ビューティー・アンド・ザ・ビースト3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/28 19:00
完成日
2016/04/29 19:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ジュリ? いやそれがのう、ジュリの奴はゼナと共にリグ・サンガマに行ってしまってな。何か用でもあったのか?」
 第十師団都市アネリブーベ。帝国最大にして唯一の監獄都市にタングラムの溜息が零れた。
「この間来た時も同じこと言われたですが、あいつはどんだけ遠征してるんですか」
「陛下がお倒れになった今となっては前線にいる方が気が楽なのかもしれんがのう。ちゃんと替えの下着はジュリに持たせたぞ」
「奴のおパンツ事情などどうでもいいのです。私の目当てはそのジュリの方ですからね……」
 がっくりと肩を落としたタングラムの背中を見送るマンゴルト。絡んでくる囚人に飛び蹴りをかます姿に思わず冷や汗を流した。

 元盗賊のエルフ、ジュリ。彼女はタングラムに扮し、金持ちから財宝を盗んで恵まれない人々にばらまく、いわゆる義賊としてハンターに逮捕された。
 その後は当然だがアネリブーベ送りになり、囚人兵として労働に従事している。そんなジュリをタングラムが探しているのにはワケがあった。
 ハンターらが発見した、先代皇帝ヒルデブラント・ウランゲルに酷似した記憶喪失の男。タングラムは彼を訪ねて寂れた農村に足を運んだ。
 見たところ、男は紛れも無くヒルデブラント本人だが、やはり記憶喪失でタングラムを認識できなかった。
 そして男は村を離れたくないと言う。だが、結果的にはそれで問題ない。
 今、帝国はヴィルヘルミナという大黒柱を失い水面下で大きな混乱のさなかにある。ここに行方不明になった――つまり正式には帝位を譲っていない皇帝――が現れてしまっては、とにかく話がややこしい。
 そもそも、まずは彼が本物のヒルデブラントであるという確認が必要だった。
 今ではとっくに沈静化したが、ヒルデブラント失踪直後は“自称皇帝”という輩があちこちから帝都に集まって詐欺を働いたし、彼がそうではないという保証も今のところなかった。
 記憶があれば本人確認など簡単だが、今となっては彼の身元を証明するものは帝国軍の軍用タグか、一品物の専用装備にしかない。
 帝国軍は首から提げるタグ以外にも盾の裏側に個人認識票をつけるのが一般的で、その盾がセットであればよかったがそれもない。
 となると、残るは皇帝の専用装備。当時若干16歳のナサニエル・カロッサが作ったという機械剣、“絶火剣シャイターン”である。
 皇族のための鎧であるライン・オブ・サンズやテュランといった外套は、少数が流通に乗っている為本人確認にはならない。
「シャイターンですか? うーん……確かにあれはヒルデブラント様以外には使えないようにしてありますけど。マテリアル認証なんですよ。ヒルデブラント様くらいスタミナとタフネスがないと死ぬんで」
 とナサニエルも言っていたし、このシャイターンを使えるのならヒルデブラント本人であると断じて問題無いだろう……死ぬかもしれないが。

「え? この剣ですか? ええ、ええ。お嬢さんはお目が高い。この剣は見たところ一品物! 類を見ないほど精巧で、しかし耐久性を忘れていないしなやかな作り……天賦の才を持つ刀匠が作ったに違いありません!」
 と語るのは小太りのおじさん。帝都の近くに巨大な屋敷を持っている豪商ペッペル氏。
 彼のお屋敷にはいくつかの展示室があり、その一つ。最も価値のある財宝を押し並べた第一展示室に、シャイターンはあった。
「……で、ペッペル氏はこのシャイターンをどこで入手したんですか?」
「それは……私くらいになると独自のルートがありましてな。偶然。そう、偶然ですな! 財宝の方が私を求めているというか……」
 ペラペラと長話を続けるペッペルにタングラムは小さく舌打ちした。
 何故ここにシャイターンがあるのか。それを知るには二年ほど時計の針を巻き戻さねばならない。
 生活費に困る村人たちの為に記憶喪失のヒルデブラントは行商人にシャイターンを含む装備品一式を売り払ってしまった。
 その商人はシャイターンをたいそう気に入ってしばらく保持していたのだが、ある日賊に入られ盗み出されてしまう。
 そう。そのシャイターンを盗んだのがジュリだったのだ。
 その後ジュリは帝国軍に捕まりほとんどの財宝の隠し場所を吐いたのだが、シャイターンについての情報はなかった。
 ジュリは昔から本当に貴重なものは別の場所に隠す癖があり……タングラムがそう教えたのだが……とにかく、帝国軍はシャイターンを回収できなかったのだ。
 その結果、ジュリ以外にシャイターンの在り処を知る者はいなくなった。これは本人を締め上げるまでお手上げかと考えながらも独自のルート……元々盗賊としてブイブイ言わせていた頃の知り合い……を辿った結果、偶然にもここにシャイターンがある事を知ったのである。
「ペッペル氏。この剣、幾らでしたらお譲りいただけるですか?」
「え!? この剣はお金に替えられるようなものではありませんよ! 手放すつもりはありません!!」
「どうしても?」
「どうしてもです!」
「盗品なのに?」
 ギクリと青ざめるペッペル。ぎりぎりと、錆びた歯車を回すように振り返る。
「ナンノコトデスカナ?」
「この絶火剣シャイターンはある場所から盗み出されたものです。一品物ですから間違いありません」
「どどど、どこに証拠があるのです!?」
「本当はお前の悪事を全部暴いて帝国軍が接収してもよいのですが、それだと手続きとか調査で時間がかかるのです。金で解決できるならその方が痛手もないでしょう」
「ふざけないでいただきたい! 言いがかりですぞ! あなたのようなちんちくりんの少女に帝国軍を動かす力などあるはずもない! 早々にお引き取り頂きたい!」
 首根っこを捕まれ、ポイっとつまみ出されたタングラムがごきごきと首を鳴らす。
「盗んじゃえばいいじゃない」
 声に目を向ければそこには仮面をつけたエルフの姿があった。タングラムではない。キアラという、これまた元盗人であった。
「アイリスなら余裕でしょ?」
「他に穏便に解決できる手段があれば良いのですがね……。キアラ、情報提供には感謝しますが、くれぐれも余計なことはしないように」
「はーい。僕もそこまでヒマじゃないし……穏便に済ませたいならハンターでも使ったら? 君がやると後々面倒でしょ」
「ぬぐ……それは……確かにそうですが」
 クスリと笑ってキアラは路地裏に姿を消す。
 残されたタングラムはわしわしと頭を掻き、ユニオンに戻る事を決めた。

リプレイ本文

「やあやあ、お二人共良くぞいらっしゃった。今宵は存分に楽しんでいってください」
 ホクホク顔で差し出されたペッペルの手を笑顔で握り返す花厳 刹那(ka3984)の一歩後ろで、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はパーティー会場を眺めた。
 大凡、屋敷全体が会場だ。屋敷の各所に展示室がばらけていることを考えればそれは当然で、屋敷のどこを出入りしても怪しまれる事はないだろう。
「ご招待ありがとうございます。聞けばうちのユーリちゃんがお世話になったとか」
「いやいや。ヴァレンティヌス君は先日、我が家の展示室で知り合いましてな。私の方からお誘いしたのです」
 入館料を支払えば誰でも屋敷には入れる。そこでユーリは来客に刀剣のうんちくを垂れ流すペッペルと知り合った。
「あの素晴らしい剣をどうしても刹那お嬢様にもお見せしたかったのです」
「まあ、剣ですか? ここには他にも素敵なものが沢山あるのに」
「ははは。若い娘さんには光り物の方が興味深いでしょうね。宝石や骨董品、絵画もありますので、ゆっくりと御覧なさい。ですが、例の剣は本物の中の本物、是非一度見ていくと良いですよ」
 顔を見合わせ頷く二人。お嬢様とその付き人というのが設定で、それをペッペルは信じ込んでいる。
 ドレスで着飾った二人は上流階級のそれに混じっても見劣りはしなかったし、誘いをかけたのはペッペルの方。疑う余地はない。
「ヴァレンティヌス君は護衛も兼ねているとか」
「ええ。とても頼りにしているんですよ」
「でしょうなあ。素晴らしい剣をお持ちだ。一目でピンと来ましたよ。彼女もかなりのマニアだと」
 ユーリはドレスを纏っているが、腰にはオートMURAMASAが提げてある。それはこの会場では珍しくないようだ。
「相当手の込んだ改造をしていますなあ。いや~、惚れ惚れしますなあ」
 ウットリした様子のペッペル。ユーリの「剣士」という設定は独自の改造を施したこの剣のお陰で強く印象づいていた。
 第一展示室に移動した三人は、奥に展示された絶火剣を眺める。刀剣にはあまり興味が無いという設定の刹那の目にも、それは芸術品のように見えた。
「剣の事はよくわかりませんが、ユーリが誉めそやすのも納得ですわ。このように凄い剣はどのように手に入れるのですか?」
「とにかく沢山の人脈を持つ事ですかね。情報収集が肝要でしてな。本当にほしい物はこちらから出向き、直接交渉するのですが……」
 盗品の入手経路が知りたかったのだが、当り障りのない商売のコツのような物しかペッペルは語らない。
 実はそもそもペッペルの目に刹那は世間知らずな令嬢に見えており、難しい話をしてもわからないだろうと踏んでいたのだ。
「ペッペル殿、そちらのご麗人はお知り合いですかな?」
「おお、ロートルフト男爵。こちら花厳さんと、お付のヴァレンティヌス君です」
 ペッペルと握手を交わしたのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)。今回ロートルフトという偽名を使っている。
 彼の場合ひょっとすると偽名を使わない方が自然なのだが、この後の展開を考えると家名は出さない方が無難だろう。
「刀剣に興味があるとは、良い趣味をお持ちのお嬢さん達だ。この剣を気に入るというのも、お目が高い」
「いやまったくで。しかしこの剣は売りませんぞ!」
 アウレールは事前に商業取引の名目で屋敷を訪れていた。
 武器ブローカーであるペッペルにはコネを持ちたい商人がしょっちゅう顔を出していて不自然ではない。そしてアウレールもまた一品物の剣を持っていたのが功を奏した。
 “ハンターに与えられる勲章”をつけていれば当然ハンターという身分が保障される。純粋な商売人としてはロートルフトという家名は当然聞き覚えはないし、アウレールの外見はどうにも少年なので甘く見られて当然だが、アウレールはハンターという身分と複数の名剣の類を持っていた。
 この世界でハンターはピンキリとは言え一部は高給取り。実際に名剣を持つとなれば商売相手としては十分で、何よりそうした友人がペッペルには何人もいた。想定とは少し違う信頼関係だが、結果的には条件をクリアしている。
「屋敷の警備も増やしたようですね」
「実は前々から警備が手薄と言われていたのですが、会場で揉め事が起きた事は一度もなかったもので」
 当然だ。ざっと招待客を見ると、かなり腕の立ちそうな武人が何人か見える。
 ペッペルの犯罪を承知かどうかは不明だが、覚醒者の友人が複数人いるのならちょっとしたトラブルではどうにもならない。
「ただ、最近少し妙な事もありましてね。やはり覚醒者の警備が必要かと考えを改めたのです」
 そう言ってペッペルは展示室の入り口に立つ金目(ka6190)を見やった。
 金目は自らペッペルに護衛を売り込みに行った。普通ならいきなり護衛を増やさないかと言われても聞く耳は持たなかったが、金目はある情報も共に持ち込んでいた。
「剣を売ってくれとエルフが来た筈。その後も情報を集め、その剣を狙っているとの噂を聞きましてね……これは僕のビジネスになると思ったわけです」
 脅威を知り、その情報と共に護衛を売り込む。これが成功したのは、金目本人が蒐集品に興味を見せたのも理由の一つだ。
 ギャラリーを閲覧できるという条件で護衛は格安で引き受ける。武器好きのハンターに親しいペッペルの信頼を得るには十分だった。更にアウレールが警備を増やした方がいいと助言したこともあり、金目の潜入は滞り無く完了したわけだ。
 会話に聞き耳は立てても混ざろうとしない金目だったが、実際その視線はコレクションに向けられている。こればかりは嘘ではなく、本物の興味だった。
「歪虚の帝都襲撃からこちら、何かと物騒ですからね。当家でさえ数十名の警戒態勢ですから、ペッペル殿程であれば覚醒者は必須かと……」
 そんな話をする一行がいる第一展示室の前を小さい影が通った。白いポメラニアンだ。
 第一展示室から離れた会場の隅、ベンチで休むハッド(ka5000)の姿があった。ファミリアズアイでポメラニアンを操り、ある場所を目指していた。
 ハッドもまた、取引の名目でペッペルに接触していた。泊まり込みで交渉したいという程の取引品を用意できなかったので挨拶程度の関係だが、パーティーに招待される分には問題ない。
 ファミリアズアイ中は身動きも取れない為、ユーリらがペッペルを連れだしたのを確認してから犬を送り込んだのは、事前潜入した金目から聞いた盗品の倉庫らしき場所だ。
 ここにちょっとしたミスがあった。元々ペッペルは後ろ暗い方法で入手した刀剣も迷いなく展示していたのだが、今はその大部分が別の品に入れ替えられていた事。そして警備の甘さを実感したペッペルが、警備を大幅に増強してしまった事だ。
(ここに入れ替えた品をしまい込むのを見た、と金目んは言っておったが……)
 警備員が二人、地下室の前に立って離れる様子がない。金目リサーチによると、この二人はどうも金目と同じタイミングで雇われた覚醒者らしいとの事。
「突入したら大騒ぎになってしまうの~……」
 結局この日、ハンター達はペッペルの不正の確たる証拠を入手することは出来なかった。

 パーティーの翌日に商談ついでの鑑賞会をしようと言い出したのはアウレールだった。
 丁度その場に居合わせた刹那とユーリが興味を示すと、「今後の勉強になるでしょう」と言ってペッペルは参加を快諾してくれた。
 あえて翌日にしたのには理由があるが、最も重要なのは余計な邪魔の入らない休館日である事だ。
 最悪荒事に発展しても、これなら一般人に被害が出る事はないだろう。
 アウレールの友人としてハッドも参加を認められ、護衛として金目も同席する第一展示室には、しかし金目以外にも二人の護衛が居合わせる。
 その二人が地下のあの部屋を守っていたのと同じ人物とハッドは知り、やはりあの二人は重要物を守るに値する力を持つ覚醒者の類と予想する。
 アウレールの持ち込んだシードルを皆で楽しみながら和やかに展示物を眺める中、交渉が始まった。
「ところで、こんな話を耳にしたのですが……聞けばこの剣は盗品なのだとか」
「盗品だなんてそんな……ただ、曰くつきの剣ではあるようですな」
 ペッペルに雇われた金目は“持ち主の未来までも焼き払う火剣”という噂があると説明していた。それを彼が信じたのにはわけがある。
「実はこの剣、私も本当に偶然手に入れたのですが、前の持ち主は亡くなっているのです」
 これは誰も知らなかった情報だ。ペッペル曰く、同じ武器蒐集家の知り合いが事故で死んだ際に輸送していた物で、縁起が悪いと所持を嫌がる遺族から買い上げたのだという。
(まさか……盗品ではない?)
 そんな可能性が全員の脳裏に過る。真偽はともかく元を辿れば盗品に違いはなく、その時点でペッペルが正当な持ち主と言えるかは疑問だ。
 しかし、盗品であるという証拠を入手できていないハンター達は、タングラムがそうであったようにこれ以上交渉を進められずにいた。
 そこへ現れたのは招かれざる客、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。と言っても今回の彼はいつものデスドクロではない。
 きちんと身なりを整え、特徴的なマスクも外してきている。奇天烈な言動さえ封じれば、この中で最も紳士的な人物に見えるだろう。
「だ、誰だね君は? 失礼だが招待した覚えはないぞ?」
「自分は帝国軍の依頼でここにやってきた者だ。先日エルフの少女が屋敷を訪れただろう? 彼女は帝国軍に影響力を持つ人物で、実際に帝国軍が動こうとしているのだ」
「そ、そんな馬鹿な……! 名誉毀損だ! 私は本当に剣を盗んでなどいない!」
「ペッペルんは盗んでおらぬのだろ~が、盗品を流通に乗せているのは事実じゃろ? 地下室にちょうど纏めて隠してある筈じゃ」
 ぎくりとした様子で飛び退くペッペルにハッドは頷き。
「隠されてしまったのは困ったが、一箇所にまとめてあるなら帝国軍は調査しやすいじゃろ~な」
「ペッペルさん、それは本当ですか?」
「あ、い、いやぁ~……」
 覚醒者らしい二人の護衛はハンターらの助言で増やしたものだが、そもそもはペッペルの知人。そして彼の悪事については知らなかった。
 つまり、悪人ではない。ハンターが力づくで襲いかかったりペッペルに危害を加えるのでなければ、別にハンターを追い出す理由もない。
「僕達は蒐集家としてのペッペルさんを慕っていたのですが……本当ならばがっかりです」
「ま、待ってくれ! 言いがかりはやめないか! あそこはただの倉庫だ!」
「なら開けて確認してもよいのか?」
 ハッドの言葉に視線を泳がせるペッペル。二人の護衛は同時に肩を竦めた。
「我々も何も危害を加えに来たわけではないのです。あの剣、シャイターンをお譲り頂ければそれで引き上げましょう」
「シャイターン……どこかで聞いたことがあるような……」
「50万Gでどうです?」
「ええ!? 幾らなんでも安すぎる! 足元を見過ぎですよ!」
「では70万……いや、100万で……」
「ダメダメ! この剣は絶対に譲らないぞ! 証拠もないんだ、さっさと出て行ってくれ! おい君達、頼むから彼らを追い出してくれ!」
 確かに証拠はない。二人の警備員と共に金目が前に出る。
 もし力づくとなれば、このままだと荒事になる。金目はそうなった場合、あえてやられる事で無闇な戦闘を回避しようと考えた。
 しかしその必要はなかった。アウレールは次にこう言った。
「実は既に帝国軍には通報済みです。だからこのデスドクロ氏がやってきたのです。今から三十分後、帝国軍がここにやってきます」
「ええええ!?」
「痛くない腹なら構わないでしょうが、我々を追い出して三十分で証拠隠滅が可能ですかな?」
 振り返る護衛二人。ペッペルの表情は青ざめている。
「いやあ残念だ。勿体無い。この剣さえ売ってくれればなあ……」
 腕を組みながら呟くデスドクロ。
「これだけの蒐集には相当な数の同好の士を作った筈だ。お前が白を切るなら、そっちにも捜査の手が及ぶ事になる」
「あ。そういえば昨日言ってましたね。蒐集には人付き合いが何より大切だって」
 刹那の言葉に目を丸くするペッペル。そこへ刹那とユーリが左右から近づき、腕をとって身体を寄せる。
「ペッペルさん……こんな酷いこと本当は私達もしたくないんです……」
「シャイターンだけ譲って貰えれば、それでいいんですよ……?」
「シャイターンを失っても、同好の士とのコネクションがあればまた蒐集家としてはやり直せる筈だ」
「だから、私は盗品なんか売ってなーい! 売ってないが……ぐぬぬ……」
 デスドクロの言う通り、ペッペルにとって最も失ってはいけないものは信頼とネットワークだ。
 それがなければ蒐集家人生の全てが台無しになってしまう。その場に膝をついたペッペルは、泣く泣く絶火剣を売り払う事を決めた。

「話が違うじゃないかああああーーーー!!」
 その三十分後、ペッペルの屋敷には調査にやってきた帝国軍が雪崩れ込む事になった。
 結局彼の悪事やらを暴く事は軍任せになってしまったが、あの短時間で盗品を隠せたとは思えないので、お縄につくことになるだろう。
「それにしても胸のきついドレスでした……」
 屋敷から少し離れた裏路地でコルセットの位置を調整する刹那。ユーリはそれを横目に腕を組み。
「疲れたわね……ペッペルは私たちにあまり靡かなかったけど」
「うーん。私を見ても無反応でしたから、あまり年若い見た目だとダメなのかもしれませんね」
 と、タングラムは言った。ある意味正常ですけど。
「しかし、元々ペッペル氏は絶火剣の扱いに困っていたようです」
 実は、と切り出した金目によると、タングラム以外にも絶火剣を譲れと言ってきた人物がいたというのだ。
「絶火剣が狙われている、というのは僕のでっちあげですが……嘘から出た真、ですね」
「赤毛のおっちゃんの素性を考えれば、狙う者が現れても不自然ではないの。しかし、誰が……?」
「残念ながらそこまでは。ただ、盗品がどのようにペッペル氏の手に渡ったのか……前の持ち主の死も気になりますね」
 金目は改めて絶火剣を見つめる。それは何か言い知れぬ凄みを刃に宿している。
「細かい考察は後だ。まずは私達もこの場を離れよう」
 アウレールの言葉に頷き、ハンターらは移動を開始した。
「それにしてもペッペルさん……悪いことはしていたけど、意外と紳士的でいい人でしたね」
「そうね……武器が好きすぎてやっちゃったんでしょうね」
 子供扱いしていたからというのもあるが、自分たちに酷いことをするどころか優しくしてくれたペッペルを思い返し、刹那とユーリは少し気の毒に思うのだった。

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    デスドクロ・ザ・ブラックホールka0013
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 夢への誓い
    ハッド(ka5000
    人間(紅)|12才|男性|霊闘士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談の卓
金目(ka6190
人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/28 03:51:53
アイコン 質問卓的なヤツじゃな
ハッド(ka5000
人間(クリムゾンウェスト)|12才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/04/27 13:12:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/23 22:27:12