ブラストエッジ鉱山攻略戦:復讐編2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/12 19:00
完成日
2015/10/20 04:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ブラストエッジ鉱山。かつてコボルドの巣窟であったその場所は、数多の死に包まれていた。
「なんて事……このままじゃブラストエッジのコボルドは全滅よ」
 ベノの領域に入ったあたりからコボルドの迎撃は激しさを増していた。
 ゾエルの影響を受けた彼等は既に命を失い、動く死体や亡霊となって見境なくヒトへの憎しみを爆発させる。
 また一体、同胞を倒してラシュラ・ベノは苦しげに目を瞑る。イサ・ジャは怒りを拳にのせ、壁にぶつける。
「これでは何もかもが終わってしまうではないか! 王は乱心なされたのか……!」
「元よりあの男の目的はこれだ。一族を巻き込んでの盛大な心中……これが王の所業とは笑わせる」
 それはコボルドの言語を操るホロンの呟き。ラシュラもイサもその言葉には同意せざるを得なかった。
「やはり敵の数が多いな……。シュシュ君達は最深部のゾエルを止めるんだ。ここは僕達で引き受ける」
 カルガナ・ブアナはそう言って弓矢を構え、ゾンビの頭部を素早く射抜いた。
 今回同行してきたのはカルガナ率いる精鋭部隊。敵が多少強化されていようが勝負のしようはある。
「デスクワークが続いたけれど僕も兵長だ。戦場で相応の武勲を立てている。心配は要らないよ」
 穏やかに笑みを作りカルガナは振り返る。
「……最初僕は、君達の事を信じてはいなかった。コボルドとヒトの和解なんてできっこないと思っていたからね。だけど君達は今、そのコボルドと共にいる」
 開拓村に保護されているイヲ族達は、今は帝国兵と共に鉱山から出ようとするコボルドと戦闘を繰り広げている。
 ゾエル神の状態に変化があったのか、今は鉱山の外にまで精神汚染の影響が出ていない事がわかったからだ。
 しかしそれもいつまで続くかはわからない。せっかくの共闘も、ゾエル神を倒せなければ全てが無意味になる。
「僕は辺境の出だ。成り上がるためならなんでもやった汚い男さ。けれど君達を見ていたら、自分の中に眠る若さを思い出さずには居られなかったようだ」
 肩を竦め、カルガナは弓を構える。
「さあ行くんだ! 自分の願いは、自分の力で叶えるんだよ!」
 背後から聞こえる銃声と剣戟の音へ振り返らず、ハンター達は地下への螺旋階段を駆け下りる……。

 ブラストエッジの聖域。ゾエルの神殿。
 そこは文字通りの神殿。コボルドが作ったとは思えないほど精巧な作りの“神殿”建造物が傾くようにして埋まっていた。
 遺跡と呼ぶ他ないそんな光景の先、巨大な竪穴から黒い光が吹き上がっている。
「……マハ王!」
 イサの叫びに、竪穴の前に立つ小さな老コボルドがゆっくりと振り返った。
 精魂尽き果てた、もうとうに死んでしまったような淀んだ瞳で、息も絶え絶えにマハ王は侵入者を見やる。
「来たか……愚かなる息子よ」
「父上……何故なのですか?」
「わかっておろう? ヒトとコボルドは共存出来ぬ。そしてコボルドは……ヒトには勝てぬと」
 その言葉に我慢ならなかったのはイサだ。
「我らが王が!! 弱腰な言葉を吐くなどッ!!」
「ジャ族の長よ。貴様の蛮勇では計り知れぬだろうよ。ヒトの持つ、“闇”と“業”は……」
 竪穴から吹き上がる黒いオーラはまるで意志を持つかのようにうねり、ハンター達へ降り注ぐ。
「貴様らにも見せてやろう。我らが三百年に及ぶ絶望を――」
 野蛮なコボルドやゴブリン、ジャイアンとやエルフ、ドワーフ達の暮らしが平穏であったかといえば、そうではなかっただろう。だが、それはそれでバランスは取れていたのだ。
 ある日突然、一人の騎士が多数の軍勢を率いてこの地に進軍するまでは……。
 ヒトとそれ以外の、小競り合いではない戦争……いや、一方的な殺戮。光の力を手に、騎士はあらゆる命を抹殺した。
 来る日も来る日も繰り返される撤退戦の中、マハの族長であったゾエルは必死に抵抗を試みた。
 しかし仲間は一人また一人と倒れ、彼もまた最後には力尽きた。だがそれだけでは終わらなかったのだ。
 ヒトは何百年もの間、コボルドを虐げ続けた。
 限定された生活。抑圧された繁栄。狭く深い闇の中で、長年に渡り積み重ねられた憎悪の日々……。
 闇の光に目が眩んでいるその一瞬の間、ハンター達は垣間見た。コボルドの怒りと悲しみを。
「憎しみを忘れてやり直したい……共存したい。それは加害者の勝手な言い分に過ぎない」
「だが、手を取り合う事を忘れれば、種族としての存続すら失うのです!」
「それで良いではないか。この“世界”が……“精霊”がそれをよしとしているのだ。愚かなる息子よ、気づくがよい。我らはとうに、“光”に見放された存在なのだと……」
 竪穴から吹き上がった黒い光がマハ王を包み込むと、その体が青く燃え上がっていく。
 炎は肉を焦がし、骨を燃やし、小さなその心臓さえも焼き尽くし、黒い光と一つになる。
『全ては星の意志。我らの滅びも、ヒトの悪辣さえも運命である。“血の宿業”が、それを望んでいるのだ』
 それは頭の中に直接響き、語りかけてくる。
 黒い光が爆ぜると、そこには一振りの聖剣が佇んでいた。
 黒くただれた影はそれを右手で掴み、吼える。反響する雄叫びは途方も無い怒りと哀しみに満ち溢れていた。
『神に愛され祝福された者達よ。光の加護を得し戦士達よ。貴様らはまた己の正義の名の下に、守護者としての役割を果たすのだろう。それは正しい。しかし、余はその運命に反逆する』
 圧倒的な威圧感にシュシュは思わず息を呑む。自分の足が震えている事に気づいたのは、数秒遅れての事。
 目の前のソレは明らかに怪物。比喩ではない。三百年かけて鋳造された闇の使徒。“邪神”――ゾエル・マハなのだから。
「こんな歪虚……見たことないだよ。どれだけの憎しみが……怒りが……」
 震えるシュシュの前に出たのはホロンだ。小さなコボルドは小さな剣と盾で、巨大な怪物へ挑む。
「シュシュ……アレハ、眠ラセネバナラナイ。父ハモウ、既ニイナイ」
「ホロン……」
「ヒトノ友ヨ……我ニ力ヲ! 闇ノ運命カラ、我ラガ父祖ヲ解キ放ツ力ヲ!!」
 ホロンの叫び声に頷き、武器を構えるハンター達。対してゾエル・マハは手にした大剣を胸の前に掲げる。
 その名は聖剣カルマヘトン。“絶滅”の呪いを帯びた、人殺しの剣。
 嘗ての英雄が両手で操ったそれを、巨躯の邪神は片手で軽々と振るう。
『英雄ゾエル・マハよ……我に力を! 運命を捻じ伏せ、“神”を屠る力をッ!』
 黒い獣が吼えると、竪穴から次々に黒い影が飛び出してくる。
 積み重なった怨嗟の具現。死の軍勢を引き連れ、ゾエル・マハは歩み出す。
「あんなのをここから出しちゃいけない……これ以上もう、誰も死なせたりしない!」
 涙を拭いて、少女は顔をあげた。
「歴史は繰り返す為にあるんじゃない! 積み重ねて――その先にある未来を掴む為にあるんだッ!!」

リプレイ本文

●それでも明日を
「――よく吼えたぞ、シュシュ・アルミラ。三百年の怨念はここで乗り越えるぞ。これからの三百年の為にも」
 シュシュの肩を叩き、レイス(ka1541) は力強く頷く。
「長ならどんな苦渋を舐めてでも生き残る道を模索すべきだろうに……ただの心中をいい事みたいに言い張るんじゃないよ!」
「これでマハ王の目的が達成されたら、ヒトとコボルドは余計憎み合うことになるんだろうね。最悪、命が全部絶えて、歪虚の思う壺になるかも」
 オキクルミ(ka1947)やイェルバート(ka1772)の言う通り、マハ王の思惑はブラストエッジの命を全て焼き尽くそうとしている。
 それは確かに復讐なのかもしれないし、絶望なのかもしれない。その思いを汲む事はできる。だが、認める事は出来そうもない。
「お前達が復讐を望むのは当然っす! でも子孫に遺すのが憎悪と絶望の果ての人間との相打ちでいいんすか。お前達が戦ったのは怨念返しの為だけでなく家族や仲間を護る為でもあった筈っす。その子孫を殺し尽してどうするっす!」
 この鉱山に来る前に深い傷を負ってしまった神楽(ka2032)だが、大声を出すくらいはまだ出来る。
「憎悪と絶望を忘れろとは言わねーっす。でも子孫を護る為に乗り越えろっす!」
『我らは既に信じ、行動し続けてきたのだ。しかし“呪い”は蓄積し、哀しみが途絶える事はなかった。膨れ上がった怒りは、最早誰にも止められぬ……これが運命』
「マハ王……いや、ゾエルだったか? あんた勘違いしてるぜ。己が信じるものを信じ続けた先、折れない信念こそが“光”なんだ。運命……? 笑わせんじゃねぇ! 信じる事をやめたあんたが口にしていい言葉じゃないぜ!」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が腕を振るい叫ぶと、近衛 惣助(ka0510)は優しくコボルド達を見渡す。
「俺達は事実、これまでホロンと共にやってきたんだ。運命は変えられる。人とコボルドの未来、亡霊如きに奪わせはしない」
「ヒトを諦めていたホロンが、もう一度僕らを友達だって言ってくれた。今も帝国兵とイヲ族が一緒に戦ってくれてる。僕はそれに応えたい……ただ、それだけだから」
 ホロンを横目に微笑むイェルバート。
『成程……貴様らは確かに我らがこれまで見てきたヒトとは異なるようだ。戦いの歴史、憎しみの連鎖……そのビジョンを見て尚、そのような戯言を口にする』
 ゾエルは竪穴から出現したコボルド型の亡霊達に指示するように、剣をハンター達へ向ける。
『長い歴史の中には、確かに貴様らのような者達がいた。ヒトという種の限界を超え、未来を切り開く勇者達……。だが我は知っている。彼等がどのような末路を辿ったのか。英雄に、勇者に出来る事など何もないのだ』
 邪神の言葉には激しさはなく、むしろヒトに対する哀れみすら感じられた。
 目の前の怪物は確かにヒトの宿敵ではあるが、こうしていると言葉も十分に通じる。決して分かり合えない相手ではないと感じる事も出来る。
 だがそれは、この怪物にまだ理性が残っているからだ。邪神という存在としてのゾエル神は、決して存在を了承できない殺人鬼なのだから。
「えー……本当にアレと闘うの? っていうかアレって何? コボルドじゃないよね?」
 冷や汗を流しながら頬を掻くソフィア・フォーサイス(ka5463)。何やら色々と規格外な所に飛び込んでしまった。
「なんかお姉ちゃんに聞いてたのと全然違うんだけど……」
「まあ、ここまで来てしまったのだし、腹をくくって行くしかないわね」
 つまり“諦めろ”という趣旨のフェリア(ka2870)の慰めにソフィアはがくりと肩を落とす。
『来るが良い、光の使徒よ。貴様らの背負う宿業と我らが長い因果に判決を下す時が来たのだ』
 ゾエル神がこの鉱山から出て行けば、最早開拓村やブラストエッジだけの問題ではない。
 帝国領内に君臨したこの怪物は、クリムゾンウェスト人を手当たり次第に殺戮し尽くすまで止まる事はないだろう。
『生か死か……我は問う。光の守護者よ……貴様らの行いが、真に闇に届き得るのかを――!』


●神殺し
 まっすぐ、ゾエルに向かって駆け出したのはレイスとエヴァンスだ。
 二人の接近に呼応し、ゾエルもまた剣を片手に大地を滑るように移動を開始する。
「まずは時間を稼ぐぞ。俺達では霊体に有効な打撃は与えられん」
「わーってるよ! 狙うなら聖剣だ!」
 一度閉じた瞳を琥珀色に輝かせ、エヴァンスは大剣を振るう。
 振り下ろされたゾエルの聖剣と激突すると、正と負という区分だけでは説明のつかない、異様なマテリアルの光が迸る。
 激しい衝撃に弾かれたエヴァンスが大地に剣を突き刺し減速するが、まだ剣に妙な光が纏わり付いている。
「なんだこいつは……?」
『引き合う二つの光……。嘗て殺し、そして殺された者達の怒りと願い。貴様らはこの聖剣で屠るに相応しい敵という事か』
 圧倒的な威圧感を放つゾエルに二人は本能的な恐怖を感じていた。
 それは何百年と積み重ねられてきたヒトへの敵意。だが、それだけではないようにも感じられる。
「俺達の武器が……精霊の力が……あの剣と引き合っているのか?」
 レイスがそう呟くと同時、左右から分体達が襲いかかる。そこへイェルバートが放ったデルタレイがそれぞれを貫き、フェリアのファイアーボールが爆ぜた。
「まずは分体を仕留めないとね! こっちの事はボクらに任せて!」
 巨大な鋏である金蛟剪にマテリアル帯びさせ、霊体を真っ二つに切断するオキクルミ。
 霊体には魔法攻撃しか通用しない。故に今回は魔法攻撃に特化した装備で出向いてきているのだ。
「亡霊型でも機導術なら通用する……! ラシュラさんも魔法で攻撃をお願い!」
「わかってるわ! あたしに出来るのは元よりそれくらいだしね!」
 イェルバートはラシュラに呼びかけ、共に魔法を放つ。ラシュラの扱う魔法は、霊体にも有効だ。
「神楽は負傷してるんだ、俺の前に出るなよ!」
 惣助は銃を構え、ゾエル神へ照準を合わせる。
「霊体部は無理でも、実体のある聖剣なら!」
 放たれた弾丸からゾエルは剣を逃がすようにずらす。銃弾は霊体に当たる分には問題がないので、通常の剣で浮ける動きとは真逆になるのだ。
 だがそうして剣をずらした所へソフィアが駆け寄り、すれ違い様に太刀を打ち込む。
「うわっ、凄い手応え……!? 何を斬ってるの、私……」
 聖剣そのものは既に膨大な年数経過で劣化しているのだが、得体の知れない力が纏わり付き強度を支えているようだった。
「どんどん出てくるよ……手を止めないで!」
 一体の分体を撃破した所だが、既に新たな分体が竪穴から這い出そうとしている。
 ゾエルは剣に纏ったエネルギーを振り払うように放出。その衝撃派がハンター達を吹き飛ばす。
『どうした人間。怨念を止めて見せろ。覚めぬ悪夢を終わらせるのではなかったのか?』
「言われるまでもねぇ!」
「――行くぞ、ゾエル・マハ。その妄執、ここで祓う!」
「あー、これの相手は私じゃまだ辛いな―……って、何? 私も入ってるの?」
 ソフィアの反応など無視して襲いかかるゾエルにレイスとエヴァンスは果敢に応戦する。
「行くだよホロン!」
「我ガ父ノ不始末ハ、我ガ請ケ負ウ……!」
 シュシュとホロンも負けじとゾエル神へ突撃していく。
 といっても、この状況では殺されないように耐えるのが精一杯だ。仲間の状況が整うまで時間を稼ぐ事こそ、彼等の役割であった。

「とりあえず、そこから出ないようにね」
 フェリアは後衛の惣助と神楽を庇うようにアースウォールで壁を作る。
 紅人であるイェルバートへ狙いを定めると一斉に衝撃波を放つが、イサはその攻撃をハルバードで打ち払う。
「イサさん……!」
「小僧が狙われるのは承知の上だ! 気にせずぶちかませ!」
 イサの話すコボルドの言葉はイェルバートにはわからなかったが、彼の気持ちは理解できた。
(そうだ……言葉が通じなくたって、伝わる事はあるんだ……!)
 橙色に輝く瞳の前に光のターゲットサークルを浮かべ、接近する分体を纏めてロックする。
「集まってくれるのなら、逆に狙いやすい!」
 放たれた三つの光が走る分体へそれぞれ吸い込まれていく。
 少しでも弱っていれば、オキクルミの鋏で敵は一撃だ。イェルバート狙いで注意も散漫なのだから、側面から貫ける。
「霊闘士はその気になれば亡霊退治もお手の物ってね!」
 ラシュラが黒い魔法の波動を放ち、フェリアがウォーターシュートで攻撃すると、また一体分体が減る。
「次から次へと沸いてくるけど、確実に減っているわ」
 そう、既に穴からは次の分体が出現している。だが出現よりも敵を撃破するペースの方が速いのだ。

『どうした、今代の守護者の力はその程度か?』
 ゾエルの剣撃は力任せではあるが、怪物らしくない理性が感じられる。
 その立ち振る舞いは苛烈な騎士のようだ。素早く繰り出される聖剣の一撃は、まともに受ければとても耐え切れないだろう。
「なんて馬鹿力だ……いや、これは俺達クリムゾンウェスト人への殺意か……」
 叩きつけられる聖剣の一撃はただの剣戟ではない。接触の瞬間負のマテリアルが炸裂し、刃を交えるだけでエヴァンスの体力を削り取っていくかのようだ。
 だがエヴァンスは果てなき闘争への欲求で体力を回復し、これに耐えていた。
「精霊の力? 光の加護だと? そんなものは関係ない。――これは俺達自身の力だ!」
『果たして本当にそうか? 貴様らは何故覚醒者となった? なんの為に戦い続けるのだ……?』
 問いかける言葉にレイスは眉を潜める。
 確かに気にはなっていた。これまでの戦いの中で刃を交えてきた敵の存在と、それを生み出してきた世界の歴史。
 彼等の言う光と闇とは。その一つの答えが目の前にいるゾエル・マハではないのか。
『正義の名の下に力を振るう貴様らは、その力が自らの意志だと本当に言えるのか?』
 聖剣の一撃を回避し、レイスは反撃の槍を打ち込む。
 交わる光が伝えるのは怒りよりもずっと強い哀しみの感情だ。それは決してコボルドだけのものではない。
 ヒトの――恐らく、この地で繰り広げられた戦いと、これまでに犠牲になった者達の嘆きもまた、聖剣には宿っているのだ。
「俺は……守護者なんて大層なもんになったつもりはねぇ。ただの傭兵が、こいつらの進む道を手助けしてやろうというだけの話さ」
 傷を癒やし、エヴァンスは軽く肩を回す。
「自分が本当に正しいかどうかなんてわかるかよ。だけどな、俺は少なくとも自分を信じ続けるぜ。それが信念ってもんだろうが」
 その言葉に聖剣を逆手に構えると、ゾエルは自らの胸を刃で貫いた。
 剣を受けた霊体はその形を変えていく。二足から四足へ。巨大な狼のような形を作り、咆哮する。
『数多の英雄が、貴様のように夢を見た。果てなく続く地獄を歩き続けた。しかし思い知れ人間。その道が貴様を慰める事はないのだと……』
 獣は瞳を輝かせ、大地を蹴る。
 霊体に重量は存在しない。超常的な加速、弾丸のように早く巨大な衝撃の固まりがハンター達を吹き飛ばした。
 エヴァンスもソフィアもその一撃に跳ね上げられる。レイスだけが唯一、自らの意志でかわすことができた。
「……ぐっ! 最早避ける避けないという問題では無いぞ……!」
 予備動作から勘で跳び退いただけだ。目で追っていたら避けられなかった。
 光の残像は大地を突き抜け、壁をジグザグに駆け上がると、天井から再びハンター達へ襲いかかる。
 爆発する光にきりもみ回転しつつエヴァンスは身体を大地に打ち付ける。ソフィアも何が起きたのかわからない様子だ。
「おい……なんだそりゃ。早すぎんぞ……」
「お、お姉ちゃんのうそつき……」
「呆けてる場合か! 立て!」
 レイスの声に顔を上げた二人が見たのは、大きく開けた口の前に負のマテリアルを収束させたゾエルの姿であった。
 咄嗟に飛び起きて退避する二人を黒い火炎が襲う。そこへ惣助がマテリアルを込めた銃撃を行い、僅かに方向を逸らした。
 更に二人を庇うように身構えたシュシュとホロンが衝撃の余波から守り、事なきを得る。
「悪ィ、助かった!」
「うう、き、きつい……。ある意味コボルドっぽくなったけど、コボルドっていうかただの狼……」
 エヴァンスはまだ余力を残しているが、ソフィアは先の一撃でかなり体力を削られてしまっていた。
 と、そこへフェリアの放ったウォーターシュートが飛来する。ゾエルは巨大な身体で素早く背後ヘ跳んでかわすが、距離を取る事はできた。
「分体は片付けたわ。またすぐ出現するけど、今はこっちに集中できる」
「一気に仕掛けるよ!」
 オキクルミが駆け寄り霊魔撃で攻撃すると、明らかにゾエルは警戒する動きを見せた。
 物理攻撃しか出来ないレイス、エヴァンス、ソフィアの三人だけでは、ゾエルの動きを止める事もできなかった。
 しかし魔法攻撃が加わるのなら、何倍も効果的に攻撃することが出来るだろう。
 オキクルミの鋏をかわしつつ人型に変形したゾエルは聖剣で攻撃を受ける事を選ぶ。そこへ惣助がすかさず銃撃を行った。
 冷気を帯びた弾丸は聖剣を凍結させる。そこへイェルバートとフェリアの魔法が霊体に命中すると、霊体を構成する光が僅かに霧散、そして身体が揺らめいた。
「動きが鈍った……これなら!」
 一気に距離を詰め、ソフィアとエヴァンスが左右から剣戟を打ち込むと、聖剣を構えた状態でゾエルは背後へ仰け反った。
「行けるぜ、魔法攻撃と交互に打ち込めば奴さんの守りを崩せる!」
 勝負はまだこれからだと言わんばかりに構え直すハンター達。
 ゾエルはそんなハンター達を眺め、静かに笑ったように見えた。


●ヒトとケモノへ贈る歌
 フェリアが放つ火球の爆発を跳躍して回避すると、ゾエルは空中を縦回転しつつ聖剣を振り下ろす。
 その一撃をエヴァンスは真正面から受け止める。テンペストの風と聖剣の負の衝撃に大きく後退るが、そこへ左右からレイスとオキクルミが迫る。
「合わせるよレイス君! 祖霊さま、ゴー!」
 物魔双方からの同時攻撃。オキクルミを聖剣で受ける事を選ぶが、身体を突き抜けたレイスの槍は背後から結局聖剣に届いてしまう。
「ふん。鎧で霊体を守るべきだったのではないか?」
 ゾエルは聖剣を宙に放り、自らも空中に跳躍するとそこで剣を合体、獣の形を取りながら着地し、レイスとオキクルミを吹き飛ばす。
「ぷはっ、暴れん坊だね!」
「だが、この様子ならば……皆、例の作戦、いけるか!?」
「アレか……! まあ、やってやれない事もないだろ。俺は乗るぜ!」
 レイスの呼びかけに応えるエヴァンス。だがそこへ出現したゾエルの分体が襲いかかる。
「あっちの小さい方の相手は私がしておくよ! 千人斬りの手始めってことで!」
 ソフィアはそう言って分体へ斬りかかるが、刃は霊体を貫通し、その影を歪めただけだ。
 しかもクリムゾンウェスト人がお好みなのか、イェルバートへ突っ込んでいく。
「なんで死なないの!? こらー! 無視すんなー!!」
 イェルバートへ近づく分体はラシュラの魔法が撃ち落とした。
「分体の足止めはやっておくわ。それよりぼうやはゾエルの方へ向かいなさい!」
「でも、ラシュラさん達だけじゃ……」
「このくらいの雑魚にやられるような族長じゃないわよ」
 ウィンクするラシュラ。イサは遮二無二ハルバードを振るって霊体の注意をひこうとしているが、ソフィアと同じくあまりうまく行っていない。
 ので、二人共狙われているフェリアへの攻撃を防ぐ事に注力するように切り替えたようだ。
「……なんかあの二人、似てるわね」
「作戦が上手く行ったら戻ります……それまでお願いします!」
 軽く手を上げ魔法を詠唱するラシュラに背を向け、イェルバートは駆け出した。
 ゾエル狼化したゾエルは機動力に優れ、近接攻撃では上手く捉えられない。魔法の射手が必要であった。
 壁を疾走するゾエルへ狙いを定めデルタレイを放つイェルバート。
 光はゾエルを追走するも捉えきれない。聖剣は高速で縦回転し、大地を吹き飛ばしながら霊体を纏いイェルバートへ突っ込んでくる。
「やらせないよ!」
 そこへ割り込んだオキクルミとエヴァンスが刃を重ねる。回転する聖剣が火花を散らし、二人を押しのけようとする。
「……ぐっ、ぬう……! やれ、イェルバート!!」
 エヴァンスが叫ぶと同時、イェルバートは電撃を放った。
 それはゾエルの攻撃を中断させ、大きく仰け反らせる。霊体への攻撃として、そしてゾエルへの攻撃属性として、最適解だったのだ。
 人と獣、双方がないまぜになったような悲鳴を上げながら動きを止めるゾエルが人型へ戻っていく。
「ここだ……行けっ!!」
 惣助は敵の動きが止まった瞬間、ありったけのマテリアルを込めた一撃を聖剣に打ち込んだ。
 聖剣への効果は恐らく霊体全体に付与されるのだろう。凍結弾の一撃は明らかに霊体を鈍らせ、その隙を二人は見逃さなかった。
 雄叫びを上げながら距離を詰めたエヴァンスは下段から刃を振り上げ、聖剣を打ち上げる。そしてオキクルミは鋏を開き、その聖剣へと伸びている腕へ繰り出した。
「その腕貰い受けるよ! 未来を裁ち開け、虹の龍!」
 魔法の力を帯びた鋏はゾエルの腕を切断。コントロールを失った聖剣は空を舞い、大地へ斜めに突き刺さった。
 そこへレイスが駆けつけ、柄を掴むと同時に取り出したのは四神護符であった。
 嘗て東方での戦いで作られたその護符は負のマテリアルを押さえ込む力があるという。実際、これでイヲ族の暴走を止める事ができた。
「かつて人の為に振るわれた剣よ。その想い、矜持が一片だけでも残っているのならこの声に応えてくれ! 今お前に纏わりつくソレが外に出れば、無辜の人々が犠牲になる! それを止める為に、今一度その力をここに示して欲しい!」
 ――それは端的に言えば、祈りであった。
 人々を救う為に作られた聖剣は今や負の力を煮え滾らせる殺意の温床だ。握り締めたレイスの掌は焼け、想像を絶する激痛が全身を駆け巡る。
『貴様……一体何を……?』
 腕を失ったゾエルは目の前の出来事を理解できない様子であった。
 当然である。亡霊の、邪神の核たる神器に対し、あろうことか呼びかけようとしている人間がいるのだから。
「行くぞ、神楽!」
「すまねぇっす、近衛さん……!」
 銃を担いだ惣助は側に居た神楽に肩を貸し、走り出す。
 激しい憎悪の記憶はレイス一人で受け止められるようなものではない。まっとうな人間であればマハ王がそうであったように、亡霊に飲み込まれてしまうだろう。
 だがレイスはそれになんとか堪えていた。数多の悪意と対峙する彼もまた、無数の善意と共にあったのだ。
「マテリアルの光は遠く離れていても繋がっている……それはきっと、時間さえも超えられる筈だ!」
「一人でカッコつけすぎだぜ、レイス!」
「そうだよ! ボクらもいるんだからね!」
 駆けつけたエヴァンスが、オキクルミが、レイスに手を重ねる。
 二人も護符を貼り付け、そして願う。この聖剣に本来あるべき役割を果たせと。
『無駄な事を……いくら願った所で何も変わる事はない!』
「うるせえ! 星の意思だの血の宿業だの……そんな“小さい”もんに負けるほどあんたらの信念は、意思は弱かったのか!? そうじゃねぇって事くらい、俺にだってわかるんだよ!」
「英雄ゾエル・マハはコボルドの為に、最後まで戦い抜いた。聖剣はヒトの為に振るわれた……」
 イェルバートも二人に遅れ、聖剣へ駆けつけた。
「……どっちも最初は何かを、誰かを護る為の存在だった筈なのに、今じゃこんなに禍々しくて、あらゆるモノを傷付けようとしてる。でも、それは違うんだ。そんなのは、皆の本当の願いじゃない……!」
 イェルバートが差し伸べた手を取りシュシュが、そしてシュシュが差し伸べた手を取り、神楽が聖剣へ辿り着く。
「神楽!」
「お前が人の為に戦ったのならとっとと目覚めて助けろっす! あ、今はお前の時代と違って見ての通りコボルト等の亜人も人っすよ!」
 傷ついた身体にゾエルの怨念は強すぎる。シュシュは神楽の手を握り、その身体を抱き留める。
「辛い事もいっぱいあっただよ。哀しい事もあった。諦めそうになる事もあった。それでもここまでやってこられたのは、ヒトの力でも、コボルドの力でもない。生きるっていう事は。全ての命はね。誰かと手を繋ぐ為にあるんだよ! それが本当の“運命”なんだ!!」
「……人とコボルトの英雄よ! 英雄の自覚があるなら子孫を祟るのではなく護れっす!」
 聖剣の様子がおかしい事に気づいたのは、その直後であった。
 理由に関しては幾つかあげられるだろう。四神護符の存在、或いは霊と対話する力を持つ霊闘士の存在……。
 しかし、そういう事ではないのだ。これはきっと、もっと単純な出来事。
 “運命”、あるいは“奇跡”と呼ばれるような、とても当たり前の事だったのかもしれない。

 ――かつて、聖剣の担い手が見たモノを見た。
 果てしなく続く戦いの世界。自分とは異なるモノを排除し、奪い取る戦争。
 しかしその中で英雄は確かに見たのだ。とあるコボルドの英雄を。
 二人の戦士は戦った。何度も何度も刃を交えた。そうする中で、二人は互いの存在を確かめていった。
 言葉の通じない二人の英雄は、しかし互いの正義を受け入れていた。
 もしも戦場において出会ったのでなければ、或いは友となれたかもしれない。
 それでも闘うしかなかった二人は、いよいよ最期のその時まで、互いの友情を口にする事はなかった。
 事切れた獣の英雄を貫いた聖剣に、人の英雄の涙が伝っても、二人の願いは誰にも知られる事はなかった――。

「……あれ? 分体が消えていく……?」
 肩で息をするソフィアの目の前で分体が塵と帰ると、異常事態に気づく。
「どういう事だ……?」
 首を傾げるイサ。ラシュラは驚いたように、しかし冷静に腕を組み。
「成程ね……まあ理屈としてはわかるけど、普通やろうと考えるかしら?」
『どういう事だ……我が霊体の力が弱まっていく……!?』
 自らの身体の異変に戸惑うゾエルの視線の先、ハンター達が抜き放った聖剣が黄金の光を放つ。
『ナイトハルト……お前なのか……?』
「その大剣に込められた祈り……そいつを知っているか、ゾエル!」
「恨みや絶望はボク達にはわからない。だけど世界は今変わろうとしてる。少しでも光に向かって前進している限り! 生きてる者達の魂が! 真に敗北する事など無いんだ!」
 エヴァンスが、オキクルミが叫ぶ。聖剣は輝きを増し、対象的にゾエルの光は弱まっていく。
 怪物は怒り狂い、或いは泣き叫ぶように吼える。獣はその全身から怨念を迸らせ、無数の触手となってハンター達へ降りかかる。
「哀しみが哀しみを創り出す負の連鎖は、ここで断つ!」
 イェルバートのデルタレイが、オキクルミの放ったファミリアアタックが触手を打ち払う。
 更にフェリアの放ったファイアボールが空中で爆発し、触手を吹き飛ばす。
「斬っても斬っても死なない相手とか全然やり甲斐ないし……さっさと終わらせてよね!」
「俺達に出来る事は、貴様らの盾になる事くらいだが……!」
 更に触手をソフィアが、そしてイサが切り払う。二人は何か言いたげに顔を見合わせたが、直ぐに触手迎撃に戻る。
「お前も騎士とその剣だったのなら、いつまでもヘタレているんじゃない! 護りたい人がいるんだ。護りたい世界があるんだ。その為に、何でもいいから力を貸せよ――バカ剣!!」
 レイスの雄叫びと共にハンター達は聖剣を掲げ、それを思い切り振り下ろす。
 眩い光が爆ぜる瞬間、耳を劈くような轟音が響き渡り、その衝撃にハンター達の身体が吹き飛ばされる。
 だが同時に放たれた光の一撃はゾエルを縦に両断し、その霊体に亀裂を走らせる。
『怨念が……消えていく……。この地に宿る呪いが……まさか……このような事が……!』
 力を失った聖剣がただのガラクタとなって地へ転がる。もうこの剣に歪虚の核としての役割はない。つまり……。
「ゾエル神が消えていく……」
 呟きながら惣助は反動で倒れたハンター達を抱き起こす。
『見事であった。ヒトとコボルドを結ぶ者の答え、確かに見届けさせてもらった』
「父上……」
『この地もやっと解き放たれる。怨念は余が共に連れて逝こう。全てが終わったこの空白の地は、おぬしらの歴史で埋めるがよい……』
 怪物はそっと手を差し伸べる。その手をホロンが取る前に、幻影は姿を消していく。
「父上ーーーーッ!!」
 怨念湧き上がる竪穴から、眩い光が溢れだす。
 全ての哀しみをかき消すような温かい光の中へ、やがてハンター達も飲み込まれて行った……。


●空白の未来へ
「お姉ちゃんの嘘つき! コボルドじゃないじゃん! 死にかけたし!! 余はケーキを! ケーキを所望する!!」
 ブラストエッジに差し込む朝日の中、ソフィアは喚くが。
「田舎過ぎて連絡する手段がなーい! もーっ!」
 しかも結局分体に止めはさせなかったので、千人斬りカウントも回ってない気がする。踏んだり蹴ったりである。
「君達のおかげで歪虚は消えた。これからはコボルドとも本当の意味で友好関係を築けるだろう」
 カルガナの言葉にハンター達は顔を見合わせ喜びを分かち合う。
「あたし達はホロンを新しいマハ王に据えて、もう一度ここでやり直すつもりよ」
「そうか。ホロンなら適任だろう。しかし王となるとこれまでのように気軽には会えなくなってしまうな」
 ラシュラの報告に惣助は複雑そうな表情を浮かべる。
「暫くは一族の立て直しで忙しいだろうが、また会いに来るよ。そしたら共に冒険しよう。お前達とならきっと楽しい旅になる」
「感謝スル、ソウスケ。イツデモ来テホシイ。貴殿ラハ、永久ナル恩人」
「何かあったらまた呼んでね。きっとすぐ駆けつけるから」
 イェルバートの笑顔にホロンは深く頭を下げた。
「鉱山と聖剣は浄化の儀式で清めるんすよ。それと、今回はコボルドの助けがなければ無理だったんだし、褒美にコボルドを帝国臣民にして貰えないっすかね?」
「それは少し難しい話だろうね。ただ、ブラストエッジを亜人特区として申請し、彼等と和平協定を結ぼうと考えている。エルフハイムという前例もあるし、これなら恐らく通るだろう。その上で、マテリアル鉱石のやり取り等で共存できればどうかな」
 カルガナの言葉にシュシュは嬉しそうにホロンの手を取る。
「勿論、争いの禍根の精算には時間がかかるだろう。コボルドに命を奪われた人もいるしね。だけどそれはお互い様だ。憎しみの連鎖を食い止めるのは、大人の仕事だからね」
「カルガナ……ありがとうだよ!」
「礼ならハンターに言うんだね。僕を動かしたのも、彼等の熱意だ」
 カルガナの言葉に振り返り、シュシュは目尻に涙を浮かべ。
「みんな……これまで本当に、本当にありがとう! 皆の努力は絶対に無駄にしない! きっとこの平和を守って見せるから!」
 頷き、それぞれシュシュに声をかけるハンター達。
 こうして長らく続いたブラストエッジの戦いは終結。この地に新たな歴史が刻まれる事となった。

 数日後、マハ王に即位したホロンと帝国軍の代表としてのホロンによる和平協定が結ばれた。
 二人は二つに分かたれた聖剣カルマヘトンをそれぞれ掲げ、これを和平の証とした。
 ハンター達が配った護符はコボルドの中で祭器とされ、今後ありがたがられる事になるのだが、そんな未来を東方の陰陽寮は想定もしていなかっただろう。
 人間嫌いのイサ・ジャだが、ホロンが王に相応しいか判断するまでは残るといい、ラシュラはホロンの補佐役についた。
 人間と親しくなったイヲの民は全員は鉱山に戻らず、一部は農作業などで人間と協力して暮らしているという。
「神楽!」
 全てを見届けた神楽が去っていく背中へ、シュシュは声をかけた。
「これまでありがとう。色々意地悪な事も言われたけど、神楽が支えてくれたからここまでこられたよ」
「そんなんじゃねっすよ。俺みたいな小悪党のやることに一々感謝してたらキリねっす」
「そんな事ないよ。確かに素直じゃないけど、神楽はいい奴だよ」
 ポケットに手を入れたまま振り返り、神楽はふっと笑う。
「……ま、和解は成立より維持のが難しいっす。いつまで続くか見ものっすね」
「最後までそういう事言う~……」
「けけけ……ま、暇な時は手伝ってやるっす。せいぜい苦労しろっす」
 手を振りながら去っていく神楽をシュシュは苦笑を浮かべて見送る。
 背中を向け、シュシュも歩き出す。
 ここで終わりではない。ここで得られた功績を糧に、夢に向かって邁進しなければならない。
 意地汚く足掻いて、夢を掴み取ろう。その為に必要なものは、この場所で学んだ筈だから。
「だからその時まで……さようなら」
 闇の潰えたブラストエッジに、穏やかな風が吹く。
 この地がコボルドと人間が共存する稀有な地として発展していくのは、もう少しだけ未来の物語である――。

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MVP一覧

  • 愛しい女性と共に
    レイスka1541
  • →Alchemist
    イェルバートka1772

重体一覧

参加者一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 無垢なる黒焔
    ソフィア・フォーサイス(ka5463
    人間(蒼)|15才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/12 09:06:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/09 08:18:05
アイコン 質問卓
レイス(ka1541
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/10/11 13:55:31