ボラ族、反逆者現る

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2016/03/27 07:30
完成日
2016/03/31 16:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

辺境では誰もが家族だった。
今日訪れた旅人ですら、兄弟であり親でありまた子供である。
大地ですらも大きな母と敬愛し、そのいただきものに感謝した。

 レイアはぽつりぽつりと幼子のウルと共に港町を歩いていた。
 春めいた陽気は過ごしやすく、散歩をするのには最適であったが、彼女の辺りは閑散としているばかりであった。
 この町が寂れている訳ではない。現にいくつも視線は背中に飛んでくるし、話声も時折耳には飛び込んでくるくらいには人はいるのだ。
 いないのは、自分の周りだけ。
「ここは、難しいところね」
 周りに隠れている人間には聞こえないようにレイアはそっとウルに語り掛けたが、ウルはそんな彼女を不思議そうに見返すばかりであった。
「きっとまた不幸を呼び込むわ」
「辺境民ってみんなあんな感じなのかしらね。歪虚に狙われているんじゃないかしら」
「知ってる? ボラ族って歪虚に追われて辺境の他の民族とも迎合しなかったんだって。きっと疫病神なのよ」
「そうよね。ここもボラ族が来て海賊が来たりとか、歪虚も絡んでいたらしいの」
 聞こえていないと思っているのだろうか。
 レイアはちらりとそちらに視線を向けると、話の主たる町の女共は恐れをなして逃げていく。
「かあか。うみ いこ」
 ウルはこちらを見上げると、しっかとした顔でそう言った。平時の自分と同じ顔をして。


 レイアはウルを遊ばせてぼんやりと町から随分と離れた海辺に座りこみ、ずっと静かな海を眺めていた。
 海は果てはないが、視線を遠くに北に寄せれば地続きの辺境が見える気がする。
 命に対して厳しい世界ではあったが、優しい世界でもあった。
 血を流し命を失う危険とは常に隣り合わせだ。夜中に狼の群れに囲まれないよう、地面に耳を付けて眠ることも普通だ。
 しかし血以外のものを失うことはなかった。仲間が、例え親兄弟が死んだとしてもその魂はずっと引き継ぐと思えていたから。
 ここは違う。血は流れない。だが、それ以外の全てが遠くにあるような気がする。
「遠い……」
 族長スィアリが死んで、母なる大地は北荻に呑まれて草木も生えなくなった。族長を引き継いだイグは大同の義を果たし、歪虚と戦うには手を取り合うべきと帝国に下ることを決意した。それが一石となったかはわからないが連合軍というものが成り立ち、歪虚に盛んに抵抗しているのだから決して悪いものではなかったのだろう。
 名もなき部族を率いた偉大なシバの功績に寄っててパシュパティ条約が結ばれ、辺境と帝国の関係も変わりつつある。
 その先駆けになったのだとすれば、イグの判断はきっと英断だ。
 だけど、無性に帰りたくなる。
「ここは、狭い……」
 誰にともなく呟いた言葉だった。
 だが、それに対して不意に返答が来たとき、レイアは臓腑が鷲掴みにされるような戦慄に襲われた。
「お ウ。北風ノ一族 ニ ココハ セマカロウ」
「!!!」
 振り向いたそこにいたのは鉄の塊だった。錆びついた鉄にはフジツボがつきまとい、原型を明らかに変じている。
 そしてそれとは対照的な鮮やかな紅の剣と、泣き叫ぶウルをそれぞれの手に持つ姿。
「レーヴァ!!」
 瞬間的に跳ね上がり、レイアは指輪の魔術発動体を手にしたが、それ以上何もできなかった。ウルに刃を突き付けられていてはいくら情け容赦を知らぬ女戦士と呼ばれる身であっても。
 それはレーヴァと呼ばれる歪虚だとレイアは知っていた。忘れるはずもない。
 辺境を荒らした悪魔だ。
 こいつのせいで辺境の大地は恵みを失い。スィアリは変わり果てた姿になり、故郷を追い出され。
 この帝国に来てから出会った海賊のノト族を皆殺しにし。
 そして。
 仲間と共に、先日討ち取ったのだから。
 何故生きている? 私はどうすればいい?
 思考がハテナばかりでぐちゃぐちゃに埋まる中、遠い故郷に想いふけり、風の囁きに気付かなかった自分を心底後悔した。
「放しなさい!」
「ナラ コノ童ト 同量ノ血ヲ サシダセ」
 ギンギンと金属的な音を響かせた後、レーヴァは腰元につけていたもう一振りの小さな短剣をレイアの足元に放り投げた。その短剣も砂浜に埋もれてなお気味悪い黒金のままだ。
「血ヲナガセ。 解放サレルゾ」
 囁くようにそいつは言った。
 自分の心を見透かすように。己の欲求を震わせるように。
「偽善ヲ 生贄ニシテ トリモドセ」


「おぁぁぁ、腹減ったぞ。飯。飯!!」
 ボラ族のゾールはハンマーを振るうのを止め、手ぬぐいの鉢巻きを取り払うとそう叫んだ。一際野太く大きな声は鉄火の響く鍛冶場全体に轟き渡ると、仲間達も次々と手を止めて伸びをしたり、汗をふき取ったりした。
 今日はもうすぐハンターが遊びに来るのもあり、いつも以上に作業に熱がこもっていた。
「んあ、レイアとロッカはどこだ?」
「ロッカは細工部屋で船の内装の作業だ。ハンターに見せるんだとさ。レイアはウルを連れて散歩したんじゃないか」
 今日の食事準備担当の二人がいないことにゾールはむっとした。
 彼は人一倍働き、人の三倍の力を出す。その為には人の五倍の飯を食べければならないのだ。何よりも楽しみな飯がないということは大いに大問題なのだ。苛立つ彼は颯爽と立ち上がり、自らの嫁であるレイアの姿を探し、そしてそれはすぐに見つけた。
 彼女はゆっくりと鍛冶場の敷居をまたいでいた。
「レイア。飯っ。ンまい飯どこだ? いつもすぐ用意してくれるのに珍しいな」
「……クセに」
 ゾールのいつもの豪放な微笑みに対して、レイアはぼそりと呟いた。
「レイア?」
「一族の誇りを忘れたクセにっ!!」
 ゾールの腹部に燃え盛るような痛みと、冷たさが同時に襲い掛かる。
 レイアは気迫と共にそれを捻じり弧を描くようにして引き抜いた。腹膜をえぐられたゾールは派手に中に収まっていたものをさらしながらも、目の前の紅の刃を見て、口をパクパクとさせるばかりであった。
 慌てて部屋から飛び出してきたロッカがその刃に愕然とした叫んだ。
「それ、レーヴァの……魔剣?」
 そんなロッカの言葉にもレイアはきつく睨みつけると叫び、剣の切っ先を向けた。
「お前らなど、ボラの名を穢す反逆者だ。その血を捧げてボラの誇りを取り戻させてもらう!」
 返り血なのか。
 レイアの頬を真っ赤なものが伝わせながら、鍛冶場の中を駆けはじめた。

リプレイ本文

「俺達の歓迎の準備……って感じじゃなさそうだな」
 鍛冶場から漏れ出てくる悲鳴と血だまりを見たヴァイス(ka0364)は仲間を振り返った。彼がボラ族に顔合わせをするのは初めてだ。しかし他の何人もが顔見知りだと聞いていたが、その誰もが鍛冶場の様子に不審な顔をしていた。
「歓迎で乱闘騒ぎするくらいの気骨のある連中であることは間違いないがねえ、いかんせん血生臭いのはまずかろう」
 エアルドフリス(ka1856)はパイプを外してふっと濃い煙を吐き出すと、しとどに濡れる金髪の向こうから灰色の瞳を覗かせた。
 周りではいったい何事かと町の住人たちが鍛冶場の様子を窺っている。過日は乱闘騒ぎに、先日は歪虚と戦うと言って雄叫びを上げていたのだ。住人の顔色が強張っているのはありありと見て取ることができた。
「怪我人がいるなら早く治療しませんと。覚醒者も多いと聞いていますから、気を付けて……でよろしいですね?」
 全員の様子をじっと見ていた柏木 秋子(ka4394)はおかっぱの髪を軽く揺らして、仲間の顔を確認した。凛とした瞳には仲間が見せる戸惑いや様子を推察しようとする気配はなく、それを律する強い力で満たす。
「秋子の言う通りね。もう毎度テマかけさせるんだから! アーシュラ。ボラ族の風紀矯正は急務よ。ちゃんと話し合いで解決できるようしないと、いいわねっ」
「はい……」
 覚醒して魔法の準備を始める七夜・真夕(ka3977)にアーシュラ・クリオール(ka0226)は首をすくませた。アーシュラもボラ族の一員。そして悪ノリしてきた一人なのだから。連帯責任は免れない。
 それぞれが鍛冶場に向かって走り始める中、ユリアン(ka1664)だけが違う方向、海に顔を向けていた。
 師匠であるエアルドフリスの問いかけにも彼は鍛冶場に視線を戻すことはなかった。
「時化の匂いがする……。ごめん師匠。俺、ちょっと別のところに行きたいんだ」
 少し、不安だった。こんな時に何を言うんだ。と言われないかと。
 だが、師匠は軽くユリアンの肩を叩いてくれた。
「お前さんの『風』の力はよくよく知っているよ。お前が信じる道を行けばいい。ただあまり無茶はしちゃあならんぞ」
「……ありがとう」
 そんなエアルドフリスの手にユリアンは感謝の念を込めてタッチするとユリアンはすぐに海へ続く道を走っていた。

 血と錆びた鉄の臭い。感じたことのある匂いだ。
「陰湿で、邪悪で……見た目よりずっと狡知だ。鍛冶場の一件もそうなんだろう。お前が……巻き起こした嵐だよな」
 続く砂浜の向こうで、幼子が泣きつかれて喉を枯らせる息遣いが聞こえる。そして海からうち上げられて腐った藻のような臭い。鉄錆と血の混ざる臭い。
 ユリアンは板場から跳躍するとそのまま大弓イチイバルを引き絞った。
 邪悪な鉄の鎧は幼子のウルを抱いてはいたが、刃は下を向けたままだった。機会はそうあるまい。
「レーヴァ!!!!」
 イチイバルの矢が肩を叩き壊し、ウルが解放された。
 レーヴァはゆらりと動き、ウルに刃を向けようとした瞬間。
「くたばれ」
 颶風と金色の光が突き抜けたかと思うと、生まれたレーヴァの鎧の裂け目からユリアンの鋭い眼光と刃が光っていた。


「邪魔をしないで」
 敷居をまたいだ瞬間にレイアは鋭くハンターにそう叫んだ。返り血を浴びた彼女の姿は凄惨としか言いようがなく、ハンター達も一瞬思わず息を飲んだ。
 鍛冶場の熱風と共に血生臭い香りが鼻を衝く。
「こりゃあ正気の沙汰じゃないね。何があったかわからんがとりあえず取り押さえるしかあるまい」
「レイア……あなた、あなた何してるのよ!」
 真夕が青い顔をして叫ぶものの、返ってきたのは吹雪の嵐だった。みるみる足元が凍り付き、強烈な凍風は熱気にふやけた皮膚を切り裂きめくれあげさせる。
「ウルのため、ボラ族のためよ……邪魔するなら容赦しない」
「ウル……? ウルくん。どうしたの?」
「話は後だ。イグの旦那、ちょっと協力させてもらうぜ」
 アーシュラがブリザードの中で問いかけようとするのを声で制止すると、ヴァイスは覚醒の炎を身にまとうと槍を翻して一気に走るが、突如そそり立つ地面によって阻まれようとした。
「大地よ。叫びに応えよっ」
「それで阻めるものじゃ、ないっ」
 ヴァイスは槍柄を地面に押し込むと、走りこむ勢いをつけて一気に跳びあがり、せり上がる土壁の上を飛翔してそのままレイアに圧し掛かる。
「女性に暴力振るうのは少々気が引けるが……」
「気が引けるなら、戦士は止めとくべきね」
 レイアがぼそりと囁いた瞬間、ヴァイスの視界が一瞬衝撃で真っ白になった。頭突きだ。
 その浮いた顎を目がけて拘束の解けた脚が飛び、ヴァイスは吹き飛ばされた。
「魔術師ってみんな接近戦強いね」
「冗談止めてよ。あんな芸当普通やらないわよ! レイアっ。仲間を傷つけてウルのため、ボラ族のため? 何ふざけたこと言ってんのよ!」
 アーシュラの感想に沈黙する薬師をよそに、真夕は真っ向から否定してレイアに詰め寄った。
 だが、レイアは血にまみれた顔でそちらを見るだけで何も答えない。もう戻れない。鬼神のような表情にひそむ、血の泪に濡れた瞳は絶望の色をしていた。
 答えの代わりに飛んできたのは、全てを凍てつかせる凍えた風だ。
「わかった。望むとおりにしてあげる……巫女として」
 真夕は剣をゆっくり引き抜くと襲い掛かるブリザードを一喝と共に、真正面から切り払うと、強烈な凍気が輝く露となって消えていく。
「祓いたまえ。浄めたまえっ!!」
「それだけじゃない」
 切り裂き終わった真夕の目の前に既にレイアは短剣を振りかざして飛び込んでいた。カウンターマジックに集中していた真夕は剣を引き戻すのも叶わない。
 眼前に迫る短剣がスローモーションになって近づくのを見つめていたその時、雷光の影が真夕の視界を隔てた。
「目を覚ましてっ!!!」
 ディファレンスエンジンを全開にしたアーシュラがジェットブーツで飛び込み、そのまま煙管でレイアの手を強打し、短剣が土間の床に落ちる鈍い音が響いた。
「っ」
「ロッカ! ヤットコ!! こんな危ないモノ触れたくもないわっ」
「アーシュラねーちゃん。まだだよ!」
 ロッカの声にアーシュラははっとした。短剣は離れたがレイアの握り拳がアーシュラの腹部にめり込んでいる。
「燃え尽きよ!!」
 零距離からのファイアアローは真夕がカウンターマジックで打ち消す間もなく発動し、アーシュラとその背後にいた真夕がまとめて吹き飛ばされた。
「大丈夫ですかっ」
 秋子は重なり合って倒れる二人に声をかけた。といってもこちらはゾールの治療に傾注して、容易にそちらには向かえない。
「大丈夫……そっちは、どう?」
 アーシュラは焼けただれた腹部を見せないように服を直して問いかけ直した。
 秋子はゾールの飛び出た臓物を腹にしまいこんでいるところだった。手は真っ赤にそまり、羽織も血だらけになりながらも、まだ少女の面影を残した秋子は忌避も恐怖も浮かべず、強張った顔のまま腹部に手を入れる。
「生きて、生きて。貴方にはまだやることがある。まだ行かなくてはならない場所がある」
 再び溢れ出そうになるそれらをスカーフできつくしばり止めると秋子は呟くようにしてヒールを施し続けた。
 それがゾールへの言葉か、自分を強く持たせるための独白であるかは自分でもわからない。自然とこぼれ出るのはもしかすると自分の精霊からの言葉なのかもしれない。
 そんな秋子とゾールが軽く陰った。
 レイアが立っていた。再び短剣を持ち。
「どきなさい。私は誇りを取り戻さなくてはならない」
「レイアさん……詳しい事情は私は分かりませんが、族長も皆様も誇りを忘れたわけではないと思います。みんな断腸の想いでここまで来て、傷つきながらもこの道を選び、ここまで来たのではありませんか……? 誇りを失わないために、捨てないために」
 秋子はそう言って視線をレイアからその奥、ボラの人間達へと巡らせた。その視線の先にあるものをレイアも感じているようで動きが明らかに鈍くなる。
「……時の流れは川の如く。決して戻りも立ち止まりもできません。でも行く先にまた手を取り合って進めることもあります。貴女が恐れない限り」
 ヒールをいったん終えた秋子はすっくと立って、立ち止まるレイアと顔を合わせる。
 年上でもあり身長もずっと上のレイアだが、秋子には気持ちを制御できない子供のように見えた。
「あなたは、強いのね……その言葉をもう少し、もう一刻ほど早く聴ければ……違ってたかもしれない。でも私にはウルを取り戻す使命がある。その為に血が必要なの」
 レイアに親としての顔が戻るのを秋子は直感した。
 ウルという子がいて、その子を取り戻すために、彼女は暴挙に出ている。その原因はまだ取り除かれていない以上、彼女の凶行は止めようがないのは分かっていた。だが、それは狂行ではなくなっているのは秋子には見て取れた。
 秋子はゆっくり腕を開いて見せた。
「血が必要であれば、どうぞ」
 その一言に、レイアの頬を伝っていた乾いた血の跡が溶けた。頬を伝う雫によって洗われていく。
「……っ、すまない」
 刃を振り上げた瞬間、土壁が二人の間を隔て、振り上げる剣筋を紫煙がゆらりと絡みつく。
「そうか。これで合点がいった。ウルを人質に血を捧げよといったわけだね。アレは」
「どうしてそれを」
 核心をつかれてレイアは驚いた顔をして紫煙の主、エアルドフリスの顔を見た。
「果敢な友人との会話をふと思い立てしてね。あれも歪虚とよく首を突っ込んだものからね。色んな蛮行はそれなりに見ている。ひたすらに残酷な悪戯をしかける剣妃オルクスのことや……暗躍して辺境を北荻に呑みこんだレーヴァ、などね。一時の激情は破壊しかもたらさんよ。レーヴァのやり口はいつだってそうだろう?」
 エアルドフリスの言葉にレイアは隠していた絶望を表に出して叫んだ。
「うるさいっ。分かっててもやらねばならないのよ!」
「お前さんにそう言わせるとはレーヴァは相当にお前さんのことを知り尽くしているようだね。見た目に反して知恵者なのかね、アレは。前族長のスィアリ様もきっと同じように嵌められたのではないのかね」
 その問いかけに返ってきたのはレイアの攻撃だった。それを用意していたアースウォールで阻むが、レイアは自分が最初に立てた土壁、そしてエアルドフリスが作った壁を利用し、跳ねるようにそのまま壁の上から飛びかかる。
「落ち着け。お前の口惜しさは、悲しさは、一人で抱えるもんじゃない。その為の仲間だろう?」
 壁の上にはヴァイスがいた。
 跳びあがってくるレイアの力を受け止め、その勢いを押し返してやる。相手の動きを制する理はヴァイスの幾戦の経験で流れを完全につかんでいた。それは一合組んだレイアであっても例外ではない。
 レイアは自らが上り詰めた勢いのまま再び壁の下へと落下するのをヴァイスは掴み、地面に衝突する衝撃と合わせてレイアの腕と肩を掴んで叩きつけた。肩の関節が外れる鈍い音がヴァイスに伝わる。
「うぁぁぁぁっ!!」
 レイアはそれでも短剣を口に咥えて襲い掛かろうとしたその時。
「円環の裡に万物は巡る。理の護り手にして旅人たる月、我が言霊を御身が雫と為し給え」
 エアルドフリスの円環成就弐式が完成した。


「ロッカ、そっとよ、そっと」
「しかし柏木にかけてもらったレジストの時間もあるしちゃっとしてしまおう」
「あー! もううるさいって。落としちゃったじゃないかぁ」
 アーシュラとヴァイスに囲まれて、魔剣を箱に丁重に入れようとするロッカが悲鳴を上げた。
「でも、これ。前に見た剣と形状違わなくない?」
「そうだね。前のはハンガーみたいな細身の曲刀だったと思うけど、どっちも直剣だ」
 ユリアンが倒したレーヴァの剣もレイアが持っていた剣も、邪悪な様相を漂わせ、血に染まって真っ赤に輝くという点は似通っていたが、いずれも記憶にある形とは似ていなかった。
「あー、もう封印なんていいじゃない。てやっ」
 アーシュラもイライラをぶつけるようにして落ちた魔剣を踏みつけると雷撃鞭を放った。
 するとあっさり折れたその魔剣からは吸い込んだであろう血がだくだくと溢れ出てくる。
「こ、これはなかなか奇奇怪怪だな。これマテリアル汚染とか大丈夫なのか?」
 広がる血だまりにヴァイスは後ずさり、ロッカも気持ち悪そうに折れた魔剣をヤットコで掴んだまま血だまりにつけて吸い込めないか試したりと、混沌とした状況である。
「ということはこれは前のレーヴァではなくて別のレーヴァ、と考えるべきかな」
「量産型歪虚とか考えたくないな……きっと製作者なり本体なりがどこかにいるんだろうが、なんともイヤな話だ」
 ユリアンの呟きにヴァイスはげんなりとしてボラ族のメンバーを見た。それほど強くはない歪虚とはいえ、それだけでも十分すぎる程の涙と血が流れたのだ。
 それを示すようにウルをレイアはしっかりと抱きしめ、その上から二人をイグがさらに抱きしめる。
「無事で良かった。二人とも、辛い思いをさせたな」
「レーヴァのことはこれからも考えねばならんだろうが、お前さん達の状況も、だな。俺は一人だったから余所に合わせる以外なかったが、集団だとそうもいかんしねぇ。ここは祭の一つでも開いたらどうだい」
「を、いいこと考えたね。信頼関係を築く何かがあった方がいいと思ってたんだ」
 エアルドフリスの提案にアーシュラはにっと笑って賛成の意を顕にした。重体のゾールやイグもいいかもしれないと頷く。
「誇りは誇りのまま。大切なものを持ったまま前に進めることは。私は素敵だと思います」
 秋子もアーシュラや真夕の怪我の傷を手当しながら、少しだけ微笑んだ。
 ずっと慙愧の念に囚われていたレイアはその秋子の小さな微笑みに、胸を抑えて小さく頷いた。

 歪虚は人の命も絆も奪いさる。だけど、もっとそれを乗り越えて強い力を手に入れることもできるのだ。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 柏木 秋子(ka4394
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 事態収拾に向けて【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/03/26 22:39:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/23 00:07:37