【AP】消え去る世界(ラグナロク)

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/04/11 22:00
完成日
2016/04/16 01:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「エカテリーナ……」
「あら、灰色の騎士様。無事でしたの」
 灰色の騎士と呼ばれた白い鎧を身にまとった男は、身体のあちこちを闇に蝕まれながらも這いずるようにして、謁見室に入ってきた。
 そこで見たのはいつもの無骨な城の世界ではなかった。多種多様な魔法陣が地面にも天井にも、空中にすら歯車のようにしてひしめき、回っている。まるで破滅に導く運命の歯車のようだ。
 そこに一人佇む女主人のエカテリーナは瀕死の騎士に優雅に挨拶すると、ピンヒールでその頭を踏みにじって微笑んだ。
「困りましたわ。今、魔法実験の本番ですの。雑談をする時間もとれないのでまた明日にしてくださいません?」
「明日が、来るものなら、そうしますけど、ね」
 灰色の騎士は白いマントの下から闇の光を迸らせ、エカテリーナの踏みつけを弾き飛ばすと、上半身を延ばして光り輝く剣を引き抜いた。
「明日ごと呑みこむつもりでしょう。その魔法陣……破滅の、魔法陣は」
「あら。灰色の騎士様は本当になんでもご存知ですのね。その慧眼に心より心服いたしますわ」
 いつもの。本当に何一つ変わりない、淑女の微笑みで褒め称える彼女の口調が今日ほど邪悪に想えたことはなかった。
「そういう退屈しのぎは、余所でやってくれませんか、ね?」
 エカテリーナの背後にある魔法陣は激しく明滅していた。国中、いや、月道を通って世界中のあらゆる場所の魂を奪い去り、真昼のように輝き始めていた。
「仰せのままに。でも、余所といってもここは広くもなくて、外を出歩く準備に少しご迷惑をおかけしていることは心苦しく思っておりますわ」
「要するに、この世界に飽きたから、滅ぼそうってことでしょう?」
 魔法力を使うのも渋っている様子のエカテリーナは部屋に飾っていた宝剣を引き抜くと、ゆらりと灰色の騎士に振り向いた。
「うぅん、ちょっと、違いますわね。幻の大陸アトランティスをも越えたこの世界の向こうに『真世界』というものがあるそうですの。そこに行くだけの力はちょっと集めるのが大変で」
「だから、世界に飽きたから滅ぼすおつもり、なんでしょう? そのどこかもわからない世界へ移動するために、この世界の全てを生け贄にしようとしている」
 文字通り反吐が出た。それはエカテリーナのすっとぼけた演技と、自分もそのエカテリーナの魔力の網に捕らえられ、力を急速に奪われているためでもあった。
 灰色の騎士は迫りくる宝剣を眼前にして、ようやく身体を半分起こし、剣を構えた。
 勝算などありもしない。
「貴女は小さい頃からデビルと契約して様々な知識を得た。魔術から始まり、あらゆる知識を。それでも無暗な破壊などしない人物だと持っていましたがね」
 6才で父のススメで悪魔と契約し、その年に自分の兄弟と親を生け贄に捧げた人間だ。
 あらゆる知識を得た彼女は、それに相応しい肉体も魔力で堅持していた。半端者で灰色と呼ばれる彼でも剣で戦いたくない相手の一人だと言えた。それに加え虚無の闇が蝕むこの状態では、勝ち目などあろうはずもない。
「うふふ、おほめいただき光栄ですわ。そう、おかげで毎日退屈でしたの。気が狂いそうなほどに」
 エカテリーナの腕が一瞬霞んだ瞬間にはもうフランの剣は外へ弾き飛ばされていた。
「だから真世界に興味がありますの。是非ご協力くださいましね」
「もちろん、丁重にお断りしますよ。私は、この世界が大好きな……ものでしてね。波乱の無い平和な世界も大嫌いですが、世が失われるなどという馬鹿げた出来事は留めねばなりません」
「それは……騎士としての務め? もう国もほとんど失われてしまいましたのに」
 広大な世界をつなぐ月光に破滅の魔法陣が敷かれ、ありとあらゆるものが呑みこまれた。人間も都市ごと消え去り、もちろん社会ももう無きに等しい状況だ。
 エカテリーナの剣でくいと顎を釣り上げられる灰色の騎士は微笑んだ。
「いいえ、私個人の我が侭です」
 瞬間、エカテリーナが退いた。
 灰色の騎士の周りにまた別の光を宿す魔法陣が輝きだしていたからだ。
「召喚門……? 灰色の騎士様は魔術にもお詳しくなられたの?」
「門前の小僧ってやつですねぇ。エカテリーナ。貴女は自分の術で最期を迎えるんですよ……」
 血が失われていく。灰色の騎士は力を魔法陣に注ぎながら、初めて冷静な顔を崩した破滅の使者に微笑んだ。
「運命の女神よ。世界の終末がまだ先というなら……この叛逆者に……」
 灰色の騎士が魔法陣の光に呑みこまれ、そのまま光の塵となって空を漂う。

 そして光の塵は形を成し、『あなた』となった。

リプレイ本文

「いらっしゃいませ、勇者様」
 異世界の扉を抜けた岩井崎 旭(ka0234)の目に飛び込んできたのは、魔法陣に囲まれるようにしてたたずむ女性であった。その慎ましやかな微笑みは思わず旭を畏まらせる程度の威力はあったが、周囲をとりまく霊魂の奔流にすぐ気持ちはうつろいだ。目の前の女のように笑顔を浮かべられるほど安らかな世界ではない。肌が実感を取り戻すと魔法力に目眩を起こし、魂が吐き出てしまいそうだった。
「なんだ、ここは……色んなところをさまよったけど」
 一歩、踏み出そうとした旭であったが、同じように異世界を抜け出た一陣の風が目の前を覆って阻んだかと思うと、それはユリアン(ka1664)の姿となった。
「それ以上は踏み出さない方がいいよ。魔法陣に『食われる』」
「あら、すごいわ。一目で魔法陣の力を見抜くなんて、うふふ、最後に神様は素敵なプレゼントをしてくれたものですわ。もっと皆様には早くお会いしたかったわ。なら退屈しなくてすみましたのに」
 女、エカテリーナは冷たい瞳のユリアンに軽く手を叩いて賞賛した。
 その一言で、召喚された人間達は目の前で何が起こっているか、ようやく理解した。この魔法陣を作ったのは彼女であり、退屈しのぎに無数の魂と星々を食らいつくそうとしていることを。つまり、世界を破滅させようとしていることを。
「こんな、何が楽しいんだよ」
「あら、どこかで見たお顔ね? 並行世界の出身かしら。んん……ああ、世界の守護者たる方のご子息かしらね。ご安心なさいな。ご両親はもう魔力の一部になりましたもの。一人残るのも寂しいでしょう。どうぞ、おいでなさいな」
 リュー・グランフェスト(ka2419)の睨眼に対してエカテリーナは微笑むと持っていた剣を操ると、霊魂の奔流からいくつかの魂が波から跳ねる魚のようにして浮き上がった。
 それに目を合わした瞬間に、リューは不意に涙が溢れそうになった。家族が、仲間が自然と脳裏によぎる。
「てめぇぇぇぇぇ!!!!」
 リューは熱くたぎる血をほとばしらせるようにして、剣を抜き放ち、一気呵成とエカテリーナの元に踏み込んだ。それを狙ったかのように足元に魔法陣がぼやりと浮かび上がる。
「魔法陣だ!!」
 ユリアンの警告したが、リューはお構いなしに一気に突き進んだ。
「あら、効かない……?」
 エカテリーナは予定と違ったという顔で小首と傾げたが、すぐに得心した顔つきになった。リューを守るように桜の花弁が渦巻き、魂を吸い上げようとする地面の魔法陣との間にはまるで絨毯のようにしきつめられていた。
「あなたが神だとしても、あなたのしたことは許しません。絶対に」
 突撃するリューの陰から響いたのはセレスティア(ka2691)の声だった。皆を呼び出した光の残滓と混じ入るような花吹雪と共にその姿を現す。
「うふふ、神様? 一緒にされたら困りますわ」
 リューは跳躍して、空いた手を天空に掲げると光の塊がその先に生まれる。
「打ち砕けっ、天槍(グングニール)!!」
 光の塊は投げつけるとその場から光条となって伸び、閃光と共にエカテリーナもろともその足場の魔法陣を粉々に破壊し、穿孔と共に石畳がめくれあがった。だが、茶色の手入れされた髪はそよ風を受けたように揺れるだけだ。
「魔法陣がなくなればこっちのものですわ。残ったものも全て……元に戻していただきますわ」
 天槍の光が立ち消えて、魔法陣の魔力が雲散霧消した隙に、清冽なる光の風を纏った音羽 美沙樹(ka4757)が岩塊を吹き飛ばし、エカテリーナに歩を進めた。
 それと同時に烈風が吹いたかと思うと、ユリアンがエカテリーナの背後に現れ、挟み込むようにして刀を構える。
 胴体、そして首元を狙う陣風が吹きすさんだ。
「あらら、騎士然とはされませんのね。天津風様は懐刀と呼ばれていらっしゃるのに。もう少しお行儀はちゃんとなさらないと」
 エカテリーナは心配そうな顔ぶりで真正面に捉える美沙樹にそう話した。
 途端に全身がガクガクと震えた。恐怖などではない。身体が鉛になったかのような重みだ。美沙樹もユリアンも自らの重みに耐えかねて、風の軽やかさを失い、膝をつく。
「まあお上手。魂だけになったお父様が喜ばれますわね」
 思わず膝をつくユリアンは渋い顔をして重力場を発生させるエカテリーナを仰ぎみた。元々の世界でも丁寧な言葉遣いだが、気を許すことのできない雰囲気はあった。なんとなくの理由ではあったが、今ははっきりとわかる。彼女は見下しているのだ。いつだって犬や猫や赤子に語りかけるような。
 怒りの眼差しを向けるユリアンの瞳に、エカテリーナの真上でまた違う渦が生まれるのが見えた。
「お腹、空き空きですの。アディ。食べちゃってくださいまし」
 渦は一瞬、狼のような顔をして大きく咢を開くと、そのまま重力場を構成する魔力を吸い上げる。
「!?」
 その魔力を吸い上げて、光の渦はどんどんと様々な色を産み、そして魔力を吸いきると同時に、チョココ(ka2449)がぽとんと落ちてきた。
「気高き狼(アーデルベルト)……? 灰色の騎士様ったら、こんなものまで呼び出されるなんて、センスありますわ」
「まだ足りませんの。寝ている子を無理やり起こしたらどうなるか、思い知ってもらいますわ」
 ネグリジェのごときワンピースドレスをまとったチョココは眠たい目のまま、眉を吊り上げて不機嫌な顔をした。
「さて、6対1。いかに魔力がすごかろうとも、勝てる見込みは少ないだろう。明日を返してもらおうか」
「ううん、そうですわねぇ」
 刃を一斉に向けられた中で旭がそう問いかけると、エカテリーナは少しだけ残念そうにした。
「魔力の要を壊せば、魔法陣に貯められた魔力は解放されますわ。少し時間はかかるかもしれませんけれど、きっと元通りに」
「要というと……」
「うふふ、要はここ」
 エカテリーナは自分の胸をこつこつと叩いた。彼女の心臓だ。
 と、同時に周囲の魔法陣がゆるゆると逆回転を始め、世界各地から集めた光を紡いだ糸のようにして吐き出す。それはエカテリーナにゆっくり絡みついていく。
「さぁどうぞ、一思いに」
 やれるものなら。
 そういう言葉を重ねた彼女は、どんどんと光を吸収していく。世界の転移が始まったのだ。
「やってやるよ。望み通りに……!」
 愛剣の『未来』を掲げ、リューは飛んだ。


「紋章剣っ!!」
 リューの剣閃は虹色だった。ありとあらゆる命が持っているはずの未来が映写機のコマのようにして閃きの中に映りこんでいた。
 エカテリーナの光のヴェールはすっぱりと切れたが、切れた破片は浮き上がるとそのまま魔力の波動となってリューに襲い掛かる。
「グランフェストくんっ!!」
 無防備な頭部を打ちのめそうとするその魔力風に対して、突き飛ばすようにしてセレスティアがかばい、その魔力を身にまとった。
「セレス!」
「私も紋章剣の使い手として、世界の守り手の血族として、やらなければなりません」
 身が焦げて、眩い光で瞳孔が焼ききれそうになるが、それでも癒しの魔力を全開にしてセレスティアは耐えた。この力の全ては誰かの魂なのだ。受け入れなければならぬ。
「世の命の数は恒河砂と言いますが、耐えられるかしら?」
「耐えて見せるってんだろ!! それが俺達が呼ばれた役目ってんなら!!」
 庇うリューとセレスティアを飛び越えて、ミミズクの顔と翼を得た旭が大きく跳びあがり、ハルバードを天に掲げた。
「踊り狂え、乱気流!!!」
 旭の呼びかけに応えたゴウ、という風が真上から吹き降りると、身を焦がすような魔力のヴェールを抑え込みながら、ハルバードを突き下ろすと、いくつもの風が牙となってエカテリーナの体を切り裂いた。
「煉獄の風にあおられなさいませ」
 初めて血をしぶかせるエカテリーナであったが、旭を見上げた瞬間足元から真っ黒な炎が吹きあがり、旭が作り上げた風の牙を焼き溶かし、また竜巻のようにして旭を吹き飛ばすが、その風に舞うようにして跳んだ美沙樹が旭の身体を支える。
「もう一度、できます?」
「おう、何度だってやってやるさ。魔力障壁を絶対ブチ破ってやるぜ!」
 旭は焼けた翼を広げて、炎風を使って大きく羽ばたいた。
「わかりました。その力、必ず届かせるために」
 美沙樹はそう言うと、旭から離れ炎の中に飛び込んだ。遠く離れた場所なのに、美沙樹の髪は焦げ臭いにおいを放ち、衣はみるみる間に変色していく。それでも美沙樹は顔を隠すこともなく刃に手をかけた。
「疾く、天津風!!」
 剣風が蒼く輝くと、どす黒い炎が一気に吹き消え炎に埋むエカテリーナの姿が見えた。しかし、そこまで美沙樹の刃は届かない。炎で皮膚は焼けただれ、接地した瞬間にはもう立ち上がれるないほどだった。
「まだ、やるべきことはあるはずです。立ち、あがって!!」
「あら、人に苦しむことを求めるなんていけませんわ。死んだ方が楽だというのに」
 散り散りの炎を花吹雪に変えてセレスティアがヒーリングスフィアを展開しながら美沙樹を叱咤したのを留めたのはエカテリーナであった。
「忘れ去られた世界に佇むよりも、常に生まれ変わることを望む方が幸せですわ」
 花びらが凍り付く。それは薄透明の無尽の刃となってセレスティアに襲い掛かろうとした瞬間、ユリアンがセレスティアを抱えて飛んだ。
「無茶しちゃダメだ。鳳凰の力を溜めこんでいる最中なんだろ?」
「無茶します。私達が引いたら終わりなんですから!!」
 吹雪の刃を足で乗ると、軽々とその範囲から飛び出るユリアンの言葉にセレスティアは噛みつくようにして言った。普段の楚々とした彼女の顔は魔力光で焼けただれたままだ。それでも真珠のような瞳の輝きは消えない。
「旭が降りてくる瞬間に全部合わせよう。それまでは控えてくれるかな」
 オレ達を信じて。
 ユリアンは安全地帯にセレスティアを置くと、そのまま踵を返すと、発現し力となる魔力を食い荒らし続けるチョココに声をかけた。
「パー……ええと。チョココさん。その魔力を打ち消す術。収束した瞬間……できるかな」
「このままだと霞を食べているようなものですし、アディがまとめてぱくんってできるかもですわ」
 気高き狼はもしかすると、神をも呑みこんだという逸話のフェンリルなのかもしれないと思うと、ユリアンはゆっくりと周囲を見回した。
 無骨な城もほとんど崩壊し、宇宙空間に浮いているような気色であった。光っているのは魔法陣それに伝わるエカテリーナ。そして光の粒子を身にまとう自分たちだけだ。
「フラ……灰の騎士よ。悪いけどもうひと働き頼むよ。……今まで人頼みばっかりだったから、こんな時くらい働いてもらわないと」
 そういうとユリアンは一気に駆けだした。途端に魔力の風がそれを阻むが、ユリアンはワイヤーを飛ばすと障壁ごとエカテリーナをしばりあげ、それを柱にして颶風の中を走った。
 風が収束したかと思うと、電圧が身体を蝕んだ。
 筋肉が意志に反して収縮し、動くことすらままならぬ電撃の嵐。だが、風に溶けるようにしてユリアンはすすみ、エカテリーナの首にワイヤーを絡めて背後から呟いた。
「一人の手で、大勢が守り抜いた世界を壊すなら、それを守るのもまた自由だよな」
「あら、できるというのかしら。億万の命の力を乗り越えることなどおできになって?」
「言われるまでもなく」
 ワイヤー越しに魔力の雷がユリアンの身体を蝕む。
 彼女の首をねじ切るより彼の腕の神経が焼ききれる方が早いというのはわかっていた。
 だが、それよりももっと早く。
 もっと早く。
 果てなき空の果てから旭がハルバードを切っ先に飛び降りてくる。魔力と、渾身のマテリアルを放出する光があわさり、彗星のような光と風をまとう。
「吼え猛路ぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
 それが直前で激しくぶつかった。魔力の壁。いいや、幾百もの命で紡ぎ上げた障壁がそれを押しとどめる。
 しかしそれでも押しつぶすような爆突風と共に旭は力とマテリアルを全開にして、衝突の光は激しさを増し、拮抗する。
「裁きの黒き神の力をこの手に……ファースト流剛剣技っ」
 リューが跳びあがり、旭にエカテリーナの放った真黒い炎の力を翼に変えて、右翼とし
「慈愛の白き神の力をこの手に……鳳流剛剣技っ」
 セレスティアも同様にして、光のヴェールの眩しい光を翼に変えて、左翼とした。
「「紋章剣・鳳凰っ!!!」」
 二人の声に合わさるようにして、中央の旭の白い翼が七色の翼に変貌した。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
「まさか……私を超えるなんて」
 旭の咆哮と共に、障壁がはじけ飛び、次の瞬間、ユリアンが捕らえていたエカテリーナを頭上から刺し貫き、一気に爆炎で包み込んだ。
 爆散する魔力の嵐は彼らを焼け付かせ、肉体を削るほどだったが、やがてすべての感覚が閾値を超えて真っ白になる。
 ユリアンはそれを見届けると、弾かれるように飛び下がり、星の夢が描かれたイースターエッグを代わりに残した。
「小さく、折りたたんで。いただきーましょー♪」
 チョココが歌うようにして、イースターエッグにありったけの魔力を注ぎ込み、溢れる力をその卵の中に仕舞いこんでいく。
 まばゆい光が、魔力が、驚いた顔のままのエカテリーナが、破滅の魔法陣が、それらを吸い込んだ命が。世界が。
 消えていく。

 世界は壊れた。
 だけど、壊した張本人と。まだ昇華もされていない無量の命の力は、星の夢の中で眠っている。


「マント領から参りました。天津風美沙樹と申します」
「ようこそ。何もない所ですけれど、ゆっくりしていって?」
 無骨な城には似つかわしくない女城主は美沙樹の姿を見て、嬉しそうな顔をした。昨日も一昨日も、ずーっと前から退屈だ。退屈だと言い続けてきた彼女のことだから、客人、しかも才媛と呼ばれるマント領主の懐刀と呼ばれる美沙樹の登場は、本当に嬉しいに違いない。
 美沙樹は丁重にお辞儀をすると、星の卵を差し出した。
「これは?」
「壊れかけた世界が詰まっているのですけれど、復元は可能かしら?」
 自分でも一見不可思議な言葉を言っていると美沙樹は思った。
 だが、卵を一目見た城主はみるみる間に喜色満面にして、微笑んだ。
 彼女は気づいているのかもしれない。世界の破滅者たるもう一人の己が中にいることを。己と己が食い合う終焉の蛇となることを。

 世界を破滅させる物語は円環となり。また再生につながりゆく。
 その過程に異世界の勇者たちがいたことを誰も知らない。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/06 20:13:55
アイコン 未来への希望(撃破)
音羽 美沙樹(ka4757
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/04/11 20:30:59