未来に刻む勝利を 第4話

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/18 07:30
完成日
2016/03/27 20:39

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●龍尾城の一室
「十鳥城の城主、矢嗚文との武闘会で勝てば、十鳥城の支配者となれる……という事ですか」
 報告書を読み終えた立花院 紫草 (kz0126)は天井を仰ぎ見た。
 蒼人と共に送り込ませているハンター達が武闘会に勝てば、十鳥城は解放される。
「それでは、足らないのです……」
「紫草様?」
 向かい合う様に座っていた紡伎 希(kz0174)が疑問の声をあげた。
 ハンター達が矢嗚文を倒し、十鳥城を解放する。それでは足りないというのだ。
「あくまでも、住民による蜂起。これが肝心なのです」
 それは紫草が拘り続けた事である。
「……住民達の変革、それこそが必要という事ですか?」
「十鳥城は歪虚の勢力に呑まれ、孤立し、城主が歪虚と契約して辛うじて生き残ってきました。彼らは戦い続けた。その結末を、第三者で着けてるという事は……」
 ある意味、彼らの戦いは、宙に浮いたまま終わる。
 果たしてそれで意味があるのか。真に勝ったと言えるのだろうか。
「その様な勝ち方を、矢嗚文は望んでいない……そのような気がするのです」
 神妙な表情の紫草を見て、希はある言葉を思い出していた。
 緑髪の少女と呼ばれていた時の事だ。
「『本当の望みは、自ら掴み取る物』という事ですか……できるのでしょうか? 長年、傷つき、苦しんできた住民達に」
「その為に、蒼人とハンター達を送り込んでいるのです。きっと、彼らを変えてくれると、私は信じています」
「……では、あくまでも『住民の蜂起による解放』という事で、準備を進めます」
 エトファリカ連邦国としても指を咥えて見ているだけではない。
 希は蜂起の際に必要な準備の1つを任されていた。
 一礼をして退出した希の後、紫草は誰に向かってもなく、言葉を発する。
「鳴月家の牡丹……女将軍に連絡を」
 壁か天井か、どこからか御意と返事が静かに響いた。

●城下町のある酒場にて
 代官は酒の入った徳利を振った。中身は既にない。
 つまらなさそうに投げようとして――もったいないと思い直して、板の床に置く。
「お前は、住民を一斉蜂起させたい、と」
 視線の先には、眼鏡男子、大轟寺 蒼人が険しい顔付きをしている。
 二人は、これから先の事を話し合っている最中だった。
「本国はあくまでも、住民による蜂起によっての解放ですからね」
「はっ! 馬鹿言っちゃいけねぇぜ! 今更、蜂起したい奴なんかいねーよ!」
 これまで、何度か……今の代官の前の世代でも蜂起はあった。
 勇気ある人々が立ち上がり、事を起こしたがいずれも失敗した。
「今は状況が違うはずです。なにしろ、我々は獄炎を打ち破ったのですから」
 自信満々に胸を張る蒼人。
 蒼人自身が獄炎を打ち破ったわけではないが、彼もあの時、影ながら戦いを繰り広げていたのは事実だ。
「俺は乗る事はねぇぜ。獄炎を倒したっていうなら、その軍勢でこの町を解放すればいい」
「攻城戦となれば、どれだけの被害が出るか……」
「蜂起したとしても結果は同じだ」
 二人の視線が宙でぶつかり合った。
「しょせん、堕落者の配下というわけか」
「てめぇ、死にてぇみたいだなぁ!」
 一触触発とはこの事。
 店が壊されては堪らないと、酒場の主人が慌てた様子で、つまみを持って割って入った。
「まぁまぁ、ほら、見て下さい。なかなか手に入らない逸品ですよ」
 二人の男は睨みながらつまみに箸を向けたのであった。

●抜け穴と通じる屋敷にて
 蒼人が床に転がった。
「だめだー。私では、だめだー」
 ゴロゴロと転がって、そんな言葉を発していた。
 なにがダメかと言えば、住民による一斉蜂起を訴えかけたが、相手にもしてくれなかったのだ。
 住民のまとめ役である代官からの協力が得られなかった事も大きい。
「もういいよ。矢嗚文倒して解決で」
 一斉蜂起できなくとも、城主を倒せば、城と住民は解放できる。
「それに、災狐の配下の連中も、なんだか怪しい動きをしているみたいだし」
 城下町に潜んでいると思われる災狐の配下は、特に目立った悪さはしていない。
 だが、なにか、虎視眈眈と狙っている気がしないでもないのだ。
 そこまで頭の中で思った時だった、蒼人は転がるのを急に止めた。
「……まさか、災狐が狙っているのは……」
 ピンと来た。
 当初は矢嗚文を倒して、新たな支配者になる事を狙っていたと思っていた。
 次に、武闘会直後を狙ってくると予想していた。
「なんで、こんな単純な事に気がつかなかったんだ!」
 十鳥城の周辺の歪虚勢力域は後退している。
 特に十鳥城から東の方角にある長江は、先のチョコレート解放戦線の件で歪虚勢力が一掃されていた。
 そう遠くない将来、十鳥城周辺の勢力域も変わるはずだ。となると、歪虚側から見れば、勢力域を失う前に城下町に残っているマテリアルを根こそぎ奪っていくつもりだとしたら……。
「武闘会で身動きが取れない矢嗚文の隙を狙って、城下町の住民に……」
 蒼人は言葉を失った。
 本国に連絡して武家を集め、部隊を編成して……とてもじゃないが間に合わない。
 では、少しずつ住民を抜け道を使って脱出……まだ周囲は歪虚勢力域が残っており、危険過ぎる。
「となると……」
 やるしかない。
 住民達に一斉蜂起を。
 矢嗚文との武闘会の間、災狐の配下と戦って時間を稼ぐのだ。

 蒼人は抜け穴がある隠し扉を見つめた。
 ここまで共にしたハンター達だけが、頼りだったからだ。

リプレイ本文

●蒼人
 報告書の作成に追われている蒼人が来客に気づき、手を止めた。
「大轟寺さん、作業中失礼しますねぇ」
「蒼人様、報告書の方の進捗はいかがでしょうか?」
 シルディ(ka2939)とレオン・イスルギ(ka3168)の二人だった。
 苦笑を浮かべる蒼人。この様子を見ると、本国へなんて報告すべきか悩んでいるみたいだ。
「どうやって書くか……なかなか、筆が進まなくて」
「立場を、入れ替えて考えてはどうでしょう」
 レオンが両手を広げながら声をかけた。
 例えば、代官や矢嗚文の視点で振り返ってみる事でなにか見えてくるかもしれない。
「堕落者は討たねばならぬ、それは分かっています。きっと、城主の矢嗚文様も」
「そういえば、あの代官、城下を解放しに来たと伝えたら嬉しそうな気配を感じましたよ?」
 二人の話しに蒼人は眼鏡の位置を直しながら応えた。
「倒されるのが前提だという事で仕組まれた事……なのか……」
「もしも、今のスメラギ様と2人、歪虚の軍勢に囲まれて孤立無援。スメラギ様を生かそうとしたら大轟寺さんは如何します?」
「そんな事、決まっているじゃないか。自分はなんとしてでも、スメラギ様を……」
 そこまで言って言葉を止めた蒼人。
「……矢嗚文も同じだったのか……大切な住民達を守る、為に……」
 だからこそ、あまりにも重たい罪を背負ったのだろう。
「私の勝手な想像にすぎませんが……」
 レオンがそう前置きしてから、ゆっくりと口を開く。
「あの方は、いつか力ある庇護者に……人々を預ける時まで守り続けたかったのだと思います」
 契約時の真意は分からない。
 だが、きっとそうだと思う。歪虚と化した今でも、こうして、十鳥城では人々が生きながらえているのだから。
「そうか……だから、蜂起はないと代官は……」
 恐らく住民達による武装蜂起も過去にはあったはずだ。
「矢嗚文も、代官も、守るべき事を最優先していただけだったのか……」
 領主として、為政者として、果たすべき役目を全うしているのだ。
 たとえ己が罪に塗れても。
「だから、彼を認めて……その上で、討とうと思います」
 真剣な眼差しでレオンは語る。
「天津の武闘は、化外を屠る鎮魂の舞踏。人を捨て、歪虚と成り果てても庇護者であった彼の魂を、鎮めるために」
「贄役でもありますからね」
 レオンの台詞の後に続いたシルディの言葉に蒼人は深く頷いた。
「お二人とも、ありがとうございます。矢嗚文との武闘会、よろしく頼みます」
 蒼人の表情はなにかふっきれた様子だった。

●接触
 廃墟街の屋上を星輝 Amhran(ka0724)が駆け抜けている。
 鋭い視覚と方向感覚で街のどの辺りに自分がいるのか、把握しながらだ。
「さて、犬ころを見かけた場所は何処じゃったかの?」
 災狐と呼ばれる歪虚の存在。その歪虚の配下が廃墟街に潜んでいるのは分かっていた。
「……野良犬……ではなさそうじゃな」
 1匹の歪虚犬がフラフラとしているのを見つけた。
 疾影士特有の素早い動きで距離を詰める。最後にワイヤーを伝ってかなりの高さから静かに降り立った。
「な、なんだわん!?」
「わしは黒き龍に使える巫女じゃ。大人しくしておけば……」
 星輝の言葉を無視して歪虚犬は牙を剥き出して襲いかかってきた。
「問答無用だわん! まな板過ぎて喰う場所がないが、我慢するだわん!」
 歪虚犬が愚かだったのは言ってはいけない事を口走った事だろう。
 キラっと星輝の瞳が光ったと思った次の瞬間、歪虚犬の身体は刀で建物の壁に串刺しにされたのであった。
「う、動けないわん!」
「余計な一言は身にならんと良い勉強になったじゃろうか?」
 ニヤリと不気味や笑顔を浮かべつつ、星輝は歪虚犬の顔を撫でた。
 歪虚犬は震えながら頷く。
「さて、いくつか訊きたい事があるのじゃ」
 もふもふを堪能しながら言った台詞だったが、彼女の目は怖いままだった。

「……なるほどじゃ。大体、蒼人の想定通りという訳じゃな」
 災狐の配下達は矢嗚文と贄役との戦闘中を狙って暴れるつもりだったらしい。
 正確な数は残念ながら分からなかった。下っ端過ぎたのだろうか。とりあえず、城のある場所に、外と繋がる穴があり、歪虚犬はそこを通過してきたという。
「この十鳥城に向かって災狐様が率いる軍団が迫っているだわん!」
「なん、じゃと……」
 街中で暴れた歪虚犬が、城門を開いてしまえば、如何に堅固な掘りと城壁があっても意味がない。
「ただ矢嗚文との戦いに勝てば良いと言う訳にはいかないのう。とりあえず、通ってきた抜け穴を案内してもらおうかの」
 侵入経路を封鎖しておけば大分と有利なはずだ。
 串刺しにしていた刀を引き抜くと、それを待っていたかの様に、歪虚犬が不意打ちで噛みつこうとする。
「馬鹿めだわん! 頭を砕いてやるわん!」
 その動きは星輝まで後一歩という所で届かなかった。
 星輝が暗器の如く、張っていたワイヤーに絡まれたのだ。
「素直に案内すれば命だけは助けてやろうと思ったのに、残念じゃ」
 スパッと歪虚犬の胴体を斬り落としたのだった。

●代官
「先日はうちの大轟寺が失礼しました」
 闇市場の一角でシルディが代官を見かけて声をかけた。
「もう、気にしてはいねぇさ」
 代官は酒瓶を呷る。
「住民による蜂起が本当に必要なのか……わたしには判りかねます」
 そう言ったのはメトロノーム・ソングライト(ka1267)だった。
 十鳥城の住民らは、初めから何もしてこなかった訳ではない。何度も何度も、立ち上がっては敗れて、長年、苦しんできたはずである。
「純粋な救いの手が差し伸べられても良いと……そう感じてしまいます」
「……そんなものがあれば、住民らは藁にも縋りたいだろう」
 城内の困窮状態であり、住民は心身共に、限界に近付いている。
「災狐のわんちゃん達、大人しくして居ますよねぇ。武闘会の間の警備ってどうなるんです?」
 シルディの質問に罰が悪そうな顔を代官は浮かべて答える。
「武闘会の間、治安維持は、俺がやってる」
 腰に差している刀をシルディは見つめた。
「大轟寺が言うには、武闘会に集中している間に、城下の人間を皆殺しにする算段では無いか、その為に今は大人しくしているのでは、という事で」
 両肩をわざとらしく竦めながらシルディは続ける。
「自衛の為に町の人達の訓練、手伝って頂けませんか?」
「住民の皆さんの自衛のためにも戦う為の心構えと手段は必要だと、わたしも思います」
 メトロノームも祈る様に両手を組んで言った。
 二人の言葉に代官は考える様に髭に手を伸ばす。
「つまり、蜂起ではなく、災狐からの自衛の為っていう訳か」
「お願いできますでしょうか?」
 懇願するような少女の視線に、代官は目を逸らしながら口を開く。
「……分かった。全員とは言わないが、住民に声をかけるとする」
 代官の協力があれば、住民達も速やかに集まる事だろう。
 歩き出した代官の背中に向かって、シルディが呟く。
「しかし、良いんですかねぇ。矢鳴文にもう自分達でやって行けると示さなくても」
 その台詞に代官は振り返ったが、シルディは何も答えなかった。
 この手の結論は自ら出さないと納得しないからだ。
「わたしは炊き出しの準備に入ります」
 その脇を袖を捲りながらメトロノームが進む。
 昔から腹が減っては戦はできぬと言う。しっかりと腹を満たせば士気にも影響するはずだ。
 代官とメトロノームの二人の姿を眺めてからシルディは口元を閉じると空を仰ぐ。
 そして、遠くなった記憶を手繰り寄せて思うのであった、
(あの時、あの場所で出来たなら、僕は迷わず堕落者になります。後に倒されるとしても大切な存在は守れるから……)

●住民
 代官に集められた住民達はかなりの人数だった。
「災狐という歪虚の配下が、十鳥城を狙っています。なので、自衛の為の技を皆で学ぼう!」
 そんなミィリア(ka2689)の呼び掛けに何人かが声をあげる。
「今更だよな。支配者が変わっても。先に死ぬか、後で死ぬかだ」
 悲観的な住民の言葉に他の住民も暗い表情になる。
「矢嗚文さんは確かに堕落者になってしまったけれど。この町を、住民達を助ける為だったんじゃないかな?」
 歪虚に周囲を囲まれた状態では他に手の施しようはなかったかもしれない。
「自分が支配を続けることで守りながら、武闘会なんて仕組みをつくって……自分を倒せるような……この町を、住民を託すに値するような人を待っていた」
 住民達は静まりかえり、ただ彼女の言葉に耳を傾けている。
「皆もいつか必ず、そう希望を抱いたからこそ、世代をも超える長い長い間諦めず頑張って来た。違うかな?」
 矢嗚文が堕落者となった時期は明確には分からない。
 この場に集まった世代よりも上の世代達が始まりだっただろう。
 その人達は精一杯、希望を持って生きながらえてきた。だからこそ、今の世代が居るのだから。
「死んだ親父は城主の事の話題になると楽しそうだったな……」
「うちの祖母もだよ」
 住民達の中からそんな話しがチラホラと出てくる。
「でもよ、勝てるのか? あの城主に?」
 良い流れが止まりかけたその時、ミィリアがどんと足を踏み込んだ。
「ミィリア達が、絶対に終わりの見えなかったこの戦いを、苦しい現状を断ち切るから!」
 暖かい南風が突風のように吹き抜け、彼女の桜色の髪が揺れた。
「だから、皆も一緒に最期の戦いを! これからの明るい未来の為に、皆の力を貸してほしい!!」
 その力強さに住民達は一斉に拳を上げたのだった。

 その後、炊き出しの準備と並行して簡易的であるが戦闘訓練などが行われた。
 短期間に技を教えても身に付かないのは分かっているので、個人武芸よりも集団戦を想定させた。
 即席ではあるが、槍の穂先を揃えて構えるだけでも相手にとっては脅威となるはずだ。
「これを、槍衾と言います」
 一通りの構えの訓練を終えた所で、レオンは様子を見に来た蒼人に呼び掛ける。
「蒼人様は、武家の出ということですので、辺境の私より集団戦には明るいかと思いまして」
「いや、その、私は、個人芸だから、実は集団戦、良く分からないのだ」
 せっかくここまでお膳立てしたのに、この男は空気も読めないみたいだ。
 なのでレオンは真顔で言い放ったのだった。
「……分かりました。それでは、せめて、槍衾の的でお願いします」

 一方、ミィリアは女性や老人、子供達に応急手当の仕方を指導していた。
 まともに戦える大人は限られているので、少しでも怪我を抑える事ができれば、継続して戦えるはずだし、なにより、全員一丸でという意識にも繋がる。
「これを、こうして……で、ござるよ」
 止血する箇所を丁寧に説明していった。

 その頃、炊き出しの方も順調に準備が進んでいた。
 メトロノームが中心となり、手際良く作業を進めていたからだ。
 代官にも協力をお願いし、人手や薪集め、釜の用意、食材の調理等行う事は多い。
「広場ではなく、闇市場というのがなんとも代官さんらしいです」
 もっとも、食材のほとんどはハンターオフィスやハンター達が持ち込んだ分ではあるのだが。
「この材料なら雑煮が良さそう……この町の伝統的な雑煮について詳しいをお願いできますか?」
 代官にお願いすると、酒を仰ぎながら片手を上げてフラフラと立ち去っていく。
「代官さん、塩の追加をお願いします」
 立ち去っていく代官に向かって、持ち込んだ餅を刻んでいたシルディが声をかけた。
 その隣で住民に応急手当を教えた後、テントを組み立てていたミィリアは炊き出し準備様子を見て何度も頷いていた。
「団結といったらやっぱり鍋物だよね! 」
 全員でなにかを一緒に作り上げるというのはそれだけで意識が変わる場合もある。
「メトロノーム様はこの後、歌と踊りを?」
 住民達への戦闘訓練を蒼人に任せ、手伝いにやってきたレオンの呼び掛けに少女は頷く。
「はい。季節が巡るように、この町を取り巻く情勢も変わっていくのだと……少しでも、希望を伝えたいです」
 そこへ廃墟街へと足を運んでいた星輝が帰って来た。
「面白そうじゃのう。わしも舞わせてもらうのじゃ」
「義姉上、お帰りなさい。いかがでしたか?」
「うむ。そこそこ情報は手に入れたのじゃ。まぁ、詳しい話しは後でいいじゃろう」
 視線は炊き出しの料理と――酒に向けられていたのであった。

●邂逅
 広場と言うのに誰も居ない。静かな広場だった。
「ハンターか。何の用だ?」
 城主である矢嗚文 熊信が広場にやってきたシェルミア・クリスティア(ka5955)に声を掛けた。
 禍々しい甲冑姿の好青年は、風で乱れる黒髪を気にした様子もなく、シェルミアに視線を向けている。
「貴方は『わたし達を待っていた』とそう言った。その言葉の意味を知りたくて……」
 それだけではない。彼を知りたいと思った。
 知らなかった事で、なにか後悔をするような事にはなりたくない。
「この『契約』に勝る事ができる強者を待ち望んでいるのだからな」
「どうして、そこまで『強者』に拘るのかな? ……貴方より強くなければ後を託せないから?」
 『契約』に彼が拘るのか、支配者でいるつもりなのか、強者を求めるのか。民の事をどう思っているのか。
 疑問は山ほどある。多くの事を知りたいとシェルミアは思った。
「堕落者とはよく言ったものだ。この沸き上がる衝動は、堕落者でないと説明ができないだろう」
 グッと拳を強く握る矢嗚文。
 まるで、なにかに耐えているかのようにも見える。
「『我は十鳥城を支配したまま歪虚の軍門に下る。我よりも強者に支配を譲る』。これが、我が堕落者になる為に歪虚と交わした内容だ」
 歪虚から見えれば攻めあぐねる人類の拠点を労せず奪える契約だっただろう。
「堕落者となった我に真っ先に歪虚が襲いかかってきた。だが、我は勝った」
「貴方が契約を守るのも、貴方が此処を包囲する歪虚達を倒しても意味がないから?」
 その質問に矢嗚文は篭手を外すと、スッと手をシェルミアに差し出した。
 怪訝に思いつつ、その手にシェルミアは握った。
「冷たい……」
 体温はまったく感じられない。死体の冷たさだ。
「堕落者は歪虚だ。どこまで行っても永遠に」
 謎掛けの様な返答だとシェルミアは感じた。
 矢嗚文は返答内容を選んで言葉を口にしている様に思える。
「久々に、人の温もりを感じた……人とは、こんなにも暖かいのだな……」
 矢嗚文の手がサッと離れた。
「わたしは、仮に貴方に勝ったとしても、此処の支配権なんて要らない」
「どうするかは勝者が決めるもの」
 踵を返して立ち去る矢嗚文が、数歩進んだ所で振り返った。
「名を訊いていなかった」
「シェルミア・クリスティアです」
「響きの良い名前だ……願わくば、シェルミアとお前の仲間達に勝利を」
 優しげな瞳を向けながら、矢嗚文は再び城へと向けて歩き出したのであった。


 最終話へ続く――

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    ミィリアka2689
  • 命を刃に
    レオン・イスルギka3168

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参加者一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • おっとり紳士
    シルディ(ka2939
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問の卓
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/03/15 17:02:36
アイコン 相談卓です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/03/17 22:52:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/14 20:02:45