• 闇光

【闇光】召喚

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/15 22:00
完成日
2015/12/23 15:07

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 帝国軍第一師団兵長・ダネリヤは、
 馬車で向かい合って座っていた部下が新聞を読み終えるまでの間、
 街道沿いを流れ去っていく景色を、窓越しにじっと眺めていた。
 やがて部下――ヴルツァライヒ専従捜査隊長が新聞を畳むと、兵長が言った。
「早かったな。いずれ情報は漏れると分かっていたにしろ……」

 今朝、帝国通信社発行の全国紙にこんな見出しが踊った。
『銀行家ヴェールマン氏暗殺に新事実:反体制派組織ヴルツァライヒの関与疑われる』
 記事は、今年10月に帝都バルトアンデルスで殺害された有名な銀行家の件について、
 第一師団が未発表の情報を、帝国通信社独自のソースより入手したという内容だった。
 曰く、現場となったホテルの壁には犯人からのメッセージが、
 被害者の血液を使って書き残されていたのだという。
 ヴルツァライヒの署名代わりの『木の根を表したマーク』と共に、
『旧キ誓約ニヨリテ我ラ、ぞんねんしゅとらーるノ土ト永久ノ絆ヲ結ビタリ。
 我ラ「根乃国」ノ臣下ナリ。冥府ニ在リテハ死馬ヲモ駆リ、古刀、錆槍モテ不忠僭上ノ徒ヲ絶ヤサン』
 と書かれていたそうだ――
 そして兵長以下捜査関係者にとって腹立たしいことに、この記事の内容は全くの事実だった。

 情報元については、ホテルの関係者あるいは宿泊客であることが記事内で匂わされていたが、
 当時通報を受けた憲兵が部屋に到着するまで、被害者の部屋に直接踏み込んだ人間はいなかった。
 現場は血の海。壁に書き殴られた血文字をはっきり読み取れるまでに近づけば、どうしても足跡が残る。
 最初に現場を見、血文字を読んだ兵士はすぐさま憲兵大隊本部へ応援を要請、
 伝達を受けた兵長と専従捜査隊は、即座の現場封鎖と厳重な箝口令を敷いた筈だった。
「とはいえ、人の口にいつまでも戸板は立てられんか」
「しかし我々の身内でも、血文字の正確な文面を記録しているのはごく僅かな人数です。
 もし隊内からの漏洩だとしたら、適切な監査を行えばすぐに……」

「慌てるな。黙殺に業を煮やした犯人を、これで釣れたかも知れん。ときにブランズはどうしている」
 こちらは夏のシュレーベンラント州動乱で逮捕された、ヴルツァライヒ構成員・ブランズ卿のこと。
 政府司法課への引き渡し期日が迫る中、卿は様々な情報を第一師団にもたらしていた――
 あの血文字の文章が、ヴルツァライヒ入団の『宣誓文』と同じものであることも。
「その後、目新しい証言は何も……」
「オルデンの監視はどうだ」

 そこで、ふたりを乗せた馬車が目的地に到着した。帝国領北部・マクデルシュタイン州の輸送基地。
 北のノルデンメーア州北海鎮守府、及び北東のドワーヴンシュタット州サンクトケルテンベルクへ、
 主に魔導機械用のマテリアル燃料を輸送する、その中継点として急遽設営された基地だった。
 北伐が苦境の今は戦時、ダネリヤとて第一師団の軍人として、その指揮を執らねばならない。


 中継基地から北○キロ地点の街道上。
 マテリアル燃料を満載した貨物トラック隊が、上空を飛行中の量産型リンドヴルム1機を発見する。
「かなり高度がある。偵察か」
「昨日の夜は曇りだったからな、夜闇に紛れて侵入したんだろう」
「コンテナを抱えてるように見えないか? 向こうも何か輸送してるのかも」
 トラック運転席の魔導伝話が鳴る、
『全車へ。ただちに車両間隔を空け、爆撃に備えよ。
 随伴兵は道路左右の樹木で遮蔽を確保の後、敵地上戦力の協同を警戒せよ。繰り返す……』

 輸送隊は中継基地と第五師団のグリフォンライダーに通報の後、万が一の攻撃に備えた。
 接近中のリンドヴルムは1機のみ。コンテナごとゾンビを投下したとて大した数ではなかろうし、
 輸送隊の一部車両に搭載されたマテリアル観測装置は、リンドヴルム以外の歪虚の接近を感知していない。
 それでも空を見上げて警戒を続ける内、リンドヴルムの影が石畳の街道にかかるなり、
 その腹に抱えていたコンテナが開いたように見えた。地上の帝国兵全員が咄嗟に身構える。

 リンドヴルムのコンテナから落下した物体は高さ2メートル、
 黒光りする鉱物で作られた巨大な矢じりのようだった。
 切っ先を下に、風切り音を立てて数百メートルの距離を落ちると、石畳を貫いて深々と地面に突き刺さる。
 周囲の兵は爆弾かと思って首をすくめるが、爆発は起こらず、第2射が降ってくることもない。
 物体の投下を終えた剣機はお役御免とばかりに旋回、離脱を始め、
 空になったコンテナは街道沿いの森に放り捨てていった。重苦しい沈黙の後、
「何だ、ありゃあ……石碑か?」
 道端の木に隠れていた兵士のひとりが、顔を覗かせて言う。
 確かに、石畳に突き立つ謎の物体の表面には、びっしりと何か模様のようなものが刻まれていた。
 トラックの伝話が再び鳴り、先程散開を指示した輸送隊指揮官の声、
『観測装置に反応あり』
 『石碑』の下部から紫色に光る靄が立ち昇ったかと思うと、
 艶々と光る表面からずるり、と白い腕が飛び出した。
 無数の人骨を継ぎ接ぎし、束ね合わせて作られたその腕は地面に手をついて、
 兵士たちが見守る中、身体の残りの部分を『石碑』から引っ張り出す。
 身長3メートルほどの大柄なスケルトン。辺りを覆っていた紫の靄が彼にまとわりつくと、
 頭部以外の骨格を覆って、繊維状の物質へと固化していく。

 やがて完成した歪虚の姿は、皮を剥がれた人体にそっくりだった。
 うずくまっていた歪虚は紫色の筋肉を収縮させて立ち上がり、
 剥き出しの頭骨が天を仰いで顎を震わせ、声なき咆哮を上げる。
 帝国兵が一斉射撃を開始、しかし弾丸は歪虚の体表へ達する前に、空中でぴたりと静止してしまった。
 それから歪虚は恐ろしく滑らかな、優雅な動きで片腕を振るうと、
 空中の弾丸を止めたのと同じ、見えない力で、並み居る兵たちを木立の中へ吹き飛ばす。


 中継基地。
 伝話・観測用の天幕に上がり込んだダネリヤを、通信兵が振り返る。
「最後の通信によれば、輸送隊G-2は全車故障により移動不能。
 兵員は指揮官以下3名を残して昏睡状態とのこと」
「歪虚は」
 兵長が問うと、
「先程、当基地の観測機でも反応を確認しました。
 敵は1体。低速で街道上を南下中……こちらを目指しているようです」
 現在G-2との通信は途絶しているが、最後に受けた報告によれば、
 歪虚は不可視の念動力を使って護衛の兵を退けたようだ。
 マテリアル燃料を抱えた輸送隊へのピンポイント攻撃、人骨で構成された身体、
 車両故障も燃料の劣化が原因と考えれば、敵の正体に心当たりがひとつ。

 剣魔クリピクロウズ――
 四霊剣の一角でありながら、ここしばらくは出現が報告されていなかった。
 兵長の勘が当たりにせよ外れにせよ、覚醒者を出さねば相手にならないのは間違いなさそうだ。

リプレイ本文


 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の予想は的中した。
 投下された石碑は、以前の依頼で出会った亜人遺跡とは一見似ても似つかない。
 しかし錬魔院から取り寄せた写しと比較すれば、どうやら文様の約4分の3が同一と見えた。
「歪虚側で解析・量産された可能性が高い」
 アウレールが言うと、パルムに映像を記憶させていたカナタ・ハテナ(ka2130)が、
「拓を取り終わったら、壊してしまったほうが良いじゃろうか?」
 カナタは現場に倒れていた兵士たちから、治療のついでに聞き込みもしていた。
 どうやら敵は兵を蹴散らした後、輸送中の燃料や魔導機関からマテリアルを吸収したようだ。
 トラックも伝話も動かず、非覚醒者が軒並み昏倒してしまったのも巻き添えを食った結果と思われた。


(これが、あの剣魔だというの? 以前と比べて人に近くなったというか……ともあれ警戒した方が良いわね)
 アイビス・グラス(ka2477)は歪虚が飛ばした念力を、投擲物を盾にして回避した。
 懐へ飛び込み、ワイヤーウィップを脚に絡めて引き倒せば、歪虚の骨格があっさり砕け散る。
 筋肉を模倣した繊維状物質も、煌めきながら解けていくが、
「ま、予想通りの展開だわなァ」
 呟くシガレット=ウナギパイ(ka2884)の前で、『剣魔』の残骸がひとりでに集合・再生していく。
 敵の右腕から、紫に輝く繊維の束が長く伸びる。アイビスの武器を早速模倣したらしい。
(剣魔、実物を視るのは初めてですが……)
 エリー・ローウェル(ka2576)が前衛へ躍り出て、振り出された鞭を剣で打ち払えば、
「ぶ、ぶるあぁ!」
 水流崎トミヲ(ka4852)がやけくそ気味の気合と共に飛び出し、紙製のハリセンで敵を叩く。
 呼応して吐き出された衝撃波にハンターたちは各々用意した投擲物で対処するが、トミヲだけはエリーを庇って、
「DT魔力、全開……ッ!」
 十字に腕を組み、顎を引いて、衝撃を身体で受け止めた。
 正負のマテリアルがぶつかり合い、白い閃光がトミヲを包む――
 彼は、その場に踏み止まってみせた。顔を上げれば、眼前に剣魔の鞭。
 慌てて伏せるより早く、エリーが代わって受け止めた。

 仲間が剣魔と対峙している間、八代 遥(ka4481)は敵の死角を押さえるべく、茂みに身を隠した。
 魔導拳銃を握りつつ、状況を見守る。
(敵であれなんであれ、知っていくことで未知の恐怖は掻き消せる)
 そうすれば勝てない道理はない、と信じていた。しかし、
「君だけはッ! 運動音痴で地球じゃ負け犬で以下略、な僕の攻撃でも当たるハズなのに!」
 剣魔の動作は、トミヲの予想を越えて機敏なようだった。ハリセン片手に追い回すも、中々攻撃が当たらない。
 4度目の対決となるアイビスさえ、その顔に緊張の色が見えた。
 彼女の経験上、遭遇直後の剣魔の戦闘力は決して高くはなかった筈。
 だが今回はたった1度の復活を挟んだだけというのに、
 鞭による攻撃と連携して鮮やかな足払いすら放ってきた。アイビスはどれも紙一重で回避してみせるが、
(まるで、私と同じ疾影士を相手してるみたいね)


「爆薬が、調達されていない?」
 真田 天斗(ka0014)がダネリヤ兵長から受けた返事は、
 爆破作戦に使えるような火薬の類は用意がない、というものだった。
「以前、剣魔撃退に参加した際は榴弾をお譲り頂けたのですが……」
 兵長の説明によれば、西方世界の科学力は地球のそれと比べて依然遅れており、
 そこで機導術を謂わば代替物として、急激な『現代化』を図る動きが帝国軍の一部にあるようだ。
 結果として、旧来の火薬式大砲やその砲弾はこの基地に配備されていなかった。
「連合軍参加も技術転換の一因だ。運用の一律化と資源調達の安定を考えれば、止むを得ない仕儀だった」

 兵長は代案を提示してみせた。
「魔導カノン砲の腔内破裂を誘発すれば、爆弾代わりになるかも知れん。
 想定外の使い方である以上、成功は保証できんが」
 他に手もなく、天斗は提案を受け入れた。その上で、
「果たして、敵の目的は中継基地でしょうか?」
 剣魔であれば燃料を狙っての出現も不自然ではないが、今回に限っては何者かの手で呼び出されたと思しい。
「『第一師団兵長』と『ヴルツァライヒ専従捜査隊長』が揃っている時に強襲。
 些かタイミングが良すぎます。そして、この記事」
 天斗は今朝、帝都で手に入れた新聞を見せて言った。
 アウレールも同じ記事の文言を見て、亜人遺跡の一件との符合を疑っていたが――
「くれぐれも気をつけて下さい」


 アウレールとカナタは、ひとまず石碑を回収することにした。
 馬車に積んだ石碑には念の為、アウレールが護符を貼りつけておく。
「歪虚の転移門――と考えるとして、その毀損が召喚された歪虚に影響をもたらすかどうか」
 カナタは石碑をアウレールと兵士たちに預け、
 自らは予め借り受けていた魔導アーマーを基地の付近で受け取った。アウレールが言う、
「こちらのテストと併せて、敵の様子を随時知らせてくれ」
「任された。それでは、再会といこうかの」

 エリーは応戦しつつ、敵の動きを間近に観察する。
(受けた攻撃を模倣し、元を上回る威力で返す――)
 剣魔は左腕から新たな鞭を伸ばしたかと思うと、2本を交互に使い始めた。
(でも、これは単純な模倣の域を越えてますよね?)
 息も吐かせぬ連続攻撃に、遂にアイビスが手傷を負った。
 シガレットが治癒の法術を飛ばす間に、何度目か分からぬトミヲのハリセン攻撃。
 覚醒者の腕力に任せて引っぱたくと、ようやく敵の骨格が砕けた。

 再生した剣魔の得物は鞭のまま、復活前と変わらぬ攻撃速度でハンターを襲う。
(ハリセンは模倣しない。鞭のほうが強いと判断した?
 攻撃対象の選別は……兎に角手近な相手、というところでしょうか)
 エリーが鞭を受け止めている間、トミヲが再度ハリセン攻撃を試みた――
 あっさりと身体を外され、勢い余って転んだトミヲに敵の狙いが転じるや、
 回復を終えたアイビスが飛び込んで徒手格闘を挑む。

 シガレットが振り返れば、街道の後方から現れるは、カナタが操縦する魔導アーマー。
 彼の合図で皆一斉に飛び退き、武器を持ち替えた。作戦の第2段階。


 アイビスは水属性のレガースを装備した。仲間たちも、それぞれに属性を帯びた武器を使い始める。
 属性攻撃の模倣の誘発――かつてカナタが試み、成果を挙げた方法だ。
(属性を押しつけられるんなら、弱点を作ることも可能なんだがなァ)
 シガレットは風属性のナイフで剣魔の脇腹を斬りつけると、すぐさまアーマーの陰に隠れた。
 剣魔の鞭はアーマーを叩いたかと思うと、機体の脚部に絡みつく。
「こうなったら綱引きじゃ!」
 カナタがアーマーに踏ん張りを効かせると、
 剣魔も負けじと鞭を伸ばした腕を引き、その隙にエリーが妖剣で斬りかかる。
 切っ先が敵の背中に刀傷をつけるが、完全破壊を狙った攻撃ではない。
「無茶すんじゃねェぞ!」
 シガレットが後退を促すが早いか、剣魔のもう片方の鞭が伸び、振り向きざまにエリーを襲った。
 先端がエリーの頬を掠め、血が飛沫くが、
「ま、まだまだ行けるよ!」
 激しい運動の連続で息を切らしながらも、今度は手甲を嵌めたトミヲがパンチを放つ。
 腹部を覆う紫色の筋肉に弾かれるが、慌てず下がってアーマーを盾に取った。
(まだ、手加減はしておかないと)
 死角に隠れていた遥が、魔導拳銃で剣魔の胴部を撃つ。敵が注意を逸らした隙に、アイビスの蹴りが決まった。
 3回目の復活にて剣魔はようやく鞭の模倣を止め、素手に戻る。敵の手足が白い冷気をまとうのを見て、
「こっ、このDT魔法使いが君に称号をつけてあげる! ズバリ、『Mr.死に覚えゲー』だ!」
 トミヲが叫ぶ。模倣の基準は『剣魔を1度でも倒した攻撃』と推測していたが、
(加えて、威力や何かの選別もあるらしい。それじゃ無効化能力のほうはどうだ!?)

 エリーが再び敵の背面を狙った剣技を繰り出す。
 剣魔が回避を試み、妖剣は相手の脇腹に当たった。先とは違う命中部位、しかし無効化はされない。
(『殺した』ことのある技でなければ、復活を挟んでも通用する?)
 今度はシガレットが土属性のナイフで仕掛けるが、敵の振るった腕に刃を弾かれてしまった。
(無効化の対象でなくとも、今の剣魔にゃ半端な攻撃は通らねェか)
 エリーの剣に仕留められ、またも復活する剣魔。
 その解けた筋肉の繊維が突如として針のように伸び、居並ぶハンターとアーマーを刺し貫いた。


 アウレールが光属性の剣を振るい、石碑に傷をつける。
 何度か繰り返し斬りつけ、どうにか表面にひび割れを作ると、
 青い液体が割れ目から流れ出すのを見て、アウレールは顔をしかめた。カナタに伝話をかけるが、
『済まんが、立て込んでおっての……!』

 剣魔の『針』の射程は、約50メートル四方と見えた。
 貫かれたハンターたちに痛みはなかったが、同時に何かを『吸われる』感覚があった。
 敵の新たなマテリアル吸収手段か――針の数と速度は凄まじく、およそ物理的に回避できるものではなかった。
 トミヲと遥だけが、飛んできた針を素手で弾くことができた。遥は自分の腕をまじまじと見つめて、
(抵抗力のお蔭、でしょうか。だとすると)
 顔を上げた先、魔導アーマーが突如として動かなくなる。
(燃料を食われたかのう)
 トミヲが離脱を促すも、出力が上がらず身動きできない。
 カナタが機体を捨てるが早いか、吸収を終えて元通りの姿となった剣魔は、エリーを模倣した長剣を振り下ろす。

 一撃でアーマーの操縦席を両断した敵を、アイビスが火属性の手甲を嵌めた拳で破壊する。
 剣魔は骨格が崩壊する間際に衝撃波を放つが、狙いはハンターたちではなかった。
 アイビスの攻撃で飛び散った、自分自身の部品。
(抜かれた!?)
 50メートルほど先まで吹き飛んだ骨片は、ハンターたちから離れた場所で集合、
 復活を終えた剣魔は脇目も振らず南方、中継基地の方向へ走り始めた。
 遥が追いすがって拳銃を撃つも、弾丸は全て念力で止められてしまう。
 擱座したアーマーを降りたカナタ含め、皆で一斉に剣魔を追走した。遥がトミヲを振り返る、
「これ以上は、魔法を使うしか……!」


 天斗は工兵たちへ合図すると、自らも石畳に伏せた。
 街道には、砲口を塞いだ上、過剰な量の散弾と発射材を詰めた大砲が1門。
 前衛を突破した剣魔が接近すると、茂みまで伸びた拉縄を工兵が引っ張った。
 砲は目論み通りに暴発、散弾を辺り一面にぶちまける。大砲諸共粉々に砕け散る剣魔――
 舞い上がった粉塵が、突如として現れた紫色の光の中に吸い込まれていく。
(仕留めきれなかったか)
 天斗は起き上がり、後ろに控えさせていた大砲の発射を制止すると、自ら煙の中へ飛び込んだ。
 復活したばかりの剣魔の身体を一挙に駆け上がり、頭部目がけて手刀を振り下ろす。

 後方から駆けつけたアイビスの目前で、剣魔は紫の閃光と共に『自爆』してみせた。
 そうして天斗を街道の先へ吹き飛ばすと、敵は爆弾代わりに使った自らの身体を、またも集合させ始める。
「……そろそろ、あなたの正体を明かしてくれてもいいんじゃないかしら?」
 再生の完了を待たずアイビスが跳躍、繋ぎ合わさったばかりの敵の胸骨へ衝撃拳を叩き込めば、
 返事とばかりに剣魔の眼窩が光った。自爆攻撃。
 アイビスは剣魔の胸を蹴って後ろへ飛び退くが、
 敵の身体に混じっていた骨片と金属片を、幾つも身体に受けてしまう。

 繰り返しの自爆は、剣魔にとっても諸刃の剣と見える――身体の再構成が、傍目にも遅くなった。
 その間にトミヲと遥が術具を構え、全力攻撃を準備する。
「基地が近い。さっきの手口で突破されたら後がねェぞ」
 言いつつアイビスと天斗の救助へ向かうシガレットに、トミヲが、
「分かってるよ。一気に、決める……!」
「行きます!」
 復活直後の剣魔の頭上へ、遥が火球を撃ち込んだ。強力な魔法の余波で、敵は脆くも崩れ去る。
 再び破片を集めて起き上がれば、今度はトミヲのアースバレット。
 ふたりが交互に高威力の魔法を使い、剣魔の行動を封じ続けた。
 ここで仕留めきらねば、強力無比の反撃がハンターを見舞うことになる。

 幸いにして、ふたりが用意した魔法の種類を使い切る寸前、敵の復活が止んだ。
 代わって、ごう、と風が起こったかと思うと、剣魔の破片を巻き込んで竜巻状の結界が出現する。
 居合わせたシガレットが咄嗟に法術・レクイエムを結界に捻じ込めば、
 術と結界とがぶつかり合い、眩い閃光を放った。シガレットが叫ぶ、
「ぶっ放してやれカナタァ!!」
 しかしカナタが街道上のカノン砲に発射を指示する直前、彼の法術が弾かれてしまう。
 剣魔を呑み込んだ竜巻は瞬く間にしぼんでいき、後には大砲の破片だけが2、3枚、ぽつんと取り残されていた。


「済まねェ。術に手応えはあったんだが……」
 基地に戻ったシガレットが言うと、カナタはかぶりを振り、
「今回は剣魔どんの抵抗力が勝った、ということじゃろ。
 干渉自体は可能なようじゃから、次にまた試せばよい」
 間違いなく次回がある――剣魔を召喚する、歪虚の負の転移門が確認された以上は。
「『誰に』喚ばれたのかな」
 呟くトミヲにアウレールが答える、
「あの石碑がヒントになるだろう。解体の上、錬魔院に調査を引き継ぐ。
 作り主の見当はつくが、いずれ真実を確かめねばな」
「……ラズビルナム」
「ああ」
 トミヲは、全ての鍵はあの場所にあると確信していた。

 アイビスと天斗は疾影士の機敏さ故か、あの自爆攻撃に巻き込まれつつも、
 シガレットとカナタの法術でどうにか補える程度の負傷に留めていた。
 あるいは、奇跡的にと言うべきか。法術を施した後、包帯でぐるぐる巻きにされた脚を見下ろして、
「まさか、爆弾さえ模倣するとは」
 天斗が半ば感心したような口調で言った。アイビスもやはり包帯だらけの手足を慎重に伸ばして、
「強くなってる。吸収や模倣だけじゃなく、戦い方も……、
 もしかしたら、私たちが鍛えてしまったのかも知れない」
「でも、ああして私たちの包囲を突破できたなら、何故最初から真っ直ぐ基地を目指さなかったんでしょう?」
 遥が口を挟んだ。敵はハンターを迂回して、より容易な獲物を探すこともできた筈。
 それをしないのは知能が低い為か、それとも、
「私たちに興味があるんですよ、きっと」
 エリーが言った。剣魔との戦いを思い出せば、こちらが敵の能力を推し量ろうとしたように、
 こちらにどれほどのことができるのか、敵も試しているようだった。

 まるで、言葉を知らない子供に話し方を教えるようなものだ――
 あんな『寂しげ』な歪虚は久し振りだと、エリーはどういう訳か、そう感じていた。

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MVP一覧

  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェルka2576
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲka4852

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェル(ka2576
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 猛炎の奏者
    八代 遥(ka4481
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/12/15 21:17:48
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/09 23:11:09
アイコン 回復所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/12/15 21:49:12