未来に刻む勝利を 第3話

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/04 07:30
完成日
2016/03/06 16:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●龍尾城の一室
 立花院 紫草 (kz0126)が報告書を読み終えて、静かにテーブルの上に置いた。
「やはり、十鳥城の城主、矢嗚文は堕落者となっていたのですね」
「知っておられたのですか?」
 紫草の言葉に疑問で返したのは、紡伎 希(kz0174)だった。彼女が報告書を持って来たのだ。
「あくまでも噂として……ですね。先代か先々代かの時代の話しですし」
「最終的な目的は変わらないという事でよろしいのでしょうか」
「えぇ……あくまでも、住民による蜂起での解放です」
 獄炎を倒したと言っても、歪虚の勢力域は残ったままだ。
 十鳥城周辺も同様であり兵力を差し向けるにはリスクが大きい。
「長江西に構築している拠点ですが、進捗は順調です」
 カカオ豆をめぐる一連の制圧戦で長江西一帯を支配下に置き、新しい拠点を設けている。
 希自ら現地に足を運び、状況を確認していた。
「ここで兵力を消耗するわけにもいきませんからね」
「……私には分かりません。なぜ、苦しんでいる人々が居るのに、すぐに助けに行かないのか……」
 俯いたまま希がそんな言葉を発した。
 連邦国の兵力を持ってすれば、十鳥城を包囲する事は可能なはずだ。
 抜け道の存在も把握しているので堅固な城門を苦せずして開けられる。攻城戦も速やかに終わらせることができるだろう。
「希殿の気持ちはよく分かります。今、この状況だからこそ、慎重に動く必要があるのです」
「はい……」
 力無く返事をした希の肩を紫草は軽く触れた。
「今は信じるのです。住民を、そして、戦う仲間達を」

●十鳥城天守閣
 禍々しい雰囲気を発する戦甲冑に手を伸ばす好青年。
 遥か遠い記憶となってしまった当時の事を思い出していた。
 次々と倒されていく将兵……城を守る為に立ち上がった民兵達の強い眼差し。
「……我はこの時を待っていたぞ」
 先日、ハンター達と遭遇した。
 獄炎を打ち破った西方の戦士達。絶望的と思っていた状況が一変したのだ。
「矢嗚文様……」
 その様に呼び掛けられて城主は振り返った。そこには歪虚が居た。
 矢嗚文が生み出した忠実なる僕である。
「城下町に潜入した者共の数を把握致しました。それと、災狐配下の者共が再び城内に潜入している様子です」
「しつこい獣共だ」
「いかがなさいましょうか?」
 その問いに矢嗚文は考えるように一瞬、間を開けた。
「……せっかくだ。ハンター達の実力を計れるな」
 これまで外部から贄役を拉致してきた。だが、それらは矢嗚文は悉く倒してきた。
 西方からやってきたであろうハンターと呼ばれる存在が如何ほどの実力を持っているのか確認したくなったのだ。
 矢嗚文は素早く書状に筆を走らせると、それを部下の歪虚に渡した。
「これを、代官に届けろ」

●廃墟街
 犬によく似た姿の歪虚が数体集まっていた。
 その中でもひと際大きい歪虚がいる。
「災狐様はお怒りである。早くしないとこの町ごと焼かれるワン」
「でも、どうするんだワン? 矢嗚文は強いだワン」
 恐らく、この場に集まった歪虚が束になっても敵わないだろう。
 過去に何体もの歪虚が挑み、敗れ去ったのを知っているだけに、うかつに手――この場合、足――がでないのだろう。
「代官と呼ばれる存在は矢嗚文の中でも特別と聞いた事があるワン。そいつを誘拐して人質にするのだワン」
「なるほどだワン。それで隙を突くワン」
「うちは、ここで待ち構えているワン。矢嗚文が姿を現したら、おめー達が、矢嗚文を背後から殺るワン」
 その作戦に歪虚達はワンワンと声をあげた。
 これほどまでに完璧な作戦であれば、矢嗚文を倒せるはず。
「それじゃ、さっそく代官とやらを捉えて来るワン」
 数体の歪虚が走り出て行った。

●闇市場
「可笑しい……ハンター達の話しによると『代官』と呼ばれる存在がいると聞いたのだが……」
 大轟寺蒼人が闇市場で茫然としていた。
 代官に接触し、幕府からの書状を渡そうと思っていたからだ。
「誰かしらに声をかければ見つかるはずと聞いたけど……」
 眼鏡の位置を直して呟く。
 いつもはどこかにいる事を誰かしらが目撃しているというのに、今日という日に限って誰も見ていないという。
「こりゃ、参ったな……」
 途方に暮れている時だ。
 路地の奥に野良犬を見つけた。
「なんだ。どこにでも、野良犬っているもんなんだな」
「ワンワン!」
 蒼人の呼び掛けに敵対心剥き出しで吠えて応える犬。
「やけに元気がいいな……ん?」
 町の住民達は誰もが疲れ切っているのに、この犬は威勢が良い。やせ細っていても可笑しくないはずなのに。
 その時になって、蒼人は気がついた。
 ハンター達の報告書の中に犬の姿をした歪虚がいた事を。それらの歪虚は『災狐』という存在の配下であり、この町によろしくない事を行おうとしている。
 機会があれば、潰しておこうと思っていた。必ず後ほど障害になるはずだからだ。
「もしかして、この犬は……」
「ワン!」
 ビクッと一瞬、身体を振るわせ、野良犬は路地の中へと消え去った。
「逃がすか!」
 蒼人は逃げ出した犬を追いかけるように路地裏へと駆け込んで行ったのであった。

リプレイ本文

●探索
 艶やかな黒髪が風に乗って流れていく。その髪をレオン・イスルギ(ka3168)は手で押さえながら呟いた。
「人を喰らって力を付けようなどと……正直に申しますと、気分が悪いです」
 彼女の憤慨はもっともだ。
 この十鳥城と城下町に忍び込んでいると思われる犬の形をした歪虚。その存在を目撃した義姉上から話しを聞いたのだ。
「纏める頭格が何処ぞに居るはずじゃ」
 星輝 Amhran(ka0724)が従姉妹の呟きに応える。
 人語を話すのは在る程度の知能があるはずだ。となると、組織的な動きをしているに違いない。まとめ役がいるはずだと星輝は推測していた。
「力なき者から奪い、安易に力を得ようなどと……犬畜生ども、許せません」
 と意気込むレオンを横目にふと犬の姿を思い出した星輝は心の中で思うのであった。
(……もし、主を捨て、人に害成さぬと誓えば見逃してしまうやもしれぬ……)
 もふもふ感がたまらない犬の姿をした歪虚だった。

 星輝とレオンの二人は犬歪虚を警戒しながら聞き込みを続ける。
 酒を卸している店になにか手掛かりはないかと思ったが、予想もしない返事を聞いた。
「……つまり、『代官』は城主と繋がっている……という事でしょうか?」
 礼儀正しく背筋を伸ばしながらレオンは酒屋の話しを確認した。
 そして、視線を義姉上に向ける。自然と星輝と目が合うと、頷いてから口を開いた。
「連絡が取れないというのは、城主に逢っているという可能性は高いかもしれんのう」
「『代官』とは何者なのでしょうか?」
 レオンの質問に酒屋は周囲をキョロキョロと見渡してから答える。
「何代か前は、城主に仕えていた家来の一人……という噂は聞いた事がある。今は、生き残ったうちらの、取り纏め役さ」
 その言葉に星輝は視線を落とし考える。
 代官の存在と城主矢嗚文の関係――なにかデジャブ感を感じた。
(代官に実質的な支配を任せておけば、負のマテリアルの影響を最低限に抑える事もできるかもしれんのう……)
 歪虚に長時間接していると負のマテリアルの影響を受ける。
 場合によっては死に至る事もある。だから、歪虚が人を支配し統治するのは難しいのだ。
「義姉上、皆様と合流しましょう」
「……そうじゃな」
 代官の行方や蒼人への手掛かりを得られなかったが、別の情報を得られた。
 二人は仲間との合流地点へと足を向けたのであった。

●発見
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)が困ったような表情でネックレスの揺れを確認していた。
(独りで何処かへ行ってしまわれるなんて……肝心の代官さんにも、まだお会いできていないというのに……)
 蒼人の事である。
 魔術を使って呼び掛けようとしたものの、声は届いていない様子だった。
 彼にとって、メトロノームはあまり近しい存在という認識ではなかったという事なのだろうか。もし、そうであるならちょっとしたショックでもある。
(あの人もなにか、抱えているのかもしれません、ね……)
 パッと鳩が空に飛んでいく。シルディ(ka2939)の手品だ。
 闇市で『蒔いた』後、彼は先日と同じ場所で手品を披露していた。
「大轟寺さんも連絡の1つ位入れて欲しい物です」
 次の手品を行いながら観客役を兼ねているメトロノームに話しかけるシルディ。
「余計な手間を増やしてくれる……困った人ですね」
 苦笑を浮かべて応える。
 犬歪虚に襲われていないか心配だ。

「やはり、ここに居たか」
 髭面の男が二人に声をかけて来た。
 その口振りからすると、この男はハンター達を探していたかもしれない。
 メトロノームが丁寧に頭を下げたのに続き、シルディは手品を止めて応えた。
「これは先日のお客様、またお越し頂き有難う御座います」
「歓迎するよ。西方のハンター達」
 どうやら、代官は二人の正体を把握しているようだ。
「まさか、獄炎を打ち破るとは……君達の狙いはなんだ? 返答によっては……」
 代官の姿勢は変わっていないが、殺気は十分感じられる。
 腰には刀が差してある。それなりに腕はあるのだろう。
「私達は、十鳥城と城下町の解放に来ました」
 嘘をついても見破られると感じたメトロノームが手土産を渡しながら言った。
「解放……だと?」
「ある御方からの命で……ですかねぇ」
 表情を変えずに口にしたシルディの言葉に代官は表情を緩めた。
「なるほど、詳しく話を聞こうか」

●合流
「大轟寺さん……一人で何処か行っちゃって……」
 心配した表情でシェルミア・クリスティア(ka5955)が、カードバインダーから符を取りだした。
 歪虚討伐にせよ、行方不明になった蒼人を探すにせよ、一先ず代官を探さないといけないが、手掛かりという手掛かりを得られず、彼女は占いを行っているのだ。
「どうしても、振るわない感じだよね」
 占い結果はあまり芳しくない。
 その隣で双眼鏡を使って街中を見渡しているのはミィリア(ka2689)だった。
「代官さんも、蒼人さんも両方見つけ出す!」
 十鳥城と城下町、全体ではそれなりに広い。
 犬歪虚に見つからないように行動している事もあって、大っぴらに探せないのがもどかしい。
「やっぱり、ここまで一緒に頑張って来た仲間だもん、これからも一緒に!」
 ハンター達が依頼の合間、東方から居ない間等、蒼人が一人で残っているのだ。
 なんとしてでも見つけ出さないとと気を引き締めるのであった。

「犬の符……」
 占い結果を呟いたシェルミア。
 これが意味する所は……と思っていた時だった。
「あれ? 蒼人さんが犬を追いかけてる!?」
 ミィリアが蒼人を見つけた。
 前方から犬が向かってくるが、その背後を蒼人が物凄い形相で追いかけている。
「そいつを止めて下さい! 報告にあった犬歪虚です!」
「「え? えぇ!?」」
 蒼人の叫びにシェルミアとミィリアが驚きの声をあげた。
 急いで符術を使う為に意識を集中されるシェルミア。カードバインダーから一枚取りだすと、犬歪虚に向かって放つ。
「ここで逃げられると、わたし達の存在が知られてしまいますね」
 符が桜吹雪のような幻影を生み出し、犬歪虚の逃走ルートを塞いだ。
「逃がさないッ……で、ござる!」
 戸惑う犬歪虚に対してミィリアが刀を一閃した。
 鈴の音を響かせながら、その一撃は犬歪虚の首を刎ねる。足が止まった所で、蒼人も刀を振るって、犬歪虚を切り刻んだ。
「危うく逃げられる所でした……って、二人ともどうしましたか?」
 ハンター達が自分を探していたとは知らない蒼人だった。

●代官
 蒼人を含めた一行は代官の案内で廃墟街のとある倉庫へと向かっていた。
 そこに、十鳥城に忍び込んでいる歪虚の根城があるという。
「矢嗚文を倒せば、城と町を支配してよい……という事じゃな?」
 星輝が代官の説明を聞いて確認の質問をする。
 代官は深く頷いた。
「それが、契約だから、な」
「だから犬の歪虚はそれを狙っているのでござるか」
 何度も頷きながらミィリアがそんな台詞を口にした。
 城下町や贄役が勝てば支配から解放される。
 だが、歪虚が勝てば、歪虚の支配となる。そして、支配者が変われば……最悪、歪虚勢力に飲み込まれる可能性もある。
「……矢嗚文は正気なんですかねぇ」
 シルディの言葉に蒼人は眼鏡を直しながら応えた
「多分、正気じゃないはずだ。契約を守るだけの堕落者なんだろう」
 歪虚と契約する事によって人は堕落者や契約者といった歪虚になる事ができる。
 その場合、生前の記憶を持った場合もあるようだが、善人でいるという事はあり得ないだろう。
「矢嗚文様は違う!」
 蒼人の言葉に代官は苛立ちを隠さない様子で叫ぶ。
「確かに、血を流すだけの無用な武闘会はあった。だが、矢嗚文様の根底は、決して、俺達を裏切ったりはしない! 帝の様に、見捨てたりしない!」
「スメラギ様がいつ、見捨てたという! 武士としての本懐を忘れ、歪虚に魂を売ったのは、矢嗚文だ!」
 売り言葉に買い言葉。
 代官と蒼人がヒートアップしそうな所で、ハンター達が抑える。
 このままだと大喧嘩になりそう……そんな雰囲気だったからだ。
「大きな声を出すと、犬歪虚に見つかりますよ」
「そうだよ。わたし達は共通の目的を持っている同士なのだから」
 メトロノームとシェルミアが諭すように二人に言った。
 その様子を見ながらレオンは先日、矢嗚文と出逢った時の事を思い出していた。
 禍々しい甲冑で身を包んだ、好青年だった。そして、確かにこう口にした。
『我は待っていたぞ。獄炎を打ち破った者共よ』
 ……と。
(待っていたという事は……もしかして……)
 レオンの推測がなにかに触れようとした時だった。仲間に呼び止められて停止する。
 どうやら、乗り込むべき根城に到着したようだ。

●討伐
 倉庫の格子窓から、こっそり中を確認した一行は一つしかない出入り口から一気に踏み込んだ。
「女子力は、度胸! どりゃー! で、ござるぅー!」
 全身から炎のマテリアルを放出させながら、敵陣のど真ん中に突撃するミィリア。
 耐久力には自信があるから、敵の目を引き付けて自身が囮になるつもりなのだ。
「どの子も寝なかったのは残念ですが、これなら、どうでしょうか?」
 メトロノームが氷の矢を精製し、犬歪虚の1体に向かって投げつける。
 その冷気は確実に犬歪虚の動きを鈍くさせた。
「悪い事を企む悪い犬さんには、雷のお仕置きだよ」
 そこへ、シェルミアが投げた符が稲妻となり、犬歪虚を貫いていく。
 魔法と符術によって弱まった1体に対してシルディが鮮やかな手並みで鞭を振るった。
 大蛇を連想させる黒緑色の鞭がしなった音と共に犬歪虚を叩くと、ボロボロと犬歪虚が崩れていく。
「この程度とは、少し、物足りないかもしれませんねぇ」
 彼の瞳は残忍な雰囲気を纏っていた。

「ここで何をしておる。災狐とは何ぞや? 城主と因縁でも有らんや?」
 歪虚が放った火球を避けつつ、一際大きい犬歪虚に立ち向かいながら星輝が訊ねた。
「災狐様の偉大なる計画の邪魔をするなだワン!」
 低い声で叫ぶ犬歪虚。
 その声は負のマテリアルが込められているようだが、精神を集中して星輝は凌いだ。
「義姉上、私は支援に回ります。顧みず、存分に刃をお振るいください」
 駆け出して行く星輝の真横をレオンが放った氷の矢が飛翔していく。
 その一撃は犬歪虚に直撃すると、歪虚の動きは緩慢となった。

 ミィリアが突出した所に群がってくる犬歪虚達が炎を一斉に吐いた。それを一身に受けるミィリアが炎に包まれる。
 だが、それ位で怯むミィリアではない。
「これ位なら、ミィリアの方が目立つでござるよ!」
 彼女の全身から溢れだす炎のマテリアルは確実に犬歪虚を引き付けていた。
 鍛えに鍛え上げた渾身の女子力(物理)で、猛火を浴びつつ、刀を一閃。桜吹雪の幻影を吹き飛ばしながら新たな花弁が零れ落ちる。
 迫っていた犬歪虚は払い飛ばされていく。そこを追撃するように、メトロノームとシェルミアの術が追撃した。
「……かくして、全てを凍て尽くす氷の幻獣となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
「六行の天則に従い、清き風よ、貫く雷となり、魔を滅せよ! 風雷陣!」
 氷の矢が降り注ぎ、雷が迸る。
 薙ぎ払いで吹き飛ばされた犬歪虚が、弱々しく吠えながら、次々と消滅していく。
「これで、残すは大きい犬だけですかね」
 残った瀕死の1体を鞭で容赦なく叩き伏せてシルディが視線を変えた。
 加勢に行く必要はないだろう。レオンの掩護を受けて星輝は優位に戦っているからだ。
 立て続けに放たれるレオンの水球は犬歪虚を確実に弱らせている。
「小癪な人間共だワン!」
 口を大きく開けてレオンに対して炎を吐こうとした時だ、不意に頭の向きがグイっと引っ張られる。
「ほれ、儂の方へハウスじゃ!」
 星輝がワイヤーを首にかけて引っ張っていたのだ。
 引っ張り合いになった所で突然、星輝がワイヤーを手放す。反動で犬歪虚のバランスが崩れた所に、レオンがトドメとばかりに水球の魔法で畳み掛けた。
 猛攻に耐えきれずに地面に伏す犬歪虚。
「義姉上! 今です!」
 レオンの言葉に頷き、壁や天井を巧みに着いて、宙を舞った星輝。歪虚が苦し紛れに吐いた炎を腕で払う。
 そして、そのまま氷精の加護を宿した太刀を抜刀。氷晶が舞い散る中、星輝が素早く犬歪虚を斬り付けた。
「……に、人間ども、これで勝ったと思うなワン」
 ボロボロと崩れながら犬歪虚が一行に向かって絶え絶えに吠える。
「この町に多く仲間が入り込んだワン。もう、手遅れだ、ワン……」
「まさしく、負け犬の遠吠えじゃな」
 一行が見下ろしている中、犬歪虚は粉塵となって消滅していった。

●不和
「見事な腕前だ。お前達は」
 代官は手土産で貰った酒を飲みながら戦いの様子を見ていたようだ。
 ひっくとしゃっくり。既に一升瓶は半分以下だ。
「……お前達なら、矢嗚文様とまともに戦えるかもしれねぇ」
「これは、『試験』を兼ねていた、という事かな?」
 シルディの言葉に代官はニヤリと笑った。
 そして、ハンター達は試験に合格し、『贄役』として認められたのだろう。
「既に相当数の災狐の配下が潜伏しているのは把握済みだからな。試験を兼ねての討伐さ」
 代官の答えに抗議の声を出そうとした蒼人を抑え、星輝が口を開く。
「なにか策は打ってあるという事かの。災狐とやらの狙いはこの城と町じゃろ」
「策なんてものはねぇ。お前らが矢嗚文様を倒せば、支配は終わる。住民は安全に脱出するだけだ」
 城も町も人が居なければただの廃墟だ。
 そして、災狐の配下には無用なものであろう。
「その武闘会の日取りは決まっているのでござるか?」
 ミィリアが首を傾げた。
 できれば一刻も早く戦いたい所だ。
「それは確認しないと分からないが、そう遠くはないだろうな。一ヶ月前後だろう」
「城主を私達で倒せば、町の解放も容易ですね……大轟寺さんはどう思いますか?」
 メトロノームの質問に蒼人は険しい表情を浮かべたままだった。
「……本国と連絡を取る」
 それだけ言うと、踵を返した。
 出口に向かう途中で代官に一瞥する。
 その様子にシェルミアはレオンの耳元で小声で言った。
「なんだか、仲が良くなさそうだね」
「そうですね。なにか支障をきたす事にならなければいいですが」
 明らかに代官と蒼人の間にはなにかあるようだ。先程の会話が発端とすれば、蒼人の一方的な思い込みのせいかもしれないが……。
 不和の兆しをレオンは感じたのであった。


 ハンター達は代官と蒼人を見つけ、災狐の配下である犬歪虚の討伐にも成功した。
 同時に、矢嗚文との戦う資格があると代官にも認められた。矢嗚文に勝てば、城と町の解放も近い。
 だが、災狐の配下である歪虚が相当数、既に潜伏している事や代官と蒼人の間で、亀裂が生じている事など、いくつかの不安要素もあるようだ。


 第4話へ続く――

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  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhranka0724
  • おっとり紳士
    シルディka2939

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参加者一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • おっとり紳士
    シルディ(ka2939
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/29 20:07:23
アイコン 相談:犬の躾とヒゲ確保
星輝 Amhran(ka0724
エルフ|10才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/03/03 17:54:08