ゲスト
(ka0000)
ボラ族、仇敵と再会する。
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/27 09:00
- 完成日
- 2016/02/04 01:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……風がイヤな臭いを放っている」
鍛冶屋にいる女は曇り空の向こうに目を細めた。
しかし近くにいた他の誰もが女の言葉を聞き流したり、聞いたとしても首を傾げるばかりだった。
海から吹きつける潮風はいつも通りで、鼻先をヒリヒリとはさせる冷たさではあるものの、潮の香りがなんら変わることもない。
だが、女には海から吹きつける風はひどく汚れ、胸を悪くさせるような感覚を付きまとわせるのだ。それも間近から吹きつけられるような。だから阿子が退屈に他の物に気を取られたとしても海から目を離すことができずにじっと海を見つめ続けていた。
そんな彼女が、木切れに掴まり海をさまよう男を見つけたとしたら、それは当然のことだったかもしれない。
「ゲール?」
この凍てつくような寒さの海に飛び込み、救い出した男の顔を女はよく知っていた。辺境から袂を分かち、海賊として暴れていたノト族のリーダーだ。何者にも縛られぬというノト族の信念は、辺境部族の結束が進む中、独立独歩をこじらせ、ついには法にも縛られぬ海賊業に移った。ついでに先日、女が住んでいた港町で大暴れした人間の一人だ。
だが、先日、頭に血を登らせて大暴れしていた男とは見ただけではほとんど同じとは判別できなかった。
痩せこけ眼窩は落ちくぼみ、頬はこけていた。丸太のような腕も枝といっても大差ないほどに肉はしぼんでいた。衣服もすべて血のどす黒い赤に染まり果てて、たゆとう海風の紋様を刻んだ帯をつけていなければ、もしかするとゲールだとは思わなかったかもしれない。
そしてそんな様子を前にも見たことがなければ。
「レイア……来たぞ。厄災だ」
海の上で、抱きしめられたゲールは胡乱げな目を救いの主に向けると、まるで呟くようにそういった。
「北の大地の恵みを奪い去り、いくつもの部族を死に追いやったあいつだ……ちくしょう。どこに潜んでやがったのか、オレんとこの船に現れたぞ」
「今喋ると海水を飲むわ。食いしばって」
声もしゃがれていた。一部はかすれて聞き取るのも難しい。
レイアは胸の動揺を抑えつつ、浮き輪代わりの木切れを掴んで岸まで泳ぎだした。町の岸まで行けば阿子が呼びに行った仲間が待っているはずだ。
「みぃんな、闇討ちだ。ちくしょう……チクショウ」
「私達が仇を討ってあげる。でも厄災への恨みをこれ以上増やさせないで」
ゲールの手が一つ木切れから外れたのを見て、レイアはゲールの後ろに回り抱きかかえるようにして泳ぎ始めた。
「絶対、仇とって、く、れナ」
「もちろんよ。あいつには私達の族長を殺された恨みもある。北の大地を追われた悲しみもある。絶対に無に帰すわ」
励ますように何度も何度もゲールにそう言い聞かす。自分が彼に言った通り海水が口の中に入ってくるが、それも気にせずレイアは語り続けた。
だが、ゲールはついにもう一つの手も外れてしまった。濁った虚ろな瞳がぼんやりとレイアを見つめ返すだけだ。
「ゲール!」
岸にたどり着くまでの間、レイアは何度も叫んだ。
だが、結局ゲールはそれ以上、何も返すことはなかった。
「闘わねばならぬ。厄災、歪虚レーヴァは我々の宿敵だ」
「ここは帝国なのよ! 勝手に戦って死なれるわけにはいかないのよ!!」
レイアが今は帝国に下り暮らしている町。
彼女が辺境の一族として暮らしていた時からのつきあいである長のイグは決然と立ち上がったが、移民政策の活動を請け負う帝国の役人メルツェーデスは真っ向からそれを食い止めていた。
「歪虚が相手なら、兵士の仕事なの。全員で立ち向かうのが帝国の流儀。海上の船に現れたんなら第四師団が担当なの! あんた達は帝国住民。それを支えるのが仕事。戦うのは仕事じゃないから!!」
「その第四師団はいつ来るのだ」
「連絡すりゃ数日のうちに来るわよ!!」
「厄災は名の通りマテリアルを奪い去り、恵みを奪うのだ。我々の元にいつやってくるかもしれん。大地という名の母を奪い、そして母たる前族長を殺した相手でもある。それを何日も黙って見ておれというのか」
「そうよ。一度負けた相手に準備もなく再戦するなんて馬鹿のやることよ!」
メルツェーデスはとにかく扉にしがみついて頭1つ分も高いイグやさらにもっといかつい体の男などを通らせないように、そしてとにかく勢いに呑まれないようにと噛みついたが、収まる気配はどこにもない。
「ふーん、準備、ねぇ。じゃあハンターに手伝いを頼むよ。それでいいよね?」
こまっしゃくれた少年にそう言われて一瞬だけメルツェーデスは固まったのを見計らって、レイアがメルツェーデスを扉から引きはがした。メルツェーデスのつけ爪がはじけ飛んだが、それでも彼女は扉にかじりつくようにして外に出るのを塞いだ。
「レーヴァだけはそうはいかない。あれを何日も放っておいたらきっと帝国も大きな被害を負うわ」
「いい加減言うこと聞いてよ! 厄災だかなんだか知らないけど、無理してもし死んだらどうするのよ。すっごい強かった前の族長ですら勝てなかったんでしょ!? 死にに行くのをどうぞって通す馬鹿がいるのよ!! 鍛冶屋っていう仕事見つけたんだからさぁ。大人しく歪虚を倒す武器を作っててよ!」
メルツェーデスは涙声だった。
常識知らずで、頭の痛いことばかりを起こしていた。最初はさっさと兵士にでもなって帝国の最前線に立って盾代わりになればいいと思っていた。
快活で、人が良くて、知らず知らずに笑顔になった。帝国の人ではもらえなかった気持ちにさせてもらった。
もうメルツェーデスの髪も顔も、頭の中もぐちゃぐちゃだった。
「何を言っている。わざわざ死にに行くわけじゃない」
そんな彼女の頭を大きな優しい手で包まれ、軽く撫でられた。
イグだ。
「レーヴァはずっと我々の気持ちに尾を引かせていた。あれを倒すことは辺境への想いを断ち切ることでもある。それにメルツェーデス。お前がそれだけ我々を想ってくれているのに、無駄死できるわけもない。必ず帰って来る」
そのセリフにメルツェーデスは言葉にならない唸りを上げて泣きじゃくった。
鍛冶屋にいる女は曇り空の向こうに目を細めた。
しかし近くにいた他の誰もが女の言葉を聞き流したり、聞いたとしても首を傾げるばかりだった。
海から吹きつける潮風はいつも通りで、鼻先をヒリヒリとはさせる冷たさではあるものの、潮の香りがなんら変わることもない。
だが、女には海から吹きつける風はひどく汚れ、胸を悪くさせるような感覚を付きまとわせるのだ。それも間近から吹きつけられるような。だから阿子が退屈に他の物に気を取られたとしても海から目を離すことができずにじっと海を見つめ続けていた。
そんな彼女が、木切れに掴まり海をさまよう男を見つけたとしたら、それは当然のことだったかもしれない。
「ゲール?」
この凍てつくような寒さの海に飛び込み、救い出した男の顔を女はよく知っていた。辺境から袂を分かち、海賊として暴れていたノト族のリーダーだ。何者にも縛られぬというノト族の信念は、辺境部族の結束が進む中、独立独歩をこじらせ、ついには法にも縛られぬ海賊業に移った。ついでに先日、女が住んでいた港町で大暴れした人間の一人だ。
だが、先日、頭に血を登らせて大暴れしていた男とは見ただけではほとんど同じとは判別できなかった。
痩せこけ眼窩は落ちくぼみ、頬はこけていた。丸太のような腕も枝といっても大差ないほどに肉はしぼんでいた。衣服もすべて血のどす黒い赤に染まり果てて、たゆとう海風の紋様を刻んだ帯をつけていなければ、もしかするとゲールだとは思わなかったかもしれない。
そしてそんな様子を前にも見たことがなければ。
「レイア……来たぞ。厄災だ」
海の上で、抱きしめられたゲールは胡乱げな目を救いの主に向けると、まるで呟くようにそういった。
「北の大地の恵みを奪い去り、いくつもの部族を死に追いやったあいつだ……ちくしょう。どこに潜んでやがったのか、オレんとこの船に現れたぞ」
「今喋ると海水を飲むわ。食いしばって」
声もしゃがれていた。一部はかすれて聞き取るのも難しい。
レイアは胸の動揺を抑えつつ、浮き輪代わりの木切れを掴んで岸まで泳ぎだした。町の岸まで行けば阿子が呼びに行った仲間が待っているはずだ。
「みぃんな、闇討ちだ。ちくしょう……チクショウ」
「私達が仇を討ってあげる。でも厄災への恨みをこれ以上増やさせないで」
ゲールの手が一つ木切れから外れたのを見て、レイアはゲールの後ろに回り抱きかかえるようにして泳ぎ始めた。
「絶対、仇とって、く、れナ」
「もちろんよ。あいつには私達の族長を殺された恨みもある。北の大地を追われた悲しみもある。絶対に無に帰すわ」
励ますように何度も何度もゲールにそう言い聞かす。自分が彼に言った通り海水が口の中に入ってくるが、それも気にせずレイアは語り続けた。
だが、ゲールはついにもう一つの手も外れてしまった。濁った虚ろな瞳がぼんやりとレイアを見つめ返すだけだ。
「ゲール!」
岸にたどり着くまでの間、レイアは何度も叫んだ。
だが、結局ゲールはそれ以上、何も返すことはなかった。
「闘わねばならぬ。厄災、歪虚レーヴァは我々の宿敵だ」
「ここは帝国なのよ! 勝手に戦って死なれるわけにはいかないのよ!!」
レイアが今は帝国に下り暮らしている町。
彼女が辺境の一族として暮らしていた時からのつきあいである長のイグは決然と立ち上がったが、移民政策の活動を請け負う帝国の役人メルツェーデスは真っ向からそれを食い止めていた。
「歪虚が相手なら、兵士の仕事なの。全員で立ち向かうのが帝国の流儀。海上の船に現れたんなら第四師団が担当なの! あんた達は帝国住民。それを支えるのが仕事。戦うのは仕事じゃないから!!」
「その第四師団はいつ来るのだ」
「連絡すりゃ数日のうちに来るわよ!!」
「厄災は名の通りマテリアルを奪い去り、恵みを奪うのだ。我々の元にいつやってくるかもしれん。大地という名の母を奪い、そして母たる前族長を殺した相手でもある。それを何日も黙って見ておれというのか」
「そうよ。一度負けた相手に準備もなく再戦するなんて馬鹿のやることよ!」
メルツェーデスはとにかく扉にしがみついて頭1つ分も高いイグやさらにもっといかつい体の男などを通らせないように、そしてとにかく勢いに呑まれないようにと噛みついたが、収まる気配はどこにもない。
「ふーん、準備、ねぇ。じゃあハンターに手伝いを頼むよ。それでいいよね?」
こまっしゃくれた少年にそう言われて一瞬だけメルツェーデスは固まったのを見計らって、レイアがメルツェーデスを扉から引きはがした。メルツェーデスのつけ爪がはじけ飛んだが、それでも彼女は扉にかじりつくようにして外に出るのを塞いだ。
「レーヴァだけはそうはいかない。あれを何日も放っておいたらきっと帝国も大きな被害を負うわ」
「いい加減言うこと聞いてよ! 厄災だかなんだか知らないけど、無理してもし死んだらどうするのよ。すっごい強かった前の族長ですら勝てなかったんでしょ!? 死にに行くのをどうぞって通す馬鹿がいるのよ!! 鍛冶屋っていう仕事見つけたんだからさぁ。大人しく歪虚を倒す武器を作っててよ!」
メルツェーデスは涙声だった。
常識知らずで、頭の痛いことばかりを起こしていた。最初はさっさと兵士にでもなって帝国の最前線に立って盾代わりになればいいと思っていた。
快活で、人が良くて、知らず知らずに笑顔になった。帝国の人ではもらえなかった気持ちにさせてもらった。
もうメルツェーデスの髪も顔も、頭の中もぐちゃぐちゃだった。
「何を言っている。わざわざ死にに行くわけじゃない」
そんな彼女の頭を大きな優しい手で包まれ、軽く撫でられた。
イグだ。
「レーヴァはずっと我々の気持ちに尾を引かせていた。あれを倒すことは辺境への想いを断ち切ることでもある。それにメルツェーデス。お前がそれだけ我々を想ってくれているのに、無駄死できるわけもない。必ず帰って来る」
そのセリフにメルツェーデスは言葉にならない唸りを上げて泣きじゃくった。
リプレイ本文
●
「戦ったことがない? おいおい、因縁の相手なんだろ?」
船室に向けてゆっくりと階段を下りる龍崎・カズマ(ka0178)は後ろにいるイグの言葉に思わず振り返った。
「実際に見たのも一度だけだ。我々が目撃するのはいつも穢されきった後だ」
「それでどうしてレーヴァの仕業だってわかるの?」
「被害に遭った者は全員ゲールのように干からびていた。大地の穢され方をみても同一の敵である事は判ったが、結局姿を見たことはない。追いかけ続ける間に徐々に我々の狩場は少なくなり、次はここを狙うだろうと見張っていた時には、前族長のスィアリが消え、そして歪虚になって戻ってきた」
高瀬 未悠(ka3199)の問いかけに淡々と答えるイグの言葉にユリアン(ka1664)は言葉を出しかけて、そのまま飲みこんだ。
「甲冑姿だってのにそこまで姿を見せないってあたり、何かあるのかもしれねぇな」
カズマはたどり着いた船室の扉を前に、武器を構えなおし、片手で軽くノックし、耳をそばだてる未悠をちらりと見た。
「音はしないけど……いそうな気がする」
「同感だね。これが風が教えてくれるってことなのかな? 父さん。本気の殴り合いならしっかり準備しなきゃね」
肌が沸き立つような冷たさは歪虚と対峙した覚醒者なら差異はあれど感じる。そしてユリアンの言葉がけ通り、イグも覚醒を始め、全身が白い羽毛で覆われ巨大なフクロウのように変化していく。
「それじゃ、失礼……するぜっ」
カズマが扉を蹴り飛ばし、突入した。が、蹴破った扉はそのまま音もなくそのまま視界から消える。
「!」
床が、ない。ぐちゃぐちゃに壊された部屋は床が抜け、そのまま最下層へとつながっていた。下には無数の屍が腕を伸ばしまるで阿鼻叫喚地獄を眺めおろしているようだった。
何人もおびき寄せてはここで始末したのだろう。吹きあがって来る饐えた臭いがそれすべてを物語っていた。
「カズマ、危ない!!」
下に視線を取られたのが不味かった。
そいつは真上にいた。ネットを振り子のようにして床の奈落を飛び越え、そのままカズマを奈落へと蹴落とし、後ろに控えていたイグに弾丸となって襲いかかった。
咄嗟に先程まで立っていた床に手を伸ばし掴んだのは疾影士でなければできなかったかもしれない。カズマは片手で自らを支える頬に血の飛沫がかぶる。見上げれば負の刃と抜け落ちては幻影のように消える羽毛。
「イグ!!」
未悠が叫んだ。
目の前なのに。私は目の前でまた……失うのか?
そんな思いが未悠の獣化をさらに強くさせる。瞬間的にマテリアルを載せた刀で自分の身より大きな相手を叩き飛ばした。一撃は船を軽く揺らし、そいつを奈落の底に叩き落とした。
同時にユリアンが星のつぶてで追い打ちを駆けつつ、ワイヤーウィップを垂らして落ちかけたカズマを救出しつつ、こちらを見つめる歪虚をじっとみた。
全身鎧、は間違っていない。だが、ユリアン達が知っているような甲冑ではない。海に没した腐食してフジツボなどが巣食うようなもはや原形もわからない塊だった。それが組み合わさって初めて人間のような形をしているが、人間の形状とは呼べそうにない。手足の位置はバラバラだし頭は胸に沈んでいる。
「あれがレーヴァか?」
「前に見たのとは、随分違う……剣の形状も知っているものではない。が、漂うオーラは同じだ……間違いなく厄災だ」
白い羽毛を血で染めたイグが片膝をつきつつ、呻くように答えた。胸を強打したためか言葉はほとんど聞こえない。なのにへしゃげた胸を貫く刺突痕からは血が垂れ落ちるだけ。血が抜かれたのだとすぐユリアンは気づいた。
「喋らないで。治療、戻らなきゃ!」
どうして私でなくヒールの使える人間にしなかったのか。どうして危険を察知しながら注意しきれなかったのか。
どうして、
守れなかったのか。
「連れ出せねぇな。こっちの様子をじっと見てやがる」
「甲板で待ち構えているのは分かっているのかもしれない……とりあえずいったん戻るろう」
捜索班は窺う視線に武器を向けつつも一度甲板へと戻っていった。
●
「眩しき大気テナティエルの名の元に……」
アニス・エリダヌス(ka2491)の翼がはためくと光の粒子がカズマとイグを覆い、その傷をいやしていく。
「イグ、しっかり!!」
血を抜かれたイグをアーシュラ・クリオール(ka0226)は心配そうに覗くと、彼の真っ青な顔は徐々に赤みを増し、そして苦悶の顔も落ち着いたものに変わりゆくのを確認して彼女は抱きしめて安堵の嘆息を吐いた。
「上がってこないね……」
「自分の戦う場所を決めているのだろうな」
物見台の上からジュード・エアハート(ka0410) は輝く大弓にカンテラの光を当てて、船室へ入り口を始め、上がって来れそうな部分を照らし回ってみたが静かな物だった。
エアルドフリス(ka1856)もワンドを構え神経を張り巡らせて入るものの、レーヴァが姿を見せる様子はなく。じりじりとした気持ちを耐え忍び、気が付けばパイプの煙も尽きていた。
「影に潜むとかではなかったのよね」
「それなら真後ろから攻撃して吹き飛ばしていたはずだから、それはねぇだろう。見かけよかだいぶん賢いかもしんねぇが……落っこちた後はびくともしなかったからな。ロボットみてぇだ」
カズマの答えに七夜・真夕(ka3977)は考え込んだ。ロボットなら嫉妬型だし、奇怪な見た目は狂気にも思えるし、血を吸うのは暴食。まるで雑魔のようだ。
強力になればなるほど姿形だってそれぞれのタイプを想起させる外見を取る傾向がある。なのにボラ族やノト族を倒すほどの力があるというのは。ボタンがかけ違ったような違和感が真夕には感じられた。
「埒が明かないわ」
「やるか」
沈黙の帳が船を覆ったその時、レイアとゾールが顔を見合わせて頷いた。
「やるって……?」
「こっちの舞台に引きずり出すんだろ? でも上がってこないなら」
「ぶっ潰す!!」
ロッカはアルケミストデバイスを展開しながら、そしてレイアも魔術の詠唱を始める。それぞれの力を受け継ぎ、ゾールが鉄棍を振り上げ大きく跳躍した。
激しい揺れと炸裂する光と共に、甲板が波打つようにひび割れ大穴を開ける。
「はっはぁ! レーヴァ、覚悟だっ!!」
「無茶しすぎ!」
クレーターのように沈み込む甲板の真ん中でゾールが吼えたことに真上から真夕が覗き込み怒鳴り返した刹那、未悠が割れた甲板を跳ねるように下った。
「迂闊に動かないで!」
割れた甲板の朽ちる音の中に逆向きに折れる音が混じっていた。ゾールのすぐ近く。
子供たちの前では喜ばせるためにうさぎとなった彼女だが、今回はそんな洒落た気持ちもなく、甲板を次々飛び跳ね一気に駆け下る。
「なにを言ってる。レーヴァも下敷き……」
笑うゾールを取り囲む瓦礫の隙間から、赤い刃がのびるのが見えた。悪夢の再来が目に映る。
「もう……もう、後悔したくない!!!」
未悠の頭に何度も何度も守ろうとした人が、また先ほどのイグが倒れる姿が頭の中で何度も弾けるようにフラッシュバックする。視える世界がいくつにも重なっていた。
そんないくつもの映像を並べたような光景が、一斉に止まる。呼吸も、不意にできなくなる。
右肺を貫くようにして、未悠はその赤い刃を受け止めていた。だが貫いた刃はそのままゾールの腹部すらも同時に刺してはいたが、未悠の身体で受け止めたそれは浅く止まっている。
「ああ、ああああああああっ!!」
みるみる二人の身体に力が無くなり萎れる姿に真っ先に激昂したのはジュードだった。クレーターが魔法陣のように。あの剣が儀式の刃のように。
ヒンメルで保護されたジュードの視界もまた、記憶と現実が被って見えた。
ジュードはそのまま矢を放った。足止め? 仲間? ダメだ。頭が真っ白だ。
勢いだけで放った矢はマテリアルの青い光を帯びて、レーヴァの腰を貫いた。
「接近します。援護お願います」
アニスは盾を構えて翼を伸ばして跳躍すると、そのまま落下の勢いを身につける。身を呈しても少しでも二人の傷を減らすのがアニスの願いだった。だが、それを見越してか、レーヴァは剣を引き抜き体勢を変えた。
「そうそう何度もさせないわ。ゲールの分もまとめて返してあげるからね!」
潰れた顔が突如真っ黒に染まった。真夕が持っていた墨袋が当たり、その視界を染めた。胸にあるそれが目の役割をしているのかは謎ではあったが、アニスの突撃にカウンターを合わせるタイミングを違えさせたのは間違いない。
そのままアニスの盾による突撃で鈍い金属同士がぶつかる音が響いた。押し勝ったのは、落下の力を得たアニスだ。
「帰らねばならぬのです。支えてくれる人の為に、復讐だけでは終わらせないと、みんなして帰還するのです! テナティエルよ、創生の光を!」
アニスはそのままワンドを天に掲げ、自らの信奉する神に祈りを捧げ、未悠とゾールを癒す。
レーヴァはその光を忌避するように下がると、再び残骸の中に潜り込むように闇に消えていく。
「もう輪の中から逃れられんよ。大いなる円環、滅びの定めというやつだ。そこからコソコソ逃げようとするその姿は、実に卑屈だな。いくつもの歪虚を見てきたが、お前は一番見苦しい」
エアルドフリスの言葉と同時に残骸が蒼炎に包まれ吹き飛んだ。レーヴァの身ごと青い炎が穿ち、無様に這いつくばらせる。
「もう大丈夫だ、ジュード。お前の眼に悪いモノは排除したぞ」
「エアさん、エアさん、エアさん!」
ジュードの過去の戒めを視覚的に打ち払ったエアルドフリスに、ジュードは恐怖から解放された安堵感と、感激で泣きじゃくると物見台から飛び降りてエアルドフリスの胸に飛び込んだ。骨が砕けそうな勢いだったが、そこはきっちり受け止める。
帽子が同じネコミミなあたり、何も知らない仲間でも思わず良かったねと言いそうになってしまう。戦闘中じゃなきゃ言ってたかもしれない。
と、そんなエアルドフリスの視界に、黒い影が映った。焼き払ったレーヴァが跳躍して一気に甲板に登って来たのだ。下では得意の闇討ちもできずに集中砲火を浴びると判断したためだろう。
「ようやくこっちの考えにノッてきてくれたね……覚悟して」
アーシュラは眼光鋭くそう言い切るとディファレンスエンジンを動かした。目の前で仲間を傷つけられた悲しさ。ボラの皆が故郷のことに触れた瞬間にする昏い目。前族長スィアリの痛ましい姿。全部。全部。熨斗つきで返してやる!
アーシュラの元に飛び込んでくるレーヴァに向かって機導砲を叩きこみ吹き飛ばした。
その力を失って倒れこむレーヴァだが、腕と脚を折り重ねるような奇妙な着地をしたかと思うと、アーシュラを避けて横っ飛びに真夕に襲い掛かる。
「きゃあっ!!!」
突如の攻撃に体勢を崩し、赤い剣で切られることは避けたもののそのまま体当たりを浴びる形となって真夕は船外へと放り出されてしまう。
「真夕さんっ!」
アーシュラが手を伸ばすものの、掴んだのは真夕のチェックのリボンだけだった。
愕然とするアーシュラの後ろで、レーヴァは剣を振り上げ。
「させないよ」
風を切る音が響いたかと思うと、レーヴァの腕に幾条もの黒い線、ユリアンのワイヤーウィップが絡みついた。そして力を込めてしならせると、ワイヤーウィップはレーヴァの鎧を寸断した。
中身は、空っぽた。
「スィアリさんじゃないか……」
そんな一瞬の確認の間にレーヴァは失った腕をもう一つの腕で捕まえ、アーシュラにそのまま攻撃の続きを振り下ろしたが、かすった途端、空気をも震わせる雷撃鞭で身体を硬直させた。
「許さない……絶対」
吼えたてると同時にアーシュラのディファレンスエンジンが盛大に放電し、アーシュラの髪すら帯電して若干逆立てるほどだった。
「金獅子だな。下手に女の逆鱗触れたことを悔やむんだな」
それでもぎちぎちと動こうとするレーヴァにブリューナクを持ったカズマが懐に飛び込んだ。
「仇討ちも大詰めだ……人間は前に進まなきゃならねぇからな」
そのまま懐で身を捻じり、全身のバネを使って槍を振り上げ、レーヴァの腕を粉々に砕き剣は海のかなたへと吹き飛んだ。それを追いかけようとするレーヴァが船の外側からの光の爆発で船内に押し戻される。
「マテリアルよ、光の矢となりて敵を撃て!!」
真夕だった。レーヴァの剣戟を避けるためにわざとウォーターウォークをかけて海に落ちたのだ。
不意打ちは決まり、海に逃げることはできなくなった。
「レーヴァ。キミを乗り越えて僕たちは先に進むんだ。未来へ、ね」
そして傷を負ったイグとゾールの代わりに、ロッカがゆっくりと言い聞かせるように語り……
戦いは終わった。
●
「この疫病神、貧乏神! 鬼、悪魔! 人でなし!」
依頼者のメルツェーデスは何故かいきなり顔を合わすなりエアルドフリスを罵った。
思い当たるフシのある彼は思わず戸惑いつつパイプの煙をそのまま飲みこみ、メルツェーデスに胸を叩かれた。
「また修羅場?」
「修羅場は否定せんが、誤解だ」
ジュードの視線が若干危うい中、メルツェーデスはそのまま泣きじゃくって一言述べた。
「アンタが来ると全部ぶち壊されるのよ……必要悪も、無くなって欲しいと思う悪いことも全部……」
そして、ぽそり。とメルは感謝の言葉を述べた。そんなメルをアーシュラがぎゅっと抱きしめた。
「待たせてゴメンね」
「ノトのみんなは救えなかったけれど、仇はちゃんと討ったからね」
真夕の言葉にアーシュラとメルは二人で小さく頷いた。
「さあ、最後の仕事です。残された私達には先だった人達の新たな旅路を祈り、そして私達もまた想いを受けて歩むことを誓わなければなりません」
もう復讐に身が焦がされることがないように。
アニスは彼女が育てた数々の花をまとめたブーケを渡した。イチゴ、セントポーリア、石蕗、そしてスノードロップ。
「新たなる一歩を。荒ぶる過去よ。お休み。そして行ってくるよ……」
ユリアンの声と共にブーケは海へと投じられた。
「戦ったことがない? おいおい、因縁の相手なんだろ?」
船室に向けてゆっくりと階段を下りる龍崎・カズマ(ka0178)は後ろにいるイグの言葉に思わず振り返った。
「実際に見たのも一度だけだ。我々が目撃するのはいつも穢されきった後だ」
「それでどうしてレーヴァの仕業だってわかるの?」
「被害に遭った者は全員ゲールのように干からびていた。大地の穢され方をみても同一の敵である事は判ったが、結局姿を見たことはない。追いかけ続ける間に徐々に我々の狩場は少なくなり、次はここを狙うだろうと見張っていた時には、前族長のスィアリが消え、そして歪虚になって戻ってきた」
高瀬 未悠(ka3199)の問いかけに淡々と答えるイグの言葉にユリアン(ka1664)は言葉を出しかけて、そのまま飲みこんだ。
「甲冑姿だってのにそこまで姿を見せないってあたり、何かあるのかもしれねぇな」
カズマはたどり着いた船室の扉を前に、武器を構えなおし、片手で軽くノックし、耳をそばだてる未悠をちらりと見た。
「音はしないけど……いそうな気がする」
「同感だね。これが風が教えてくれるってことなのかな? 父さん。本気の殴り合いならしっかり準備しなきゃね」
肌が沸き立つような冷たさは歪虚と対峙した覚醒者なら差異はあれど感じる。そしてユリアンの言葉がけ通り、イグも覚醒を始め、全身が白い羽毛で覆われ巨大なフクロウのように変化していく。
「それじゃ、失礼……するぜっ」
カズマが扉を蹴り飛ばし、突入した。が、蹴破った扉はそのまま音もなくそのまま視界から消える。
「!」
床が、ない。ぐちゃぐちゃに壊された部屋は床が抜け、そのまま最下層へとつながっていた。下には無数の屍が腕を伸ばしまるで阿鼻叫喚地獄を眺めおろしているようだった。
何人もおびき寄せてはここで始末したのだろう。吹きあがって来る饐えた臭いがそれすべてを物語っていた。
「カズマ、危ない!!」
下に視線を取られたのが不味かった。
そいつは真上にいた。ネットを振り子のようにして床の奈落を飛び越え、そのままカズマを奈落へと蹴落とし、後ろに控えていたイグに弾丸となって襲いかかった。
咄嗟に先程まで立っていた床に手を伸ばし掴んだのは疾影士でなければできなかったかもしれない。カズマは片手で自らを支える頬に血の飛沫がかぶる。見上げれば負の刃と抜け落ちては幻影のように消える羽毛。
「イグ!!」
未悠が叫んだ。
目の前なのに。私は目の前でまた……失うのか?
そんな思いが未悠の獣化をさらに強くさせる。瞬間的にマテリアルを載せた刀で自分の身より大きな相手を叩き飛ばした。一撃は船を軽く揺らし、そいつを奈落の底に叩き落とした。
同時にユリアンが星のつぶてで追い打ちを駆けつつ、ワイヤーウィップを垂らして落ちかけたカズマを救出しつつ、こちらを見つめる歪虚をじっとみた。
全身鎧、は間違っていない。だが、ユリアン達が知っているような甲冑ではない。海に没した腐食してフジツボなどが巣食うようなもはや原形もわからない塊だった。それが組み合わさって初めて人間のような形をしているが、人間の形状とは呼べそうにない。手足の位置はバラバラだし頭は胸に沈んでいる。
「あれがレーヴァか?」
「前に見たのとは、随分違う……剣の形状も知っているものではない。が、漂うオーラは同じだ……間違いなく厄災だ」
白い羽毛を血で染めたイグが片膝をつきつつ、呻くように答えた。胸を強打したためか言葉はほとんど聞こえない。なのにへしゃげた胸を貫く刺突痕からは血が垂れ落ちるだけ。血が抜かれたのだとすぐユリアンは気づいた。
「喋らないで。治療、戻らなきゃ!」
どうして私でなくヒールの使える人間にしなかったのか。どうして危険を察知しながら注意しきれなかったのか。
どうして、
守れなかったのか。
「連れ出せねぇな。こっちの様子をじっと見てやがる」
「甲板で待ち構えているのは分かっているのかもしれない……とりあえずいったん戻るろう」
捜索班は窺う視線に武器を向けつつも一度甲板へと戻っていった。
●
「眩しき大気テナティエルの名の元に……」
アニス・エリダヌス(ka2491)の翼がはためくと光の粒子がカズマとイグを覆い、その傷をいやしていく。
「イグ、しっかり!!」
血を抜かれたイグをアーシュラ・クリオール(ka0226)は心配そうに覗くと、彼の真っ青な顔は徐々に赤みを増し、そして苦悶の顔も落ち着いたものに変わりゆくのを確認して彼女は抱きしめて安堵の嘆息を吐いた。
「上がってこないね……」
「自分の戦う場所を決めているのだろうな」
物見台の上からジュード・エアハート(ka0410) は輝く大弓にカンテラの光を当てて、船室へ入り口を始め、上がって来れそうな部分を照らし回ってみたが静かな物だった。
エアルドフリス(ka1856)もワンドを構え神経を張り巡らせて入るものの、レーヴァが姿を見せる様子はなく。じりじりとした気持ちを耐え忍び、気が付けばパイプの煙も尽きていた。
「影に潜むとかではなかったのよね」
「それなら真後ろから攻撃して吹き飛ばしていたはずだから、それはねぇだろう。見かけよかだいぶん賢いかもしんねぇが……落っこちた後はびくともしなかったからな。ロボットみてぇだ」
カズマの答えに七夜・真夕(ka3977)は考え込んだ。ロボットなら嫉妬型だし、奇怪な見た目は狂気にも思えるし、血を吸うのは暴食。まるで雑魔のようだ。
強力になればなるほど姿形だってそれぞれのタイプを想起させる外見を取る傾向がある。なのにボラ族やノト族を倒すほどの力があるというのは。ボタンがかけ違ったような違和感が真夕には感じられた。
「埒が明かないわ」
「やるか」
沈黙の帳が船を覆ったその時、レイアとゾールが顔を見合わせて頷いた。
「やるって……?」
「こっちの舞台に引きずり出すんだろ? でも上がってこないなら」
「ぶっ潰す!!」
ロッカはアルケミストデバイスを展開しながら、そしてレイアも魔術の詠唱を始める。それぞれの力を受け継ぎ、ゾールが鉄棍を振り上げ大きく跳躍した。
激しい揺れと炸裂する光と共に、甲板が波打つようにひび割れ大穴を開ける。
「はっはぁ! レーヴァ、覚悟だっ!!」
「無茶しすぎ!」
クレーターのように沈み込む甲板の真ん中でゾールが吼えたことに真上から真夕が覗き込み怒鳴り返した刹那、未悠が割れた甲板を跳ねるように下った。
「迂闊に動かないで!」
割れた甲板の朽ちる音の中に逆向きに折れる音が混じっていた。ゾールのすぐ近く。
子供たちの前では喜ばせるためにうさぎとなった彼女だが、今回はそんな洒落た気持ちもなく、甲板を次々飛び跳ね一気に駆け下る。
「なにを言ってる。レーヴァも下敷き……」
笑うゾールを取り囲む瓦礫の隙間から、赤い刃がのびるのが見えた。悪夢の再来が目に映る。
「もう……もう、後悔したくない!!!」
未悠の頭に何度も何度も守ろうとした人が、また先ほどのイグが倒れる姿が頭の中で何度も弾けるようにフラッシュバックする。視える世界がいくつにも重なっていた。
そんないくつもの映像を並べたような光景が、一斉に止まる。呼吸も、不意にできなくなる。
右肺を貫くようにして、未悠はその赤い刃を受け止めていた。だが貫いた刃はそのままゾールの腹部すらも同時に刺してはいたが、未悠の身体で受け止めたそれは浅く止まっている。
「ああ、ああああああああっ!!」
みるみる二人の身体に力が無くなり萎れる姿に真っ先に激昂したのはジュードだった。クレーターが魔法陣のように。あの剣が儀式の刃のように。
ヒンメルで保護されたジュードの視界もまた、記憶と現実が被って見えた。
ジュードはそのまま矢を放った。足止め? 仲間? ダメだ。頭が真っ白だ。
勢いだけで放った矢はマテリアルの青い光を帯びて、レーヴァの腰を貫いた。
「接近します。援護お願います」
アニスは盾を構えて翼を伸ばして跳躍すると、そのまま落下の勢いを身につける。身を呈しても少しでも二人の傷を減らすのがアニスの願いだった。だが、それを見越してか、レーヴァは剣を引き抜き体勢を変えた。
「そうそう何度もさせないわ。ゲールの分もまとめて返してあげるからね!」
潰れた顔が突如真っ黒に染まった。真夕が持っていた墨袋が当たり、その視界を染めた。胸にあるそれが目の役割をしているのかは謎ではあったが、アニスの突撃にカウンターを合わせるタイミングを違えさせたのは間違いない。
そのままアニスの盾による突撃で鈍い金属同士がぶつかる音が響いた。押し勝ったのは、落下の力を得たアニスだ。
「帰らねばならぬのです。支えてくれる人の為に、復讐だけでは終わらせないと、みんなして帰還するのです! テナティエルよ、創生の光を!」
アニスはそのままワンドを天に掲げ、自らの信奉する神に祈りを捧げ、未悠とゾールを癒す。
レーヴァはその光を忌避するように下がると、再び残骸の中に潜り込むように闇に消えていく。
「もう輪の中から逃れられんよ。大いなる円環、滅びの定めというやつだ。そこからコソコソ逃げようとするその姿は、実に卑屈だな。いくつもの歪虚を見てきたが、お前は一番見苦しい」
エアルドフリスの言葉と同時に残骸が蒼炎に包まれ吹き飛んだ。レーヴァの身ごと青い炎が穿ち、無様に這いつくばらせる。
「もう大丈夫だ、ジュード。お前の眼に悪いモノは排除したぞ」
「エアさん、エアさん、エアさん!」
ジュードの過去の戒めを視覚的に打ち払ったエアルドフリスに、ジュードは恐怖から解放された安堵感と、感激で泣きじゃくると物見台から飛び降りてエアルドフリスの胸に飛び込んだ。骨が砕けそうな勢いだったが、そこはきっちり受け止める。
帽子が同じネコミミなあたり、何も知らない仲間でも思わず良かったねと言いそうになってしまう。戦闘中じゃなきゃ言ってたかもしれない。
と、そんなエアルドフリスの視界に、黒い影が映った。焼き払ったレーヴァが跳躍して一気に甲板に登って来たのだ。下では得意の闇討ちもできずに集中砲火を浴びると判断したためだろう。
「ようやくこっちの考えにノッてきてくれたね……覚悟して」
アーシュラは眼光鋭くそう言い切るとディファレンスエンジンを動かした。目の前で仲間を傷つけられた悲しさ。ボラの皆が故郷のことに触れた瞬間にする昏い目。前族長スィアリの痛ましい姿。全部。全部。熨斗つきで返してやる!
アーシュラの元に飛び込んでくるレーヴァに向かって機導砲を叩きこみ吹き飛ばした。
その力を失って倒れこむレーヴァだが、腕と脚を折り重ねるような奇妙な着地をしたかと思うと、アーシュラを避けて横っ飛びに真夕に襲い掛かる。
「きゃあっ!!!」
突如の攻撃に体勢を崩し、赤い剣で切られることは避けたもののそのまま体当たりを浴びる形となって真夕は船外へと放り出されてしまう。
「真夕さんっ!」
アーシュラが手を伸ばすものの、掴んだのは真夕のチェックのリボンだけだった。
愕然とするアーシュラの後ろで、レーヴァは剣を振り上げ。
「させないよ」
風を切る音が響いたかと思うと、レーヴァの腕に幾条もの黒い線、ユリアンのワイヤーウィップが絡みついた。そして力を込めてしならせると、ワイヤーウィップはレーヴァの鎧を寸断した。
中身は、空っぽた。
「スィアリさんじゃないか……」
そんな一瞬の確認の間にレーヴァは失った腕をもう一つの腕で捕まえ、アーシュラにそのまま攻撃の続きを振り下ろしたが、かすった途端、空気をも震わせる雷撃鞭で身体を硬直させた。
「許さない……絶対」
吼えたてると同時にアーシュラのディファレンスエンジンが盛大に放電し、アーシュラの髪すら帯電して若干逆立てるほどだった。
「金獅子だな。下手に女の逆鱗触れたことを悔やむんだな」
それでもぎちぎちと動こうとするレーヴァにブリューナクを持ったカズマが懐に飛び込んだ。
「仇討ちも大詰めだ……人間は前に進まなきゃならねぇからな」
そのまま懐で身を捻じり、全身のバネを使って槍を振り上げ、レーヴァの腕を粉々に砕き剣は海のかなたへと吹き飛んだ。それを追いかけようとするレーヴァが船の外側からの光の爆発で船内に押し戻される。
「マテリアルよ、光の矢となりて敵を撃て!!」
真夕だった。レーヴァの剣戟を避けるためにわざとウォーターウォークをかけて海に落ちたのだ。
不意打ちは決まり、海に逃げることはできなくなった。
「レーヴァ。キミを乗り越えて僕たちは先に進むんだ。未来へ、ね」
そして傷を負ったイグとゾールの代わりに、ロッカがゆっくりと言い聞かせるように語り……
戦いは終わった。
●
「この疫病神、貧乏神! 鬼、悪魔! 人でなし!」
依頼者のメルツェーデスは何故かいきなり顔を合わすなりエアルドフリスを罵った。
思い当たるフシのある彼は思わず戸惑いつつパイプの煙をそのまま飲みこみ、メルツェーデスに胸を叩かれた。
「また修羅場?」
「修羅場は否定せんが、誤解だ」
ジュードの視線が若干危うい中、メルツェーデスはそのまま泣きじゃくって一言述べた。
「アンタが来ると全部ぶち壊されるのよ……必要悪も、無くなって欲しいと思う悪いことも全部……」
そして、ぽそり。とメルは感謝の言葉を述べた。そんなメルをアーシュラがぎゅっと抱きしめた。
「待たせてゴメンね」
「ノトのみんなは救えなかったけれど、仇はちゃんと討ったからね」
真夕の言葉にアーシュラとメルは二人で小さく頷いた。
「さあ、最後の仕事です。残された私達には先だった人達の新たな旅路を祈り、そして私達もまた想いを受けて歩むことを誓わなければなりません」
もう復讐に身が焦がされることがないように。
アニスは彼女が育てた数々の花をまとめたブーケを渡した。イチゴ、セントポーリア、石蕗、そしてスノードロップ。
「新たなる一歩を。荒ぶる過去よ。お休み。そして行ってくるよ……」
ユリアンの声と共にブーケは海へと投じられた。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- シグルドと共に
未悠(ka3199)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/01/27 09:07:30 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/22 21:59:54 |