ゲスト
(ka0000)
憤慨のゼナイド
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/27 19:00
- 完成日
- 2014/08/04 02:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝国第十師団が拠点を置く「アネリブーベ」。
厳重な監視と設備の元に存在する都市は通称「監獄都市」と呼ばれ、都市の中央には師団の本拠地である「アネリの塔」がある。
天に剣を伸ばしているかのような塔の中で、師団長のゼナイド(kz0052)は書類を手に眉を潜めていた。
「アネリブーベ周辺で目撃された歪虚のものですわね」
ゼナイドはそう言うと歪虚に関する情報が載っている書類を差し出した。
「ゾンビ型歪虚の討伐依頼、か。直ちに派兵するかの?」
「いえ。同盟領の歪虚の事もありますし、陛下の詳しい考えをお伺いするまでは下手に兵士は動かせませわ。とは言え、やたらと戦地に送る訳にも参りませんけど」
第十師団は帝国内の囚人や亜人などが集められて兵士にされている関係上、何も考えずに派兵する訳にはいかないのだ。
もしやたらに派兵して騒動を起こせば帝国、同盟間の国際問題になってしまう。
「2層の囚人は動かせんかの?」
「ダメですわね。彼等こそ体力を温存して貰わなければなりませんし、3層も却下ですわ」
「となると純粋な派兵は厳しいのぉ」
師団の内部は階層制度を取っており、各階層によって戦闘の分野や扱いが違う。歪虚を扱えるのは2・3層の兵士なのだが、ゼナイド曰く「今は使えない」らしい。
「ああ、そうですわ。ハンターを使いましょう」
「ハンターを?」
確かに彼等に頼めば兵力の削減に繋がる。しかし先日ハンターと歪虚討伐に向かった彼女は言ってなかっただろうか。彼等の戦力は未熟だ、と。
「確かに彼等の力は未熟ですわ。わたくしの足元にも及びません。ですが、折角使える駒があるんですもの。使って何が悪いんですの?」
堂々と胸を張る彼女に思わず苦笑してしまう。
「まだタングラムに仕事を振ったことを根に持っておるのかの」
騎士議会に参加した際、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はタングラム(kz0016)に――いや、正確にはAPVに仕事を振った。
本来であれば自身に振って欲しい仕事をタングラムに振ったのだ。
勿論面白くないゼナイドは反論したが、それでもヴィルヘルミナはタングラムを、ハンターを選んだ。
「陛下があそこまでハンターを好むのでしたら、わたくしも使って差し上げないといけませんわ。それがどんな仕事であろうと」
そうですわよね? ゼナイドはそう微笑むと、履いていたブーツを脱いでマンゴルトの頭に投げつけた。
どうやら仕事こそ真面目にこなしているが、怒りは収まっていなかったようだ。
「そうですわ。折角ですし同行して可愛がって差し上げるのもありですわね。駄タングラムのアホ面には及びませんけど面白そうですわぁ♪」
不機嫌を一転、楽しげに笑い声を零すゼナイドにマンゴルトはやれやれと肩を竦める。
その上で手にしていた書類に目を落とすと、ブーツのぶつかった禿げ頭を摩った。
「仕方ないの……ハンターには少しばかり申し訳ないが動いて貰うかのぉ」
そう言うと彼はゼナイドの指示通りに動き始めた。
●
アネリブーベから僅かに離れた土地。
廃村となって久しいその場所に、ハンター派遣の前にと偵察に寄越された兵士3人が足を踏み入れていた。
「ここが団長の言っていた死者の村、か」
「確かに気味が悪いな。昼間だってのに嫌な気配がプンプンするぜ」
兵士の言うように今は昼間だ。
何故この時間に偵察に向かわせたのか。それにはいくつかの理由があるが、大きな理由は廃村で目撃されると言う歪虚がゾンビであると言うことだ。
「団長はゾンビを目撃しなくて良いって言ってたけど、何でだ?」
「出現場所と現地の状況がわかれば良いんだとよ」
過去の資料からゾンビ型の歪虚は主に夜出没することがわかっている。その点を顧みて危険の少ない昼間に偵察に向かわせたのだ。
「廃村の地理と、可能であれば歪虚の住処を特定出来れば良いってさ」
「あー……つまり面倒なことはハンターに押し付けるって寸法か」
兵士等は顔を見合わせると苦笑して足を進めた。
廃村は人がいなくなって新しいのか、3棟の家が無傷で残っていた。
中を伺えば家具なども揃っており、周囲の環境さえ整えれば再び人が住めるのではと思えるほどだ。
だが気になるものを1つ見付けた。
「井戸が死んでるな」
念のために汲み上げた水が黒い。しかも粘着質で手に纏わり付くような印象がある。
「こりゃ、人も住めなくなるわけだ」
兵士はそう言うと井戸に水を戻そうとした。が、次の瞬間、兵士は何かに捕まれて引っ張られた。
「!」
目を向けた先には井戸がある。しかし先程と明らかに違うものがそこにはあった。
「なっ、何だ、これ……!」
片手に纏わり付く泥の塊のようなモノ。それが腕を這い上がる様にして締め付けて来たのだ。
その力は振り払おうと腕を振っても剥がれない程。
「今助ける!」
兵士の1人は、駆け付けると同時に剣を振り上げた。そして纏わり付く物を両断しようとするのだが、それが別の泥によって阻まれた。
よく見ると、井戸から顔のようなものが見える。その周囲には泥の個体がいくつも見受けられ、明らかに尋常ではないことを物語っている。
「なんだこの固さ……それに、この泥……っ!?」
剣を撃ち込んだ場所から響く振動に眉を潜めた兵士の目が周囲に向かう。そうして気付いた。
2人の兵士はいつの間にか泥状の何かに囲まれていたのだ。
「は、離れ――ぅわあっ!!!」
泥に纏わり付かれた兵士の1人が井戸に落ちた。それに次いでもう1人の兵士も井戸に引きずり込まれる。
「た、助けッ!」
蒼い顔で手を伸ばす兵士に、残った兵士は目を見開いて後じさった。
「あ、あ……ああ……」
兵士は見てしまった。
井戸から顔を覗かせた顔の溶けた人間を。そしてそれによって井戸に引きずり込まれてゆく兵士の姿を。
「……ほ、報告をしないと……っ!」
残った兵士は震える足を引き摺る様にして駆け出すと、今見たことを報告すべくアネリブーベに戻ったのだった。
厳重な監視と設備の元に存在する都市は通称「監獄都市」と呼ばれ、都市の中央には師団の本拠地である「アネリの塔」がある。
天に剣を伸ばしているかのような塔の中で、師団長のゼナイド(kz0052)は書類を手に眉を潜めていた。
「アネリブーベ周辺で目撃された歪虚のものですわね」
ゼナイドはそう言うと歪虚に関する情報が載っている書類を差し出した。
「ゾンビ型歪虚の討伐依頼、か。直ちに派兵するかの?」
「いえ。同盟領の歪虚の事もありますし、陛下の詳しい考えをお伺いするまでは下手に兵士は動かせませわ。とは言え、やたらと戦地に送る訳にも参りませんけど」
第十師団は帝国内の囚人や亜人などが集められて兵士にされている関係上、何も考えずに派兵する訳にはいかないのだ。
もしやたらに派兵して騒動を起こせば帝国、同盟間の国際問題になってしまう。
「2層の囚人は動かせんかの?」
「ダメですわね。彼等こそ体力を温存して貰わなければなりませんし、3層も却下ですわ」
「となると純粋な派兵は厳しいのぉ」
師団の内部は階層制度を取っており、各階層によって戦闘の分野や扱いが違う。歪虚を扱えるのは2・3層の兵士なのだが、ゼナイド曰く「今は使えない」らしい。
「ああ、そうですわ。ハンターを使いましょう」
「ハンターを?」
確かに彼等に頼めば兵力の削減に繋がる。しかし先日ハンターと歪虚討伐に向かった彼女は言ってなかっただろうか。彼等の戦力は未熟だ、と。
「確かに彼等の力は未熟ですわ。わたくしの足元にも及びません。ですが、折角使える駒があるんですもの。使って何が悪いんですの?」
堂々と胸を張る彼女に思わず苦笑してしまう。
「まだタングラムに仕事を振ったことを根に持っておるのかの」
騎士議会に参加した際、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はタングラム(kz0016)に――いや、正確にはAPVに仕事を振った。
本来であれば自身に振って欲しい仕事をタングラムに振ったのだ。
勿論面白くないゼナイドは反論したが、それでもヴィルヘルミナはタングラムを、ハンターを選んだ。
「陛下があそこまでハンターを好むのでしたら、わたくしも使って差し上げないといけませんわ。それがどんな仕事であろうと」
そうですわよね? ゼナイドはそう微笑むと、履いていたブーツを脱いでマンゴルトの頭に投げつけた。
どうやら仕事こそ真面目にこなしているが、怒りは収まっていなかったようだ。
「そうですわ。折角ですし同行して可愛がって差し上げるのもありですわね。駄タングラムのアホ面には及びませんけど面白そうですわぁ♪」
不機嫌を一転、楽しげに笑い声を零すゼナイドにマンゴルトはやれやれと肩を竦める。
その上で手にしていた書類に目を落とすと、ブーツのぶつかった禿げ頭を摩った。
「仕方ないの……ハンターには少しばかり申し訳ないが動いて貰うかのぉ」
そう言うと彼はゼナイドの指示通りに動き始めた。
●
アネリブーベから僅かに離れた土地。
廃村となって久しいその場所に、ハンター派遣の前にと偵察に寄越された兵士3人が足を踏み入れていた。
「ここが団長の言っていた死者の村、か」
「確かに気味が悪いな。昼間だってのに嫌な気配がプンプンするぜ」
兵士の言うように今は昼間だ。
何故この時間に偵察に向かわせたのか。それにはいくつかの理由があるが、大きな理由は廃村で目撃されると言う歪虚がゾンビであると言うことだ。
「団長はゾンビを目撃しなくて良いって言ってたけど、何でだ?」
「出現場所と現地の状況がわかれば良いんだとよ」
過去の資料からゾンビ型の歪虚は主に夜出没することがわかっている。その点を顧みて危険の少ない昼間に偵察に向かわせたのだ。
「廃村の地理と、可能であれば歪虚の住処を特定出来れば良いってさ」
「あー……つまり面倒なことはハンターに押し付けるって寸法か」
兵士等は顔を見合わせると苦笑して足を進めた。
廃村は人がいなくなって新しいのか、3棟の家が無傷で残っていた。
中を伺えば家具なども揃っており、周囲の環境さえ整えれば再び人が住めるのではと思えるほどだ。
だが気になるものを1つ見付けた。
「井戸が死んでるな」
念のために汲み上げた水が黒い。しかも粘着質で手に纏わり付くような印象がある。
「こりゃ、人も住めなくなるわけだ」
兵士はそう言うと井戸に水を戻そうとした。が、次の瞬間、兵士は何かに捕まれて引っ張られた。
「!」
目を向けた先には井戸がある。しかし先程と明らかに違うものがそこにはあった。
「なっ、何だ、これ……!」
片手に纏わり付く泥の塊のようなモノ。それが腕を這い上がる様にして締め付けて来たのだ。
その力は振り払おうと腕を振っても剥がれない程。
「今助ける!」
兵士の1人は、駆け付けると同時に剣を振り上げた。そして纏わり付く物を両断しようとするのだが、それが別の泥によって阻まれた。
よく見ると、井戸から顔のようなものが見える。その周囲には泥の個体がいくつも見受けられ、明らかに尋常ではないことを物語っている。
「なんだこの固さ……それに、この泥……っ!?」
剣を撃ち込んだ場所から響く振動に眉を潜めた兵士の目が周囲に向かう。そうして気付いた。
2人の兵士はいつの間にか泥状の何かに囲まれていたのだ。
「は、離れ――ぅわあっ!!!」
泥に纏わり付かれた兵士の1人が井戸に落ちた。それに次いでもう1人の兵士も井戸に引きずり込まれる。
「た、助けッ!」
蒼い顔で手を伸ばす兵士に、残った兵士は目を見開いて後じさった。
「あ、あ……ああ……」
兵士は見てしまった。
井戸から顔を覗かせた顔の溶けた人間を。そしてそれによって井戸に引きずり込まれてゆく兵士の姿を。
「……ほ、報告をしないと……っ!」
残った兵士は震える足を引き摺る様にして駆け出すと、今見たことを報告すべくアネリブーベに戻ったのだった。
リプレイ本文
廃村の入口で足を止めたシルフィエット・フォンブラウン(ka1886)は、ローブの襟を正すように首に手を添えると、長い金色の髪を風に流した。
「さてさて今回の敵は泥ってことだけど……考えれば考える程、変な生物ねぇ」
依頼書を見た感じだと泥の生物は2種類。内1種類は硬化のスキルを持っている歪虚と言うから色々面倒だ。
そう零すシルフィエットに気付き、ハーヴェルトランス(ka0441)が首を傾げるようにして彼女を見た。
「変?」
どういうことだ? そう言外に問い掛ける彼にシルフィエットは思案気に視線を落とす。
「微生物が中にいて群となって集まった結果が泥生物になんてこともあるけど……」
「……あんま想像したくねえな」
ボソッと呟き、カダル・アル=カーファハ(ka2166)が眉を潜める。
「まあ、微生物はともかくとして、泥、か……乾燥すれば、固くなるかもしれないな」
「……乾燥を防ぐ手立てがあれば良い……でしょうか?」
ハーヴェルトランスの声を拾い、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)が首を傾げる。それを受けて、皆の話を目を輝かせながら聞いていたミュオ(ka1308)が口を開いた。
「そ、それでしたら、僕――じゃない、俺、水を持ってきました……」
ミネラルウォーターを2本取り出して見せる彼に、メリエ・フリョーシカ(ka1991)が「ふむ」と頷く。
「確かに、水をかければ泥に戻るかもしれませんね。ゼナイド様はどう思われますか!」
憧れの騎士の、師団の、それも師団長が傍にいる。瞳を最大限に輝かせて振り返った彼女に、ゼナイド(kz0052)は素っ気ない態度で肩を竦めた。
「過程に興味はありませんわ。結果こそすべて。貴方がたが歪虚を倒せば文句は言いませんわよ」
そう皆を見回す彼女に、瞼を伏せ、話に耳を傾けていたアナスタシア・B・ボードレール(ka0125)が瞼を上げる。
「仰る通りです。結果を出さなければ評価も覆らないですから」
未知の存在を、知らぬ相手を高く評価しろと言われても出来る筈がない。故に試される事は致し方ないと理解している。
「懲罰部隊の罪人如きが偉そうに」
極々小さな声にメリエの目が見開かれた。
驚いて視線を向けた先に居たのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だ。
「確か、アウレールさんでしたね。ゼナイド様になんてこと」
「構いませんわ。わたくしが懲罰部隊を指揮している事は事実ですもの。それで、何が仰りたいのかしら」
前に出そうになるメリエを制し、ゼナイドは先を促すようにアウレールを見る。
「ふん。そこで見ておれ。このアウレール、未熟者とて懲罰部隊の罪人如きに遅れはとらぬ! 人を統べる者ならば前に出て率先して闘うべきであろう。にも拘らず後方に控えて高みの見物を決め込もうなど、帝国師団長の名に相応しくない!」
きっと陛下もそう仰せになるであろうな。そう言い切ると、ゼナイドはクスリと笑って肩を竦めた。
「貴方、面白いですわね。活躍して下さるのを楽しみにしてますわ」
ゼナイドは小さく笑うと、巨大なハンマーを地面に置き、その上に腰を下ろした。
「聞いている印象と違います……」
挑発的なアウレールの言葉に喰い付くかと思ったのだが、意外にも笑って流す彼女にシュネーが呟いた。
それを受け、アナスタシアが息を吐く。
「それだけ下に見られているという事でしょう」
相手にする価値もない。そう思われているのなら今の反応も納得いく。
表情を引き締める面々。その中で若干ずれた反応を示すのはミュオとメリエだ。
「ぼ、僕、こんなにすごい人と一緒に行動できるんだ……っ、頑張らないと!」
「ああ! ゼナイド様、必ずや討伐を成功させご期待に応えてみせますのでっ! えぇ、必ず!」
どちらも目を輝かせ、頬を紅潮させてゼナイドを見詰めている。あの姿を見ていると思わずにはいられない。
(あの子たち、いろんな意味で心配ですわね)
帝国への忠誠心は良いが、どこかズレ気味なのが気になる。
そんなゼナイドの心配をよそに戦闘の火蓋は落とされようとしていた。
「では、私の性能をお見せします」
アナスタシアは細身の杖を握り締めると、歪虚と雑魔が目撃されたと言う場所を目指して駆け出した。
●
「井戸を囲むようにして展開、ですか……」
ゼナイドは動き出したハンターの1人、アウレールを見て目を細める。
「皆、下がっていろ」
僅かに離れた場所から井戸に投げ込まれたのは油詰の瓶だ。彼はそれ目掛けて火矢を撃ち込むと、井戸の底から炎を燃え上がらせた。これに合わせて何かが溢れ出してくる。
「中にいるアイツが何かしたら分かるようにこの陣形を取ったが……さて」
ハーヴェルトランスはロッドを構えて周囲を伺う。その目に映るのは井戸以外から這い出してきた泥スライムだ。
「何処から出て来たんだ?」
井戸からも出てきているが、カダルの視界に居る敵は明らかに井戸とは違う場所から出来た。とは言え、倒さない訳にはいかない。
「雑魚からさっさと倒そう」
ハーヴェルトランスの声に頷いたカダルは自身の素早さを強化すると、敵から距離を取る様にして駆け出した。
「遅いな」
幸いなことに敵の動きは鈍い。
カダルは拳銃を構えると、泥の個体目掛けて弾を撃ち込んだ。
カンッ!
「……なるほど」
跳ね返された弾に武器を持ち変える。そうしている間にハーヴェルトランスの準備が整った。
「さて、効くかな」
構えたロッドの先が淡く光ると、それが魂となって解き放たれた。
『――ォォォオッ!』
蒸発する勢いで光に消えた塊にカダルとハーヴェルトランスが目を合せる。
「……数が多いというのは厄介だな」
「確かに。だが、倒せない数じゃない」
敵の速度、弱点、それらを顧みれば苦戦する相手でもない。
2人は頷き合うと、新たな敵に向き直った。
その頃ミュオは、両手に握り締めた剣を勢いよく泥スライムに向けて打ち込んでいた。
「ッ……固い」
ビリビリと伝い来る振動に眉を潜める。と、その隙を突いて泥スライムの体が伸びて来た。
「ミュオさん!」
盾を構えたメリエが、咄嗟にミュオの前に飛び出す。そして守りを強化した状態で敵を受け止めると、安堵したように息を吐いた。
「大丈夫ですか?」
「ぼ、僕は大丈夫です」
頷きながら剣を構え直す。そこに温かな感覚が降り注いだ。
「コール、防性強化」
片手を翳してアナスタシアが防性強化を2人に施す。その上で杖を構えると、彼女は容赦ない眼差しでメリエの盾にしがみ付く泥スライムを見据えた。
「どんどん盾を包んでく!? このままだと……うわ、こっちからも敵が!」
「い、いま引き剥がしますね」
背後に迫る泥スライムにミュオが刃を打ち込む。そうする事で牽制をするがメリエの盾に付いたスライムはそのままだ。
「如何すれば――」
「そのまま固定ですわ」
遠方から届いた声に反射的に「はい!」と答える。その直ぐ後だった。
「アナスタシア、狙えますわね?」
命中には少しだが自信がある。
アナスタシアはゼナイドの声に無言で頷くと、構えていた杖から一条の光を放った。
「コール、機導砲」
『キュゥゥゥッ』
悶えるように盾から剥がれたスライム。それを見止めてゼナイドの激が飛ぶ。
「ミュオ、その程度ならお家に帰った方が良いのではなくて?」
「が、頑張ります!」
えいっと振り降ろした刃がスライムの胴を貫く。そうして動きを止めた存在を見て、ゼナイドはもう1つの組に目を飛ばした。
大地に撃ち込まれる矢はアウレールが放つ物だ。
「そっちに行ったぞ!」
時折スライムに矢が直撃しているが、その殆どは牽制と誘導のために放った物で、彼が誘導する先にはシルフィエットが控えている。
「さっさと退治してお酒のみに行きたいわね」
ぼんやりそんな事を呟きながら掌でクルリと杖を回す。そうして先端を敵に向けると、鋭い光が敵を貫いた。
「……こちらも、お願いします」
シュネーはそう言うと、シルフィエットが狙い易いであろう場所を選んで泥スライムを招いた。そこに再び機導砲が撃ち込まれると、彼女の目が上がる。
「?」
「うふふ、出て来ましたわね」
楽しげに足を組んで囁くゼナイド。
彼女とシュネーが捉えたのは井戸から這い出てくる泥ゾンビの姿だ。
「あれが噂に聞く歪虚か……炎の炙り出しに我慢できずに出てきたようだな」
アウレールは誇らしげに胸を張って呟く。その表情を見止めながらゼナイドは言う。
「さあ、ここからが本番ですわよ。貴方がたの本気を見せて下さいな。まさかこんなものではありませんわよね?」
そう言い放つ彼女にシュネーがチラリと目を向けた。
「煩い上官には慣れていますが、口ばかりだと体が鈍りそうです……心なしか少しお腹が出ているようですし……」
ボソッと呟いた声にゼナイドの耳が少しだけ動く。そして彼女が何か言う前に動き出すと、シュネーは素早い身のこなしで泥ゾンビの間合いに飛び込んだ。
●
真っ赤に染まった瞳を光らせ、シュネーは炎で炙り出された泥ゾンビに斬撃を見舞う。が、近付いたのは一瞬だけ。
泥を弾けさせながら飛び退いた彼女は、捕縛を恐れて既に離れている。
「……捕まる行動は、とりません」
だが若干甘かった。
「!」
突如視界を覆った黒い液体に眉が顰められる。
「マズイ!」
敵の放った何かシュネーの動きが止まった。それに逸早く気付いたアウレールが飛び込むと、彼は持ち変えていたナイフで敵に斬り掛かった。
キンッ!
「なっ!?」
泥スライムの比ではない衝撃が彼の腕を襲う。咄嗟に飛び退こうと動くが、敵の動きの方が早かった。
「なん……熱っ」
顔面に吹きかけられた泥。これは腐敗粘液で出来ており、付着した部分に火傷のような痛みをもたらしてくる。
シュネーに襲い掛かった黒い液体もこの腐敗粘液だ。
「誰か、援護を頼む……!」
ハーヴェルトランスがそう言うと同時に、腐敗粘液で怯んだ2人の腕が掴まれた。
ズルズルと物凄い力で引っ張る敵に盾を手に突進して行く。そうして引き剥がそうとロッドで打撃を加えるのだが、ビクともしない。
「腕を斬った方が早いか……!」
あまりに固い腕にもう一撃加えようと振り上げる。そこへミュオとメリエが飛んで来た。
「コール、運動強化。注意してくださいね」
「ありがとう、ございます……!」
援護にとマテリアルを送り込むアナスタシアに、ミュオが声を上げる。そうして事前に用意していた水を泥ゾンビの腕にかけると、メリエの鞭が敵の腕を叩いた。
『パァンッ!』
壁を叩くような音を立てて鞭が弾かれる。それを見ていたゼナイドがクスリと笑って足を組み直した。
「頭を使ったつもりですけど、まだまだですわね。そのゾンビ、もう少ししたら攻撃が効きますわよ」
彼女が言うにはゾンビの硬化は一定時間だけだと言う。その証拠にシュネーが最初に加えた一撃は敵に届いていた。
「ほら、今ですわよ」
ゼナイドの声に腕を掴まれていたシュネーとアウレールが攻撃を見舞う。すると、先程の固さは何だったのか、敵の手は難なく離れた。
「ストーンアーマーと似た効果……」
シルフィエットはそう呟くと、打撃によろめく泥ゾンビを見詰めた。
「畳み掛けるなら今ですわよ。それともそれすらできないノロマさんたちなのかしら」
嘲笑うゼナイドに表情1つ動かさず、ハーヴェルトランスとアナスタシア、そしてシルフィエットが杖で泥ゾンビを捉える。
「動きを押さえてやる、ヘマするなよ」
カダルはそう言い、素早い動きで敵に近付いて肉厚の刃を振り上げた。
「固くなるのはココもか?」
顔を上げた泥ゾンビの目らしき部分に刃を突き入れると、抉る様に刃を深くする。
「今です、退いて下さい」
シルフィエットの声に飛び退いたカダル。そんな彼と入れ違いに3つの光が敵に向かって伸ばされた。
『グォォォオオオッ!』
低い雄叫びを上げながら崩れて行く敵。
纏う泥の全てが土に還る様に大地に広がると、ハンター達は持っている武器を下げた。
●
「貴方」
「あ?」
「なかなかエグイ闘い方をしますのね」
エグイとは目を攻撃した事だろうか。
ゼナイドの声にチラリと目を向けたカダルが面倒そうに目を向ける。
単純に目なら硬化しないんじゃないか、そう考えただけだったのだが、別に教える必要もないだろう。
カダルはふいっと視線を逸らすと、彼女の傍から離れて行った。
そこに落ち着いた声が届く。
「現状はこのような形です。ご不快な点も多々あるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします」
アナスタシアだ。
彼女はゼナイドに一礼を向けると、何かを確かめるように眼差しを向けてくる。
それを受けて彼女の目が細められた。
「確かに不快な点も多かったですわ。ですがまあ、弱音を吐かないだけマシですわよ」
言って背を向ける。そうして彼等の傍を離れようとした所で、苦い声が響いてきた。
「一師団を預かる身として、前線で戦う者達に激励以外の言葉をぶつけるとはな…。同じエルフとして嘆かわしい…」
声の主はハーヴェルトランスだ。
戦闘中は一切表情の変化がなかった彼の眉が僅かに寄っている。
「己が陛下から貰った地位や称号が誇らしいというならば、それを貶めるような言動は慎む事だ。よく考えるが良かろう」
そう告げたところで、ゼナイドの歩みが止まった。
「貰った? 冗談じゃありませんわ。わたくしの地位と称号はわたくし自身が勝ち取ったものですの。それにわたくし満足しておりませんの。陛下を打ち倒し、あの方の上に立つことがわたくしの最終目標……貴方は同じエルフと言いますけれど、わたくしたち同じではありませんわよ」
クスリと笑ってゼナイドは背を向けたのだが、思わぬ視線に彼女の目が瞬かれる。
「ゼナイドさんって、強くてキレイで格好良くて……その上お優しいんですね」
最大限に目を輝かせて放たれた声に「は?」と素が漏れる。
「すごいです! 僕、とっても尊敬しちゃいます!」
「……こういう生き物、久し振りに見ましたわね」
苦笑と言うか微笑と言うか、複雑な笑みを口元に浮かべて肩を竦める。そうして何事もなかったかのように現場を後にしようとしたのだが、ある声が彼女の動きを留めた。
「これは……?」
今後の対策に何かサンプルを。そう思いゾンビの消えた場所を探っていたシルフィエットが声を上げた。
目を向けると、彼女の手の中には何かの部品らしき物がある。
「ゼナイド様、何かわかりますか?」
軽く掲げられた金属の塊にゼナイドの足が向かう。そして彼女の手からそれを受け取ると静かに目を落とした。
「これが何かと言うよりも、この部品が歪虚の中から出て来た事が問題ですわ。昨今の歪虚の増加、そしてこの部品……」
『剣機』かもしれませんわね。
ゼナイドはそう零すと手の中に在る部品を握り締めた。
「さてさて今回の敵は泥ってことだけど……考えれば考える程、変な生物ねぇ」
依頼書を見た感じだと泥の生物は2種類。内1種類は硬化のスキルを持っている歪虚と言うから色々面倒だ。
そう零すシルフィエットに気付き、ハーヴェルトランス(ka0441)が首を傾げるようにして彼女を見た。
「変?」
どういうことだ? そう言外に問い掛ける彼にシルフィエットは思案気に視線を落とす。
「微生物が中にいて群となって集まった結果が泥生物になんてこともあるけど……」
「……あんま想像したくねえな」
ボソッと呟き、カダル・アル=カーファハ(ka2166)が眉を潜める。
「まあ、微生物はともかくとして、泥、か……乾燥すれば、固くなるかもしれないな」
「……乾燥を防ぐ手立てがあれば良い……でしょうか?」
ハーヴェルトランスの声を拾い、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)が首を傾げる。それを受けて、皆の話を目を輝かせながら聞いていたミュオ(ka1308)が口を開いた。
「そ、それでしたら、僕――じゃない、俺、水を持ってきました……」
ミネラルウォーターを2本取り出して見せる彼に、メリエ・フリョーシカ(ka1991)が「ふむ」と頷く。
「確かに、水をかければ泥に戻るかもしれませんね。ゼナイド様はどう思われますか!」
憧れの騎士の、師団の、それも師団長が傍にいる。瞳を最大限に輝かせて振り返った彼女に、ゼナイド(kz0052)は素っ気ない態度で肩を竦めた。
「過程に興味はありませんわ。結果こそすべて。貴方がたが歪虚を倒せば文句は言いませんわよ」
そう皆を見回す彼女に、瞼を伏せ、話に耳を傾けていたアナスタシア・B・ボードレール(ka0125)が瞼を上げる。
「仰る通りです。結果を出さなければ評価も覆らないですから」
未知の存在を、知らぬ相手を高く評価しろと言われても出来る筈がない。故に試される事は致し方ないと理解している。
「懲罰部隊の罪人如きが偉そうに」
極々小さな声にメリエの目が見開かれた。
驚いて視線を向けた先に居たのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だ。
「確か、アウレールさんでしたね。ゼナイド様になんてこと」
「構いませんわ。わたくしが懲罰部隊を指揮している事は事実ですもの。それで、何が仰りたいのかしら」
前に出そうになるメリエを制し、ゼナイドは先を促すようにアウレールを見る。
「ふん。そこで見ておれ。このアウレール、未熟者とて懲罰部隊の罪人如きに遅れはとらぬ! 人を統べる者ならば前に出て率先して闘うべきであろう。にも拘らず後方に控えて高みの見物を決め込もうなど、帝国師団長の名に相応しくない!」
きっと陛下もそう仰せになるであろうな。そう言い切ると、ゼナイドはクスリと笑って肩を竦めた。
「貴方、面白いですわね。活躍して下さるのを楽しみにしてますわ」
ゼナイドは小さく笑うと、巨大なハンマーを地面に置き、その上に腰を下ろした。
「聞いている印象と違います……」
挑発的なアウレールの言葉に喰い付くかと思ったのだが、意外にも笑って流す彼女にシュネーが呟いた。
それを受け、アナスタシアが息を吐く。
「それだけ下に見られているという事でしょう」
相手にする価値もない。そう思われているのなら今の反応も納得いく。
表情を引き締める面々。その中で若干ずれた反応を示すのはミュオとメリエだ。
「ぼ、僕、こんなにすごい人と一緒に行動できるんだ……っ、頑張らないと!」
「ああ! ゼナイド様、必ずや討伐を成功させご期待に応えてみせますのでっ! えぇ、必ず!」
どちらも目を輝かせ、頬を紅潮させてゼナイドを見詰めている。あの姿を見ていると思わずにはいられない。
(あの子たち、いろんな意味で心配ですわね)
帝国への忠誠心は良いが、どこかズレ気味なのが気になる。
そんなゼナイドの心配をよそに戦闘の火蓋は落とされようとしていた。
「では、私の性能をお見せします」
アナスタシアは細身の杖を握り締めると、歪虚と雑魔が目撃されたと言う場所を目指して駆け出した。
●
「井戸を囲むようにして展開、ですか……」
ゼナイドは動き出したハンターの1人、アウレールを見て目を細める。
「皆、下がっていろ」
僅かに離れた場所から井戸に投げ込まれたのは油詰の瓶だ。彼はそれ目掛けて火矢を撃ち込むと、井戸の底から炎を燃え上がらせた。これに合わせて何かが溢れ出してくる。
「中にいるアイツが何かしたら分かるようにこの陣形を取ったが……さて」
ハーヴェルトランスはロッドを構えて周囲を伺う。その目に映るのは井戸以外から這い出してきた泥スライムだ。
「何処から出て来たんだ?」
井戸からも出てきているが、カダルの視界に居る敵は明らかに井戸とは違う場所から出来た。とは言え、倒さない訳にはいかない。
「雑魚からさっさと倒そう」
ハーヴェルトランスの声に頷いたカダルは自身の素早さを強化すると、敵から距離を取る様にして駆け出した。
「遅いな」
幸いなことに敵の動きは鈍い。
カダルは拳銃を構えると、泥の個体目掛けて弾を撃ち込んだ。
カンッ!
「……なるほど」
跳ね返された弾に武器を持ち変える。そうしている間にハーヴェルトランスの準備が整った。
「さて、効くかな」
構えたロッドの先が淡く光ると、それが魂となって解き放たれた。
『――ォォォオッ!』
蒸発する勢いで光に消えた塊にカダルとハーヴェルトランスが目を合せる。
「……数が多いというのは厄介だな」
「確かに。だが、倒せない数じゃない」
敵の速度、弱点、それらを顧みれば苦戦する相手でもない。
2人は頷き合うと、新たな敵に向き直った。
その頃ミュオは、両手に握り締めた剣を勢いよく泥スライムに向けて打ち込んでいた。
「ッ……固い」
ビリビリと伝い来る振動に眉を潜める。と、その隙を突いて泥スライムの体が伸びて来た。
「ミュオさん!」
盾を構えたメリエが、咄嗟にミュオの前に飛び出す。そして守りを強化した状態で敵を受け止めると、安堵したように息を吐いた。
「大丈夫ですか?」
「ぼ、僕は大丈夫です」
頷きながら剣を構え直す。そこに温かな感覚が降り注いだ。
「コール、防性強化」
片手を翳してアナスタシアが防性強化を2人に施す。その上で杖を構えると、彼女は容赦ない眼差しでメリエの盾にしがみ付く泥スライムを見据えた。
「どんどん盾を包んでく!? このままだと……うわ、こっちからも敵が!」
「い、いま引き剥がしますね」
背後に迫る泥スライムにミュオが刃を打ち込む。そうする事で牽制をするがメリエの盾に付いたスライムはそのままだ。
「如何すれば――」
「そのまま固定ですわ」
遠方から届いた声に反射的に「はい!」と答える。その直ぐ後だった。
「アナスタシア、狙えますわね?」
命中には少しだが自信がある。
アナスタシアはゼナイドの声に無言で頷くと、構えていた杖から一条の光を放った。
「コール、機導砲」
『キュゥゥゥッ』
悶えるように盾から剥がれたスライム。それを見止めてゼナイドの激が飛ぶ。
「ミュオ、その程度ならお家に帰った方が良いのではなくて?」
「が、頑張ります!」
えいっと振り降ろした刃がスライムの胴を貫く。そうして動きを止めた存在を見て、ゼナイドはもう1つの組に目を飛ばした。
大地に撃ち込まれる矢はアウレールが放つ物だ。
「そっちに行ったぞ!」
時折スライムに矢が直撃しているが、その殆どは牽制と誘導のために放った物で、彼が誘導する先にはシルフィエットが控えている。
「さっさと退治してお酒のみに行きたいわね」
ぼんやりそんな事を呟きながら掌でクルリと杖を回す。そうして先端を敵に向けると、鋭い光が敵を貫いた。
「……こちらも、お願いします」
シュネーはそう言うと、シルフィエットが狙い易いであろう場所を選んで泥スライムを招いた。そこに再び機導砲が撃ち込まれると、彼女の目が上がる。
「?」
「うふふ、出て来ましたわね」
楽しげに足を組んで囁くゼナイド。
彼女とシュネーが捉えたのは井戸から這い出てくる泥ゾンビの姿だ。
「あれが噂に聞く歪虚か……炎の炙り出しに我慢できずに出てきたようだな」
アウレールは誇らしげに胸を張って呟く。その表情を見止めながらゼナイドは言う。
「さあ、ここからが本番ですわよ。貴方がたの本気を見せて下さいな。まさかこんなものではありませんわよね?」
そう言い放つ彼女にシュネーがチラリと目を向けた。
「煩い上官には慣れていますが、口ばかりだと体が鈍りそうです……心なしか少しお腹が出ているようですし……」
ボソッと呟いた声にゼナイドの耳が少しだけ動く。そして彼女が何か言う前に動き出すと、シュネーは素早い身のこなしで泥ゾンビの間合いに飛び込んだ。
●
真っ赤に染まった瞳を光らせ、シュネーは炎で炙り出された泥ゾンビに斬撃を見舞う。が、近付いたのは一瞬だけ。
泥を弾けさせながら飛び退いた彼女は、捕縛を恐れて既に離れている。
「……捕まる行動は、とりません」
だが若干甘かった。
「!」
突如視界を覆った黒い液体に眉が顰められる。
「マズイ!」
敵の放った何かシュネーの動きが止まった。それに逸早く気付いたアウレールが飛び込むと、彼は持ち変えていたナイフで敵に斬り掛かった。
キンッ!
「なっ!?」
泥スライムの比ではない衝撃が彼の腕を襲う。咄嗟に飛び退こうと動くが、敵の動きの方が早かった。
「なん……熱っ」
顔面に吹きかけられた泥。これは腐敗粘液で出来ており、付着した部分に火傷のような痛みをもたらしてくる。
シュネーに襲い掛かった黒い液体もこの腐敗粘液だ。
「誰か、援護を頼む……!」
ハーヴェルトランスがそう言うと同時に、腐敗粘液で怯んだ2人の腕が掴まれた。
ズルズルと物凄い力で引っ張る敵に盾を手に突進して行く。そうして引き剥がそうとロッドで打撃を加えるのだが、ビクともしない。
「腕を斬った方が早いか……!」
あまりに固い腕にもう一撃加えようと振り上げる。そこへミュオとメリエが飛んで来た。
「コール、運動強化。注意してくださいね」
「ありがとう、ございます……!」
援護にとマテリアルを送り込むアナスタシアに、ミュオが声を上げる。そうして事前に用意していた水を泥ゾンビの腕にかけると、メリエの鞭が敵の腕を叩いた。
『パァンッ!』
壁を叩くような音を立てて鞭が弾かれる。それを見ていたゼナイドがクスリと笑って足を組み直した。
「頭を使ったつもりですけど、まだまだですわね。そのゾンビ、もう少ししたら攻撃が効きますわよ」
彼女が言うにはゾンビの硬化は一定時間だけだと言う。その証拠にシュネーが最初に加えた一撃は敵に届いていた。
「ほら、今ですわよ」
ゼナイドの声に腕を掴まれていたシュネーとアウレールが攻撃を見舞う。すると、先程の固さは何だったのか、敵の手は難なく離れた。
「ストーンアーマーと似た効果……」
シルフィエットはそう呟くと、打撃によろめく泥ゾンビを見詰めた。
「畳み掛けるなら今ですわよ。それともそれすらできないノロマさんたちなのかしら」
嘲笑うゼナイドに表情1つ動かさず、ハーヴェルトランスとアナスタシア、そしてシルフィエットが杖で泥ゾンビを捉える。
「動きを押さえてやる、ヘマするなよ」
カダルはそう言い、素早い動きで敵に近付いて肉厚の刃を振り上げた。
「固くなるのはココもか?」
顔を上げた泥ゾンビの目らしき部分に刃を突き入れると、抉る様に刃を深くする。
「今です、退いて下さい」
シルフィエットの声に飛び退いたカダル。そんな彼と入れ違いに3つの光が敵に向かって伸ばされた。
『グォォォオオオッ!』
低い雄叫びを上げながら崩れて行く敵。
纏う泥の全てが土に還る様に大地に広がると、ハンター達は持っている武器を下げた。
●
「貴方」
「あ?」
「なかなかエグイ闘い方をしますのね」
エグイとは目を攻撃した事だろうか。
ゼナイドの声にチラリと目を向けたカダルが面倒そうに目を向ける。
単純に目なら硬化しないんじゃないか、そう考えただけだったのだが、別に教える必要もないだろう。
カダルはふいっと視線を逸らすと、彼女の傍から離れて行った。
そこに落ち着いた声が届く。
「現状はこのような形です。ご不快な点も多々あるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします」
アナスタシアだ。
彼女はゼナイドに一礼を向けると、何かを確かめるように眼差しを向けてくる。
それを受けて彼女の目が細められた。
「確かに不快な点も多かったですわ。ですがまあ、弱音を吐かないだけマシですわよ」
言って背を向ける。そうして彼等の傍を離れようとした所で、苦い声が響いてきた。
「一師団を預かる身として、前線で戦う者達に激励以外の言葉をぶつけるとはな…。同じエルフとして嘆かわしい…」
声の主はハーヴェルトランスだ。
戦闘中は一切表情の変化がなかった彼の眉が僅かに寄っている。
「己が陛下から貰った地位や称号が誇らしいというならば、それを貶めるような言動は慎む事だ。よく考えるが良かろう」
そう告げたところで、ゼナイドの歩みが止まった。
「貰った? 冗談じゃありませんわ。わたくしの地位と称号はわたくし自身が勝ち取ったものですの。それにわたくし満足しておりませんの。陛下を打ち倒し、あの方の上に立つことがわたくしの最終目標……貴方は同じエルフと言いますけれど、わたくしたち同じではありませんわよ」
クスリと笑ってゼナイドは背を向けたのだが、思わぬ視線に彼女の目が瞬かれる。
「ゼナイドさんって、強くてキレイで格好良くて……その上お優しいんですね」
最大限に目を輝かせて放たれた声に「は?」と素が漏れる。
「すごいです! 僕、とっても尊敬しちゃいます!」
「……こういう生き物、久し振りに見ましたわね」
苦笑と言うか微笑と言うか、複雑な笑みを口元に浮かべて肩を竦める。そうして何事もなかったかのように現場を後にしようとしたのだが、ある声が彼女の動きを留めた。
「これは……?」
今後の対策に何かサンプルを。そう思いゾンビの消えた場所を探っていたシルフィエットが声を上げた。
目を向けると、彼女の手の中には何かの部品らしき物がある。
「ゼナイド様、何かわかりますか?」
軽く掲げられた金属の塊にゼナイドの足が向かう。そして彼女の手からそれを受け取ると静かに目を落とした。
「これが何かと言うよりも、この部品が歪虚の中から出て来た事が問題ですわ。昨今の歪虚の増加、そしてこの部品……」
『剣機』かもしれませんわね。
ゼナイドはそう零すと手の中に在る部品を握り締めた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 5人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アウレール・V・ブラオラント(ka2531) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/27 10:55:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/24 11:46:30 |