ゲスト
(ka0000)
玻璃の瓦礫―三重螺旋―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/15 09:00
- 完成日
- 2016/04/23 23:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
斥候の亡骸が回収された。通信機を握り締め、庭の端に横たわっていたらしい。
霧の中では端が遠く、雑魔や歪虚を追って走ったように感じた庭も、霧が晴れるとその広さは然程もない。
蔦の絡むアイアンレースの柵が囲う寂れた庭は、これまでの犠牲者が折り重なって積まれていた。
廃墟の近くに設けた拠点から出た職員は、弔いの支度を進めていく。
ハンター達に次の依頼が示された。
『傲慢歪虚の追撃』『嫉妬歪虚の確認』
庭を開放して戻ったばかりのハンター達から集めた情報により、この廃墟には2体の歪虚の存在が確実となった。
1体は少女の姿をした傲慢の歪虚、ハナと自称し、一般女性のユリアを誘拐。
同時に3本までの針を投じる攻撃を行い、人間を真似た行動を取る事もある。
従えていた雑魔は、確認された物は全て撃退されているが、廃墟内の残存数は不明。
もう1体は嫉妬の歪虚であると思われるが、それ以上の一切が不明。
傲慢の歪虚が従えていた鎧は、現在庭で発見され調査中だが、錆びた金属製の鎧であり異常は無い。
恐らくこれを操っていたのが、傲慢の歪虚が「マスター」と呼んだ歪虚で有り、この類いの能力を有する嫉妬に属するものでは無いかと結論を得た。
また、傲慢の歪虚が従っている点から鑑みても、強力なもの、危険なものだと推察される。
傲慢の歪虚の目的は、嫉妬の歪虚にユリアを届けることと思われるが、その目的は不明。
「――友達だと言っていたそうね」
「歪虚に、友達なんて」
「歪虚が友愛を理解するとは思えません。ですが、彼等がそう呼ぶものがいるとすれば」
それは、彼等に等しく歪んで虚ろな存在だけだろう。
●
庭を抜けた斥候は報告通りの階段を見上げた。
色硝子の中赤く塗られた螺旋階段が続いている。
昇っていった足跡も見付けた。和装特有の草履の跡だ。
階段の色は赤い。異様に感じるのはステップの大きさが不揃いな所為だろう。
斥候は双眼鏡を出して頭上へ続く階段を見上げた。
螺旋階段は上に行く程広がったすり鉢状、上の方は黒い霧が濃く漂い目視出来ない箇所がある。
通信機を繋いだまま赤い階段に足を掛けた。
明るい。そう思って見上げると瓦斯灯だろうか、ぼんやりと発光している球体が霧の中から吊り提げられて揺れている。
真上のそれは明るいが、数歩先の物は消えており、他にも幾つか消えたり点滅している物があるらしい。
一つで十分な範囲を照らしているようで、光源としては問題なさそうだ。
そう結論づけて更に昇った。
足の先に小石が落ちている。それがこつんと爪先に触れると、ころりと下に転がっていった。
ステップに跳ねる度に勢いを増して落ちていく。
危ないと思いながら先を見ると、小石程では済まない岩や、刺の生えた物、よく転がりそうな丸い物が不安定に置かれている。
歪虚の足跡はその隙間を縫うように続いていた。
最初の灯りの下を越えて数段昇った辺りで、背後にガシャンと何かの砕ける音を聞く。
構えて振り返ると、先程まで点っていた灯りが消えている。
ステップの上に落ちたのだろうかと見下ろすと、丁度灯りの吊られていた真下辺りがぽっかりと穴を開けていた。
灯りはまだ幾つも続いている。このまま、灯りを越える度に落とされて穴を開けられては撤退も敵わないだろうし、ハンターの進行も難しくなる。
斥候はそれ以上は進まずに双眼鏡で見上げた。
霧の中へ繋がる階段はこれだけではないようだ。
半分程の辺りまで内側に黒い階段が、さらに半分までは硝子の階段が、赤い階段と平行に並んでいる。
黒い階段には鎧が、それぞれ武器を手にした格好で置かれており、報告を聞く限り動くのだろうと察せられ、武器の中には鋭利な刃物も有る。
ここから届く距離ではないが、ロープを使うのはやめておいた方が良さそうだ。
慎重に上方を観察する。黒い階段には鎧が並んでいるが、硝子の階段にはそれがない。赤い階段のような岩やボールでもないが、何か動く物が置いてあった。
「――一度退くか、……何だ?」
手摺りもない階段を慎重に降りる。その目の端が何かを捕らえた。
硝子の階段から滑空してきた陶器の人形が1体、斥候の眼前に迫ってくる。
咄嗟に庇った右腕が閃光と爆風に吹き飛ばされ、傷口には人形だった陶器の破片が刺さっていた。
手当てを受けている斥候の報告を伝えた職員が、ハンター達を見渡して頭を下げた。
「無事を祈ります」
無理をしないで下さい。
ユリアの帰りを待つ少女が言った。
ハンターさん達が傷付くことをユリアは望まないからと。
ユリアはハンターに救われて生きている人だから、と。
斥候の亡骸が回収された。通信機を握り締め、庭の端に横たわっていたらしい。
霧の中では端が遠く、雑魔や歪虚を追って走ったように感じた庭も、霧が晴れるとその広さは然程もない。
蔦の絡むアイアンレースの柵が囲う寂れた庭は、これまでの犠牲者が折り重なって積まれていた。
廃墟の近くに設けた拠点から出た職員は、弔いの支度を進めていく。
ハンター達に次の依頼が示された。
『傲慢歪虚の追撃』『嫉妬歪虚の確認』
庭を開放して戻ったばかりのハンター達から集めた情報により、この廃墟には2体の歪虚の存在が確実となった。
1体は少女の姿をした傲慢の歪虚、ハナと自称し、一般女性のユリアを誘拐。
同時に3本までの針を投じる攻撃を行い、人間を真似た行動を取る事もある。
従えていた雑魔は、確認された物は全て撃退されているが、廃墟内の残存数は不明。
もう1体は嫉妬の歪虚であると思われるが、それ以上の一切が不明。
傲慢の歪虚が従えていた鎧は、現在庭で発見され調査中だが、錆びた金属製の鎧であり異常は無い。
恐らくこれを操っていたのが、傲慢の歪虚が「マスター」と呼んだ歪虚で有り、この類いの能力を有する嫉妬に属するものでは無いかと結論を得た。
また、傲慢の歪虚が従っている点から鑑みても、強力なもの、危険なものだと推察される。
傲慢の歪虚の目的は、嫉妬の歪虚にユリアを届けることと思われるが、その目的は不明。
「――友達だと言っていたそうね」
「歪虚に、友達なんて」
「歪虚が友愛を理解するとは思えません。ですが、彼等がそう呼ぶものがいるとすれば」
それは、彼等に等しく歪んで虚ろな存在だけだろう。
●
庭を抜けた斥候は報告通りの階段を見上げた。
色硝子の中赤く塗られた螺旋階段が続いている。
昇っていった足跡も見付けた。和装特有の草履の跡だ。
階段の色は赤い。異様に感じるのはステップの大きさが不揃いな所為だろう。
斥候は双眼鏡を出して頭上へ続く階段を見上げた。
螺旋階段は上に行く程広がったすり鉢状、上の方は黒い霧が濃く漂い目視出来ない箇所がある。
通信機を繋いだまま赤い階段に足を掛けた。
明るい。そう思って見上げると瓦斯灯だろうか、ぼんやりと発光している球体が霧の中から吊り提げられて揺れている。
真上のそれは明るいが、数歩先の物は消えており、他にも幾つか消えたり点滅している物があるらしい。
一つで十分な範囲を照らしているようで、光源としては問題なさそうだ。
そう結論づけて更に昇った。
足の先に小石が落ちている。それがこつんと爪先に触れると、ころりと下に転がっていった。
ステップに跳ねる度に勢いを増して落ちていく。
危ないと思いながら先を見ると、小石程では済まない岩や、刺の生えた物、よく転がりそうな丸い物が不安定に置かれている。
歪虚の足跡はその隙間を縫うように続いていた。
最初の灯りの下を越えて数段昇った辺りで、背後にガシャンと何かの砕ける音を聞く。
構えて振り返ると、先程まで点っていた灯りが消えている。
ステップの上に落ちたのだろうかと見下ろすと、丁度灯りの吊られていた真下辺りがぽっかりと穴を開けていた。
灯りはまだ幾つも続いている。このまま、灯りを越える度に落とされて穴を開けられては撤退も敵わないだろうし、ハンターの進行も難しくなる。
斥候はそれ以上は進まずに双眼鏡で見上げた。
霧の中へ繋がる階段はこれだけではないようだ。
半分程の辺りまで内側に黒い階段が、さらに半分までは硝子の階段が、赤い階段と平行に並んでいる。
黒い階段には鎧が、それぞれ武器を手にした格好で置かれており、報告を聞く限り動くのだろうと察せられ、武器の中には鋭利な刃物も有る。
ここから届く距離ではないが、ロープを使うのはやめておいた方が良さそうだ。
慎重に上方を観察する。黒い階段には鎧が並んでいるが、硝子の階段にはそれがない。赤い階段のような岩やボールでもないが、何か動く物が置いてあった。
「――一度退くか、……何だ?」
手摺りもない階段を慎重に降りる。その目の端が何かを捕らえた。
硝子の階段から滑空してきた陶器の人形が1体、斥候の眼前に迫ってくる。
咄嗟に庇った右腕が閃光と爆風に吹き飛ばされ、傷口には人形だった陶器の破片が刺さっていた。
手当てを受けている斥候の報告を伝えた職員が、ハンター達を見渡して頭を下げた。
「無事を祈ります」
無理をしないで下さい。
ユリアの帰りを待つ少女が言った。
ハンターさん達が傷付くことをユリアは望まないからと。
ユリアはハンターに救われて生きている人だから、と。
リプレイ本文
●
ハンター達の眼前には聳える赤い階段、ぼんやりと注ぐ灯りが瞬いている。斥候からの報告の通り最初の数段から転がってきたらしい球体は散乱し、或いは砕けて辺りに転がっており、ステップには元は灯りを包んでいたらしい硝子片が砕け散っている。
赤い階段。
鮮血を塗り込めた様な赤い色がハンター達を出迎える。
「なんやねんこれ、綺麗通り越してほんま悪趣味やわ……」
冬樹 文太(ka0124)が眉間に深く皺を刻む。低い声が唸るように、怒りを湛えた桃色の目が足音の消えていった先を睨み上げ、尖る歯を食いしばって二丁の得物を取る両腕を戦慄かせる。
「……これほどまでの階段、なかなか見かけ無いな」
渦巻く階段の先を辿るように見上げながらロニ・カルディス(ka0551)が溜息を吐く、マテリアルは静かに灯り燃え上がる。
「赤い割りには……この中はあまり香りがないのね。残念」
ブラウ(ka4809)が足音も無く一歩踏み出して階段を眺める。鼻腔を擽るのは庭の残り香と瓦礫に染みついた黴と埃の臭いばかりだ。
カリアナ・ノート(ka3733)の青い瞳が階段をじっと見詰める。
その双眸に不安げな色を見付けたリディア・ノート(ka4027)が肩にそっと手を掛けた。
「カリアナが諦めないなら、私も突き進むわよ」
私も諦めないと誓うように瞼を伏せて。
カリアナがゆっくりとリディアの手を取り、大丈夫だと伝える様に両手で包む。
瞬いて頷き合うと、視線を階段の先へと向けた。
「――私はリディアよ! よろしくね」
隣に聞いた跫音にリディアが声を掛ける。
「俺はレイジ。輝羽・澪次だ――厄介そうな所だぜ」
輝羽・零次(ka5974)は溌剌と答えながらも、罠の中に飛び込むようだと、階段を見上げる目を眇めた。
「ああ、だが考えても仕方ない。進むぞ。先ずは全員で、先で3人、2人と別れることになる」
先ずは自ら前にとロニが先導する。幅を考慮しながら、その隙を埋める位置に輝羽が立つ。
ライトを片手に冬樹が拳銃を構えて警戒を強め、ブラウはライトを腰に吊して刀と盾を構えた。
カリアナとリディアも続き、ハンター達は赤い階段を駆る。
最初の数段で見付ける穴と障害物の転がった跡に斥候の報告を思い出す。
こつん、と何かの転がる音を聞く。
「どこやっ……気ぃ付け」
冬樹が注意を促し、ロニが鎌を空気を薙ぐように据える。
カリアナとブラウがそれぞれに階段の先を指し、転がり始めた大きな岩と、刺の鋭い球を見付ける。
それは辺りの球体を巻き込んで雪崩のように迫ってきた。
跳ね上げられた小石がリディアの横を掠め輝羽の足下に転がった。
「――弾くぞ」
鎌を振り翳して放つ影の弾丸がその動線に絡んで逸らす。
同じく撃ち込まれた冬樹の銃弾が、転がる岩の真ん中を貫いて砕いた。
破片を轢いて動きを緩めるところへ駆け上ると光を放ちその衝撃で辺りの岩をステップから除く。
「……あら、何かしら」
岩が無くなった後にずっと小さな丸い小石が残っていたらしい。
ブラウが足を止めて見下ろすと、その並びは何かを綴っているように見えた。
「『ようこそ』?」
――ようこそ、新しいお人形の誕生のお祝いへ。歓迎します――
ブラウがそれを読み上げていると、カリアナも同じ小石を見付けて駆け寄った。
「こっちにも有るわ」
――どうぞ、そのまま昇っていらっしゃって――
歪虚からのメッセージらしいそれに、悪趣味だと溜息を吐く。
カリアナを庇う様に前へ出たリディアが中空を指した。
――お人形のお友達が増えるのは、とても嬉しいことですから――
読み終えると小石はぱらりと、数段転がりステップの外へと落ちる。
「……巫山戯やがって」
怒気を隠さない声で冬樹が唸る。
「言われずとも、追いついて、確保して、連れて帰るだけだ」
冷静に告げながら、ロニの鎌の柄を握る指が微かに震えた。
ハンター達は再び赤の階段を走り始める。転がる岩や落下する硝子を払い除けて先を急いだ。
●
階段を上り始め地上から大分離れる。外側へ広がる作りの階段は高さよりも長い距離を、転がって、或いは降ってくる石や岩を避けながら走ることを強いる。
残り半周もせずに黒い階段がその内周に加わる辺りで、ロニがハンター達を留まらせた。
黒い階段へ移るのは、とハンター達を見回す。
光を映さない黒に塗られた階段は形状さえ赤い階段と同じに見えるが、そこに並んでいる物は大きく異なっている。
等間隔に並べられた鎧が、こちらを見るようにハンター達に向けた兜を動きに合わせて揺らす。
持たされているらしい武器はグレイブばかりでは無く、鉄靴の動く様子も無いが、鎧の丈夫さは承知していた。
「この上に……」
カリアナが階段の縁に立って見上げる。続く螺旋の先は黒い霧に吸い込まれていく。
この上にいる。そう思うと気が急いていく。
ロニがカリアナとブラウ、そして冬樹に視線を向けた。
「んじゃ、俺らはこっち行くわ。回復は任したで」
グリップを掲げ、冬樹は頷いて口角を上げる。ロニが任せろと視線を返す。
嬢ちゃんら、と冬樹がブラウとカリアナを呼び、ブラウが刀身を翳して黒い階段へ向く。
「待って!……念のためよ」
カリアナが今にも飛び出しそうな足を抑え2人を引き留める。手を翳して放たれた風が緑に煌めいて包み込む。いいわ、と頷いて、カリアナ自身も風を纏った。
「気を付けてね」
「おねーちゃんも、っ」
リディアの声ににこりと笑んで、階段を跳ぶ。下は見ない。竦んでしまうから。
金色の髪を靡かせて黒の上に降り立った。
危ない、と2つ先の鎧が振り回したフレイルが、先に跳んだ冬樹の眼前を掠める。
「させませんわ――初手はどうかしら?」
続いたブラウが咄嗟にその鎖を叩き斬り、ライトの光を先へ向ける。照らし出された鎧は軋む動きで彼等に得物を向けてくる。
2人の後ろに着地したカリアナがすぐに銃を構えて先を狙う。
赤い階段に残った3人も彼等が得物を携え走り出す様子に頷いて転がってくる障害物へ狙いを定めた。
黒い階段を上る3人とペースを合わせながら、ロニ、リディア、輝羽は赤い階段を進む。
彼等の背後、既に通ったステップの上には降ってきた硝子が砕けて、或いはその衝撃でステップ自体が崩れたり穴が開いたりしている。
進む先で揺れる灯りが落ちる様子は無いが、先程浮かんだ石の文字を思うに、この辺りにも歪虚の支配が届いているのだろう。
「怖くなんかないのよ? で、でも用心しないといけないものね!」
揺れた岩を盾に弾いた衝撃で傾ぐ体を留まらせながら、視界に入った遠い地面にリディアが目を瞑って顔を背ける。
青ざめた頬で肩を揺らし、先だけを見詰めながら言う。
下は、見ないように。けれど、周囲の警戒は怠らずに。
数段先で転がった石へロニが影を放ちその動きを逸らす。
空間を縫うように昇る影に弾かれた丸い石は、他の石を巻き込んで落下し、音を立てて砕けた。
「何でこんな物を……」
次へと鎌のハンドルを取り回すと、丈を超す黄金の柄の先、七色の刃が鮮やかな流線を描いた。
空気を裂いて道を開く。薙ぎ払われた障害物は階段の端に散った。
黒い階段の様子も気に掛かるが、不意に絶えた灯りの砕けた硝子片がそれを許さずに降り注ぐ。
破片を払うロニの背後、輝羽は四方へ光りを巡らせるようにライトを向けて死角を潰しながら、脇を抜けて落ちてきた歪な岩を蹴り退ける。
「よっと……リディア、そっちは」
「平気よ。遅れないように進まないと」
止まっている障害物は避け、動いた物は砕いて或いは落としながら3人は進む。
数段先に刺の障害物が幾つも連なっている様子が見えた。厄介そうだとロニが呟く。
「――周りは俺らに任せてくれ」
輝羽の声にリディアが頷いて盾を揺らす。ロニが静かなブラウンの眼を僅かに細めた。
障害物へと進みその寸前へ、転がってくる最中、光を放って全てを弾いた。
マテリアルの籠もった光りが波の様に広がる。
黒い階段へも僅かに至るそれが、鎧の腕を飛ばして掲げた剣ごと空気の鳴る音を伴い落ちていく。
狭い足場で冬樹とカリアナが対岸を狙える位置を探り、銃弾を放つ。
その斜線から外れる場所へブラウが走り、鎧の構えた槍が2人へ至る前に腕の継ぎ目を狙って振りかぶった刃で斬りつけた。
「この鎧、全く血を流さないから愉しくないわ」
深縹の裾がプリーツを広げて揺れ、零れるように手の幻影が伸びてくる。
「――でもそうね、わたしを斬ってくれれば香りが立つかもしれないわね……なんて、冗談よ」
それはブラウの心を写すように、橙の瞳が見上げる先を、本数の疎らな指で指して揺れた。
ブラウは笑って次の獲物はと刀に仕込まれたモーターを駆動させ、低い機械音を辺りに響かせた。
「滅多なこと言わんとき、……行くで」
カリアナの放った数発の銃弾で凹む鎧へ、止めの様にマテリアルを込めて放たれた銃弾が腹のプレートを貫き、階段の外まで弾き飛ばす。先の数体の無力化を見て、硝煙を昇らせるままの自動小銃を低く抱えると冬樹はステップを蹴って駆け上った。歪な階段に乱れるライトの光が無表情にこちらを向く鎧を照らす。
カリアナも銃を構えながらそれに続く。隣の階段を行く姉を気遣うように視線を向けると、息を上げながらも真っ直ぐに前を見据えた。
金属の触れ合う高い音が鳴り響く。止めるわ、とブラウが鎧の大剣を刀身に抑えて2人を先へ促した。
銃声の響く中、細い足が踊るように揺れて敵の刃を躱し、ブラウのマテリアルを得て震える刃が鎧の継ぎ目を剥がしていく。相互に突き付けた切っ先が、ブラウの頬を裂き、鎧を階段から突き落とした。
紅潮した肌に薫った己の血の香りに恍惚と笑むブラウをロニが呼ぶ。ブラウはまだいけますわと首を振った。
「……人形、ね」
打ち続けた銃の反動に痺れる腕を下ろし、カリアナが数メートル先に迫る硝子の階段に陶器の人形を見付けた。
爆発すると聞いているが、それ以上のは少ない。
冬樹も意識を向けるが下りてくる様子も、動く気配すら無い。
行くかと確かめて、辺りの鎧を打ち落とす。空いた空間へリディアを呼んだ。
●
カリアナが風を纏わせリディアが先に硝子の階段へと跳ぶ。
砕けた硝子を貼り合わせた足場は不安定だが、動いて砕ける様子は無い。
カリアナが飛び移るのを見て、進もうと前を向くと1周上の段から1体の人形が降ってきた。
凹凸の乏しい艶やかな白磁に四白の目、弧を描く一筋の紅が現す笑った口。単純な造詣のドレスに緻密に描き込まれた花柄が、単調な顔に独特な不気味さを感じさせる。
目が合ったと思った瞬間に人形はひび割れて、爆ぜる。
「リディアお姉ちゃん――!」
リディアはカリアナを庇う様に盾を構える。
「よ、避け……」
「避けたら、妹を守れないものね。行くわよ!」
衝撃に擦った膝を、被った破片を払ってリディアは立ち上がる。
赤と黒の階段を行く仲間からも気遣う声が掛かるが、リディアは平気だと笑って見せた。
けれど、と足下を一瞥する、爆発の後は広く盾で庇っても圧されている。続けて圧されると落ちかねない。
妹は、巻き込めない。
「……何が有っても、リアちゃんは守るわ」
自身に言い聞かせるようにそう呟いた。
カリアナも人形へ向けて手を翳す、リディアを引き留めて、せめて落ちてくる動きだけでも止められないかと氷の矢を放った。
凍て付く人形は動くことは無くなったが、2人が近づくとその場で爆ぜる。
足下を庇った盾で受け止め爆ぜる前にと凍て付かせ、盾を構えながら蹴り落として駆け上った。
盾にフレイルの刺を弾き、胴を薙ぐように鎧を落とす。
一歩下がって冬樹も次、或いはその次と焦りにぶれる狙いを必死に定めて銃弾を撃ち続ける。落下すれば手数は減るが、鎧の頑丈さは変わらない。
大きく転げた人形が黒い階段へも降ってきた。
「嬢ちゃん、屈んどきぃ」
「あら。任せますわ」
ブラウが見付けるよりも速くその頭上に気付くとその顔の真ん中を撃ち抜いた。
爆ぜる前に砕かれた破片が降る。残った胴体を落として次の鎧へそれぞれに切っ先を、銃口を向ける。
ここからは2人だと輝羽は得物を構え直す。
黒と硝子の階段にも意識を切れないロニの死角を無くすように周囲を、上から落ちてくる岩や或いは人形を警戒する。
「……俺より強い人達だから……いや、俺だって」
出来ることは、有るはずだと得物を握り締め、自身を鼓舞するように昂ぶるマテリアルを巡らせる。
その半周程先、硝子の階段から落ちてきた人形が爆ぜた。
「――ロニ!」
輝羽の声が響くと、すぐに転がってくる岩の音が聞こえた。
弾くのは間に合わないと、眼前の障害を払った体勢から鎌を突いて咄嗟に身体を支える。傾れてきた岩を輝羽が可能な限り砕き落とす。
衝撃が去って、無事かと問うと、全身に傷を負いながら見た目よりはと笑って見せた。
「――ロニさんも怪我をされたのかしら?」
黒の階段からブラウが声を掛けた。少し無茶をしすぎたと、辺りに鞭に槍にと様々な武器と鎧の腕や兜を散らかして。
更に迫りそうな人形を打ち落とし、寸前に届く大剣を繰る鎧と対峙しながら冬樹は振り返らずに頼むと告げた。
祈りが広がり、傷が塞がる。完全では無いが動ける程度に回復するとブラウはすぐに鎧へと走り、輝羽も得物を握り直した。
●
霧の中まで昇りきると、硝子と黒の階段が途切れる。
人形がいなくなるとカリアナが膝を突いて座り込む。リディアが駆け寄るも支える程の力は無い。
凭れさせるように座っていると追い付いたロニが無事を問う。
「……大丈夫。リアちゃんは?」
「平気よ! お姉ちゃんの方が……っ」
声を詰まらせて抱き締める。これ以上血を流さないでと腕が震えた。一先ずの無事に安堵しながらも、リアの傷に眉を寄せ他に怪我はと黒い階段を振り返った。
先に赤い階段へ移った冬樹が跳べるかとブラウを振り返る。立ってはいるものの、あれからも無茶を重ね、利き足の大腿に深い傷を得て隙間を跳ぶのは心許なく、冬樹にも受け止められる程の力は残っていない。
「――そちらに行く。待っていてくれ」
硝子の階段寄りに集まれる者の治療を終えたロニが移動し、ブラウへ手を伸ばした。
霧の中を続く赤い階段を上る。やがてそれが晴れると、ハンター達の眼前に小さな扉が現れた。
「……遊戯部屋?」
ドアプレートには似つかわしくない洒落た文字でそう綴られている。
細く開いたドアの隙間から灯りが零れ、そして。
「随分早かったのね、お祝いにはもう少し時間が掛かるのに――ねえ、ユリア」
アームチェアに座らされたユリアは青い顔で目を閉じている。その傍らにはヴェールを被った影が揺れ、ハンター達の前へ歩み出た歪虚はハンター達を見回してうっそりと微笑んだ。
ハンター達の眼前には聳える赤い階段、ぼんやりと注ぐ灯りが瞬いている。斥候からの報告の通り最初の数段から転がってきたらしい球体は散乱し、或いは砕けて辺りに転がっており、ステップには元は灯りを包んでいたらしい硝子片が砕け散っている。
赤い階段。
鮮血を塗り込めた様な赤い色がハンター達を出迎える。
「なんやねんこれ、綺麗通り越してほんま悪趣味やわ……」
冬樹 文太(ka0124)が眉間に深く皺を刻む。低い声が唸るように、怒りを湛えた桃色の目が足音の消えていった先を睨み上げ、尖る歯を食いしばって二丁の得物を取る両腕を戦慄かせる。
「……これほどまでの階段、なかなか見かけ無いな」
渦巻く階段の先を辿るように見上げながらロニ・カルディス(ka0551)が溜息を吐く、マテリアルは静かに灯り燃え上がる。
「赤い割りには……この中はあまり香りがないのね。残念」
ブラウ(ka4809)が足音も無く一歩踏み出して階段を眺める。鼻腔を擽るのは庭の残り香と瓦礫に染みついた黴と埃の臭いばかりだ。
カリアナ・ノート(ka3733)の青い瞳が階段をじっと見詰める。
その双眸に不安げな色を見付けたリディア・ノート(ka4027)が肩にそっと手を掛けた。
「カリアナが諦めないなら、私も突き進むわよ」
私も諦めないと誓うように瞼を伏せて。
カリアナがゆっくりとリディアの手を取り、大丈夫だと伝える様に両手で包む。
瞬いて頷き合うと、視線を階段の先へと向けた。
「――私はリディアよ! よろしくね」
隣に聞いた跫音にリディアが声を掛ける。
「俺はレイジ。輝羽・澪次だ――厄介そうな所だぜ」
輝羽・零次(ka5974)は溌剌と答えながらも、罠の中に飛び込むようだと、階段を見上げる目を眇めた。
「ああ、だが考えても仕方ない。進むぞ。先ずは全員で、先で3人、2人と別れることになる」
先ずは自ら前にとロニが先導する。幅を考慮しながら、その隙を埋める位置に輝羽が立つ。
ライトを片手に冬樹が拳銃を構えて警戒を強め、ブラウはライトを腰に吊して刀と盾を構えた。
カリアナとリディアも続き、ハンター達は赤い階段を駆る。
最初の数段で見付ける穴と障害物の転がった跡に斥候の報告を思い出す。
こつん、と何かの転がる音を聞く。
「どこやっ……気ぃ付け」
冬樹が注意を促し、ロニが鎌を空気を薙ぐように据える。
カリアナとブラウがそれぞれに階段の先を指し、転がり始めた大きな岩と、刺の鋭い球を見付ける。
それは辺りの球体を巻き込んで雪崩のように迫ってきた。
跳ね上げられた小石がリディアの横を掠め輝羽の足下に転がった。
「――弾くぞ」
鎌を振り翳して放つ影の弾丸がその動線に絡んで逸らす。
同じく撃ち込まれた冬樹の銃弾が、転がる岩の真ん中を貫いて砕いた。
破片を轢いて動きを緩めるところへ駆け上ると光を放ちその衝撃で辺りの岩をステップから除く。
「……あら、何かしら」
岩が無くなった後にずっと小さな丸い小石が残っていたらしい。
ブラウが足を止めて見下ろすと、その並びは何かを綴っているように見えた。
「『ようこそ』?」
――ようこそ、新しいお人形の誕生のお祝いへ。歓迎します――
ブラウがそれを読み上げていると、カリアナも同じ小石を見付けて駆け寄った。
「こっちにも有るわ」
――どうぞ、そのまま昇っていらっしゃって――
歪虚からのメッセージらしいそれに、悪趣味だと溜息を吐く。
カリアナを庇う様に前へ出たリディアが中空を指した。
――お人形のお友達が増えるのは、とても嬉しいことですから――
読み終えると小石はぱらりと、数段転がりステップの外へと落ちる。
「……巫山戯やがって」
怒気を隠さない声で冬樹が唸る。
「言われずとも、追いついて、確保して、連れて帰るだけだ」
冷静に告げながら、ロニの鎌の柄を握る指が微かに震えた。
ハンター達は再び赤の階段を走り始める。転がる岩や落下する硝子を払い除けて先を急いだ。
●
階段を上り始め地上から大分離れる。外側へ広がる作りの階段は高さよりも長い距離を、転がって、或いは降ってくる石や岩を避けながら走ることを強いる。
残り半周もせずに黒い階段がその内周に加わる辺りで、ロニがハンター達を留まらせた。
黒い階段へ移るのは、とハンター達を見回す。
光を映さない黒に塗られた階段は形状さえ赤い階段と同じに見えるが、そこに並んでいる物は大きく異なっている。
等間隔に並べられた鎧が、こちらを見るようにハンター達に向けた兜を動きに合わせて揺らす。
持たされているらしい武器はグレイブばかりでは無く、鉄靴の動く様子も無いが、鎧の丈夫さは承知していた。
「この上に……」
カリアナが階段の縁に立って見上げる。続く螺旋の先は黒い霧に吸い込まれていく。
この上にいる。そう思うと気が急いていく。
ロニがカリアナとブラウ、そして冬樹に視線を向けた。
「んじゃ、俺らはこっち行くわ。回復は任したで」
グリップを掲げ、冬樹は頷いて口角を上げる。ロニが任せろと視線を返す。
嬢ちゃんら、と冬樹がブラウとカリアナを呼び、ブラウが刀身を翳して黒い階段へ向く。
「待って!……念のためよ」
カリアナが今にも飛び出しそうな足を抑え2人を引き留める。手を翳して放たれた風が緑に煌めいて包み込む。いいわ、と頷いて、カリアナ自身も風を纏った。
「気を付けてね」
「おねーちゃんも、っ」
リディアの声ににこりと笑んで、階段を跳ぶ。下は見ない。竦んでしまうから。
金色の髪を靡かせて黒の上に降り立った。
危ない、と2つ先の鎧が振り回したフレイルが、先に跳んだ冬樹の眼前を掠める。
「させませんわ――初手はどうかしら?」
続いたブラウが咄嗟にその鎖を叩き斬り、ライトの光を先へ向ける。照らし出された鎧は軋む動きで彼等に得物を向けてくる。
2人の後ろに着地したカリアナがすぐに銃を構えて先を狙う。
赤い階段に残った3人も彼等が得物を携え走り出す様子に頷いて転がってくる障害物へ狙いを定めた。
黒い階段を上る3人とペースを合わせながら、ロニ、リディア、輝羽は赤い階段を進む。
彼等の背後、既に通ったステップの上には降ってきた硝子が砕けて、或いはその衝撃でステップ自体が崩れたり穴が開いたりしている。
進む先で揺れる灯りが落ちる様子は無いが、先程浮かんだ石の文字を思うに、この辺りにも歪虚の支配が届いているのだろう。
「怖くなんかないのよ? で、でも用心しないといけないものね!」
揺れた岩を盾に弾いた衝撃で傾ぐ体を留まらせながら、視界に入った遠い地面にリディアが目を瞑って顔を背ける。
青ざめた頬で肩を揺らし、先だけを見詰めながら言う。
下は、見ないように。けれど、周囲の警戒は怠らずに。
数段先で転がった石へロニが影を放ちその動きを逸らす。
空間を縫うように昇る影に弾かれた丸い石は、他の石を巻き込んで落下し、音を立てて砕けた。
「何でこんな物を……」
次へと鎌のハンドルを取り回すと、丈を超す黄金の柄の先、七色の刃が鮮やかな流線を描いた。
空気を裂いて道を開く。薙ぎ払われた障害物は階段の端に散った。
黒い階段の様子も気に掛かるが、不意に絶えた灯りの砕けた硝子片がそれを許さずに降り注ぐ。
破片を払うロニの背後、輝羽は四方へ光りを巡らせるようにライトを向けて死角を潰しながら、脇を抜けて落ちてきた歪な岩を蹴り退ける。
「よっと……リディア、そっちは」
「平気よ。遅れないように進まないと」
止まっている障害物は避け、動いた物は砕いて或いは落としながら3人は進む。
数段先に刺の障害物が幾つも連なっている様子が見えた。厄介そうだとロニが呟く。
「――周りは俺らに任せてくれ」
輝羽の声にリディアが頷いて盾を揺らす。ロニが静かなブラウンの眼を僅かに細めた。
障害物へと進みその寸前へ、転がってくる最中、光を放って全てを弾いた。
マテリアルの籠もった光りが波の様に広がる。
黒い階段へも僅かに至るそれが、鎧の腕を飛ばして掲げた剣ごと空気の鳴る音を伴い落ちていく。
狭い足場で冬樹とカリアナが対岸を狙える位置を探り、銃弾を放つ。
その斜線から外れる場所へブラウが走り、鎧の構えた槍が2人へ至る前に腕の継ぎ目を狙って振りかぶった刃で斬りつけた。
「この鎧、全く血を流さないから愉しくないわ」
深縹の裾がプリーツを広げて揺れ、零れるように手の幻影が伸びてくる。
「――でもそうね、わたしを斬ってくれれば香りが立つかもしれないわね……なんて、冗談よ」
それはブラウの心を写すように、橙の瞳が見上げる先を、本数の疎らな指で指して揺れた。
ブラウは笑って次の獲物はと刀に仕込まれたモーターを駆動させ、低い機械音を辺りに響かせた。
「滅多なこと言わんとき、……行くで」
カリアナの放った数発の銃弾で凹む鎧へ、止めの様にマテリアルを込めて放たれた銃弾が腹のプレートを貫き、階段の外まで弾き飛ばす。先の数体の無力化を見て、硝煙を昇らせるままの自動小銃を低く抱えると冬樹はステップを蹴って駆け上った。歪な階段に乱れるライトの光が無表情にこちらを向く鎧を照らす。
カリアナも銃を構えながらそれに続く。隣の階段を行く姉を気遣うように視線を向けると、息を上げながらも真っ直ぐに前を見据えた。
金属の触れ合う高い音が鳴り響く。止めるわ、とブラウが鎧の大剣を刀身に抑えて2人を先へ促した。
銃声の響く中、細い足が踊るように揺れて敵の刃を躱し、ブラウのマテリアルを得て震える刃が鎧の継ぎ目を剥がしていく。相互に突き付けた切っ先が、ブラウの頬を裂き、鎧を階段から突き落とした。
紅潮した肌に薫った己の血の香りに恍惚と笑むブラウをロニが呼ぶ。ブラウはまだいけますわと首を振った。
「……人形、ね」
打ち続けた銃の反動に痺れる腕を下ろし、カリアナが数メートル先に迫る硝子の階段に陶器の人形を見付けた。
爆発すると聞いているが、それ以上のは少ない。
冬樹も意識を向けるが下りてくる様子も、動く気配すら無い。
行くかと確かめて、辺りの鎧を打ち落とす。空いた空間へリディアを呼んだ。
●
カリアナが風を纏わせリディアが先に硝子の階段へと跳ぶ。
砕けた硝子を貼り合わせた足場は不安定だが、動いて砕ける様子は無い。
カリアナが飛び移るのを見て、進もうと前を向くと1周上の段から1体の人形が降ってきた。
凹凸の乏しい艶やかな白磁に四白の目、弧を描く一筋の紅が現す笑った口。単純な造詣のドレスに緻密に描き込まれた花柄が、単調な顔に独特な不気味さを感じさせる。
目が合ったと思った瞬間に人形はひび割れて、爆ぜる。
「リディアお姉ちゃん――!」
リディアはカリアナを庇う様に盾を構える。
「よ、避け……」
「避けたら、妹を守れないものね。行くわよ!」
衝撃に擦った膝を、被った破片を払ってリディアは立ち上がる。
赤と黒の階段を行く仲間からも気遣う声が掛かるが、リディアは平気だと笑って見せた。
けれど、と足下を一瞥する、爆発の後は広く盾で庇っても圧されている。続けて圧されると落ちかねない。
妹は、巻き込めない。
「……何が有っても、リアちゃんは守るわ」
自身に言い聞かせるようにそう呟いた。
カリアナも人形へ向けて手を翳す、リディアを引き留めて、せめて落ちてくる動きだけでも止められないかと氷の矢を放った。
凍て付く人形は動くことは無くなったが、2人が近づくとその場で爆ぜる。
足下を庇った盾で受け止め爆ぜる前にと凍て付かせ、盾を構えながら蹴り落として駆け上った。
盾にフレイルの刺を弾き、胴を薙ぐように鎧を落とす。
一歩下がって冬樹も次、或いはその次と焦りにぶれる狙いを必死に定めて銃弾を撃ち続ける。落下すれば手数は減るが、鎧の頑丈さは変わらない。
大きく転げた人形が黒い階段へも降ってきた。
「嬢ちゃん、屈んどきぃ」
「あら。任せますわ」
ブラウが見付けるよりも速くその頭上に気付くとその顔の真ん中を撃ち抜いた。
爆ぜる前に砕かれた破片が降る。残った胴体を落として次の鎧へそれぞれに切っ先を、銃口を向ける。
ここからは2人だと輝羽は得物を構え直す。
黒と硝子の階段にも意識を切れないロニの死角を無くすように周囲を、上から落ちてくる岩や或いは人形を警戒する。
「……俺より強い人達だから……いや、俺だって」
出来ることは、有るはずだと得物を握り締め、自身を鼓舞するように昂ぶるマテリアルを巡らせる。
その半周程先、硝子の階段から落ちてきた人形が爆ぜた。
「――ロニ!」
輝羽の声が響くと、すぐに転がってくる岩の音が聞こえた。
弾くのは間に合わないと、眼前の障害を払った体勢から鎌を突いて咄嗟に身体を支える。傾れてきた岩を輝羽が可能な限り砕き落とす。
衝撃が去って、無事かと問うと、全身に傷を負いながら見た目よりはと笑って見せた。
「――ロニさんも怪我をされたのかしら?」
黒の階段からブラウが声を掛けた。少し無茶をしすぎたと、辺りに鞭に槍にと様々な武器と鎧の腕や兜を散らかして。
更に迫りそうな人形を打ち落とし、寸前に届く大剣を繰る鎧と対峙しながら冬樹は振り返らずに頼むと告げた。
祈りが広がり、傷が塞がる。完全では無いが動ける程度に回復するとブラウはすぐに鎧へと走り、輝羽も得物を握り直した。
●
霧の中まで昇りきると、硝子と黒の階段が途切れる。
人形がいなくなるとカリアナが膝を突いて座り込む。リディアが駆け寄るも支える程の力は無い。
凭れさせるように座っていると追い付いたロニが無事を問う。
「……大丈夫。リアちゃんは?」
「平気よ! お姉ちゃんの方が……っ」
声を詰まらせて抱き締める。これ以上血を流さないでと腕が震えた。一先ずの無事に安堵しながらも、リアの傷に眉を寄せ他に怪我はと黒い階段を振り返った。
先に赤い階段へ移った冬樹が跳べるかとブラウを振り返る。立ってはいるものの、あれからも無茶を重ね、利き足の大腿に深い傷を得て隙間を跳ぶのは心許なく、冬樹にも受け止められる程の力は残っていない。
「――そちらに行く。待っていてくれ」
硝子の階段寄りに集まれる者の治療を終えたロニが移動し、ブラウへ手を伸ばした。
霧の中を続く赤い階段を上る。やがてそれが晴れると、ハンター達の眼前に小さな扉が現れた。
「……遊戯部屋?」
ドアプレートには似つかわしくない洒落た文字でそう綴られている。
細く開いたドアの隙間から灯りが零れ、そして。
「随分早かったのね、お祝いにはもう少し時間が掛かるのに――ねえ、ユリア」
アームチェアに座らされたユリアは青い顔で目を閉じている。その傍らにはヴェールを被った影が揺れ、ハンター達の前へ歩み出た歪虚はハンター達を見回してうっそりと微笑んだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/13 00:09:45 |
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螺旋階段のその先へ ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/04/15 04:45:27 |