ゲスト
(ka0000)
家族の話をしよう
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/28 07:30
- 完成日
- 2015/12/06 07:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●思いつき
「ねえ、フクカン君」
「何でしょう、シャイネさん!」
「……家族って、どういうものなのかな」
「うーん、私は家族と呼べる人がいませんから、ちょっとわからないです。あ、でもAPVの皆さんは家族みたいに思っていますよ!」
悪いことを聞いてしまったかな、とシャイネが言う前に、明るく笑うフクカン。そんな、第三者から見れば重い話を軽くかわした少しあと。オフィスの一角に、ささやかな張り紙が増えていた。
『今後詩を書くための肥やしに、家族の話をしてもらえないかい? お礼はささやかだけれど。ほんの少しの休息を兼ねて、ハンターの皆の時間を分けてくれたら、嬉しいよ』
●切欠
北筏での作戦に出ていた巫子達が帰還する。その護衛という形ではなかったけれど、シャイネも故郷エルフハイムへと帰ってきていた。
親友エクゼントの妹、デリアが巫子になったことは聞いていて、よくやっているのかどうかの様子見と、なにより、彼女の無事の帰還を祝うためだった。
幼馴染で親友の妹となれば、自分にとっても妹のようなものだ。両親はシャイネを産んだ時には既に高齢の部類に入っていたから、弟妹が欲しいなんて言ったことはなかった。
(……思う事もなかったけれどね)
親友君の妹、デリア君がいるからね。エクゼントにはそういつも話しているけれど。「きょうだい」についてシャイネが率先して口にすることは無い、その事実は周囲も分かっていたから、あえて掘り下げることもなかった。
「楽しい僕の親友君。最近どうだい?」
リゼリオ土産を渡しながら、いつも通りの言葉をかける。とはいえナデルハイムが開かれてきたことや、浄化術の輸出等、エルフハイム自身の変化によって流通も少なからず変化している。だからそのお土産も珍しい、というものではなくなってきていた。
「それと、これはいつもの」
土産はあくまでもおまけのようなものだ。シャイネとエクゼントが会う度に必ず行う事、その一つにシャイネの書き溜めた詩集の受け渡しがあった。エクゼントはそれを受け取りさらりと確認をとる。それから新しい、頁も真っ白な紙の束を渡すのだ。
シャイネもまた、いつも通りであることを確認して頷く。一通り、互いに慣れたものだ。
「デリアが日に日に巫子らしくなっていく……と、思う」
「いい子の君の妹なんだから、喜ばしい事じゃないのかい?」
「外に興味を持って、彼女の様に出ていく懸念もあったが」
そこで少しの間があいた。デリアのような新人巫子達も、上からの命令で外に、不浄な土地に出かけることが今後増えていくことは明白な事だった。
「……逆に心配だ」
危険に瀕する可能性が高まったのだから、兄としては落ち着いていられることではない、ということだろう。
「機会があれば同行するようにもしておくよ?」
「そうしてくれ。それと……彼女の姉の方だが」
「ああ、あの子も巫子になったんだっけ。そっちはどうなのか聞いていいのかい?」
双子の妹が外界に出た、その残された姉の方……サイアもまた巫子として修業に励んでいる。面識のある身としては心配もあったのだが。
「これ以上ないくらい熱心に修行に励んでいるらしい」
「……悪い事ではない筈なのだけど……姉妹、特に双子ってそういうものなのかな……?」
●兄弟
言い出したのは僕だから、最初に話すけれど。そう言いながらいつもの微笑みを浮かべるシャイネ。
「特に面白い話ではないけどね? ちょっとでも皆が話す切欠になるなら……話そうか」
機会が無ければ、きちんと話さないままだったかもしれないし、ね。
高齢の両親に育てられたシャイネにとって記憶にある家族の話は、実はそう多いものではない。特に、シャイネが物心ついた時既に研究の前線から離れていた兄の話は、過去の偉業部分だけを噂で聞くのみだった。
研究室と称した小屋に籠もり孤独に維新派の浄化術を編み上げている時期は何度か会いにも行っていたが、のんびり兄弟の会話をする機会もなかった。
幼いころから接した機会が少なすぎて。どんな話をしていいのか、見当がつかなかったのだ。
顔を見せに行っても、兄弟としてどう過ごせばいいのかわからない。ただ、兄が作業に向かう背を見ていただけのような気がする。
無為な時間を過ごしていたと思う。
「多分、その後。効果を制限する形での採用が不服だったんだと思う」
維新派の浄化術を完成させた頃のことだ。
少しずつフィールドワークにも出なくなった兄のその様子は、状況を落胆しての事だと思っていた。引き続き様子は見にいっていたが、接し方が分からないままなので、やはり、ただ見守るだけだった。
「……僕は昔から、各地を回るのが好きだったしね?」
そのついでだと言えば、兄のもとを訪れるシャイネを咎めるものは誰も居なかった。むしろ体のいい使いパシリのようなものだったのかもしれない。……なんの成果もあげてはいなかったけれど。
次第に歪虚親和説を唱え始める兄の評判は、ハンターとして、吟遊詩人として既に確立していた立ち位置のおかげでシャイネにも、そして両親にも、害を及ぼすことは無かった。兄は既に独立していたから、家族とは、オプストハイムからは離れた場所に居を構えていたから。
シャイネは、変わり者と言う評価においては兄弟でとてもよく似ていたけれど。
エルフハイムの意思は個人の思想を見るものだから。だから「いい子」として定期的にオプストハイムに帰ってくるシャイネを兄と同じように扱う事はなかった。
「ある日もいつものように、様子を見に行ったんだ。ただ一人分の存在だけが、なくなっていたよ」
そして、あの日。声を聴いて。
すぐにわかった。覚えがありすぎる音。自分が自分の声と認識している音と酷似した声。その声は兄の声にとてもよく似ていることを、シャイネは幼いころから知っていた。
可能性は考えていた。覚悟のようなものはあった。
「本当にあちら側に行ったんだなって。あの時思ったんだ。ただ、事実として理解した、そう言えばいいのかな」
同じ血を引いている事は昔からわかっていた。それだけ兄の背中は、兄の残してきた足跡は大きくて、シャイネは弟として見られることが多かった。意思とは別のところで、その事実は切り離せるものではなかった。
けれど、家族であるという認識は薄かった。
「そこから先は……目撃情報の通り、みたいだね」
兄弟だから引き合うなんて言う事はない。ただ偶然その場に居合わせて、何かができるとも思っていないのだ、と吟遊詩人は小さく笑う。
「あの人がこちら側に戻ってくるかは……さて、どうだろう?」
シャイネは頑なに兄の名を口にしない。それはエルフハイムに属するものとしての行動としては妥当だ。
「戻れるものなのかもわからないしね。戻れたとして……あの人にその先があるかと言われると、さて、どうだろうね?」
「ねえ、フクカン君」
「何でしょう、シャイネさん!」
「……家族って、どういうものなのかな」
「うーん、私は家族と呼べる人がいませんから、ちょっとわからないです。あ、でもAPVの皆さんは家族みたいに思っていますよ!」
悪いことを聞いてしまったかな、とシャイネが言う前に、明るく笑うフクカン。そんな、第三者から見れば重い話を軽くかわした少しあと。オフィスの一角に、ささやかな張り紙が増えていた。
『今後詩を書くための肥やしに、家族の話をしてもらえないかい? お礼はささやかだけれど。ほんの少しの休息を兼ねて、ハンターの皆の時間を分けてくれたら、嬉しいよ』
●切欠
北筏での作戦に出ていた巫子達が帰還する。その護衛という形ではなかったけれど、シャイネも故郷エルフハイムへと帰ってきていた。
親友エクゼントの妹、デリアが巫子になったことは聞いていて、よくやっているのかどうかの様子見と、なにより、彼女の無事の帰還を祝うためだった。
幼馴染で親友の妹となれば、自分にとっても妹のようなものだ。両親はシャイネを産んだ時には既に高齢の部類に入っていたから、弟妹が欲しいなんて言ったことはなかった。
(……思う事もなかったけれどね)
親友君の妹、デリア君がいるからね。エクゼントにはそういつも話しているけれど。「きょうだい」についてシャイネが率先して口にすることは無い、その事実は周囲も分かっていたから、あえて掘り下げることもなかった。
「楽しい僕の親友君。最近どうだい?」
リゼリオ土産を渡しながら、いつも通りの言葉をかける。とはいえナデルハイムが開かれてきたことや、浄化術の輸出等、エルフハイム自身の変化によって流通も少なからず変化している。だからそのお土産も珍しい、というものではなくなってきていた。
「それと、これはいつもの」
土産はあくまでもおまけのようなものだ。シャイネとエクゼントが会う度に必ず行う事、その一つにシャイネの書き溜めた詩集の受け渡しがあった。エクゼントはそれを受け取りさらりと確認をとる。それから新しい、頁も真っ白な紙の束を渡すのだ。
シャイネもまた、いつも通りであることを確認して頷く。一通り、互いに慣れたものだ。
「デリアが日に日に巫子らしくなっていく……と、思う」
「いい子の君の妹なんだから、喜ばしい事じゃないのかい?」
「外に興味を持って、彼女の様に出ていく懸念もあったが」
そこで少しの間があいた。デリアのような新人巫子達も、上からの命令で外に、不浄な土地に出かけることが今後増えていくことは明白な事だった。
「……逆に心配だ」
危険に瀕する可能性が高まったのだから、兄としては落ち着いていられることではない、ということだろう。
「機会があれば同行するようにもしておくよ?」
「そうしてくれ。それと……彼女の姉の方だが」
「ああ、あの子も巫子になったんだっけ。そっちはどうなのか聞いていいのかい?」
双子の妹が外界に出た、その残された姉の方……サイアもまた巫子として修業に励んでいる。面識のある身としては心配もあったのだが。
「これ以上ないくらい熱心に修行に励んでいるらしい」
「……悪い事ではない筈なのだけど……姉妹、特に双子ってそういうものなのかな……?」
●兄弟
言い出したのは僕だから、最初に話すけれど。そう言いながらいつもの微笑みを浮かべるシャイネ。
「特に面白い話ではないけどね? ちょっとでも皆が話す切欠になるなら……話そうか」
機会が無ければ、きちんと話さないままだったかもしれないし、ね。
高齢の両親に育てられたシャイネにとって記憶にある家族の話は、実はそう多いものではない。特に、シャイネが物心ついた時既に研究の前線から離れていた兄の話は、過去の偉業部分だけを噂で聞くのみだった。
研究室と称した小屋に籠もり孤独に維新派の浄化術を編み上げている時期は何度か会いにも行っていたが、のんびり兄弟の会話をする機会もなかった。
幼いころから接した機会が少なすぎて。どんな話をしていいのか、見当がつかなかったのだ。
顔を見せに行っても、兄弟としてどう過ごせばいいのかわからない。ただ、兄が作業に向かう背を見ていただけのような気がする。
無為な時間を過ごしていたと思う。
「多分、その後。効果を制限する形での採用が不服だったんだと思う」
維新派の浄化術を完成させた頃のことだ。
少しずつフィールドワークにも出なくなった兄のその様子は、状況を落胆しての事だと思っていた。引き続き様子は見にいっていたが、接し方が分からないままなので、やはり、ただ見守るだけだった。
「……僕は昔から、各地を回るのが好きだったしね?」
そのついでだと言えば、兄のもとを訪れるシャイネを咎めるものは誰も居なかった。むしろ体のいい使いパシリのようなものだったのかもしれない。……なんの成果もあげてはいなかったけれど。
次第に歪虚親和説を唱え始める兄の評判は、ハンターとして、吟遊詩人として既に確立していた立ち位置のおかげでシャイネにも、そして両親にも、害を及ぼすことは無かった。兄は既に独立していたから、家族とは、オプストハイムからは離れた場所に居を構えていたから。
シャイネは、変わり者と言う評価においては兄弟でとてもよく似ていたけれど。
エルフハイムの意思は個人の思想を見るものだから。だから「いい子」として定期的にオプストハイムに帰ってくるシャイネを兄と同じように扱う事はなかった。
「ある日もいつものように、様子を見に行ったんだ。ただ一人分の存在だけが、なくなっていたよ」
そして、あの日。声を聴いて。
すぐにわかった。覚えがありすぎる音。自分が自分の声と認識している音と酷似した声。その声は兄の声にとてもよく似ていることを、シャイネは幼いころから知っていた。
可能性は考えていた。覚悟のようなものはあった。
「本当にあちら側に行ったんだなって。あの時思ったんだ。ただ、事実として理解した、そう言えばいいのかな」
同じ血を引いている事は昔からわかっていた。それだけ兄の背中は、兄の残してきた足跡は大きくて、シャイネは弟として見られることが多かった。意思とは別のところで、その事実は切り離せるものではなかった。
けれど、家族であるという認識は薄かった。
「そこから先は……目撃情報の通り、みたいだね」
兄弟だから引き合うなんて言う事はない。ただ偶然その場に居合わせて、何かができるとも思っていないのだ、と吟遊詩人は小さく笑う。
「あの人がこちら側に戻ってくるかは……さて、どうだろう?」
シャイネは頑なに兄の名を口にしない。それはエルフハイムに属するものとしての行動としては妥当だ。
「戻れるものなのかもわからないしね。戻れたとして……あの人にその先があるかと言われると、さて、どうだろうね?」
リプレイ本文
●影日向
幼い頃、食うに困った両親はノーマン・コモンズ(ka0251)を金で手放した。王国の片田舎、貧民層には口減らしが必要だったから。相場以上の金額は、生活を向上させるだけに留まらず、家族を三人増やす結果になったとあとで聞いた。
必要な戦闘技術を得られるまで、立ち上がり続けることが出来るようになるまで、来る日も来る日も身体づくりと技術の体得、社交のための歴史や所作の勉強と。修練漬けの日々を送っていたノーマン少年はいつしか青年になり、世俗に出られるようになった。かつて取柄だった明るさは世渡りの技術へと化け、裡には新たな感情が芽吹いていたのは仕方のない事だった。
何故俺が。
誰のおかげで。
権利は俺にあるはず、そうだろう?
過去のどす黒いものはちらとも出さず、過去のおかげで今があると、ノーマンは真実を薄い皮で出来た嘘に包む。
「両親の顔ですか、忘れるわけないじゃないですかー? 今こうやって一丁前の暮らしが出来てますからねえ。いつかお礼に行こうと思ってるんですよー?」
俺が垂れ流した血反吐と血便と同じくらい、鮮やかな紅い華で飾ってやれば、俺は。
●温かさ
(なんで僕を?)
必要のない子だから、捨てられていたのに。
要らない子をどうして、傍に置く気になるの?
「最初はそんな気持ちが強かったんだけど、爺ちゃん婆ちゃん二人とも、ずっと普通でさ」
引き取ったイェルバート(ka1772)のことをはじめから家族として扱ってくれた。
「寒さに弱いからって甘えるなって、雪の中放り出されて雪かきしたりね」
それで風邪をひいて寝込んだら、爺ちゃん心配で落ち着かなくて、工房にも行かずに1日家に居たりとか。婆ちゃんがこっそり教えてくれてさ。
「機導術の勉強を始めたら、爺ちゃんと工房に籠もって徹夜なんて当たり前だったな」
夜食とか毛布とか、婆ちゃんの差し入れが嬉しくて……こんな風にあったかかったんだ。ココアを一口飲んで、イェルの頬が綻ぶ。
「それで自然にさ、この人たちの家族になりたいって思うようになったんだ」
本当の孫と同じように接してくれて、要らない子だったとか、そういうの関係なくなってたんだ。
「そうそう、前に作った芋料理、あるだろ? 婆ちゃんはもっと美味しく作るんだ。まさに絶品でさ!」
ぐーきゅるるる……♪
「……ぁ」
●出た者
詩人の話、出て言った者。あの男と重ねるのは、癪だけれど、それでも。
「私は、出て行った娘であり、姉なんです」
月滴の槌を持つ手が、共に歩む手を、火竜の槌を持つ手を選んで。
いつしか太陽の槌の持ち主を産み落として……そんな才能にあふれた家族の中で、クレール(ka0586)だけは模倣しかできなかった。
力強さを求め鍛えても、似ているだけ。大胆に振るっても、細やかには出来る筈はなく。気付けば粗削りでセンスのある弟に小さな引け目を感じる事が増えた。
家族の誰もクレールを責めることはなかったし、とても良好な家族関係だったことは胸を張れる。
「私の拠り所、私の道、私の誇り。……だからこそ」
自分だけの何かを掴むまで、家名を堂々と名乗れない。
家族を愛しているから、自分の技術に胸を張って、共に笑いあいたいから。
「……こんな理由で家を出た女も、います。でも……いつか、帰ります」
今は見えないけれど、ハンターとして、覚醒者として過ごす自分に現れる証を思い浮かべて。
右の掌には父から、左の掌には母から、それぞれ受け継いだ紋章と、ハンマーにかけて。
●矜持と技
「大恋愛って言うのかもしれないけどさ?」
両親の話をするのはリュー・グランフェスト(ka2419)だ。
蒼界で技師をしていた母は技術力を買われ、転移者としての歓迎をされてはいたけれど。
確かな身分を持っていた父と恋に落ち、二人が共に歩むことを決めた後。反対は少なくなかった。所帯を持つとなると話は別、当時はそういう時代だったのだろう。
「何せあの親父だからなー」
責任感が強くて真面目一徹の厳格な父と、普段のんびりした雰囲気を纏うが怒ると手が付けられなくなる母。
王国の騎士と、侍の血を引く娘。
「どうやって口説いたのか、ちっと興味あるな」
リューも多感な年ごろなのだ。
「格好いいんだぜ? 元だからって騎士の心得は捨ててないし。結婚するために騎士辞めたことも、全然悔いてないんだ」
両親を誇りに思っている証の笑顔を浮かべて、思い出すのはもう一人。
「親父の親戚のおっちゃんに、二年くらい預けられてさ、色々稽古とかつけてもらったんだ」
俺が使う紋章剣の師匠って奴だな。年中、終始黒づくめで豪快な人なんだけど。冒険者って名乗るだけあってとにかく強いんだぜ?
●信じる者
グリーヴ家は人数が多い。兄弟妹に両親、祖父は勿論、従妹やそれぞれの使用人。全員を家族と見なせば大家族と呼ぶのが相応しい。ちなみにジャック・J・グリーヴ(ka1305)は次男である。商人としてもハンターとしても独り立ちしているので、あとは伴侶を探……二次元嫁については禁句登録。
「喧嘩する事も多いけどよ、仲は良い方なんじゃねぇかな……家族について話せ言われてもそれ位しかねぇな」
そんなことよりよぉ。酒の入ったグラスを片手にシャイネに向けて一歩、寄った。
「なぁ、こんな話を聞きたがるってのは作詞する為だけじゃねぇだろ」
ずい。
ヴォールのこと、気にしてんじゃねぇのか?
「てめぇのお澄まし顔は見飽きてんだ、そろそろ見せてくんねぇか」
腹に何を隠してやがる? 本当の顔はどこにある?
「偽善者になるつもりはないけどね?」
小さく微笑む口元はいつも通り。目の色が少し違ったかもしれない。
「あの人の事も、彼のことも。……森も。いい形になってくれたらいいと思っているよ。僕はただ、煽るだけ。ハンターとしてそこに居るだけさ」
先導できるような器でもないからね?
●心と場所と
(話しきれるかな)
ユリアン(ka1664)が振り返るのは、義兄と義姉を連れてきた時の父の顔。4歳の頃の記憶はだいぶ、おぼろげだけれど。
「今日から家族が増えるぞ!」
弟が生まれたばかりの頃だった。
2歳の妹の手を引いて、弟の世話をする母を笑わせたくて、どうしたらいいか考えてばかりだった。
母が子育てに仕事に奮闘している事を理解していたから、できる事を探していた……と思う。
二人増えたらもっと大変だと、思ったのは最初だけだった。問答無用で手伝わされて。笑顔の母が二人に、ありがとうって笑顔を向けて。抱き締められて照れた様子の二人を思い出す。
(成長したら役に立てるって知って、羨ましくて眩しかったな)
美人でクールな姉も、穏やかで優しい兄も今は家を出たけれど、変わらず自分の家族だ。何だかんだと、兄弟皆家に戻って集まる事もある。
「まったく遠慮がないとは言わないけど、仲は良いよ」
あの二人にとっても帰れる場所なのは、幸せな事なんだなって思ってさ。
(……もう一つ)
今のユリアンには、旅から戻る場所も出来た。師匠もある意味では家族、だろうか?
●追憶
「私の可愛いヴィルマ、未来の霧の魔女さん?」
よく笑う母はいつもヴィルマ・ネーベル(ka2549)に優しくて、ヴィルマは母にそう呼ばれるのがとても好きだった。気に入りの霧の魔女の絵本は、娘のためにと母が手ずから作ったものだ。
「甘やかしすぎだ」
父は躾に厳しかった。母と話す時も眉間に皺が寄っていると思うほど。当時は腹の底から怖いと感じてばかりだった、
(今でこそ我の為を思って居るのだと理解できるのじゃが)
不器用だったのだろうと思う。今の自分の生き方のように。
「一人っ子じゃったがのぅ、屋敷の使用人、みんな家族のようじゃった」
特に世話役として付けられていた、執事見習いのアルフレッド。彼は兄が居たらこうだろう、正にそのイメージを具現化したような相手だった。
「……兄、と言えばのぅ」
ちらりとシャイネを見る。一度くらい断りを入れておこうと思っていた事があったヴィルマ。
「そなたの兄、あれほんにぶん殴って一括入れてやりたいのじゃ」
願望の形だが、もうやると決めている。
「戻る先がどうかなんて、関係はないのじゃ。死んでいなければ……やり直しもきくものじゃ」
●リーベ
「私にも、正しい家族の形はわかっていないのかも」
ごめんなさい、と前置くエイル・メヌエット(ka2807)の一番古い記憶にも、母の姿はなかった。
医者だった父が残した設備で医者を続けるため、医業を学ぶため、師の席に知人の町医者を据えて勉強し、医者になった。
救える筈の命を救える存在になりたかった。
「……家族を想うように、愛しく感じる存在は知ってる」
皆血の繋がりとは別のところで、心を繋いだ相手だ。
偶然に出逢っただけかもしれないけれど、次第にその人の無事を、幸せを祈るようになった。
一人は今も恋人として、近い場所に
かつて弟のように面倒を見ていた少年は、救えていたのか、今となってはわからないけれど。
「エルフハイムにもいるのよ」
秘密の言葉を伝えるみたいに、小さく微笑むエイル。成長を見守っていたい愛しい少女は、今どこにいるのだろう。戦場だろうか、怪我をしていないだろうか。
「私は、喪失も知っているから」
だからそうできるうちは、今は、ただ愛していたいの。
大切な人を、ちゃんと大切にしたい。
「……家族はきっと、その先の絆だと、思っているわ」
●結束
商船がリゼリオに停泊する間の、陸で過ごす時間。小さな休息を兼ねて参加したアスワド・ララ(ka4239)はフクカンの入れた紅茶の産地を当てようと首を傾げる。
「……順番ですか? では」
宣伝活動も一緒に、させていただきましょうか?
曽祖父の代もまだ現役で働いている『ララ海運商会』は家族経営が基本。実際の血縁は勿論のこと、一族の嫁や婿、更には従業員達までも加えると?
「何人でしょうね?」
けっこうな大所帯であることは確実ですけれど。
「商会で働く人々は皆、家族なんです。距離も時間も関係なくて、共に生活する存在で。……どんなことがあっても見捨てず、共に歩こうと互いに気に掛ける大切な存在です」
だから日々、俺は皆が幸せであるように願っています。
「もちろん良い面ばかりあるわけじゃないとわかっています。そしてわかりあうために、お互いに努力しあうことも必要なのだと知っています。……みんなは僕の家族です。そして、そう在ろうとしている仲間です。だから僕も皆に応えようと、そうあろうと努力できるんです」
それがアスワドにとっての家族の姿。
「……答えになりましたか?」
●目が回る
拾った弟は、やたら自分を神格化してくる、けれどよく懐いてくる奴で。
仮の父親は、女と酒が好きなどうしようもないぐうたらで。
そんな、とりあえず家族との共同生活を思い浮かべるしかない龍華 狼(ka4940)は、さてどうしたものかと小さく頭を抱えていた。
(……家族か)
血の繋がった家族と呼べる唯一の存在は、母親だけだと思っているけれど。その母は自分を捨てた。
そうして今、血の繋がりのない者達と屋根を同じくして家族の真似事をやっている。
今近くに居る者達を、家族のようなもの、そう思い始めている自分にも気づいている。家族のようなものだと、認めかけている。
(それでも考えちゃうんだよな、母さんのこと)
過去の話か、今の話か、どちらを言えばいいのだろう?
(あぁ……俺の家族は誰何だろうな……)
血をとれば、今の生活はずっと他人相手の遊び、ただのままごとなのか。
今を認めれば、過去の思い出が意味をなさない空虚なものになるのではないか。
交互に浮かんでは消えていく……まだ、答えは出そうになかった。
全てを笑って話せるほど、狼はまだ大人ではなかったから。
●争えぬ
歌舞伎の世界で有名な役者ってだけでも大層な肩書なのにね。天竜寺 舞(ka0377)が銀の髪をかきあげる。その色彩は、彼女が他の国の血を引いていることを示していた。
「海外公演で浮気してできたあたしらを、クソ親父は恥ずかしげもなく引き取って本邸で育てたってわけ」
物心つく前に産みの母親をなくした双子にとっては助かる話だ。けれど本妻にしてみれは気分のいいものではなかったはずだ。
「今の母さんには感謝してるし尊敬もしてる」
だって文句も言わずに、兄貴達と分け隔てなく育ててくれた。だから兄貴達も、家族として接してくれた。
家族になってくれたんだから。
「だけど親父は許せない」
この世に居る理由は確かに父親が居たからだ、でも、自分達の親になったことで、引き取ったことで、母や兄がどんな目で見られるようになったのか知っているから。
そして。
一番許せないのは……そのクソ親父の芸に惹かれちゃう自分自身。
「彼奴より凄い芸を身につけて、見せつけて、見返したかったよ」
ははは。笑い声が乾いているのは、戻れないと思っているからだ。だから少し冷めた紅茶で唇を湿らせた。
●投影
シャイネの話にどこか、過去の自分が重なる気がして。メリーベル(ka4352)は周りの話を聞きながら、ぼんやりと思い出を掘り起こす。
例えばほんの小さな食い違い。オムレツにソースをかけるかどうかとか、雨が降りそうだから雨具を持っていくかどうかとか、ちょっとの場所だから走っても大丈夫だろうかとか。そんな小さな行き違い、すれ違いは、毎日のように積み重なって。
(あの時はどうしたんだったかな)
気付けば互いを避けるようになって、視界に映りそうになるだけで顔を背けて。そんなつもりはなかったはずなのに、喧嘩をしているような。そんな時間を過ごしたことがある。
「家族って何だっけ」
ふと、立ち止まって気付いた時には、顔を合わせる機会がすっかりなくなっていたのだ。
家族なのに、それまでどうやって接していたか思い出せなくなって。ぎくしゃくとしてしまって。近づき方も分からなくなるほど意地をはっていたんだと気づいた時、相手の顔がやっと、見れた。
(視線を逸らしていたのはずっと、私だけだった)
見守られていたことに、知らず守られていたことに気付いたのはそれからだ。
●武神の心意気
「また喧嘩して来たんかい!」
「イッテーッ!?」
刷り込まれているのではないかと思うほどの鮮明な記憶。春日 啓一(ka1621)にとっては祖母がそれに当たる。
喧嘩をして帰って来ると決まって拳を見舞われた。喧嘩の傷よりも、腫れた頬が目立ったが、事情を知る者は少ない。翌日は決まって「また何処かで暴れてきたのか、あいつ」と視線を向けられるだけ。
「自慢じゃねえが、もともと見た目を理由に売られた喧嘩だ。腫れた顔で悪化するようなもんでもなかったぜ」
言いながら小さく笑えるのは、それが啓一にとって悪い記憶ではないからだ。
「武神って言われるくらいクソつえーばあちゃんでな」
戦い方、体術の基礎は自分で身に着けていたけれど。拳での戦い方を教えてくれたのはこの祖母だ。
「怒った後はいつも聞くんだ『啓一から手を出したのか』ってな。んなわけねえだろって返すんだけどよ」
男たるものつまらん事に拳を使うな。本当に守りたいモノがある時に使え。それが祖母の教えでもあった。
だからいつも、啓一の答えを聞いたら満足して豪快に笑ってくれた。おっかなくても、自慢の祖母だ。
●年長の役得
「リアルブルーの知識ってどれくらいあるんでしょう?」
花厳 刹那(ka3984)は確認を取ってから話すことに。
蒼界の知識は確かに増えてきているけれど、必ずしもすべてのクリムゾンウエスト人が知っていることではない、というのは正解で。シャイネも実際のところ、蒼の知識を十分に持っているわけではなかった。
一人で転移したこと。叢雲の家は極東地方で名門と呼ばれる軍人一族であること。両親も軍人であること。
「家族は……兄弟姉妹がとても多い大家族ですね?」
具体的な人数は出さず、くすりと笑う。謎めいた雰囲気を魅せるように意識したところで、微笑むシャイネと目が合った。……負けてる?
「と、兎に角。私は兄弟の中でも年齢的には上の方になるんです」だから弟妹が“お姉ちゃん”って甘えてきてくれるの、本当に可愛いんです」
思い出して頬が緩んでいく刹那。
「癒されますよ?」
握りこぶしでマイクを作っていそうな勢いだ。
「家族……そうそう、それと忘れちゃいけない所でした」
ペットに猟犬を買っていたんです。今は一人暮らしで寂しいですし。いい子が居たら是非、教えて下さいね?
●確かな証
まだ幼い頃。母と別れて身寄りもなかった奈義 小菊(ka5257)は、その時初めて父親という存在を知った。
父も、小菊の存在を知らなかった。寝耳に水という顔はまさにあんな顔だったのだろう。
研究一筋の父で、それ以外には興味を示さない人物だった。
「だからかな、父というより、同居人という印象が正しいかもしれない」
父もそうだろう。気紛れに相手をしてくれることがある程度。
「でも、そうだな…それは貴重な機会De、やはり私は嬉しかった」
血縁だから必ず絆が出来るわけじゃないとも知った。
けれど、血縁だからこそ、互いを意識することはあるのだとも気付けた。
「私は……本当の意味で家族になれたのか、自信があるとは言えないけれど」
繋がりがあるのだと信じる心があれば、家族を作ることに繋がるんじゃないのか?
「……今の私には、父との約束がある」
頼まれごと、ともいえる。私にだからこそ預けてくれたのだと、私はそう思っている。
だから、必ず果たそうと。ずっと胸に抱いて今、日々を過ごしているんだ。
「確かにきっかけは血だったけど。この心がある限り……私と父は、家族だ」
●追う背中
エルフハイム、中心地であり最奥地オプストハイムとはまた違う森の奥。皆が1つの家族のように集まって暮らしていた小さな集落が、リアリュール(ka2003)にとっての家だ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、母と兄と弟……そして、私」
指折り数えてあげていく。
「父はハンターだったのよ。そんな父の面影を追って、兄が出て行ったのが……そもそもの切欠かしらね」
狩りの名手で、動物ともすぐ仲良しになる兄が自慢で、いつも後を追いかけていた。
優しい兄を送り出すのは寂しかった。でもだからこそ、決めた道を歩んでほしくて止めなかった。
「その兄の消息がなくなったの」
探すためにハンターになったのだと、今へと話が続く。それがリアリュールの目的だけれど。
(半分、あきらめてるのよね)
言葉にはしない。ハンターとして活動をはじめて、未だ手がかりらしい者は見つかっていないのだ。
(でも……)
まだ森で過ごしていた頃、自分達弟妹を見守ってくれていた兄の姿を思い出すのは簡単で。
記憶の兄はその微笑みを絶やすことが無い。
(次に会えたら、言いたいこと、たくさんあるんだから)
●変質
「両親は……悪い人たちではないですし、愛情をもって育ててくれたのは確かです」
優雅な仕草で紅茶の入ったカップを傾けるエルバッハ・リオン(ka2434)。
「ですが、変わった人達ではありましたね」
そう私が思うに至った話をいくつか、させていただこうと思います。
例えば誕生日。普通の家庭であれば事前に贈り物の為のリサーチがあるものだ。しかしリオン家にはそれがなかった。
「欲しいものはそう思うより前に手に入っていましたけど」
だからそれほど欲求らしい欲求が無いのは自覚していたエルである。しかし実際のプレゼントは毎年用意されていた。
「どこで入手したのか、謎の珍品が多かったですね」
例えば気絶するほどの匂いを撒き散らす花とか。どうやって手に入れてきたのかわからないようなものばかり。
「でも、一番変わっていると思うところは……私の羞恥心をなくすために行った訓練の数々でしょうか」
ハンターになりたいと言っていた私の為に、集団行動でも活動できるかどうか、戦闘時に服が乱れても困らないように。隙を見せないように……その教育は今もしっかりとエルの一部となっていた。
●視野
「私は6人姉妹の5人目なんですけど……」
一度首をかしげ、まあいいか。ティス・フュラー(ka3006)もお茶を一口。
「とにかく、一番上のお姉さまがね、すごいんです」
何をやらせても姉妹で一番、それは長女ゆえに、だったのかもしれないけれど。
「動きも無駄がないというか、綺麗なんです。料理をするにしても、美味しいだけじゃなくて盛り付けが綺麗だとか。料理を終えると同時に片づけにも手を付けているとうのか……作るにしても、そうじゃなくても何でも一番で」
でも…カップを一度置いて、息を一つ。
「だけど、何もやらないんです」
勿体ないと思いませんか? 必要としているところは多いって思うんです。
「その力をもっとみんなのために役立てたら?」
言っては見たんです、これでも。でも……
「めんどいから嫌」
その一点張りでした。
「自分の事だけ考えてればいいのよ」って、姉も言い出す始末です。
「……そのまま、喧嘩して飛び出してきたんです。だからここにハンターとしているんですけどね」
実際ハンター業は危険も多いですよね。
「お姉さまなりに私の身を案じてくれていたのかな……?」
●支え
天涯孤独のエーディット・ブラウン(ka3751)にも家族が居る。
「身体は大きくてがっしりしていて~」
腕を大きく広げるのはより詳しく伝えるためだ。
「力持ちの男の子なのです~」
荷車を引っ張ったり、大荷物を運んでくれたり大活躍するんですよと笑顔。
「例えば私がおしゃべりをしに、酒場に出た時とかも~、毛布をもってお供してくれるのです~♪」
とにかく優しくて、気がきく素敵な存在なのですよと、エーディットは終始楽しそうだ。
「そのまま眠ってしまっても大丈夫から、彼の上にかけた毛布に包まって年越しをした事もあるくらいです♪」
ここに来て、シャイネが首を傾げた。男の子、というから恋人なのかと思っていたのだ。しかし同確認を取っていいのかわからないようで。構わずエーディットは話を続けていく。
「もう彼無しの生活は考えられません~。それくらい、うちのゾウガメは大切な家族なのですよ~♪」
お茶、ありがとうございますねと口をつけるエーディットに、くすりと笑顔が向けられた。
「なるほど、確かに家族は人に限った話ではなかったね? 大事なことを忘れてしまうところだったよ」
●理由
「あのね」
ネムリア・ガウラ(ka4615)は、本当の自分の部族について、人づてにしか知らない。
「わたしが赤ちゃんの頃、歪虚のせいで、無くなっちゃったから」
同じ境遇の子達と、おじじやおばばと共に。身を寄せたのは別の部族のもと。
そこで新しい縁の中育ったけれど、ネムリアに取って、家族はおじじおばば達、そして同世代の、同じ経験をした仲間達だった。
「寂しくは無かったけど」
失くしたものがどんなだったか、それを知っているおじじおばばのようには、本当の部族の居場所に戻りたいとは思えない。
全く同じ気持ちに離れなくて、想いを叶えてあげられなくて。
でも、歪虚を倒せたら、それが叶うかもしれないと気づいた時。
「希望の光みたいなものが、みえたきがしたの」
だから、ね。
ご先祖様に、部族の皆に。恥じないような戦士にならなくちゃって。
「歪虚を倒せたら、歪虚病も気にしないで、一緒に居られるようになるかもしれないんでしょ?」
だから、わたし、戦うの。
「……でもね?」
おじじとおばばの心を継ぐみたいに、血じゃないところで繋がることができるならそれが家族って思うんだ。
●眩しさ
「末っ子なのです。だから、というだけではありませんが……何をしても心配されて、皆が手を貸してくれるのです」
王国の外れの森から出て、まだあまり時はたっていない。カリン(ka5456)はAPVにころがるガラクタに目を輝かせながらも、落ち着いて話そうと言葉を選ぶ。
「5人居る兄や姉だけなら、家族愛で済んだかもしれませんけど、そうじゃないのです」
森の若手だからこそ大切に、傷つかないように。大切に守られていると気づいてからは疑問ばかり自分の中に溜め込んでいた。
「森が生き返るわけじゃないと思うのです。エルフは森と共に生きて死ぬべきなんて古いのです」
それは維新派の考えに非情に酷似している。エルフゆえに、どこも考え方は同じなのかもしれなかった。
「そんなの私は嫌です! やる前から無理だとか言わないで欲しいのですよ! だから出てやったのですっ」
頬を膨らませながら言う様子に、周りから和やかな笑顔が零れる。それには気付かないまま、カリンはこっそりと続けた。
「でも…… そろそろ手紙くらい書いてやろうかと思ってるです」
ハンターをやれているって、教えるために。
●乗り越えた先
「俺ん家は、父さんと母さんと俺の3人家族だ」
つっても近所に同世代の幼馴染達がいたし、兄弟姉妹が欲しいとは別に思わなかったな。そこはあんたと同じか? ラティナ・スランザール(ka3839)の言葉にシャイネの目が細められる。
「俺の故郷は小さいから村全体が家族みたいなもんだが……」
駆け落ちした異種族夫婦を受け入れてくれるような村だったから、柔軟だったと言える。
「ん? ああそうだ、俺は形質こそドワーフだけど、正確にはドワーフとエルフの混血なんだ」
どっちの血も引いているから、種族としてはどちらにも名乗れないのが難点か?
「でもさ、俺にとっての家族は“存在意義”だからさ」
種族が違っても心を通わせた両親のことは、ラティナにとって誇らしいことだ。
お互いへの愛と、互いに大事に想う絆の存在を感じ取る。その二人の血を受け継いだ自分は確かに種族の上では半端かもしれないけれど、それを恥じるつもりはなかった。
「あ、因みにウチの両親な、お互い一目惚れの駆落ちで、今も砂糖吐くレベルで仲良いんだぜ。いい年してって思うけどよ……悪くないって思わないか?
●姉想い
細やかな細工の練切はウェグロディ(ka5723)のお手製。茶請けにどうぞと提供しながら。きょろりと周囲を見渡した。
「僕の姉上がいつも喜んでくれてね。食材の豊富さが嬉しくてやっている事でもあるけれど……おかげさまで、こういったことも得意なんだ」
苦笑いを浮かべるのは照れではなくて、つい周囲に姉の姿を探してしまったことへの自嘲だ。
「ああ、失礼。家族の話をするんだったね」
とはいえ僕には姉上しか居ないんだけど……聞いてもらえるかい?
「姉上はとても素敵な人なんだ。今までずっと傍に居てくれた、大切な人でもある」
楽しい時と嬉しい時は、眩しいくらいの笑顔を浮かべる人。それだけならどんな人にも当てはまる。けれどウェグロディは辛い時、苦しい時にも笑顔を絶やさない姉をとても大事に思っている。
「姉だから、年上だから。心配をかけまいとしているのはわかるんだ。だって僕は弟だから。近くに居るからわかるんだ」
お茶をすすり喉を潤す。熱っぽい語り口はまだ終わる様子を見せない。
「だから、辛い事や苦しい事で笑う姉上を見ないで済むように、その笑顔は僕が護ろうと誓ったんだ」
●絆の切欠
「……私は知らない」
家族も、親も。今此処に、nil(ka2654)がnilとして存在しているという認識が真実なら。それは自分にも親が居たことを示しているけれど……知っているのはそれだけだ。でもそれで構わない。
(なのに、どうして)
ちらと横に座るライナス・ブラッドリー(ka0360)を見る。nilにとって不思議な言葉をくれる人だ。
「でも」
この人の話をしに来たつもりだった。けれど自分にもわからないことをどう話せと言うのだろう。
「……家族にしてくれると言った人なら、居る」
言葉にして改めて、首をかしげた。向こうの世界、蒼界から来たライナスの事を、nilは何も知らないと気付いたから。
「ライナスの、“本当”の家族は、今如何しているの……?」
気になったのはどうしてだろう。自分の家族さえも気にしたことが無かったのに。
(偶には“話す”のも良い、か)
それで何か伝えられるというのなら。無だというこの子に。
傭兵だったライナスは、家族を置いて戦地で命を懸けていた。
歪虚に殺され、大切なもの、守りたかったはずのものは無くなった。誰かの幸せを守る筈の傭兵は、自分の家族さえ守れない……なんて皮肉だ。
今ライナスに残っているのは、胸の内にあるものだけ。温かい想い出と、苦しい復讐心。
「でもな、nil」
首をかしげるnilに向けて話す口調は、言葉ほど苦し気なものではない。
世の中への関心が薄くなっていたライナスは、転移してnilに出会った。
己を“無”だと言う少女は、自分自身に対しての興味も無くて。
「お前さんだけは……いつでも無事であって欲しい」
何故か、心から思うようになったんだ。護りたい、ってな……一緒に居る内に。
「無は有にもなれる。……お前さんも、だ」
娘のようだと思っていた。大切で守りたいものを無くした男と、自分さえも無いという少女。似ていると思ったのか、どうなのか。ただ過ごす時間が増えるにつれて……今は娘だったら、そう思った。
「nil……俺の娘にならないか?」
「……ライナス」
聞き手になっていたnilが口を開いた。分からないなりに、それが答えになればいいと思いながら。
「……家族……私は知らない。親も知らない」
でも、出来たら。その先にある何かに興味が出来た。
「……それでも良ければ……私は……」
●24編の形
ハンター達が去った後の一室。
書き留め終えたシャイネの小さな、一息。
幼い頃、食うに困った両親はノーマン・コモンズ(ka0251)を金で手放した。王国の片田舎、貧民層には口減らしが必要だったから。相場以上の金額は、生活を向上させるだけに留まらず、家族を三人増やす結果になったとあとで聞いた。
必要な戦闘技術を得られるまで、立ち上がり続けることが出来るようになるまで、来る日も来る日も身体づくりと技術の体得、社交のための歴史や所作の勉強と。修練漬けの日々を送っていたノーマン少年はいつしか青年になり、世俗に出られるようになった。かつて取柄だった明るさは世渡りの技術へと化け、裡には新たな感情が芽吹いていたのは仕方のない事だった。
何故俺が。
誰のおかげで。
権利は俺にあるはず、そうだろう?
過去のどす黒いものはちらとも出さず、過去のおかげで今があると、ノーマンは真実を薄い皮で出来た嘘に包む。
「両親の顔ですか、忘れるわけないじゃないですかー? 今こうやって一丁前の暮らしが出来てますからねえ。いつかお礼に行こうと思ってるんですよー?」
俺が垂れ流した血反吐と血便と同じくらい、鮮やかな紅い華で飾ってやれば、俺は。
●温かさ
(なんで僕を?)
必要のない子だから、捨てられていたのに。
要らない子をどうして、傍に置く気になるの?
「最初はそんな気持ちが強かったんだけど、爺ちゃん婆ちゃん二人とも、ずっと普通でさ」
引き取ったイェルバート(ka1772)のことをはじめから家族として扱ってくれた。
「寒さに弱いからって甘えるなって、雪の中放り出されて雪かきしたりね」
それで風邪をひいて寝込んだら、爺ちゃん心配で落ち着かなくて、工房にも行かずに1日家に居たりとか。婆ちゃんがこっそり教えてくれてさ。
「機導術の勉強を始めたら、爺ちゃんと工房に籠もって徹夜なんて当たり前だったな」
夜食とか毛布とか、婆ちゃんの差し入れが嬉しくて……こんな風にあったかかったんだ。ココアを一口飲んで、イェルの頬が綻ぶ。
「それで自然にさ、この人たちの家族になりたいって思うようになったんだ」
本当の孫と同じように接してくれて、要らない子だったとか、そういうの関係なくなってたんだ。
「そうそう、前に作った芋料理、あるだろ? 婆ちゃんはもっと美味しく作るんだ。まさに絶品でさ!」
ぐーきゅるるる……♪
「……ぁ」
●出た者
詩人の話、出て言った者。あの男と重ねるのは、癪だけれど、それでも。
「私は、出て行った娘であり、姉なんです」
月滴の槌を持つ手が、共に歩む手を、火竜の槌を持つ手を選んで。
いつしか太陽の槌の持ち主を産み落として……そんな才能にあふれた家族の中で、クレール(ka0586)だけは模倣しかできなかった。
力強さを求め鍛えても、似ているだけ。大胆に振るっても、細やかには出来る筈はなく。気付けば粗削りでセンスのある弟に小さな引け目を感じる事が増えた。
家族の誰もクレールを責めることはなかったし、とても良好な家族関係だったことは胸を張れる。
「私の拠り所、私の道、私の誇り。……だからこそ」
自分だけの何かを掴むまで、家名を堂々と名乗れない。
家族を愛しているから、自分の技術に胸を張って、共に笑いあいたいから。
「……こんな理由で家を出た女も、います。でも……いつか、帰ります」
今は見えないけれど、ハンターとして、覚醒者として過ごす自分に現れる証を思い浮かべて。
右の掌には父から、左の掌には母から、それぞれ受け継いだ紋章と、ハンマーにかけて。
●矜持と技
「大恋愛って言うのかもしれないけどさ?」
両親の話をするのはリュー・グランフェスト(ka2419)だ。
蒼界で技師をしていた母は技術力を買われ、転移者としての歓迎をされてはいたけれど。
確かな身分を持っていた父と恋に落ち、二人が共に歩むことを決めた後。反対は少なくなかった。所帯を持つとなると話は別、当時はそういう時代だったのだろう。
「何せあの親父だからなー」
責任感が強くて真面目一徹の厳格な父と、普段のんびりした雰囲気を纏うが怒ると手が付けられなくなる母。
王国の騎士と、侍の血を引く娘。
「どうやって口説いたのか、ちっと興味あるな」
リューも多感な年ごろなのだ。
「格好いいんだぜ? 元だからって騎士の心得は捨ててないし。結婚するために騎士辞めたことも、全然悔いてないんだ」
両親を誇りに思っている証の笑顔を浮かべて、思い出すのはもう一人。
「親父の親戚のおっちゃんに、二年くらい預けられてさ、色々稽古とかつけてもらったんだ」
俺が使う紋章剣の師匠って奴だな。年中、終始黒づくめで豪快な人なんだけど。冒険者って名乗るだけあってとにかく強いんだぜ?
●信じる者
グリーヴ家は人数が多い。兄弟妹に両親、祖父は勿論、従妹やそれぞれの使用人。全員を家族と見なせば大家族と呼ぶのが相応しい。ちなみにジャック・J・グリーヴ(ka1305)は次男である。商人としてもハンターとしても独り立ちしているので、あとは伴侶を探……二次元嫁については禁句登録。
「喧嘩する事も多いけどよ、仲は良い方なんじゃねぇかな……家族について話せ言われてもそれ位しかねぇな」
そんなことよりよぉ。酒の入ったグラスを片手にシャイネに向けて一歩、寄った。
「なぁ、こんな話を聞きたがるってのは作詞する為だけじゃねぇだろ」
ずい。
ヴォールのこと、気にしてんじゃねぇのか?
「てめぇのお澄まし顔は見飽きてんだ、そろそろ見せてくんねぇか」
腹に何を隠してやがる? 本当の顔はどこにある?
「偽善者になるつもりはないけどね?」
小さく微笑む口元はいつも通り。目の色が少し違ったかもしれない。
「あの人の事も、彼のことも。……森も。いい形になってくれたらいいと思っているよ。僕はただ、煽るだけ。ハンターとしてそこに居るだけさ」
先導できるような器でもないからね?
●心と場所と
(話しきれるかな)
ユリアン(ka1664)が振り返るのは、義兄と義姉を連れてきた時の父の顔。4歳の頃の記憶はだいぶ、おぼろげだけれど。
「今日から家族が増えるぞ!」
弟が生まれたばかりの頃だった。
2歳の妹の手を引いて、弟の世話をする母を笑わせたくて、どうしたらいいか考えてばかりだった。
母が子育てに仕事に奮闘している事を理解していたから、できる事を探していた……と思う。
二人増えたらもっと大変だと、思ったのは最初だけだった。問答無用で手伝わされて。笑顔の母が二人に、ありがとうって笑顔を向けて。抱き締められて照れた様子の二人を思い出す。
(成長したら役に立てるって知って、羨ましくて眩しかったな)
美人でクールな姉も、穏やかで優しい兄も今は家を出たけれど、変わらず自分の家族だ。何だかんだと、兄弟皆家に戻って集まる事もある。
「まったく遠慮がないとは言わないけど、仲は良いよ」
あの二人にとっても帰れる場所なのは、幸せな事なんだなって思ってさ。
(……もう一つ)
今のユリアンには、旅から戻る場所も出来た。師匠もある意味では家族、だろうか?
●追憶
「私の可愛いヴィルマ、未来の霧の魔女さん?」
よく笑う母はいつもヴィルマ・ネーベル(ka2549)に優しくて、ヴィルマは母にそう呼ばれるのがとても好きだった。気に入りの霧の魔女の絵本は、娘のためにと母が手ずから作ったものだ。
「甘やかしすぎだ」
父は躾に厳しかった。母と話す時も眉間に皺が寄っていると思うほど。当時は腹の底から怖いと感じてばかりだった、
(今でこそ我の為を思って居るのだと理解できるのじゃが)
不器用だったのだろうと思う。今の自分の生き方のように。
「一人っ子じゃったがのぅ、屋敷の使用人、みんな家族のようじゃった」
特に世話役として付けられていた、執事見習いのアルフレッド。彼は兄が居たらこうだろう、正にそのイメージを具現化したような相手だった。
「……兄、と言えばのぅ」
ちらりとシャイネを見る。一度くらい断りを入れておこうと思っていた事があったヴィルマ。
「そなたの兄、あれほんにぶん殴って一括入れてやりたいのじゃ」
願望の形だが、もうやると決めている。
「戻る先がどうかなんて、関係はないのじゃ。死んでいなければ……やり直しもきくものじゃ」
●リーベ
「私にも、正しい家族の形はわかっていないのかも」
ごめんなさい、と前置くエイル・メヌエット(ka2807)の一番古い記憶にも、母の姿はなかった。
医者だった父が残した設備で医者を続けるため、医業を学ぶため、師の席に知人の町医者を据えて勉強し、医者になった。
救える筈の命を救える存在になりたかった。
「……家族を想うように、愛しく感じる存在は知ってる」
皆血の繋がりとは別のところで、心を繋いだ相手だ。
偶然に出逢っただけかもしれないけれど、次第にその人の無事を、幸せを祈るようになった。
一人は今も恋人として、近い場所に
かつて弟のように面倒を見ていた少年は、救えていたのか、今となってはわからないけれど。
「エルフハイムにもいるのよ」
秘密の言葉を伝えるみたいに、小さく微笑むエイル。成長を見守っていたい愛しい少女は、今どこにいるのだろう。戦場だろうか、怪我をしていないだろうか。
「私は、喪失も知っているから」
だからそうできるうちは、今は、ただ愛していたいの。
大切な人を、ちゃんと大切にしたい。
「……家族はきっと、その先の絆だと、思っているわ」
●結束
商船がリゼリオに停泊する間の、陸で過ごす時間。小さな休息を兼ねて参加したアスワド・ララ(ka4239)はフクカンの入れた紅茶の産地を当てようと首を傾げる。
「……順番ですか? では」
宣伝活動も一緒に、させていただきましょうか?
曽祖父の代もまだ現役で働いている『ララ海運商会』は家族経営が基本。実際の血縁は勿論のこと、一族の嫁や婿、更には従業員達までも加えると?
「何人でしょうね?」
けっこうな大所帯であることは確実ですけれど。
「商会で働く人々は皆、家族なんです。距離も時間も関係なくて、共に生活する存在で。……どんなことがあっても見捨てず、共に歩こうと互いに気に掛ける大切な存在です」
だから日々、俺は皆が幸せであるように願っています。
「もちろん良い面ばかりあるわけじゃないとわかっています。そしてわかりあうために、お互いに努力しあうことも必要なのだと知っています。……みんなは僕の家族です。そして、そう在ろうとしている仲間です。だから僕も皆に応えようと、そうあろうと努力できるんです」
それがアスワドにとっての家族の姿。
「……答えになりましたか?」
●目が回る
拾った弟は、やたら自分を神格化してくる、けれどよく懐いてくる奴で。
仮の父親は、女と酒が好きなどうしようもないぐうたらで。
そんな、とりあえず家族との共同生活を思い浮かべるしかない龍華 狼(ka4940)は、さてどうしたものかと小さく頭を抱えていた。
(……家族か)
血の繋がった家族と呼べる唯一の存在は、母親だけだと思っているけれど。その母は自分を捨てた。
そうして今、血の繋がりのない者達と屋根を同じくして家族の真似事をやっている。
今近くに居る者達を、家族のようなもの、そう思い始めている自分にも気づいている。家族のようなものだと、認めかけている。
(それでも考えちゃうんだよな、母さんのこと)
過去の話か、今の話か、どちらを言えばいいのだろう?
(あぁ……俺の家族は誰何だろうな……)
血をとれば、今の生活はずっと他人相手の遊び、ただのままごとなのか。
今を認めれば、過去の思い出が意味をなさない空虚なものになるのではないか。
交互に浮かんでは消えていく……まだ、答えは出そうになかった。
全てを笑って話せるほど、狼はまだ大人ではなかったから。
●争えぬ
歌舞伎の世界で有名な役者ってだけでも大層な肩書なのにね。天竜寺 舞(ka0377)が銀の髪をかきあげる。その色彩は、彼女が他の国の血を引いていることを示していた。
「海外公演で浮気してできたあたしらを、クソ親父は恥ずかしげもなく引き取って本邸で育てたってわけ」
物心つく前に産みの母親をなくした双子にとっては助かる話だ。けれど本妻にしてみれは気分のいいものではなかったはずだ。
「今の母さんには感謝してるし尊敬もしてる」
だって文句も言わずに、兄貴達と分け隔てなく育ててくれた。だから兄貴達も、家族として接してくれた。
家族になってくれたんだから。
「だけど親父は許せない」
この世に居る理由は確かに父親が居たからだ、でも、自分達の親になったことで、引き取ったことで、母や兄がどんな目で見られるようになったのか知っているから。
そして。
一番許せないのは……そのクソ親父の芸に惹かれちゃう自分自身。
「彼奴より凄い芸を身につけて、見せつけて、見返したかったよ」
ははは。笑い声が乾いているのは、戻れないと思っているからだ。だから少し冷めた紅茶で唇を湿らせた。
●投影
シャイネの話にどこか、過去の自分が重なる気がして。メリーベル(ka4352)は周りの話を聞きながら、ぼんやりと思い出を掘り起こす。
例えばほんの小さな食い違い。オムレツにソースをかけるかどうかとか、雨が降りそうだから雨具を持っていくかどうかとか、ちょっとの場所だから走っても大丈夫だろうかとか。そんな小さな行き違い、すれ違いは、毎日のように積み重なって。
(あの時はどうしたんだったかな)
気付けば互いを避けるようになって、視界に映りそうになるだけで顔を背けて。そんなつもりはなかったはずなのに、喧嘩をしているような。そんな時間を過ごしたことがある。
「家族って何だっけ」
ふと、立ち止まって気付いた時には、顔を合わせる機会がすっかりなくなっていたのだ。
家族なのに、それまでどうやって接していたか思い出せなくなって。ぎくしゃくとしてしまって。近づき方も分からなくなるほど意地をはっていたんだと気づいた時、相手の顔がやっと、見れた。
(視線を逸らしていたのはずっと、私だけだった)
見守られていたことに、知らず守られていたことに気付いたのはそれからだ。
●武神の心意気
「また喧嘩して来たんかい!」
「イッテーッ!?」
刷り込まれているのではないかと思うほどの鮮明な記憶。春日 啓一(ka1621)にとっては祖母がそれに当たる。
喧嘩をして帰って来ると決まって拳を見舞われた。喧嘩の傷よりも、腫れた頬が目立ったが、事情を知る者は少ない。翌日は決まって「また何処かで暴れてきたのか、あいつ」と視線を向けられるだけ。
「自慢じゃねえが、もともと見た目を理由に売られた喧嘩だ。腫れた顔で悪化するようなもんでもなかったぜ」
言いながら小さく笑えるのは、それが啓一にとって悪い記憶ではないからだ。
「武神って言われるくらいクソつえーばあちゃんでな」
戦い方、体術の基礎は自分で身に着けていたけれど。拳での戦い方を教えてくれたのはこの祖母だ。
「怒った後はいつも聞くんだ『啓一から手を出したのか』ってな。んなわけねえだろって返すんだけどよ」
男たるものつまらん事に拳を使うな。本当に守りたいモノがある時に使え。それが祖母の教えでもあった。
だからいつも、啓一の答えを聞いたら満足して豪快に笑ってくれた。おっかなくても、自慢の祖母だ。
●年長の役得
「リアルブルーの知識ってどれくらいあるんでしょう?」
花厳 刹那(ka3984)は確認を取ってから話すことに。
蒼界の知識は確かに増えてきているけれど、必ずしもすべてのクリムゾンウエスト人が知っていることではない、というのは正解で。シャイネも実際のところ、蒼の知識を十分に持っているわけではなかった。
一人で転移したこと。叢雲の家は極東地方で名門と呼ばれる軍人一族であること。両親も軍人であること。
「家族は……兄弟姉妹がとても多い大家族ですね?」
具体的な人数は出さず、くすりと笑う。謎めいた雰囲気を魅せるように意識したところで、微笑むシャイネと目が合った。……負けてる?
「と、兎に角。私は兄弟の中でも年齢的には上の方になるんです」だから弟妹が“お姉ちゃん”って甘えてきてくれるの、本当に可愛いんです」
思い出して頬が緩んでいく刹那。
「癒されますよ?」
握りこぶしでマイクを作っていそうな勢いだ。
「家族……そうそう、それと忘れちゃいけない所でした」
ペットに猟犬を買っていたんです。今は一人暮らしで寂しいですし。いい子が居たら是非、教えて下さいね?
●確かな証
まだ幼い頃。母と別れて身寄りもなかった奈義 小菊(ka5257)は、その時初めて父親という存在を知った。
父も、小菊の存在を知らなかった。寝耳に水という顔はまさにあんな顔だったのだろう。
研究一筋の父で、それ以外には興味を示さない人物だった。
「だからかな、父というより、同居人という印象が正しいかもしれない」
父もそうだろう。気紛れに相手をしてくれることがある程度。
「でも、そうだな…それは貴重な機会De、やはり私は嬉しかった」
血縁だから必ず絆が出来るわけじゃないとも知った。
けれど、血縁だからこそ、互いを意識することはあるのだとも気付けた。
「私は……本当の意味で家族になれたのか、自信があるとは言えないけれど」
繋がりがあるのだと信じる心があれば、家族を作ることに繋がるんじゃないのか?
「……今の私には、父との約束がある」
頼まれごと、ともいえる。私にだからこそ預けてくれたのだと、私はそう思っている。
だから、必ず果たそうと。ずっと胸に抱いて今、日々を過ごしているんだ。
「確かにきっかけは血だったけど。この心がある限り……私と父は、家族だ」
●追う背中
エルフハイム、中心地であり最奥地オプストハイムとはまた違う森の奥。皆が1つの家族のように集まって暮らしていた小さな集落が、リアリュール(ka2003)にとっての家だ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、母と兄と弟……そして、私」
指折り数えてあげていく。
「父はハンターだったのよ。そんな父の面影を追って、兄が出て行ったのが……そもそもの切欠かしらね」
狩りの名手で、動物ともすぐ仲良しになる兄が自慢で、いつも後を追いかけていた。
優しい兄を送り出すのは寂しかった。でもだからこそ、決めた道を歩んでほしくて止めなかった。
「その兄の消息がなくなったの」
探すためにハンターになったのだと、今へと話が続く。それがリアリュールの目的だけれど。
(半分、あきらめてるのよね)
言葉にはしない。ハンターとして活動をはじめて、未だ手がかりらしい者は見つかっていないのだ。
(でも……)
まだ森で過ごしていた頃、自分達弟妹を見守ってくれていた兄の姿を思い出すのは簡単で。
記憶の兄はその微笑みを絶やすことが無い。
(次に会えたら、言いたいこと、たくさんあるんだから)
●変質
「両親は……悪い人たちではないですし、愛情をもって育ててくれたのは確かです」
優雅な仕草で紅茶の入ったカップを傾けるエルバッハ・リオン(ka2434)。
「ですが、変わった人達ではありましたね」
そう私が思うに至った話をいくつか、させていただこうと思います。
例えば誕生日。普通の家庭であれば事前に贈り物の為のリサーチがあるものだ。しかしリオン家にはそれがなかった。
「欲しいものはそう思うより前に手に入っていましたけど」
だからそれほど欲求らしい欲求が無いのは自覚していたエルである。しかし実際のプレゼントは毎年用意されていた。
「どこで入手したのか、謎の珍品が多かったですね」
例えば気絶するほどの匂いを撒き散らす花とか。どうやって手に入れてきたのかわからないようなものばかり。
「でも、一番変わっていると思うところは……私の羞恥心をなくすために行った訓練の数々でしょうか」
ハンターになりたいと言っていた私の為に、集団行動でも活動できるかどうか、戦闘時に服が乱れても困らないように。隙を見せないように……その教育は今もしっかりとエルの一部となっていた。
●視野
「私は6人姉妹の5人目なんですけど……」
一度首をかしげ、まあいいか。ティス・フュラー(ka3006)もお茶を一口。
「とにかく、一番上のお姉さまがね、すごいんです」
何をやらせても姉妹で一番、それは長女ゆえに、だったのかもしれないけれど。
「動きも無駄がないというか、綺麗なんです。料理をするにしても、美味しいだけじゃなくて盛り付けが綺麗だとか。料理を終えると同時に片づけにも手を付けているとうのか……作るにしても、そうじゃなくても何でも一番で」
でも…カップを一度置いて、息を一つ。
「だけど、何もやらないんです」
勿体ないと思いませんか? 必要としているところは多いって思うんです。
「その力をもっとみんなのために役立てたら?」
言っては見たんです、これでも。でも……
「めんどいから嫌」
その一点張りでした。
「自分の事だけ考えてればいいのよ」って、姉も言い出す始末です。
「……そのまま、喧嘩して飛び出してきたんです。だからここにハンターとしているんですけどね」
実際ハンター業は危険も多いですよね。
「お姉さまなりに私の身を案じてくれていたのかな……?」
●支え
天涯孤独のエーディット・ブラウン(ka3751)にも家族が居る。
「身体は大きくてがっしりしていて~」
腕を大きく広げるのはより詳しく伝えるためだ。
「力持ちの男の子なのです~」
荷車を引っ張ったり、大荷物を運んでくれたり大活躍するんですよと笑顔。
「例えば私がおしゃべりをしに、酒場に出た時とかも~、毛布をもってお供してくれるのです~♪」
とにかく優しくて、気がきく素敵な存在なのですよと、エーディットは終始楽しそうだ。
「そのまま眠ってしまっても大丈夫から、彼の上にかけた毛布に包まって年越しをした事もあるくらいです♪」
ここに来て、シャイネが首を傾げた。男の子、というから恋人なのかと思っていたのだ。しかし同確認を取っていいのかわからないようで。構わずエーディットは話を続けていく。
「もう彼無しの生活は考えられません~。それくらい、うちのゾウガメは大切な家族なのですよ~♪」
お茶、ありがとうございますねと口をつけるエーディットに、くすりと笑顔が向けられた。
「なるほど、確かに家族は人に限った話ではなかったね? 大事なことを忘れてしまうところだったよ」
●理由
「あのね」
ネムリア・ガウラ(ka4615)は、本当の自分の部族について、人づてにしか知らない。
「わたしが赤ちゃんの頃、歪虚のせいで、無くなっちゃったから」
同じ境遇の子達と、おじじやおばばと共に。身を寄せたのは別の部族のもと。
そこで新しい縁の中育ったけれど、ネムリアに取って、家族はおじじおばば達、そして同世代の、同じ経験をした仲間達だった。
「寂しくは無かったけど」
失くしたものがどんなだったか、それを知っているおじじおばばのようには、本当の部族の居場所に戻りたいとは思えない。
全く同じ気持ちに離れなくて、想いを叶えてあげられなくて。
でも、歪虚を倒せたら、それが叶うかもしれないと気づいた時。
「希望の光みたいなものが、みえたきがしたの」
だから、ね。
ご先祖様に、部族の皆に。恥じないような戦士にならなくちゃって。
「歪虚を倒せたら、歪虚病も気にしないで、一緒に居られるようになるかもしれないんでしょ?」
だから、わたし、戦うの。
「……でもね?」
おじじとおばばの心を継ぐみたいに、血じゃないところで繋がることができるならそれが家族って思うんだ。
●眩しさ
「末っ子なのです。だから、というだけではありませんが……何をしても心配されて、皆が手を貸してくれるのです」
王国の外れの森から出て、まだあまり時はたっていない。カリン(ka5456)はAPVにころがるガラクタに目を輝かせながらも、落ち着いて話そうと言葉を選ぶ。
「5人居る兄や姉だけなら、家族愛で済んだかもしれませんけど、そうじゃないのです」
森の若手だからこそ大切に、傷つかないように。大切に守られていると気づいてからは疑問ばかり自分の中に溜め込んでいた。
「森が生き返るわけじゃないと思うのです。エルフは森と共に生きて死ぬべきなんて古いのです」
それは維新派の考えに非情に酷似している。エルフゆえに、どこも考え方は同じなのかもしれなかった。
「そんなの私は嫌です! やる前から無理だとか言わないで欲しいのですよ! だから出てやったのですっ」
頬を膨らませながら言う様子に、周りから和やかな笑顔が零れる。それには気付かないまま、カリンはこっそりと続けた。
「でも…… そろそろ手紙くらい書いてやろうかと思ってるです」
ハンターをやれているって、教えるために。
●乗り越えた先
「俺ん家は、父さんと母さんと俺の3人家族だ」
つっても近所に同世代の幼馴染達がいたし、兄弟姉妹が欲しいとは別に思わなかったな。そこはあんたと同じか? ラティナ・スランザール(ka3839)の言葉にシャイネの目が細められる。
「俺の故郷は小さいから村全体が家族みたいなもんだが……」
駆け落ちした異種族夫婦を受け入れてくれるような村だったから、柔軟だったと言える。
「ん? ああそうだ、俺は形質こそドワーフだけど、正確にはドワーフとエルフの混血なんだ」
どっちの血も引いているから、種族としてはどちらにも名乗れないのが難点か?
「でもさ、俺にとっての家族は“存在意義”だからさ」
種族が違っても心を通わせた両親のことは、ラティナにとって誇らしいことだ。
お互いへの愛と、互いに大事に想う絆の存在を感じ取る。その二人の血を受け継いだ自分は確かに種族の上では半端かもしれないけれど、それを恥じるつもりはなかった。
「あ、因みにウチの両親な、お互い一目惚れの駆落ちで、今も砂糖吐くレベルで仲良いんだぜ。いい年してって思うけどよ……悪くないって思わないか?
●姉想い
細やかな細工の練切はウェグロディ(ka5723)のお手製。茶請けにどうぞと提供しながら。きょろりと周囲を見渡した。
「僕の姉上がいつも喜んでくれてね。食材の豊富さが嬉しくてやっている事でもあるけれど……おかげさまで、こういったことも得意なんだ」
苦笑いを浮かべるのは照れではなくて、つい周囲に姉の姿を探してしまったことへの自嘲だ。
「ああ、失礼。家族の話をするんだったね」
とはいえ僕には姉上しか居ないんだけど……聞いてもらえるかい?
「姉上はとても素敵な人なんだ。今までずっと傍に居てくれた、大切な人でもある」
楽しい時と嬉しい時は、眩しいくらいの笑顔を浮かべる人。それだけならどんな人にも当てはまる。けれどウェグロディは辛い時、苦しい時にも笑顔を絶やさない姉をとても大事に思っている。
「姉だから、年上だから。心配をかけまいとしているのはわかるんだ。だって僕は弟だから。近くに居るからわかるんだ」
お茶をすすり喉を潤す。熱っぽい語り口はまだ終わる様子を見せない。
「だから、辛い事や苦しい事で笑う姉上を見ないで済むように、その笑顔は僕が護ろうと誓ったんだ」
●絆の切欠
「……私は知らない」
家族も、親も。今此処に、nil(ka2654)がnilとして存在しているという認識が真実なら。それは自分にも親が居たことを示しているけれど……知っているのはそれだけだ。でもそれで構わない。
(なのに、どうして)
ちらと横に座るライナス・ブラッドリー(ka0360)を見る。nilにとって不思議な言葉をくれる人だ。
「でも」
この人の話をしに来たつもりだった。けれど自分にもわからないことをどう話せと言うのだろう。
「……家族にしてくれると言った人なら、居る」
言葉にして改めて、首をかしげた。向こうの世界、蒼界から来たライナスの事を、nilは何も知らないと気付いたから。
「ライナスの、“本当”の家族は、今如何しているの……?」
気になったのはどうしてだろう。自分の家族さえも気にしたことが無かったのに。
(偶には“話す”のも良い、か)
それで何か伝えられるというのなら。無だというこの子に。
傭兵だったライナスは、家族を置いて戦地で命を懸けていた。
歪虚に殺され、大切なもの、守りたかったはずのものは無くなった。誰かの幸せを守る筈の傭兵は、自分の家族さえ守れない……なんて皮肉だ。
今ライナスに残っているのは、胸の内にあるものだけ。温かい想い出と、苦しい復讐心。
「でもな、nil」
首をかしげるnilに向けて話す口調は、言葉ほど苦し気なものではない。
世の中への関心が薄くなっていたライナスは、転移してnilに出会った。
己を“無”だと言う少女は、自分自身に対しての興味も無くて。
「お前さんだけは……いつでも無事であって欲しい」
何故か、心から思うようになったんだ。護りたい、ってな……一緒に居る内に。
「無は有にもなれる。……お前さんも、だ」
娘のようだと思っていた。大切で守りたいものを無くした男と、自分さえも無いという少女。似ていると思ったのか、どうなのか。ただ過ごす時間が増えるにつれて……今は娘だったら、そう思った。
「nil……俺の娘にならないか?」
「……ライナス」
聞き手になっていたnilが口を開いた。分からないなりに、それが答えになればいいと思いながら。
「……家族……私は知らない。親も知らない」
でも、出来たら。その先にある何かに興味が出来た。
「……それでも良ければ……私は……」
●24編の形
ハンター達が去った後の一室。
書き留め終えたシャイネの小さな、一息。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/28 06:39:22 |