『DEAR』 ~残り香の行方~

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/10/03 07:30
完成日
2015/10/10 22:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●フランツの書斎にて
 報告書を読み終わったフランツは老眼鏡を外して目頭を揉んだ。
「革命積……また懐かしい物がまだ出回っておるのか」
 フランツはペンを取り出すと、さらさらと手紙を認めて、封をした。
「さてと……この調査が成されると良いのだが」
 そう呟くと上着を着て部屋を出て行った。

●ハンターオフィスにて
 フランツの話しを聞いて、オフィスの責任者と説明係の女性は青ざめた。
「まぁ、そういうわけじゃから、内密に」
「ちょっと、待って下さい。それってかなり大事なんじゃ……?」
「うむ。じゃから、内密に。まぁ、わしからハンターの皆さんにはお話しするので、君達が口を噤んでくれればいいだけじゃ」
 ほっほっほ、と笑うフランツに「笑い事じゃ無いですよ!」と女性は声を荒げて、慌てて口元を抑えた。
「まぁ、国も知った上での判断じゃ。中間に挟まれたオフィスの皆さんには申し訳無いがのぅ」
 フランツの他人事のような口調に女性はまなじりをぎりぎりと釣り上げる。
「ともかく、そういうわけなんで、ちょっと部屋を借りるぞ。そして信頼の置けるハンターの方々を集めて欲しい」
 そういうと、フランツはよいしょ、と席を立って奥の個室へと入っていったのだった。

●ハンターオフィス・個室にて
 集まったハンターの顔ぶれを見て、フランツは満足そうに微笑んだ。
「集まって貰ってすまないね。実はの、先日わしが頼んだ調査の結果、ちょっと困ったことになったんじゃ」
 そういってテーブルの上に2枚の紙を置いた。
 どちらも同じ紙幣のように見えた。始めて見る、というハンターが多い中、見覚えがある者もいたかもしれない。
「これは、革命積と言って、先の皇帝が国庫を開けて、貴族階級や革命時に協力してくれた有力者達なんかに配った金券じゃ」
 額面はGにして5,000、10,000、50,000、100,000までの4種類。
 皇帝が即位から5年後に発券が中止となり、以来は使う者も徐々に減ってきている金券だという。
「それでな、これ、一方がニセモノなんじゃが、わかるか?」
 そう言われて、ハンター達はどよめき、1人が一枚ずつ手にとって見比べるがさっぱり違いが分からない。
「わしなんぞ目が悪いのでさっぱりわからんかったが、財務課の革命積に関わっておった者に確認してもらったところ、ニセモノは少し印刷が掠れておるらしい」
 そう言われて、よくよく見比べると、確かに片方の革命積は少し印刷が潰れているように見える。
「大変良く出来ておると、その者も思わず褒めておった……が、この額が問題でのぅ」
 100,000の物ばかりが出ているらしい。
「これは釣りは出ん。ので、額面の大きい物は、それなりに大きい買い物をする時ぐらいにしか使われとらんかった。……が、これがよく使われるのは何処だと思う?」
 互いの顔を見合わせるハンター達に、ふむ。と頷いて見せると、フランツは地図を指差した。
「人が多く動く首都のアルトバンデルスじゃよ」
 しかし、とフランツは続ける。
「今回これが出たのはここでは無く、ドワーヴンシュタット州。工房都市アルムスターじゃ」
 初めて名前を聞く者も多く居たのだろう。左右を見渡してどう反応したものか、という者が多い。
「ここは武器防具の職人が多い。それで、ここの武器がヴルツァライヒに流れておったのも発覚しておる」
 ヴルツァライヒ、の単語に幾人かの者が瞳の色を変えた。
「帝国軍に報告をさせてもらった所、第六師団直々からAPVに依頼が降りての。『内密にかつ迅速に贋金を造っている組織を特定・壊滅させよ』との事じゃ」
 軍人が動けば市民に不安と動揺が広がる。それを防ぎたいという国の思惑がこういった方法を採らせたらしい。
「それでな、一応乗りかかった船というか、本来ならわしが依頼した件でもあるし、きっちり片が付くまでわしも出来る限りの協力をさせてもらうことになった。どうか、皆宜しく頼むぞ」
 朗らかに笑うフランツを見て、フランツを初めて見る多くのハンターは『ところでこの爺さん誰?』と顔を見合わせたのだった。

●紡績の町ベンケンにて
 アルフォンスは自分のアトリエで1人、キャンバスに向かって没頭していた。
 そこに、扉を叩く音が割り込んで現実へと引き戻されると、軽い眩暈を覚えてこめかみを押さえた。
「おい、アルフォンス、居るんだろ!?」
 乱暴に扉を叩く音と扉の外から聞こえる怒声にも聞こえる大声に、アルフォンスはのろのろと扉へと向かい、鍵を開けて外に居た人物を招き入れた。
「やっぱりいた……って、お前、すげぇ顔色悪いぞ? さてはまた飲まず食わずで絵描いてたんだろ?!」
 その男はとても剣呑な目つきをしていたが、アルフォンスに向ける言葉に棘は無い。
「あぁ……うん、そうかも?」
「もう陽も落ちるぞ。良くこんな暗い部屋で絵が描けるな!?」
 呆れたように言われて、そういえば明け方にランプの油が切れた事を思い出し、それを男に告げたところ、男に怒鳴られた。
「お前はバカだろう!? ってことはさては寝ても無いな? とりあえず座れ! そしてこれでも食ってろ」
「ヴァン」
「あ゛?」
「ありがとう」
 ヴァンと呼ばれた男は、酷く嫌そうに顔を歪めると「いいから、食え」とテーブルを指差した。
 そこにはヴァンの好物である肉団子汁が2人分あった。
 それを見てアルフォンスは目を細めて微笑んだ。
 ヴァンはアトリエの窓際に置かれていたランプを手にとって、油瓶からランプへと油を注いだ。
 それから火を灯すと、キャンバスに描かれている絵を見た。
「……エマ」
 絵の中の女性は優しくこちらを見て微笑っていた。

リプレイ本文

●ベンケン
 アルムスターから緩やかな山一つを越えた先にある盆地に、その町はあった。
 真っ白な壁にグレーの三角屋根で統一された町並みは遠目から見ても中々に可愛らしく、美しい……そう思いながら一同が町へと近付いていくと、なるほど『紡績の町』と呼ばれる由縁がわかった。
「一家に一台とかありそうな雰囲気ね」
 ドロテア・フレーベ(ka4126)が見るとも無しに、街道沿いにぽつりぽつりとあった家々の中をガラス越しに見て、ユリアン(ka1664)も頷く。
 ユリアンの視界の先では小さな女の子が糸車をくるくると器用に操り、綿花から糸を紡いでいた。
 町の中心部まで行くと、家屋の密集度が高まり、人々の活気も窺えるようになった。
「さてと、じゃぁ、行ってくるか」
 劉 厳靖(ka4574)がドロテアと共に問題の服屋へと入っていくのを見送って、ユリアンは自警団の詰所を探す事にした。

●宴
 スティード・バック(ka4930)は1番近い『革命債の使われた店』に入ることにした。
 カウンター席と10個のテーブルが並ぶ店内は丁度昼のピーク時を過ぎ、客はまばらにしかいない。
「いらっしゃい」
 声を掛けてきたのは看板娘と思わしき若いドワーフの女性だった。
「カウンターでも?」
「あいよ、お一人様ごあんな~い」
 明るい声に対して奥から野太い声が呼応する。
 席に座り、周囲をみるがメニュー表と思わしきものが無く、出てくる気配もない。
「まず酒を」
「あいよ。うちには、エールと、葡萄酒と、『ドワーフ殺し』があるけど、どれにする?」
「……なんだ、その『ドワーフ殺し』とは」
「ははぁん、知らないとは、お客さんモグリだね? ここいらで出回っている蒸留酒さ。すこぶる美味くて、ころっと酔える」
 娘が茶目っ気たっぷりにそう告げると、どうする? と目線で訊いてくる。
「……エールを」
 いきなり酔っ払うわけにも行かない。スティードはカウンター越しに渡されたエールを一口飲んで喉を潤す。
「お客さん、旅の人?」
 暇なのだろう。娘はカウンター越しに無邪気に問いかけてくる。
「……父の仇を探している」
 その一言に娘は顔色を無くし「あらまぁ、そりゃ」と口元を覆った。
 中々素直な娘のようだ。スティードは予め設定して来た過去を語る。
「恐らく革命で没落した商人だ。殺害時、金だけでなく先帝から頂いた革命債を奪っていった」
「あら」
 娘の反応を見てスティードは話しを続ける。
「この店で革命債を使った客の中に、革命債を支給された貴族と明らかに無関係な者はなかったか?」
 スティードの問いに娘は「うーん」と唸った。
「ホント、ここ最近じゃ見なくなったからねぇ……それにうちは行商人さんも良く来るから、無関係な人とか言われてもよくわかんないかなぁ……」
 ごめんね、と謝られ、スティードは「いや」と首を横に振った。
「ちょっとまってね。パパに訊いてみるから」
 エールを一口飲み、何とはなしに周囲を見回す。

 ――一つの絵画に目が留まった。

 思わず席を立ち、絵画へと近寄る。
 そのタッチと筆遣い、線の細かさなど見覚えがあった。
「この絵は……」
 質素な木の額縁。下の枠に隠れるようにしてサインが入っている。
「あぁ、その絵? 画家先生がくれたのよ」
 娘の声に慌てて振り返る。
「画家、せんせい?」
「そう、あんまり売れてないんだけどね……アルフォンスって、この町の人なのよ」
 予想外の名前を聞いて、スティードは暫し瞠目すると再び視線を絵に戻した。
「……この画家は、この町にいるのか?」
「そうよ。気に入ったの?」
「あぁ。……いい絵だ」
 ドワーフ達の豪快な笑い声と、杯を飲み干す音、ナイフとフォークが皿に当たる音まで聞こえてきそうな躍動感のある絵で、スティードは心からそう思った。

 次に名前の挙がっていない店にも入ってみたが、そこには彼の絵はなかった。
 もう一件、名前の挙がっている店に行くと、絵がある。
「……どういうことなんだ……」
 スティードは伝話を取り出し、ドロテアの番号を押した。

●服
「あらー、似合うわー」
 試着室から出てきた劉をドロテアは素で拍手しながら迎えた。
「そ、そうか?」
 手放しに褒められ、思わず劉も照れる。
 夫婦、という設定だったが、実に新婚さんらしい雰囲気が2人の間に漂った。
「旦那様は体格がよろしゅうございますので、このデザインならお似合いかと存じます」
 老紳士と言った風貌のドワーフの店主が頷きながら、劉の襟元を正す。
「あー、これの色違いってどんなんがある?」
「このデザインですと……」
 職人が壁に誂えられた衣装掛けに向かったところで、ドロテアの伝話が震えた。
 劉とドロテアは素早く目配せし、劉が「あー、オーナー、トイレはどちらだろうか?」と声を掛けた。
「あちら、左手の奥に御座います」
「ちょっとお借りしますわね、おほほほほ」
 恥ずかしそうに、わざとらしく微笑みながらドロテアはトイレへと走った。

 劉は店主とのんびり話を再開する。
「こちらですと、袖と裾の部分のお直しだけですので、直ぐにお渡しできます」
「そりゃ助かる。じゃ、これで」
 ところで、と劉は店主に声を掛けた。
「実は知り合いの貴族の息子が出奔したらしくてなぁ」
「おや、それは大変ですね」
「資金替わりに革命債ってやつを持ち出したようなんだが、革命債を使って買い物した奴居なかったか?」
「……さて? そのようなお客様をお迎えした記憶は御座いませんねぇ」
 店主は本当に心当たりがなさそうだった。
「どうも協力者が居るらしくてな、使うのは若い男とは限らねぇんだが、何か記憶にねぇか?」
「……そうですねぇ。確かに、少し前に革命積でお買い物をされたお客様はいらっしゃいましたが……」
「そいつ! そいつのことでいいから教えてくれないか!?」
 劉は食いつかんばかりの勢いで店主に詰め寄ったが、店主は穏やかな笑顔のままぴしゃりと言った。
「お客様。我々テーラーはお客様の情報を外に漏らすことは1番あってはならないのです。皇帝に仇なす極悪人であれ、軍から正式な依頼が無ければ我々は口を紡ぐしかありません。それが、テーラーの掟なのです」
 そう言われては劉もこれ以上話しを聞くことは難しかった。
「ねぇ、ご主人。これ素敵な絵ね」
 トイレ……伝話が終わって戻ってきたドロテアが店の入口近く、観葉植物の横に掛けられた小さな額縁を指差した。
「あぁ、それですか。えぇ、中々素晴らしいでしょう?」
「誰の作品なのかしら……? とか、これも訊いちゃいけなかったかしら?」
 先ほどの劉との会話を聞いていたドロテアが、小首を傾げて問うと、店主は朗らかに笑った。
「いえいえ、『宣伝になったら嬉しい』とおっしゃってましたから、喜ばれると思います」
 ドロテアの瞳が一瞬だけ鋭く光った。
「ねぇ、私、この方の作品もっと見てみたいわ」
「この町の人ですから、宜しければご住所をお知らせしましょうか?」
「えぇ、是非」

●自警団
 ガラの悪そうなドワーフ3人組が仲良く道一杯に広がって歩いていた。
 どん、と左端を歩いていた男にぶつかって「ごめんなさい」とマリル&メリル(ka3294)は直ぐに謝罪して通り過ぎようとする。
「おぃ、コラ待てや」
「はい?」
 呼び止められ、無言のまま腰の鞄を掴まれた。
「ちょっと、何するんですか!?」
 舌打ちする男に、中央にいた男が声を掛ける。
「どうした?」
「このガキ、俺の財布スリやがった!」
「あら、ばれちゃいました」
 悪びれることなく、ぺろりと舌を出して「じゃ!」と立ち去ろうとしたメリルの首根っこを男が捕まえた。
「きゃー! ぼーりょくはんたーい」
「ふざけんなこのクソガキ!!」
 男が怒鳴ってメリルを殴り付けようとした、その手を掴んだ男がいた。
「おぃ、何やってんだ?」
 体格の良い人間の青年は、そのドワーフの太い手首を捻り上げて「あ゛?」と威圧する。
「ってぇ! お、オレ達は何もやってねぇよ! そのガキが俺の財布スリやがったんだ!」
 男の向こうから、凶悪な顔つきをした青年がメリルを見る。
 ふるふるふる、とマリルが首を振って否定する。
「このガキ……ってぇっ!!」
「まぁ、俺の目の前でガキ殴ろうとしてたのが悪い」
「ちょっ、待てよヴァン! もうしねぇから! 離してやってくれよ!」
 2人の男達はギョッとしたようにヴァン、と呼ばれた青年に懇願する。
「行け」
 ヴァンが手を離すと、3人組は一目散にその場から逃げ出した。
「ありがとうございました」
 マリルが丁寧にお礼を言うと、ヴァンは無言で手の平を差し出した。
 意味が分からず、マリルはその手の上に自分の手を重ねた。
「ちげぇよ。アイツから財布スッただろ? 出せ」
「……知ってたんですか」
 メリルは舌打ちせんばかりに視線を逸らしながら、渋々財布を渡す。
「っち、しけてんなぁ」
「ヴァン! お前何してんだよ!」
 財布の中身を確認していたヴァンを呼びに来たのは同じような服装の厳ついドワーフの青年だった。
「じゃあな、嬢ちゃん。次はもうちっと上手くやんな」
 中身だけ取って、財布はメリルに放るとヴァンは仲間と共に何処かへ行ってしまった。
「……ふぅむ。この場合どちらを追うべきでしょうか」
 マリルは暫し悩んだ後、木の棒を拾い上げて、倒した。
 そして、ヴァンが消えた路地へと音も無く侵入していった。

●アトリエ
「はい? ……貴女は……」
 しつこいぐらいにノックをして、待つこと暫し。漸く開いた扉の向こうには、先日会ったアルフォンスがいた。
「この町にいるって聞いて。ちょっと気になっちゃったのよね。スティードさんも心配してたわ」
 出された紅茶を飲みながら、ドロテアは微笑みかけた。
「何ででしょうね……本当に僕、あぁいう人に絡まれやすくて」
 気弱そうに笑って、アルフォンスも紅茶を啜る。
「それにしても、本格的なのね」
 幾枚もキャンバスが立てかけられ、壁にも至る所に彼が描いた絵が飾られていた。
 あの時の『手慰み程度』という言葉は謙遜から出た言葉では無かったのだと知る。
 油彩で描かれているのはあの時に見た水彩画とは一線を画す、どれも素晴らしい絵だった。
 それでも、ここに残っていると言う事は売れていない、という事なのだろう。
「あの日、なんで貴方はあの街に?」
「……お得意様に呼ばれて行っていたんです。それで帰りの馬車が来るまで絵を描いていようと思ったら……」
 困ったように笑いながら、アルフォンスは頭を掻いた。

 世間話の話題も尽きて、ドロテアはカップを置いた。
「少し、絵を見させて貰っても?」
「えぇ、どうぞ」
 ドロテアが手に取ったのは半裸のドワーフが燃える鉄を打っている絵だった。
 赤々とした高炉、飛ぶ火花、滴る汗。鍛えられた筋肉と浮き出た筋。今にも動き出しそうな程、生命力に溢れている。
「すごい」
 思わず感嘆の声を上げながらアトリエの中をぐるりと見て廻り、イーゼルに立てかけられた描きかけの人物画を見て、ドロテアは足を止めた。
「綺麗な人ね」
 奥様? の問いに、彼は頷く。
「今、体調を崩していて……入院中なんです」
「そうなの……早く良くなると良いわね」
「……はい」
 アルフォンスは寂しそうに頷いた。
「ねぇ、何か力になれることはある? あたしで良ければ聞くわよ?」
「有り難うございます。でも」
 そこに、扉をノックする音が聞こえた。
 アルフォンスが扉を開けると、そこには1人の青年の姿があった。
「……客か?」
「あ、もう私帰るので……それじゃ、今日は有り難う」
 すっかり冷めた紅茶を飲み干すと、そうそう、とアルフォンスに耳打ちした。
「あたし達の事は人に黙ってて頂戴ね」
 きょとんとしたアルフォンスは「えぇ、はい」と首を傾げつつも答えた。
 ドロテアはヴァンに会釈しながら扉を閉めた。

●革命積
 ガヤガヤと騒がしい大衆食堂の一角で、ユリアンと劉は先に食事を始めていた。
「……と言うことで、この町の自警団の評判も態度も最悪」
 まず自警団の詰所の位置を聞こうと入った店で懇々と延々と諭されたユリアンが、げっそりと告げる。
 いざ詰所に着いて、職が欲しいと言えば体格を鼻で笑い門前払いだった。
 自警団といえば響きはいいが、つまるところ家業を継げず、腕っ節だけで生き残っている連中らしい。
 そこへドロテアが漸く合流してきた。
「何か分かったか?」
「……んーこれと言って……あぁ、アルフォンスは既婚者で奥さんは入院中」
「入院……?」
 劉がうーん、と唸る。
「あと来客があったわ。凶悪な顔した人間。仲は良さそうだったけど」
「あぁ、それ、ヴァンです」
 ひょこっとメリルが顔を出し、パンを掴んだ。
「自警団員の1人ですね。喧嘩っ早くて色々問題児ですが、下の者には慕われていて、良くご飯奢ったりしてるみたいですよ」
「おー、マリメリあんがとな。どうだ、スティードは?」
「ただの飲み過ぎで寝落ちただけなので、朝には回復するかと」
「どうしたの? スティードさん」
「情報掴もうと店梯子して、酒振る舞ってたら逆に呑まれたみたい」
 あちゃー、とドロテアが額を抑えた。
「で、このヴァン。どうやら借金があったらしくて。すでに返済は終わってるらしいんですけど、今でもその会社に出入りしているとか」
「……良く調べたね」
 ユリアンが感心しながらラム肉の塩焼きを口に放り込む。
「後を付けてみたら、自警団の詰所につきまして。ちょっと聞き耳立ててたら色々と」
 あ、ソレ下さい、とマリルがスペアリブにかぶりつく。
「しかし、結局誰がコレ使ったんだろうなぁ?」
 ユリアンが革命債を取り出して、ひらりひらりと目の前で泳がせた。
「あれま、革命債かい? 久しぶりに見るねぇ! ヴァンのバカが使って以来だよ」
 ドロテアの注文した酒を持ってきたドワーフの女将があっけらかんとした口調で言い放った。
「……はぁっ!?」
「ちょ、おばさん、その話し詳しく!!」
 頬杖を付いていた劉は、ガクン、と顎を落とし、ユリアンはぽかんと女将を見つめ、ドロテアは酒を受け取りながら素っ頓狂な声を上げ、メリルは女将のエプロンを掴んだ。


「……誰だ、あの女」
「先日、アルムスターで助けてもらったハンターさんだよ。町で僕の事を聞いて尋ねてきてくれたんだ」
 ドロテアのカップを片付けながら、アルフォンスは嬉しそうに笑う。
「あの人も絵が分かる人みたいで、いろいろと話しを……」
「何しに来たか、言ってたか?」
 ヴァンは眉間にしわを寄せて、凶悪な顔つきを更に険しくして問う。
「いいや?」
「何処でお前の話を聞いて来たんだ?」
「ヴェルガーさんの所らしいけど……」
「っち!」
 ヴァンは大きく舌打ちをすると、買ってきた二人前の肉団子汁をアルフォンスに押しつけて家を飛び出した。
「ヴァン!?」
 慌ててアルフォンスも扉まで追ったが、既にヴァンの姿は夜の闇に消えていた。

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MVP一覧

  • 一人二役
    マリル(メリル)ka3294
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベka4126

重体一覧

参加者一覧

  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 一人二役
    マリル(メリル)(ka3294
    人間(紅)|16才|女性|疾影士
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人

  • スティード・バック(ka4930
    人間(紅)|38才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
スティード・バック(ka4930
人間(クリムゾンウェスト)|38才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/10/03 00:31:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/29 09:02:37
アイコン 辺境伯に質問
ドロテア・フレーベ(ka4126
人間(クリムゾンウェスト)|25才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/10/03 03:22:15