スノウメヰデン4

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/30 19:00
完成日
2016/02/10 07:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 オプストハイムの奥地。長老達が集う卓に、今は二人だけが向き合っていた。
 恭順派長老であるジエルデ、そしてヨハネ。ジエルデの剣呑な視線をかわし、ヨハネは笑みを作る。
「浄化術の輸出はエルフハイムの存在感を世界的に知らしめ、そこから得られる経済的な見返りは嘗てないほどだ。帝国が支払った額を聞けば君も驚くよ」
「……だから“新たな器”が必要だと?」
「誰がそんな事を?」
 浄化術の輸出とは即ち術者の輸出だ。東方での戦い、そして北伐戦では多くの巫女達が犠牲になった。
 その補填としてより多くの巫女が必要となり、今や年端もいかない少女にまで教育を施している。
「巫女とは選ばれた高位の適正者だけが務める役職であったはずです」
「勿論、言いたい事はわかるよ。けれど、時代は変わっていくんだ。それを君も望んでいる筈だろう?」
 そう、時代は変わった。だからこそ器があんな風に笑えるようになった。
 古き因習が少女から奪った人間性を、少しずつ取り戻し始めた。だがそれもこれも、ヨハネの戦略があってこそ。
「多くの巫女が生まれ、器の負担が低減すれば彼女に名も与えられる。いつか君も、“ホリィ”と呼んであげられる筈だよ」
 唇を噛み締め視線を逸らすジエルデ。ヨハネには乱れた彼女の胸中が手に取るようにわかった。
 今彼女は犠牲者を選んでいる。器の代わりに誰かを生け贄に捧げれば、あの子を救える。その事実に打ちのめされているのだ。
「必要なんだよ。エルフハイムの新たな未来を支える次世代の力……“人形達(ドールズ)”がね」
「黙認しろというの? あなたの罪を……」
「罪ではないよ。痛みはあるさ。けれどそれをホリィ一人に背負わせる世界は間違ってる……救いたいんだ、君達を」
 立ち上がり歩み寄るヨハネの伸ばした手を跳ね除けるジエルデ。そこへ突然、声が割り込んだ。
「あー、お楽しみの所申し訳ねぇな。ヨハネ、緊急事態だ」
 いつからそこにいたのか。暗がりから姿を見せた男が肩を竦める。
「ハジャ……?」
「よっ。まあお話はそこまでだ。連中、帝国の混乱に乗じたつもりだな。真っ直ぐにナデルハイムを目指してやがる」
「何の話?」
「歪虚だよ。決まってんだろ? 帝国が今どういう状況なのか、知らないわけじゃねぇだろ?」

 ハイデマリー・アルムホルムの工房はナデルハイムの一画にある。
 維新派長老ユレイテルの許可があったとしても異端中の異端である彼女の工房に住民は寄り付かない。たったひとりを除いて。
 作業机に座り、機導装置の改良に没頭するハイデマリーの横顔を浄化の器はベッドで膝を抱えじっと見つめていた。
「歌、すごかったね」
「そうね」
「ヒトはどうして歌うのかな?」
「ずっと昔、ありとあらゆるヒトは一つだった。でも神様の怒りに触れて、彼らは言葉を奪われた。互いの言葉がわからないから恐怖し、愛を忘れ、憎みあった」
 手を止めず語るハイデマリーに首を傾げる。
「その争いを止めたのは歌だった。何を意味しているのかはわからない。けれどその音色は誰の耳にも心地よく、涙を誘った。武器を捨て同じ歌を歌う。意味はわからなくとも……」
「それで?」
「その後は覚えてない。昔読んだお伽話だから」
 ぐっと背中を伸ばし、ハイデマリーは小さな装置をデスクライトに翳す。
「新型の浄化カートリッジ。これを組み込めば、高位の機導師なら誰でも簡単な浄化術を使えるようになる……予定」
「それってすごい?」
「かなりすごいで~す。ま、あんたがパクったローエングリンからかなりヒントもらってるけどね……」
 掌に置かれた装置をまじまじと見つめ、瞳を輝かせる器。ハイデマリーは頬杖をつき、その様子に目を細める。
「……師匠もこんな気持ちだったのかしらね」
 少女の頭に手を乗せ、軽く撫でてみる。こっちの事はお構いなしにカートリッジを転がしていたその気配が変わったのは、数秒後の事だ。
「結界が破られた」
「え?」
「敵意が感じられなくなった……どうして……?」
 素早く工房から駆け出す器。森の空、遠くが赤く染まっている。どこかで火災が起きている証拠だ。
「何……?」
 ナデルハイムのあちこちで騒ぎを確かめようと表に出る人々の姿が見えた。器は目を閉じ深呼吸するが、首を横にふる。
「だめだ……結界林が機能してない。敵の数も正体もわからない」
 思わず息を呑む。嘗てこの森を守るための戦いの最中、術者を的確に攻撃し六式浄化結界の妨害をした敵がいた。
 エルフハイムの術に精通する敵――その存在に心当たりがある。
「まさか……あ、ちょっとホリィ!?」
「ハイデマリーは工房にいて! 直ぐに戻るから!」
 覚醒し強く大地を蹴るとすぐにその背中を見失う。
「まったくもう……! 何がどうなってるっていうのよ!」
 舌打ちを一つ残し、女は銃と上着を取る為工房へ駆け込んでいった。

「何が起きている! 結界林の修復はまだか!?」
 エルフハイムの警報システムである結界林にはいくつかの集約地点がある。
 その一つに駆けつけた警備隊は術者に修復を急がせるが、困惑するばかりでいつまでもシステムは復旧しない。
「だ、駄目です……全くの原因不明で……!?」
 その時だ。森の外から多数の歪虚の気配が迫ってきたのは。
 機械化された大型の蜘蛛の群れが警備隊へと襲いかかる。予想外の敵襲に警備隊は後手を取り、一人また一人と倒されていく。
「何故この位置に敵が……結界の結び目がわかっているとでも……ぐああっ!?」
 男が蜘蛛に群がられ倒れる姿に巫女は怯える。そこへ突如後方から機械剣が飛来し、巫女を襲う蜘蛛へ突き刺さった。
 遅れて突っ込んできた器がオーラを纏った体当たりで蜘蛛をまとめて吹き飛ばし、剣を抜き構える。
「大丈夫?」
「あ、ひぃ……!? 器だ! 浄化の器がなんでこんな所に!?」
「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
 逃げ出す警備隊に置き去りにされた巫女に手を伸ばす。震える手を握り強引に立ち上がらせると、その尻を強く叩き。
「しっかり立って。ユレイテルにこの事を伝えて。破られた結界を立て直すの。ジエルデが手を貸してくれる」
 呆然とする巫女に首を傾げもう一度尻を叩こうとするが、高速で首を縦に振ると手を放してくれた。
「もう行って」
「あ、あの……ありが…………っ」
 口ごもり走りだす。結局礼の言葉は言えなかった。
 聞いていた話と違いすぎたから。アレがあの浄化の器?
「まるで……普通のエルフみたい……」
 蜘蛛の残骸を蹴飛ばし身構えると、多数の増援が迫ってくる。とにかくここを通せばナデルが危険に晒される。
 面倒くさそうに息をつき。しかしどこか嬉しそうに。
「守るための戦い、か」
 いつだったかハイデマリーに教わったように、敵に手招きし。
「かかってきな、ザコども。片っ端から――解体してやんよ」
 練習していた決めポーズと共に地を蹴った。

リプレイ本文

●緩衝領域
 エルフの森は嘗てない規模の混乱の中にあった。
 大量に侵攻する暴食の軍勢に警備隊だけでは対処が追いつかず。ついにはナデルハイムにまで侵入を許す始末。
「くそ、結界林がなくては敵の数も進軍ルートもわからん……友軍がどこにいるのかすら……!」
「隊長、敵が来ます!」
 若いエルフが叫ぶ。森の外からガサガサと駆動音を上げながら接近する蜘蛛型の剣機達。それに続き、鎧騎士の剣機が迫ってくる。
 蜘蛛は森の複雑な地形に多脚で対応している。木々の間を飛び跳ねながらレーザーを放ち、警備隊を攻め立てる。
「応戦しろ! これ以上奴らをナデルハイムに通すな!」
 弓を放ち応戦する警備隊だが、歪虚の勢いを止める事はできない。
 レーザーに撃たれ倒れる者、飛びかかる蜘蛛の牙の犠牲になる者。そうして防衛線に穴ができれば、敵はナデルハイムへ向かってしまう。
 短剣でアラクネ型を仕留める隊長だが、そこへエルトヌス型が近寄り、振り上げた剣を輝かせた。
 しかし次の瞬間銃声が轟き、エルトヌスの振り上げた剣が弾ける。そして人影が素早く駆け寄り、大剣を側面から脇腹に突き刺した。
「間に合ったか……いや、この状況では間に合ったとは言えんか」
 銃を構えたまま険しい表情の弥勒 明影(ka0189) 。春日 啓一(ka1621) は倒れたエルトヌスの首に大剣を突き立て舌打ちする。
「どこもかしこも敵だらけか……どうなってやがる」
 突破を試みようと突進する歪虚達へレクイエムを放ちシガレット=ウナギパイ(ka2884)が妨害すると、紅薔薇(ka4766)は抜刀したまま走り、次々に蜘蛛を切り裂いていく。
 あっという間に殲滅された敵集団に驚く警備隊。そこへ神楽(ka2032)が声をかける。
「長老からの依頼で協力しにきたっすよ」
「長老……? 外部の者にか?」
「維新派長老のユレイテルからの依頼だ。流石に名前くらいは知ってるだろォ? それと……」
「帝国軍第三師団からの依頼である。我々も此度の防衛戦に参戦させて頂く」
 シガレットの言葉にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は“帝国軍”の部分を強調するように続ける。
 今言おうとしていたんだと言わんばかりに肩を竦めるシガレットを他所にアウレールは咳払いを一つ。
「帝国とエルフハイムは不可侵条約を結んでいる……が、有事の際には力添えを惜しまない。それが……帝国皇帝たるヴィルヘルミナ陛下のご意思である」
 やや俯きがちに語り、しかし最後にはぐっと顔を上げ前を見据えるアウレール。警備隊は顔を見合わせ。
「……わかった。君たちの助力を受け入れよう」
「ほ……本気ですか、隊長!?」
「今は藁にも縋らねばならない。だが、警備隊の中には君たちを快く思わない者もいるだろう。私もただの部隊長だ……他の隊に指示を出す程の権限はない」
「別に俺らをどう思おうが勝手だ。俺らはエルフに好かれたいわけじゃねぇ。ただエルフハイムを守りたいだけだからな」
 啓一の言葉に返せる言葉はなかった。隊長は「すまない」と一言だけ告げる。
「それにしても、今どういう状況なの? エルフハイムに入るのなんて初めてだし、よくわかってないんだけど」
「ああ。実は……」
 多々良 莢(ka6065)の質問に隊長は応じる。
 結界林と呼ばれる警報システムが機能していない事。それは恐らく敵の妨害によるものであるという事。
 その話を聞き、ハッド(ka5000)は腕を組みしきりに頷く。
「うむうむ。敵の動きの良さ、結界林の無力化等を考えれば、オルクスんがこの奇襲に関与しておるとみて間違いあるまいて」
「オルクスって?」
 首を傾げる莢。見れば周囲のハンター達は各々微妙な表情を浮かべている。
「あー……話すと長くなるんだなァ、これが」
「奴の事はひとまず捨て置け。遭遇する可能性がないとは言わぬが、今は他にやるべきことがあるはずだ」
 シガレットとアウレールを交互に見やり、莢は頬を掻き。
「あ、うん。よくわかんないけど、そっとしとく。なんかめんどくさそうだしー。それより、敵は結界の継ぎ目っていうのを狙ってるんだよね?」
「あ、そうそう。結界の継ぎ目がわかるなら、そこまで俺たちを案内して欲しいっす」
「妾達は結界術に関しては門外漢故に修繕は難しいが、歪虚が原因を作っておるのなら、結界の継ぎ目に仕掛けを施している筈じゃ。それと見てわからぬほどハンターは愚かではないのでな」
 神楽と紅薔薇の言葉に隊長は険しい表情を浮かべ。
「……それは出来ない。外部の人間に結界の継ぎ目を教えるという事は、森の弱点を教えるのと同義だ」
「おいおっさん……んな事言ってられる状況かよ?」
「このままでは総崩れになる。結界の立て直しが急務である事はわかるだろう?」
 啓一と明影が説得しても隊長は首を縦に振らない。
 警備隊には警備隊の面子とルールがある。ハンターの参戦は長老の正式決定故に従えるのだが、結界の場所を教える事は越権であった。
 そんな時だ。木々の影から一人の巫女が姿を見せたのは。
「あの……。私で良ければ……その、ご案内致します」
「……え? いいの? 怒られちゃうんじゃない?」
「私は接合点の修繕を命じられた巫女です。どちらにせよ接合点に向かいます。皆様が勝手についてきたとしても同じことです」
 莢の問いかけにおずおずと頷く巫女。明影は嬉しそうに笑みを作り。
「……フッ。詭弁だな。だが、その勇気は尊い」
「貴公らにはこの魔導短伝話を渡しておく。何かあったら直ぐに連絡を寄越してくれ」
「ど、どうやって使うのだ?」
 冷や汗を流すアウレール。エルフ達は思った以上に機械に疎く、一から説明しなければならなかった。
「あの……急いで下さい。実はこの先で浄化の器が一人で戦っていて……」
「おお、器んがおるのか?」
「それは妾たちも先を急がねば……アウレール殿!」
「ま、待て……よし、大丈夫だ。そのボタンを押して……違うそうではない、こっち……すまない、待たせたな!」
 アウレールを待ってハンター達は走り出した。薄暗い森の中、更なる敵を目指して……。


●化物でいい
 襲いかかるエルトヌス型を切り伏せ、器は聖機剣を杖代わりに大地に突き立てる。
 何体の歪虚を倒したか、既に数は覚えていない。披露はずっしりと全身に荷重を加え、無数の浅い傷は血と共に体温を奪っていく。
 いつの間にか息も上がっている。それが整うまで待たず、新たな敵が襲い掛かってくる。
「いつもより、きつい……」
 当然だ。器は一人で戦った事などなかった。
 好き勝手に暴れているようで、実はいつも周囲のフォローがあったのだ。
 ハイデマリーやジエルデ、他の巫女達。そしてハンターの存在。
「やっぱり一人は……結構心細いな」
 ぽつりと呟いた直後、神楽の放った銃弾がアラクネを貫く。更に器に対する左右からの攻撃を啓一と明影が防ぐ。
「よう。久しぶりだな、ホリィ」
 大剣で攻撃を防いだ啓一はアラクネの足を掴むと思い切り放り投げる。それを跳躍した莢の刀が切り裂いた。
「みんな無茶するなあ」
「無事じゃったか、ホリィ殿! 我らが来たからにはもう大丈夫じゃ!」
「紅薔薇……」
「ちっと休んでなァ。今回復してやっからよォ」
 シガレットは器を連れて後ろに下がるとヒールを施し始める。
「ありがとう……でも、よくここがわかったね」
「あァ。耳の良い奴が多いのと、案内があったからなァ」
 シガレットの視線の先には息を切らして立つ巫女の姿があった。
「あ。さっきの」
「……ハ、ハンターさん! あの奥です! 結界の接合点になる、ひときわ大きな樹があります!」
「む……? 剣機が群がっておるあれか!」
 闇に目を凝らす紅薔薇。大樹には蜘蛛型の剣機が多数ひしめき合い、紫色の光を放っている。
「うわー、きも……」
「ふん。あの程度の雑兵、妾が一掃してくれる!」
「実際一掃できるであろうな。ではあれは紅薔薇殿に任せる。我らは敵をナデルハイムに通さぬよう、ここで殲滅するぞ!」
 青ざめる莢。アウレールの号令と共に紅薔薇が一人で飛び出すが、ハンター達は接近する敵へ刃を向ける。
「わらわらと鬱陶しいんだよ……!」
 大剣で蜘蛛の集団を薙ぎ払う啓一。撃ち漏らしはあるが、そこは神楽と明影が銃撃で潰していく。
 エルトヌス型が剣を手に莢へ襲いかかる。蜘蛛相手に気が逸れたところへの攻撃に慌てる莢だが、そこへアウレールが盾を差し込み、腕を振るって剣を跳ね上げた。
 すかさず莢が刀で腕を切り落とすと、明影がエルトヌスを撃ち抜く。
「あぶなかったー。ありがとうだね」
「礼は不要だ。それよりもっと私の側にいたまえ」
 紅薔薇は妨害するエルトヌスの放つ火炎放射を跳躍して回避すると、その頭を踏み台に空を舞う。
 空中を高速で回転しながら刃を抜くと、マテリアルを帯びた剣戟が嵐のように瞬き、樹に群がっていた蜘蛛達は一瞬で細切れになった。
「……えげつねぇな」
「敵ながら同情するぜェ~」
 冷や汗を流す啓一。シガレットは笑いながらヒールを続ける。
 そこへ巫女が駆け寄り、大樹に触れた。マテリアルの光が瞬くと、大樹は緑色の光に包まれ、やがて静かに収まっていく。
「こ、これで……ここはもう大丈夫です」
「すごいね」
 汗を拭いながら振り返った巫女に器は優しく笑いかける。
「私はこの森で一番すごい巫女だと思ってた。だけど私にソレはできなかった。私にできないことができるなんて……すごいね」
「え……っと……そのぉ……」
 照れたように戸惑う巫女。だがそこへ怒声が響く。
「おい、貴様! 命令違反で単独行動をとった挙句……部外者を接合点へ招き入れたのか!?」
 びくりと背中を震わせる巫女。振り返るとナデルハイム方面から近づいてきた警備隊の姿があった。
「貴様ら……人間どもが何をしに来た! それに……浄化の器を連れているとはどういう事だ!? まさか貴様ら、この混乱に乗じて……!」
「ち、違うっす! 俺らはたまたまここで浄化の器と合流しただけで、持ちだしたとかではないっす!」
「我らは帝国軍と維新派長老の依頼で支援にきたハンターだ。貴公らと事を構えるつもりはない」
 神楽とアウレールが説明するが、警備隊の猜疑心が薄まる事はない。互いに距離を置いたまま、特に器に奇異の目を向けている。
 それに気づいたのか、器は隣に立っていた巫女から身を引いて距離を取った。
「私は森の防衛の為、皆を守る為にここにきた。それは自分の意志で、この人達には関係ないよ」
「自分の意志……そのように言えと強要されたのか?」
「そうじゃなくて……」
「器が意志を持って話す等ありえん! やはり人間に何か吹きこまれたのだな!?」
 武器を構える警備隊に器は呆然としていた。話が通じない。いや、そもそも話をしようと思ったことさえもなかったのだが。
「おいおい……いい加減にしろよ。エルフが堅物なのは良いが、状況すらまともに見られねぇのか?」
「人見知りや不仲も結構だが、お前たちが成すべき事を忘れるのは頂けんな。街の守護より己の感情が優先か? 笑わせるな」
 啓一と明影が睨み返すが、エルフは動じない。しかし緊迫した状況は長くは続かなかった。
「ちょっと……それより敵が来てるって!」
 莢が叫んだ通り、新手が迫っていた。ハンターは睨み合いを中断し歪虚に身構える。
「さっきより数が多いぜェ……!」
「巫女殿、私の側に!」
 銃を構えるシガレット。アウレールは巫女に駆け寄り、剣と盾を構える。
「まったく……余計な諍いなど起こしている場合ではなかろ~に……」
「まー、エルフハイムって元々こういうのが普通の集団っすからねぇ……」
 唇を尖らせつつ剣を握るハッド。神楽はわしわしと頭を掻き、銃を構える。
「ホリィ殿、既に傷の具合は大丈夫かの? ……ホリィ殿?」
 ぼんやりとした器の横顔に眉を潜める紅薔薇。器は頭を振ると、そっと聖機剣を構える。
「大丈夫。まだやれる」
 接近する敵集団を明影、神楽、シガレットが銃で迎撃。それを抜けた敵へ啓一、紅薔薇、莢、器が駆け寄る。
 四人の前衛はそれぞれ剣を構え突撃。体当たり気味にそれぞれ敵を串刺しにする。
 警備隊も歪虚を無視は出来ず、弓や剣で迎撃を開始。アウレールとハッドが警備隊を襲う敵を狙う。
「ここはひとつ、王の威光を森の民に示さねばなるまいて~!」
 ウィンクするハッドだが、現場の雰囲気は最悪だ。一応共闘にはなっているが、互いに警戒を解くことができない。
「あーもう、斬っても斬っても減ってる感じがしないなぁ……!」
「この程度の雑魚何匹来た所で相手にはならねぇが……流石に体力には限界があるぜ」
 敵の対処でいっぱいいっぱいの莢。啓一はまだうごめいている蜘蛛の死体を片足で踏みつけながら舌打ちする。
「おい……何やってンだ! もっと真面目に戦え!」
 シガレットの叫びに警備隊がたじろぐ。警備隊は先程から最低限の自衛程度しか攻撃を行っていない。
「年端もない女の子が戦ってるんだ! 護らなきゃ男が廃るってモンだろォ!!」
「き、貴様らは浄化の器の恐ろしさを知らんからそのような事を言えるのだ。あれは女でも子供でもない……化物だ!」
 背中でその声を聞いた器の横顔を心配げに覗きこむ莢。だが器はいつも通りの無表情だ。
「首輪の外れた化物がいかに危険か、貴様ら人間でも理解できるだろう!? アレはたった一人で森を潰す程の……!」
「――化物でもいいよ」
 器は目を瞑り、すっと息を吸い。
「それでも、私はこの森を守る。皆を守るから。私は……誰かに好かれたいわけじゃない。ただ、この森を守りたい。それが私の意志だから」
 そんな言葉に啓一は目を丸くする。少し前に、自分が言った言葉とよく似ていた。
「ぷ……ふ、ははは! その意気や素晴らしい。見ろ、お前達など歯牙にもかけぬとさ」
 堪えきれなくなったように吹き出す明影。それから目尻の涙を拭い。
「大丈夫だ、ホリィ。お前一人に守らせたりはしない。俺も負けてはいられんからな」
「恐れるなとは言わん。だが彼女をよく見てあげて欲しいのじゃ。化け物等では無く、人々を守ろうとする一人のエルフの姿を」
 紅薔薇はそう言って器の肩を抱く。再び出現する敵、しかしハンターは果敢に挑みかかる。
(紅薔薇殿……やりすぎだぞ……!)
 近づく敵を片っ端に撃破する紅薔薇と器。その力はやはり図抜けている。
 しかし、ハンター達は決して劣ってはいない。それぞれが自分に出来る事を精一杯努力し、声を掛け合い、一歩も引かずに奮戦している。
 器は強い。それこそこの森の中では図抜けた力の持ち主だろう。
 しかし強い力は畏怖の対象となる。結局のところは恐怖こそがヒトの目を曇らせるのだ。
 だからこそ、アウレールは器の力を抑えるべきだと考えていた。しかし、ハンターの奮戦を見て溜息を零す。
(そう……一人だけが飛び抜けているから“特別”になる。ホリィ殿と並び立てる者がいると示せれば……)
(“対抗策”が共にあると示せれば……?)
 雄叫びと共に刀を振るう紅薔薇。その背中にアウレールは目を細め。
「貴公らが恐れ、虎の子のように秘めている器だが……見ろ。あの程度の覚醒者は、森の外には大勢いるのだ。勿論、帝国軍にもな」
「な、なに!?」
「帝国軍を統べる騎士皇ヴィルヘルミナ陛下筆頭に、帝国軍が擁する師団長たちはそれぞれが卓越した戦闘力を持つ覚醒者である。仮に器の身に何か起きたとしても、帝国領内における限り必ず解決策を提示してくださる筈だ。無論、我々ハンターの中にも師団長に匹敵する者は大勢いる。彼ら素晴らしき勇者達が、有事の際エルフハイムへの助力を惜しむことは決してない!!」
 握り拳で力説するアウレール。それに圧倒された警備隊に、巫女が声をあげる。
「こ……この人達なら大丈夫です! すごく強くて……見てください。あんなに沢山の敵を相手にして……。浄化の器も……私達を助けてくれました。例え心のない道具だったとしても……自分たちに敵意があるかどうかがわからないほど、警備隊は愚かではないはずです!」
 思い切り叫んだ後、顔を真っ赤にする巫女。アウレールはきょとんとした後、優しくその肩を叩いた。
「疑るならばご照覧あれ! 我らソサエティの勇者! 浄化の器と共に獅子奮迅の活躍を約束しようぞ!」
 剣を掲げ叫ぶアウレール。警備隊に背中を向け、ちょっと溜息を零す。
(こうなってしまったものは仕方あるまい……最早ままよ……)
 戦うハンター達を目の前にし、警備隊に動揺が走る。
 しかしやがて無言で一人、また一人と戦いに加勢し始める。
 それはアウレールの言葉に揺さぶられただけではない。器一人に責任を、戦いを押し付けて見ているだけの自分たちと、そんな彼女と共に肩を並べて戦うハンター達。その対比がまざまざと見せつけられたからだ。
 外部の人間や器に対する偏見が消えたわけではない。しかし、あんな大見得を切られてそれで安堵しているようでは、あまりにも情けなさすぎる。
「……ええい! くそ、くそ! やるぞお前達!」
 自らを奮い立たせるように雄叫びと共に武器を掲げ走り出す警備隊。
 それはエルフらしからぬ、実に粗野な勇気だった。


●思い出の先へ
「へっ、やりゃあできんじゃねェか」
 多数の剣機の残骸を前に笑みを作るシガレット。警備隊はぜえはあと息を切らしながら、それでもハンターの戦いに必死に食らいついた。
「……さてと~。俺たちはこれから森外周を巡って敵を撃破しつつ結界林を再起動するっすけど、浄化の器はどっちが運用するっす? そっちが責任持つなら任せても構わないっすけど?」
「白々しいぞ人間……。悔しいが、我らに器を御する力などない。それに貴様らを信用したわけでもない。迎撃には我々も同行する……!」
 汗だくの隊長を前に笑う神楽。明影は帽子を目深に被り。
「それでいい。虚勢でも張らぬよりはましだ。……ここはもう十分だろう。俺たちも市街地に向かうべきではないか?」
「あ、そうだね……。この辺の敵は片付いたし、後は探して潰していくだけだから……」
「うむ。ここからは手分けをした方が効率がよさそうじゃの~! 超聴覚で我輩が敵の下へと案内するのじゃ! 奴らの移動音は独特じゃからの~、間違えはあるまい」
 莢の言葉に頷くハッド。巫女は胸の前で手を組み。
「あの……ナデルハイムを、お願いします……! こっちは、私達がなんとかしますから!」
「気をつけろよ」
 剣を背負った啓一の言葉に頷く器。ハンター達はこうして二手に分かれ行動を開始した。

「むむむ~……聞こえる、聞こえるぞ~! 敵はこっちじゃの~!」
 耳を澄ませるハッドの指差す方向へ走る啓一。走れば火の手が上がっているのが見える。
 火炎放射器で森に火を放っている剣機がいるのだ。一気に距離を詰め、その胸を剣で貫く。
「げっ、放火っすか!? あちゃ~、それは想定してなかったっすね……」
「火の手はこちらでなんとかする! 貴様らは敵を倒せ!」
 偉そうな警備隊だが、飛び上がり木々を駆け上がると、敵を飛び越えあっという間に炎へ向かう。
「すげえ機動性だな……あれが本来の力なのかねぇ?」
 巫女の側で片膝をつき射撃体勢を取る神楽。連続で引き金を引くと、剣機が次々と倒れていく。
 啓一は大地を蹴り、軽く跳躍。体全体で回転するようにして蜘蛛の集団を薙ぎ払った。
「凄まじい力だな、外のヒトよ」
「ん……ああ。物分りが良い方の隊長か」
 樹の上から側に降り立ったエルフ。啓一の言葉に苦笑を隠せない。
「そ、その様子では他の者と揉めたようだな……すまない」
「いんや。いちいち気にするほど繊細じゃねぇしな。それより手を貸してくれ」
 背後から迫るエルトヌスの剣を盾で防ぎ、代わりに槍を繰り出す神楽。群がる敵に傷つけられても一歩も引く気配はない。
「きゃああ!!」
「俺にしっかりとしがみつくんすよ~! くっ、歪虚め……絶対に許さないっす!」
「彼は大丈夫なのか?」
「いや、あれは多分わざとだからほっとけ」
 無表情に剣を振るう啓一。神楽は敵の攻撃を受けても即座に回復している。
(クックック……雑魚どものお陰で役得っす……♪)

 市街地には悲鳴が響き渡っていた。巨人型剣機、トウルスト型をはじめ、多数の剣機と警備隊の乱戦状態が続いている。
 火炎放射器を持った剣機の放火もあり、燃えている民家もある。ハンター達はその惨状に思わず足を止めた。
「あ~……放火か! そいつは考えてなかったなァ……」
「呆けている場合ではないぞ」
 明影の言葉に手分けして走り出すハンター。シガレットは迷わず民家に飛び込んだ。
 家の中には外壁に螺旋状の階段があり、上層に続いている。構造に戸惑いながらも駆け上がると、部屋の片隅で震える親子とそこへ襲いかかろうとする蜘蛛の姿が見えた。
 すかさず発砲し蜘蛛を撃破すると、親子に近づき声をかける。
「……大丈夫かァ?」
「あ、ありがとうございます……ですが、あなたは……?」
「通りすがりのハンターだよ。じっとしてろ、逃げるのは怪我を治してからだァ」
 シガレットがヒーリングスフィアを使った頃、アウレールはツリーハウス同士を結ぶ吊橋の上を走っていた。
「なんて不安定な足場だ……こんな空間で日常生活を送っているのか、ここの者達は」
 道を塞いでいた蜘蛛を剣で切り払い、吊橋の途中で足を止める。眼下にはトウルスト型が歩きながらレーザーで街を無差別に攻撃している。
 吊橋から跳んだアウレールはトウルストの頭部に着地すると同時に剣を突き立てた。
 それを剥ぎ取ろうと掴みかかったその手を切り裂き、身体に剣を突き立てたまま地上へ落下する。
「私の刃は稲妻と同じ。この刀が届く範囲は私の世界だよ……なーんてね」
 悶え体制を崩したところへ莢が腰を落とし抜刀の構えを取る。素早く鞘に刃を走らせ、トウルストの胸を切り裂いた。
「おお、やってるやってる……っと」
 別の吊橋の上に出たシガレットは神罰銃に祈りを込め、天に向け引き金を引く。
 その銃声は轟くと同時に地上に、そして吊橋の周辺にいる剣機の動きを縛り付ける。
 明影はツリーハウスの窓枠から身を乗り出し、動きの止まった蜘蛛を一匹ずつ弓で射抜いていく。
「ホリィ殿、合わせて欲しいのじゃ! 味方と連携した必殺技は、自分一人の時の何倍も格好良くなるのじゃよ!」
「必殺技……なるほど」
 器は全身から青白い光をほとばしらせる。そのマテリアルは触手のようにトウルストへ襲いかかり、その手足を縛った。
「見よ……我が神剣の煌めきを!」
 動きを止められたトウルストへ跳躍し、刀に輝きを纏わせた紅薔薇の振り下ろす一撃が、トウルストの中心を縦に大きく切り裂く。
 更に触手で自らの身体を引き寄せた器が胸に剣を突き刺し、二人はトウルストの前後から十字型に剣戟を放った。
「さあ、我らはここにおるぞ! 臆せずかかってくるがよい!」
「いやー、私はもう結構疲れてるから、そんなにかかってこられても困るんだけど……」
「もう少しの辛抱だ。警備隊も勢いを盛り返してきた」
 溜息を零す莢にアウレールはそう告げ、次のトウルストへと走り出す。
 放たれるレーザーを盾で散らしながら距離を詰めると、シガレットの銃撃と明影の矢が突き刺さる。
 アウレールを抜いて前に出た莢が足に刀を突き刺すと、地を蹴ったアウレールは巨人の首を狙い、握り締めた剣を繰り出した。

 完全に火の手が、そして歪虚の姿が消えたのはそれから一時間ほど後の事であった。
 火災に対する対処はハンターらの想定にはなく、そこは警備隊の仕事となったが、ハンターが歪虚を相手にしてくれたからでもある。
 ナデルハイムは敵の襲撃に晒される事を想定していない。故に戦いが終わって尚、住民たちは自らの身に起きた不幸を理解出来ずに呆然としていた。
「うむむ……ナデルハイムにも少し被害が広がってしまったようじゃの~」
「もうちっと手際よくやれりゃあよかったかねェ」
 残念そうなハッドに続き、わしわしと頭を掻きながらシガレットが零す。しかし、そこにエルフの少女が駆け寄る。
「お、おじちゃん……さっきは助けてくれてありがと……っ」
 シガレットは腰を落とし、少女の頭を撫でる。それを皮切りに何人かのエルフが集まり、ハンター達に礼を述べた。
「流石維新派の街だけあって、警備隊より礼儀がなってるな」
 肩を竦め笑う啓一。しかし、礼を言うエルフ達も、浄化の器にだけは近づこうとしなかった。
 故に器は人だかりから少し離れたところにポツンと立ち、遠巻きに賑やかさを眺めていた。
「やっと終わったー……けど相変わらずギスギスしてるね。エルフにとっては終わってないって事かな……」
 疲れたように地べたに座り込む莢。周囲を見渡せば、燃えてしまった家、傷ついた人々。そして相変わらずの偏見と拒絶がある。
「部外者である俺たちより器が怖いんすかね~」
 頭の後ろで手を組みぼやく神楽。と、孤立した器にアウレールが差し出したのはマカロンだ。
「君の好物だと聞いたのだが、相違ないかな?」
 その包を開き、口に放り込む器。そこへ警備隊と共に巫女が駆け寄る。
「……皆知っていたかな? 浄化の器は、甘いものが好きだそうだ!」
 引き連れてきた警備隊にあえて聞こえるようにそう声を上げるアウレール。すると一人の子供が手を上げた。
「僕もお菓子大好きー!」
「私もー!」
「ねぇ~、何食べてるの~?」
 大人が止める間もなく器の手にしたマカロンに集まる子供たち。驚き、しかし器は優しげな表情でお菓子を配っていく。
「や、やめなさい! 浄化の器に近づいてはだめよ!」
「……器なんて者は知らん。彼女は自らホリィと名乗った。だから彼女はホリィ殿なのじゃよ」
 大人の制止に割って入り、ぽつりと呟く紅薔薇。気づけば器は警備隊や巫女、子供たちと当たり前に言葉を交わしていた。
「よ~し、俺記念撮影しちゃうっすよ~! 笑顔くれっす~!」
 あえて明るい声を上げ駆け出す神楽。それに笑みを浮かべ、明影は背後から近づく人影に声をかけた。
「遅かったな」
 そこには肩で息をするジエルデの姿があった。
「ごめんなさい……これでも急いだのですが……」
「責めているわけではないよ。それに見ろ、丁度いい所に来た」
「いいっすね~いい感じっす~! でもセクシーさがちょっと足りねっす! そう、スカートをたくしあげて……いや違うっす! これは器ちゃんの可愛さを皆に伝え相互理解のための……!?」
 顔を真っ赤にした巫女に追い掛け回される神楽。器は無表情にスカートを持ち上げていたが、シガレットとアウレールが無言で下げた。
「なんだ。思ったより、ここの人たちもふつーだね」
「だな」
 膝を抱えたまま微笑む莢。啓一は腰に手を当て、ため息混じりに頷く。
 警備隊の隊長が手を鳴らし街の修復を急かすと、住民と警備隊はそれぞれ散っていく。残ったのはハンター達だけだ。
「よーし。器ちゃんに歌でも教えてやっかねェ」
「いいっすね~! 歌って踊って、チラリとスカートがめくれたところを激写するっすよ~!」
「やれやれ……遊びに来たわけではないのだぞ? 仕事が完了した以上は、すみやかに退去せねば外交問題になりかねん」
 不満気なシガレットと神楽を諭し引き剥がすアウレール。その様子に器は僅かに笑みを浮かべた。
「にしても器ちゃん前に比べたら本当に人間らしくなったっすね」
「ああ……まあ、そう言われてみるとそうだな」
 代わりに紅薔薇と話す器を眺め、神楽は呟く。啓一が同意すると、側に居たジエルデに目配せし。
「でも本当にいいんすか? 道具は道具扱いされても平気っす。でも道具が人間になったら自分を道具扱いする奴等をどう思うっすかね? そして道具になった人間を他の人間は変わらず道具扱いできるんすかね? 人を道具にする歪みに寄りかかるアンタ達は歪みをなくしてやっていけるんすか?」
「……正直に言うと、わかりません。でも……それを変える事でしか、あの子を救う方法はないと思うんです」
 ぐっと拳を握り、瞳には憂いを湛えたまま、それでもジエルデは前を見る。器の少女を見つめる。
「私はあの子を救いたい。だから……諦めずに挑みます。ヒトが持つ心の闇がどんなに深くても……」
 少なくとも、希望と兆しは見えている。これまでも、そして今日も。
「それでいい。己に正直でな」
 明影がそう閉めると、僅かな沈黙が広がる。しかし、嫌な静寂ではない。
「あ、そうそう。これこの間の写真っす。よかったらどうぞっす」
 神楽に差し出された写真を受け取り、ジエルデは切なげに微笑む。
「あーあ。また機会があれば来てみたいなー……今度は戦闘以外で……」
 立ち上がった莢が呟く。振り返って見るナデルハイムは荘厳で美しい。
 そう、この森の都は美しい。争いも憎しみも差別もなくなればきっと、その本当の輝きを取り戻せる。
 ささやかな希望を胸にハンター達は森を去る。いずれは招かれざる客としてではなく、堂々とこの地を訪れる事ができるよう、祈りながら……。

依頼結果

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

重体一覧

参加者一覧

  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 夢への誓い
    ハッド(ka5000
    人間(紅)|12才|男性|霊闘士
  • 働きたくないっ
    多々良 莢(ka6065
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 器ちゃんへの質問卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/28 13:27:19
アイコン ナデルハイム防衛相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/30 02:20:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/27 21:05:13