戦場の施療院、医療者達の戦い

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/14 07:30
完成日
2015/11/18 20:33

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「怪我人、3人到着しました!」
「クレイル、場所の案内してください」
「もう待合もいっぱいっすよォ!!」
 青年は悲鳴を上げつつ、それでもテキパキと包帯や体温計、問診表を持って駆けだしていく。
 北伐が進行してからというもの、この施療院は連日の大賑わいだった。悪名高い災厄の十三魔は続々登場するわ、歪虚王は姿を現すわ、他にもいろいろ出てくるわ、そもそも極寒の大地でもあり、負のマテリアルで満ちた大地に各国の浄化術で無理やりルート開拓しているものだから、兵士達だって次々体調を崩す。
 各国に戻るのにも時間がかかる。
 従軍する医療部隊は前線を維持する兵士や、生死にかかわる重体患者だけで手いっぱいだ。命に関わるレベルではないが前線に復帰は見込めない、そんな兵士たちの治療はあちこちの病院、施療院、教会へと振り分けられる。しかし振り分けにも手配というものが必要なわけで『とりあえず』収容される場所というものがあるものだ。
 その1つがこの施療院。
 今は負傷者でごったがえしていた。
「はーい、点滴しますからねー」
「ユーリぃぃぃぃ。それ、違う!!」
「あらー?」
「マクレーン。消毒薬足りてないから下から持って来て!」
「ミルドレッドさん。重体患者部屋で一人大出血です」
「ルーフィを回して必要な薬草を準備してあげて。ユーリのヒールは夕刻まで残しておきたいわ」
「ぐぇ。薬草煎じるところからしなきゃなりませんって。ヒール使いましょうよ」
「午後から20名到着するのよ。そっちだけでも使い切ってしまうのよ! マクレーン、あなたの技術でなんとかしてあげて!」
 とまあ、治療者は不眠不休で走り回り続ける始末である。
 いつになったらひと段落つくのか、もはやそんなことを考える余裕もない。とにかく目の前で苦しむ患者を救う以外にどうにかする道はない。

「やった。やった。神のお助けですよぉ」
 施療者の中でもとりわけ能天気なユーリがガチャガチャとガラス瓶がぶつかる音を立てながら、大きな箱を台車で滑り込ませてくる。
「また誰かが入り口に?」
「はい、今日は消毒薬ですねっ。それにパンと着替えも! あとあと、これを毎日置いてくれたのは銀髪のかわい子ちゃんという噂も聞いてきました!」
 幸いと備品等はこうして差し入れてくれる分だけ助かってはいる。決して顔を見せないので気になるが、それより火の車の現場の対応の方が何より大事だった。
 ミルドレッドは小さくエクラの印を切って、神に感謝をささげると、それをすぐに倉庫にしまうように指示した。
「あと、お手紙もあります。これはきっと、ラブレター!!」
「なにぃ、俺、俺宛てか!」
「マクレーン兄さん、そんなわけないだろ。僕だよ!」
 そんなジョークに苦笑いを浮かべつつ、ミルドレッドはユーリが持っていた手紙を受け取り封を開けて、しばらく目を丸くした。
「なんて書いているんですか」
「これ……ハンターズソサエティへの依頼用紙だわ」
 そしてコロンと落ちてくるのは綺麗な宝石が一つ。換金して依頼費用にあててくれ、というのは添え手紙がなくとも理解ができる。
「本当に神様、いるんですねー」
「この手紙の差し出し主、きっと僕を見て……」
「お、お話し中ごめんなさい。今通信がありまして、3名新たに受け入れしてほしいとの要請が……」
 みんながジーンとしている間に、汚れた白衣を着込んだルーフィが短電話を持って顔をのぞかせた。
「受け入れたの!?」
「はい」
「うううう、分かったよ。やる! やってやる!! こっちにゃハンターがついているんだ」
 クレイルが絶叫したが、ルーフィの真摯な瞳にうたれてマクレーンは自棄になって叫んだ。あの綺麗な瞳に見つめられたらもう勘弁してくれなんて言えなくなる。
「仕方ないわね……ユーリ。これを持ってハンターオフィスへ行って来て。
 依頼内容は、負傷兵の治療補助および看護。いいわね」
 ミルドレッドの言葉にユーリはまっすぐに伸ばした手をこめかみあたりに添えて、背を伸ばした。
「いえっ・さー☆」

 こんな修羅場な施療院を助けてくれる御方、大募集であります。

リプレイ本文

「薬草チェック終わり」
 カフカ・ブラックウェル(ka0794)が棚に収められた薬壺配置と残量を書き記した紙を薬品庫の扉に貼り付ける時あからさまに不機嫌な顔をしているのを、台車に腰を下ろして休憩していた南條 真水(ka2377)は見逃さなかった。
「なんだい、随分不機嫌そうだね。悪い夢でも見たかい?」
「ハンターズソサエティに呆れてたところだよ。こんなにドタバタなのにソサエティから寄付はできないって、僕も面倒なのは嫌いだけど、あっちの事務もたいていだと思ってね」
 カフカはこの施療院の忙しさを依頼に出る前からソサエティに訴えかけ勧募を具申したが、結局それは形にならなかった。北荻での戦争や幻獣との共同戦線などソサエティのみならず世界は目まぐるしく動いており、この依頼において特別な要望は聞き入れてくれなかったのも仕方ないことではあるが。
「容体急変!」
「退院準備が終わったら、そのまま新たな患者を迎え入れて!!」
 ドタバタ具合は予想以上だ。これを見てみぬふりをしているのではないかと思うとカフカの苛立ちは収まらない。
「仕方ないさ。でもま、捨てる神あれば拾う神あり。こんなに贈り物をしてくれる子もいるんだしさ」
 南條は台車に乗せた木箱に詰まった大量の薬草をポンと叩いてそう言った。
「なんだ、出会えたのか?」
 いつもの装備を外して白衣を着こむエアルドフリス(ka1856)がちらりと顔を向けると、南條は眼鏡の奥から猫に似た悪戯っぽい瞳を輝かせた。
「知り合いだからね。来るタイミングは分かってた。ああ、手紙とか渡しといたよ」
「どんな人ですか? 喜んでくれていました?」
 姿を全く見せず、贈り物だけしてくれるというのは郷で聞いた妖精物語にもいたことを思い出し、こんな場所にもいるのかとソナ(ka1352)は興味津々の様子だった。
「あーうん。夢が叶ってくれているようで嬉しいってさ。でも人前に立つのは苦手だからお手伝いだけさせてもらうって言ってた」
「南條さん、その話は後で聞きますから、お仕事してください! さっきからずっとそこで座っているじゃないですか!」
 パタパタと忙しそうに走る明王院 穂香(ka5647)が足を止めて、南條の顔に先ほど全員で決めたシフト表を突き付けた。
「う、う、うるさいな! 南條さんの虚弱さを甘く見るなよ!?」
「やれやれ、仕方ないねぇ。ここはあっしの出番かい」
 文挟 ニレ(ka5696)はそう言うと南條を薬草箱の上に積み重ねると、そのまま箱ごと一気に持ち上げ、のしのし薬品庫の中に移動していく。
「うわー、ニレさん、すごい」
 自分たち用の寝泊まり用の道具を複数回に分けて運んでいたユリアン(ka1664)は思わず呆然とした。


 ヒールの温かな光がぼんやりと部屋の中を満たしていた。
「ほら、もう大丈夫だよ。包帯を外すからね」
 イリア=シルフィード(ka4134)は兵士に優しくそう言うと手際よく包帯を解いて洗面器の中に放り込んだ。
 こんなことをするのはいつぶりだろう。道半ばで折れた医者の道だが、手はちゃんと覚えているものだ。自然と動く手は自分でも信じられないものだった。
「おお、すっげぇ。もう使えないかもって言われてたのに」
 驚いた顔で兵士は腕を動かし嬉しそうにしていたのを見るとイリアもまた自然と笑顔になる。
「はい、こちらも完了ですよ。大変でしたね」
 隣の列でヒールの終えた穂香も同じようにほほ笑むと兵士はベッドに寝込んでいたのが嘘のように跳ね起きた。
「ありがとう、本当に覚醒ってすごいな。家族にも笑顔で挨拶できるよ」
「はい、ご家族さんには健康無事が一番のお土産だと思いますよ。いっぱい笑顔を差し上げてくださいね」
 兎のような耳がぼんやりと映る穂香はそう言うと立ち上がり、俄然元気になった兵士の為に道を開けた。
 ヒールをもらうことのできた兵士はほぼ退院確定だ。それほど聖導士の力というものは尊く、そして貴重だ。この部屋に集まっている全員にヒールが行きわたると、イリアや穂香の覚醒による姿も徐々に姿を消していく。
「あの、ヒールまだ残ってますか。できれば……」
「半日もすれば次の組のヒールの時間帯になるからそれまで待ってておくれ」
 ヒールを使ってもらってさっさと退院したいのだろうか、若い兵士の残念そうな顔を見るとイリアもさすがに呵責を覚えてしまうが、そこは甘い顔を見せず、にこりと色っぽい微笑みを浮かべる。
「その代わり、温かい風呂があるからそこでリラックスするといいさ。美味しい食事もあるから、期待しとくんだね」
 居心地が悪い故に一刻も早い退院を懇願する者もいる。それをイリアはすぐさま見抜いた上の言葉は、若い兵士に苦笑いを浮かべさせるに十分だった。
 と、出ていく兵士と入れ替わるように、ソナが別の部屋から兵士を連れてくる。
「はい、人の入れ替えします。魔導車が待機してますから退院される方は書類をもらって車に乗り込んでください!」
「え、もう?」
「もうです。次の負傷者40名が到着したんですよ!!」
 ハンターによって増員されたことを見越してだろう。異常な回転率に兵士も、そしてイリアや穂香もしばし唖然とした。そして誰よりもソナ自身が一番驚愕していた事実だった。
 これ、医療者が過労で倒れないでしょうか。


「いっでぇ!」
 悲鳴を上げてのたうちまわる兵士に容赦なくアルコール消毒を施すエアルドフリスはクセのある前髪の奥から剣呑な目つきで兵士を睨みつけた。
「滲みたくらいで大の男がぎゃあぎゃあと……全く」
「んだと、医者ってのは横暴極まりねぇ!」
 頭突きでも食らわせるような勢い跳ね上がると兵士は吐き捨てるようにそう言ったが、エアルドフリスはその頭を掴むとそのまま力任せに床に押し戻した。
「拾った命を無駄にするもんじゃあない」
「まあまあ、師匠。次の患者も怯えるからさ」
 鼻先がぶつかりそうなほどの距離で兵士の喧嘩を買うエアルドフリスに弟子のユリアンが思わず止めに入り、なだめながら残った処置を施していく。エアルドフリスはと言えば「お大事に」の一言だけ残し、次の患者の処置に動いていった。
「あんな風だけどさ、割と身体の事を心配しているんだよ。素直になれないっていうのかな。あはは、うちの妹もそうなんだけどね。風当たりキツくてさ」
 冗談めかして微笑みを見せるユリアンに兵士のイライラも毒気を抜かれて徐々に収まりを見せる。
「えー、じゃ今度、紹介してくれよ」
「えーと、うん、考えとく。それにはまず良くならないとね」
 さらっと流すように答えると、ユリアンがエアルドフリスを追いかける中、こそこそと何やらユリアンを見て囁き合う兵士達にカール・フォルシアン(ka3702)はトリアージタグを付けてながら注意した。
「ほら、診察が終わった人は移動してください。狭いから気を付けて。緑のリボンの人は一番奥、黄色、赤になるごとに順に手前の部屋です」
 赤リボンは重傷患者。運んであげたいところだが、残念ながらそうもいかない。なにせ通路まで人が溢れかえっている状況だ。カール自身も医療の手腕を期待されている以上、持ち場をそうそう離れるわけにもいかない。
「次の処置は……」
「ごめんなさい、新しい患者が来ます!」
「もうですか!?」
 3時間前にトリアージ(医療的選別)が終えた兵士に本格的な治療にとりかかろうとしたカールだが、ソナのその一言に愕然とした。
 この施療院の医療者達も悲鳴を上げる訳だとようやく気付いた。丸一日が経過して退院した兵士の数は60名を数えたが、ピストン輸送でまるまるその分だけ入院してくるのだ。管理している時間だけで次の患者が来るような環境はだんだん頭の整理が追いつかなくなってくる。トリアージやシフト、在庫表などを全員でやっていなければもう呑まれていたかもしれない。
「持つかな……」
 一瞬、気弱になる自分が表に出てくるが、そこは口を引き締めてカールは顔を上げた。
 だが、これだけの責務が待っているのだ。求めてくれる人がいる限り、倒れてでもやり遂げなきゃ。


「うんめぇぇぇぇ」
「なにこれ、帝国じゃありえねぇ!?」
 ユージーン・L・ローランド(ka1810)の作った料理に兵士達は驚嘆の声を上げながらがっついていた。
 それほど大した料理でもないはずですが。と苦笑しながらも帝国の料理はたいそうヒドい。という噂をユージーンは思い出した。配膳の手伝いをしているユリアンも大げさな反応に苦笑いをしていた。
「もうレーション(軍用携帯食)に戻れねぇ……家にも戻れねぇ。美味すぎる。これどうやって作るんだ?」
「ニンジンやゴボウと言った根菜を刻みキノコの出汁で煮立てただけですよ。冷めないように片栗と生姜も少し入れています」
「ふおおお、ニンジンとゴボ……すっげー具だくさんだな! これ、家に帰ったら娘に作ってやろう」
 ユージーンの思いやりに満ちた料理に兵士達は食べるだけでテンションを上げていた。
 死の大地北荻では生きている実感なんて欠片もなかっただろう。その分、こんな簡単な料理でも喜んでくれるんでしょうか。ユージーンは熱心に食べ続ける兵士達の様子に目を細めた。
「あ、おかわりあるから、遠慮なく言ってよ」
 とユリアンが言った瞬間。
 空になった皿が一斉に飛んできて視界を埋めた。
「「「「「おかわりぃぃぃぃ!!!!」」」」」
 一斉にハモる兵士達にユリアンは思わず頭をズズズと後ろに下げた。
「おーい、兄ちゃん、こっちもこっちも」
「はいはい」
「妹想い(シスコン)の兄ちゃん、こっちもおかわり」
「ちょっ!? なんだよそれ」
「いや、だってさっきに会話からして、なぁ?」
 他愛もないじゃれ合いが始まるのを背にユージーンはそっと厨房に戻った。厨房では仲間や施療院のスタッフが同じようにスープを掻きこんでいた。
「なかなか、上手いじゃない」
 生姜が効いてきたのか、少し顔を赤くして温まった白い吐息をもらしながらカフカはユージーンにそう言った。
「カフカの持ってきた食材が良かったんですよ。ああ、椅子を持ってくればよかったですね」
 ハンターの増員によって厨房もまともに座る余地もなく、男達はそのまましゃがんでスープを飲んでいるくらいだった。
「はぁぁ、生き返ります……」
「ああっ、ユーリさん、寝たらダメ!!」
 至福の表情を浮かべたまま、パタリと倒れる医療スタッフのユーリを見て、穂香は慌ててゆさゆさと揺さぶった。ユーリはひどくマイペースのようで不眠不休の働きをしたかと思えば、こうして突然ぶっ倒れる。しかし、それもだんだんみんな理解してきたようだ。
 イリアはくすりと笑ってユーリの皿を取りあげ、思い切って抱え上げた。
「まあ、私達がいる間くらいはいいだろうさ。ずっと根詰めて来たんだろうからさ」



 医療室では深夜になっても灯は落ちず、薬研の転がる音が響いていた。
「リコリスは化膿止めにもなる。傷薬には定番だが、火の性質を持つ人間には使いすぎは注意しなくてはならん」
 ユリアンが調合する様子をエアルドフリスが監督しながら説明していく。その横ではリアルブルー出身のカールがクリムゾンウェスト特有の薬草の調合に興味津々の様子だった。
「これは?」
「それは痛み止めと止血だ。外科手術なんかの縫合の時に煎じたものを湿布にして貼っておいたりする。一般的には毒草だがね。リアルブルーではどういうものを使っているのかは気になるところだ」
「麻酔はバルビツール酸系とか……ええと、リアルブルーではですね、この薬草に入っている効能のある成分を選り分け純度を高めたものを利用します。最初はモルヒネなどの向精神作用のある薬草から始まって……」

 一方、事務室では南條が月明かりの下で書類をずっと走らせていた。
「疲れないんですか?」
 ソナが心配して紅茶を差し出して南條の顔を覗き込んだ。
「こういうのは慣れてるからね。にしてももう何枚書いたか……」
 差し出された紅茶に口を付けながら、南條は書きあがった書類の山を横目に見た。その向こうにはソナが患者に実際使った薬や薬草などのリストが倍以上の束で置かれている。
「そっちも頑張ってるじゃないか。こう入れ替わりが早いと、やってることに意味あるのかわからなくなるけど」
「確かに、薬の使用が早すぎて、最初に確認した在庫表はもう真っ黒で7回くらい取り換えましたねぇ」
 ソナはお盆を胸に抱えて苦笑した。その手はインクの汚れが残ったままだ。数時間ごとに患者が変わっていくものだからソナの部屋管理などもだいぶん苦労した。
「でも、こんなたくさんの人が救えて良かったって、医療スタッフもすごく喜んでましたね」
「人助けで喜べる人間ってのはホント尊いねぇ。南條さんは目眩がするよ」
 南條が自らのこめかみをグリグリする様子をソナは笑ってみていた。

 病室では。
 庭先に設置した煮沸用の大瓶の前で火の番をする文挟の琵琶の音色が響いていた。
「遠くの異朝をとぶらえば……。民間の愁ふるところを知らざつしかば、久しからずして、亡じにし者どもなり」
 ときに寂しく、 時に熱く、ときに哀しく、または重々しく。鬼の語る琵琶の語りは静かに進んでいく。それを聞いている人がいるのかどうかはわからないが、冬も近いこの時季、虫の音色も寝息も、さりとて抗議の声も聞こえてはこない。
「綺麗な音色だね」
 ひと段落して、水の沸き立つ音だけが響く中で不意にカフカの声が聞こえた。
「この窓の向こうには青い顔した連中がいるってんでね。気を紛らわすに音もいいかなと思ってさ」
「……大正解じゃないかな。夜が来る毎にうなされる人が何人もいるって聞いてたけど、みんな静かにしているよ」
「そっか、そりゃ嬉しい限りだねぇ! あっしは仁術なんて縁も所縁もなくて、雑貨屋するぐらいが精いっぱい。それでも役に立てるってんだからさ」
 文挟は思わず破顔すると、グリグリと煮沸した包帯をかき混ぜた。
「これ、ずっとやってるのかい?」
「ここまで面倒見れるほど手は足りてないんだ。しゃーないさ」
 苦笑いする彼女にカフカはまたむっとした顔をすると、そのまま文挟が使っていた椅子を奪い取って座り込んだ。
「琵琶を聴いてたら僕も一曲練習したくなった」
 ツンとした顔のカフカに文挟はしばしぽかんとしていたが、くつくつと笑うと、それじゃ一曲頼もうかねぇと言うと準備されたテントに潜り込んだ。
 そして笛の高く静かな音が響き渡る。


「これで、大丈夫」
 縫合糸を切って、汗をぬぐったカールは大きく息をついた。
 依頼期間の最終日はヒールも早くから使い切り、最後に駆け込んできた筋膜まで断裂した患者にはカールが手術であたっていた。
「重体患者部屋へ。後でヒールをかけてあげてください」
 カールはそう言うとゴミ袋をまとめて立ち上がった。血や薬の後でドロドロだったが、もう転移門まで送ってくれる魔導車はもう迎えに来ているため着替える時間もない。他のメンバーも同様だった。
 何度も急患受け入れが続き、睡眠時間の確保もギリギリで身体を拭き清めるのが精いっぱいの一同の髪はばさばさだったし、寝心地の良い場所もなかったため疲労の色は濃い。エアルドフリスなど愛用のパイプをしばらく忘れて大慌てしているほどだった。
「いやぁ、さすがにキツかった……」
「兵士の人からラブレターもらったんですけど、これどうしたら」
「それみんなに渡してるんじゃない? 私も貰った」
 ソナとイリアは同じ手紙を見て、噴き出して笑った。相変わらず入れ替わりが激しいが、徐々に落ち着きを見せているようにも感じる。兵士たちの症状も少しばかりマシなものが増えた。
「次の受け入れは……」
「はい、準備できてます!」
 まだ医療スタッフは別れの挨拶もできないほどに相も変わらず動き回っている。だが、そんな彼らも最初に来た時よりかはずっと足取りが軽いし、グダグダな様子は見られない。
「これからも多くの人を救うことができますように」
 穂香は手を組んで小さく祈りをささげた。
「それでは失礼します。適度に一息入れてくださいね」
 ユージーンがそう言った瞬間。
 慌ただしかった施療院の動きがピタリと止まり、次の瞬間窓という窓、扉という扉から兵士やら医療スタッフが全員身を乗り出した。
「「あーりーがとーーおーーーーーっ」」
 あ、数人窓から落ちた。
 そんな彼らもずっと手を振ってくれる。
「ユージーンの手料理忘れないぜーっ」
「妹想い兄ちゃんもさんきゅーーーっ」
「最後まで言うか!?」
 笑い声と歓声がいつまでも響く。

 いつ終わるのか、体力がもつのか心配な依頼だったが。今はやって良かったと思える。
 これからも施療院は戦い続けるが、ハンターが来てこうして助けてくれた1ページはとても大切な日になったことであろう。

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 月氷のトルバドゥール
    カフカ・ブラックウェル(ka0794
    人間(紅)|17才|男性|魔術師
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • はるかな理想を抱いて
    ユージーン・L・ローランド(ka1810
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • はじめての友達
    カール・フォルシアン(ka3702
    人間(蒼)|13才|男性|機導師

  • イリア=シルフィード(ka4134
    エルフ|24才|女性|聖導士
  • 浄化の兎
    明王院 穂香(ka5647
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 豪放なる慈鬼
    文挟 ニレ(ka5696
    鬼|23才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 施療院26時【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/11/14 02:04:40
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/10 20:59:47