「皆聞いてくれ！　俺達のシスティーナ様がお困りだ！」

　王都イルダーナ、第三街区の某所。
　賑やかな往来に向かって呼びかけている一人の青年がいる。
　細面な若い青年だが、その目は強い輝きを放っている。
　システィーナの名を聞き、何事かと足を止め聞いていくものもいくらかいる。
　青年は身振り手振りを交えながら熱心に訴えた。

「システィーナ様は歪虚の台頭に心を悩ませておられる。
　我々は五年前の戦いで先王アレクシウス陛下と共に、多くの騎士を失った。
　尊い犠牲の上に我々の生活はなんとか安定を保っている……。
　しかし、今も脅威は存在するのだ！
　自由都市同盟領の何とかという島に巨大な歪虚が現れたことは皆もご存知だろう。
　そこばかりではない。聞けば王都の近くにも歪虚が現れたと聞く。
　歪虚は至る所に潜み、牙を向く機会を待っているのだ。
　同志諸君！
　先の戦いから五年……失われた戦力はそう早く補えはしない。
　だからこそ！　今こそ我ら、システィーナ様を愛する同志が立ち上がるときではないか！
　我々の手で歪虚を倒すのだ！」

　青年は群集を見渡しながら拳を上げる。扇動者そのものの口調だった。
　周りの者達は最初、呆然として見守っていたが、
　やがて誰かが声をあげた。
「……その通りだ！」
　周りから、連鎖的に声が上がった。
「俺たちがやらなきゃな！」
「そうだ、システィーナ様の為に！」
「王女殿下万歳！」
「王女殿下万歳！　王国に栄光あれ！」
　声は段々と、大きくなっていった。

「何をしているんだ、モーリス！」
　歓声が大きくなっていく中、一人が大きく反対の声をあげた。
「駄目だ！　やめろ！　並の人間が歪虚にかなうはずがない！」
　女が一人前に出て、モーリスと呼ばれた青年に抗議するとともに、反論をする。
　モーリスは、反対意見を上げた女を見た。
　長いブロンド、引き締まった肉体、平和な暮らしではまず備わらぬ目付き。集団の中で、彼女は異彩を放っていた。
「ヘザー！　君なら協力してくれると思っていたんだがな」
　演説をした男は、彼女がハンターであり、覚醒者である事を知っていた。
「君ならシスティーナ様の為に命をも投げ出す情熱と、問題を解決するだけの能力を持っているんじゃないのか？」
「もちろんだ！　しかし……それは私が覚醒者だからだ！
　覚醒者じゃなきゃ歪虚と戦うなんて無理だ！」
　ヘザーと呼ばれた女は、真っ向から反論した。
「そんな事はないぞ！」
「情熱なら負けてない！」
「みんなでがんばればなんとかなるよ！」
　ヘザーへの反論の声が周囲から沸きあがる。
「とても危険なことなんだぞ！」
　ヘザーはなおも反論するが、
「覚醒者に俺たちの気持ちがわかるか！」
「そうだそうだ！　俺達は本気だぞ！」
　多勢に無勢だった。
「皆、システィーナ様の役に立ちたいんだ……君も同じ気持ちであるはずだ。諦めて協力してはくれないか？」
　モーリスは、諭すように冷静にヘザーに言った。
　ヘザーは何も言わずに、歯をむき出しにしてかれらを睨みつけた後、そっぽを向くと、どこかへと駆け出していった。

　ヘザーのほかには集団を誰も咎めるものはなかった。

　その日の夕暮れ、ハンターズソサエティにヘザーの姿があった。
「私はハンターだが、ハンターに仕事を依頼したい」
　そんな言葉に職員は驚きの顔を見せたが、通常の依頼人にするように、話を聞いた。

　グラズヘイム王国王都イルダーナ付近に、歪虚が発生。
　正確には、まだはっきりとした被害が出ておらず、それらしいものの目撃情報があったというだけだ。
　目撃情報も誤認であった可能性がいまだ否定できず、これだけであればそれほど切羽詰った状態ではない。
　悪いのは、一般人が歪虚退治をしようとしている事である。
　何を勘違いしたのか、熱狂的なシスティーナ王女のファンが、歪虚を退治して王女を喜ばせたい、もしかしたら王女じきじきにお礼の言葉がもらえるかもしれない、あわよくば顔を覚えてもらえるかもしれない……などと妄想を膨らませているのだという。
「気持ちはわかるが奴らにそんなことできるわけがない！」
　ヘザーは先導していた男の事を知っていた。
　名前はモーリス・アバック。プルミエール(王国の初等学校)の同期であり、ヘザーと同じく、システィーナ王女を強く敬愛し、事あるごとに追っかけをすることから、同志として認め合う間柄となっている。
「アイツよりも私の方が絶対システィーナ様が好きだ」
　ライバル心まで芽生えている。
　ともかく、モーリスは正真正銘の一般人だ。モーリスに同調した多くも王国兵でも傭兵でもない一般人だろう。
　いくら数が集まっても、歪虚相手に戦えるはずがない。たとえ戦えたとしても、危険すぎる。
「彼らを説得し、歪虚を倒すのを手伝って欲しい！」
　
　それが、ハンター、ヘザーの依頼であった。

「実行の日程と行き先は……わからない……。
　そうだな、私が奴らに協力するふりをして聞きだすことにしよう。
　後で必ず連絡する。
　かれらの愚かな試みを止めさせ、歪虚も退治するんだ！

　やってみせる！　私の右ストレートで！」

　ヘザーの拳が空を切った。

・目的
　一般人の説得と護衛。歪虚の撃破。

　一般人の集団(最大三十人)を説得し、戦意を削ぐこと。
　説得の内容次第で、護衛しなければならない一般人が減る。
　戦意を削いでも完全に止めないだろうから、歪虚との戦いの最中にもかれらを守る事を考えなければならない。
　
（以下の情報は後日依頼人がもたらしたもの）

・同行者
　ハンター　ヘザー・スクロヴェーニ
　王国在住。主にイルダーナ・リゼリオで活動しているハンター。
　リゼリオには転移門を使って行き来している。

・敵
　雑魔×18
　キリギリスが元型。負のマテリアルによって体長１ｍほどまで巨大化している。
　そこを通りかかった旅人が偶然見つけたという。
　一体一体は弱いが、数が多い。
　跳躍力が高く、キャラクターの頭上を飛び越えて移動することが可能。

・場所
　イルダーナより東へ半日ほど行った辺りの、イルダーナを流れる河川沿いの平地。
　草が茂っている。所によっては1ｍを上回る高さの草が密集している所もある。
　雑魔は草むらの中に隠れている。
　凄まじく大きな声で鳴いているので大体どこら辺にいるのかはわかるだろう。しかし、茂みに完全に隠れているため、遠くからでは見つけるのは難しい。
　戦闘の邪魔になるものはない。

・備考
　一般人とは集合地点（都内某所）で会うことができる。
　戦闘中、同じか隣接するスクエアにいる一般人はかばう事ができる。メインアクション扱い。

　一般人達は一人ひとり考えていることが違いますが、行動するからには動機を持っています。
　愛国心や功名心、あるいは何かの八つ当たりだとか暴れたいだけとか、いろいろです。
　かれらの戦意を萎えさせる言葉を考えてみて下さい。

　今回はサポートがありです。一般人の護衛や誘導などにまわるのがいいのではないかと思います。
　ただし、必ず描写されるとは限りません。
　ヘザーは特に希望がない限りは一般人の護衛に回ります。