ゲスト
(ka0000)
【闇光】戦の指揮を、伝話のつながる吐息に
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/23 07:30
- 完成日
- 2015/12/29 14:25
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
北伐からの歪虚王率いる軍勢はついに帝国を攻撃し始めた。辺境との境長城ノアーラクンタウ、港ベルトルード、王国との国境である橋上都市ピースホライズン。そして帝都バルトアンデルス。あちこちで戦の狼煙があがったことは、それぞれの都市を守備する師団兵士のみならず、帝国国民の大半がすぐに知ることになった。
歪虚の攻撃は苛烈であるし、商人や師団を管轄する都市の住民には避難命令で出るのだ。
そこに現状、不安なものなど何もない。と隠し通す余裕すらないことは一般市民にとっては恐怖に浮き上がらせるのに十分だった。
だが、常日ごろから歪虚と戦い続けてきた帝国の信念、そしてそれがこんな日を生み出すこともまた知っていた。恐怖はすれども、絶望したりはしない。
ゾンネンシュトラール帝国民は兵士でなくとも勇敢であるのだから。
「地方にも歪虚、多分雑魔レベルのスケルトンが出ております。地方内務課が現在状況を確認しておるが……」
方々のツテを辿って情報を集めた帝国貴族ベント伯の言葉に、旧帝国の姫クリームヒルトの参謀として付き従うアミィは諸手を挙げて万歳し、そのままの勢いでベッドに転がるほどに狂喜した。
「きゃっほー。現政権のお株ダダ下がりじゃん! 歪虚王に勝てると信じて北荻に踏み込んで返り討ち。その上、帝国本土を総攻撃なんて。あははは!! 姫様、良かったね。このままヴィルヘルミナがくたばれば政権取り戻せるかも?」
クリームヒルトは旧政権、12年前に革命によって失った皇帝モンドシャッテ家の忘れ形見でもあった。
まだ20才にもならない彼女は過激派組織に利用されたりもしたが、それでも帝国国民が誇りを持って、また満足してこの帝国に根付いてくれるならという想いで活動をしてきたのだ。
今では少ないながらも支えてくれる人間もいる。
アミィのような危なっかしい人間もいるわけだが。
「アミィ。不謹慎よ!」
クリームヒルトはぴしゃりとアミィを叱りつけた。クリームヒルトは別に政権を取り戻してどうこうという気はないし、人の不幸を喜ぶような性格も持ち合わせてはいない。
「近郊師団都市から対処は……?」
「難しいでしょう。全師団がそれぞれの守備地域で歪虚王ハヴァマールの軍勢に対抗しているようです。歪虚軍の大量流入を許せば、それこそ本土決戦を迫られるのですから。多少の被害は捨て置くでしょうな」
ダムっ!!!
ベント伯の冷静な言葉に対して、机に諸手を叩きつけたのはクリームヒルトだった。
「雑魔が発生した場所はどこ? 被害状況は?」
「ず、ズェーデン・ユーベルヴァルン州南部の村2つ……です。クリームヒルト様、しかし、被害はそれだけでは……」
「ブレーネンフーフで忠誠を誓ってくれた人達に連絡しなさい。アミィ、各州に彼らあての連絡員いるんでしょ」
睨みつけるクリームヒルトに思わず息をのむベント伯の横で、アミィは不満の声を上げてベッドから起き上がった。
「そりゃいるけどさー。いいじゃん。この責任、全部ヴィルヘルミナになすりつけられるチャンスなんだよ? 今は動く必要なんてないよ」
と最後まで言い終わらないうちにクリームヒルトはアミィを鋭く叱責した。
「黙りなさい! 私は政治ゲームをしたいわけじゃないのよ。ベント伯は各地の被害を速やかに確認したらハンター、傭兵に派遣要請を。騒動が終わったら村から報酬として救援物資をもらい受け確保してください。きっと他の場所でも使うから」
クリームヒルトの矢継ぎ早な指示に、やや強面のベント伯も、悪賢さでは群を抜くアミィも思わず呆然とした。
「返事は!」
その言葉に二人は正気に戻り、反射的に最敬礼をした。
●
「そして、本当にすまん……」
ベント伯の呼びかけによって集まったハンターの前で。依頼主の彼は深々とお辞儀をした。
ベント伯の主であるクリームヒルトはおらず、代わりに置かれているのは一般者でも利用できる魔導短伝話だった。
『もしもし、クリームヒルトです。今近郊の村にも雑魔が出現したということで手が足りないので、私が向かっているんだけど……』
伝話口から苦笑いを含んだクリームヒルトの声が響いてきた。
集まった館の窓の向こう。眼下に広がる丘の向こうにある小さな町に彼女はいるらしいが、さすがにここからではどこに彼女がいるのかは目には見えない。
「ゾンビが一体、民家の中に侵入してるの。家の中にいた子を襲おうとしてたから、つい飛び込んだんだけど……どうすればいいかな?」
唖然とするハンターの目の前で、ベント伯は額に手を押さえ、申し訳ないやら、頭が痛いやらというポーズをした。
本来はここにいるハンターでその町を襲撃した雑魔を倒してもらう予定だったのだが、無理して多くの人を動かしたものだから、貴族のベント伯すらも走り回る事態を生み、そしてクリームヒルト自身も恐らく急報を受けたのだろう。頼む相手がいなくなってしまった彼女は自分の足で現場に向かってしまったようだった。
「家にいるのはわたしを含めて非覚醒者ばかり5人。今は2階建ての家の二階にわたし達はいて、ゾンビは一階をうろついているの」
走って助けに行かなければ。
だが、伝話の最大有効距離は1kmだから、恐らく数百メートル先にいるのだろうが。どの建物か把握して見つけ出している間にゾンビがクリームヒルト達にいつ襲い掛かるかわかったものではない。
「なんとか、生き延びるようにするから指示をください。皆さんが来るまでなんとか堪えてみせますので」
伝話の向こうから伝わってくるクリームヒルトの声は少し申し訳ないような、恥ずかしいような。
だが、決して楽観しているわけでもなければ、悲愴に満ちているわけでもないようだった。
歪虚の攻撃は苛烈であるし、商人や師団を管轄する都市の住民には避難命令で出るのだ。
そこに現状、不安なものなど何もない。と隠し通す余裕すらないことは一般市民にとっては恐怖に浮き上がらせるのに十分だった。
だが、常日ごろから歪虚と戦い続けてきた帝国の信念、そしてそれがこんな日を生み出すこともまた知っていた。恐怖はすれども、絶望したりはしない。
ゾンネンシュトラール帝国民は兵士でなくとも勇敢であるのだから。
「地方にも歪虚、多分雑魔レベルのスケルトンが出ております。地方内務課が現在状況を確認しておるが……」
方々のツテを辿って情報を集めた帝国貴族ベント伯の言葉に、旧帝国の姫クリームヒルトの参謀として付き従うアミィは諸手を挙げて万歳し、そのままの勢いでベッドに転がるほどに狂喜した。
「きゃっほー。現政権のお株ダダ下がりじゃん! 歪虚王に勝てると信じて北荻に踏み込んで返り討ち。その上、帝国本土を総攻撃なんて。あははは!! 姫様、良かったね。このままヴィルヘルミナがくたばれば政権取り戻せるかも?」
クリームヒルトは旧政権、12年前に革命によって失った皇帝モンドシャッテ家の忘れ形見でもあった。
まだ20才にもならない彼女は過激派組織に利用されたりもしたが、それでも帝国国民が誇りを持って、また満足してこの帝国に根付いてくれるならという想いで活動をしてきたのだ。
今では少ないながらも支えてくれる人間もいる。
アミィのような危なっかしい人間もいるわけだが。
「アミィ。不謹慎よ!」
クリームヒルトはぴしゃりとアミィを叱りつけた。クリームヒルトは別に政権を取り戻してどうこうという気はないし、人の不幸を喜ぶような性格も持ち合わせてはいない。
「近郊師団都市から対処は……?」
「難しいでしょう。全師団がそれぞれの守備地域で歪虚王ハヴァマールの軍勢に対抗しているようです。歪虚軍の大量流入を許せば、それこそ本土決戦を迫られるのですから。多少の被害は捨て置くでしょうな」
ダムっ!!!
ベント伯の冷静な言葉に対して、机に諸手を叩きつけたのはクリームヒルトだった。
「雑魔が発生した場所はどこ? 被害状況は?」
「ず、ズェーデン・ユーベルヴァルン州南部の村2つ……です。クリームヒルト様、しかし、被害はそれだけでは……」
「ブレーネンフーフで忠誠を誓ってくれた人達に連絡しなさい。アミィ、各州に彼らあての連絡員いるんでしょ」
睨みつけるクリームヒルトに思わず息をのむベント伯の横で、アミィは不満の声を上げてベッドから起き上がった。
「そりゃいるけどさー。いいじゃん。この責任、全部ヴィルヘルミナになすりつけられるチャンスなんだよ? 今は動く必要なんてないよ」
と最後まで言い終わらないうちにクリームヒルトはアミィを鋭く叱責した。
「黙りなさい! 私は政治ゲームをしたいわけじゃないのよ。ベント伯は各地の被害を速やかに確認したらハンター、傭兵に派遣要請を。騒動が終わったら村から報酬として救援物資をもらい受け確保してください。きっと他の場所でも使うから」
クリームヒルトの矢継ぎ早な指示に、やや強面のベント伯も、悪賢さでは群を抜くアミィも思わず呆然とした。
「返事は!」
その言葉に二人は正気に戻り、反射的に最敬礼をした。
●
「そして、本当にすまん……」
ベント伯の呼びかけによって集まったハンターの前で。依頼主の彼は深々とお辞儀をした。
ベント伯の主であるクリームヒルトはおらず、代わりに置かれているのは一般者でも利用できる魔導短伝話だった。
『もしもし、クリームヒルトです。今近郊の村にも雑魔が出現したということで手が足りないので、私が向かっているんだけど……』
伝話口から苦笑いを含んだクリームヒルトの声が響いてきた。
集まった館の窓の向こう。眼下に広がる丘の向こうにある小さな町に彼女はいるらしいが、さすがにここからではどこに彼女がいるのかは目には見えない。
「ゾンビが一体、民家の中に侵入してるの。家の中にいた子を襲おうとしてたから、つい飛び込んだんだけど……どうすればいいかな?」
唖然とするハンターの目の前で、ベント伯は額に手を押さえ、申し訳ないやら、頭が痛いやらというポーズをした。
本来はここにいるハンターでその町を襲撃した雑魔を倒してもらう予定だったのだが、無理して多くの人を動かしたものだから、貴族のベント伯すらも走り回る事態を生み、そしてクリームヒルト自身も恐らく急報を受けたのだろう。頼む相手がいなくなってしまった彼女は自分の足で現場に向かってしまったようだった。
「家にいるのはわたしを含めて非覚醒者ばかり5人。今は2階建ての家の二階にわたし達はいて、ゾンビは一階をうろついているの」
走って助けに行かなければ。
だが、伝話の最大有効距離は1kmだから、恐らく数百メートル先にいるのだろうが。どの建物か把握して見つけ出している間にゾンビがクリームヒルト達にいつ襲い掛かるかわかったものではない。
「なんとか、生き延びるようにするから指示をください。皆さんが来るまでなんとか堪えてみせますので」
伝話の向こうから伝わってくるクリームヒルトの声は少し申し訳ないような、恥ずかしいような。
だが、決して楽観しているわけでもなければ、悲愴に満ちているわけでもないようだった。
リプレイ本文
「姫様…先に呼んでくださればよいですのに」
音羽 美沙樹(ka4757)がため息を吐くと、バイクにキーを差し込んだ。
「私はクリームヒルトさんと会うのは初めてですが、意外とおてんば……というか考え無しということになるのでしょうか」
エルバッハ・リオン(ka2434)ことエルは戦馬に語り掛けるようにそう独り言ちた。
ついでにいうと伝話のトーンからすると、考え無しの割には肝が据わっているという、一度道を間違えると大層めんどくさいタイプかもしれない。と思った。一緒に駆け付けたハンターはクリームヒルトとは知己らしく見る限り、やはり案の定、というか守ってやらなければ、という顔をしているから、きっと前々からそう言うタイプなのは間違いないようだ。
「個人的には、綺麗ごとを言うだけの人より、遥かに好感が持てますが」
「まあ、そうだな。旧政権絡みでは腐った豚共が横行する中、自分でよく動く方だとは感心する。無謀と勇敢とはき違えるような馬鹿だがな。まったく。私の投資を無駄にするつもりか」
そんな独り言を聞いたのかバイクのエンジンを入れるアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が若干眉間にシワを寄せてそう答えた。
「あらぁ? アウレール様がされていらっしゃるのは投資でしたの? わたくしてっきり投私かとばかり」
「何故この私が旧政権の主に身を投げ出さねばならんのだ! 私が忠誠を誓うのは現陛下ただおひとりだ!!」
町の様子を双眼鏡で眺めていたチョココ(ka2449)がそのまま双眼鏡でくるりとアウレールを覗き見てそう言われるとアウレールは激昂した。その様子に南條 真水(ka2377)もにやりと笑う。
「私を投げうつ。いやぁ、ぴったりじゃない? だって今の皇帝がアレだったら、どうせ身投げより鞍替えするんだろ?」
「あんな偽物を陛下呼ばわりするな! これは歪虚の罠なんだ。陛下も遊びが過ぎるお方だ。きっと何かしらの芝居に興じているんだ」
「前回は銃撃の真っただ中に飛び込んだし、もう投私でいいんじゃねえか」
トドメにリュー・グランフェスト(ka2419)もそう言い、四面楚歌で荒れ狂うアウレールをよそに美沙樹がチョココに語り掛けた。
「チョココさん。見えます?」
「はいですの♪ ここから近い入り口から時計塔の大通りで人が逃げ惑っていますわ。町の北側は割と平穏ですからゾンビは3体とも南側ですわ」
にっこりと笑うチョココに美沙樹はそれなら一気に片付けられそうですわね。とヘルメットを被り。
そして、チョココがクラウチングスタートの姿勢を取ったことに気づいて、ヘルメットを慌てて上げた。
「乗り物はどうしましたの」
「ふふふ、パルパルとなら、妖精の道を通ってあっと言う間ですわ!」
どこの妖精の輪にとびこむつもりだろう。しかも町の中にたどり着ける気もしない。美沙樹はポケットに入れていた自転車の鍵をチョココに渡した。
「あたしの自転車をお使いなさい」
「まあ!」
チョココは喜び勇んで横に止めていた自転車に登場したが、美沙樹の身長約140cm、対してチョココは115cm。
「足が、と、と、届きませんの……」
「大丈夫、自転車でも時間差が厳しいからバイクで押します。美沙樹さん左、アウレールさん右で。チョココさんはこけないようにだけ気を付けてください」
エルの指示にチョココは顔を真っ青にした。自転車をバイクで押すなんて危険! リアルブルーなら道路交通法違反!!
「止むを得んな」
「仕方ありませんわね」
バイク乗りの二人は真っ青になるチョココの有無も聞かず、それぞれに近いハンドルを掴む。
そしてスタート。
「あああああーーーーーーーー」
チョココの絶叫が町へと駆け下っていった。
「俺達ももたもたしてらんねぇ。いくぞ! あいつの様にはさせない。あの時の様な思いを二度とはさせない」
リューはゴースロンの腹を蹴ると、その後を追いかけた。
●
ちなみに自転車をバイクのような高速移動する機械で押して問題になるのは。
ブレーキだ。
「と、と、と。とめてくださいですのぉぉぉぉぉーーーーー」
バイクの二人は町の入り口で減速したが、自転車が、しかもチョココの力ではそう簡単には止まらない。
町の人達は暴走する自転車に慌てて飛び退いてゆき。
「か、風さん。風さん。勢いよく吹いて、助けてくださいまし!!」
ウィンドガストを使って勢いを抑え込んだものの、完全には止まらない。そして立ち止まっていた人間がぐんぐん近づく。
「あ゛あ゛あ゛っ」
どかしゃゃぁぁぁぁ。と派手にぶつかりようやく停止した。
チョココと、自転車とついでにゾンビが。
「あら?」
くらくらする目で轢いてしまった人間を見下ろしたチョココはそれがそもそも人間ではなかったことに今ようやく気付いたのであった。町を混乱させていたゾンビだ。だって身体が半分潰れているのにまだガタガタ動くんだもの。
轢き殺したのがゾンビになって襲い掛かって来たのかと錯覚したチョココはもう一度絶叫した。
「早くたどり着いてしかもゾンビ退治まで。一石二鳥ですね」
そのゾンビの首をエルがウィンドスラッシュで吹き飛ばしてそう言った。
目の前で首がぶっとぶのを見てしまったチョココはしばらく寝られないかもしれない。
「残り2匹、三番目の通りを右にとか言っていたが……」
リューは入り口の門から数えて3つめの通り、を探すがちゃんとした『通り』を数えれば3つ目というのはもう時計塔のある広場の筋にたどり着いてしまう。路地もどうやら含んでいるらしいがどれが通りとしていいのか判断しかねた。
「クリームヒルト、聞こえるか! 今、町についたぞ。諦めるなよ。絶対だ!!」
リューが伝話の向こう、この町のどこかいるクリームヒルトに声をかけた。
「ありがとうございます。今、部屋をぐるりと回って階下を目指しています」
比較的冷静なクリームヒルトの声には、まだ被害が出ていない事はリューはすぐ確認できた。
だが、その後ろ。クリームヒルトの声の向こうに不自然な床のきしむ音が聞こえる。ゾンビはかなり近い位置にいるらしい。
「お姫様ってば通りと筋と路地の区別もついてないみたいだね。ついでに自分の進んでいた方向が曲がっていることも。まあ人間焦ればそんなものかな」
僅か数百メートル。バイクでの移動でならものの数分のことだが、ひどく乗り物酔いした南條は見事な推理を披露しつつ、壁に手をついてうなだれていた。
建物を検分したいが……上を向いたら吐く。絶対。
「どういうことだ?」
「館から近い入り口の門から入って右手に入り、時計塔が見えるってことは南側エリアなのは間違いない。今は昼を少し回ったんだから南側エリアから時計塔を見れば自分のいる家の影が絶対見えるはずなんだよ。お姫様の頭で考えている向きと実際の向きが違っているんだ」
つまりクリームヒルトの通った道は必ずやや曲がり、彼女はやや西側から時計塔を覗いているはずだ。
建物は高さが様々だ。しかし時計塔が見えるというならそれなりの高さがある家に絞られる。
「窓が東側にあって、かつ時計塔と太陽を結ぶ直線上付近の建物。だ、誰か探してくれないか……」
うぷっ。
こんな時でも明晰に働く頭が恨めしい。こういう時は頭を働かせるほど気持ち悪さが増すのだから。
「ああもう、大人しくしてなさいな。だいたい目星はつきましたわ」
美沙樹は目を細めて、南條の言った条件に当てはまる建物を見つけ出した。
ひらりと踊るシーツが風に踊りちらりと見えたのであれに間違いなかろう。
「よし、いくぞ!」
リューが走り出した時、伝話の向こうから小さな悲鳴が聞こえた。
「どうしたっ!!」
『リューさん、下から別のゾンビが……』
しまった。下の様子を窺った時に目が合ったというゾンビか。
階段の位置で彼女と家の主は挟み撃ちにあうことになる。思わず硬直するリューの手からアウレールが伝話を奪い取った。
「何でもいい階段から物を落として時間を稼げ。間もなく到着する。なんとか持ちこたえろ!」
もはや伝話で話ながら走るのも億劫だ。アウレールはリューにそれを投げ返すと一気に走り始めた。
「パンの匂いだ!」
全員が家へと急ぐ中、リューの鼻腔に小麦の焼ける良い匂いが僅かについた。
もう目的地はすぐそこだ。
「ふふふ、お腹空かせていると思いまして、焼いてきましたの」
「ふふふ、お姫様、お昼ごはんを食べ損ねているかもしれませんからクッキーを焼いてきましたの」
チョココがクッキーの包みを持ってリューに見せびらかした。
「やめんかぁぁぁぁ!!!!」
お前のせいかと思いっきりぶんなぐりたくなったが、さすがにそんな時間も惜しい。
「シーツの垂れ下がった窓、あれですね」
エルは素早く家の位置を確認すると、入り口の前に群がる人だかりを睨みつけた。あれはきっと野次馬だろう。
「どいてもらうのも時間の無駄ですね。花の香、やすらぎ。心と共鳴せよ。スリープクラウド!!!」
素早くスリープクラウドを詠唱すると人だかりの一部が急にバタバタと崩れ落ちるのを一気に美沙樹が跳躍して飛び越え玄関へと飛び込む。
「またいで御免なさいね」
家の中は散乱していた。ソンビが荒らしたのか抵抗の跡か。無事な物を探す方が大変なくらいだった。
そして奥にある階段。花瓶が散乱していた。水がまだ漏れていることからそれほど時間は経っていない。
「参りますっ」
美沙樹は疾風の勢いで食器などが散乱した床を飛び越えると同時に、剣に手を駆けた。
一歩で階段の下までたどり着くと、ゆっくり昇る動く死体が見えた。そして二歩。
「天津風よ疾く!」
階段に清冽な風が吹いた。ゾンビの肉どころか腐った汁すらも手にかけた剣に残すことなく。美沙樹は剣を鞘に収めた。
「先行くぞ!」
その横をリューとアウレールが駆け抜けていった。ここにいないということは廊下の奥にクリームヒルト達は逃げ込んでいるはずだ。
と、重い発砲音が響いた。すぐそこだ。空気の震えがここまで伝わってくる。
「クィィィィム、ヒルトオオオオオ!!」
「リューさん!!!」
廊下の一番奥。陽光に輝く窓の手前で、肩を血で染めたクリームヒルトがリューの声に応えた。ずっとずっと伝話越しの相手が目の前にいる。
だが、ゾンビ。恐らく二階に先に上ってきていたであろうゾンビはもう彼女の手の届くところにいる。そしてこちらまで延々続く破砕された木材は恐らく数々のバリケードを叩き壊した痕だろう。
ガタガタガタ。
ゾンビはマテリアルにありつけると歓喜したのか。それともリュー達を見て嘲笑ったのか。震える胸には植え付けられた機械的な赤いランプが明滅していた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
剣は捨てた。騎士とは守るものあっての騎士だ。剣が重たいなら捨ててやる。
騎士仲間がじっと見つめる顔が浮かんだ。ちゃんと守ってね。オフィスで依頼を受けた時に横にいた彼女の言葉が蘇る。
そうして足場の悪い廊下を一気に飛び越し、ゾンビをも駆け抜け。
リューはクリームヒルトを思い切り庇い、そのまま窓へとダイブした。その横をゾンビの腹に仕込まれた銃弾が抜けていく。
「くたばれっ!!!!」
駆け抜けたリューの真上から被さるようにして、アウレールは槍をゾンビの脳天からそのまま串刺しにした。
激しく明滅したそれは。アウレールの槍で叩き潰されそのままごとりと崩れ落ちた。
「まあ、2階にいるんだから玄関から入る必要はないよね。人だかりの中を進むのは嫌いだし」
南條はリフレア、靴に翼を生やして一気に飛翔する術で手近な窓へと接近した。
真正面から入るのはリューやアウレールのような人間がいるだけで十分だし、ついでにいうと今助けようとしているお姫様に半年ほど前に一撃いれたので、ちょっと正面から相対するのは気まずいとか。色々あるのだ。
と、突然目指していた窓が吹き飛び、割れた窓の向こうからリューとクリームヒルトが降ってきた。
「あ、南條さん」
お姫様は空中でも意外と冷静らしい。
リフレアで飛んでいるから、そのまま落下するよりかは衝撃を免れるとクリームヒルトはすぐ判断したのだろう。
「ちょぉぉ!?」
貧弱な南條さんにそれを言うか!? しかも大の男(リュー)とセットかよ!!
結論……無理。
リフレアで人間二人を支えることなんかできるわけもなく。機導力全開で維持するもリフレアの翼はまさしく荷重に耐えかねイカロスのように燃え尽きて落下した。
「クリームヒルト 、無事か!?」
「はい、一瞬ね。どんなところでも届かないものはないっすよ! っていう素敵ボイスが頭に響いたの。そしたらなんか空中でも冷静になれて。疾影士ってこんな感じなのかなって思いました」
元気そうにいうクリームヒルトは飛び降りたことによる怪我は一つもなさそうでニコニコとしていた。
覚醒したリューも飛び降りたくらいではそんな怪我もない。怪我したのは、下敷きになった南條くらいなものである。まあ彼女のおかげでクリームヒルトには怪我一つなかったのだが。
前回の腹にパンチ入れたのはちょっと申し訳ない気はしてたけど、これでおあいこ! っていうか貸しだ、貸し!!
ついでにお姫様に余計な勇気を持たせた素敵ボイスの相手に割れた眼鏡の修理費用を請求しようかと南條は考えた。
●
南條の持ってきたバラエティーランチを囲みながら、遅めの昼食。
ちなみに南條さんはろっ骨にヒビが入り、持ってきたのに食べられないという悲惨な事態に。仕方ないので彼女だけチョココのクッキーが昼ごはん代わり。
「大体、現場に向かってどうするつもりだったのか。通信兵じゃあるまいし、毎度伝話を担いでいってハンターを呼ぶか?」
「時間は待ってくれないもの。1分1秒を争うと判断したんですけど、間違っていなかったでしょ?」
クリームヒルトがしれっとアウレールに返すもので、彼はまた呆れた。
「そのうち喰われるぞ……気持ちは分からんでもないが、な。棒っきれの振り方くらい、教えてやっても良い。技術があれば、人の男程度は組み伏せるのに力は必要ないんだ」
その言葉にクリームヒルトはキラキラと目を輝かせた。
「是非っ。守られるだけはいやだから。元ヴルツァライヒの人達の希望者にもやってもらっていいかしら」
ハンターは火消しだが、一般人もそれなりにあれこれ気持ちをもって動いているのだとアウレールは再確認した。
そしてそれは。大変めんどくさいことを申し出てしまったとの再確認にもつながるのであった。
何にせよ。その歪虚の大侵攻から帝国の地を、民を一つ守ることができたのは間違いない。
音羽 美沙樹(ka4757)がため息を吐くと、バイクにキーを差し込んだ。
「私はクリームヒルトさんと会うのは初めてですが、意外とおてんば……というか考え無しということになるのでしょうか」
エルバッハ・リオン(ka2434)ことエルは戦馬に語り掛けるようにそう独り言ちた。
ついでにいうと伝話のトーンからすると、考え無しの割には肝が据わっているという、一度道を間違えると大層めんどくさいタイプかもしれない。と思った。一緒に駆け付けたハンターはクリームヒルトとは知己らしく見る限り、やはり案の定、というか守ってやらなければ、という顔をしているから、きっと前々からそう言うタイプなのは間違いないようだ。
「個人的には、綺麗ごとを言うだけの人より、遥かに好感が持てますが」
「まあ、そうだな。旧政権絡みでは腐った豚共が横行する中、自分でよく動く方だとは感心する。無謀と勇敢とはき違えるような馬鹿だがな。まったく。私の投資を無駄にするつもりか」
そんな独り言を聞いたのかバイクのエンジンを入れるアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が若干眉間にシワを寄せてそう答えた。
「あらぁ? アウレール様がされていらっしゃるのは投資でしたの? わたくしてっきり投私かとばかり」
「何故この私が旧政権の主に身を投げ出さねばならんのだ! 私が忠誠を誓うのは現陛下ただおひとりだ!!」
町の様子を双眼鏡で眺めていたチョココ(ka2449)がそのまま双眼鏡でくるりとアウレールを覗き見てそう言われるとアウレールは激昂した。その様子に南條 真水(ka2377)もにやりと笑う。
「私を投げうつ。いやぁ、ぴったりじゃない? だって今の皇帝がアレだったら、どうせ身投げより鞍替えするんだろ?」
「あんな偽物を陛下呼ばわりするな! これは歪虚の罠なんだ。陛下も遊びが過ぎるお方だ。きっと何かしらの芝居に興じているんだ」
「前回は銃撃の真っただ中に飛び込んだし、もう投私でいいんじゃねえか」
トドメにリュー・グランフェスト(ka2419)もそう言い、四面楚歌で荒れ狂うアウレールをよそに美沙樹がチョココに語り掛けた。
「チョココさん。見えます?」
「はいですの♪ ここから近い入り口から時計塔の大通りで人が逃げ惑っていますわ。町の北側は割と平穏ですからゾンビは3体とも南側ですわ」
にっこりと笑うチョココに美沙樹はそれなら一気に片付けられそうですわね。とヘルメットを被り。
そして、チョココがクラウチングスタートの姿勢を取ったことに気づいて、ヘルメットを慌てて上げた。
「乗り物はどうしましたの」
「ふふふ、パルパルとなら、妖精の道を通ってあっと言う間ですわ!」
どこの妖精の輪にとびこむつもりだろう。しかも町の中にたどり着ける気もしない。美沙樹はポケットに入れていた自転車の鍵をチョココに渡した。
「あたしの自転車をお使いなさい」
「まあ!」
チョココは喜び勇んで横に止めていた自転車に登場したが、美沙樹の身長約140cm、対してチョココは115cm。
「足が、と、と、届きませんの……」
「大丈夫、自転車でも時間差が厳しいからバイクで押します。美沙樹さん左、アウレールさん右で。チョココさんはこけないようにだけ気を付けてください」
エルの指示にチョココは顔を真っ青にした。自転車をバイクで押すなんて危険! リアルブルーなら道路交通法違反!!
「止むを得んな」
「仕方ありませんわね」
バイク乗りの二人は真っ青になるチョココの有無も聞かず、それぞれに近いハンドルを掴む。
そしてスタート。
「あああああーーーーーーーー」
チョココの絶叫が町へと駆け下っていった。
「俺達ももたもたしてらんねぇ。いくぞ! あいつの様にはさせない。あの時の様な思いを二度とはさせない」
リューはゴースロンの腹を蹴ると、その後を追いかけた。
●
ちなみに自転車をバイクのような高速移動する機械で押して問題になるのは。
ブレーキだ。
「と、と、と。とめてくださいですのぉぉぉぉぉーーーーー」
バイクの二人は町の入り口で減速したが、自転車が、しかもチョココの力ではそう簡単には止まらない。
町の人達は暴走する自転車に慌てて飛び退いてゆき。
「か、風さん。風さん。勢いよく吹いて、助けてくださいまし!!」
ウィンドガストを使って勢いを抑え込んだものの、完全には止まらない。そして立ち止まっていた人間がぐんぐん近づく。
「あ゛あ゛あ゛っ」
どかしゃゃぁぁぁぁ。と派手にぶつかりようやく停止した。
チョココと、自転車とついでにゾンビが。
「あら?」
くらくらする目で轢いてしまった人間を見下ろしたチョココはそれがそもそも人間ではなかったことに今ようやく気付いたのであった。町を混乱させていたゾンビだ。だって身体が半分潰れているのにまだガタガタ動くんだもの。
轢き殺したのがゾンビになって襲い掛かって来たのかと錯覚したチョココはもう一度絶叫した。
「早くたどり着いてしかもゾンビ退治まで。一石二鳥ですね」
そのゾンビの首をエルがウィンドスラッシュで吹き飛ばしてそう言った。
目の前で首がぶっとぶのを見てしまったチョココはしばらく寝られないかもしれない。
「残り2匹、三番目の通りを右にとか言っていたが……」
リューは入り口の門から数えて3つめの通り、を探すがちゃんとした『通り』を数えれば3つ目というのはもう時計塔のある広場の筋にたどり着いてしまう。路地もどうやら含んでいるらしいがどれが通りとしていいのか判断しかねた。
「クリームヒルト、聞こえるか! 今、町についたぞ。諦めるなよ。絶対だ!!」
リューが伝話の向こう、この町のどこかいるクリームヒルトに声をかけた。
「ありがとうございます。今、部屋をぐるりと回って階下を目指しています」
比較的冷静なクリームヒルトの声には、まだ被害が出ていない事はリューはすぐ確認できた。
だが、その後ろ。クリームヒルトの声の向こうに不自然な床のきしむ音が聞こえる。ゾンビはかなり近い位置にいるらしい。
「お姫様ってば通りと筋と路地の区別もついてないみたいだね。ついでに自分の進んでいた方向が曲がっていることも。まあ人間焦ればそんなものかな」
僅か数百メートル。バイクでの移動でならものの数分のことだが、ひどく乗り物酔いした南條は見事な推理を披露しつつ、壁に手をついてうなだれていた。
建物を検分したいが……上を向いたら吐く。絶対。
「どういうことだ?」
「館から近い入り口の門から入って右手に入り、時計塔が見えるってことは南側エリアなのは間違いない。今は昼を少し回ったんだから南側エリアから時計塔を見れば自分のいる家の影が絶対見えるはずなんだよ。お姫様の頭で考えている向きと実際の向きが違っているんだ」
つまりクリームヒルトの通った道は必ずやや曲がり、彼女はやや西側から時計塔を覗いているはずだ。
建物は高さが様々だ。しかし時計塔が見えるというならそれなりの高さがある家に絞られる。
「窓が東側にあって、かつ時計塔と太陽を結ぶ直線上付近の建物。だ、誰か探してくれないか……」
うぷっ。
こんな時でも明晰に働く頭が恨めしい。こういう時は頭を働かせるほど気持ち悪さが増すのだから。
「ああもう、大人しくしてなさいな。だいたい目星はつきましたわ」
美沙樹は目を細めて、南條の言った条件に当てはまる建物を見つけ出した。
ひらりと踊るシーツが風に踊りちらりと見えたのであれに間違いなかろう。
「よし、いくぞ!」
リューが走り出した時、伝話の向こうから小さな悲鳴が聞こえた。
「どうしたっ!!」
『リューさん、下から別のゾンビが……』
しまった。下の様子を窺った時に目が合ったというゾンビか。
階段の位置で彼女と家の主は挟み撃ちにあうことになる。思わず硬直するリューの手からアウレールが伝話を奪い取った。
「何でもいい階段から物を落として時間を稼げ。間もなく到着する。なんとか持ちこたえろ!」
もはや伝話で話ながら走るのも億劫だ。アウレールはリューにそれを投げ返すと一気に走り始めた。
「パンの匂いだ!」
全員が家へと急ぐ中、リューの鼻腔に小麦の焼ける良い匂いが僅かについた。
もう目的地はすぐそこだ。
「ふふふ、お腹空かせていると思いまして、焼いてきましたの」
「ふふふ、お姫様、お昼ごはんを食べ損ねているかもしれませんからクッキーを焼いてきましたの」
チョココがクッキーの包みを持ってリューに見せびらかした。
「やめんかぁぁぁぁ!!!!」
お前のせいかと思いっきりぶんなぐりたくなったが、さすがにそんな時間も惜しい。
「シーツの垂れ下がった窓、あれですね」
エルは素早く家の位置を確認すると、入り口の前に群がる人だかりを睨みつけた。あれはきっと野次馬だろう。
「どいてもらうのも時間の無駄ですね。花の香、やすらぎ。心と共鳴せよ。スリープクラウド!!!」
素早くスリープクラウドを詠唱すると人だかりの一部が急にバタバタと崩れ落ちるのを一気に美沙樹が跳躍して飛び越え玄関へと飛び込む。
「またいで御免なさいね」
家の中は散乱していた。ソンビが荒らしたのか抵抗の跡か。無事な物を探す方が大変なくらいだった。
そして奥にある階段。花瓶が散乱していた。水がまだ漏れていることからそれほど時間は経っていない。
「参りますっ」
美沙樹は疾風の勢いで食器などが散乱した床を飛び越えると同時に、剣に手を駆けた。
一歩で階段の下までたどり着くと、ゆっくり昇る動く死体が見えた。そして二歩。
「天津風よ疾く!」
階段に清冽な風が吹いた。ゾンビの肉どころか腐った汁すらも手にかけた剣に残すことなく。美沙樹は剣を鞘に収めた。
「先行くぞ!」
その横をリューとアウレールが駆け抜けていった。ここにいないということは廊下の奥にクリームヒルト達は逃げ込んでいるはずだ。
と、重い発砲音が響いた。すぐそこだ。空気の震えがここまで伝わってくる。
「クィィィィム、ヒルトオオオオオ!!」
「リューさん!!!」
廊下の一番奥。陽光に輝く窓の手前で、肩を血で染めたクリームヒルトがリューの声に応えた。ずっとずっと伝話越しの相手が目の前にいる。
だが、ゾンビ。恐らく二階に先に上ってきていたであろうゾンビはもう彼女の手の届くところにいる。そしてこちらまで延々続く破砕された木材は恐らく数々のバリケードを叩き壊した痕だろう。
ガタガタガタ。
ゾンビはマテリアルにありつけると歓喜したのか。それともリュー達を見て嘲笑ったのか。震える胸には植え付けられた機械的な赤いランプが明滅していた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
剣は捨てた。騎士とは守るものあっての騎士だ。剣が重たいなら捨ててやる。
騎士仲間がじっと見つめる顔が浮かんだ。ちゃんと守ってね。オフィスで依頼を受けた時に横にいた彼女の言葉が蘇る。
そうして足場の悪い廊下を一気に飛び越し、ゾンビをも駆け抜け。
リューはクリームヒルトを思い切り庇い、そのまま窓へとダイブした。その横をゾンビの腹に仕込まれた銃弾が抜けていく。
「くたばれっ!!!!」
駆け抜けたリューの真上から被さるようにして、アウレールは槍をゾンビの脳天からそのまま串刺しにした。
激しく明滅したそれは。アウレールの槍で叩き潰されそのままごとりと崩れ落ちた。
「まあ、2階にいるんだから玄関から入る必要はないよね。人だかりの中を進むのは嫌いだし」
南條はリフレア、靴に翼を生やして一気に飛翔する術で手近な窓へと接近した。
真正面から入るのはリューやアウレールのような人間がいるだけで十分だし、ついでにいうと今助けようとしているお姫様に半年ほど前に一撃いれたので、ちょっと正面から相対するのは気まずいとか。色々あるのだ。
と、突然目指していた窓が吹き飛び、割れた窓の向こうからリューとクリームヒルトが降ってきた。
「あ、南條さん」
お姫様は空中でも意外と冷静らしい。
リフレアで飛んでいるから、そのまま落下するよりかは衝撃を免れるとクリームヒルトはすぐ判断したのだろう。
「ちょぉぉ!?」
貧弱な南條さんにそれを言うか!? しかも大の男(リュー)とセットかよ!!
結論……無理。
リフレアで人間二人を支えることなんかできるわけもなく。機導力全開で維持するもリフレアの翼はまさしく荷重に耐えかねイカロスのように燃え尽きて落下した。
「クリームヒルト 、無事か!?」
「はい、一瞬ね。どんなところでも届かないものはないっすよ! っていう素敵ボイスが頭に響いたの。そしたらなんか空中でも冷静になれて。疾影士ってこんな感じなのかなって思いました」
元気そうにいうクリームヒルトは飛び降りたことによる怪我は一つもなさそうでニコニコとしていた。
覚醒したリューも飛び降りたくらいではそんな怪我もない。怪我したのは、下敷きになった南條くらいなものである。まあ彼女のおかげでクリームヒルトには怪我一つなかったのだが。
前回の腹にパンチ入れたのはちょっと申し訳ない気はしてたけど、これでおあいこ! っていうか貸しだ、貸し!!
ついでにお姫様に余計な勇気を持たせた素敵ボイスの相手に割れた眼鏡の修理費用を請求しようかと南條は考えた。
●
南條の持ってきたバラエティーランチを囲みながら、遅めの昼食。
ちなみに南條さんはろっ骨にヒビが入り、持ってきたのに食べられないという悲惨な事態に。仕方ないので彼女だけチョココのクッキーが昼ごはん代わり。
「大体、現場に向かってどうするつもりだったのか。通信兵じゃあるまいし、毎度伝話を担いでいってハンターを呼ぶか?」
「時間は待ってくれないもの。1分1秒を争うと判断したんですけど、間違っていなかったでしょ?」
クリームヒルトがしれっとアウレールに返すもので、彼はまた呆れた。
「そのうち喰われるぞ……気持ちは分からんでもないが、な。棒っきれの振り方くらい、教えてやっても良い。技術があれば、人の男程度は組み伏せるのに力は必要ないんだ」
その言葉にクリームヒルトはキラキラと目を輝かせた。
「是非っ。守られるだけはいやだから。元ヴルツァライヒの人達の希望者にもやってもらっていいかしら」
ハンターは火消しだが、一般人もそれなりにあれこれ気持ちをもって動いているのだとアウレールは再確認した。
そしてそれは。大変めんどくさいことを申し出てしまったとの再確認にもつながるのであった。
何にせよ。その歪虚の大侵攻から帝国の地を、民を一つ守ることができたのは間違いない。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/19 02:16:32 |
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伝話指令室 クリームヒルト・モンドシャッテ(kz0054) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/23 00:26:28 |
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指示と救援 音羽 美沙樹(ka4757) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/12/23 00:02:26 |