システィーナ様の為に

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/28 19:00
完成日
2014/08/30 21:00

みんなの思い出

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オープニング

「皆聞いてくれ! 俺達のシスティーナ様がお困りだ!」

 王都イルダーナ、第三街区の某所。
 賑やかな往来に向かって呼びかけている一人の青年がいる。
 細面な若い青年だが、その目は強い輝きを放っている。
 システィーナの名を聞き、何事かと足を止め聞いていくものもいくらかいる。
 青年は身振り手振りを交えながら熱心に訴えた。

「システィーナ様は歪虚の台頭に心を悩ませておられる。
 我々は五年前の戦いで先王アレクシウス陛下と共に、多くの騎士を失った。
 尊い犠牲の上に我々の生活はなんとか安定を保っている……。
 しかし、今も脅威は存在するのだ!
 自由都市同盟領の何とかという島に巨大な歪虚が現れたことは皆もご存知だろう。
 そこばかりではない。聞けば王都の近くにも歪虚が現れたと聞く。
 歪虚は至る所に潜み、牙を向く機会を待っているのだ。
 同志諸君!
 先の戦いから五年……失われた戦力はそう早く補えはしない。
 だからこそ! 今こそ我ら、システィーナ様を愛する同志が立ち上がるときではないか!
 我々の手で歪虚を倒すのだ!」

 青年は群集を見渡しながら拳を上げる。扇動者そのものの口調だった。
 周りの者達は最初、呆然として見守っていたが、
 やがて誰かが声をあげた。
「……その通りだ!」
 周りから、連鎖的に声が上がった。
「俺たちがやらなきゃな!」
「そうだ、システィーナ様の為に!」
「王女殿下万歳!」
「王女殿下万歳! 王国に栄光あれ!」
 声は段々と、大きくなっていった。

「何をしているんだ、モーリス!」
 歓声が大きくなっていく中、一人が大きく反対の声をあげた。
「駄目だ! やめろ! 並の人間が歪虚にかなうはずがない!」
 女が一人前に出て、モーリスと呼ばれた青年に抗議するとともに、反論をする。
 モーリスは、反対意見を上げた女を見た。
 長いブロンド、引き締まった肉体、平和な暮らしではまず備わらぬ目付き。集団の中で、彼女は異彩を放っていた。
「ヘザー! 君なら協力してくれると思っていたんだがな」
 演説をした男は、彼女がハンターであり、覚醒者である事を知っていた。
「君ならシスティーナ様の為に命をも投げ出す情熱と、問題を解決するだけの能力を持っているんじゃないのか?」
「もちろんだ! しかし……それは私が覚醒者だからだ!
 覚醒者じゃなきゃ歪虚と戦うなんて無理だ!」
 ヘザーと呼ばれた女は、真っ向から反論した。
「そんな事はないぞ!」
「情熱なら負けてない!」
「みんなでがんばればなんとかなるよ!」
 ヘザーへの反論の声が周囲から沸きあがる。
「とても危険なことなんだぞ!」
 ヘザーはなおも反論するが、
「覚醒者に俺たちの気持ちがわかるか!」
「そうだそうだ! 俺達は本気だぞ!」
 多勢に無勢だった。
「皆、システィーナ様の役に立ちたいんだ……君も同じ気持ちであるはずだ。諦めて協力してはくれないか?」
 モーリスは、諭すように冷静にヘザーに言った。
 ヘザーは何も言わずに、歯をむき出しにしてかれらを睨みつけた後、そっぽを向くと、どこかへと駆け出していった。

 ヘザーのほかには集団を誰も咎めるものはなかった。

 その日の夕暮れ、ハンターズソサエティにヘザーの姿があった。
「私はハンターだが、ハンターに仕事を依頼したい」
 そんな言葉に職員は驚きの顔を見せたが、通常の依頼人にするように、話を聞いた。

 グラズヘイム王国王都イルダーナ付近に、歪虚が発生。
 正確には、まだはっきりとした被害が出ておらず、それらしいものの目撃情報があったというだけだ。
 目撃情報も誤認であった可能性がいまだ否定できず、これだけであればそれほど切羽詰った状態ではない。
 悪いのは、一般人が歪虚退治をしようとしている事である。
 何を勘違いしたのか、熱狂的なシスティーナ王女のファンが、歪虚を退治して王女を喜ばせたい、もしかしたら王女じきじきにお礼の言葉がもらえるかもしれない、あわよくば顔を覚えてもらえるかもしれない……などと妄想を膨らませているのだという。
「気持ちはわかるが奴らにそんなことできるわけがない!」
 ヘザーは先導していた男の事を知っていた。
 名前はモーリス・アバック。プルミエール(王国の初等学校)の同期であり、ヘザーと同じく、システィーナ王女を強く敬愛し、事あるごとに追っかけをすることから、同志として認め合う間柄となっている。
「アイツよりも私の方が絶対システィーナ様が好きだ」
 ライバル心まで芽生えている。
 ともかく、モーリスは正真正銘の一般人だ。モーリスに同調した多くも王国兵でも傭兵でもない一般人だろう。
 いくら数が集まっても、歪虚相手に戦えるはずがない。たとえ戦えたとしても、危険すぎる。
「彼らを説得し、歪虚を倒すのを手伝って欲しい!」
 
 それが、ハンター、ヘザーの依頼であった。

「実行の日程と行き先は……わからない……。
 そうだな、私が奴らに協力するふりをして聞きだすことにしよう。
 後で必ず連絡する。
 かれらの愚かな試みを止めさせ、歪虚も退治するんだ!

 やってみせる! 私の右ストレートで!」

 ヘザーの拳が空を切った。

リプレイ本文

●決行の日の朝
 王都イルダーナ第三街区・中央公園。
 まだ朝日が昇りきっていない涼しい時間だというのに、多くの人が集まっていた。
 それぞれ手に武器を持ち、どこか物々しい空気に満ちていたが、戸惑いの表情を浮かべていたり、かと思えば笑ったりふざけあったりしており、つまるところ素人の集まりであった。
 しかし、これから彼らがしようとしていることは、歪虚退治。
 遠足に行こうというのではない。
 出発までは時間がある。人々は思い思いの時間を過ごしていた。

「来てくれたか、ヘザー」
 ヘザーが到着すると、旧友であり今回の首謀者であるモーリスが迎えた。
 ヘザーは、一人ではなかった。数名の男女を伴っている。
「その人達は?」
「ハンターだ。私が依頼した」
「何? どうして」
「モーリスさん。はじめまして」
 一人が前に出た。円錐型の縦巻きツインテールが特徴的な娘だった。彼女はメイム(ka2290)と名乗った。
「あたし達は皆さんを止めに来たんだよ」
「止める? ヘザー、どういう事だ」
 ヘザーはモーリスの方ではなく、そこに集った群衆に向いていた。
「皆、聞いてくれ! ここにいるのは歪虚との戦いを専門とするハンターだ。
 そのハンターから皆に話がある!」
 それまで思い思いの時を過ごしていた群衆は、何事かとヘザーの方を見た。
 ヘザーは抗議するモーリスを制し、メイムに目で合図した。メイムは向けられてくる視線を跳ね返し、交渉ごとの得意な二人の友人、セレナイトとLuegnerの事を思い出しながら、語った。
「皆さんはモーリスさんの訴えに賛同して今回決起したと伺ったのだけど、無茶は止めて欲しいんだよ。やる気だけじゃマテリアルの活性化には届かない」
 突然の否定的な言葉に人々はメイムの顔をじっと見る。
「士気を削ぐようなマネはやめてもらおう!」
 モーリスは耐えかねて、メイムと群衆の間に割って入った。
「我々が無力だと、誰が決めた? そして、無力の烙印を押されたとして、どうしてそれを受け入れなくてはならないのか」
「そうだそうだ!」
「俺達も戦える!」
 群集は、やはりまだモーリスと同意見なようだった。
「あなた達がその気でも、歪虚は、本当に恐ろしいんですよぉ……」
 ロミー・デクスター(ka2917)が前に出た。語尾が弱弱しくなってしまったのは性格上仕方のないことだったが、これも任務と頑張って続けた。
「たとえ下級でも、雑魔とあれば、鋭い牙とか、大きな爪とか持ってるんですよ……?」
 歪虚の恐ろしさを具体的に語る。
 群集の多くは、歪虚をよく知らない。知らないから恐れず、ゆえに歯止めがきかない。功名心が先走って参加しようとしている者にとって、歪虚を知るハンターの語る歪虚の姿は、説得力があった。
 そして、ロミーは続けた。
「王女殿下が悩んでいらっしゃるのは、何の為だと思いますか……? 殿下が懸命に国と民を守ろうとしている中で……市井の皆さんが武器を取ることこそ、殿下のお心を踏みにじる行為に他ならないのでは、と……」
 この言葉は、歪虚を退治することが王女の望みだというモーリスの言葉を鵜呑みにし、王女の気持ちを考える事をしなかった人々の心を打った。
 ロミーの言葉に繋げるように、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が続いた。
「私は騎士の家系の者です。両親は覚醒者で、五年前の戦いにも赴きました。
 私が王女を直に見たのは戦没者追悼の折ですが、騎士という死地に赴く事が仕事とも言える者たちの死にも、深く心を痛めておられました」
 騎士でそうなのだから、戦いを生業としない市民ならなおさら悲しむと、ヴァルナは言う。
「王女の為を思うなら、もう一度よく考えてみて下さい」
 ヴァルナの言葉は、ロミーの言葉を補強する形となって、群集に考える余地を与えた。
「それは『そう思う』だけだ。仮定に過ぎん」
 モーリスは、真っ向から否定する。
「我々の行動が王女殿下を勇気づける可能性も否定できまい」
「そうお思いでしたら、王女殿下より皆様にお言葉をお預かりしています」
 シェリア・プラティーン(ka1801)が前に出て、モーリスと対峙した。
 シェリアの後ろに一人の女性が立っている。シェリアはその女性に前に出るように促すと、彼女は群集の前に立って、優雅に一礼した。
 淑女の鑑のような動作だった。
「はじめまして、皆様。王女殿下の侍従隊にて長を務めさせていただいております、マルグリッド・オクレールと申します」
 王女の侍従隊と聞いて、群集の間にどよめきが走った。中にはオクレールの名を知っているものもおり、そういった者は事の重大さを改めて認識しなければならなかった。
 オクレールは語る。
「王女殿下は皆様の命を第一に考えておられます。故に、皆様の行動に心を痛めていらっしゃいます。どうぞ軽はずみな行動は慎まれますように」
 群集のどよめきはさらに大きくなった。衝撃をうけたことがありありと顔に出ている者もいた。涙すら浮かべている者も。
 オクレールは非の打ち所のない所作で一礼すると、ハンター達の輪の中に戻った。シェリアと目が合うと、ありがとう大変助かりましたとばかりに、笑みを向けられた。
 シェリアは、王女に宛てて今回の事を手紙で書いたのだ。
 しかし手紙は王女には届いていない。手紙はオクレールの目に留まり、王女には知らせない方がいいと判断された。今回の事を王女は知らない。
 つまり、今の言葉はオクレールの方便である。もっとも、彼女ほど王女の心を理解している人間はおらず、故にその言葉は王女の願いそのものであるが。
 侍従長の肩書きもあり、その言葉は重く群衆に響いたのだった。
 だが……
「待っていただきたい。今はわかってくださらなくとも良い!」
 モーリスは反論した。
「王女殿下はお優しい方だ……我々の命を惜しまれるのも無理はないこと……しかし国家の為に命を投げ出す心こそが、この時代、この王国に求められているのではないのか!
 悲しまれても、非難されてもいい。我々の行動が国家の礎となるのならば!
 後の世に、尊い犠牲だったとおっしゃっていただければ、それでよいのだ!」
 英雄狂めと、ヘザーが一人ごちた。
 しかしモーリスに同調するものはまだ見受けられた。声こそ小さくなっているものの、同意の声がまだ聞こえる。
「貴方は大変な見落としをしています」
 礼儀正しい言葉が、モーリスを咎めた。
 一人が前に出る。セレン・コウヅキ(ka0153)だ。
「貴方方は王女様の力になれたと信じて死ねますから良いです。
 ですが残された方達はどう考えるでしょうか?
 大切な人達を突然奪われて……その悲しみは、いつか怒りに変わるでしょう。
 直接手をかけた歪虚は当然、ですが必ず考える筈です。
 子供を、両親を、友人を、大切な人をそんな無謀な事に駆り立てたのは誰かと……。
 貴方方は宜しいのですか? 自分達が慕ってやまない王女様を、憎しみの対象にして」
 セレンは、彼らが王女の為に死ぬことで、王女が憎しみの対象になるのを危惧している……それは、王女への思慕で動いている人間にとって、この上ないジレンマとなった。
 モーリスもこれには黙った。相手の意見を理解するだけの脳はあるのだ。
 しかし、反論は思わぬところから上がった。
「さっきから聞いてれば、俺達は犬死する前提か?」
 ぬっと大きな影が立ち上がった。大きな金槌を手にした、2mはあろうかという大男だ。大股で前に出て、金槌を肩に担いだ。
「勝ちゃあいいじゃねぇか。そうだろ?」
 そう言って不敵な表情を浮かべて、逞しい上腕二等筋を誇示した。
「そ……その通りだ!」
 群集がまた活気づいた。
 理屈を勢いでぶっ飛ばす力強さが受け入れられたらしく、群集は活気を取り戻した。
「仕方がありません。私がお相手を……」
「その気概と勇気は素晴らしい」
 ヴァルナが前に出ようとしたその時、それを追い抜いて前に出る姿があった。
 威風堂々としたその姿は、弥勒 明影(ka0189)のものだ。
「皆等しく勇者であると褒め称えよう。故に、俺が此処で試練を課そう」
「何だ痩せっぽち、試練だと?」
 大男は明影を見下ろして笑った。
「何、そう難しい事ではない。今、此処で。覚醒者を凌駕するだけの力を示すだけで良い」
 明影は怯みもせずに言った。
「つまりお前さんをぶっ潰せと?」
「そうだ」
 残忍な笑みを見せられても明影は顔色一つ変えない。
「いいんだな? ……行くぜッ!」
 大男が、重量を誇る大金槌を振り上げた。

 数秒後には白目をむいて地面に転がる大男の姿があった。
 明影は無手である。
「少なくとも今は諦めろ。そしてその熱意を、異なる機会で発揮してくれ」
 誰もが黙ってそれを眺める中、明影は言った。
 
「さあ、ほかに挑戦する人はいる? 僕でもいいよ!」
 一見11歳の少年でしかないニコライ・カズマ(ka2746)が呼びかけたが、誰もすぐには出てこない。
 皆知ったのだ、覚醒者の力を。
「ていうか、そのヒトじゃなくて……あなたが真っ先にやるべきじゃないかな!」
 ニコライは指差した。モーリスを。
 モーリスはしばし思案したが、意を決して、立ち向かった。

 首謀者であるモーリスは、無様に地面に転がっていた。
 モーリスの言動には実力が伴っていないことを、皆が認めなくてはならなかった。そして、その実力があるものが、自分達の中にいないことも。
「もう挑む人はいない? じゃあさっさと仕事に戻ってよ、歪虚との戦いは戦場だけじゃないでしょ」
 もうこの時点で多くの者が諦めて、帰り出した。しかしまだ何人かは動こうとしなかった。
 間違いも認める。無力なのも理解はした。しかし納得がいかない。そんな人達だ。
 これでは力づくで言う事を聞かせているだけではないかと、どこかで思っている。
「戦う事など、戦う事しかできないハンターに任せておけばいいのです」
 残った者達に優しく語りかけたのは、ユージーン・L・ローランド(ka1810)である。
「毎日働いて国を支える事は、立派にシスティーナ様のお役に立つ事です。それは僕達ハンターにはできないことですから」
 彼らには彼らの役割がある。歪虚と戦わなくても、立派に価値のある存在だと……そう語ったのである。
 この言葉で群集はようやく自分を納得させることができた。
「ヘザーさんと一緒に、あたしたちが件の歪虚は討伐してくるから皆さんは待っていて欲しい」
 続いて、メイムが再び進み出て群集に約束する。少なくとも、彼らの意思はこれで引き継がれた。
 やがて群集は静かになり、公園に集まった群衆は、解散した。

●理由無き暴走
 こうなれば実地で示すのみだ――誰かが言った。
 遺される者とか役割とかは関係ない。
 力が足りないとか役目とかそういう問題じゃない。
 覚醒者だからできるとか。
 覚醒者じゃないからできないとか。
 そういうのが気に入らないだけだ。

 ハンター達がオクレールと別れ、歪虚の出没する地域に向かう頃、四人の若者が、その後にこっそりと続いていた。
 彼等は群衆が解散した後も家には帰らなかった。収まりがつかなかったのである。
 王国領土を横切る河を左手に眺めながら街道を進んでいくと、やがて濃い草叢が見え出してくる。
 ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、ちょっ、ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……
 鳴き声だ。聞くだけで息苦しくなるような爆音である……ハンター達は茂みへと分け入っていく。
 ――準備はいいな。
 ――応。
 四人は顔を見合わせ、武器を構えて草叢へと近づいて行った。

「うわあ!」
 一人が声をあげ、腰を抜かした。
 生い茂る雑草の間から、ぬっと、巨大なキリギリスが顔を出していた。
「この野郎!」
 若者の一人が、構えた槍で突きかかる。
 槍は雑魔の頭部に当たった……当たっただけだった。
 前足でうっとおしそうに除ける。それだけで、若者はよろけた。
 ――力の差がありすぎる。
「うっ、うわああああ!」
 最初とは別の若者が声をあげた。はるか頭上を、巨大なキリギリスが跳び越して近くに着地したのだ……それが何体も出てきて、若者達は囲まれてしまった。
 もはや最初の威勢はどこかへ飛んでいた。四人とも腰を抜かして、その場にへたり込んでしまった。
 ――雑魔が、襲い掛かった。

 その時、若者の一人の上に誰かが覆い被さった。
 それに続いて、声が聞こえた。
「下がって下さいませ! 歪虚と戦うのは覚醒者の務めですわ!」
 盾を構えたシェリアが現れ、若者達の前に立ちはだかった。盾は激しく輝くと光弾を発し、雑魔の一体を撃ち飛ばした。
 覆い被さってきたのはユージーンだった。若者を庇って、背中に傷を負っている。ローブに血が滲んでいた。
「伏せて!」
 セレンが叫んだ。すぐさま銃弾が雑魔に炸裂する。明影もまた、別方向から若者達とユージーンを背中で囲むように立ち、銃で攻撃する。
 瞬く間に若者達を囲んでいた雑魔は駆除された。シェリア、セレン、明影をそのままに、残るハンター達が、攻撃の態勢を崩された雑魔達に踊りかかった。
 メイムがドリルナックルで一体を血祭りに上げ、同時にヴァルナの大剣がその横の一体を両断する。ニコライが拳と蹴りのコンビネーションで一体を叩きのめし、ロミーがマジックミサイルを飛ばして別の敵を射抜く。ヘザーもこれに続き、一体を仕留めている。
 五人はなおも攻め、勢いに乗じて多くの雑魔を倒した。若者達の方にも何体か寄ってきたが、シェリア、セレン、明影によって討ち取られた。そして、ユージーンも立ち上がり、若者達に一番近い位置で敵を阻み続けた。
 
 やがて、すべての雑魔がハンター達によって討ち取られた。若者達はずっと腰を抜かしていただけだった。

「あなた達のせいで、この人は傷を負いました……」
 なんとか平静を取り戻した若者達に、ユージーンの傷を見せながらロミーは言った。
「この事が何を意味するか……考えてください」
 言葉は既に公園で尽くされていた。
 結果を見て、そこから学ぶしかなかった。
「……スミマセンでしたっ!」
 若者達は、無力を認める以外なかった。残酷なまでに。

 世の中は残酷さに満ちている。それを認めるのは難しくても、認めなければ仕方が無かった。

●普通の人々
「世話になったな……」
 街に帰るころには空が夕焼に染まっていた。依頼を斡旋したソサエティで仕事の報告をしてから、ヘザーは感謝の言葉を述べた。
「彼らは悪い人間ではないんだ……ただ手段を間違っていた。
 だが君たちのおかげで、間違いに気づくことはできただろう。

 ハンターである君達は、彼ら普通の人々の善き隣人であってほしい。
 間違った方向に進むようなら止めて欲しい……
 私からの願いだ」 

 ヘザーの髪が風に靡き、夕焼けに映えた。

「これからもよろしく頼む」
 ヘザーはそう言って、右手を差し出した。

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参加者一覧

  • 蒼の意志
    セレン・コウヅキ(ka0153
    人間(蒼)|20才|女性|猟撃士
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • 白金の盾
    シェリア・プラティーン(ka1801
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • はるかな理想を抱いて
    ユージーン・L・ローランド(ka1810
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

  • ニコライ・カズマ(ka2746
    人間(紅)|11才|男性|疾影士
  • インドア系ハンター
    ロミー・デクスター(ka2917
    人間(紅)|15才|女性|魔術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
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メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/08/28 08:55:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/27 21:24:34
アイコン 作戦相談卓
シェリア・プラティーン(ka1801
人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/08/28 07:18:37