ゲスト
(ka0000)
惨殺乙女人形奇譚
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/28 19:00
- 完成日
- 2014/08/30 23:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
遺言を執行する。
それはそのために生まれたのだから、そこに善悪を差し挟むことはない。
「執行します」
この世の邪なる現実に、敬愛する主の遺言を執り行う。
縁を切る、意図を切る、衣を切るために、その手に鋏。
恐怖に歪んだその顔を、貴様は何度見てきただろうか。
譫言のような命乞いを、貴様は何度踏みにじったのか。
それら全ては感覚質を伴わない虚構であり、情緒ではなく、ただ刺激に対して然るべき処理を行った結果である。
即ち、便宜的に彼女と呼ばれるそれに刻まれた、指向性という遺言。
遺言を執行する。
それが存在意義であるから、善悪などは問うことがない。
情緒を感じさせる仕草も、悲哀を思わせる表情も――それはマテリアルのうねりが再現する上辺だけの反応だ。
そこにあるのは妄執の産物、終わらない悲劇、悪意の権化……血に濡れた人形、それと。
裁断された人の皮――。
●
男は悪党であった。
弱者を虐げて利を得て欲を成す事を好んでいた。
盗みを働いた貧民街の孤児を見せしめに殺害し、借金のカタに魔術師の娘をバラして売り捌き、人を攫っては違法な業務に従事させ、露見すれば責任をなすりつけた。
そうして得た金で娼館へ出向き、酒を飲み、食道楽をして暮らしていた。
嗜虐的な人間であった。それなりの武力も保持していた。
女も金も酒も、不自由はしなかった。男は人生の絶頂にいた。
それが来るまでは。
路地裏の深い所で、男は借金を返せなくなった女を組み伏せていた。
そこにふらりとそれはやってきた。
「執行します」
鋏。
そして、人形である。
そのドレスの斑な黒が凝固した血の色だと、暴力に慣れた男はすぐに気付いた。
「貴方ですか」
その顔がいつか惨殺した少女の顔だということも、すぐに気付いた。
女を追い詰めるために男は袋小路にいたわけであり、逃げ場がないことも――すぐに――鋏が開く――背に壁――笑う人形――。
「私と同じにしてあげます」
――じょき。
●
ここ一月、その都市では不可解な殺人事件が頻発している。
路地裏、廃墟、そういった人の寄り付かない場所の中でも後ろ暗い住人が使う区域で、ズタズタに刻まれた男の死体が散見されるようになった。
「犠牲者の男の殆どは、悪どい商売や違法な取引を生業にする者でした。鋏に類するかなり大型の裁断用具によって四肢と首を落とされ、腹を開かれていたようです」
殆ど、という言い回しに違和感を覚え、尋ね返す。
眼鏡の凛々しい受付の美女も小さく頷いた。
「残る一部は、その男たちによって搾取を受けた被害者たちです。少数の男性と、多くの女性が。異質なのは、それら『真っ当な被害者』の死に方なのです」
彼らは、男の殺害に巻き込まれて死んでいたらしい。組み伏せられたり、殴られて地に倒れていた結果、男の裁断時に纏めて切断されたようだ。
「状況、状態に関わらず、真っ当ではない男性を狙って殺害し、その結果巻き込まれて搾取されていた被害者も死んでいる。目標の選定基準からして怨恨の線と見て間違いありませんが、一方でその犯行は無差別的で、二次被害を考慮していない」
真っ当でないなどと言うならば、一番おかしいのはこれをやっている犯人だ。
「さて、ここまでであれば我々ハンターズソサエティの管轄外なのですが、つい先日進展がありました。真っ当な被害者が、生きて帰ってきたのです」
足首から下を綺麗に喪失したその被害者は、警察機関にこう語ったのだ。
曰く――『泣き笑いをした女人形の雑魔が、馬鹿げた膂力で男を振り回して叩きのめすと、身の丈ほどの大きさの鋏でじょきじょきと切り開いた』。
「今回の依頼は、その雑魔の破壊、停止です。依頼概要は以上です」
遺言を執行する。
それはそのために生まれたのだから、そこに善悪を差し挟むことはない。
「執行します」
この世の邪なる現実に、敬愛する主の遺言を執り行う。
縁を切る、意図を切る、衣を切るために、その手に鋏。
恐怖に歪んだその顔を、貴様は何度見てきただろうか。
譫言のような命乞いを、貴様は何度踏みにじったのか。
それら全ては感覚質を伴わない虚構であり、情緒ではなく、ただ刺激に対して然るべき処理を行った結果である。
即ち、便宜的に彼女と呼ばれるそれに刻まれた、指向性という遺言。
遺言を執行する。
それが存在意義であるから、善悪などは問うことがない。
情緒を感じさせる仕草も、悲哀を思わせる表情も――それはマテリアルのうねりが再現する上辺だけの反応だ。
そこにあるのは妄執の産物、終わらない悲劇、悪意の権化……血に濡れた人形、それと。
裁断された人の皮――。
●
男は悪党であった。
弱者を虐げて利を得て欲を成す事を好んでいた。
盗みを働いた貧民街の孤児を見せしめに殺害し、借金のカタに魔術師の娘をバラして売り捌き、人を攫っては違法な業務に従事させ、露見すれば責任をなすりつけた。
そうして得た金で娼館へ出向き、酒を飲み、食道楽をして暮らしていた。
嗜虐的な人間であった。それなりの武力も保持していた。
女も金も酒も、不自由はしなかった。男は人生の絶頂にいた。
それが来るまでは。
路地裏の深い所で、男は借金を返せなくなった女を組み伏せていた。
そこにふらりとそれはやってきた。
「執行します」
鋏。
そして、人形である。
そのドレスの斑な黒が凝固した血の色だと、暴力に慣れた男はすぐに気付いた。
「貴方ですか」
その顔がいつか惨殺した少女の顔だということも、すぐに気付いた。
女を追い詰めるために男は袋小路にいたわけであり、逃げ場がないことも――すぐに――鋏が開く――背に壁――笑う人形――。
「私と同じにしてあげます」
――じょき。
●
ここ一月、その都市では不可解な殺人事件が頻発している。
路地裏、廃墟、そういった人の寄り付かない場所の中でも後ろ暗い住人が使う区域で、ズタズタに刻まれた男の死体が散見されるようになった。
「犠牲者の男の殆どは、悪どい商売や違法な取引を生業にする者でした。鋏に類するかなり大型の裁断用具によって四肢と首を落とされ、腹を開かれていたようです」
殆ど、という言い回しに違和感を覚え、尋ね返す。
眼鏡の凛々しい受付の美女も小さく頷いた。
「残る一部は、その男たちによって搾取を受けた被害者たちです。少数の男性と、多くの女性が。異質なのは、それら『真っ当な被害者』の死に方なのです」
彼らは、男の殺害に巻き込まれて死んでいたらしい。組み伏せられたり、殴られて地に倒れていた結果、男の裁断時に纏めて切断されたようだ。
「状況、状態に関わらず、真っ当ではない男性を狙って殺害し、その結果巻き込まれて搾取されていた被害者も死んでいる。目標の選定基準からして怨恨の線と見て間違いありませんが、一方でその犯行は無差別的で、二次被害を考慮していない」
真っ当でないなどと言うならば、一番おかしいのはこれをやっている犯人だ。
「さて、ここまでであれば我々ハンターズソサエティの管轄外なのですが、つい先日進展がありました。真っ当な被害者が、生きて帰ってきたのです」
足首から下を綺麗に喪失したその被害者は、警察機関にこう語ったのだ。
曰く――『泣き笑いをした女人形の雑魔が、馬鹿げた膂力で男を振り回して叩きのめすと、身の丈ほどの大きさの鋏でじょきじょきと切り開いた』。
「今回の依頼は、その雑魔の破壊、停止です。依頼概要は以上です」
リプレイ本文
●
幾らかの調査と下準備を済ませて、人気のない路地裏へと分け入る。
辺りはミスティカ(ka2227)の機転で人払いされている。廃墟に配置につき次第、作戦開始だ。
「……女人形の雑魔、か。多少は気が楽だね」
「どうして?」
内田 真奈美(ka1711)はクラウス・エンディミオン(ka0680)に聞き返した。
「例え雑魔でも、レディの贓物を引き摺り出すのは紳士として気が進まないからね」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は頭を振った。
「下劣な悪党を誅さんとする、その意は酌もうとも……さりとて罪無き者をも巻き込む罪過、功を打ち消し尚余りある」
八城雪(ka0146)はそれを鼻で笑った。
「興味ねー、です。それより、必殺の一撃持ってるとか、すげー楽しそー、です」
彼らが廃墟に布陣を終えた頃、アーラ・シルヴィクス(ka2979)は路地裏を巡回していた。
「人の怨みが、雑魔を生んだのでしょうか。そう考えると少し思うところもありますね……」
アーラは沈んだ顔で、荒れた路面を眺めた。彼女は廃墟周囲の路地裏を探索する役目だ。
「ですが、これではもうただの暴力です。早く、止めないと」
各員布陣が完了したところで、アウレールが魔導短伝話でティアーチェ・バルフラム(ka0745)に連絡を入れる。
マッシュ・アクラシス(ka0771)は、その隣で真意の伺えない顔でティアーチェに語った。
「悪党役ということで、少々手荒な真似をするかと思いますが……」
「……あんまり変なことはしないでよね」
「基本的には物理的な暴力のつもりですよ。適度に痛がってみせてください」
飄々とした態度のマッシュを、ティアーチェは不信げに見た。
『……解っているとは思うが、本当に手を出してはダメだよ?』
短伝話の向こうから、クラウスに釘を差されるくらいである。
「心外ですね。ただの演技ですよ?」
『皆さん、雑魔を発見しました』
アーラのその言葉に、一同に緊張が走る。
「……それでは、行きましょうか」
「えぇ、そうしましょう」
努めて悪党の様子を装い、マッシュは足でティアーチェをせっついた。
●
人気のない路地裏の一角、廃墟の奥。それなりに広い空間の中に、か細い悲鳴が響き渡った。
「や、やめてっ……」
抵抗するエルフの女性の腹に、剣のナックルガードがめり込んだ。
よろけて腹を抱えてむせるエルフを、男は表情一つ変えずに足蹴にした。
「聞き入れる必要がありますかね。貴女は借金のカタであり、私の所有物だ」
「ご、ごめんなさい、お金はちゃんと用意しますから……」
近くでカランと空き缶が転がる音がした。
「無い袖を振らずとも良いのですよ。私を楽しませてくれれば……。さぁ、立ちなさい」
言われた通りに、震える足で立ち上がる。その耳の先を唐突に、銃弾が掠めていった。
「ひっ――」
「おや、外してしまいましたか?」
黒髪の男は銃口をゆらりと彼女に向ける。どこかで鈴の音が鳴った。
エルフの女性は耐え切れずに涙をこぼし、髪を振り乱して叫んだ。
「許してください、お願いしますっ!!」
「はてさて、私は何から貴女を許せばいいのでしょうか」
わざとらしく小首を傾げる男に、女性は恐怖に身を震わせ、体を抱きながら壁際まで後退していった。
男が半ば覆いかぶさる形で彼女に銃口を押し付け。
「執行します」
――釣れた、と皆が感じた。
廃墟の深くの最も戦いやすいであろう位置をあらかじめ調査し、人払いをして敵を追い込むのが今回の作戦だ。アーラも、他の味方も、とうに雑魔は捕捉していた。
「来ましたね」
マッシュは振り向きざまに引き金を引いた。物々しい鋏が弧を描き、銃弾を弾き飛ばす。
「さて、味方が集まるまでは時間を稼ぎますか……差し当たり死なない方向で」
ティアーチェはそそくさとマッシュのそばを離れた。
「なんですか」
「いや、危ないし」
彼は肩を竦めて、引き金を引いた。離れたところから、ティアーチェも集中して火炎の魔術を練り上げる。
その上から、崩れた天井から飛び込む形で、雪がグレートアックスを叩きつけた。強烈な一撃が人形の肩を打ち据えるが人形はすぐに体勢を立て直した。傷は浅く、身にまとったゴシック調のドレスが破れた程度。球体関節がぎしりと鳴った。
「あなたもそうですか?」
「なかなか、じょーぶ、です。これ、楽しみ甲斐が、ありそー、です」
さらにその背後、隣の部屋からミスティカが急襲する。長距離を飛ぶように移動し、鋭い一閃で傷をつけた。
「硬いわね。骨が折れそうだわ」
更にアウレールも降りてくる。空き缶やら鈴の音は彼が仕込んだもので、距離に応じた合図と言ってもいい。即興だが、囮の二人は声や仕草をそれに合わせていた。
降下しざまのエストックの一突きを、人形は鋏の柄で受け流した。
アウレールは大きくその場を飛び退くと、改めてじっとりとした視線をマッシュに向けた。マッシュはやれやれと肩を竦めた。
外に待機していたクラウスと真奈美、雑魔を追ってきたアーラも建物内部へやってくる。半ば包囲するような形で、おおよそ十メートル四方の空間に布陣を終えた。
戦場は考えうる最良の立地だ。瓦礫と朽ちた家具を先んじて退けてあるから、障害物はなく足場はフラット。あとは古びた床に気を払えばいい。
「……これはこれは。随分と可愛らしい連続殺人鬼じゃないか」
クラウスの言葉に、少女人形は裾を摘んで一礼してみせた。
「遺言を執行します。邪魔はなさらぬよう」
鋏の持ち手に両腕を差し入れ、くるりと回して得物を構え直した。
感情に乏しくとも、言葉を話し仕草を取る姿は人間的で、……いや、人らしさを感じさせるからこそ、ぞっとするほどに機械的だ。
今にも泣き出しそうなその顔さえ、ひとつの模倣の結果でしかない。
「その遺言というのは、一体なんだい」
クラウスの言葉に逡巡するその様子さえ、刺激に対する反応でしかないという。
「今すぐにお見せ致します」
人形はマッシュだけを見ていた。彼は再三肩を竦めて、銃器を構えた。
そう、それは決して行動を変えない。あるべきことはただひとつ、憎悪を晴らすことだけ。
アーラは声に出そうとして、口を噤んだ。彼女は色々調べてきた。だが確証はない。確証はないし、無意味だ。
「どーでもいい、です。今すぐ、ぶっ壊してやる、です!」
雪の言葉の通りなのだから。
獰猛に飛びかかった雪が長大な斧を振り下ろし、同じく巨大な鋏がそれを打ち落とす。ひらりと踊るように半歩下がる人形へクラウスが立ちふさがった。
「申し訳ないが、その遺言は聞き入れられない!」
そのままリボルビングソーを突き出した。ドレスの胸部が引き裂かれ、がりっと嫌な音を立てて陶器のような肌が削れる。
マッシュに固定されていたガラス玉の眼球が、ぎょろりとクラウスを見た。
「貴方もですか」
入れ替わるようにミスティカと真奈美が飛び出し、アウレールが挟撃を仕掛ける。アーラは機導術で雪の攻撃力を強化した。
「貴方も、貴女も、貴女もですね」
攻撃に対して、人形は半ば回避を放棄する形で反撃に出た。
「当たらないわよ」
人形は閉じたままの鋏を鈍器のように振り回し、ミスティカはそれを機敏にかわす。だが鋏は勢いを殺さぬまま、今度はアウレールへと襲いかかった。彼はナイフとエストックを交差させて受ける。
「ぐぅ……!?」
強烈な手応えを受けきれず、アウレールは後ろへ飛んでどうにか勢いを減じた。
「恐るべき威力だ」
真奈美も息を呑んだ。当たればただでは済まないだろう。
言葉もなく鋏を振り回す少女の人形に対し、ハンターたちは果敢に挑みかかった。
●
暫くの攻防を経て、人形はボロボロになりつつあった。ゴシックドレスのスカートは破られ、袖は中途半端に切れてぶら下がっている。
それでも人形は平坦ながらも強烈な戦意を張り巡らせて、ハンターたちを威圧する。
ふと、人形は構えを変えた。槌を振り回すような構えから、鋏を真っ直ぐに突き出した構えを取る。
「来やがれ、必殺技、です」
果敢に挑みかかる雪の斧を打ち払うと、それは鋏を開いて差し入れた。
「しまっ」
「私と同じにしてあげます」
獣が顎を開くように、死神が鎌を振り上げるように、人形の開いた鋏は彼女を丸ごと飲み込むように、突き出した。
「させるか、です」
雪は両手で鋏の刃を掴んで、辛うじてそれを防ぐ。が、このままでは胴体ごと真っ二つだ。
「これは少々マズいな……!」
クラウスはリボルビングソーを繰り出すが、彼女は人形らしく人体の可動範囲を超えた動きで脚部を振り回して受ける。脛に傷が入るが、彼女の体勢も、拘束力も緩まない。
「こいつ、なんつー、馬鹿力、です……ッ!?」
雪の両手の防刃グローブがミチッと不快な音を立て、ゆっくりと裂けていく。
「雪さん!」
アーラの防性強化が雪の両手を保全するが、切断攻撃までは防げまい。
「はぁっ!」
背後から真奈美が振り下ろしたメイスが直撃するが、人形は一心不乱に雪の切断に力を入れている。
「一斉に行きましょう」
ミスティカの言葉にアウレールとマッシュが頷く。
「狙いは腕だ。いくぞっ!」
アウレールの全力を込めた突きが左腕に、マッシュのサーベルが強かに右腕を打つ。更にミスティカのジャマダハルが一撃を入れて、ようやく人形の拘束が緩んだ。
人形が負けじと力を入れた瞬間、その顔面に火矢が炸裂した。
「くぐり抜けて!」
ティアーチェの言葉通りに、雪は全力で刃を押し返し、しゃがみこんだ。頭上で閉じた鋏が凶悪な音を立てる。
「一気に行きましょう!」
真奈美がメイスで一撃を入れてそう叫ぶ。
ティアーチェが、最大威力で炎の矢を解き放った。
「さて、それじゃあ、今は御眠りなさいな。人形らしくね」
それは胴部を直撃し、人形を僅かによろめかせる。返す刀と人形が閉じた鋏を振り回すが、雪は斧を手に取るとそれを受けて、クラウスも祖霊の力を借りて傷を最小限にとどめた。
「そろそろ、終わりにすんぞ、です」
グレートアックスを勢い良く振り回し、雪は飛びかかった。
「ぶっ飛べ、です!」
逆袈裟に振り上げられた斧を鋏でどうにか受け、人形が飛び退る。だが着地した瞬間、傷んだ床がめきめきと壊れ、人形の動きを拘束した。
マッシュは大きく剣を振りかぶる。防御は考えない。この場で倒しきる。
「人を裁くのは人の法以外にあり得ません。悪党を狩る人形……歪虚風情が、酷く余計なお世話ですね」
そのまま正面から踏み込んだ。
「……これに対するは裁き等と上等なものではありません。単なる私の、仕事ですよ」
それを受けた鋏をマッシュは大きく跳ね飛ばす。
「貴女のそれは、間違っているから……だから、ここで止めます!」
アーラの魔導銃が火を吹き、鋏を持つ手を打ち据える。その隙にミスティカが斬りかかった。
「何がそこまで狂気に駆り立てるのか、別に興味は無いわ」
かち上げられた鋏が振り戻されるよりも早くジャマダハルが閃き、腕を破壊する。
「ただ、哀れな人形を縛る運命の糸を断ち斬って、全てを無に帰すだけ――さようなら」
そして今の今まで力を貯めていたアウレールが大きく踏み込んだ。
「罪には罰を。祖国の国是に則り、汝死を以て償うべし」
体重と勢いの乗ったエストックの一撃が、遂に人形の胴部を貫通した。
●
アウレールが剣を引くと、ずろり、と陶器の体が耳障りな低音を響かせた。
カタカタと、人形の体が震えて崩れる。
「わ、私、を……」
その顔が悲哀から恐怖へと変わっていく。
それすらも決められた上辺だけの反応だとすれば、果たしてこれは――この雑魔は、どのようにして生まれたのだろう。
あるいは、そんな反応を記憶してしまうような何かが。
「……遺言は要らないよ。君の様に縛られるのは御免だ」
クラウスが首を横に振って、その続きを遮った。
そのガラス玉の瞳から歪んだ光が消え失せる。内部を巡っていた負の何かが霧散して、形を維持できなくなっていく。
鋏がボロボロと崩れていくのを、雪は惜しそうに見つめた。
「……気になって、調べたんです。最初の事件の起きるちょっと前に、何か特別なことがなかったか」
形を失っていくそれを見ながら、アーラはぽつりとこぼした。
「暫く前に、ある男性とその娘さんが、死体で見つかったことがあったそうです。男性は首を吊って自殺し、娘さんの遺体は……」
その先を想像して、真奈美は顔をしかめた。口を噤んだアーラに、ティアーチェが問いかけた。
「その娘さん、もしかして」
沈黙が何よりの答えだった。
マッシュは剣を収めて、いつもどおりに淡々と――そう、淡々と呟いた。
「それでも、これはヴォイドです。それが答えでしょう?」
その言葉に、アウレールが苦い顔で呟いた。
「こやつ一体を倒したところで、同じ事は続くのだろう」
だとすれば、と彼は続ける。
「このような場所を、環境を、無くすこと……力ある者が真に為すべきことは……」
去り際、ミスティカが花を添えると、人形の首がころりと落ちて、転がった。
その表情は、とても、
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 マッシュ・アクラシス(ka0771) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/08/28 01:38:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/23 17:40:06 |