ゲスト
(ka0000)
【禁断】遺跡とゴーレムと謎の学者
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/08 07:30
- 完成日
- 2016/05/14 17:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●原因不明の怪事件
冒険都市リゼリオ。多くのハンターとそれを支える住民たちによって成り立っている街。今その街で奇妙な事件が起きていた。
それは最初は事件とさえ思われていなかった。とある夜更けに病院に担ぎ込まれた1人の中年男性。とんでもなく酒臭かった彼は、体の限界を超えて酒を飲んだために昏倒したんだと思われた。
その次に運び込まれてきたのは仕事中に倒れた若い男。倉庫の荷卸しなど力仕事をしていたようなのだが、検査したところ軽い脱水症状と栄養不足であることが分かり、働き過ぎということで特に不思議がられることもなかった。
誰かが倒れて病院に担ぎ込まれてくるのはおかしなことではない。だが、それが毎日続けば流石におかしいと気づくものが出てくる。しかも最初に運ばれてきた男性は未だに目を覚ます様子がないのだから。
目覚めない意識不明者が10人に達しようとした時、いよいよただ事ではないと本格的な調査が行われ、倒れた患者達を改めて検査した結果、体内に保有されているマテリアルが枯渇状態にあることが判明した。
マテリアルは生命の源とも言えるもの。それが枯渇しているならば目を覚まさないのも納得がいく。一種の休眠状態になっているのだととある医者は結論付けた。
しかもそのマテリアルの回復機能にも異常をきたしているようで、患者達がいつ目覚めるかは検討もつかないのだという。
これが何らかの病気なのか、それとも歪虚による攻撃なのか、はたまたなんらかの事件なのか。調査した者達には全く判断がつかなかった。
ともかくこの事件については引き続き調査が続けられる一方で、意識不明の患者達を治す方法も探すことになる。
しかし人のマテリアルが枯渇して、回復機能も異常をきたす症例はこれまでに確認されていない。そこで1人の専門家を頼ることになった。
その専門家の名前はスカイ・ナチュレ。彼はマテリアル研究の分野で名の知れた学者で、特に人や動植物の持つ生命に関するマテリアルについて精通した人物だ。
今回の事件に関してはまさにうってつけの人物と、彼に協力を仰ぐ為に使いが出されたのだがあいにくの留守であった。
彼はよくフィールドワークに出かける行動派なようで、今は辺境にあるとある遺跡の調査に出かけてしまったらしい。
患者の容体は安定しているし命には別状はないので急いでいるわけではない。だが、遺跡の調査は下手すると数ヵ月、長いと数年かかることもざらだ。流石にそんなには待っていられない。
なのでスカイ博士を呼び戻すべく、使いの者は遠路はるばる辺境にあるという遺跡まで向かうことになったのだった。
●ハンターオフィス
「と、言うのがこれまでの経緯です」
ハンターオフィスにあるミーティングルームにて、オフィス職員の1人がそう口にした。
集められたハンター達は、今リゼリオの街で起きている事件の概要、そしてその事件の被害者の回復の為にスカイ博士の協力が必要なことまでは理解できた。
「ここからが本題です。スカイ博士を訪ねて遺跡へと向かった使いの者は、結論としてスカイ博士に会うことができませんでした」
理由はこちらです。そう言ってオフィス職員が手元のパネルを操作すると、大型スクリーンに1枚の写真が表示される。
そこに写っていたのは四角形にカットされた石が積み上げられた建造物で、あちこちが削れていたり苔むしていたりしている。
そしてまさに遺跡といったその建物の入り口らしき前に、何やら人型の岩が仁王立ちしていた。
「ゴーレムをご存知でしょうか? 彼らは主に遺跡を守る番人として配置されている、魔法仕掛けの自動人形なんです」
ゴーレムは純粋な生物ではなく、勿論歪虚でもない。人工生命ともまた違う、一種の疑似生命体。主の命令を遵守し自立行動するロボットなのである。
その製造方法や制御方法は今でも解明されておらず、恐らく太古の昔に失われた技術なのだろうとその業界では有名な研究対象だ。
そのゴーレムが何でまたスカイ博士がいるはずの遺跡の前に陣取っているかは、全くの不明である。
「そもそもその遺跡はスカイ博士が訪れる前に事前調査がされていたのですが、その時には何の問題もなくあのようなゴーレムも確認されていなかったそうです」
であれば、別の場所から持ち込まれたのか。それとも調査時には見つからずに何らかの理由で起動してしまったのか。
いずれにしてもそのゴーレムが遺跡に近づく者を攻撃してくる為、遺跡に入ることはおろかスカイ博士の安否確認すらできなかったのだそうだ。
「そういった訳でして、皆さんにはあのゴーレムを突破して遺跡に入り、スカイ博士を確保して無事連れ帰って欲しいのです」
オフィス職員は今回の依頼内容を簡潔に述べる。ハンターからしてみれば、依頼としては単純で分かりやすい仕事だ。
唯一の懸念は、スカイ博士が遺跡の何処にいるのか。そもそも遺跡の中に本当にいるのかといったところだろうか。
「それも含めて調査をお願いします。皆さんのご武運をお祈りしております」
ぺこりと頭を下げるオフィス職員。ハンター達は互いに視線を交わし、現地に向かうべく席を立った。
●少女と白猫
依頼を受けたハンター達がその遺跡に訪れる数時間前。
雑木林に囲まれた遺跡を見渡せる小高い丘の上に、小さな人影が立っていた。
遺跡の入り口にはぴくりとも動かない石で出来たゴーレムが1体。ゴーレムと知らなければ本当にただの石像としか見えない。
小さな人影は暫くの間じっとその場で待っていると、その足元に白い毛並みの猫が駆け寄ってきた。
白猫はひょいと小さな人影の肩に飛び乗ると、その茜色の髪に軽く体を擦りつける。
「分かった。行こう」
少女はそう一言呟き、遺跡へ向けて歩き出した。
冒険都市リゼリオ。多くのハンターとそれを支える住民たちによって成り立っている街。今その街で奇妙な事件が起きていた。
それは最初は事件とさえ思われていなかった。とある夜更けに病院に担ぎ込まれた1人の中年男性。とんでもなく酒臭かった彼は、体の限界を超えて酒を飲んだために昏倒したんだと思われた。
その次に運び込まれてきたのは仕事中に倒れた若い男。倉庫の荷卸しなど力仕事をしていたようなのだが、検査したところ軽い脱水症状と栄養不足であることが分かり、働き過ぎということで特に不思議がられることもなかった。
誰かが倒れて病院に担ぎ込まれてくるのはおかしなことではない。だが、それが毎日続けば流石におかしいと気づくものが出てくる。しかも最初に運ばれてきた男性は未だに目を覚ます様子がないのだから。
目覚めない意識不明者が10人に達しようとした時、いよいよただ事ではないと本格的な調査が行われ、倒れた患者達を改めて検査した結果、体内に保有されているマテリアルが枯渇状態にあることが判明した。
マテリアルは生命の源とも言えるもの。それが枯渇しているならば目を覚まさないのも納得がいく。一種の休眠状態になっているのだととある医者は結論付けた。
しかもそのマテリアルの回復機能にも異常をきたしているようで、患者達がいつ目覚めるかは検討もつかないのだという。
これが何らかの病気なのか、それとも歪虚による攻撃なのか、はたまたなんらかの事件なのか。調査した者達には全く判断がつかなかった。
ともかくこの事件については引き続き調査が続けられる一方で、意識不明の患者達を治す方法も探すことになる。
しかし人のマテリアルが枯渇して、回復機能も異常をきたす症例はこれまでに確認されていない。そこで1人の専門家を頼ることになった。
その専門家の名前はスカイ・ナチュレ。彼はマテリアル研究の分野で名の知れた学者で、特に人や動植物の持つ生命に関するマテリアルについて精通した人物だ。
今回の事件に関してはまさにうってつけの人物と、彼に協力を仰ぐ為に使いが出されたのだがあいにくの留守であった。
彼はよくフィールドワークに出かける行動派なようで、今は辺境にあるとある遺跡の調査に出かけてしまったらしい。
患者の容体は安定しているし命には別状はないので急いでいるわけではない。だが、遺跡の調査は下手すると数ヵ月、長いと数年かかることもざらだ。流石にそんなには待っていられない。
なのでスカイ博士を呼び戻すべく、使いの者は遠路はるばる辺境にあるという遺跡まで向かうことになったのだった。
●ハンターオフィス
「と、言うのがこれまでの経緯です」
ハンターオフィスにあるミーティングルームにて、オフィス職員の1人がそう口にした。
集められたハンター達は、今リゼリオの街で起きている事件の概要、そしてその事件の被害者の回復の為にスカイ博士の協力が必要なことまでは理解できた。
「ここからが本題です。スカイ博士を訪ねて遺跡へと向かった使いの者は、結論としてスカイ博士に会うことができませんでした」
理由はこちらです。そう言ってオフィス職員が手元のパネルを操作すると、大型スクリーンに1枚の写真が表示される。
そこに写っていたのは四角形にカットされた石が積み上げられた建造物で、あちこちが削れていたり苔むしていたりしている。
そしてまさに遺跡といったその建物の入り口らしき前に、何やら人型の岩が仁王立ちしていた。
「ゴーレムをご存知でしょうか? 彼らは主に遺跡を守る番人として配置されている、魔法仕掛けの自動人形なんです」
ゴーレムは純粋な生物ではなく、勿論歪虚でもない。人工生命ともまた違う、一種の疑似生命体。主の命令を遵守し自立行動するロボットなのである。
その製造方法や制御方法は今でも解明されておらず、恐らく太古の昔に失われた技術なのだろうとその業界では有名な研究対象だ。
そのゴーレムが何でまたスカイ博士がいるはずの遺跡の前に陣取っているかは、全くの不明である。
「そもそもその遺跡はスカイ博士が訪れる前に事前調査がされていたのですが、その時には何の問題もなくあのようなゴーレムも確認されていなかったそうです」
であれば、別の場所から持ち込まれたのか。それとも調査時には見つからずに何らかの理由で起動してしまったのか。
いずれにしてもそのゴーレムが遺跡に近づく者を攻撃してくる為、遺跡に入ることはおろかスカイ博士の安否確認すらできなかったのだそうだ。
「そういった訳でして、皆さんにはあのゴーレムを突破して遺跡に入り、スカイ博士を確保して無事連れ帰って欲しいのです」
オフィス職員は今回の依頼内容を簡潔に述べる。ハンターからしてみれば、依頼としては単純で分かりやすい仕事だ。
唯一の懸念は、スカイ博士が遺跡の何処にいるのか。そもそも遺跡の中に本当にいるのかといったところだろうか。
「それも含めて調査をお願いします。皆さんのご武運をお祈りしております」
ぺこりと頭を下げるオフィス職員。ハンター達は互いに視線を交わし、現地に向かうべく席を立った。
●少女と白猫
依頼を受けたハンター達がその遺跡に訪れる数時間前。
雑木林に囲まれた遺跡を見渡せる小高い丘の上に、小さな人影が立っていた。
遺跡の入り口にはぴくりとも動かない石で出来たゴーレムが1体。ゴーレムと知らなければ本当にただの石像としか見えない。
小さな人影は暫くの間じっとその場で待っていると、その足元に白い毛並みの猫が駆け寄ってきた。
白猫はひょいと小さな人影の肩に飛び乗ると、その茜色の髪に軽く体を擦りつける。
「分かった。行こう」
少女はそう一言呟き、遺跡へ向けて歩き出した。
リプレイ本文
●遺跡の番人
学者スカイの捜索依頼を受けたハンター達は辺境へと飛び、問題の遺跡の近くまでやってきた。
「あれが例のゴーレムですかー。まさに遺跡の番人って感じですね」
雑木林の茂みに隠れながら遺跡の様子を窺う葛音 水月(ka1895)は、その入り口に立つゴーレムを見てそう呟く。
「戻ったわ。周辺には私達以外は誰もいないみたいよ」
銀髪のエルフ、リアリュール(ka2003)が皆にそう報告する。遺跡の周囲を遠回りにぐるりと一周してきたが、少なくとも人の気配は感じられなかったようだ。
「ただ、比較的新しい足跡が数人分見つかったわ。アレが邪魔で中に入れたかまでは確認できなかったけどね」
黒髪のエルフ、ケイ(ka4032)はそう言ってゴーレムへと視線を送る。遺跡の入り口の地面は踏み均されており、その所為で遺跡の中へと続く足跡は確認できなかったようだ。
「暴れた跡か? それなら先客がいるのかもな……どうする?」
軽く下顎を撫でながらデルフィーノ(ka1548)は仲間のハンター達に視線を送る。
「まずはゴーレムの動きを見たいところですが……申し訳ない、この体じゃ囮にもなれないな」
そう提案をしつつ、ナタナエル(ka3884)は自嘲気味に言葉を溢す。彼の体にはあちこちに包帯が巻かれ、血も滲んでいた。
「何れにせよあのゴーレムを片付けないことには遺跡内での捜索もままならないかと思います」
鳳城 錬介(ka6053)の言う通り、あのゴーレムが遺跡の前にいては仮に遺跡内で学者スカイを見つけても、外に連れ出すのは困難だ。
「ゴーレムが相手か……へへ、相手にとって不足なしだぜ!」
いよいよ戦う雰囲気となって凰牙(ka5701)は獰猛な笑みを浮かべる。それは鬼の本能故か、やはり戦闘となればその血が騒ぐようだ。
「よし、行ってくるよ。ツバメとスズメは少しここで待っててね」
ネムリア・ガウラ(ka4615)は黒と赤の毛並みをした2匹の柴犬の頭を軽く撫で、そして仲間達と共にゴーレムと戦う為に一歩前へと出た。
ハンター達が雑木林から出たところで、ゴーレムの感知範囲に入ったのか突然その石の体に動きがあった。
『――ッ』
「明らかに警戒されてるな。よし、まずは四方から囲むぞ!」
デルフィーノの言葉に従い、ハンター達は左右に分かれてゴーレムを半包囲する形で接近していく。
「それじゃあまずは小手調べね」
ゴーレムが接近するハンター達に気を取られた隙に、ケイは既に狙いを定めていた魔導銃の引き金を引き絞った。放たれた弾丸はゴーレムの肩に命中し、その岩肌を削り取るが損傷としては微々たるものだ。
更に、距離を一気に詰めた凰牙がゴーレムの脚へとジャマダハルを振るう。
「つぅっ! 硬ってぇなぁ! だが、それでこそ倒しがいがあるぜ!」
攻撃した腕が痺れるのを構わず、凰牙はもう片方の腕で更にゴーレムの脚を斬りつける。
だが、そこで凰牙の頭上に影が差した。見上げればそこには歪な形の指を開いたゴーレムの手のひらが迫っていた。
「どわっ!?」
地面へと叩きつけるように振り下ろされた石の手のひらを凰牙は横っ飛びをして避けた。衝撃によって土煙が上がる中で、ゴーレムは更に足を振り上げ地面に片膝を付く凰牙を踏みつぶそうとする。
「おおっと、そうはさせませんよー」
そこに割って入ったのは水月だった。巨大な杭打機を盾にその踏みつけを受ける。4mを越える石の巨人を相手に無謀とも思えるが、しかし結果はその無謀を否定した。
水月の足元の地面が僅かに陥没したが、水月自身は潰されてはいない。
更に、水月は巨人の足を受け止めたその体勢のまま杭打機のトリガーに指を掛けた。するとまるで銃撃のような音と共に放たれた杭がゴーレムの足裏を突き破る。
『――!』
だが、ゴーレムはそれを意に介さずさらに力を掛けて水月を押しつぶそうとする。
「ぐっ、これはちょっと予想外!」
水月はそれに耐えるが、足元の陥没がさらに深くなったのが分かる。
「おいおい、こっちにも構えってんだ!」
それを援護すべくデルフィーノが杖を振るう。放たれた機導砲の破壊の光はゴーレムの背中を砕くと、ゴーレムはそれに反応してその指先をデルフィーノへと向けた。
「ちっ、やっぱそうなるよなぁ!」
マシンガンの如くばら撒かれる石礫を受け、デルフィーノは悪態を尽きながら仕方がなく距離をとる。
「たああぁぁぁっ!」
そこで気合を込めた声が響く。ゴーレムの意識がデルフィーノへと向いた隙に、接近したネムリアが水月を踏みつけるゴーレムの足目掛けて飛び掛かったのだ。
ネムリアの冷気を纏う脚甲にマテリアルが集まり、そこにうっすらとヘラジカの蹄の幻影が浮かび上がる。
ゴーレムの足に放たれた衝撃は二回。その岩肌にくっきりと蹄の跡を残す。
『――ッ!?』
そこでゴーレムがバランスを崩して転倒し、その隙に水月はゴーレムの足元から離脱する。
それでもゴーレムは距離を取ろうとする水月へと手を伸ばすが、その腕に側面から衝撃が走り狙いの逸れたその手は何も掴むことなく空ぶった。
「まったくもう、しつこいと嫌われるわよ? 少しは大人しくしなさい」
マテリアルの硝煙を上げる銃を手にケイがそう窘めるような言葉を告げる。そして改めて狙いを定め、無防備な箇所に次々の弾丸を撃ちこんでいく。
「立たせてやる隙なんてやらねぇぜ!」
「まあ、そういうことだ」
この隙を逃すまいとハンター達は一気に畳みかける。程なくして、遺跡の入り口には石の破片の山が築かれることとなった。
●謎の遺跡
遺跡の入り口へと辿り着いたハンター達。いざ突入、となる前に錬介が皆の治療にあたる。
「よし、これで大丈夫です。痛むようならまた後で本格的に手当てをしましょう」
「いや、大丈夫ですよ。助かりましたよー」
水月は治療を受けた腕を軽く動かし、特に痛みがないことを確認する。
「皆、ちょっとこっちに来て」
と、そこで先に遺跡の入り口付近を偵察に向かっていたリアリュールの声が聞こえてきた。
「これ、どう思う?」
そう言ってリアリュールは目の前にある壁を指す。そこにはぽっかりと穴が開いていた。
穴の高さは丁度4~5mくらいはあるだろうか。壁面の一部が崩れ落ち、その奥にちょっとしたスペースが広がっている。
「調査員さんのお話だと、入ってすぐの壁にこんな大穴があったなんて聞いてないよ?」
「となると十中八九、あのゴーレムはここから出てきたんだろうな」
ネムリアの言葉からデルフィーノはそう推測する。となると、まだこの遺跡の内部にも見つかっていないナニカがある可能性がある。
「どっちにしろまずはスカイを探すのが先決だろ? どうするんだ?」
腕を組んだ凰牙が皆に向けてそう尋ねる。ハンター達は簡単に話し合った末、外と中に分かれてスカイを探すことにした。
結論として、学者スカイは割とあっさりと見つけることが出来た。
「ふむ、私が留守の間にリゼリオでそんな事件が起きているのか」
簡単な自己紹介と事情を説明したところで、スカイは現状をすぐに理解してくれたようでリゼリオの街に戻ることに納得してくれた。
ただ、その前に1つだけ確認しておきたいことがあるらしい。
「どうやらこの遺跡の至る所に隠し部屋がある。そしてその部屋を開ける為のスイッチは仕掛けられた罠に偽装されているのだ」
「……もしかして入り口にいたあのゴーレムって?」
「私が確認の為に作動させた罠の1つが、あのゴーレムを目覚めさせたのだろうな」
凰牙からの疑惑をスカイはあっさりと認めた。ハンター達は揃って溜息を吐きそうになったが、それを堪えて話の続きを促す。
「うむ。この先に隠し部屋があることが分かっている。その部屋の確認だけはしておきたい」
目の前に謎の答えがあるのにそれを無視して帰ることは出来ないとスカイは言う。
「まあ、見るだけなら……いいのかな?」
「そう時間は掛からないようですし。彼を説得するよりは早く済むでしょうからね」
ネムリアと錬介は軽く苦笑いを浮かべながらスカイの言葉を了承した。
スカイはそれに1つ笑みを浮かべると、ハンター達をその隠し部屋がある場所へと案内する。
「むっ? どういうことだ?」
と、その場所に着いた途端スカイが首を傾げた。その場所は碁盤目状になっている遺跡の隅になるが、突き当りとなっているはずの壁面にぽっかりと穴が開いているのだ。
「隠し扉が開いているだと……まさか、誰かに先を越された?」
眉を潜めるスカイに、ハンター達は顔を見合わせる。ともかく一同はその穴に入り隠し部屋へと向かう。
穴に入って数メートル通路を進み、その先にある部屋に入ったところでハンター達は急に襲ってきた眩しさに思わず目がくらんだ。
そこは地下であるのにも関わらず明るく、それも太陽のような柔らかく温かな光に満ちていた。
「これは、凄いですね」
錬介は眩しさに目を細めながら部屋の中を見渡す。そこは今までいた遺跡とはまるで違っており、壁一面にびっしりと幾何学模様が彫り込まれている。
さらに天井付近には巨大な水晶らしきものが張り付いており、どうやらそこから光が溢れてきているようだった。
「スカイさん、この場所は一体……?」
「ふむ。この遺跡の中枢か、いや……何かの保管庫のようだ」
リアリュールの問いに、スカイは壁に描かれた幾何学模様をじっと眺めながらそう答える。
「おーい。こっちに何かあるぞー!」
と、そこで足早に部屋の奥へと進んでいた凰牙の声が皆に届く。一同がそこに向かうと、部屋の壁面近くに台座が設置されているのが見えた。
どうやら水晶で出来ているらしいその台座には、その上部に丁度何かを収める為の窪みがあることが分かる。
「どうやらここに何かがあったようだが……一体何だ? 窪みの形は長方形となると……」
スカイが小さく唸りながら思考を働かせている中で、小さな音がした。それは普通ならば聞こえない、聞き逃してしまうような音だったが、それに唯一気づいたネムリアは音のした方へと振り返った。
その音のした場所。この隠し部屋の入り口に位置する場所に、黒いマントを羽織る茜髪をした少女の後ろ姿が見えた。
「シャル!」
ネムリアは咄嗟にその少女の名前を叫ぶようにして呼んだ。口にしてしまってから逃げられたらどうしようと不安になったが、果たして少女は立ち止まってこちらへと振り返った。
「何?」
こんな場所で知り合いと出会ったのにまるで驚いた様子もなく、シャルと呼ばれた少女は首を傾げてそう聞き返す。
「あっ、その、えっとね……」
何て言えばいいんだろうとあたふたするネムリア。そんな彼女の前に凰牙が一歩前に出る。
「シャルって言ったよな。こんなところで何してるんだ?」
「探し物」
「人、じゃなく?」
「違う。物」
シャルはそう簡潔に答える。これまでの出会いから凰牙はシャルがスカイを狙っているんじゃないかと警戒したが、どうやらそれは違うらしい。
どうする? と凰牙が他の仲間に視線を向けると今度はリアリュールが前へと出た。
「ねえ、シャル。前に会った時に言ってたよね。本当の自分になる為にやらないといけないことがあるって」
「……言った」
僅かに間を置いてシャルはそれを肯定する。
「一体何があったの? 本当の自分でなくなったって……」
「…………」
シャルは答えない。答えたくないのか、答えられないのか。
「もしかして、意識の一部を抑えられてる、とか?」
「違う」
今度はしっかりと否定した。答えは言えない。だが、違うのならばそれを否定することは出来るようだ。
その時、「ニィ」と猫の鳴き声が聞こえてきた。見ればシャルの肩に飛び乗ってきた白猫が、彼女を急かすようにその前脚を彼女の頬に押し当てている。
「終わり?」
シャルもこの場を去る気のようでそう聞いてくる。
「ねえ、シャル。あのねっ!」
そこでネムリアが声を上げた。
「シャルのしてる事。わたしがお手伝い出来ることがあるかもしれない。だからね、一緒に考えよう?」
「……」
シャルは答えない。ただ、少し困ったようにネムリアの背後へと視線を彷徨わせた。
「ところで探し物と言っていたな。もしかしてこの台座にあった物は――」
と、そこでスカイがシャルに話しかけた瞬間、彼女は突然踵を返して部屋から出て行ってしまった。
「むぅ、やはり彼女がここにあった物を持っていたようだな」
そう判断したスカイは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「ともかく、俺達はスカイさんを護衛しながら戻ろうか」
思わぬ闖入者を見送ったハンター達は、錬介の提案通り遺跡の外を目指すことにした。
遺跡内からシャルが外へと出てきたところで、そこには4人のハンター達が待っていた。
「はぁい、これで3度目かしら?」
「多分」
ケイの言葉にシャルはそう答えた。遺跡内の仲間からの報告通り、彼女に戦意や敵意は見られない。
「ねえ、貴女は誰の為にこんなことをしているのかしら?」
これまでハンターと敵対してまで何かを手に入れようとしているのに、しかしこうして会話には応じるし手を出さなければ警戒する様子すらない。
どうにもちぐはぐな謎の少女の行動に、ケイは興味からそう尋ねた。
「……家族」
少し考えて、シャルはそう答えた。少し意外な答えにケイは少しばかり感心した表情を浮かべる。
「それが人の道を外れることになってもかい?」
「そう」
続くナタナエルの言葉にシャルは頷いた。それにナタナエルの顔は沈痛な面持ちへと変わる。
その瞳に狂気はない。それが純粋な彼女の答えであり、迷いがないことを物語っている。
「なあシャル、話してみろよ。一緒に背負ったら楽になるかもしんねーぜ?」
「……駄目。自分でやらないと……本当の私になる為に必要なことだから」
デルフィーノの言葉に、シャルはそう言って首を横に振った。そこには彼女の明確な意志が見えたような気がした。
「行っちゃいましたねー。良かったんですか?」
立ち去っていくシャルの姿を見送り、水月はそう皆に問いかける。
「今回は何も悪い事してないしな。そういう雰囲気でもなかったしよ」
ああも無防備に背中を見せる相手に襲い掛かるというのも気が引けた。ただ、少女の謎は更に深まり、また何れ見える時が来るだろうという予感もしていた。
「まあ、スカイさんが無事ならお仕事は一見落着ですしね」
程なくして遺跡から出てきたスカイ達と合流し、ハンター一同はリゼリオの街へと戻った。
残念ながら謎の昏倒事件の進展はないようだが、スカイを連れ帰ったことにより被害者の治療の目途は立ったと言えるだろう。
そう安心して解散したハンター一同であったが、数日後に思わぬ情報を耳にすることになる。
『学者スカイ・ナチュレ、謎の失踪』
事件の終わりはまだ見えそうにもなかった。
学者スカイの捜索依頼を受けたハンター達は辺境へと飛び、問題の遺跡の近くまでやってきた。
「あれが例のゴーレムですかー。まさに遺跡の番人って感じですね」
雑木林の茂みに隠れながら遺跡の様子を窺う葛音 水月(ka1895)は、その入り口に立つゴーレムを見てそう呟く。
「戻ったわ。周辺には私達以外は誰もいないみたいよ」
銀髪のエルフ、リアリュール(ka2003)が皆にそう報告する。遺跡の周囲を遠回りにぐるりと一周してきたが、少なくとも人の気配は感じられなかったようだ。
「ただ、比較的新しい足跡が数人分見つかったわ。アレが邪魔で中に入れたかまでは確認できなかったけどね」
黒髪のエルフ、ケイ(ka4032)はそう言ってゴーレムへと視線を送る。遺跡の入り口の地面は踏み均されており、その所為で遺跡の中へと続く足跡は確認できなかったようだ。
「暴れた跡か? それなら先客がいるのかもな……どうする?」
軽く下顎を撫でながらデルフィーノ(ka1548)は仲間のハンター達に視線を送る。
「まずはゴーレムの動きを見たいところですが……申し訳ない、この体じゃ囮にもなれないな」
そう提案をしつつ、ナタナエル(ka3884)は自嘲気味に言葉を溢す。彼の体にはあちこちに包帯が巻かれ、血も滲んでいた。
「何れにせよあのゴーレムを片付けないことには遺跡内での捜索もままならないかと思います」
鳳城 錬介(ka6053)の言う通り、あのゴーレムが遺跡の前にいては仮に遺跡内で学者スカイを見つけても、外に連れ出すのは困難だ。
「ゴーレムが相手か……へへ、相手にとって不足なしだぜ!」
いよいよ戦う雰囲気となって凰牙(ka5701)は獰猛な笑みを浮かべる。それは鬼の本能故か、やはり戦闘となればその血が騒ぐようだ。
「よし、行ってくるよ。ツバメとスズメは少しここで待っててね」
ネムリア・ガウラ(ka4615)は黒と赤の毛並みをした2匹の柴犬の頭を軽く撫で、そして仲間達と共にゴーレムと戦う為に一歩前へと出た。
ハンター達が雑木林から出たところで、ゴーレムの感知範囲に入ったのか突然その石の体に動きがあった。
『――ッ』
「明らかに警戒されてるな。よし、まずは四方から囲むぞ!」
デルフィーノの言葉に従い、ハンター達は左右に分かれてゴーレムを半包囲する形で接近していく。
「それじゃあまずは小手調べね」
ゴーレムが接近するハンター達に気を取られた隙に、ケイは既に狙いを定めていた魔導銃の引き金を引き絞った。放たれた弾丸はゴーレムの肩に命中し、その岩肌を削り取るが損傷としては微々たるものだ。
更に、距離を一気に詰めた凰牙がゴーレムの脚へとジャマダハルを振るう。
「つぅっ! 硬ってぇなぁ! だが、それでこそ倒しがいがあるぜ!」
攻撃した腕が痺れるのを構わず、凰牙はもう片方の腕で更にゴーレムの脚を斬りつける。
だが、そこで凰牙の頭上に影が差した。見上げればそこには歪な形の指を開いたゴーレムの手のひらが迫っていた。
「どわっ!?」
地面へと叩きつけるように振り下ろされた石の手のひらを凰牙は横っ飛びをして避けた。衝撃によって土煙が上がる中で、ゴーレムは更に足を振り上げ地面に片膝を付く凰牙を踏みつぶそうとする。
「おおっと、そうはさせませんよー」
そこに割って入ったのは水月だった。巨大な杭打機を盾にその踏みつけを受ける。4mを越える石の巨人を相手に無謀とも思えるが、しかし結果はその無謀を否定した。
水月の足元の地面が僅かに陥没したが、水月自身は潰されてはいない。
更に、水月は巨人の足を受け止めたその体勢のまま杭打機のトリガーに指を掛けた。するとまるで銃撃のような音と共に放たれた杭がゴーレムの足裏を突き破る。
『――!』
だが、ゴーレムはそれを意に介さずさらに力を掛けて水月を押しつぶそうとする。
「ぐっ、これはちょっと予想外!」
水月はそれに耐えるが、足元の陥没がさらに深くなったのが分かる。
「おいおい、こっちにも構えってんだ!」
それを援護すべくデルフィーノが杖を振るう。放たれた機導砲の破壊の光はゴーレムの背中を砕くと、ゴーレムはそれに反応してその指先をデルフィーノへと向けた。
「ちっ、やっぱそうなるよなぁ!」
マシンガンの如くばら撒かれる石礫を受け、デルフィーノは悪態を尽きながら仕方がなく距離をとる。
「たああぁぁぁっ!」
そこで気合を込めた声が響く。ゴーレムの意識がデルフィーノへと向いた隙に、接近したネムリアが水月を踏みつけるゴーレムの足目掛けて飛び掛かったのだ。
ネムリアの冷気を纏う脚甲にマテリアルが集まり、そこにうっすらとヘラジカの蹄の幻影が浮かび上がる。
ゴーレムの足に放たれた衝撃は二回。その岩肌にくっきりと蹄の跡を残す。
『――ッ!?』
そこでゴーレムがバランスを崩して転倒し、その隙に水月はゴーレムの足元から離脱する。
それでもゴーレムは距離を取ろうとする水月へと手を伸ばすが、その腕に側面から衝撃が走り狙いの逸れたその手は何も掴むことなく空ぶった。
「まったくもう、しつこいと嫌われるわよ? 少しは大人しくしなさい」
マテリアルの硝煙を上げる銃を手にケイがそう窘めるような言葉を告げる。そして改めて狙いを定め、無防備な箇所に次々の弾丸を撃ちこんでいく。
「立たせてやる隙なんてやらねぇぜ!」
「まあ、そういうことだ」
この隙を逃すまいとハンター達は一気に畳みかける。程なくして、遺跡の入り口には石の破片の山が築かれることとなった。
●謎の遺跡
遺跡の入り口へと辿り着いたハンター達。いざ突入、となる前に錬介が皆の治療にあたる。
「よし、これで大丈夫です。痛むようならまた後で本格的に手当てをしましょう」
「いや、大丈夫ですよ。助かりましたよー」
水月は治療を受けた腕を軽く動かし、特に痛みがないことを確認する。
「皆、ちょっとこっちに来て」
と、そこで先に遺跡の入り口付近を偵察に向かっていたリアリュールの声が聞こえてきた。
「これ、どう思う?」
そう言ってリアリュールは目の前にある壁を指す。そこにはぽっかりと穴が開いていた。
穴の高さは丁度4~5mくらいはあるだろうか。壁面の一部が崩れ落ち、その奥にちょっとしたスペースが広がっている。
「調査員さんのお話だと、入ってすぐの壁にこんな大穴があったなんて聞いてないよ?」
「となると十中八九、あのゴーレムはここから出てきたんだろうな」
ネムリアの言葉からデルフィーノはそう推測する。となると、まだこの遺跡の内部にも見つかっていないナニカがある可能性がある。
「どっちにしろまずはスカイを探すのが先決だろ? どうするんだ?」
腕を組んだ凰牙が皆に向けてそう尋ねる。ハンター達は簡単に話し合った末、外と中に分かれてスカイを探すことにした。
結論として、学者スカイは割とあっさりと見つけることが出来た。
「ふむ、私が留守の間にリゼリオでそんな事件が起きているのか」
簡単な自己紹介と事情を説明したところで、スカイは現状をすぐに理解してくれたようでリゼリオの街に戻ることに納得してくれた。
ただ、その前に1つだけ確認しておきたいことがあるらしい。
「どうやらこの遺跡の至る所に隠し部屋がある。そしてその部屋を開ける為のスイッチは仕掛けられた罠に偽装されているのだ」
「……もしかして入り口にいたあのゴーレムって?」
「私が確認の為に作動させた罠の1つが、あのゴーレムを目覚めさせたのだろうな」
凰牙からの疑惑をスカイはあっさりと認めた。ハンター達は揃って溜息を吐きそうになったが、それを堪えて話の続きを促す。
「うむ。この先に隠し部屋があることが分かっている。その部屋の確認だけはしておきたい」
目の前に謎の答えがあるのにそれを無視して帰ることは出来ないとスカイは言う。
「まあ、見るだけなら……いいのかな?」
「そう時間は掛からないようですし。彼を説得するよりは早く済むでしょうからね」
ネムリアと錬介は軽く苦笑いを浮かべながらスカイの言葉を了承した。
スカイはそれに1つ笑みを浮かべると、ハンター達をその隠し部屋がある場所へと案内する。
「むっ? どういうことだ?」
と、その場所に着いた途端スカイが首を傾げた。その場所は碁盤目状になっている遺跡の隅になるが、突き当りとなっているはずの壁面にぽっかりと穴が開いているのだ。
「隠し扉が開いているだと……まさか、誰かに先を越された?」
眉を潜めるスカイに、ハンター達は顔を見合わせる。ともかく一同はその穴に入り隠し部屋へと向かう。
穴に入って数メートル通路を進み、その先にある部屋に入ったところでハンター達は急に襲ってきた眩しさに思わず目がくらんだ。
そこは地下であるのにも関わらず明るく、それも太陽のような柔らかく温かな光に満ちていた。
「これは、凄いですね」
錬介は眩しさに目を細めながら部屋の中を見渡す。そこは今までいた遺跡とはまるで違っており、壁一面にびっしりと幾何学模様が彫り込まれている。
さらに天井付近には巨大な水晶らしきものが張り付いており、どうやらそこから光が溢れてきているようだった。
「スカイさん、この場所は一体……?」
「ふむ。この遺跡の中枢か、いや……何かの保管庫のようだ」
リアリュールの問いに、スカイは壁に描かれた幾何学模様をじっと眺めながらそう答える。
「おーい。こっちに何かあるぞー!」
と、そこで足早に部屋の奥へと進んでいた凰牙の声が皆に届く。一同がそこに向かうと、部屋の壁面近くに台座が設置されているのが見えた。
どうやら水晶で出来ているらしいその台座には、その上部に丁度何かを収める為の窪みがあることが分かる。
「どうやらここに何かがあったようだが……一体何だ? 窪みの形は長方形となると……」
スカイが小さく唸りながら思考を働かせている中で、小さな音がした。それは普通ならば聞こえない、聞き逃してしまうような音だったが、それに唯一気づいたネムリアは音のした方へと振り返った。
その音のした場所。この隠し部屋の入り口に位置する場所に、黒いマントを羽織る茜髪をした少女の後ろ姿が見えた。
「シャル!」
ネムリアは咄嗟にその少女の名前を叫ぶようにして呼んだ。口にしてしまってから逃げられたらどうしようと不安になったが、果たして少女は立ち止まってこちらへと振り返った。
「何?」
こんな場所で知り合いと出会ったのにまるで驚いた様子もなく、シャルと呼ばれた少女は首を傾げてそう聞き返す。
「あっ、その、えっとね……」
何て言えばいいんだろうとあたふたするネムリア。そんな彼女の前に凰牙が一歩前に出る。
「シャルって言ったよな。こんなところで何してるんだ?」
「探し物」
「人、じゃなく?」
「違う。物」
シャルはそう簡潔に答える。これまでの出会いから凰牙はシャルがスカイを狙っているんじゃないかと警戒したが、どうやらそれは違うらしい。
どうする? と凰牙が他の仲間に視線を向けると今度はリアリュールが前へと出た。
「ねえ、シャル。前に会った時に言ってたよね。本当の自分になる為にやらないといけないことがあるって」
「……言った」
僅かに間を置いてシャルはそれを肯定する。
「一体何があったの? 本当の自分でなくなったって……」
「…………」
シャルは答えない。答えたくないのか、答えられないのか。
「もしかして、意識の一部を抑えられてる、とか?」
「違う」
今度はしっかりと否定した。答えは言えない。だが、違うのならばそれを否定することは出来るようだ。
その時、「ニィ」と猫の鳴き声が聞こえてきた。見ればシャルの肩に飛び乗ってきた白猫が、彼女を急かすようにその前脚を彼女の頬に押し当てている。
「終わり?」
シャルもこの場を去る気のようでそう聞いてくる。
「ねえ、シャル。あのねっ!」
そこでネムリアが声を上げた。
「シャルのしてる事。わたしがお手伝い出来ることがあるかもしれない。だからね、一緒に考えよう?」
「……」
シャルは答えない。ただ、少し困ったようにネムリアの背後へと視線を彷徨わせた。
「ところで探し物と言っていたな。もしかしてこの台座にあった物は――」
と、そこでスカイがシャルに話しかけた瞬間、彼女は突然踵を返して部屋から出て行ってしまった。
「むぅ、やはり彼女がここにあった物を持っていたようだな」
そう判断したスカイは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「ともかく、俺達はスカイさんを護衛しながら戻ろうか」
思わぬ闖入者を見送ったハンター達は、錬介の提案通り遺跡の外を目指すことにした。
遺跡内からシャルが外へと出てきたところで、そこには4人のハンター達が待っていた。
「はぁい、これで3度目かしら?」
「多分」
ケイの言葉にシャルはそう答えた。遺跡内の仲間からの報告通り、彼女に戦意や敵意は見られない。
「ねえ、貴女は誰の為にこんなことをしているのかしら?」
これまでハンターと敵対してまで何かを手に入れようとしているのに、しかしこうして会話には応じるし手を出さなければ警戒する様子すらない。
どうにもちぐはぐな謎の少女の行動に、ケイは興味からそう尋ねた。
「……家族」
少し考えて、シャルはそう答えた。少し意外な答えにケイは少しばかり感心した表情を浮かべる。
「それが人の道を外れることになってもかい?」
「そう」
続くナタナエルの言葉にシャルは頷いた。それにナタナエルの顔は沈痛な面持ちへと変わる。
その瞳に狂気はない。それが純粋な彼女の答えであり、迷いがないことを物語っている。
「なあシャル、話してみろよ。一緒に背負ったら楽になるかもしんねーぜ?」
「……駄目。自分でやらないと……本当の私になる為に必要なことだから」
デルフィーノの言葉に、シャルはそう言って首を横に振った。そこには彼女の明確な意志が見えたような気がした。
「行っちゃいましたねー。良かったんですか?」
立ち去っていくシャルの姿を見送り、水月はそう皆に問いかける。
「今回は何も悪い事してないしな。そういう雰囲気でもなかったしよ」
ああも無防備に背中を見せる相手に襲い掛かるというのも気が引けた。ただ、少女の謎は更に深まり、また何れ見える時が来るだろうという予感もしていた。
「まあ、スカイさんが無事ならお仕事は一見落着ですしね」
程なくして遺跡から出てきたスカイ達と合流し、ハンター一同はリゼリオの街へと戻った。
残念ながら謎の昏倒事件の進展はないようだが、スカイを連れ帰ったことにより被害者の治療の目途は立ったと言えるだろう。
そう安心して解散したハンター一同であったが、数日後に思わぬ情報を耳にすることになる。
『学者スカイ・ナチュレ、謎の失踪』
事件の終わりはまだ見えそうにもなかった。
依頼結果
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面白かった! | 9人 |
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MVP一覧
- 希望の火を灯す者
ネムリア・ガウラ(ka4615)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談場所! ネムリア・ガウラ(ka4615) エルフ|14才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/05/08 07:29:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/07 10:16:00 |