ゲスト
(ka0000)
【闇光】夢幻城崩城戦
マスター:のどか

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/23 12:00
- 完成日
- 2016/01/10 22:45
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「――夢幻城を討つ」
人類連合軍総司令官ナディア・ドラゴネッティは、緊迫した様子でその決を下していた。
夢幻城は先の作戦展開の中でサルヴァトーレ・ロッソの主砲を受けて墜落。
今だ沈黙を続けてはいるが……その北の大地で繰り広げられた戦火を彼女も知らないわけではない。
さらには帝国本土への歪虚の侵攻、そしてヴィルヘルミナの件でハンターオフィスはもちろん世界中が大きなショックを受けている。
それでも夢幻城を討つ。討たなければならない。
その決断をナディアに迫ったのもまた、帝国本土侵攻という現実に他ならなかった。
勢いを増した歪虚の魔の手が、今まさに人類の営みの喉元へと迫っている。
その中で移動要塞とも言えるあの前線基地が力を取り戻し、此度の侵攻の折に人類の目と鼻の先に定着でもしようものなら――
不幸中の幸いと言っていいのかどうか、敵兵力はその多くが此度の戦線に出払い、城周辺の戦力自体は最小限であると推測されている。
場内の様子も先の威力偵察で得ている今、こちらも最小限の戦力で、最大限の成果を得ることも可能なハズなのだ。
「連合軍は帝国の件で混乱している……今この時、頼りとなるのはハンターの皆だけじゃ。どうか、頼んだぞ!」
北の地の命運を握る大攻略戦が、今、始まろうとしていた。
●
「それじゃあ、詳細を説明しますので聞いてくださいね~☆」
状況の急変に慌ただしいオフィス本部の救援に出向いていたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、集まった有志ハンター達の前で作戦の説明に立っていた。
「今回の作戦、細かい作戦内容に関してはハンターさん達に全権を委ねるそうですっ。軍の力も介入できない以上、皆さんにとってはその方が動きやすいでしょうし……と言う、総長の判断ですっ!」
横目にナディアの方に視線を配ると、彼女は信頼を寄せた瞳で力強く頷いて見せた。
「夢幻城崩城戦――と銘打ってはあるけれど、今回のマストオーダーは城の飛行機能の消失にあるみたいです。その件に関しては、総長から~」
「先の場内偵察で、城主ジャンヌの部屋にて見つけた巨大な結晶体。ナサニエル錬魔院院長の見識では、あれこそが夢幻城の飛行能力を司る『核』であろうという事じゃった。現に、サルヴァトーレ・ロッソの砲撃にて運よく破損を生じさせた際、見ての通り城は飛行機能を失い北の地に墜落しておる。これを完全に破壊し、浮遊要塞としての力を奪い取る事が最低限にして最大の目的となる」
ナディアは一息に説明すると、解説の場をルミへと譲る。
ルミはパチンとウインクをしながら、お立ち台へと入れ替わった。
「帝国の地に敵さんが出払っちゃってるだろうと言っても、城の中がすっからかんってわけではないみたいです。怠惰や暴食――巨人や、アンデッドと言った歪虚の抵抗が予想されます。まずはこれらを倒して、城の抵抗力を直接的に奪ってください。その間に『核』の対応部隊が破壊へと向かうのがこの作戦の基本想定だよっ」
それともう一点……と、ルミは別の資料を取り出して見せた。
「城主である災厄の十三魔ジャンヌ・ポワソン――これを討伐してください。大将が落ちれば城は落ちる。古臭い考え方だけど、実際ルミちゃんもその通りだと思うんだよね。場内戦力を殲滅して物理的な抵抗力を無くして、大将を討ち取る事で意識的な抵抗力を無くす。ここまでしないと、人類の勝利は刻み込めないって、ルミちゃんは思う」
撤退に次ぐ撤退の北の地。
そこに加えての帝国本土侵攻で、世界はひどく、疲弊していた。
この作戦の成功には、敵拠点攻略以上に疲弊した世界の士気を取り戻す意味も込められているのだ。
「この戦いに勝って、俺たちはまだ負けてない、諦めてないって事を見せつけてやりましょうっ! やるぞー、おー♪」
こぶしを振り上げてぴょんと飛び上がって見せるルミ。
人類はまだ、諦めてはいない。
●
「――性懲りもなく人間が攻めて来た、か」
夢幻城謁見の間。
警備兵の伝令を受けたカッツォ・ヴォイは、仮面の頬を撫でるように指を這わせると、ちらりとある筈の無い視線を城主ジャンヌの下へと向けていた。
玉座の代わりに備え付けられた天蓋付きのベッドに横たわったジャンヌは、相変わらずのけだるげな表情で、視線だけを交わして見せた。
落下の衝撃か、砕け散ったシャンデリアや転がった飾り物の甲冑。
当のジャンヌがそれを片付けもその指示もするわけがなく、小汚く広がっているのだった。
「姫様姫様、どうしましょ?」
「姫様姫様、どうしましょ?」
ルチアとフランカ、2人のメイドがワザとらしく困った表情で、ジャンヌのベッドに縋りつく。
「どうするも何も……任せたわ」
それだけを口にしたジャンヌにカッツォはフムリと小さく頷くと、コツンとステッキの先で大理石の床を叩いた。
「このタイミングでの攻城……目標は先の飛行船の主砲で丸裸にされた『核』だろう。先に見られた例もある、多少学があれば思い至っても不思議ではない」
運悪く砲撃で傷ついてしまった『核』は、現在修復し力を貯めている最中だ。
帝国攻めに戦力も出払い、防備も最低限。
加えて墜落の損傷自体も回復しきってはいない。
「姫様、ひとまず前線に伝令は送っておきましょう。王の御前で望みは薄いですが……援軍があるとも分かりません。ルチアは『核』の防備を、フランカは姫様のお傍に付いているように」
「え~、フランカと一緒じゃないの?」
「え~、ルチアと一緒じゃないの?」
カッツォの提案にメイド2人はあからさまに不満げな声を上げたが、それもジャンヌの「好きにして」の一言で一蹴されてしまう。
「私も私で動くとしよう。本来、人類も帝国の一件で手一杯のはずだ……今この城を攻める決断を行った敵官は只者では無いが、同時に愚かしい選択でもある事を思い知らせるとしようか」
それだけ言うと、カッツォはコツリと部屋の入口へと向かって歩みを進めてゆく。
が、中ほどまで歩いて思い出したように立ち止まると、張り付けた仮面の笑みで肩越しにジャンヌの方へと振り返った。
「そうそう――姫様も、いざという時にご自分の身はご自分で守るのですよ?」
その言葉にジャンヌは言葉にならないため息を漏らすと、その日初めてゴソリと寝返りを打つ。
そうして長い髪の先を指先でくるりと弄ると、空を見つめたまま答えるのであった。
期待しないでね……だって、面倒なんですもの――
「――夢幻城を討つ」
人類連合軍総司令官ナディア・ドラゴネッティは、緊迫した様子でその決を下していた。
夢幻城は先の作戦展開の中でサルヴァトーレ・ロッソの主砲を受けて墜落。
今だ沈黙を続けてはいるが……その北の大地で繰り広げられた戦火を彼女も知らないわけではない。
さらには帝国本土への歪虚の侵攻、そしてヴィルヘルミナの件でハンターオフィスはもちろん世界中が大きなショックを受けている。
それでも夢幻城を討つ。討たなければならない。
その決断をナディアに迫ったのもまた、帝国本土侵攻という現実に他ならなかった。
勢いを増した歪虚の魔の手が、今まさに人類の営みの喉元へと迫っている。
その中で移動要塞とも言えるあの前線基地が力を取り戻し、此度の侵攻の折に人類の目と鼻の先に定着でもしようものなら――
不幸中の幸いと言っていいのかどうか、敵兵力はその多くが此度の戦線に出払い、城周辺の戦力自体は最小限であると推測されている。
場内の様子も先の威力偵察で得ている今、こちらも最小限の戦力で、最大限の成果を得ることも可能なハズなのだ。
「連合軍は帝国の件で混乱している……今この時、頼りとなるのはハンターの皆だけじゃ。どうか、頼んだぞ!」
北の地の命運を握る大攻略戦が、今、始まろうとしていた。
●
「それじゃあ、詳細を説明しますので聞いてくださいね~☆」
状況の急変に慌ただしいオフィス本部の救援に出向いていたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、集まった有志ハンター達の前で作戦の説明に立っていた。
「今回の作戦、細かい作戦内容に関してはハンターさん達に全権を委ねるそうですっ。軍の力も介入できない以上、皆さんにとってはその方が動きやすいでしょうし……と言う、総長の判断ですっ!」
横目にナディアの方に視線を配ると、彼女は信頼を寄せた瞳で力強く頷いて見せた。
「夢幻城崩城戦――と銘打ってはあるけれど、今回のマストオーダーは城の飛行機能の消失にあるみたいです。その件に関しては、総長から~」
「先の場内偵察で、城主ジャンヌの部屋にて見つけた巨大な結晶体。ナサニエル錬魔院院長の見識では、あれこそが夢幻城の飛行能力を司る『核』であろうという事じゃった。現に、サルヴァトーレ・ロッソの砲撃にて運よく破損を生じさせた際、見ての通り城は飛行機能を失い北の地に墜落しておる。これを完全に破壊し、浮遊要塞としての力を奪い取る事が最低限にして最大の目的となる」
ナディアは一息に説明すると、解説の場をルミへと譲る。
ルミはパチンとウインクをしながら、お立ち台へと入れ替わった。
「帝国の地に敵さんが出払っちゃってるだろうと言っても、城の中がすっからかんってわけではないみたいです。怠惰や暴食――巨人や、アンデッドと言った歪虚の抵抗が予想されます。まずはこれらを倒して、城の抵抗力を直接的に奪ってください。その間に『核』の対応部隊が破壊へと向かうのがこの作戦の基本想定だよっ」
それともう一点……と、ルミは別の資料を取り出して見せた。
「城主である災厄の十三魔ジャンヌ・ポワソン――これを討伐してください。大将が落ちれば城は落ちる。古臭い考え方だけど、実際ルミちゃんもその通りだと思うんだよね。場内戦力を殲滅して物理的な抵抗力を無くして、大将を討ち取る事で意識的な抵抗力を無くす。ここまでしないと、人類の勝利は刻み込めないって、ルミちゃんは思う」
撤退に次ぐ撤退の北の地。
そこに加えての帝国本土侵攻で、世界はひどく、疲弊していた。
この作戦の成功には、敵拠点攻略以上に疲弊した世界の士気を取り戻す意味も込められているのだ。
「この戦いに勝って、俺たちはまだ負けてない、諦めてないって事を見せつけてやりましょうっ! やるぞー、おー♪」
こぶしを振り上げてぴょんと飛び上がって見せるルミ。
人類はまだ、諦めてはいない。
●
「――性懲りもなく人間が攻めて来た、か」
夢幻城謁見の間。
警備兵の伝令を受けたカッツォ・ヴォイは、仮面の頬を撫でるように指を這わせると、ちらりとある筈の無い視線を城主ジャンヌの下へと向けていた。
玉座の代わりに備え付けられた天蓋付きのベッドに横たわったジャンヌは、相変わらずのけだるげな表情で、視線だけを交わして見せた。
落下の衝撃か、砕け散ったシャンデリアや転がった飾り物の甲冑。
当のジャンヌがそれを片付けもその指示もするわけがなく、小汚く広がっているのだった。
「姫様姫様、どうしましょ?」
「姫様姫様、どうしましょ?」
ルチアとフランカ、2人のメイドがワザとらしく困った表情で、ジャンヌのベッドに縋りつく。
「どうするも何も……任せたわ」
それだけを口にしたジャンヌにカッツォはフムリと小さく頷くと、コツンとステッキの先で大理石の床を叩いた。
「このタイミングでの攻城……目標は先の飛行船の主砲で丸裸にされた『核』だろう。先に見られた例もある、多少学があれば思い至っても不思議ではない」
運悪く砲撃で傷ついてしまった『核』は、現在修復し力を貯めている最中だ。
帝国攻めに戦力も出払い、防備も最低限。
加えて墜落の損傷自体も回復しきってはいない。
「姫様、ひとまず前線に伝令は送っておきましょう。王の御前で望みは薄いですが……援軍があるとも分かりません。ルチアは『核』の防備を、フランカは姫様のお傍に付いているように」
「え~、フランカと一緒じゃないの?」
「え~、ルチアと一緒じゃないの?」
カッツォの提案にメイド2人はあからさまに不満げな声を上げたが、それもジャンヌの「好きにして」の一言で一蹴されてしまう。
「私も私で動くとしよう。本来、人類も帝国の一件で手一杯のはずだ……今この城を攻める決断を行った敵官は只者では無いが、同時に愚かしい選択でもある事を思い知らせるとしようか」
それだけ言うと、カッツォはコツリと部屋の入口へと向かって歩みを進めてゆく。
が、中ほどまで歩いて思い出したように立ち止まると、張り付けた仮面の笑みで肩越しにジャンヌの方へと振り返った。
「そうそう――姫様も、いざという時にご自分の身はご自分で守るのですよ?」
その言葉にジャンヌは言葉にならないため息を漏らすと、その日初めてゴソリと寝返りを打つ。
そうして長い髪の先を指先でくるりと弄ると、空を見つめたまま答えるのであった。
期待しないでね……だって、面倒なんですもの――
リプレイ本文
●
その日の夢幻城は喧騒と混乱に包まれていた。
大規模な撤退戦を見せた人類軍による間髪入れずの転進。
今成し遂げなければならない標的を前にして、命を賭してハンター達は城へと攻め入る。
「時間が掛かればそれだけ不利となる……各々、自身の目的を最優先に行動してください!」
銀 真白(ka4128)ら数多のハンター達が食って掛かる敵の群れへと刃を切り込む。
真っ先に群れて来た骨の戦士を相手に刀を振るえば、飛びかう骨身が砕け散り、黒い霧となり霧散する。
「西の地に住まうモノノケ達よ、銀真白とこの「骨喰」が相手となろう!」
そう豪語する真白へと骸骨たちは容赦なく群がりゆく。
直後に彼女の背後から巨大な火球が燃え上がり、押し寄せるスケルトンへ飛翔、そして爆ぜた。
「こんな私でも、なにか力になれる事があるはず……」
火球の主・アシェ-ル(ka2983)は、深めに被った帽子をぐっと押さえてふと視線を逸らす。
が、すぐに目線を眼前の敵の群れへと合わせると、頭上に新たな火球を練り上げていた。
先制の一石を投じた城内で、ハンター達は大きく2つの方向へと別れ出る。
一方は飛行核を破壊する任を背負い。
一方は城主ジャンヌを探し出し、その撃破に臨む。
「それじゃあ作戦通り、あたしたちはこのまま敵を引き付けに走るわ。少し派手な城内コンサート、お披露目しようじゃない」
通路を塞ごうと歩み来る大型怠惰の脚部を氷弾で凍てつかせながら、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は真白とアシェールをクイと顎を振って呼びかける。
敵の群れの中を駆け抜けてゆく仲間たちを後目に、城内に斬撃音、爆砕音、銃声、そして破砕音が爆音のライブ会場の如く響き渡っていた。
●
塔を目指すハンター達は、先の偵察で露呈した道筋を辿るようにして迷いなく城内を駆け巡っていた。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁッ!!」
機杖の先から付き伸びた巨大な炎の刃を掲げ、飛び込む勢いのまま眼前の歪虚の壁へと振るったクレール(ka0586)。
敵も重要なものがこの先にある意識はあるのか、入り口のそれよりもより厚く、より激しい抵抗がハンター達の一団を襲っていた。
「良い気迫ね。あたしも熱くなってしまいそう」
クスリと妖美な笑みを浮かべたドロテア・フレーベ(ka4126)の鞭が、行く手を阻む首なし騎士の剣を絡め取り、その動きを封じる。
間髪入れずにクレールの光刃がそれを串刺して、鎧は糸が切れたようにバラバラに散っていった。
その時、不意にルスティロ・イストワール(ka0252)がその表情を曇らせた。
絶えず耳を澄ましていた彼は、警戒すべき敵の足音を喧騒の中に探していた。
「……もう少し待ってくれれば良かったものだね。来るみたいだよ!」
直後に飛来した数多の針がハンター達の頭上に降り注ぐ。
咄嗟にリュー・グランフェスト(ka2419)が頭上高く盾を掲げて、仲間への直撃を弾く。
その一撃を挨拶代わりに、歪虚の群れの頭上を飛び越えひらりとハンター達の眼前に舞い降りた影。
「いらっしゃい。今日も沢山遊びましょ」
ぺこりとお辞儀をしたルチアは身を起こすと同時に腕を大きく振り上げると、掌から放たれた2対の刃がハンター達へと放たれていた。
「リベンジしたい所だけど、今はそれどころじゃなくってね……!」
ルスティロは障害物を飛び越えるように刃をかわすと、そのままわき目も触れずに足を速める。
その言葉にルチアは不満げな表情を浮かべて見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻ると一気に最大速でハンター達の背後に迫る。
瞬く間に凶刃が喉元まで迫ろうかというその時、1人の影がルチアへ向かって飛び込んでいた。
ルチアは影の主――七葵(ka4740)へと視線を絞ると、掌を突き破って飛び出した刃を剣代わりにして突きつける。
「まずはあなたが遊んでくれるのね?」
七葵はその一撃を受け止めると、そのまま刀を担ぐように受け流し、勢いのままルチアの懐にぶち当たった。
渾身の体当たりを受けて、敵はスケルトンの群れをなぎ倒しながら吹き飛んで行く。
「七葵さん!」
ローエン・アイザック(ka5946)が叫ぶ。
七葵は勢い余って倒れ込んだ身体を静かに起こすと、背後の仲間達を振り返らずに声を張り上げた。
「行け……ッ!」
たった一言。
それが仲間たちの背を後押しし、僅かに残った罪悪感を一刀に断ち切って見せる。
遠ざかってゆく足音を背に受け、七葵は起き抜けを狙って来た骸骨をその刃で打ち砕く。
そのまま刀を柳に構えると、地を駆けたルチアの嘲笑をその瞳に映し出していた。
「ジャンヌ奴は、一体どこにいるのじゃ……?」
前方を遮るアンデッド群へと稲妻を走らせ、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は答えの出るか分からない問いを呟いていた。
「分かりやすい目印でもありゃいいんだが、流石にそれは高望みか?」
返す言葉に笑みを浮かべるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)であったが、不意に一団の脚がぴたりと止まった。
「――ここだ」
ひときわ大きく、豪奢な扉の先。
その先から放たれる巨大な重圧。
間違えはしない、エリス・ブーリャ(ka3419)は高揚とも嫌悪とも言い難い複雑な表情を浮かべていた。
息を吐く間もなく、大地を揺るがす怠惰兵の足音がすぐ背後に響き渡る。
迫る敵影を前にヴィルマ達は反転、踵を返し始めた。
「あやつらの相手は我らが引き受ける!」
フラメディア・イリジア(ka2604)の抜き放った得物が、壁に並んだ燭台に照らされて雄々しく煌いていた。
「ここは任せよう。こちらはこちらの出来る事を、じゃ」
紅薔薇(ka4766)は背負った太鼓を小脇に抱えると、戦場のただ中である事などお構いなしに激しく強く打ち鳴らしてみせた。
音に釣られて敵が集まってくるような気配とは別に、反応は、思ったよりもすぐに表れる。
「――伏せるのじゃ!」
叫ぶ紅薔薇の言葉と共に一斉に扉から離れるハンター達。
直後、分厚い石造りの扉を撃ち砕いて、一本の灼熱の光線が回廊へと突き刺さっていた。
「行きます、後ろは皆さんに任せました」
「分かりました……一気に行きましょう」
粉塵晴れぬ中、キヅカ・リク(ka0038)のバイクが派手な駆動音を吹かして部屋の中へと突貫する。
間髪入れずに天央 観智(ka0896)が室内へと向かって走らせるマテリアル。
その力によって構築された鉱石の壁が、突貫するリクの姿を遮るようにそびえ立つ。
「思いきりがいいのは嫌いじゃないわ」
慌てた素振りなく歩み寄るフランカ、そして奥に寝そべるジャンヌの姿を一瞬視界に収めて、ハンター達は部屋の中へと転がり込む。
そして観智の作り出した壁に身を隠すように肩を付けると、一斉に懐の爆弾へと火を走らせた。
「思いっきりが良いだけではありませんよ……!」
一瞬で確認した敵の位置を頼りに、壁の内から放るヴァルナ=エリゴス(ka2651)。
他の者のそれも次々戦場に弧を描き、部屋の中に大きな爆炎と爆風が広がる。
その衝撃にフランカは思わず身を構え、先を行くリクもバイクを急旋回させ一時部屋の隅に難を逃れるが、すぐにスロットルを捻り上げて撒きあがる粉塵を掻き分ける。
そんな爆煙の中、1つの影が空を舞い踊っていた。
映画顔負けの大ジャンプを見せ、戦場を舞う男――紫月・海斗(ka0788)。
「ハイハァーイ! 来たぜ、突撃ジャンヌちゃん!」
雄たけびにも似た声を上げ、世紀の大ジャンプは綺麗な放物線を描きながら、爆発で煤けたジャンヌのベッドへと飛び込んでいた。
唖然とするハンター達の前で、海斗はキラリと歯を光らせると、間髪入れずにジャンヌの身体へと手を伸ばす。
「ヤル気、出させてみよーじゃねーの!」
ワキリと指を蠢かせて伸びる腕。
その指先がふくよかな山の頂に触れようとするや否や――目に見えぬ、それでも確かな力が城内を駆け巡った。
うめくような声を上げ、力無くベッドの上にへたり込む海斗。
否、戦場に居る者達も次々と、まるで生気を失ったかのようにその場に倒れ伏してゆく。
壁の向こうで動けなくなっているハンター達へ、フランカはゆったりとした手つきで両の手を重ね合わせる。
次第に何も考えられなくなってゆく意識の中で、彼らは最大の誤算を痛感していた。
ジャンヌの力とは視界によるものではないと言う事を。
心身が怠惰に満たされると同時に、放たれた熱線が壁を易々と打ち砕いてハンター達を包み込むのであった。
●
螺旋状の階段を駆け上り、白金 綾瀬(ka0774)は目の前にそびえる扉をぶち当たるように開け放った。
目の前に広がった豪奢な家具に包まれた部屋の天井に、明らかに異彩を放った巨大な結晶体が浮かぶ。
鈍く暗い輝きを放つそれは、部屋の中を水底のような色へと染め上げていた。
これを破壊さえすれば――そう覚悟を決めようとした時、壁に填められたステンドグラスがけたたましい音を立てて砕け散った。
「みーつけた」
窓枠から這い出して来るルチアの姿。
鈎代わりにして壁を登って来たのであろう、掌から突き出した刃が鈍い光に照らされて艶めかしく光った。
「うおおおおおおお!!」
その存在を確認するや否や、リュー・グランフェスト(ka2419)は結晶体へと突撃していた。
単身、無策にも思えるその行為に、ルチアはこれ好機と背後に迫る。
リューは後目にそれを捉えると、大きく踏み込んだ脚で全身の勢いを踏み留まり、そのまま力任せに転進してルチアへ刃を突きつけた。
その背に炎を背負い、文字通り破竹の勢いで突貫するリュー。
その一撃はルチアの懐に突き刺さり、押し出すようにして部屋の外へと叩き出す。
「今のうちに爆弾を!」
「了解です!」
綾瀬の言葉に葛音 水月(ka1895)は大きく頷いて、懐の爆弾を取り出した。
「なんというか、本当に不思議な物体だね……」
設置作業を手伝いながらも目を輝かせて結晶体を撫で回すルスティロであったが、優先順位は弁えているようで、作業が終われば名残惜しそうながらもすぐにその場を離れる。
「起爆するわ! 備えて!」
綾瀬は1本に纏めた導火線へ着火すると、自らも床に身構えた。
直後の大きな爆発音と衝撃が部屋を大きく揺るがす。
晴れてゆく粉塵の先で……結晶体はその身に大きなヒビこそ走っていたものの、今だ健在な姿を現していた。
爆破音は部屋の外にも当然の如く響いていた。
ノーマン・コモンズ(ka0251)は僅かに視線を向けるも、自らの前に吹き飛んで来たリューの姿を目に、とっさにそれを受け止める。
「おっと、大丈夫ですか?」
「ああ……大したことは無いぜ」
血の滲んだ脚でリューは立ち上がると、入れ違いにイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が手にした銃口をルチアへと突きつけた。
「やぁ、次のお相手はこのボクだ」
「あなた、まだ壊れてなかったの? じゃあ、今度こそちゃんと壊してあげるわ」
ルチアはイルムの弾丸をひらりと宙返りで躱すと、そのまま脚部から針の雨を撃ち降らす。
無差別に放たれた嵐が後続のリューとノーマンも巻き込んで、乱れる金属音が虚空の階下まで響き渡っていた。
●
謁見室付近の回廊――唐突にその身を襲った重圧に、ハンター達はぐったりと片膝を突いていた。
「くそっ……動け! 動くのじゃ!」
吐き捨てるように自身に言いかけ、杖を支えにふらつく体で立ち上がるヴィルマ。
しかし、見上げた視線の先で巨人が大きく振りかぶった棍棒が、横薙ぎにその身を撃つ。
「ヴィルマ!」
撃ち飛ばされ壁に叩き付けられた仲間に駆け寄ることもできず、それでもとグリムバルドは脳細胞を掻き毟るようにしてマテリアルを練り上げる。
放たれた光線が巨人を穿ち、その意識を自分へと向けるのが今の彼にできる精一杯であった。
振り上げられた巨人の鈍器。
頭などスイカのように砕け散るであろうその一撃が迫った時、ふっと、全身の気だるげな感覚が抜けてゆくのを彼らは感じていた。
咄嗟に床を転がるようにして一撃を躱す。
目標を見失って大地に打ち付けられたその一撃の先、空いた懐に紅い影が潜り込んだ。
「これはヴィルマの礼じゃ」
振りかぶったフラメディアの大斧が一息で巨人の脚を吹き飛ばす。
支えを失った巨人は、ぐらりと大きくその身を揺らして周りの小型の歪虚達を押しつぶすようにして回廊へと横たわっていた。
唐突に表れた壁に、後続の歪虚達は地団太を踏む。
そうしてできた吹き溜まりへどこからともなく現れた火球が飛び込み、爆ぜた。
それは大勢のスケルトンや首なし騎士の核を焼き払い、一撃にしてその存在を霧散させていた。
「礼とは大層な……我はまだやれるぞ!」
壁を背に、ふらりと立ち上がり杖を掲げるヴィルマ。
額を血で真っ赤に染めながらも、その絶やさぬ闘志を炎へ変える。
「ふふ、どうやら過払い分は自分で回収してくれるようじゃ」
新たに放たれた火球と共に、ハンター達の剣閃が戦場に舞っていた。
「核の破壊はまだ終わらないのかしら……?」
上階の居室を見上げ、ドロテアは小さく呟いていた。
螺旋階段の途中に陣取り、上り来る敵を相手にしていたハンター達。
狭さの利を生かし、時間を稼ぐ事だけならば最上の立地であった。
押し寄せる烏合の敵を火剣の一振りで薙ぎ払ったクレールが、腰のトランシーバーへと意識を向ける。
「連絡は無いですね。それにあの様子では――」
時折響く上階の剣劇音は、おそらく仲間達がメイドと戦っている音。
「とは言え、こちらもそう長くは持ちません。不甲斐ない話ではありますが……」
後方で仲間の補助に徹していたローエンであるが、前衛2人ですべての敵を抑えなければならない以上、必然的に自らの身は自らで守らなければならない。
道中の消耗もあり、まだハンターとしての場数を踏み切れていない彼にとっては困難な消耗戦だ。
それでも自分にできる事をと、一度身を引いたクレールの傷を彼の魔術が応急処置的に癒す。
代わりにドロテアが一足敵陣に飛び込み、かく乱し、その意識をも乱す。
「攻め方が怠慢になって来たわね……向こうさんはもう勝った気でいるのかしら?」
体勢を崩されつぶさになった敵を前に、ドロテアは一転翻ると、その背後から掲げたクレールの機杖が光を放つ。
「蟻一匹、通しはしないんだぁぁぁぁぁぁ!!」
放たれたマテリアルの刃がばらけた敵を個別に穿ち、そのまま後続を押し倒す。
どれだけ消耗戦となろうと戦う意志さえ残って居れば、倒れるその時まで剣は振れるのだ。
●
時は少し遡り――謁見室のハンター達は今だ床に這いつくばっていた。
「ねぇ……これ、どけてくれないかしら?」
ジャンヌはそう問いかけるも、フランカは聞いているのかいないのか、力ないハンターを掴んで人形遊びに興じていた。
聞く耳持たぬと判断したのか、もう一度ベッドの異物に視線をやって、ゆらりと右手が海斗の手首を掴む。
瞬間、呪縛が解けたようにハンター達の意識が回復。
寝耳に状況は分かっているのか、それぞれ武器を手に散開し、フランカへと飛びかかった。
真っ先に懐に飛び込んだ和泉 澪(ka4070)の一閃をフランカは腕をクロスして受けて見せたが、彼女はそのまま尚も一歩を踏み込んで抑え込む。
「エリスさん、今です!」
叫んだその上空で、マテリアル光を靡かせてエリスが舞った。
「てめぇは邪魔だ……!」
放たれた雷撃がフランカの四肢を貫く。
抑えたか――そう願った最中、フランカは稲妻の中で小さく笑みを浮かべると弾くように澪を突き飛ばす。
「このビリビリ、とっても気持ちがいいわ」
そう口にして、迫った2人へ放つ熱線。
咄嗟に左右に分かれてそれを回避するも、先に負った火傷がズキリと身に染みていた。
「――い、いででで!」
ジャンヌの細い腕に掴まれ、軽々しく持ち上げられた海斗の身体。
そのまま投石でもするかのように彼の身体を頭上でぐるりと振り回すと、一思いに投げ飛ばす。
まるで砲弾の如く加速を付けた海斗は石の壁に頭から突っ込んで、そのままぐったりと動かなくなってしまった。
「やったな……!」
体勢を立て直してリボルバーの引き金に指を掛けるリク。
受けた銃弾で小さな青あざの出来た腕をジャンヌは気だるげに眺める。
間を置かず、空を切る矢羽が唸り、数本の矢がベッドへと突き刺さる。
謁見室の柱の影から弓を引いたカナタ・ハテナ(ka2130)の憐れむような視線がジャンヌの姿を射抜いていた。
「寝てばかりの怠惰な人生とはつまらなそうじゃな……意味の無い生じゃろう」
矢先に松明を括り付けたお手製の火矢。
煌々と燃え盛る炎は柔らかなジャンヌのベッドを包み込んで、やがてもうもうと黒煙を巻き上げた。
「……どうしてみんな、私から何かを強いるのかしら」
大きく1つため息をつき、ジャンヌがゆらりと身を起こす。
焼け落ちて行くベッドを背に聳えるジャンヌの長身が、濡れた瞳でリクを見下ろす。
「私はただ――何もしたくないだけなのに」
大きく振り上げられた平手。
リクは咄嗟に覚悟を決め、手にした盾で身構えていた。
●
踊り場での戦いは一進一退の体を示していた。
仲間達が核を破壊するまで部屋への道だけは死守する。
「そんなに飛び跳ねたいのなら――」
敵の機動力を見かねたノーマンが、火を放った爆弾を放り投げていた。
ルチアはひらりと飛び上がって悠々回避して見せるが、地に足を付くその瞬間、ノーマンの鉄糸がその軸足を絡めとる。
「あらら?」
「頂きましたよ、その機動力」
見出した好機に、リューは再び爆炎を背負いルチアへと切っ先を穿つ。
激突の反動ですぽんと脚の抜けたルチアの身体はもんどりうって踊り場を弾け飛び、そのまま階段の吹き抜けへと飲まれて行ってしまった。
「おっと……やりすぎたか?」
足元から摩擦で生じた白煙を棚引かせながら、リューは大きく肩で息を吐く。
「彼女があれでやられるとは思えないけど――」
そう言い放ったイルムは階下の虚空へと視線を落とす。
その時、虚空へと続く踊り場の縁にひび割れた小さな指が音を立てて突き立ったのである。
その背後――私室では、結晶体相手にハンター達による必死の抵抗が続いていた。
「離れてください、こいつをぶち込みます!」
そう前置いて水月が掲げるのは、自らよりも1回りも回りも大きなパイルバンカー。
ユニット向けの装備を全身の力を振り絞って支え、構え、狙いを付ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
大地を蹴り上げ勢いを乗せ、切っ先を結晶体に殴打。
大砲のような炸裂音と共に打ち出された杭が、大きな結晶体を揺るがした――がしかし、まだ足りない。
「もう一度行こう!」
パイルを一度地面に取り落とした水月に代わり、ルスティロの刃が大きく開いたひび割れに突き込まれた。
威力は申し分ない。
あともう一押し。
「この機会を逃すわけにはいかないのよ、だから……狙い撃つわ!」
綾瀬はパイルに穿たれた大きな穴に狙いを定めて、銃弾を収束させる。
ここまで送り届けてくれた仲間のためにも、この任務だけはしくじるわけにはいかないのだ。
「そう……音を上げるわけには、いかないんですよね」
炸裂の反動で、もはや腕に感覚は無い。
それでも意地と気力で水月はその切っ先を掲げ上げる。
「――割れろぉぉぉぉぉッ!!」
突貫。
腕の感覚が無い事を良いことに激しい反動を無視して、ただ渾身を叩き込む。
乾いた音を立てて、表面を駆け巡るように走った数多のひび。
放出される硝煙のその先に、核は夜空に散らばる星屑のように砕け散ったのである。
「イルムさん……!」
真っ先に気づいたのはノーマンであった。
釣られてイルムが振り返るよりも早く、虚空よりルチアの身体が飛び上がる。
「あらあら壊しちゃったのね。じゃあ私も壊さなきゃ」
彼女は愉し気な笑みを浮かべると、手近なイルムをその手に抱きとめる。
「情熱的なアプローチは嫌いじゃないよ」
「なら、どうお返事をしてくれるの?」
カタリと首を傾げるルチアに対し、イルムは微笑み欠けて手にしたレイピアを彼女の身体へ突き立てる。
「これがお返事さ」
「そう」
貫いた刃をものともせず、服を突き破って全身の暗器を一同に展開するルチア。
数多の刃を一身に受け、夥しい量の鮮血が踊り場を舞った。
それでもイルムは絶やさず笑みを浮かべると、逆にルチアの事を抱き留めるように寄り添い、そっと頬に紅い口づけを落とす。
刹那、何をされたかも分からず惚けたルチアの身体がぐらりと揺れた。
イルムが彼女を抱えたまま踊り場の地面を蹴ったのだ。
虚空に舞う、2人の姿。
「馬鹿な真似を……ッ!」
咄嗟に飛ばしたノーマンの鉄糸がイルムの脚を絡め取る。
細いワイヤーでその身体を吊り上げ、一方のルチアは再び闇の中へと飲まれてゆく。
虚空を頭上にしてイルムは拳銃を抜き放って、落ちてゆく彼女へと銃口を向けていた。
「――アデュー、ルチア君」
弾丸が、寄り添った際に服に仕込んだ爆弾の信管を打ち抜く。
遠い螺旋の底で、真っ赤に咲いた一厘の花がイルムのモノクルを音も無く照らしていた。
●
「――このめんどくささは自分のもの? それとも敵の力のせい?」
謁見室の柱の影。
息を潜めて戦況を見守り続けたショウコ=ヒナタ(ka4653)は自問するように吐き捨てていた。
再び高まりかけた感染はリクの献身と引き換えに抑えられ、調子は比較的安定している。
問いの答えは出るわけが無かったが、今はただ、魔導銃の照準を目標へと定めて機を伺うのみである。
「リクさんはあとどの程度持つのでしょう……!?」
ショウコの見つめる戦場で、観智はハットから覗く縋るような視線を仲間の下へと走らせた。
戦う能は無いのか、あまりに隙だらけで所作もなっていないジャンヌの攻撃。
それでも怠惰自慢の有り余るパワーとプレッシャーを持って、ただ独り防勢に走るリクを圧倒する。
「ちとまずいの……流石に治癒も追いつかんか」
戦線を引いて仲間の治療に終始するカナタもまた、口惜しそうに奥歯を噛みしめた。
先制の一撃で受けた大きなディスアドバンテージが、力の配分を大きく狂わせてしまった。
一撃をもろに喰らえば倒れる――一本綱を渡るような戦いがハンター達には強いられていた。
「綱を踏み外す事を恐れていたら……!」
奮い立たせるように叫び、フランカの懐へ飛び込む澪。
振り下ろされた刃を敵は半身退いて躱すと、そのまま澪の胸に重ねた手を押し付ける。
「一瞬で済むから心配しないでね?」
至近距離で放たれる熱線。
脳の処理能力をはるかに超えた激痛が澪を襲う。
「……一度踏み外せば、後は意外と怖くないものですよ?」
朦朧とする意識の中、彼女は残る力でフランカの身体を羽交い絞めにする。
そして、はじめそうしたように対角へ回ったエリスの雷撃がフランカの四肢を再び貫いた。
「もう一度、くらえぇぇ!!」
その身を駆け巡り、帯電する稲妻。
2度目の雷撃は、確かにフランカの四肢の自由を奪っていた。
「その腕……頂きます!」
「こちらは妾が頂くかのう」
刹那、飛び込んだヴァルナと紅薔薇の刃が一刀の下にフランカの両腕を切り飛ばす。
「私の手……っ!」
麻痺から解放されたフランカは澪の身体を膝蹴りで弾き飛ばすと、とんと地面を蹴って大きく宙を舞って離脱を測った。
待ち望んだその瞬間に、ショウコの眼光が鋭く光る。
「そこだ……ッ!」
放たれた銃弾は戦場を切り裂き、宙を舞うフランカの片足を貫いた。
「嘘――」
みるみる凍り付いてゆく着弾部。
着地と同時に氷と共に砕け散ったその脚に、軸を失いふらついた彼女の胸部を、瞬く間に鋼の刃が穿つ。
刃は淡い剣閃を戦場に残し、貫いた勢いのままに、フランカの身体を壁に貼り付けていた。
「この一撃だけは……意地でも貫かせてもらうのじゃ」
刃の柄を握る紅薔薇は送る言葉のようにそう言い残す。
「素敵だわ。痛みを感じない事が、どれだけ惜しい事かしら」
フランカは、自らを貫いた刃を失った腕で撫でながら乾いた笑みを浮かべる。
「お礼代わりに……私も奥の手、見せてあげる」
紅薔薇はその目を見開いていた。
フランカの腕が、まるで新たな物質が形成されてゆくかの如く再生してゆくのだ。
重ね合わせたその掌に、紅薔薇は咄嗟に身を翻す。
「今日一度っきりのトクベツよ?」
直後、放たれた熱戦が彼女の肩を貫いていた。
転がるように崩れ落ちる紅薔薇。
それを艶めかしい視線で見届けて、フランカもまた壁に寄り添い動かなくなった。
「早く帰ってくれないかしら……?」
大きなため息とともに、ジャンヌの平手がリクの盾に降りかかる。
盾で受けてなお骨身に染みる衝撃を前に、リクはついに片膝を突いていた。
「できないね……耐える事が、俺の役目だから」
「そんなの……荷物になるだけじゃない」
ジャンヌの真珠のような素足が、膝を突いたリクの頭上から音を立てて迫る。
大砲の一撃と見まごうそれについに盾は耐えきれず、砕け散ると、そのままリクの身体へ深々とめり込んでいた。
目の前で動かなくなった相手を見て、ジャンヌは天を仰ぎ見て虚ろな瞳を静かに閉じる。
そんな彼女へとエリスが一転、残る力を振り絞って地面を蹴り上げると、ブーツの先からマテリアル光を棚引かせて一気にその距離を詰めた。
「終わらせる! てめぇの悪夢も、全部全部! ここで!」
完全に棒立ちの相手に狙う必要もなく突きつけられた機杖。
収束したマテリアルに全ての願いを込めて、機導砲は撃ち放たれた――
●
――暗い石畳の上で、ルチアは身を震わせるようにうごめいていた。
その身体は爆発の衝撃でその大半が吹き飛び、腕、足、そして胸から下をそっくり失った異質な姿であった。
動かなきゃ――その意思に呼応して、破面が修復を始める。
が、たいして修復しきらぬうちにその力も尽きてしまった。
「くすくす……ごめんねフランカ。失敗したみたい」
乾いた笑みが塔の底に細く響く。
自らの最期を悟ったその時、暗闇に煌く漆黒の炎の姿がその瞳に映り込んでいた。
弾丸の如く自らの前へと降り立ったその影は、纏っていた黒炎の翼を大きく広げ上げるとその蒼白の手を差し伸べる。
「意識があるのなら案内していただきたい。私を、ジャンヌ兵長の下へ――」
生前、思い描いていた神の使いとはこのような姿であったのだろうなと。
その時のルチアの脳裏には遠い日の記憶が微かに走り抜けていた。
●
「――本当に、やったんですね!」
トランシーバーから響いた通信を耳に、アシェ-ルの声が上ずった。
「核の破壊、成功したみたいです!」
口伝えに仲間に知らせたその報に、彼女は肩の荷が下りたようにほっと胸を撫で下ろしていた。
「どうやら、それだけじゃないみたいよ」
捲れた床板を盾に銃撃戦を続けるケイの足元で、通信機へとノイズが走る。
響いたのは聞きなれぬハンター達の声――外からの増援が到着したのだ。
「護るべき物は墜ち、形勢も変わった……それでも戦う意志のある者は、私が相手となろうッ!」
勝利へと導かれてゆく城内の空気に今一度士気を高ぶらせ、真白は今一度歪虚達へと啖呵を切った。
「嫌いじゃないわ。最後に熱く激しいロックン・ロール、聞かせてやりましょう」
「は、はい! 全員で帰るまで、私、頑張ります!」
ケイの言葉に終始おどおどとしていたアシェ-ルもついには覚悟を決めて、迷いの薄れた瞳でマテリアルを放出する。
対する歪虚達はその意気に圧され始め、次第に逃げ腰の体を示していた。
勝利は、その目に見えつつあった。
静まり返った謁見室に、エネルギーの弾ける音が木霊する。
術を放ったエリスは思わず、その光景をただ呆然と眺めていた。
機導砲を弾いた金属の腕。
その持ち主は見慣れぬ黒炎の翼を広げて、ジャンヌへと略式的な敬礼を示す。
「遅くなってしまい申し訳ありません。直ちに、ここから離脱します……失礼!」
その鉄腕でジャンヌの巨体を担ぎ上げたアイゼンハンダーは、もう一方の腕で壁際のフランカへと棒状の何かを放る。
「私の脚――フランカには合うかしら?」
無残な姿となったルチアの言葉にフランカは静かに瞳を開け、手にした脚を自らの腰に宛がうようにはめ込む。
そして立ち上がり、とんとんと飛び跳ねみせると満足げな微笑みを浮かべた。
「参りましょう。私はこの通り両手が塞がっておりますので、道中の援護を頼みます」
アイゼンハンダーは少女の手でルチアの身体を掴みあげると、そのまま翼を大きくはためかせる。
「逃がすとお思いですか!」
残しておいた力を振り絞って、一息に間合いへと迫るヴァルナ。
しかしその眼前に、脚を取り戻したフランカが割り込んでいた。
「残念、もう時間切れなの」
言いながら蹴り上げた「ルチアの脚」から放たれた太い針がヴァルナに迫り、咄嗟に厚い刃を盾にそれを防ぐ。
その視界を遮られた一時の間に、亡兵は高く飛び上がっていた。
「今回のゲームはあなたたちの勝ちね。おめでとう」
そう言い残したフランカの熱線で分厚い城の壁を破壊し、極寒へと飛び出して行く歪虚の将達。
その姿を追うことのできるハンターは既に残ってはいなかった。
その後、人類連合軍に一報が届く。
夢幻城崩城――既に城としての機能を失ったその拠点は、乱入したアイゼンハンダーの指示で城主ジャンヌを含めすべての歪虚が撤退し、事実上北の地へと陥落した。
最低限の戦力でこの功を成したハンター達の存在は、劣勢相次ぐ連合軍へと確かな希望の旗を打ち立てていたと言う。
その日の夢幻城は喧騒と混乱に包まれていた。
大規模な撤退戦を見せた人類軍による間髪入れずの転進。
今成し遂げなければならない標的を前にして、命を賭してハンター達は城へと攻め入る。
「時間が掛かればそれだけ不利となる……各々、自身の目的を最優先に行動してください!」
銀 真白(ka4128)ら数多のハンター達が食って掛かる敵の群れへと刃を切り込む。
真っ先に群れて来た骨の戦士を相手に刀を振るえば、飛びかう骨身が砕け散り、黒い霧となり霧散する。
「西の地に住まうモノノケ達よ、銀真白とこの「骨喰」が相手となろう!」
そう豪語する真白へと骸骨たちは容赦なく群がりゆく。
直後に彼女の背後から巨大な火球が燃え上がり、押し寄せるスケルトンへ飛翔、そして爆ぜた。
「こんな私でも、なにか力になれる事があるはず……」
火球の主・アシェ-ル(ka2983)は、深めに被った帽子をぐっと押さえてふと視線を逸らす。
が、すぐに目線を眼前の敵の群れへと合わせると、頭上に新たな火球を練り上げていた。
先制の一石を投じた城内で、ハンター達は大きく2つの方向へと別れ出る。
一方は飛行核を破壊する任を背負い。
一方は城主ジャンヌを探し出し、その撃破に臨む。
「それじゃあ作戦通り、あたしたちはこのまま敵を引き付けに走るわ。少し派手な城内コンサート、お披露目しようじゃない」
通路を塞ごうと歩み来る大型怠惰の脚部を氷弾で凍てつかせながら、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は真白とアシェールをクイと顎を振って呼びかける。
敵の群れの中を駆け抜けてゆく仲間たちを後目に、城内に斬撃音、爆砕音、銃声、そして破砕音が爆音のライブ会場の如く響き渡っていた。
●
塔を目指すハンター達は、先の偵察で露呈した道筋を辿るようにして迷いなく城内を駆け巡っていた。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁッ!!」
機杖の先から付き伸びた巨大な炎の刃を掲げ、飛び込む勢いのまま眼前の歪虚の壁へと振るったクレール(ka0586)。
敵も重要なものがこの先にある意識はあるのか、入り口のそれよりもより厚く、より激しい抵抗がハンター達の一団を襲っていた。
「良い気迫ね。あたしも熱くなってしまいそう」
クスリと妖美な笑みを浮かべたドロテア・フレーベ(ka4126)の鞭が、行く手を阻む首なし騎士の剣を絡め取り、その動きを封じる。
間髪入れずにクレールの光刃がそれを串刺して、鎧は糸が切れたようにバラバラに散っていった。
その時、不意にルスティロ・イストワール(ka0252)がその表情を曇らせた。
絶えず耳を澄ましていた彼は、警戒すべき敵の足音を喧騒の中に探していた。
「……もう少し待ってくれれば良かったものだね。来るみたいだよ!」
直後に飛来した数多の針がハンター達の頭上に降り注ぐ。
咄嗟にリュー・グランフェスト(ka2419)が頭上高く盾を掲げて、仲間への直撃を弾く。
その一撃を挨拶代わりに、歪虚の群れの頭上を飛び越えひらりとハンター達の眼前に舞い降りた影。
「いらっしゃい。今日も沢山遊びましょ」
ぺこりとお辞儀をしたルチアは身を起こすと同時に腕を大きく振り上げると、掌から放たれた2対の刃がハンター達へと放たれていた。
「リベンジしたい所だけど、今はそれどころじゃなくってね……!」
ルスティロは障害物を飛び越えるように刃をかわすと、そのままわき目も触れずに足を速める。
その言葉にルチアは不満げな表情を浮かべて見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻ると一気に最大速でハンター達の背後に迫る。
瞬く間に凶刃が喉元まで迫ろうかというその時、1人の影がルチアへ向かって飛び込んでいた。
ルチアは影の主――七葵(ka4740)へと視線を絞ると、掌を突き破って飛び出した刃を剣代わりにして突きつける。
「まずはあなたが遊んでくれるのね?」
七葵はその一撃を受け止めると、そのまま刀を担ぐように受け流し、勢いのままルチアの懐にぶち当たった。
渾身の体当たりを受けて、敵はスケルトンの群れをなぎ倒しながら吹き飛んで行く。
「七葵さん!」
ローエン・アイザック(ka5946)が叫ぶ。
七葵は勢い余って倒れ込んだ身体を静かに起こすと、背後の仲間達を振り返らずに声を張り上げた。
「行け……ッ!」
たった一言。
それが仲間たちの背を後押しし、僅かに残った罪悪感を一刀に断ち切って見せる。
遠ざかってゆく足音を背に受け、七葵は起き抜けを狙って来た骸骨をその刃で打ち砕く。
そのまま刀を柳に構えると、地を駆けたルチアの嘲笑をその瞳に映し出していた。
「ジャンヌ奴は、一体どこにいるのじゃ……?」
前方を遮るアンデッド群へと稲妻を走らせ、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は答えの出るか分からない問いを呟いていた。
「分かりやすい目印でもありゃいいんだが、流石にそれは高望みか?」
返す言葉に笑みを浮かべるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)であったが、不意に一団の脚がぴたりと止まった。
「――ここだ」
ひときわ大きく、豪奢な扉の先。
その先から放たれる巨大な重圧。
間違えはしない、エリス・ブーリャ(ka3419)は高揚とも嫌悪とも言い難い複雑な表情を浮かべていた。
息を吐く間もなく、大地を揺るがす怠惰兵の足音がすぐ背後に響き渡る。
迫る敵影を前にヴィルマ達は反転、踵を返し始めた。
「あやつらの相手は我らが引き受ける!」
フラメディア・イリジア(ka2604)の抜き放った得物が、壁に並んだ燭台に照らされて雄々しく煌いていた。
「ここは任せよう。こちらはこちらの出来る事を、じゃ」
紅薔薇(ka4766)は背負った太鼓を小脇に抱えると、戦場のただ中である事などお構いなしに激しく強く打ち鳴らしてみせた。
音に釣られて敵が集まってくるような気配とは別に、反応は、思ったよりもすぐに表れる。
「――伏せるのじゃ!」
叫ぶ紅薔薇の言葉と共に一斉に扉から離れるハンター達。
直後、分厚い石造りの扉を撃ち砕いて、一本の灼熱の光線が回廊へと突き刺さっていた。
「行きます、後ろは皆さんに任せました」
「分かりました……一気に行きましょう」
粉塵晴れぬ中、キヅカ・リク(ka0038)のバイクが派手な駆動音を吹かして部屋の中へと突貫する。
間髪入れずに天央 観智(ka0896)が室内へと向かって走らせるマテリアル。
その力によって構築された鉱石の壁が、突貫するリクの姿を遮るようにそびえ立つ。
「思いきりがいいのは嫌いじゃないわ」
慌てた素振りなく歩み寄るフランカ、そして奥に寝そべるジャンヌの姿を一瞬視界に収めて、ハンター達は部屋の中へと転がり込む。
そして観智の作り出した壁に身を隠すように肩を付けると、一斉に懐の爆弾へと火を走らせた。
「思いっきりが良いだけではありませんよ……!」
一瞬で確認した敵の位置を頼りに、壁の内から放るヴァルナ=エリゴス(ka2651)。
他の者のそれも次々戦場に弧を描き、部屋の中に大きな爆炎と爆風が広がる。
その衝撃にフランカは思わず身を構え、先を行くリクもバイクを急旋回させ一時部屋の隅に難を逃れるが、すぐにスロットルを捻り上げて撒きあがる粉塵を掻き分ける。
そんな爆煙の中、1つの影が空を舞い踊っていた。
映画顔負けの大ジャンプを見せ、戦場を舞う男――紫月・海斗(ka0788)。
「ハイハァーイ! 来たぜ、突撃ジャンヌちゃん!」
雄たけびにも似た声を上げ、世紀の大ジャンプは綺麗な放物線を描きながら、爆発で煤けたジャンヌのベッドへと飛び込んでいた。
唖然とするハンター達の前で、海斗はキラリと歯を光らせると、間髪入れずにジャンヌの身体へと手を伸ばす。
「ヤル気、出させてみよーじゃねーの!」
ワキリと指を蠢かせて伸びる腕。
その指先がふくよかな山の頂に触れようとするや否や――目に見えぬ、それでも確かな力が城内を駆け巡った。
うめくような声を上げ、力無くベッドの上にへたり込む海斗。
否、戦場に居る者達も次々と、まるで生気を失ったかのようにその場に倒れ伏してゆく。
壁の向こうで動けなくなっているハンター達へ、フランカはゆったりとした手つきで両の手を重ね合わせる。
次第に何も考えられなくなってゆく意識の中で、彼らは最大の誤算を痛感していた。
ジャンヌの力とは視界によるものではないと言う事を。
心身が怠惰に満たされると同時に、放たれた熱線が壁を易々と打ち砕いてハンター達を包み込むのであった。
●
螺旋状の階段を駆け上り、白金 綾瀬(ka0774)は目の前にそびえる扉をぶち当たるように開け放った。
目の前に広がった豪奢な家具に包まれた部屋の天井に、明らかに異彩を放った巨大な結晶体が浮かぶ。
鈍く暗い輝きを放つそれは、部屋の中を水底のような色へと染め上げていた。
これを破壊さえすれば――そう覚悟を決めようとした時、壁に填められたステンドグラスがけたたましい音を立てて砕け散った。
「みーつけた」
窓枠から這い出して来るルチアの姿。
鈎代わりにして壁を登って来たのであろう、掌から突き出した刃が鈍い光に照らされて艶めかしく光った。
「うおおおおおおお!!」
その存在を確認するや否や、リュー・グランフェスト(ka2419)は結晶体へと突撃していた。
単身、無策にも思えるその行為に、ルチアはこれ好機と背後に迫る。
リューは後目にそれを捉えると、大きく踏み込んだ脚で全身の勢いを踏み留まり、そのまま力任せに転進してルチアへ刃を突きつけた。
その背に炎を背負い、文字通り破竹の勢いで突貫するリュー。
その一撃はルチアの懐に突き刺さり、押し出すようにして部屋の外へと叩き出す。
「今のうちに爆弾を!」
「了解です!」
綾瀬の言葉に葛音 水月(ka1895)は大きく頷いて、懐の爆弾を取り出した。
「なんというか、本当に不思議な物体だね……」
設置作業を手伝いながらも目を輝かせて結晶体を撫で回すルスティロであったが、優先順位は弁えているようで、作業が終われば名残惜しそうながらもすぐにその場を離れる。
「起爆するわ! 備えて!」
綾瀬は1本に纏めた導火線へ着火すると、自らも床に身構えた。
直後の大きな爆発音と衝撃が部屋を大きく揺るがす。
晴れてゆく粉塵の先で……結晶体はその身に大きなヒビこそ走っていたものの、今だ健在な姿を現していた。
爆破音は部屋の外にも当然の如く響いていた。
ノーマン・コモンズ(ka0251)は僅かに視線を向けるも、自らの前に吹き飛んで来たリューの姿を目に、とっさにそれを受け止める。
「おっと、大丈夫ですか?」
「ああ……大したことは無いぜ」
血の滲んだ脚でリューは立ち上がると、入れ違いにイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が手にした銃口をルチアへと突きつけた。
「やぁ、次のお相手はこのボクだ」
「あなた、まだ壊れてなかったの? じゃあ、今度こそちゃんと壊してあげるわ」
ルチアはイルムの弾丸をひらりと宙返りで躱すと、そのまま脚部から針の雨を撃ち降らす。
無差別に放たれた嵐が後続のリューとノーマンも巻き込んで、乱れる金属音が虚空の階下まで響き渡っていた。
●
謁見室付近の回廊――唐突にその身を襲った重圧に、ハンター達はぐったりと片膝を突いていた。
「くそっ……動け! 動くのじゃ!」
吐き捨てるように自身に言いかけ、杖を支えにふらつく体で立ち上がるヴィルマ。
しかし、見上げた視線の先で巨人が大きく振りかぶった棍棒が、横薙ぎにその身を撃つ。
「ヴィルマ!」
撃ち飛ばされ壁に叩き付けられた仲間に駆け寄ることもできず、それでもとグリムバルドは脳細胞を掻き毟るようにしてマテリアルを練り上げる。
放たれた光線が巨人を穿ち、その意識を自分へと向けるのが今の彼にできる精一杯であった。
振り上げられた巨人の鈍器。
頭などスイカのように砕け散るであろうその一撃が迫った時、ふっと、全身の気だるげな感覚が抜けてゆくのを彼らは感じていた。
咄嗟に床を転がるようにして一撃を躱す。
目標を見失って大地に打ち付けられたその一撃の先、空いた懐に紅い影が潜り込んだ。
「これはヴィルマの礼じゃ」
振りかぶったフラメディアの大斧が一息で巨人の脚を吹き飛ばす。
支えを失った巨人は、ぐらりと大きくその身を揺らして周りの小型の歪虚達を押しつぶすようにして回廊へと横たわっていた。
唐突に表れた壁に、後続の歪虚達は地団太を踏む。
そうしてできた吹き溜まりへどこからともなく現れた火球が飛び込み、爆ぜた。
それは大勢のスケルトンや首なし騎士の核を焼き払い、一撃にしてその存在を霧散させていた。
「礼とは大層な……我はまだやれるぞ!」
壁を背に、ふらりと立ち上がり杖を掲げるヴィルマ。
額を血で真っ赤に染めながらも、その絶やさぬ闘志を炎へ変える。
「ふふ、どうやら過払い分は自分で回収してくれるようじゃ」
新たに放たれた火球と共に、ハンター達の剣閃が戦場に舞っていた。
「核の破壊はまだ終わらないのかしら……?」
上階の居室を見上げ、ドロテアは小さく呟いていた。
螺旋階段の途中に陣取り、上り来る敵を相手にしていたハンター達。
狭さの利を生かし、時間を稼ぐ事だけならば最上の立地であった。
押し寄せる烏合の敵を火剣の一振りで薙ぎ払ったクレールが、腰のトランシーバーへと意識を向ける。
「連絡は無いですね。それにあの様子では――」
時折響く上階の剣劇音は、おそらく仲間達がメイドと戦っている音。
「とは言え、こちらもそう長くは持ちません。不甲斐ない話ではありますが……」
後方で仲間の補助に徹していたローエンであるが、前衛2人ですべての敵を抑えなければならない以上、必然的に自らの身は自らで守らなければならない。
道中の消耗もあり、まだハンターとしての場数を踏み切れていない彼にとっては困難な消耗戦だ。
それでも自分にできる事をと、一度身を引いたクレールの傷を彼の魔術が応急処置的に癒す。
代わりにドロテアが一足敵陣に飛び込み、かく乱し、その意識をも乱す。
「攻め方が怠慢になって来たわね……向こうさんはもう勝った気でいるのかしら?」
体勢を崩されつぶさになった敵を前に、ドロテアは一転翻ると、その背後から掲げたクレールの機杖が光を放つ。
「蟻一匹、通しはしないんだぁぁぁぁぁぁ!!」
放たれたマテリアルの刃がばらけた敵を個別に穿ち、そのまま後続を押し倒す。
どれだけ消耗戦となろうと戦う意志さえ残って居れば、倒れるその時まで剣は振れるのだ。
●
時は少し遡り――謁見室のハンター達は今だ床に這いつくばっていた。
「ねぇ……これ、どけてくれないかしら?」
ジャンヌはそう問いかけるも、フランカは聞いているのかいないのか、力ないハンターを掴んで人形遊びに興じていた。
聞く耳持たぬと判断したのか、もう一度ベッドの異物に視線をやって、ゆらりと右手が海斗の手首を掴む。
瞬間、呪縛が解けたようにハンター達の意識が回復。
寝耳に状況は分かっているのか、それぞれ武器を手に散開し、フランカへと飛びかかった。
真っ先に懐に飛び込んだ和泉 澪(ka4070)の一閃をフランカは腕をクロスして受けて見せたが、彼女はそのまま尚も一歩を踏み込んで抑え込む。
「エリスさん、今です!」
叫んだその上空で、マテリアル光を靡かせてエリスが舞った。
「てめぇは邪魔だ……!」
放たれた雷撃がフランカの四肢を貫く。
抑えたか――そう願った最中、フランカは稲妻の中で小さく笑みを浮かべると弾くように澪を突き飛ばす。
「このビリビリ、とっても気持ちがいいわ」
そう口にして、迫った2人へ放つ熱線。
咄嗟に左右に分かれてそれを回避するも、先に負った火傷がズキリと身に染みていた。
「――い、いででで!」
ジャンヌの細い腕に掴まれ、軽々しく持ち上げられた海斗の身体。
そのまま投石でもするかのように彼の身体を頭上でぐるりと振り回すと、一思いに投げ飛ばす。
まるで砲弾の如く加速を付けた海斗は石の壁に頭から突っ込んで、そのままぐったりと動かなくなってしまった。
「やったな……!」
体勢を立て直してリボルバーの引き金に指を掛けるリク。
受けた銃弾で小さな青あざの出来た腕をジャンヌは気だるげに眺める。
間を置かず、空を切る矢羽が唸り、数本の矢がベッドへと突き刺さる。
謁見室の柱の影から弓を引いたカナタ・ハテナ(ka2130)の憐れむような視線がジャンヌの姿を射抜いていた。
「寝てばかりの怠惰な人生とはつまらなそうじゃな……意味の無い生じゃろう」
矢先に松明を括り付けたお手製の火矢。
煌々と燃え盛る炎は柔らかなジャンヌのベッドを包み込んで、やがてもうもうと黒煙を巻き上げた。
「……どうしてみんな、私から何かを強いるのかしら」
大きく1つため息をつき、ジャンヌがゆらりと身を起こす。
焼け落ちて行くベッドを背に聳えるジャンヌの長身が、濡れた瞳でリクを見下ろす。
「私はただ――何もしたくないだけなのに」
大きく振り上げられた平手。
リクは咄嗟に覚悟を決め、手にした盾で身構えていた。
●
踊り場での戦いは一進一退の体を示していた。
仲間達が核を破壊するまで部屋への道だけは死守する。
「そんなに飛び跳ねたいのなら――」
敵の機動力を見かねたノーマンが、火を放った爆弾を放り投げていた。
ルチアはひらりと飛び上がって悠々回避して見せるが、地に足を付くその瞬間、ノーマンの鉄糸がその軸足を絡めとる。
「あらら?」
「頂きましたよ、その機動力」
見出した好機に、リューは再び爆炎を背負いルチアへと切っ先を穿つ。
激突の反動ですぽんと脚の抜けたルチアの身体はもんどりうって踊り場を弾け飛び、そのまま階段の吹き抜けへと飲まれて行ってしまった。
「おっと……やりすぎたか?」
足元から摩擦で生じた白煙を棚引かせながら、リューは大きく肩で息を吐く。
「彼女があれでやられるとは思えないけど――」
そう言い放ったイルムは階下の虚空へと視線を落とす。
その時、虚空へと続く踊り場の縁にひび割れた小さな指が音を立てて突き立ったのである。
その背後――私室では、結晶体相手にハンター達による必死の抵抗が続いていた。
「離れてください、こいつをぶち込みます!」
そう前置いて水月が掲げるのは、自らよりも1回りも回りも大きなパイルバンカー。
ユニット向けの装備を全身の力を振り絞って支え、構え、狙いを付ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
大地を蹴り上げ勢いを乗せ、切っ先を結晶体に殴打。
大砲のような炸裂音と共に打ち出された杭が、大きな結晶体を揺るがした――がしかし、まだ足りない。
「もう一度行こう!」
パイルを一度地面に取り落とした水月に代わり、ルスティロの刃が大きく開いたひび割れに突き込まれた。
威力は申し分ない。
あともう一押し。
「この機会を逃すわけにはいかないのよ、だから……狙い撃つわ!」
綾瀬はパイルに穿たれた大きな穴に狙いを定めて、銃弾を収束させる。
ここまで送り届けてくれた仲間のためにも、この任務だけはしくじるわけにはいかないのだ。
「そう……音を上げるわけには、いかないんですよね」
炸裂の反動で、もはや腕に感覚は無い。
それでも意地と気力で水月はその切っ先を掲げ上げる。
「――割れろぉぉぉぉぉッ!!」
突貫。
腕の感覚が無い事を良いことに激しい反動を無視して、ただ渾身を叩き込む。
乾いた音を立てて、表面を駆け巡るように走った数多のひび。
放出される硝煙のその先に、核は夜空に散らばる星屑のように砕け散ったのである。
「イルムさん……!」
真っ先に気づいたのはノーマンであった。
釣られてイルムが振り返るよりも早く、虚空よりルチアの身体が飛び上がる。
「あらあら壊しちゃったのね。じゃあ私も壊さなきゃ」
彼女は愉し気な笑みを浮かべると、手近なイルムをその手に抱きとめる。
「情熱的なアプローチは嫌いじゃないよ」
「なら、どうお返事をしてくれるの?」
カタリと首を傾げるルチアに対し、イルムは微笑み欠けて手にしたレイピアを彼女の身体へ突き立てる。
「これがお返事さ」
「そう」
貫いた刃をものともせず、服を突き破って全身の暗器を一同に展開するルチア。
数多の刃を一身に受け、夥しい量の鮮血が踊り場を舞った。
それでもイルムは絶やさず笑みを浮かべると、逆にルチアの事を抱き留めるように寄り添い、そっと頬に紅い口づけを落とす。
刹那、何をされたかも分からず惚けたルチアの身体がぐらりと揺れた。
イルムが彼女を抱えたまま踊り場の地面を蹴ったのだ。
虚空に舞う、2人の姿。
「馬鹿な真似を……ッ!」
咄嗟に飛ばしたノーマンの鉄糸がイルムの脚を絡め取る。
細いワイヤーでその身体を吊り上げ、一方のルチアは再び闇の中へと飲まれてゆく。
虚空を頭上にしてイルムは拳銃を抜き放って、落ちてゆく彼女へと銃口を向けていた。
「――アデュー、ルチア君」
弾丸が、寄り添った際に服に仕込んだ爆弾の信管を打ち抜く。
遠い螺旋の底で、真っ赤に咲いた一厘の花がイルムのモノクルを音も無く照らしていた。
●
「――このめんどくささは自分のもの? それとも敵の力のせい?」
謁見室の柱の影。
息を潜めて戦況を見守り続けたショウコ=ヒナタ(ka4653)は自問するように吐き捨てていた。
再び高まりかけた感染はリクの献身と引き換えに抑えられ、調子は比較的安定している。
問いの答えは出るわけが無かったが、今はただ、魔導銃の照準を目標へと定めて機を伺うのみである。
「リクさんはあとどの程度持つのでしょう……!?」
ショウコの見つめる戦場で、観智はハットから覗く縋るような視線を仲間の下へと走らせた。
戦う能は無いのか、あまりに隙だらけで所作もなっていないジャンヌの攻撃。
それでも怠惰自慢の有り余るパワーとプレッシャーを持って、ただ独り防勢に走るリクを圧倒する。
「ちとまずいの……流石に治癒も追いつかんか」
戦線を引いて仲間の治療に終始するカナタもまた、口惜しそうに奥歯を噛みしめた。
先制の一撃で受けた大きなディスアドバンテージが、力の配分を大きく狂わせてしまった。
一撃をもろに喰らえば倒れる――一本綱を渡るような戦いがハンター達には強いられていた。
「綱を踏み外す事を恐れていたら……!」
奮い立たせるように叫び、フランカの懐へ飛び込む澪。
振り下ろされた刃を敵は半身退いて躱すと、そのまま澪の胸に重ねた手を押し付ける。
「一瞬で済むから心配しないでね?」
至近距離で放たれる熱線。
脳の処理能力をはるかに超えた激痛が澪を襲う。
「……一度踏み外せば、後は意外と怖くないものですよ?」
朦朧とする意識の中、彼女は残る力でフランカの身体を羽交い絞めにする。
そして、はじめそうしたように対角へ回ったエリスの雷撃がフランカの四肢を再び貫いた。
「もう一度、くらえぇぇ!!」
その身を駆け巡り、帯電する稲妻。
2度目の雷撃は、確かにフランカの四肢の自由を奪っていた。
「その腕……頂きます!」
「こちらは妾が頂くかのう」
刹那、飛び込んだヴァルナと紅薔薇の刃が一刀の下にフランカの両腕を切り飛ばす。
「私の手……っ!」
麻痺から解放されたフランカは澪の身体を膝蹴りで弾き飛ばすと、とんと地面を蹴って大きく宙を舞って離脱を測った。
待ち望んだその瞬間に、ショウコの眼光が鋭く光る。
「そこだ……ッ!」
放たれた銃弾は戦場を切り裂き、宙を舞うフランカの片足を貫いた。
「嘘――」
みるみる凍り付いてゆく着弾部。
着地と同時に氷と共に砕け散ったその脚に、軸を失いふらついた彼女の胸部を、瞬く間に鋼の刃が穿つ。
刃は淡い剣閃を戦場に残し、貫いた勢いのままに、フランカの身体を壁に貼り付けていた。
「この一撃だけは……意地でも貫かせてもらうのじゃ」
刃の柄を握る紅薔薇は送る言葉のようにそう言い残す。
「素敵だわ。痛みを感じない事が、どれだけ惜しい事かしら」
フランカは、自らを貫いた刃を失った腕で撫でながら乾いた笑みを浮かべる。
「お礼代わりに……私も奥の手、見せてあげる」
紅薔薇はその目を見開いていた。
フランカの腕が、まるで新たな物質が形成されてゆくかの如く再生してゆくのだ。
重ね合わせたその掌に、紅薔薇は咄嗟に身を翻す。
「今日一度っきりのトクベツよ?」
直後、放たれた熱戦が彼女の肩を貫いていた。
転がるように崩れ落ちる紅薔薇。
それを艶めかしい視線で見届けて、フランカもまた壁に寄り添い動かなくなった。
「早く帰ってくれないかしら……?」
大きなため息とともに、ジャンヌの平手がリクの盾に降りかかる。
盾で受けてなお骨身に染みる衝撃を前に、リクはついに片膝を突いていた。
「できないね……耐える事が、俺の役目だから」
「そんなの……荷物になるだけじゃない」
ジャンヌの真珠のような素足が、膝を突いたリクの頭上から音を立てて迫る。
大砲の一撃と見まごうそれについに盾は耐えきれず、砕け散ると、そのままリクの身体へ深々とめり込んでいた。
目の前で動かなくなった相手を見て、ジャンヌは天を仰ぎ見て虚ろな瞳を静かに閉じる。
そんな彼女へとエリスが一転、残る力を振り絞って地面を蹴り上げると、ブーツの先からマテリアル光を棚引かせて一気にその距離を詰めた。
「終わらせる! てめぇの悪夢も、全部全部! ここで!」
完全に棒立ちの相手に狙う必要もなく突きつけられた機杖。
収束したマテリアルに全ての願いを込めて、機導砲は撃ち放たれた――
●
――暗い石畳の上で、ルチアは身を震わせるようにうごめいていた。
その身体は爆発の衝撃でその大半が吹き飛び、腕、足、そして胸から下をそっくり失った異質な姿であった。
動かなきゃ――その意思に呼応して、破面が修復を始める。
が、たいして修復しきらぬうちにその力も尽きてしまった。
「くすくす……ごめんねフランカ。失敗したみたい」
乾いた笑みが塔の底に細く響く。
自らの最期を悟ったその時、暗闇に煌く漆黒の炎の姿がその瞳に映り込んでいた。
弾丸の如く自らの前へと降り立ったその影は、纏っていた黒炎の翼を大きく広げ上げるとその蒼白の手を差し伸べる。
「意識があるのなら案内していただきたい。私を、ジャンヌ兵長の下へ――」
生前、思い描いていた神の使いとはこのような姿であったのだろうなと。
その時のルチアの脳裏には遠い日の記憶が微かに走り抜けていた。
●
「――本当に、やったんですね!」
トランシーバーから響いた通信を耳に、アシェ-ルの声が上ずった。
「核の破壊、成功したみたいです!」
口伝えに仲間に知らせたその報に、彼女は肩の荷が下りたようにほっと胸を撫で下ろしていた。
「どうやら、それだけじゃないみたいよ」
捲れた床板を盾に銃撃戦を続けるケイの足元で、通信機へとノイズが走る。
響いたのは聞きなれぬハンター達の声――外からの増援が到着したのだ。
「護るべき物は墜ち、形勢も変わった……それでも戦う意志のある者は、私が相手となろうッ!」
勝利へと導かれてゆく城内の空気に今一度士気を高ぶらせ、真白は今一度歪虚達へと啖呵を切った。
「嫌いじゃないわ。最後に熱く激しいロックン・ロール、聞かせてやりましょう」
「は、はい! 全員で帰るまで、私、頑張ります!」
ケイの言葉に終始おどおどとしていたアシェ-ルもついには覚悟を決めて、迷いの薄れた瞳でマテリアルを放出する。
対する歪虚達はその意気に圧され始め、次第に逃げ腰の体を示していた。
勝利は、その目に見えつつあった。
静まり返った謁見室に、エネルギーの弾ける音が木霊する。
術を放ったエリスは思わず、その光景をただ呆然と眺めていた。
機導砲を弾いた金属の腕。
その持ち主は見慣れぬ黒炎の翼を広げて、ジャンヌへと略式的な敬礼を示す。
「遅くなってしまい申し訳ありません。直ちに、ここから離脱します……失礼!」
その鉄腕でジャンヌの巨体を担ぎ上げたアイゼンハンダーは、もう一方の腕で壁際のフランカへと棒状の何かを放る。
「私の脚――フランカには合うかしら?」
無残な姿となったルチアの言葉にフランカは静かに瞳を開け、手にした脚を自らの腰に宛がうようにはめ込む。
そして立ち上がり、とんとんと飛び跳ねみせると満足げな微笑みを浮かべた。
「参りましょう。私はこの通り両手が塞がっておりますので、道中の援護を頼みます」
アイゼンハンダーは少女の手でルチアの身体を掴みあげると、そのまま翼を大きくはためかせる。
「逃がすとお思いですか!」
残しておいた力を振り絞って、一息に間合いへと迫るヴァルナ。
しかしその眼前に、脚を取り戻したフランカが割り込んでいた。
「残念、もう時間切れなの」
言いながら蹴り上げた「ルチアの脚」から放たれた太い針がヴァルナに迫り、咄嗟に厚い刃を盾にそれを防ぐ。
その視界を遮られた一時の間に、亡兵は高く飛び上がっていた。
「今回のゲームはあなたたちの勝ちね。おめでとう」
そう言い残したフランカの熱線で分厚い城の壁を破壊し、極寒へと飛び出して行く歪虚の将達。
その姿を追うことのできるハンターは既に残ってはいなかった。
その後、人類連合軍に一報が届く。
夢幻城崩城――既に城としての機能を失ったその拠点は、乱入したアイゼンハンダーの指示で城主ジャンヌを含めすべての歪虚が撤退し、事実上北の地へと陥落した。
最低限の戦力でこの功を成したハンター達の存在は、劣勢相次ぐ連合軍へと確かな希望の旗を打ち立てていたと言う。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 21人 |
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ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
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MVP一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/22 14:10:00 |
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【殲滅】相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/23 11:02:53 |
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【核】相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/23 00:09:32 |
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【城主】相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/23 09:54:32 |
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/22 23:49:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/20 08:04:15 |