• 審判

【審判】騎士団長に捧げる行進曲

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/01 12:00
完成日
2016/04/06 09:45

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王都イルダーナ、夜。
 エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が職務の合間に外に出たときのことだった。

「エリオット! 私と勝負しろ!」

 ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が勝負を挑んできた。

「ヘザーか」
 いつもの事だった。このヘザーは『王女殿下の剣』であるエリオットの立場にライバル心を燃やしており、日頃からこうして勝負を挑んでくるのだ。
 もっとも最近のエリオットは、例の、巡礼者襲撃から始まった一連の事件への対応のため、ヘザーに捕まる機会はなかったのだが。
「丁度良かった、お前にも話しておきたい事が……」
「問答無用! 覚醒しろ、そして覚悟しろエリオット!」
「…………」
 エリオットは交渉が通じない事を悟り、覚醒状態に入った。
「覚醒したぞ……」
「剣を抜け!」
「お前も素手だろう……」
「私はこれがスタイルだからいいんだ!」
「…………」
 饒舌な人間なら『お前ごときやるのに剣はいらない』又は『女性に向ける剣は持たない』あるいは『アホか』とかいくらでも言いようがあるところだったが、生憎このエリオットは朴念仁であった。

 なので拳で語った。

 数十秒後……

 路面に転がるヘザー・スクロヴェーニの姿があった。
「何故だ! 何故私はお前に勝てない…………!」
 いつもヘザーの敗けで終わる。実力差から言って当然の結果なのだが、生憎ヘザーは夢見がちな女の子(26)だった。
「ヘザー、少しいいか?」
 エリオットはマントの埃を払いながら言った。痣一つない。
「この状態でいいも悪いもない。なんだ!」

「近い内、この国で大きな戦いが起こる」
「!」
「かなりの規模になるだろう。だが、俺は前線に立つことができない」
「なぜだ……?」
「王都を……殿下や民を守る最後の砦となるためだ。それと、一つ気にかかっていることがある」
 短い沈黙。ややあって、青年はヘザーへこんな問いを投げかけた。
「傲慢の歪虚の技に『強制』というものがあることを知っているか?」
「……………………知っている」
 と答えたヘザーだったが、エリオットは表情と間で察した。
「かけた相手の意思を奪い、意のままに操る術だ」
「知ってると言っただろ!」
 エリオットは続けた。
「もし万一、強制にかかった俺から作戦が流出したならば……どうなると思う」
「エリオットが?! 敵の手に落ちるだと!? 弱気は私に負けてから言え!」
「…………」
「おい……何か言えよ……」
「俺からは以上だ」
 エリオットは切り上げて、ヘザーに背を向けた。
「お、おい!」
「……頼りにしている、ヘザー」
「は?!」
 エリオットが背中越しに投げた言葉は、ヘザーにとってあまりに虚を突かれたものだったらしく、変な声が出てしまった。
(頼りにしている……? どういう意味だ……? エリオットは私の実力を知っている、私の実力を認めるわけがない)
 なんだかんだ自分に厳しいヘザーだった。
(ならば私の何を頼りにする……? 私に何がある……? 私はどうしたらエリオットの役に立てる……?)
 いつの間にか献身的になっていることには気づかないヘザーだった。
(……! そうか! 私はハンターだ。そして時折ハンターにも依頼をする……そうか私の情報拡散能力か!)
 騒がしいとも言う。
「いいだろう、大いに騒いでやる!」
「………………何をだ?」
「さらばだ!」
 ヘザーはエリオットの疑問には答えずに、何かを決心したように走り去っていった。



「君は……」
 某日、エリオットはある場所を訪ねていた。
「――エリオット・ヴァレンタイン。この国で最も高邁な騎士の筈の君が、何故ここに?」
「アダム・マンスフィールド、頼みがある」
 刻令術師、アダム・マンスフィールドの工房である。
「私にできる事などたかが知れていると思うがね。それで頼みとは」
「率直に言う。力を貸して欲しい」
「ほう」
 言葉に、アダムは皮肉げに口元をつり上げた。諧謔の滲む仕草だが、不快の色は見えない。
「……力、ときたか。全く、研究者はままならないものだ」
 本来、軍属でもなんでもないアダム・マンスフィールドには、国家の危機と言えど、従う必要はなかったのだが。
「騎士団長殿の頼みとあっては無碍にできない、か。とはいえ、今の私は雇われ者でね」
「残念ながら、十二分に知っている」
「だろうな、君は私の出資者と随分と懇意にしている。見返りは高くつくかもしれんぞ」
「……それも、な」
 重い吐息を零すエリオットに、アダムは堪えきれずにくつくつと笑い声を挙げたのだった。

「刻令術式バリスタという」
 それは巨大な弩だった。
「360度回転する台の上に設置されているが、その台を台車に載せ馬で引いて運搬することができるようになっている。発射機構には刻令術が応用されており、弦を引き絞る事なく、全自動で矢を放ち続ける事ができる」
 エリオットはアダムの解説を無言で聞いた。真面目くさった顔のエリオットにアダムは言う。
「人は飛ばせんぞ?」
 エリオットは笑わなかった。



 そして――
 エリオットの言った事は現実になった。

 王都イルダーナに向けて、歪虚の大部隊が進軍中……。
 その総数は未だ掴めていないが、明らかに偶発的な”群れ”とは違う”軍勢”の様相を呈していた。
 王国軍、そしてハンター達は、迎え撃つべく準備をした。

「皆! 聞いてくれ!」
 編成が終わり、ヘザー・スクロヴェーニは、同じチームのハンター達に向けて言った。
「今この戦場に王国騎士団長であるエリオットは参加できない……」
 そして、エリオットから聞いたことを話した。
「……しかしエリオットは本当はこう思っているだろう。王国の為、最も危険な場所に自ら赴きたいと。
 だから私達は、エリオットに代わって戦場に馳せ参じようではないか!」
 そしてヘザーは剣を掲げた。
 陽光に煌くのは『ローレル・ライン』――騎士の剣だ。
「王女殿下万歳!」
 ヘザーは仲間と己自身を鼓舞するように、高らかに叫んだ。



 出撃していく戦士達を、城門の上から見守る姿があった。
 エリオット・ヴァレンタインその人だった。
 彼は本来ならば自分がいるべき場所を見つめながら、幾多もの背中を、ただ見守っていた。

リプレイ本文

●戦士たちは戦場へ向かう
 王都イルダーナを守る城壁の、最も外側の城壁の上から、エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が戦場に向かう戦士たちを見送っていた。

「エリオット様!」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)はエリオットに気づくと姿勢を正し、毅然とした態度で彼の名を呼び、そしてこう言った。
「吉報をお届けできるよう、力を尽くして参ります」
 彼女の胸の中には恐れと、決意があった。王都に大きな爪痕を残した、二年前のべリアルによる侵攻。それが現状と重なって見えた。
(ですが、私もそれなりに力を付けたはず……今度こそ守ってみせます……!)
「では、行ってきます」
 ヴァルナは一礼し、エリオットに背を向けた。これまで何度も同行したエリオットは今回共に戦えない。だからこそ彼女は、戦場に行くのだ。

 同じく、その場に残ってエリオットに呼びかける者達がいた。

「大丈夫。大丈夫です。ちゃんと護りますから。……だから、信じて、待っていてください。
 私も、貴方を……王国を、信じますから」
 柏木 千春(ka3061)は幼子を安心させるように言った。
 エリオットは立場ゆえに弱みを見せることが許されなかった。しかし三十に差し掛かったばかりの一人の男にとって、国一つの守りを担う責任が重くないはずがない。
 行動を共にしたことのある彼女の言葉は、その心中を察してのものだったのだろうか。

「騎士団長さん……私は同盟の人間ですが、王国に育ててもらいました。
 道を授かったアークエルス、一緒に武器を作り上げたグラズヘイム・シュバリエ。
 だから……今回は、王国に授かった力の全てを尽くして、恩義を返す機会をください」
 クレール(ka0586)が述べたのは、王国そのものに対する想いだった。
 自分の道を求めて故郷を出た彼女に、王国は多くを与えた。祖国は違えど王国を護りたいという思いはエリオットと同じだ。

 一方、七夜・真夕(ka3977)は王国の民ではなく、エリオットは遠い存在だった。それでも共感できる点はあった。
「任せて。私はこの世界の人間じゃないけれど、この世界に大切な相手のいる人間よ」
 護りたいものの意味は知っている。十二分に。
 その点ではエリオットと同じだった。

「貴方の望みを聞かせてくれませんか?」
 マリエル(ka0116)は静かにこちらを見ているエリオットに意思を問う。彼女は、エリオットの意思と言葉を戦場に連れて行く心算だった。
 多くを語ることを苦手とするエリオットは、しばし思案してから、こう応えた。
「俺はただこの国を……そこに住まう人々を、彼らの営みを、育んできた文化を、そのすべてを守りたい」
 ――苦みが滲む言葉。平素の騎士とは異なる表情は、恐らく生の感情によるものだろう。
「心得ました」
 マリエルは毅然と応える。エリオットという人間の重みが、伝わってくるようだった。
「あぁ、頼んだ」
 心なしか、エリオットの表情は和らいでいたようだった。

 それぞれが思い思いにエリオットに言葉を投げかける中、ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は何も言わなかった。
 彼はエリオットと同じく七年前のホロウレイドの戦いに参加していた。戦いが終わった後、エリオットは騎士団長となり、ダーヴィドは騎士団を除した。
 それは王国に愛想が尽きたからではなく、むしろ国を守るための力を騎士団の外に求めたからである。
 騎士団を率いることとなった男と、騎士団を後にした男……。
 道は違えど王国への忠義は変わらない。
 しかし今はヘルムで顔を隠し、聖堂教会のカソックを纏っていた。エリオット他、騎士団にも少数ながら顔見知りはいたが、自分から正体を明かそうとはしなかった。
 それは先のべリアルの侵攻をはじめ王国の危機に留守にしていたことに対する罪悪感からであった。

(それでも、すべきことはわかっている)

 ダーヴィドは、何も言わずにこの場を後にした。

「ヘザーさん、あの人が……」
「ああ、エリオットだ」
 ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)にミコト=S=レグルス(ka3953)が聞いた。ミコトはエリオットよりもヘザーに思い入れがある。
「ヘザーさんは何か言わないの?」
 同じくヘザーと縁が深いリツカ=R=ウラノス(ka3955)が聞く。
「私は、この期に及んで奴に言う事など無い!」
 腕を組んでそっくり返る。対抗心を隠そうともしない。
「ホントに、いいのっ?」
「ああ。騎士団長だからといって特別視することは無いからな!」
「なんかやけにムキになってない?」
 わざとらしい態度に2人が突っ込む。
「そんなに言うなら手でも振ってやるといい!」
 そう言って、ヘザーはエリオットに背を向けた。
 ミコトとリツカは顔を見合わせてから、エリオットに向き直った。
「頑張ってきまーすっ!」
「あとヘザーさんがよろしくって言ってましたー!」
 大きく手を振って呼びかける二人。
 ヘザーは慌てて二人の腕を引っ張ってこの場を後にした。

「カッカッカ……照れることはあるまい?」
 去っていくヘザー一行を堂々と笑いながら追いついた者がいた。
「君は……フラメディア・イリジア(ka2604)だったか」
 ヘザーがその姿に気づき名前を呼ぶ。見た目、小柄なドワーフの少女だが、その言動は戦いを前に高揚する武人そのものだった。
「いかにも。名に聞こえし王国騎士団長の戦いが見れぬは至極残念じゃが、暴れ甲斐のありそうな戦場じゃ。楽しみじゃのう……?」
 幼い顔立ちと裏腹な言葉を残して、フラメディアはヘザーを追い越して行った。

 フラメディアに遅れ、もう一人ヘザーに語りかけるものがあった。
「ヘザーさんはこの一連の事件に出現する歪虚について、どう思われますか?」
 央崎 遥華(ka5644)は、至極真面目な顔をして聞いた。
「翼の生えた獅子や人間か。リアルブルーではそういうのは神の遣いなんだったな」
「ええ、あくまでも架空の存在ですが」
「ふむ、テスカ教に説得力を持たせるための演出ではないか?」
「本来の姿ではないと?」
「わからないが、信じる者が受け入れやすい形でなければ信じられまい?
 たとえば毛虫を指して『これは神の遣いです』と言われても違和感あるだろう。
 しかし鳩ならどうだ。そういうものだと思わないか」
「なるほど……ありがとうございます」
 もしそうならば、遥華には許すことはできなかった。



●戦線の開放
 王都より少し離れた街道上で、王国側の部隊は展開された。
 アダム・マンスフィールドはすでに刻令術式バリスタを最後尾に配置し終わったあとだった。射手である猟撃士が一人つき、装填はアダムが担当する。
 あとは敵を待つのみとなっていた。

 やがて、かれらは来た。
 光を帯びた甲冑を身に纏い、翼のある兵士達の軍勢が雲間から現れ、オーロラのような軌跡を描いて飛来する。それを見た遥華は、天の軍勢、或いは北欧神話のヴァルキリーを連想した。
 やがて、半数近くが地上へと降り立った。
 すでに陣形が組まれていた。かれらはすぐさま槍を構え、突撃してきた。
「全軍防御!」
 指揮官が叫んだ。前線はその場に止まり、防御体制をとる。すぐさま槍と盾がぶつかり合う。圧倒的な数だ。勢いも凄まじい。
 さらに上空後方の敵兵も矢を射る。一斉に矢の雨が降り注いだ。
 攻撃はそれで終わらなかった。敵側には甲冑ではなくローブを着た有翼の人物が混じっている。輝きを帯びたその姿は神の御遣いを連想させる神々しさだった。
 それは厳粛な動きでラッパを口に当て、吹いた。
 淀みの無い音が響き渡った。
 すると、天が紅蓮に染まり、巨大な火の玉が地上に投げ入れられた。
 何人もの兵士が一度に焼かれ、転げ回る。
 早くも阿鼻叫喚の光景が広がっていた。

 ――だが、一方的な展開はそこで終わりを告げた。
 突如、ラッパ奏者の一人が複数の矢と銃弾を受けた。それは動きを止め、地上に堕ちる。
「ふ、地上に落としてやったわ」
 フラメディアが弓を手に不敵に笑った。彼女だけではない。ダーヴィドの銃とヴァルナの弓、そしてアダムのバリスタが一斉に発射された。かれらはいち早く最優先目標を見定め、一斉に攻撃したのだ。
 そして最前線・中央では、千春が一人味方の前に出て、周辺の敵の攻撃を一身に引き受けていた。
 千春は全身甲冑で身を固め盾を手にし、鉄壁の守備を誇っていた。6人もの兵士から一斉に攻撃されながら、一歩も後に引いていない。
「大丈夫、耐えます……!」
 怖くない筈がない。しかしその戦法は有用だった。千春の周辺は前線が後退せず、敵も足並みを合わせられない。見えない壁があるようだった。
 そして、千春を含めた前衛の傷はマリエルが即座に治療する。その視線は敵を見ながらも自然と千春に向いていた。
 マリエルにとって千春が傷つくのは、自分の事のように辛い。しかし千春が自分で選んだ道だから、全力で支えようと誓った。
「私は私にできることでちーちゃんの力になります!」
 二人で、前線を支えていた。
「千春より前に出るな! 周りの敵を優先して攻撃!」
 ヘザーは剣を舞わせ、傍らのミコトとリツカに指示を出す。
「了解ですっ! 千春さんのためにも!」
「私達が倒すんだ!」
 三人はフットワークを活かし、千春に向かう敵の隙を突いて攻めていく。
 千春の盾が得物を抑えている敵の喉元に、ミコトが剣の切っ先を突き立てる。
 その一撃が致命傷となり、敵は膝をついた。
「ええっ……?!」
 思わず声が出た。斬られた兵士は、光り輝く甲冑に覆われた姿から、白骨死体に変わった。そしていつも歪虚が消える時のように消えていった。
「む……これはどういう……?」
「なんで……?」
 ヘザーとリツカも見た。敵を斬った瞬間、人間やゴブリンの死体になってから、消えていったのである。

●天より降り注ぐ炎
「上空の敵が退いていく……?」
 後衛から弓を撃っていたヴァルナからは上空の敵の様子がよく見えた。敵後衛はある程度の距離を維持して射撃と火の雨で攻撃してきたが、突如として攻撃を止めて後退していった。
「何かあるかもしれません。注意を」
 トランシーバーで味方に向かって呼びかける。

 すぐにもう一度呼びかけなくてはならなかった。
「右翼前衛です! 急いで!」
 ヴァルナがマイクに向かって呼びかける。限られた部分だけ、夕焼けのように空が赤くなっていた。
 一斉に降り注ぐ火の雨と矢。
 後衛の戦力を一箇所に固め、一点を集中攻撃してきたのだ。上空からだと戦場が見渡せるため、攻撃を集中させることも可能だった。
 一瞬にして王国側の前列一部分が崩壊し、兵が浮き足立つ。そこに敵前衛が攻め込んできた。敵の一部は前衛を突破し、後衛に向かってきた。

「ここから先へは通しません!」
 後衛でいちはやく反応した遥華が杖を向けた。詠唱が終わると、一筋の雷光が伸びて向かってくる敵を焼いた。
「やはり、これは破壊のみの偽物の駒。天使ではない……」
 天の軍勢と見えた敵兵は、死体に変じてから消えていく。遥華は、それらは既に死んでいる存在――歪虚なのだと確信する。正体は様々だ。人間、エルフ、ドワーフ、鬼、亜人、朽ちきった死体、損傷の少ない死体……敵首魁は手当たり次第に戦力を集めたのではないかと思われた。
「命を弄び、神を冒涜する者には罰を――」
 真の信仰者である遥華にとって、偽りの救いを与えるかれらは忌むべき敵だった。手で十字を切り、残りの敵に怒りを向ける。

「アダムさんは下がってください」
「心配いらん。これだけ距離が開いていれば問題ない――それに、君が安全を保障してくれるのだろう?」
「この状況で保障できるものなんてありません……!」
 ヴァルナは後方に控えるアダムとやり取りした後に、弓をしまい、左右の手にそれぞれコリシュマルドを構えた。身を低くし、ゴースロンを走らせる。
「ヴァルナ=エリゴス、参ります!」
 疾風のような走りで敵の間に割り込む。左右の剣で一度に二人を突いた。火の魔力を帯びた刀身は傷を負わせるに留まらず、内側から体を焼く。
 向かってくる敵は複数いる。ヴァルナは敵を見据え、それらを相手取った。

 一方、集中攻撃を受けた箇所には遊撃を担当するフラメディアが急行していた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおぅ!」
 バイクを走らせ、減速もせずに槍を薙ぎ払う。味方の陣形に食い込んでいた敵兵の何人かが吹き飛ばされた。
「我こそはフラメディア・イリジア! 我と思わんものは討ち取って名を上げいッ!」
 大音声が戦場に響き渡る。それに応じるかのように敵兵は彼女に群がっていく。
「誰ぞ一騎打ちに応じる奴はおらぬのか? 所詮は見た目だけが立派な烏合の衆よッ!」
 彼女が求めるような強敵はこの戦場にはいなかった。数も多く統制は取れているが、個々の質はそこまで高くないのも事実だった。

「我らも続け! 遅れをとるな!」
 フラメディアと彼女に勢いづけられた味方の兵が敵を押し返す。敵の層が一時的に薄くなった。
「今だ、行こう! ルーバ!」
 嘶きをあげてクレールの馬が駆ける。
「痛いのをお見舞いしてやるわ!」
「了解した、反撃に移る!」
 同じく遊撃班の真夕、ダーヴィドも反応する。敵は翼を広げ、刃物のように鋭い羽根を飛ばしてくるが、ものともせずに突っ込み、敵前衛の隙間を突破した。
 クレールの視界の先は上空、そこには密集している敵の後衛部隊がいる。攻撃を一点集中するため、戦力を集中させていた箇所だ。
 そこに向けて左掌を突き出す。
「紋章剣、火竜っ!! 纏めて薙ぎ払えぇぇーーっ!!!」
 左掌にある竜の紋章が応えるように赤く光る。緋色の熱線が天を貫くように紋章から伸びた。それは竜の吐息のように、或いは巨大な炎の剣のように上空の敵を薙ぎ払い、盛大に炎上させた。
「こっちは私が引き受けるわ!」
 真夕が続いた。クレールの攻撃範囲に巻き込まれなかった敵に向けて、魔術具のナイフを向ける。
「蹴散らしてやるわ、くらいなさい!」
 赤い空が一瞬にして白に変じる。上空を冷気の嵐が吹き荒れ、敵兵の多くが氷の彫像と化した。翼の凍てついたそれらが空に留まっていられる筈もなく、地に堕ちるや否や粉々に破砕されて白い破片と化した。
 ラッパ奏者は他より魔術抵抗が高いらしく、クレールと真夕のスキルを受けてもいまだに空に留まっていた。
「騎士らしからぬ戦い方だが――」
 ランスと剣で戦うだけが騎士ではない。ダーヴィドはラッパ奏者に狙いを定め、馬を走らせながらアサルトライフルの狙いを定める。スタイルに囚われないのが彼の強みだった。
「グラズヘイムに栄光あれ!」
 愛してやまない祖国の名を叫び、引金を引く。発射された三発の弾丸は全て狙った敵に直撃した。
 その姿が空中で変じた。遠くから見た感じでは、それは山羊の頭を持つ蝙蝠のようななにかだった。地上に堕ちると、やはり黒い粒子となって消えた。

「どうやら、目標はアレに絞るのが得策だな」
 最後方でアダムが言った。彼のバリスタはここからでも後衛の敵に届く。ラッパ奏者に狙いをつけるよう射手に伝え、他は味方に任せた。

 反撃を受けた後衛は撤退していく。大打撃を与えたのは間違いないが、これで全てを倒したわけではなかった。
 敵の中で孤立するのを避けるため、クレール、真夕、ダーヴィドは撤退する。

 一方、前線の瓦解した箇所には千春達が移動していた。
「大丈夫、持ちこたえます!」
 遊撃部隊によって勢いの削がれた敵を、鉄壁の守備を誇る千春が防ぐ。敵はそれ以上、そこを攻撃の起点とする事は出来なかった。
「傷ついた方はこちらへ! 治癒します!」
 攻撃を受けた味方を、マリエルがヒーリングスフィアで治療する。千春も範囲に含めており、物理的にも精神的にも彼女を支えた。
 千春が引き付けている敵はヘザー、ミコト、リツカが倒していく。三人とも素早さを活かし、死角を補い合いながら目まぐるしく動いては敵を斬る。
「これが連刃結界・戦女神三姉妹(モリグナ・トライアングル)だッッ!」
「おおっ新しい合体技だね!」
「ヒーローっぽい!……のかな?」
 ヘザーが勝手に連携の結果に名前をつけるとリツカとミコトは思い思いに反応した。

●地を満たす光
 敵は再び後衛の攻撃を一点集中させてきた。
「また敵が集まってます! 狙いは左翼!」
 ヴァルナは双眼鏡で敵の動きを観察し、都度トランシーバーで味方に連絡した。敵の動きがわかるのは、防衛戦においては重大な意味を持った。
 敵は攻撃の手を休めることはなかったが、ハンター一行の連携のとれた対応のため、被害は抑えられた。

 しかし、敵はいくら攻撃を防がれても、倒されても、疲れを知らないかのように攻撃を続けてきた。

「まるでゾンビね」
「まるで、というかほぼそれだな」
 戦場を駆け巡る真夕とダーヴィドが正直な感想を漏らす。疲労が溜まっている。

「エリオット様……」
 後衛でヴァルナが、険しい表情で呟いた。

 その時、遥華が異変に気付いた。
「これは、この光は一体……?」
 一帯の地面が仄かに光っていた。

「まさか……」
 マリエルには思い当たるふしがあった。友達のハンターが戦場で見たというものに、特徴が符合している。

「これが……法術陣?」

 地面から立ち上る光は一帯に広がり、さらにその強さを増していた。

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MVP一覧

  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴスka2651
  • 光あれ
    柏木 千春ka3061

重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 秘めし忠誠
    ダーヴィド・ラウティオ(ka1393
    人間(紅)|35才|男性|闘狩人
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • スカイラブハリケーン
    リツカ=R=ウラノス(ka3955
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 騎士団長の為にっ?
ミコト=S=レグルス(ka3953
人間(リアルブルー)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/04/01 02:03:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/29 01:41:43