ゲスト
(ka0000)
【刻令】疾風怒濤~愉愚泥羅ゴーレム祭り~
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/06 09:00
- 完成日
- 2016/02/12 20:34
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
アダム・マンスフィールド。
ゴーレムを動かす為の喪われた魔術『刻令術』を不完全ながらも復活させた魔術師の名である。
未完の刻令術は、迷宮で見かけるそれとは比べるのもおこがましい程。
出力は至らず、機能も未熟。
されど、その術式はかつて禁術足りえた魔術に他ならず。
ヘクス・シャルシェレット、フリュイ・ド・パラディに見出され、非才故に行き詰まり、ナサニエル・カロッサ(kz0028)に機導術を学んだ男は今、酒の街デュニクスでその力を振るっている。
彼が作っているのはヒトガタではなく、ゴーレムでもなく、兵器でもない。
――農具であった。
そんな折のことだった。
「それじゃ、そろそろ作ったらどう?」
「……む」
大貴族にして商会の主ヘクスの言葉をきっかけに、おもむろに、唐突に、それは始まったのだ。
兵器としての、ゴーレム開発が。
●
「愉愚泥羅ーーーーーーーーーッ ファイッ」「オー!」「ファイッ」「オー!」「ファイッ」「オー!」
「王女殿下ーーーーーーーーーッ 万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」「かわいい!」「万歳!」
(今掛け声間違った?)
ヤーグ・アルシュガルはギルド街を駆け足する一団の中にいた。
ギルド『愉愚泥羅(ゆぐでぃら)』――
かつて田舎町を根城に暴れていた、素行の悪いハンター達がいた。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)がハンターズソサエティに依頼してそれらを捕縛したのだが、なりゆきで捕縛したかれらを更生させるためのギルドが結成された。それが愉愚泥羅である。
字面だけみると夜中にバイクで走り回っているような印象を受けるが、おおむねその通りである。
しかし今日のように昼間に真面目に訓練をする日もある。
先頭で声を出しながら走るヘザー。それに八人の男女が続く。
「ヘザー掛け声を間違っていなかったか?」
「ほほー……やはり気になるかえ?
しかし無駄じゃな。自分では気づいておらぬし、注意しても直らぬよ」
休憩時間にメンバーに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
ヘザーが掛け声を間違うのは毎回のことだった。何でもシスティーナ王女の事を考えながら言うので考えてることが口に出てしまうらしい。メンバーは今更疑問に思ったりしない。
ヤーグは新たに加入したメンバーだった。彼もかつて田舎町で暴れていたハンター崩れの一人だったのだが、その一件の後思うところがあって一人で色々と考えていた。そして先日ハンターとしての復帰を決意し、一仕事終えてから愉愚泥羅に接触してきたのだ。
彼の疑問に答えたのは細川閃姫。愉愚泥羅結成前からヘザーと付き合いのあるハンターで、類稀なカリスマと溢れるSっ気でメンバーの士気を支えている。転移者であり、リアルブルーの戦国の姫マニアである彼女はメンバーから自然と『姫』と呼ばれるだけの資質を備えていた。
午後はそれなりにハードなトレーニングをこなして過ぎていった。
「よぉし! 今日はここまで!」
トレーニングを終えたにも関わらず無駄にデカい声でヘザーが終わりを告げた。
一行は休憩してから行きつけの食堂へとなだれこんでいく。
「ロマンが足りなァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッい!!!」
今日はヘザーの声がデカい。
ヤーグが食堂から出たときだった。先に出たヘザーとメンバーの一人が話していた所らしかった。
天下の往来であるにもかかわらずヘザーは突如としてマヌケな声で絶叫したのだった。
「何の騒ぎだ……」
場合によっては止めなくてはならないとヤーグが近づいた。
「おおジャガー、聞いてくれ」
「誰がジャガーだ」
「アダム・マンスフィールドの奴が刻令術を農業に使っていると言うんだーーーーーーーーーー!!!」
「話が読めないんだが……」
「農業が悪いと言ってるわけじゃないぞ? 農業がなくては困る! しかし刻令術はもともとCAMを動かせる可能性がある技術であったはずなんだッ!!!
だから私達やファリフはわざわざ古の塔くんだりまで行って、あいつの為にゴーレムの核を集めたりもしたというのに!」
かつてヘザーはファリフ・スコール(kz0009)やハンター達とともに古の塔を探索したことがある。CAM起動実験の折りの事だった。へクス・シャルシェレット(kz0015)はCAMを動かすための手段として刻令術という、今ではほとんど失われてしまった技術に目をつけた。刻令術を用いたCAM起動実験に必要となったゴーレムの核を入手するために、古の塔の探索をハンターオフィスに依頼したのだった。
「あの時は……誰もが夢を見ていた」
ヘザーは一瞬、浮かされたような表情になった。
「結果としてCAMは動いたよ……だが戦えるようなものにはならなかった。
それでも私達は待ち続けた……私達の苦労が報われる日を……刻令術が希望をもたらしてくれる日を。
CAMが動かせなくとも……それに負けないような巨大な力を……いつか見せてくれるのではないかと……。
それ、なの、にッ!」
ヤーグはそろそろ実力行使に及ぶべきか悩み始めていた。
どうやら刻令術の話をヘザーに伝えたらしいメンバーとヤーグの目が合う。
「なにゆえ農村復興ーーーーーーーーッ!
歪虚と戦えよーーーーーーーーーッ!!
ロマンが足りなぁぁぁぁぁーーーーーーーッい!!!」
叩きつけるように叫ぶヘザー。酔っ払いと大して変わらない。
大げさに振り回される腕をヤーグとメンバーが両側から押さえ込んだ。
「やめろ、何をする、うわあああ」
「落ち着いてくれヘッド!」
「近所迷惑を考えろ」
一行はしばしドタバタした挙句、他のメンバーも巻き込み、
やがて路上に大人数が雑魚寝するという惨状が出来上がった。
「……決めた」
「何を」
はぁはぁと息を切らせながら言葉を交わすヘザーとヤーグ。
頭上には星空が広がっている。
「意地でもあの男を働かせるぞ。
出撃だ。古の塔に行く!」
次の日――
『古の塔・ゴーレムの核収集』の依頼が、ハンターオフィスに掲載された。
アダム・マンスフィールド。
ゴーレムを動かす為の喪われた魔術『刻令術』を不完全ながらも復活させた魔術師の名である。
未完の刻令術は、迷宮で見かけるそれとは比べるのもおこがましい程。
出力は至らず、機能も未熟。
されど、その術式はかつて禁術足りえた魔術に他ならず。
ヘクス・シャルシェレット、フリュイ・ド・パラディに見出され、非才故に行き詰まり、ナサニエル・カロッサ(kz0028)に機導術を学んだ男は今、酒の街デュニクスでその力を振るっている。
彼が作っているのはヒトガタではなく、ゴーレムでもなく、兵器でもない。
――農具であった。
そんな折のことだった。
「それじゃ、そろそろ作ったらどう?」
「……む」
大貴族にして商会の主ヘクスの言葉をきっかけに、おもむろに、唐突に、それは始まったのだ。
兵器としての、ゴーレム開発が。
●
「愉愚泥羅ーーーーーーーーーッ ファイッ」「オー!」「ファイッ」「オー!」「ファイッ」「オー!」
「王女殿下ーーーーーーーーーッ 万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」「かわいい!」「万歳!」
(今掛け声間違った?)
ヤーグ・アルシュガルはギルド街を駆け足する一団の中にいた。
ギルド『愉愚泥羅(ゆぐでぃら)』――
かつて田舎町を根城に暴れていた、素行の悪いハンター達がいた。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)がハンターズソサエティに依頼してそれらを捕縛したのだが、なりゆきで捕縛したかれらを更生させるためのギルドが結成された。それが愉愚泥羅である。
字面だけみると夜中にバイクで走り回っているような印象を受けるが、おおむねその通りである。
しかし今日のように昼間に真面目に訓練をする日もある。
先頭で声を出しながら走るヘザー。それに八人の男女が続く。
「ヘザー掛け声を間違っていなかったか?」
「ほほー……やはり気になるかえ?
しかし無駄じゃな。自分では気づいておらぬし、注意しても直らぬよ」
休憩時間にメンバーに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
ヘザーが掛け声を間違うのは毎回のことだった。何でもシスティーナ王女の事を考えながら言うので考えてることが口に出てしまうらしい。メンバーは今更疑問に思ったりしない。
ヤーグは新たに加入したメンバーだった。彼もかつて田舎町で暴れていたハンター崩れの一人だったのだが、その一件の後思うところがあって一人で色々と考えていた。そして先日ハンターとしての復帰を決意し、一仕事終えてから愉愚泥羅に接触してきたのだ。
彼の疑問に答えたのは細川閃姫。愉愚泥羅結成前からヘザーと付き合いのあるハンターで、類稀なカリスマと溢れるSっ気でメンバーの士気を支えている。転移者であり、リアルブルーの戦国の姫マニアである彼女はメンバーから自然と『姫』と呼ばれるだけの資質を備えていた。
午後はそれなりにハードなトレーニングをこなして過ぎていった。
「よぉし! 今日はここまで!」
トレーニングを終えたにも関わらず無駄にデカい声でヘザーが終わりを告げた。
一行は休憩してから行きつけの食堂へとなだれこんでいく。
「ロマンが足りなァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッい!!!」
今日はヘザーの声がデカい。
ヤーグが食堂から出たときだった。先に出たヘザーとメンバーの一人が話していた所らしかった。
天下の往来であるにもかかわらずヘザーは突如としてマヌケな声で絶叫したのだった。
「何の騒ぎだ……」
場合によっては止めなくてはならないとヤーグが近づいた。
「おおジャガー、聞いてくれ」
「誰がジャガーだ」
「アダム・マンスフィールドの奴が刻令術を農業に使っていると言うんだーーーーーーーーーー!!!」
「話が読めないんだが……」
「農業が悪いと言ってるわけじゃないぞ? 農業がなくては困る! しかし刻令術はもともとCAMを動かせる可能性がある技術であったはずなんだッ!!!
だから私達やファリフはわざわざ古の塔くんだりまで行って、あいつの為にゴーレムの核を集めたりもしたというのに!」
かつてヘザーはファリフ・スコール(kz0009)やハンター達とともに古の塔を探索したことがある。CAM起動実験の折りの事だった。へクス・シャルシェレット(kz0015)はCAMを動かすための手段として刻令術という、今ではほとんど失われてしまった技術に目をつけた。刻令術を用いたCAM起動実験に必要となったゴーレムの核を入手するために、古の塔の探索をハンターオフィスに依頼したのだった。
「あの時は……誰もが夢を見ていた」
ヘザーは一瞬、浮かされたような表情になった。
「結果としてCAMは動いたよ……だが戦えるようなものにはならなかった。
それでも私達は待ち続けた……私達の苦労が報われる日を……刻令術が希望をもたらしてくれる日を。
CAMが動かせなくとも……それに負けないような巨大な力を……いつか見せてくれるのではないかと……。
それ、なの、にッ!」
ヤーグはそろそろ実力行使に及ぶべきか悩み始めていた。
どうやら刻令術の話をヘザーに伝えたらしいメンバーとヤーグの目が合う。
「なにゆえ農村復興ーーーーーーーーッ!
歪虚と戦えよーーーーーーーーーッ!!
ロマンが足りなぁぁぁぁぁーーーーーーーッい!!!」
叩きつけるように叫ぶヘザー。酔っ払いと大して変わらない。
大げさに振り回される腕をヤーグとメンバーが両側から押さえ込んだ。
「やめろ、何をする、うわあああ」
「落ち着いてくれヘッド!」
「近所迷惑を考えろ」
一行はしばしドタバタした挙句、他のメンバーも巻き込み、
やがて路上に大人数が雑魚寝するという惨状が出来上がった。
「……決めた」
「何を」
はぁはぁと息を切らせながら言葉を交わすヘザーとヤーグ。
頭上には星空が広がっている。
「意地でもあの男を働かせるぞ。
出撃だ。古の塔に行く!」
次の日――
『古の塔・ゴーレムの核収集』の依頼が、ハンターオフィスに掲載された。
リプレイ本文
●古の塔
「凄いな……! こういう所に来れるのもハンターの醍醐味だよね」
霧の中に聳え立つ古の塔を見上げて、仁川 リア(ka3483)は言った。
ヘザーの依頼を受けたハンター達の心境は様々だった。刻令術やゴーレムに興味のあるコントラルト(ka4753)や仙堂 紫苑(ka5953)は好奇心に駆られて、恭牙(ka5762)や獅臣 琉那(ka6082)は武人としての研鑽の機会を求めての参加だった。龍華 狼(ka4940)も剣の腕を試したいと語る。ヘザーや愉愚泥羅と縁のあるミコト=S=レグルス(ka3953)、リツカ=R=ウラノス(ka3955)の姿もあった。
かれらと愉愚泥羅を合わせた総勢17名。
古の塔は太古の昔より変わらぬ在り様で、幾度目かの挑戦者達を招き入れた……。
一行は数に物を言わせて進み、作戦の実行に適した広いフロアに達した。
「よし!」
ヘザーが唐突に声をあげた。
「これより我が軍は、ゴーレム核収集作戦……オペレーション・ジャガーを開始する!」
突然の呼称。誰もが初耳だった。しかもジャガーはヤーグのあだ名だ。
●オペレーション・ジャガー
第一陣の誘導班が出発し、戻ってくるまではほんの少ししかかからなかった。
「来るぞ!」
慌てて走ってくる男達の後ろから、地響きをたてて巨体が迫ってきた。人の形をした岩石のヨリシロ、グラナイトゴーレム。
一行は戦闘に移行した。
最初に前に出たのはコントラルト。銃を構え、照準を定める。
「狙うわ」
神経が研ぎ澄まされる。聴覚が遮断され、彼女は獲物を射抜く兵器へと変貌した。
誘導役が避難し、敵が射程内に入ったことを確認すると、引き金を引いた。
空気が爆ぜた。弾丸が、狂喜するように風を纏って哭いた。
その銃の銘はエア・スティーラー。弾丸に風を纏わせる魔導拳銃。
着弾と共に風が弾け、周囲ごと抉り飛ばした。
ゴーレムは進撃を停止する。そこに七人のハンターが駆け寄っていく。
「その力、いかほどものか……見せてもらおう!」
恭牙が敵の正面に立った。
「ハアアアァァァッ!」
一瞬にして力が漲り、全身の筋肉が盛り上がると共に肌は燃えるような赤へと染まった。
気合と共に繰り出される旋棍が、孤を描いてゴーレムの左膝に叩き付けられた。その一撃は岩石の体を穿ち、痕を残す。
「見えた!」
側面から迫るリアの瞳が、一瞬の内に攻撃の好機を見出した。
全身から黄金の炎のようなものが立ち上がり、双眸は金色に変じた。その一瞬に振るわれた刃もまた黄金に輝き、銘をシーガルズホルムと言う。
ダン……ッ
ガゴォォォン
残響を残して、硬い物が切れる音がした。それに重量感のある落下音が続く。ゴーレムが転倒したのだ。
「これはこれで……斬った時の味は悪くないね」
傍らにはまっ平らな断面を残した片脚が立っていた。
体勢を崩したゴーレムは行動を制限され、瞬く間にハンターの集中攻撃を喰らって制圧された。
「次ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
恭牙が、吼えるように言った。瞬く間に次のゴーレムが誘導されて来る。
二体目もまたグラナイトゴーレムだった。
「ほな、思いっきりいくえー♪」
琉那がその前に立ちはだかる。だが迫り来る岩石の巨体に対し、琉那は華奢な娘だった。
しかし彼女の表情には怯えどころか、気負いひとつ見られない。平常心だ。
ゴーレムが、人の頭ほどはあろうかという拳を琉那に振り下ろした。
……が、ほんの僅かにそれは逸れた。
否、琉那に逸らされたのだ。琉那は手首を取って抱え込む。ほんの僅かな力を加えられただけでゴーレムの体勢が崩れ、そして流れるような動きで背後に回り、関節を決める。
「力は強うおすが動きは単調、ゴーレムに柔術は大正義やわぁ」
琉那は柔らかに言った。
「今が好機です!」
その位置に狼が疾風のごとく踏み込む。
敵を前にした狼の精神が戦いに合わせて変化する。今や自分が刃で、刃が自分だった。
煌く刃が舞うように動く。風に舞う桜の花弁のように舞ったかと思えば、一瞬の内に一陣の旋風と化した。
いつの間にか狼は敵の死角にいる。そして、ゴーレムの脛は真一文字に斬られていた。
片手を決められ、移動を阻害されつつもゴーレムは残った腕を振るおうと、体を無理やり狼のほうへ向かせる。
その腕に刃物が食い込んだ。――巨大な鋏だ。
「俺だって、このくらいはな……!」
マーダーシザーズ。紫苑だ。紫苑はハンターとしての経験がまだ浅いことを自覚していた。しかし、だからこそ果敢に仕掛け、機会は逃さない。シザーズの握力と全身の力で敵の行動を阻害する。
「今だッ!」
紫苑の声に応じ、味方が一斉に仕掛ける。
そして雪崩れ込むハンター達の攻撃で、ゴーレムがまた一体地に伏した。
「次、お願いします!」
狼の声に従い、誘導班が出発する。
程なくして、通路の向こうから人影が現れた。
ヘザーだ。飛び回ったり転げまわったりしている。通った後で火花が散っていた。それに僅かに遅れて、白く優美な形状が床を滑るように移動してくる。――マテリアルの矢を放つマーブルゴーレムだ。
「ヘザーさん、こっち!」
「ああ、任せた!」
ヘザーはミコトとすれ違うように通り過ぎ、距離をとった。ミコトはゴーレムと向かい合い、無手のまま身構える。
マーブルゴーレムは目標を変えミコトに向かって光弾を放ってきた。
機関銃のように浴びせられるそれを、ミコトは目にも止まらぬ動きで避ける。そのしなやかさと優美さは、猫科の獣を思わせた。精霊と契約しその力を行使する霊闘士ならではの芸当である。
「ヘイ、ユー! 背中にも気をつけな!」
ゴーレムの背に声をかけるものがあった。リツカだ。ミコトが矢面に立った瞬間に彼女の意図を察し、いち早くゴーレムの背後へと走り込んでいた。
全身にマテリアルを循環させ、剣斧の一撃を見舞う。幅広の刃は白い破片を撒き散らして、その体に食い込んだ。
長射程というアドバンテージを無くしたマーブルゴーレムを打ち倒すのは容易いことだった。続くハンター達の攻撃で、ゴーレムがまた一体瓦礫と化す。
「おかわりィ! もう一杯!」
リツカの声が響き渡った。
●小休止
一行は無傷とはいかないまでも順調にゴーレムを倒していった。決して弱い敵ではない。並のハンター一人にも匹敵する強さだろう。それでも一対多でかかる方針のおかげで、被害は抑えられていた。
頃合を見計らって、一行は休憩を取った。コントラルトが持ってきたランチや紫苑のティーセットのおかげで、ダンジョンでも一行は快適な食事の時を過ごす事ができた。また紫苑は、メンバーの武器のメンテナンスを買って出ていたりもした。
ミコトとリツカは、愉愚泥羅を直接捕縛した関係からか、はじめは彼らから恐れられていたが、彼女らが笑いかけると、たちまち打ち解けて人気者になった。
一方でリアはゴーレムの残骸から核を取り出す愉愚泥羅メンバーの作業に見入っていた。核はマテリアルを多く含む金属の塊で、岩の胴体を砕いて取り出されては荷車に積みこまれていた。
その脇で、狼が砕かれたゴーレムの破片を手にとって見定めていた。
●青春群像・疾風怒濤剣
休憩を終え、グラナイト8体マーブル3体を倒した所で、一行は気を引き締めなければならなかった。
「気をつけろ……! 奴だ!」
誘導してきたヤーグが告げる。程なくして、それは現れた。
オブシディアンゴーレム。全身は闇のように漆黒で、獅子の貌に四本の腕という威容。それぞれの手に剣を持ち、さながら修羅道を彷徨う者のように静かな暴力を内に潜めていた。
「へえ、かっこいいね」
リアは子供のように言葉を弾ませる。
「ん……」
一方ミコトは静かに闘志を燃やした。呼応するように手足が焔の幻影を纏う。彼女の契約精霊もまた獅子であった。
「こいつ……ホントに黒曜石か!! けけ……カモネギがやってきたぜ!」
「……? 心の声漏れてないか、少年?」
それまで明るく真面目な少年剣士然としていた狼が突然こんな事を言い出した。紫苑が訝しんだのも無理はない。
「ふむ……」
恭牙は口元を吊り上げ、腰に差している降魔刀を抜いた。その表情たるや、身に纏う具足と併せて、悪鬼羅刹の様相であった。
「らああああああああッ!」
恭牙は声をあげ、嬉々として打ちかかっていく。リア、ミコト、狼もそれに続いた。
続けざまに四度の剣戟が響く。
ゴーレムは一斉に繰り出された四度の攻撃を打ち払い、さらに四人のうち誰もいない方向に向けて突きを放った。
「うひゃあ?!」
背後に回り込もうとしたリツカが慌てて身を翻す。四人に打ちかかられながらリツカの行動にまで反応したのだ。
「りっちゃん、ケガないっ?!」
「おっ、おうっ大丈夫さあ……!」
心配して声をかけるミコト。リツカは十分に距離をとる。
「来るよ!」
リアが注意を促すと同時に、ゴーレムは黒い影となって奔った。
「!」「うっ?!」「ぬぅ……!」
左右への薙ぎ払いと正面への突きが同時に来た。
旋風にも似た斬撃がミコト、リア、恭牙を同時に襲った。三人とも直撃は免れたが、無感情の殺戮兵器の恐ろしさを知る。
「攻撃範囲が広いっ……!」
「面白い! 相手にとって不足無し!」
慎重になるミコトとは対照的に、恭牙は果敢に打ちかかった。
「くはははは! 楽しませろ!」
鬼気迫る形相で得物を奔らせる。黒いゴーレムも剣で受け、両者は激しく打ち合った。
「俺に斬られて高く売られろっ!」
さらには狼も打ちかかっていく。完全に地が出ていた。恭牙の反対側から斬りかかった狼の刃を、ゴーレムは半身になって、恭牙と打ち合っていない方の剣で受けた。
しばしゴーレムは二人の闘士と同時に打ち合う。やがて二人は決定打を与えられず、反撃の気配を察して避けつつ距離をとった。
極めて正確な太刀筋だった。
「次は私とお相手願おうかしら」
間髪を入れずコントラルトが打ちかかっていく。盾を構えて距離を詰め、剣で横薙ぎの一撃を見舞う。
ゴーレムは剣の腹で受けようとした。
――瞬間、閃光が走った。
ゴーレムは紫電を纏って激しく震え、全身から煙を噴出した。
「正確な剣が裏目に出たわね」
武器を起点にしたエレクトリックショック。擬似生命体とはいえ感電はする。放電による発熱は耐久力を削いだ。
「もう一発だ……!」
反対側から紫苑が飛び出した。その手には光り輝く剣――機導剣が生成されている。
紫苑は突きを放つ。ゴーレムはわずかに体を引いて避けた。――しかし、その突きに体重は乗っていない。紫苑はなおも踏み込み、体をひねる。
本命は反対の手に握られたマーダーシザーズ。
ゴーレムの手首に食いついた。構えが崩れる。
「そう、そのまま!」
頭上から声がした。
かと思うと、黄金に煌く剣の軌跡を残して、リアが着地した。
リアは倒したゴーレムの体を蹴って跳躍し、天井を蹴ってゴーレムに向かい、その勢いで斬りかかったのだ。
「柔軟性が足りない! 所詮は石頭だな」
その言葉と共に床に落ちた物がある。リアが斬った、ゴーレムの左手首だ。
「ほな、こんなんどうどすかー?」
疾風の風となって、琉那が通り抜けた。
何処をかと言えば、ゴーレムの股の下だ。そして体を屈めたまま手を軸に回転し、ゴーレムの膝後ろに蹴りを叩き込んだ。
ゴーレムが膝を折り片膝立ちになる。
「古の兵器といえど古流武術の真髄は理解できへんようどすなぁ」
「わかったコイツ変な動きに弱い! とくればヘザーさーん!」
リツカが大声で呼びかけた。
「もしかして、アレをやるのっ?! りっちゃん!?」
「おうっ! 今こそあの技を使う時だよミコちゃん!」
「呼んだかァァァァァッ!!!」
言葉を交すミコトとリツカ。そしてヘザーが走ってくる。
「よしっ! 行くよ、ふたりともっ!」
「私ら三人の合体技!」
「青春群像・疾風怒濤剣!!!」
猛然と敵に向かっていくヘザー。その背後に、敵から死角になるようにミコトとリツカが続く。
ヘザーは敵の間合いに入る直前で跳躍する。同時にミコトとリツカは左右に跳ぶ。
ヘザーは敵を飛び越え、空中で体をひねりチャクラムを投擲。同時にミコトとリツカが挟撃するように同時に得物を叩き付ける――三方からの一斉攻撃。
「――ってなんだそりゃあ!」
リツカが技名にツッコミをいれた。
ともかくゴーレムの上半身は両側から抉れ、かなり不安定になった。それでも立ち上がり、それ以外考えられないというように眼前の敵に向かった。
しかし、その時には既に琉那が間合いに踏み込んでいた。
「かっこええなぁ。うちも負けまへんえー?」
琉那のしなやかな肢体が躍動する。新体操の技にも似た、力強さと優美さを兼ね備えた動きだった。縦回転を加えた跳躍から、ゴーレムの顔面に浴びせ蹴りを食らわせる。
大きく体を傾かせるも、最後の力を振り絞って反撃に移ろうとするゴーレムだったが、まだ狼が控えていた。
狼は限界まで低くした姿勢から地面を擦り上げるように斬り上げる。地面を剣が擦れた瞬間に摩擦熱で発火し、『地摺り咲く剣華』の名そのままに、切っ先は焔の尾を引いて舞い上がった。
一筋の剣閃と共に、胴体から切り離された腕が飛んだ。勢いに乗じて、恭牙が肉薄する。
「私はひねった事はあまり出来んのでな……!」
体ごとぶつけるような袈裟懸けの一撃。それは理論も技巧も叩き潰すような力の顕現だった。衝撃で、ゴーレムは真っ二つに折れる。――そして完全に動きを止めた。
●リザルト
一行はそれからも戦闘を続け、ゴーレムを次々に狩った。
「もう積めませんや。そんなに欲張っちゃあいけませんぜ」
「おお……!」
やがて回収役が、ヘザーに核を積み込んだ荷車が一杯になった事を報告した。かなりの量がある。百を越えたかもしれない。
「撤収! 撤収ー!」
ヘザーがやけに嬉しそうに撤収を呼びかける。
そうと決まれば去り際は鮮やかだった。狼だけは大慌てで黒曜石の破片を集めていたが……ともかく一行は、無事古の塔から帰還した。
転移装置まで来ればもう安全だ。恭牙は穏やかな表情になっていたが、琉那はほとんど変わらなかった。
「彼、今後は戦闘……戦争に役立つゴーレム作りに力を入れるみたいよ」
道中、コントラルトがヘザーに言った。彼とはアダム・マンスフィールドのことだ。
「何っ?!」
ヘザーは驚いてから、笑った。
「そうか、ヤツのハートに火を着けるつもりだったが……」
「たぶん、彼はきっとあきらめてはいないと思うわ。その本当の目的がなんなのかは分からないけれどね」
「必要なのはそう、力だ……!」
どこかで聞いたような言い回しだった。
実の所、ヘザーにはアダムの考えなど理解を超えている。なので妄想で補っている。
「これからが楽しみだな!!!」
かくして、思いつきで始まった冒険は幕を閉じた。
「凄いな……! こういう所に来れるのもハンターの醍醐味だよね」
霧の中に聳え立つ古の塔を見上げて、仁川 リア(ka3483)は言った。
ヘザーの依頼を受けたハンター達の心境は様々だった。刻令術やゴーレムに興味のあるコントラルト(ka4753)や仙堂 紫苑(ka5953)は好奇心に駆られて、恭牙(ka5762)や獅臣 琉那(ka6082)は武人としての研鑽の機会を求めての参加だった。龍華 狼(ka4940)も剣の腕を試したいと語る。ヘザーや愉愚泥羅と縁のあるミコト=S=レグルス(ka3953)、リツカ=R=ウラノス(ka3955)の姿もあった。
かれらと愉愚泥羅を合わせた総勢17名。
古の塔は太古の昔より変わらぬ在り様で、幾度目かの挑戦者達を招き入れた……。
一行は数に物を言わせて進み、作戦の実行に適した広いフロアに達した。
「よし!」
ヘザーが唐突に声をあげた。
「これより我が軍は、ゴーレム核収集作戦……オペレーション・ジャガーを開始する!」
突然の呼称。誰もが初耳だった。しかもジャガーはヤーグのあだ名だ。
●オペレーション・ジャガー
第一陣の誘導班が出発し、戻ってくるまではほんの少ししかかからなかった。
「来るぞ!」
慌てて走ってくる男達の後ろから、地響きをたてて巨体が迫ってきた。人の形をした岩石のヨリシロ、グラナイトゴーレム。
一行は戦闘に移行した。
最初に前に出たのはコントラルト。銃を構え、照準を定める。
「狙うわ」
神経が研ぎ澄まされる。聴覚が遮断され、彼女は獲物を射抜く兵器へと変貌した。
誘導役が避難し、敵が射程内に入ったことを確認すると、引き金を引いた。
空気が爆ぜた。弾丸が、狂喜するように風を纏って哭いた。
その銃の銘はエア・スティーラー。弾丸に風を纏わせる魔導拳銃。
着弾と共に風が弾け、周囲ごと抉り飛ばした。
ゴーレムは進撃を停止する。そこに七人のハンターが駆け寄っていく。
「その力、いかほどものか……見せてもらおう!」
恭牙が敵の正面に立った。
「ハアアアァァァッ!」
一瞬にして力が漲り、全身の筋肉が盛り上がると共に肌は燃えるような赤へと染まった。
気合と共に繰り出される旋棍が、孤を描いてゴーレムの左膝に叩き付けられた。その一撃は岩石の体を穿ち、痕を残す。
「見えた!」
側面から迫るリアの瞳が、一瞬の内に攻撃の好機を見出した。
全身から黄金の炎のようなものが立ち上がり、双眸は金色に変じた。その一瞬に振るわれた刃もまた黄金に輝き、銘をシーガルズホルムと言う。
ダン……ッ
ガゴォォォン
残響を残して、硬い物が切れる音がした。それに重量感のある落下音が続く。ゴーレムが転倒したのだ。
「これはこれで……斬った時の味は悪くないね」
傍らにはまっ平らな断面を残した片脚が立っていた。
体勢を崩したゴーレムは行動を制限され、瞬く間にハンターの集中攻撃を喰らって制圧された。
「次ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
恭牙が、吼えるように言った。瞬く間に次のゴーレムが誘導されて来る。
二体目もまたグラナイトゴーレムだった。
「ほな、思いっきりいくえー♪」
琉那がその前に立ちはだかる。だが迫り来る岩石の巨体に対し、琉那は華奢な娘だった。
しかし彼女の表情には怯えどころか、気負いひとつ見られない。平常心だ。
ゴーレムが、人の頭ほどはあろうかという拳を琉那に振り下ろした。
……が、ほんの僅かにそれは逸れた。
否、琉那に逸らされたのだ。琉那は手首を取って抱え込む。ほんの僅かな力を加えられただけでゴーレムの体勢が崩れ、そして流れるような動きで背後に回り、関節を決める。
「力は強うおすが動きは単調、ゴーレムに柔術は大正義やわぁ」
琉那は柔らかに言った。
「今が好機です!」
その位置に狼が疾風のごとく踏み込む。
敵を前にした狼の精神が戦いに合わせて変化する。今や自分が刃で、刃が自分だった。
煌く刃が舞うように動く。風に舞う桜の花弁のように舞ったかと思えば、一瞬の内に一陣の旋風と化した。
いつの間にか狼は敵の死角にいる。そして、ゴーレムの脛は真一文字に斬られていた。
片手を決められ、移動を阻害されつつもゴーレムは残った腕を振るおうと、体を無理やり狼のほうへ向かせる。
その腕に刃物が食い込んだ。――巨大な鋏だ。
「俺だって、このくらいはな……!」
マーダーシザーズ。紫苑だ。紫苑はハンターとしての経験がまだ浅いことを自覚していた。しかし、だからこそ果敢に仕掛け、機会は逃さない。シザーズの握力と全身の力で敵の行動を阻害する。
「今だッ!」
紫苑の声に応じ、味方が一斉に仕掛ける。
そして雪崩れ込むハンター達の攻撃で、ゴーレムがまた一体地に伏した。
「次、お願いします!」
狼の声に従い、誘導班が出発する。
程なくして、通路の向こうから人影が現れた。
ヘザーだ。飛び回ったり転げまわったりしている。通った後で火花が散っていた。それに僅かに遅れて、白く優美な形状が床を滑るように移動してくる。――マテリアルの矢を放つマーブルゴーレムだ。
「ヘザーさん、こっち!」
「ああ、任せた!」
ヘザーはミコトとすれ違うように通り過ぎ、距離をとった。ミコトはゴーレムと向かい合い、無手のまま身構える。
マーブルゴーレムは目標を変えミコトに向かって光弾を放ってきた。
機関銃のように浴びせられるそれを、ミコトは目にも止まらぬ動きで避ける。そのしなやかさと優美さは、猫科の獣を思わせた。精霊と契約しその力を行使する霊闘士ならではの芸当である。
「ヘイ、ユー! 背中にも気をつけな!」
ゴーレムの背に声をかけるものがあった。リツカだ。ミコトが矢面に立った瞬間に彼女の意図を察し、いち早くゴーレムの背後へと走り込んでいた。
全身にマテリアルを循環させ、剣斧の一撃を見舞う。幅広の刃は白い破片を撒き散らして、その体に食い込んだ。
長射程というアドバンテージを無くしたマーブルゴーレムを打ち倒すのは容易いことだった。続くハンター達の攻撃で、ゴーレムがまた一体瓦礫と化す。
「おかわりィ! もう一杯!」
リツカの声が響き渡った。
●小休止
一行は無傷とはいかないまでも順調にゴーレムを倒していった。決して弱い敵ではない。並のハンター一人にも匹敵する強さだろう。それでも一対多でかかる方針のおかげで、被害は抑えられていた。
頃合を見計らって、一行は休憩を取った。コントラルトが持ってきたランチや紫苑のティーセットのおかげで、ダンジョンでも一行は快適な食事の時を過ごす事ができた。また紫苑は、メンバーの武器のメンテナンスを買って出ていたりもした。
ミコトとリツカは、愉愚泥羅を直接捕縛した関係からか、はじめは彼らから恐れられていたが、彼女らが笑いかけると、たちまち打ち解けて人気者になった。
一方でリアはゴーレムの残骸から核を取り出す愉愚泥羅メンバーの作業に見入っていた。核はマテリアルを多く含む金属の塊で、岩の胴体を砕いて取り出されては荷車に積みこまれていた。
その脇で、狼が砕かれたゴーレムの破片を手にとって見定めていた。
●青春群像・疾風怒濤剣
休憩を終え、グラナイト8体マーブル3体を倒した所で、一行は気を引き締めなければならなかった。
「気をつけろ……! 奴だ!」
誘導してきたヤーグが告げる。程なくして、それは現れた。
オブシディアンゴーレム。全身は闇のように漆黒で、獅子の貌に四本の腕という威容。それぞれの手に剣を持ち、さながら修羅道を彷徨う者のように静かな暴力を内に潜めていた。
「へえ、かっこいいね」
リアは子供のように言葉を弾ませる。
「ん……」
一方ミコトは静かに闘志を燃やした。呼応するように手足が焔の幻影を纏う。彼女の契約精霊もまた獅子であった。
「こいつ……ホントに黒曜石か!! けけ……カモネギがやってきたぜ!」
「……? 心の声漏れてないか、少年?」
それまで明るく真面目な少年剣士然としていた狼が突然こんな事を言い出した。紫苑が訝しんだのも無理はない。
「ふむ……」
恭牙は口元を吊り上げ、腰に差している降魔刀を抜いた。その表情たるや、身に纏う具足と併せて、悪鬼羅刹の様相であった。
「らああああああああッ!」
恭牙は声をあげ、嬉々として打ちかかっていく。リア、ミコト、狼もそれに続いた。
続けざまに四度の剣戟が響く。
ゴーレムは一斉に繰り出された四度の攻撃を打ち払い、さらに四人のうち誰もいない方向に向けて突きを放った。
「うひゃあ?!」
背後に回り込もうとしたリツカが慌てて身を翻す。四人に打ちかかられながらリツカの行動にまで反応したのだ。
「りっちゃん、ケガないっ?!」
「おっ、おうっ大丈夫さあ……!」
心配して声をかけるミコト。リツカは十分に距離をとる。
「来るよ!」
リアが注意を促すと同時に、ゴーレムは黒い影となって奔った。
「!」「うっ?!」「ぬぅ……!」
左右への薙ぎ払いと正面への突きが同時に来た。
旋風にも似た斬撃がミコト、リア、恭牙を同時に襲った。三人とも直撃は免れたが、無感情の殺戮兵器の恐ろしさを知る。
「攻撃範囲が広いっ……!」
「面白い! 相手にとって不足無し!」
慎重になるミコトとは対照的に、恭牙は果敢に打ちかかった。
「くはははは! 楽しませろ!」
鬼気迫る形相で得物を奔らせる。黒いゴーレムも剣で受け、両者は激しく打ち合った。
「俺に斬られて高く売られろっ!」
さらには狼も打ちかかっていく。完全に地が出ていた。恭牙の反対側から斬りかかった狼の刃を、ゴーレムは半身になって、恭牙と打ち合っていない方の剣で受けた。
しばしゴーレムは二人の闘士と同時に打ち合う。やがて二人は決定打を与えられず、反撃の気配を察して避けつつ距離をとった。
極めて正確な太刀筋だった。
「次は私とお相手願おうかしら」
間髪を入れずコントラルトが打ちかかっていく。盾を構えて距離を詰め、剣で横薙ぎの一撃を見舞う。
ゴーレムは剣の腹で受けようとした。
――瞬間、閃光が走った。
ゴーレムは紫電を纏って激しく震え、全身から煙を噴出した。
「正確な剣が裏目に出たわね」
武器を起点にしたエレクトリックショック。擬似生命体とはいえ感電はする。放電による発熱は耐久力を削いだ。
「もう一発だ……!」
反対側から紫苑が飛び出した。その手には光り輝く剣――機導剣が生成されている。
紫苑は突きを放つ。ゴーレムはわずかに体を引いて避けた。――しかし、その突きに体重は乗っていない。紫苑はなおも踏み込み、体をひねる。
本命は反対の手に握られたマーダーシザーズ。
ゴーレムの手首に食いついた。構えが崩れる。
「そう、そのまま!」
頭上から声がした。
かと思うと、黄金に煌く剣の軌跡を残して、リアが着地した。
リアは倒したゴーレムの体を蹴って跳躍し、天井を蹴ってゴーレムに向かい、その勢いで斬りかかったのだ。
「柔軟性が足りない! 所詮は石頭だな」
その言葉と共に床に落ちた物がある。リアが斬った、ゴーレムの左手首だ。
「ほな、こんなんどうどすかー?」
疾風の風となって、琉那が通り抜けた。
何処をかと言えば、ゴーレムの股の下だ。そして体を屈めたまま手を軸に回転し、ゴーレムの膝後ろに蹴りを叩き込んだ。
ゴーレムが膝を折り片膝立ちになる。
「古の兵器といえど古流武術の真髄は理解できへんようどすなぁ」
「わかったコイツ変な動きに弱い! とくればヘザーさーん!」
リツカが大声で呼びかけた。
「もしかして、アレをやるのっ?! りっちゃん!?」
「おうっ! 今こそあの技を使う時だよミコちゃん!」
「呼んだかァァァァァッ!!!」
言葉を交すミコトとリツカ。そしてヘザーが走ってくる。
「よしっ! 行くよ、ふたりともっ!」
「私ら三人の合体技!」
「青春群像・疾風怒濤剣!!!」
猛然と敵に向かっていくヘザー。その背後に、敵から死角になるようにミコトとリツカが続く。
ヘザーは敵の間合いに入る直前で跳躍する。同時にミコトとリツカは左右に跳ぶ。
ヘザーは敵を飛び越え、空中で体をひねりチャクラムを投擲。同時にミコトとリツカが挟撃するように同時に得物を叩き付ける――三方からの一斉攻撃。
「――ってなんだそりゃあ!」
リツカが技名にツッコミをいれた。
ともかくゴーレムの上半身は両側から抉れ、かなり不安定になった。それでも立ち上がり、それ以外考えられないというように眼前の敵に向かった。
しかし、その時には既に琉那が間合いに踏み込んでいた。
「かっこええなぁ。うちも負けまへんえー?」
琉那のしなやかな肢体が躍動する。新体操の技にも似た、力強さと優美さを兼ね備えた動きだった。縦回転を加えた跳躍から、ゴーレムの顔面に浴びせ蹴りを食らわせる。
大きく体を傾かせるも、最後の力を振り絞って反撃に移ろうとするゴーレムだったが、まだ狼が控えていた。
狼は限界まで低くした姿勢から地面を擦り上げるように斬り上げる。地面を剣が擦れた瞬間に摩擦熱で発火し、『地摺り咲く剣華』の名そのままに、切っ先は焔の尾を引いて舞い上がった。
一筋の剣閃と共に、胴体から切り離された腕が飛んだ。勢いに乗じて、恭牙が肉薄する。
「私はひねった事はあまり出来んのでな……!」
体ごとぶつけるような袈裟懸けの一撃。それは理論も技巧も叩き潰すような力の顕現だった。衝撃で、ゴーレムは真っ二つに折れる。――そして完全に動きを止めた。
●リザルト
一行はそれからも戦闘を続け、ゴーレムを次々に狩った。
「もう積めませんや。そんなに欲張っちゃあいけませんぜ」
「おお……!」
やがて回収役が、ヘザーに核を積み込んだ荷車が一杯になった事を報告した。かなりの量がある。百を越えたかもしれない。
「撤収! 撤収ー!」
ヘザーがやけに嬉しそうに撤収を呼びかける。
そうと決まれば去り際は鮮やかだった。狼だけは大慌てで黒曜石の破片を集めていたが……ともかく一行は、無事古の塔から帰還した。
転移装置まで来ればもう安全だ。恭牙は穏やかな表情になっていたが、琉那はほとんど変わらなかった。
「彼、今後は戦闘……戦争に役立つゴーレム作りに力を入れるみたいよ」
道中、コントラルトがヘザーに言った。彼とはアダム・マンスフィールドのことだ。
「何っ?!」
ヘザーは驚いてから、笑った。
「そうか、ヤツのハートに火を着けるつもりだったが……」
「たぶん、彼はきっとあきらめてはいないと思うわ。その本当の目的がなんなのかは分からないけれどね」
「必要なのはそう、力だ……!」
どこかで聞いたような言い回しだった。
実の所、ヘザーにはアダムの考えなど理解を超えている。なので妄想で補っている。
「これからが楽しみだな!!!」
かくして、思いつきで始まった冒険は幕を閉じた。
依頼結果
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【質問卓】 コントラルト(ka4753) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/02/05 07:21:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/06 00:52:40 |
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【相談卓】 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/02/05 23:11:59 |