ゲスト
(ka0000)
【龍奏】恋しき帝都、陛下への想い
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/20 19:00
- 完成日
- 2016/04/28 18:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
龍園の東側にあるザムラ・ガラン遺跡。その外で疲れたようにハンマーを下したゼナイドは、カム・ラディ遺跡解放後に合流した第十師団3階層のジュリとハンターと共に本隊が戦闘を開始するのを待っていた。
「ここが例の遺跡……」
ふぅ。そう息を吐いたゼナイドは、ハンマーの上に腰を下ろすと優雅にも見える動作で足を組んだ。それを見ていたジュリが不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫ッスか? なんだか元気がないようッスけど……」
確かにこの地には負のマテリアルの気配がする。それはこの遺跡を陣取っている歪虚の影響が強いのだが、ゼナイドが不調を訴えるほどは強くないはずだ。
その証拠に、彼女と同種のエルフであるジュリはピンピンしている。
「連戦が影響してるッスかね? 負のマテリアルの影響はここに来てそう経ってないッスから、あっしは大丈夫ですけどゼナイド様はずっとッスもんね……」
エルフにとって負のマテリアルは普通の人間よりも受ける影響が強い。
以前北狄侵攻の際、エルフであるジュリを使って彼の地に漂う負のマテリアルの影響を調べたのでその効果は折り紙付きだ。とは言え、ここは北狄とは違う。
そうなると考えられるのは連戦で疲れが出た、だが……。
「わたくしに限ってそれはありませんわ。自分で言うのもなんですけど、一年戦い通しでも生き抜く自信がありますもの。でもそんなわたくしでもエネルギーが不足すれば元気くらいなくなりますわ……」
「エネルギーッスか? それは体力じゃないんッスか???」
だいたいの生き物は「エネルギー切れ=体力切れ」となる。しかし今の口ぶりから察するにゼナイドのエネルギーは体力とは別物らしい。
「ゼナイド様クラスになると何か特別なドーピングでもしてるッスか?」
「ドーピングとか失礼なこと言わないでくださいな。と言うか貴女……一度アネリブーベに戻っているならマンゴルトから受け取ってませんの?」
「な、何をッスか?!」
突然の方向変換にジュリがビビッて後じさりをする。
そこにジト目を注ぎながら、ゼナイドが無言で手を差し出した。
「わたくしのエネルギーの源ですわよ。マンゴルトであればわかっているはずですもの」
そうは言われても、ジュリはマンゴルトにゼナイドの補佐に行くようにと言われただけで、他に何か渡された記憶はない。あるとすれば、
「あ! これならあるッス!」
思い出したように服の中から取り出したのは……下着?
「マンゴルト様がそろそろ予備がなくなるだろうから持って行ってあげる様にって言ってたッス! なんか紐にも見えるッスけど……って、ゼナイド様。プルプル震えてどうしたッスか?」
「どうしたもこうしたも……貴女、わたくしをなんだと思ってるのかしら? そう言えば貴女、わたくしの初めて会ったとき言いましたわね。おばさん、って」
じりじり後退するジュリ。そんな彼女ににじり寄るべく立ち上がったゼナイドは徐々に彼女との距離を詰めると、勢いよく下着を奪い取った。
「わたくしが言っているのはこっちではありませんわよ! わたくしが言っているのはわたくしのエネルギーの源!! ヴィルヘルミナ陛下の事ですわ!!!」
あぁ。とジュリだけでなく後方からも納得の声が響く。
だがそうなると理解できないのは彼女が手を出したことだ。
「流石にあっしも陛下を持ち歩くことはできないッスよ?」
「わかってますわよ! ですからありますでしょ! 陛下のご尊顔を賜れる貴重な品がっ!! ポートレイトと言う究極にして至極の逸品がっ!!!」
再び漏れた納得の声。しかし悲しいかな。
ジュリはポートレイトを持っていない。そしてそれに代わる品物も持っていない。
「ご、ごめんなさいッス……あっし、もしかして最下層に逆戻りッスか?」
ヒクッと口元を引き攣らせた彼女にゼナイドの口角が下がる。
「……貴女には次の配属先が決まってますのよ。それに貴重な戦力を最下層に落とすようなことはしませんわ」
第十師団の最下層は兵士として使えない者が落とされる場所だ。
中には独自の技術力を持って最下層でありながら上層階の者と似たような待遇を受ける者もいる。それでも戦闘ができる者に比べれば位は下だ。
ジュリはここ最近で目まぐるしい功績を上げている。そんな彼女を欲しいと言う部隊が出たのだ。そしてゼナイドも彼女の移籍を容認している。
「それじゃあ、お咎めなしッスか?!」
ゼナイド様にしては珍しい! そう声を上げた直後、遺跡の方から戦闘音らしき音が響き始めた。これにジュリが自前のナイフを取り出す。が、ゼナイドは再びハンマーの上に腰を下ろすと不機嫌そうに足を組んでしまった。
「えっと……ゼナイド様はいかないんッスか?」
「ポートレイトがないとやる気が出ませんの。あー、陛下のご尊顔が見たいですわー! 誰か持っていませんのー!」
後半はやや棒読みだがゼナイドの気持ちもわからなくもない。
それでも戦闘は開始されている。そう遅くない間にこちらにも敵が流れてくるはずだ。
ジュリは慌てたようにハンターを振り返ると言った。
「だ、誰か陛下のポートレイト持ってないッスか?! このままじゃゼナイド様が無能になってしまう――はぅ!? 本隊から戦闘開始の連絡が来てるッス! はぅぅううう!!!」
「ここが例の遺跡……」
ふぅ。そう息を吐いたゼナイドは、ハンマーの上に腰を下ろすと優雅にも見える動作で足を組んだ。それを見ていたジュリが不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫ッスか? なんだか元気がないようッスけど……」
確かにこの地には負のマテリアルの気配がする。それはこの遺跡を陣取っている歪虚の影響が強いのだが、ゼナイドが不調を訴えるほどは強くないはずだ。
その証拠に、彼女と同種のエルフであるジュリはピンピンしている。
「連戦が影響してるッスかね? 負のマテリアルの影響はここに来てそう経ってないッスから、あっしは大丈夫ですけどゼナイド様はずっとッスもんね……」
エルフにとって負のマテリアルは普通の人間よりも受ける影響が強い。
以前北狄侵攻の際、エルフであるジュリを使って彼の地に漂う負のマテリアルの影響を調べたのでその効果は折り紙付きだ。とは言え、ここは北狄とは違う。
そうなると考えられるのは連戦で疲れが出た、だが……。
「わたくしに限ってそれはありませんわ。自分で言うのもなんですけど、一年戦い通しでも生き抜く自信がありますもの。でもそんなわたくしでもエネルギーが不足すれば元気くらいなくなりますわ……」
「エネルギーッスか? それは体力じゃないんッスか???」
だいたいの生き物は「エネルギー切れ=体力切れ」となる。しかし今の口ぶりから察するにゼナイドのエネルギーは体力とは別物らしい。
「ゼナイド様クラスになると何か特別なドーピングでもしてるッスか?」
「ドーピングとか失礼なこと言わないでくださいな。と言うか貴女……一度アネリブーベに戻っているならマンゴルトから受け取ってませんの?」
「な、何をッスか?!」
突然の方向変換にジュリがビビッて後じさりをする。
そこにジト目を注ぎながら、ゼナイドが無言で手を差し出した。
「わたくしのエネルギーの源ですわよ。マンゴルトであればわかっているはずですもの」
そうは言われても、ジュリはマンゴルトにゼナイドの補佐に行くようにと言われただけで、他に何か渡された記憶はない。あるとすれば、
「あ! これならあるッス!」
思い出したように服の中から取り出したのは……下着?
「マンゴルト様がそろそろ予備がなくなるだろうから持って行ってあげる様にって言ってたッス! なんか紐にも見えるッスけど……って、ゼナイド様。プルプル震えてどうしたッスか?」
「どうしたもこうしたも……貴女、わたくしをなんだと思ってるのかしら? そう言えば貴女、わたくしの初めて会ったとき言いましたわね。おばさん、って」
じりじり後退するジュリ。そんな彼女ににじり寄るべく立ち上がったゼナイドは徐々に彼女との距離を詰めると、勢いよく下着を奪い取った。
「わたくしが言っているのはこっちではありませんわよ! わたくしが言っているのはわたくしのエネルギーの源!! ヴィルヘルミナ陛下の事ですわ!!!」
あぁ。とジュリだけでなく後方からも納得の声が響く。
だがそうなると理解できないのは彼女が手を出したことだ。
「流石にあっしも陛下を持ち歩くことはできないッスよ?」
「わかってますわよ! ですからありますでしょ! 陛下のご尊顔を賜れる貴重な品がっ!! ポートレイトと言う究極にして至極の逸品がっ!!!」
再び漏れた納得の声。しかし悲しいかな。
ジュリはポートレイトを持っていない。そしてそれに代わる品物も持っていない。
「ご、ごめんなさいッス……あっし、もしかして最下層に逆戻りッスか?」
ヒクッと口元を引き攣らせた彼女にゼナイドの口角が下がる。
「……貴女には次の配属先が決まってますのよ。それに貴重な戦力を最下層に落とすようなことはしませんわ」
第十師団の最下層は兵士として使えない者が落とされる場所だ。
中には独自の技術力を持って最下層でありながら上層階の者と似たような待遇を受ける者もいる。それでも戦闘ができる者に比べれば位は下だ。
ジュリはここ最近で目まぐるしい功績を上げている。そんな彼女を欲しいと言う部隊が出たのだ。そしてゼナイドも彼女の移籍を容認している。
「それじゃあ、お咎めなしッスか?!」
ゼナイド様にしては珍しい! そう声を上げた直後、遺跡の方から戦闘音らしき音が響き始めた。これにジュリが自前のナイフを取り出す。が、ゼナイドは再びハンマーの上に腰を下ろすと不機嫌そうに足を組んでしまった。
「えっと……ゼナイド様はいかないんッスか?」
「ポートレイトがないとやる気が出ませんの。あー、陛下のご尊顔が見たいですわー! 誰か持っていませんのー!」
後半はやや棒読みだがゼナイドの気持ちもわからなくもない。
それでも戦闘は開始されている。そう遅くない間にこちらにも敵が流れてくるはずだ。
ジュリは慌てたようにハンターを振り返ると言った。
「だ、誰か陛下のポートレイト持ってないッスか?! このままじゃゼナイド様が無能になってしまう――はぅ!? 本隊から戦闘開始の連絡が来てるッス! はぅぅううう!!!」
リプレイ本文
●
上空にワイバーン、前方に無数のリザードマンを据えても尚、ゼナイドは動かずにハンマーの上に腰かけて我儘を続行させていた。
「前にも見たことがあるぞ、この状況……変わらんな、この女は……」
そう零すアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は溜息ともつかぬ息をこぼして腕を組む。
敵は目前。実際問題この場に集まるハンターだけでも処理できる敵であることは間違いない。それでも帝国の――いや、皇帝陛下に忠誠を誓う身として言いたいことがある。
「おい、そこの」
「口で言って聞く相手ではないぞ」
前に出ようとしたアウレールの肩を掴みヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が紫煙を吐き出す。
そうして咥えていた煙草を然るべき方法で処理すると特殊モーターを搭載した刀に手を伸ばした。
「俺が然るべき立場なら観察に報告、なんだが……ま、いい。第十師団長殿の面倒さを引き受ける甲斐性はないからな……」
「同じくボクも、かなぁ」
同調して己が武器に手を伸ばすヒース・R・ウォーカー(ka0145)もゼナイドの我儘は無視しておくべき、と言う見解らしい。
2人は小さく肩を竦めるようにして頷き合うと、友軍の動きを確認する間もなく前に飛び出した。
「リザードマンは任せるよ」
「おう」
ヒースの援護に片手に刀を携えたまま銃を抜き取ったヴォルフガング。
そんな2人を見て上げかけた声を呑み込まざる負えなくなったアウレールは伸ばしかけた手を空で握り締めて米神を揺らした。
「……私だって無視できるものならしたい。だが、この女は許せんのだッ」
人が動く根底に『エネルギー源』がある事には全面同意ができる。そもそもアウレールとゼナイドの思考回路の根底にはほぼ差がないのだ。つまり彼のエネルギー源も『陛下』と言う事になる。
「奴には生真面目さや世間体を取り繕う慎みが足りないのだ。それは……陛下分の補給源が手元にないことは同情しよう。しかしそれはそれ、これはこれだ。私とて最近は欠乏気味。1つ突いては父の為、2つ斬っては皇の為……」
「なんだかゼナイド様が2人に増えた気分ッス……」
「そんなことを言っては彼に失礼ですよ」
穏やかに、そしてさり気なく失礼に言ってフェリア(ka2870)がジュリの前に手を差し出す。
「私はフェリア。よろしくね」
「よろしく、ッス……」
戦場に似つかわしくない微笑みを浮かべて手を握り返す彼女にジュリの頬が少しだけ赤くなる。そんな彼女に笑みを深めてから、フェリアはゼナイドとアウレールを見た。
「……我が家は皇帝の剣たるを称するけれど」
(この人達ほど盲目に忠誠を誓うわけではないのですよね)
心の中で密かにそう言いながらジュリから手を離す。
盲目的に忠誠を、と言えばもう1人思い当たる人物がいる。風の噂で耳にした称号。確か――
「『ヴィルヘルミナ・ウランゲルFC名誉会員』としては譲ってあげたいのは山々なんだけどねー……?」
「「ヴィルヘルミナ・ウランゲルFC名誉会員?!」」
聞こえた称号名にゼナイドとアウレールが同時に振り返る。そこにいたのはラン・ヴィンダールヴ(ka0109)だ。
彼はのんびりした様子で髪を掻き上げると、隣に立つマッシュ・アクラシス(ka0771)に苦笑を覗かせた。
「僕も、集めてるからねー……ポートレート」
「ポートレイト……?」
「肖像画だねー」
「……肖像。ああ、成程」
まるで興味なさそうに頷いたマッシュは、若干の期待を込めて向けられたであろうゼナイドの視線から目を逸らし、少し面倒そうに息を吐いた。そうしてランを見ると僅かに声を早めて問う。
「知ってはいますが、私が持っていたそれは全てこの人に譲ってしまいましたので、ええ。どうにかして差し上げてくださいよお金持ち」
「あぁ、うん。そうだったね。ありがとねー?」
いえ、そう言う事ではなく。そう言葉を続けたマッシュにゼナイドの米神がヒク付く。そして極め付けがコレだ。
「まあ、形のある物が無ければ心にも思い描けぬようでは、大したものでもないのかもしれませんが……あぁ、失礼」
「失礼ですわね! わたくしの心……いえ、脳みその神髄まで陛下のお姿が染みついてますわ! そうではなく心にあるお姿も美しいですけれど、わたくしが望むのは真のお姿っ!! わかりまして? 陛下のお姿をこの目に」
「騒ぐな、ゼナイド」
「!」
凛として響く声にゼナイドの目が見開かれる。そして「まさか」と言う思いで振り返った彼女は――固まった。
「どうしたその様な顔をして。まさか私の姿を忘れた訳では――グァハッ!?」
強烈痛烈に喰らった右手のアッパー。それに吹き飛んだのは王女様なりきりグッズで皇帝へと変貌を遂げた(つもりでいる)ジャック・J・グリーヴ(ka1305)だ。
彼は王女様のスカートを翻しながら地面に突っ伏す。
「アホですの!? ドアホですの?! むしろすっとこですの!?」
「フッ……俺様のパーフェクトなプランで痴女のやる気が出たようだな……予想以上に、キレられたが……」
「世界一かっこいい(?)貴族様……何してるッスか……」
ツンツンと指で突くジュリにジャックは「気にするな」と手を上げて立ち上がる。
当然服はそのままな訳で、ゼナイドや周囲の目が痛い。それでも服についた泥を払い、唇を滴る血を拭って前を見た。
「帝国知識で身に着けた皇帝っぽい喋り方。これはパーフェクトだっただろ?」
「「「「それはない」」」」
各方面からのツッコミに立てた親指も台無しだ。と、その直後に彼の表情が変わった。
「退けッ!」
合図と同時に飛び退いた面々の前に風のように鋭い炎が飛んできた。
それに視線を飛ばすと手裏剣でワイバーンの気を惹こうと動くヒースの姿が飛び込んでくる。彼は漫才が繰り広げられている間も敵の注意を引き付けて動き回ってくれていたらしい。
その事に感謝と謝罪を胸に秘め、フェリアが流木の杖を構える。
「彼女とは知己もあり、1人の人間としては好感は持っています。けれど、真に王たる器であるかは昨今の状況を見ると考えさせられますね……良い人が、王に向いているとは限らないのですから」
記憶を失った彼女が王に向いているかどうか。その真価を問われるのはこれからだろう。
「いえ……正にそれは始まっているのかもしれない。ならばこそ、集中いたしましょう。目の前の事に……!」
祈りと共に集めた冷気を放つ。
これに視界を遮られたワイバーンが真上へ飛び上がるのだが、それをフェリアの更なる攻撃が遮る。
一方、リザードマンの元へ向かったヴォルフガングの元でも別のハンターが援護をしようと戦馬を駆り出していた。
「このデスドクロ様が来たからにゃ、遺跡の主の魔神でも対処可能だが……あァん? 何だこりゃ。リザードマンなら百万匹まで俺様一人で余裕だ」
リザードマンとヴォルフガングの間に入ったデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は、赤銅色の魔導銃を構えると敵が複数集まる場所に照準を合わせた。
「黒き超必殺スキルのひとつ、破砕のダークネスストームで一掃して終い……だが! だがそれじゃあ前途有望な若い衆が経験を積めねぇし、何より遺跡に被害が出る。仕方ねぇから、ここは通常の3%の力で戦うことにすんぜ!」
グーハハハハ! 大声で笑いながらマテリアルを込めた銃の引き金を引くと、漆黒の炎の槍が直線上にあったリザードマンを焼き払った。
「さて、首輪付はこの状況下でも動かないつもりか? だとするならば私は大変遺憾だ。1匹狩る毎に陛下の役に立てている、仇を討てている、そうモチベを維持しつつ闘う眼前で、陛下直属の師団長が怠けているのは殺意モノ!」
眉間に皺を刻みながらアウレールは懐からある者を取り出した。
それは額縁に入った彼愛用(?)のポートレイトだ。彼はそれをゼナイドの眼前に出すとすぐに胸元へとしまった。
「近くで見たければリザードマン狩りを手伝え! 1体1cmだ! 自前で用意せず他人に用意させる時点で失格、愛が足りないぞ!! 陛下の為馬車馬の如く働けー!!」
言い終えるとアウレールは自らの馬に跨って駆け出した。その方角から察するに彼の目標はワイバーンのようだ。
ゼナイドはそんな彼の背を見送ると「1体1cm」と呟き己がハンマーを持ち上げた。
●
「水が弱点かなぁ……まぁ、知らないでいるよりはいいだろうしねぇ」
トンッと蹴った地面。雪や結晶の地面を駆け抜けながら目指すのはリザードマンに守られるように飛ぶワイバーンだ。
「おいおい、無茶はするなよ」
周囲の敵を薙ぎ払い、ヴォルフガングが拳銃を構える。
自身に群がる敵は今のでほぼ一掃したが、視界には未だに近付く敵の姿が見えている。そう長く味方の援護をしている余裕はない。
それでも合わせた照準はヒースが向かおうとする先、ワイバーンを守るように武器を構える存在に向いている。そして彼がワイバーンとリザードマンの間合いに飛び込むと、彼の引き金が引かれた。
「チッ、こっちも来たか……」
ヒースの行方を確認しきる前に銃口を下げる。そうして代わりに引き抜いた刃が地面を向くと、彼の足が利き足が前に出た。
「悪いが、一気に片を付けさせてもらう!」
向かい来る敵を見据え、一閃を突き出す。
直後、鋭い刃が直線上の敵を引き裂き、彼の前に道を作った。しかしそれすらも直ぐに別の敵に塞がれてしまう。
「随分としつこいな……」
「数だけは用意されているようだな。だがそれだけだ」
道を塞ぐ敵に撃ち込まれた無数の銃弾。それに視線を向けたヴォルフガングの目が直ぐに前を見た。
「なかなか個性的な格好だな」
「着替える暇がなくってなぁ――って、オラァッ! 俺様を無視すんじゃねぇ!!!」
先程までこちらを目指していたリザードマンがワイバーンの援護に向かおうと体を反転させた。そこに向かって獅子が如き雄叫びを上げる。すると敵はすぐさま視線を戻し、ジャックの元へ駆けて来た。
「そうだ! 貴族ってのは平民守る義務があっからよ! 向こうには行かせねぇぜ!!」
対ワイバーン組にはそちらに集中して欲しい。そんな思いがジャックにはあるのだろう。
彼は敵の気を惹くように大きく立ち回りながらリザードマンを伏してゆく。そしてそんな彼と同じくリザードマンの気を惹くように大きく動く者があった。
「あァん? おぱいドは俺様の華麗なるバトルを邪魔しないように、端で縮こまっていたんじゃないのか?」
「誰がおぱいドですの!?」
ん。そう指差された眉間を揺らすゼナイドだったが、すぐさま彼女のハンマーが地面を叩く。
目前に迫るリザードマンを威嚇する動きだ。これにデスドクロの戦馬が嘶きを上げるが流石は愛馬。直ぐに落ち着きを取り戻させると、彼は自身の銃を敵に向けて構えた。
「尻尾の動きをよく観察しろ。おぱいばかりでなく尻の動きにも気を配る。それこそが一皮むけるための重要なポイントだからな」
「意味が分かりませんわよッ!!」
アドバイスなのは理解できるが前半は意味不明。そう叫ぶゼナイドを無視して黒炎を放つ。
腕を突き出すたびに放たれる漆黒の炎。これに焼かれて悲鳴を上げる敵を前にデスドクロの白い歯が覗く。
「トカゲ程度は脅威でもなんでもねぇが、万が一にでも連中の小汚ねぇ手で俺様の麗しき黒の装備に触れられたらたまったもんじゃねぇ! とにかくトカゲは焼く! これが基本であり王者の流儀だ!」
「あ、すごいねー……あっちは丸こげだねー」
「真似したい、とか言わないでくださいね……突撃だけでも充分大変なんで……」
そう言葉を続けるマッシュはランについていくので精一杯だ。
ランの戦闘方法は実にシンプル。回避よりも攻撃優先で突っ込んで斬り付ける。そうして討ち漏らした敵はマッシュが斬り捨てるのだが、この姿が見ている者からすれば不安になってくるらしい。
「うわっ!? な、なんッスか……あの動き……」
ランの背中越しに差し出した鎌の刃がリザードマンの胴を貫く。当然敵は動かなくなるのだが、ランは違う。
マッシュが刃を引き抜く前に駆け出すものだから刃スレスレで突進しているのだ。
はっきり言って見ている方が心臓に悪い。
「よし、じゃ、マッシュ君あっち側よろしくねー?」
「……いえ、貴方じゃあるまいし、無意味に突入するはずないでしょう……」
明らかに敵の多い個所を任せようとするランに息を吐きつつ鎌を構え直す。そして息を吸うと同時に駆け出すと、ランの方へ敵が行かないよう動き始めた。
その頃、ワイバーンに水属性の攻撃が利くかどうかレガースの付いた脚で試したヒースは、着地と同時に手でフェリアへ合図。
自身は武器をネーベルナハトに持ち替えてワイバーンに背を向けると一気に駆け出した。
「依頼に私情は持ち込まない、と割り切れるほど大人じゃないみたいでねぇ、ボクはぁ」
零しながら、フェリアが再び放ったブリザードを気配で感じる。そしてワイバーンが雄叫びを上げるのを聞き止めると彼の足が反転した。
真正面から捉えたワイバーンは炎を吐く為に息を吸う姿が見える。このまま直進すれば炎の餌食になることは間違いない。
だがヒースはそれを承知で駆け出した。
「良いだろう、こちらも援護をしよう」
ヒースの動きに賛同したアウレールは、炎を溜める敵に向かって絶火槍「クルヴェナル」を放った。
首を取る勢いで迫る槍にワイバーンの頭が逸らされる。それ好機と見て、ヒースの足が加速した。
「今、ボクの内では色んな想いが渦巻いていて整理できなくてねぇ。悪いけど、この憤りお前にぶつけさせてもらう」
ワイバーンとヒースの距離は僅か。しかし――
「間に合わないか!」
ワイバーンの口から放たれた炎に馬の胴を蹴る。だが、彼はすぐに手綱を引いて馬の動きを止めた。
「1回だけならなんとか……!」
炎の前に出現した壁。それが炎を受け止め、ヒースへの直撃を食い止めている。
それを成したフェリアは今にも崩れそうな壁を支えながらヒースに行くように促す。これにヒースの武器が血色のオーラを纏う。
「……それがなくてもお前は殺さなきゃいけないんだけど、ねぇ!」
炎を吐き終えたワイバーンの前に飛び出して突き入れた刃。それが敵の喉を掻き切ると、彼はワイバーンが地面に崩れるその瞬間まで目を逸らさず立ち続けた。
戦闘終了後、フェリアはポートレイトを見詰めるゼナイドに近付くとこう言葉を切り出した。
「……ポートレートは無いけれど……これではダメですか?」
彼女が渡そうとしているのはルミナちゃん人形だ。一部のコア層に人気で一時品薄状態になった一品なのだが……
「あれ? 置いてきちゃいました?」
そう言って首を傾げた彼女に、何とも言えない絶望感を味わうゼナイドだった。
上空にワイバーン、前方に無数のリザードマンを据えても尚、ゼナイドは動かずにハンマーの上に腰かけて我儘を続行させていた。
「前にも見たことがあるぞ、この状況……変わらんな、この女は……」
そう零すアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は溜息ともつかぬ息をこぼして腕を組む。
敵は目前。実際問題この場に集まるハンターだけでも処理できる敵であることは間違いない。それでも帝国の――いや、皇帝陛下に忠誠を誓う身として言いたいことがある。
「おい、そこの」
「口で言って聞く相手ではないぞ」
前に出ようとしたアウレールの肩を掴みヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が紫煙を吐き出す。
そうして咥えていた煙草を然るべき方法で処理すると特殊モーターを搭載した刀に手を伸ばした。
「俺が然るべき立場なら観察に報告、なんだが……ま、いい。第十師団長殿の面倒さを引き受ける甲斐性はないからな……」
「同じくボクも、かなぁ」
同調して己が武器に手を伸ばすヒース・R・ウォーカー(ka0145)もゼナイドの我儘は無視しておくべき、と言う見解らしい。
2人は小さく肩を竦めるようにして頷き合うと、友軍の動きを確認する間もなく前に飛び出した。
「リザードマンは任せるよ」
「おう」
ヒースの援護に片手に刀を携えたまま銃を抜き取ったヴォルフガング。
そんな2人を見て上げかけた声を呑み込まざる負えなくなったアウレールは伸ばしかけた手を空で握り締めて米神を揺らした。
「……私だって無視できるものならしたい。だが、この女は許せんのだッ」
人が動く根底に『エネルギー源』がある事には全面同意ができる。そもそもアウレールとゼナイドの思考回路の根底にはほぼ差がないのだ。つまり彼のエネルギー源も『陛下』と言う事になる。
「奴には生真面目さや世間体を取り繕う慎みが足りないのだ。それは……陛下分の補給源が手元にないことは同情しよう。しかしそれはそれ、これはこれだ。私とて最近は欠乏気味。1つ突いては父の為、2つ斬っては皇の為……」
「なんだかゼナイド様が2人に増えた気分ッス……」
「そんなことを言っては彼に失礼ですよ」
穏やかに、そしてさり気なく失礼に言ってフェリア(ka2870)がジュリの前に手を差し出す。
「私はフェリア。よろしくね」
「よろしく、ッス……」
戦場に似つかわしくない微笑みを浮かべて手を握り返す彼女にジュリの頬が少しだけ赤くなる。そんな彼女に笑みを深めてから、フェリアはゼナイドとアウレールを見た。
「……我が家は皇帝の剣たるを称するけれど」
(この人達ほど盲目に忠誠を誓うわけではないのですよね)
心の中で密かにそう言いながらジュリから手を離す。
盲目的に忠誠を、と言えばもう1人思い当たる人物がいる。風の噂で耳にした称号。確か――
「『ヴィルヘルミナ・ウランゲルFC名誉会員』としては譲ってあげたいのは山々なんだけどねー……?」
「「ヴィルヘルミナ・ウランゲルFC名誉会員?!」」
聞こえた称号名にゼナイドとアウレールが同時に振り返る。そこにいたのはラン・ヴィンダールヴ(ka0109)だ。
彼はのんびりした様子で髪を掻き上げると、隣に立つマッシュ・アクラシス(ka0771)に苦笑を覗かせた。
「僕も、集めてるからねー……ポートレート」
「ポートレイト……?」
「肖像画だねー」
「……肖像。ああ、成程」
まるで興味なさそうに頷いたマッシュは、若干の期待を込めて向けられたであろうゼナイドの視線から目を逸らし、少し面倒そうに息を吐いた。そうしてランを見ると僅かに声を早めて問う。
「知ってはいますが、私が持っていたそれは全てこの人に譲ってしまいましたので、ええ。どうにかして差し上げてくださいよお金持ち」
「あぁ、うん。そうだったね。ありがとねー?」
いえ、そう言う事ではなく。そう言葉を続けたマッシュにゼナイドの米神がヒク付く。そして極め付けがコレだ。
「まあ、形のある物が無ければ心にも思い描けぬようでは、大したものでもないのかもしれませんが……あぁ、失礼」
「失礼ですわね! わたくしの心……いえ、脳みその神髄まで陛下のお姿が染みついてますわ! そうではなく心にあるお姿も美しいですけれど、わたくしが望むのは真のお姿っ!! わかりまして? 陛下のお姿をこの目に」
「騒ぐな、ゼナイド」
「!」
凛として響く声にゼナイドの目が見開かれる。そして「まさか」と言う思いで振り返った彼女は――固まった。
「どうしたその様な顔をして。まさか私の姿を忘れた訳では――グァハッ!?」
強烈痛烈に喰らった右手のアッパー。それに吹き飛んだのは王女様なりきりグッズで皇帝へと変貌を遂げた(つもりでいる)ジャック・J・グリーヴ(ka1305)だ。
彼は王女様のスカートを翻しながら地面に突っ伏す。
「アホですの!? ドアホですの?! むしろすっとこですの!?」
「フッ……俺様のパーフェクトなプランで痴女のやる気が出たようだな……予想以上に、キレられたが……」
「世界一かっこいい(?)貴族様……何してるッスか……」
ツンツンと指で突くジュリにジャックは「気にするな」と手を上げて立ち上がる。
当然服はそのままな訳で、ゼナイドや周囲の目が痛い。それでも服についた泥を払い、唇を滴る血を拭って前を見た。
「帝国知識で身に着けた皇帝っぽい喋り方。これはパーフェクトだっただろ?」
「「「「それはない」」」」
各方面からのツッコミに立てた親指も台無しだ。と、その直後に彼の表情が変わった。
「退けッ!」
合図と同時に飛び退いた面々の前に風のように鋭い炎が飛んできた。
それに視線を飛ばすと手裏剣でワイバーンの気を惹こうと動くヒースの姿が飛び込んでくる。彼は漫才が繰り広げられている間も敵の注意を引き付けて動き回ってくれていたらしい。
その事に感謝と謝罪を胸に秘め、フェリアが流木の杖を構える。
「彼女とは知己もあり、1人の人間としては好感は持っています。けれど、真に王たる器であるかは昨今の状況を見ると考えさせられますね……良い人が、王に向いているとは限らないのですから」
記憶を失った彼女が王に向いているかどうか。その真価を問われるのはこれからだろう。
「いえ……正にそれは始まっているのかもしれない。ならばこそ、集中いたしましょう。目の前の事に……!」
祈りと共に集めた冷気を放つ。
これに視界を遮られたワイバーンが真上へ飛び上がるのだが、それをフェリアの更なる攻撃が遮る。
一方、リザードマンの元へ向かったヴォルフガングの元でも別のハンターが援護をしようと戦馬を駆り出していた。
「このデスドクロ様が来たからにゃ、遺跡の主の魔神でも対処可能だが……あァん? 何だこりゃ。リザードマンなら百万匹まで俺様一人で余裕だ」
リザードマンとヴォルフガングの間に入ったデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は、赤銅色の魔導銃を構えると敵が複数集まる場所に照準を合わせた。
「黒き超必殺スキルのひとつ、破砕のダークネスストームで一掃して終い……だが! だがそれじゃあ前途有望な若い衆が経験を積めねぇし、何より遺跡に被害が出る。仕方ねぇから、ここは通常の3%の力で戦うことにすんぜ!」
グーハハハハ! 大声で笑いながらマテリアルを込めた銃の引き金を引くと、漆黒の炎の槍が直線上にあったリザードマンを焼き払った。
「さて、首輪付はこの状況下でも動かないつもりか? だとするならば私は大変遺憾だ。1匹狩る毎に陛下の役に立てている、仇を討てている、そうモチベを維持しつつ闘う眼前で、陛下直属の師団長が怠けているのは殺意モノ!」
眉間に皺を刻みながらアウレールは懐からある者を取り出した。
それは額縁に入った彼愛用(?)のポートレイトだ。彼はそれをゼナイドの眼前に出すとすぐに胸元へとしまった。
「近くで見たければリザードマン狩りを手伝え! 1体1cmだ! 自前で用意せず他人に用意させる時点で失格、愛が足りないぞ!! 陛下の為馬車馬の如く働けー!!」
言い終えるとアウレールは自らの馬に跨って駆け出した。その方角から察するに彼の目標はワイバーンのようだ。
ゼナイドはそんな彼の背を見送ると「1体1cm」と呟き己がハンマーを持ち上げた。
●
「水が弱点かなぁ……まぁ、知らないでいるよりはいいだろうしねぇ」
トンッと蹴った地面。雪や結晶の地面を駆け抜けながら目指すのはリザードマンに守られるように飛ぶワイバーンだ。
「おいおい、無茶はするなよ」
周囲の敵を薙ぎ払い、ヴォルフガングが拳銃を構える。
自身に群がる敵は今のでほぼ一掃したが、視界には未だに近付く敵の姿が見えている。そう長く味方の援護をしている余裕はない。
それでも合わせた照準はヒースが向かおうとする先、ワイバーンを守るように武器を構える存在に向いている。そして彼がワイバーンとリザードマンの間合いに飛び込むと、彼の引き金が引かれた。
「チッ、こっちも来たか……」
ヒースの行方を確認しきる前に銃口を下げる。そうして代わりに引き抜いた刃が地面を向くと、彼の足が利き足が前に出た。
「悪いが、一気に片を付けさせてもらう!」
向かい来る敵を見据え、一閃を突き出す。
直後、鋭い刃が直線上の敵を引き裂き、彼の前に道を作った。しかしそれすらも直ぐに別の敵に塞がれてしまう。
「随分としつこいな……」
「数だけは用意されているようだな。だがそれだけだ」
道を塞ぐ敵に撃ち込まれた無数の銃弾。それに視線を向けたヴォルフガングの目が直ぐに前を見た。
「なかなか個性的な格好だな」
「着替える暇がなくってなぁ――って、オラァッ! 俺様を無視すんじゃねぇ!!!」
先程までこちらを目指していたリザードマンがワイバーンの援護に向かおうと体を反転させた。そこに向かって獅子が如き雄叫びを上げる。すると敵はすぐさま視線を戻し、ジャックの元へ駆けて来た。
「そうだ! 貴族ってのは平民守る義務があっからよ! 向こうには行かせねぇぜ!!」
対ワイバーン組にはそちらに集中して欲しい。そんな思いがジャックにはあるのだろう。
彼は敵の気を惹くように大きく立ち回りながらリザードマンを伏してゆく。そしてそんな彼と同じくリザードマンの気を惹くように大きく動く者があった。
「あァん? おぱいドは俺様の華麗なるバトルを邪魔しないように、端で縮こまっていたんじゃないのか?」
「誰がおぱいドですの!?」
ん。そう指差された眉間を揺らすゼナイドだったが、すぐさま彼女のハンマーが地面を叩く。
目前に迫るリザードマンを威嚇する動きだ。これにデスドクロの戦馬が嘶きを上げるが流石は愛馬。直ぐに落ち着きを取り戻させると、彼は自身の銃を敵に向けて構えた。
「尻尾の動きをよく観察しろ。おぱいばかりでなく尻の動きにも気を配る。それこそが一皮むけるための重要なポイントだからな」
「意味が分かりませんわよッ!!」
アドバイスなのは理解できるが前半は意味不明。そう叫ぶゼナイドを無視して黒炎を放つ。
腕を突き出すたびに放たれる漆黒の炎。これに焼かれて悲鳴を上げる敵を前にデスドクロの白い歯が覗く。
「トカゲ程度は脅威でもなんでもねぇが、万が一にでも連中の小汚ねぇ手で俺様の麗しき黒の装備に触れられたらたまったもんじゃねぇ! とにかくトカゲは焼く! これが基本であり王者の流儀だ!」
「あ、すごいねー……あっちは丸こげだねー」
「真似したい、とか言わないでくださいね……突撃だけでも充分大変なんで……」
そう言葉を続けるマッシュはランについていくので精一杯だ。
ランの戦闘方法は実にシンプル。回避よりも攻撃優先で突っ込んで斬り付ける。そうして討ち漏らした敵はマッシュが斬り捨てるのだが、この姿が見ている者からすれば不安になってくるらしい。
「うわっ!? な、なんッスか……あの動き……」
ランの背中越しに差し出した鎌の刃がリザードマンの胴を貫く。当然敵は動かなくなるのだが、ランは違う。
マッシュが刃を引き抜く前に駆け出すものだから刃スレスレで突進しているのだ。
はっきり言って見ている方が心臓に悪い。
「よし、じゃ、マッシュ君あっち側よろしくねー?」
「……いえ、貴方じゃあるまいし、無意味に突入するはずないでしょう……」
明らかに敵の多い個所を任せようとするランに息を吐きつつ鎌を構え直す。そして息を吸うと同時に駆け出すと、ランの方へ敵が行かないよう動き始めた。
その頃、ワイバーンに水属性の攻撃が利くかどうかレガースの付いた脚で試したヒースは、着地と同時に手でフェリアへ合図。
自身は武器をネーベルナハトに持ち替えてワイバーンに背を向けると一気に駆け出した。
「依頼に私情は持ち込まない、と割り切れるほど大人じゃないみたいでねぇ、ボクはぁ」
零しながら、フェリアが再び放ったブリザードを気配で感じる。そしてワイバーンが雄叫びを上げるのを聞き止めると彼の足が反転した。
真正面から捉えたワイバーンは炎を吐く為に息を吸う姿が見える。このまま直進すれば炎の餌食になることは間違いない。
だがヒースはそれを承知で駆け出した。
「良いだろう、こちらも援護をしよう」
ヒースの動きに賛同したアウレールは、炎を溜める敵に向かって絶火槍「クルヴェナル」を放った。
首を取る勢いで迫る槍にワイバーンの頭が逸らされる。それ好機と見て、ヒースの足が加速した。
「今、ボクの内では色んな想いが渦巻いていて整理できなくてねぇ。悪いけど、この憤りお前にぶつけさせてもらう」
ワイバーンとヒースの距離は僅か。しかし――
「間に合わないか!」
ワイバーンの口から放たれた炎に馬の胴を蹴る。だが、彼はすぐに手綱を引いて馬の動きを止めた。
「1回だけならなんとか……!」
炎の前に出現した壁。それが炎を受け止め、ヒースへの直撃を食い止めている。
それを成したフェリアは今にも崩れそうな壁を支えながらヒースに行くように促す。これにヒースの武器が血色のオーラを纏う。
「……それがなくてもお前は殺さなきゃいけないんだけど、ねぇ!」
炎を吐き終えたワイバーンの前に飛び出して突き入れた刃。それが敵の喉を掻き切ると、彼はワイバーンが地面に崩れるその瞬間まで目を逸らさず立ち続けた。
戦闘終了後、フェリアはポートレイトを見詰めるゼナイドに近付くとこう言葉を切り出した。
「……ポートレートは無いけれど……これではダメですか?」
彼女が渡そうとしているのはルミナちゃん人形だ。一部のコア層に人気で一時品薄状態になった一品なのだが……
「あれ? 置いてきちゃいました?」
そう言って首を傾げた彼女に、何とも言えない絶望感を味わうゼナイドだった。
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相談卓 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013) 人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/04/19 22:51:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/16 23:38:59 |