ゲスト
(ka0000)
【AP】エイプリル・パーティ
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/07 12:00
- 完成日
- 2016/04/22 19:42
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●その家の名はエルフハイム
むかしむかしあるところに、とてもとても個性的な6人の兄弟が住んでおりました。
彼らの住む家は、森の中にありました。
その森は少しだけ人里から離れていましたが、水と食べ物には困らないとても素敵な森でした。
彼らの生活はとても合理的です。
計画を立てるのが得意な五男が日々のスケジュールを組みます。
次男と四男が狩りや採集に出かけます。
末っ子の六男が皆の食事をつくり、長男が必要な道具の整備を行います。
余分にできた保存食や、新しい道具を、三男が森の外に運んで他の必要な物資と交換します。
時折休みを入れてあいた穴を他の誰かが埋めることはありましたが、基本的には皆、それぞれがそれぞれの得意な事を、家族の為にと発揮しています。
こうして6人全員が、皆で生きていくための何かしらの仕事についており、彼らは互いに互いを助け合って生計を立てていました。
仲は悪くない、そう見えたかもしれません。
けれど6人は家族でありながら、とても面倒くさそうなバランスの上で成り立っていました。
長男のヴォールはただの引き籠りです。家から出たくないので屋内作業ばかりしていたら発明するのが得意にになりました。時々『何コイツ?』と弟たちに思われています。
次男のシャイネは時々理解不能な詩を唄うナルシストです。今日も愛用の弓の手入れをしながら語りかけています。スルーされても気にしない強いメンタルを持っている様子。
三男のユレイテルは真ん中あたりなのに苦労性になってしまったようです。よく溜息が聞こえてきます。日々家族の収支計算に追われているからかもしれません。
四男のハジャは自由人です。武術を暗殺術と呼んで日々修行に明け暮れた結果今の強さを手に入れました。腕っぷしは一番なのに弟たちには弱いようで、言いなりになっている様子が見受けられます。
五男のヨハネは常に何かを見据えているプランナーです。けれど兄弟たちの誰も彼のゴールを知りません。原黒の疑惑がありますが、大体いつも理に適っているので誰も指摘したことがありません。
六男のフクカンは男の娘です。ほぼ主夫ですが実は事務も得意です。が、街で好みの年上女性を見つけてからドジが多くなりました。それ以来あまり森の外に出ないように気を付けています。
個性的過ぎてまとまりがあるような、ないような。
お互いが好きなような、嫌いなような。
見るからに六卵生で、顔は『兄弟かなとは思うけれどまさか全員同い年には見えない』ようなばらつき具合。
体格さえも千差万別。
それでも一応彼らは家族で、兄弟で、兄と呼んだり弟と呼んだり、最低限の関係性は保っているようでした。
●ある特別な一日?
ある日。街から帰ってきたユレイテルが言いました。
「街ではエイプリルフールという祭があるそうだ」
興味を示したのはシャイネとフクカンです。面白い事、楽しい事は基本的に大好きなのです。
「へえ、どんなものか興味あるね?」
「楽しい事なら、私達もやってみましょう!」
急かされ口を開こうとするユレイテルを遮るのはヴォール。部屋の隅の方で機械のような何かを弄っています。
「街の文化など碌なものではないのである」
「そんなことないよ、兄さん。聞いてみるのは悪くないんじゃないかな?」
「ヨハネがこう言ってるんだから聞けばいいんじゃねえの」
ハジャの言葉に空気が戻り、ユレイテルは改めて説明を続けるのでした。
「曰く、嘘をついてもいい日らしい」
嘘をついて、それを後から明かして驚かせ、互いに笑って楽しむ祭なのだという事だ。
「外に出るなど無駄ではないか、我は行かないのである」
「ヴォール兄さんならそう言うだろうと思っていたけどね」
ヨハネの視線は既にシャイネに向けられていて、提案があるなら言って欲しいとその視線が言っている。
「僕達だけでは面白くないね、嘘かどうかも、多分すぐにわかってしまうしね……だから、人を招くというのはどうかな?」
新しい出会いがあるかもしれないよ、との微笑みに盛り上がるのはハジャとフクカン。
「強い奴がいるなら手合わせしたいな、いいんだろ?」
「ご招待するならお料理いっぱい準備しないといけませんね! あっでもお茶とかお菓子の方がいいのでしょうか?」
嘘だとか、楽しむとか。そんな本来の祭より。『兄弟以外との交流』が重視になりそうな予感である……
むかしむかしあるところに、とてもとても個性的な6人の兄弟が住んでおりました。
彼らの住む家は、森の中にありました。
その森は少しだけ人里から離れていましたが、水と食べ物には困らないとても素敵な森でした。
彼らの生活はとても合理的です。
計画を立てるのが得意な五男が日々のスケジュールを組みます。
次男と四男が狩りや採集に出かけます。
末っ子の六男が皆の食事をつくり、長男が必要な道具の整備を行います。
余分にできた保存食や、新しい道具を、三男が森の外に運んで他の必要な物資と交換します。
時折休みを入れてあいた穴を他の誰かが埋めることはありましたが、基本的には皆、それぞれがそれぞれの得意な事を、家族の為にと発揮しています。
こうして6人全員が、皆で生きていくための何かしらの仕事についており、彼らは互いに互いを助け合って生計を立てていました。
仲は悪くない、そう見えたかもしれません。
けれど6人は家族でありながら、とても面倒くさそうなバランスの上で成り立っていました。
長男のヴォールはただの引き籠りです。家から出たくないので屋内作業ばかりしていたら発明するのが得意にになりました。時々『何コイツ?』と弟たちに思われています。
次男のシャイネは時々理解不能な詩を唄うナルシストです。今日も愛用の弓の手入れをしながら語りかけています。スルーされても気にしない強いメンタルを持っている様子。
三男のユレイテルは真ん中あたりなのに苦労性になってしまったようです。よく溜息が聞こえてきます。日々家族の収支計算に追われているからかもしれません。
四男のハジャは自由人です。武術を暗殺術と呼んで日々修行に明け暮れた結果今の強さを手に入れました。腕っぷしは一番なのに弟たちには弱いようで、言いなりになっている様子が見受けられます。
五男のヨハネは常に何かを見据えているプランナーです。けれど兄弟たちの誰も彼のゴールを知りません。原黒の疑惑がありますが、大体いつも理に適っているので誰も指摘したことがありません。
六男のフクカンは男の娘です。ほぼ主夫ですが実は事務も得意です。が、街で好みの年上女性を見つけてからドジが多くなりました。それ以来あまり森の外に出ないように気を付けています。
個性的過ぎてまとまりがあるような、ないような。
お互いが好きなような、嫌いなような。
見るからに六卵生で、顔は『兄弟かなとは思うけれどまさか全員同い年には見えない』ようなばらつき具合。
体格さえも千差万別。
それでも一応彼らは家族で、兄弟で、兄と呼んだり弟と呼んだり、最低限の関係性は保っているようでした。
●ある特別な一日?
ある日。街から帰ってきたユレイテルが言いました。
「街ではエイプリルフールという祭があるそうだ」
興味を示したのはシャイネとフクカンです。面白い事、楽しい事は基本的に大好きなのです。
「へえ、どんなものか興味あるね?」
「楽しい事なら、私達もやってみましょう!」
急かされ口を開こうとするユレイテルを遮るのはヴォール。部屋の隅の方で機械のような何かを弄っています。
「街の文化など碌なものではないのである」
「そんなことないよ、兄さん。聞いてみるのは悪くないんじゃないかな?」
「ヨハネがこう言ってるんだから聞けばいいんじゃねえの」
ハジャの言葉に空気が戻り、ユレイテルは改めて説明を続けるのでした。
「曰く、嘘をついてもいい日らしい」
嘘をついて、それを後から明かして驚かせ、互いに笑って楽しむ祭なのだという事だ。
「外に出るなど無駄ではないか、我は行かないのである」
「ヴォール兄さんならそう言うだろうと思っていたけどね」
ヨハネの視線は既にシャイネに向けられていて、提案があるなら言って欲しいとその視線が言っている。
「僕達だけでは面白くないね、嘘かどうかも、多分すぐにわかってしまうしね……だから、人を招くというのはどうかな?」
新しい出会いがあるかもしれないよ、との微笑みに盛り上がるのはハジャとフクカン。
「強い奴がいるなら手合わせしたいな、いいんだろ?」
「ご招待するならお料理いっぱい準備しないといけませんね! あっでもお茶とかお菓子の方がいいのでしょうか?」
嘘だとか、楽しむとか。そんな本来の祭より。『兄弟以外との交流』が重視になりそうな予感である……
リプレイ本文
●準備
「エイプリルフードって知ってるか?」
知らねぇなら俺が作ってやるから待ってろ。ザレム・アズール(ka0878)がフクカンにニカッと笑う。
生地から作った拘りのピザには菜花とササミが彩りよく並び、味付けは和風の落ち着いた仕上がり。炙った春魚をメインにしたカルパッチョにもエディブルフラワーを散らしてある。
「苺とキウイで酸味爽やかフレッシュジュースもあるぜ?」
飲み物も春色だ。酸っぱいのが苦手なフクカン用にとミルクを使ったスムージーもスタンバイ。
音羽 美沙樹(ka4757)が作るのは目にも優しい緑のおにぎりで……なぜか彼女はゴーグルをしていた。
貸してくれたのは彼女のメニューを聞いたヨハネである。貸し出す割に手伝わない、自分の手は汚さない男。
首の後ろのあたりに力が入っているのが分かる。
(やっぱりのう)
勝手知ったる幼馴染達の家、居そうな場所もすぐにわかる。ユレイテルの常備薬を懐から取り出して、すっと差し出すイーリス・クルクベウ(ka0481)。
「何やらかなりの人数になっているのう?」
「イーリス!」
あがった顔は、すぐに笑みが浮かんだ。
「来てくれたのか」
「お主も色々忙しくて胃を痛めてるのでは無いかと思ってのう、パーティに参加がてら胃薬の差し入れに来たんじゃよ」
「……ありがとう」
真っ直ぐに向けられる言葉に照れも緊張もなく、空気で互いの近さが感じられる。
「ははっ、恋人を舐めるでないわ。お主の行動ぐらいは読めるて」
水も持ってくるからなと一度踵を返しかけたイーリスだが、気付けば彼の膝上に座らせられていた。
「胃薬なんかより」
肩に額が乗った。髪がこそばゆい。
「君の方が効く」
表情は見えない。けれど声音は他のどんな女性にも、兄弟達相手にも向けないものだというのは知っていた。
「……まぁわしも手伝う故、お主も偶には羽を伸ばすがよい」
やるべきことは多い。少しの休息くらいは2人で。
●
大皿に並ぶおにぎりのごはんは二種類。甘酸っぱさのある山葵の三杯漬けの混ぜご飯と、シャキッと食感の残る山葵の茎と葉の混ぜご飯。
海苔を巻いた中の具は山葵漬け、巻き物のないおにぎりの中には桜鱒の焼き物が入っている。
とにかく山葵三昧の、目にも香りにも爽やかな春色メニューだ。
……たった今美沙樹が作っている逸品を除いて。
「はっぴーエイプリルフール♪」
笑顔でティーカップを掲げるノイシュ・シャノーディン(ka4419)の対面で、スフェン・エストレア(ka5876)は小さく息を零した。
(こういうのもなかなかオツでいいとは思う)
嘘をつく日のお茶会、だから狂った趣向をふんだんに。オープンカフェのような小さなテーブルを陣取れば、ノイシュがコーディネイトした衣装が勝手に演出してくれる。
ノイシュは元々似合うからいい。だが自分は……ちらりと見下ろせばフリルシャツ。頭には装飾たっぷりの帽子が乗っている。視界が煩い。そして重い。
「スー君の帽子屋さんカッコいいよ!」
「冗談はやめてくれ」
視線に気づいたノイシュの気楽な声に、本気と諦め半々の声音で返した。
「この年になってハジけるとか笑えないぞ」
「そうかなあ? 偶にはそういう派手な服着ててもいいと思うけどなあ♪」
「派手……」
別に目立ちたくはないのだが。まあこいつが楽しそうだからいいか。
「お客様かい? ゆっくり楽しんでいってね」
「道を……何でもないっす、ごちになるっす!」
お腹の虫が鳴りそうだった西蓮寺 咏(ka5700)はこれ幸いと会場の料理を端から順に堪能開始。
(森の中だから何があるかと思ったっすけど、懐かしい感じのもあるっすね)
涎が垂れるのも気にせずに目を輝かせて、一つ一つ味見で1週。2週目からは気に入ったものを多めにとって。
ある年のバレンタイン、ウィルフレド・カーライル(ka4004)は天職に出会った。その日から彼は常にポケットにはチョコレートを忍ばせ、幸せのお裾分けをするチョコレートおじさんとなった。ちなみに資金源はそれまでの貯蓄、足りなくなったら副業(ハンター)。最近はひもじい子供に出会う事も多くなったので、ふかした芋も欠かせない。
そんな彼は地酒と料理酒をキッチン組に差し入れた後、いつも通りに屋敷の散策を始めた。
可愛らしい、温かみの感じられる嘘には騙されたふりを。チョコレートを配るのも忘れずに。
シルヴェイラ(ka0726)が抱え持っている沢山の本は手土産ではなく、9割がエルティア・ホープナー(ka0727)が屋敷に辿り着く前に街で買い集めた私物。
1割はエアが今夢中になっているシリーズものの未読巻。これは自宅からの持ち込み。
「この家にだって本はあるから、訪れるたび借りればいいだろう?」
シーラは過去、そう提案している。
全て読み終わるまで帰らないと図書室に籠もったエアの道連れで屋敷に逗留することになった。訪れるたび本を抱えている二人の姿は兄弟達にとっても慣れたものだ。
「今度は何を作ったの?」
「……代価」
「新理論の本がありましたよ」
エアに手元を覗き込まれたヴォールは面倒くさそうな様子を隠しもせずシーラに向けて手を出した。すかさずシーラが機導術の本を渡す。それでやっとヴォールは設計図の在処をエアに教えた。
エアの興味を引くけれどエアに対して興味のない長兄はシーラにとって都合が良く、ヴォールは自分で街に出ずとも新しい知識が得られるという寸法である。この取引関係は男二人の暗黙のルールだ。
(他の兄弟に近づかれることに比べたら)
この屋敷の住人は皆異性だという事を、幼馴染は少しも考えてはいないのだから。
●
「頼もー! ですわー!」
「なんだ道場破りならぬ屋敷破りか!」
ドアを開けたハジャ、視線がチョココ(ka2449)の頭上を素通り。
「可愛いお客さんだね♪」
目線を合わせるシャイネに満面の笑顔を返してから首を傾げるチョココ。
「ごきげんようですわ……て、一人ではありませんの?」
「席を外している兄様達を合わせれば6人ですよ!」
「では改めまして、末妹のチョココですの♪」
「……父さんの筆跡だ」
手紙を前に眩暈を覚えた三男は壁にもたれる。
「賑やかになるじゃねぇか」
「これからよろしくね♪」
「チョココさんは何か得意な事、ありますか?」
気楽な次男四男に頷いて、末っ子が尋ねる。
「わたくしのお友達、パルム達の特技をご紹介……パルム包囲網ですの!」
ぱるーぱるぱるー
チョココを囲み周辺警戒を始める精霊達。途端に長男が動いて、五男の口元が笑みを形作った。
「新しい技術なら理論を寄越すがいい」
「兄さんは研究のことになると見境が無くなるね」
「今までずっと一人だと思っていたから……お兄様がたくさんで嬉しいですの」
手紙の縦読みで『孫見せろ』とあったのは兄弟達だけの秘密である。
ザッ……
屋敷の前に仁王立ち。ジュード・エアハート(ka0410)はキッと扉を見据えた。
「ここがあの男のハウスだね」
楽しそうに出かけて行った恋人の姿を思い出す。
(ついに尻尾を掴んだんだから)
「はーい、いらっしゃいま」
「エアさん出して」
ゆらぁり、怒りの波動が立ち上っているジュードを前にフクカンは硬直した。
「どうしたんだい。お客様なら中に」
「出してっていってるでしょ!」
すかさずヨハネの肩を掴んでガクガク揺さぶる。
「テラスの方に、ハジャと」
「テラスってどっち!」
首ぎゅぅ。
震える手が指し示す方向にすっ飛んでいく子猫ちゃんが、一人。
「……大丈夫かい?」
声をかけるヒース・R・ウォーカー(ka0145)に返事はない、気絶しているようだ。
(ボクって客じゃなかったかなぁ)
ヨハネを担ぎあげながら自分の世話焼き体質を思い目を細めた。
ハジャにかける言葉はちょっとした悪戯心。
「あんたはこんなに頑張ってるのに、こき使われる立場に甘んじてていいのかね?」
腹黒な弟に、とにおわせたことに気付いただろうか。エアルドフリス(ka1856)の誘惑には続きがあった。
「今日は嘘をついていい日だ」
何だ面白い話か? 促すハジャの耳にエアルドフリスが顔を寄せる。
「兄弟に少しばかり心配かけてやるというのはどうだろう」
「例えばどんなだ」
男2人、にやにや笑いながらの囁き事。
「この家を出て――」
「この泥棒猫―!!!」
「「!?」ってジュード」
カチリとロックの外れる音。ひらめくスカート、ホールドアウト。
一瞬見えた腿とガーターに口笛を吹くハジャ、そんな場合ではないと分かっていても相好が崩れかけるエアルドフリス。
思い込んだ子猫ちゃんはすべての状況証拠を完璧にそちら側へと振り分けて、滲む視界にも構わず2人に向けて引き金を引いた。
●
20数え終わった海野 星(ka3735)はスタート地点であるパーティ会場の中を、意気揚々と歩き出す。
「あたしってば、ちょー見つけるの得意だし☆」
すぐ見つけちゃつまんないよね、と見つけられないフリをする準備も万端だ。
「づっきー?」
テーブルクロスをぺらり。階段を上って部屋を一つ一つ確かめる基本も忘れていない。
「んと、イルイルなら秘密の部屋とか居そうじゃなーい?」
試しに聞きこみながら探すステラ。予想通りというべきか、イルムの目撃情報はそこかしこで手に入る。
「これはもうそろそろ尻尾が掴めちゃう的な!」
それにしても、と少し首を傾げる。ベルと葉月の姿はまだ見つかっていない。
(ってことは庭かな?)
アイドルは推理だって得意なのだ。これってあたし探偵アイドルにもなれちゃうかも☆
カウベルは服の中に、そっと。舌に服を噛ませれば鳴らなくなるから、ベル(ka1896)の居場所を耳で探すのは難しくなる。
屋敷の中でも良かったけれど、登っておいでとその枝が誘ったから。
(のぼっちゃうんだから、ね?)
スカートの裾はからげないように結んで。目線が高くなるにつれて、庭の綺麗な花達が、屋敷の飾りが飛び込んでくる。
(んっしょ、んっしょ……きれー!)
先客の鳥に笑顔を向けて、人差し指を、ちょんっ。
(しーっ♪)
隣、しばらく貸してちょうだい?
それがはじめての場所だとしても、森ならば葉月(ka4528)にとって庭のようなもの。気配を殺すことは狩人の本分。
(でも、いまのわたしは、けもののがわだ)
鬼が追いかける側、つまり狩人。追われる側は、じっと通り過ぎるのを待つか、それとも果敢に立ち向かうか?
(かくれおに、あそびだから、ちがうな?)
みつかったら、遊びはすぐに終わってしまう。だから緊張する。でも探してもらっているこそばゆさもあって。
(!?)
梢の音に見上げれば、樹の上から危険の合図。
(あっちに、ステラ……いる、よー?)
ベルの指がステラの方を示して、両の人差し指を頭の上に。鬼役って、これで伝わったかな?
「なかなか、やるな!」
ベルは鬼ではないけれど、見つかった事に驚いて。
「っ、そうだった」
別の場所に隠れなくては。お礼は後で纏めて言おう。
木々を寄せ集めた幾何学的な模様の箱は、特別なお弁当箱。
「いつも発明お疲れ様ですわ、差し入れはいかが?」
にっこり微笑む美沙樹の物腰はいつもと変わらず穏やかで。ヴォールも自然に箱を受け取った。
がさ、ごそ
「開かないではないか」
「発明家さんですのに、あけられませんの?」
再び、にっこり。山葵の葉を巻いた中の山葵漬けは辛子が5倍。そんな特別製おにぎりを入れたお弁当箱も、簡単には開かない仕掛け、この日の為の絡繰箱なのだ。
「さあ、召し上がれ?」
持ち込んだ苺のクラフティを切り分け、差し入れようとしたところで美沙樹とすれ違うユリアン(ka1664)。
「~~~!!!」
悲鳴になりきらない大声は確かにヴォールのもので、すわ実験が失敗でもしたのかとユリアンは足早に私室へと急いだ。
「聞きたいことが……」
「!」
甘味だと気づくや否や、無言でかっさラうヴォール。
ばくっ。むぐむぐ……むぐむぐむぐ……
「アイスティーもあるよ?」
ざーっごっくん!
「うふふ、綺麗なお花を咲かせましょ~♪」
今日もいい天気ね私の可愛い子供達。ホースで庭に虹をかけながら、金灯・A・フルラージュ(ka5805)は花や野菜たちに声をかける。
「今日も可愛いお顔を見せてくれてありがとうね?」
会場や料理を飾っている花々は、こうして金灯が丹精込めて世話をしたものだった。
「……あらあら?」
同行の三名だけでなく、屋敷に集まる他の者達も。イルム=ローレ・エーレ(ka5113)の興味をひく存在は多い。
「隠れ場所を探しているんだけど……ああ、綺麗な子達だ、世話をしてくれる人の心を映しているようだね」
例えば庭の花。水を撒く金灯にふらりと声をかけた。
「そうねえ、貴女にあわせるなら……これかしら」
「ボクにかい?」
「凛と立つ、そのたたずまいにプレゼントよ♪」
「お褒めにあずかり光栄だけど、今日は素敵な子達……可愛い連れが居るからね。幸せな気分が溢れてしまっているのかも」
「そうなの? じゃあそのお嬢ちゃん達にもぜひ持っていってちょうだい」
ういんく、ばちーん☆
●
壁にめり込んだままの銃弾の数は数えてはいけない。
「ハジャと駆け落ちなんて言った憶えはないと、そろそろわかってもらえたかね」
「……顔、近かった」
頬を膨らませるジュード。
「浮気じゃあない! なんでそうなるんだ!」
頬をつつきたい衝動に駆られながらも弁明を続ける。
「餅みてぇだな」
「しゃー!」「やめ」
ガチッ! ぎゅっ。
近づいてきたハジャの指に咬みつこうとするジュード、腕の中に閉じ込めたのがほぼ同時。
「っとぉ、怖ぇな。折角来たんだ、今日はしっかり寛いで行けよ……ってオイ」
「やれやれ。心配せんでもジュードが一番に決まってるだろう」
「エアさん♪」
ぎゅっと腕が回される。世界の外側の音は全部、遮断。
パーティ―。耳慣れなくて、こそばゆくなるようなイベントに参加するのは初めてだ。
(でも森だしな)
自然に囲まれた場所、そんな空気には慣れているからきっといつも通りで大丈夫。二人での外出だから緊張が無いと言えば嘘になるけれど。少し雰囲気に便乗なんてことは……少しだけ、浪風 白露(ka1025)の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
(他にも人が居るんだろ!? ないない!)
実はこれはデートなのでは。そう思いそうになるたびに、思い上がっちゃ駄目だとかき消す。
「今日は楽しもうな?」
一緒に居るだけで嬉しい。改めてそう感じて顔を上げれば、視界の隅にチラリと映る影。
「……あっ」
咄嗟に、鬼塚 雷蔵(ka3963)の服の袖をくいと引いた。
少し先を行く白露のつむじを眺めながら雷蔵は歩く。
(そろそろケジメもつけたいな)
人が多く居るパーティの合間に抜け出した散策だ。非日常の空気はそこかしこに溢れている。屋敷の屋根が見える程度のその場所は、他の者の気配も遠い。だが機会を待ち、そして決意とは裏腹に大事な言葉をまだ選びきれていない雷蔵は、どう切り出すか、踏み込めないでいた。
白露の声に、改めて彼女の顔を見下ろす。
「どうした?」
「狐っぽい奴が居た! 雷蔵、見に行こうぜ?」
もっと近くで見れるかもしれない、今ならそう遠くないだろうから探しに行こうと笑う白露、改めて腕が掴まれる。
(近いな)
袖を引かれるのとはわけが違う。彼女の体温が感じとれる距離に内心、戸惑う。
(無意識とはいえ掴んじゃったぞ!?)
案内しようと思っただけなんだ、レの方が森歩きに慣れているから、それだけ。
言い訳を考えるも言葉にはならず、あたふたする白露は木の根に足を取られた。
グラッ
「っ……よ、っと。大丈夫か」
珍しいとはいえ、転びそうな白露に咄嗟に手を差し伸べた。触れる場所も増え、腕の中に小柄な身体が収まっている。自分の胸の音が大きく聞こえ雷蔵はごくりと息を飲んだ。間違いない。タイミングも、自身の想いも。
「白露。……お前が好きだ。付き合ってくれるか?」
「ぇ?!」
黒の瞳が重なった緊張と、降ってきた言葉。そのまま抱き締められて……雷蔵の鼓動が早くなっていて。
「ぁ……オレも」
驚きはある、でも嬉しさが強くて、確かに聞こえるその音に誘われて。
「……好き」
「似た漫画を読んだことある気がしましたけどぉ、アレはヒロインちゃんがいたからきっと別物ですねぇ」
適齢期の男が居るなら、そしてエイプリルフールなら。
「嘘でも良いから1人寄越せですぅ」
そう思ったからなのだが。星野 ハナ(ka5852)は笑顔で料理を楽しんでいるようでいて、その実心の中で泣いていた。
「あ、あはははははは……っ♪」
そこかしこにカップルが見える気がする。何ここ地獄?
「……ぐふっ」
その場に膝から崩れ落ちるハナ。一人を見極められないなら一妻多夫でも良いやと一瞬思ったのだ。でも。そこでヒロイン枠に収まる勇気は、なかった。
「スコーン食うか? 今日の紅茶はダージリンだ」
なんやかやと世話を焼いてくれるスフェンに思い切り甘えるのも、ノイシュの楽しみの一つだ。
「私のは甘いジャム添えのロシアンティーでお願いね。勿論クロテッドクリームも忘れないでっ♪」
わかってると言わんばかりにテーブルが整っていく。手際の良さは折り紙付き。でも今日は特別な日だから何かしたいと少しだけ、思ってしまう。
「スー君の紅茶は、ブランデー入りとかにしたらどう? そうだ、私が作ってあげよっか!」
「手伝いはいい」
いつもの逆って楽しそう! 目を輝かせたノイシュをすぐに遮るスフェン。
「俺がやるから座ってろ。料理もするなよ!」
保護者であり師匠であるスフェンはもちろんノイシュの技量を知っている。だから自分でやっているのだ。
「えー……つまんなーい」
頬ぷぅっ……にこっ
「なーんて、実はちゃんと用意してきたやつあるんだもんー♪ はいこれっ、焼きショコラ!」
あげるね、と差し出す塊からは香ばしすぎる香りしかしない。むしろ炭?
「チョコ……? 食ったら死ぬやつだろこれ!」
半歩下がるスフェンに炭ショコラが迫る。
「大丈夫ー、焼いただけだから! あーん♪」
遠慮しないで、はいっ☆
「……」
ざりっ、がりごりっ
スフェンはその後、激甘紅茶を5杯飲み終わるまでしゃべらなかった。
ガチャッ
「武者修行の旅に出ようと思うんだが賛成してくれるかぁ? ってアンタどちらさん?」
「弟に人生相談する兄ってどうなのかなぁ」
ついツッコむヒース。
「客の筈の、しがないハンターだねぇ」
「そりゃどーも弟が世話んなって」
「いやいやお互い様さぁ……で、武者修行って嘘だろぉ?」
「初対面でもバレるか」
「末っ子君なら信じそうだけど……ああ、武闘派の兄弟ってあんたか、一手付き合ってもらえないかなぁ?」
花を携え歩く先々で、兄弟達のドタバタ劇も見て回る。その度にからかい半分の声をかけるのはイルムが人との交流を楽しむためでもあるけれど。ステラに早く見つけてもらうためでもあった。
(自信満々なステラ君には本当は、不要だろうけれど)
本気で隠れた葉月は、探すのが難しそうだと思う。
(それにボクも一緒に探したい。一緒に過ごしたい、が正解かな?)
●
「あら……新しいわね?」
図書室にもなかったわよねと、見慣れぬ本を手にとるエア。一冊ならすぐに読み終わるからと、庭の樹にかけられた午睡用のハンモックに座り込む。摘みやすそうな料理を取り分けたシーラは皿をエアの傍に置いた。
「エア。他にもリクエストはあるか?」
料理の残りが少ないから手伝ってくるついでだ。
「飲み物も受け付けるよ」
「……」
パラリ。きりの良いところまで読み終えてから、答えを待っている幼馴染を見上げる。
「砂糖は無しでミルクたっぷりのコーヒーと、片手で摘める物が食べたいわ」
他の誰かの料理じゃなくて、シーラがエアの為に整えたものが一番、ということらしい。
「ところで甘いものはもっとないっすか?」
乙女だからスイーツは別腹なのだ。キッチンから追加の料理を運んでいたザレムに言ってみる。毎回持ってくる料理が違うところがポイントだ。そこまでチェックした上で咏は声をかけたのだった。
「スイーツ?」
甘いものを増やしてほしいと強請られて、悪い気はしない。だってザレムは料理人。仕方ないなと口では言いつつ、頭では既に残っている材料をはじき出している。
屋台で鍛えた腕っぷしで仕上げたメレンゲを混ぜ込んで。焼き上がるのはふわっふわのホットケーキだ。
「行列に並ばずに食べられるとか半端ないっす!」
大きなホットケーキだ。クリームやソースのトッピングを色々試しながら食べつくし、最後はジュースでさっぱり。満たされると欠伸が出るのはお約束。
「ひと眠りっす~」
ふらふらと屋敷の奥に迷い込み、見つけたベッドに咏は潜りこんだ。
(イルムの……あれも、きれー)
ステラの隣。手の中の可憐な花に目が吸い寄せられる。じぃっと……ふらっ
(っいけない、おちたら、みつかっちゃう)
ガサッ
「ベルベルみーっけ☆」
「みっかっちゃったー♪」
一人で見る景色も、綺麗だけど。皆で見た方が、絶対楽しい。だから、見つけてくれてありがとう?
●
「えーっと……今、何を作ってるの?」
「侵入者察知用の仕掛けなのである」
予想外にすぐの返答。
「試作? それとも仕上げ?」
「理想には程遠いな」
ぽんぽんと返ってくる。
「え、じゃあ……今までの完成品、試作でもいいけど。触ってみたいなー、なんて」
いつも一人だろ、使い心地とか改良点とか、別の誰かが使わないと解らないじゃないか。
「さ、実験実験!」
俺も手伝うから、裏庭でやってみよう?
「……汝にはさっきの借りがある」
ぼそりと聞こえた言葉に首を傾げる。
覚醒時の風に似ているなと気になって食べた春色おにぎり、その特別製が理由だなんて。ユリアンの中で結びつくことはなかった。
(彩りが豊か、と言えばいいのか?)
ウィルフレドは春の色がどういう物か、それを改めて感じようと庭に視線を巡らせる。
「?」
気になったのは花ではなく、畝に並んだ緑色。鮮やかな花の色も確かに眩しいけれど、見覚えがある気がして。まだ育ちきっていない蔓の先を見下ろした。
名前が分からない。喉のあたりまで出かかっている気もするのに。
「……大きくなるのだ」
わかるのは、未来があるという事。これから先花を咲かせ実を結ぶ、何かを成す予定がある事。
自然と目が細くなった。
三人の探す声が聞こえる。それは自分一人だけが離れているという事で。
「さびしいぞ!」
ガサササッ、だきっ!
音が上がるのも気にせずに、葉月はステラの背へとかけていく。あたたかい背中と優しい腕が、楽しい声が迎えてくれた。
ヒースにあわせハジャも武器無しだ。小さな風が始めの合図。
ハジャの鋭い手刀が幾度も繰り出され、隙を狙ったヒースが一打わざと受け体を回す。回転で手刀の勢いを殺しながら攻撃には鋭さを加え、蹴る。
数度交えた後は拳の牽制も混ぜる。パターンを変えて幾度も、撃を重ねた。
「……流石にやるねぇ」
「汗かいてんぞ?」
「この次が決まったら、勝負内容変えようかぁ?」
「酒か! いいねぇ」
「お嬢様も旦那様も愛でてくれるこの庭を……お坊ちゃん達?」
ゆらぁり
「やべっ!」
「成功のための有意義な失敗である」
うっかり花の上に倒れ込んだハジャ、実験失敗で焦がしたヴォールの前に仁王立つ、金灯。顔は笑っているようで……怖い。
背後からは成長途上の筈の芋の蔓が蠢いている。
「覚悟はよろしくて? 次にやったらお仕置、前にそう言ったわよね……?」
すぅ、と深く息を吸う音。
「やめろって言っただろうが!!! 注意されたら繰り返すなって教わらなかったのかこの坊ども!!!」
廊下を賭ける双子の妹達を追うのは雹(ka5978)。
「雹兄ぃ、早ぅしないと置いていきますぇ~~」
ぱたぱたと足音軽やかに先頭を行くのが静玖(ka5980)。
「大丈夫だと思う、静玖。ヴォールは逃げない」
言葉は落ち着いているものの、同じように追いかけるのが澪(ka6002)だ。
「2人はヴォールがお気に入りだなあ」
請われるままついていく自分も、嫌いじゃないと思っているけれど。
「遊びに来た」
「遊びまひょ~~」
ぐいぐい、べちべち
きちんと梳られていない髪や後ろに垂れ下がったフードを遠慮なく引っ張る双子。
「……我はもう十分出歩いた」
お前達に割いてやる時間などないと適当にあしらおうとする。その言葉にもいつも以上に力が入っていなかった。
「「……♪」」
目を合わせて頷きあう双子。
(あーあ)
何か企んでいる顔だなとわかる雹だが、窘めたりはしない。
「お茶は持って来たよ?」
喉乾いてないかい、と持っていた盆を少し上げてみせる。付き合いが長い分、ヴォールが好む味はしっかり心得ている。
「飲んだら部屋を出ると誓うのである、双生児」
「わかった、飲まない」
「飲み干さなければずっと居ていいってことですやろ?」
にこにこと四つの瞳が瞬く。
「……雹、盆を寄越せ」
我が4人分全て飲めば同じだと手が伸びてくる。
「雹兄ぃ、渡したらあきませんぇ」
「兄様、守って!」
「そういうわけだから、諦めてもらえるかな」
ボクは可愛い妹達に逆らえないからねと笑えば、覚えていろよとうめき声が返ってきた。
「ふふふ、イルム特製のキラキラゼリーだよ」
星や、鈴や、兎の形にくりぬかれた、彩も豊かなゼリー達。勿論、共に遊んだ彼女達の為に。飲み物は疲れを癒し心穏やかにさせるブレンドのハーブティだ。
「さあ、お茶会と行こうか!」
「わたしからも!」
葉月が差し出すのは三つの桜餅。3月に貰ったお返しだ。
「いるむとべる、おいしいもの、もらったからな! すてらにも、わたしのだいすきのきもちだ!」
ベルはりすのように頬を膨らませて。葉月の目はゼリーの輝きも反射してキラキラと。そんな二人の口元に気付くのはステラ。
「ベルベル、こっち向いてー?」
布きんの端を使って、口の端についた餡を拭うステラはおねえさんの顔。
「ステラ君は食べるのが綺麗だね?」
「そりゃアイドルだもん。食べ方だって綺麗なのは基本だし」
イルムの言葉にえへんと胸をはりつつも、ほんのり頬が染まっていた。
出来上がったばかりの料理と、淹れたてのコーヒーの置き場所に悩む前に。幼馴染が眩しくないように、日除けになれる場所を選ぶシーラ。
「エア、寝てしまったら読み終わらないだろ」
「……シーラ?」
寝惚け眼の、いつもより無防備な顔。身内でも見る機会は稀な、蕾が綻ぶような笑顔。
(近くに誰も居なくて良かった)
この特等席は、他の誰にも譲らない。
「聞いてくれるかヨハネ!」
店を出せば隣から家事、買い付けに行けば暴走トラック。屋台を引けば竜が降る。
「借金ばっか転がり込んでブハ!?」
衝撃に机に突っ伏すザレム。
「ごめーん♪」
シャイネの声はたんこぶをこさえた不運男には聞こえていない……
「これ、なに?」
「……それはさっき試運転を終えたばかりのデータなのである、動かしたら」
「又なんや妙なん作らはったんやろ~~」
澪にめんどくさそうに答えるヴォールの背に乗りかかる静玖。
「聞いてる、最後まで教えて」
袖を引っ張り続きをせがむ澪に頭をかいて大きい溜息を吐くヴォールだけれど、静玖を引きはがすのも億劫なようでそのままだ。
「汝はこれでも見ていろ」
差し出された部品に静玖が触れると、色が変わった。
「綺麗ですなぁ♪」
「ヴォール、私も」
「そのデータに触ったら、もう一つあるこれはやらぬ」
つまり双子対策にと準備してあった、とっておきの部品……いや、発明品だという事だ。
(俺、居なくてもいいかな)
はじめは笑顔で眺めていた雹が視線を遠くに向け始めた。
「んっ。今日はボクは先に帰るよ。それじゃ」
妹達のことは可愛い、好きにさせてやりたい。でも、一人放っておかれるのは寂しい。
((……!))
「それなら連れて帰れ」
「ヴォール。借りる」
雹に向けたヴォールの言葉は遮られ、それまではりついていた双子はあっさり離れて兄に向かっていく。
先に動いたのは澪。勢いに任せたのは勝手知ったる部屋……その先はベッドだ。
「……皆好き。でも兄様が一番。私も静玖も」
そのまま雹の半身に抱きつく。もう半分は勿論静玖。
「帰るなんて許しまへん。兄ぃと澪が一番やぇ?」
頬もすり寄せて、双子揃って雹の頬に口付ける。
「おやすみやぇ~」
あたたかくなって眠いというように目を閉じる静玖の口元が楽しげに微笑んでいるのに気付くのはヴォール。けれど見ていない、というように入手したばかりの本をめくりだした。
「まったく敵わないなあ……大好きだよ。2人とも」
雹が双子の額にお返しの口付けを落とす。困ったように眉が下がっているけれど、正直嬉しさの方が勝っている。
「兄様……」
澪が最初に眠りに落ちて……窓の外では、ゆっくりと陽が傾いていく。
「あーもう、こうなったらやけ食いやけ飲みですぅ!」
「そこは味わって食べないと作った人が泣いてしまうよ?」
「料理談義できるフリー男子とかむしろどんと来いですよぅ」
「ごめん、さっき僕が気絶させちゃったんだ」
シャイネにきっと涙目を向けるハナ、なんていうか必死。
「フラグ立つ前からボロボロとか鬼ですかぁ。こうなったらもっと食べてやりますぅ」
足りなくなった料理の補充という名目で料理開始、その大半はハナのおなかに収まったのだった。
翌朝、エルフハイム家の食卓には8人分の朝食が並んだ。
兄弟と末妹、客間でちゃっかり朝まで眠りこけた咏の分である。
「エイプリルフードって知ってるか?」
知らねぇなら俺が作ってやるから待ってろ。ザレム・アズール(ka0878)がフクカンにニカッと笑う。
生地から作った拘りのピザには菜花とササミが彩りよく並び、味付けは和風の落ち着いた仕上がり。炙った春魚をメインにしたカルパッチョにもエディブルフラワーを散らしてある。
「苺とキウイで酸味爽やかフレッシュジュースもあるぜ?」
飲み物も春色だ。酸っぱいのが苦手なフクカン用にとミルクを使ったスムージーもスタンバイ。
音羽 美沙樹(ka4757)が作るのは目にも優しい緑のおにぎりで……なぜか彼女はゴーグルをしていた。
貸してくれたのは彼女のメニューを聞いたヨハネである。貸し出す割に手伝わない、自分の手は汚さない男。
首の後ろのあたりに力が入っているのが分かる。
(やっぱりのう)
勝手知ったる幼馴染達の家、居そうな場所もすぐにわかる。ユレイテルの常備薬を懐から取り出して、すっと差し出すイーリス・クルクベウ(ka0481)。
「何やらかなりの人数になっているのう?」
「イーリス!」
あがった顔は、すぐに笑みが浮かんだ。
「来てくれたのか」
「お主も色々忙しくて胃を痛めてるのでは無いかと思ってのう、パーティに参加がてら胃薬の差し入れに来たんじゃよ」
「……ありがとう」
真っ直ぐに向けられる言葉に照れも緊張もなく、空気で互いの近さが感じられる。
「ははっ、恋人を舐めるでないわ。お主の行動ぐらいは読めるて」
水も持ってくるからなと一度踵を返しかけたイーリスだが、気付けば彼の膝上に座らせられていた。
「胃薬なんかより」
肩に額が乗った。髪がこそばゆい。
「君の方が効く」
表情は見えない。けれど声音は他のどんな女性にも、兄弟達相手にも向けないものだというのは知っていた。
「……まぁわしも手伝う故、お主も偶には羽を伸ばすがよい」
やるべきことは多い。少しの休息くらいは2人で。
●
大皿に並ぶおにぎりのごはんは二種類。甘酸っぱさのある山葵の三杯漬けの混ぜご飯と、シャキッと食感の残る山葵の茎と葉の混ぜご飯。
海苔を巻いた中の具は山葵漬け、巻き物のないおにぎりの中には桜鱒の焼き物が入っている。
とにかく山葵三昧の、目にも香りにも爽やかな春色メニューだ。
……たった今美沙樹が作っている逸品を除いて。
「はっぴーエイプリルフール♪」
笑顔でティーカップを掲げるノイシュ・シャノーディン(ka4419)の対面で、スフェン・エストレア(ka5876)は小さく息を零した。
(こういうのもなかなかオツでいいとは思う)
嘘をつく日のお茶会、だから狂った趣向をふんだんに。オープンカフェのような小さなテーブルを陣取れば、ノイシュがコーディネイトした衣装が勝手に演出してくれる。
ノイシュは元々似合うからいい。だが自分は……ちらりと見下ろせばフリルシャツ。頭には装飾たっぷりの帽子が乗っている。視界が煩い。そして重い。
「スー君の帽子屋さんカッコいいよ!」
「冗談はやめてくれ」
視線に気づいたノイシュの気楽な声に、本気と諦め半々の声音で返した。
「この年になってハジけるとか笑えないぞ」
「そうかなあ? 偶にはそういう派手な服着ててもいいと思うけどなあ♪」
「派手……」
別に目立ちたくはないのだが。まあこいつが楽しそうだからいいか。
「お客様かい? ゆっくり楽しんでいってね」
「道を……何でもないっす、ごちになるっす!」
お腹の虫が鳴りそうだった西蓮寺 咏(ka5700)はこれ幸いと会場の料理を端から順に堪能開始。
(森の中だから何があるかと思ったっすけど、懐かしい感じのもあるっすね)
涎が垂れるのも気にせずに目を輝かせて、一つ一つ味見で1週。2週目からは気に入ったものを多めにとって。
ある年のバレンタイン、ウィルフレド・カーライル(ka4004)は天職に出会った。その日から彼は常にポケットにはチョコレートを忍ばせ、幸せのお裾分けをするチョコレートおじさんとなった。ちなみに資金源はそれまでの貯蓄、足りなくなったら副業(ハンター)。最近はひもじい子供に出会う事も多くなったので、ふかした芋も欠かせない。
そんな彼は地酒と料理酒をキッチン組に差し入れた後、いつも通りに屋敷の散策を始めた。
可愛らしい、温かみの感じられる嘘には騙されたふりを。チョコレートを配るのも忘れずに。
シルヴェイラ(ka0726)が抱え持っている沢山の本は手土産ではなく、9割がエルティア・ホープナー(ka0727)が屋敷に辿り着く前に街で買い集めた私物。
1割はエアが今夢中になっているシリーズものの未読巻。これは自宅からの持ち込み。
「この家にだって本はあるから、訪れるたび借りればいいだろう?」
シーラは過去、そう提案している。
全て読み終わるまで帰らないと図書室に籠もったエアの道連れで屋敷に逗留することになった。訪れるたび本を抱えている二人の姿は兄弟達にとっても慣れたものだ。
「今度は何を作ったの?」
「……代価」
「新理論の本がありましたよ」
エアに手元を覗き込まれたヴォールは面倒くさそうな様子を隠しもせずシーラに向けて手を出した。すかさずシーラが機導術の本を渡す。それでやっとヴォールは設計図の在処をエアに教えた。
エアの興味を引くけれどエアに対して興味のない長兄はシーラにとって都合が良く、ヴォールは自分で街に出ずとも新しい知識が得られるという寸法である。この取引関係は男二人の暗黙のルールだ。
(他の兄弟に近づかれることに比べたら)
この屋敷の住人は皆異性だという事を、幼馴染は少しも考えてはいないのだから。
●
「頼もー! ですわー!」
「なんだ道場破りならぬ屋敷破りか!」
ドアを開けたハジャ、視線がチョココ(ka2449)の頭上を素通り。
「可愛いお客さんだね♪」
目線を合わせるシャイネに満面の笑顔を返してから首を傾げるチョココ。
「ごきげんようですわ……て、一人ではありませんの?」
「席を外している兄様達を合わせれば6人ですよ!」
「では改めまして、末妹のチョココですの♪」
「……父さんの筆跡だ」
手紙を前に眩暈を覚えた三男は壁にもたれる。
「賑やかになるじゃねぇか」
「これからよろしくね♪」
「チョココさんは何か得意な事、ありますか?」
気楽な次男四男に頷いて、末っ子が尋ねる。
「わたくしのお友達、パルム達の特技をご紹介……パルム包囲網ですの!」
ぱるーぱるぱるー
チョココを囲み周辺警戒を始める精霊達。途端に長男が動いて、五男の口元が笑みを形作った。
「新しい技術なら理論を寄越すがいい」
「兄さんは研究のことになると見境が無くなるね」
「今までずっと一人だと思っていたから……お兄様がたくさんで嬉しいですの」
手紙の縦読みで『孫見せろ』とあったのは兄弟達だけの秘密である。
ザッ……
屋敷の前に仁王立ち。ジュード・エアハート(ka0410)はキッと扉を見据えた。
「ここがあの男のハウスだね」
楽しそうに出かけて行った恋人の姿を思い出す。
(ついに尻尾を掴んだんだから)
「はーい、いらっしゃいま」
「エアさん出して」
ゆらぁり、怒りの波動が立ち上っているジュードを前にフクカンは硬直した。
「どうしたんだい。お客様なら中に」
「出してっていってるでしょ!」
すかさずヨハネの肩を掴んでガクガク揺さぶる。
「テラスの方に、ハジャと」
「テラスってどっち!」
首ぎゅぅ。
震える手が指し示す方向にすっ飛んでいく子猫ちゃんが、一人。
「……大丈夫かい?」
声をかけるヒース・R・ウォーカー(ka0145)に返事はない、気絶しているようだ。
(ボクって客じゃなかったかなぁ)
ヨハネを担ぎあげながら自分の世話焼き体質を思い目を細めた。
ハジャにかける言葉はちょっとした悪戯心。
「あんたはこんなに頑張ってるのに、こき使われる立場に甘んじてていいのかね?」
腹黒な弟に、とにおわせたことに気付いただろうか。エアルドフリス(ka1856)の誘惑には続きがあった。
「今日は嘘をついていい日だ」
何だ面白い話か? 促すハジャの耳にエアルドフリスが顔を寄せる。
「兄弟に少しばかり心配かけてやるというのはどうだろう」
「例えばどんなだ」
男2人、にやにや笑いながらの囁き事。
「この家を出て――」
「この泥棒猫―!!!」
「「!?」ってジュード」
カチリとロックの外れる音。ひらめくスカート、ホールドアウト。
一瞬見えた腿とガーターに口笛を吹くハジャ、そんな場合ではないと分かっていても相好が崩れかけるエアルドフリス。
思い込んだ子猫ちゃんはすべての状況証拠を完璧にそちら側へと振り分けて、滲む視界にも構わず2人に向けて引き金を引いた。
●
20数え終わった海野 星(ka3735)はスタート地点であるパーティ会場の中を、意気揚々と歩き出す。
「あたしってば、ちょー見つけるの得意だし☆」
すぐ見つけちゃつまんないよね、と見つけられないフリをする準備も万端だ。
「づっきー?」
テーブルクロスをぺらり。階段を上って部屋を一つ一つ確かめる基本も忘れていない。
「んと、イルイルなら秘密の部屋とか居そうじゃなーい?」
試しに聞きこみながら探すステラ。予想通りというべきか、イルムの目撃情報はそこかしこで手に入る。
「これはもうそろそろ尻尾が掴めちゃう的な!」
それにしても、と少し首を傾げる。ベルと葉月の姿はまだ見つかっていない。
(ってことは庭かな?)
アイドルは推理だって得意なのだ。これってあたし探偵アイドルにもなれちゃうかも☆
カウベルは服の中に、そっと。舌に服を噛ませれば鳴らなくなるから、ベル(ka1896)の居場所を耳で探すのは難しくなる。
屋敷の中でも良かったけれど、登っておいでとその枝が誘ったから。
(のぼっちゃうんだから、ね?)
スカートの裾はからげないように結んで。目線が高くなるにつれて、庭の綺麗な花達が、屋敷の飾りが飛び込んでくる。
(んっしょ、んっしょ……きれー!)
先客の鳥に笑顔を向けて、人差し指を、ちょんっ。
(しーっ♪)
隣、しばらく貸してちょうだい?
それがはじめての場所だとしても、森ならば葉月(ka4528)にとって庭のようなもの。気配を殺すことは狩人の本分。
(でも、いまのわたしは、けもののがわだ)
鬼が追いかける側、つまり狩人。追われる側は、じっと通り過ぎるのを待つか、それとも果敢に立ち向かうか?
(かくれおに、あそびだから、ちがうな?)
みつかったら、遊びはすぐに終わってしまう。だから緊張する。でも探してもらっているこそばゆさもあって。
(!?)
梢の音に見上げれば、樹の上から危険の合図。
(あっちに、ステラ……いる、よー?)
ベルの指がステラの方を示して、両の人差し指を頭の上に。鬼役って、これで伝わったかな?
「なかなか、やるな!」
ベルは鬼ではないけれど、見つかった事に驚いて。
「っ、そうだった」
別の場所に隠れなくては。お礼は後で纏めて言おう。
木々を寄せ集めた幾何学的な模様の箱は、特別なお弁当箱。
「いつも発明お疲れ様ですわ、差し入れはいかが?」
にっこり微笑む美沙樹の物腰はいつもと変わらず穏やかで。ヴォールも自然に箱を受け取った。
がさ、ごそ
「開かないではないか」
「発明家さんですのに、あけられませんの?」
再び、にっこり。山葵の葉を巻いた中の山葵漬けは辛子が5倍。そんな特別製おにぎりを入れたお弁当箱も、簡単には開かない仕掛け、この日の為の絡繰箱なのだ。
「さあ、召し上がれ?」
持ち込んだ苺のクラフティを切り分け、差し入れようとしたところで美沙樹とすれ違うユリアン(ka1664)。
「~~~!!!」
悲鳴になりきらない大声は確かにヴォールのもので、すわ実験が失敗でもしたのかとユリアンは足早に私室へと急いだ。
「聞きたいことが……」
「!」
甘味だと気づくや否や、無言でかっさラうヴォール。
ばくっ。むぐむぐ……むぐむぐむぐ……
「アイスティーもあるよ?」
ざーっごっくん!
「うふふ、綺麗なお花を咲かせましょ~♪」
今日もいい天気ね私の可愛い子供達。ホースで庭に虹をかけながら、金灯・A・フルラージュ(ka5805)は花や野菜たちに声をかける。
「今日も可愛いお顔を見せてくれてありがとうね?」
会場や料理を飾っている花々は、こうして金灯が丹精込めて世話をしたものだった。
「……あらあら?」
同行の三名だけでなく、屋敷に集まる他の者達も。イルム=ローレ・エーレ(ka5113)の興味をひく存在は多い。
「隠れ場所を探しているんだけど……ああ、綺麗な子達だ、世話をしてくれる人の心を映しているようだね」
例えば庭の花。水を撒く金灯にふらりと声をかけた。
「そうねえ、貴女にあわせるなら……これかしら」
「ボクにかい?」
「凛と立つ、そのたたずまいにプレゼントよ♪」
「お褒めにあずかり光栄だけど、今日は素敵な子達……可愛い連れが居るからね。幸せな気分が溢れてしまっているのかも」
「そうなの? じゃあそのお嬢ちゃん達にもぜひ持っていってちょうだい」
ういんく、ばちーん☆
●
壁にめり込んだままの銃弾の数は数えてはいけない。
「ハジャと駆け落ちなんて言った憶えはないと、そろそろわかってもらえたかね」
「……顔、近かった」
頬を膨らませるジュード。
「浮気じゃあない! なんでそうなるんだ!」
頬をつつきたい衝動に駆られながらも弁明を続ける。
「餅みてぇだな」
「しゃー!」「やめ」
ガチッ! ぎゅっ。
近づいてきたハジャの指に咬みつこうとするジュード、腕の中に閉じ込めたのがほぼ同時。
「っとぉ、怖ぇな。折角来たんだ、今日はしっかり寛いで行けよ……ってオイ」
「やれやれ。心配せんでもジュードが一番に決まってるだろう」
「エアさん♪」
ぎゅっと腕が回される。世界の外側の音は全部、遮断。
パーティ―。耳慣れなくて、こそばゆくなるようなイベントに参加するのは初めてだ。
(でも森だしな)
自然に囲まれた場所、そんな空気には慣れているからきっといつも通りで大丈夫。二人での外出だから緊張が無いと言えば嘘になるけれど。少し雰囲気に便乗なんてことは……少しだけ、浪風 白露(ka1025)の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
(他にも人が居るんだろ!? ないない!)
実はこれはデートなのでは。そう思いそうになるたびに、思い上がっちゃ駄目だとかき消す。
「今日は楽しもうな?」
一緒に居るだけで嬉しい。改めてそう感じて顔を上げれば、視界の隅にチラリと映る影。
「……あっ」
咄嗟に、鬼塚 雷蔵(ka3963)の服の袖をくいと引いた。
少し先を行く白露のつむじを眺めながら雷蔵は歩く。
(そろそろケジメもつけたいな)
人が多く居るパーティの合間に抜け出した散策だ。非日常の空気はそこかしこに溢れている。屋敷の屋根が見える程度のその場所は、他の者の気配も遠い。だが機会を待ち、そして決意とは裏腹に大事な言葉をまだ選びきれていない雷蔵は、どう切り出すか、踏み込めないでいた。
白露の声に、改めて彼女の顔を見下ろす。
「どうした?」
「狐っぽい奴が居た! 雷蔵、見に行こうぜ?」
もっと近くで見れるかもしれない、今ならそう遠くないだろうから探しに行こうと笑う白露、改めて腕が掴まれる。
(近いな)
袖を引かれるのとはわけが違う。彼女の体温が感じとれる距離に内心、戸惑う。
(無意識とはいえ掴んじゃったぞ!?)
案内しようと思っただけなんだ、レの方が森歩きに慣れているから、それだけ。
言い訳を考えるも言葉にはならず、あたふたする白露は木の根に足を取られた。
グラッ
「っ……よ、っと。大丈夫か」
珍しいとはいえ、転びそうな白露に咄嗟に手を差し伸べた。触れる場所も増え、腕の中に小柄な身体が収まっている。自分の胸の音が大きく聞こえ雷蔵はごくりと息を飲んだ。間違いない。タイミングも、自身の想いも。
「白露。……お前が好きだ。付き合ってくれるか?」
「ぇ?!」
黒の瞳が重なった緊張と、降ってきた言葉。そのまま抱き締められて……雷蔵の鼓動が早くなっていて。
「ぁ……オレも」
驚きはある、でも嬉しさが強くて、確かに聞こえるその音に誘われて。
「……好き」
「似た漫画を読んだことある気がしましたけどぉ、アレはヒロインちゃんがいたからきっと別物ですねぇ」
適齢期の男が居るなら、そしてエイプリルフールなら。
「嘘でも良いから1人寄越せですぅ」
そう思ったからなのだが。星野 ハナ(ka5852)は笑顔で料理を楽しんでいるようでいて、その実心の中で泣いていた。
「あ、あはははははは……っ♪」
そこかしこにカップルが見える気がする。何ここ地獄?
「……ぐふっ」
その場に膝から崩れ落ちるハナ。一人を見極められないなら一妻多夫でも良いやと一瞬思ったのだ。でも。そこでヒロイン枠に収まる勇気は、なかった。
「スコーン食うか? 今日の紅茶はダージリンだ」
なんやかやと世話を焼いてくれるスフェンに思い切り甘えるのも、ノイシュの楽しみの一つだ。
「私のは甘いジャム添えのロシアンティーでお願いね。勿論クロテッドクリームも忘れないでっ♪」
わかってると言わんばかりにテーブルが整っていく。手際の良さは折り紙付き。でも今日は特別な日だから何かしたいと少しだけ、思ってしまう。
「スー君の紅茶は、ブランデー入りとかにしたらどう? そうだ、私が作ってあげよっか!」
「手伝いはいい」
いつもの逆って楽しそう! 目を輝かせたノイシュをすぐに遮るスフェン。
「俺がやるから座ってろ。料理もするなよ!」
保護者であり師匠であるスフェンはもちろんノイシュの技量を知っている。だから自分でやっているのだ。
「えー……つまんなーい」
頬ぷぅっ……にこっ
「なーんて、実はちゃんと用意してきたやつあるんだもんー♪ はいこれっ、焼きショコラ!」
あげるね、と差し出す塊からは香ばしすぎる香りしかしない。むしろ炭?
「チョコ……? 食ったら死ぬやつだろこれ!」
半歩下がるスフェンに炭ショコラが迫る。
「大丈夫ー、焼いただけだから! あーん♪」
遠慮しないで、はいっ☆
「……」
ざりっ、がりごりっ
スフェンはその後、激甘紅茶を5杯飲み終わるまでしゃべらなかった。
ガチャッ
「武者修行の旅に出ようと思うんだが賛成してくれるかぁ? ってアンタどちらさん?」
「弟に人生相談する兄ってどうなのかなぁ」
ついツッコむヒース。
「客の筈の、しがないハンターだねぇ」
「そりゃどーも弟が世話んなって」
「いやいやお互い様さぁ……で、武者修行って嘘だろぉ?」
「初対面でもバレるか」
「末っ子君なら信じそうだけど……ああ、武闘派の兄弟ってあんたか、一手付き合ってもらえないかなぁ?」
花を携え歩く先々で、兄弟達のドタバタ劇も見て回る。その度にからかい半分の声をかけるのはイルムが人との交流を楽しむためでもあるけれど。ステラに早く見つけてもらうためでもあった。
(自信満々なステラ君には本当は、不要だろうけれど)
本気で隠れた葉月は、探すのが難しそうだと思う。
(それにボクも一緒に探したい。一緒に過ごしたい、が正解かな?)
●
「あら……新しいわね?」
図書室にもなかったわよねと、見慣れぬ本を手にとるエア。一冊ならすぐに読み終わるからと、庭の樹にかけられた午睡用のハンモックに座り込む。摘みやすそうな料理を取り分けたシーラは皿をエアの傍に置いた。
「エア。他にもリクエストはあるか?」
料理の残りが少ないから手伝ってくるついでだ。
「飲み物も受け付けるよ」
「……」
パラリ。きりの良いところまで読み終えてから、答えを待っている幼馴染を見上げる。
「砂糖は無しでミルクたっぷりのコーヒーと、片手で摘める物が食べたいわ」
他の誰かの料理じゃなくて、シーラがエアの為に整えたものが一番、ということらしい。
「ところで甘いものはもっとないっすか?」
乙女だからスイーツは別腹なのだ。キッチンから追加の料理を運んでいたザレムに言ってみる。毎回持ってくる料理が違うところがポイントだ。そこまでチェックした上で咏は声をかけたのだった。
「スイーツ?」
甘いものを増やしてほしいと強請られて、悪い気はしない。だってザレムは料理人。仕方ないなと口では言いつつ、頭では既に残っている材料をはじき出している。
屋台で鍛えた腕っぷしで仕上げたメレンゲを混ぜ込んで。焼き上がるのはふわっふわのホットケーキだ。
「行列に並ばずに食べられるとか半端ないっす!」
大きなホットケーキだ。クリームやソースのトッピングを色々試しながら食べつくし、最後はジュースでさっぱり。満たされると欠伸が出るのはお約束。
「ひと眠りっす~」
ふらふらと屋敷の奥に迷い込み、見つけたベッドに咏は潜りこんだ。
(イルムの……あれも、きれー)
ステラの隣。手の中の可憐な花に目が吸い寄せられる。じぃっと……ふらっ
(っいけない、おちたら、みつかっちゃう)
ガサッ
「ベルベルみーっけ☆」
「みっかっちゃったー♪」
一人で見る景色も、綺麗だけど。皆で見た方が、絶対楽しい。だから、見つけてくれてありがとう?
●
「えーっと……今、何を作ってるの?」
「侵入者察知用の仕掛けなのである」
予想外にすぐの返答。
「試作? それとも仕上げ?」
「理想には程遠いな」
ぽんぽんと返ってくる。
「え、じゃあ……今までの完成品、試作でもいいけど。触ってみたいなー、なんて」
いつも一人だろ、使い心地とか改良点とか、別の誰かが使わないと解らないじゃないか。
「さ、実験実験!」
俺も手伝うから、裏庭でやってみよう?
「……汝にはさっきの借りがある」
ぼそりと聞こえた言葉に首を傾げる。
覚醒時の風に似ているなと気になって食べた春色おにぎり、その特別製が理由だなんて。ユリアンの中で結びつくことはなかった。
(彩りが豊か、と言えばいいのか?)
ウィルフレドは春の色がどういう物か、それを改めて感じようと庭に視線を巡らせる。
「?」
気になったのは花ではなく、畝に並んだ緑色。鮮やかな花の色も確かに眩しいけれど、見覚えがある気がして。まだ育ちきっていない蔓の先を見下ろした。
名前が分からない。喉のあたりまで出かかっている気もするのに。
「……大きくなるのだ」
わかるのは、未来があるという事。これから先花を咲かせ実を結ぶ、何かを成す予定がある事。
自然と目が細くなった。
三人の探す声が聞こえる。それは自分一人だけが離れているという事で。
「さびしいぞ!」
ガサササッ、だきっ!
音が上がるのも気にせずに、葉月はステラの背へとかけていく。あたたかい背中と優しい腕が、楽しい声が迎えてくれた。
ヒースにあわせハジャも武器無しだ。小さな風が始めの合図。
ハジャの鋭い手刀が幾度も繰り出され、隙を狙ったヒースが一打わざと受け体を回す。回転で手刀の勢いを殺しながら攻撃には鋭さを加え、蹴る。
数度交えた後は拳の牽制も混ぜる。パターンを変えて幾度も、撃を重ねた。
「……流石にやるねぇ」
「汗かいてんぞ?」
「この次が決まったら、勝負内容変えようかぁ?」
「酒か! いいねぇ」
「お嬢様も旦那様も愛でてくれるこの庭を……お坊ちゃん達?」
ゆらぁり
「やべっ!」
「成功のための有意義な失敗である」
うっかり花の上に倒れ込んだハジャ、実験失敗で焦がしたヴォールの前に仁王立つ、金灯。顔は笑っているようで……怖い。
背後からは成長途上の筈の芋の蔓が蠢いている。
「覚悟はよろしくて? 次にやったらお仕置、前にそう言ったわよね……?」
すぅ、と深く息を吸う音。
「やめろって言っただろうが!!! 注意されたら繰り返すなって教わらなかったのかこの坊ども!!!」
廊下を賭ける双子の妹達を追うのは雹(ka5978)。
「雹兄ぃ、早ぅしないと置いていきますぇ~~」
ぱたぱたと足音軽やかに先頭を行くのが静玖(ka5980)。
「大丈夫だと思う、静玖。ヴォールは逃げない」
言葉は落ち着いているものの、同じように追いかけるのが澪(ka6002)だ。
「2人はヴォールがお気に入りだなあ」
請われるままついていく自分も、嫌いじゃないと思っているけれど。
「遊びに来た」
「遊びまひょ~~」
ぐいぐい、べちべち
きちんと梳られていない髪や後ろに垂れ下がったフードを遠慮なく引っ張る双子。
「……我はもう十分出歩いた」
お前達に割いてやる時間などないと適当にあしらおうとする。その言葉にもいつも以上に力が入っていなかった。
「「……♪」」
目を合わせて頷きあう双子。
(あーあ)
何か企んでいる顔だなとわかる雹だが、窘めたりはしない。
「お茶は持って来たよ?」
喉乾いてないかい、と持っていた盆を少し上げてみせる。付き合いが長い分、ヴォールが好む味はしっかり心得ている。
「飲んだら部屋を出ると誓うのである、双生児」
「わかった、飲まない」
「飲み干さなければずっと居ていいってことですやろ?」
にこにこと四つの瞳が瞬く。
「……雹、盆を寄越せ」
我が4人分全て飲めば同じだと手が伸びてくる。
「雹兄ぃ、渡したらあきませんぇ」
「兄様、守って!」
「そういうわけだから、諦めてもらえるかな」
ボクは可愛い妹達に逆らえないからねと笑えば、覚えていろよとうめき声が返ってきた。
「ふふふ、イルム特製のキラキラゼリーだよ」
星や、鈴や、兎の形にくりぬかれた、彩も豊かなゼリー達。勿論、共に遊んだ彼女達の為に。飲み物は疲れを癒し心穏やかにさせるブレンドのハーブティだ。
「さあ、お茶会と行こうか!」
「わたしからも!」
葉月が差し出すのは三つの桜餅。3月に貰ったお返しだ。
「いるむとべる、おいしいもの、もらったからな! すてらにも、わたしのだいすきのきもちだ!」
ベルはりすのように頬を膨らませて。葉月の目はゼリーの輝きも反射してキラキラと。そんな二人の口元に気付くのはステラ。
「ベルベル、こっち向いてー?」
布きんの端を使って、口の端についた餡を拭うステラはおねえさんの顔。
「ステラ君は食べるのが綺麗だね?」
「そりゃアイドルだもん。食べ方だって綺麗なのは基本だし」
イルムの言葉にえへんと胸をはりつつも、ほんのり頬が染まっていた。
出来上がったばかりの料理と、淹れたてのコーヒーの置き場所に悩む前に。幼馴染が眩しくないように、日除けになれる場所を選ぶシーラ。
「エア、寝てしまったら読み終わらないだろ」
「……シーラ?」
寝惚け眼の、いつもより無防備な顔。身内でも見る機会は稀な、蕾が綻ぶような笑顔。
(近くに誰も居なくて良かった)
この特等席は、他の誰にも譲らない。
「聞いてくれるかヨハネ!」
店を出せば隣から家事、買い付けに行けば暴走トラック。屋台を引けば竜が降る。
「借金ばっか転がり込んでブハ!?」
衝撃に机に突っ伏すザレム。
「ごめーん♪」
シャイネの声はたんこぶをこさえた不運男には聞こえていない……
「これ、なに?」
「……それはさっき試運転を終えたばかりのデータなのである、動かしたら」
「又なんや妙なん作らはったんやろ~~」
澪にめんどくさそうに答えるヴォールの背に乗りかかる静玖。
「聞いてる、最後まで教えて」
袖を引っ張り続きをせがむ澪に頭をかいて大きい溜息を吐くヴォールだけれど、静玖を引きはがすのも億劫なようでそのままだ。
「汝はこれでも見ていろ」
差し出された部品に静玖が触れると、色が変わった。
「綺麗ですなぁ♪」
「ヴォール、私も」
「そのデータに触ったら、もう一つあるこれはやらぬ」
つまり双子対策にと準備してあった、とっておきの部品……いや、発明品だという事だ。
(俺、居なくてもいいかな)
はじめは笑顔で眺めていた雹が視線を遠くに向け始めた。
「んっ。今日はボクは先に帰るよ。それじゃ」
妹達のことは可愛い、好きにさせてやりたい。でも、一人放っておかれるのは寂しい。
((……!))
「それなら連れて帰れ」
「ヴォール。借りる」
雹に向けたヴォールの言葉は遮られ、それまではりついていた双子はあっさり離れて兄に向かっていく。
先に動いたのは澪。勢いに任せたのは勝手知ったる部屋……その先はベッドだ。
「……皆好き。でも兄様が一番。私も静玖も」
そのまま雹の半身に抱きつく。もう半分は勿論静玖。
「帰るなんて許しまへん。兄ぃと澪が一番やぇ?」
頬もすり寄せて、双子揃って雹の頬に口付ける。
「おやすみやぇ~」
あたたかくなって眠いというように目を閉じる静玖の口元が楽しげに微笑んでいるのに気付くのはヴォール。けれど見ていない、というように入手したばかりの本をめくりだした。
「まったく敵わないなあ……大好きだよ。2人とも」
雹が双子の額にお返しの口付けを落とす。困ったように眉が下がっているけれど、正直嬉しさの方が勝っている。
「兄様……」
澪が最初に眠りに落ちて……窓の外では、ゆっくりと陽が傾いていく。
「あーもう、こうなったらやけ食いやけ飲みですぅ!」
「そこは味わって食べないと作った人が泣いてしまうよ?」
「料理談義できるフリー男子とかむしろどんと来いですよぅ」
「ごめん、さっき僕が気絶させちゃったんだ」
シャイネにきっと涙目を向けるハナ、なんていうか必死。
「フラグ立つ前からボロボロとか鬼ですかぁ。こうなったらもっと食べてやりますぅ」
足りなくなった料理の補充という名目で料理開始、その大半はハナのおなかに収まったのだった。
翌朝、エルフハイム家の食卓には8人分の朝食が並んだ。
兄弟と末妹、客間でちゃっかり朝まで眠りこけた咏の分である。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/06 23:29:18 |
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エイプリル・パーティー イルム=ローレ・エーレ(ka5113) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/04/07 00:45:34 |