法術と伯爵夫人に興味のある者は来なさい

マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~12人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/12/03 22:00
完成日
2015/12/15 19:39

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●大司教、総本山にて二つの用を済ませる
「失礼いたしました」
 セドリック・マクファーソン(kz0026)は聖ヴェレニウス大聖堂の奥の一室、古めかしく重々しい扉の前で改めて一礼し、その部屋を退室した。
 廊下には冷たく静謐な空気が満ちている。セドリックは我知らず深い息を吐き、ようやく自分が緊張していたことに気付いた。
 ――いつの間にかあの方に呑まれていたということか。
 扉を振り返り、セドリックは苦々しく顔を歪める。
 この部屋の主は、現在の聖堂教会の頂点だ。いや実際の権力という点から考えれば、別に教会の頂点など大したものではない。が、当代唯一の教区大司教であるというのはやはり人々への影響力という意味で大きい。
 そう考えると全国民を相手にしていたようなもので、疲れるのも無理からぬことだ、などとセドリックは自己分析しながら扉から離れる。
 ――だがここに来た意味は皆無だったな……。
 わざわざ足を運んでまで尋ねたのは王国の秘、巡礼陣について。だが望んでいた回答はやはり得られなかった。つまりは王女殿下にしか――いや、『女王陛下』にしか教える気はないということだ。
 ――堅物め。
 セドリックはただでさえ怖いと言われがちな表情をさらに険しくして、次の用事に取り掛かった。

「過日、取り戻したマテリアル。あれは何かに活用できんのかね」
 大聖堂の面会室。簡素な室内で向かい合わせに座るのは法術陣の研究者――オーラン・クロスだ。
 陣を起動し、生きて戻ってきたことを労うのも程々にセドリックが尋ねると、オーラン・クロスは口元に手をやり考え込んだ。
「……何しろ術式が現在のものになったのが三百年ほど昔の話だ。失伝してしまった部分もあり、未だに完全に把握しているわけではなくてね……」
「三百年? もっと昔ではないのか?」
「あ、いや……それだけ陣の完成までに様々な改良をされてきたんだろう」
 分かりやすく狼狽えるオーランに、今なら親しみすら覚えることができた。教会幹部も貴族連中も、これだけ素直ならばどれだけ楽か。
 セドリックは小さく鼻を鳴らし、話を戻した。
「まあいい。それより続けろ。活用できるのかできんのか、それが重要なのだ」
「あ、ああ。はっきり言って今の我々にできることは少ない。再びソリス・イラのように大精霊に呼びかけるか……せいぜい『法術』陣らしく法術に使うか」
「法術に使う?」
「そう。極めて非効率的だけどね。泉から水を直接手ですくってきて砂漠の草に水を与えるようなものだ」
「その例えはよく分からんが、個人が小出しに活用するには不向きだという点は理解した」
 研究者が首肯する。
 個人が使えない、ということはだ。セドリックは腕を組んで思案する。
 覚醒者の技能・術式というのは研究の結果として現在のような「スキル」などという形式になってきたらしい。「スキル」なるものがどんな感覚なのか、非覚醒者の自分には理解不能だが。ともあれそれは言い換えれば、研究が不十分で「スキル」化できていない術式もあるということだ。無論それだけが理由ではなく、門外不出として秘匿されているものも多いだろうが。また、投資できるマテリアルさえあれば全く新しい術式の開発も可能なのかもしれない。であれば……。
「では術式の研究を進めて『スキル』化する為にお前たちが活用する、というのはどうかね」
「法術の、研究……?」
「回収したマテリアルは膨大な量なのだろう? 少々研究に使ったところで枯渇などするまい。ならばそのマテリアルを富国強兵に活用するのは当然だ。そして法術の強化は強兵に繋がる。同時にそれはハンター諸君への利益の還元にも繋がるのではないかね?」
「まあ、面白いとは思う。でも……あー、そうだな……恥ずかしい話、僕は法術が苦手でね。陣にかかりきりだったから」
 そんなカミングアウトは聞いていない。
 セドリックは嘆息して立ち上がるや、貴族連中とは別の意味で面倒な研究者に命令した。
「ならば教会の法術研究室全体でこの話を進めろ。今すぐにだ」
「え、えぇっ」
「ああそうだ。私がハンター諸君と少し話もしてみよう。参考になるかもしれん」
「ま、待ってくれ……!」
 セドリックは大股で面会室を後にした。

●大司教、ハンターに依頼す
『法術と伯爵夫人に興味のある者はグラズヘイム王国王都イルダーナ、聖ヴェレニウス大聖堂まで来なさい』
 そんな依頼文をハンターズソサエティに掲載させたのは、オーラン・クロスに提案して二時間後のことだった。
 そして今、セドリックの隣では喪服に身を包んだ伯爵夫人が顔を伏せて音もなく涙を流している。
 夫人は名をメリンダ・ナーファと言った。先の茨小鬼との戦争、ヨーク丘陵の戦いの前哨戦で戦死したナーファ伯爵の夫人だった。
 何故彼女が隣にいるのか。全くの謎だ。
 セドリックは神妙な面持ちのまま、声をかける。
「伯爵夫人、どうか落ち着いて奥へ行きましょう。そのようなお顔を他人に曝していては亡きナーファ伯爵とて気が気ではないはず」
「あ、あぁっ……」
 椅子の上で泣き崩れる夫人。何ごとかとこちらを窺う周囲。咳払いして腕を組み、前方一点を見据えるセドリック。
 これがこの二時間のうちに何度繰り返されたことか。
 今まで教会内部や国政で辣腕を振るってきた自覚のあるこの身だが、こんな状況は流石に初体験だ。それでも何か話してくれればやりようもあるのだが、話してくれないのだからどうしようもない。しかも話してくれないのに、離してくれない。正直やめてほしい。
 ――王女殿下に投げてしまうか……。
 教育という名のもとに、そんな考えが浮かんだ。そして即、実行しようとした。
「伯爵夫人、今から王女殿下にお出ましいただきます。殿下ならば夫人の思いを受け止めてくださるでしょう」
「いやよ、いや……私……私……!」
「何か? 残念だが私では夫人の望む役を全うすることはできない」
「私、私……!!」
 と、大聖堂の入口にハンターらしき集団がいるのが見えた。セドリックは立ち上がり――、
「私っ、楽しませてほしいのっ……!!」
「……、念の為に訊いておくが、それは芸をしろということかね?」
「ううん、違うわ。いえそれも正しいかしら。けれどね、芸だけじゃあないの。何でもいいから楽しくなりたいの!!」
 …………。
 セドリックは伯爵夫人の手を振り払い、ハンターに声をかけた。
「諸君、すまないがこの面倒な伯爵夫人の相手をしてくれ。そしてこちらが本題だが、法術についての意見を聞きたい」

リプレイ本文

「ぃいやっほおおおおおおおう! だーい! せ」
 大聖堂に到着した一行は、
「静粛に!」
「ぴぃっ!?」
 到着早々セドリック大司教の一喝でリュミア・ルクス(ka5783)が脱落した。

●人間模様
「随分、個性的な奴だったな」
 ヴァイス(ka0364)の一言で凍っていた空気が動き出す。
 大司教が気を取り直したように歓迎を示すと、ウィンス・デイランダール(ka0039)は肩を竦めた。
「こんな所でホージュツ談義とはな。ま、早速本題に入るか」
「あ、その前に提案がっ」
 妙にやる気を見せるウィンスだが、そこに柏木 千春(ka3061)が待ったをかける。少女は伯爵夫人に目をやり、
「お茶会をしませんか? ホージュツも、ご夫人も、きっとゆっくり話せます」
「お、ええなお茶会。『何せここは人の心を支えるエクラ教の総本山や』。しかも偉い大司教さんもおるんやから霊験あらたかやろな」
「……まあ、構わんがね」
 ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が大司教を見定めるように賛成すれば、メトロノーム・ソングライト(ka1267)はこくと首肯。その視線は千春の一挙一動を見逃すまいと追っている。
「しかしお茶会なあ……こんな目と鼻の先でされたら王女さんが悔しがりそうや」
「好きなのか?」
 問うヴァイスに、ラィルが苦笑して頷く。するとヴァイスは何の気もなくのたまった。
「よし。呼ぶか」

 柏木千春はお茶会の準備も程々に、奥の一室の前にいた。
 眼前の扉は面会室の扉であり、決して消えない傷痕だ。千春はその傷痕に触れ、押し開いた。
「オーラン、さん?」
「ああ。君か」
 後ろ手に扉を閉め、千春はオーランを見た。彼は、何でもないように微笑していた。
 心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
「ぁ、の」
「何だい」
「……、護、れなくて……ごめんなさい」
 これはきっと自己満足でしかない。謝罪したって何も変らないし、赦してもらえるとも思わない。だから、これは自分の為。
 やな子だな、私。
「いや」
 頭上から聴こえるのは、諦念と悔恨の混じったような声。
「悪いのは止められなかった僕だ。そして止まらなかった……『止まりたくなかった』あいつだよ」
「違います! 私が……」
「ありがとう、あいつの事を気にかけてくれて」
 何を言っても元には戻らない。この人の心に届く事も、ない。
「……わたし、がんばります……頑張りますから……」
 あの人の死を無駄にしないように。
 浮かんだ言葉は、胸の奥底へ押し込めた。

「謁見、できないか」
「申し訳ありませんが」
 ヴァイスが王城で用件を告げると、にべもなく断られた。
 ――策もなしに接触できる筈がなかったか。
 ヴァイスは残念に思い、大聖堂に戻る――寸前。
 視界端を、黒い影が過った。
 咄嗟に身構えるヴァイス。影は素早く周囲を窺うや、何と突起に指をかけ城壁に跳びついた。
「!?」
「王城もいくよー! あたしにせーふくできない所はない!」
「あれは」「く、曲者――!」
 笛が吹かれ、見る間に衛兵が集まってくる。ヴァイスは兵に先んじて接近すると、下から声を張り上げた。
「やめろ! 下りてこい!」
「ッもう見つかった!?」
 隠れていたつもりか。
 ヴァイスはツッこみつつ影――リュミアに投降を呼びかける。
 少女は壁を蹴って大跳躍、逃亡せんとするが、歴戦のヴァイスを出し抜くには足りなかった。少女が着地した瞬間、ヴァイスは後ろから肩を叩き、
「諦めて謝っておけ」
「……、で、デキゴコロだったんだよ」
 近所の悪ガキか。
 かくして騒動は終ったのだが――それは一つの偶然を呼び込む事となる。

●ホージュツ
 中庭では着々とお茶会の準備が進んでいる。
 そんな中、ウィンスは努めて冷静にカップを持った。ちなみにまだ空である。
「始めようか」
「えっ」
「ホージュツと言えばだ、やっぱそのものの造りが最重要だと俺は思う。従来の物でも一定の効果は見込めるが……どうしても精度がな」
「ん?」
「そして精度は観測と射手とホーダイの完成度で変る。前二つは技術だ。が、完成度は部品の質による。つまり職人を育てるべきだ」
 周りの人間がぽかんと口を開けている。ややあってラィルがぽんと手を打った。
「さらに生産技術が上がれば可動性の改善を見込める。バラさず素早く移動できるという事は軍の……」
 大司教サマは尤もらしく相槌を打ち続ける。そして僅かに言葉が途切れた瞬間を狙い、口を挟んできた。
「成程な。――ところで一ついいかね」
「何だ」
「私はホージュツの話を求めたのだが」
「あ? だからホージュツ……」
「って」ウィンスを遮るや、ここぞとばかりラィルが右腕をスイングした。「それ砲術やないかーい!」

 ――この日。
 王都の人々は、恐ろしくもどこか物悲しい狼の遠吠えを聞いた。

●かくて本題
「さて、そろそろ始めるか」
 お茶会が始まり一時間。ヴァイスが切り出すと、びくんと千春らが震えた。
「そ、そうですねっ」
「ところで……ウィンスは何で燃え尽きてるんだ?」
「やめたげて!」
 木に寄りかかっていじけているウィンス。夫人が僅かに笑った。
 ともあれメトロノームが法術談義の口火を切る。
「茨風景……あのような結界があればどれ程心強いでしょう。完全再現は難しいでしょうけれど……術式を単純化、効果を絞ればできると思うのです」
「人を……味方を護る力。『彼女』の力は『護る為に』使いたい、です」
 意を決したように千春は言う。ラィルが賛意を示し、
「癒しの空間を作って中におったら傷が癒える、とか」
「癒しに『茨』は不似合いですから、景色は綺麗な感じが良いですね」
 こくこくとメトロノーム。しれっと交じりクッキーを齧りつつ、リュミアが異論を上げる。
「でもでも、必殺技っぽいのもかっこいいと思います! 裁きの光! 相手はしぬ! みたいな!」
「確かに攻撃手段も重要だが」
 ヴァイスがメトロノーム持参のチョコを舐める。
「歪虚にはこちらの行動を縛る事ができる奴もいる。これを無効化できれば助かるな」
「あとは人の心を落ち着かせたりやろな」
「心を癒す……その為にこそ素敵な光景が必要かと」
 こくこくこくこく!
 メトロノーム、本日二度目の主張である。
「ひょっとして綺麗な幻影作りたいだけやないか?」
「そんな事は、全く」
 いかにも何でもなさげに小首を傾げた。
「あ。幻影見せて混乱させるのもええなあ」
「折角見せるのなら綺麗な幻影が良いと思います」
 すぐさま食いついたメトロノームに一同から笑いが漏れる。
 が。

「つまらないわ」

 一人席を立った人がいた。伯爵夫人だった。
「帰る。ここなら楽しくしてくれると思っていたのに」
「ま、待って、待ってください!」千春が咄嗟に立ち上がり、「いきなり法術の話をした事は謝ります! でももう少し付き合っていただけ……」
「もういいわ。だって楽しくないのだもの」
 思いつめたように必死に呼び止める千春だが、夫人の歩みは止まらない。
 その背に――無遠慮な言葉が突き刺さった。
「楽しくない、ね。ハ、気に入らねえな」
 夫人の足が止まる。男――ウィンスが立った。
 二人が睨み合う。千春が狼狽し、リュミアが参戦しかけてヴァイスに止められた。
 夫人が腕を組み、ゆっくりと微笑む。
「なあに? 私と遊びたいのかしら、坊や?」
「口を閉じろよババア。いいか、人生は反逆だ。逆境に抗え!」
「あら。私の唇をどうにかしたいのね、可愛い坊や。でもだめ、お姉さ」「ああん!?」
 ウィンスが唸りを上げると、夫人が苛立たしげに眉を歪めた。嘆息し、
「だから子どもって嫌いよ」「ああん!?」
「……何なのこの子」「あああん!?」
「う」「ああああん!?」
 吠える度に一歩また一歩とウィンスは距離を詰める。遂には額を突き合せ、吐息すらかかる距離から睨めつけるに至った。
 じ。
 じー。
 じいいいいいい。
 ……、夫人が、目を逸らした。
「もういや! 嫌いよ、嫌い! 何でこん……」
「黙れよ」ウィンスが瞳の奥を覗き込むように、「つまらない、楽しみたい。ならまずてめーが楽しむ努力をすんだよ! つまらねえって世界に抗え! 魂を反逆させろ!」
 唇が触れそうな程の距離で放たれる、ウィンスの咆哮。
 イヤイヤと首を振っていた夫人が、呆けたように少年を見た。
 きゅん。
 そんな音が、聞こえた気がした。
「はぁ……そこまで言うなら? まだいても構わなくてよ?」
「いや帰れよ」
「私は芸を見たいの。ねえ、坊やも何かして?」
 夫人がシートに座り直す。ウィンスは舌打ちし、元いた木に寄りかかった。

 ――何だろね、これ。しかしプロのリュミアちゃんはこの隙にお菓子を食べ尽すのだ!
 演劇でも観た気分で、お茶会は再開された。

●道は遠く果てない
 ヴァイスとラィルが意見を軽くまとめていた頃、メトロノームは『楽しい事』を考えていた。夫人は夫を亡くされたようだし、また退屈させるのも気が引ける。
 ――楽しい、事。
 その時、偶然ヴァイスと目が合った。そして隣に移動してみた。
「少し、よろしいでしょうか? 楽しい事、なのですけれど」
「? 何か解らないが、できる事なら協力するぞ」
「では」
 頭を下げるや、メトロノームはヴァイスにしな垂れかかってみた。はらりと髪が彼の膝にかかり、払って手を置く。
 彼が硬直したような感覚。構わずメトロノームはクッキーを取りヴァイスの口元へ。
「ぁーん……」
「ふぁっ!?」
 奇声を上げた隙にその口へ捻じ込むと、ヴァイスは抵抗する間もなく飲み込んだ。
 ごくん。丸飲みだった。
「美味しいですか?」
「ぁ、ぁあッ!?」
 裏返った声。顔を真っ赤に染め、縮こまったヴァイスの姿はウィンスと対照的だ。ハンター業界、男性も幅広く取り揃えております。
 メトロノームが夫人を窺うと――
「青いのねぇ。本当に男の子? 教育が足りないのではなくて?」
「えっ」
「まとめて私が教育してあげましょうか?」
 ……。これも夫を失った空虚感を埋める為だ。仕方ない。メトロノームは自らに言い聞かせる。
 一方ヴァイスはソラキレイダナーとか呟いていた。

 そんな時だ。
「あのっ、お茶会があると聞きましてっ」
「王女殿下はお茶をご所望です。皆様、全てのお茶を供出なさいますよう」
 夕闇迫りつつある中庭に、システィーナ・グラハムと侍従長が闖入してきたのは。

「お、おお! よく来てくれた!」
 辛うじて再起動したヴァイスが言う。ラィルが手を振り、
「よう聞きつけたなあ。忙しいんと違う?」
「先程、門で騒ぎがあった時にオクレールさんがヴァイス様から聞いたのです。それで、息抜きにっ」
 大司教の様子を窺う王女である。ヴァイスが笑い、
「折角だしな。それにやりたい事もあってな」
「……」
 ぐぬぬと侍従長がヴァイスを睨みつける。
 芸でもするんかな、とラィルが考え、
「ま、楽しもか! 丁度『人々の安寧を心から望む』大司教さんが皆を元気にする言うてな、芸に協力してくれるらしいんよ」
「……まあ、構わんがね」
「よっしゃ! ほんなら伯爵夫人さんも来やって。芸はやるのが一番!」

 そうして三十分。奥へ消えた三人を除く七人で談笑していた――ら。
 満足げに三人が戻ってきた。
「あ、お帰りなさい。お茶淹れますね!」
 千春がふにゃんと笑って注いでいく。
 ――ラィルさん、夫人さん、デスマスクさん。うん三人。何してきたのかな、三人で。内緒なのかなぁ!
「どうぞ、ラィルさん、ナーファさん、ですますくさん! そろそろ冷え…………」
 !?
「っだ、ですまっ、どっ……!? ……どなたですかあぁー……!!?」
 ひだまり娘の絵に描いたような二度見。これが本日のハイライト。

●愛と青春の輝き
「癒す事で発動する法術、なんてどうだ。術の発動を陣に見立てそれを利用する。例えば前後左右の奴にヒールかけたら自分との間に導線ができて、そこを踏めば爆発するとかな」
 木に背を預け、意見するのはウィンスだ。法術など興味ないと言いつつ手の込んだ仕掛けを考える辺り、責任感が強いのか。
 デスマスクもとい白と黒と紅で化粧された大司教が先を促す。
「巡礼する程強まる術があるのなら『癒す程強くなる術』なんてもんがあってもおかしくない」
 実現性があるかは知らねえが、とウィンスは口角を歪める。
「だがそんなキワモノみてえな術も――上等だ、と思ったまでだ」
 この案は今回の聴取で最も独創的と言えたかもしれない。一方最も量を揃えたのはラィルだ。
「そやなあ……人の痛みを肩代りするとか……、死者の記憶を読み取るとか……聖職者ぽくないかな」
 ラィルはふと自嘲するように嗤い、カップで顔を隠した。
 その後幾つかの案が出て、談義も終る気配を見せる。リュミアが新たなご飯を求めて旅立たんとした――その時。

「じゃあ最後に俺の芸でも見てもらおうか」

 ばっ、と突如照らされる中庭。見れば、光を浮かべた聖導士らしき者が周囲を取り囲んでいる。声の主――ヴァイスは言い放つ。

「姫さんプロデュース、今日限定ライブだ!」

 ヴァイス(フリルワンピ装備)に光が集まる。隣に立つのは侍従長オクレール(三十●歳)!
 Ah――。
 歌声が一つから二つに、そして四つ、八つ、四方八方から響いてくる。中庭一帯をホールとした二人は、古くから王国に伝わる歌を朗々と紡ぐ。高低二つの旋律が対を成すように。
「いつ打ち合せたんや……!」
 やられた! 的な戦慄を見せるラィルをよそに二人は息を揃えて歌う。

 ――建国王ユリニウスは無二の盟友を失い、それでも国を導いた。何故ならその国は、二人が夢見た国だから。

 そんな内容。それを聴きながら。千春は夫人に話しかけた。
「きっとね、きっと……過去を忘れちゃ、だめなんです。この王様も、私も――貴女も」
 自分に言い聞かせるように。彼と会話した記憶を刻むように。
「『悲しい』になっちゃった思い出も、楽しいで塗り潰しちゃだめ」
 誰も責めてくれない。だから私は、ずっと頑張る。
「少しずつ『悲しい』の棘を丸くして、そうして抱き締められたら、いいですよね」
 可愛らしい少女の言葉。今にも歌に交ざりたいと思っていたメトロノームは、それを漏れ聞いた。
 ――棘を丸くして抱き締める……。
 夫人は暫く視線を彷徨わせ、口を尖らせて言う。
「子供は子供らしくお乳でも飲んでなさい」
「にゃ!? こ、子供じゃないですもん! じゅーくですもん!」
「デューク!? 公爵か。了解した。マルグリッド、千春が『公爵に捧ぐ英雄歌』をご所望だ」
 何やらやる気になるヴァイス。コーラス隊まで早速歌い始め、夜の中庭は謎の盛り上がりを見せていく。
 そのうち本日影の薄いシスティーナがヤケ紅茶し始めた辺りで、大司教とウィンスが席を立った。
「意見聴取の協力に感謝する。後は諸君で楽しみたまえ」

 この後、何があったのか。
 のちに彼らは語る。あの時はお茶に憑りつかれていた、と。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥka1929
  • 光あれ
    柏木 千春ka3061

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ドラゴンハート(本体)
    リュミア・ルクス(ka5783
    人間(紅)|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/03 18:51:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/30 19:14:42