魂の叡智たずねて

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/21 15:00
完成日
2016/02/28 10:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「リムネラ様、お忙しいところ申し訳ないのですがお手紙が届いています」
 ガーディナ補佐のジークに言われ、リムネラはふっと顔を上げた。
 ここのところの疲れはとれきっていないが、それでも補佐たるジークがわざわざ『忙しいところ申し訳ないが』『リムネラへ』と強調して言うのだから、これはかんたんな案件でないことはすぐにわかる。
「ドナタから、デスか?」
「それが、スコール族の族長、ファリフさんからなんです」
「マァ……!」
 ファリフが手紙をよこしてくるのはそうそう多くない。本人のフットワークが軽いため、リムネラに用があるときはむしろここまで会いに来ることもあるくらいだ。
 それが信書、となると確かに珍しい。しかも渡されたものは綺麗に封蝋で閉じられた羊皮紙で、それだけでも重要性がなんとなく見て取れる。


『リムネラへ
 こんにちは。今日はファリフ個人としてではなく、辺境の霊闘士を代表する形で手紙を書いているよ。
 実は、シバさんが亡くなる寸前、最期の死合いで使った技が、どうやら膨大なマテリアルを放出する、とてつもない技だってことが分かってきたんだ。大巫女様やチューダにも話を聞いてるから、まず間違いないと思う』
 ――大量のマテリアルの放出、そして最期の時に放たれた――リムネラはかつて大霊堂にいた頃聞いたお伽噺を思い出す。
『それで、ね。確かに危険を伴うのは分かっているんだけど、その技を会得できたら、きっとボクたちの戦力増加に繋がる。そうすれば、歪虚への対抗策も増える。もちろんそれだけじゃないと思うけれど』
 ファリフの無邪気な笑顔を思い出し、リムネラは少しだけ眉根を寄せた。
 自分よりも幼い少女が『敵を倒す、戦力の増加』という言葉を使うのが、少しばかり胸を痛くさせたのだ。
『それで、フェンリルが言ったんだ。ナーランギなら知ってるんじゃないか……って。ナーランギは大幻獣だし、ボクたちよりも長いこと生きているから、確かに何か知っているかも知れない。
 で、ここからが本題なんだけれど……ナーランギのもとに向かうためには、多分もっと多くのハンターの力を借りた方がいいと思うんだ。ボク一人で説得できるような相手じゃないのは分かっているからね』
 ナーランギ――大幻獣ナーランギ。幻獣の森を守り続けているその大幻獣は諦念的なところがあったが、ハンターたちの力で少しずつ前を向こうとしているとは聞いている。むろん、すぐに性質が変わるとも思えないが。
『だからお願いしたいのは、ナーランギと一緒に会ってくれるハンターの募集なんだ。これはボク個人ではなく、辺境の――ううん、すべての霊闘士を代表して、お願いしたい』
 そして締めくくりには、リムネラもどうか元気で、と書かれていた。


 手紙を読み終わったあと、リムネラはひとつため息をつく。
「……ナーランギと、会いたい……デス、か」
 もともとナーランギは悲観的で、ハンターたちにもなかなか心を開いてくれなかった大幻獣だ。確かに、ファリフひとりで説得はむずかしいだろう。
 それに――あのお伽噺が本当だとするならば。
 それはとてつもなく苦難の道になるはずだ。
 でも、自分に出来ることがあれば、手を差し伸べたい。
 リムネラは小さく頷くと、手元にあった紙にさらさらと何かを書き出した。

『急募:幻獣の森にてナーランギの話を聞いてきて下さるハンター』
 その紙はすぐに、ハンターオフィスに張り出されることとなった。

リプレイ本文


「お伽噺の内容、……デスか?」
 問われたリムネラはわずかに首をかしげる。ハンターたちが幻獣の森に向かう前、ルスティロ・イストワール(ka0252)に尋ねられたのだ。しかしリムネラも大霊堂で知ったくらいにしかお伽噺の知識は持ち合わせていない。結局は自分の手で、足で、掴むべき情報――なのだろう。
「でも、シバ老が亡くなる寸前に……ですか。部族が途絶えたことで、口伝も失われていますね」
 シバの部族だけではない。多くの辺境部族から、その秘儀は失われている。以前「部族泣き部族」が襲われたときのテトの姿を思いだし――アクセル・ランパード(ka0448)は小さく吐息をつく。
(これ以上、手を拱いてはいられない)
 アクセルは決意を瞳に灯す。
「とはいっても虫のいい話かも知れない……シバの話をどこまで受け入れて、話してくれるだろうか」
 ルシオ・セレステ(ka0673)はわずかにためらいがちに、言葉を濁す。
 それでも、シバが遺してくれた最期の技は――きっと大きな大きな一歩のためのヒントに違いない。
 だから、彼らは向かうのだ。――大幻獣ナーランギの待つ、幻獣の森へ。


 森に入ると、以前共闘してくれたこともある大幻獣・ツキウサギがぴょこりと挨拶をした。
「ハンターさんたちが来ることは聞いてたっす! ナーランギ様のところまで、案内するっす!」
 明るいツキウサギの声。と、ざわり、葉擦れの音がする。
 しかし、以前森を訪れたものならわかるかも知れないが――その気配は、ずいぶんと柔らかく感じられた。
 以前は小さな幻獣ですら、ハンターに対する警戒心を強めていたというのに、ずいぶん変わったものだなと思う。
 ――やがて森の奥にたどり着くと、そこには以前と変わらぬ姿のナーランギが、叡智を讃えた深い色の瞳でハンターたちを見つめていた。
 以前ハンターたちと話をしたときは、悲観的で諦念的、ネガティブの塊と言えるくらいだったナーランギだったが、今の瞳はずいぶんと優しげに見える。纏う空気が、少し柔らかい――とでも言えばいいのだろうか。
(……いや、それでも)
 ナーランギが、こちらの求める情報をすんなりと渡してくれるとは限らない。
 少なくともこれまでハンターたちが出会って来た大幻獣と呼ばれる存在たちは一癖も二癖もあるものばかり、当然ながらナーランギもその中に含まれているわけで。
 まずは会話を成立させること――これが大事だろう、そうハンターたちは睨んでいた。

「ハンターたち……また来たのか」

 威圧感を感じる、重々しい声。亀に絡みついた蛇の姿をした大幻獣ナーランギは相変わらず、静かにハンターたちを見つめていた。
「ナーランギさん、お久しぶりです。今回はまた、少しお聞きしたいことがあって参りました」
 口火を切ったのは夜桜 奏音(ka5754)。以前にも面識があるものが話しかける方がいいだろうというのは、ハンターの間でも話題になっていたし、女エルフながらも見聞の広い彼女はそう言う意味でも適任であるのかも知れなかった。
「……ふむ。私に聞きたいこと、か?」
「はい、こんにちは♪ 今回はよろしくお願いするわ」
 恋人であるオウガ(ka2124)とともに、大幻獣に挨拶したのはフィリテ・ノート(ka0810)。小柄ながらも物怖じしない恋人に、ガキ大乗といった感じのオウガはちょっぴり驚く。
「フィリテ先輩、相手は大幻獣なんだから、もう少し敬意を――」
 そんな幼い恋人たちのやりとりをみたハンターたちは思わず笑みを浮かべる。
「ああ、でも、その前に。ナーランギ様、人の子が食べる菓子の類はお好きですか? 少し土産、と言うことで持ってきたのですが――」
 そんなことを言いながら、バスケットに入っていた菓子をせっせと取り出すルシオ。星輝 Amhran(ka0724)も、にこにこ笑いながらバレンタインのチョコレートを『奉納』という名目で差し出す。
「……人の子の間では菓子をやりとりするものなのか」
 ずいぶんと人間は賑やかなことが好きなのだな、とナーランギは少し疲れ気味の声。なにしろこれまでずっと幻獣たちのために気を張ってきたナーランギにとって、人間の存在は場合によっては排除すべき対象だったのだ――つい数ヶ月前までは。
 それでも、この幻獣の森を守ってくれようとした人間――ハンターたちの存在は確かにありがたいものには間違いなく、それに対しての恩義は幻獣の森の住人の誰もが感じている。
 そしてナーランギ自身もまた、少しずつ、だが確かに態度を軟化させつつあるのは間違いが無かった。
「ナーランギ様に会う機会なんてなかなかないしな。お久しぶりです、まとまった時間がとれたんで遊びに来たようなもんだが……こんなもんを用意してきたぜ」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が手にしているのは酒の入った瓶だ。前回会ったとき、酒を気に入っているように感じられたので、また土産にと持ってきたわけである。
 よく考えたらナーランギは蛇に近い大幻獣である。酒飲みをさしてウワバミと言う言葉もあるとおり、その実ナーランギは結構な酒好きであった。まあ、そのことを自分からは口に出したりしないが。
 それにしても二十四人のハンターたちはまた今回もナーランギをとり囲むようにして座っている。
 しかし前回のような、痛いくらいの威圧感は殆ど無く、それはこの幻獣の森が少しずつではあるかも知れないが、確実に人間達へと心を開こうとしている証拠であるのかも知れなかった。
「お茶も用意致しましたから、どうぞ」
 ミオレスカ(ka3496)が、慣れた手つきでみんなに茶を配っていく。口直しのクッキーも添えられていて、まるでこれからティパーティでも始まるんじゃないかと言うくらいに穏やかなムードがただよっている。
 しかし今回の目的は、決してティパーティなどではない。誰もがそれを分かっているが、なかなか切り出せずにいる。
「……なあ、ナーランギ。昔話でもしてくれよ。例えば昔白龍に会ったことはあるのか、とか……他にも、」
 しばらくの沈黙のあと、そうはっきりと口に出したのは、男勝りの霊闘士、ボルディア・コンフラムス(ka0796)だった。
「ふむ。昔話、……ツキウサギからもちらとは聞いていたが」
 何か考え込むような眼差しになるナーランギに、何人かのハンターたちが声を上げた。
「ナーランギ。人類は先だって、強力な亡霊歪虚に憑依された重要人物を千からなるマテリアルリンクで保護し、亡霊歪虚のみの撃破にも成功している。敵を倒すだけがハンターじゃない、守るためのハンターがいても言いじゃねぇか」
 そう言い放ったのはシガレット=ウナギパイ(ka2884)。彼は彼なりに想像を膨らませていた――シバの遺した技とは何たるかを。報告書を読む限り、祖霊を宿すなど生易しいものではなさそうだ、と思う。
(マテリアルが形をなして意思を持つためには大なり小なりの核が必要のはず……そう言うことなんじゃねぇか、もしかして)
「あの……マテリアルの放出を技へと昇華することは、可能なのでしょうか? 長く生きておられるナーランギさんなら、もしやしっておられるかと思いまして」
 奏音はあえてシバについてはぼかし、そう言う質問をしてみた。しかしナーランギは、
「さて、どうだったかのう」
 とはぐらかすばかり。
 いっぽう、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は以前出会ったときのナーランギの嘆きと憂いを思う。
「……ボクは前、貴方に、次の世代へ繋げたいと言った。もっとも、貴方は絵空事にすぎないと言ったけれどね。あれから、この幻獣の森で新たな幻獣は生まれなかったのだろうか?」
「あのときの……ふむ。幻獣を種として考えるなら答えは否、だな。新たな幻獣の種は発生していない」
「……少し違うんだけれどね。ボクは先日、生まれたばかりの人間の赤ちゃんをみたよ。その子は両親の愛に包まれて、笑っていた。父親は娘のために子守唄のオールゴールを贈ろうとしていて……改めて思ったんだ。やっぱり、たとえ絵空事であろうとも、ボクは受け継がれてきたものを、ボクらの世代で終わらせたくはない」
 その意見には大多数が同意したらしく、こっくりと頷くハンターも多かった。
「はじめまして、辺境の民に協力しているアクセル・ランバートと申します。少し昔語りになりますが――」
 アクセルは話した。
 己の過去を。部族が絶えて、垣根を越えて集まった集団を救えなかったことを。
「諸行無常……長い時を生きる貴方が悲観的になるのもわかります。しかし、有限の時を生きる俺達にとって、死んだ者のためにも歩みを留めるわけにはいかないんです」
 今という時代を、互いに生き抜くために――その力が必要なのだと、彼は切々と訴える。
「俺はさっき、ここに来るまでに森をちょっと見てきたんだけど――」
 ザレム・アズール(ka0878)はそう言ってふわっと笑った。
(信頼して心を開いていない相手には、きっと何も教えて貰えない。俺が彼なら、こんな風に何かあるときだけ集まる連中は嬉しくない存在だもの……それに彼のことばかりで、森や幻獣に気をかけないのも、な)
 ちらり。前回ナーランギと接見したときのメンバーも、今回は何人か混じっているが――
(彼らは、ちゃんとそれを実践してるのだろうか……?)
 そんな不安が、頭をちらりと掠めた。
「幻獣は人語を話せないから様子を見る程度になったけど、森全体の空気が前よりもうんと柔らかくなってるな。ナーランギはマテリアルの感知とかでわかるかも知れないけれど……俺達って、そう言う意味ではマテリアルについて知らなさすぎるよな」
 ザレムの言葉に、ナーランギもうむ、とゆるく頷く。
 ルスティロはお伽噺、と言う言葉に胸をときめかせている。
「僕はね、そのお伽噺のことを聞いてびっくりしたんだ。技の中身とかじゃなくて、それこそが僕の書きたいと思っているものだったからね。古の戦士達の戦い、それは物語となって希望を与える――僕も彼らの戦い、生き様を描いて、人々に希望を伝えたいんだ」
 そしていつかまた、それが「ただの胸躍る昔話」になるような平和な世界になってほしい――それが、彼の望み。
「……もちろんまあ、未来を信じることを諦める程度に摩耗する時間を生きたアンタを、百年も生きていないオレらが説得しようってのがアレっすよね。そんなに長い時間を生きていない俺達には、アンタを本当の意味で理解するのは出来ねーっす。でも、アンタは俺達のことを理解できるはずッスよ。だって、アンタも未来を信じていた、若い頃があったはずなんすから」
 いかにも三下、と言った風情の神楽(ka2032)がたたみかけるようにそう言った。良くも悪くも流されやすいタイプではあるのだが、今の彼は『弱い人間』と言うことを百二十分に引き出している。
 だって、神楽自身も弱い人間なのだから。
 ナーランギはそんな若者達の言葉をじっと聞いている。
「なー様、なー様。笑う門には福きたるー、でーすの♪」
 考え込むようにじっと聞いているナーランギに、パルムやイェジドとともににっこり笑って気分を解そうとしているのはチョココ(ka2449)だ。確かに、ナーランギの眉間には深いしわが刻まれていて、それがこれまでの苦悩を物語っているようにも見えて、少し切ない。
(大幻獣には、こうやって知恵を求める我々人が、どううつるのだろうか……都合良く自然から奪えるだけの力を求める、強欲だろうか。それとも……)
 眉根を寄せているのはナーランギだけではない。リュカ(ka3828)もまた、何かを考え込むようにして口をつぐんでいる。
(でもこの、ナーランギ様の考え方は……森に住まう同族たちを思い出すわ)
 リュカと同じく、エルフであるアイラ(ka3941)は、そう思ってから首をぶんぶんと横に振った。
「改めまして、ナーランギ様はじめまして。私はアイラと申します」
 そして、アイラとオウガはじいっとナーランギを見つめ、そして、互いの情報を補い合うようにして、話し出した。
 『蛇の戦士』シバの――最期の技をその目で見たひとりとして。


「……シバのジッちゃんは逝っちまったけど、いなくなったわけじゃない。ジッちゃんは俺達に託してくれたんだ、だからそれを俺は受け継ぎたい」
 長い長い、オウガの話が終わると、ふ、とナーランギが息をついた。
「……ふむ。そのシバという戦士の名前は風の噂に聞いたことがあるな。彼の者が、逝ったのか」
 人の一生とは短いものだ、と妙に感慨深そうにナーランギが頷く。
「そして、最期にマテリアルの大量放出――か。それは恐らく、『奥義』の一種であろう」
 静かに、しかしきちんと、ナーランギは反応してくれた。
 加えて、確かに、ナーランギの態度は以前よりも人を信じてくれているようなそぶりが、言葉の端々から感じ取れた。
「……『奥義』……?」
 思わず呟いたのは、やはりシバの最期の場に立ち会ったオウガだ。
「なぁ、ナーランギ。もし俺達に、歪虚と戦うための力、『奥義』について教えるのが不安だってんなら、試練でもなんでも用意しろ。どんな苦難だろうが危険だろうが、俺達の持てる力を示して、その不安のすべてを吹き飛ばしてやる!」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はそう言って、肩をぐるぐると動かしてみせた。ナーランギは少し考えるような目をしてから、ゆっくりとハンターたちに尋ねる。
「……少し、お前達の言う昔話とやらをしてみよう」
 ハンターたちが頷くと、大幻獣は少し懐かしそうな瞳をして、語りはじめた。


 ――昔、霊闘士たちは確かに今よりも強い力を備えることがあった。
 けれど、それは『試練』を乗り越えた霊闘士のみ。
 彼らはその試練に打ち勝つことで、『霊闘士の奥義』を手に入れることができたのだ。
 しかし、それは確かに奥義と呼ぶに相応しいものだったと言われている――。
 

「……お前達ヒトの世では、もうこれらもほとんどが散逸してしまっているようだがな。お前達の顔を見れば、そのくらいはわかる」
 ナーランギはそう言って、くるり、と周囲に立つハンターたちを見渡した。
 それぞれ、ハンターを目指した理由は異なるだろう。だが、彼らは今、この世界にはびこる歪虚を何とかしたいと必死になってもがいている。足掻いている。
 ナーランギとて、全くの堅物ではない。先だって人と接するようになってから、人々の心がじわじわと理解できるようにはなっていた。態度が軟化している、と受け取られたのもそれが起因している。
「危険が伴うと分かっていて、それでもなお知りたいか? 人の子よ」
 ナーランギは、慎重に言葉をかける。それに反応したのは、ミノル・ユスティース(ka5633)らをはじめとする、多くのハンターたち。
 ミノルは少しつばを飲み込んでから、ゆっくりと言葉を発する。
「……ナーランギ。その技、力を求めるのは、強大な力を持つ歪虚から、すべての生きとし生けるものたちを守るため、そして力の限り仲間たちを護り、導いてくれた先達の意思を受け継ぎ絶やさぬ為、です。……私はあいにく霊闘士ではなく、偉大な先達の技こそ受け継ぐことは出来ませんが、志は受け継いでいきたいと思うのです……!」
 そしてそれに呼応するように頷く、ハンターたち。
(正直、ナーランギに対して技への期待は持っていなかった、が)
 胸の中でそう思うのは瓢(ka5689)、誰かが技についての情報を得ようとして焦り、強く迫るような行動を取るようならばそれを諫めなだめるつもりで参加していた、ある意味では『変わり者』といえる。
 一度絶えた技が復活するかも知れないということに対しての浮き足だった反応は、逆に歪虚に何かを気づかれてしまうのではないかと懸念しているのだ。
 しかし、ナーランギ自身も以前ほど険しい態度でなくなり、ハンターたちに話をしようとしてくれている。それは確かにありがたい話なのだが、
「だが、気の急いた者たちが無闇に動けば歪虚も動くだろう。そうすれば、会得場所を守っているであろう幻獣にも危険が及ぶ可能性がある。……技のためではない、彼らを守るためにも教えてくれないか?」
 瓢の意見ももっともだ。
 しかしナーランギはすうと目を細め、
「奥義の試練の地というのは、少し特殊でな。霊闘士たちはそこを、『魂の道』――そう呼んでいるらしい」
「たましいの、みち?」
 誰かがオウム返しに問うた。
「そう。あのシバという戦士も確かに強かったとは聞いていたが、『魂の道』の試練は恐らく知らなかったはずだ。多分――彼は彼なりの方法で、奥義を手に入れるのに匹敵する試練を乗り越えたのだろう――そう考えるのが、一番しっくりくる」
 ナーランギの言葉は、不思議と信じられる気がした。
「では逆に聞かせて欲しい。ナーランギ、その試練の場所はいったいどこだ? シバが最期にいたパシュパティ砦、そこか、そこに近い場所かと考えているけど」
 そう言ったのは、リアルブルー出身の八島 陽(ka1442)。
「ただ……リアルブルーの一部に残る神話に、この技によく似た技を使った戦士の物語があってな。その戦士は、技を使ってから敵味方の見境なく戦い続けたと言われている。大量のマテリアルの制御が出来ないと、そうなるとか……あるんじゃないか?」
「なるほど。リアルブルーにも似たような伝承があるのは初めて知ったが……。そう言う懸念をする者がいても仕方が無かろうな。それにここまで話しても、引き下がろうと思うものはいないのであろう?」
 ナーランギはそう言ってから一拍おいて、言葉を発した。
「『魂の道』へたどり着くための場所は、エンシンケ洞穴の最奥部――だ」
 むろんそれだけではないがな、と付け加えて。
 万が一のことも考えて、試練を受けるべき場所は複数用意されているらしい。


「……ただ、人の子たちよ。この先は、もしかしたら死ぬかも知れない、と言うくらいの覚悟で臨まないと、『魂の道』の試練を乗り越えることは出来まい。試練を乗り越えるまでには、多くの苦難が待ち受けていることだろう」
 そしてナーランギは付け加える。その『祖霊の欠片』こそ、大量のマテリアルを秘めた宝珠であると。
「……あー、そもそもそのマテリアルってのは一体何なんだ? 人間と幻獣だといろいろ物の見方が違うこともあると思うが、マテリアルについては……?」
 シガレットが問うと、
「それについての差は、そう違いはないな。だいたい、同じものと考えて構わない」
「一応確認するが、邪術の類ではないのじゃな?」
 星輝の問いには、「奥義そのものは邪術ではない」とナーランギがお墨付きを与える。
 ただ、ナーランギはさらに付け加える。
「生命の危険が無いかと言えば、嘘になる。奥義を使う事は己を削る行為。奥義を学んだ霊闘士が、奥義のよって命を落としたのは一度や二度ではない」
 奥義自体は邪術ではない。しかし、奥義は死と背中合わせ。
 星輝の懸念は、ある意味で的中していたようだ。
 ナーランギの長い長い話は、ひとまず終わった。すると、神楽がにかっと笑って、胸をとんと叩いた。
「大丈夫、先にどんな絶望が待ってても、自分の選んだ道なら公開なんてしないっすよ! 俺達は若いっすから!」


「そういえば、ナーランギ様」
 星輝の妹であるUisca Amhran(ka0754)は、話に一段落ついたところで笑顔を浮かべた。
「もしよろしければ、ナーランギ様ご自身の昔話もお聞かせ願えませんか? ナーランギ様が今のご自身の姿になられる前はどんな感じだったのです?」
 実のところ、ウィスカは口にこそ出さないが『霊闘士が祖霊を宿してに謡を変質させること』と『幻獣の成り立ち』の類似性に何らかのヒントがあるのでは、と思っていた。……残念ながら、今回はそれほど大きな関連性はなさそうだったが。
「そうだな……かつての私は、大蛇の幻獣だったと思う。だが、もうそれもずいぶん昔のことだ、記憶違いもあるかも知れないが」
「ナーランギ、貴方にも若い頃はあったのだね」
 そのそばにいたアルトもくすっと笑ってみせる。
「ボクは、先人達が築いてきた道を知ることが新たな一歩のための勇気になると思っている。だからボクが知りたいのは、貴方のことだ。貴方個人のこと、もっと知りたい」
「面白いことを言う、人の子だな。お前は」
 亀に絡みついた大蛇、と言う姿をした大幻獣は、のっそりとその言葉に応じる。その隣には、ふわふわとした、どことなくあざとさのある笑顔を浮かべた女性――星野 ハナ(ka5852)が座っている。
「私は星野ハナと言いますぅ。その姿、リアルブルーの空想上の霊獣、冬を司る「玄武」というものに似ていますぅ。もしかしてぇ、ナーランギさんも、お友達がいなくって寂しいのかとぉ」
 大学を出てから身に染みついたぶりっこ口調で、ナーランギに馴れ馴れしく話しかける。まだ転移してそれほど間がないはずなのに、この順応性の高さには舌を巻くくらいだ。
「いや、その話も聞いたことがある程度だな。別の世界の幻獣とは、接点など持てぬ」
 若干押せ押せムードのハナに引きつつも、丁寧に応じるあたりは大幻獣たる所以だろう。
「そういえば先ほどは皆で質問攻めにしてしまって申し訳ありません。改めて、セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)と申します。……今度は、私の話を少し致しましょうか」
 セツナはそう言って、言葉を選びながら話していく。
 帝国で生まれたものの、革命の中で両親と離れ、辺境へと逃げ延びたこと。辺境部族の間で育ち、養父から良く辺境にまつわるお伽噺をしてもらったこと。
「むろん、霊闘士の話は聞くことはありませんでしたが……いい思い出です」
 セツナが懐かしそうに言うと、ナーランギも頷いた。
「良き、家族に巡り会えたのだな」
 その言葉は、きっと何よりも彼女の心を震わせた。
「そういえば、ボルディアと言ったか。白龍について問うたのは」
「! は、はいっ!」
 突如名を呼ばれ、ぱっと顔を輝かせるボルディア。
「白龍にはずいぶんと昔、会ったことがある。歪虚の手から幻獣達を守るべく、この森を作った時に――」
 きっとこれも、お伽噺の世界。

 ひととおり話が終われば、あとはまったりとしたティパーティの再開だ。ミオレスカの用意した飲み物だけでなく、フィリテもしっかり用意しているあたり、若干ピクニック感覚が抜けてないようだが、まあいい。
 実のところ、ナーランギにチョコレートを用意していたのは星輝だけではなく、そのためナーランギは酒のつまみにちょいちょいとチョコを頬張っている。
 ちなみにグリムバルドの用意した酒は二種類。どちらもぐいぐいとやっているところを見ると、やはり結構な酒好きらしい。もともとグリムバルドは話に来たと言うよりもナーランギに会いに来た、と言う方が正しいので、ナーランギに少しだけ昔の話をねだる以外は折角だからと酒をかっ食らっている。
「人間からの贈り物というのは面白いな。むろんその気持ちは有難く頂くが」
 そう言いながらチョコレートを口にするその様子が不思議とおかしく感じられて、ハンターたちの間で思わず笑みがこぼれたのだが、それはまた別の話。


 ナーランギと幻獣の森。
 かつてのままなら、こんな穏やかに――むろんナーランギははじめ言葉を渋っていたが――会談が終わることはなかったはずだ。
 それだけ、ナーランギも幻獣の森も、彼らハンターを受け入れようとしてくれている。
 それはとてもありがたい話だし、それにそのおかげで大事な話もきちんと聞くことが出来た。
 むろん、まだまだ困難は立ちふさがっている。
 それでも、少しずつ変わっていける。
 どんな困難があっても、きっと乗り越えていける。
 ハンターたちはそんな予感を胸に秘め、幻獣の森をあとにしたのだった。

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MVP一覧

  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワールka0252
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽ka1442
  • 援励の竜
    オウガka2124
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • 救世の貴公子
    アクセル・ランパード(ka0448
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 不撓の森人
    リュカ(ka3828
    エルフ|27才|女性|霊闘士
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ゲルタの彼氏?
    ミノル・ユスティース(ka5633
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 洗斬の閃き
    セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

  • 瓢(ka5689
    人間(蒼)|32才|男性|符術師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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2016/02/21 01:23:23
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シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
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2016/02/19 00:11:59