ゲスト
(ka0000)
未来に刻む勝利を 第2話
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/18 09:00
- 完成日
- 2016/02/24 05:39
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●龍尾城の一室
「なるほど。蒼人は無事に十鳥城への潜入に成功したと」
立花院 紫草 (kz0126)が柔らかい物腰で椅子に腰かけながら言った。
西方からの客人を招く特別な一室だ。畳ではなく、板の間に西方風のテーブルと椅子が置かれている。
「はい。そして、これが現在判明している十鳥城内の状況となります」
資料の束を差しだしたのは紡伎 希(kz0174)だった。
いつもの赤いドレス姿ではなく、今はハンターズ・ソサエティの受付嬢の制服姿である。
彼女が蒼人と共に十鳥城へと向かわなかった理由は、蒼人からの連絡係だからだ。
「……抜け道は今後も使用できるよう、定期的な確認は必要になりますが、それは希殿にお任せします」
「畏まりました」
その旨を素早くメモに記録する希。
少女の手がふと、止まる。
「住民の避難路……としてでしょうか?」
抜け道を使って住民達を避難させるには、それなりに準備も必要だろう。
だが、紫草は静かに首を横に振った。さらさらの灰髪が揺れる。
「あくまでも、十鳥城は住民が蜂起しての解放が目的です」
大将軍の言葉を受け、希は少し考える――そして、一つの結論に行きついた。
「分かりました。その時が来たら、即、依頼を出せるように準備致します」
「希殿は飲み込みが早くて助かります」
爽やかに微笑んだ紫草。
まったく歳を感じさせない。
「蒼人様には、なんと?」
「城下町の状況をより深く調べるようにと伝えて下さい」
長い間、憤怒の歪虚の勢力域に存在しながら、なぜ、人が生き残っていたのか。
なにか理由があるはずだ。具体的な活動に移るには、その理由を知る必要がある。
●二人の歪虚
轟々と炎が迸り、1体の歪虚が焼かれた。
その哀れな歪虚は黒こげになった所を、真っ黒い巨大な犬に喰われる。
「矢嗚文に見つかるだけではなく、言付けを命令される情けない部下なぞ、いない!」
巨大な犬の姿をした歪虚の名は災狐。歪虚王、九蛇頭尾大黒狐 獄炎の近親者と自称している。
災狐の部下は、十鳥城を奪う為に忍び込むも、城主である矢嗚文に見つかってしまったのだ。
おまけに、立ち入る事を認めないという伝言まで寄こしてきた。
「今度こそ、潜入しろ。いいな! 絶対にだ!」
周囲を焼け尽す勢いの炎。
部下達は一斉に駆け出した。このままここに残っていても焼き殺されるだけだからだ。
矢嗚文 熊信(やおぶみ くまのぶ)は十鳥城の城主であると同時に、エトファリカ連邦を裏切った堕落者である。
歪虚王、九蛇頭尾大黒狐 獄炎が、ハンター達に討伐された話しは既に聞き及んでいる。
「まさか、あれを倒せるとはな……人とは大したものだ」
歪虚王の強さは、よく分かっている。
「だが、無条件で十鳥城をいかなる存在にも開け渡したりはしない事に変わりはない!」
災狐の部下が町に忍び込んだのは把握している。
殺すのは容易かったが敢えて掴まえて逃がした。警告をさせたが、これで引き下がるわけがないはずだ。
「契約に基づき、この城と町は我のものだ」
かつて繁栄を誇った城下町の風景は、既にそこには無かった。
●十鳥城城下町
抜け穴と繋がっていた廃屋で蒼人が本国からの連絡を受けていた。
連絡してきたのは、希ではなく、連絡係の男だった。
「希ちゃんは元気でしたか?」
「はぁ、あの受付嬢はいつも通りに見えましたが」
連絡係の男は、受付嬢を頭に思い浮かべた。確かに、可愛い。だが、どこかしら淡々とした所を感じる。それに、男にとっては娘みたいな年頃の少女である。さほど気にならないというのが正直な所だ。
「希ちゃんに、これを渡して欲しい!」
いかにも恋文ですって感じで蒼人が男に手紙を渡した。
「……また、ですか……持っていく、こちらの身にもなって下さい」
「そう言わずに!」
「めげない人ですねぇ。どうせ、また破られるだけですよ」
前回も私的な手紙を渡したのだが、希は中を確認すると冷淡な表情で手紙をビリビリに破いて棄てていた。
「人の大事な手紙を破るなんて事を、僕はしないけどね。お・と・な、だから」
本国からの連絡の手紙を破ったら大人どころか、任務に支障が出るでしょうと心の中で連絡係の男は思った。
そして、蒼人は自身に届いた手紙を読む。
「なるほど。まずは町の状況把握からだね」
クイクイっと眼鏡の位置を直しながら蒼人はそんな言葉を口にしたのであった。
「なるほど。蒼人は無事に十鳥城への潜入に成功したと」
立花院 紫草 (kz0126)が柔らかい物腰で椅子に腰かけながら言った。
西方からの客人を招く特別な一室だ。畳ではなく、板の間に西方風のテーブルと椅子が置かれている。
「はい。そして、これが現在判明している十鳥城内の状況となります」
資料の束を差しだしたのは紡伎 希(kz0174)だった。
いつもの赤いドレス姿ではなく、今はハンターズ・ソサエティの受付嬢の制服姿である。
彼女が蒼人と共に十鳥城へと向かわなかった理由は、蒼人からの連絡係だからだ。
「……抜け道は今後も使用できるよう、定期的な確認は必要になりますが、それは希殿にお任せします」
「畏まりました」
その旨を素早くメモに記録する希。
少女の手がふと、止まる。
「住民の避難路……としてでしょうか?」
抜け道を使って住民達を避難させるには、それなりに準備も必要だろう。
だが、紫草は静かに首を横に振った。さらさらの灰髪が揺れる。
「あくまでも、十鳥城は住民が蜂起しての解放が目的です」
大将軍の言葉を受け、希は少し考える――そして、一つの結論に行きついた。
「分かりました。その時が来たら、即、依頼を出せるように準備致します」
「希殿は飲み込みが早くて助かります」
爽やかに微笑んだ紫草。
まったく歳を感じさせない。
「蒼人様には、なんと?」
「城下町の状況をより深く調べるようにと伝えて下さい」
長い間、憤怒の歪虚の勢力域に存在しながら、なぜ、人が生き残っていたのか。
なにか理由があるはずだ。具体的な活動に移るには、その理由を知る必要がある。
●二人の歪虚
轟々と炎が迸り、1体の歪虚が焼かれた。
その哀れな歪虚は黒こげになった所を、真っ黒い巨大な犬に喰われる。
「矢嗚文に見つかるだけではなく、言付けを命令される情けない部下なぞ、いない!」
巨大な犬の姿をした歪虚の名は災狐。歪虚王、九蛇頭尾大黒狐 獄炎の近親者と自称している。
災狐の部下は、十鳥城を奪う為に忍び込むも、城主である矢嗚文に見つかってしまったのだ。
おまけに、立ち入る事を認めないという伝言まで寄こしてきた。
「今度こそ、潜入しろ。いいな! 絶対にだ!」
周囲を焼け尽す勢いの炎。
部下達は一斉に駆け出した。このままここに残っていても焼き殺されるだけだからだ。
矢嗚文 熊信(やおぶみ くまのぶ)は十鳥城の城主であると同時に、エトファリカ連邦を裏切った堕落者である。
歪虚王、九蛇頭尾大黒狐 獄炎が、ハンター達に討伐された話しは既に聞き及んでいる。
「まさか、あれを倒せるとはな……人とは大したものだ」
歪虚王の強さは、よく分かっている。
「だが、無条件で十鳥城をいかなる存在にも開け渡したりはしない事に変わりはない!」
災狐の部下が町に忍び込んだのは把握している。
殺すのは容易かったが敢えて掴まえて逃がした。警告をさせたが、これで引き下がるわけがないはずだ。
「契約に基づき、この城と町は我のものだ」
かつて繁栄を誇った城下町の風景は、既にそこには無かった。
●十鳥城城下町
抜け穴と繋がっていた廃屋で蒼人が本国からの連絡を受けていた。
連絡してきたのは、希ではなく、連絡係の男だった。
「希ちゃんは元気でしたか?」
「はぁ、あの受付嬢はいつも通りに見えましたが」
連絡係の男は、受付嬢を頭に思い浮かべた。確かに、可愛い。だが、どこかしら淡々とした所を感じる。それに、男にとっては娘みたいな年頃の少女である。さほど気にならないというのが正直な所だ。
「希ちゃんに、これを渡して欲しい!」
いかにも恋文ですって感じで蒼人が男に手紙を渡した。
「……また、ですか……持っていく、こちらの身にもなって下さい」
「そう言わずに!」
「めげない人ですねぇ。どうせ、また破られるだけですよ」
前回も私的な手紙を渡したのだが、希は中を確認すると冷淡な表情で手紙をビリビリに破いて棄てていた。
「人の大事な手紙を破るなんて事を、僕はしないけどね。お・と・な、だから」
本国からの連絡の手紙を破ったら大人どころか、任務に支障が出るでしょうと心の中で連絡係の男は思った。
そして、蒼人は自身に届いた手紙を読む。
「なるほど。まずは町の状況把握からだね」
クイクイっと眼鏡の位置を直しながら蒼人はそんな言葉を口にしたのであった。
リプレイ本文
●廃墟街
かつては大勢の人が暮らしていたのだろう。廃墟と化した街中を星輝 Amhran(ka0724)が一人で調査をしていた。
半壊した建物や壊れた塀等の地形を生かして、隠密行動を心掛ける。
こういう状況は長年の経験で物を言う。ひっそりと高い建物の屋上に登ると周囲を観測した。
(現地調査のぅ? まあ手がかりもまだ見つからぬで、余計な揉め事は避けろということかの?)
状況が良く分からないうちから行動を起こす危険性を星輝は十二分に知っていた。今回、調査という事は今後の事を思えば理に適っているだろう。
「しかし、人の気配がない街じゃの」
そんな独り言を呟く。
確かに見渡す限り廃墟と化している景色である。
十鳥城の周囲は歪虚勢力域である。高い城壁と深い掘りに守られていたとは言え、それが数十年近く人の生活があるとは不思議だ。
(人が歪虚の共存しておるのは考えにくいしの。支配されるにしても、支配する理由が歪虚にあるのかの)
廃墟街に残った痕跡を確認する限り、東方の生活様式から大きく変わった様子は無かった。
ただ、その貧しさは推測できた。どの屋敷にも家にも食糧となるような形跡はまったく残っていなかったからだ。
(市街地は食糧不足になりやすいから、生き残った住民が移動した可能性は高そうじゃな)
●歓楽街
チラリと周囲の状況を確認するシルディ(ka2939)。
往来する人々は疲れ切った顔をしていて明るい顔した人はいないようだ。姿も困窮している様子が窺える。
蒼人に女性は正面切って口説くものが西方流ですよ吹き込んだのは先刻の事。彼が手にしていた紙と筆すらも、今の城下町では貴重な品であるはずだ。
「ひと時の奇術をご覧頂けませんか?」
コイン入れを目の前に置き、声をかけるが、怪訝な目つきをして立ち去っていく。
歓楽街は人の姿がちらほらと見えた。賑わっている様子ではない。ソソソとまるでなにかに怯えるように小走りだ。
明らか様子が可笑しい。
余所者の姿をしているシルディを見ても反応がないというのは……。
「不思議かい?」
背後から唐突に声をかけられた。
治安が悪そうなので、襲いかかってこれば逆に返り討ちにしようと思っていたが、振り返ると髭面の酔っぱらった男がとっくりを持っていた。
「人の姿が確認できるからといって油断はいけねぇぜ」
男の背後でなにかがプスプスと煙を上げている。
見れば、男の腰には刀が差してある。ただ者ではない。
「あなたは……なに者ですかねぇ?」
「あー。酒のつまみが足りねぇよ。なんか見せてくれねぇか。奇術って奴をよ」
●闇市場にて
「上手く侵入は出来ましたけれど、ここからが本番。気を抜かず……頑張ります」
グッと拳を握ってメトロノーム・ソングライト(ka1267)が小さく気合いを入れた。
「ミィリアもいっぱい頑張るでござるよ!」
元気よくミィリア(ka2689)もそんな言葉を発した。
二人に挟まれるように蒼人がポーカーフェイスを装っている。
「この美少女二人を守り通す事、私の役目!」
なにやらポーズを取っているが、気にせずメトロノームとミィリアの二人は歩き出した。
まずは、この闇市の情報を探る事が第一だ。怪しまれない様に東方風の服装に身を包んでいるのが蒼人には残念な所だったようだが、彼の想いは依頼とは無関係だ。
メトロノームは休憩している振りをしながら闇市の人々の話題に耳を傾ける。
(人の話しとか食べ物の話しとか、どこかに雑魔が出たと……至って変わった事はないみたいですね……)
疲れ切った表情をしている以外は普通な一般市民のようにも見える。
周囲の警戒も怠らない。治安の維持をどうやって保っているのか、町民を監視する存在がいないのかと注視する。
その警戒の中、ミィリアが意を決して露店商に話しかけた。
「ねぇねぇ。お城の様子ってどうなってるのかなぁ?」
「……お嬢ちゃん、見かけない感じだね。贄役なんて久々だよ」
「に、贄役?」
首を傾げるミィリア。
「そうかそうか、なにも分からないで連れて来られたのかい。いいや、分からなくていいよ」
誤魔化されそうになったので、すかさず懐から持ってきた食べ物類を取りだす。その様子を見てメトロノームと蒼人も近寄って来た。
「これで取引、ってことじゃあだめかな?」
「……なにか訳ありって感じやな」
素早い動きで食べ物類を受け取ると商人は周囲を確認しながら語りだした。
「……つまり、贄役って、城主と戦う役目の人なんでござるね!」
闇商人の話しを聞いてミィリアはそんな風に口を開く。
「不定期で行われる城と城下町を賭けた戦いですか……」
メトロノームは考えるように口元に手をやりながら呟いた。
十鳥城の城主は歪虚と契約し、堕落者となった。その詳しい経緯は闇商人は知らないという。ただ、確実に言えるのは闇商人が生まれてくる前の話しだという。
城と城下町の支配者となった堕落者は、城下町の支配に際し、一つの決まり事を創った。
「それが、城主との戦いっていうわけですか」
蒼人が深刻そうな顔付きで言葉を発する。
不定期に行われる武闘会にて城主を打ち倒せれば、城と城下町を解放するというのだ。
「人間だけじゃねぇ。この城と町に欲を出した歪虚も、過去には城主と戦った」
「だけど、城主は勝ち続けたでござるな!」
闇商人の言葉にミィリアが続き、闇商人は頷いた。
「やがて、まともに戦える人間すら居なくなると……城主は城の外に闘士を求めた。そして、この城下町に拉致してきたのさ。そういう人達を、うちらは『贄役』と呼んでいるのさ」
「過去の『贄役』の人達はどうなったのでしょうか?」
大体予想がつきながらもメトロノームは訊ねた。
「戦った奴は皆、死んださ。生き残っているとしたら戦うのを放棄して、この町のどこかに潜んでいるんじゃないかな」
「……悲しい事、ですね……」
予想通りの返事に彼女は静かに瞳を閉じた。
●行方
大通りに突如として現れたスライム状の雑魔をレオン・イスルギ(ka3168)とシェルミア・クリスティア(ka5955)は共同して素早く倒す。
強さは大した事はなかった。恐らく、訓練を積んだ一般人でも倒せるレベルだろう。
「こんな町中でも出現するとは負のマテリアルが存在している感じですね」
ビッと刀を振ってから納刀するレオンにシェルミアも追随する。
「わたしも同じに思います」
雑魔は他には居ない様だ。
札を片付けた時だ。通りの影から何人か、住民が覗いている。
「目立ってしまいましたね」
レオンが苦笑を浮かべる。というのも、二人はなるべく目立たないように調査を行っていたからだ。
突如、大通りに雑魔が沸かなければこんな事態にはならなかったはず。
「とりあえず、変な事を言わないように注意します」
神妙な顔付きでシェルミアが言った。
住民を逆なでしたり、めんどうな事を口走って住民を敵に回したくないからだ。
「食料は、どうでしょうか? まだ持ちそうですか?」
レオンの問い掛けに住民の一人は答えた。
先程、雑魔を討伐した際に助けた住民だった。
「食べ物が貧しいのは以前から変わらないですね。毎日毎日、誰もがお腹を空かしていますよ」
疲労が浮かぶ住民の言葉。
健康状態はよろしくないようだが、なんとか凌いでいるといった所だろうとレオンは感じた。
「最近特に噂になっている事とかって何かあるかな? わたしも知らない事ばかりだから聞かせて貰えると有難いんだけど……」
「噂ね……まぁ、最近、特にぶっそうだって話しは聞いたけど」
住民の話によると先日、歪虚同士の小競り合いがあったらしい。
「そんな事があるのでしょうか?」
「城主様は私達にも厳しいですが歪虚にも同様ですからね」
その話しぶりからして城主への評判は悪い訳ではないのではないかと推測できる。
「城主さんってどんな人なのかな?」
シェルミアの質問に住民は一度、辺りを見渡してから小声で言った。
「支配者かな……良くも悪くも……でも、怖いです。最近は、大広場の方に姿を現す事も多いから逢えるかもしれませんよ?」
その言葉にレオンとシェルミアは視線を合わせたのであった。
●災狐の兆し
地面に降り立った星輝は廃墟街の探索を継続していた。
少しでもなにか手がかりが得られればと思ったからだ。その時、何者かの気配を感じ、咄嗟に半壊した屋敷の中へと飛び込むと身を潜める。
「無事に潜入したワン」
「この街は格好の隠れ場に良いワン」
そんな言葉が聞こえてきて、星輝は慎重に外の様子を覗くと、見るからに犬の形をした歪虚が数体で集まっていた。
犬が複数で集まって会話している姿はある意味微笑ましいが。
「それにしても災狐様もひどいワン」
「そうだワン。矢嗚文は強いから隙を見て襲うしかないワン」
「人間共を喰らって力をつけるしかないワン」
話しの内容は酷いものだと星輝は思った。
飛び出して制圧し、歪虚から情報を聞き出そうとも思ったが、初めて見る歪虚でもあり、表に出るのは止めて耳を傾ける。
「十鳥城を奪うのが遅いと、災狐様を怒らせてしまうワン」
犬の姿をした歪虚は『災狐』と呼ばれる歪虚の部下であり、この城と城下町を奪う存在であるようだ。
やがて犬歪虚は群れで走り去って行った。
「これは……やっかいな事になりそうな予感がするのじゃ」
星輝が犬歪虚の足跡を確認しながらそんな予言めいた事を呟いた。
●代官
なにもないと見せかけて花を出したり、逆にコインを消したりと手品を披露したシルディに男は楽しげな笑顔を見せた。
「すげぇなすげぇな。酒がうめーぜ」
「どういたしまして」
丁寧に頭を下げて一礼したシルディに男は指差した。
「おめーは面白い贄役だな」
「……えぇ……」
初めて聞く言葉だったが冷静にシルディは返した。
「久々だぜ。贄役が来るのはな……。ここでの生活は不便だろう」
「どうすればいいか見当もつきませんよ」
取り繕った苦笑を浮かべるシルディに男は頷いて応える。
「ここら辺に用がある奴はあまりいねぇからな。どちらかというと闇市周辺だからよ」
男の話しによると、生活全般の事は闇市の方が中心となっているとの事だった。
かつての城下町の中心部は雑魔や歪虚が出現する事が多く、人は住んでいないという。
「おめーも、生き残りたいなら、俺の所に来な……闇市で、『代官』と言えば、通じるからよ」
ひっくとしゃっくりをしながら酔っぱらった男は立ち去っていった。
●決意
メトロノームとミィリア、蒼人の3人は闇市の次に郊外の田畑にやってきた。
この季節なのか、葉物が育ててあるようにも見える。
「作物は育っているみたい?」
ミィリアが言うように、確かに食べ物は育っているように見える。
だが、その勢いは弱く感じた。
「負のマテリアルの影響かもしれませんね」
手ごろな所で土と水を容器に入れてメトロノームが言った。後でオフィスに持ち帰って調べて貰う為だ。
十鳥城の外は長年、歪虚の勢力域にあったのだ。
「それもあるだろうね。それに……単に枯れているだけかもな」
土触りを確かめながら蒼人が口を開く。
その言葉にミィリアとメトロノームは視線を蒼人に向けた。
「あぁ……畑ってのは肥料が必要なんだ」
「そうでござるな」
「じゃ、その肥料はどこから手に入れる?」
「腐葉土や家畜の糞から……なるほど……そういう事なのですね」
蒼人の問いかけを答えながらメトロノームは彼がなにを言おうとするのか途中で理解した。
豊かな腐葉土を手に入れるには山林が必要だ。家畜を飼うには餌となる牧草地が必要だ。そのいずれも得られにくいのだろう。
いくら広いといっても、城である。限度と言うものがあるはずだ。
「逆を言うと、ある程度は自給自足が可能だった、という事でござるか」
「城下町の人達は……ただひたすら待っていたのでしょうか……」
いつか、城主を打ち倒し、解放される事を。
それを数十年も……世代を越えて、希望の見えない戦いをひたすら続けて……。
町の人達が疲れ切った顔にはそんな意味があったのだろう。
「だったら……」
強い眼差しでミィリアが、畑を――その奥にそびえ立つ十鳥城の天守閣を睨んだ。
「ミィリア達で断ち切ればいい! ……で、ござるよ!」
「それは妙案ですね。帝を裏切った堕落者も仕留められる」
蒼人が眼鏡直しながら言った台詞に、二人共頷いて応えたのであった。
●十鳥城城主 矢嗚文 熊信
大広場に二人が到着した時、その人物は確かに居た。
禍々しい程の雰囲気を発する甲冑に身を包んだ、爽やかな好青年だった。肩位に伸びたストレートな黒髪が風に揺られている。
「城主様……でしょうか?」
レオンの言葉に人物は話しかけてきた二人に視線を向けた。
澄ましたようで、でも、どこかしら温かみも感じる不思議な、やわらかい表情を湛えて、その人物は名乗る。
「十鳥城城主、矢嗚文 熊信である。お前達が潜入したというハンターとやらか」
「……誘き出された。という事なんですね」
シェルミアの言葉に矢嗚文はなにも返さなかった。代わりに大太刀を大地に突き刺した。
「我は待っていたぞ。獄炎を打ち破った者共よ」
「教えて下さい。なぜ、矢嗚文様は人を捨てたのですか? そして、なぜ、この町の人々は生き残っているのでしょうか?」
食い入るように疑問をぶつけるレオンに続いてシェルミアも口を開いた。
「わたしも知りたいです。矢嗚文さんとこの町の人達の気持ちを」
「……いいだろう。話してやろう。この城で起きた悲劇を、な」
脅かす訳でもないが、矢嗚文はそのように前置きしてから言った。
十鳥城は数十年前、歪虚の進攻によって周辺を制圧されて孤立した事。それから幾年か籠城して保っていたが、やがて限界を迎えた事。
そこで、矢嗚文は歪虚に提案を持ちかけた。軍門に下ると。正し、町の支配は続けさせてもらうと。
歪虚はその条件を飲んだ。十数年もすれば自滅すると見込んだ為だ。
「……だが、我らは持ちこたえた。獄炎が敗れて去った今も、な」
歪虚の圧迫はもうない。
「なら、もう……」
レオンが口にした言葉を遮って矢嗚文は言い放つ。
「だとしても、契約は続いている。その契約がある限り、この町は我の物だ」
「契約って一体!?」
なおも質問を続けるシェルミアに答えはせず、矢嗚文は一瞥だけ向けた。
そして踵を返すと天守閣に向かって歩き出す。
「我に勝てる自信があるのであれば、いつでも受けて立つ」
最後にそれだけを言い残して矢嗚文は去った。
ハンター達の活動により、十鳥城とその城下町の様相が確認できた。
城主であり堕落者である矢嗚文の契約。
町に潜入し虎視眈眈と機会を狙う災狐の部下。
贄役と武闘会の関係。そして、代官と呼ばれる存在。
十鳥城をめぐって、止まっていた歯車が動きだしたのであった。
第3話へ続く――
かつては大勢の人が暮らしていたのだろう。廃墟と化した街中を星輝 Amhran(ka0724)が一人で調査をしていた。
半壊した建物や壊れた塀等の地形を生かして、隠密行動を心掛ける。
こういう状況は長年の経験で物を言う。ひっそりと高い建物の屋上に登ると周囲を観測した。
(現地調査のぅ? まあ手がかりもまだ見つからぬで、余計な揉め事は避けろということかの?)
状況が良く分からないうちから行動を起こす危険性を星輝は十二分に知っていた。今回、調査という事は今後の事を思えば理に適っているだろう。
「しかし、人の気配がない街じゃの」
そんな独り言を呟く。
確かに見渡す限り廃墟と化している景色である。
十鳥城の周囲は歪虚勢力域である。高い城壁と深い掘りに守られていたとは言え、それが数十年近く人の生活があるとは不思議だ。
(人が歪虚の共存しておるのは考えにくいしの。支配されるにしても、支配する理由が歪虚にあるのかの)
廃墟街に残った痕跡を確認する限り、東方の生活様式から大きく変わった様子は無かった。
ただ、その貧しさは推測できた。どの屋敷にも家にも食糧となるような形跡はまったく残っていなかったからだ。
(市街地は食糧不足になりやすいから、生き残った住民が移動した可能性は高そうじゃな)
●歓楽街
チラリと周囲の状況を確認するシルディ(ka2939)。
往来する人々は疲れ切った顔をしていて明るい顔した人はいないようだ。姿も困窮している様子が窺える。
蒼人に女性は正面切って口説くものが西方流ですよ吹き込んだのは先刻の事。彼が手にしていた紙と筆すらも、今の城下町では貴重な品であるはずだ。
「ひと時の奇術をご覧頂けませんか?」
コイン入れを目の前に置き、声をかけるが、怪訝な目つきをして立ち去っていく。
歓楽街は人の姿がちらほらと見えた。賑わっている様子ではない。ソソソとまるでなにかに怯えるように小走りだ。
明らか様子が可笑しい。
余所者の姿をしているシルディを見ても反応がないというのは……。
「不思議かい?」
背後から唐突に声をかけられた。
治安が悪そうなので、襲いかかってこれば逆に返り討ちにしようと思っていたが、振り返ると髭面の酔っぱらった男がとっくりを持っていた。
「人の姿が確認できるからといって油断はいけねぇぜ」
男の背後でなにかがプスプスと煙を上げている。
見れば、男の腰には刀が差してある。ただ者ではない。
「あなたは……なに者ですかねぇ?」
「あー。酒のつまみが足りねぇよ。なんか見せてくれねぇか。奇術って奴をよ」
●闇市場にて
「上手く侵入は出来ましたけれど、ここからが本番。気を抜かず……頑張ります」
グッと拳を握ってメトロノーム・ソングライト(ka1267)が小さく気合いを入れた。
「ミィリアもいっぱい頑張るでござるよ!」
元気よくミィリア(ka2689)もそんな言葉を発した。
二人に挟まれるように蒼人がポーカーフェイスを装っている。
「この美少女二人を守り通す事、私の役目!」
なにやらポーズを取っているが、気にせずメトロノームとミィリアの二人は歩き出した。
まずは、この闇市の情報を探る事が第一だ。怪しまれない様に東方風の服装に身を包んでいるのが蒼人には残念な所だったようだが、彼の想いは依頼とは無関係だ。
メトロノームは休憩している振りをしながら闇市の人々の話題に耳を傾ける。
(人の話しとか食べ物の話しとか、どこかに雑魔が出たと……至って変わった事はないみたいですね……)
疲れ切った表情をしている以外は普通な一般市民のようにも見える。
周囲の警戒も怠らない。治安の維持をどうやって保っているのか、町民を監視する存在がいないのかと注視する。
その警戒の中、ミィリアが意を決して露店商に話しかけた。
「ねぇねぇ。お城の様子ってどうなってるのかなぁ?」
「……お嬢ちゃん、見かけない感じだね。贄役なんて久々だよ」
「に、贄役?」
首を傾げるミィリア。
「そうかそうか、なにも分からないで連れて来られたのかい。いいや、分からなくていいよ」
誤魔化されそうになったので、すかさず懐から持ってきた食べ物類を取りだす。その様子を見てメトロノームと蒼人も近寄って来た。
「これで取引、ってことじゃあだめかな?」
「……なにか訳ありって感じやな」
素早い動きで食べ物類を受け取ると商人は周囲を確認しながら語りだした。
「……つまり、贄役って、城主と戦う役目の人なんでござるね!」
闇商人の話しを聞いてミィリアはそんな風に口を開く。
「不定期で行われる城と城下町を賭けた戦いですか……」
メトロノームは考えるように口元に手をやりながら呟いた。
十鳥城の城主は歪虚と契約し、堕落者となった。その詳しい経緯は闇商人は知らないという。ただ、確実に言えるのは闇商人が生まれてくる前の話しだという。
城と城下町の支配者となった堕落者は、城下町の支配に際し、一つの決まり事を創った。
「それが、城主との戦いっていうわけですか」
蒼人が深刻そうな顔付きで言葉を発する。
不定期に行われる武闘会にて城主を打ち倒せれば、城と城下町を解放するというのだ。
「人間だけじゃねぇ。この城と町に欲を出した歪虚も、過去には城主と戦った」
「だけど、城主は勝ち続けたでござるな!」
闇商人の言葉にミィリアが続き、闇商人は頷いた。
「やがて、まともに戦える人間すら居なくなると……城主は城の外に闘士を求めた。そして、この城下町に拉致してきたのさ。そういう人達を、うちらは『贄役』と呼んでいるのさ」
「過去の『贄役』の人達はどうなったのでしょうか?」
大体予想がつきながらもメトロノームは訊ねた。
「戦った奴は皆、死んださ。生き残っているとしたら戦うのを放棄して、この町のどこかに潜んでいるんじゃないかな」
「……悲しい事、ですね……」
予想通りの返事に彼女は静かに瞳を閉じた。
●行方
大通りに突如として現れたスライム状の雑魔をレオン・イスルギ(ka3168)とシェルミア・クリスティア(ka5955)は共同して素早く倒す。
強さは大した事はなかった。恐らく、訓練を積んだ一般人でも倒せるレベルだろう。
「こんな町中でも出現するとは負のマテリアルが存在している感じですね」
ビッと刀を振ってから納刀するレオンにシェルミアも追随する。
「わたしも同じに思います」
雑魔は他には居ない様だ。
札を片付けた時だ。通りの影から何人か、住民が覗いている。
「目立ってしまいましたね」
レオンが苦笑を浮かべる。というのも、二人はなるべく目立たないように調査を行っていたからだ。
突如、大通りに雑魔が沸かなければこんな事態にはならなかったはず。
「とりあえず、変な事を言わないように注意します」
神妙な顔付きでシェルミアが言った。
住民を逆なでしたり、めんどうな事を口走って住民を敵に回したくないからだ。
「食料は、どうでしょうか? まだ持ちそうですか?」
レオンの問い掛けに住民の一人は答えた。
先程、雑魔を討伐した際に助けた住民だった。
「食べ物が貧しいのは以前から変わらないですね。毎日毎日、誰もがお腹を空かしていますよ」
疲労が浮かぶ住民の言葉。
健康状態はよろしくないようだが、なんとか凌いでいるといった所だろうとレオンは感じた。
「最近特に噂になっている事とかって何かあるかな? わたしも知らない事ばかりだから聞かせて貰えると有難いんだけど……」
「噂ね……まぁ、最近、特にぶっそうだって話しは聞いたけど」
住民の話によると先日、歪虚同士の小競り合いがあったらしい。
「そんな事があるのでしょうか?」
「城主様は私達にも厳しいですが歪虚にも同様ですからね」
その話しぶりからして城主への評判は悪い訳ではないのではないかと推測できる。
「城主さんってどんな人なのかな?」
シェルミアの質問に住民は一度、辺りを見渡してから小声で言った。
「支配者かな……良くも悪くも……でも、怖いです。最近は、大広場の方に姿を現す事も多いから逢えるかもしれませんよ?」
その言葉にレオンとシェルミアは視線を合わせたのであった。
●災狐の兆し
地面に降り立った星輝は廃墟街の探索を継続していた。
少しでもなにか手がかりが得られればと思ったからだ。その時、何者かの気配を感じ、咄嗟に半壊した屋敷の中へと飛び込むと身を潜める。
「無事に潜入したワン」
「この街は格好の隠れ場に良いワン」
そんな言葉が聞こえてきて、星輝は慎重に外の様子を覗くと、見るからに犬の形をした歪虚が数体で集まっていた。
犬が複数で集まって会話している姿はある意味微笑ましいが。
「それにしても災狐様もひどいワン」
「そうだワン。矢嗚文は強いから隙を見て襲うしかないワン」
「人間共を喰らって力をつけるしかないワン」
話しの内容は酷いものだと星輝は思った。
飛び出して制圧し、歪虚から情報を聞き出そうとも思ったが、初めて見る歪虚でもあり、表に出るのは止めて耳を傾ける。
「十鳥城を奪うのが遅いと、災狐様を怒らせてしまうワン」
犬の姿をした歪虚は『災狐』と呼ばれる歪虚の部下であり、この城と城下町を奪う存在であるようだ。
やがて犬歪虚は群れで走り去って行った。
「これは……やっかいな事になりそうな予感がするのじゃ」
星輝が犬歪虚の足跡を確認しながらそんな予言めいた事を呟いた。
●代官
なにもないと見せかけて花を出したり、逆にコインを消したりと手品を披露したシルディに男は楽しげな笑顔を見せた。
「すげぇなすげぇな。酒がうめーぜ」
「どういたしまして」
丁寧に頭を下げて一礼したシルディに男は指差した。
「おめーは面白い贄役だな」
「……えぇ……」
初めて聞く言葉だったが冷静にシルディは返した。
「久々だぜ。贄役が来るのはな……。ここでの生活は不便だろう」
「どうすればいいか見当もつきませんよ」
取り繕った苦笑を浮かべるシルディに男は頷いて応える。
「ここら辺に用がある奴はあまりいねぇからな。どちらかというと闇市周辺だからよ」
男の話しによると、生活全般の事は闇市の方が中心となっているとの事だった。
かつての城下町の中心部は雑魔や歪虚が出現する事が多く、人は住んでいないという。
「おめーも、生き残りたいなら、俺の所に来な……闇市で、『代官』と言えば、通じるからよ」
ひっくとしゃっくりをしながら酔っぱらった男は立ち去っていった。
●決意
メトロノームとミィリア、蒼人の3人は闇市の次に郊外の田畑にやってきた。
この季節なのか、葉物が育ててあるようにも見える。
「作物は育っているみたい?」
ミィリアが言うように、確かに食べ物は育っているように見える。
だが、その勢いは弱く感じた。
「負のマテリアルの影響かもしれませんね」
手ごろな所で土と水を容器に入れてメトロノームが言った。後でオフィスに持ち帰って調べて貰う為だ。
十鳥城の外は長年、歪虚の勢力域にあったのだ。
「それもあるだろうね。それに……単に枯れているだけかもな」
土触りを確かめながら蒼人が口を開く。
その言葉にミィリアとメトロノームは視線を蒼人に向けた。
「あぁ……畑ってのは肥料が必要なんだ」
「そうでござるな」
「じゃ、その肥料はどこから手に入れる?」
「腐葉土や家畜の糞から……なるほど……そういう事なのですね」
蒼人の問いかけを答えながらメトロノームは彼がなにを言おうとするのか途中で理解した。
豊かな腐葉土を手に入れるには山林が必要だ。家畜を飼うには餌となる牧草地が必要だ。そのいずれも得られにくいのだろう。
いくら広いといっても、城である。限度と言うものがあるはずだ。
「逆を言うと、ある程度は自給自足が可能だった、という事でござるか」
「城下町の人達は……ただひたすら待っていたのでしょうか……」
いつか、城主を打ち倒し、解放される事を。
それを数十年も……世代を越えて、希望の見えない戦いをひたすら続けて……。
町の人達が疲れ切った顔にはそんな意味があったのだろう。
「だったら……」
強い眼差しでミィリアが、畑を――その奥にそびえ立つ十鳥城の天守閣を睨んだ。
「ミィリア達で断ち切ればいい! ……で、ござるよ!」
「それは妙案ですね。帝を裏切った堕落者も仕留められる」
蒼人が眼鏡直しながら言った台詞に、二人共頷いて応えたのであった。
●十鳥城城主 矢嗚文 熊信
大広場に二人が到着した時、その人物は確かに居た。
禍々しい程の雰囲気を発する甲冑に身を包んだ、爽やかな好青年だった。肩位に伸びたストレートな黒髪が風に揺られている。
「城主様……でしょうか?」
レオンの言葉に人物は話しかけてきた二人に視線を向けた。
澄ましたようで、でも、どこかしら温かみも感じる不思議な、やわらかい表情を湛えて、その人物は名乗る。
「十鳥城城主、矢嗚文 熊信である。お前達が潜入したというハンターとやらか」
「……誘き出された。という事なんですね」
シェルミアの言葉に矢嗚文はなにも返さなかった。代わりに大太刀を大地に突き刺した。
「我は待っていたぞ。獄炎を打ち破った者共よ」
「教えて下さい。なぜ、矢嗚文様は人を捨てたのですか? そして、なぜ、この町の人々は生き残っているのでしょうか?」
食い入るように疑問をぶつけるレオンに続いてシェルミアも口を開いた。
「わたしも知りたいです。矢嗚文さんとこの町の人達の気持ちを」
「……いいだろう。話してやろう。この城で起きた悲劇を、な」
脅かす訳でもないが、矢嗚文はそのように前置きしてから言った。
十鳥城は数十年前、歪虚の進攻によって周辺を制圧されて孤立した事。それから幾年か籠城して保っていたが、やがて限界を迎えた事。
そこで、矢嗚文は歪虚に提案を持ちかけた。軍門に下ると。正し、町の支配は続けさせてもらうと。
歪虚はその条件を飲んだ。十数年もすれば自滅すると見込んだ為だ。
「……だが、我らは持ちこたえた。獄炎が敗れて去った今も、な」
歪虚の圧迫はもうない。
「なら、もう……」
レオンが口にした言葉を遮って矢嗚文は言い放つ。
「だとしても、契約は続いている。その契約がある限り、この町は我の物だ」
「契約って一体!?」
なおも質問を続けるシェルミアに答えはせず、矢嗚文は一瞥だけ向けた。
そして踵を返すと天守閣に向かって歩き出す。
「我に勝てる自信があるのであれば、いつでも受けて立つ」
最後にそれだけを言い残して矢嗚文は去った。
ハンター達の活動により、十鳥城とその城下町の様相が確認できた。
城主であり堕落者である矢嗚文の契約。
町に潜入し虎視眈眈と機会を狙う災狐の部下。
贄役と武闘会の関係。そして、代官と呼ばれる存在。
十鳥城をめぐって、止まっていた歯車が動きだしたのであった。
第3話へ続く――
依頼結果
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相談卓です メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/02/17 22:45:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/13 22:24:06 |