ゲスト
(ka0000)
とあるエルフの、生きる力(みち)
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/17 09:00
- 完成日
- 2016/04/25 19:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはエルフハイム。エルフの一大集落とされる帝国南部の巨大な森。
永らくの人間達との確執と、少しずつ失われゆく種の限界に立たされた長命不老の彼らは、外と交流しようとする維新派、今までの鎖国然とした体制を貫く恭順派と派閥を作り内部でも虎視眈々と同族と睨みあう、表向きには穏やかだけれども。そんな世界を作り上げていた。
だが、そんなエルフも命は命。人より長いと言えどもいずれは尽きて自然に還る。
マテリアルと親和性の高いエルフ達はとかくマテリアルの歪みを恐れる。正のマテリアルに満ちた空間は彼らの意識を高次元に導くが、負のマテリアルにさらされれば身体も精神も歪み、死の病と隣り合わせになってしまう。
だから、維新派も恭順派も。すべからく命を昇華した後はエルフハイムから外れる。死は負のマテリアルを生み出す可能性があるから、極力エルフハイムを外れた森の中に埋葬する。大地は負のマテリアルを生まないようにゆっくりとその死骸を包み込んで、新たな生を作り、そして森を広げていくのだ。
故に森はエルフ達にとって祖先であり、家族であり、兄弟であるため、振り返ることなどそうはない。いつも身近に彼らはいる。
それでも人間達が墓標に祈りを捧げるように、近親者の死後を悼み埋葬した場所に花を送ることも珍しくはなかった。
今日、エルフの娘、サイアが自らの両親が眠る場所にやって来たのもそれが理由であった。
「まったく……ミーファったらお父様とお母様の御命日にも帰ってこないなんて」
彼女の妹は人間社会に飛び出たまま、手紙はよこすが顔は見せない。
サイアだって外が賑やかで楽しい世界であることは知っている。だが、エルフが住むような世界ではないし、何より自分たちを育ててくれたこの森での役目を放棄して飛び出す妹の思考が理解できなかった。
何よりマテリアルの歪み、自然ならざる世界の臭い。サイアは好きになれなかった。
そう、目の前から漂うような、様々な臭いが入り混じり吐き気を催すような……
「!」
サイアは異変に気が付いて足を止めた。この胸苦しさは森では感じたことはなかった。
恐る恐る繁みに隠れ、その向こうに広がる若い森を覗き込むと。そいつはいた。
巨人だった。4mはあろうか。
筋ばかりで顔はなく、ところどころに毛が生えているばかり。いや違う。頭も顔も、首も胸も腕も腹も。全部死体で作られていた。腕を上げたままの死体を7体か8体と組み合わせて一つの脚とし、ところどころに映える毛とは髪の毛であった。男もいれば女もいる。腐り落ちてほぼ白骨化したものもいれば、ぐずぐずの腐敗のど真ん中にいるものもいる。
それはゆっくりと木の手前にうずくまると肋骨で作った指で、地面をほじくり返していた。
「やめて……」
そこは大切な人が眠る場所なの。
ぽそりと呟いたその言葉は巨人に届くはずもない。
『オォ ミツケタゾォイ』
どこから声を出しているのか、くぐもった翁の声を上げたその巨人はずるると骨を引きずり出した。
「やめて」
巨人の身体がぐにゃりと歪んで胸元に大きな穴が現れ、その中に骨をねじ込んでいく。さも嬉しそうに。
自分の親が食われていく。大切な想い出が。自らの心の支えが。
「やめてぇぇぇぇっ!!!!」
サイアは叫んだ。戦ったことなど一度もない。一般人なのだ。
だが、神聖な領域荒らす者をサイアは指をくわえて見ているほど冷静な臆病にはなれなかった。
『イイ素体ジャナア 身体ハゾンビニ 血ハ剣ニ使オウカ』
どこで音を出しているのかわからないが、翁のような声が天から降ってくるころには、サイアは吹き飛ばされて大樹に磔にされていた。
痛みで身体が悲鳴を上げ、衝撃で呼吸ができず、サイアはくらくらとした。
だが、負けるわけにはいかない。
その想いが、奇跡を呼んだのか。
一つは打ち付けられた大樹からを這うツタが、彼女の怒りに応えてマテリアル風と共に渦巻き、力を貸してくれたこと。
そして、もう一つは、『あなた』達が巨人との間に立っていたことだった。
永らくの人間達との確執と、少しずつ失われゆく種の限界に立たされた長命不老の彼らは、外と交流しようとする維新派、今までの鎖国然とした体制を貫く恭順派と派閥を作り内部でも虎視眈々と同族と睨みあう、表向きには穏やかだけれども。そんな世界を作り上げていた。
だが、そんなエルフも命は命。人より長いと言えどもいずれは尽きて自然に還る。
マテリアルと親和性の高いエルフ達はとかくマテリアルの歪みを恐れる。正のマテリアルに満ちた空間は彼らの意識を高次元に導くが、負のマテリアルにさらされれば身体も精神も歪み、死の病と隣り合わせになってしまう。
だから、維新派も恭順派も。すべからく命を昇華した後はエルフハイムから外れる。死は負のマテリアルを生み出す可能性があるから、極力エルフハイムを外れた森の中に埋葬する。大地は負のマテリアルを生まないようにゆっくりとその死骸を包み込んで、新たな生を作り、そして森を広げていくのだ。
故に森はエルフ達にとって祖先であり、家族であり、兄弟であるため、振り返ることなどそうはない。いつも身近に彼らはいる。
それでも人間達が墓標に祈りを捧げるように、近親者の死後を悼み埋葬した場所に花を送ることも珍しくはなかった。
今日、エルフの娘、サイアが自らの両親が眠る場所にやって来たのもそれが理由であった。
「まったく……ミーファったらお父様とお母様の御命日にも帰ってこないなんて」
彼女の妹は人間社会に飛び出たまま、手紙はよこすが顔は見せない。
サイアだって外が賑やかで楽しい世界であることは知っている。だが、エルフが住むような世界ではないし、何より自分たちを育ててくれたこの森での役目を放棄して飛び出す妹の思考が理解できなかった。
何よりマテリアルの歪み、自然ならざる世界の臭い。サイアは好きになれなかった。
そう、目の前から漂うような、様々な臭いが入り混じり吐き気を催すような……
「!」
サイアは異変に気が付いて足を止めた。この胸苦しさは森では感じたことはなかった。
恐る恐る繁みに隠れ、その向こうに広がる若い森を覗き込むと。そいつはいた。
巨人だった。4mはあろうか。
筋ばかりで顔はなく、ところどころに毛が生えているばかり。いや違う。頭も顔も、首も胸も腕も腹も。全部死体で作られていた。腕を上げたままの死体を7体か8体と組み合わせて一つの脚とし、ところどころに映える毛とは髪の毛であった。男もいれば女もいる。腐り落ちてほぼ白骨化したものもいれば、ぐずぐずの腐敗のど真ん中にいるものもいる。
それはゆっくりと木の手前にうずくまると肋骨で作った指で、地面をほじくり返していた。
「やめて……」
そこは大切な人が眠る場所なの。
ぽそりと呟いたその言葉は巨人に届くはずもない。
『オォ ミツケタゾォイ』
どこから声を出しているのか、くぐもった翁の声を上げたその巨人はずるると骨を引きずり出した。
「やめて」
巨人の身体がぐにゃりと歪んで胸元に大きな穴が現れ、その中に骨をねじ込んでいく。さも嬉しそうに。
自分の親が食われていく。大切な想い出が。自らの心の支えが。
「やめてぇぇぇぇっ!!!!」
サイアは叫んだ。戦ったことなど一度もない。一般人なのだ。
だが、神聖な領域荒らす者をサイアは指をくわえて見ているほど冷静な臆病にはなれなかった。
『イイ素体ジャナア 身体ハゾンビニ 血ハ剣ニ使オウカ』
どこで音を出しているのかわからないが、翁のような声が天から降ってくるころには、サイアは吹き飛ばされて大樹に磔にされていた。
痛みで身体が悲鳴を上げ、衝撃で呼吸ができず、サイアはくらくらとした。
だが、負けるわけにはいかない。
その想いが、奇跡を呼んだのか。
一つは打ち付けられた大樹からを這うツタが、彼女の怒りに応えてマテリアル風と共に渦巻き、力を貸してくれたこと。
そして、もう一つは、『あなた』達が巨人との間に立っていたことだった。
リプレイ本文
屍の巨人がサイアに向かって腕を振り下ろした瞬間。巨人の肉がへしゃげる嫌な音が響いた。
「必ず守るわ、貴女も、この森も」
真上からその拳を叩き潰した高瀬 未悠(ka3199)が真紅の瞳をちらりと向けると、連撃を警戒して槍を構えなおして大きく跳んで、左方に移る。
「誰……?」
続くもう片方の拳が、小盾の前で弾け、衝撃で軽く編み込んだ金の髪が揺れる。ティア・ユスティース(ka5635)であった。
「正義の名において、悪を退けよ!」
ティアがそう叫ぶと、閃光が盾より膨れ上がり、巨人にたたらを踏ませた。
光が止み、元の深緑に包まれた世界にはクレール(ka0586)、リュカ(ka3828)、ルナ・レンフィールド(ka1565)がサイアの前にそれぞれの武器を手に現れていた。
突然の事にサイアはまだ警戒の色が取れない中、彼女にふぁさとレザーベストがかけられた。その人物だけサイアは見たことがあった。ユリアン(ka1664)だ。
「まずは生き延びよう。話はそれから」
「……わかりました」
サイアはすぐにレザーベストに袖を通すと同時に、その胸に覚醒のツタが渦巻かせ、傷を癒して立ち上がった。
「ナンジャ ぼーるノヤツ。ココハ警戒サレテイナイトカ でたらめヌカシヨッテ」
半円形に取り囲むハンターにたじろいだのか、巨人は数歩下がって距離を置くと、奇怪な音を操ってそう言葉にした。
「その姿は前にも見た事があるな。ヴォールとは違う剣機の作成者か」
数歩下がったとはいえ、ユリアンの攻撃レンジから外れられるわけもない。新緑の風がサイアの背後で木の葉を舞い散らせたかと思うと、次の瞬間、ユリアンは巨人の背中に現れた。同時にワイヤーウィップが宙を弧を描き、その奇怪な頭部と首に絡みつかせて肩に着地すると、刀で脊髄のあたりから喉に向かって一気に刺し貫いた。
「アヒャ……! か、か、風ノ勇者。コンナトコロニモイタノカ。痛イイイイ」
「その名で、呼ばないでくれ」
確信した。同じような巨人と相手した時にユリアンはそう呼ばれたのだ。
ユリアンは苛立ちを返すように刀を捻じって傷口を広げると巨人が悲鳴を上げた。だが、次の瞬間、ユリアンは足をかける部分に違和感を覚える。
離れられない。
「!」
足が巨人の肉に埋もれていた。いや、巨人を構成する屍の一つがユリアンを掴んでいる。
「ヒー ヒー。苦シイ。風ハ封ジテ シマワントナァ」
跳び下がろうにも足が動かない。その間に。巨人の背中から小さな腕が伸びたかと思うと服を、髪を、引きはがそうとする腕を掴む。
ズル、ルルルルル。
「ユリアンさん!!!」
ルナの声に応じようとするユリアンの声すらも巨人は取り込み、しばらく酔いどれのように踊った。
「アヒャヒャー。イーイモノモーラッタァ♪ ぼーるノ土産ニシヨウ」
「お前ぇぇぇェ!!!」
次の瞬間、クレールがカリスマリスを振り上げると、カリスマリスから光輝く偃月刃を叩きつけた。
「返せ、返せ、返せよ、返せ!! ユリアンさんも、遺体も。お前が触れていいものじゃないんだよっ」
三振りの光の刃を一斉に躍りかかって、巨人の足を切り刻み、足をつかせてもクレールは手を止めない。
振り下ろした腕を返して切り上げ、そのまま蹴りを叩きこんで跳びあがると、また身体をねじって紋章剣月雫を雨風のようにねじりこんだ。
「アギャャャャア コンノ小娘……!」
巨人はくぐもった悲鳴を上げると、頭をがくりと落とした。そこから魔獣の口をあけたヨダレの生臭い匂いと、何かが焦げる臭いが漂う。
「うっるさい! この変態ゾンビ!!」
ユリアンが以前であったことがあると聞いていたため、それがどんな動きをしているか、把握済みだった。
それはクレールだけでなく、全員が。
「大地の鼓動、その力を此処に!」
ルナがすかさずリュートの腹をリズムよく叩くと、クレールの足元が大きく盛り上がり、巨人が吐き出す焦熱の炎を防いだ。
同時に、その大地の上昇で届くようになった魔獣の口目がけて、クレールが月雫を乱舞させる。
「せやぁぁぁぁぁぁ、削れろォ!!!」
みじん切りにするように魔獣を切り刻んだ次の瞬間、クレールの顔と飛び散る血風に影がかかった。
「自然ならざる存在だな。何しに来た? 誰に命令された?」
髪は緑、肌は樹皮と半分化したリュカが跳躍一つ。
魔獣の口に槍をねじ込み、跳んだ勢いで口内を派手に抉った。
「アッキャアアア。れあナ竜種の首ガァァァ」
「外の屍は単なる鎧か。声はもっと内側から聞こえる。どうせ痛くもないだろう」
じっと声を聞いていたリュカは冷徹な瞳を向けてそう言った。
痛がっている声は聞こえるが、動きがにぶっているわけでもなし、その声色はどこか楽しそうだ。単なる遊びなのだろう。
全部遊び……遊びでハンターと戦い、悪戯で森を穢している。
静かなリュカであっても、嫌悪の情がふつふつ沸き立つ。
リュカは槍をねじると一閃して、その魔獣の頭を巨人の半裂きにした。
「返してもらうわよ。全部」
ぶらりとなった首に向かって未悠が真下から跳ねるようにしてロンゴミニアドを大きく回転させた。
風車のように回転するその一撃が魔獣の首を飛ばすと、未悠は跳躍して、そのまま背中を切り裂いた。ユリアンが埋まった背中へ。
「手を!!」
血にまみれた手が僅かに巨人の背から出ると、未悠はためらわずそれを掴んで引きはがした。
大量の追いかける屍の腕を引き裂くようにしてユリアンがずるりと出て来た。
「今、癒します!」
「げほ……中は空洞だ。遺骨もそのまま同化しているわけじゃない」
サイアが素早くユリアンにヒールをかけて回復させる中、少しだけ微笑んで「絶対に取り戻すよ」という言葉にサイアは小さく頷いた。
「コンナコトシテ許サルト思ットルノカァァァ」
巨人が立ち上がり、未悠を弾き飛ばした。
「どっちが許されざる存在だと思ってるのよ」
「ソリャア オマエラジャロ。アッヒャア」
未悠が怪訝な顔をしていると焦げ臭いニオイが辺りに立ち込める。
魔獣の首が燃えていた。
違う。まだブレスを吐き続けている。
「潰さないとっ」
未悠が走り出すが、それよりも早く巨人はその魔獣の首をボールのように蹴飛ばしてしまう。
「森ゴト燃エルカナァ? ワシ 歪虚ダカラ構ワンガァ オマエラヲ狭量ナえるふハドウミルカナァ?」
そんな戯言聴いてる暇はない。クレールがそちらに走った。
森を、この大事な場所を焼かせるなど!
地を駆ける山猫のようにおいすがるクレールだったが、その動きは急激に止まった。いや、留められた。
「削ッテクレタ分ハ返シテモラオウカノ。小娘ェ。オ前ハ許セン」
巨人の腕がクレールの背中から内臓を刺し貫き、大地に射止められる。
「ナンジャ コノ繊細ナ臓腑ハヨォ オマエサン 病弱カ。ゾンビニスラ不適格ジャノォ」
内臓がかき混ぜられる。
激痛でクレールは目を見開いて血を吐いた。目の前、繁みを越えれば魔獣の首が、あるのに。手が届かない……。
「下劣な悪魔め……言葉を慎みなさい!!」
ティアが激昂すると、そのままモーニングスターを巨人のひじ関節に叩きつけると同時に、祈りの言葉が天秤型の結界となって、巨人を押し込める。
「あなたの罪の重さに叶う善行なし。神の畏敬にうちひしがれよっ!!」
同時に魔獣の首はクレールに代わって未悠が飛びかかり、槍で叩き潰した。同時に内に潜んでいた火炎が未悠の腕を焼きつけるが、歯を食いしばると槍でそれを持ち上げて、巨人に叩きつける。
「ほんっとうに最低ね……あなたなんかに負けられないのよっ」
「オオ 怖イ」
屍すべてがぎりきりと押しつぶされるように動きが鈍る。彼女の意志は屍を押さえつけ、そしてその目は束のようになる屍の向きをしっかと捕らえていた。
「ひじ関節は屈曲の為に屍の数は少なく、並行しているはずです!」
「了解。狙いは……そこか」
ヒールを受けたユリアンがワイヤーウィップをさばいて巨人の腕を絡みつかせた。その上からルナがアイスボルトを放つ。
「冷気よ! 集まれっ」
肘部分が凍りつき、よじれもしなくなったこと部分に向けて大風が舞ったと思えば、骨喰が空中を舞っていた。
腕となっていた屍の塊も。
「コリャカナワンワイ」
腕がぼとりと落ちて悲鳴を上げた後、巨人はくるりとハンター達に背を向け外に向かって動き出した。
「そう安易に見逃すとでも? 森を灼かれて、負のマテリアルをまき散らされるわけにはいかない」
リュカの声が響くと同時に、彼女は飛び上がって巨人の胸に槍を突き刺した。
その屍の山を動かす何者かをリュカは何があっても許すつもりはなかった。
「……貪欲ジャノウ。屍ヲトリカエシ、ソノ娘ヲ庇イ、森ヲ守リ。ソノ上、ワシヲコノ場デ討チ取ル? 無知モイイトコダ」
ぐしゃ。
リュカの刺した傷口から、ボロボロと巨人を構成する屍がこぼれ落ちる。
同時に後ろから悲鳴が上がった。ユリアンが切り落とした腕を構成した屍も、その役目から解放されたかのように、バラバラと立ち上がる。
「立ッテ半畳 寝テ一畳。手ヲノバシテモ、ソノ程度ジャ。サーテ 優先順位ヲミセテモラオウカノ」
同時に破裂音と共に、ルナの悲鳴が聞こえた。
リュカが振り返ったそこは、森ではなく、亡者の住処のようであった。
あてどもなく歩くゾンビは突如何の前触れもなく『爆発』した。ルナが血塗れになっているのもそのせいだ。
ゾンビはあちこちで爆発し、火柱を上げた。
「大火災シチャウカモナー。えるふはいむ燃ヤシタラ ワシ ヒョットシテ英雄? アヒャヒャヒャ」
木が一つ衝撃でへし折れた。潤う下草も熱に耐えかねて、火をともしはじめた。ゾンビは巨人から次々離れ、右へ左へ。そして狼狽するサイアの元に。
どうすればいいのだ? リュカの頭は眼に映る焔のように大きく揺らいだ。
全部を守ることはできないのか? 逃亡を許さなかった私が悪いのか?
弱いこの身が……いけないのか?
「リュカ! 守るのよ!! これ以上何も失わせないで!」
未悠の声がリュカを現実に戻らせた。
次の瞬間、リュカは彷徨うゾンビの首に腕をかけると、また違うゾンビの元に走った。
パァァァン!!! 掴んだゾンビが炸裂した。
衝撃が半身を襲い、半分樹皮と化した皮膚、葉の髪を焼き焦がし、肉を焼けただれさせた。
リュカはそれでも内に宿る大いなる樹の生命力で身体を癒しながら、手当たり次第にゾンビをその身に抱え込んだ。
パァン
パァン
パァン!!!
「リュカさん、止めて! 死んじゃう!!」
ルナが叫びに、爛れおちた皮膚と肉塊を引きずるリュカは叫んだ。
「私を土壁で覆ってくれ……森を、最後の希望の地を、守らなくてはならないんだ。この身が灼け朽ちようとも……!」
「そんな、できるわけないじゃなですかっ」
ルナは悲鳴を上げてアイスボルトの詠唱を開始した。
「いえ、全部守るならアースウォールにすべきです。信じて! 仲間を見捨てることは私もしません。ここにいる誰もがです。だから……お願いします」
その瞳の力に気おされると、ルナはがばっと振り返り、詠唱を開始した。俯いているせいか前髪が瞳がなんと物語っているかわからない。だが、時折噛みしめて血が出る唇が十分物語っていた。
「大地の鼓動よ!!!」
「……ありがとう」
残ったゾンビを広場の中央で押さえつける彼女の四方に土壁が次々とそそりたつのを見て、リュカはぼそりとそう呟いた次の瞬間、ユリアンが彼女を抱きかかえて空を跳んでいた。
「一人で抱え込まないで。その為に皆がいるんだ」
そして次の瞬間。魔法の壁の中で炸裂音が起きた。
●
「待ちなさい!」
未悠の目の前には半分ほどに縮小された屍の巨人がいた。しかし腹の部分は相変わらずでっぷりとしており、そこに大量の遺骨を溜めこんでいるのはすぐにわかった。
だが、それよりも何よりも歯ぎしりをしなければならなかったのは。
その巨人がトラックの荷台に座っていたことだ。
「人間が加担しているの……?」
それに対して巨人は答えず、代わりにトラックのエンジンが動き出す音がまるで未悠を嘲笑うかのようであった。
「とまれぇぇぇぇ!!」
未悠の後ろからヒールを受けて少しだけ回復したクレールが追いすがるようにして、カリスマリスが白いレイピアのような光を生み出しつつ走り寄った。
「マタ小娘カ! れーヴぁあ。作者ふぁるばうてぃノ命令ジャ。ユケイ」
巨人は千切られた腕の先を未悠に向け、その先からずぶぶ、ぶぶ。と血が迸ったかと思うとまさしく剣が現れた。
「くらえ 紋章剣……太陽!!」
レーヴァこと生まれた刃は腕の先の屍一つが手にして立ち上がったかと思うと、飛びかかったクレールの光の刃を真正面から受け止めた。
しかしクレールの真白い光の刃が錆びた血の刃に押し負ける道理もない。幾年、幾月も刃を鍛え、また弱かった身を鍛え続けたのだから。
めしゃ! と、レーヴァの刃にヒビがはいったが、それを砕いて巨人まで追いすがるまではいかず、クレールは振り落とされるようにしてトラックから落下したのを未悠が抱き留めた。
後に響くはトラックの走り去る重いエンジンの駆動音ばかり。
「くそ、くそ、くそぉぉぉっ!!!」
クレールは血に染まるほど、何度も大地を踏みしめた車痕を殴りつけるしかなかった。
●
「貴女が無事で良かった」
みんなひどい傷だった。周囲も巨人と戦う前とは同じ場所だと思えないほどに荒れ果ててしまった。
それでもティアはサイアの前に膝をついて慈愛の顔を見せた。
「ありがとうございます……」
サイアの瞳は昏かったが、社交辞令を述べるくらいの配慮は失っていなかったようだ。実際に自分の傷よりもハンターにヒールを使い続けた彼女は気丈だと思えたが、大事な心のよりどころを失った喪失感は、この静寂を取り戻した世界では大きくしているようだった。
「もし叶うなら。ここの修復を、させてくれませんか?」
「これ以上の手伝いは不要です。ここはエルフハイムの地、余計な手をこれ以上いれないでください。浄化は私達の役目です」
その表情は頑なだった。
ルナと未悠は鎮魂の歌でこの場と彼女の荒れた心を慰めてやりたかったが、アーモンド型の瞳はすべてを拒絶していた。
きっとその長い耳の一つも貸してくれないだろう。
しばらくの沈黙の後、それぞれが頭を垂れると、帰るべき場所へと戻っていった。
歌が聞こえる。
さっきのハンターがきっと森の外から、想いを伝えたいのだろう。静かで穏やかな音色と、高いソプラノの声が響いてくる。
焦土と化した墓場の片隅に座り込み、少女はそれを俯いて聴いていた。
「外界は土足で踏み込んで荒らすばかり……最低、最低よ」
そんな最低に心揺れる自分がなにより辛かった。
煤けた大地に、ぽとりと一滴の水が零れ落ちた。
「必ず守るわ、貴女も、この森も」
真上からその拳を叩き潰した高瀬 未悠(ka3199)が真紅の瞳をちらりと向けると、連撃を警戒して槍を構えなおして大きく跳んで、左方に移る。
「誰……?」
続くもう片方の拳が、小盾の前で弾け、衝撃で軽く編み込んだ金の髪が揺れる。ティア・ユスティース(ka5635)であった。
「正義の名において、悪を退けよ!」
ティアがそう叫ぶと、閃光が盾より膨れ上がり、巨人にたたらを踏ませた。
光が止み、元の深緑に包まれた世界にはクレール(ka0586)、リュカ(ka3828)、ルナ・レンフィールド(ka1565)がサイアの前にそれぞれの武器を手に現れていた。
突然の事にサイアはまだ警戒の色が取れない中、彼女にふぁさとレザーベストがかけられた。その人物だけサイアは見たことがあった。ユリアン(ka1664)だ。
「まずは生き延びよう。話はそれから」
「……わかりました」
サイアはすぐにレザーベストに袖を通すと同時に、その胸に覚醒のツタが渦巻かせ、傷を癒して立ち上がった。
「ナンジャ ぼーるノヤツ。ココハ警戒サレテイナイトカ でたらめヌカシヨッテ」
半円形に取り囲むハンターにたじろいだのか、巨人は数歩下がって距離を置くと、奇怪な音を操ってそう言葉にした。
「その姿は前にも見た事があるな。ヴォールとは違う剣機の作成者か」
数歩下がったとはいえ、ユリアンの攻撃レンジから外れられるわけもない。新緑の風がサイアの背後で木の葉を舞い散らせたかと思うと、次の瞬間、ユリアンは巨人の背中に現れた。同時にワイヤーウィップが宙を弧を描き、その奇怪な頭部と首に絡みつかせて肩に着地すると、刀で脊髄のあたりから喉に向かって一気に刺し貫いた。
「アヒャ……! か、か、風ノ勇者。コンナトコロニモイタノカ。痛イイイイ」
「その名で、呼ばないでくれ」
確信した。同じような巨人と相手した時にユリアンはそう呼ばれたのだ。
ユリアンは苛立ちを返すように刀を捻じって傷口を広げると巨人が悲鳴を上げた。だが、次の瞬間、ユリアンは足をかける部分に違和感を覚える。
離れられない。
「!」
足が巨人の肉に埋もれていた。いや、巨人を構成する屍の一つがユリアンを掴んでいる。
「ヒー ヒー。苦シイ。風ハ封ジテ シマワントナァ」
跳び下がろうにも足が動かない。その間に。巨人の背中から小さな腕が伸びたかと思うと服を、髪を、引きはがそうとする腕を掴む。
ズル、ルルルルル。
「ユリアンさん!!!」
ルナの声に応じようとするユリアンの声すらも巨人は取り込み、しばらく酔いどれのように踊った。
「アヒャヒャー。イーイモノモーラッタァ♪ ぼーるノ土産ニシヨウ」
「お前ぇぇぇェ!!!」
次の瞬間、クレールがカリスマリスを振り上げると、カリスマリスから光輝く偃月刃を叩きつけた。
「返せ、返せ、返せよ、返せ!! ユリアンさんも、遺体も。お前が触れていいものじゃないんだよっ」
三振りの光の刃を一斉に躍りかかって、巨人の足を切り刻み、足をつかせてもクレールは手を止めない。
振り下ろした腕を返して切り上げ、そのまま蹴りを叩きこんで跳びあがると、また身体をねじって紋章剣月雫を雨風のようにねじりこんだ。
「アギャャャャア コンノ小娘……!」
巨人はくぐもった悲鳴を上げると、頭をがくりと落とした。そこから魔獣の口をあけたヨダレの生臭い匂いと、何かが焦げる臭いが漂う。
「うっるさい! この変態ゾンビ!!」
ユリアンが以前であったことがあると聞いていたため、それがどんな動きをしているか、把握済みだった。
それはクレールだけでなく、全員が。
「大地の鼓動、その力を此処に!」
ルナがすかさずリュートの腹をリズムよく叩くと、クレールの足元が大きく盛り上がり、巨人が吐き出す焦熱の炎を防いだ。
同時に、その大地の上昇で届くようになった魔獣の口目がけて、クレールが月雫を乱舞させる。
「せやぁぁぁぁぁぁ、削れろォ!!!」
みじん切りにするように魔獣を切り刻んだ次の瞬間、クレールの顔と飛び散る血風に影がかかった。
「自然ならざる存在だな。何しに来た? 誰に命令された?」
髪は緑、肌は樹皮と半分化したリュカが跳躍一つ。
魔獣の口に槍をねじ込み、跳んだ勢いで口内を派手に抉った。
「アッキャアアア。れあナ竜種の首ガァァァ」
「外の屍は単なる鎧か。声はもっと内側から聞こえる。どうせ痛くもないだろう」
じっと声を聞いていたリュカは冷徹な瞳を向けてそう言った。
痛がっている声は聞こえるが、動きがにぶっているわけでもなし、その声色はどこか楽しそうだ。単なる遊びなのだろう。
全部遊び……遊びでハンターと戦い、悪戯で森を穢している。
静かなリュカであっても、嫌悪の情がふつふつ沸き立つ。
リュカは槍をねじると一閃して、その魔獣の頭を巨人の半裂きにした。
「返してもらうわよ。全部」
ぶらりとなった首に向かって未悠が真下から跳ねるようにしてロンゴミニアドを大きく回転させた。
風車のように回転するその一撃が魔獣の首を飛ばすと、未悠は跳躍して、そのまま背中を切り裂いた。ユリアンが埋まった背中へ。
「手を!!」
血にまみれた手が僅かに巨人の背から出ると、未悠はためらわずそれを掴んで引きはがした。
大量の追いかける屍の腕を引き裂くようにしてユリアンがずるりと出て来た。
「今、癒します!」
「げほ……中は空洞だ。遺骨もそのまま同化しているわけじゃない」
サイアが素早くユリアンにヒールをかけて回復させる中、少しだけ微笑んで「絶対に取り戻すよ」という言葉にサイアは小さく頷いた。
「コンナコトシテ許サルト思ットルノカァァァ」
巨人が立ち上がり、未悠を弾き飛ばした。
「どっちが許されざる存在だと思ってるのよ」
「ソリャア オマエラジャロ。アッヒャア」
未悠が怪訝な顔をしていると焦げ臭いニオイが辺りに立ち込める。
魔獣の首が燃えていた。
違う。まだブレスを吐き続けている。
「潰さないとっ」
未悠が走り出すが、それよりも早く巨人はその魔獣の首をボールのように蹴飛ばしてしまう。
「森ゴト燃エルカナァ? ワシ 歪虚ダカラ構ワンガァ オマエラヲ狭量ナえるふハドウミルカナァ?」
そんな戯言聴いてる暇はない。クレールがそちらに走った。
森を、この大事な場所を焼かせるなど!
地を駆ける山猫のようにおいすがるクレールだったが、その動きは急激に止まった。いや、留められた。
「削ッテクレタ分ハ返シテモラオウカノ。小娘ェ。オ前ハ許セン」
巨人の腕がクレールの背中から内臓を刺し貫き、大地に射止められる。
「ナンジャ コノ繊細ナ臓腑ハヨォ オマエサン 病弱カ。ゾンビニスラ不適格ジャノォ」
内臓がかき混ぜられる。
激痛でクレールは目を見開いて血を吐いた。目の前、繁みを越えれば魔獣の首が、あるのに。手が届かない……。
「下劣な悪魔め……言葉を慎みなさい!!」
ティアが激昂すると、そのままモーニングスターを巨人のひじ関節に叩きつけると同時に、祈りの言葉が天秤型の結界となって、巨人を押し込める。
「あなたの罪の重さに叶う善行なし。神の畏敬にうちひしがれよっ!!」
同時に魔獣の首はクレールに代わって未悠が飛びかかり、槍で叩き潰した。同時に内に潜んでいた火炎が未悠の腕を焼きつけるが、歯を食いしばると槍でそれを持ち上げて、巨人に叩きつける。
「ほんっとうに最低ね……あなたなんかに負けられないのよっ」
「オオ 怖イ」
屍すべてがぎりきりと押しつぶされるように動きが鈍る。彼女の意志は屍を押さえつけ、そしてその目は束のようになる屍の向きをしっかと捕らえていた。
「ひじ関節は屈曲の為に屍の数は少なく、並行しているはずです!」
「了解。狙いは……そこか」
ヒールを受けたユリアンがワイヤーウィップをさばいて巨人の腕を絡みつかせた。その上からルナがアイスボルトを放つ。
「冷気よ! 集まれっ」
肘部分が凍りつき、よじれもしなくなったこと部分に向けて大風が舞ったと思えば、骨喰が空中を舞っていた。
腕となっていた屍の塊も。
「コリャカナワンワイ」
腕がぼとりと落ちて悲鳴を上げた後、巨人はくるりとハンター達に背を向け外に向かって動き出した。
「そう安易に見逃すとでも? 森を灼かれて、負のマテリアルをまき散らされるわけにはいかない」
リュカの声が響くと同時に、彼女は飛び上がって巨人の胸に槍を突き刺した。
その屍の山を動かす何者かをリュカは何があっても許すつもりはなかった。
「……貪欲ジャノウ。屍ヲトリカエシ、ソノ娘ヲ庇イ、森ヲ守リ。ソノ上、ワシヲコノ場デ討チ取ル? 無知モイイトコダ」
ぐしゃ。
リュカの刺した傷口から、ボロボロと巨人を構成する屍がこぼれ落ちる。
同時に後ろから悲鳴が上がった。ユリアンが切り落とした腕を構成した屍も、その役目から解放されたかのように、バラバラと立ち上がる。
「立ッテ半畳 寝テ一畳。手ヲノバシテモ、ソノ程度ジャ。サーテ 優先順位ヲミセテモラオウカノ」
同時に破裂音と共に、ルナの悲鳴が聞こえた。
リュカが振り返ったそこは、森ではなく、亡者の住処のようであった。
あてどもなく歩くゾンビは突如何の前触れもなく『爆発』した。ルナが血塗れになっているのもそのせいだ。
ゾンビはあちこちで爆発し、火柱を上げた。
「大火災シチャウカモナー。えるふはいむ燃ヤシタラ ワシ ヒョットシテ英雄? アヒャヒャヒャ」
木が一つ衝撃でへし折れた。潤う下草も熱に耐えかねて、火をともしはじめた。ゾンビは巨人から次々離れ、右へ左へ。そして狼狽するサイアの元に。
どうすればいいのだ? リュカの頭は眼に映る焔のように大きく揺らいだ。
全部を守ることはできないのか? 逃亡を許さなかった私が悪いのか?
弱いこの身が……いけないのか?
「リュカ! 守るのよ!! これ以上何も失わせないで!」
未悠の声がリュカを現実に戻らせた。
次の瞬間、リュカは彷徨うゾンビの首に腕をかけると、また違うゾンビの元に走った。
パァァァン!!! 掴んだゾンビが炸裂した。
衝撃が半身を襲い、半分樹皮と化した皮膚、葉の髪を焼き焦がし、肉を焼けただれさせた。
リュカはそれでも内に宿る大いなる樹の生命力で身体を癒しながら、手当たり次第にゾンビをその身に抱え込んだ。
パァン
パァン
パァン!!!
「リュカさん、止めて! 死んじゃう!!」
ルナが叫びに、爛れおちた皮膚と肉塊を引きずるリュカは叫んだ。
「私を土壁で覆ってくれ……森を、最後の希望の地を、守らなくてはならないんだ。この身が灼け朽ちようとも……!」
「そんな、できるわけないじゃなですかっ」
ルナは悲鳴を上げてアイスボルトの詠唱を開始した。
「いえ、全部守るならアースウォールにすべきです。信じて! 仲間を見捨てることは私もしません。ここにいる誰もがです。だから……お願いします」
その瞳の力に気おされると、ルナはがばっと振り返り、詠唱を開始した。俯いているせいか前髪が瞳がなんと物語っているかわからない。だが、時折噛みしめて血が出る唇が十分物語っていた。
「大地の鼓動よ!!!」
「……ありがとう」
残ったゾンビを広場の中央で押さえつける彼女の四方に土壁が次々とそそりたつのを見て、リュカはぼそりとそう呟いた次の瞬間、ユリアンが彼女を抱きかかえて空を跳んでいた。
「一人で抱え込まないで。その為に皆がいるんだ」
そして次の瞬間。魔法の壁の中で炸裂音が起きた。
●
「待ちなさい!」
未悠の目の前には半分ほどに縮小された屍の巨人がいた。しかし腹の部分は相変わらずでっぷりとしており、そこに大量の遺骨を溜めこんでいるのはすぐにわかった。
だが、それよりも何よりも歯ぎしりをしなければならなかったのは。
その巨人がトラックの荷台に座っていたことだ。
「人間が加担しているの……?」
それに対して巨人は答えず、代わりにトラックのエンジンが動き出す音がまるで未悠を嘲笑うかのようであった。
「とまれぇぇぇぇ!!」
未悠の後ろからヒールを受けて少しだけ回復したクレールが追いすがるようにして、カリスマリスが白いレイピアのような光を生み出しつつ走り寄った。
「マタ小娘カ! れーヴぁあ。作者ふぁるばうてぃノ命令ジャ。ユケイ」
巨人は千切られた腕の先を未悠に向け、その先からずぶぶ、ぶぶ。と血が迸ったかと思うとまさしく剣が現れた。
「くらえ 紋章剣……太陽!!」
レーヴァこと生まれた刃は腕の先の屍一つが手にして立ち上がったかと思うと、飛びかかったクレールの光の刃を真正面から受け止めた。
しかしクレールの真白い光の刃が錆びた血の刃に押し負ける道理もない。幾年、幾月も刃を鍛え、また弱かった身を鍛え続けたのだから。
めしゃ! と、レーヴァの刃にヒビがはいったが、それを砕いて巨人まで追いすがるまではいかず、クレールは振り落とされるようにしてトラックから落下したのを未悠が抱き留めた。
後に響くはトラックの走り去る重いエンジンの駆動音ばかり。
「くそ、くそ、くそぉぉぉっ!!!」
クレールは血に染まるほど、何度も大地を踏みしめた車痕を殴りつけるしかなかった。
●
「貴女が無事で良かった」
みんなひどい傷だった。周囲も巨人と戦う前とは同じ場所だと思えないほどに荒れ果ててしまった。
それでもティアはサイアの前に膝をついて慈愛の顔を見せた。
「ありがとうございます……」
サイアの瞳は昏かったが、社交辞令を述べるくらいの配慮は失っていなかったようだ。実際に自分の傷よりもハンターにヒールを使い続けた彼女は気丈だと思えたが、大事な心のよりどころを失った喪失感は、この静寂を取り戻した世界では大きくしているようだった。
「もし叶うなら。ここの修復を、させてくれませんか?」
「これ以上の手伝いは不要です。ここはエルフハイムの地、余計な手をこれ以上いれないでください。浄化は私達の役目です」
その表情は頑なだった。
ルナと未悠は鎮魂の歌でこの場と彼女の荒れた心を慰めてやりたかったが、アーモンド型の瞳はすべてを拒絶していた。
きっとその長い耳の一つも貸してくれないだろう。
しばらくの沈黙の後、それぞれが頭を垂れると、帰るべき場所へと戻っていった。
歌が聞こえる。
さっきのハンターがきっと森の外から、想いを伝えたいのだろう。静かで穏やかな音色と、高いソプラノの声が響いてくる。
焦土と化した墓場の片隅に座り込み、少女はそれを俯いて聴いていた。
「外界は土足で踏み込んで荒らすばかり……最低、最低よ」
そんな最低に心揺れる自分がなにより辛かった。
煤けた大地に、ぽとりと一滴の水が零れ落ちた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 リュカ(ka3828) エルフ|27才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/04/17 08:34:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/12 12:30:11 |