ゲスト
(ka0000)
呪われし老狼の願いと家族の想い
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/04 22:00
- 完成日
- 2016/05/12 05:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
我はボロウ。
灰色の毛を持つ狼たる幻獣だ。
我は仲間と群れを作り、この森でずっと暮らしてきたが、小さな森であったため暮らし楽ではなかった。
森の周囲にいる歪虚と呼ばれる悪しき者共が入れぬように結界を張った。
人間どもが入り込めば獲物が奪われぬよう追い払った。
そうして我は精一杯群れを守ってきたのだ。
だがある時ハンターと呼ばれる人間が森に入ってきた。
当然追い払おうとしたが、今まで相手にした人間とは違って手強く、我は深手を負ってしまった。
しかし奴らは我を殺さなかった。
我が幻獣と分かると何故か見逃したのだ。
九死に一生を得た我だが傷は深く、酷く消耗していた。
そのため森に張った結界も弱り、歪虚どもの森への侵入を許してしまったのだ。
巨体の歪虚を率いていたのは巨大な鎧をまとった歪虚だった。
我らは勇敢に戦った。
しかし群れの仲間は次々と歪虚に倒されてゆく。
我も最後まで抗ったが、仲間達と共に歪虚に敗れてしまった。
だが歪虚は我らを殺さなかった。
歪虚は死よりも過酷で残酷な呪いを我らに施したのだ。
『よく聞け。お前たちはもう幻獣などではない。お前達には再び死すると堕落者という名の歪虚となる定めを施した。
その決して逃れられない運命にどう抗い、どう足掻き、どう絶望するのか? それを楽しみに見させてもらおう』
歪虚はそう言い残して森を去った。
言い知れぬ不気味さを感じたまま我らは森で暮らし続けた。
なぜなら皆がまだ生きていたし、死ねば歪虚になるなどと誰も信じてはいなかったからだ。
だが歪虚に負わされた傷が原因で衰弱する者が多くいた。
そして最も老齢だった仲間が衰弱死すると、本当に歪虚となったのだ。
歪虚となった仲間は理性を完全に失い他の仲間達を襲い始めた。
そして歪虚となった仲間に襲われて死んだ仲間も歪虚となった。
群れは大混乱に陥った。
我は群れを守るため、かつて仲間であった歪虚を殺した。
殺したかつての仲間は塵となって消えた。
それはとても異質な死であった。
明らかに生物として正しい死に様ではなかった。
混乱は一旦収まったが、群れには不安が広まった。
衰弱死すれば間違いなく歪虚となるのだから。
自分はいつまで生き延びられるのか?
次は誰が死ぬのか?
皆が不安に怯えて暮らす日々が続いた。
そして次に衰弱死した者も、やはり歪虚となった。
群れで一丸となって歪虚と化した仲間を殺したが、多くの者が弱っていたためか、最初より多くの者が死んだ。
次に死ぬのは自分かもしれない。
自分が歪虚となって仲間を殺すかもしれない。
歪虚になるのは嫌だ。
あんな死に様は嫌だ。
そんな不安と恐怖が群れに蔓延した。
我は群れを救おうと懊悩した。
しかしどんなに悩んだ所で群れを救う術は思いつけなかった。
そして再び衰弱死しかける者が現れた。
それは、我の子だった。
我が子が歪虚となって仲間を殺し、塵となって異常な死を遂げる。
なんという恥辱であろう。
だが、我が子はそんな恥辱を受け入れなかった。
我が子は我に死を願ってきたのだ。
このまま死んで歪虚となるより、我に殺される事を願ったのだ。
我に殺されれば幻獣として死ねるだろうからと。
我は悩んだ。
出来るはずがなかった。
だが、それが我が子の最後の望みなのだ。
我は血を吐く思いで我が子の願いを叶えた。
すると我が子は歪虚とはならずに死を迎えた。
我が子の勇気と想いが歪虚に打ち勝ったのだ。
我は吼えた。
悲しみ。
安堵。
怒り。
憤り。
様々な感情が入り混じって吼えた。
そして高ぶった感情が落ち着くと、我が子の事を群れの皆に話した。
皆が苦悩した。
悩みに悩み抜いた末、やはり我が子と同じ結論に至った。
歪虚となって死ぬよりも幻獣のまま死ぬ事を選んだのだ。
我は群れの主として皆の願いを叶えた。
心が張り裂けそうだった。
喰い締ばった牙が口腔に刺さって血が吹き出た。
喉が張り裂けんばかりに吼えた。
心臓が破れんばかりに森を駆けた。
そして……我は1人になった。
1人では誰も我を殺してくれない。
いずれ我は歪虚と化し、多くのものを傷つけ、歪んだ死を遂げるだろう。
これが自らの群れを自らの手で滅ぼすしかなかった無力な主の末路か……。
我は歪んだ死を待つだけの存在と化していた。
そんな折、また人間どもが我らの森に入ってきた。
もし我が人間に傷を負わされていなければこんな事にはならなかっただろうか?
沸々とした怒りが湧き、我はその人間達に襲いかかった。
しかしその人間から何故か歪虚への恐怖が感じられた。
おそらくこの人間達は歪虚に襲われて逃げてきたのだろう。
そう思うと怒りは急速に萎み、興味が失せた。
人間達は勝手に森に住み始めたが、我は既に歪んだ死を待つだけの存在だ。好きにさせた。
しかし人間達は我が思っていた以上に弱々しくて危なっかしい生き物だった。
なのでつい目をかけていると、何時の間にか人間の子供に懐かれてしまっていた。
その子供だけは何故か考えている事が何となく分かった。
相手も我の考えが分かる風だった。
そして何時しか意思疎通すら可能になった。
そのせいか、その人間の家族に情が移ってしまった。
だが我はもう仲間は持てぬ。
我の寿命も近いのだ。
我が歪虚と化せば、ハナも家族も殺してしまうだろう。
その前に我は去らねばならぬ。
だが、我は再び鎧の歪虚との邂逅した。
怒りに我を忘れ、挑みかかったが返り討ちにあった。
そんな我を助けたのは、ハンターと呼ばれる人間達であった。
我では歪虚には勝てぬ。
だが無類を強さを誇るハンターならば歪虚を倒し、我と群れの無念を晴らしてくれるかもしれぬ。
そして、ハンターであれば我も殺せるだろう。
諦めていた我の最後の願い。
『幻獣としての死と精霊への回帰』
それが叶うやも知れぬ。
我はハナに全ての事情を話し、願った。
『ハナよ。頼む。我を殺してくれ』
「嫌だよボロウ。どうしてそんなこと言うの……」
ハナは嫌だと言って泣いた。
死んだら嫌だと言った。
ずっと一緒にいたいと言った。
おそらく我は残酷な願いをしているだろう。
我を家族と思っているハナには受け入れがたい願いだろう。
だが、頼める者はハナしかいないのだ。
ハナは泣き、喚き、怒り、拗ねたが、我の願いを受け入れてくれた。
寿命が尽きるギリギリまで一緒にいる事を条件として。
その条件は危険であるため、我は別の条件を出すよう言った。
互いに妥協点を探りあい『ハナ達が次の住処に行くまで』という条件で納得させた。
我がいなくなれば辛うじて保っていた森の結界も消える。
そうなればハナ達はもう安全には暮らせない。
別の場所に移り住んでもらわねばならないのだ。
そこまでは同行しよう。
そしてそこが別れの場所となるだろう。
灰色の毛を持つ狼たる幻獣だ。
我は仲間と群れを作り、この森でずっと暮らしてきたが、小さな森であったため暮らし楽ではなかった。
森の周囲にいる歪虚と呼ばれる悪しき者共が入れぬように結界を張った。
人間どもが入り込めば獲物が奪われぬよう追い払った。
そうして我は精一杯群れを守ってきたのだ。
だがある時ハンターと呼ばれる人間が森に入ってきた。
当然追い払おうとしたが、今まで相手にした人間とは違って手強く、我は深手を負ってしまった。
しかし奴らは我を殺さなかった。
我が幻獣と分かると何故か見逃したのだ。
九死に一生を得た我だが傷は深く、酷く消耗していた。
そのため森に張った結界も弱り、歪虚どもの森への侵入を許してしまったのだ。
巨体の歪虚を率いていたのは巨大な鎧をまとった歪虚だった。
我らは勇敢に戦った。
しかし群れの仲間は次々と歪虚に倒されてゆく。
我も最後まで抗ったが、仲間達と共に歪虚に敗れてしまった。
だが歪虚は我らを殺さなかった。
歪虚は死よりも過酷で残酷な呪いを我らに施したのだ。
『よく聞け。お前たちはもう幻獣などではない。お前達には再び死すると堕落者という名の歪虚となる定めを施した。
その決して逃れられない運命にどう抗い、どう足掻き、どう絶望するのか? それを楽しみに見させてもらおう』
歪虚はそう言い残して森を去った。
言い知れぬ不気味さを感じたまま我らは森で暮らし続けた。
なぜなら皆がまだ生きていたし、死ねば歪虚になるなどと誰も信じてはいなかったからだ。
だが歪虚に負わされた傷が原因で衰弱する者が多くいた。
そして最も老齢だった仲間が衰弱死すると、本当に歪虚となったのだ。
歪虚となった仲間は理性を完全に失い他の仲間達を襲い始めた。
そして歪虚となった仲間に襲われて死んだ仲間も歪虚となった。
群れは大混乱に陥った。
我は群れを守るため、かつて仲間であった歪虚を殺した。
殺したかつての仲間は塵となって消えた。
それはとても異質な死であった。
明らかに生物として正しい死に様ではなかった。
混乱は一旦収まったが、群れには不安が広まった。
衰弱死すれば間違いなく歪虚となるのだから。
自分はいつまで生き延びられるのか?
次は誰が死ぬのか?
皆が不安に怯えて暮らす日々が続いた。
そして次に衰弱死した者も、やはり歪虚となった。
群れで一丸となって歪虚と化した仲間を殺したが、多くの者が弱っていたためか、最初より多くの者が死んだ。
次に死ぬのは自分かもしれない。
自分が歪虚となって仲間を殺すかもしれない。
歪虚になるのは嫌だ。
あんな死に様は嫌だ。
そんな不安と恐怖が群れに蔓延した。
我は群れを救おうと懊悩した。
しかしどんなに悩んだ所で群れを救う術は思いつけなかった。
そして再び衰弱死しかける者が現れた。
それは、我の子だった。
我が子が歪虚となって仲間を殺し、塵となって異常な死を遂げる。
なんという恥辱であろう。
だが、我が子はそんな恥辱を受け入れなかった。
我が子は我に死を願ってきたのだ。
このまま死んで歪虚となるより、我に殺される事を願ったのだ。
我に殺されれば幻獣として死ねるだろうからと。
我は悩んだ。
出来るはずがなかった。
だが、それが我が子の最後の望みなのだ。
我は血を吐く思いで我が子の願いを叶えた。
すると我が子は歪虚とはならずに死を迎えた。
我が子の勇気と想いが歪虚に打ち勝ったのだ。
我は吼えた。
悲しみ。
安堵。
怒り。
憤り。
様々な感情が入り混じって吼えた。
そして高ぶった感情が落ち着くと、我が子の事を群れの皆に話した。
皆が苦悩した。
悩みに悩み抜いた末、やはり我が子と同じ結論に至った。
歪虚となって死ぬよりも幻獣のまま死ぬ事を選んだのだ。
我は群れの主として皆の願いを叶えた。
心が張り裂けそうだった。
喰い締ばった牙が口腔に刺さって血が吹き出た。
喉が張り裂けんばかりに吼えた。
心臓が破れんばかりに森を駆けた。
そして……我は1人になった。
1人では誰も我を殺してくれない。
いずれ我は歪虚と化し、多くのものを傷つけ、歪んだ死を遂げるだろう。
これが自らの群れを自らの手で滅ぼすしかなかった無力な主の末路か……。
我は歪んだ死を待つだけの存在と化していた。
そんな折、また人間どもが我らの森に入ってきた。
もし我が人間に傷を負わされていなければこんな事にはならなかっただろうか?
沸々とした怒りが湧き、我はその人間達に襲いかかった。
しかしその人間から何故か歪虚への恐怖が感じられた。
おそらくこの人間達は歪虚に襲われて逃げてきたのだろう。
そう思うと怒りは急速に萎み、興味が失せた。
人間達は勝手に森に住み始めたが、我は既に歪んだ死を待つだけの存在だ。好きにさせた。
しかし人間達は我が思っていた以上に弱々しくて危なっかしい生き物だった。
なのでつい目をかけていると、何時の間にか人間の子供に懐かれてしまっていた。
その子供だけは何故か考えている事が何となく分かった。
相手も我の考えが分かる風だった。
そして何時しか意思疎通すら可能になった。
そのせいか、その人間の家族に情が移ってしまった。
だが我はもう仲間は持てぬ。
我の寿命も近いのだ。
我が歪虚と化せば、ハナも家族も殺してしまうだろう。
その前に我は去らねばならぬ。
だが、我は再び鎧の歪虚との邂逅した。
怒りに我を忘れ、挑みかかったが返り討ちにあった。
そんな我を助けたのは、ハンターと呼ばれる人間達であった。
我では歪虚には勝てぬ。
だが無類を強さを誇るハンターならば歪虚を倒し、我と群れの無念を晴らしてくれるかもしれぬ。
そして、ハンターであれば我も殺せるだろう。
諦めていた我の最後の願い。
『幻獣としての死と精霊への回帰』
それが叶うやも知れぬ。
我はハナに全ての事情を話し、願った。
『ハナよ。頼む。我を殺してくれ』
「嫌だよボロウ。どうしてそんなこと言うの……」
ハナは嫌だと言って泣いた。
死んだら嫌だと言った。
ずっと一緒にいたいと言った。
おそらく我は残酷な願いをしているだろう。
我を家族と思っているハナには受け入れがたい願いだろう。
だが、頼める者はハナしかいないのだ。
ハナは泣き、喚き、怒り、拗ねたが、我の願いを受け入れてくれた。
寿命が尽きるギリギリまで一緒にいる事を条件として。
その条件は危険であるため、我は別の条件を出すよう言った。
互いに妥協点を探りあい『ハナ達が次の住処に行くまで』という条件で納得させた。
我がいなくなれば辛うじて保っていた森の結界も消える。
そうなればハナ達はもう安全には暮らせない。
別の場所に移り住んでもらわねばならないのだ。
そこまでは同行しよう。
そしてそこが別れの場所となるだろう。
リプレイ本文
家族を目的地へ送る道中、J・D(ka3351)がボロルと一家の関係や両者の出自を尋ねると、ハナは包み隠さず全て話した。
「その歪虚、随分とこいつにお熱じゃねえか。仕留めて毛皮でも剥ぐ気かよ?」
J・Dがハナの隣りを歩くボロウの毛を軽く撫でる。
「……あの時ヤツが言っていたのはそういう事か」
八原 篝(ka3104)は甲冑歪虚の残した言葉を意味を知り、ボロウの体を治す手段も時間も無いと分かって歯噛みする。
(話を聞くだけでも、ボロウの事、ハナの事、家族の事……色々と考えてしまうな。でも、やる事ははっきりしている。全員無事に避難させ、ボロウが望む終わりを迎えさせる)
No.0(ka4640)はボロウと家族に感慨を受け、強い決意を固めた。
やがて一行が目的の山の頂上付近まで来ると、不意に横手の崖の上からサイクロプスの巨体が地響きを立てて降り立ってきた。
サイクロプスは籠を背負っており、籠には甲冑姿の歪虚が乗っている。
そして後方の崖からも4体のトロルが降り立ち、退路を塞いだ。
『まだ足掻くのか狼よ。大人しく歪虚となればよいものを……』
甲冑歪虚は弓を引き絞るとボロウに矢を射った。
しかしNo.0が『ムーバルフレーム』を発動し、盾で受け止める。
だが後方のトロルも弓を番え、サイクロプスは石を構えた。
「身を隠せる場所まで走れ!」
バリトン(ka5112)は避難指示を出しながら自分はトロルの足止めに向かう。
「誰も傷つけさせはしません!」
シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)もトロルを抑えに走る。
「サイクロプスはお任せを」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は脇目もふらず単身サイクロプスに突っ込んでいった。
「こっちよ、早く!」
篝は祖母ダナンの手を引いて前方の岩へ走る。
「この子を乗せて、逃げろ」
No.0はハナをボロウに乗せ、2人を護衛しながら後方脇の林に向かう。
「あの歪虚、やはり諦めていませんでしたか……」
保・はじめ(ka5800)は祖父カッツを介助しながらボロウの後に続く。
「旦那、あんたは家族のために命を賭けられるかい?」
J・Dはその場で父ムカタに尋ねた。
「え?」
「俺は歪虚に誰も殺させないし、あんた達を命がけで守る。だがこの距離だと移動しながら攻撃は無理だ。あんたにこの場から逃げずにいられる度胸はあるかい?」
「もちろんだ! 家族のためなら命など惜しくない」
「上等だ」
J・Dはバトルライフルでトロルの1体に狙い定め『遠射』と『高加速射撃』を発動。
大口径から放たれた弾丸はトロルの体を撃ち抜いた。
しかしトロルは体に風穴を開けたまま矢を撃ち返してきた。
「デカイだけあってタフだな」
J・Dは矢の軌道を見切って避けると次弾を発射。
更に3つ目の風穴も開けたところでトロルは黒い塵となって霧散した。
サイクロプスは向かってくるレイに1m近い大岩を投げた。
視界いっぱい迫る大岩をレイは速度を落とす事なく避けて更に接近し、『ワイルドラッシュ』を発動。
「まずは足を封じさせていただきます」
ハルバードで脚に2連続を突き入れ、脛肉を削ぎ落とす。
しかしサイクロプスは痛みに鈍いのか意に介さず、棍棒を振り下ろしてきた。
レイは身を捻って避けたが、棍棒は地面を大きく穿ち、弾けて飛び散った石や土が鎧に当たる。
「冷や汗ものの威力ですが、当たらなければ意味はありません」
レイは再度『ワイルドラッシュ』を発動し、振り下ろされたサイクロプスの手首を斬りつけて両断。棍棒ごと手首が地面に落ちる。
武器を失ったサイクロプスだが蹴りを放ってきた。
レイは避けたが、サイクロプスは蹴り上げた足で更に踏み潰そうとしてくる。
しかし篝が『制圧射撃』を行い、サイクロプスの動きがピタリと止まる。
脛を削がれた足1本では体を支えきれず、サイクロプスは横に倒れた。
その隙を逃さずレイは『ワイルドラッシュ』を発動。
「これで終わりです!」
1撃目で単眼を貫き、同じ箇所に放った2撃目は脳を貫いた。
サイクロプスは脳を潰されてもしばらく悶え苦しんでいたが、やがて黒い塵となった。
トロルに向かって駆けているバリトンとシリルにも次々と矢が射られてくる。
バリトンには2本当たったが、魔獣装甲「タイラント」で弾いた。
シリルは1本目は外れ、2本目は避け、トロルの間近まで接近。
「その醜悪なツラをこれ以上晒すな。この世界に迷惑だ」
目潰しも狙いつつ顔面に『ホーリーライト』を放った。
対するトロルも矢を放つ。
『ホーリーライト』は顔には当たらなかったが、その隙にバリトンが肉薄。
「残念ながら通行止めじゃよ」
『剣心一如』と共に発動した『縦横無尽』でトロルの脚を切断するとそのまま駆け抜け、隣のトロルにも一太刀浴びせる。
更に返す刀で脚を失い倒れたトロルに『一之太刀』を放って首を斬り落とす。
そうして1体倒したが、シリルも腕を矢で射抜かれていた。
「くっ……」
シリルはすぐに『ヒール』を施そうとしたが。
「お母さんっ!」
「ダナー!」
悲鳴がシリルの耳を打つ。
振り返ると矢を射られた母ダナの姿が見えた。
「いけない!」
シリルはすぐさま自分に施すつもりだった『ヒール』をダナに施す。
その直後。
「避けろシリル!」
バリトンの声で横を見ると、トロルの斧が迫っていた。
衝撃と共に激痛が走る。
視界が暗転し、思考が一瞬飛ぶ。
再び衝撃。
地面が見えた。
どうやら倒れているらしい。
(ダナさんは……?)
混濁する意識の中、血に染まった赤い視界でダナを探す。
見つけた。
どうやら生きているらしい。
(よかった……)
ならば自分は立ち上がって戦わなければいけない。
なのに体の感覚が鈍くて動かない。
(どうして?)
不思議に思いながらシリルの意識は急速に遠のいていった。
「シリルはやらせん!!」
バリトン刀を振るって倒れたシリルからトロルを遠ざけた。
『離れて矢を射掛けろ』
すると甲冑歪虚の指示に従って離れたトロルが矢を番え始める。
「お前らの矢などわしの鎧で弾いてくれる!」
バリトンは自らの巨体を盾としてシリルを守ろうとした。
だが、矢が放たれる前にトロルの頭上に符が飛び、稲妻が降り注いだ。
更に光も走り、トロルの体を貫いてゆく。
家族達を安全な場所まで避難させ終えた保とNo.0が『風雷陣』と『デルタレイ』で援護してくれたのだ。
「有難い」
その隙を逃さずバリトンは『剣心一如』と『縦横無尽』を発動。
トロルの脇を駆けつつ抜き胴でトロルの胴体を両断。
刀を返して隣のトロルの鳩尾に刃を突き入れ、そのまま斬り上げて縦断。
2体のトロルを一気に葬ったのだった。
時間は少し巻き戻り。
甲冑歪虚は逃げる家族達の動向を観察し、母ダナに護衛がいない事に気づいて矢を放った。
「しまった!」
ダナが狙われたと気づいた保が咄嗟に『瑞鳥符』を発動。
矢は光の鳥を貫通し、ダナに突き刺さった。
「お母さんっ!」
「ダナー!」
ハナが悲鳴を上げ、ムカタが駆け寄ろうとする。
「動くな旦那!」
しかしJ・Dはムカタを呼び止めた。
「動けば今度はあんたが狙われる。奥さんは大丈夫だ。仲間が絶対助ける」
「くっ……」
ムカタは何とか思いとどまってくれた。
ダナに刺さった矢はギリギリ急所を外れていた。
もし『瑞鳥符』がなかったら即死だったろう。
それにシリルの『ヒール』がなければ命が危うかったに違いない。
「ボロウ、お母さんを乗せてあげて」
ハナは自分の代わりにダナをボロウに乗せた。
そこに再び矢が飛来する。
標的はボロウか、ハナか、ダナか?
No.0は3人を同時に守るため、ハナの前に立ち、ボロウとダナに盾を翳す。
矢はNo.0の胸に突き刺さった。
「三角さん!」
「……大丈夫だ」
No.0は悲鳴を上げて慌てるハナを安心させるため、頭を軽く撫でてやった。
「相変わらず卑怯な奴ね!」
『手段は選ばんと言ったはずだ』
甲冑歪虚が篝の傍にいるダナンに矢を射った。
篝は盾で庇ったが、矢は盾を貫通して腕も貫く。
構わず篝は走り続け、岩影に辿り着くとそこにダナンを潜ませた。
「ここに身を隠して」
そして自分はサイクロプスに向かって駆ける。
だが甲冑歪虚の矢で足を貫かれた。
かなり深手で脚が痺れて動かない。
(構わないわ。弾はもう届く)
篝はライフルを構えるとサイクロプスに『制圧射撃』を行った。
そしてサイクロプスが倒れ、籠から投げ出された甲冑歪虚とレイが対峙する。
「……ふふっ」
レイは全身鎧でハルバードを持つ相手の姿と自分の姿が似ていたので思わず含み笑いを漏らす。
それが気にいらなかったのか、甲冑歪虚がハルバードで突いてきた。
レイはハルバードで弾いて反らすと『ワイルドラッシュ』で2連撃を放つが、盾で受けられた。
「そいつ盾の裏に武器を隠し持っているわ。それに致命傷を与えたように見えても起き上がる。注意して」
篝はレイにアドバイスをしつつ『制圧射撃』で援護したが盾で完全に防がれ効いていない。
「それなら」
篝はリロードして『寒夜』を発砲。
今度も盾で防がれたが、発生した冷気は甲冑歪虚の動きを鈍らせた。
「お願い、盾をどうにかして」
「お任せを」
レイは『ワイルドラッシュ』を発動してハルバードで突き、わざと盾で受けさせると手首を返し、刃の下部の突起で盾の端を引っ掛けた。
甲冑歪虚は盾を振ってすぐに外したが、その一瞬、盾は防御に使えなくなる。
「ナイス!」
その隙を逃さず篝は『制圧射撃』を行った。
今度は体に命中し、甲冑歪虚の動きが止まる。
「そいつは『核』を破壊しないと倒せないタイプよ。ハルバードか盾の裏を狙って」
レイは相手のハルバードの中央部を斬って両断。更に左腕も切断し、落ちた盾の裏を抉った。
だが甲冑歪虚は折れたハルバードで攻撃を続けてくる。
「違うか……。それならバラバラに解体してやって」
篝が『制圧射撃』を行い続けて動きを抑え、その間にレイが四肢と頭部を切断し、胴体部に刃を突き入れる。
『この体はもうダメか……。だがこれでは私は殺せぬよ。また会おう』
甲冑歪虚はそう言い残し、全身が黒い塵となって霧散した。
間違いなく歪虚の死に様である。
「……今死にましたよね?」
「もし死んでないならまた殺すまでよ」
怪訝そうに尋ねるレイに篝はそう答えた。
歪虚は倒し終えた一行は、負傷したダナはボロウに乗せ、重傷で動けないシリルはバリトンが背負い、再び目的地を目指す。
「ボロウには今までいっぱい助けてもらったね」
「一緒に寝た事あったよね」
「ボロウの毛はふかふかで暖かかったよ」
「ボロウはたくさん食べるから狩りが大変だったよ」
その道中、ハナはずっとボロウに話しかけていた。
まるで話すのを止めたらボロウがいなくなるかのように。
「それでね……それで……」
ふとハナの言葉が途切れる。
「今まで……」
次が続かず長い沈黙が流れた。
「……ありがとう」
それは消えそうなほど小さな声だった。
やがて遠くに町の見える所まで来ると、不意にボロウが足を止めた。
「ボロウ?」
ボロウがじっとハナを見つめる。
「嫌だよボロウ……」
「……」
「……」
ハナは俯き、皆の方を向く。
「ここで……ボロウとはお別れみたいです」
意を決したハナが悲しげに告げた。
その瞳には涙が滲み始めている。
ボロウは死に場所と決めたのか道の脇の草むらに入って行こうとする。
「ボロウ!」
「行かないでおくれ!」
しかしムカタとカッツがボロウに縋って引き止めた。
「皆さん、こちらから申し出ておいて勝手な話ですが……どうか殺さずに済ましてくれませんか?」
そしてダナが涙ながらに訴えてくる。
「ボロウを殺さないでくれ!」
「大事な家族なんです!」
ムカタとカッツも必死に訴えてくる。
「ボロウの魂は歪虚に穢されています。このままであれば、死後に迷い、歪虚になって誰かを傷つけます」
「それに寿命が近づいている以上、どの道別れの時は迫っているんです。泣いて縋って、置いて行かれる別れ方で良いんですか?」
3人の愛情は分かっていたがシリルと保は諭した。
「それは分かっています。でも……」
「もし貴方達が死後に歪虚になるとしても……引き止められる事を、望むか? 少なくともボロウは、望んでいない」
No.0もボロウの意を汲んだ言葉で説得する。
「ぬしらがヤツを家族と思うのと同様ヤツも主らを大切に思うておるはずじゃ」
バリトンがムカタとカッツの肩をポンと叩く。
「だからこそ、ぬしらを手に掛けることがないよう自然に帰り、大切なものを見守ると決めた。その意を汲んでやることは出来ぬか?
長き時を生きた者が自身の最期を決めた。せめて強く笑って見送ってやることは難しいかのう?」
バリトンが柔らかく微笑みかけると、ムカタとカッツはボロボロと涙を流しながらボロウから離れた。
「ボロルは死んで無くなる訳じゃねえ。只、生きる形を変えるだけさ。
精霊になって、見守ってくれる筈さ。あんたサン方の血筋なら、それが判る筈だぜ」
J・Dがシャーマンであるダナンとハナに言う。
「ボロウが……言ってます。人間は優しいな、と」
ハナが涙混じりにボロウの声を紡ぐ。
「そんな優しい人間を、我は何時の間にか愛してしまったらしい。いや、優しいが故、か……。
我は人間を恨んだ。お前達を殺そうとした。だが、そんな我をお前達は受け入れ、家族と呼んでくれた。
全てを失った我が再び家族を得られた。無常の喜びだ。我は守る。今度こそ家族を。この身は精霊と成し、悪しき者から守る。
さぁ、我を精霊の元に送り、願いを叶えさせてくれ」
ボロウの言葉を聞いた家族は涙したが、皆納得した様子だった。
「貴方の身体は地に還る。宜しければその一部を、あの家族に遺して差し上げたいのですが」
レイが尋ねるとボロウは頷いてくれた。
「では……」
バリトンが大刀を手にボロウの前に立つ。
ボロウの目はとても澄んでおり、バリトンは全てを委ねられていると感じられた。
「今の私にはこれしか出来ませんが、せめて魂が迷わぬよう」
セリルが故郷での修行で覚えた死者を送る聖句を唱え始める。
「苦しまぬよう一撃で送ろう」
バリトンの『一之太刀』が振るわれ、ボロウの命が刈り取られた。
その身は黒い塵とならずにその場にある。
ボロウの魂が歪虚に打ち勝った証だ。
「血は通わずとも貴方の家族が血族であるというなによりの証として、貴方を頂きます。気高き貴方の家族が前に進むために」
レイはボロウから牙と爪を貰い受け、ハナに渡した。
「少し毛も貰うぜ」
J・Dは毛を一房ずつ束ね、御守として家族に渡す。
そしてボロウの遺体は丁寧に埋葬された。
「さよならボロウ」
シリルの聖句が紡がれ続ける中、ハナはボロウが返っただろう空を仰いだ。
「その歪虚、随分とこいつにお熱じゃねえか。仕留めて毛皮でも剥ぐ気かよ?」
J・Dがハナの隣りを歩くボロウの毛を軽く撫でる。
「……あの時ヤツが言っていたのはそういう事か」
八原 篝(ka3104)は甲冑歪虚の残した言葉を意味を知り、ボロウの体を治す手段も時間も無いと分かって歯噛みする。
(話を聞くだけでも、ボロウの事、ハナの事、家族の事……色々と考えてしまうな。でも、やる事ははっきりしている。全員無事に避難させ、ボロウが望む終わりを迎えさせる)
No.0(ka4640)はボロウと家族に感慨を受け、強い決意を固めた。
やがて一行が目的の山の頂上付近まで来ると、不意に横手の崖の上からサイクロプスの巨体が地響きを立てて降り立ってきた。
サイクロプスは籠を背負っており、籠には甲冑姿の歪虚が乗っている。
そして後方の崖からも4体のトロルが降り立ち、退路を塞いだ。
『まだ足掻くのか狼よ。大人しく歪虚となればよいものを……』
甲冑歪虚は弓を引き絞るとボロウに矢を射った。
しかしNo.0が『ムーバルフレーム』を発動し、盾で受け止める。
だが後方のトロルも弓を番え、サイクロプスは石を構えた。
「身を隠せる場所まで走れ!」
バリトン(ka5112)は避難指示を出しながら自分はトロルの足止めに向かう。
「誰も傷つけさせはしません!」
シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)もトロルを抑えに走る。
「サイクロプスはお任せを」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は脇目もふらず単身サイクロプスに突っ込んでいった。
「こっちよ、早く!」
篝は祖母ダナンの手を引いて前方の岩へ走る。
「この子を乗せて、逃げろ」
No.0はハナをボロウに乗せ、2人を護衛しながら後方脇の林に向かう。
「あの歪虚、やはり諦めていませんでしたか……」
保・はじめ(ka5800)は祖父カッツを介助しながらボロウの後に続く。
「旦那、あんたは家族のために命を賭けられるかい?」
J・Dはその場で父ムカタに尋ねた。
「え?」
「俺は歪虚に誰も殺させないし、あんた達を命がけで守る。だがこの距離だと移動しながら攻撃は無理だ。あんたにこの場から逃げずにいられる度胸はあるかい?」
「もちろんだ! 家族のためなら命など惜しくない」
「上等だ」
J・Dはバトルライフルでトロルの1体に狙い定め『遠射』と『高加速射撃』を発動。
大口径から放たれた弾丸はトロルの体を撃ち抜いた。
しかしトロルは体に風穴を開けたまま矢を撃ち返してきた。
「デカイだけあってタフだな」
J・Dは矢の軌道を見切って避けると次弾を発射。
更に3つ目の風穴も開けたところでトロルは黒い塵となって霧散した。
サイクロプスは向かってくるレイに1m近い大岩を投げた。
視界いっぱい迫る大岩をレイは速度を落とす事なく避けて更に接近し、『ワイルドラッシュ』を発動。
「まずは足を封じさせていただきます」
ハルバードで脚に2連続を突き入れ、脛肉を削ぎ落とす。
しかしサイクロプスは痛みに鈍いのか意に介さず、棍棒を振り下ろしてきた。
レイは身を捻って避けたが、棍棒は地面を大きく穿ち、弾けて飛び散った石や土が鎧に当たる。
「冷や汗ものの威力ですが、当たらなければ意味はありません」
レイは再度『ワイルドラッシュ』を発動し、振り下ろされたサイクロプスの手首を斬りつけて両断。棍棒ごと手首が地面に落ちる。
武器を失ったサイクロプスだが蹴りを放ってきた。
レイは避けたが、サイクロプスは蹴り上げた足で更に踏み潰そうとしてくる。
しかし篝が『制圧射撃』を行い、サイクロプスの動きがピタリと止まる。
脛を削がれた足1本では体を支えきれず、サイクロプスは横に倒れた。
その隙を逃さずレイは『ワイルドラッシュ』を発動。
「これで終わりです!」
1撃目で単眼を貫き、同じ箇所に放った2撃目は脳を貫いた。
サイクロプスは脳を潰されてもしばらく悶え苦しんでいたが、やがて黒い塵となった。
トロルに向かって駆けているバリトンとシリルにも次々と矢が射られてくる。
バリトンには2本当たったが、魔獣装甲「タイラント」で弾いた。
シリルは1本目は外れ、2本目は避け、トロルの間近まで接近。
「その醜悪なツラをこれ以上晒すな。この世界に迷惑だ」
目潰しも狙いつつ顔面に『ホーリーライト』を放った。
対するトロルも矢を放つ。
『ホーリーライト』は顔には当たらなかったが、その隙にバリトンが肉薄。
「残念ながら通行止めじゃよ」
『剣心一如』と共に発動した『縦横無尽』でトロルの脚を切断するとそのまま駆け抜け、隣のトロルにも一太刀浴びせる。
更に返す刀で脚を失い倒れたトロルに『一之太刀』を放って首を斬り落とす。
そうして1体倒したが、シリルも腕を矢で射抜かれていた。
「くっ……」
シリルはすぐに『ヒール』を施そうとしたが。
「お母さんっ!」
「ダナー!」
悲鳴がシリルの耳を打つ。
振り返ると矢を射られた母ダナの姿が見えた。
「いけない!」
シリルはすぐさま自分に施すつもりだった『ヒール』をダナに施す。
その直後。
「避けろシリル!」
バリトンの声で横を見ると、トロルの斧が迫っていた。
衝撃と共に激痛が走る。
視界が暗転し、思考が一瞬飛ぶ。
再び衝撃。
地面が見えた。
どうやら倒れているらしい。
(ダナさんは……?)
混濁する意識の中、血に染まった赤い視界でダナを探す。
見つけた。
どうやら生きているらしい。
(よかった……)
ならば自分は立ち上がって戦わなければいけない。
なのに体の感覚が鈍くて動かない。
(どうして?)
不思議に思いながらシリルの意識は急速に遠のいていった。
「シリルはやらせん!!」
バリトン刀を振るって倒れたシリルからトロルを遠ざけた。
『離れて矢を射掛けろ』
すると甲冑歪虚の指示に従って離れたトロルが矢を番え始める。
「お前らの矢などわしの鎧で弾いてくれる!」
バリトンは自らの巨体を盾としてシリルを守ろうとした。
だが、矢が放たれる前にトロルの頭上に符が飛び、稲妻が降り注いだ。
更に光も走り、トロルの体を貫いてゆく。
家族達を安全な場所まで避難させ終えた保とNo.0が『風雷陣』と『デルタレイ』で援護してくれたのだ。
「有難い」
その隙を逃さずバリトンは『剣心一如』と『縦横無尽』を発動。
トロルの脇を駆けつつ抜き胴でトロルの胴体を両断。
刀を返して隣のトロルの鳩尾に刃を突き入れ、そのまま斬り上げて縦断。
2体のトロルを一気に葬ったのだった。
時間は少し巻き戻り。
甲冑歪虚は逃げる家族達の動向を観察し、母ダナに護衛がいない事に気づいて矢を放った。
「しまった!」
ダナが狙われたと気づいた保が咄嗟に『瑞鳥符』を発動。
矢は光の鳥を貫通し、ダナに突き刺さった。
「お母さんっ!」
「ダナー!」
ハナが悲鳴を上げ、ムカタが駆け寄ろうとする。
「動くな旦那!」
しかしJ・Dはムカタを呼び止めた。
「動けば今度はあんたが狙われる。奥さんは大丈夫だ。仲間が絶対助ける」
「くっ……」
ムカタは何とか思いとどまってくれた。
ダナに刺さった矢はギリギリ急所を外れていた。
もし『瑞鳥符』がなかったら即死だったろう。
それにシリルの『ヒール』がなければ命が危うかったに違いない。
「ボロウ、お母さんを乗せてあげて」
ハナは自分の代わりにダナをボロウに乗せた。
そこに再び矢が飛来する。
標的はボロウか、ハナか、ダナか?
No.0は3人を同時に守るため、ハナの前に立ち、ボロウとダナに盾を翳す。
矢はNo.0の胸に突き刺さった。
「三角さん!」
「……大丈夫だ」
No.0は悲鳴を上げて慌てるハナを安心させるため、頭を軽く撫でてやった。
「相変わらず卑怯な奴ね!」
『手段は選ばんと言ったはずだ』
甲冑歪虚が篝の傍にいるダナンに矢を射った。
篝は盾で庇ったが、矢は盾を貫通して腕も貫く。
構わず篝は走り続け、岩影に辿り着くとそこにダナンを潜ませた。
「ここに身を隠して」
そして自分はサイクロプスに向かって駆ける。
だが甲冑歪虚の矢で足を貫かれた。
かなり深手で脚が痺れて動かない。
(構わないわ。弾はもう届く)
篝はライフルを構えるとサイクロプスに『制圧射撃』を行った。
そしてサイクロプスが倒れ、籠から投げ出された甲冑歪虚とレイが対峙する。
「……ふふっ」
レイは全身鎧でハルバードを持つ相手の姿と自分の姿が似ていたので思わず含み笑いを漏らす。
それが気にいらなかったのか、甲冑歪虚がハルバードで突いてきた。
レイはハルバードで弾いて反らすと『ワイルドラッシュ』で2連撃を放つが、盾で受けられた。
「そいつ盾の裏に武器を隠し持っているわ。それに致命傷を与えたように見えても起き上がる。注意して」
篝はレイにアドバイスをしつつ『制圧射撃』で援護したが盾で完全に防がれ効いていない。
「それなら」
篝はリロードして『寒夜』を発砲。
今度も盾で防がれたが、発生した冷気は甲冑歪虚の動きを鈍らせた。
「お願い、盾をどうにかして」
「お任せを」
レイは『ワイルドラッシュ』を発動してハルバードで突き、わざと盾で受けさせると手首を返し、刃の下部の突起で盾の端を引っ掛けた。
甲冑歪虚は盾を振ってすぐに外したが、その一瞬、盾は防御に使えなくなる。
「ナイス!」
その隙を逃さず篝は『制圧射撃』を行った。
今度は体に命中し、甲冑歪虚の動きが止まる。
「そいつは『核』を破壊しないと倒せないタイプよ。ハルバードか盾の裏を狙って」
レイは相手のハルバードの中央部を斬って両断。更に左腕も切断し、落ちた盾の裏を抉った。
だが甲冑歪虚は折れたハルバードで攻撃を続けてくる。
「違うか……。それならバラバラに解体してやって」
篝が『制圧射撃』を行い続けて動きを抑え、その間にレイが四肢と頭部を切断し、胴体部に刃を突き入れる。
『この体はもうダメか……。だがこれでは私は殺せぬよ。また会おう』
甲冑歪虚はそう言い残し、全身が黒い塵となって霧散した。
間違いなく歪虚の死に様である。
「……今死にましたよね?」
「もし死んでないならまた殺すまでよ」
怪訝そうに尋ねるレイに篝はそう答えた。
歪虚は倒し終えた一行は、負傷したダナはボロウに乗せ、重傷で動けないシリルはバリトンが背負い、再び目的地を目指す。
「ボロウには今までいっぱい助けてもらったね」
「一緒に寝た事あったよね」
「ボロウの毛はふかふかで暖かかったよ」
「ボロウはたくさん食べるから狩りが大変だったよ」
その道中、ハナはずっとボロウに話しかけていた。
まるで話すのを止めたらボロウがいなくなるかのように。
「それでね……それで……」
ふとハナの言葉が途切れる。
「今まで……」
次が続かず長い沈黙が流れた。
「……ありがとう」
それは消えそうなほど小さな声だった。
やがて遠くに町の見える所まで来ると、不意にボロウが足を止めた。
「ボロウ?」
ボロウがじっとハナを見つめる。
「嫌だよボロウ……」
「……」
「……」
ハナは俯き、皆の方を向く。
「ここで……ボロウとはお別れみたいです」
意を決したハナが悲しげに告げた。
その瞳には涙が滲み始めている。
ボロウは死に場所と決めたのか道の脇の草むらに入って行こうとする。
「ボロウ!」
「行かないでおくれ!」
しかしムカタとカッツがボロウに縋って引き止めた。
「皆さん、こちらから申し出ておいて勝手な話ですが……どうか殺さずに済ましてくれませんか?」
そしてダナが涙ながらに訴えてくる。
「ボロウを殺さないでくれ!」
「大事な家族なんです!」
ムカタとカッツも必死に訴えてくる。
「ボロウの魂は歪虚に穢されています。このままであれば、死後に迷い、歪虚になって誰かを傷つけます」
「それに寿命が近づいている以上、どの道別れの時は迫っているんです。泣いて縋って、置いて行かれる別れ方で良いんですか?」
3人の愛情は分かっていたがシリルと保は諭した。
「それは分かっています。でも……」
「もし貴方達が死後に歪虚になるとしても……引き止められる事を、望むか? 少なくともボロウは、望んでいない」
No.0もボロウの意を汲んだ言葉で説得する。
「ぬしらがヤツを家族と思うのと同様ヤツも主らを大切に思うておるはずじゃ」
バリトンがムカタとカッツの肩をポンと叩く。
「だからこそ、ぬしらを手に掛けることがないよう自然に帰り、大切なものを見守ると決めた。その意を汲んでやることは出来ぬか?
長き時を生きた者が自身の最期を決めた。せめて強く笑って見送ってやることは難しいかのう?」
バリトンが柔らかく微笑みかけると、ムカタとカッツはボロボロと涙を流しながらボロウから離れた。
「ボロルは死んで無くなる訳じゃねえ。只、生きる形を変えるだけさ。
精霊になって、見守ってくれる筈さ。あんたサン方の血筋なら、それが判る筈だぜ」
J・Dがシャーマンであるダナンとハナに言う。
「ボロウが……言ってます。人間は優しいな、と」
ハナが涙混じりにボロウの声を紡ぐ。
「そんな優しい人間を、我は何時の間にか愛してしまったらしい。いや、優しいが故、か……。
我は人間を恨んだ。お前達を殺そうとした。だが、そんな我をお前達は受け入れ、家族と呼んでくれた。
全てを失った我が再び家族を得られた。無常の喜びだ。我は守る。今度こそ家族を。この身は精霊と成し、悪しき者から守る。
さぁ、我を精霊の元に送り、願いを叶えさせてくれ」
ボロウの言葉を聞いた家族は涙したが、皆納得した様子だった。
「貴方の身体は地に還る。宜しければその一部を、あの家族に遺して差し上げたいのですが」
レイが尋ねるとボロウは頷いてくれた。
「では……」
バリトンが大刀を手にボロウの前に立つ。
ボロウの目はとても澄んでおり、バリトンは全てを委ねられていると感じられた。
「今の私にはこれしか出来ませんが、せめて魂が迷わぬよう」
セリルが故郷での修行で覚えた死者を送る聖句を唱え始める。
「苦しまぬよう一撃で送ろう」
バリトンの『一之太刀』が振るわれ、ボロウの命が刈り取られた。
その身は黒い塵とならずにその場にある。
ボロウの魂が歪虚に打ち勝った証だ。
「血は通わずとも貴方の家族が血族であるというなによりの証として、貴方を頂きます。気高き貴方の家族が前に進むために」
レイはボロウから牙と爪を貰い受け、ハナに渡した。
「少し毛も貰うぜ」
J・Dは毛を一房ずつ束ね、御守として家族に渡す。
そしてボロウの遺体は丁寧に埋葬された。
「さよならボロウ」
シリルの聖句が紡がれ続ける中、ハナはボロウが返っただろう空を仰いだ。
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参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談 No.0(ka4640) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/05/04 11:18:08 |
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質問卓 J・D(ka3351) エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/05/02 13:18:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/01 23:52:03 |