ゲスト
(ka0000)
道を、花を、縁を……
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/05/08 19:00
- 完成日
- 2016/07/12 19:48
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●一年の間に
カレンダーの日付を見れば、そろそろ四月も終わりの頃合。
「もうすぐ五月、か」
特別何かがあったというわけではないが、これまでの道のりを振り返るには十分だった。
マーフェルスの事務所に居るのは基本的に、自分と、パウラ。自分の考えに賛同してくれる仲間。人目はあまり気にしないで済む。パウラの役割はわかっているが、これまで傍に置いていて、特別不利益にはなっていない。
これまで通りにしていれば、大きな動きが無い事も確信が持てていた。
それはともかくだ。
この事務所を構えてからは一年と少し。新しい動きを学ぶためにもと、イベントの真似事をしたのがちょうど、一年前。
それからの一年間に何があったかと言えば……ありすぎたと、言わざるを得ない。
茶番の如き選挙に立候補してから、いや、今の思想を持つに至ってから……そもそも、自分の行動が先か、別の何かの意思が先か。ユレイテルの四十年余の生を母数とするなら、この出来事の頻度、そして濃度……密度はどれほどのものか。
(状況が動いている証拠じゃないか)
良くも悪くも、変わることは必要だと思っているのだ。その中から良いものに変わるものを選んでいけばいい。
もう一度、カレンダーを見つめる。
(イベントと呼ぶのもおこがましいかもしれないが)
少しずつではあるが状況が落ち着いてきたと思う、ピースホライズンがどうなっているのか、その確認も必要だろう。実働に入った浄化術の輸出も、ここらで知名度を上げておきたい。
……建前はこんなところだろうか。
今の自分は、目的も、本音も、建前も、全て紙一重だ。同じようで、違うようで。全てを揃えているようで。
そういう生き方ばかりしてきたからなのか、そればかり考えて、その道ばかりを選んでいく。
幸せな事のはずだ。自ら選び取っていることには違いない。
「ユレイテル様、どちらへ?」
席を立つ上司に、書き物をしていたパウラが声をかける。お仕事ならお供しますと腰を上げる彼女をユレイテルはそのまま待った。
「ピースホライズンに申請と……ナデルに戻って、支度になるだろうな」
先方の返答次第だけれど。
「去年の下積みを無駄にするのも良くないだろう」
計画の一部を口にする。それだけでパウラは何のことかわかったようだった。
「……息抜きも、必要です!」
互いに、小さく笑みが浮かんだ。
●協力と一計と
「それで、ピースホライズンの一画を貸してもらう事は出来たの」
「あとはスズランと、人手ってことになるわけだね?」
「そう、それで場所を教えてほしいのだけれど……」
少しだけ言いよどむパウラに、デリアはくすりと笑う。かたや維新派長老の秘書、かたや恭順派浄化術の巫子。オプストハイムに居たころからの面識を軸に、去年のミュゲのイベントからともに時間を過ごし、最近では浄化術の輸出の都合でナデルで顔を合わせることも多かった二人。年頃も近い女子二人は、気付けば随分と親しい間柄になっていた。
だから二人で話す時は、親しい口調で。
「私達巫子が摘んだスズランなら、それだけでも関心は集められる……ってこと、かな? 私も、そう思うよ。正直に言って大丈夫。パウラちゃんったら、遠慮しないで、大丈夫だよ?」
去年だって、お祈りつきって触れ込みがあったくらいだもの。
「ありがと。デリアちゃん、人前に出るのも、ずいぶん慣れてきたものね」
表情を緩めるパウラにデリアも微笑む。森の外に出た時期はパウラの方が早い。だがデリアはフュネについて遠い地域へもどんどん出ていくようになっていた。パウラも時々はユレイテルについて同道するが、他の仕事もあるためそう毎度は出ていられない。
年の近い妹のように思っていたのだけれど、状況は随分変わってしまった。今は対等な友人、仕事の上でも頼れる大切な仲間だ。
「それなら、お願いしちゃうね」
「あっ……」
思い出したように声が漏れるデリアに、首を傾げるパウラ。まだ何かあっただろうか。
「どうしたの?」
「巫子は、私だけじゃ足りないよね。それに、去年のことを知っている子の方がいい、そうだよね?」
「勿論、その方が説明も少なくて……あっ」
パウラもデリアの考えに気付く。去年は自分達だけではなくて、双子の友人達も居た。今は離れ離れになってしまっているけれど……
少し前に、オプストに戻ってきた彼女の顔が気にかかるの、そうデリアは囁いて。
「この話、お仕事の一環だって言えば、連れだせるし、手伝ってくれるはず」
だって私達『巫子』が花を摘むことに意味があるのだから。ネームバリューが必要で、彼女は自分と同じく巫子だ。
「長老様のお名前使うことになってしまうけど、大丈夫?」
「大丈夫、むしろその方が都合がいいと思うの。……代わりに私があの子に手紙を出すね。外にいる私の方が、森の外へのお手紙は出しやすい。……だよね?」
「当日に顔を出してくれないか、言ってみるんでしょう? 是非お願い!」
時々ね、お手紙は来ているみたいだけど。やっぱり直接会って話してほしいよね。
少女達の企みは、果たして達成されるのか、どうか――
●スズラン配り
「「幸せのお裾分けに、スズランはいかがですか?」」
スズランがたくさん入った花籠を持つ少女達。彼女達は時折言葉を重ねて、ミュゲの日を盛り上げようとする。
「家族に、恋人に、友人に……誰かが幸せになるように、そんな気持ちを形にしませんか?」
声には少し緊張が残るものの、はっきりと話しかけるパウラ。
「そのお手伝いが出来るよう、摘んできたスズランです……ぜひ、どうぞっ」
デリアがはにかむように笑って、道行く人にスズランを差し出す。
けれど彼女達は、他にも何か気になることがあるようで。
(……ああ、そうか)
スズランの花を籠に詰め直す作業をしながら様子を伺うユレイテルは、二人の視線の動きで気付く。
彼女達は頻繁に、もう一人の巫子の様子を伺い、そして曲がり角や物陰に視線を向ける。仕事に支障が出ない程度に。ただ、時折そわそわと。
待っているのだ、彼女の妹が現れないだろうかと。
(あの二人にとって、それが彼女たちの幸せだと思える、そういうことだろうか)
カレンダーの日付を見れば、そろそろ四月も終わりの頃合。
「もうすぐ五月、か」
特別何かがあったというわけではないが、これまでの道のりを振り返るには十分だった。
マーフェルスの事務所に居るのは基本的に、自分と、パウラ。自分の考えに賛同してくれる仲間。人目はあまり気にしないで済む。パウラの役割はわかっているが、これまで傍に置いていて、特別不利益にはなっていない。
これまで通りにしていれば、大きな動きが無い事も確信が持てていた。
それはともかくだ。
この事務所を構えてからは一年と少し。新しい動きを学ぶためにもと、イベントの真似事をしたのがちょうど、一年前。
それからの一年間に何があったかと言えば……ありすぎたと、言わざるを得ない。
茶番の如き選挙に立候補してから、いや、今の思想を持つに至ってから……そもそも、自分の行動が先か、別の何かの意思が先か。ユレイテルの四十年余の生を母数とするなら、この出来事の頻度、そして濃度……密度はどれほどのものか。
(状況が動いている証拠じゃないか)
良くも悪くも、変わることは必要だと思っているのだ。その中から良いものに変わるものを選んでいけばいい。
もう一度、カレンダーを見つめる。
(イベントと呼ぶのもおこがましいかもしれないが)
少しずつではあるが状況が落ち着いてきたと思う、ピースホライズンがどうなっているのか、その確認も必要だろう。実働に入った浄化術の輸出も、ここらで知名度を上げておきたい。
……建前はこんなところだろうか。
今の自分は、目的も、本音も、建前も、全て紙一重だ。同じようで、違うようで。全てを揃えているようで。
そういう生き方ばかりしてきたからなのか、そればかり考えて、その道ばかりを選んでいく。
幸せな事のはずだ。自ら選び取っていることには違いない。
「ユレイテル様、どちらへ?」
席を立つ上司に、書き物をしていたパウラが声をかける。お仕事ならお供しますと腰を上げる彼女をユレイテルはそのまま待った。
「ピースホライズンに申請と……ナデルに戻って、支度になるだろうな」
先方の返答次第だけれど。
「去年の下積みを無駄にするのも良くないだろう」
計画の一部を口にする。それだけでパウラは何のことかわかったようだった。
「……息抜きも、必要です!」
互いに、小さく笑みが浮かんだ。
●協力と一計と
「それで、ピースホライズンの一画を貸してもらう事は出来たの」
「あとはスズランと、人手ってことになるわけだね?」
「そう、それで場所を教えてほしいのだけれど……」
少しだけ言いよどむパウラに、デリアはくすりと笑う。かたや維新派長老の秘書、かたや恭順派浄化術の巫子。オプストハイムに居たころからの面識を軸に、去年のミュゲのイベントからともに時間を過ごし、最近では浄化術の輸出の都合でナデルで顔を合わせることも多かった二人。年頃も近い女子二人は、気付けば随分と親しい間柄になっていた。
だから二人で話す時は、親しい口調で。
「私達巫子が摘んだスズランなら、それだけでも関心は集められる……ってこと、かな? 私も、そう思うよ。正直に言って大丈夫。パウラちゃんったら、遠慮しないで、大丈夫だよ?」
去年だって、お祈りつきって触れ込みがあったくらいだもの。
「ありがと。デリアちゃん、人前に出るのも、ずいぶん慣れてきたものね」
表情を緩めるパウラにデリアも微笑む。森の外に出た時期はパウラの方が早い。だがデリアはフュネについて遠い地域へもどんどん出ていくようになっていた。パウラも時々はユレイテルについて同道するが、他の仕事もあるためそう毎度は出ていられない。
年の近い妹のように思っていたのだけれど、状況は随分変わってしまった。今は対等な友人、仕事の上でも頼れる大切な仲間だ。
「それなら、お願いしちゃうね」
「あっ……」
思い出したように声が漏れるデリアに、首を傾げるパウラ。まだ何かあっただろうか。
「どうしたの?」
「巫子は、私だけじゃ足りないよね。それに、去年のことを知っている子の方がいい、そうだよね?」
「勿論、その方が説明も少なくて……あっ」
パウラもデリアの考えに気付く。去年は自分達だけではなくて、双子の友人達も居た。今は離れ離れになってしまっているけれど……
少し前に、オプストに戻ってきた彼女の顔が気にかかるの、そうデリアは囁いて。
「この話、お仕事の一環だって言えば、連れだせるし、手伝ってくれるはず」
だって私達『巫子』が花を摘むことに意味があるのだから。ネームバリューが必要で、彼女は自分と同じく巫子だ。
「長老様のお名前使うことになってしまうけど、大丈夫?」
「大丈夫、むしろその方が都合がいいと思うの。……代わりに私があの子に手紙を出すね。外にいる私の方が、森の外へのお手紙は出しやすい。……だよね?」
「当日に顔を出してくれないか、言ってみるんでしょう? 是非お願い!」
時々ね、お手紙は来ているみたいだけど。やっぱり直接会って話してほしいよね。
少女達の企みは、果たして達成されるのか、どうか――
●スズラン配り
「「幸せのお裾分けに、スズランはいかがですか?」」
スズランがたくさん入った花籠を持つ少女達。彼女達は時折言葉を重ねて、ミュゲの日を盛り上げようとする。
「家族に、恋人に、友人に……誰かが幸せになるように、そんな気持ちを形にしませんか?」
声には少し緊張が残るものの、はっきりと話しかけるパウラ。
「そのお手伝いが出来るよう、摘んできたスズランです……ぜひ、どうぞっ」
デリアがはにかむように笑って、道行く人にスズランを差し出す。
けれど彼女達は、他にも何か気になることがあるようで。
(……ああ、そうか)
スズランの花を籠に詰め直す作業をしながら様子を伺うユレイテルは、二人の視線の動きで気付く。
彼女達は頻繁に、もう一人の巫子の様子を伺い、そして曲がり角や物陰に視線を向ける。仕事に支障が出ない程度に。ただ、時折そわそわと。
待っているのだ、彼女の妹が現れないだろうかと。
(あの二人にとって、それが彼女たちの幸せだと思える、そういうことだろうか)
リプレイ本文
鈴蘭で描いた輪の中に、打出の小槌。誰かの幸せを祈る花と、幸せを呼びこむ小槌の組み合わせは、自分で持つにも、誰かに贈るにも向いた、幸福の標。
型紙を丁寧に。真鍮の板にいくつも写しとって。ひとつひとつ叩いて、穴をあけて、磨きこんで……
(大事なお役目を持つ方々、ご縁を繋いだ皆様、そして、これから袖振る見知らぬ誰かにも)
音羽 美沙樹(ka4757)が気持ちを込めた打ち出し細工は、小ぶりながらも数を増えていく。
幸せを願う品だから。手を抜く何てこと、考えられるわけがなかった。
「ルーシーね、おてつだいしたいの」
だめ? 金と琥珀の大きな瞳。アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)に見上げられて、デリアの心がきゅんと震える。小さな同族は可愛らしくて、思わず笑顔で返してしまう。
「そんな事ありません、一緒に鈴蘭、配りましょう?」
「ど、どうかな……似合って」
似合ってるかな? 曄(ka5593)が言いきる前に。瀬陰(ka5599)が諸手をあげて褒め言葉を繰り出す。
「給仕服姿もかわいいなあ曄は……!」
親馬鹿全開の笑顔が父の表情を彩る。
「こういう可愛らしいの得意じゃないけど……」
「そんなことないさ。今日の曄は、僕だけじゃなくて、皆に笑顔を届ける役目なんだから」
言いながら、瀬陰が娘の耳につけるのは鈴蘭の耳飾り。
「さっき通りの店で見つけたんだ」
着替えている間にね。ありがとうと、曄はにかりと笑顔を返した。
「そうだよな、みんなの笑顔のためならいいよなっ!」
だから、更に笑みを深くして、鈴蘭の花のようにふわり、膨らんだスカートを揺らして、行こうぜと一歩を踏み出す。
(曄。万の花に勝る君の笑顔が、僕の幸せだよ)
父の眼差しと微笑みを湛えて、瀬陰も後を追った。
「紙で一つずつ、飴を包むんだ」
真白い、少しだけ光沢の感じられる包み紙。小さめの飴玉を包めば蕾のように。その一つ一つを、針金の入った緑の紙紐で繋げば……鈴蘭の出来上がり。葉に見立てた、幅広のリボンで結べば、ほら。
「食べられるすずらんの花束? すごい面白そう!」
可愛くて、そして何より曄も欲しいと思うほど。小さな子ならもっと、喜んでくれるはず!
「……ごめん」
けじめとして頭を下げるユリアン(ka1664)。
(始末されても仕方ない、でも)
できるなら。事が済んでからにして欲しいと更に頭を深く、下げる。
「決めるのは、私ではない」
一存では決められないとも。決定権がないとも取れる言葉。
「ハンターなら……」
小さな声。ユレイテルも無意識だったのかもしれない。ユリアンが、辛うじて。
(抗えるのか、だって?)
たまにはこうした、のんびりとした空気を見守るのも悪くないかもしれない。いつもの癖で手帳に手を伸ばし……今は不要かと、音桐 奏(ka2951)はその手を降ろした。
「こんにちは、ユレイテルさん。お久しぶりです」
景気はどうですか……そう言いかけて、今日はそれが主目的ではないのだと言葉を選び直す奏。興味は常にあるけれど、偶には休息というのも……らしくない自覚は、やはりあるのだけれど。
「この世界のミュゲの日がどういうものか、皆さんが配るスズランがどう活かされるのか、観察させてもらいますね」
結局、見ることはやめられない。
アルラウネ(ka4841)の手を取り時音 ざくろ(ka1250)はピースホライズンを歩いていく。
「どこにいくの、ざくろん」
街の雰囲気は賑やかで、どこか優しいマテリアルに溢れている気がしてアルラウネの足取りも軽い。
「贈りたいものがあって……」
ぽっ。頬を染めるざくろの様子は要領を得ない。けれどこうして二人、楽しいデートなのは確かだ。
「街も賑やかできっと楽しいよ」
即席の、けれど顔見知りの仲間達で出来た音楽隊。妹が来ているとの知らせを受けてカフカ・ブラックウェル(ka0794)が合流したのは、丁度支度が整った頃合い。巫子の1人から鈴蘭を受け取って。早速とばかりに顔馴染みへと配っていく。
「妹だけでなく、僕も。普段から世話になっているから」
これまでの感謝は勿論。これから先の縁の続きを紡ぐためにも。
カフカにとって。もしかするとブラックウェルの一家にとって。人は音で、世界は音楽だ。
双子の妹に一輪を差し出しながら、そんなことをカフカは思う。
「お兄ちゃん、大好き! ずっと一緒だよ?」
妹の髪にはカフカ自らが飾った鈴蘭が揺れる。そのお礼に貰う言葉は、家族としての、最高の言葉。
「そうだね、僕らは対だから。これからも一緒だ」
妹はカフカと同じ音。傍に居ると言うよりも同じ場所に居るのが当たり前に育って来た。近くに居れば共鳴もする。けれど不仲にも、特別相性のいいパートナーになることもない。同じ場所で鳴る限り、二つの音にはわかれない。
(いずれ互いに伴侶を見つけるその時までは……)
同じ目線で、同じものを見よう。
(次が、タンタタ?)
タンタッタッタ
「……あれ?」
思い描く音、実際のタンバリンの音が違う様な、自信が無いマリル(メリル)(ka3294)。一度は首をかしげたけれど。
菫色の瞳の少女がリズムの先導をしてくれて、楽しげな笑い声につられて笑顔になる。
(笑ってくれたらそれでいいのです)
音を楽しむ……それが音楽! 楽しい気持ちを、幸せへの願いと一緒に届けられたら。
(こんな祭を逃すわけにはいかないよなっ)
人々が行きかう中を縫うように歩くのは鈴蘭を手に入れるため。やらねばいけない勉強を放って、綿狸 律(ka5377)はこっそり外へと出てきていた。
「だって渡したいから、オレがそう決めたんだ!」
噂で聞いた程度の記憶を頼りに、配っているという鈴蘭が特別なものだという事は分かっている。覚えている通りの道を急いだ。
眠っている弟子の寝室に、一歩。
ルシール・フルフラット(ka4000)の恋人は怪我のために外出禁止で、見舞うためにやってきたのだ。
(世話を焼かせてはもらえるらしいな)
師匠としてではなく、恋人として。師弟から恋人への変化は同時に、彼を被保護者ではなく大人として認める事だったから。手を繋いでいるのに、手を離れてしまったようで……杞憂だと分かっているけれど。
傷の具合を確かめる。怪我は大きいけれど、確り帰ってきている。誰かのための傷で、自分を捨てていない証。
(師としてはよくやった、と褒めるべきなのだが……)
恋人として、心配くらいはさせてもらおう。林檎の皮を剥いたら起こしてみようか。
「墓所にだね、わかったよ♪」
託された。微笑みを浮かべる吟遊詩人には鈴蘭のリースを。
「ありがとう。……あいつは、どうして故郷に固執して、利用しようとするのだろうね」
訪ねたものの、やはりごめんと謝罪を重ねるユリアン。
「堕ちたまま理性的、堕ちたから狂うのか♪」
軽い口調の唄。けれど詩そのものは。……考えても仕方がない事もある、と。
「……シャイネさんにも」
スズランを一輪。巡る幸せがありますように。
(……よくよく考えれば)
こうやって、2人。のんびりするのは久しぶりなのかもしれない
隣を歩く妻たる女性の横顔を、恭牙(ka5762)はちらり。色々な意味で(もちろん良い意味である)規格外の彼女は今日も慈愛に満ち溢れている。
(まぁ……心の洗濯になればよいな)
安心できる存在、けれど、危なっかしくて。どの意味でも目が離せない彼女が、優しい気持ちで満たされればいいと思う。
今日の目当ては、街で配られているという鈴蘭である。幸せを祈り、贈る花。聞けば見た目も、言葉通り鈴の鳴るように。気持ちの浄化もしてくれればいい。
(それをアンナに贈りたいな……)
こういった行事に便乗するというのも悪くない。彼女は賑やかな所も愛しているから。
共に出掛けることも、考えれば初めてだ。所謂初デートと言うものである。彼女が喜ぶようなことを。ならば、望むことをのびのびとさせるのが自分の務めだ。
(できれば、だが)
その道中で、望む品に出会えたらいい。アンナを喜ばせられるものを。
クレープなんかのスイーツは定番。揚げたような、ちょっとしたスナックも食べ歩きには丁度いい。似合いのアクセサリーを互いにあてて比べてみたり。見せの冷やかしも一通り。デートの目的地はスズラン配りの一行が居る区画。ざくろが連れて行きたかった場所。
「スズランを好きな人に、ね……毒殺心中の催促?」
説明を聞いたアルラの感想は少し危険な香り。
「エルフハイム産の方が喜ばれるんじゃないの」
厳しめの一言は指摘ではなく、気付いた事実そのものというだけ。戸惑いの視線を向けた少女は、ざくろの笑顔ととりなしで落ち着きを取り戻した。
「それじゃ、この一束もらうわね」
一籠分の鈴蘭を手に再び街を歩き出す。勿論、幸せのお裾分けをするためだ。
鈴蘭を配っている一団を見つけたアーシェ(ka6089)は、不思議そうに、ゆっくりと首をかしげた。
「どんな日……?」
わからない、けれど花を配っているのが見えて、少しの緊張と、期待を抱いて近寄っていく。
「ミュゲの日のお祝いですわ」
良かったらいかがですかと美沙樹が差し出せば、戸惑うような視線が返る。
「始めて聞いた……」
教えて、と尋ねるアーシェに、ぱちくりと瞬きが返る。
「……少し、お話しても構いませんこと?」
「大丈夫、予定はない、から……お願い」
可愛らしい花。貰ってもいいの? 尋ねれば勿論だと頷かれ。受け取った一輪を大事に、手の中に。
「……ここ、かな」
ローブの留め具に絡めれば。今にも鳴りそうな見た目の鈴蘭は、静かにアーシェの可愛らしさを彩った。
「このお祭りってなんのお祭りなのー? その花は?」
振り返ったデリアの目の前で、シエロと一緒に首を傾げるのはアリア(ka2394)。
「お花、綺麗だねー!」
周りを見るアリアにあわせて、肩に留まるシエロの首もくるくるり。その様子と言葉がまっすぐで、くすりと笑みが沸き上がる。
「誰かの幸せを祈るんです」
その証がこの鈴蘭なのだと聞けば、アリアの笑みは更に深くなる。
「あたしも! 手伝わせてっ?」
「大切な人の幸せを祈って、鈴蘭を贈りますの。鈴蘭を模した小物でも構いませんわ」
どなたかそんな人がいるのかと、微笑みを絶やさず問う美沙樹。
「大事な人……大好きなおじぃとおばぁに」
元気にしてるかな? 首を傾げて思い浮かべて。受け取ったばかりのレリーフを、光にかざすようにして眺める。
「きれい。これ、おじぃとおばぁにあげても、いいかな」
「まあ、それは私としても光栄なことですの」
気合を入れて作った甲斐があるというもの。微笑みに少しだけ照れが混じる。
「ありがとうございます……貴女のこれからにも幸運が訪れて、笑顔が、もたらされますように」
満面の笑みで踊るのはレン・ダイノ(ka3787)。
一緒に踊るんもできるけどなあ?
呼子がわりに使ってくれてもいいよとばかりに、ステップを踏む。右手に一輪、左手にも一輪。
「この鈴蘭は本物やから、鳴らへんけどなあ♪」
ホントは鈴蘭に似せた鈴を持って踊るねん。
拍にあわせて歩くだけの簡単な動きに、鈴蘭を振る所作を足して。
「幸せの鈴蘭、もらってってやぁ?」
「幸せを祈る鈴蘭だよ!」
素敵なことだよね。誰かの幸せを祈ること。自分だって、誰かに祈ってもらえるならそれだけで幸せなことだ。
(この花が、手をわたって巡っていって……あたしは今、幸せを皆にわけてるってこと!)
うん、とっても素敵! 気持ちも乗ったアリアの笑顔は、幸せな気持ちを広める歯車にもなっていく。
賑やかではあるけれど、どこか優しい空気を持った街並み。鈴蘭飾りに目を奪われる。
けれど一番の目的は鈴蘭の花そのもの。
「幸せを皆に分けるお花だよ!」
笑顔のアリアに差し出された鈴蘭。目的を達成した安堵で律の相好が少し、崩れた。急に、隣に誰もいない事を思い出す。いつも一緒に居る。恋人の気配は今はないのだ。
(戻らなきゃ)
彼が居ない寂しさに目元が潤む。早く帰ろう、抜け出してきたのだから。滲みそうな視界に幻覚を感じ取ってしまうほど自分は寂しそうに……
「あ、あれ?」
気付けば会いたいはずの背が、目の前に!?
「少し、こっちを向いてくれる?」
ざくろの手に鈴蘭の一輪が。そのまま、アルラの髪を飾る。
「アルラが幸せになりますように」
勿論、一緒にね。約束だよ。頬を染めて囁いて。
「よく似合ってる。……幸せにするね」
体を寄せ合って、抱き締めて。
「ざくろん……なんだか今日は、今まで以上に近いね」
ざくろは決意の顔で、アルラの手のひらを上にした。乗せるのはのは小さな包み。鈴蘭を模した髪飾りは、今日の記念に。花が枯れても、かわりにアルラの髪を彩ってくれるようにと選んだものだ。
「お花をひとつ、くださいなー♪」
くるり、くるり、くるくるり。気付けば靴は脱いでいて、分けてもらった、花籠ひとつ。
「幸せひとつ、あげるのなー♪」
くるりで、一輪。くるくるりで、二輪。黒の夢(ka0187)が歩むたびに、笑顔を振りまくたびに。花が、鈴蘭が。人の手へと渡っていく。
楽しげな声、裏表のない笑顔。それだけでも、人の心が浮足立つ効果は十分で。小さな巫子の少女から受け取った鈴蘭は、瞬く間に街へと広まっていった。
「僕も一緒に回ろかぁ♪」
くるり、タンタンッ、くるりくる。
レンが黒の夢の回る動きも取り入れて。気付けば鈴蘭の踊りはこの場限りの、新たな舞へと変化する。
「なぁなぁ、誰にあげるのん?」
踊りの途中で、道行くカップルににっこり。
「あ、今は邪魔?」
じゃあ幸せのお裾分けやぁ、と手に持つ鈴蘭を渡して、また、踊りながら戻っていく。
おどけた様子に、人々に笑顔が浮かんだ。
「わたしも、踊る……っ」
賑やかな音楽が始まって、舞う人の姿を見かけたアーシェ。
たたた、と近寄れば。レンが彼女の手を引いて輪の中に。黒の夢がぎゅぅと迎え入れて。
「しあわせ、ひとつ……♪」
歌を真似て、口ずさめば。アーシェの顔にも、笑顔がふわり。
「……楽しかったか?」
恭牙の聞視線の先、鈴蘭がなくなった花籠には、幸せのかわりに手渡された素敵がたくさん詰まっている。飴玉、ビーズ。布の切れ端、石、広告や、メモ、えとせとら……
どれも、黒の夢の為に差し出された気持ちの塊。
「お礼に魔法をみせてあげるのなー」
くるくると踊るうちに集まってきた子供達には、灯になるほどの炎を生み出して。
言葉と、笑顔で、それが覚醒者にとって当たり前のことでも、優しい魔法に生まれかわるのを知っている。
そこに恭牙が手を伸ばし、籠に入れたのは。透明な、鈴蘭の鈴を繋いだアンクレット。
「なんだか緊張するな……」
贈り物だ、と言う恭牙の顔はわずかに赤い。
手元に鈴蘭を補充しながら、楽しい気持ちもひとやすみ。
「みんな可愛いオンナノコに貰いたいやろかぁ……」
自分だったらどうだろう、笑って渡されたら嬉しくなるけれど。少しだけ、レンが首をかしげたところでふわり。妖精が鈴蘭を一輪、掴んで飛んだ。
水牛パニックに沸く一角で、マリルはそっと忍足。
(先輩でもあるから、気付かれるかもしれないけれど)
風を捕まえるなんて無茶なことはしない。そっと、天から舞う
(私も渡しに行かないと、な)
懐に忍ばせた押し花の栞をそっと、あとで忍ばせに行かなくちゃ。
ふわり、押し花の栞を風に乗せる。風向きも、風量もきっと、これで正解。
(私はここから離れなきゃ)
贈り主が自分だなんて、恥ずかしいから言わないの。
妹と共に重宝した香草茶を添えて、鈴蘭を贈る。
小隊の仲間、妹と近しい友人、友人から広がる、関わり深い人達にも。
風も巡るもの。
誰かが散らした鈴蘭が風に乗って空を舞う。
(どこまでも、巡れ)
皆に幸福を。
見上げたユリアンのすぐ目の前に、ふわり、一枚の紙切れ。淡い緑の台紙に、鈴蘭が並ぶ。
「売り物……?」
だとしたら一枚はおかしい。それならこれは。手に取って眺めて。
(ありがとう)
見えない送り主に、心の中で。
言葉にこもる想いは、ルシールの心に、身体に。あたたかい花を咲かせる。差し出された花を受け取るために身を寄せて。
「鈴蘭の花言葉、知っているか?」
言葉に出すのは気恥ずかしい、怪我をしてさえも真っ直ぐな視線の恋人と違って。
「母さんに聞いた、ことが……」
遮るように唇を重ねる。もう一方の手には、自らが持って来た一輪。
「……つまり、こういうことだ」
二人の手には、幸せの花。
「やっておるみたいじゃのう」
イーリス・クルクベウ(ka0481)が歩み寄る先で、ユレイテルが鈴蘭を籠に詰めている。邪魔しないよう近付いたはずが、呟きで既に、気付かれていたようで。
「整備中の視界を遮らないようにだな」
渡されたのは小さな包み。飾り気の少ない細身のヘアピンがいくつか。花や、歯車、緑の屑石。鈴蘭を彫った一組が紛れ込んでいるから、ミュゲの贈り物という事で良さそうだ。
「わしからも……こういう物も必要かと思ってのう」
感謝と共に差し出すのは銀細工のカフスボタン。蛍石を中に抱いた鈴蘭の意匠も、ボタンにした理由も。去年のプレートがネクタイを彩る様子を見て思いついたもの。
「適度な遊び心と親しみ易さを印象づける筈じゃ」
勿論スーツにも合うように。そう続けようとしたイーリスは、件のループタイが今も、そこにあることに気付く。
「……普段使いもしやすくてな、感謝している」
「確かに、常から慣らした方がいいかもしれんな」
目を細める仕草に、つい視線を逸らした。
……パウラにもブックカバーを贈ったイーリス。感謝のお礼と同時に、熱の有無を心配されることになる。
「はにゃ?」
渡された花籠に小さく首を傾げるルーシー。清浄な花はエルフハイムの気配とはどこか違う。けれど、優しい気配が鈴蘭を包んでいるようで。周囲を包む笑顔の気配に、ルーシーの心は弾んでいく。
籠の中から一番丈夫そうな1輪を選んで、少しずつくるり、重ねていけば……
「できたにゃぁ♪」
花冠のできあがり。ひとつ、ふたつ……みっつめには足りなくて、腕輪がひとつ。
(きっと、にあうの)
銀の髪に。切れ長な緑玉の双眸に。どんな笑顔で受け取ってくれるだろう。胸の前に手を当てて、想像を膨らませるルーシーは、まだ気づいていないのだ。
いつもお世話になっている彼が、すぐ傍の角を曲がった先で自分を『迷子』として捜している事に。
(おてつだい、おわったら)
大きな背中を探しに行こう。会いたいと願えば、きっと会える筈だから。
食べられる花束は、予想通り子供たちに大人気。小さな子が親戚に居るような。そんな大人にも喜ばれて。作るのも、配るのも、忙しいけれど楽しい時間。
「とーさん、早く作るコツってあるのか?」
「いいや?」
そんなものはないさと、優しく返す瀬陰。その手元は曄にとって、自分よりも丁寧で、そして手早く鈴蘭を作り上げているというのに。
「はやさも数も関係ないよ。幸いを、受け取る誰かの為に願いを込めてごらん。花を贈られるのも、誰かの幸を願う事も尊い事だね」
その気持ちを籠めているだけだよ?
「んー……? この花と共に、幸せな気持ちが広がりますように……?」
父に教わる通りの言葉を呟きながら。どうして包んだ新たな蕾は、それまでよりも輝いているような気がした。
ついてきてくれたセンダン(ka5722)の存在にただ、胸の内があたたかくなる。隣で、ただ歩いているだけで。閏(ka5673)の口元は柔らかく緩む。ちらと横顔を見上げれば、いつも通りの仏頂面がただ、前を向いている。これが日常だ。
「なんだか、お父さんみたいですね。セン」
かつて育てていた存在を思い出す。あの子もこうしてこの顔を見上げたのだろうか。『不器用なお父さん』そう思っていただろうに。
(眠ぃ)
叩き起こされたと思ったら荷物持ちときたものだ。欠伸を噛み殺しながら仕方ないといった風情で閏の隣を歩む。仕事の無い日なのだ、寝ていたい。だが閏には逆らえない。
思考もゆるゆると。そんなところに投げかけられた言葉はまさに寝耳に水。
「あぁ……? お前の親父はこんなじゃなかったろ」
眉を寄せて不機嫌顔にもなるというもの。両親の記憶なんて持たない。関係もないことだ。知らねぇよ、そんな事より帰るんだろとセンダンが足早に行こうとしたところで、閏が荷を探っている。
「知らなくても、これから知っていけばいいんですよ。……俺も、お手伝いしますから」
口元に寄せられる飴玉は、少女の為に買ったもののうちのひとつ。柔らかく微笑む閏の目が、さぁ口を開けてと言っている。
「別に、知りたいとも思ってねぇよ」
閏の居ない方へと顔を背ける、もうすぐそちらに曲がるのだ、不自然ではあるまい。
「セン、溶けてしまいますから」
「だったらお前が食」
ころり。隙間から転がる甘味に、言葉は最後まで続かない。
(……今日は賑やかだ)
仕事の達成感という余韻に浸りながら、鞍馬 真(ka5819)は街を歩く。
「幸せの鈴蘭はいかがですか」
是非貴方の大切な誰かに。そう渡されたのはほんの偶然。
「幸せであることを願いたい相手、ね」
自分の幸せにも深い頓着が無いというのに。まして誰か他の人の……
「あー、クラマちゃんなのなー♪」
声に振り向けば、予想通りの魔女の笑顔と、その伴侶の姿。そうだ、彼らが居たではないか。
「ほら、2人にはこれだ」
すかさず差し出す鈴蘭は、キラリ、朝露にまだ濡れている。
「ふふー、2人とも、一緒にむぎゅーなんだな♪」
嬉しさが溢れた黒の夢に、手を、腕を掴まれて。
「お土産探し、2人についてきてほしーのな」
ね、一緒に、嬉しいの気持ちを探しに行こう? ぽかんとする恭牙には唇に、真には頬にちゅ、とそれぞれ口付けを落とす。
「クハハハ……やはり良いな、アンナは」
幸せそうな二人を見ながら、真。
(もし、余ったら)
もう一度、今度は籠ごと分けてもらいに行くのもいいかもしれない。
小高い丘で、風にのせて。幸せの鈴蘭を空に飛ばす。
(幸福な未来に向かえますように)
この世界そのものに、これまでに出会った人々に。祈りを、花に乗せて。
残りの鈴蘭は帰り道で配っていく。それはアルラの言うところの『幸せのお裾分け』なのだけれど。
「受け取らないと爆発するわよ?」
「それじゃ誤解を招いちゃうよ!?」
慌てて止めようとアルラに抱きつくざくろ。柔らかいなあ、なんて邪な思いもちらり。
「ざくろんてば、更に大胆に」
「そ、そうじゃなくって……!」
落ち着かなくなったざくろの隙を突いて、アルラはテキパキと鈴蘭を配る。
そうして、残りが少なくなってから。
「このスズランは、ギルドで活けましょうか」
皆が集まるあの場所に。
「隣にいてくれてありがと」
帰り際、繋ぐ手に律がそっと力を籠めれば。
「……当たり前だろう、律」
屋敷では聞けない、優しい声が耳に響く。
どうか どうか
ほんの少しだけだとしても
誰かの幸せの欠片に
悪しき気配を遠ざけて
心の平穏 身体の健康
祈りを
願いを
浄化の力に――
真摯な祈りは浄化術足りえると、そう聞いたから。明王院 穂香(ka5647)は聖導士仲間と二人、鈴蘭へと一心に祈りを込める。
人々が花を介して思いあい祈りあう事も、輪が広がればきっと浄化に繋がる。そう伝えると同時に。自分達でも、浄化の一助になれるように。
祈りは力も、心も、全てを集めて籠めるもの。マテリアルであるのか、意思の力であるのか。思うだけではない行為は穂香達の身体に疲労を溜め込んでいく。
「これを。甘いものは体のこわばりをほぐしてくれますの」
甘い蜂蜜を匙でひと掬い、とろりと水に溶いて。大事に少しずつ、口に含む。鋭気を養うには、甘いものが一番だ。
「これでまた、祈れます」
鈴蘭はまだたくさん。浄化術をもっと、広く伝えるためだから。二人改めて奮起して、祈りに身を捧げるのだった。
幸せを願う想いを
祈りを共に重ねて
巫子の祈りを
聖導士の祈りを
同じ鈴蘭に籠めて
闇を祓って
光を灯して
浄化の力に――
「2輪貰ってもいいじゃろうかのぅ?」
幸せや、お裾分け。その言葉は、自分の傍にあってはならないと思っていたから。今までであれば彼女達のような手を避けるように道を歩いていたと思う。
(周りの者が幸せになれば、それを見ているだけで幸せじゃと。……今は、欲が出てきたのかも知れぬな)
もっと。そう思ってしまう自分をヴィルマ・ネーベル(ka2549)は自覚している。
幸せはいつか壊れるもの。でも。それを防ぐだけの力があれば。
(安心して幸せになれるかな……?)
魔女ではないヴィルマの言葉がこぼれて、ひとつ、内なる扉の鍵になる。
「ここも変わんないねぇ!」
声に出すことで実感が増す。ウォルター・ヨー(ka2967)はあえてそうした。
同じ街、同じ祭、同じ人。
『二度目』を迎える事を避けなかった。いつ以来だろうか、無為に受け入れていたそれを捨て、避けてさえいたはずの自分が、こうしてそれを選ぶときが来るなんて。
(こういう“変わらない”は成長かな)
それを前向きに捉えることもできている。何をしても暖簾に腕押し、変わらなかったあたしが。
柏木 千春(ka3061)は気付いていたのだ、とっくの昔に。
知らないふりを続けていたのは、きっと。彼がそう望んだから。
(ううん)
自分の手が震えているのを目で見て、揺れで理解する。ただの言い訳。本当は。
(私が怖がりだから)
受け入れられることを純粋に嬉しいと思えない、怖いと思ってしまう自分。
彼の幸せを願うこと。それだけなら罪ではないのだ。
形にして花を渡すこと、幸せになるための手を差し伸べること。
それは彼を苦しめることになるんだということ。
(……ちゃんと判っていた、はずなのに)
その迷いを。軽くするには?
「差し出す手が私じゃなくても、この花を受け取ることができますか」
私はまた、ずるい事を言っている。
「私がいなくなっても、自分を赦してあげることができますか」
選ばせることで、自分の気持ちさえも、彼の言葉に責任を被せて。
貴方にとっての毒として、私は薬になれるようにと願った。
あくまでも願い。自信なんて欠片にもならないほど。
遊びという名の無為な寄り道。食事の回数、量や質。仕事で危険に遭う頻度。
どの変化も全て自分が“どうなってもいい”わけではなくなったから。
自分をわざと下に置くのではなく、卑怯とあざけるのではなく。『自分』になるため。
少しずつであっても。
「もう誰からも貰わないよ」
君が鈴蘭をくれるから。他から貰うなんて意味がない。
「でも、僕は」
間をあけさせたのは『あたし』の部分。
ラザラスではなくウォルターとして、悪戯心を残すのだ。
「これからずっと、誰かに鈴蘭を渡す生き方をしてみたい」
こういう答えは、君は気に入ってくれるかな?
貴方は変わった。変わっていく。
同じように、それでよいなら。
毒も薬も、去年と変わらず。今年も、……来年も。
貴方の幸せを、願ってもいいですか?
帰り道も、父の手を引いて。曄が差し出すのは華奢過ぎない、けれど華美でもない鈴蘭のブレスレット。ひとつだけ、真珠の鈴蘭が光る品。
「これはとーさんのお守りに。あたしはとーさんが幸せだったら嬉しいからさ!」
家路はまだ続いている。全て揃えた今ならば不平等を減らせと思う。何より視界が悪い。
「おい、もう少し」
お前も持てよと閏を見れば、顔が見えない。
「鈴蘭はいかがですか」
少女の声が聞こえる。まずい……
「いただけますか」
遅かった。鈴蘭を差し出されながら振り向く閏が、センダンの視線に気づいて振り向く。
「お家、殺風景ですしきっと飾ったら明るくなれますよ」
「好きにしろよ、どうせてめぇが世話見るんだろ」
そうですけどね。
(何気ない会話は、日常を感じられますから)
受け取って、またセンダンの隣へと戻る。
幸福を運ぶ花だという。贈った相手へと祈りを込めれば。
それもきっと面倒だと言うのだろう、隣のこの男は。
(日が当たる処に飾りましょうね)
だからそれくらいは。
受け取った鈴蘭を、愛用の黒帽子に飾りつける奏。角度や、長さを整えて、しばしの試行錯誤。
「なかなかどうして、洒落たものになりましたね」
悪くない。満足の出来に頷いて、いつものように被りなおす。花の白が陽射しを浴びて、きらきらり。
気分が晴れたままに、いつもとは違う、子供の遊び心のようなまなざしで道行く人を、鈴蘭を贈りあう人々へと視線を向けた。
思いなおして、手帳を取り出しあた。文字ではなく、記号でもなく。隅の方に、鈴蘭の絵をひとつ。
ありがとうの言葉と、いくつかの鈴蘭を手に。幸せな達成感も胸に抱いてアリアは帰路につく。
「誰に贈るんですか?」
その問いも、何故か嬉しくて。
「待ってくれてる人がいるから♪」
今のあたしにも、大好きな家族がいるんだよ!
一休みがてら腰かけたベンチで。ふと買い物袋を探るヴィルマ。
カサリ
(くくっ……影響を受けておるのぅ)
出てきたロリポップキャンディーを一つ咥える。気付けば見慣れていた品は、自分でも買ってしまうほどになっていた。
(渡せたらいいのじゃがのぅ)
手の内にある2輪、1輪は自分に、もう1輪は……栞なら、場所も取らないだろうか。
自分の幸せを思うと同時に、幸せであってほしいと思う相手。その幸せが、出来れば同じものであってほしいと思うから。
型紙を丁寧に。真鍮の板にいくつも写しとって。ひとつひとつ叩いて、穴をあけて、磨きこんで……
(大事なお役目を持つ方々、ご縁を繋いだ皆様、そして、これから袖振る見知らぬ誰かにも)
音羽 美沙樹(ka4757)が気持ちを込めた打ち出し細工は、小ぶりながらも数を増えていく。
幸せを願う品だから。手を抜く何てこと、考えられるわけがなかった。
「ルーシーね、おてつだいしたいの」
だめ? 金と琥珀の大きな瞳。アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)に見上げられて、デリアの心がきゅんと震える。小さな同族は可愛らしくて、思わず笑顔で返してしまう。
「そんな事ありません、一緒に鈴蘭、配りましょう?」
「ど、どうかな……似合って」
似合ってるかな? 曄(ka5593)が言いきる前に。瀬陰(ka5599)が諸手をあげて褒め言葉を繰り出す。
「給仕服姿もかわいいなあ曄は……!」
親馬鹿全開の笑顔が父の表情を彩る。
「こういう可愛らしいの得意じゃないけど……」
「そんなことないさ。今日の曄は、僕だけじゃなくて、皆に笑顔を届ける役目なんだから」
言いながら、瀬陰が娘の耳につけるのは鈴蘭の耳飾り。
「さっき通りの店で見つけたんだ」
着替えている間にね。ありがとうと、曄はにかりと笑顔を返した。
「そうだよな、みんなの笑顔のためならいいよなっ!」
だから、更に笑みを深くして、鈴蘭の花のようにふわり、膨らんだスカートを揺らして、行こうぜと一歩を踏み出す。
(曄。万の花に勝る君の笑顔が、僕の幸せだよ)
父の眼差しと微笑みを湛えて、瀬陰も後を追った。
「紙で一つずつ、飴を包むんだ」
真白い、少しだけ光沢の感じられる包み紙。小さめの飴玉を包めば蕾のように。その一つ一つを、針金の入った緑の紙紐で繋げば……鈴蘭の出来上がり。葉に見立てた、幅広のリボンで結べば、ほら。
「食べられるすずらんの花束? すごい面白そう!」
可愛くて、そして何より曄も欲しいと思うほど。小さな子ならもっと、喜んでくれるはず!
「……ごめん」
けじめとして頭を下げるユリアン(ka1664)。
(始末されても仕方ない、でも)
できるなら。事が済んでからにして欲しいと更に頭を深く、下げる。
「決めるのは、私ではない」
一存では決められないとも。決定権がないとも取れる言葉。
「ハンターなら……」
小さな声。ユレイテルも無意識だったのかもしれない。ユリアンが、辛うじて。
(抗えるのか、だって?)
たまにはこうした、のんびりとした空気を見守るのも悪くないかもしれない。いつもの癖で手帳に手を伸ばし……今は不要かと、音桐 奏(ka2951)はその手を降ろした。
「こんにちは、ユレイテルさん。お久しぶりです」
景気はどうですか……そう言いかけて、今日はそれが主目的ではないのだと言葉を選び直す奏。興味は常にあるけれど、偶には休息というのも……らしくない自覚は、やはりあるのだけれど。
「この世界のミュゲの日がどういうものか、皆さんが配るスズランがどう活かされるのか、観察させてもらいますね」
結局、見ることはやめられない。
アルラウネ(ka4841)の手を取り時音 ざくろ(ka1250)はピースホライズンを歩いていく。
「どこにいくの、ざくろん」
街の雰囲気は賑やかで、どこか優しいマテリアルに溢れている気がしてアルラウネの足取りも軽い。
「贈りたいものがあって……」
ぽっ。頬を染めるざくろの様子は要領を得ない。けれどこうして二人、楽しいデートなのは確かだ。
「街も賑やかできっと楽しいよ」
即席の、けれど顔見知りの仲間達で出来た音楽隊。妹が来ているとの知らせを受けてカフカ・ブラックウェル(ka0794)が合流したのは、丁度支度が整った頃合い。巫子の1人から鈴蘭を受け取って。早速とばかりに顔馴染みへと配っていく。
「妹だけでなく、僕も。普段から世話になっているから」
これまでの感謝は勿論。これから先の縁の続きを紡ぐためにも。
カフカにとって。もしかするとブラックウェルの一家にとって。人は音で、世界は音楽だ。
双子の妹に一輪を差し出しながら、そんなことをカフカは思う。
「お兄ちゃん、大好き! ずっと一緒だよ?」
妹の髪にはカフカ自らが飾った鈴蘭が揺れる。そのお礼に貰う言葉は、家族としての、最高の言葉。
「そうだね、僕らは対だから。これからも一緒だ」
妹はカフカと同じ音。傍に居ると言うよりも同じ場所に居るのが当たり前に育って来た。近くに居れば共鳴もする。けれど不仲にも、特別相性のいいパートナーになることもない。同じ場所で鳴る限り、二つの音にはわかれない。
(いずれ互いに伴侶を見つけるその時までは……)
同じ目線で、同じものを見よう。
(次が、タンタタ?)
タンタッタッタ
「……あれ?」
思い描く音、実際のタンバリンの音が違う様な、自信が無いマリル(メリル)(ka3294)。一度は首をかしげたけれど。
菫色の瞳の少女がリズムの先導をしてくれて、楽しげな笑い声につられて笑顔になる。
(笑ってくれたらそれでいいのです)
音を楽しむ……それが音楽! 楽しい気持ちを、幸せへの願いと一緒に届けられたら。
(こんな祭を逃すわけにはいかないよなっ)
人々が行きかう中を縫うように歩くのは鈴蘭を手に入れるため。やらねばいけない勉強を放って、綿狸 律(ka5377)はこっそり外へと出てきていた。
「だって渡したいから、オレがそう決めたんだ!」
噂で聞いた程度の記憶を頼りに、配っているという鈴蘭が特別なものだという事は分かっている。覚えている通りの道を急いだ。
眠っている弟子の寝室に、一歩。
ルシール・フルフラット(ka4000)の恋人は怪我のために外出禁止で、見舞うためにやってきたのだ。
(世話を焼かせてはもらえるらしいな)
師匠としてではなく、恋人として。師弟から恋人への変化は同時に、彼を被保護者ではなく大人として認める事だったから。手を繋いでいるのに、手を離れてしまったようで……杞憂だと分かっているけれど。
傷の具合を確かめる。怪我は大きいけれど、確り帰ってきている。誰かのための傷で、自分を捨てていない証。
(師としてはよくやった、と褒めるべきなのだが……)
恋人として、心配くらいはさせてもらおう。林檎の皮を剥いたら起こしてみようか。
「墓所にだね、わかったよ♪」
託された。微笑みを浮かべる吟遊詩人には鈴蘭のリースを。
「ありがとう。……あいつは、どうして故郷に固執して、利用しようとするのだろうね」
訪ねたものの、やはりごめんと謝罪を重ねるユリアン。
「堕ちたまま理性的、堕ちたから狂うのか♪」
軽い口調の唄。けれど詩そのものは。……考えても仕方がない事もある、と。
「……シャイネさんにも」
スズランを一輪。巡る幸せがありますように。
(……よくよく考えれば)
こうやって、2人。のんびりするのは久しぶりなのかもしれない
隣を歩く妻たる女性の横顔を、恭牙(ka5762)はちらり。色々な意味で(もちろん良い意味である)規格外の彼女は今日も慈愛に満ち溢れている。
(まぁ……心の洗濯になればよいな)
安心できる存在、けれど、危なっかしくて。どの意味でも目が離せない彼女が、優しい気持ちで満たされればいいと思う。
今日の目当ては、街で配られているという鈴蘭である。幸せを祈り、贈る花。聞けば見た目も、言葉通り鈴の鳴るように。気持ちの浄化もしてくれればいい。
(それをアンナに贈りたいな……)
こういった行事に便乗するというのも悪くない。彼女は賑やかな所も愛しているから。
共に出掛けることも、考えれば初めてだ。所謂初デートと言うものである。彼女が喜ぶようなことを。ならば、望むことをのびのびとさせるのが自分の務めだ。
(できれば、だが)
その道中で、望む品に出会えたらいい。アンナを喜ばせられるものを。
クレープなんかのスイーツは定番。揚げたような、ちょっとしたスナックも食べ歩きには丁度いい。似合いのアクセサリーを互いにあてて比べてみたり。見せの冷やかしも一通り。デートの目的地はスズラン配りの一行が居る区画。ざくろが連れて行きたかった場所。
「スズランを好きな人に、ね……毒殺心中の催促?」
説明を聞いたアルラの感想は少し危険な香り。
「エルフハイム産の方が喜ばれるんじゃないの」
厳しめの一言は指摘ではなく、気付いた事実そのものというだけ。戸惑いの視線を向けた少女は、ざくろの笑顔ととりなしで落ち着きを取り戻した。
「それじゃ、この一束もらうわね」
一籠分の鈴蘭を手に再び街を歩き出す。勿論、幸せのお裾分けをするためだ。
鈴蘭を配っている一団を見つけたアーシェ(ka6089)は、不思議そうに、ゆっくりと首をかしげた。
「どんな日……?」
わからない、けれど花を配っているのが見えて、少しの緊張と、期待を抱いて近寄っていく。
「ミュゲの日のお祝いですわ」
良かったらいかがですかと美沙樹が差し出せば、戸惑うような視線が返る。
「始めて聞いた……」
教えて、と尋ねるアーシェに、ぱちくりと瞬きが返る。
「……少し、お話しても構いませんこと?」
「大丈夫、予定はない、から……お願い」
可愛らしい花。貰ってもいいの? 尋ねれば勿論だと頷かれ。受け取った一輪を大事に、手の中に。
「……ここ、かな」
ローブの留め具に絡めれば。今にも鳴りそうな見た目の鈴蘭は、静かにアーシェの可愛らしさを彩った。
「このお祭りってなんのお祭りなのー? その花は?」
振り返ったデリアの目の前で、シエロと一緒に首を傾げるのはアリア(ka2394)。
「お花、綺麗だねー!」
周りを見るアリアにあわせて、肩に留まるシエロの首もくるくるり。その様子と言葉がまっすぐで、くすりと笑みが沸き上がる。
「誰かの幸せを祈るんです」
その証がこの鈴蘭なのだと聞けば、アリアの笑みは更に深くなる。
「あたしも! 手伝わせてっ?」
「大切な人の幸せを祈って、鈴蘭を贈りますの。鈴蘭を模した小物でも構いませんわ」
どなたかそんな人がいるのかと、微笑みを絶やさず問う美沙樹。
「大事な人……大好きなおじぃとおばぁに」
元気にしてるかな? 首を傾げて思い浮かべて。受け取ったばかりのレリーフを、光にかざすようにして眺める。
「きれい。これ、おじぃとおばぁにあげても、いいかな」
「まあ、それは私としても光栄なことですの」
気合を入れて作った甲斐があるというもの。微笑みに少しだけ照れが混じる。
「ありがとうございます……貴女のこれからにも幸運が訪れて、笑顔が、もたらされますように」
満面の笑みで踊るのはレン・ダイノ(ka3787)。
一緒に踊るんもできるけどなあ?
呼子がわりに使ってくれてもいいよとばかりに、ステップを踏む。右手に一輪、左手にも一輪。
「この鈴蘭は本物やから、鳴らへんけどなあ♪」
ホントは鈴蘭に似せた鈴を持って踊るねん。
拍にあわせて歩くだけの簡単な動きに、鈴蘭を振る所作を足して。
「幸せの鈴蘭、もらってってやぁ?」
「幸せを祈る鈴蘭だよ!」
素敵なことだよね。誰かの幸せを祈ること。自分だって、誰かに祈ってもらえるならそれだけで幸せなことだ。
(この花が、手をわたって巡っていって……あたしは今、幸せを皆にわけてるってこと!)
うん、とっても素敵! 気持ちも乗ったアリアの笑顔は、幸せな気持ちを広める歯車にもなっていく。
賑やかではあるけれど、どこか優しい空気を持った街並み。鈴蘭飾りに目を奪われる。
けれど一番の目的は鈴蘭の花そのもの。
「幸せを皆に分けるお花だよ!」
笑顔のアリアに差し出された鈴蘭。目的を達成した安堵で律の相好が少し、崩れた。急に、隣に誰もいない事を思い出す。いつも一緒に居る。恋人の気配は今はないのだ。
(戻らなきゃ)
彼が居ない寂しさに目元が潤む。早く帰ろう、抜け出してきたのだから。滲みそうな視界に幻覚を感じ取ってしまうほど自分は寂しそうに……
「あ、あれ?」
気付けば会いたいはずの背が、目の前に!?
「少し、こっちを向いてくれる?」
ざくろの手に鈴蘭の一輪が。そのまま、アルラの髪を飾る。
「アルラが幸せになりますように」
勿論、一緒にね。約束だよ。頬を染めて囁いて。
「よく似合ってる。……幸せにするね」
体を寄せ合って、抱き締めて。
「ざくろん……なんだか今日は、今まで以上に近いね」
ざくろは決意の顔で、アルラの手のひらを上にした。乗せるのはのは小さな包み。鈴蘭を模した髪飾りは、今日の記念に。花が枯れても、かわりにアルラの髪を彩ってくれるようにと選んだものだ。
「お花をひとつ、くださいなー♪」
くるり、くるり、くるくるり。気付けば靴は脱いでいて、分けてもらった、花籠ひとつ。
「幸せひとつ、あげるのなー♪」
くるりで、一輪。くるくるりで、二輪。黒の夢(ka0187)が歩むたびに、笑顔を振りまくたびに。花が、鈴蘭が。人の手へと渡っていく。
楽しげな声、裏表のない笑顔。それだけでも、人の心が浮足立つ効果は十分で。小さな巫子の少女から受け取った鈴蘭は、瞬く間に街へと広まっていった。
「僕も一緒に回ろかぁ♪」
くるり、タンタンッ、くるりくる。
レンが黒の夢の回る動きも取り入れて。気付けば鈴蘭の踊りはこの場限りの、新たな舞へと変化する。
「なぁなぁ、誰にあげるのん?」
踊りの途中で、道行くカップルににっこり。
「あ、今は邪魔?」
じゃあ幸せのお裾分けやぁ、と手に持つ鈴蘭を渡して、また、踊りながら戻っていく。
おどけた様子に、人々に笑顔が浮かんだ。
「わたしも、踊る……っ」
賑やかな音楽が始まって、舞う人の姿を見かけたアーシェ。
たたた、と近寄れば。レンが彼女の手を引いて輪の中に。黒の夢がぎゅぅと迎え入れて。
「しあわせ、ひとつ……♪」
歌を真似て、口ずさめば。アーシェの顔にも、笑顔がふわり。
「……楽しかったか?」
恭牙の聞視線の先、鈴蘭がなくなった花籠には、幸せのかわりに手渡された素敵がたくさん詰まっている。飴玉、ビーズ。布の切れ端、石、広告や、メモ、えとせとら……
どれも、黒の夢の為に差し出された気持ちの塊。
「お礼に魔法をみせてあげるのなー」
くるくると踊るうちに集まってきた子供達には、灯になるほどの炎を生み出して。
言葉と、笑顔で、それが覚醒者にとって当たり前のことでも、優しい魔法に生まれかわるのを知っている。
そこに恭牙が手を伸ばし、籠に入れたのは。透明な、鈴蘭の鈴を繋いだアンクレット。
「なんだか緊張するな……」
贈り物だ、と言う恭牙の顔はわずかに赤い。
手元に鈴蘭を補充しながら、楽しい気持ちもひとやすみ。
「みんな可愛いオンナノコに貰いたいやろかぁ……」
自分だったらどうだろう、笑って渡されたら嬉しくなるけれど。少しだけ、レンが首をかしげたところでふわり。妖精が鈴蘭を一輪、掴んで飛んだ。
水牛パニックに沸く一角で、マリルはそっと忍足。
(先輩でもあるから、気付かれるかもしれないけれど)
風を捕まえるなんて無茶なことはしない。そっと、天から舞う
(私も渡しに行かないと、な)
懐に忍ばせた押し花の栞をそっと、あとで忍ばせに行かなくちゃ。
ふわり、押し花の栞を風に乗せる。風向きも、風量もきっと、これで正解。
(私はここから離れなきゃ)
贈り主が自分だなんて、恥ずかしいから言わないの。
妹と共に重宝した香草茶を添えて、鈴蘭を贈る。
小隊の仲間、妹と近しい友人、友人から広がる、関わり深い人達にも。
風も巡るもの。
誰かが散らした鈴蘭が風に乗って空を舞う。
(どこまでも、巡れ)
皆に幸福を。
見上げたユリアンのすぐ目の前に、ふわり、一枚の紙切れ。淡い緑の台紙に、鈴蘭が並ぶ。
「売り物……?」
だとしたら一枚はおかしい。それならこれは。手に取って眺めて。
(ありがとう)
見えない送り主に、心の中で。
言葉にこもる想いは、ルシールの心に、身体に。あたたかい花を咲かせる。差し出された花を受け取るために身を寄せて。
「鈴蘭の花言葉、知っているか?」
言葉に出すのは気恥ずかしい、怪我をしてさえも真っ直ぐな視線の恋人と違って。
「母さんに聞いた、ことが……」
遮るように唇を重ねる。もう一方の手には、自らが持って来た一輪。
「……つまり、こういうことだ」
二人の手には、幸せの花。
「やっておるみたいじゃのう」
イーリス・クルクベウ(ka0481)が歩み寄る先で、ユレイテルが鈴蘭を籠に詰めている。邪魔しないよう近付いたはずが、呟きで既に、気付かれていたようで。
「整備中の視界を遮らないようにだな」
渡されたのは小さな包み。飾り気の少ない細身のヘアピンがいくつか。花や、歯車、緑の屑石。鈴蘭を彫った一組が紛れ込んでいるから、ミュゲの贈り物という事で良さそうだ。
「わしからも……こういう物も必要かと思ってのう」
感謝と共に差し出すのは銀細工のカフスボタン。蛍石を中に抱いた鈴蘭の意匠も、ボタンにした理由も。去年のプレートがネクタイを彩る様子を見て思いついたもの。
「適度な遊び心と親しみ易さを印象づける筈じゃ」
勿論スーツにも合うように。そう続けようとしたイーリスは、件のループタイが今も、そこにあることに気付く。
「……普段使いもしやすくてな、感謝している」
「確かに、常から慣らした方がいいかもしれんな」
目を細める仕草に、つい視線を逸らした。
……パウラにもブックカバーを贈ったイーリス。感謝のお礼と同時に、熱の有無を心配されることになる。
「はにゃ?」
渡された花籠に小さく首を傾げるルーシー。清浄な花はエルフハイムの気配とはどこか違う。けれど、優しい気配が鈴蘭を包んでいるようで。周囲を包む笑顔の気配に、ルーシーの心は弾んでいく。
籠の中から一番丈夫そうな1輪を選んで、少しずつくるり、重ねていけば……
「できたにゃぁ♪」
花冠のできあがり。ひとつ、ふたつ……みっつめには足りなくて、腕輪がひとつ。
(きっと、にあうの)
銀の髪に。切れ長な緑玉の双眸に。どんな笑顔で受け取ってくれるだろう。胸の前に手を当てて、想像を膨らませるルーシーは、まだ気づいていないのだ。
いつもお世話になっている彼が、すぐ傍の角を曲がった先で自分を『迷子』として捜している事に。
(おてつだい、おわったら)
大きな背中を探しに行こう。会いたいと願えば、きっと会える筈だから。
食べられる花束は、予想通り子供たちに大人気。小さな子が親戚に居るような。そんな大人にも喜ばれて。作るのも、配るのも、忙しいけれど楽しい時間。
「とーさん、早く作るコツってあるのか?」
「いいや?」
そんなものはないさと、優しく返す瀬陰。その手元は曄にとって、自分よりも丁寧で、そして手早く鈴蘭を作り上げているというのに。
「はやさも数も関係ないよ。幸いを、受け取る誰かの為に願いを込めてごらん。花を贈られるのも、誰かの幸を願う事も尊い事だね」
その気持ちを籠めているだけだよ?
「んー……? この花と共に、幸せな気持ちが広がりますように……?」
父に教わる通りの言葉を呟きながら。どうして包んだ新たな蕾は、それまでよりも輝いているような気がした。
ついてきてくれたセンダン(ka5722)の存在にただ、胸の内があたたかくなる。隣で、ただ歩いているだけで。閏(ka5673)の口元は柔らかく緩む。ちらと横顔を見上げれば、いつも通りの仏頂面がただ、前を向いている。これが日常だ。
「なんだか、お父さんみたいですね。セン」
かつて育てていた存在を思い出す。あの子もこうしてこの顔を見上げたのだろうか。『不器用なお父さん』そう思っていただろうに。
(眠ぃ)
叩き起こされたと思ったら荷物持ちときたものだ。欠伸を噛み殺しながら仕方ないといった風情で閏の隣を歩む。仕事の無い日なのだ、寝ていたい。だが閏には逆らえない。
思考もゆるゆると。そんなところに投げかけられた言葉はまさに寝耳に水。
「あぁ……? お前の親父はこんなじゃなかったろ」
眉を寄せて不機嫌顔にもなるというもの。両親の記憶なんて持たない。関係もないことだ。知らねぇよ、そんな事より帰るんだろとセンダンが足早に行こうとしたところで、閏が荷を探っている。
「知らなくても、これから知っていけばいいんですよ。……俺も、お手伝いしますから」
口元に寄せられる飴玉は、少女の為に買ったもののうちのひとつ。柔らかく微笑む閏の目が、さぁ口を開けてと言っている。
「別に、知りたいとも思ってねぇよ」
閏の居ない方へと顔を背ける、もうすぐそちらに曲がるのだ、不自然ではあるまい。
「セン、溶けてしまいますから」
「だったらお前が食」
ころり。隙間から転がる甘味に、言葉は最後まで続かない。
(……今日は賑やかだ)
仕事の達成感という余韻に浸りながら、鞍馬 真(ka5819)は街を歩く。
「幸せの鈴蘭はいかがですか」
是非貴方の大切な誰かに。そう渡されたのはほんの偶然。
「幸せであることを願いたい相手、ね」
自分の幸せにも深い頓着が無いというのに。まして誰か他の人の……
「あー、クラマちゃんなのなー♪」
声に振り向けば、予想通りの魔女の笑顔と、その伴侶の姿。そうだ、彼らが居たではないか。
「ほら、2人にはこれだ」
すかさず差し出す鈴蘭は、キラリ、朝露にまだ濡れている。
「ふふー、2人とも、一緒にむぎゅーなんだな♪」
嬉しさが溢れた黒の夢に、手を、腕を掴まれて。
「お土産探し、2人についてきてほしーのな」
ね、一緒に、嬉しいの気持ちを探しに行こう? ぽかんとする恭牙には唇に、真には頬にちゅ、とそれぞれ口付けを落とす。
「クハハハ……やはり良いな、アンナは」
幸せそうな二人を見ながら、真。
(もし、余ったら)
もう一度、今度は籠ごと分けてもらいに行くのもいいかもしれない。
小高い丘で、風にのせて。幸せの鈴蘭を空に飛ばす。
(幸福な未来に向かえますように)
この世界そのものに、これまでに出会った人々に。祈りを、花に乗せて。
残りの鈴蘭は帰り道で配っていく。それはアルラの言うところの『幸せのお裾分け』なのだけれど。
「受け取らないと爆発するわよ?」
「それじゃ誤解を招いちゃうよ!?」
慌てて止めようとアルラに抱きつくざくろ。柔らかいなあ、なんて邪な思いもちらり。
「ざくろんてば、更に大胆に」
「そ、そうじゃなくって……!」
落ち着かなくなったざくろの隙を突いて、アルラはテキパキと鈴蘭を配る。
そうして、残りが少なくなってから。
「このスズランは、ギルドで活けましょうか」
皆が集まるあの場所に。
「隣にいてくれてありがと」
帰り際、繋ぐ手に律がそっと力を籠めれば。
「……当たり前だろう、律」
屋敷では聞けない、優しい声が耳に響く。
どうか どうか
ほんの少しだけだとしても
誰かの幸せの欠片に
悪しき気配を遠ざけて
心の平穏 身体の健康
祈りを
願いを
浄化の力に――
真摯な祈りは浄化術足りえると、そう聞いたから。明王院 穂香(ka5647)は聖導士仲間と二人、鈴蘭へと一心に祈りを込める。
人々が花を介して思いあい祈りあう事も、輪が広がればきっと浄化に繋がる。そう伝えると同時に。自分達でも、浄化の一助になれるように。
祈りは力も、心も、全てを集めて籠めるもの。マテリアルであるのか、意思の力であるのか。思うだけではない行為は穂香達の身体に疲労を溜め込んでいく。
「これを。甘いものは体のこわばりをほぐしてくれますの」
甘い蜂蜜を匙でひと掬い、とろりと水に溶いて。大事に少しずつ、口に含む。鋭気を養うには、甘いものが一番だ。
「これでまた、祈れます」
鈴蘭はまだたくさん。浄化術をもっと、広く伝えるためだから。二人改めて奮起して、祈りに身を捧げるのだった。
幸せを願う想いを
祈りを共に重ねて
巫子の祈りを
聖導士の祈りを
同じ鈴蘭に籠めて
闇を祓って
光を灯して
浄化の力に――
「2輪貰ってもいいじゃろうかのぅ?」
幸せや、お裾分け。その言葉は、自分の傍にあってはならないと思っていたから。今までであれば彼女達のような手を避けるように道を歩いていたと思う。
(周りの者が幸せになれば、それを見ているだけで幸せじゃと。……今は、欲が出てきたのかも知れぬな)
もっと。そう思ってしまう自分をヴィルマ・ネーベル(ka2549)は自覚している。
幸せはいつか壊れるもの。でも。それを防ぐだけの力があれば。
(安心して幸せになれるかな……?)
魔女ではないヴィルマの言葉がこぼれて、ひとつ、内なる扉の鍵になる。
「ここも変わんないねぇ!」
声に出すことで実感が増す。ウォルター・ヨー(ka2967)はあえてそうした。
同じ街、同じ祭、同じ人。
『二度目』を迎える事を避けなかった。いつ以来だろうか、無為に受け入れていたそれを捨て、避けてさえいたはずの自分が、こうしてそれを選ぶときが来るなんて。
(こういう“変わらない”は成長かな)
それを前向きに捉えることもできている。何をしても暖簾に腕押し、変わらなかったあたしが。
柏木 千春(ka3061)は気付いていたのだ、とっくの昔に。
知らないふりを続けていたのは、きっと。彼がそう望んだから。
(ううん)
自分の手が震えているのを目で見て、揺れで理解する。ただの言い訳。本当は。
(私が怖がりだから)
受け入れられることを純粋に嬉しいと思えない、怖いと思ってしまう自分。
彼の幸せを願うこと。それだけなら罪ではないのだ。
形にして花を渡すこと、幸せになるための手を差し伸べること。
それは彼を苦しめることになるんだということ。
(……ちゃんと判っていた、はずなのに)
その迷いを。軽くするには?
「差し出す手が私じゃなくても、この花を受け取ることができますか」
私はまた、ずるい事を言っている。
「私がいなくなっても、自分を赦してあげることができますか」
選ばせることで、自分の気持ちさえも、彼の言葉に責任を被せて。
貴方にとっての毒として、私は薬になれるようにと願った。
あくまでも願い。自信なんて欠片にもならないほど。
遊びという名の無為な寄り道。食事の回数、量や質。仕事で危険に遭う頻度。
どの変化も全て自分が“どうなってもいい”わけではなくなったから。
自分をわざと下に置くのではなく、卑怯とあざけるのではなく。『自分』になるため。
少しずつであっても。
「もう誰からも貰わないよ」
君が鈴蘭をくれるから。他から貰うなんて意味がない。
「でも、僕は」
間をあけさせたのは『あたし』の部分。
ラザラスではなくウォルターとして、悪戯心を残すのだ。
「これからずっと、誰かに鈴蘭を渡す生き方をしてみたい」
こういう答えは、君は気に入ってくれるかな?
貴方は変わった。変わっていく。
同じように、それでよいなら。
毒も薬も、去年と変わらず。今年も、……来年も。
貴方の幸せを、願ってもいいですか?
帰り道も、父の手を引いて。曄が差し出すのは華奢過ぎない、けれど華美でもない鈴蘭のブレスレット。ひとつだけ、真珠の鈴蘭が光る品。
「これはとーさんのお守りに。あたしはとーさんが幸せだったら嬉しいからさ!」
家路はまだ続いている。全て揃えた今ならば不平等を減らせと思う。何より視界が悪い。
「おい、もう少し」
お前も持てよと閏を見れば、顔が見えない。
「鈴蘭はいかがですか」
少女の声が聞こえる。まずい……
「いただけますか」
遅かった。鈴蘭を差し出されながら振り向く閏が、センダンの視線に気づいて振り向く。
「お家、殺風景ですしきっと飾ったら明るくなれますよ」
「好きにしろよ、どうせてめぇが世話見るんだろ」
そうですけどね。
(何気ない会話は、日常を感じられますから)
受け取って、またセンダンの隣へと戻る。
幸福を運ぶ花だという。贈った相手へと祈りを込めれば。
それもきっと面倒だと言うのだろう、隣のこの男は。
(日が当たる処に飾りましょうね)
だからそれくらいは。
受け取った鈴蘭を、愛用の黒帽子に飾りつける奏。角度や、長さを整えて、しばしの試行錯誤。
「なかなかどうして、洒落たものになりましたね」
悪くない。満足の出来に頷いて、いつものように被りなおす。花の白が陽射しを浴びて、きらきらり。
気分が晴れたままに、いつもとは違う、子供の遊び心のようなまなざしで道行く人を、鈴蘭を贈りあう人々へと視線を向けた。
思いなおして、手帳を取り出しあた。文字ではなく、記号でもなく。隅の方に、鈴蘭の絵をひとつ。
ありがとうの言葉と、いくつかの鈴蘭を手に。幸せな達成感も胸に抱いてアリアは帰路につく。
「誰に贈るんですか?」
その問いも、何故か嬉しくて。
「待ってくれてる人がいるから♪」
今のあたしにも、大好きな家族がいるんだよ!
一休みがてら腰かけたベンチで。ふと買い物袋を探るヴィルマ。
カサリ
(くくっ……影響を受けておるのぅ)
出てきたロリポップキャンディーを一つ咥える。気付けば見慣れていた品は、自分でも買ってしまうほどになっていた。
(渡せたらいいのじゃがのぅ)
手の内にある2輪、1輪は自分に、もう1輪は……栞なら、場所も取らないだろうか。
自分の幸せを思うと同時に、幸せであってほしいと思う相手。その幸せが、出来れば同じものであってほしいと思うから。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/07 16:59:19 |