ゲスト
(ka0000)
【闇光】ガーフリート・ワー=エーシュ 前
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/16 15:00
- 完成日
- 2015/11/25 00:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●要撃
雪原を走る一台の魔導トラック。その車体が突如大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
ハンドルを握っていた帝国兵は目の前の地面が盛り上がり、次々とスケルトンが生まれ出てくるのを見て驚きのままアクセルを強く踏んだ。
しかし、ガクンという強い衝撃と共にトラックは止まり、ただただタイヤがキュルキュルと空回る音がする。
アンダーミラーを見るとフロントバンパーに5体のスケルトンが貼り付いている。――と、炸裂音と共に車体が左前方へと傾いた。
「タイヤをやられた!」
「……んだ? どうした?」
ノイズ音と共に荷台への通信器から現状を問う声に、助手席にいた兵士は覚醒しながらマイクを手に取った。
「スケルトンとゾンビの群れに囲まれました! 交戦準備お願いします!!」
その応答を聞いた荷台部分で待機していた者達は直ぐに武器を取り車外へ飛び出した。
「何としてもイズン副長が到着されるまで持たせるぞ!」
「スケルトンソルジャーか」
兵士の1人が忌々しそうに呟いた。
甲冑に身を固め、各々が長剣、斧、槍、メイスと様々な武器を持って襲いかかってくる。
数にして20体近くいるが、動きはさほど速くは無く、射撃武器を持った個体もいないのが唯一の救いだった。
もう一種、見た事のない大型ゾンビが7体ほどのしのしと歩いている。
縦にも横にもギリギリ2mに届かない程度の巨体だが、最も奇異なのはその膨らんだ腹部だった。
時折、どたどたと走っては、体当たりをしたり、その巨体で押しつぶそうとしてくる。
「なんだ、こいつは……」
ライフル銃で狙いを付けて撃ち続ける。
仲間の援護攻撃も何度か当たり、そのゾンビの動きが止まった。
――次の瞬間、爆発した。
「っ!?」
周囲に誰もいなかったから良かったものの、下手をすると味方を巻き込みかねない。
「爆発に巻き込まれないように、各自散開しながら戦え!」
弾を手早くリロードすると、仲間を襲おうとしているスケルトンに向かって引き金を引いた。
●掩護へ
「先導車より通信です。現在、暴食系歪虚の軍勢と交戦中、至急応援をとの事です」
「状況を報告しなさい!」
部下の持つ伝話をひったくるように奪って問うと、向こう側の兵士はひぃっと情けない声を上げてイズン・コスロヴァ(kz0144)へと釈明を始める。
「突然、地面から湧いてきたんです! スケルトンがいっぱいと……やたらと腹のデカイ大型ゾンビです。こいつ、爆発する……うわぁっ!!」
「どうした? 応答しろ! ……っち」
イズンの思わず漏れた舌打ちとその苦々しそうな顔に、側近のドワーフ兵の青年はトラクターのハンドルを握ったまま大体の状況を把握した。
「どうしますか? 今なら迂回することも可能です」
「……先導車には兵も食糧もあります。救えるのなら救いたい」
「では、進路は変えずこのまま行きますね」
青年の言葉に冷静を取り戻したイズンは静かに頷くと、トラクターに搭載されているトランシーバーを取った。
「イズンです。先導車がスケルトンとゾンビの群れと交戦中です。決してこの車両に奴らを近付けない為にも、こちらから討って出ます。各自準備に入って下さい」
トレーラーのコンテナ内で待機していた帝国兵とハンター達へと連絡を入れると同時に3台は緩やかに止まった。
直線距離にして300m程先に傾いだトラックの背面とその周囲で戦う者達の姿が見えた。
「……万が一の時には、わたし達を置いて逃げて下さい。何があっても、これを前線に届け無ければなりませんから」
イズンの言葉に、青年兵は「はい」と頷いた。
「……行きます!」
イズンが銃を構えて走り出すと同時に、兵とハンター達も各々戦場へと向かっていった。
●回想
突然の呼び出しはいつものことだが、久しぶりに師団長であるヴァーリの工房へと足を踏み入れたイズンは、目の前に鎮座する魔導アーマーと『試作品』を見て目を見張った。
「……これは……」
「まだ試作段階なんだがな……まぁ、実戦で試してみるのも悪くは無いだろう」
ヴァーリはその巨大な砲台のような武器の一つを差した。
「特にコイツは、構想だけはあったが、今回の北狄が決まってから練魔院の協力を得て急ごしらえで作ったんで、何が起こるかわからん。精々道中暴発しないよう気をつけて行け」
「……名前は?」
「ガーフリート・ワー=エーシュ」
「長いです」
ずばりと言われてヴァーリはぐぬぬ、と唇を噛む。
「では、天華」
「てんか、ですか。こちらは?」
「ファラ……。…………縛裁」
言いかけた名前を引っ込めると、悔しそうにヴァーリは名称を変更した。
「ばくさい。なるほど。天華と縛裁ですね」
「イズン」
「はい」
「何があってもこの魔導アーマーと武器を届けてきて欲しい。たとえ、部下を引き替えにしても。敵の手に渡るようなことがあれば、その時には爆破してでもそれを阻止してくれ」
低い声で、静かにそう告げられて、イズンは背筋を伸ばすと頭を下げた。
「承りました」
雪原を走る一台の魔導トラック。その車体が突如大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
ハンドルを握っていた帝国兵は目の前の地面が盛り上がり、次々とスケルトンが生まれ出てくるのを見て驚きのままアクセルを強く踏んだ。
しかし、ガクンという強い衝撃と共にトラックは止まり、ただただタイヤがキュルキュルと空回る音がする。
アンダーミラーを見るとフロントバンパーに5体のスケルトンが貼り付いている。――と、炸裂音と共に車体が左前方へと傾いた。
「タイヤをやられた!」
「……んだ? どうした?」
ノイズ音と共に荷台への通信器から現状を問う声に、助手席にいた兵士は覚醒しながらマイクを手に取った。
「スケルトンとゾンビの群れに囲まれました! 交戦準備お願いします!!」
その応答を聞いた荷台部分で待機していた者達は直ぐに武器を取り車外へ飛び出した。
「何としてもイズン副長が到着されるまで持たせるぞ!」
「スケルトンソルジャーか」
兵士の1人が忌々しそうに呟いた。
甲冑に身を固め、各々が長剣、斧、槍、メイスと様々な武器を持って襲いかかってくる。
数にして20体近くいるが、動きはさほど速くは無く、射撃武器を持った個体もいないのが唯一の救いだった。
もう一種、見た事のない大型ゾンビが7体ほどのしのしと歩いている。
縦にも横にもギリギリ2mに届かない程度の巨体だが、最も奇異なのはその膨らんだ腹部だった。
時折、どたどたと走っては、体当たりをしたり、その巨体で押しつぶそうとしてくる。
「なんだ、こいつは……」
ライフル銃で狙いを付けて撃ち続ける。
仲間の援護攻撃も何度か当たり、そのゾンビの動きが止まった。
――次の瞬間、爆発した。
「っ!?」
周囲に誰もいなかったから良かったものの、下手をすると味方を巻き込みかねない。
「爆発に巻き込まれないように、各自散開しながら戦え!」
弾を手早くリロードすると、仲間を襲おうとしているスケルトンに向かって引き金を引いた。
●掩護へ
「先導車より通信です。現在、暴食系歪虚の軍勢と交戦中、至急応援をとの事です」
「状況を報告しなさい!」
部下の持つ伝話をひったくるように奪って問うと、向こう側の兵士はひぃっと情けない声を上げてイズン・コスロヴァ(kz0144)へと釈明を始める。
「突然、地面から湧いてきたんです! スケルトンがいっぱいと……やたらと腹のデカイ大型ゾンビです。こいつ、爆発する……うわぁっ!!」
「どうした? 応答しろ! ……っち」
イズンの思わず漏れた舌打ちとその苦々しそうな顔に、側近のドワーフ兵の青年はトラクターのハンドルを握ったまま大体の状況を把握した。
「どうしますか? 今なら迂回することも可能です」
「……先導車には兵も食糧もあります。救えるのなら救いたい」
「では、進路は変えずこのまま行きますね」
青年の言葉に冷静を取り戻したイズンは静かに頷くと、トラクターに搭載されているトランシーバーを取った。
「イズンです。先導車がスケルトンとゾンビの群れと交戦中です。決してこの車両に奴らを近付けない為にも、こちらから討って出ます。各自準備に入って下さい」
トレーラーのコンテナ内で待機していた帝国兵とハンター達へと連絡を入れると同時に3台は緩やかに止まった。
直線距離にして300m程先に傾いだトラックの背面とその周囲で戦う者達の姿が見えた。
「……万が一の時には、わたし達を置いて逃げて下さい。何があっても、これを前線に届け無ければなりませんから」
イズンの言葉に、青年兵は「はい」と頷いた。
「……行きます!」
イズンが銃を構えて走り出すと同時に、兵とハンター達も各々戦場へと向かっていった。
●回想
突然の呼び出しはいつものことだが、久しぶりに師団長であるヴァーリの工房へと足を踏み入れたイズンは、目の前に鎮座する魔導アーマーと『試作品』を見て目を見張った。
「……これは……」
「まだ試作段階なんだがな……まぁ、実戦で試してみるのも悪くは無いだろう」
ヴァーリはその巨大な砲台のような武器の一つを差した。
「特にコイツは、構想だけはあったが、今回の北狄が決まってから練魔院の協力を得て急ごしらえで作ったんで、何が起こるかわからん。精々道中暴発しないよう気をつけて行け」
「……名前は?」
「ガーフリート・ワー=エーシュ」
「長いです」
ずばりと言われてヴァーリはぐぬぬ、と唇を噛む。
「では、天華」
「てんか、ですか。こちらは?」
「ファラ……。…………縛裁」
言いかけた名前を引っ込めると、悔しそうにヴァーリは名称を変更した。
「ばくさい。なるほど。天華と縛裁ですね」
「イズン」
「はい」
「何があってもこの魔導アーマーと武器を届けてきて欲しい。たとえ、部下を引き替えにしても。敵の手に渡るようなことがあれば、その時には爆破してでもそれを阻止してくれ」
低い声で、静かにそう告げられて、イズンは背筋を伸ばすと頭を下げた。
「承りました」
リプレイ本文
●襲撃
――時は遡る。
荷台に設えられた簡易ベッドと木箱で作った椅子の上で、4人のハンター達は各々が身体を休めていた。
龍脈上とはいえ、道無き道を行く為、多少揺れはするが出発してからここまで比較的平和な道中だと言って良かった。
その車体が、まるで大きな段差を乗り越えた時のような振動が襲った。
「だっ!?」
メンバー中、最も体重の軽いアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が一瞬浮き上がり、尻餅をつく。
その次には一同が慣性の法則に従って進行方向へ身体を引っ張られ、転ばされた。
さらに炸裂音と共に車体が傾く。
ギュルルルとタイヤの空回る音に、いち早く体勢を整えた柊 真司(ka0705)が素早く防寒ジャケットを手にとりながら通信器に手を伸ばす。
「なんだ? どうした?」
嫌な予感にボルディア・コンフラムス(ka0796)も跳ね起きるとジャケットを羽織るとヒュベリオンの柄を掴む。
倒れ込んできたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の豊満な胸に押しつぶされていたアウレールも、窒息しかけたのと目の前の白い柔肌に顔を真っ赤にして言葉にならない声を発していたが、次の言葉を聞いてさっと我に返った。
「スケルトンとゾンビの群れに囲まれました! 交戦準備お願いします!!」
「エンジンを切って脱出するんだ」
運転手に向けて真司が飛ばす指示を背にしてアデリシアは飛び出すと、傾いだトラックのキャビンの上に飛び乗り、周囲をぐるりと見渡した。
トラックを襲った個体は5体のスケルトンだが、それ以外は自分達の進行方向から龍脈の脇に沿って地面から湧いて出てきたようだ。遠くはおおよそ100m向こうから、さび色の甲冑に身を包んだスケルトン達、そして異様に腹部の腫れた巨大ゾンビが徐々にこちらへと距離を縮めてきていた。
「たまたま張った網にかけられたのか、それとも待ち伏せされたのか……?」
アデリシアは肺をも凍らせるような冷気を胸一杯に吸い込むと、祈りを聖なる光に変えて放った。
「チッ……このクソ寒ぃ中駆り出させやがって……。おいテメェ等、少しは楽しませてくれンだろうな?」
ボルディアはまずタイヤに貼り付いていたスケルトンへと駆け寄り脳天へと刃を叩き付ける。
真司がナグルファルのエンジンを掛けた横を、ゴースロンと共にアウレールが飛び出していく。
「なるほど、此処は雪の下までまさしく敵地というわけか……!」
フロントに貼り付いているスケルトン達を一度に貫き、こちらへと近付いて来る敵を暗い瞳で一瞥したアウレールは、うっすらとその口元に笑みを浮かべ、再び刺突の構えを取った。
真司がわざとトラックから離れ、走り寄ってくるゾンビを惹き付け攻撃していく。
しかし、現状トラックの傍にメンバーが多い為、ほとんどの敵がトラックへと近付いていく。
それでも1番近くにいたスケルトンの一体が真司の方へ道を逸れたのを見て、やはり生体マテリアルを追っているという説が有力であると予測する。
「みんな、なるべくトラックから離れて攻撃を!」
トランシーバーでアウレールへそう呼びかけると、ゾンビへ一撃入れて距離を取ったその背後でゾンビが爆発した。
「……おいおい」
誰も巻き込まなかったから良かったものの、ゾンビを中心に周囲2m程の積雪が吹き飛び地肌が見えるのを見て真司は嫌な汗が出るのを感じた。
●分断
「……行きます!」
走り出そうとしたイズンの手を紫月・海斗(ka0788)が掴んで引き留める。
「あー、オイ待てイズンちゃんよ、オメェは突っ込むんじゃねぇ」
碧の瞳に思い切り睨まれ、海斗はまぁまぁと宥める。
「ちと落ち着けな。万一、物資を諦めて逃げる場合お前さんが居ると居ないじゃ大違いなのよ。だからオメェは此処で待機だ」
俺と一緒にな、とウィンクしてみせる。
「ボクもイズンさんには帝国兵と共にトラクターの最終防衛としていてもらいたい」
「考え過ぎかもしれないですけど、前方の敵が囮ということもあり得ると思います。イズンさん達はトレーラの護衛に専念して頂けませんか? あっちは私達にまかせてください!」
テノール(ka5676)と榎本 かなえ(ka3567)にもそう言われるが、それでもまだ了承出来ない様子のイズンを見て、テノールは一歩イズンへと近付くと双眼鏡を手渡して告げる。
「キツイ事を押し付けるけれど」
・トラックの物資を見捨てる
・トラック側の人員を見捨てる
・ハンターを見捨てる
一つ一つ挙げる度に指を起こしてテノールは真っ直ぐにイズンの瞳を見た。
「各状況の線を引く判断は指揮官である貴方にしか出来ない事なんだ。お願いしてもいいかな?」
そう告げることによって、漸くイズンの柳眉が下がった。
「……わかりました。前線の救出活動は皆さんにお任せします」
テノールから双眼鏡を受け取り、「ご武運を」と告げれば、テノールは満足そうに唇を持ち上げた。
「任せろ」
一足先に白金 綾瀬(ka0774)が先陣を切ってゲイルで走り出し、その後にかなえがスタートした。
テノールはゴースロンに跨がると、手を差し伸べて央崎 遥華(ka5644)を引き上げる。
「じゃぁ、こっちはよろしくね」
「あぁ、そっちも気をつけて、な」
「おぉ、頑張ってなー」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)と海斗に見送られ、テノールは愛馬に走るよう合図を送った。
単独行動は避けた方がいいだろうと、綾瀬はかなえの速度に合わせてバイクを併走させる。
かなえは、それを申し訳無く思い、逸る気持ちもあった。しかしそれ以上に愛馬が走りにくそうにしているのを感じてその首筋を撫でた。乗用馬は戦闘には向かない。この負のマテリアルに満ちた雪原はやはり少し酷だったのだろうかと不安になった。
その時、真っ直ぐに走っていた愛馬が、突然“何かを避けるように”大きくジャンプした。
「きゃぁっ!? な、何??」
慌てて振り返るがそこにはただ白い雪。
「どうしたの?」
綾瀬がかなえを振り返り、かなえがそれに答えようと顔を向けて表情をこわばらせた。
「綾瀬さん! 前!!」
「!?」
10m程前からスケルトンソルジャーが3体現れ、ずるずると斧の刃、剣の刃で雪面に疵を付けながら、槍を正面に構えながら、二人へと近付いて来ていた。
すぐに綾瀬が『狂乱せしアルコル』を構え、トランシーバーを肩と頬で挟みながらオウカへと連絡を入れる。
「前方から敵出現!」
さらにその先からもスケルトンと巨大ゾンビの姿を見つけ、綾瀬は心の中で舌打ちをした。
「……分かった。いや、こちらには来ていない。向かおう」
トレーラの上から周囲を警戒していたオウカはスケルトン達と対峙することになった綾瀬とかなえの姿を肉眼で捕らえていた。
「ここからなら、俺達が出向いた方が、早い」
「あー……そう、だな。ゾンビだけでも向こうで片付けないと、こっちまで来ちゃ大変だ」
海斗は残った兵達に周囲へ、また足元への警戒を提言してイズンを見た。
「つーことで、俺達ちょっと行ってくるけど、何かあったらすぐ呼んでね?」
トラックに備え付けてあるトランシーバーを指し、海斗は精霊馬に跨がるとオウカの背にぴったりと貼り付く。
「うーん、美人なおねーちゃんがよかったなぁ」
「……不満があるなら、降りても良い、ぞ」
「お気を付けて」
イズンの言葉に海斗は片手をひらりと振って応え、オウカはそれを合図にフルスロットルでバイクを走らせた。
遥華はスケルトンを射程に捕らえると同時にマジックアローを射た。
思わずバランスを崩しそうになるが、それはテノールが支えて事なきを得る。
「スケルトン10体に爆発ゾンビ3体か……こいつら、ボクらの前から湧いて出てきたけど、何なの?」
追いついたテノールと遥華に、かなえは自信なさげに答える。
「……馬が、突然跳ねたんです。もしかしたら、地面に罠があったのかもしれません」
言いつつかなえは魔導銃でスケルトンを撃つ。
「……地雷型の罠、だったんでしょうか。確かにほとんどが龍脈の脇から湧いて来ていますし、そこを通る得物を待ち伏せていた可能性もありますね」
遥華も同じスケルトンに向けて魔力の矢を放つ。腸骨が砕けてその場に崩れ落ちると塵となって消えていく。
「まぁ、考えても仕方が無い……白金さんは?」
かなえと遥華の推測を聞きながら、ふと周囲を見回す。
「先に前へ行って頂きました。綾瀬さんなら迂回しても遠距離からの狙撃が可能ですし」
後ろから魔導エンジンの排気音が近付いて来て、「ほっ」という軽いかけ声と共に海斗が飛び降りた。
「おー、怖い。振り落とされるかと思った……やっぱバイクの2人乗りは危険だなぁ」
「遅くなった、な。……白金、は?」
「先に行って頂きました」
その言葉を聞いて、オウカは静かに頷いた。
「あとは、俺と、紫月で」
「なら、私も。もともとトレーラ側から救援要請が来たら急行するつもりでしたし」
相談しながらも各々手を止めず、攻撃を仕掛けていく。遠距離攻撃が可能な遥華とオウカが走ってきたゾンビへ攻撃を放ち、更にテノールが気候波を入れる。と、限界最大距離と思われる位置から綾瀬が撃った銃弾にゾンビが周囲のスケルトンを巻き込みながら爆発した。
「うわっ!?」
爆風に全員が思わず顔を背けた。風が落ち着いて顔を上げれば、クレーター状に積雪がえぐれているうえに、周囲にいたスケルトンの姿も消えていた。
「……これであと5体と1体。まぁ、3人いればなんとかなるでしょ」
海斗がテノールの馬の尻をパチンと叩いた。
「……分かった、後は任せた」
テノールは前脚を浮かせた愛馬を手綱を操って沈め、遥華を乗せて走り始めた。
「……ふぅ、何とか一体はやれたわね」
ゾンビが爆発したのを肉眼で確認し、さらにスコープ越しにトラックへと走り出した馬の姿を見て、綾瀬は念のためにリロードをしてからエンジンをふかせた。
もう少し進めば、トラックを襲っているゾンビ達を射程距離に捕らえることが可能となる。
「もう少し堪えてね」
綾瀬はグリップをギリリと握り締めながら走り出した。
●防衛
トラックに貼り付いていた5体を退治すると、4人はそれぞれ一定の距離を保ちながら徐々にトラックから離れながら戦っていた。また、帝国兵の3人も三位一体となり善戦していた。
ゾンビの姿を捕らえてアデリシアが歌を紡ぐと、そこを真司が炎で焼き払い、再び距離を取る。
ボルディアは赤黒い炎のようなオーラを全身から立ち上らせ、それを周囲にぶつけるようにスケルトンを薙ぎ払って行く。
アウレールも速力を活かしてスケルトンの群れへと身を投じると一気に薙ぎ払って行く。しかし、スケルトンの向こうから走り寄るゾンビに気付いた時には、避けきれない距離になっていた。アウレールは盾を構えて衝撃に備えた。
予想以上の大きな衝撃にアウレールは落馬し、さらに自分へと詰め寄る巨体へ槍を構えて睨み付ける。
「伏せて!」
アデリシアのワイヤーウィップがアウレールを踏みつけようとした足へと絡む。切断するまでは至らなかったが、そのまま巨体はバランスを崩して倒れた。
その間にアウレールは体勢を整え、脇に待機していたゴースロンへ飛び乗ると距離を取る。
「すまない、助かった」
「お互い様です」
スケルトンはほぼほぼ物理で殴れば良いので徐々に数を減らすことに成功して行ったが、逆に巨体ゾンビの爆発を恐れ攻撃を後回しにした結果、最初の1体以外倒せていない。
また自己回復を持って来ているボルディア以外も徐々に傷が増えてきていた。
「……やるしかねぇか」
ボルディアは体から火柱のようなオーラを放ち、その炎を体内へと再び取り入れる。
犬耳と尻尾はぴんと立ち、赤黒い炎のオーラを迸らせ、ボルディアはふるふると頭部を犬のように振った。
「まず、テメェだ!」
ボルディアに向かって走り寄ってくるゾンビに向かって迎え撃つようにボルディアが走り寄り、逆袈裟にハルバードで斬り付けるとそのまま駆け抜けるようにして距離を持つ。
「加勢する!」
真司もゾンビ3体を纏めてデルタレイで狙い撃つ。
接近してきたボルディアに、ゾンビは腐乱した頬肉を引き上げ、口を開けた。ねちゃり、と唾液なのか体液なのかわからない液体が糸を引き、黄色く変色して不揃いな歯列が見えた。
「……ハッ。いっちょまえに嗤ってやがるのかよ!」
中々来ない援軍に、ボルディアは徐々に焦りを募らせる。嫌な予感がする。もしかして、この襲撃がただの囮だったら……本命がトラクタなんじゃないか……
「ボルディア!」
そんなボルディアの焦りが一瞬の隙を生んだ。気付いた時には別のゾンビがボルディアの目の前に接近しており、ボルディアは無防備なままラリアットの要領で地面へと叩き付けられた。
真司がバイクを回して倒れたボルディアを無理矢理抱えて掻っ攫う。
そこへ、一発の銃弾がゾンビのこめかみを撃ち抜くと同時にゾンビが爆発した。
隣にいたゾンビも巻き込まれ同じく爆発する。
「……間に合ってよかった……」
真司がほっとしたように息を吐いた。
「真司? 大丈夫?」
トランシーバーからは綾瀬の声。
「あぁ、大丈夫だ、ナイスヒット、綾瀬」
「じゃぁ、ゾンビから狙い撃っていくわ」
頼もしい綾瀬の宣言と共に通信が切れる。
「……あーっと、面倒かけた、ごめん。大丈夫だ、自分で立てる」
「あぁ! すまない」
抱きかかえたままだったボルディアを下ろすと、ボルディアは早速自己治癒を始める。
「漸く援軍到着、か」
ボルディアの視線の先には丁度馬から下りた遥華と、アウレールとなにやら言い合っているテノールの姿があった。
●濁穢
奇しくも残った3人とも機導師だった。そして3人ともが銃を装備していたのも、遠近両方の攻撃を可能にしていた。
「きゃぁっ!」
その中で、真っ先に狙われたのはかなえだった。
「ちょっと、か弱い女の子を狙うのはオジサン、許せないなぁっ!」
ジェットブーツで一気に距離を縮めながら雷撃を放つと、次いでオウカが銃撃で骨粉へと還す。
「大丈夫、か?」
「はい、まだ、やれます」
スケルトン側も最初こそ数で押して来ていたが、それでも冷静に一体ずつ確実に倒していけば、3人の敵ではなかった。
また、3人が3人とも防御障壁を使えたのも防御力を高め、体力の維持に繋がった。
巨大ゾンビが走り寄ってくるのを冷静にオウカは避けると、その腹部を狙って銃撃を放つ。
しかし、多少傷を付けたぐらいでは爆発されてはくれないらしい。
かなえの銃弾も確かにゾンビの肩に吸い込まれたはずだが、その動きに変化は無い。
海斗は足へと狙いを定めて銃撃を放つが、胴体と違いなかなかに当たらない。
そうこうしていると、くるりと急に方向転換をして海斗に向かって無造作なグーパンチが突き出された。
「っ!?」
咄嗟に両腕でガードしたが、それを突き破るような重い拳に決して軽くは無い海斗の体が吹き飛んだ。
これ以上海斗に攻撃をさせない為にオウカが機導砲を放ち、自分の方へと大型ゾンビを誘導する。
ゾンビが走り寄ってくる。オウカは再度機導砲を放つ。それを腹部に受け止めたゾンビの顔から表情が消えたようにオウカには見えた。
「そうはさせん、ぞ……!」
咄嗟に【月守之盾】を展開し、混元傘を広げると、オウカはその爆発に身構えた。
●雪花
「おーい、無事かー?」
トランシーバー越しに真司の声が響く。
「あーい、なんとか無事よー」
海斗がぐったりと雪原に大の字に寝転びながら答える。
「トラックは無事よ。物資に大きなダメージも無いわ」
綾瀬の冷静な報告を受けてイズンは唇を引き締める。
「人的被害は?」
「あー、誰かのせいで頭が痛い」
「頭が悪いの間違いじゃ無いのか」
「あぁ?」
「あぁ?」
「……やめろよお前等、ガキじゃねぇんだから」
ボルディアがアウレールとテノールの間に入って溜息を吐いた。
その様子を見てアデリシアと遥華は顔を見合わせて穏やかに笑った。
「……たいした事は、ない、な」
オウカがイズンに答え、かなえは白い息を吐きながら空を見上げた。
晴れ間を見せない分厚い曇天の空からは再び白い花弁が舞い始めていた。
全ての音を吸い込んでしまいそうな静寂の世界で、彼らと彼らが守った者だけが息をしていた。
――時は遡る。
荷台に設えられた簡易ベッドと木箱で作った椅子の上で、4人のハンター達は各々が身体を休めていた。
龍脈上とはいえ、道無き道を行く為、多少揺れはするが出発してからここまで比較的平和な道中だと言って良かった。
その車体が、まるで大きな段差を乗り越えた時のような振動が襲った。
「だっ!?」
メンバー中、最も体重の軽いアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が一瞬浮き上がり、尻餅をつく。
その次には一同が慣性の法則に従って進行方向へ身体を引っ張られ、転ばされた。
さらに炸裂音と共に車体が傾く。
ギュルルルとタイヤの空回る音に、いち早く体勢を整えた柊 真司(ka0705)が素早く防寒ジャケットを手にとりながら通信器に手を伸ばす。
「なんだ? どうした?」
嫌な予感にボルディア・コンフラムス(ka0796)も跳ね起きるとジャケットを羽織るとヒュベリオンの柄を掴む。
倒れ込んできたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の豊満な胸に押しつぶされていたアウレールも、窒息しかけたのと目の前の白い柔肌に顔を真っ赤にして言葉にならない声を発していたが、次の言葉を聞いてさっと我に返った。
「スケルトンとゾンビの群れに囲まれました! 交戦準備お願いします!!」
「エンジンを切って脱出するんだ」
運転手に向けて真司が飛ばす指示を背にしてアデリシアは飛び出すと、傾いだトラックのキャビンの上に飛び乗り、周囲をぐるりと見渡した。
トラックを襲った個体は5体のスケルトンだが、それ以外は自分達の進行方向から龍脈の脇に沿って地面から湧いて出てきたようだ。遠くはおおよそ100m向こうから、さび色の甲冑に身を包んだスケルトン達、そして異様に腹部の腫れた巨大ゾンビが徐々にこちらへと距離を縮めてきていた。
「たまたま張った網にかけられたのか、それとも待ち伏せされたのか……?」
アデリシアは肺をも凍らせるような冷気を胸一杯に吸い込むと、祈りを聖なる光に変えて放った。
「チッ……このクソ寒ぃ中駆り出させやがって……。おいテメェ等、少しは楽しませてくれンだろうな?」
ボルディアはまずタイヤに貼り付いていたスケルトンへと駆け寄り脳天へと刃を叩き付ける。
真司がナグルファルのエンジンを掛けた横を、ゴースロンと共にアウレールが飛び出していく。
「なるほど、此処は雪の下までまさしく敵地というわけか……!」
フロントに貼り付いているスケルトン達を一度に貫き、こちらへと近付いて来る敵を暗い瞳で一瞥したアウレールは、うっすらとその口元に笑みを浮かべ、再び刺突の構えを取った。
真司がわざとトラックから離れ、走り寄ってくるゾンビを惹き付け攻撃していく。
しかし、現状トラックの傍にメンバーが多い為、ほとんどの敵がトラックへと近付いていく。
それでも1番近くにいたスケルトンの一体が真司の方へ道を逸れたのを見て、やはり生体マテリアルを追っているという説が有力であると予測する。
「みんな、なるべくトラックから離れて攻撃を!」
トランシーバーでアウレールへそう呼びかけると、ゾンビへ一撃入れて距離を取ったその背後でゾンビが爆発した。
「……おいおい」
誰も巻き込まなかったから良かったものの、ゾンビを中心に周囲2m程の積雪が吹き飛び地肌が見えるのを見て真司は嫌な汗が出るのを感じた。
●分断
「……行きます!」
走り出そうとしたイズンの手を紫月・海斗(ka0788)が掴んで引き留める。
「あー、オイ待てイズンちゃんよ、オメェは突っ込むんじゃねぇ」
碧の瞳に思い切り睨まれ、海斗はまぁまぁと宥める。
「ちと落ち着けな。万一、物資を諦めて逃げる場合お前さんが居ると居ないじゃ大違いなのよ。だからオメェは此処で待機だ」
俺と一緒にな、とウィンクしてみせる。
「ボクもイズンさんには帝国兵と共にトラクターの最終防衛としていてもらいたい」
「考え過ぎかもしれないですけど、前方の敵が囮ということもあり得ると思います。イズンさん達はトレーラの護衛に専念して頂けませんか? あっちは私達にまかせてください!」
テノール(ka5676)と榎本 かなえ(ka3567)にもそう言われるが、それでもまだ了承出来ない様子のイズンを見て、テノールは一歩イズンへと近付くと双眼鏡を手渡して告げる。
「キツイ事を押し付けるけれど」
・トラックの物資を見捨てる
・トラック側の人員を見捨てる
・ハンターを見捨てる
一つ一つ挙げる度に指を起こしてテノールは真っ直ぐにイズンの瞳を見た。
「各状況の線を引く判断は指揮官である貴方にしか出来ない事なんだ。お願いしてもいいかな?」
そう告げることによって、漸くイズンの柳眉が下がった。
「……わかりました。前線の救出活動は皆さんにお任せします」
テノールから双眼鏡を受け取り、「ご武運を」と告げれば、テノールは満足そうに唇を持ち上げた。
「任せろ」
一足先に白金 綾瀬(ka0774)が先陣を切ってゲイルで走り出し、その後にかなえがスタートした。
テノールはゴースロンに跨がると、手を差し伸べて央崎 遥華(ka5644)を引き上げる。
「じゃぁ、こっちはよろしくね」
「あぁ、そっちも気をつけて、な」
「おぉ、頑張ってなー」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)と海斗に見送られ、テノールは愛馬に走るよう合図を送った。
単独行動は避けた方がいいだろうと、綾瀬はかなえの速度に合わせてバイクを併走させる。
かなえは、それを申し訳無く思い、逸る気持ちもあった。しかしそれ以上に愛馬が走りにくそうにしているのを感じてその首筋を撫でた。乗用馬は戦闘には向かない。この負のマテリアルに満ちた雪原はやはり少し酷だったのだろうかと不安になった。
その時、真っ直ぐに走っていた愛馬が、突然“何かを避けるように”大きくジャンプした。
「きゃぁっ!? な、何??」
慌てて振り返るがそこにはただ白い雪。
「どうしたの?」
綾瀬がかなえを振り返り、かなえがそれに答えようと顔を向けて表情をこわばらせた。
「綾瀬さん! 前!!」
「!?」
10m程前からスケルトンソルジャーが3体現れ、ずるずると斧の刃、剣の刃で雪面に疵を付けながら、槍を正面に構えながら、二人へと近付いて来ていた。
すぐに綾瀬が『狂乱せしアルコル』を構え、トランシーバーを肩と頬で挟みながらオウカへと連絡を入れる。
「前方から敵出現!」
さらにその先からもスケルトンと巨大ゾンビの姿を見つけ、綾瀬は心の中で舌打ちをした。
「……分かった。いや、こちらには来ていない。向かおう」
トレーラの上から周囲を警戒していたオウカはスケルトン達と対峙することになった綾瀬とかなえの姿を肉眼で捕らえていた。
「ここからなら、俺達が出向いた方が、早い」
「あー……そう、だな。ゾンビだけでも向こうで片付けないと、こっちまで来ちゃ大変だ」
海斗は残った兵達に周囲へ、また足元への警戒を提言してイズンを見た。
「つーことで、俺達ちょっと行ってくるけど、何かあったらすぐ呼んでね?」
トラックに備え付けてあるトランシーバーを指し、海斗は精霊馬に跨がるとオウカの背にぴったりと貼り付く。
「うーん、美人なおねーちゃんがよかったなぁ」
「……不満があるなら、降りても良い、ぞ」
「お気を付けて」
イズンの言葉に海斗は片手をひらりと振って応え、オウカはそれを合図にフルスロットルでバイクを走らせた。
遥華はスケルトンを射程に捕らえると同時にマジックアローを射た。
思わずバランスを崩しそうになるが、それはテノールが支えて事なきを得る。
「スケルトン10体に爆発ゾンビ3体か……こいつら、ボクらの前から湧いて出てきたけど、何なの?」
追いついたテノールと遥華に、かなえは自信なさげに答える。
「……馬が、突然跳ねたんです。もしかしたら、地面に罠があったのかもしれません」
言いつつかなえは魔導銃でスケルトンを撃つ。
「……地雷型の罠、だったんでしょうか。確かにほとんどが龍脈の脇から湧いて来ていますし、そこを通る得物を待ち伏せていた可能性もありますね」
遥華も同じスケルトンに向けて魔力の矢を放つ。腸骨が砕けてその場に崩れ落ちると塵となって消えていく。
「まぁ、考えても仕方が無い……白金さんは?」
かなえと遥華の推測を聞きながら、ふと周囲を見回す。
「先に前へ行って頂きました。綾瀬さんなら迂回しても遠距離からの狙撃が可能ですし」
後ろから魔導エンジンの排気音が近付いて来て、「ほっ」という軽いかけ声と共に海斗が飛び降りた。
「おー、怖い。振り落とされるかと思った……やっぱバイクの2人乗りは危険だなぁ」
「遅くなった、な。……白金、は?」
「先に行って頂きました」
その言葉を聞いて、オウカは静かに頷いた。
「あとは、俺と、紫月で」
「なら、私も。もともとトレーラ側から救援要請が来たら急行するつもりでしたし」
相談しながらも各々手を止めず、攻撃を仕掛けていく。遠距離攻撃が可能な遥華とオウカが走ってきたゾンビへ攻撃を放ち、更にテノールが気候波を入れる。と、限界最大距離と思われる位置から綾瀬が撃った銃弾にゾンビが周囲のスケルトンを巻き込みながら爆発した。
「うわっ!?」
爆風に全員が思わず顔を背けた。風が落ち着いて顔を上げれば、クレーター状に積雪がえぐれているうえに、周囲にいたスケルトンの姿も消えていた。
「……これであと5体と1体。まぁ、3人いればなんとかなるでしょ」
海斗がテノールの馬の尻をパチンと叩いた。
「……分かった、後は任せた」
テノールは前脚を浮かせた愛馬を手綱を操って沈め、遥華を乗せて走り始めた。
「……ふぅ、何とか一体はやれたわね」
ゾンビが爆発したのを肉眼で確認し、さらにスコープ越しにトラックへと走り出した馬の姿を見て、綾瀬は念のためにリロードをしてからエンジンをふかせた。
もう少し進めば、トラックを襲っているゾンビ達を射程距離に捕らえることが可能となる。
「もう少し堪えてね」
綾瀬はグリップをギリリと握り締めながら走り出した。
●防衛
トラックに貼り付いていた5体を退治すると、4人はそれぞれ一定の距離を保ちながら徐々にトラックから離れながら戦っていた。また、帝国兵の3人も三位一体となり善戦していた。
ゾンビの姿を捕らえてアデリシアが歌を紡ぐと、そこを真司が炎で焼き払い、再び距離を取る。
ボルディアは赤黒い炎のようなオーラを全身から立ち上らせ、それを周囲にぶつけるようにスケルトンを薙ぎ払って行く。
アウレールも速力を活かしてスケルトンの群れへと身を投じると一気に薙ぎ払って行く。しかし、スケルトンの向こうから走り寄るゾンビに気付いた時には、避けきれない距離になっていた。アウレールは盾を構えて衝撃に備えた。
予想以上の大きな衝撃にアウレールは落馬し、さらに自分へと詰め寄る巨体へ槍を構えて睨み付ける。
「伏せて!」
アデリシアのワイヤーウィップがアウレールを踏みつけようとした足へと絡む。切断するまでは至らなかったが、そのまま巨体はバランスを崩して倒れた。
その間にアウレールは体勢を整え、脇に待機していたゴースロンへ飛び乗ると距離を取る。
「すまない、助かった」
「お互い様です」
スケルトンはほぼほぼ物理で殴れば良いので徐々に数を減らすことに成功して行ったが、逆に巨体ゾンビの爆発を恐れ攻撃を後回しにした結果、最初の1体以外倒せていない。
また自己回復を持って来ているボルディア以外も徐々に傷が増えてきていた。
「……やるしかねぇか」
ボルディアは体から火柱のようなオーラを放ち、その炎を体内へと再び取り入れる。
犬耳と尻尾はぴんと立ち、赤黒い炎のオーラを迸らせ、ボルディアはふるふると頭部を犬のように振った。
「まず、テメェだ!」
ボルディアに向かって走り寄ってくるゾンビに向かって迎え撃つようにボルディアが走り寄り、逆袈裟にハルバードで斬り付けるとそのまま駆け抜けるようにして距離を持つ。
「加勢する!」
真司もゾンビ3体を纏めてデルタレイで狙い撃つ。
接近してきたボルディアに、ゾンビは腐乱した頬肉を引き上げ、口を開けた。ねちゃり、と唾液なのか体液なのかわからない液体が糸を引き、黄色く変色して不揃いな歯列が見えた。
「……ハッ。いっちょまえに嗤ってやがるのかよ!」
中々来ない援軍に、ボルディアは徐々に焦りを募らせる。嫌な予感がする。もしかして、この襲撃がただの囮だったら……本命がトラクタなんじゃないか……
「ボルディア!」
そんなボルディアの焦りが一瞬の隙を生んだ。気付いた時には別のゾンビがボルディアの目の前に接近しており、ボルディアは無防備なままラリアットの要領で地面へと叩き付けられた。
真司がバイクを回して倒れたボルディアを無理矢理抱えて掻っ攫う。
そこへ、一発の銃弾がゾンビのこめかみを撃ち抜くと同時にゾンビが爆発した。
隣にいたゾンビも巻き込まれ同じく爆発する。
「……間に合ってよかった……」
真司がほっとしたように息を吐いた。
「真司? 大丈夫?」
トランシーバーからは綾瀬の声。
「あぁ、大丈夫だ、ナイスヒット、綾瀬」
「じゃぁ、ゾンビから狙い撃っていくわ」
頼もしい綾瀬の宣言と共に通信が切れる。
「……あーっと、面倒かけた、ごめん。大丈夫だ、自分で立てる」
「あぁ! すまない」
抱きかかえたままだったボルディアを下ろすと、ボルディアは早速自己治癒を始める。
「漸く援軍到着、か」
ボルディアの視線の先には丁度馬から下りた遥華と、アウレールとなにやら言い合っているテノールの姿があった。
●濁穢
奇しくも残った3人とも機導師だった。そして3人ともが銃を装備していたのも、遠近両方の攻撃を可能にしていた。
「きゃぁっ!」
その中で、真っ先に狙われたのはかなえだった。
「ちょっと、か弱い女の子を狙うのはオジサン、許せないなぁっ!」
ジェットブーツで一気に距離を縮めながら雷撃を放つと、次いでオウカが銃撃で骨粉へと還す。
「大丈夫、か?」
「はい、まだ、やれます」
スケルトン側も最初こそ数で押して来ていたが、それでも冷静に一体ずつ確実に倒していけば、3人の敵ではなかった。
また、3人が3人とも防御障壁を使えたのも防御力を高め、体力の維持に繋がった。
巨大ゾンビが走り寄ってくるのを冷静にオウカは避けると、その腹部を狙って銃撃を放つ。
しかし、多少傷を付けたぐらいでは爆発されてはくれないらしい。
かなえの銃弾も確かにゾンビの肩に吸い込まれたはずだが、その動きに変化は無い。
海斗は足へと狙いを定めて銃撃を放つが、胴体と違いなかなかに当たらない。
そうこうしていると、くるりと急に方向転換をして海斗に向かって無造作なグーパンチが突き出された。
「っ!?」
咄嗟に両腕でガードしたが、それを突き破るような重い拳に決して軽くは無い海斗の体が吹き飛んだ。
これ以上海斗に攻撃をさせない為にオウカが機導砲を放ち、自分の方へと大型ゾンビを誘導する。
ゾンビが走り寄ってくる。オウカは再度機導砲を放つ。それを腹部に受け止めたゾンビの顔から表情が消えたようにオウカには見えた。
「そうはさせん、ぞ……!」
咄嗟に【月守之盾】を展開し、混元傘を広げると、オウカはその爆発に身構えた。
●雪花
「おーい、無事かー?」
トランシーバー越しに真司の声が響く。
「あーい、なんとか無事よー」
海斗がぐったりと雪原に大の字に寝転びながら答える。
「トラックは無事よ。物資に大きなダメージも無いわ」
綾瀬の冷静な報告を受けてイズンは唇を引き締める。
「人的被害は?」
「あー、誰かのせいで頭が痛い」
「頭が悪いの間違いじゃ無いのか」
「あぁ?」
「あぁ?」
「……やめろよお前等、ガキじゃねぇんだから」
ボルディアがアウレールとテノールの間に入って溜息を吐いた。
その様子を見てアデリシアと遥華は顔を見合わせて穏やかに笑った。
「……たいした事は、ない、な」
オウカがイズンに答え、かなえは白い息を吐きながら空を見上げた。
晴れ間を見せない分厚い曇天の空からは再び白い花弁が舞い始めていた。
全ての音を吸い込んでしまいそうな静寂の世界で、彼らと彼らが守った者だけが息をしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【質問卓】 柊 真司(ka0705) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/11/15 23:48:00 |
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【相談】試作兵器輸送車防衛 柊 真司(ka0705) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/11/16 11:13:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/13 01:29:56 |