ゲスト
(ka0000)
ハンターvs新兵(シグルド含)模擬演習
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/27 12:00
- 完成日
- 2016/03/11 06:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝国は暴食の歪虚王を始めとした歪虚軍による各都市同時攻撃にて大きな痛手を負った。
今、その攻撃をようやく撥ね退け、北荻よりも更に北に位置する国を探し求めて動き始める中、帝国内部でも受けた痛手を回復する動きが目立っていた。
「しかしまぁ、不作だね」
帝国第一師団副師団長のシグルドは演習場を装備を持ってランニングする新兵の姿を上から眺めてぼやいた。
首都バルトアンデルスも攻撃を受け、多くの兵士達が負傷し、あるいは塵と消えて行った。しかし欠員のままでは、首都の機能回復すらおぼつかない。そこで早速、兵員補充を行ったわけだが。
「仕方ないですよ。これでも軍務課に頼んで、そこそこ優秀なのを配備してもらったんですよ」
「文官には優秀そうだけどね」
ゾンネンシュトラール帝国は軍政で成り立っている国だ。どこの地方から徴用してもそれなりの体格、戦い方、心構えは整ってはいる。
だが、覇気がない。彼らの多くは戦場に出るにはいささか優しすぎる人間ばかり。顔を見ればそれくらいはすぐわかる。
「クリームヒルトの影響かな。困ったもんだ」
帝国の威信が届きにくい地方農村では旧帝国の姫クリームヒルトの影響力があると聞く。
どうにも彼女の優しさが影響するのか、戦うことで道を切り開く。という気概が見られない。
「それもこれもハンターに頼るからですよ。帝国のことは帝国民が行う。その先となるのは帝国兵士。この構図にハンターなんて訳の分からない物を取り込むから……」
シグルドの横につく兵長は憤懣やるかたない様子で新兵たちのプロフィールをめくって確認してはそう愚痴った。
「国の方針なんだから。あ、そうだ。ハンターに練兵してもらおう。彼ら死線をいくつもかいくぐっているし、場慣れという意味ではいい講師になるだろう」
「シグルド様まで! そんなこと言うから兵士の質の低下につながるんです!!」
兵長は唾を飛ばして箴言したが、シグルドは彼の持っていた書類の束で蓋をした。
「兵長もハンターと違う所を見せて兵士に帝国の尊厳を確立したいだろう? そこはやはり一度は刃を重ねないと」
「あ、ええ。そうです、ね……」
兵長は思わず言葉を失って、シグルドの提案に頷いた。
悪いが兵長に応と言わせる話し方などシグルドは十分知っていた。
「新兵がハンターと演習試合を行う。新兵側は僕が指揮しよう。兵長も一部隊指揮してくれたまえ。目的は戦闘に慣れさせること。戦い方を体で覚えること。新兵にはちょっと早いけどね。まあショック療法としては適当だろう。うまくすれば兵士も自分たちに自信を持てるだろう。新兵と言っても覚醒者もいるしね」
兵長は困惑した様子で、シグルドの命令に承服した。
結局ハンターの力を借りているということに気づくのは、しばらく後になりそうだと思いつつ、ハンターオフィスー手続きを始める兵長の後ろ姿を見て、シグルドはにやにやと笑った。
「模擬とはいえハンターとの戦いか。腕が鳴るね」
シグルドは軍用手袋の下にはめた指輪をクルクルと回しつつ、笑みを隠せずにいた。
●新兵訓練用模擬戦 ハンター側 概要
目的
帝国に新たに徴用された兵士に戦闘経験を積ませる
ハンターとの連携を通じて、現在遂行中の闇光作戦のような合同作戦においての相互理解を深める(追記)
場所
バルトアンデルス郊外 軍事演習場
500mほどの敷地。平野・丘・川・森・建造物が一通りそろった演習場。
人数
帝国側:
新兵50名。指揮官としてシグルド副師団長、兵長の2名が参戦
新兵には覚醒者・非覚醒者・戦闘経験者・非戦闘経験者のいずれもがいる。
ハンター側:25名
演習形式
ハンターは演習場のどこかにある特定の指輪を発見し、自陣に持ち帰る。
敷地内には新兵が先に布陣し、ハンターの捜索を妨害し、規定時間指輪を防衛する。
ハンターは演習当日日の出より演習場を偵察できるものとする。
時間
午後3時より1時間
ルール
ハンター、兵士共に支給される演習用装備を使用すること。
防具の各部位にインクが仕込まれており、衝撃を受けるとインクが出てくる仕様となっている。
各種攻撃により防具にインクがでれば命中したものと見なす。
頭部及び急所に命中の場合は死亡したとみなし、速やかに離脱すること。
それ以外は3回まで耐えられるものとする。
治療行為によりペイントは消すことができる。
覚醒による能力はすべて利用可能とする。ただし殺傷能力は抑えること。
その他
その他の質問事項、決まっていない部分についてはシグルド副師団長とハンターが協議の上決定する。
今、その攻撃をようやく撥ね退け、北荻よりも更に北に位置する国を探し求めて動き始める中、帝国内部でも受けた痛手を回復する動きが目立っていた。
「しかしまぁ、不作だね」
帝国第一師団副師団長のシグルドは演習場を装備を持ってランニングする新兵の姿を上から眺めてぼやいた。
首都バルトアンデルスも攻撃を受け、多くの兵士達が負傷し、あるいは塵と消えて行った。しかし欠員のままでは、首都の機能回復すらおぼつかない。そこで早速、兵員補充を行ったわけだが。
「仕方ないですよ。これでも軍務課に頼んで、そこそこ優秀なのを配備してもらったんですよ」
「文官には優秀そうだけどね」
ゾンネンシュトラール帝国は軍政で成り立っている国だ。どこの地方から徴用してもそれなりの体格、戦い方、心構えは整ってはいる。
だが、覇気がない。彼らの多くは戦場に出るにはいささか優しすぎる人間ばかり。顔を見ればそれくらいはすぐわかる。
「クリームヒルトの影響かな。困ったもんだ」
帝国の威信が届きにくい地方農村では旧帝国の姫クリームヒルトの影響力があると聞く。
どうにも彼女の優しさが影響するのか、戦うことで道を切り開く。という気概が見られない。
「それもこれもハンターに頼るからですよ。帝国のことは帝国民が行う。その先となるのは帝国兵士。この構図にハンターなんて訳の分からない物を取り込むから……」
シグルドの横につく兵長は憤懣やるかたない様子で新兵たちのプロフィールをめくって確認してはそう愚痴った。
「国の方針なんだから。あ、そうだ。ハンターに練兵してもらおう。彼ら死線をいくつもかいくぐっているし、場慣れという意味ではいい講師になるだろう」
「シグルド様まで! そんなこと言うから兵士の質の低下につながるんです!!」
兵長は唾を飛ばして箴言したが、シグルドは彼の持っていた書類の束で蓋をした。
「兵長もハンターと違う所を見せて兵士に帝国の尊厳を確立したいだろう? そこはやはり一度は刃を重ねないと」
「あ、ええ。そうです、ね……」
兵長は思わず言葉を失って、シグルドの提案に頷いた。
悪いが兵長に応と言わせる話し方などシグルドは十分知っていた。
「新兵がハンターと演習試合を行う。新兵側は僕が指揮しよう。兵長も一部隊指揮してくれたまえ。目的は戦闘に慣れさせること。戦い方を体で覚えること。新兵にはちょっと早いけどね。まあショック療法としては適当だろう。うまくすれば兵士も自分たちに自信を持てるだろう。新兵と言っても覚醒者もいるしね」
兵長は困惑した様子で、シグルドの命令に承服した。
結局ハンターの力を借りているということに気づくのは、しばらく後になりそうだと思いつつ、ハンターオフィスー手続きを始める兵長の後ろ姿を見て、シグルドはにやにやと笑った。
「模擬とはいえハンターとの戦いか。腕が鳴るね」
シグルドは軍用手袋の下にはめた指輪をクルクルと回しつつ、笑みを隠せずにいた。
●新兵訓練用模擬戦 ハンター側 概要
目的
帝国に新たに徴用された兵士に戦闘経験を積ませる
ハンターとの連携を通じて、現在遂行中の闇光作戦のような合同作戦においての相互理解を深める(追記)
場所
バルトアンデルス郊外 軍事演習場
500mほどの敷地。平野・丘・川・森・建造物が一通りそろった演習場。
人数
帝国側:
新兵50名。指揮官としてシグルド副師団長、兵長の2名が参戦
新兵には覚醒者・非覚醒者・戦闘経験者・非戦闘経験者のいずれもがいる。
ハンター側:25名
演習形式
ハンターは演習場のどこかにある特定の指輪を発見し、自陣に持ち帰る。
敷地内には新兵が先に布陣し、ハンターの捜索を妨害し、規定時間指輪を防衛する。
ハンターは演習当日日の出より演習場を偵察できるものとする。
時間
午後3時より1時間
ルール
ハンター、兵士共に支給される演習用装備を使用すること。
防具の各部位にインクが仕込まれており、衝撃を受けるとインクが出てくる仕様となっている。
各種攻撃により防具にインクがでれば命中したものと見なす。
頭部及び急所に命中の場合は死亡したとみなし、速やかに離脱すること。
それ以外は3回まで耐えられるものとする。
治療行為によりペイントは消すことができる。
覚醒による能力はすべて利用可能とする。ただし殺傷能力は抑えること。
その他
その他の質問事項、決まっていない部分についてはシグルド副師団長とハンターが協議の上決定する。
リプレイ本文
●偵察A班
鉄条網を飛び越えた神楽(ka2032)は首を傾げた。
「どうした。我々の目的は威力偵察だ。鳴り物もせず飛び込んでは意味がないだろう」
背格好はともかく、身軽とはいいがたいアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は鉄条網を抜けるのに若干苦心していた。演習用の武器で壊すのは難しいし、そのまま抜けても痛くはないが邪魔であるのは間違いない。
「誰もいないっす」
そう。兵士達は誰も来ていなかった。昇り始めた朝日と、スズメがチュンチュンと平和な世界を演出する。
「そんな呑気な戦争があるかぁぁぁァ!!! 我々が朝早くからフル装備で来た時間を返せ! こっちは深夜から準備してたんだぞ!!」
「なんか、緊張を強いる作戦、逆手にとられた見たいっすね。しゃーねっす。かーえろ」
鉄条網の真ん中でアウレールは叫んだが、神楽は蜘蛛にからめとられた彼の姿をにやにや見下ろしてさっさと元来た場所に戻っていった。
「こら、貴様!? く、くそ。こんなの抜け出すのはワケないんだ」
一人で苦闘するアウレールを神楽は遠くで大笑いしていた。
●顔合わせ
お昼前に兵士達はやってきて、ようやく顔合わせが始まった。シグルドなどは落ち着いているがやはり新兵はどことなくカタい顔つきだ。
「よろしくですっ。お互いがんばりましょうね!」
アルマ・アニムス(ka4901)が人懐っこい輝くような笑顔を浮かべ、両手で対戦する兵士に握手を交わすと、その明るさにほだされてか、兵士も笑みを浮かべる。
「はい、よろしくお願いします!」
「んま、お手柔らかにたのまぁ」
劉 厳靖(ka4574)は気だるげな愛想笑いを浮かべて握手を交わしつつ、時折、横に一列に並ぶ兵士の姿を眺め見た。
右手は手袋。左手は必ず盾。全員が右手に指輪を隠し持ってるな。その視線に気づいた兵長と一瞬目が合う。
「こりゃ骨が折れるなぁ。まともな相手は副師団長殿ぐらいってとこか」
「なんだと……」
不機嫌になる兵長の顔に劉は体ごとそむけた。
もちろん、視線の本意をばらさないためだ。
「ところで、副師団長殿はどんな御方かな?」
エアルドフリス(ka1856)の問いかけをすると、新兵は一瞬顔をひきつらせた。
「ああ、まあ、言わなくていい」
「あいつ、笑顔で鬼のようなことさせんだろうな」
エアルドフリスとリュー・グランフェスト(ka2419)は顔を見合わせて、肩を軽く竦め合わせた。
●偵察B班
空をゆるやかに鳥影が弧を描いていた。
「ハンター側に林。中央に丘。丘の左右に水影。丘を越えて塹壕が……20。その奥にテント5つ。これを準備期間だけで作ったのか」
リュカ(ka3828)は閉じた瞼の裏に映る、イヌワシの世界をルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)に伝えた。
にしても、地形を変えられるというの確かなようだ。林もおそらく植え付けではなく、トラックで運んで設置されたのだろう。丘も土を運んで作ったのだろうか。黒々としているのが自然的ではなかった。
戦いの為に地形も変える。リュカは改めて人間の力というものを見たような気がした。
「ふむふむ。それじゃ上空偵察では見えにくい所を~。ジュゲームリリカルクルクルマジカル…ルンルン忍法見エールでごザール! カードをキャースト♪」
ルンルンはくるくると回ると腕を天にかざしてポーズを決めた。すると虫の息遣いや蝶の鼓動が広がるルンルンのマテリアルに触れて、伝わってくる。
「んん。なんだろう? 足元から人の気配がしちゃう。これはもしかして私のご先祖様の血を引くニンジャー!」
「なるほど、地面に隠れているのか。ファミリアの目だけでは追いきれなかったな。ありがとう、ルンルン」
大まかな地形と、そこここに隠れている兵士がいるということだけで、十分すぎる情報だ。
「でも指輪はまだ見つかってないよ? ここはルンルン忍法でテントまで確認しちゃいますっ」
「それは別の人間に任せよう。警戒されているようだ」
リュカはそう言うと、馬にまたがると空に向かって、口笛を鳴らした。
一羽は自らとつながるイヌワシ。それと同時に別の鳥が飛び立つ。
「霊闘士もいるようだ」
「そっかぁ。ううん、残念。それではジュッゲームリリカルルルカル……さよなら三角、また来て四角っ」
猛追してくる鳥に向かってルンルンは札をリリースした。その札はルンルンの掛け声と共にルンルンそっくりの姿に変貌して鳥の眼を惑わせた。
●管制司令塔
「けほっけほっ。うぅぅぅ。ずるずるびぃぃ」
頭に氷嚢を乗せたチョココ(ka2449)は顔を真っ赤にしつつも、柊 真司(ka0705)の作った地図にピンをさしていった。
「指輪なんて隠していたら、すぐわからなくなりますの。兵士さんが指輪を持っているのは間違いないとして、こういう配置ですのぉ」
「おいおい、大丈夫かよ?」
偵察班からの情報を元に地図を作製した柊はチョココの氷嚢を取り外すと、おでことおでこを合わせて、熱を感じとる。
「あっつ! 馬鹿、寝てろ!」
「ぞうばいぎまぜんわ゛ー。ぐずっ。やることはやりまずの。この後にお墓詣りする予定も、ありますの」
チョココはそう言いつつも兵士の編成を見て丸をつける。
「副師団長様は恐らくオトリですの」
「ああ、最前線だからな。支援火力部隊、近接攻撃隊の位置の把握からして……所持者はこの部隊だ」
柊はそういうと、短電話をつなげ、全員に敵配置と種別、そして推測を告げた。
それについてそれぞれから返って来る。
「最後に戦力の確認に偵察がもう一度向かう。偵察出撃だ」
●偵察C班
「指輪の位置に気付かれたみたいだぞ」
それが全ての失敗だった。
ジュード・エアハート(ka0410)は新兵を一人殴り倒して衣装を奪い、内情視察に向かったのだが。
「密偵だっ」
様子を聞くための作戦は銃撃で返された。
「なんでぇぇぇ!?」
「うちの部隊に可愛い子は1人しかいないからだよっ!!!」
もはやひがみとかそう言う世界じゃん!
ジュードは反射的に短弓を連射して、動きを遅らせると一気に塹壕のある丘を駆けのぼった。
しかし丘の上にいたのは、今は一番合いたくない相手がいた。
「ははは、美しさは罪、なーんてね」
ジュードの射撃を避けた次の瞬間にシグルドの銃はジュードの眉間に突き立てられていた。
「ジュードっ」
「来ちゃダメだよ!! 逃げてっ。情報を持ち帰らないとっ」
犬のファミリアズアイを使っていた高瀬 未悠(ka3199)がテント側から飛び出すのを制止したが、高瀬は聴く耳をもたなかった。演習とはいえ、やはり目の前で誰かが犠牲になって自分が生き残るなんてできなかった。
「シグルド、強さとは何なのか教えてもらうわ!」
「強さ? そりゃあね」
ジュードが蹴り飛ばされ高瀬の視界を覆った次の瞬間、その頭が地面に打ち据えられた。一瞬すぎて何が起こったのかすら高瀬は理解できなかった。頭防具からインクが垂れ落ちて、自分は負けた事だけを知る。
「異なるあらゆる力を、まとめ、縛り、一つにするものさ。善悪、武か知か情か金か種類は問わない」
「シグルドさんが言うとジョークに聞こえないや。こうさーん」
積み重ねられて足蹴にされるジュードは弓を捨てて手を上げた。肝心な情報はもう高瀬が先に送り返したのは知っているし、あえて抵抗する意味もない。
と思っていたのだが。
「ふふ、いい心がけだ。じゃあ囚われのお姫様になってもらおうかな♪」
さすがに目が点にならざるをえなかった。
●偵察A班再び
「にひひ、情報にあった新兵の可愛い子ちゃんってこの子っすね!」
「ちょっと何すんのよ!!」
シグルド麾下の部隊は男臭かった。もうあいつホモじゃねーかと思うくらいに男ばっかりだった。そんな中で女の子がいたことを、そして威力偵察中に出会えたことを神楽は心底ラッキー♪ と思わずにはいられなかった。
「亀さんM縛り……ふ、我ながらいい出来っす」
「つくづく最低だな」
「やだなー、褒めても何も出ないっすよ? 時には仲間を見捨てることも必要なんすよぉ」
もちろん褒め言葉じゃない。
しかし、その可愛い子ちゃんを取り返そうと新兵はやって来るのを適宜ペイント弾で『処理』するアウレールは、少しだけ、神楽の策略の的確さを褒めてもいいかもしれないと思ってはいた。
「全力をもって! 仲間をたすけろぉぉぉぉぉ!!!!」
部隊のアイドルを取り返す為に本気になって総動員してきた敵に取り囲まれる前までは。
「ぎゃああああっす!」
さよなら、神楽。リジェネレーションが尽きるほどのタコ殴りはきっと自業自得だ。
●本番開始 戦闘A班
ラッパの音が鳴り響いた。演習開始の合図だ。
「林を使わせてくれるなんて僥倖ね」
白金 綾瀬(ka0774)は即座に木を駆けのぼり、幹と枝の間に足をかけると魔導銃をおろし、双眼鏡で状況を確認すると眉をひそめた。
「……管制。部隊配置はそのままだけど、相手の人数足りてないわよ?」
「地下に隠れているのもいるらしい。向こうから攻めてくるのを待った方がいいだろう」
とは言ってもね。白金は双眼鏡で見つけたものをついでに報告する。
「ジュードと高瀬が捕まっているわ。二人とも装備解除の上、ぐるぐる巻きにされてシグルドの椅子代わりにされてるわ」
「なん、だと……?」
その声は短電話ではなく、白金の真下から聞こえた。エアルドフリスだ。
「師匠、落ち着いてっ。罠がいっぱいある」
ユリアン(ka1664)は慌てて飛び出そうとするエアルドフリスの腕を掴んで引き留める。しかし、ずぶ濡れで重たくなった髪の下から覗く瞳は、死神もかくやという冷たさを放つ。
「一緒に行こう。きっと煽ってこちらの計画を崩れるのを狙っているんだ」
「あ、弄ばれてるわね。なんかアブない雰囲気が」
「……あの野郎、即刻円環に送還してやる」
制止もふりきり独り言ちてズカズカと進むエアルドフリスの周りに冷気が渦巻いた。
「ハンターがいたぞ。魔法を使われる前に倒せっ」
兵士が銃を撃ちまくるが、うずまく冷気に阻まれエアルドフリスには何一つ届かないばかりか、みるみる間に兵士を凍てつかせる。
「あー仕方ねぇな。そのまま指揮官を殴りにいくぞ」
春日 啓一(ka1621)は最初の作戦と若干流れが違ってしまったことに頭を悩ませたが、勢いに乗るというのはチャンスだし、彼を一人で突出させる訳にはいかない。
飛び交う銃弾の出所を確認して、白金は次々と新兵を撃ちぬいていく。
「魔術師を狙うってのは王道だな。だが、ヘイトを集めて処理するって戦法も、あるんだぜ」
春日は飛び出て来た新兵の一撃をカウンターで切って落とした。
●戦闘B班
「うぉぉぉぉりゃああああっ!!!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がハルバードを大きく頭上で旋回させながら、丘の横、人工池に向かって突撃する。
「出てこねぇならこっちからやってやらぁぁぁ!」
「林から出てきたぞ。狙えっ」
兵長の声が聞こえたかと思うと、一瞬の間を置いて弾幕と魔法の嵐がボルディアを襲い、視界をかき消した。
「その程度で私達は落ちません」
戦塵を吹き飛ばす光の下からセレスティア(ka2691)の姿が見えた。傷はない。受けた傷はセレスティアが全て癒したし、そもそも彼女への攻撃は劉が全て弾き飛ばしていた。
「その程度かよ。もうちょい弾幕強くしてくんねぇと勝負にならないぜ」
劉はソウルトーチの輝く腕を軽く振ってかきけすと、兵長ににやりと笑った。
視線が交錯する兵長に一瞬影が走る。
「隙だらけよ」
牡丹(ka4816)だった。真正面から飛び込むボルディアと視線を集める劉の二人の視界からほんの僅か外れるようにして、彼女は天空を一気に駆け抜け、兵長の真上から刃を振り下ろす。
!!!
金属音が響いた。
「腕あるお方とお見受けしました。お手合わせ願います」
牡丹の一撃を受け止めたのは神楽に先ほど縛られていた女性兵士だった。槍を構え、闘志に燃える眼光を牡丹に向けてくる。
「あたしは、特別何かを教えるつもりはないわ 。気付きなさい。そして学びなさい」
牡丹が自分でそう言いながらも、それは遠い昔の感覚が蘇る。
そっくりだ。昔の自分に。
「ボルディア。指輪の正解はきっと兵長だ。さっさと終わらせちまおうぜ」
「了解だっ」
ボルディアは兵長に突撃し、回避する間も与えず烈火の一撃でハルバードを一気に突き立て、インクをしぶかせた。
だが、引き抜こうとしたがそのハルバードはピクリとも動かない。兵長が穂先を握りしめていた。その状態で白金の狙撃すら紙一重でかわすと、背後の新兵がデルタレイで吹き飛ばしにかかり。ボルディアの防具のインクもしぶいた。
「へっ、やってくれるじゃねぇか……」
「兵士をなめてもらっちゃ困る。これでも皇帝陛下を守る一員だ。貴様らみたいな野犬の群れとは違うんだよ」
「よく言った! なら、その野犬とペットの違い見せてもらおうじゃねぇか!!」
●
「あははは、あはははは♪ まとまってる家畜(ペット)の群れは殺しやすくていいですねェ♪」
新兵の顔面を銃で撃ちぬいたアルマはインクの跳ね返りも気にせずにんまり笑った。そのまま腰の引ける別の兵士を踏みつけ、一発、二発、三発。
顔合わせで親近感を覚えていた新兵はもう真っ青だった。
「おい、アルマ……」
ジョージ・ユニクス(ka0442)はげんなりとした声をかけた。明らかに相手は戦意喪失。恐慌状態だがアルマはちっとも止まらない。
「あはは、あはははははっ!」
「斉射!!」
そんなアルマに向かって新兵の一人の号令が響き渡った。途端にアルマの防具はインクで急激に染まった瞬間、をすかさずジョージが盾を持ってそちらに突進する。
「はりゃ?」
「もう……。しかし大した攻撃ですね。立ち直りも早いです。でも……ひるまない敵にはどうしますか?」
残った攻撃を全て盾で防ぎながら、ジョージは突進する。
「……後退しつつ左右に展開っ。数の差の有利を最大限に活かすぞ」
問いかけに、新兵はほんの僅か逡巡したが、すぐさま答えを出した。ジョージの問いかけは間違いなく彼の伸びしろを大きくしている。
左右にわかれた兵士はジョージを左右から狙いをつける。はずだった。
「それだけばらければ、ハンターには十分なのよ」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は細かく分断された兵士の一隊にすかさず踏み込んだと同時に、鞘のままの刀に手をかけた。
紫電がたなびく。
新兵の誰もが、ユーリの間合いに入っていたことに気付けなかった。
「一撃でひるむな! 名うての剣豪とて同じ戦場の上なんだ」
さらに進もうとするユーリをディヴァインウィルの障壁が押し留める僅かな合間に残った兵士を立て直す。
「やるなぁ……あいつ。にしても、これ作戦か……?」
リューは離合集散する兵士を叩きながら、周りの様子を窺った。兵士は良く戦い、ハンターの戦いぶりに得るものをよく掴みとってはいるが、相手は地形を活かしているともいいがたい。これではすぐに戦いが終わる。
「なんか、狙っているんだろうな。やっぱり」
●D班
「えっへへ、さぁ、新兵たち、この中を進んできやがるんでさ!」
丘の頂点をすりぬけ、敵の背後に攻め入ったD班の鬼百合(ka3667)は、塹壕の目立つ斜面に容赦なくブリザードを展開する。塹壕ってのは弾避けであって、範囲魔法など飛ばされたらひとたまりもない。
「さびぃぃぃぃぃ」
「このくらいで寒いって弱音吐くんじゃねぇやい!」
塹壕から眉毛を凍らせた兵士数名が悲鳴を上げつつ、飛び出して一気に走りこんでくる姿が見えるが、鬼百合は続いてライトニングボルトで撃ち落とした。
鬼百合くん、マジ鬼教官。
「やるじゃねぇか!」
龍華 狼(ka4940)は大暴れする鬼百合に振り向いて、びしって親指を立てて見せた。もっと頼りないと思っていたけれど、すごいもんだ。
「こりゃ負けてられないな」
狼は刀を持って走ると、鬼百合に機導砲で対抗する新兵に向かって一気に走りこむと大きく跳躍して塹壕へと飛び込み、機導士の新兵を足で踏みつけた、同時に同じ場所に隠れていた兵士にむかって刀と苦無を引き抜いた。
一閃。
「へへへ、俺の方が凄いだろ?」
ブリザードで手傷を負っていた部分を確実に叩きのめしてインクが迸る中にはもう狼はいなかった。
「やっぱり狼はすげぇ」
狼は手に触れられない距離にある。だが、互いを信頼する絆の糸は、そんな物理的な距離を飛び越え、温かみすら感じていた。
が。
「ああ、そちらは凶と出ています。この地形、吉凶がとても多く入れ替わ……」
鬼百合の横で禹歩を使っていた閏(ka5673)が声をかけようとしたが、それよりも早く狼が突如消えた。すぽん。という小気味のいい音が聞こえた気もする。
「おわぁぁぁぁ!?」
「かかったぞ。こんちくしょう。非覚醒者の根性舐めるなよ!!」
塹壕の間に落とし穴があった。リュカ達が言っていた『地下』とはこれのことか。落とし穴で待ち受けていた兵士は落ちて来た狼が体勢を整える間も与えずスコップでぼかすか叩いてくる。
「狼ぃぃぃぃ」
鬼百合は走った。
そしてはまった。
別の落とし穴に。
「かかったぁぁ!!」
こちらでも鬼教官への復讐はじまる。
「瑞鳥よ! お守りください!」
泣きそうになりながらも閏が瑞鳥符を鬼百合のはまった穴に投げ込んだ。突如、穴の中が輝き、不死鳥の如く輝く鳥が翼を広げるのが見えた。
そんなに広くもない落とし穴に、兵士と鬼百合と落とし穴の蓋代わりの土砂と魔法の鳥。もはや混沌の坩堝ではあろうが鬼百合がそのまま倒されるのは回避されたであろう。
「相手は符術士一人だ。叩け!!」
「大切な人を守れるならこの命、捧げる覚悟はできていますっ」
大量に向かってくる新兵も、閏もそれほど戦闘経験は変わらないはずだ。それでも彼らは魔法に耐え、狼の奮迅の戦いをこらえて今の状況まで耐え忍んだと思えば。互いに勉強しているのだ。逃げるわけには……。
「よぉく言った!!」
真上から爆炎の滝が閏の視界を覆ったと当時に長い金髪が彼の前に降り落ちて来た。アーシュラ・クリオール(ka0226)だ。
アーシュラはそのまま、ウィンクひとつを彼に残すと、ジェットブーツでひとっ跳び。狼の落ちた穴に飛び込み、そのままディファレンスエンジンで新兵を殴りつけると狼を抱かえて、元の位置に帰って来た。
「鬼百合ぃぃぃ」
「おうさ!!」
ごもももも。という音と共に、落とし穴が隆起した。いや、鬼百合がアースウォールで這い上って来たのだ。
もう土塗れのインク塗れ。
「よく帰ってきてくれました」
泣きそうな閏がそんな二人を迎えた。
●SNT発動
「シグルド様、後は……頼みました!」
ボルディアによるトドメの一撃を受けると同時に指輪をシグルドに飛ばした。
「全軍通知。指輪の位置確定。丘頂上シグルド。敵損耗率14%。味方被害4%。時間経過48分。決着をつける。繰り返す」
柊の声が、短電話を通じてハンターに届く。
「偵察班、林に侵入した兵士が戻られると、SNTが背後から狙われる。阻止してくれ」
「まっかせて♪ ルンルン忍法の奥義、魅せちゃいます。ネルベルベラルルベララルラ♪ 大地よ、泥になれ~」
無線が飛び交う中、ルンルンは空を駆けていた。残っているありったけの符を起動した。林は泥沼に覆われ、まともに歩ける場所もなくなる。
「さて、外部の応援もなく、陣形も取れない。この瞬間自分の考えで生き抜かなくてはならん」
蘇芳 和馬(ka0462)は八艘跳びで狼狽える兵士の後ろに降り立ち、そのまま腕に一撃を叩きこむ。急所である首筋を狙うことも十分可能だったが、蘇芳はあえてしなかった。それでは新兵の訓練にならない。
「生きるとはなんだ」
「わ、わ、わ……」
完全に混乱している。しかし、その立て直しは思ったところと違う所からやってきた。
「地縛符が切れるまで防御態勢!! 背を預け合え。視覚に頼るな」
新兵の一人が叫んだ。蘇芳はそんな臨時の指揮官の元に向かって走った瞬間、真上から銃撃が飛んできて立ちすくんだ。いつの間にやら白金以外に狙撃者が潜んでいる。
「なるほど、少しは目鼻の届くやつはいるようだ」
蘇芳がそちらを見上げた時には、偵察として潜んでいたリュカが飛びかかっていた。
それでも落下する間にリュカにヘッドショットを決める兵士だったが、そんな兵士の目の前でリュカの傷は癒えていく。
「君は勇気があるな。だが、足掻くのは私も得意だ」
●そしてS・N・T
「一発でいいから殴らせろぉ!」
ボルディアが大上段からハルバードを振り下ろした。跳躍で落ちる加速度も含めて、ぐんぐんシグルドに近づく。
「はは、怖いなぁ」
シグルドは踏みつけていた高瀬を掴みあげるとボルディアの眼前に投げ飛ばした。
「「ひわァあァあァ!?」」
空中衝突。
共に墜ち行く二人を見て、シグルドはぐるぐる巻きになったジュードの喉元に口を近づける。もちろんジュードの愛しいエアルドフリスが見えるようにだ。
「貴様ぁぁぁ!」
「エアさーーーーん!!」
ジュード。ちょっとノリノリで叫びをあげる。まさしく囚われの姫という様相にぴったりだ。
エアルドフリスは即座にアイスボルトを生み出すべく、詠唱を始めたが突如、足を掴まれエアルドフリスは大きく体勢を崩し、そのまますぽりと消えて行った。
「そういうことか。落とし穴で身を守ってるわけか」
リューはエアルドフリスの頭を踏みつけると大きく跳躍した。
「ケジメつけてもらうっ」
「ああ、そこもダメだね」
「のわぁぁぁぁぁ」
シグルドの言う通り、ずぼっとリューは丘から姿を消した。
「落とし穴だらけか、副長閣下の陰険さがよくわかる」
とはいえ、重装備のアウレールもこれでは迂闊に進めない。下手に落とし穴にかかろうものなら登るのも一苦労だ。
「卑怯な……許せませんっ」
セレスティアは眉ひとつしかめると、ディヴァインウィルを放った。落とし穴だらけということはシグルドも迂闊に動けないはずだ。
「反省しなさいっ」
「まて、私がいることを忘れ……あぁぁぁ」
ディヴァインウィルに吹き飛ばされアウレールもやっぱり転落。
「全滅かぁ。やれやれ、勇者は来なかったね」
「いつもそうやって、人を見下ろすの、本当に好きですね」
シグルドの笑みを陰らせるようにユリアンが跳んだ。
疾影士に届かない場所など無い。
「まだ風の勇者殿がいたとはね」
シグルドが微笑んだ。しかし、即座にデリンジャーを引き抜くとユリアンの漆黒のサーベルを吹き飛ばした。
「武器、それだけだと思った? ユリアンさん、ぱーす」
ジュードはスカートをはためかせ、脚をひとふり。隠していた短剣を浮かせると同時に狙撃手の瞳でそれを見据えて、短剣を蹴りあげた。
ユリアンはすかさずその短剣を空中で受け取ると、シグルドの頭に叩き込み、そのまま背後に着地すると蹴り飛ばした。
「お、お、っと……」
シグルドはたたらを踏み、そして土壁に手を付けた。
土壁? そんなものはなかったはずだが。
「ふふふ、ふふふふ。待ちに待った時がやって来たようですな」
土壁の作り手エアルドフリスは、落とし穴からアースウォールで脱出していた。それどころか今は見下ろす立場だ。
エアルドフリスだけじゃない。ボルディアも、リューも、アウレールも、セレスティアもたかくせりあがった壁の上からシグルドを見下ろしていた。
俗称、籠の鳥。
「借りというものはそれほどありませんがね。ははははは」
「まあ、やれるものはやっとかねぇとな」
「そういうわけだ、観念してもらおうか」
「それがスタートラインってやつだ」
一斉に飛び降りた。
「くたばれやぁぁぁぁ!!!!」
タコ殴り大会の始まりである。
「ふぅ……やった、かな」
そんな中、一人でユリアンは気持ちの良い風が舞う空を見上げていた。
空に演習終了の笛が鳴り響く。
おめでとう、S(シグルド)N(殴り)T(飛ばしたぞ)!!
●それで
演習は終わって。
新兵とハンターの交流の為に、慰労の食事会が開かれていた。
「なぜそこまでやって、一人くらい指輪を持ち帰ることを考えなかった?」
蘇芳は呆れた顔でSNT隊の連中を一瞥した。
指輪は見つけたのに制限時間までに持ち帰られなかった為、結果としてはハンターの敗北である。
「まあ、兵士には多くの勉強をさせることができた。相手も満足だったとしている」
蘇芳はそう言うと戦いぶりをまとめた書類を兵長に渡した。
「意外と骨のある奴は多かった。見たところ3人いたな」
蘇芳の目線の先では、牡丹と戦っていた女兵士の姿があった。
「今度は、負けませんから……」
女兵士は食事を忘れて、牡丹の放った一撃を思い返しているようだった。視線の先にはずっと牡丹の姿。
彼女もきっと追いかけて追いかけていくのだろう。
リュカはそんな彼女を見て、小さく微笑んでいたが、ユーリはどことなく不満の残る顔だった。
「あれじゃまだまだ帝国軍としして使い物になるのは先のようですね。強くなることをもっと意識してもらわねばなりません」
ユーリは剣豪との戦いと重ねつつ様子を見ていた。戦いは人を成長させる。だが、今のままでは餌食になってしまうだろう。
「強くなる、立場も目的も違えど、目指すところはそう変わらないものだな」
「リュカはいいじゃない。私なんて今回良い所なしよ。延々盾にされてた気がするわ」
同じく強さを追い求める高瀬はそんなリュカに愚痴をこぼした。
「偵察が捕まるとは思ってもいなかったがな。でも、敵の動きを見て策を見破れることもある。それには必ず先んじる人間が必要なんだ。よくやってくれたよ」
嘆く高瀬に春日が微笑みかけた。
陣形やチームの運用は春日の思い通りにいった。しかし新兵相手に被害は大きかったかもしれない。
「攻めつつ守るってのもやっぱ難しいものだな……」
「何言ってるのよ。狙撃班として言わせてもらえれば、すごく緻密。リアルブルーの戦術教練を彷彿とするくらいしっかりしてたわ」
白金は思いふける春日にそう褒めた。特殊作戦部隊として訓練を積んだ白金は狙撃時に見えた行軍風景は、今や点景となった軍隊生活を思い出した。
「おっ、もしかして、軍隊出身?? 教科書のカラーページ思い出したよね」
「うわ、なつかしい」
アーシュラが興味で白金に問いかけると懐かしい軍隊生活話に花が咲く。
「にしても、兵長さんが指輪もっているとよくわかったな」
柊の問いかけに、グラスを下ろした劉は「んぁ?」と気の抜けた声を上げた。仕事も終わり割とできあがっている顔だ。
「シグルドは最も目立つところにいただろ? 一番狙われる奴は指輪をもたないだろうから、じゃあ後はあいつしかいねぇじゃねぇか」
「なるほどな」
柊はその直感の良さに感心をした。適当そうに見えて、見てる物はきちりとみているらしい。
「見てると言えば、あそこの班が一番すごかったかもしれないな」
柊が視線を寄せたのは鬼百合と狼と閏の班だった。
「へへへ、なんか褒められてますぜぃ。でも鬼教官がやれて良かったでさ。角のある鬼の閏のおっちやんとも仲良くなれたし、狼ともうまくやりあえたしねぃ」
「お前、そういうこと言うなよ……照れるだろ。でも、鬼百合。お前に背中にいてもらって良かったと思うぜ」
「そうですね……心強かったです。一緒に事を成し遂げるって貴重ですね」
閏はまるで我が子のようにして二人をぎゅっと抱きしめた。
絆の強さはきっとこれからも。いつまでも。
一方こちらはちょっと変わった絆の二人。
「アルマ、暴れすぎ……MVPとか言われてるぞ」
「ひゃん、そぉでしたか?」
ジョージに小突かれてアルマは自分の頭を撫でた。
「見てみろ」
ジョージが指を指した方向をアルマが向くと、新兵の何人かが後ずさった。
にぱっとほほ笑むと、彼らの膝は震え出した。
「あ、ああの。よぉっく、勉強になりました。その、揺るがない敵にどうするのかとか、み、見た目で判断しちゃいけないとか」
兵士は上ずった声で感謝を述べているが、明らかに勉強のし過ぎでトラウマになっていること請け合いだ。
「それでも兵士に一つでも伝わる、伝えられたものがあったのなら。今回の依頼は成功さ。教えを体現してくれた方々には賞賛を」
怖がる兵士達の頭を軽く撫でて、シグルドはハンター達に拍手を送った。
あれだけタコ殴りにしたのにもう回復しているあたりが若干憎らしい。
それはともかく、場は拍手に満ち溢れた。
「さぁ、それくらいにして、新しい料理ができましたの♪ 今度はチョココ特製ケーキですの、ょ。ふぇ。ふぇっくしょんっ」
ずびび。と相変わらずかぜっぴきっぽいチョココがケーキを持ってやって来た。
そして改めて乾杯の音頭がとられた。
「ハンターと兵士の未来を祝して!!」
賑やかさのつきない様子をユリアンは微笑んで見ていた。
後日、チョココの風邪がこの後新兵とハンターの一部で大流行し、一番多くの人間を恐怖に送り込んだのは彼女であることが確定した。
鉄条網を飛び越えた神楽(ka2032)は首を傾げた。
「どうした。我々の目的は威力偵察だ。鳴り物もせず飛び込んでは意味がないだろう」
背格好はともかく、身軽とはいいがたいアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は鉄条網を抜けるのに若干苦心していた。演習用の武器で壊すのは難しいし、そのまま抜けても痛くはないが邪魔であるのは間違いない。
「誰もいないっす」
そう。兵士達は誰も来ていなかった。昇り始めた朝日と、スズメがチュンチュンと平和な世界を演出する。
「そんな呑気な戦争があるかぁぁぁァ!!! 我々が朝早くからフル装備で来た時間を返せ! こっちは深夜から準備してたんだぞ!!」
「なんか、緊張を強いる作戦、逆手にとられた見たいっすね。しゃーねっす。かーえろ」
鉄条網の真ん中でアウレールは叫んだが、神楽は蜘蛛にからめとられた彼の姿をにやにや見下ろしてさっさと元来た場所に戻っていった。
「こら、貴様!? く、くそ。こんなの抜け出すのはワケないんだ」
一人で苦闘するアウレールを神楽は遠くで大笑いしていた。
●顔合わせ
お昼前に兵士達はやってきて、ようやく顔合わせが始まった。シグルドなどは落ち着いているがやはり新兵はどことなくカタい顔つきだ。
「よろしくですっ。お互いがんばりましょうね!」
アルマ・アニムス(ka4901)が人懐っこい輝くような笑顔を浮かべ、両手で対戦する兵士に握手を交わすと、その明るさにほだされてか、兵士も笑みを浮かべる。
「はい、よろしくお願いします!」
「んま、お手柔らかにたのまぁ」
劉 厳靖(ka4574)は気だるげな愛想笑いを浮かべて握手を交わしつつ、時折、横に一列に並ぶ兵士の姿を眺め見た。
右手は手袋。左手は必ず盾。全員が右手に指輪を隠し持ってるな。その視線に気づいた兵長と一瞬目が合う。
「こりゃ骨が折れるなぁ。まともな相手は副師団長殿ぐらいってとこか」
「なんだと……」
不機嫌になる兵長の顔に劉は体ごとそむけた。
もちろん、視線の本意をばらさないためだ。
「ところで、副師団長殿はどんな御方かな?」
エアルドフリス(ka1856)の問いかけをすると、新兵は一瞬顔をひきつらせた。
「ああ、まあ、言わなくていい」
「あいつ、笑顔で鬼のようなことさせんだろうな」
エアルドフリスとリュー・グランフェスト(ka2419)は顔を見合わせて、肩を軽く竦め合わせた。
●偵察B班
空をゆるやかに鳥影が弧を描いていた。
「ハンター側に林。中央に丘。丘の左右に水影。丘を越えて塹壕が……20。その奥にテント5つ。これを準備期間だけで作ったのか」
リュカ(ka3828)は閉じた瞼の裏に映る、イヌワシの世界をルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)に伝えた。
にしても、地形を変えられるというの確かなようだ。林もおそらく植え付けではなく、トラックで運んで設置されたのだろう。丘も土を運んで作ったのだろうか。黒々としているのが自然的ではなかった。
戦いの為に地形も変える。リュカは改めて人間の力というものを見たような気がした。
「ふむふむ。それじゃ上空偵察では見えにくい所を~。ジュゲームリリカルクルクルマジカル…ルンルン忍法見エールでごザール! カードをキャースト♪」
ルンルンはくるくると回ると腕を天にかざしてポーズを決めた。すると虫の息遣いや蝶の鼓動が広がるルンルンのマテリアルに触れて、伝わってくる。
「んん。なんだろう? 足元から人の気配がしちゃう。これはもしかして私のご先祖様の血を引くニンジャー!」
「なるほど、地面に隠れているのか。ファミリアの目だけでは追いきれなかったな。ありがとう、ルンルン」
大まかな地形と、そこここに隠れている兵士がいるということだけで、十分すぎる情報だ。
「でも指輪はまだ見つかってないよ? ここはルンルン忍法でテントまで確認しちゃいますっ」
「それは別の人間に任せよう。警戒されているようだ」
リュカはそう言うと、馬にまたがると空に向かって、口笛を鳴らした。
一羽は自らとつながるイヌワシ。それと同時に別の鳥が飛び立つ。
「霊闘士もいるようだ」
「そっかぁ。ううん、残念。それではジュッゲームリリカルルルカル……さよなら三角、また来て四角っ」
猛追してくる鳥に向かってルンルンは札をリリースした。その札はルンルンの掛け声と共にルンルンそっくりの姿に変貌して鳥の眼を惑わせた。
●管制司令塔
「けほっけほっ。うぅぅぅ。ずるずるびぃぃ」
頭に氷嚢を乗せたチョココ(ka2449)は顔を真っ赤にしつつも、柊 真司(ka0705)の作った地図にピンをさしていった。
「指輪なんて隠していたら、すぐわからなくなりますの。兵士さんが指輪を持っているのは間違いないとして、こういう配置ですのぉ」
「おいおい、大丈夫かよ?」
偵察班からの情報を元に地図を作製した柊はチョココの氷嚢を取り外すと、おでことおでこを合わせて、熱を感じとる。
「あっつ! 馬鹿、寝てろ!」
「ぞうばいぎまぜんわ゛ー。ぐずっ。やることはやりまずの。この後にお墓詣りする予定も、ありますの」
チョココはそう言いつつも兵士の編成を見て丸をつける。
「副師団長様は恐らくオトリですの」
「ああ、最前線だからな。支援火力部隊、近接攻撃隊の位置の把握からして……所持者はこの部隊だ」
柊はそういうと、短電話をつなげ、全員に敵配置と種別、そして推測を告げた。
それについてそれぞれから返って来る。
「最後に戦力の確認に偵察がもう一度向かう。偵察出撃だ」
●偵察C班
「指輪の位置に気付かれたみたいだぞ」
それが全ての失敗だった。
ジュード・エアハート(ka0410)は新兵を一人殴り倒して衣装を奪い、内情視察に向かったのだが。
「密偵だっ」
様子を聞くための作戦は銃撃で返された。
「なんでぇぇぇ!?」
「うちの部隊に可愛い子は1人しかいないからだよっ!!!」
もはやひがみとかそう言う世界じゃん!
ジュードは反射的に短弓を連射して、動きを遅らせると一気に塹壕のある丘を駆けのぼった。
しかし丘の上にいたのは、今は一番合いたくない相手がいた。
「ははは、美しさは罪、なーんてね」
ジュードの射撃を避けた次の瞬間にシグルドの銃はジュードの眉間に突き立てられていた。
「ジュードっ」
「来ちゃダメだよ!! 逃げてっ。情報を持ち帰らないとっ」
犬のファミリアズアイを使っていた高瀬 未悠(ka3199)がテント側から飛び出すのを制止したが、高瀬は聴く耳をもたなかった。演習とはいえ、やはり目の前で誰かが犠牲になって自分が生き残るなんてできなかった。
「シグルド、強さとは何なのか教えてもらうわ!」
「強さ? そりゃあね」
ジュードが蹴り飛ばされ高瀬の視界を覆った次の瞬間、その頭が地面に打ち据えられた。一瞬すぎて何が起こったのかすら高瀬は理解できなかった。頭防具からインクが垂れ落ちて、自分は負けた事だけを知る。
「異なるあらゆる力を、まとめ、縛り、一つにするものさ。善悪、武か知か情か金か種類は問わない」
「シグルドさんが言うとジョークに聞こえないや。こうさーん」
積み重ねられて足蹴にされるジュードは弓を捨てて手を上げた。肝心な情報はもう高瀬が先に送り返したのは知っているし、あえて抵抗する意味もない。
と思っていたのだが。
「ふふ、いい心がけだ。じゃあ囚われのお姫様になってもらおうかな♪」
さすがに目が点にならざるをえなかった。
●偵察A班再び
「にひひ、情報にあった新兵の可愛い子ちゃんってこの子っすね!」
「ちょっと何すんのよ!!」
シグルド麾下の部隊は男臭かった。もうあいつホモじゃねーかと思うくらいに男ばっかりだった。そんな中で女の子がいたことを、そして威力偵察中に出会えたことを神楽は心底ラッキー♪ と思わずにはいられなかった。
「亀さんM縛り……ふ、我ながらいい出来っす」
「つくづく最低だな」
「やだなー、褒めても何も出ないっすよ? 時には仲間を見捨てることも必要なんすよぉ」
もちろん褒め言葉じゃない。
しかし、その可愛い子ちゃんを取り返そうと新兵はやって来るのを適宜ペイント弾で『処理』するアウレールは、少しだけ、神楽の策略の的確さを褒めてもいいかもしれないと思ってはいた。
「全力をもって! 仲間をたすけろぉぉぉぉぉ!!!!」
部隊のアイドルを取り返す為に本気になって総動員してきた敵に取り囲まれる前までは。
「ぎゃああああっす!」
さよなら、神楽。リジェネレーションが尽きるほどのタコ殴りはきっと自業自得だ。
●本番開始 戦闘A班
ラッパの音が鳴り響いた。演習開始の合図だ。
「林を使わせてくれるなんて僥倖ね」
白金 綾瀬(ka0774)は即座に木を駆けのぼり、幹と枝の間に足をかけると魔導銃をおろし、双眼鏡で状況を確認すると眉をひそめた。
「……管制。部隊配置はそのままだけど、相手の人数足りてないわよ?」
「地下に隠れているのもいるらしい。向こうから攻めてくるのを待った方がいいだろう」
とは言ってもね。白金は双眼鏡で見つけたものをついでに報告する。
「ジュードと高瀬が捕まっているわ。二人とも装備解除の上、ぐるぐる巻きにされてシグルドの椅子代わりにされてるわ」
「なん、だと……?」
その声は短電話ではなく、白金の真下から聞こえた。エアルドフリスだ。
「師匠、落ち着いてっ。罠がいっぱいある」
ユリアン(ka1664)は慌てて飛び出そうとするエアルドフリスの腕を掴んで引き留める。しかし、ずぶ濡れで重たくなった髪の下から覗く瞳は、死神もかくやという冷たさを放つ。
「一緒に行こう。きっと煽ってこちらの計画を崩れるのを狙っているんだ」
「あ、弄ばれてるわね。なんかアブない雰囲気が」
「……あの野郎、即刻円環に送還してやる」
制止もふりきり独り言ちてズカズカと進むエアルドフリスの周りに冷気が渦巻いた。
「ハンターがいたぞ。魔法を使われる前に倒せっ」
兵士が銃を撃ちまくるが、うずまく冷気に阻まれエアルドフリスには何一つ届かないばかりか、みるみる間に兵士を凍てつかせる。
「あー仕方ねぇな。そのまま指揮官を殴りにいくぞ」
春日 啓一(ka1621)は最初の作戦と若干流れが違ってしまったことに頭を悩ませたが、勢いに乗るというのはチャンスだし、彼を一人で突出させる訳にはいかない。
飛び交う銃弾の出所を確認して、白金は次々と新兵を撃ちぬいていく。
「魔術師を狙うってのは王道だな。だが、ヘイトを集めて処理するって戦法も、あるんだぜ」
春日は飛び出て来た新兵の一撃をカウンターで切って落とした。
●戦闘B班
「うぉぉぉぉりゃああああっ!!!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がハルバードを大きく頭上で旋回させながら、丘の横、人工池に向かって突撃する。
「出てこねぇならこっちからやってやらぁぁぁ!」
「林から出てきたぞ。狙えっ」
兵長の声が聞こえたかと思うと、一瞬の間を置いて弾幕と魔法の嵐がボルディアを襲い、視界をかき消した。
「その程度で私達は落ちません」
戦塵を吹き飛ばす光の下からセレスティア(ka2691)の姿が見えた。傷はない。受けた傷はセレスティアが全て癒したし、そもそも彼女への攻撃は劉が全て弾き飛ばしていた。
「その程度かよ。もうちょい弾幕強くしてくんねぇと勝負にならないぜ」
劉はソウルトーチの輝く腕を軽く振ってかきけすと、兵長ににやりと笑った。
視線が交錯する兵長に一瞬影が走る。
「隙だらけよ」
牡丹(ka4816)だった。真正面から飛び込むボルディアと視線を集める劉の二人の視界からほんの僅か外れるようにして、彼女は天空を一気に駆け抜け、兵長の真上から刃を振り下ろす。
!!!
金属音が響いた。
「腕あるお方とお見受けしました。お手合わせ願います」
牡丹の一撃を受け止めたのは神楽に先ほど縛られていた女性兵士だった。槍を構え、闘志に燃える眼光を牡丹に向けてくる。
「あたしは、特別何かを教えるつもりはないわ 。気付きなさい。そして学びなさい」
牡丹が自分でそう言いながらも、それは遠い昔の感覚が蘇る。
そっくりだ。昔の自分に。
「ボルディア。指輪の正解はきっと兵長だ。さっさと終わらせちまおうぜ」
「了解だっ」
ボルディアは兵長に突撃し、回避する間も与えず烈火の一撃でハルバードを一気に突き立て、インクをしぶかせた。
だが、引き抜こうとしたがそのハルバードはピクリとも動かない。兵長が穂先を握りしめていた。その状態で白金の狙撃すら紙一重でかわすと、背後の新兵がデルタレイで吹き飛ばしにかかり。ボルディアの防具のインクもしぶいた。
「へっ、やってくれるじゃねぇか……」
「兵士をなめてもらっちゃ困る。これでも皇帝陛下を守る一員だ。貴様らみたいな野犬の群れとは違うんだよ」
「よく言った! なら、その野犬とペットの違い見せてもらおうじゃねぇか!!」
●
「あははは、あはははは♪ まとまってる家畜(ペット)の群れは殺しやすくていいですねェ♪」
新兵の顔面を銃で撃ちぬいたアルマはインクの跳ね返りも気にせずにんまり笑った。そのまま腰の引ける別の兵士を踏みつけ、一発、二発、三発。
顔合わせで親近感を覚えていた新兵はもう真っ青だった。
「おい、アルマ……」
ジョージ・ユニクス(ka0442)はげんなりとした声をかけた。明らかに相手は戦意喪失。恐慌状態だがアルマはちっとも止まらない。
「あはは、あはははははっ!」
「斉射!!」
そんなアルマに向かって新兵の一人の号令が響き渡った。途端にアルマの防具はインクで急激に染まった瞬間、をすかさずジョージが盾を持ってそちらに突進する。
「はりゃ?」
「もう……。しかし大した攻撃ですね。立ち直りも早いです。でも……ひるまない敵にはどうしますか?」
残った攻撃を全て盾で防ぎながら、ジョージは突進する。
「……後退しつつ左右に展開っ。数の差の有利を最大限に活かすぞ」
問いかけに、新兵はほんの僅か逡巡したが、すぐさま答えを出した。ジョージの問いかけは間違いなく彼の伸びしろを大きくしている。
左右にわかれた兵士はジョージを左右から狙いをつける。はずだった。
「それだけばらければ、ハンターには十分なのよ」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は細かく分断された兵士の一隊にすかさず踏み込んだと同時に、鞘のままの刀に手をかけた。
紫電がたなびく。
新兵の誰もが、ユーリの間合いに入っていたことに気付けなかった。
「一撃でひるむな! 名うての剣豪とて同じ戦場の上なんだ」
さらに進もうとするユーリをディヴァインウィルの障壁が押し留める僅かな合間に残った兵士を立て直す。
「やるなぁ……あいつ。にしても、これ作戦か……?」
リューは離合集散する兵士を叩きながら、周りの様子を窺った。兵士は良く戦い、ハンターの戦いぶりに得るものをよく掴みとってはいるが、相手は地形を活かしているともいいがたい。これではすぐに戦いが終わる。
「なんか、狙っているんだろうな。やっぱり」
●D班
「えっへへ、さぁ、新兵たち、この中を進んできやがるんでさ!」
丘の頂点をすりぬけ、敵の背後に攻め入ったD班の鬼百合(ka3667)は、塹壕の目立つ斜面に容赦なくブリザードを展開する。塹壕ってのは弾避けであって、範囲魔法など飛ばされたらひとたまりもない。
「さびぃぃぃぃぃ」
「このくらいで寒いって弱音吐くんじゃねぇやい!」
塹壕から眉毛を凍らせた兵士数名が悲鳴を上げつつ、飛び出して一気に走りこんでくる姿が見えるが、鬼百合は続いてライトニングボルトで撃ち落とした。
鬼百合くん、マジ鬼教官。
「やるじゃねぇか!」
龍華 狼(ka4940)は大暴れする鬼百合に振り向いて、びしって親指を立てて見せた。もっと頼りないと思っていたけれど、すごいもんだ。
「こりゃ負けてられないな」
狼は刀を持って走ると、鬼百合に機導砲で対抗する新兵に向かって一気に走りこむと大きく跳躍して塹壕へと飛び込み、機導士の新兵を足で踏みつけた、同時に同じ場所に隠れていた兵士にむかって刀と苦無を引き抜いた。
一閃。
「へへへ、俺の方が凄いだろ?」
ブリザードで手傷を負っていた部分を確実に叩きのめしてインクが迸る中にはもう狼はいなかった。
「やっぱり狼はすげぇ」
狼は手に触れられない距離にある。だが、互いを信頼する絆の糸は、そんな物理的な距離を飛び越え、温かみすら感じていた。
が。
「ああ、そちらは凶と出ています。この地形、吉凶がとても多く入れ替わ……」
鬼百合の横で禹歩を使っていた閏(ka5673)が声をかけようとしたが、それよりも早く狼が突如消えた。すぽん。という小気味のいい音が聞こえた気もする。
「おわぁぁぁぁ!?」
「かかったぞ。こんちくしょう。非覚醒者の根性舐めるなよ!!」
塹壕の間に落とし穴があった。リュカ達が言っていた『地下』とはこれのことか。落とし穴で待ち受けていた兵士は落ちて来た狼が体勢を整える間も与えずスコップでぼかすか叩いてくる。
「狼ぃぃぃぃ」
鬼百合は走った。
そしてはまった。
別の落とし穴に。
「かかったぁぁ!!」
こちらでも鬼教官への復讐はじまる。
「瑞鳥よ! お守りください!」
泣きそうになりながらも閏が瑞鳥符を鬼百合のはまった穴に投げ込んだ。突如、穴の中が輝き、不死鳥の如く輝く鳥が翼を広げるのが見えた。
そんなに広くもない落とし穴に、兵士と鬼百合と落とし穴の蓋代わりの土砂と魔法の鳥。もはや混沌の坩堝ではあろうが鬼百合がそのまま倒されるのは回避されたであろう。
「相手は符術士一人だ。叩け!!」
「大切な人を守れるならこの命、捧げる覚悟はできていますっ」
大量に向かってくる新兵も、閏もそれほど戦闘経験は変わらないはずだ。それでも彼らは魔法に耐え、狼の奮迅の戦いをこらえて今の状況まで耐え忍んだと思えば。互いに勉強しているのだ。逃げるわけには……。
「よぉく言った!!」
真上から爆炎の滝が閏の視界を覆ったと当時に長い金髪が彼の前に降り落ちて来た。アーシュラ・クリオール(ka0226)だ。
アーシュラはそのまま、ウィンクひとつを彼に残すと、ジェットブーツでひとっ跳び。狼の落ちた穴に飛び込み、そのままディファレンスエンジンで新兵を殴りつけると狼を抱かえて、元の位置に帰って来た。
「鬼百合ぃぃぃ」
「おうさ!!」
ごもももも。という音と共に、落とし穴が隆起した。いや、鬼百合がアースウォールで這い上って来たのだ。
もう土塗れのインク塗れ。
「よく帰ってきてくれました」
泣きそうな閏がそんな二人を迎えた。
●SNT発動
「シグルド様、後は……頼みました!」
ボルディアによるトドメの一撃を受けると同時に指輪をシグルドに飛ばした。
「全軍通知。指輪の位置確定。丘頂上シグルド。敵損耗率14%。味方被害4%。時間経過48分。決着をつける。繰り返す」
柊の声が、短電話を通じてハンターに届く。
「偵察班、林に侵入した兵士が戻られると、SNTが背後から狙われる。阻止してくれ」
「まっかせて♪ ルンルン忍法の奥義、魅せちゃいます。ネルベルベラルルベララルラ♪ 大地よ、泥になれ~」
無線が飛び交う中、ルンルンは空を駆けていた。残っているありったけの符を起動した。林は泥沼に覆われ、まともに歩ける場所もなくなる。
「さて、外部の応援もなく、陣形も取れない。この瞬間自分の考えで生き抜かなくてはならん」
蘇芳 和馬(ka0462)は八艘跳びで狼狽える兵士の後ろに降り立ち、そのまま腕に一撃を叩きこむ。急所である首筋を狙うことも十分可能だったが、蘇芳はあえてしなかった。それでは新兵の訓練にならない。
「生きるとはなんだ」
「わ、わ、わ……」
完全に混乱している。しかし、その立て直しは思ったところと違う所からやってきた。
「地縛符が切れるまで防御態勢!! 背を預け合え。視覚に頼るな」
新兵の一人が叫んだ。蘇芳はそんな臨時の指揮官の元に向かって走った瞬間、真上から銃撃が飛んできて立ちすくんだ。いつの間にやら白金以外に狙撃者が潜んでいる。
「なるほど、少しは目鼻の届くやつはいるようだ」
蘇芳がそちらを見上げた時には、偵察として潜んでいたリュカが飛びかかっていた。
それでも落下する間にリュカにヘッドショットを決める兵士だったが、そんな兵士の目の前でリュカの傷は癒えていく。
「君は勇気があるな。だが、足掻くのは私も得意だ」
●そしてS・N・T
「一発でいいから殴らせろぉ!」
ボルディアが大上段からハルバードを振り下ろした。跳躍で落ちる加速度も含めて、ぐんぐんシグルドに近づく。
「はは、怖いなぁ」
シグルドは踏みつけていた高瀬を掴みあげるとボルディアの眼前に投げ飛ばした。
「「ひわァあァあァ!?」」
空中衝突。
共に墜ち行く二人を見て、シグルドはぐるぐる巻きになったジュードの喉元に口を近づける。もちろんジュードの愛しいエアルドフリスが見えるようにだ。
「貴様ぁぁぁ!」
「エアさーーーーん!!」
ジュード。ちょっとノリノリで叫びをあげる。まさしく囚われの姫という様相にぴったりだ。
エアルドフリスは即座にアイスボルトを生み出すべく、詠唱を始めたが突如、足を掴まれエアルドフリスは大きく体勢を崩し、そのまますぽりと消えて行った。
「そういうことか。落とし穴で身を守ってるわけか」
リューはエアルドフリスの頭を踏みつけると大きく跳躍した。
「ケジメつけてもらうっ」
「ああ、そこもダメだね」
「のわぁぁぁぁぁ」
シグルドの言う通り、ずぼっとリューは丘から姿を消した。
「落とし穴だらけか、副長閣下の陰険さがよくわかる」
とはいえ、重装備のアウレールもこれでは迂闊に進めない。下手に落とし穴にかかろうものなら登るのも一苦労だ。
「卑怯な……許せませんっ」
セレスティアは眉ひとつしかめると、ディヴァインウィルを放った。落とし穴だらけということはシグルドも迂闊に動けないはずだ。
「反省しなさいっ」
「まて、私がいることを忘れ……あぁぁぁ」
ディヴァインウィルに吹き飛ばされアウレールもやっぱり転落。
「全滅かぁ。やれやれ、勇者は来なかったね」
「いつもそうやって、人を見下ろすの、本当に好きですね」
シグルドの笑みを陰らせるようにユリアンが跳んだ。
疾影士に届かない場所など無い。
「まだ風の勇者殿がいたとはね」
シグルドが微笑んだ。しかし、即座にデリンジャーを引き抜くとユリアンの漆黒のサーベルを吹き飛ばした。
「武器、それだけだと思った? ユリアンさん、ぱーす」
ジュードはスカートをはためかせ、脚をひとふり。隠していた短剣を浮かせると同時に狙撃手の瞳でそれを見据えて、短剣を蹴りあげた。
ユリアンはすかさずその短剣を空中で受け取ると、シグルドの頭に叩き込み、そのまま背後に着地すると蹴り飛ばした。
「お、お、っと……」
シグルドはたたらを踏み、そして土壁に手を付けた。
土壁? そんなものはなかったはずだが。
「ふふふ、ふふふふ。待ちに待った時がやって来たようですな」
土壁の作り手エアルドフリスは、落とし穴からアースウォールで脱出していた。それどころか今は見下ろす立場だ。
エアルドフリスだけじゃない。ボルディアも、リューも、アウレールも、セレスティアもたかくせりあがった壁の上からシグルドを見下ろしていた。
俗称、籠の鳥。
「借りというものはそれほどありませんがね。ははははは」
「まあ、やれるものはやっとかねぇとな」
「そういうわけだ、観念してもらおうか」
「それがスタートラインってやつだ」
一斉に飛び降りた。
「くたばれやぁぁぁぁ!!!!」
タコ殴り大会の始まりである。
「ふぅ……やった、かな」
そんな中、一人でユリアンは気持ちの良い風が舞う空を見上げていた。
空に演習終了の笛が鳴り響く。
おめでとう、S(シグルド)N(殴り)T(飛ばしたぞ)!!
●それで
演習は終わって。
新兵とハンターの交流の為に、慰労の食事会が開かれていた。
「なぜそこまでやって、一人くらい指輪を持ち帰ることを考えなかった?」
蘇芳は呆れた顔でSNT隊の連中を一瞥した。
指輪は見つけたのに制限時間までに持ち帰られなかった為、結果としてはハンターの敗北である。
「まあ、兵士には多くの勉強をさせることができた。相手も満足だったとしている」
蘇芳はそう言うと戦いぶりをまとめた書類を兵長に渡した。
「意外と骨のある奴は多かった。見たところ3人いたな」
蘇芳の目線の先では、牡丹と戦っていた女兵士の姿があった。
「今度は、負けませんから……」
女兵士は食事を忘れて、牡丹の放った一撃を思い返しているようだった。視線の先にはずっと牡丹の姿。
彼女もきっと追いかけて追いかけていくのだろう。
リュカはそんな彼女を見て、小さく微笑んでいたが、ユーリはどことなく不満の残る顔だった。
「あれじゃまだまだ帝国軍としして使い物になるのは先のようですね。強くなることをもっと意識してもらわねばなりません」
ユーリは剣豪との戦いと重ねつつ様子を見ていた。戦いは人を成長させる。だが、今のままでは餌食になってしまうだろう。
「強くなる、立場も目的も違えど、目指すところはそう変わらないものだな」
「リュカはいいじゃない。私なんて今回良い所なしよ。延々盾にされてた気がするわ」
同じく強さを追い求める高瀬はそんなリュカに愚痴をこぼした。
「偵察が捕まるとは思ってもいなかったがな。でも、敵の動きを見て策を見破れることもある。それには必ず先んじる人間が必要なんだ。よくやってくれたよ」
嘆く高瀬に春日が微笑みかけた。
陣形やチームの運用は春日の思い通りにいった。しかし新兵相手に被害は大きかったかもしれない。
「攻めつつ守るってのもやっぱ難しいものだな……」
「何言ってるのよ。狙撃班として言わせてもらえれば、すごく緻密。リアルブルーの戦術教練を彷彿とするくらいしっかりしてたわ」
白金は思いふける春日にそう褒めた。特殊作戦部隊として訓練を積んだ白金は狙撃時に見えた行軍風景は、今や点景となった軍隊生活を思い出した。
「おっ、もしかして、軍隊出身?? 教科書のカラーページ思い出したよね」
「うわ、なつかしい」
アーシュラが興味で白金に問いかけると懐かしい軍隊生活話に花が咲く。
「にしても、兵長さんが指輪もっているとよくわかったな」
柊の問いかけに、グラスを下ろした劉は「んぁ?」と気の抜けた声を上げた。仕事も終わり割とできあがっている顔だ。
「シグルドは最も目立つところにいただろ? 一番狙われる奴は指輪をもたないだろうから、じゃあ後はあいつしかいねぇじゃねぇか」
「なるほどな」
柊はその直感の良さに感心をした。適当そうに見えて、見てる物はきちりとみているらしい。
「見てると言えば、あそこの班が一番すごかったかもしれないな」
柊が視線を寄せたのは鬼百合と狼と閏の班だった。
「へへへ、なんか褒められてますぜぃ。でも鬼教官がやれて良かったでさ。角のある鬼の閏のおっちやんとも仲良くなれたし、狼ともうまくやりあえたしねぃ」
「お前、そういうこと言うなよ……照れるだろ。でも、鬼百合。お前に背中にいてもらって良かったと思うぜ」
「そうですね……心強かったです。一緒に事を成し遂げるって貴重ですね」
閏はまるで我が子のようにして二人をぎゅっと抱きしめた。
絆の強さはきっとこれからも。いつまでも。
一方こちらはちょっと変わった絆の二人。
「アルマ、暴れすぎ……MVPとか言われてるぞ」
「ひゃん、そぉでしたか?」
ジョージに小突かれてアルマは自分の頭を撫でた。
「見てみろ」
ジョージが指を指した方向をアルマが向くと、新兵の何人かが後ずさった。
にぱっとほほ笑むと、彼らの膝は震え出した。
「あ、ああの。よぉっく、勉強になりました。その、揺るがない敵にどうするのかとか、み、見た目で判断しちゃいけないとか」
兵士は上ずった声で感謝を述べているが、明らかに勉強のし過ぎでトラウマになっていること請け合いだ。
「それでも兵士に一つでも伝わる、伝えられたものがあったのなら。今回の依頼は成功さ。教えを体現してくれた方々には賞賛を」
怖がる兵士達の頭を軽く撫でて、シグルドはハンター達に拍手を送った。
あれだけタコ殴りにしたのにもう回復しているあたりが若干憎らしい。
それはともかく、場は拍手に満ち溢れた。
「さぁ、それくらいにして、新しい料理ができましたの♪ 今度はチョココ特製ケーキですの、ょ。ふぇ。ふぇっくしょんっ」
ずびび。と相変わらずかぜっぴきっぽいチョココがケーキを持ってやって来た。
そして改めて乾杯の音頭がとられた。
「ハンターと兵士の未来を祝して!!」
賑やかさのつきない様子をユリアンは微笑んで見ていた。
後日、チョココの風邪がこの後新兵とハンターの一部で大流行し、一番多くの人間を恐怖に送り込んだのは彼女であることが確定した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓2 劉 厳靖(ka4574) 人間(クリムゾンウェスト)|36才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/02/27 11:34:22 |
|
![]() |
偵察班相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/02/27 11:18:22 |
|
![]() |
質問卓あるいは口プロレス会場 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/02/26 22:32:16 |
|
![]() |
相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/02/27 01:05:43 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/26 11:21:22 |