭ももうすぐですね」
雑談に興じる余裕を見せた農夫達、それを見ながらユリアンもポタージュをすする。
和やかな空気に向けられる、複雑な視線には気付かないまま。
「スーツ、新調したのじゃな……様になっておった」
出発前に見かけたスーツ姿を思い浮かべるイーリス。返すユレイテルも今は普段着と呼べる服だ、現場が畑なのだから妥当な選択だと言える。
「君に言われたからな」
いつの間に呼び方が変わっていたのだろう、イーリスの中に小さく疑問が疼いた。
「後は着慣れじゃな……期待しておるぞ?」
「お久しぶりですね」
「奏か! しばらくぶりだな」
「お元気そうで何よりです」
「お互いにな? 顔を見せに来ないと心配するぞ?」
この稼業だからなあと冗談めかすカミラに、奏も薄く笑って返す。
「ええ、ちょっと観察対象を追うのに専念していましたもので」
なら仕方ないな、ハンターは本当自由だなと頷くカミラに少しだけ、気になっている言葉を向けた。
「雑魔化した原因も気になる所ですが、この芋料理を楽しむとしましょう」
含みを持たせた声に、ぴくりとカミラが目を細める。
「……見えたか?」
「少しだけ」
弾丸のようにも見えた。口の動きだけで伝える。
「……十中八九、そうなんだろうな」
「貴女がこの場の要ですね」
お久しぶりです。簡単な名乗りと挨拶を添える音桐 奏(ka2951)は会釈をしながらも、フュネの様子を観察する。
「役目を果たすための護衛はお任せください」
「人に栽培されたものは専門外……というべきだろうな」
すまない。そうユレイテルに謝られ、ウィルフレド・カーライル(ka4004)は少なからず面食らっていた。長老と秘書と巫子、今現場にいるエルフたる彼らは皆農業に明るくなかった。辛うじてパウラが本の知識を持っていた程度だ。
むしろ役立ったのは農夫たちの意見。教わった知識の通りに蔓の動きを警戒しながら、ウィルフレドは彼ら農家のありがたみをしみじみと感じるのだった。
初対面の挨拶は大事だからと挨拶した火椎 帝(ka5027)は高揚感に満たされていた。
(やっべ、本当に居たんだ!)
ハンターになってから話に聞いていた森エルフ。友好的なユレイテルよりもツンとした態度で口数が皆無のフュネに好奇心が募る。森の奥の巫子、なんてファンタジーで神秘的!
「貴女が仕事に専心できるよう、護衛はしっかりやりますんで!」
当の巫子が眉を潜めていても綺麗だなあとしか思わない。一挙一投が帝の中にあるエルフイメージにぴったりなのだ。
「あの……?」
止めるべきか迷うパウラをユレイテルが手の仕草だけで止めた。
「荒療治も必要かもしれない」
つれない態度を見せる巫子を遠目に眺めるGacrux(ka2726)。
(ほーう、あれが)
「どうかされたのですか? つまらない顔をして」
更に深められる目頭の皺。短い言葉も返ってこない……Gacruxの観察結果は記憶として書き記される。
「おっと! これは失礼」
それならそれで構わない。薄い笑みをこぼし護衛の支度にかかった。
「うおおおおおお! 芋堀だぁー!」
(あ?)
気合の雄たけびをあげた紫月・海斗(ka0788)視界に映るのは妙齢のエルフ、フュネ。タングラムを未来の嫁と自称する海斗にしてみれば眼中ではないのだけれど。
「フュネ嬢ちゃんテンション低くね?」
ぽふ。
海斗の手が自然にフュネに触れる。そう、下心は嫁に振り切っているから他の女性に対してそんな気分にはならないからだ! ……なんとまあ。
「おぉ……意外と……」
動きやすさを重視した服の割にほっそりとしたフュネの肢体、しかし弾力は予想以上。感想を呟く海斗は危険の気配に気づいていない。
ぶぉん!
この手のイベントは楽しんだ方が良いぜという言葉は轟音に掻き消された。
「汚染源までの道を拓けばいいのね」
エイル・メヌエット(ka2807)が芋畑を見渡す。
「芋掘り、と言うより芋狩りだなこれは……」
レイス(ka1541)はエイルへと視線を向ける。恋人を護るのは自分の役目だ。
「行こうかエイル。君には蔓一本、葉の一枚も触れさせん」
視線が返る前に足を踏み出す。エイルがその背を追いかけたところで……轟音が鳴った。
「彼は一体」
ため息をつくエイルに問うユレイテル。
「面白い人よ? ああいった行動を除けば」
「好きな女一筋な馬鹿な男だ」
うまく纏めて引き受けてくれたレイスの声がどこか甘く、俺と同じで、という呟きが続いた気がしたのは……恋人の欲目だっただろうか。
「何が起きたんですか!?」
パウラが駆け付けた時、そこにはぼろ雑巾のようになった海斗が、芋蔓に絡みとられ身動きも取れなくなっていた。純情を怒らせるなんて教育にも良くないのだ、良い子もいい大人も真似しないように。
「……それって噂に聞く……!?」
パウラは海斗の前科(意味深)を知っていた模様、今後は夜道や物陰に注意した方がいいかもしれない?
フュネの顔が盛大に歪んだ。
「そんなに嫌そうな顔すんなよ。慣れると結構乗り心地良いんだぜ?」
魔導バイクに乗せるというナハティガル・ハーレイ(ka0023)の提案があったからだ。
「彼は信頼できる。それにフュネ殿の安全を考えれば悪くない案だ」
「……わかりました」
長老の言葉だから仕方ない。不満が滲む了承の声。これがヨハネ相手だったらもっと素直にいう事を聞くのかもしれないが。
(大変だなぁお前もよ)
フュネをエスコートしながら、ナハティガルが友の内心を慮ってしまうのは仕方のない事だった。
「何と言うか、強烈だねぇ……」
動く蔓を凝視するオルフェ(ka0290)。食材の気配にやっては来たものの、目の前に広がる光景は正直、ずっと見ていたくない。
(救助と避難誘導に回らせてもらおう)
(芋もこうなると……壮観だが、しかし)
芋はすべて地に埋まっているのだから、蔓だ。
そう結論付けたあと、篠杜 真崎(ka0186)はわざとらしい笑みを作った。
「なあカミラ」
「何だ?」
「思いきって蔓に絡まれてみる気はないか?」
「ふむ、つまり真崎は蔓に絡まれたいという事だな?」
手伝ってやるぞ、即座ににやりと返される。名を呼ぶ許可は前に貰っていたが、やはり踏み込み過ぎたか。
「……冗談だ、半分は」
「ほう」
怒っているわけではないらしい。内心息をついて話しを逸らす。
「せっかく食える芋蔓まで踏み荒らして駄目になる前に、浄化に成功して貰わないとな?」
「ああ……期待しているぞ?」
絡まれるのにも、料理にも。言ってカミラもフュネの護衛に駆けていく。
(……根に持たれたか?)
「桃ねーちゃん! 芋を食うためにはあの蔦が邪魔だ!」
「そうだねトラ君! 私達の美味しい時間の邪魔をするなんて、なんて悪い蔦!」
畑を前に盛り上がっているコトラン・ストライプ(ka0971)と銀 桃花(ka1507)、その勢いに誰も「その蔓と芋は同一個体だ」と突っ込む事が出来ない。
「お芋ならお芋らしく、大人しく食われなさーいっ!!」
桃花、ちゃんと植物の構造を理解していた!?
「おう! さっさと片付けようぜ!」
コトランは……多分勢いだけかも。
「おいらが蔓を誘い出すから!」
駆けだすコトランの背を追って桃花もウォーピックを構える。
「大丈夫! ねーちゃん強いからできる!」
引き付け過ぎて手足を絡め取られるコトラン。けれどそう感じさせない声援が桃花の背を押す。
「トラ君を離しなさぁーい!」
土から引き抜いて千切ってやるわ! その気迫が通じたのか、コトランを捕らえる蔓の根元にまで辿り着く。
「そこだねーちゃん!」
ヒュン……ブチッ!
「料理し易いようにカットしてやるぜ」
蔓を薙ぎ払いながらニヤリと笑うのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。
「面白いですねえ。もっと締めてあげますよ」
災難の上からからかいという名目で更なる締め付けを行使するGacrux。蔓を切るのではなく、ぐいと。ぎゅうぎゅうと締めていく。
「ああ、間違えました、蔓を抜こうと思ったんですよ」
後付けの理由はそれこそ建前。農夫達は既に気絶していた。
「すぐに助けますからね!」
蔓を切り拓く帝の声。道を拓くことに専念するあまり蔓の状態は気にしていないようだが……それだけ専念しているという事だ。
「浄化術には興味があるが……」
護衛が先か。仕方がないなとチャクラムを構える。
「随分とまた大きくなったものだ」
ふと思いつき、シャーリーン・クリオール(ka0184)は笑みを浮かべた。
菓子作りも捨てがたいけれど……今日は丁度、あれを持っていたな。
いつもとは違い準備は十分なものではない。けれどシャーリーンには「勝算」とも呼べるものをこの時すでに持っていた。
(トントン拍子で話が進んだのう)
イーリス・クルクベウ(ka0481)は抱く不安を振り払うように、芋蔓を斬り払う作業に向かっていた。
(ヨハネ様達の思惑が読めないのう)
だから不安が残っているのだろうか。
「この蔓を斬るように、明るい未来を切り開けたら良いのう……」
願わずにはいられない。
フローレンス・レインフォード(ka0443)としては気が気じゃない。
「これだけ数が多いのだから、もう少し周囲に気を払って動きなさい!」
蔓をスピアで切り払いながら妹の様子もうかがうのは難しい。それこそ蔓の数は多いのだ。
「ああ、もう全くキリが無い……!」
自分の身の危険も上がるとわかってはいたが、フローレンスはネフィリアの後を追った。
「おなかいっぱい食べるんでさ!」
鬼百合(ka3667)のはしゃぐ声を聞きながら春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)も畑を見渡す。
(こりゃまた、豪勢な芋ほりですねぃ)
「まずは倒さなきゃはじまりませんぜ」
鬼百合の頭をぽんと撫ぜれば、紫苑の足元に蓬が芽吹いた。
「白、芋だぞ! これで当分食料には困らねぇな!」
「うんお兄ちゃん! お腹いっぱい食べられるね!」
龍華 狼(ka4940)と龍華 白(ka4949)。彼らは常に色々な物に飢えていた。とりあえず今は、芋に。
(どうせアイツも動かねぇからな)
狼の脳裏に浮かぶのは保護者のだらしない顔ばかり。正直考えてやるのも癪に障る。
「俺らが頑張らねぇとな。白!」
弟の前で格好悪いところも見せられない、そうも思う。
「なぁにお兄ちゃん!」
打てば響く様に返る言葉、全幅の信頼がそこに在る。信頼だ、そうに決まってる。だってコイツ犬みたいだし。
「食糧調達だ! しっかり俺の援護しろよ!」
「勿論! お兄ちゃんの為にお芋いっぱい殺っつけるね☆」
白の言葉はどこか意味合いが違うのだが、発音だけ聞けば同じなので誰も注意を払う事はない。
(お兄ちゃんが頼ってくれてる、お兄ちゃんが近くで格好いい!)
信頼を通り越した熱視線を狼に送りながらも、白の持つカービンは強かに蔓を打ちすえる弾を撃ちだしていた。
「さすがお兄ちゃんかっこいい!!」
暑苦しい応援の声を背に得物が閃く。弟にいいところを見せたい気持ちも刀の勢いに変わる。
いつも白の援護は的確だ。それこそ必死なほどに自分に合わせてくると思う。
芋蔓が大人しくなった後、感謝を伝えようとして白を振り向いた狼だが、その目の前には大きく腕を広げた白の姿。視界がとにかく白でいっぱいだ。服は黒いのに。
「白! ハウス!」
「ええーっ!?」
でないと蹴り飛ばすぞと言われてしまっては仕方ない。白は愛のハグを諦めて、素直に狼の後を追った。
今日は食料の確保に来たのだから。
「お土産に持ち帰れるといいね、お兄ちゃん!」
紫苑が引き付けた蔓が届こうとする瞬間に、鬼百合の雷撃が炸裂し阻む。撃の大きさに蔓が脅威を感じ近寄れば、紫苑が蔓を薙ぎ払う。
「ねーさん、あそこに人がいますぜ!」
農夫を見つけた鬼百合の声に紫苑が駆ける。風の護りを送り出してから、鬼百合は再び雷撃をと構える。
(ねーさんが助けてる間はオレが!)
時間稼ぎくらい、自分にだってできるのだ。
「こっちでしょい!」
再びの雷撃に蔓が引き寄せられていく。
「鬼百合、無理はいけませんぜ!?」
気付いた紫苑の声が飛ぶが、その距離は遠い。大丈夫ですぜと笑って、鬼百合は再び手を前にかざした。
ザシュッ!
風の刃がその蔓を刻む。
「オレだって、ちゃあんとやれますぜ?」
今のちゃんと見てやしたか、ねーさん?
「その程度で向かってくるとはな」
静かに、穏やかに心を温めるエイルの歌声と光を背に、槍の黒炎も穏やかに燃える。動きが鈍くなった蔓は抵抗も弱く、戦槍と霊槍で払われていく。
「覚悟が足りない」
植物にそれがあるかは疑問なところだが。
「……行ってみますか」
ナイフを手に静架(ka0387)は嫌そうな視線を蔓へと向けた。
見たくない。その意識が動きを制限してしまったのかもしれない。隙が生まれた。
静架の足元から絡みつく蔓に、どこか得体のしれない恐怖を覚える。たかが植物相手だというのに。
「どこ、触ってるんですかっっ」
死角から迫ってくるような感覚が苦手なのかもしれない。頭の隅で冷静に考える自分と、憤慨して力任せに蔓を引きちぎる自分。
二人の自分を共存させながら仕留めた蔓を、改めて自分の脚から外した。
「……この蔓も食べられるのですよね」
自分に迫ってきたものを食べるというのはどうなのだろう。特にこれといって食べ物の好き嫌いはない、むしろ頓着しない静架だが、不思議と苦手意識が呼び覚まされた。
「これは一気に行くしかありませんね……」
ゆらり、拳銃を構えた静架は、これまでとは比にならないくらい精密に、蔓を一掃していくことになる。
(だからこそ、この畑のお芋様を、この世界の未来を守る為に尽力せねば……)
シュル
「……!」
細心の注意を払っていたはずだった。しかし闘いには絶対という言葉が存在しない。
どうしていいかわからない。引いても押しても捻っても、絶妙な力加減の蔓が巻きついて離れない。
振り返る。農夫たちはもう避難した後だ。
仲間達を見る。皆それぞれ蔓と戦っている。
更に蔓が巻きついていく。しかし愛剣を手放すわけにもいかない。長年連れ添い生死を預けた相棒なのだ。
「……」
気付けばウィルフレド自身も蔓に絡みつかれていた……
(本望だ)
そう考える他なかった。
「斬っても斬ってもたくさんあるのだ♪」
迷いなく畑に突撃し刀を振り回すネフィリア・レインフォード(ka0444)は、姉の忠告を聞いていなかった。そして、気付けばたくさんの蔓に囲まれていた。
「みゃ!?」
右を見ても、左を見ても蔓。勿論前も、そして後ろも……ああ、何本だろう、いっぱいだみゃー……?
シュルシュル……ッ
「ちょっと多すぎー!?」
ネフィリアは自らの体を見下ろした。ビキニアーマーである。あの極端に体を覆う面積が少ないアレだ。
斬り払いきれない蔓があっさりとネフィを吊るしあげた。
「ひゃ!? 変なところ絡むんじゃないのだ!?」
ネフィの体型は控えめに言っても胸当ての部分に隙間ができてしまうような(自主規制)。とりあえず無作為に絡みついた蔓が(自主規制)に触れていても仕方がない事なのだ。
「ネフィ、大丈夫?」
悲鳴を聞きつけたフローレンスが追い付いてきた。
「フロー姉ー!」
声で居場所を知らせるネフィリアはその時、やはり忘れていた。
姉が自分を心配するあまり、一人で追いかけてきてしまうような性格だという事に。そして姉もまたビキニアーマーできているということに。
「少しは周りをって言ったで……あぁ!?」
大きな(自主規制)が蔓で強調されていく。成人男性の皆様、姉妹の救助時には覚悟をもって対応するように。
●
根元は移動しない、つまり近づけさえすれば攻撃は当てられる。ならば身軽な自分にできる事は根絶だ。
「知覚ってどうなってるんだろうね……」
予想以上に正確に狙ってくる蔓に鉄パイプを食ませながらユリアン(ka1664)は奥へと進む。
(あと少し……!)
今だ! 新緑の風が光りユリアンの背を押す。
ザシュッ……バラバラバラ……
蔓が一斉に地へ沈む。うまくやれたことに安堵し、ユリアンは再び日本刀を構えた。
拳銃を手にバイクを追う奏は、道行く先の蔓をただ真っ直ぐに撃ち抜いていく。自身も進む中蔓は向かってくるけれど、ナイフで冷静に切り払う。ナハティガルの駆るバイクを囲ませないように。
「阻むモノは撃ち抜く。ただそれだけです」
「マンドレイクじゃあるまいし、シュールだな……!」
汚染源を捉えたフュネを降ろし戦槍を構えるナハティガル。減ってはいるものの、蠢いている蔓は多い。
「心配すんな、あんたは一歩も動かないでいいぜ?」
ちらとフュネを見る。既に固く目を閉じ集中しているようだった。
●
戦闘時に切り払われた蔓は先に水にさらしていく、灰汁が抜けるのを待つ間ガマ先に取っ手の収穫時間。掘る楽しみも斬る楽しみも他に任せ、真崎は黙々と芋を運んだ。
灰汁を抜いた芋蔓は大きさを揃え手早く金平に。醤油が無い分塩ではあるが、炒め物としての味は損なわれるものではない。何より灰汁を抜いたことが大きく、口当たりを優しくしていた。
(あいつも居たのか)
声を掛けるか迷うのはやはり向こうに連れが居るからだ。だが狼が迷っているうちに鬼百合が先に気付いた。
「狼じゃねぇですかい」
マブダチの姿に嬉しくなってつい声を掛ける。
「そっちはお初でしたかねぃ」
話に聞いていた弟だろうか。首を傾げ狼を見る。
「お兄ちゃん?」
白が狼の手に触れる。そうだ、今日は自分だって一人じゃない。
「おぅ、鬼百合じゃねぇか、奇遇だな!」
「こっちはえーっと、オレの……」
咄嗟に首を傾げる。姉と読んではいるが、紫苑は常日頃から自分は父親役だと言っていた。
「一緒に住んでるんだから、家族でいいんじゃねえですかい」
「そう! 家族なんでさ!」
「そっか、白、俺のマブダチの鬼百合だ! そんでこっちは俺の弟、白だ」
「……よろしくお願いします……」
(実を結んでるようで嬉しいねぇ)
少年達の様子を見守るこの身を幸せだと感じてしまう。目の前に、ひとつの目指した形が在る。その充足感につい笑みを浮かべてしまうのだ。
「いつも鬼百合がお世話になって……」
母親のような、うっとうしいと言われそうな態度をとってしまう。嬉しいのだから許してほしい。
「ねーさんは何でそんな嬉しそうなんですかぃ」
狼たちの手前、服の裾をくいと引くに留める様子に更に微笑ましいものを感じ、紫苑の笑みは深くなった。
「だってそういうもんですからねぃ」
父親冥利に尽きるもんでさ。
「あ……」
けれどやはり、狼の脳裏には母親の影がちらつく。
「どうもよろしくです……」
自分がしっかりしなければと思ったのに、うまくいかなくて。白に似た声を出してしまった。
「羊の乳とでもスイートポテト作れやすかね?」
「旨いんですかぃ?」
紫苑がもたらす美味しそうな言葉には自然と反応するようになっていた鬼百合がその目を輝かせた。
「プリンより?」
「ま、それは作れるか見ないとですがねぃ?」
竈の上に油を湛えた鍋。そう、揚げ物だ。素材の味をそのまま閉じ込める調理法。
「食えるところは全部美味しく食わねぇとな」
レイオスが作るのは食べやすいサイズに整えた芋天に、カリッと仕上げた蔓のかき揚げ。蔓かき揚げが師団のエンブレムに似ているとかで、カミラが揚げ方のコツを聞きにくる。
サクッと一口味見してみる。食感完璧。そして……美味いぞ!?
「慌てないことだなやっぱ。最初はおたま使うとやりやすいと思うぜ」
答えながらも、芋の葉で巻いたチーズ天ぷらとオニオンフライを手早く揚げた。
ケイルカ(ka4121)が調理に誘った瞬間のカミラの目の輝きといったら。……偉い人ってこうだっけ?
そのせいだろうか、他の皆の使う材料よりも早く準備されたような気がした。
「私まだ帝国の事よく知らなくて。手に入りやすい果物とか野菜とか、教えてもらえる?」
「勿論……ああ、これでいいか?」
芋の潰し具合を確認しあう。二人とも調理に慣れているから、手元も、そして口も休まずに作業が続いていく。
「甘みが増しそうだよね……ああ、思った通りだ」
竈で焼いたばかりのサツマイモ、その割れた一部を掬い取って味見する。焼いたことによる香ばしさもあわさって、これだけでも美味しい。けれど。
「ここで終わらないのが職人というものだよね」
オルフェは菓子職人だ。特に専門としているものは別だけれど。菓子作りの技術は一通り修めている。
「プリンなんていいよね。このねっとりした感じがすごくあいそう」
蜜芋状態になった芋を丁寧に裏ごししながら、その完成形を思い浮かべた。秋も近いからメイプルシュガーのカラメルなんて良さそうだよね?
潰した芋の半分に砂糖、少しの塩。蒸した栗やドライフルーツを混ぜて。形を整えれば芋きんとんの完成。
残りの芋は同様に潰した南瓜を混ぜて味をつける。丸く潰したものを両面に焼き色がつくまで焼いて。こちらはオヤキ。
ケイルカの教えたレシピはどちらも素材の味を活かしたものだ。
「あまり食に興味がない国だからな」
「えっ? そうは見えないけれど」
ケイルカの視界にうつる帝国兵は皆料理を今か今かと待っている。
「そう見えるなら有難い」
手を入れた甲斐があったと言うものだ。食えればいい、飲めればいい、闘えればいいという考えが主流だった頃に比べれば、マーフェルスは食に貪欲な方なのだと笑った。
(あれは何だろう?)
蒸し焼きの間に片づけながらも、周りの料理を見るのは忘れない。いくつもの芋料理が作られる中でオルフェが気になったのはケイルカの手元。
(後で、作り方教えてもらおうかな?)
また一つ楽しみが増えたなあと思いながら、竃の火を見る作業に戻った。
じっくり炒めてたまねぎを飴色に。芋がらも玉葱同様に薄く切って炒めあわせていく。全体がしんなりと整ったところで羊乳、そしてざく切りに、けれど大きさを揃えた芋を加える。煮立ったところで羊肉。こちらはしっかり叩いて柔らかくしておいた。
そして。
「殿はこれだな」
シャーリーンの勝算、持参していたレトルトカレーを全て鍋に投入していく。しっかりと炒めた野菜の甘み、羊乳のコクが合わさり、本来のカレーよりもまろやかな味のスープになったとはいえ……その香りは、予想通りの破壊力。
香りが広がるにつれて、ハンターも帝国兵も、復旧作業に追われていた農夫達も鍋の方へと顔を向ける。そしてエルフ達もまた、抗いきれていないようだ。
●
「やっぱシンプルに焼き芋だよね♪」
「焼き芋もふかし芋も好きだぞ!」
腹ペココンビのお腹の虫が盛大に鳴っている。味見係に就任した桃花とコトランは、芋を運ぶ先々で食べ物を分けてもらう。完成前とはいえそれぞれの味が……そう、芋ゆえに素材そのままでも美味しいせいで、気分は既に食べ放題(しかもほぼ自動)!
収穫した芋を選り分けて、調理班に届けて。農家の倉庫に運んだりもして。畑がすっかり片付くころには一通りすべての料理を確かめ終えていた。
そして他の皆も喫食に移るこの時間に何をしているかというと……
「あっ! 桃ねーちゃんそれオイラの!」
「なによートラ君、まだそっちにも沢山あるじゃないのよー」
まだ食べていた。現在はスイートポテト争奪戦が勃発中だ。
「後で食おうと思って取っておいた奴っ勝手に食うなよ!」
「男が細かい事言いっこなしよ」
「あーまた取った!? じゃあオイラこれ貰う!」
「ふにゃっ!? ちょっと、そのお芋私が食べるのも我慢してじっくり焼いたとっておきよ!?」
「へっへーんだ、オイラの近くに置いたのが悪いんだーい!」
すかさず奪って駆け出すコトラン。
「返せ―ーー!」
「もう食べちゃったもんねー!」
じゃれ合う猫が二匹といったところ。畑の一角でのどかな空気に彩を添えていた。
「うー、ひどい目にあったのだ」
「もっと周りに意識を向けて動いてくれたら嬉しいのだけれど、ネフィ」
「ごめんなのだ。はい、フロー姉、あーんなのだ♪」
「……やっぱり美味しいわね。そっちの分はどうするの?」
「これはお土産なのだ♪」
「あの子に持って帰れるよう頼んでみましょうか」
ネフィリアが丁寧に焼きあげた焼き芋は絶品で、フローレンスも疲れを癒すような気持で舌包みをうった。
帝国兵にお土産に出来るかを確認したところ、まだ若い若手が数名、余分に芋を持たせてくれたとか……詳細は定かではない。
「……悪くないですね」
よく火の通った焼き蜜芋を選びぬくのは慣れたもの。闘いの間に覚えた苦手意識を振り払うように、無心でもきゅもきゅと芋をほおばる静架だった。
「先日はどうもですよ、ユレイテルさんっ」
挨拶にあわせフュネにも微笑みかけるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
「あの時も居た方ですよね?」
ソフィアが楔として浄化術の一部になったときフュネも居た筈だ。なのに巫女達の気配は器程に感じられなかった。奇しくもエルフハイムの者達が集い一つとなったあの瞬間、巫女達はどうして蚊帳の外であるかのように……
(それが違いだと?)
器を道具とすること、器を人と見ること。マテリアルリンクに似た、人を人と思う心。より強い感情の本流を受け止めることになった自分達はそのマテリアルを拒否する術を知らない。……ただの考察。
投げかけた先、長老はフュネを伺い、巫子はそれがどうしたとばかりの顔でソフィアを蔑む。視線で、匂いでなるほどなと頷く。
(変わっちゃいねぇんだ)
やっぱり嫌いだ。
「……固執と拒絶、無知は停滞に繋がる。視野の狭さは自分の成長を妨げますよ」
それでも伝えるのは、見届ける気があるからだ。進んで助けると言うほどではないにしても。
もっと知ることが大事だ。若いんだから…ちょうどいい手はそこかしこに、気付けばあるものだから。
「何事もそれからです、若人さん」
「僕も一緒していいかな」
帝も輪に混ざる。既に結構な人数だ。
形の崩れた芋だからこそスイートポテト向きだと思う者が多かった。
(皆で食べられるといいよね)
ハンターも帝国兵も問わず協力している様子に帝が首を巡らせた。そこにエルフもあわさったらいいのにな。フュネさんとかさ?
「不慣れなら、せめて見ているといい」
レイスの言葉に返事はなかったが、フュネは一応調理の様子を見てはいるようだ。
エイル主導で作るのは一品。帝国の芋と、森都の林檎。近い形に切って、同じように茹でて。羊乳、粉、砂糖と合わせて混ぜて。
芋と林檎の一部は型の底に交互に丁寧に並べ、残りは軽く刻んで生地に混ぜ、ゆっくりと型に満たしていく。
焼き上げ、型から外せば……縞模様も美しいケーキの出来上がりだ。
一度その形のままフュネに見せるのは、1つの「結果」として知ってほしいから。それから切り口の縞も崩さないよう、丁寧に切り分ける。
「これも一つの成果という訳だ。食べ物の好みや嗜好などは君達とそう変わらない。あまり警戒しないで貰えると有難いな」
直ぐにというのは難しそうだと思いつつ告げるレイス。
言葉なく、けれどケーキを受け取ったフュネに微笑んで続けるエイル。
「お疲れ様。甘いお菓子、好き? ……器もそうなのよ」
その肩がピクリと震える、まるで怯えるような、拒絶するような……けれど言葉としては出てこない。巫子の様子に、こちらも先は長そうだと感じる。でも。
(これも確かに「連携」して導かれた結果なのよね)
残りのケーキを皆にも分けながら、ほんの少しでも前進出来て居ればいいわねと……微笑みは、絶やすことなく。
再びのアプローチは持参のボトル片手に。
「巫子殿、疲れてはいませんか?」
酒が無理なら水でもと差し出すGacrux、そのボトルはやはり手を伸ばされることが無い。見咎めたパウラがその前に体を割り込ませた。
「フュネ様達の口にするものは管理させてもらっています」
この場で調理されたものはまだしも、持ち込んだままの品は拒否させてもらうとのことだった。
「初めて……とはちと違うか。術式以来じゃのう」
名乗りと共にフュネに話しかけるイーリス、迎え入れる気持ちで向き合っていた。
「期待されておるのじゃのう……面白くないかもしれんが、お主の行動1つで今後、郷の動向が変わると言っても良い立派なお役目じゃ」
応援はしない。イーリスの知る巫子とは気位が高いものだからだ。だから労いに留める。
「何かと顔を合わす事も多いかもしれんがよろしくのう」
(なんだ、可愛いところもあるんじゃねえの)
ケーキを食べるフュネを見るナハティガル。食べ終わりを待って告げた。
「食べる事は生きる事。一緒に飯を作って、一緒に食うのも良い経験だ」
なあ、あんたは今日何を思った?
「浄化でも美味くなるんだな」
歪虚化したばかりの動植物を倒した場合、美味しくなることがあるのは勿論知っていた。だが浄化した場合は? レイオスの疑問は解消された。
「言う事無しだ」
巫子様様だなとその細い背を探す。丁度、目があった。
「……違います。戦う行為が、浄化のうちの一つです」
淡々としたフュネの声が響いた。
玉葱の甘みも合わせたサツマイモのポタージュを差し出しながら、少しでも被害にあった皆の心が落ち着けばいいと思う。
「大丈夫、もう抜け殻だから美味しく食べて」
先ほどまで雑魔として動いていた物を食べる機会はそう多いものではない。一般人であればなおさら怖いかもしれない…その配慮に救われた農夫は多かったようだ。形の良いものは手元に残るとはいっても、また動き出さないだろうか、心配する者も居ただろうから。
「……そう言えば、収穫祭ももうすぐですね」
雑談に興じる余裕を見せた農夫達、それを見ながらユリアンもポタージュをすする。
和やかな空気に向けられる、複雑な視線には気付かないまま。
「スーツ、新調したのじゃな……様になっておった」
出発前に見かけたスーツ姿を思い浮かべるイーリス。返すユレイテルも今は普段着と呼べる服だ、現場が畑なのだから妥当な選択だと言える。
「君に言われたからな」
いつの間に呼び方が変わっていたのだろう、イーリスの中に小さく疑問が疼いた。
「後は着慣れじゃな……期待しておるぞ?」
「お久しぶりですね」
「奏か! しばらくぶりだな」
「お元気そうで何よりです」
「お互いにな? 顔を見せに来ないと心配するぞ?」
この稼業だからなあと冗談めかすカミラに、奏も薄く笑って返す。
「ええ、ちょっと観察対象を追うのに専念していましたもので」
なら仕方ないな、ハンターは本当自由だなと頷くカミラに少しだけ、気になっている言葉を向けた。
「雑魔化した原因も気になる所ですが、この芋料理を楽しむとしましょう」
含みを持たせた声に、ぴくりとカミラが目を細める。
「……見えたか?」
「少しだけ」
弾丸のようにも見えた。口の動きだけで伝える。
「……十中八九、そうなんだろうな」
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蔓を倒して芋食べよう作戦卓 ケイルカ(ka4121) エルフ|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/09/13 05:53:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/14 20:01:03 |