ゲスト
(ka0000)
【聖呪】地中要塞
マスター:坂上テンゼン
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/07 15:00
- 完成日
- 2015/11/13 03:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
思えば自分の一生は屈辱の連続だった。
理由といえば他より体が小さいと言うくらいしか思いつかないが、なぜか周りからは見下され、馬鹿にされていた。
『弱くて小さいずるいだけが取柄のソルデリ』――それが俺の評価だった。
だがあの時茨を手にし、力を得てからは世界が変わった。
自分が媚びへつらっていた奴らを痛めつけ、跪かせ、従えた。
王すらも自分の名前を呼び、頼りにした。
快感だった――。
しかし――たった一度の敗北で……
「やはりソルデリはソルデリか」などと嘲笑され、
同じ力を持った奴らには「所詮あいつは格下」などと蔑まれた。
いいや、そんなことはいい。慣れている!
それよりも俺を負かしたニンゲンどもが憎い!
自分より強い奴が妬ましい。だが同じ種族ならまだそれも容認できる!
潜在的な敵であるニンゲンどもに負けてはいけなかった。
力を得た以上負けてはならなかった。
俺は強くなったはずなんだ!
一度も自分を認めてやれないままに死ぬのだけはごめんだ!
そうだ……昔の俺は弱い自分を嫌いながらも受け入れていた。
だが今は違う!
『弱くて小さいずるいだけが取柄のソルデリ』のままで居たくはない!
憎い……憎い、ニンゲンども!
お前達に負けたせいで俺は…………
自分を信じられなくなりそうだ!!!
周囲の評価などもうどうでもよい。
俺は貴様らを滅ぼしたいのだ!
滅びろ、滅びろ、滅びろニンゲンどもォォォーーーーーー!!!
●
気づけば気を失っていた。
目に穿たれた穴と、そこから広がる、焼けるような痛み――。
元来内向的な性格だったが、敗北以来さらにそれが進んだ。
ふとした切欠で己の怒りと憎しみに溺れてしまう。
そういう時は決まって、先の戦いでハンターに撃たれた片目が痛みだし、酷い時は気を失ってしまうのだ。
それを嘲笑うものがいないことが幸いだった。
ここは地の底。
一切の光を遮断した地中の穴に独りでいる。
誰も居ない……何もない。
それだけのことがソルデリには慰めになった。
気分は沈んではいない。むしろ高揚している。
なぜなら、今自分が携わっている仕事は、彼の最重要課題である『人間の打倒』をなしえる手段であるからだ……。
「待っていろ……ニンゲンども」
ソルデリは独り呟く。
「この地中要塞が……貴様らの墓場になる……
ググ……グゲゲゲゲ……クゲガガガガガガガガガ!」
●
地の属性に親和性を持つソルデリの能力はつまるところ、『自分の周囲の地形を自在に変えられる』というものである。
これを利用して地中に潜ることを可能としたのだった。
変えた地形をそのままにすることもできた。長いトンネルを地中に掘ることも彼にはたやすい。
もっとも、広い空間を確保しようと思えば一人では無理だ。
彼に与えられた部下は少ない……今回の作戦では王自らが出陣するからだ。
そこでこの地方にもともといたコボルドを力で支配し、働かせることによって、地下に巨大なトンネルを掘った。
このトンネルは、古都アークエルスの地下まで伸びていた。
地中に出来た空洞に無数のコボルドがひしめきあっていた。
いずれも殺気だった目をしている。
かれらはソルデリによって土の壁で閉じ込められ、三日食物を与えられていなかった。
そして、まもなく解き放たれようとしていた。
突如としてアークエルスの路面に穴が穿たれた。
大地から、おぞましい獣の咆哮が幾重にも響いた。
そこから溢れるようにコボルドが湧き出してくる。
殺気立った目の野獣そのままのコボルドの群れが、目に付いた物を手当たり次第に破壊していく。
鼻を突く獣臭。咆哮。ぎらつく目の光。
城壁の外では亜人の軍勢との戦いが始まっていたが、地中からの攻撃に対応する術はなかった。
恐怖と欲望に駆られたコボルドどもの波が、アークエルスの町並みに広がっていく。
「飢え乾いたるものどもよ、収穫の時は来た!
奪え! 殺せ! 喰らえ!
禍で地を満たせッ!」
コボルドの駆け巡る中、狂ったように叫ぶソルデリの姿があった。
そのソルデリの元へと、馳せ参じるように集まってくる者たちがいる。
地中の穴から出てきたがコボルドではない。ゴブリンだった。
「準備は良いな……行くぞ!」
ソルデリがゴブリンたちに呼びかけると、かれらは一団となって駆けた。
コボルドが跋扈する街並みを、ゴブリンの一団が疾走する。
城門を開け、外で戦うロードの一団を、アークエルスの街中に導き入れるのが目的だった。
高らかに響く破滅の足音。
見よ、『大地の禍』が速やかにやって来る。
思えば自分の一生は屈辱の連続だった。
理由といえば他より体が小さいと言うくらいしか思いつかないが、なぜか周りからは見下され、馬鹿にされていた。
『弱くて小さいずるいだけが取柄のソルデリ』――それが俺の評価だった。
だがあの時茨を手にし、力を得てからは世界が変わった。
自分が媚びへつらっていた奴らを痛めつけ、跪かせ、従えた。
王すらも自分の名前を呼び、頼りにした。
快感だった――。
しかし――たった一度の敗北で……
「やはりソルデリはソルデリか」などと嘲笑され、
同じ力を持った奴らには「所詮あいつは格下」などと蔑まれた。
いいや、そんなことはいい。慣れている!
それよりも俺を負かしたニンゲンどもが憎い!
自分より強い奴が妬ましい。だが同じ種族ならまだそれも容認できる!
潜在的な敵であるニンゲンどもに負けてはいけなかった。
力を得た以上負けてはならなかった。
俺は強くなったはずなんだ!
一度も自分を認めてやれないままに死ぬのだけはごめんだ!
そうだ……昔の俺は弱い自分を嫌いながらも受け入れていた。
だが今は違う!
『弱くて小さいずるいだけが取柄のソルデリ』のままで居たくはない!
憎い……憎い、ニンゲンども!
お前達に負けたせいで俺は…………
自分を信じられなくなりそうだ!!!
周囲の評価などもうどうでもよい。
俺は貴様らを滅ぼしたいのだ!
滅びろ、滅びろ、滅びろニンゲンどもォォォーーーーーー!!!
●
気づけば気を失っていた。
目に穿たれた穴と、そこから広がる、焼けるような痛み――。
元来内向的な性格だったが、敗北以来さらにそれが進んだ。
ふとした切欠で己の怒りと憎しみに溺れてしまう。
そういう時は決まって、先の戦いでハンターに撃たれた片目が痛みだし、酷い時は気を失ってしまうのだ。
それを嘲笑うものがいないことが幸いだった。
ここは地の底。
一切の光を遮断した地中の穴に独りでいる。
誰も居ない……何もない。
それだけのことがソルデリには慰めになった。
気分は沈んではいない。むしろ高揚している。
なぜなら、今自分が携わっている仕事は、彼の最重要課題である『人間の打倒』をなしえる手段であるからだ……。
「待っていろ……ニンゲンども」
ソルデリは独り呟く。
「この地中要塞が……貴様らの墓場になる……
ググ……グゲゲゲゲ……クゲガガガガガガガガガ!」
●
地の属性に親和性を持つソルデリの能力はつまるところ、『自分の周囲の地形を自在に変えられる』というものである。
これを利用して地中に潜ることを可能としたのだった。
変えた地形をそのままにすることもできた。長いトンネルを地中に掘ることも彼にはたやすい。
もっとも、広い空間を確保しようと思えば一人では無理だ。
彼に与えられた部下は少ない……今回の作戦では王自らが出陣するからだ。
そこでこの地方にもともといたコボルドを力で支配し、働かせることによって、地下に巨大なトンネルを掘った。
このトンネルは、古都アークエルスの地下まで伸びていた。
地中に出来た空洞に無数のコボルドがひしめきあっていた。
いずれも殺気だった目をしている。
かれらはソルデリによって土の壁で閉じ込められ、三日食物を与えられていなかった。
そして、まもなく解き放たれようとしていた。
突如としてアークエルスの路面に穴が穿たれた。
大地から、おぞましい獣の咆哮が幾重にも響いた。
そこから溢れるようにコボルドが湧き出してくる。
殺気立った目の野獣そのままのコボルドの群れが、目に付いた物を手当たり次第に破壊していく。
鼻を突く獣臭。咆哮。ぎらつく目の光。
城壁の外では亜人の軍勢との戦いが始まっていたが、地中からの攻撃に対応する術はなかった。
恐怖と欲望に駆られたコボルドどもの波が、アークエルスの町並みに広がっていく。
「飢え乾いたるものどもよ、収穫の時は来た!
奪え! 殺せ! 喰らえ!
禍で地を満たせッ!」
コボルドの駆け巡る中、狂ったように叫ぶソルデリの姿があった。
そのソルデリの元へと、馳せ参じるように集まってくる者たちがいる。
地中の穴から出てきたがコボルドではない。ゴブリンだった。
「準備は良いな……行くぞ!」
ソルデリがゴブリンたちに呼びかけると、かれらは一団となって駆けた。
コボルドが跋扈する街並みを、ゴブリンの一団が疾走する。
城門を開け、外で戦うロードの一団を、アークエルスの街中に導き入れるのが目的だった。
高らかに響く破滅の足音。
見よ、『大地の禍』が速やかにやって来る。
リプレイ本文
●異形の街
むせ返る獣の臭いが、街に満ちていた。
瞳をぎらつかせ舌を垂らしたコボルドの群れ。
突如、かれらの視線が一点に集中した。鋭い嗅覚が食欲を刺激する匂いを嗅ぎ取ったのである。
「いい匂いだろ?」
匂いの発生源は、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の手に持つバーンブレイド、に刺さった干し肉とチーズだった。
「薄汚ぇゴミどもが……」
料理を振舞うような上機嫌さのレイオスとは対照に、ユーロス・フォルケ(ka3862)は顔をしかめた。彼も干し肉を手にしている。
十分な距離が開いていたが、いずれも食料として認識され、コボルドはレイオスとユーロスに襲いかかる。
「欲しけりゃここまでおいで!」
「来な。てめぇらに相応しい末路をくれてやる」
レイオスとユーロスはコボルドから離れていく。
「流石は古都アークエルス……入り組んだ道でしたねー」
敵は進行方向の反対側から現れた……と推測し、出現地点を捜索した葛音 水月(ka1895)だったが、アークエルスは歴史が古いだけあって曲がり角・交差点が多く、想像以上に困難だった。だが汚れた足跡が無数にあったおかげで、なんとか確定できた。
「地面に穿たれた穴……」
それは邸宅の庭に開けられていた。
邸宅内はすでに蹂躙されており、門が破壊されて足跡が幾筋も広がっていた。
ハンター達は別行動をとる仲間に連絡してから、街中に散らばったコボルドを駆逐すべく動いた。
コボルドの群れを引き寄せてきたレイオスとユーロスが、穴に食料を投げ入れた。
「こいつも持ってきな!」
レイオスは蓋を開けた炭酸飲料を穴の中へと投げ入れる。
コボルドの集団は我先に穴へと飛び込み、食料をめぐって争い始める。流れていく炭酸飲料を追いかける者もいる。穴の中は坂道になっており、蹴落とされたコボルドは転がり落ちて行った。
「こんなものか……」
ユーロスは呟くと、街で拝借してきた廃で穴を塞いだ。
「他に穴は……?」
彼らは近くにいた衛兵に見張りを頼み、その場を後にした。
彼らは知る由も無かったが、コボルドはすべてその穴から出てきており、全ては出尽くして街中へと散らばった後だった。
統率が取れていないコボルドは、徒党を組んで建物を襲う者、誰にも邪魔されず一人で獲物を探す者、様々だった。
「さて、ご飯の時間だよ。……」
仁川 リア(ka3483)は持ってきた食料で散らばっているコボルドを誘き寄せ、コボルドが群がって来ると、次々と血祭りにあげていった。
「しかし、これは……キリがない」
コボルドはリアの敵ではなかったが、街の人々にとっては恐ろしい敵だ。リアの行為に感謝する人々もいた。しかし。
「嫌な予感がするね」
視線を巡らせば、また遠くにコボルドの姿を認めた。
向かおうとするリアであったが、その時魔導短伝話が鳴った。
「リアだ。――なんだって?!」
通話するなり、声を上げた。
●非日常の光景
「心が躍るわね……」
ルシェン・グライシス(ka5745)は街で亜人が闊歩する光景を見て、端的に感想を漏らした。
「あなたの感性は理解できないわ」
ルシェンのバイクに重装馬で併走するコントラルト(ka4753)が返答した。
「彼等の欲望は開放されている。美しいわ」
「…………破壊的ね」
恍惚とした表情のルシェンにコントラルトは冷淡に返した。
「お喋りはここまでだぜお二人さん!」
二人の前をバイクで走るエヴァンス・カルヴィ(ka0639)がバイクの排気音にも劣らぬ声で告げた。
彼が指し示す方向には、一団となって駆けるゴブリンの集団が居た。敵が街中に現れたのなら、城壁の外で戦う味方を招き入れるため門を目指す、という推測の通りだった。
「援護を頼む! 兄貴、先に仕掛けるぞ!」
エヴァンスの隣で馬を走らせていたミリア・コーネリウス(ka1287)は、馬上で大剣を構えた。
ゴブリンは徒歩だ。しかしかなりのリードを許しており、城門までの距離もそう遠くない。
四人は追い上げる。
攻撃可能な距離まで近づくと、まずはコントラルトが機導術を展開した。目の前に光の三角形が現れ、その頂点から光の線が伸びる。
それらは火花を散らしてゴブリンのうち三人を焼いた。
そこで、半数のゴブリンが立ち止まり、ハンター四人に向かった。残りの半数は目もくれずに城門へと向かっていく。
「足止めをするつもりか!?」
ミリアは突撃の勢いのままに大剣を振りぬく。一度に三体のゴブリンが吹き飛ぶが、うち二体は盾を構えており、致命傷には至らなかった。
そのミリアに向かい、一条の土煙が槍のように飛んだ。その先端には刃のような石礫が見られる。
ミリアはどうにか鎧で防ぐが、勢いは一時殺がれる。
「グゲガガガ……! なんだ、たったこれだけしか居らんのか!」
耳障りな声が響いた。一面に土煙が立ち込めていた。やがて、その中から声の主が姿を現す。
「俺は……『大地の禍』ソルデリ。ここで会ったが運の尽きよ!」
「ほーう、お前が噂に聞く茨小鬼か!」
ミリアの隣に並び、大剣を手にしたエヴァンスが獰猛な笑みを浮かべた。
「ひとつお手並み拝見と行こうか……」
剣を握る手に万力のような力が篭る。
「断る!」
「……おいおい」
ソルデリはエヴァンスを一瞥し、味方に視線を巡らした。
「散開せよ!」
「あくまでも足止めに徹する気か。面白くない」
ミリアが憤慨する。敵は武器が大剣と見て正面衝突を避けたのだ。
前衛に四人の盾を構えたゴブリンが、ギリギリ進路を阻めるだけの距離を開けて並んだ。後衛では三人が弓を構え、その中央にソルデリが陣取っている。
統制の取れた動きだった。
「命に代えてもここを通すな!」
威圧的な声が号令を下した。
●凶報
「城門が、開けられた……?!」
リアは我が耳を疑った。エヴァンスは伝話越しに、城門に向かった四人は足止めのゴブリンを突破するのに時間がかかり過ぎ、その間に城門は開けられてしまったと語った。
「そうか……コボルドは単なる目くらましだったのか」
あるいは、もっと城門の方に人数を割いていれば阻止できていたかもしれない。人的資源は最も貴重な要素である。使い所を誤れば、取り返しのつかない結果になることもある。
「分かった、すぐ皆を集めてそっちに向かう!」
急がねばならなかった。
ハンター達は城門から街中に入ろうとしてくるゴブリンの軍勢を相手取らなければならなかった。城壁の上から応戦していた衛兵たちも降りてきて応戦し、白兵戦となった。
ソルデリは城門が開けられると地面に潜って逃げてしまったが、追う余裕も手段もなかった。
「あの野郎……ふざけたマネしやがって!」
「憤ってる場合じゃねえぞミリア。俺たちは開けられた城門の代わりに外の敵を防がにゃならん。やれるな?」
「兄貴…………わかった」
「それでこそ俺の妹だ。さあ最強の兄妹が未だ健在って事を敵に見せ付けてやろうぜ!」
ミリアとエヴァンスは、憤りをぶつけるように門から入ってくる敵に向かう。
「戦争は互いの欲望のぶつけ合い」
「何かしら?」
詩を紡ぐ様なルシェンの言葉。コントラルトが聞く。
「敵が必死なのもうなづけるという事よ」
「……私は理解しない。気持ちは有限だもの」
背を預け合って立つ二人。見解の相違はあれ、息だけは合わせていた。
やがて四人のハンターとも合流し、一行はおびただしい数のゴブリンを殺したが、それでも敵は執拗に沸いて出てきた。相手は街を攻め落とそうという軍隊なのだ。
もはやゴブリンの死骸のせいで城門は閉まらない。
さらに悪いことに、援軍が現れた。それも街の中から。例の穴に残されていた戦力が出撃してきたのだった。
「まーたモグラが地面から沸いてきやがったよ!」
「まさにボーナスタイムですねー」
冗談めかして言うレイオスと水月だったが、挟み撃ちとなり状況は悪くなる一方だった。
「あとどのくらい戦える?」
ユーロスがルシェンに聞いた。
「敵が全ていなくなるまで……は無理そうね」
ルシェンは応えた。神ならぬ人の身、どうしようもない事はある。
「撤退するぞ!」
「ンだと?!」「嫌だ!」
ユーロスの提案を、エヴァンスとミリアが否定する。
「このままじゃやられるだけだろ!」
「僕もその方がいいと思う」
なおも主張するユーロスに同調したのはリアだった。
「勝てなければ意味がないよ。そして退くことは負けを意味しない」
エヴァンスとミリアは手近な敵を斬殺すと、不服そうに従うそぶりを見せた。
●再起
一行は一時撤退し、敵のいない場所に身を潜める。傷の手当をしてから、現在の戦力を確認し、次の行動を話し合う。
再び城門前を守るという選択肢もあったが、押し切られる見通しが強かった。ならば位置の分かっている地下の敵拠点を制圧し、指揮官の一人であるソルデリを倒す方がいいという結論になった。
塞いだ穴は再び開かれていた。穴の周りには誰も居らず静かだ。騎乗物からは降りねばならなかった。何人かが灯りをつけ、暗黒の洞窟へと降りていく。
狭い通路が伸びていた。地上からの音は聞こえない。ただ土の臭いと湿り気のある空気に満ちていた。
「止まれ、足音だ」
時折地面に耳を当てていたユーロスが一行に注意を促す。前方を歩くレイオスがライトを前に向けると、通路の奥から影が現れた。
弓を撃ってきた。狭い通路内で避けるのは困難であったが、警戒していたおかげで被害は最小限に抑えられた。追おうとすると、もう敵は逃げてしまっていた。
道は段々と広くなっていった。先のような襲撃は何度かあったが、奥に進むにつれて減っていった。
「撃て!」「伏せろ!」
声は同時にかかった。突如としてハンター達に無数の矢が射掛けられた。
一行は身を屈め、的としての面積を少なくする。
一旦退がると矢は止んだ。射程を把握しているらしい。かなりの数のゴブリン射手が配置されているのがわかった。ここは天井もドーム状になって高く、矢も遠くまで届く。
遠距離に対応する手段はコントラルトの機導術があったが、数は限られていた。
一行は灯りを消す。ゴブリンは闇に潜んではいたが、夜目は効かない。灯り目がけて撃っているに違いなかった。
水月がLEDライトの電源を入れてすぐに投げた。すぐさま矢が飛ぶ。
「そんなんじゃ、殺せませんよ……?」
自身は全身にマテリアルを漲らせ、反対側へと跳んだ。立体感覚をフルに活用して動き回り、照準を定める隙を与えない。投げたLEDライトの光を頼りに敵の位置を見極め、一気に駆け込む。
抜き放たれた雷撃刀が奔り、敵の一体に傷を負わせた。
それに続き、エヴァンスとミリアが駆けた。ルシェンから防護の加護を受け、攻撃を受けながらも前に出る。灯りも点けているため何度か矢を受けたが、鎧を貫くことはない。
「隠れながら撃ってたのかよ。つまんねえ奴らだな」
エヴァンスはゴブリンが隠れていた塹壕に飛び降りつつ、剣で頭蓋を貫いた。
突破口が開かれ、ハンター全員が前に出る。
その時、水月が頭上から風圧を感じた。身を引くも肩を何かが貫いていた。痛みを堪えながらも武器を握りなおす。
「おおっと、上からですか!」
水月が皆に促す。誰かがLEDライトを上に向けた。
光は、天井にある何かを映し出した。
「グゲガガガガ……見つかってしまったか」
ソルデリが、天井に埋まって顔と腕だけを出していた。
「あっ、モグラ野郎! 剣の届かない所に行きやがったな!」
レイオスが抗議するが、ソルデリは無視して続ける。
「我が地中要塞へようこそ、ニンゲンの諸君!
お前達の亡骸は土葬にしてやる、心配せず逝くがいい……!」
ソルデリはそう言い残し、天井に埋もれて消えた。
残されたゴブリンはハンター達を囲み、白兵戦を仕掛ける構えだ。
「生命の輝きよ、勇敢なる魂に癒しの祝福を……」
ルシェンが水月にヒールをかける。ソルデリから受けた傷が癒え、水月は視線で礼を言った。
だが、そのルシェンの頭部を石礫が掠め、肩に突き刺さった。
「ルシェンさん!」
「まだ、このくらいは」
コントラルトが駆け寄る。ルシェンは肩を抑えながらも体勢を直す。
一行は回復の要であるルシェンを囲むように立つが、頭上までは庇えない。
このままルシェンを狙い撃ちにされては不利だ。誰もがあせりを感じつつあった。
「焦っては駄目よ」
それを叱咤したのは、他ならぬルシェン本人だった。
「仮にも私は聖導士の端くれ。戦う意思を貫かせるのが私としての戦いよ!
私がいる限り戦意を失わせはしない」
凛として告げるルシェン。
「ラルさん。……」
「えっ?」
そして、傍らに立つコントラルトに耳打ちした。
頭上からの破裂音、それに空気を切り裂く音が続いた。
一瞬遅れてルシェンが蹲る。額が切られ、鮮血が飛んだ。
その背後から入れ替わるように現れる影があった。
「術式展開"デルタ・レイ"……!」
駆動音が鳴り響き、光の文様が空間に描き出される。
コントラルトの視線はソルデリを確実に捕えていた。
大地が、爆ぜた。
落下したソルデリが地面に叩きつけられる。
コントラルトのデルタレイは、ソルデリが埋もれていた部分を炸裂させた。
「自分を囮にしろ、だなんて」
コントラルトはルシェンに目をやる。目が合う。笑っていた。
「理解は、しないわ」
戦術的に正しい行動をとる相手ならば有効な戦術だった。
「貰った……!」
一気に囲みを突破し、リアが駆けた。
「"炎刃――"」
右腕が、蒼く燃え上がる。
「"――一切"!」
研ぎ澄まされた一閃がソルデリを捕えた。
ソルデリは左肩から胸にかけて激しく斬られながらも後退する。
その退路を重装備のゴブリンがカバーする。
「退けぇぇーーーッ!!」
追いすがるレイオスが、全力の薙ぎ払いを見舞う。
防御姿勢の上からゴブリンの体勢を崩した。その頭上から迫るものがある。ユーロスだ。
「絶対に逃がさねぇぜ……!」
ゴブリンを踏みつけ、ソルデリを追う。
広い場所を抜けるとまた狭い通路になっていた。天井も低い。
暗かったが、駆けていくソルデリをユーロスは見失いはしなかった。
ソルデリは突如としてユーロスに振り向いた。
その時、地面が爆発した。
激しい振動が起こり、ユーロスは立つのが困難になる。
土煙の向こうで、ソルデリが不敵に笑った。
「お前達は確かに強い!
……だが……俺を倒すには少し創意工夫が足りなかったな…………。
これで終わりではない!」
通路が突然崩れだした。土砂が、通路を遮断していく。
「さらばだ! グゲガガガガ…………!」
閉ざされた道の奥から、耳障りな笑い声が響いた。
あるいは、ソルデリを確実に殺すための周到な策や、危険も顧みない覚悟があれば、ここで命を奪うことが出来たのかもしれない。しかし、それも今となっては変えられない結果だった……。
むせ返る獣の臭いが、街に満ちていた。
瞳をぎらつかせ舌を垂らしたコボルドの群れ。
突如、かれらの視線が一点に集中した。鋭い嗅覚が食欲を刺激する匂いを嗅ぎ取ったのである。
「いい匂いだろ?」
匂いの発生源は、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の手に持つバーンブレイド、に刺さった干し肉とチーズだった。
「薄汚ぇゴミどもが……」
料理を振舞うような上機嫌さのレイオスとは対照に、ユーロス・フォルケ(ka3862)は顔をしかめた。彼も干し肉を手にしている。
十分な距離が開いていたが、いずれも食料として認識され、コボルドはレイオスとユーロスに襲いかかる。
「欲しけりゃここまでおいで!」
「来な。てめぇらに相応しい末路をくれてやる」
レイオスとユーロスはコボルドから離れていく。
「流石は古都アークエルス……入り組んだ道でしたねー」
敵は進行方向の反対側から現れた……と推測し、出現地点を捜索した葛音 水月(ka1895)だったが、アークエルスは歴史が古いだけあって曲がり角・交差点が多く、想像以上に困難だった。だが汚れた足跡が無数にあったおかげで、なんとか確定できた。
「地面に穿たれた穴……」
それは邸宅の庭に開けられていた。
邸宅内はすでに蹂躙されており、門が破壊されて足跡が幾筋も広がっていた。
ハンター達は別行動をとる仲間に連絡してから、街中に散らばったコボルドを駆逐すべく動いた。
コボルドの群れを引き寄せてきたレイオスとユーロスが、穴に食料を投げ入れた。
「こいつも持ってきな!」
レイオスは蓋を開けた炭酸飲料を穴の中へと投げ入れる。
コボルドの集団は我先に穴へと飛び込み、食料をめぐって争い始める。流れていく炭酸飲料を追いかける者もいる。穴の中は坂道になっており、蹴落とされたコボルドは転がり落ちて行った。
「こんなものか……」
ユーロスは呟くと、街で拝借してきた廃で穴を塞いだ。
「他に穴は……?」
彼らは近くにいた衛兵に見張りを頼み、その場を後にした。
彼らは知る由も無かったが、コボルドはすべてその穴から出てきており、全ては出尽くして街中へと散らばった後だった。
統率が取れていないコボルドは、徒党を組んで建物を襲う者、誰にも邪魔されず一人で獲物を探す者、様々だった。
「さて、ご飯の時間だよ。……」
仁川 リア(ka3483)は持ってきた食料で散らばっているコボルドを誘き寄せ、コボルドが群がって来ると、次々と血祭りにあげていった。
「しかし、これは……キリがない」
コボルドはリアの敵ではなかったが、街の人々にとっては恐ろしい敵だ。リアの行為に感謝する人々もいた。しかし。
「嫌な予感がするね」
視線を巡らせば、また遠くにコボルドの姿を認めた。
向かおうとするリアであったが、その時魔導短伝話が鳴った。
「リアだ。――なんだって?!」
通話するなり、声を上げた。
●非日常の光景
「心が躍るわね……」
ルシェン・グライシス(ka5745)は街で亜人が闊歩する光景を見て、端的に感想を漏らした。
「あなたの感性は理解できないわ」
ルシェンのバイクに重装馬で併走するコントラルト(ka4753)が返答した。
「彼等の欲望は開放されている。美しいわ」
「…………破壊的ね」
恍惚とした表情のルシェンにコントラルトは冷淡に返した。
「お喋りはここまでだぜお二人さん!」
二人の前をバイクで走るエヴァンス・カルヴィ(ka0639)がバイクの排気音にも劣らぬ声で告げた。
彼が指し示す方向には、一団となって駆けるゴブリンの集団が居た。敵が街中に現れたのなら、城壁の外で戦う味方を招き入れるため門を目指す、という推測の通りだった。
「援護を頼む! 兄貴、先に仕掛けるぞ!」
エヴァンスの隣で馬を走らせていたミリア・コーネリウス(ka1287)は、馬上で大剣を構えた。
ゴブリンは徒歩だ。しかしかなりのリードを許しており、城門までの距離もそう遠くない。
四人は追い上げる。
攻撃可能な距離まで近づくと、まずはコントラルトが機導術を展開した。目の前に光の三角形が現れ、その頂点から光の線が伸びる。
それらは火花を散らしてゴブリンのうち三人を焼いた。
そこで、半数のゴブリンが立ち止まり、ハンター四人に向かった。残りの半数は目もくれずに城門へと向かっていく。
「足止めをするつもりか!?」
ミリアは突撃の勢いのままに大剣を振りぬく。一度に三体のゴブリンが吹き飛ぶが、うち二体は盾を構えており、致命傷には至らなかった。
そのミリアに向かい、一条の土煙が槍のように飛んだ。その先端には刃のような石礫が見られる。
ミリアはどうにか鎧で防ぐが、勢いは一時殺がれる。
「グゲガガガ……! なんだ、たったこれだけしか居らんのか!」
耳障りな声が響いた。一面に土煙が立ち込めていた。やがて、その中から声の主が姿を現す。
「俺は……『大地の禍』ソルデリ。ここで会ったが運の尽きよ!」
「ほーう、お前が噂に聞く茨小鬼か!」
ミリアの隣に並び、大剣を手にしたエヴァンスが獰猛な笑みを浮かべた。
「ひとつお手並み拝見と行こうか……」
剣を握る手に万力のような力が篭る。
「断る!」
「……おいおい」
ソルデリはエヴァンスを一瞥し、味方に視線を巡らした。
「散開せよ!」
「あくまでも足止めに徹する気か。面白くない」
ミリアが憤慨する。敵は武器が大剣と見て正面衝突を避けたのだ。
前衛に四人の盾を構えたゴブリンが、ギリギリ進路を阻めるだけの距離を開けて並んだ。後衛では三人が弓を構え、その中央にソルデリが陣取っている。
統制の取れた動きだった。
「命に代えてもここを通すな!」
威圧的な声が号令を下した。
●凶報
「城門が、開けられた……?!」
リアは我が耳を疑った。エヴァンスは伝話越しに、城門に向かった四人は足止めのゴブリンを突破するのに時間がかかり過ぎ、その間に城門は開けられてしまったと語った。
「そうか……コボルドは単なる目くらましだったのか」
あるいは、もっと城門の方に人数を割いていれば阻止できていたかもしれない。人的資源は最も貴重な要素である。使い所を誤れば、取り返しのつかない結果になることもある。
「分かった、すぐ皆を集めてそっちに向かう!」
急がねばならなかった。
ハンター達は城門から街中に入ろうとしてくるゴブリンの軍勢を相手取らなければならなかった。城壁の上から応戦していた衛兵たちも降りてきて応戦し、白兵戦となった。
ソルデリは城門が開けられると地面に潜って逃げてしまったが、追う余裕も手段もなかった。
「あの野郎……ふざけたマネしやがって!」
「憤ってる場合じゃねえぞミリア。俺たちは開けられた城門の代わりに外の敵を防がにゃならん。やれるな?」
「兄貴…………わかった」
「それでこそ俺の妹だ。さあ最強の兄妹が未だ健在って事を敵に見せ付けてやろうぜ!」
ミリアとエヴァンスは、憤りをぶつけるように門から入ってくる敵に向かう。
「戦争は互いの欲望のぶつけ合い」
「何かしら?」
詩を紡ぐ様なルシェンの言葉。コントラルトが聞く。
「敵が必死なのもうなづけるという事よ」
「……私は理解しない。気持ちは有限だもの」
背を預け合って立つ二人。見解の相違はあれ、息だけは合わせていた。
やがて四人のハンターとも合流し、一行はおびただしい数のゴブリンを殺したが、それでも敵は執拗に沸いて出てきた。相手は街を攻め落とそうという軍隊なのだ。
もはやゴブリンの死骸のせいで城門は閉まらない。
さらに悪いことに、援軍が現れた。それも街の中から。例の穴に残されていた戦力が出撃してきたのだった。
「まーたモグラが地面から沸いてきやがったよ!」
「まさにボーナスタイムですねー」
冗談めかして言うレイオスと水月だったが、挟み撃ちとなり状況は悪くなる一方だった。
「あとどのくらい戦える?」
ユーロスがルシェンに聞いた。
「敵が全ていなくなるまで……は無理そうね」
ルシェンは応えた。神ならぬ人の身、どうしようもない事はある。
「撤退するぞ!」
「ンだと?!」「嫌だ!」
ユーロスの提案を、エヴァンスとミリアが否定する。
「このままじゃやられるだけだろ!」
「僕もその方がいいと思う」
なおも主張するユーロスに同調したのはリアだった。
「勝てなければ意味がないよ。そして退くことは負けを意味しない」
エヴァンスとミリアは手近な敵を斬殺すと、不服そうに従うそぶりを見せた。
●再起
一行は一時撤退し、敵のいない場所に身を潜める。傷の手当をしてから、現在の戦力を確認し、次の行動を話し合う。
再び城門前を守るという選択肢もあったが、押し切られる見通しが強かった。ならば位置の分かっている地下の敵拠点を制圧し、指揮官の一人であるソルデリを倒す方がいいという結論になった。
塞いだ穴は再び開かれていた。穴の周りには誰も居らず静かだ。騎乗物からは降りねばならなかった。何人かが灯りをつけ、暗黒の洞窟へと降りていく。
狭い通路が伸びていた。地上からの音は聞こえない。ただ土の臭いと湿り気のある空気に満ちていた。
「止まれ、足音だ」
時折地面に耳を当てていたユーロスが一行に注意を促す。前方を歩くレイオスがライトを前に向けると、通路の奥から影が現れた。
弓を撃ってきた。狭い通路内で避けるのは困難であったが、警戒していたおかげで被害は最小限に抑えられた。追おうとすると、もう敵は逃げてしまっていた。
道は段々と広くなっていった。先のような襲撃は何度かあったが、奥に進むにつれて減っていった。
「撃て!」「伏せろ!」
声は同時にかかった。突如としてハンター達に無数の矢が射掛けられた。
一行は身を屈め、的としての面積を少なくする。
一旦退がると矢は止んだ。射程を把握しているらしい。かなりの数のゴブリン射手が配置されているのがわかった。ここは天井もドーム状になって高く、矢も遠くまで届く。
遠距離に対応する手段はコントラルトの機導術があったが、数は限られていた。
一行は灯りを消す。ゴブリンは闇に潜んではいたが、夜目は効かない。灯り目がけて撃っているに違いなかった。
水月がLEDライトの電源を入れてすぐに投げた。すぐさま矢が飛ぶ。
「そんなんじゃ、殺せませんよ……?」
自身は全身にマテリアルを漲らせ、反対側へと跳んだ。立体感覚をフルに活用して動き回り、照準を定める隙を与えない。投げたLEDライトの光を頼りに敵の位置を見極め、一気に駆け込む。
抜き放たれた雷撃刀が奔り、敵の一体に傷を負わせた。
それに続き、エヴァンスとミリアが駆けた。ルシェンから防護の加護を受け、攻撃を受けながらも前に出る。灯りも点けているため何度か矢を受けたが、鎧を貫くことはない。
「隠れながら撃ってたのかよ。つまんねえ奴らだな」
エヴァンスはゴブリンが隠れていた塹壕に飛び降りつつ、剣で頭蓋を貫いた。
突破口が開かれ、ハンター全員が前に出る。
その時、水月が頭上から風圧を感じた。身を引くも肩を何かが貫いていた。痛みを堪えながらも武器を握りなおす。
「おおっと、上からですか!」
水月が皆に促す。誰かがLEDライトを上に向けた。
光は、天井にある何かを映し出した。
「グゲガガガガ……見つかってしまったか」
ソルデリが、天井に埋まって顔と腕だけを出していた。
「あっ、モグラ野郎! 剣の届かない所に行きやがったな!」
レイオスが抗議するが、ソルデリは無視して続ける。
「我が地中要塞へようこそ、ニンゲンの諸君!
お前達の亡骸は土葬にしてやる、心配せず逝くがいい……!」
ソルデリはそう言い残し、天井に埋もれて消えた。
残されたゴブリンはハンター達を囲み、白兵戦を仕掛ける構えだ。
「生命の輝きよ、勇敢なる魂に癒しの祝福を……」
ルシェンが水月にヒールをかける。ソルデリから受けた傷が癒え、水月は視線で礼を言った。
だが、そのルシェンの頭部を石礫が掠め、肩に突き刺さった。
「ルシェンさん!」
「まだ、このくらいは」
コントラルトが駆け寄る。ルシェンは肩を抑えながらも体勢を直す。
一行は回復の要であるルシェンを囲むように立つが、頭上までは庇えない。
このままルシェンを狙い撃ちにされては不利だ。誰もがあせりを感じつつあった。
「焦っては駄目よ」
それを叱咤したのは、他ならぬルシェン本人だった。
「仮にも私は聖導士の端くれ。戦う意思を貫かせるのが私としての戦いよ!
私がいる限り戦意を失わせはしない」
凛として告げるルシェン。
「ラルさん。……」
「えっ?」
そして、傍らに立つコントラルトに耳打ちした。
頭上からの破裂音、それに空気を切り裂く音が続いた。
一瞬遅れてルシェンが蹲る。額が切られ、鮮血が飛んだ。
その背後から入れ替わるように現れる影があった。
「術式展開"デルタ・レイ"……!」
駆動音が鳴り響き、光の文様が空間に描き出される。
コントラルトの視線はソルデリを確実に捕えていた。
大地が、爆ぜた。
落下したソルデリが地面に叩きつけられる。
コントラルトのデルタレイは、ソルデリが埋もれていた部分を炸裂させた。
「自分を囮にしろ、だなんて」
コントラルトはルシェンに目をやる。目が合う。笑っていた。
「理解は、しないわ」
戦術的に正しい行動をとる相手ならば有効な戦術だった。
「貰った……!」
一気に囲みを突破し、リアが駆けた。
「"炎刃――"」
右腕が、蒼く燃え上がる。
「"――一切"!」
研ぎ澄まされた一閃がソルデリを捕えた。
ソルデリは左肩から胸にかけて激しく斬られながらも後退する。
その退路を重装備のゴブリンがカバーする。
「退けぇぇーーーッ!!」
追いすがるレイオスが、全力の薙ぎ払いを見舞う。
防御姿勢の上からゴブリンの体勢を崩した。その頭上から迫るものがある。ユーロスだ。
「絶対に逃がさねぇぜ……!」
ゴブリンを踏みつけ、ソルデリを追う。
広い場所を抜けるとまた狭い通路になっていた。天井も低い。
暗かったが、駆けていくソルデリをユーロスは見失いはしなかった。
ソルデリは突如としてユーロスに振り向いた。
その時、地面が爆発した。
激しい振動が起こり、ユーロスは立つのが困難になる。
土煙の向こうで、ソルデリが不敵に笑った。
「お前達は確かに強い!
……だが……俺を倒すには少し創意工夫が足りなかったな…………。
これで終わりではない!」
通路が突然崩れだした。土砂が、通路を遮断していく。
「さらばだ! グゲガガガガ…………!」
閉ざされた道の奥から、耳障りな笑い声が響いた。
あるいは、ソルデリを確実に殺すための周到な策や、危険も顧みない覚悟があれば、ここで命を奪うことが出来たのかもしれない。しかし、それも今となっては変えられない結果だった……。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/04 02:26:13 |
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【相談卓】 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/11/07 07:39:04 |