• 審判

【審判】【刻令】トライアングル・ゲーム

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/25 07:30
完成日
2016/04/02 04:29

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●???
 いかにも柄の悪そうな男が犬を蹴り上げた。
「おら、邪魔だぞ!」
 蹴られた犬は地面を転がると、弱々しく鳴いた。
 老女が慌てて、その犬に駆け寄り――大事そうに抱きかかえる。
「あんたは、なにをするんだい!」
「うるせぇ、ばばぁ! それはこっちの台詞だ!」
 男は老女の孫であった。
 決して広いとは言えない農地を持っていた老女だったが、放蕩な孫に見かねて、農地の権利書を隠したのだ。
 孫はそれが気に入らなかったのだ。普段から説教臭い老女にもともと苛立っていたのもある。
「権利書をどこやった!」
「し、死んでも、あんたみたいな子にゃ、教えないよ!」
「んじゃ、死ねよ! ばばぁ!」
 犬ごと老女を渾身の力で蹴り飛ばした。
 畑の隅まで転がると、老女は動かなくなった。

 冷たい雨が全身を濡らした。
 ‘それ’が目を覚ました時、主人である老女の身体は冷え切って動かなくなっていた。
「きゅ~ん、きゅ~ん」
 必死で顔を舐めまわすが、反応はない。
 優しくて温かい微笑みをいつも返してくれる主人は、ピクリともしない。
 それが、なにを意味するのか、‘それ’は本能的に理解した。

 悲しみが雨と共に流れ、怒りが内側から溢れだす。
 真っ黒な空を見上げ――‘それ’は大きく吠えた。

 帝国領から戻る歪虚ネル・ベルは王国領内でテスカ教団の巡礼者が通過した小さい集落に通りがかった。
 集落は巡礼者という名の歪虚によって壊滅し、新たな巡礼者を得て、なおも移動している。
「……畜生か」
 畑の隅で老女の遺体の傍に居た犬と目が合った。
 今にも死にそうな程、弱々しい。だが、瞳に宿る力は強かった。老女と犬、交互に視線を向けた。
「畜生よ、この私と来るか? 復讐の手助け位はしてやるぞ」
 と、犬に向かってネル・ベルは言った。
 しばしの静寂の後、鼻を鳴らしてネル・ベルは歩き出した。畜生が人の言葉を理解するとは思えない。

 だが……

 ふと、気配を感じて振り返ったネル・ベル。
 彼の後を着いてくるように、犬は弱々しく歩きだしていた。

●フレッサ領のとある村の近く
「人としては長く生きてきたと自認していましたが、これは初めて見ますのぉ」
 歪虚ネル・ベルの従者であるオキナは困ったような表情を主である歪虚と、‘それ’に向けていた。
 ‘それ’は歪虚だった。雑魔ではない。契約を結んだ堕落者ともいうべきかもしれない。とにかく、異常というか、特別というか、レアケースだろう。
「コノ人間、悪イ人間?」
 ‘それ’が片言で言葉を発した。
 パッと見、人の姿をしている。胴体や四肢は人のそれに近いだろう。だが、腰周りや二の腕から先、脛から先は犬のそれであった。
 顔も人間らしいが、頭はふわふわの黄土色の髪から、ピョンとした耳が飛び出ている。極め付けは、お尻のあたりからもふもふの尻尾がふりふりしている。
「この爺は、私の従者だ。つまり、貴様の先輩という存在だな」
「フーン」
 興味無さそうに言うと、尻尾をぶんぶんとしながら主であるネル・ベルにしがみ付いた。
「テスカ教団の巡礼集団がフレッサの領内に近付いています」
 気を取り直してオキナはネル・ベルに報告した。
 巡礼路を通りながら、自分たちに都合の悪い人々を見つけると襲いかかっていくのだ。運悪く遭遇した被害者は、新たな巡礼者として集団に加わっていくので、規模が膨らんでいく。
「捨てて置けんな。あの領主にはまだまだ利用価値があるのだ」
「……分かりました。領主に伝えてきます」
 害を成すのであれば、誰であろうと粉砕するのみ。
「タイミングは任せるが……まぁ、最悪、損害が無ければ構わぬ」
「御意……。それと、これを」
 オキナが懐から古びた地図を取りだすと、歪虚に渡した。
「恐らく、大峡谷の一部の地図だと思いますが、『聖火の氷』に関連するかもしれないので」
「……ふむ。引き続き、情報を集めておけ」
 そう命令すると、ネル・ベルは‘それ’を伴って出口に向かう。
 その後ろ姿を見てオキナは感じとった。
(以前よりも、強くなったような、そんな気がするのう……)

●フレッサ領内を通る巡礼路にて
 純白の翼を広げ、天使を想像させる者が両手を広げながら歩いている。
 天使の背後には多くの巡礼者が着いて歩いていた。
「さぁ、迷う事はありません。我々は、このまま行進すればいいのです。さすれば、我々は安寧へと導かれるのです」
 巡礼者からは返事は無い。
 当然だ。天使の後ろを行く巡礼者達は、死んでいるのだから。
「おや、我々の逝く道を塞ぐのは誰ぞ」
 天使の眼前には、幾何学模様が美しい角を持つ歪虚と、犬でも人でもない‘それ’が道を塞いでいた。
 行進を止めた天使の両脇を白灰色した2頭の狼が並ぶ。その背後には十数人にもなる死人の群れ。
「ここから先には進めない。迂回するのだな」
「それは、いけません! 貴方こそ、偉大なるベリト様に盾突くおつもりですか?」
 どこかで聞いた名だとネル・ベルは思ったが、記憶の糸を辿るのを止めた。
「……知らんな」
「なら、押し通すのみです。貴方のような悪魔は、この私めが退治致しましょう」
「悪魔だと? ふん。こっちの台詞だ」
 ネル・ベルは気合いの声を上げると背中から白銀の翼を生やす。
 両腕は同色の龍鱗のようなもので包まれる。
「コイツ等、主ノ敵。ワタシ、戦ウ」
 ‘それ’が口を広げて牙を剥きだした。

リプレイ本文

●歪虚ネル・ベル
「今回は共闘ですね。ノゾミちゃんに代わって助けてあげますよ」
 風が吹き抜けて乱れた美しい金色の髪を、片手で軽く抑えながらUisca Amhran(ka0754)が歪虚に話しかけた。
 『あの領主』とは、今回の依頼を出してきた依頼主であるフレッサ領主の事である。
 歪虚ネル・ベルとの繋がりがあるとUisca自身は知っていた。
 キッカケとなった事件には、Uiscaだけではなく、十色 エニア(ka0370)と星輝 Amhran(ka0724)も一緒だった。
「あれは……ネル……ネル、ねるね?」
「お菓子みたいな名前じゃが、ネル・ベルが正しいのぉ」
 首を傾げたエニアに律儀に応える星輝。
 その歪虚に突き刺された胸の疵が疼いた。
 怪訝な表情を浮かべつつ、米本 剛(ka0320)は、一行の盾になるかの如く体躯を前に進める。
「厄介者の排除に出張って来たら更に厄介な状況に……」
 テスカ教団と思われる集団に対峙しているのは、見知った歪虚だったからだ。
「またですか、また首突っ込んでるんですか……ネル・ベルさん」
 こういう時は碌な事が起きないのは直感的に分かっていた。
 油断ならない相手なのは確かである。
「……歪虚と歪虚が戦ってる?」
 覚醒状態に入って金色に変化した双眸でこの状況を観て、アメリア・フォーサイス(ka4111)が驚いていた。
「片方は資料で読んだ事のある顔……ネル・ベルだったかな」
 十三魔という訳ではないが、王国内で潜伏してはなにか事件を引き起こす歪虚だ。
 歪虚同士が戦っているというのは、なにか勘繰りたくなる事象だ。属する派閥が違うのか、それとも個人的な理由なのか……巡礼者の行く先に何かあるのか。行かれるとまずいから止めているのか……。
 機会があれば、問いかけてみようと思った所で、ぶすっとした表情のバリトン(ka5112)が並ぶ。
「わしは、比較的『温厚』じゃ……なっとらん輩への教育指導や仕事対象に感しては別だが」
 グッと大剣を持つ手に力が籠る。
「じゃが、テスカ教、やつらはわしの仲間――一時の共闘だったとはいえ――を殺すという逆鱗に触れおった」
 怒り視線は天使の姿をしている歪虚に向けられていた。
 全身から溢れる覇気に仲間達が気付き、自然と道をあける。
「確実に完全に潰す」
 そして、バリトンが大剣を上段に構えたまま駆け出した。
 気配を感じたのか振り返ったネル・ベルに対し、星輝が声をかける。
「ネル殿、露払いは任された。そこのワンコを借りるぞや? イヌ科同士、戦い方も心得ておるじゃろうしの?」
「また、貴様らか……まぁ、いい。ネオピアよ。そこの人間ら共と戦っておれ」
 うっすらと口元を緩め、ネル・ベルは“それ”に命令した。
 “それ”は不満そうな表情を浮かべる。
「ワカッタ」
 片言で返事をすると跳びかかる様に天使の脇に控える白灰狼へと向かっていく。
「まぁ、背後関係とか裏の意図とかは解りませんがね……しかし…それは彼方にしても同じ意見なのでしょうがな」
 ともかく、仲間達を守り、目の前の敵を粉砕すればいい。
 “それ”続く剛の背中に突如として美しい妖精の羽根が出現した。こうなると、エンジェル☆剛である。
「なぁ!? また、ですか! エニアさん!?」
「パッと見、天使っぽいのが2体いるから、つい……」
 慌てる筋肉質の大男――剛――に一瞬、視線を向けるネル・ベル。
「……視界に入るなよ」
「自分は全員の視界に入りたくないです……」
 そんな仲間達のやり取りを見ながら、アメリアは漆黒のライフルを構えた。
 テスカ教団の天使と巡礼者の集団。そして、歪虚ネル・ベルとその配下。
 事態は混乱を極めているが、自然とリラックスできるのは、この仲間達のおかげだろう。
 そして、否応なく戦闘が始まった。

●共闘
 強大無比なバリトンの一撃が振り下ろされる。
 それを天使は苦もなく剣で受け止めた――が、一気に押し切るバリトン。スッと天使が後方に避ける。
 その様子に歪虚ネル・ベルは感嘆の声を上げた。
「ほう。爺の割りにはよく動くな。人間は爺になると一筋縄ではいかなくなるのか?」
「爺の人間に知り合いが居そうな発言じゃの」
 余計な質問をしたかと歪虚はニヤリとすると、天使に向かって火球を投げつけた。
 爆発の中、天使からは反撃とばかりに光の矢を射出した。それは、バリトンと歪虚の頭上から雨の如く襲いかかってくる。
 光の矢が降り注ぐ直前、背中を合わせるように並んだ歪虚にバリトンは言った。
「今回、おぬしに縁の多き者が多いようじゃから、おぬしの事は知らん。何より、アルトの獲物をとるわけにはいかん」
 祖父として、師として、この歪虚は孫娘が越えなくてはならない壁だと認識した。
「……貴様は後悔するぞ。あの時、この私を討っておけば良かったと、な」
 刹那、二手に分かれるバリトンと歪虚。
 地面に突き刺さって光の矢がぶしゅーと音を立てて地面に穴を開けていく中、円を意識した動きでバリトンは天使へと迫る。
「動きが見え見えじゃぞ」
 よほど出鱈目な能力を持っていなければ、武器の動きは見ていれば予想が付きやすい。
 大振りになった天使の剣の軌道を見切って、バリトンは反撃の一撃を入れるのであった。

●巡礼者
 数十人の巡礼者集団を構成しているのは様々だ。テスカ教団の信者みたいのもいれば、村人のような者もいる。
 確かなのは、堕落者や雑魔化しているという所であり、浮浪者じみている事だ。
 数だけは無駄に多い。だからこそ、手早く片付けたいものだ。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせて! ブリザード!」
 エニアが魔法を放つと、巡礼者集団のど真ん中で氷の嵐が吹き荒れる。
 塵となって消える者、辛うじて残った者も動きが非常に緩慢。そうした巡礼者達が銃撃音と共に1体ずつ粉々に砕かれる。
 後方から射撃を繰り返すアメリアによるものだ。
「映画とかだと、脊髄や脳を破壊されたゾンビは二度目の死を迎える事が多いですが、あなたたちはどうでしょうか」
 わざわざ確認するまでもない。
 彼女の強力な一撃を受けた巡礼者は粉々に消え去っていくからだ。
 更にハンター達の攻勢は続く。短杖と盾を構え、前線に立つUiscaが敵集団の真ん中でスキルを放つ。
「……無限に広がる星の海へ昇り、遍く照らせ、【龍閃光】白龍閃光散華!」
 翡翠色の光の龍と共に発した波動が周囲に衝撃となって広がる。
 ボロボロと一角が塵となって集団の列に穴が開く。
「聖なる力と炎と氷で、塵になりなさい」
 次に迫る巡礼者集団に向かって炎球を投げつけるエニア。
 アメリアもマテリアルを込めた射撃で広範囲に対し弾丸の雨を降らせる。
「あれは……フレッサ領の私兵でしょうか」
 弾をリロードしつつ、周囲を警戒していた彼女が真っ先に気がついた。
 数騎、揃えられた装備で横一列にランスを構えて駆けてくるのだ。
「残りは我々にお任せ下さい! ハンターの皆さん」
 フレッサ領の私兵は巡礼者集団を背後から突き崩した。
 数も激減しており、殲滅は時間の問題だろう。ハンター達は天使へと向かった。

●白灰狼
 注意深く何度も観察する。
 あの腰つき、左右に揺れるもふもふの尻尾……。
「ワンコやお主、名はなんという? ワシもネル殿とは幾度か共に戦った身。いわば、ワンコからすれば先輩じゃな。ここは、お互い、知り合っておくべきじゃろ♪」
 わざとらしく可愛げに訊ねる星輝に向かって、面倒くさく振り返った“それ”が口を開いた。
「ネオピア」
「ワシは星輝じゃ。ところで、翁のジジイは壮健じゃろうか? 主に、何ぞ小間使いさせられとったか?」
 挨拶がてらしれっとなにか情報を引き出そうと狙う星輝。さすが策士。
「今ハ戦闘中ダ」
 ばっさりと切り捨てられた。取りつく島もないとはこの事か。
 そして、白灰狼の一匹に向かって無造作ともいえる動きで跳びかかる。
「なかなか、俊敏です」
 剛が別の1体に対し正面から挑んでいる。
 素早い動きの白灰狼に対して剛はどっしりと構えていた。状況をみて多様なスキルを放つ。
 殲滅力には欠けているかもしれないが、壁役としては十二分以上に役目を果たしているだろう。
「いざとなれば、身体を張ってでもと思いましたが、これなら大丈夫そうですね」
「まだ、本気でいくでないぞ、ヨネ」
 白灰狼の脚に一撃を入れた星輝が応える。
 視線だけはネオピアに向けていた。あの歪虚の従者なのだろうから、いつか戦う場合もあり得る。
 今のうち、少しでも情報を収集したいと思っているからだ。
「狼ノ癖ニ邪魔」
 星輝の狙い通り、ネオピアが力の片鱗を見せた。
 全身が黄土色の毛に包まれたと思った瞬間、大きい犬のような姿に変身したのだ。
「おぉ! 幻獣イェジドよりも少し大きいかもしれません」
「ほれ、ワシの読み通りじゃ」
 その姿に感嘆とする二人の目の前で巨大な柴犬を連想させるネオピアが素早い動きで白灰狼を抑え込むと、首元にガブリと噛みついた。
「こちらもサクッと片付けるかの」
「ですね」
 剛の体躯を死角にさせ、太刀を構えて飛びだした星輝が目にも止まらぬ動きで白灰狼を斬りつける。
 突然の事に驚き、動きが一瞬止まった所に、剛が畳み掛ける様に刀を繰り出し、白灰狼を倒した。

●天使討伐
 一進一退の戦いが続けられる所にハンター達が集合した。
「いつか分かり合えて、真に共闘できる時がくるといいんですけど……」
 Uiscaの言葉に興味無さそうに歪虚は答える。
「私は人間と言うものを知り尽くしているつもりではいるがな」
「天使さんって傲慢の歪虚ではないです? イケメンさん、同士討ちして、上の人に怒られたりしないんですか?」
 天使の持つ翼と歪虚の持つ翼が似ているような……気がしないでもない。
「知らんな」
 素っ気なく応えた歪虚。
「天使や巡礼者の行き先になにか困るものがあるのでしょうか?」
 射撃で援護しながらアメリアも訊ねる。
 巡礼路はフレッサ領内を通過しているだけで、歪虚に関するなにかがあるとは思えない。
「知らんな」
 やはり、味気ない返事。
 誤魔化されている気がしないでもないが、とにかく、今は目の前の天使もどきに意識を戻す。
「気を付けるのだぞ。見た目以上にパワーがあるからのう」
 バリトンが応援に駆け付けた仲間達に声をかける。
 天使はひ弱そうにも見えるが恐るべき敵だ。
「分かりました。ここは壁に徹しましょう」
 助言を受けて剛が慎重に前に進む――その背中に再び翼のようなものが付与された。
「って、またですか、エニアさん!?」
「いや、ほら、お約束だし?」
 見るからに神々しい姿の天使もどきに、イケメンの歪虚……そして、ガタイの良い体格の剛。
 3人共、背中から翼を生やしているようだが、どうしても剛が1人『浮いている』ように見えるのは仕方ない事。ちなみに天使もどきの方は文字通り『浮いている』のだが。
「まったく、遊んでからに」
 と言いながら楽しそうな表情を湛えて星輝がワイヤーを準備しながら仲間達に呼び掛ける。
 宙に浮いた天使をどうやって地面に押さえつけるか考えようとした時だった。
「人間共めが!」
 天使が叫ぶと突然、眩い光の炎の包まれながら、弾丸のように突撃してきた。
 咄嗟にバリトンが大剣を構えたが吹き飛ばされる。だが、それで、随分と威力は落ちたはずだ。
 その場に集合したハンター達に次々に襲いかかる天使。
「二撃目を!?」
 Uiscaが驚いた。一通り抜けた後、再度向かってきたからだ。
 避けるべきか回復魔法を使うべきかで一瞬迷って動きが止まった所を天使が見逃す事はない。
「イケメンさん!?」
「貴様は、島に連れて帰るつもりだからな」
 歪虚が庇う様に割って入って来た。
 だが、次の瞬間、その空間に『少女の声』が響いた――天使もどきの攻撃は当たらず駆け抜ける。
「今の声は……」
 聞いた事がある声だと星輝は思った。
 だが、声の主を推測している場合ではない。
「好き勝手に飛び回れると思ったら大間違いです」
 マテリアルを込めて放ったアメリアの一撃は弾丸と化した天使を直撃した。
 ちょうど剛に飛び込もうとした手前の事であり、鈍くなった天使を剛が身体を張って止める。
「行かせませんよ!」
 ガシっと力強く全身を使って受け止める剛。
 彼の背中に付与された翼が、バサァ! と広がった様子を観てエニアが呟く。
「エンジェル☆パワー」
「エニアさん!?」
 動きが止まった所でバリトンが大剣を大上段に構えた。
「これで、しまいじゃぁぁぁ!」
 まるで雷でも落ちたかの様な咆哮と共に振り下ろされた大剣。
 天使は両断されると、粉々に消え去ってしまったのだった。

●陰謀
 天使もどきを倒し、巨大な柴犬姿のネオピアがUiscaに近付いた。
「ズルイ」
 恐らくネル・ベルに守って貰った様に見えたのだろう。
「き、気のせいだよ!」
 と言いながら、敵意がない事を表す為、ガシっともふもふとした身体に抱きついた。
 負のマテリアルが強く感じられる。この犬っ子は既に歪虚と化しているのだろう。
 その様子に羨ましそうな視線を一瞬向けて星輝が歪虚に声をかける。
「オヌシがわざわざ出張ると……なにか、また裏で企みでも有るのじゃろう?」
 警戒しているのは剛もエニアも同様だった。
 特に、天使の持つ力を歪虚が狙っているのではないかと……フレッサ領主と出逢った時と同じ様に……。
「その子は?」
 エニアが少しでもなにか話しを引き出そうとして“それ”に視線を向けた。
「この偉大なる私の従者、ネオピアだ。よく覚えておくといい」
 自信満々に言うと、ツカツカと近付いてネオピアの下顎を撫でた。
 無用心とも思えるが……視界内に動きがあって、そちらに注意を向けるアメリア。
「フレッサ領主の私兵の方も片がついたようですね」
「なにか、叫びながらこちらに向かってくるの」
 バリトンが眉を顰める。
 どうも戦闘状態は継続しているような勢いだ。無理も無い。歪虚はまだ『いる』のだから……。
「ネル・ベルさん?」
 不気味にニヤリと笑った歪虚の名を呼ぶ剛。
 嫌な予感がしたのは的中したと剛は思った。歪虚は大きな声でこう言ったのだ。
「ハンター達に加え、フレッサ領の兵士も、とは! ここは下がらせて貰おう!」
 次の瞬間、歪虚ネル・ベルとネオピアは瞬間移動してハンター達から離れた場所へと転移する。
 それを騎乗したまま追い掛けていくフレッサ領の騎兵達の姿をハンター達は見つめるしかできなかった。

 ハンター達は巡礼路上に現れたテスカ教団の天使と巡礼者集団を壊滅させる事に成功した。
 また、同時に現れた歪虚はフレッサ領の騎兵らが撃退したと表向きは認識される事となった。騎兵らが戦利品として持ち帰ってきた地図は貴族経由で軍師騎士という名の騎士に届く事になるのであるが、それはまた、別の話である。

 おしまい

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MVP一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • (強い)爺
    バリトンka5112

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/20 09:56:55
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/03/24 21:40:09
アイコン 華麗なる相談卓
ネル・ベル(kz0082
歪虚|22才|男性|歪虚(ヴォイド)
最終発言
2016/03/23 08:23:50