ゲスト
(ka0000)
【闇光】ガーフリート・ワー=エーシュ 後
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/09 07:30
- 完成日
- 2015/12/17 14:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある一つの
「……撤退、ですか」
イズン・コスロヴァ(kz0144)の声音は深く沈んだ色をしていた。
『前線に届けよ』そう言われて出発してきたが、歪虚王2体を相手にした前線は見事に崩壊し、完全撤退へと追い込まれていた。
「うちの部隊には重傷者が多い。出来れば君達にはうちの隊のメンバーを連れて撤退作戦へと移行して欲しい」
帝国軍師団混合編成部隊の一つと合流したイズン達であったが、部隊長にそう告げられイズンは難色を示していた。
「しかし、まだここより先にまだ部隊がいるのでは無いのですか? でしたら、まだ幸い我が隊は無傷に近い状態ですので、この先で救助を待っている部隊を探しに……」
「イズン副長」
遮るように低音が簡易テント内に響いた。
「確かに、ここより先にまだ戦っている部隊がいるかもしれない。しかし、その部隊に出逢えるという保証はどこにありますか? 我々のように龍脈上を移動できているとは限らない。……そして、今も無事とは限らない」
「それならば、遺体の一つ、遺品の一つでも連れて帰らなければ」
「そんなことをして何になりますか。ここより先は更に厳しい闘いになるというのに、貴女は貴女の自己満足で第六師団の面々とハンター達を危険にさらすのですか」
「っ!」
「ある意味ここも既に前線なのです。そして此処より先はもう何が起こっているか分からない。撤退できる者達は撤退し、力が無い者は置いて行かれた。寒さが厳しく、野営は困難を極め、凍傷や意識混濁を発症した兵士達が何人も出ています」
そういう部隊長自身も凍傷で利き手の指先を失っていた。もう兵士として戦闘に出ることは困難を極めるだろう。
彼らは敵の急襲を受け、簡易テントの半数を失い、魔導トラックもマテリアル燃料が枯渇し道中に捨てざるを得なかった。氷点下の雪原を徒歩で彷徨い、辛うじて残った簡易テントに10人で身を寄せ合って暖を取り、各自が配給されたレーションとわずかな水と酒だけでこの3日間を凌いできたのだと言う。
「何も私は自分が助かりたい一心で上申している訳では無いのです。私にも預かった命がある。ですが私の力ではもう彼らを守ってやることも出来ない」
「……私は……」
視線を逸らしたままイズンが口を開きかけたその時、トランシーバーから悲鳴のような報告が入った。
「敵襲!! 大量の歪虚がこちらへと押し寄せてきます!!」
イズンは部隊長と視線を交わすと、直ぐ様外へと飛び出した。
●迎撃
狭い簡易テント内には部隊長、イズン、帝国兵の青年1人とハンター全員が集まり、文字通り身を寄せ合いながらトランシーバーからの報告を聞いていた。
「敵は物凄いスピードで龍脈沿いを走りながらこちらへ近付いて来ています」
「……あいつらは見た事がある。馬のゾンビに乗ったスケルトンナイトと浮遊しながら魔法を使うゾンビだ」
報告と敵の特徴を聞いた部隊長が、ギチッと左手を膝の上で強く握り締める。
「スケルトンナイトは近接攻撃しかしてこない。だが、ゾンビの魔法……そうだな、魔術師が使うマジックアローやアースバレット、ウィンドスラッシュに似ていた。複数体を攻撃するようなことは無かったと思ったが、何しろ遠くから攻撃してくる上に動きが速いんで苦労した」
イズンは目を伏せて報告を静かに聞いていた。
「敵の数は?」
「恐らく……合わせて100以上」
「多いな」
「でもそんな数がこのまま龍脈に沿って下って行ったら、それこそ被害が出るよ」
「でも俺達だけで止められるのか?」
喧々囂々と意見が飛び交う中、青年が静かにイズンに話しかけた。
「副長。発言をしても?」
「えぇ」
青年は自分の手帳から一枚紙を引きちぎるとイズンへと見せた。
その紙にはこの簡易テントを張った仮拠点周囲1~2kmの地図が完成していた。
「先ほど、皆さんが手当などに当たっていただいている間にこの周辺を少し調べてきました。ここから東に500mほど行くと、大きな谷に出ます。……谷と言いますか、氷が割れて出来た裂け目、という表現が正しい気もしますが」
全長は1km程の裂け目で、谷の氷壁は入口は高くないが徐々に高さを増し、最大おおよそ5~6m。谷の底の道幅は途中氷の岩や欠けて広い部分や狭まっている部分もあるが、おおよそ80~50mだったという。
「逃げるにしろ、迎え撃つにしろ、ここを使えないかと。少なくともこの場は見晴らしは良いですが、敵の数が多い為、散開して囲まれる危険が高いです」
龍脈から外れることにはなるが、谷を抜ければ再び龍脈に合流することは可能だと青年は告げた。
「……なるほど。確かにこの数の歪虚が龍脈に沿って南下すれば、撤退支援に向かっている者達に被害が出るでしょう。幸いにしてこちらには魔導アーマーがあります。迎え撃ち、安全を確保した上で撤退しましょう。……皆さん、力を貸していただけますか?」
イズンはハンター達一人一人と視線を交わした後、丁寧に頭を下げた。
●天の矢
「ガー……天華。これは、ワシとワシの直属の技術者、錬魔院の一部の人間しか知らない逸品だ」
ヴァーリが得意気にその大きなスペルランチャーの弾を撫でた。
「ただ、とんでも無く調整に手間取ってな……試作品として漸く一つは出来上がったが、これを量産するとなるとまだまだ問題点が多すぎる。コストもかかるし、何より安定性が無い。確実に誰が使っても安定した効果を出せるとは限らない」
「どういうことですか?」
「期待する効果を載せようと思うと、既存のランチャーでは載せ切らん。発射装置そのものを専用にするしかなかった。そうすることで今度は魔導アーマー自体の重量バランスが崩れ、歩行操作に難が出る。また、スペルランチャー装填から発射までの間に酷いマテリアルの奔流に飲まれるため、ベストタイミングで狙いを定めて引き金を引く、というその一連の動きに体力を消耗する」
「……それはほとんど失敗作じゃないですか……」
眉間にしわを寄せたままイズンが言うと、もしゃもしゃの顎髭を撫でながらヴァーリがうむ、と頷いた。
「ゆえに、これ一発しか形に出来なかった。これではテストも出来ん。ぶっつけ本番で使って、その感想を教えて欲しい」
「期待通りの効果ならば量産を目指す、と?」
「然り」
「縛裁も同様ですか?」
「こっちはまだ何とかなりそうな気がしなくも無いんだが……まぁ、時間が無くてなぁ。風の属性を纏わせないバージョンなら恐らく量産は早い。だが、対大量歪虚相手へのスペルランチャーとしてはやはり効果が低くなる……ジレンマとの闘いだ」
ごつごつとした節ばった手で、縛裁の表面を撫でるヴァーリの顔は、子どもを見守るそれだ。
「ただ、上手く発動できれば間違いなく前線の助けになる。絶対に、敵の手に渡すこと無く届けて、使ってきてくれ。そして、感想を聞かせてくれ」
「……承りました」
「……撤退、ですか」
イズン・コスロヴァ(kz0144)の声音は深く沈んだ色をしていた。
『前線に届けよ』そう言われて出発してきたが、歪虚王2体を相手にした前線は見事に崩壊し、完全撤退へと追い込まれていた。
「うちの部隊には重傷者が多い。出来れば君達にはうちの隊のメンバーを連れて撤退作戦へと移行して欲しい」
帝国軍師団混合編成部隊の一つと合流したイズン達であったが、部隊長にそう告げられイズンは難色を示していた。
「しかし、まだここより先にまだ部隊がいるのでは無いのですか? でしたら、まだ幸い我が隊は無傷に近い状態ですので、この先で救助を待っている部隊を探しに……」
「イズン副長」
遮るように低音が簡易テント内に響いた。
「確かに、ここより先にまだ戦っている部隊がいるかもしれない。しかし、その部隊に出逢えるという保証はどこにありますか? 我々のように龍脈上を移動できているとは限らない。……そして、今も無事とは限らない」
「それならば、遺体の一つ、遺品の一つでも連れて帰らなければ」
「そんなことをして何になりますか。ここより先は更に厳しい闘いになるというのに、貴女は貴女の自己満足で第六師団の面々とハンター達を危険にさらすのですか」
「っ!」
「ある意味ここも既に前線なのです。そして此処より先はもう何が起こっているか分からない。撤退できる者達は撤退し、力が無い者は置いて行かれた。寒さが厳しく、野営は困難を極め、凍傷や意識混濁を発症した兵士達が何人も出ています」
そういう部隊長自身も凍傷で利き手の指先を失っていた。もう兵士として戦闘に出ることは困難を極めるだろう。
彼らは敵の急襲を受け、簡易テントの半数を失い、魔導トラックもマテリアル燃料が枯渇し道中に捨てざるを得なかった。氷点下の雪原を徒歩で彷徨い、辛うじて残った簡易テントに10人で身を寄せ合って暖を取り、各自が配給されたレーションとわずかな水と酒だけでこの3日間を凌いできたのだと言う。
「何も私は自分が助かりたい一心で上申している訳では無いのです。私にも預かった命がある。ですが私の力ではもう彼らを守ってやることも出来ない」
「……私は……」
視線を逸らしたままイズンが口を開きかけたその時、トランシーバーから悲鳴のような報告が入った。
「敵襲!! 大量の歪虚がこちらへと押し寄せてきます!!」
イズンは部隊長と視線を交わすと、直ぐ様外へと飛び出した。
●迎撃
狭い簡易テント内には部隊長、イズン、帝国兵の青年1人とハンター全員が集まり、文字通り身を寄せ合いながらトランシーバーからの報告を聞いていた。
「敵は物凄いスピードで龍脈沿いを走りながらこちらへ近付いて来ています」
「……あいつらは見た事がある。馬のゾンビに乗ったスケルトンナイトと浮遊しながら魔法を使うゾンビだ」
報告と敵の特徴を聞いた部隊長が、ギチッと左手を膝の上で強く握り締める。
「スケルトンナイトは近接攻撃しかしてこない。だが、ゾンビの魔法……そうだな、魔術師が使うマジックアローやアースバレット、ウィンドスラッシュに似ていた。複数体を攻撃するようなことは無かったと思ったが、何しろ遠くから攻撃してくる上に動きが速いんで苦労した」
イズンは目を伏せて報告を静かに聞いていた。
「敵の数は?」
「恐らく……合わせて100以上」
「多いな」
「でもそんな数がこのまま龍脈に沿って下って行ったら、それこそ被害が出るよ」
「でも俺達だけで止められるのか?」
喧々囂々と意見が飛び交う中、青年が静かにイズンに話しかけた。
「副長。発言をしても?」
「えぇ」
青年は自分の手帳から一枚紙を引きちぎるとイズンへと見せた。
その紙にはこの簡易テントを張った仮拠点周囲1~2kmの地図が完成していた。
「先ほど、皆さんが手当などに当たっていただいている間にこの周辺を少し調べてきました。ここから東に500mほど行くと、大きな谷に出ます。……谷と言いますか、氷が割れて出来た裂け目、という表現が正しい気もしますが」
全長は1km程の裂け目で、谷の氷壁は入口は高くないが徐々に高さを増し、最大おおよそ5~6m。谷の底の道幅は途中氷の岩や欠けて広い部分や狭まっている部分もあるが、おおよそ80~50mだったという。
「逃げるにしろ、迎え撃つにしろ、ここを使えないかと。少なくともこの場は見晴らしは良いですが、敵の数が多い為、散開して囲まれる危険が高いです」
龍脈から外れることにはなるが、谷を抜ければ再び龍脈に合流することは可能だと青年は告げた。
「……なるほど。確かにこの数の歪虚が龍脈に沿って南下すれば、撤退支援に向かっている者達に被害が出るでしょう。幸いにしてこちらには魔導アーマーがあります。迎え撃ち、安全を確保した上で撤退しましょう。……皆さん、力を貸していただけますか?」
イズンはハンター達一人一人と視線を交わした後、丁寧に頭を下げた。
●天の矢
「ガー……天華。これは、ワシとワシの直属の技術者、錬魔院の一部の人間しか知らない逸品だ」
ヴァーリが得意気にその大きなスペルランチャーの弾を撫でた。
「ただ、とんでも無く調整に手間取ってな……試作品として漸く一つは出来上がったが、これを量産するとなるとまだまだ問題点が多すぎる。コストもかかるし、何より安定性が無い。確実に誰が使っても安定した効果を出せるとは限らない」
「どういうことですか?」
「期待する効果を載せようと思うと、既存のランチャーでは載せ切らん。発射装置そのものを専用にするしかなかった。そうすることで今度は魔導アーマー自体の重量バランスが崩れ、歩行操作に難が出る。また、スペルランチャー装填から発射までの間に酷いマテリアルの奔流に飲まれるため、ベストタイミングで狙いを定めて引き金を引く、というその一連の動きに体力を消耗する」
「……それはほとんど失敗作じゃないですか……」
眉間にしわを寄せたままイズンが言うと、もしゃもしゃの顎髭を撫でながらヴァーリがうむ、と頷いた。
「ゆえに、これ一発しか形に出来なかった。これではテストも出来ん。ぶっつけ本番で使って、その感想を教えて欲しい」
「期待通りの効果ならば量産を目指す、と?」
「然り」
「縛裁も同様ですか?」
「こっちはまだ何とかなりそうな気がしなくも無いんだが……まぁ、時間が無くてなぁ。風の属性を纏わせないバージョンなら恐らく量産は早い。だが、対大量歪虚相手へのスペルランチャーとしてはやはり効果が低くなる……ジレンマとの闘いだ」
ごつごつとした節ばった手で、縛裁の表面を撫でるヴァーリの顔は、子どもを見守るそれだ。
「ただ、上手く発動できれば間違いなく前線の助けになる。絶対に、敵の手に渡すこと無く届けて、使ってきてくれ。そして、感想を聞かせてくれ」
「……承りました」
リプレイ本文
●誘導
「はぁ全く空気の読めねぇお骨様ですこと、ってかぁ? ああいや、試作品の餌食になりてぇってコトなら逆に読めてンのか?」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がぼやくように呟きながら、トラックの右側、全力で愛馬を走らせる。
先頭を走るトラック、その荷台に乗った央崎 遥華(ka5644)が最大射程距離から風刃を放つのと同時に、横にいる帝国兵の猟撃士もライフルで走り寄る歪虚の群れを攻撃すると、彼らは面白いぐらいにハンター達の方へと進行ルートを変更して来た。
「……卿は本当にその自転車で大丈夫か……?」
最右翼を担当するアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が非常に困惑した表情で紫月・海斗(ka0788)と、海斗が全力でこぎ続けている自転車を交互に見やる。
粉のような硬く細かい雪と凍った大地のおかげで、タイヤが埋もれる事はまず無さそうだが、いくら雪道対策をしているとはいえ、自転車という点に一抹の不安が拭いきれない。
「ん? 自転車だからって舐めんなよ? 改造したこいつはその辺のバイク位の速度出せるからな!」
ハンドルを左右に振りながら、海斗はアウレールの心配を豪快に笑い飛ばす……が、その表情は必死だ。
「一難去ってまた一難とは、まさにこの事か。流石、一筋縄では終わらん」
最左翼を担当するアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がちらりと厳しい視線を後方、今はまだ遠い白い雪煙を視認すると、すぐに視線を前方へと戻した。
「央崎さん、敵の様子は?」
そのアデリシアの右横でゴースロンのテトラを全力で走らせながら、テノール(ka5676)がトランシーバーで状況を確認する。
「今の所、龍脈から引き離す事に成功しています」
適宜トラックから兵士と共に、突出してきたリッチやスケルトンナイトに攻撃をしながら、遥華が答える。
「大丈夫、百戦錬磨のハンターの皆がついてるから……」
落ち着かない様子の愛馬の首筋を撫でながら走らせる、榎本 かなえ(ka3567)のその表情もまた緊張に満ちてはいたが、事前に作戦は相談出来たのでやるべき事の整理はついている。
かなえの伝波増幅の効果により安定した連絡を維持しながら、7人とトラックの帝国兵達は敵歪虚を予定通り谷へと誘導していく。
もうすぐ谷の入口、という所になってリッチからの攻撃が届く様になり、グンと飛び抜けて来たスケルトンナイトが海斗に向かって剣を振り下ろした。
「っと! ……ふぃー、アブねぇ」
帽子を片手で押さえ、巧みにハンドルを操って攻撃を避けると、神罰銃に雷撃を込めて馬型ゾンビを殴り付ける。
ガクリと姿勢を崩した馬からスケルトンが転げ落ち、そのまま後ろから走ってきたスケルトンナイト達を巻き込み倒れていく。
「おー、ラッキー♪」
しかし、攻撃に回した分移動力が落ちるのもまた事実である為、海斗は立ち漕ぎになって遅れを取り戻さんと全力疾走を始める。
「まだ討って出るには早いです。谷まで十分引き付けて下さい」
多少のダメージは我慢しろ、とアデリシアが言外に告げ、それを受けて遥華も敵の様子をくまなく観察する。
もうすぐ谷に入る。
先行しているトラクタ達は、魔導アーマー達の準備はどうなっているのだろう。
遥華がイズン達へと思いを馳せていると、荷台に付けられたスピーカーが音を立てた。
「魔導アーマー2機より入電! 合図があるまで谷の中央より手前で持ちこたえろとの事です!!」
運転席から荷台へと入った一報に、遥華は背筋が凍り付くのを感じた。
まだ、谷にも入って幾ばくも立っていない。
天華・縛裁共に発動は谷の中央の予定だった。
誘導が早すぎたのか、それとも先行班に何らかのトラブルがあったのか。
「魔導アーマー2機、目視!」
「みなさん、ここで準備が整うまで敵を引き付けます!」
遥華の叫ぶような指示と、目の前に立つ2機の魔導アーマーを見て、6人は厳しい闘いを覚悟したのだった。
●欠落した歯車
「少しずつ谷の中央に移動しながら行こう。なるべく陣形は崩さないように」
アウレールの言葉に全員が頷き、押し寄せてくる敵に向かって攻撃を開始した。
幸いな事に、ここまでの距離の移動の中で、敵の列は縦に長くなっており、一気に100の数を相手にしなくてもすむようになっていた。
とはいえ、時間が経てば経つだけ後ろから歪虚達が追いついてくる。そうなれば闘いは厳しさを増す一方だというのは想像に難くない。
ハンター7人、無理矢理トラックに乗せてきた覚醒者の帝国兵5人、未覚醒者の帝国兵7人。合流した魔導アーマー2機。現状戦力はこれだけしかないのだ。
しかし、流石は日頃の訓練の賜物、と言うべきか、帝国兵2名の魔導アーマーの操縦技術は安定しており、しっかりと構えた盾でほとんどの攻撃を防ぎ、鉄球およびロングソードで敵を薙ぎ払って行く。
未覚醒の兵士達も、氷の岩陰や魔導アーマー、トラックに隠れつつ拳銃で適宜応戦していた。彼らは荷台にいる時から遥華によって、隊列を組んで援護射撃をするよう指導がされていたので、よく仲間同士連携を取って攻撃している。
覚醒者の兵士達は、この作戦中で随分と戦い慣れしてきたようで、敵一体一体を確実に集中攻撃することで倒していた。
「リアルブルーだと帰るまでが遠足とかいうんだっけ? 遠足なんて軽いことじゃないので不謹慎だけど……無事に連れて帰るまでが救助。そして俺の役割は――」
テノールは冷静に状況を見ながら、リッチを気功波で屠る。
「ファイアスローワー喰らっとけー!」
海斗がリッチを中心に炎状の破壊エネルギーで一掃すれば、ボルディアが幻影の炎を纏いながら狂犬の如く敵の群れへと走り込み、ヒュペリオンを振り回すと暴炎で自身の周囲全てを吹き飛ばした。
アデリシアはジルベルリヒトを振るい、ゾンビ馬の足を捕らえると思い切り引いて転倒させ、そこをかなえが魔導銃で撃ち抜き、アウレールが金の髪を残像のようになびかせて、駆け抜けざまに一気にボロフグイで貫いて行った。
「ぐっ……!」
リッチの遠距離魔法をまともに受けて、非覚醒者の兵士が倒れた。
「無理はしないで! 逃げて下さい!!」
遥華の悲鳴のような懇願が谷間に響く。
アデリシアはヒールを唱えようと倒れた兵士の元へ駆けつけたが、既に絶命しているのを確認し、その魂をエクラ神が導くよう小さく祈りの言葉を捧げた。
身体は燃える様に熱く、吐く息は白い。汗によりべたりと顔に貼り付く横髪を、乱雑に指で払うと敵の群れを見る。
谷にはみっしりと歪虚で溢れ、肌を刺すような冷風が駆け抜ける。それが言葉にならない怨嗟の声のようにアデリシアには聞こえた。
「まだ連絡は来ないのか?」
自転車を漕ぎながら闘い続けている海斗は、全身を汗で濡らし、肩で息をしていた。
「オジサン、流石にちょっとしんどいぞ……っ!」
近付いてこようとしていたスケルトンナイトの頚部に銃弾を撃ち込み、一撃でその動きを止めることに成功したが、それに対してリアクションを返す余裕もなかった。
「こちらには……何も」
電波を増幅したかなえが首を振り、魔導アーマーの2人にも通信は入ってきていないらしい。
一同は徐々に押される形で既に谷の中央にさしかかっていた。
その時ついに後方で魔導アーマーの一体が足を折られ、動きが止まった。
「今、助ける!!」
ボルディアが文字通りスケルトンナイトを払い除けながら魔導アーマーに愛馬を向かわせようとした。
「来ないで下さい。間もなく作戦が決行されるはずです。その時に、万が一にも遅れる事があってはいけません」
スピーカーから告げられた言葉に、ボルディアは足を止め、唇を噛んだ。
足はやられども、手はまだ操作が出来たらしい。傾いだ胴体から、鉄球を振り下ろし、スケルトンナイトを塵へと還す。
「あなた方は作戦通り進んで下さい。……ご武運を」
ブツン、と音を立ててスピーカーが沈黙した後、再び鉄球で周囲を薙いだ所を、リッチの魔法攻撃を受けて沈黙した。
「……チクショウ!」
もう一台の魔導アーマーも壁役として前に立ち続け、既にいつ倒れてもおかしくないほどに傷だらけになっていた。
「っ、まだ連絡は来ないのか!?」
アウレールが槍の柄でスケルトンナイトの剣を受け止めながら叫ぶ。
テノールから見ても囮として壁役となり、敵を集めることは十分に出来たと判断出来た。
むしろこれ以上は敵の数にこちらが押される事は明白だった。
アウレールを狙ってもう一体が槍を構えたのを見て、テノールが最後の気功波を放つ。
その衝撃に出来た一瞬の隙をついてアウレールも受け止めた刃を石突きに向かって滑らせ、その勢いをそのまま戦槍の刃に乗せて頸椎を叩き折った。
誰もが血を流し、誰もが肩で息をし、全員がそれでも諦めず信じ、待ち焦がれていた。
その時、一つの銃声と共にかなえのトランシーバーが声を上げた。
「待たせたな、全員下がってくれ」
●決断
――時は遡る。
作戦会議を終え、各自がそれぞれに荷をまとめトラックやトラクターへと急ぐその中、男女の諍いの声にイズン・コスロヴァ(kz0144)は足を止めた。
「何事ですか?」
声は魔導アーマーを積んだトラクターの前に立つ白金 綾瀬(ka0774)とオウカ・レンヴォルト(ka0301)の二人から発せられているようで、それを兵士達も遠巻きに見守っているような状況だった。
「あー……どっちが『天華』を放つかで揉めててさ……」
柊 真司(ka0705)が首の後ろに手を置いてイズンに説明する。
「……時間がありません。トラックを囮に使います。貴方たちはトラックの荷物を出来るだけトラクターへ移動させて下さい。トラクター三台に負傷者の収容が終わり次第出ます」
テキパキと兵士へ指示を出すと、両腕を組み二人の話を聞いている真司の隣に立ち、再度説明を求めた。
オウカは静かに淡々と、感情を挟まずに現状を報告する。
「……という、魔導アーマーの運用に対する意見の相違からくる衝突だ。イズンの意見が聞きたい」
「私は猟撃士よ。マテリアルの奔流なんかで狙いを外してなるもんですか、どんな状況だろうと狙い撃ってみせるわ」
「……あくまで今回は撤退が前提の戦闘であり、発射するだけで作戦が終わるわけでは無い以上、少しでも機械操作を得手とする者が乗るべき……と俺は思う。……だが」
オウカは言葉を切ると、イズンを黒い瞳に捕らえた。
「白金が乗ることでの利点で確実に覆せるというのなら、俺は辞退しよう」
「……私に搭乗者を決めろ、という事ですか」
二人の真剣な眼差しを受け、イズンは目を伏せて小さく息を吐くと、再び二人を見て唇を開いた。
「私は、最初に『試作品搭載型の操縦には技術が必要な為 帝国兵(未覚醒)>帝国兵(覚醒者)>ハンター の順で長けている。しかし、試作品発動時にマテリアルの奔流が起こる為、発動目標地点への照準を合わせるのは ハンター>帝国兵(覚醒者)>帝国兵(未覚醒) の順で安定して行える』とお話しました」
翡翠の瞳が射抜くように2人を見る。
「つまり、相談で折り合いが付かないのであれば、私が搭乗するのが、1番過不足ない結果となります」
「それは……っ!」
思わず真司がイズンを見るが、イズンは静かに首を横に振った。
「しかし、この隊の長を務めている現状ではそれは難しいことは分かっています。では、お二人のどちらが私に近い働きが出来るのか、という点になります。照準を合わせるのはハンターであればある程度安定して行えます。つまり、お二人に優位さはさほどないと考えられます」
二人ともハンターとしての活躍には目を見張る物があり、この北伐という厳しい闘いの中で何度助けられたか分からない。ゆえにその実力をイズンは高く評価していた。
「結果、操縦技術の点が最も問題となります。オウカ殿は魔導アーマーにもCAMにも搭乗経験がおありとの事。ならば、経験の差を持ってオウカ殿をパイロットに任命します」
イズンの澄んだ言葉は、鋭利なナイフのように綾瀬の心臓を抉った。
綾瀬は喘ぐように2、3肩で息をすると、ギリギリと両手を強く、震えるほど強く握りこんだ。
「銃を扱うなら、確かに白金に頼んだだろう。だが、今回は銃を扱うのではなく、機械を操作するんだ。それを、わかってほしい」
オウカの言葉を目も合わさずに聞き流す。外された理由が、理解は出来ても納得がいかない今、口を開けば、それこそ感情のままに何を口走ってしまうか自分でもコントロールが付かない。
「綾瀬……」
付き合いの長い真司からしても、こんな時にどんな言葉をかけたらいいのか戸惑う。
「猟撃士としての貴女の腕は信頼しています。だからこそ、貴女にしか頼めない事があります」
イズンの言葉に綾瀬はゆっくりと顔を上げた。
「さぁ、出発しなくては、先行すべき我々が遅れてはお終いです」
イズンの言葉に促され、トラクタは漸く出立したのだった。
●ガーフリート・ワー=エーシュ
「待たせたな、全員下がってくれ」
真司はトランシーバーに向けてそう告げると、ガヤガヤと騒がしい通信をオフにして、引き金を絞る事だけに集中した。
「『試作品搭載型の操縦には技術が必要』……ね、確かにこれは実戦向きじゃないな……」
CAMと違って4本足である魔導アーマーは速度は出ないが安定感に定評がある。その為、多少重たい鉄球を振り回しても、足場の悪い所であってもCAMより操作が簡単で丈夫だ。
しかし、この『試作品』――スペルランチャーというよりスペルキャノンという表現の方が正しいような気がする――はとにかく重たい。発射装置そのものがとてつもなく大きくて重たい。さらにそこに巨大な砲弾がセットされれば、重心をどこに定めて動けばいいのか分からない。
CAMの操縦経験はあったが、四足歩行かつ、両手には重くてデカイ荷物を抱えている状況で、うっかり横転しようものなら起き上がる事も出来ず、下手をすれば暴発の可能性もあった。
……イメージとして大きな袋一杯にジャガイモを詰めた物を持ち上げた、に近いだろうか。
一度イメージが付けば重心の取り方と足の運び方のコツも掴みやすかった。
「……大丈夫か?」
その点、オウカは以前にも魔導アーマーの操縦経験がある事と運動強化のおかげで、コツを掴むのも早かった。
「イズンが、縛裁の方が重たいと言っていたからな……慣れるまで苦労するだろう」
幸いにして囮班が前方で食い止めてくれている為、発射位置までの移動距離は当初の予定から変更しなくて済みそうなのが救いと言えた。
真司とオウカはゆっくりと確実に発射位置まで移動すると各々発射装置を構えたのだった。
「失敗なんかしたら、許さないんだから」
綾瀬はトレーラーの天井に伏せ、肉眼で真司達を見守った後、スコープ越しに谷の中央を見る。
『貴女にしか出来ない事です』
そうイズンに言われたのを思い出し、思わず失笑する。
確かに射程30を超え、なお正確に的を射られるのは猟撃士しかいないし、そんな射程の広い高威力武器を扱えるのも自分しかいなかった。
「前から興味あったのよねぇ、魔導アーマー」
今なお未練がないと言えば嘘になる。
だが、仲間が確実に生きて帰る状況を作り出さなければ意味がない。
自分にしか出来ないことがあるのなら、それを全力でやるだけだ。
綾瀬は心を鎮めて敵を穿つ事だけに集中する。
全力疾走する仲間を追って突出してきたリッチに向けて、引き金を引いた。
中央を抜けて敵が一度密集して、再び広がる。
魔導アーマーが来ない、そう3人は気付いたが、これ以上引き付けるのは危険だと判断した真司は雄叫びと共に引き金を引いた。
地響きのような振動に全身が揺られ、酷いマテリアルの奔流に脳を揺さぶられながらも、目を見開いて自身が放った『縛裁』の行く末を見る。
空中に広がったそれは黄金の穂の実りのようだった。
柔らかで優しいそれは、だが、黄色味を強め、本能に警鐘を鳴らす。
次の瞬間、小さな稲光がスケルトンナイトとリッチに降り注いだ。
「発射……秒読み、だ」
何が起こったのか分からないのだろう。後ろから続く歪虚達も突如動けなくなった仲間を踏み越え、追い抜きなおも谷の中央を超えてやってくる。
それらをさらに引き付けて、オウカは引き金を引いた。
地響きのような振動に全身が揺られ、酷いマテリアルの奔流に内臓を掻き回されながらも、オウカは金色の瞳で己の撃った『天華』を見つめる。
空中に広がったそれは、まさしく天を焼いた。
神の怒り、炎の矢、そう形容される無慈悲な暴力。
マテリアルの業火が谷の中央一面を塗り潰した。
「……凄い」
二度の発射の爆風に耐えながら、綾瀬は二つの『試作品』の威力を肌で感じていた。
再びスコープで覗くと、続々と絶えず敵が溢れ出てくる。
……予定より範囲が狭かったのか、それとも、後方に多くの敵が隠れていたのか。
「全員、退却!」
イズンの言葉を受け、囮班から応答が返る。
殿を務めたボルディアとテノールの活躍も有り撤収は速やかに行われた。
被害は、帝国兵合計8名の命と囮班と共に戦った魔導アーマー2機。
アウレールはその全ての情報の詳細を纏め、報告書として提出した。
「はぁ全く空気の読めねぇお骨様ですこと、ってかぁ? ああいや、試作品の餌食になりてぇってコトなら逆に読めてンのか?」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がぼやくように呟きながら、トラックの右側、全力で愛馬を走らせる。
先頭を走るトラック、その荷台に乗った央崎 遥華(ka5644)が最大射程距離から風刃を放つのと同時に、横にいる帝国兵の猟撃士もライフルで走り寄る歪虚の群れを攻撃すると、彼らは面白いぐらいにハンター達の方へと進行ルートを変更して来た。
「……卿は本当にその自転車で大丈夫か……?」
最右翼を担当するアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が非常に困惑した表情で紫月・海斗(ka0788)と、海斗が全力でこぎ続けている自転車を交互に見やる。
粉のような硬く細かい雪と凍った大地のおかげで、タイヤが埋もれる事はまず無さそうだが、いくら雪道対策をしているとはいえ、自転車という点に一抹の不安が拭いきれない。
「ん? 自転車だからって舐めんなよ? 改造したこいつはその辺のバイク位の速度出せるからな!」
ハンドルを左右に振りながら、海斗はアウレールの心配を豪快に笑い飛ばす……が、その表情は必死だ。
「一難去ってまた一難とは、まさにこの事か。流石、一筋縄では終わらん」
最左翼を担当するアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がちらりと厳しい視線を後方、今はまだ遠い白い雪煙を視認すると、すぐに視線を前方へと戻した。
「央崎さん、敵の様子は?」
そのアデリシアの右横でゴースロンのテトラを全力で走らせながら、テノール(ka5676)がトランシーバーで状況を確認する。
「今の所、龍脈から引き離す事に成功しています」
適宜トラックから兵士と共に、突出してきたリッチやスケルトンナイトに攻撃をしながら、遥華が答える。
「大丈夫、百戦錬磨のハンターの皆がついてるから……」
落ち着かない様子の愛馬の首筋を撫でながら走らせる、榎本 かなえ(ka3567)のその表情もまた緊張に満ちてはいたが、事前に作戦は相談出来たのでやるべき事の整理はついている。
かなえの伝波増幅の効果により安定した連絡を維持しながら、7人とトラックの帝国兵達は敵歪虚を予定通り谷へと誘導していく。
もうすぐ谷の入口、という所になってリッチからの攻撃が届く様になり、グンと飛び抜けて来たスケルトンナイトが海斗に向かって剣を振り下ろした。
「っと! ……ふぃー、アブねぇ」
帽子を片手で押さえ、巧みにハンドルを操って攻撃を避けると、神罰銃に雷撃を込めて馬型ゾンビを殴り付ける。
ガクリと姿勢を崩した馬からスケルトンが転げ落ち、そのまま後ろから走ってきたスケルトンナイト達を巻き込み倒れていく。
「おー、ラッキー♪」
しかし、攻撃に回した分移動力が落ちるのもまた事実である為、海斗は立ち漕ぎになって遅れを取り戻さんと全力疾走を始める。
「まだ討って出るには早いです。谷まで十分引き付けて下さい」
多少のダメージは我慢しろ、とアデリシアが言外に告げ、それを受けて遥華も敵の様子をくまなく観察する。
もうすぐ谷に入る。
先行しているトラクタ達は、魔導アーマー達の準備はどうなっているのだろう。
遥華がイズン達へと思いを馳せていると、荷台に付けられたスピーカーが音を立てた。
「魔導アーマー2機より入電! 合図があるまで谷の中央より手前で持ちこたえろとの事です!!」
運転席から荷台へと入った一報に、遥華は背筋が凍り付くのを感じた。
まだ、谷にも入って幾ばくも立っていない。
天華・縛裁共に発動は谷の中央の予定だった。
誘導が早すぎたのか、それとも先行班に何らかのトラブルがあったのか。
「魔導アーマー2機、目視!」
「みなさん、ここで準備が整うまで敵を引き付けます!」
遥華の叫ぶような指示と、目の前に立つ2機の魔導アーマーを見て、6人は厳しい闘いを覚悟したのだった。
●欠落した歯車
「少しずつ谷の中央に移動しながら行こう。なるべく陣形は崩さないように」
アウレールの言葉に全員が頷き、押し寄せてくる敵に向かって攻撃を開始した。
幸いな事に、ここまでの距離の移動の中で、敵の列は縦に長くなっており、一気に100の数を相手にしなくてもすむようになっていた。
とはいえ、時間が経てば経つだけ後ろから歪虚達が追いついてくる。そうなれば闘いは厳しさを増す一方だというのは想像に難くない。
ハンター7人、無理矢理トラックに乗せてきた覚醒者の帝国兵5人、未覚醒者の帝国兵7人。合流した魔導アーマー2機。現状戦力はこれだけしかないのだ。
しかし、流石は日頃の訓練の賜物、と言うべきか、帝国兵2名の魔導アーマーの操縦技術は安定しており、しっかりと構えた盾でほとんどの攻撃を防ぎ、鉄球およびロングソードで敵を薙ぎ払って行く。
未覚醒の兵士達も、氷の岩陰や魔導アーマー、トラックに隠れつつ拳銃で適宜応戦していた。彼らは荷台にいる時から遥華によって、隊列を組んで援護射撃をするよう指導がされていたので、よく仲間同士連携を取って攻撃している。
覚醒者の兵士達は、この作戦中で随分と戦い慣れしてきたようで、敵一体一体を確実に集中攻撃することで倒していた。
「リアルブルーだと帰るまでが遠足とかいうんだっけ? 遠足なんて軽いことじゃないので不謹慎だけど……無事に連れて帰るまでが救助。そして俺の役割は――」
テノールは冷静に状況を見ながら、リッチを気功波で屠る。
「ファイアスローワー喰らっとけー!」
海斗がリッチを中心に炎状の破壊エネルギーで一掃すれば、ボルディアが幻影の炎を纏いながら狂犬の如く敵の群れへと走り込み、ヒュペリオンを振り回すと暴炎で自身の周囲全てを吹き飛ばした。
アデリシアはジルベルリヒトを振るい、ゾンビ馬の足を捕らえると思い切り引いて転倒させ、そこをかなえが魔導銃で撃ち抜き、アウレールが金の髪を残像のようになびかせて、駆け抜けざまに一気にボロフグイで貫いて行った。
「ぐっ……!」
リッチの遠距離魔法をまともに受けて、非覚醒者の兵士が倒れた。
「無理はしないで! 逃げて下さい!!」
遥華の悲鳴のような懇願が谷間に響く。
アデリシアはヒールを唱えようと倒れた兵士の元へ駆けつけたが、既に絶命しているのを確認し、その魂をエクラ神が導くよう小さく祈りの言葉を捧げた。
身体は燃える様に熱く、吐く息は白い。汗によりべたりと顔に貼り付く横髪を、乱雑に指で払うと敵の群れを見る。
谷にはみっしりと歪虚で溢れ、肌を刺すような冷風が駆け抜ける。それが言葉にならない怨嗟の声のようにアデリシアには聞こえた。
「まだ連絡は来ないのか?」
自転車を漕ぎながら闘い続けている海斗は、全身を汗で濡らし、肩で息をしていた。
「オジサン、流石にちょっとしんどいぞ……っ!」
近付いてこようとしていたスケルトンナイトの頚部に銃弾を撃ち込み、一撃でその動きを止めることに成功したが、それに対してリアクションを返す余裕もなかった。
「こちらには……何も」
電波を増幅したかなえが首を振り、魔導アーマーの2人にも通信は入ってきていないらしい。
一同は徐々に押される形で既に谷の中央にさしかかっていた。
その時ついに後方で魔導アーマーの一体が足を折られ、動きが止まった。
「今、助ける!!」
ボルディアが文字通りスケルトンナイトを払い除けながら魔導アーマーに愛馬を向かわせようとした。
「来ないで下さい。間もなく作戦が決行されるはずです。その時に、万が一にも遅れる事があってはいけません」
スピーカーから告げられた言葉に、ボルディアは足を止め、唇を噛んだ。
足はやられども、手はまだ操作が出来たらしい。傾いだ胴体から、鉄球を振り下ろし、スケルトンナイトを塵へと還す。
「あなた方は作戦通り進んで下さい。……ご武運を」
ブツン、と音を立ててスピーカーが沈黙した後、再び鉄球で周囲を薙いだ所を、リッチの魔法攻撃を受けて沈黙した。
「……チクショウ!」
もう一台の魔導アーマーも壁役として前に立ち続け、既にいつ倒れてもおかしくないほどに傷だらけになっていた。
「っ、まだ連絡は来ないのか!?」
アウレールが槍の柄でスケルトンナイトの剣を受け止めながら叫ぶ。
テノールから見ても囮として壁役となり、敵を集めることは十分に出来たと判断出来た。
むしろこれ以上は敵の数にこちらが押される事は明白だった。
アウレールを狙ってもう一体が槍を構えたのを見て、テノールが最後の気功波を放つ。
その衝撃に出来た一瞬の隙をついてアウレールも受け止めた刃を石突きに向かって滑らせ、その勢いをそのまま戦槍の刃に乗せて頸椎を叩き折った。
誰もが血を流し、誰もが肩で息をし、全員がそれでも諦めず信じ、待ち焦がれていた。
その時、一つの銃声と共にかなえのトランシーバーが声を上げた。
「待たせたな、全員下がってくれ」
●決断
――時は遡る。
作戦会議を終え、各自がそれぞれに荷をまとめトラックやトラクターへと急ぐその中、男女の諍いの声にイズン・コスロヴァ(kz0144)は足を止めた。
「何事ですか?」
声は魔導アーマーを積んだトラクターの前に立つ白金 綾瀬(ka0774)とオウカ・レンヴォルト(ka0301)の二人から発せられているようで、それを兵士達も遠巻きに見守っているような状況だった。
「あー……どっちが『天華』を放つかで揉めててさ……」
柊 真司(ka0705)が首の後ろに手を置いてイズンに説明する。
「……時間がありません。トラックを囮に使います。貴方たちはトラックの荷物を出来るだけトラクターへ移動させて下さい。トラクター三台に負傷者の収容が終わり次第出ます」
テキパキと兵士へ指示を出すと、両腕を組み二人の話を聞いている真司の隣に立ち、再度説明を求めた。
オウカは静かに淡々と、感情を挟まずに現状を報告する。
「……という、魔導アーマーの運用に対する意見の相違からくる衝突だ。イズンの意見が聞きたい」
「私は猟撃士よ。マテリアルの奔流なんかで狙いを外してなるもんですか、どんな状況だろうと狙い撃ってみせるわ」
「……あくまで今回は撤退が前提の戦闘であり、発射するだけで作戦が終わるわけでは無い以上、少しでも機械操作を得手とする者が乗るべき……と俺は思う。……だが」
オウカは言葉を切ると、イズンを黒い瞳に捕らえた。
「白金が乗ることでの利点で確実に覆せるというのなら、俺は辞退しよう」
「……私に搭乗者を決めろ、という事ですか」
二人の真剣な眼差しを受け、イズンは目を伏せて小さく息を吐くと、再び二人を見て唇を開いた。
「私は、最初に『試作品搭載型の操縦には技術が必要な為 帝国兵(未覚醒)>帝国兵(覚醒者)>ハンター の順で長けている。しかし、試作品発動時にマテリアルの奔流が起こる為、発動目標地点への照準を合わせるのは ハンター>帝国兵(覚醒者)>帝国兵(未覚醒) の順で安定して行える』とお話しました」
翡翠の瞳が射抜くように2人を見る。
「つまり、相談で折り合いが付かないのであれば、私が搭乗するのが、1番過不足ない結果となります」
「それは……っ!」
思わず真司がイズンを見るが、イズンは静かに首を横に振った。
「しかし、この隊の長を務めている現状ではそれは難しいことは分かっています。では、お二人のどちらが私に近い働きが出来るのか、という点になります。照準を合わせるのはハンターであればある程度安定して行えます。つまり、お二人に優位さはさほどないと考えられます」
二人ともハンターとしての活躍には目を見張る物があり、この北伐という厳しい闘いの中で何度助けられたか分からない。ゆえにその実力をイズンは高く評価していた。
「結果、操縦技術の点が最も問題となります。オウカ殿は魔導アーマーにもCAMにも搭乗経験がおありとの事。ならば、経験の差を持ってオウカ殿をパイロットに任命します」
イズンの澄んだ言葉は、鋭利なナイフのように綾瀬の心臓を抉った。
綾瀬は喘ぐように2、3肩で息をすると、ギリギリと両手を強く、震えるほど強く握りこんだ。
「銃を扱うなら、確かに白金に頼んだだろう。だが、今回は銃を扱うのではなく、機械を操作するんだ。それを、わかってほしい」
オウカの言葉を目も合わさずに聞き流す。外された理由が、理解は出来ても納得がいかない今、口を開けば、それこそ感情のままに何を口走ってしまうか自分でもコントロールが付かない。
「綾瀬……」
付き合いの長い真司からしても、こんな時にどんな言葉をかけたらいいのか戸惑う。
「猟撃士としての貴女の腕は信頼しています。だからこそ、貴女にしか頼めない事があります」
イズンの言葉に綾瀬はゆっくりと顔を上げた。
「さぁ、出発しなくては、先行すべき我々が遅れてはお終いです」
イズンの言葉に促され、トラクタは漸く出立したのだった。
●ガーフリート・ワー=エーシュ
「待たせたな、全員下がってくれ」
真司はトランシーバーに向けてそう告げると、ガヤガヤと騒がしい通信をオフにして、引き金を絞る事だけに集中した。
「『試作品搭載型の操縦には技術が必要』……ね、確かにこれは実戦向きじゃないな……」
CAMと違って4本足である魔導アーマーは速度は出ないが安定感に定評がある。その為、多少重たい鉄球を振り回しても、足場の悪い所であってもCAMより操作が簡単で丈夫だ。
しかし、この『試作品』――スペルランチャーというよりスペルキャノンという表現の方が正しいような気がする――はとにかく重たい。発射装置そのものがとてつもなく大きくて重たい。さらにそこに巨大な砲弾がセットされれば、重心をどこに定めて動けばいいのか分からない。
CAMの操縦経験はあったが、四足歩行かつ、両手には重くてデカイ荷物を抱えている状況で、うっかり横転しようものなら起き上がる事も出来ず、下手をすれば暴発の可能性もあった。
……イメージとして大きな袋一杯にジャガイモを詰めた物を持ち上げた、に近いだろうか。
一度イメージが付けば重心の取り方と足の運び方のコツも掴みやすかった。
「……大丈夫か?」
その点、オウカは以前にも魔導アーマーの操縦経験がある事と運動強化のおかげで、コツを掴むのも早かった。
「イズンが、縛裁の方が重たいと言っていたからな……慣れるまで苦労するだろう」
幸いにして囮班が前方で食い止めてくれている為、発射位置までの移動距離は当初の予定から変更しなくて済みそうなのが救いと言えた。
真司とオウカはゆっくりと確実に発射位置まで移動すると各々発射装置を構えたのだった。
「失敗なんかしたら、許さないんだから」
綾瀬はトレーラーの天井に伏せ、肉眼で真司達を見守った後、スコープ越しに谷の中央を見る。
『貴女にしか出来ない事です』
そうイズンに言われたのを思い出し、思わず失笑する。
確かに射程30を超え、なお正確に的を射られるのは猟撃士しかいないし、そんな射程の広い高威力武器を扱えるのも自分しかいなかった。
「前から興味あったのよねぇ、魔導アーマー」
今なお未練がないと言えば嘘になる。
だが、仲間が確実に生きて帰る状況を作り出さなければ意味がない。
自分にしか出来ないことがあるのなら、それを全力でやるだけだ。
綾瀬は心を鎮めて敵を穿つ事だけに集中する。
全力疾走する仲間を追って突出してきたリッチに向けて、引き金を引いた。
中央を抜けて敵が一度密集して、再び広がる。
魔導アーマーが来ない、そう3人は気付いたが、これ以上引き付けるのは危険だと判断した真司は雄叫びと共に引き金を引いた。
地響きのような振動に全身が揺られ、酷いマテリアルの奔流に脳を揺さぶられながらも、目を見開いて自身が放った『縛裁』の行く末を見る。
空中に広がったそれは黄金の穂の実りのようだった。
柔らかで優しいそれは、だが、黄色味を強め、本能に警鐘を鳴らす。
次の瞬間、小さな稲光がスケルトンナイトとリッチに降り注いだ。
「発射……秒読み、だ」
何が起こったのか分からないのだろう。後ろから続く歪虚達も突如動けなくなった仲間を踏み越え、追い抜きなおも谷の中央を超えてやってくる。
それらをさらに引き付けて、オウカは引き金を引いた。
地響きのような振動に全身が揺られ、酷いマテリアルの奔流に内臓を掻き回されながらも、オウカは金色の瞳で己の撃った『天華』を見つめる。
空中に広がったそれは、まさしく天を焼いた。
神の怒り、炎の矢、そう形容される無慈悲な暴力。
マテリアルの業火が谷の中央一面を塗り潰した。
「……凄い」
二度の発射の爆風に耐えながら、綾瀬は二つの『試作品』の威力を肌で感じていた。
再びスコープで覗くと、続々と絶えず敵が溢れ出てくる。
……予定より範囲が狭かったのか、それとも、後方に多くの敵が隠れていたのか。
「全員、退却!」
イズンの言葉を受け、囮班から応答が返る。
殿を務めたボルディアとテノールの活躍も有り撤収は速やかに行われた。
被害は、帝国兵合計8名の命と囮班と共に戦った魔導アーマー2機。
アウレールはその全ての情報の詳細を纏め、報告書として提出した。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/06 12:28:38 |
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相談卓 テノール(ka5676) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/12/09 06:33:37 |
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質問卓 テノール(ka5676) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/12/08 15:42:30 |