ゲスト
(ka0000)
【初夢】とある田舎の餅つき事情
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/04 22:00
- 完成日
- 2016/01/09 17:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●冬空の下で
「もう! やっとの思いでハンターになったってのに、やっぱりこの時期は村に戻るしかないわけね……夢オチだったらいいんだけど」
ぼやくリタの願いは、案外的を射ていたりする。
「お姉ちゃん、そっちじゃないわ」
相変わらずリタの手綱を握っているのは、妹のエマ。
姉妹は、雪のちらつくこの時期に故郷の村に戻ってきていた。辺りはすっかり雪に覆われ、近くの森の木々は雪の花を咲かせている。この地域、これから数ヶ月は雪に閉ざされる。
長い冬を乗り切り、春を迎えるための準備をするため、彼女たちは村長に呼び戻されたのだ。
「お姉ちゃん。あの屋根見えてる? ……って、そっちに行ったら……っ!」
ズボバシャンっ!
「いきゃあぁあっ!? 冷たっ!」
例のごとく道を逸れたリタは、深雪に足をとられて滑り落ちるようにすっ転び、ご丁寧に薄氷の張った小川に尻餅をついた。
「だから言ったのに……もう、ほら、掴まって」
「ううう~……最悪」
濡れた衣服に大量の粉雪を纏いつつ、なんとか村へと戻ってきた二人。その背中には大量の薪。リタの手には弓矢もあるが、成果は挙げられなかったようだ。
「新鮮なお肉が欲しかったなぁ……」
「お肉なら村のおばちゃん達が買いそろえてくれるよ。それにしても、ほんと好きだよね、あれ」
「だって美味しいじゃない! 醤油ベースのスープ、煮込まれた柔らかい千切りタマネギに味の染み込んだお肉! スープに絡まったつきたてのお餅がトロトロと……! あたし発案の『肉餅』は最高だと思わない?」
「確かに美味しいよね。……そのネーミングはどうかと思うけど」
台詞の最後はリタには聞こえなかったらしい。ぶつぶつうっとり、肉は豚バラ肉がいいのよ、なんて肉の種類まで語り出した。
テンションをおかしい方向に上昇させるリタ。事前準備の段取りを確認しながら、リタの手綱を取るエマ。
二人は村長の家の裏手、ちょっとした大きさの小屋にやって来た。以前ここで暮らしていたと聞いたことがある。
「相変わらずね。ちょっとこのへっつい、ちゃんと燃えるのかしら」
古風な呼び名は昔から村長が使っていたもので、幼い頃から微妙な訛りを訛りと知らずに覚えてしまった結果でもある。『へっつい』という呼び名は地域によるらしいが、姉妹の場合は落語好きな村長の影響が大きいようだ。一般的には『かまど』と言うのだろうか。
先代村長の手作りで、石のブロックを積み上げて、継ぎ目は粘土質の泥で塗り固めてじっくり乾燥させて作ったものだ。後ろの壁を突き抜けるように、外に向かって煙突が据えられている。……これがよく詰まるのだ、困ったことに。
丸くくり抜かれた上部分には、年季の入った釜がすっぽりと収められている。今は蓋をしてあるが、明日にはこの上に大きな四角い蒸篭が積み上げられ、餅米を蒸かすのだ。
へっついの傍には石臼と杵。その他必要な道具類が積み上げられている。
お分かりだろうか。彼女たちが何故、村に呼び戻されたのか。
「年に一度の恒例行事だもんね。頑張らなきゃ」
「つきたてのお餅は最高よ! あたしも相取り頑張るわよ!」
エマもリタも、気合いを見せる。——そう、餅つきだ。因みに『相取り』とは、つき手の横で餅を捏ねたり、つき具合を確認したりする重要な役割だ。……二年程前から、リタも相取りをさせてもらえることになっているのだが、それが楽しみらしい。
エマはもっぱら外回り担当。道具を洗うのは勿論のこと、餡を包んで『あんころ餅』を作るのがメインになっている。
「たまには違う食べ方もしてみたいけど……」
「そうだね、色んなアイディア聞きたいね」
餅つきをするのは、基本的に室内。人の出入りがあるので、ドアは広く開け放たれているが、たとえ外が吹雪でも支障はない。
明日はテーブルやカセットコンロを並べて、一日お祭り騒ぎになるだろう。一年の締めくくり、良い年を迎えられるように。
「もう! やっとの思いでハンターになったってのに、やっぱりこの時期は村に戻るしかないわけね……夢オチだったらいいんだけど」
ぼやくリタの願いは、案外的を射ていたりする。
「お姉ちゃん、そっちじゃないわ」
相変わらずリタの手綱を握っているのは、妹のエマ。
姉妹は、雪のちらつくこの時期に故郷の村に戻ってきていた。辺りはすっかり雪に覆われ、近くの森の木々は雪の花を咲かせている。この地域、これから数ヶ月は雪に閉ざされる。
長い冬を乗り切り、春を迎えるための準備をするため、彼女たちは村長に呼び戻されたのだ。
「お姉ちゃん。あの屋根見えてる? ……って、そっちに行ったら……っ!」
ズボバシャンっ!
「いきゃあぁあっ!? 冷たっ!」
例のごとく道を逸れたリタは、深雪に足をとられて滑り落ちるようにすっ転び、ご丁寧に薄氷の張った小川に尻餅をついた。
「だから言ったのに……もう、ほら、掴まって」
「ううう~……最悪」
濡れた衣服に大量の粉雪を纏いつつ、なんとか村へと戻ってきた二人。その背中には大量の薪。リタの手には弓矢もあるが、成果は挙げられなかったようだ。
「新鮮なお肉が欲しかったなぁ……」
「お肉なら村のおばちゃん達が買いそろえてくれるよ。それにしても、ほんと好きだよね、あれ」
「だって美味しいじゃない! 醤油ベースのスープ、煮込まれた柔らかい千切りタマネギに味の染み込んだお肉! スープに絡まったつきたてのお餅がトロトロと……! あたし発案の『肉餅』は最高だと思わない?」
「確かに美味しいよね。……そのネーミングはどうかと思うけど」
台詞の最後はリタには聞こえなかったらしい。ぶつぶつうっとり、肉は豚バラ肉がいいのよ、なんて肉の種類まで語り出した。
テンションをおかしい方向に上昇させるリタ。事前準備の段取りを確認しながら、リタの手綱を取るエマ。
二人は村長の家の裏手、ちょっとした大きさの小屋にやって来た。以前ここで暮らしていたと聞いたことがある。
「相変わらずね。ちょっとこのへっつい、ちゃんと燃えるのかしら」
古風な呼び名は昔から村長が使っていたもので、幼い頃から微妙な訛りを訛りと知らずに覚えてしまった結果でもある。『へっつい』という呼び名は地域によるらしいが、姉妹の場合は落語好きな村長の影響が大きいようだ。一般的には『かまど』と言うのだろうか。
先代村長の手作りで、石のブロックを積み上げて、継ぎ目は粘土質の泥で塗り固めてじっくり乾燥させて作ったものだ。後ろの壁を突き抜けるように、外に向かって煙突が据えられている。……これがよく詰まるのだ、困ったことに。
丸くくり抜かれた上部分には、年季の入った釜がすっぽりと収められている。今は蓋をしてあるが、明日にはこの上に大きな四角い蒸篭が積み上げられ、餅米を蒸かすのだ。
へっついの傍には石臼と杵。その他必要な道具類が積み上げられている。
お分かりだろうか。彼女たちが何故、村に呼び戻されたのか。
「年に一度の恒例行事だもんね。頑張らなきゃ」
「つきたてのお餅は最高よ! あたしも相取り頑張るわよ!」
エマもリタも、気合いを見せる。——そう、餅つきだ。因みに『相取り』とは、つき手の横で餅を捏ねたり、つき具合を確認したりする重要な役割だ。……二年程前から、リタも相取りをさせてもらえることになっているのだが、それが楽しみらしい。
エマはもっぱら外回り担当。道具を洗うのは勿論のこと、餡を包んで『あんころ餅』を作るのがメインになっている。
「たまには違う食べ方もしてみたいけど……」
「そうだね、色んなアイディア聞きたいね」
餅つきをするのは、基本的に室内。人の出入りがあるので、ドアは広く開け放たれているが、たとえ外が吹雪でも支障はない。
明日はテーブルやカセットコンロを並べて、一日お祭り騒ぎになるだろう。一年の締めくくり、良い年を迎えられるように。
リプレイ本文
●
「うん、良い天気! 餅つき日和ね!」
ドアを広々と開け放ち、仁王立ちのリタが元気のいい声を張り上げる。
彼女たちが餅つきの準備をしたのは、天井も壁もある室内。充分な広さがあり、集まった人数でわいわい作業をしても差し支えはないだろう。……若干の隙間風はご容赦願おう。
開け放たれたドアの向こうから、続々と集まって来る人たちの姿が見えた。
「おはよう……ございます……」
天候に関わらず傘を持ち歩く彼女は、外待雨 時雨(ka0227)。
「いらっしゃい!」
元気な声で迎えているのは、その場に未だ同じ姿勢で立っているリタ。彼女流の歓迎の仕方らしい。
「……餅つき……。話に聞いたことは、ありますが……。目にするのは……初めて、ですね……」
「おはようございます、音羽 美沙樹と申しますわ。よろしくお願いしますわね」
時雨に続いたのは凛とした声。音羽 美沙樹(ka4757)だった。
「お、お早うございます! よろしくお願いします!」
リタとは対照的に、礼儀正しく腰を折って挨拶するのは妹のエマ。彼女はテーブルに片栗粉やカセットコンロ、家で作ってきた肉餅用のスープ、餡子などを並べている最中だ。
美沙樹の後ろからリュックが歩いて来る。……いや、失礼。リュックを背負ってとてとてと、ディーナ・フェルミ(ka5843)も到着した。
「つきたてのお餅を食べさせて貰えるって聞いて手伝いに来たの。おうちの方は?」
姉妹にとって思いもよらない質問だった。
「おうちのかた……お家の方? ああ、いないわ!」
「えっ?」
「私達が小さい頃に、放浪の旅に出たまま帰って来てないんですよ。この村の人達が私達の家族です」
お皿を山積みにしながら、エマがさらりと答えた。
「石臼って言われて碾き臼かと思ってすっごくハテナだったの。そっかぁ、うちじゃ木だったけど、よく考えたらこれのことも臼って言うね? うちではできたお餅買ってきて、焼いてからいろいろ味付けしたの。自分でお餅搗くってなんだか新鮮なの」
隙間風吹く部屋のど真ん中に、台に置かれて少し高さを増した石臼が据えられている。それを見て興味津々なのはディーナだ。……因みに、この家で古くから使っていた石臼は、底が平らで地面との接触部分が広く、お椀のような形をしている。
「あ、あとのお二方も見えましたね」
エマが視線を向ける先にはユリアン(ka1664)とルナ・レンフィールド(ka1565)。
「おはよう、今日はよろしく。つきたてのお餅って、とても柔らかくて美味しいって聞いたことがあるよ」
「美味しく食べるために、用意も頑張りますね!」
二人とも、餅つきとつきたての餅をどう食するか、今からとても楽しみにしているようだ。
姉妹の他、村の村長やおばちゃん達、そして五人の客人を迎えての賑やかな餅つきが始まる。
●
「うちではへっついって呼んでるけど、竈っていうのも良いわね」
何やら良く分からない感慨にふけっているリタ。
「昔からがんびの皮を焚き付けに使ってたんですよ」
エマの説明に、ディーナは不思議そうな顔をする。当然のことなのだろうか……『がんび』はこの地方の方言で、白樺の皮のこと。
不思議そうな顔のまま、ディーナは竈に薪を井桁に組み上げ火をつける。パチパチと小気味良い音を立てて、丁寧に組み上げた薪に火が移る。
「あたしは使った事無いんだけど……」
言いながら、リタが手渡したのは竹の筒。ふいごの代わりだろう。
「わあ、ありがとう! おばあちゃんちにまだ五右衛門風呂があった頃に見かけたけど、自分で触ったことなかったから楽しいの……ふーっ、ふーっ」
完璧に燃え移る前の煙が半端ないが、ディーナは楽しそうに火の番をしている。
「この釜に……水を入れるのですね……。さすがに……火の傍は……熱くなりそうですね……」
用意してあった巨大な水瓶から水を汲むと、時雨は煙を避けるような格好で釜に水を満たしていく。なみなみと水が入れられると蓋をし、沸騰するまでしばし待つ。四角い蒸篭がきちんと乗るように、沸騰したら釜の蓋を四角いものに変えるのだ。
その作業を興味深そうに見学する時雨。
その間、蒸篭に餅米を入れていく。三升用なので、結構重い。エマと時雨が、洗って一晩水に浸していた(この地方では『うるかしていた』という)餅米を綺麗に入れる。
釜の水が沸騰したら、それを三段重ねて釜の上に。この力仕事はユリアンが率先してやってくれた。手伝いに来ていた村のおばちゃん達から賞賛の声が上がる。
●
「お米が蒸し上がるまでに、食べる準備をしておきましょうか。餡子に黄粉、お雑煮の材料を持って来ていますの」
「私がお汁粉の準備をしますね! 大丈夫ですよ、ちゃんとお大福用の餡子も残しておきますから!」
美沙樹に続いたのはルナだ。持参のリュックを開けながら言うのはディーナ。火の番はリタに任せたらしい。
「甘い物なら安倍川もちで、しょっぱいなら磯辺もち、あまじょっぱ辛いにワサビを足したくなったら辛みもちだと思うの……ずんだも好きだけど、あれは作り方しらないの」
言いながら、リュックの中身を次々とテーブルに出していく。最後は巨大な大根だ。持参した物を出し終えると、ディーナはまた竈の傍に戻っていった。
「お雑煮なども良いですね……美沙樹さんのお味噌味……楽しみです……。軽く、おやつを食べる程度の感覚でなら……チョコ餅辺りも良いですね。……それと……お餅のピザなども、美味しいかと……」
時雨の言葉に姉妹と村長、おばちゃん達が真っ先に反応した。
「ピザ? ピザができるのっ?」
「何とも洒落とるのぅ」
目を異常な程に輝かせた村人達に多少驚いた顔をしたが、時雨は動じることなく答えた。
「甘いお餅が、続いた後などに食べると……良いやもしれません……」
「そうなのね? じゃあ先に甘い物を食べて、それから肉餅、シメにピザを食べるわっ!」
●
「うむ、良い香りがたってきたようじゃな」
蒸篭を覗き込んだ村長が言う。ユリアンが傍で様子を見ている。
村長は上の二つの蒸篭をユリアンにずらしてもらい、一番下の蒸篭からヘラで少しだけ米を取る。指先で捏ねて、軽く潰れるようであれば蒸かしは完了だ。
「へえ、本当だ。簡単に潰れる」
ユリアンは、村長に教わりながら蒸かし具合を確かめていた。
「ならば、第一弾、ゆくぞぃ」
「おっと、熱ちち、湯気で周りが見えないよ」
もうもうと立ち込める真っ白な湯気の中から、火傷をしないように慎重に、一番下の蒸篭を運ぶのも勿論ユリアン。あらかじめ熱湯で温めてあった石臼の中に餅米を投入!
まずはお手本として、村長がつき手、リタが相取りだ。
年に一回の行事だから必然的に一年のブランクがあるのだが、中々のリズムとテンポでついていく。
ユリアンは村長からコツを聞きながら、ルナはリタの動きをじっくりと観察しながら。
少し離れた場所から時雨と美沙樹、ディーナが興味津々といった顔で見いっている。村長の腰が痛くなってきた頃には、つるつるの表面を誇らしげに、真っ白な餅が完成した。
「さぁ、第一弾出来たわよ! そっちの準備はいい?」
『良いですよ!』
リタの景気のいいかけ声に、料理担当チームの声が重なる。
●
小さく千切った餅を広げ、中にチョコレートを入れているのは時雨。料理の経験も手伝って、中々の手際だ。
「はわあ……美味しそうですね、時雨さん」
「はい……ただ……中で溶けたチョコが、飛び出すかもしれませんので……食べる際は、注意が必要ですけれど……」
時雨のチョコ餅を眺めつつ、ルナが向かっているのは鍋。中からは甘い香り……お汁粉だ。
「甘くて温かいお汁粉は、寒い日にはほっこり心も温まりますね! はいユリアンさん、どうぞ!」
「ありがとう。おわ、こんなに柔らかいんだ、伸びる!」
つきたてのツルっとした餅の柔らかさを堪能し楽しげなユリアン。その隣では、美沙樹が大福を作っている。千切った餅を丸めて、真ん中を凹ませ餡子を詰める。餡子を包んでころころくるくる。あっという間に大福餅の出来上がり!
ルナは次に、餅を餡子の中で少し煮る。トロっとした所を皿に取って、美沙樹が作ったきな粉をまぶす。
「はい、きな粉餅もできたよ!」
「安倍川と言う川で砂金が取れましたので、黄粉を砂金に見立てて安倍川餅と申す様になりましたのよ。縁起物ですわね」
美沙樹の言葉を聞くと、きな粉が砂金に見えてくる。
「とても縁起の良いお餅なの……おいしい」
ディーナが持った皿には山盛りのきな粉。きらきらと瞳を輝かせ、甘いきな粉餅を堪能する姿は何とも愛らしい。口の周りは粉だらけだが、それもまた愛嬌。
テーブルにはお汁粉、大福、きな粉餅、チョコ餅がどんどん並べられていく。が、作った先から無くなっていく。
●
「皆さん、そろそろ次も蒸し上がりますよ!」
テーブルの方へと声を掛けたのはエマだ。皆の活気に後押しされるように、勢いのある声。それに応えたのはユリアンとルナ。ユリアンは杵を担いでスタンバイ。
「うっかりすると汗だくになって風邪ひくかもしれないからね」
言いながら、持参のタオルを首に巻くと、すっかりベテランの雰囲気だ。相取りのルナも負けてはいない。ユリアンや臼との距離、水の温度など、見よう見まねではあるが準備は完璧だ。
「コネは腰を落として、体重を掛けて……っと」
ユリアンは言葉の通り、まずはコネ。村長と違って力があるので、米が潰れるのにそんなに時間はかからない。そうなると、次の段階で相取りが大変なことになる。
「はわっ、あちちっ!」
手をふーふーしながら、それでも必死に臼の中の米をまとめるルナ。底に貼り付いた部分を剥がし、周りに飛び散った米もまとめて丸めると、一度持ち上げてひっくり返す。裏返すと半ば以上餅になった部分がつるりとした表面を見せてくれる。
「さあ、いきますよ!」
パアンっ!
勢い良く平手で叩く。
トンっ!
ど真ん中を杵が打つ。
ぺたんっ!
端を掴んで中央に寄せる。
どんっ!
力の乗った重い杵。
「はいっ」
ルナが声をかける。
「それっ!」
餅をつく音、捏ねる音、互いに合図を送るかけ声と、時々聞こえる水の音。最初はゆっくり、徐々に一定のテンポとリズムを作り出す。
『ぺったん、はい、ぺったん、よいしょっ!』
皆も一緒に声をかけ、少し離れた所から聞こえるのは竈で薪がはぜる音。餅をつく音も、捏ねの具合で音が変わる。
時折餅をひっくり返すのだが、勿論それもリズムのうち。おぼつかない手つきだったが、それも繰り返せば慣れてくる。
「ふふっ、楽しいですね!」
音楽家であるルナにとって、それが音楽に感じない訳もなく。空間がリズムと音楽に包まれたような一体感を持つ。
「結構重労働だ。ちゃんと出来てるかな?」
最初は緊張もあったようだが、ルナのリードに慣れてきたユリアンが問う。餅の出来具合は相取りが舵を取るのだ。
「つるつるのお餅です! もう美味しそう!」
「こちらに少し下さい! 伸し餅も作りたいですので」
エマが木の折を持ってやって来た。この家では昔から、木で出来た浅い蓋の無い箱に餅を入れ、伸し餅を作っている。片栗粉をまぶした折に餅を乗せたら、片栗粉をつけて丁寧に折の隅々まで伸ばしていくのだ。これが何とも気持ちの良い手触り。
「次の蒸篭……餅米とうるち米が混ざっていますね……」
臼に投入された米を見て、時雨が気付く。
「ほう、たがね餅じゃな?」
後ろから覗き込んだ村長が、嬉しそうな声を出す。
「そうなんです。餅米と普通のお米を七対三で混ぜてついて。一緒にあおさ海苔を混ぜてコネコネ。ってことで、ユリアンさん、たがね餅も作りましょう!」
「OK! それじゃあいくよ!」
すっかり手慣れた様子のユリアンとルナ。再びテンポとリズムを指揮するような、ルナの楽しげな声が響き、今度はあおさ海苔の香りが湯気に混じる。
「これが……たがね餅ですか……。粒が残っているので……独特の歯ごたえなのでしょうね……」
「焼くととても美味しいですよ!」
相取りの勲章、飛び散った米粒や水を顔中にくっつけ、ルナは満面の笑み。
●
千切った餅は、今度は醤油、砂糖醤油、海苔で頂く。甘い物が続いた口には、さっぱり系の大根おろし、辛み餅が人気のようだ。
ディーナは先ほどから色々と試しているようで、醤油を付けて海苔を巻いた磯辺に続いて大根おろしを作っている。
彼女に勧められるままに磯辺を食べているのは時雨と美沙樹。料理に専念していた二人だが、ディーナの飽くなき探究心と可愛らしさに、優しい笑顔で応えていた。
「俺も色んな味を堪能したいね」
手を洗い、テーブルにやってきたユリアンも料理に混ざる。
「あまじょっぱいのも良いよね。胡桃味噌だっけ?」
彼が手に取ったのは、村のおばちゃん達が用意してくれていた胡桃味噌。ごろごろサイズの胡桃を味噌やみりんで味付けしたもの。
「うん、出来たてって本当美味しいね! あと、一口大福もね」
言って準備し始めたのは、小さな大福。失敗しても良い様にこのサイズなのだという。中には甘酸っぱい煮林檎やチョコレート。餡子とクリームチーズは相性がいいらしい。
甘いものの合間に辛み餅。そしてリタ発案(?)の肉餅は醤油ベースのスープで。美沙樹が作った上品なお雑煮は味噌ベース。
「肉餅? 初めて食べるけど美味しいの……お餅がトロトロで、甘辛い醤油スープが良く絡んで……お土産に持って帰りたいけど無理っぽいの……」
残念そうな顔をするディーナに、胸を張ってリタが応じる。
「ね? あたし考案の肉餅は最高なのよ! お土産は無理だけど、あとでレシピを教えるわ!」
「本当? ありがとう」
「いつかずんだ餅も作り方覚えたいのよね」
「私もだよ。ふふっ」
肉餅を頬張る二人は、すでに来年の話をしているのだろうか。楽しそうだ。
そして何よりも注目されたのは、時雨が作るピザ餅だった。
フライパンに並べた餅の上には様々な具材。肉や野菜、チーズがカラフルに並べられている。つきたての餅にこんがり焼き目。香りが食欲をそそる。切り分けた時に好みの調味料で味付けして頂くことで、味のバリエーションも豊富だ。……この時、悪戯をしかけて自分で外れを引いたリタの顔を、誰も忘れないだろう。具材に隠して投入した大量のタバスコを口一杯に頬張ったのだ。
「それ伊弉諾弉冊夫婦寄り合い
漫々たる和田津海に天の逆鉾降させ給い……」
笑い声が絶えない室内に、美しい声が重なる。美沙樹が口ずさむのは、長唄・七福神。新年に合わせた座興。
その凛とした佇まいに誰もがうっとりと聞き惚れる。やがてそれに合わせるように音が増え、折り重なって福を奏でる。
「皆様に福の訪れがありますように」
満面の笑みでお土産を手に、皆が続く。
『本年もよろしくお願いします!』
「うん、良い天気! 餅つき日和ね!」
ドアを広々と開け放ち、仁王立ちのリタが元気のいい声を張り上げる。
彼女たちが餅つきの準備をしたのは、天井も壁もある室内。充分な広さがあり、集まった人数でわいわい作業をしても差し支えはないだろう。……若干の隙間風はご容赦願おう。
開け放たれたドアの向こうから、続々と集まって来る人たちの姿が見えた。
「おはよう……ございます……」
天候に関わらず傘を持ち歩く彼女は、外待雨 時雨(ka0227)。
「いらっしゃい!」
元気な声で迎えているのは、その場に未だ同じ姿勢で立っているリタ。彼女流の歓迎の仕方らしい。
「……餅つき……。話に聞いたことは、ありますが……。目にするのは……初めて、ですね……」
「おはようございます、音羽 美沙樹と申しますわ。よろしくお願いしますわね」
時雨に続いたのは凛とした声。音羽 美沙樹(ka4757)だった。
「お、お早うございます! よろしくお願いします!」
リタとは対照的に、礼儀正しく腰を折って挨拶するのは妹のエマ。彼女はテーブルに片栗粉やカセットコンロ、家で作ってきた肉餅用のスープ、餡子などを並べている最中だ。
美沙樹の後ろからリュックが歩いて来る。……いや、失礼。リュックを背負ってとてとてと、ディーナ・フェルミ(ka5843)も到着した。
「つきたてのお餅を食べさせて貰えるって聞いて手伝いに来たの。おうちの方は?」
姉妹にとって思いもよらない質問だった。
「おうちのかた……お家の方? ああ、いないわ!」
「えっ?」
「私達が小さい頃に、放浪の旅に出たまま帰って来てないんですよ。この村の人達が私達の家族です」
お皿を山積みにしながら、エマがさらりと答えた。
「石臼って言われて碾き臼かと思ってすっごくハテナだったの。そっかぁ、うちじゃ木だったけど、よく考えたらこれのことも臼って言うね? うちではできたお餅買ってきて、焼いてからいろいろ味付けしたの。自分でお餅搗くってなんだか新鮮なの」
隙間風吹く部屋のど真ん中に、台に置かれて少し高さを増した石臼が据えられている。それを見て興味津々なのはディーナだ。……因みに、この家で古くから使っていた石臼は、底が平らで地面との接触部分が広く、お椀のような形をしている。
「あ、あとのお二方も見えましたね」
エマが視線を向ける先にはユリアン(ka1664)とルナ・レンフィールド(ka1565)。
「おはよう、今日はよろしく。つきたてのお餅って、とても柔らかくて美味しいって聞いたことがあるよ」
「美味しく食べるために、用意も頑張りますね!」
二人とも、餅つきとつきたての餅をどう食するか、今からとても楽しみにしているようだ。
姉妹の他、村の村長やおばちゃん達、そして五人の客人を迎えての賑やかな餅つきが始まる。
●
「うちではへっついって呼んでるけど、竈っていうのも良いわね」
何やら良く分からない感慨にふけっているリタ。
「昔からがんびの皮を焚き付けに使ってたんですよ」
エマの説明に、ディーナは不思議そうな顔をする。当然のことなのだろうか……『がんび』はこの地方の方言で、白樺の皮のこと。
不思議そうな顔のまま、ディーナは竈に薪を井桁に組み上げ火をつける。パチパチと小気味良い音を立てて、丁寧に組み上げた薪に火が移る。
「あたしは使った事無いんだけど……」
言いながら、リタが手渡したのは竹の筒。ふいごの代わりだろう。
「わあ、ありがとう! おばあちゃんちにまだ五右衛門風呂があった頃に見かけたけど、自分で触ったことなかったから楽しいの……ふーっ、ふーっ」
完璧に燃え移る前の煙が半端ないが、ディーナは楽しそうに火の番をしている。
「この釜に……水を入れるのですね……。さすがに……火の傍は……熱くなりそうですね……」
用意してあった巨大な水瓶から水を汲むと、時雨は煙を避けるような格好で釜に水を満たしていく。なみなみと水が入れられると蓋をし、沸騰するまでしばし待つ。四角い蒸篭がきちんと乗るように、沸騰したら釜の蓋を四角いものに変えるのだ。
その作業を興味深そうに見学する時雨。
その間、蒸篭に餅米を入れていく。三升用なので、結構重い。エマと時雨が、洗って一晩水に浸していた(この地方では『うるかしていた』という)餅米を綺麗に入れる。
釜の水が沸騰したら、それを三段重ねて釜の上に。この力仕事はユリアンが率先してやってくれた。手伝いに来ていた村のおばちゃん達から賞賛の声が上がる。
●
「お米が蒸し上がるまでに、食べる準備をしておきましょうか。餡子に黄粉、お雑煮の材料を持って来ていますの」
「私がお汁粉の準備をしますね! 大丈夫ですよ、ちゃんとお大福用の餡子も残しておきますから!」
美沙樹に続いたのはルナだ。持参のリュックを開けながら言うのはディーナ。火の番はリタに任せたらしい。
「甘い物なら安倍川もちで、しょっぱいなら磯辺もち、あまじょっぱ辛いにワサビを足したくなったら辛みもちだと思うの……ずんだも好きだけど、あれは作り方しらないの」
言いながら、リュックの中身を次々とテーブルに出していく。最後は巨大な大根だ。持参した物を出し終えると、ディーナはまた竈の傍に戻っていった。
「お雑煮なども良いですね……美沙樹さんのお味噌味……楽しみです……。軽く、おやつを食べる程度の感覚でなら……チョコ餅辺りも良いですね。……それと……お餅のピザなども、美味しいかと……」
時雨の言葉に姉妹と村長、おばちゃん達が真っ先に反応した。
「ピザ? ピザができるのっ?」
「何とも洒落とるのぅ」
目を異常な程に輝かせた村人達に多少驚いた顔をしたが、時雨は動じることなく答えた。
「甘いお餅が、続いた後などに食べると……良いやもしれません……」
「そうなのね? じゃあ先に甘い物を食べて、それから肉餅、シメにピザを食べるわっ!」
●
「うむ、良い香りがたってきたようじゃな」
蒸篭を覗き込んだ村長が言う。ユリアンが傍で様子を見ている。
村長は上の二つの蒸篭をユリアンにずらしてもらい、一番下の蒸篭からヘラで少しだけ米を取る。指先で捏ねて、軽く潰れるようであれば蒸かしは完了だ。
「へえ、本当だ。簡単に潰れる」
ユリアンは、村長に教わりながら蒸かし具合を確かめていた。
「ならば、第一弾、ゆくぞぃ」
「おっと、熱ちち、湯気で周りが見えないよ」
もうもうと立ち込める真っ白な湯気の中から、火傷をしないように慎重に、一番下の蒸篭を運ぶのも勿論ユリアン。あらかじめ熱湯で温めてあった石臼の中に餅米を投入!
まずはお手本として、村長がつき手、リタが相取りだ。
年に一回の行事だから必然的に一年のブランクがあるのだが、中々のリズムとテンポでついていく。
ユリアンは村長からコツを聞きながら、ルナはリタの動きをじっくりと観察しながら。
少し離れた場所から時雨と美沙樹、ディーナが興味津々といった顔で見いっている。村長の腰が痛くなってきた頃には、つるつるの表面を誇らしげに、真っ白な餅が完成した。
「さぁ、第一弾出来たわよ! そっちの準備はいい?」
『良いですよ!』
リタの景気のいいかけ声に、料理担当チームの声が重なる。
●
小さく千切った餅を広げ、中にチョコレートを入れているのは時雨。料理の経験も手伝って、中々の手際だ。
「はわあ……美味しそうですね、時雨さん」
「はい……ただ……中で溶けたチョコが、飛び出すかもしれませんので……食べる際は、注意が必要ですけれど……」
時雨のチョコ餅を眺めつつ、ルナが向かっているのは鍋。中からは甘い香り……お汁粉だ。
「甘くて温かいお汁粉は、寒い日にはほっこり心も温まりますね! はいユリアンさん、どうぞ!」
「ありがとう。おわ、こんなに柔らかいんだ、伸びる!」
つきたてのツルっとした餅の柔らかさを堪能し楽しげなユリアン。その隣では、美沙樹が大福を作っている。千切った餅を丸めて、真ん中を凹ませ餡子を詰める。餡子を包んでころころくるくる。あっという間に大福餅の出来上がり!
ルナは次に、餅を餡子の中で少し煮る。トロっとした所を皿に取って、美沙樹が作ったきな粉をまぶす。
「はい、きな粉餅もできたよ!」
「安倍川と言う川で砂金が取れましたので、黄粉を砂金に見立てて安倍川餅と申す様になりましたのよ。縁起物ですわね」
美沙樹の言葉を聞くと、きな粉が砂金に見えてくる。
「とても縁起の良いお餅なの……おいしい」
ディーナが持った皿には山盛りのきな粉。きらきらと瞳を輝かせ、甘いきな粉餅を堪能する姿は何とも愛らしい。口の周りは粉だらけだが、それもまた愛嬌。
テーブルにはお汁粉、大福、きな粉餅、チョコ餅がどんどん並べられていく。が、作った先から無くなっていく。
●
「皆さん、そろそろ次も蒸し上がりますよ!」
テーブルの方へと声を掛けたのはエマだ。皆の活気に後押しされるように、勢いのある声。それに応えたのはユリアンとルナ。ユリアンは杵を担いでスタンバイ。
「うっかりすると汗だくになって風邪ひくかもしれないからね」
言いながら、持参のタオルを首に巻くと、すっかりベテランの雰囲気だ。相取りのルナも負けてはいない。ユリアンや臼との距離、水の温度など、見よう見まねではあるが準備は完璧だ。
「コネは腰を落として、体重を掛けて……っと」
ユリアンは言葉の通り、まずはコネ。村長と違って力があるので、米が潰れるのにそんなに時間はかからない。そうなると、次の段階で相取りが大変なことになる。
「はわっ、あちちっ!」
手をふーふーしながら、それでも必死に臼の中の米をまとめるルナ。底に貼り付いた部分を剥がし、周りに飛び散った米もまとめて丸めると、一度持ち上げてひっくり返す。裏返すと半ば以上餅になった部分がつるりとした表面を見せてくれる。
「さあ、いきますよ!」
パアンっ!
勢い良く平手で叩く。
トンっ!
ど真ん中を杵が打つ。
ぺたんっ!
端を掴んで中央に寄せる。
どんっ!
力の乗った重い杵。
「はいっ」
ルナが声をかける。
「それっ!」
餅をつく音、捏ねる音、互いに合図を送るかけ声と、時々聞こえる水の音。最初はゆっくり、徐々に一定のテンポとリズムを作り出す。
『ぺったん、はい、ぺったん、よいしょっ!』
皆も一緒に声をかけ、少し離れた所から聞こえるのは竈で薪がはぜる音。餅をつく音も、捏ねの具合で音が変わる。
時折餅をひっくり返すのだが、勿論それもリズムのうち。おぼつかない手つきだったが、それも繰り返せば慣れてくる。
「ふふっ、楽しいですね!」
音楽家であるルナにとって、それが音楽に感じない訳もなく。空間がリズムと音楽に包まれたような一体感を持つ。
「結構重労働だ。ちゃんと出来てるかな?」
最初は緊張もあったようだが、ルナのリードに慣れてきたユリアンが問う。餅の出来具合は相取りが舵を取るのだ。
「つるつるのお餅です! もう美味しそう!」
「こちらに少し下さい! 伸し餅も作りたいですので」
エマが木の折を持ってやって来た。この家では昔から、木で出来た浅い蓋の無い箱に餅を入れ、伸し餅を作っている。片栗粉をまぶした折に餅を乗せたら、片栗粉をつけて丁寧に折の隅々まで伸ばしていくのだ。これが何とも気持ちの良い手触り。
「次の蒸篭……餅米とうるち米が混ざっていますね……」
臼に投入された米を見て、時雨が気付く。
「ほう、たがね餅じゃな?」
後ろから覗き込んだ村長が、嬉しそうな声を出す。
「そうなんです。餅米と普通のお米を七対三で混ぜてついて。一緒にあおさ海苔を混ぜてコネコネ。ってことで、ユリアンさん、たがね餅も作りましょう!」
「OK! それじゃあいくよ!」
すっかり手慣れた様子のユリアンとルナ。再びテンポとリズムを指揮するような、ルナの楽しげな声が響き、今度はあおさ海苔の香りが湯気に混じる。
「これが……たがね餅ですか……。粒が残っているので……独特の歯ごたえなのでしょうね……」
「焼くととても美味しいですよ!」
相取りの勲章、飛び散った米粒や水を顔中にくっつけ、ルナは満面の笑み。
●
千切った餅は、今度は醤油、砂糖醤油、海苔で頂く。甘い物が続いた口には、さっぱり系の大根おろし、辛み餅が人気のようだ。
ディーナは先ほどから色々と試しているようで、醤油を付けて海苔を巻いた磯辺に続いて大根おろしを作っている。
彼女に勧められるままに磯辺を食べているのは時雨と美沙樹。料理に専念していた二人だが、ディーナの飽くなき探究心と可愛らしさに、優しい笑顔で応えていた。
「俺も色んな味を堪能したいね」
手を洗い、テーブルにやってきたユリアンも料理に混ざる。
「あまじょっぱいのも良いよね。胡桃味噌だっけ?」
彼が手に取ったのは、村のおばちゃん達が用意してくれていた胡桃味噌。ごろごろサイズの胡桃を味噌やみりんで味付けしたもの。
「うん、出来たてって本当美味しいね! あと、一口大福もね」
言って準備し始めたのは、小さな大福。失敗しても良い様にこのサイズなのだという。中には甘酸っぱい煮林檎やチョコレート。餡子とクリームチーズは相性がいいらしい。
甘いものの合間に辛み餅。そしてリタ発案(?)の肉餅は醤油ベースのスープで。美沙樹が作った上品なお雑煮は味噌ベース。
「肉餅? 初めて食べるけど美味しいの……お餅がトロトロで、甘辛い醤油スープが良く絡んで……お土産に持って帰りたいけど無理っぽいの……」
残念そうな顔をするディーナに、胸を張ってリタが応じる。
「ね? あたし考案の肉餅は最高なのよ! お土産は無理だけど、あとでレシピを教えるわ!」
「本当? ありがとう」
「いつかずんだ餅も作り方覚えたいのよね」
「私もだよ。ふふっ」
肉餅を頬張る二人は、すでに来年の話をしているのだろうか。楽しそうだ。
そして何よりも注目されたのは、時雨が作るピザ餅だった。
フライパンに並べた餅の上には様々な具材。肉や野菜、チーズがカラフルに並べられている。つきたての餅にこんがり焼き目。香りが食欲をそそる。切り分けた時に好みの調味料で味付けして頂くことで、味のバリエーションも豊富だ。……この時、悪戯をしかけて自分で外れを引いたリタの顔を、誰も忘れないだろう。具材に隠して投入した大量のタバスコを口一杯に頬張ったのだ。
「それ伊弉諾弉冊夫婦寄り合い
漫々たる和田津海に天の逆鉾降させ給い……」
笑い声が絶えない室内に、美しい声が重なる。美沙樹が口ずさむのは、長唄・七福神。新年に合わせた座興。
その凛とした佇まいに誰もがうっとりと聞き惚れる。やがてそれに合わせるように音が増え、折り重なって福を奏でる。
「皆様に福の訪れがありますように」
満面の笑みでお土産を手に、皆が続く。
『本年もよろしくお願いします!』
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/03 12:07:46 |
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雑談の卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/01/04 21:26:00 |